(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】船舶
(51)【国際特許分類】
B63H 21/32 20060101AFI20230619BHJP
B63B 15/00 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
B63H21/32 A
B63B15/00 Z
(21)【出願番号】P 2020000906
(22)【出願日】2020-01-07
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】503218067
【氏名又は名称】住友重機械マリンエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】岡山 優
(72)【発明者】
【氏名】舛谷 明彦
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-90685(JP,U)
【文献】実公昭48-35918(JP,Y1)
【文献】特開2016-222110(JP,A)
【文献】登録実用新案第3175981(JP,U)
【文献】特開2005-306259(JP,A)
【文献】特開2018-62313(JP,A)
【文献】実開昭51-112892(JP,U)
【文献】実開昭63-131895(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2014/0090379(US,A1)
【文献】松本光一郎ら,“船舶の正面および側面に働く風圧力低減の試み”,関西造船協会論文集,第240号,2003年09月,pp.115-121
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 21/32
B63B 15/00
B63B 11/00
B63B 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主機が配置される機関室と、
前記機関室の上方に配置され、甲板の上側に設けられる居住区と、
上端側に煙突を有し、前記甲板の上側に設けられるエンジンケーシングと、を備え、
前記甲板の位置において、一対の前記エンジンケーシングが、
船長方向における居住区
の全域に対して船幅方向の両
方の外側に配置される、船舶。
【請求項2】
前記居住区の上端側から前記船幅方向に延びるブリッジウィングは、前記エンジンケーシングに支持される、請求項1に記載の船舶。
【請求項3】
前記機関室には、エンジン、ボイラ、及び発電機が設けられ、
前記船幅方向における一方側の前記エンジンケーシングには、前記ボイラに接続された前記煙突が設けられ、
前記船幅方向における他方側の前記エンジンケーシングには、前記発電機に接続された前記煙突、及び前記エンジンに接続された前記煙突が設けられる、請求項1又は2に記載の船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、以下の特許文献1に記載のように、クルーが居住する複数の居室を有した居住区と、船舶に推進力を与えるエンジン等を収容する機関室(機関区域)と、エンジンケーシングと、を備えた船舶が知られている。この船舶において、居住区は船幅方向に延在し、機関室は、居住区の下方に設けられており、エンジンケーシングは居住区の船尾側に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述のように居住区の船幅方向の長さが長い船舶は、居住区の船幅方向の長さが短い船舶に比べて、船舶の航行によって生じる風圧の抵抗が大きい。この場合、風圧の抵抗により損耗する燃料のコストを低減させることが求められる。また、居住区の船尾には乱流境界層が発生するため、エンジンケーシングに設けられた煙突は、当該乱流境界層よりも上方まで延びている。そのため、煙突を構成する部材を低減することが求められる。以上より、従来の船舶では、部材量の低減やエネルギー効率向上の観点などから、より合理的な構造の船舶が求められている。
【0005】
本発明は、合理的な構造の船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る船舶は、主機が配置される機関室と、機関室の上方に配置され、甲板の上側に設けられる居住区と、上端側に煙突を有し、甲板の上側に設けられるエンジンケーシングと、を備え、甲板の位置において、一対のエンジンケーシングが、居住区に対して船幅方向の両側に配置される。
【0007】
この船舶では、甲板の位置において、一対のエンジンケーシングが、居住区に対して船幅方向の両側に配置される。この場合、居住区が船長方向に延びるような構造を採用することが可能となる。従って、居住区の船幅方向の長さを短くすることが可能となり、船舶の航行によって生じる風圧の抵抗を低減し、エネルギー効率を向上できる。また、エンジンケーシング及び煙突は、居住区の船尾側に配置されないような位置関係となる。この場合、煙突に対する乱流境界層は、居住区の船尾側に形成される乱流境界層よりも小さくなる。従って、煙突を低くして部材量を低減することが可能となる。以上より、部材量の低減やエネルギー効率向上の観点などから、より合理的な構造の船舶を提供することができる。
【0008】
居住区の上端側から船幅方向に延びるブリッジウィングは、エンジンケーシングに支持されてよい。この場合、居住区の船幅方向の長さを短くすることによって、ブリッジウィングが長くなっても、複雑な支持構造を別途設けなくとも、エンジンケーシングにて支持することができる。
【0009】
機関室には、エンジン、ボイラ、及び発電機が設けられ、船幅方向における一方側のエンジンケーシングには、ボイラに接続された煙突が設けられ、船幅方向における他方側のエンジンケーシングには、発電機に接続された煙突、及びエンジンに接続された煙突が設けられてよい。この場合、配管構造が小さくなる発電機を船幅方向における他方側に配置することで、当該他方側の機関室のスペースに余裕を持たせることができる。そして、当該余裕のあるスペースに、エンジンの大きい配管構造を配置することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、合理的な構造の船舶を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る船舶の全体構成を示す概略側面図である。
【
図2】
図1の船舶の船尾側の構成を示す概略側面図である。
【
図3】
図2に示すIII―III線に沿った概略断面図である。
【
図4】居住区及びエンジンケーシングの斜視図である。
【
図5】居住区及びエンジンケーシングの位置関係を示す概略平面図である。
【
図6】比較例に係る船舶の船尾側の構成を示す概略側面図である。
【
図7】比較例に係る船舶の船尾側の構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明による船舶の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において、同一又は同等の要素には同一の符号を付し重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、図面の位置関係に基づくものとする。
図1は、本発明の第1実施形態に係る船舶の全体構成を示す概略側面図である。
図2は、
図1の船舶の船尾側の構成を示す概略側面図である。
図3は、
図2に示すIII―III線に沿った概略断面図である。なお、ここでの船舶100はタンカーである。以下、船舶100の船首-船尾方向を船長方向FSと記載し、船首方向を船首側F、船尾方向を船尾側Sと記載する。また、以下、船舶100の右舷-左舷方向を船幅方向Wと記載し、船舶100の上下方向を上下方向UBと記載し、上方を上方U、下方を船底側Bと記載する。
【0013】
この船舶100にあっては、
図1、
図2及び
図3に示すように、船体110内の船尾側Sに機関室1が設けられ、この機関室1より船首側Fに第3隔壁7を隔てて燃料タンク2が配置される。また、船舶100には、機関室1及び燃料タンク2より船体110内の船首側Fに第1隔壁5及び第3隔壁7を隔ててポンプ室3が配置され、このポンプ室3より船首側Fに第4隔壁8を隔ててカーゴスペース4が複数配置される。カーゴスペース4は、例えば荷油を貯留する空間である。
【0014】
船舶100には、船体110内の船首側Fに船首部60が配置され、この船首部60より船尾側Sに船首隔壁61を隔ててカーゴスペース4が配置される。船舶100には、船体110内の船尾側Sに船尾部62が配置される。この船尾部62より船首側Fに船尾隔壁63を隔てて空間部64が配置される。この空間部64より船首側Fに第5隔壁9を隔てて機関室1が配置される。これら機関室1、ポンプ室3、カーゴスペース4の天井面は上甲板10で構成され、床面側は、船体110の外殻を形成する船底外板11と、この船底外板11の船体内側に設けられた内底板12とによって2重船底構造とされている。居住区13は、機関室1の上方Uに設けられ、上甲板10上に配置される。
【0015】
船舶100の全体構成について、
図2及び
図3を参照して更に詳細に説明する。機関室1には、メインエンジンである主機14等の機器が配置される。主機14は、機関室1内で最も大きな機器であって推進力を発生するプロペラを駆動するものであり、機関室1の船幅方向Wの略中央に配置され、船長方向FS及び上下方向UBに延在している。なお、後述のように、機関室1の上方Uには、居住区13やブリッジ16(操舵室)が配置される。
【0016】
燃料タンク2は、例えば、船長方向FSにおいてポンプ室3及びカーゴスペース4と機関室1との間に配置され、船幅方向W及び上下方向UBに延在する。燃料タンク2は、船長方向FSにおいて機関室1とポンプ室3との間に配置された第1タンク部位21と、船長方向FSにおいてポンプ室3を介さず機関室1とカーゴスペース4との間に配置された1対の第2タンク部位22と、を有する。1対の第2タンク部位22は、船幅方向Wにおいて第1タンク部位21の両側に隣り合うように配置される。
【0017】
ポンプ室3は、機関室1の船首側Fに配置される。ポンプ室3は、例えば、船幅方向Wから見てL字状を呈する(特に
図2を参照)。ポンプ室3は、上甲板10から上下方向UBに延在する第1ポンプ室部位31と、第1ポンプ室部位31の下部と連続している第2ポンプ室部位32とを有する。第1ポンプ室部位31は、船長方向FSにおいて第1タンク部位21より船首側Fに第1隔壁5を隔てて配置される。第1ポンプ室部位31は、船幅方向Wの略全体に広がる第2ポンプ室部位32より船幅方向Wの幅は小さく、例えば燃料タンク2の第1タンク部位21の船幅方向Wの幅と同一の長さを有する。第1ポンプ室部位31は、船幅方向Wにおいて燃料タンク2の第2タンク部位22の間に配置される。
【0018】
第2ポンプ室部位32は、第1ポンプ室部位31の船底側Bに配置される。第2ポンプ室部位32は、上下方向UBにおいて機関室1の船首側の空間及び燃料タンク2の船底側Bに配置される。第2ポンプ室部位32は、機関室1内の主機14より船首側Fに配置される。第2ポンプ室部位32は、第1ポンプ室部位31及び燃料タンク2の第1タンク部位21の船底側Bにおいて第4隔壁8から船尾側Sへ向かって延びると共に、燃料タンク2よりも船尾側Sへ延びて機関室1の空間にはみ出るように構成される。なお、第2ポンプ室部位32の更に詳細な説明は、第3隔壁7の構成と合わせて後述する。
【0019】
第1隔壁5は、船長方向FSにおいて燃料タンク2の第1タンク部位21とポンプ室3の第1ポンプ室部位31との間に配置されている。第1隔壁5は、上甲板10と第2ポンプ室部位32の上面(後述の底壁74)との間で上下方向UB及び船幅方向Wに延在する。第1隔壁5は、その上端部において居住区13を支持する。
【0020】
第2隔壁6は、第1隔壁5の船尾側Sにおいて船長方向FS及び上下方向UBに延在する。第2隔壁6は、例えば、燃料タンク2内において、第1タンク部位21と第2タンク部位22との間に配置されている。第2隔壁6は、燃料タンク2を船幅方向Wにおいて複数の区画に分ける。本実施形態では、第2隔壁6は、例えば、船幅方向Wにおいて第1タンク部位21の両端に配置される1対の隔壁である。1対の第2隔壁6は、船長方向FSにおいて燃料タンク2内に延在し、燃料タンク2を第1タンク部位21と1対の第2タンク部位22とに分ける。1対の第2隔壁6は、例えば、第1タンク部位21と第2タンク部位22とを分けるため、第1隔壁5と後述の第3隔壁7の上部隔壁73との間において、船長方向FSに沿って延びるように配置される。また、1対の第2隔壁6は、上甲板10から第2ポンプ室部位32の上面(後述の底壁74)まで上下方向UBに延びている。
【0021】
第3隔壁7は、機関室1を船首側Fで区画するように配置されている。第3隔壁7は、船底側Bにおいて上下方向UBに延在する下部隔壁71と、下部隔壁71の上端部から船首側Fへ延在し、ポンプタービンが設けられる段差部72と、段差部72の船首側Fの端部から上下方向UBに延在する上部隔壁73とを有する。下部隔壁71、段差部72、及び上部隔壁73は、船幅方向Wに延在する。機関室1の船首側Fは、第3隔壁7の上部隔壁73により燃料タンク2と仕切られる。機関室1の船首側F且つ船底側Bは、第3隔壁7の下部隔壁71及び段差部72によりポンプ室3の第2ポンプ室部位32と仕切られる。下部隔壁71は、船長方向FSにおいて機関室1の主機14とポンプ室3の第2ポンプ室部位32との間に配置される。
【0022】
段差部72と燃料タンク2との位置関係について説明する。段差部72は、燃料タンク2の各タンク部位21,22よりも船尾側Sの位置にて、当該タンク部位21,22の船幅方向Wの全域にわたって広がるように設けられている。また、船幅方向Wのうち、第1タンク部位21に対応する領域では、段差部72は、上部隔壁73よりも更に船首側Fへ延長されて、第1隔壁5の下端と連結されている。これにより、段差部72の延長部分は、第1タンク部位21の底壁74を構成する(
図2参照)。また、船幅方向Wのうち、第2タンク部位22に対応する領域では、段差部72は、上部隔壁73よりも更に船首側Fへ延長されて、第4隔壁8と連結されている。これにより、段差部72の延長部分は、第2タンク部位22の底壁75を構成する(
図2参照)。このような形態により、ポンプ室3の第2ポンプ室部位32は、燃料タンク2の船底側Bの略全域にわたって空間を形成するように広がる。なお、第2タンク部位22の底壁75の高さ位置は特に限定されない。すなわち、上記構成では、底壁75が段差部72及び底壁74と同じ高さ位置に配置されていたが、底壁75は、内底板12によって構成されてもよい。
【0023】
段差部72の下方におけるポンプ室3の第2ポンプ室部位32内には、複数台のポンプ33が、船幅方向Wに一列に並ぶように配置されている。機関室1内においてポンプ33の上方Uの位置である段差部72上には、各ポンプ33を駆動するためのポンプタービン15がそれぞれ配設されている。そしてポンプ33は、ポンプタービン15により駆動されてカーゴスペース4内の荷油を吸い込み、陸上施設の接続口となる上甲板10上のマニホールドに送り出し、陸上施設への荷揚げを行う。ポンプ33は、ポンプタービン15に代えて、電動のモータによって駆動力を付与されてもよい。ポンプ33は、荷油を吸い込むための荷油ポンプとして用いられてよく、他の一部はバラスト水を吸い込むためのバラストポンプとして用いられてよい。なお、段差部72は主機14の上面よりも低い位置に設けられている。
【0024】
上部隔壁73は、下部隔壁71よりも上方Uに配置されると共に、下部隔壁71よりも船首側Fに配置される。第1隔壁5は、第3隔壁7の上部隔壁73及びポンプタービン15よりも船首側Fに位置する。すなわち、燃料タンク2の第1タンク部位21は、上部隔壁73と第1隔壁5との間に配置される。なお、燃料タンク2の第2タンク部位22は、上部隔壁73と第4隔壁8との間に配置される。燃料タンク2の第1タンク部位21及び第2タンク部位22の船尾側Sに配置される上部隔壁73は、例えば、船長方向FSにおいて同一平面に沿って配置される。
【0025】
第4隔壁8は、燃料タンク2の1対の第2タンク部位22とカーゴスペース4との間、及びポンプ室3の第1ポンプ室部位31とカーゴスペース4との間に配置される。燃料タンク2の1対の第2タンク部位22とカーゴスペース4との間に設けられた第4隔壁8と、ポンプ室3の第1ポンプ室部位31とカーゴスペース4との間に設けられた第4隔壁8とは、例えば、船長方向FSにおいて同一平面に沿って配置される。
【0026】
第5隔壁9は、機関室1を船尾側Sで区画するように配置されている。第5隔壁9は、機関室1と空間部64との間に配置される。第5隔壁9は、船長方向FS及び船幅方向Wにおいて、空間部64の形状に合わせて屈曲していてもよい。空間部64の上方Uには、例えば空調装置室や倉庫が設けられる。なお、船尾部62の上方Uには、船舶100の操舵を行うための操舵装置等が設置される区画である舵機室が配置される。空間部64において、舵機室の船底側Bには、例えば、ビルジ、薬剤や潤滑油等を貯留するためのタンクなどを配置してもよく、他の用途に用いる空所としてもよい。船首部60又は船尾部62は、バラストタンクとして用いられてもよく、他の用途に用いる空所としてもよい。第3隔壁7、第4隔壁8、第5隔壁9、船首隔壁61及び船尾隔壁63は、船幅方向Wに延在すると共に、船底外板11から上甲板10まで延在するように配置されている。
【0027】
また、機関室1、ポンプ室3、カーゴスペース4の船底側Bは、船底外板11と、内底板12とによって2重船底構造とされている。従って、機関室1の底部には第1船底部41が配置される。第1船底部41には、ビルジ、薬剤や潤滑油等を貯留するためのタンクなどを配置してもよく、他の用途に用いる空所としてもよい。ポンプ室3の底部には第2船底部42が配置される。第2船底部42は、バラストタンクとして用いられてよく、他の用途のタンクを配置してもよい。カーゴスペース4の底部には第3船底部43が配置される。第3船底部43は、バラストタンクとして用いられてよく、他の用途に用いる空所としてもよい。
【0028】
機関室1の上方Uには、居住区13が設けられ、当該居住区13の上側にはブリッジ(操舵室)16が配置される。居住区13は、上下方向UBにおいて機関室1に対応する位置における上甲板10上に配置される。居住区13は、例えば、機関室1よりも船首側Fまで延在することで、船長方向FSの長さが船幅方向Wの長さに比して長く構成される。居住区13は、上部隔壁73より船首側Fへ延在している。なお、船舶の居住区13は、船首側Fにおいて機関室1とポンプ室3との間の隔壁の位置までしか延在できない。このため、居住区13は、船長方向FSに極力長くするために、船首側Fにおいて第1隔壁5まで延在している。居住区13は、例えば、船長方向FSにおいて第1隔壁5から船尾隔壁63までの長さを有し、船幅方向Wにおいて1対の第2隔壁6間の長さを有し、上面視矩形状を呈する。居住区13は、例えば、第1隔壁5、1対の第2隔壁6、第5隔壁9及び船尾隔壁63により支持される。第1隔壁5、第5隔壁9及び船尾隔壁63により、居住区13の船長方向FSにおける振動が抑制される。1対の第2隔壁6及び第5隔壁9により、居住区13の船幅方向Wにおける振動が抑制される。
【0029】
居住区13は、第1隔壁5の上端から船尾側Sに延在して配置される。ここで、居住区13が第1隔壁5の上端から船尾側Sに設けられている状態とは、船長方向FSにおいて、居住区13の船首側Fの端部13aが第1隔壁5と同位置に配置されている状態を示すものとする。居住区13は、例えば船尾隔壁63の上端から船首側Fに延在して配置される。居住区13が船尾隔壁63の上端から船首側Fに設けられている状態とは、船長方向FSにおいて、居住区13の船尾側Sの端部13bが船尾隔壁63と同位置に配置されている状態を示すものとする。これにより、居住区13の振動を低減し、配管、配線の取り合いの点でも有利となる。居住区13は、例えば、船長方向FSの長さが船幅方向Wの長さに比べて長い形状を有する。居住区13は、例えば、船幅方向Wにおいて1対の第2隔壁6の上端間に延在して配置される。居住区13が1対の第2隔壁6の上端間に設けられている状態とは、船幅方向Wにおいて、居住区13の両端部13c,13dが1対の第2隔壁6と同位置に配置されている状態を示すものとする(
図3参照)。
【0030】
次に、
図3~
図5を参照して、居住区13、エンジンケーシング17A,17B及びそれに関わる構造について、詳細に説明する。
図4は、居住区13及びエンジンケーシング17A,17Bの斜視図である。
図5は、居住区13及びエンジンケーシング17A,17Bの位置関係を示す概略平面図である。ただし、
図5では、居住区13及びエンジンケーシング17A,17B以外の構造物を省略している。
【0031】
図3に示すように、船幅方向Wにおける居住区13の右舷側Rにはエンジンケーシング17Aが設けられ、居住区13の左舷側Lにはエンジンケーシング17Bが設けられる。エンジンケーシング17A,17Bは、機関室1に対応する位置における上甲板10の上側に配置される(
図2参照)。エンジンケーシング17A,17Bは、第1隔壁5及び第3隔壁7の上部隔壁73より船尾側S且つ第5隔壁9より船首側Fに配置される。エンジンケーシング17A,17Bは機関室1の一部の空間として構成され、機関室1内の機器や配管などが配置される。
【0032】
機関室1には、上述の主機14、上述のポンプタービン15、ボイラ91、及び発電機90が設けられる。ポンプタービン15は、段差部72上において、左舷側Lに寄せられた状態で配列される。ボイラ91は、ポンプタービン15に蒸気を供給して、当該ポンプタービン15を駆動する。ボイラ91は、機関室1のうち、主機14よりも左舷側Lに寄せられた状態で配置される。これにより、ボイラ91は、左舷側Lに寄せられたポンプタービン15の近くに配置される。従って、ボイラ91とポンプタービン15との間の配管距離や部材量などを(
図6の比較例に比して)低減し、流体抵抗などを低減できる。ボイラ91の排気は、配管(不図示)を介して、エンジンケーシング17Bの上側に設けられた煙突18Baから排出される(
図4及び
図5参照)。また、ポンプタービン15は、配管(不図示)を介して、エンジンケーシング17Bの上側に設けられた煙突18Bbから排出される(
図4及び
図5参照)。
【0033】
発電機90は、段差部72上において、右舷側Rに寄せられた状態で配列される。すなわち、ポンプタービン15が左舷側Lに寄せられることで、右舷側Rのスペースに余裕が出る。従って、当該余裕ができたスペースにバラストポンプ(不図示)が配置され、一段上のレベル位置に、発電機90が配置される。発電機90の排気は、配管(不図示)を介して、エンジンケーシング17Aの上側に設けられた煙突18Abから排出される(
図4及び
図5参照)。ここで、発電機90からの気体の排出量は、ボイラ91やポンプタービン15に比べて少ないため、排出のための配管等を小さくすることができる。機関室1の右舷側Rは、比較的スペースに余裕ができる。従って、機関室1の右舷側Rには、排気量が多い主機14の排気機構が設けられる。すなわち、主機14の排気用の配管92は、機関室1の右舷側Rへ延びる。具体的に、配管92は、主機14の側面から右舷側Rへ延びる水平部92aと、水平部92aの先端部から上方へ延びる鉛直部92bと、を備える。そして、配管92で輸送された気体は、エンジンケーシング17Aの上側に設けられた煙突18Aaから排出される。
【0034】
次に、
図4及び
図5を参照して、上甲板10の上側における居住区13及びエンジンケーシング17A,17Bの構成等について詳細に説明する。
図4に示すように、居住区13は、上甲板10の上側に設けられており、当該上甲板10から上方へ向かって延びるように設けられる。ブリッジ16は、居住区13の上端面のうち、船首側Fの端部付近に設けられている。ここで、ブリッジ16の前端部は、居住区13の前端の位置にて船舶100の周囲の様子を確認できる位置に設けられている。ブリッジ16の前端部の船幅方向Wの中央位置を見張位置VPの基準位置とする。
【0035】
ブリッジ16の船幅方向Wの右舷側R及び左舷側Lには、ブリッジウィング19A,19Bが設けられる。ブリッジウィング19Aは、居住区13の上端側から船幅方向Wの右舷側Rに水平に延びる。ブリッジウィング19Aは、エンジンケーシング17Aよりも右舷側Rまで延びている。ブリッジウィング19Aは、エンジンケーシング17Aの上端部に支持される。ブリッジウィング19Bは、居住区13の上端側から船幅方向Wの左舷側Lに水平に延びる。ブリッジウィング19Bは、エンジンケーシング17Bよりも左舷側Lまで延びている。ブリッジウィング19Bは、エンジンケーシング17Bの上端部に支持される。
【0036】
船幅方向Wにおける左舷側L(一方側)のエンジンケーシング17Bには、ボイラ91に接続された煙突18Baが設けられ、ポンプタービン15に接続された煙突18Bbが設けられる。煙突18Ba,18Bbは、エンジンケーシング17Bの上面であって、船尾側S寄りの位置から、上方へ突出するように形成される。前述のブリッジウィング19Bは、エンジンケーシング17Bの上面であって、船首側F寄りの位置にて支持される。これにより、ブリッジウィング19Bは、煙突18Ba,18Bbと干渉しないように配置される。
【0037】
船幅方向Wにおける右舷側R(他方側)のエンジンケーシング17Aには、主機14に接続された煙突18Aaが設けられ、発電機90に接続された煙突18Abが設けられる。煙突18Aa,18Abは、エンジンケーシング17Aの上面であって、船尾側S寄りの位置から、上方へ突出するように形成される。前述のブリッジウィング19Aは、エンジンケーシング17Aの上面であって、船首側F寄りの位置にて支持される。これにより、ブリッジウィング19Aは、煙突18Aa,18Abと干渉しないように配置される。
【0038】
図5を参照して、各構成要素の配置について説明する。なお、以降の説明において「エンジンケーシング17」、「煙突18」と称した場合、左舷側に存在するものか右舷側に存在するものかを特に区別しないことを意味する。
【0039】
図5に示すように、一対のエンジンケーシング17A,17Bは、上甲板10の位置において、居住区13に対して船幅方向Wの両側に配置される。また、一対のエンジンケーシング17A,17Bは、上甲板10の位置において、居住区13から船幅方向Wの外側に離間した位置に配置される。なお、「上甲板10の位置における」位置関係とは、エンジンケーシング17A,17Bの上甲板10に対する付根部分(
図4の「LM1」で示す部分)と、居住区13の上甲板10に対する付根部分(
図4の「LM2」で示す部分)と、の形状に基づいた位置関係であるものとする。以降の説明では、特段の注意書きが無い場合は、上甲板10の位置における位置関係を説明しているものとする。
【0040】
一対のエンジンケーシング17A,17Bが、居住区13に対して船幅方向Wの両側に配置される状態とは、船幅方向Wから見た時に、居住区13の少なくとも一部がエンジンケーシング17A,17Bと重なっている状態を示す。当該状態がどのようなものであるかを説明するため、居住区13に対して、基準線SL1,SL2を設定する。基準線SL1は、居住区13の船首側Fの端部13aを通過し、且つ船幅方向Wに平行に延びる仮想線である。基準線SL2は、居住区13の船尾側Sの端部13bを通過し、且つ船幅方向Wに平行に延びる仮想線である。この場合、エンジンケーシング17A,17Bの少なくとも一部は、基準線SL1と基準線SL2の間の領域に存在している。例えば、エンジンケーシング17A,17Bの一方又は両方の船首側Fの端部17aが、基準線SL2よりも船尾側Sに存在する場合、エンジンケーシング17A,17Bの一方又は両方が完全に居住区13の船尾側Sに配置される。エンジンケーシング17A,17Bの一方又は両方の船尾側Sの端部17bが、基準線SL1よりも船首側Fに存在する場合、エンジンケーシング17A,17Bの一方又は両方が完全に居住区13の船首側Fに配置される。これらの状態は、居住区13に対して船幅方向Wの両側に配置される状態には該当しない。
【0041】
ここで、煙突18は、見張位置VPよりも高い位置まで延びている。従って、煙突18は、見張位置VPでの見張りの邪魔にならない位置に配置される必要がある。ここで、船舶100においては、見張位置VPを基準として、見張りの邪魔になる構造物を配置することができない視界範囲が設定される。当該視界範囲は、ブリッジ16の船幅方向Wの中心線CL1(見張位置VPの船首側Fの部分)を基準とする右舷側Rの基準角度θ1、及び左舷側Lの基準角度θ1で設定される範囲である。すなわち、煙突18Aa,18Abは、中心線CL1を基準として、右舷側Rに基準角度θ1よりも大きい角度をなす位置(基準線SL3よりも船尾側S)に配置される。煙突18Ba,18Bbは、中心線CL1を基準として、左舷側Lに基準角度θ1よりも大きい角度をなす位置(基準線SL4よりも船尾側S)に配置される。基準角度θ1は、例えば中心線CL1から左右それぞれに112.5°に設定されるが、規則に準じて適宜変更可能である。
【0042】
なお、船尾側Sにも、煙突18を設けることができない範囲が設定できる。当該範囲は、中心線CL1の見張位置VPの船尾側Sの部分を基準とする右舷側Rの基準角度θ2、及び左舷側Lの基準角度θ2で設定される範囲である。すなわち、煙突18Aa,18Abは、中心線CL1を基準として、右舷側Rに基準角度θ2よりも大きい角度をなす位置(基準線SL5よりも船首側F)に配置される。煙突18Ba,18Bbは、中心線CL1を基準として、左舷側Lに基準角度θ2よりも大きい角度をなす位置(基準線SL6よりも船首側F)に配置される。基準角度θ2は、船尾側Sにおける他の構造物との干渉などを考えて、例えば15°に設定されるが、状況に応じて適宜変更可能である。
【0043】
次に、本実施形態に係る船舶100の作用・効果について説明する。
【0044】
まず、比較例における船舶について、
図6及び
図7を用いて説明する。
図6は、比較例に係る船舶の船尾側の構成を示す概略側面図である。
図7は、比較例に係る船舶の船尾側の構成を示す概略断面図である。比較例における船舶200において、本実施形態における船舶100と同様の構成又は機能を有する部位については同一の数字を付す。
【0045】
図6及び
図7に示すように、比較例の船舶200では、居住区13は、船首側Fにおいて、第3隔壁7の上部隔壁73まで延在する。居住区13は、船長方向FSの長さが船幅方向Wの長さに比して短く構成される。居住区13の船首側F及び両舷側は、1対の機関隔壁201及び第3隔壁7により支持されている。すなわち、船長方向FSにおいて、居住区13の船首側Fの前端壁は、第3隔壁7の上部隔壁73の位置に配置されている。第3隔壁7の段差部72上には、ポンプタービン15が配置されている。このポンプタービン15は、特にどちらかの方向に寄せられているわけではない。
【0046】
船幅方向Wにおいて、居住区13は、1対の機関隔壁201が配置されている間隔に合わせて延在しており、居住区13の船幅方向Wの1対の側端壁は、1対の機関隔壁201の位置に配置されている。居住区13の船尾側Sにエンジンケーシング117が設けられている。当該エンジンケーシング117の上端には、煙突118が設けられている。図においては、煙突118は、配管192を介して主機14と接続されている。なお、エンジンケーシング117には、他の機器の排気用の煙突も形成される。ボイラ91は、エンジンケーシング117と同様、居住区13の船尾側Sに設けられる。
【0047】
比較例に係る船舶200では、居住区13の船幅方向Wの長さが長くなるため、風圧による抵抗が大きくなる。また、居住区13で形成される乱流境界層FLが、船尾側Sの煙突118の位置で大きくなる。従って、煙突118を乱流境界層FLより高い位置で開口するように、高い位置に設ける必要がある。また、配管192は、主機14の側面から煙突118に至るまで複雑で長い経路を通過する必要がある。以上より、部材量が増えるという問題がある。
【0048】
これに対し、本実施形態に係る船舶100では、上甲板10の位置において、一対のエンジンケーシング17A,17Bが、居住区13に対して船幅方向Wの両側に配置される。この場合、居住区13が船長方向FSに延びるような構造を採用することが可能となる。従って、居住区13の船幅方向Wの長さを短くすることが可能となり、船舶100の航行によって生じる風圧の抵抗を低減し、エネルギー効率を向上できる。また、エンジンケーシング17A,17B及び煙突18は、居住区13の船尾側Sに配置されないような位置関係となる。この場合、煙突18に対する乱流境界層FL(
図2参照)は、居住区13の船尾側Sに形成される乱流境界層(
図6参照)よりも小さくなる。従って、煙突18を低くして部材量を低減することが可能となる。また、配管92は、主機14の側面から屈曲して直ちに煙突18Aaへ到達する。従って、配管92をシンプル、且つ短くできる。以上より、部材量の低減やエネルギー効率向上の観点などから、より合理的な構造の船舶100を提供することができる。
【0049】
なお、ここでは、上甲板10における位置について説明している。ここで、例えば、居住区13が、上甲板10の上空の位置だけで、船尾側Sへ延びるような構造について考慮する。この場合、上甲板10の位置では、一対のエンジンケーシング17A,17Bが、居住区13に対して船幅方向Wの両側に配置されていないが、上甲板10の上空の位置では、一対のエンジンケーシング17A,17Bが、居住区13に対して船幅方向Wの両側に配置されるような構造となり得る。しかし、当該構造は、「一対のエンジンケーシング17A,17Bは、上甲板10の位置において、居住区13に対して船幅方向Wの両側に配置される」状態には該当しない。
【0050】
居住区13の上端側から船幅方向Wに延びるブリッジウィング19A,19Bは、エンジンケーシング17A,17Bに支持されてよい。この場合、居住区13の船幅方向Wの長さを短くすることによって、ブリッジウィング19A,19Bが長くなっても、複雑な支持構造を別途設けなくとも、エンジンケーシング17A,17Bにて支持することができる。
【0051】
機関室1には、主機14、ボイラ91、及び発電機90が設けられ、船幅方向Wにおける左舷側Lのエンジンケーシング17Bには、ボイラ91に接続された煙突18Baが設けられ、船幅方向Wにおける右舷側のエンジンケーシング17Aには、発電機90に接続された煙突18Ab、及び主機14に接続された煙突18Aaが設けられてよい。この場合、配管構造が小さくなる発電機90を船幅方向Wにおける右舷側に配置することで、当該右舷側の機関室1のスペースに余裕を持たせることができる。そして、当該余裕のあるスペースに、主機14の大きい配管構造を配置することが可能となる。
【0052】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0053】
例えば、燃料タンク2の構成は、上述のものに限定されない。例えば、機関室1とポンプ室3とが、船長方向FSに隣り合ってよい。また、居住区13を支持する隔壁の構造も上述の実施形態に限定されない。
【0054】
また、上記実施形態においては、特に好適であるとして、船舶100をタンカーとしているが、油だけでなく鉱石や石炭等の固形貨物(バルク)も積める兼用船に対しても適用可能であり、要は、船尾側Sから船首側Fに向かって、機関室、燃料タンク、ポンプ室、カーゴスペースが隔壁を隔てて並設された船舶に対して適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1…機関室、13…居住区、14…主機(エンジン)、17,17A,17B…エンジンケーシング、18,18Aa,18Ab,18Ba,18Bb…煙突、19A,19B…ブリッジウィング、90…発電機、91…ボイラ、100…船舶、FS…船長方向、W…船幅方向。