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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】癌の個別化ワクチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20230619BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230619BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230619BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20230619BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230619BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20230619BHJP
【FI】
A61K39/00 H
A61K48/00
A61P35/00
C12Q1/6869 Z ZNA
G01N33/50 P
C12N15/12
【請求項の数】 30
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020089657
(22)【出願日】2020-05-22
(62)【分割の表示】P 2018237242の分割
【原出願日】2012-05-23
(65)【公開番号】P2020128423
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2020-06-19
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2011/002576
(32)【優先日】2011-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2012/000006
(32)【優先日】2012-01-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520193437
【氏名又は名称】バイオンテック・エスイー
(73)【特許権者】
【識別番号】513288447
【氏名又は名称】トロン-トランスラショナル・オンコロジー・アン・デア・ウニヴェルシテーツメディツィン・デア・ヨハネス・グーテンベルク-ウニヴェルシテート・マインツ・ゲマインニューツィゲ・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ウグール・シャヒーン
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン・クライター
(72)【発明者】
【氏名】ムスタファ・ディケン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・ディークマン
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・コスロヴスキ
(72)【発明者】
【氏名】セドリック・ブリテン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・カースル
(72)【発明者】
【氏名】マルティン・レーヴェル
(72)【発明者】
【氏名】ベルンハルト・レナート
(72)【発明者】
【氏名】タナ・オモココ
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス・ヘンドリクス・デ・グラーフ
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】Immunological Reviews,2002年,Vol.188,p.164-176
【文献】Journal of Immunological Methods,2010年,Vol.360,p. 149-156
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
A61K 48/00
A61P 35/00
A61P 37/04
C12Q 1/68
G01N 33/50
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個別化癌ワクチンを提供する方法であって、
(a) 癌患者からの腫瘍検体及び非腫瘍形成性検体を提供するステップ、
(b)次世代シーケンシング(NGS)を使用することによって、腫瘍検体のゲノム、エクソームおよび/またはトランスクリプトームと非腫瘍形成性検体のゲノム、エクソームおよび/またはトランスクリプトームとの間の配列相違を同定することにより、癌患者の腫瘍検体中の癌特異的体細胞突然変異を同定して患者の癌突然変異シグネチャを提供するステップと、
(c) 前記癌特異的体細胞突然変異を有するペプチドがT細胞応答を誘導することを確認し、正常な非癌細胞または生殖系列細胞には存在しないが、癌細胞に存在するネオエピトープを同定するステップ、
(d)同定された癌特異的体細胞突然変異がペプチド結合もしくはリンカーにより一緒に融合された、突然変異に基づくネオエピトープを含む組換えポリエピトープポリペプチドを設計するステップ、
(e) 前記組換えポリエピトープポリペプチドをコードするRNAを含むRNAワクチンを提供するステップ、
を含み、
RNAワクチンが、突然変異特異的なT細胞応答を誘発し、
前記ネオエピトープが同定された癌特異的体細胞突然変異によって生じたものであり、野生型のエピトープに比べて強いT細胞応答を誘導するエピトープである、
方法。
【請求項2】
癌特異的体細胞突然変異を同定するステップが、1つまたは複数の癌細胞のエクソームの癌突然変異シグネチャを同定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
癌特異的体細胞突然変異を同定するステップが、1つまたは複数の癌細胞の単一細胞シーケンシングを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
癌細胞が循環腫瘍細胞である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
癌特異的体細胞突然変異を同定するステップが、腫瘍検体のゲノムDNAおよび/またはRNAのシーケンシングを行うことを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
癌特異的体細胞突然変異を同定するステップが、少なくともデュプリケートで反復される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
癌ワクチン接種用のエピトープ中の同定された突然変異の有用性を決定するさらなるステップを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ポリペプチドが、5以上、10以上、15以上、または20以上のネオエピトープを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ポリペプチドが35個までのネオエピトープを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ポリペプチドが、癌細胞によって発現される癌特異的体細胞突然変異を含有しないエピトープをさらに含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ポリペプチドが一次基底突然変異に基づく複数のネオエピトープを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ネオエピトープおよび/またはエピトープが、ワクチン配列を形成するような天然の配列構成である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ワクチン配列が20以上のアミノ酸を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ネオエピトープ、エピトープおよび/またはワクチン配列が頭-尾で並んでいる、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ネオエピトープ、エピトープおよび/またはワクチン配列がリンカーによって離間されている、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ワクチンが予防ワクチンおよび/または治療ワクチンである、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
RNAワクチンが、マスキングされていないポリ-A配列をさらに含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
マスキングされていないポリ-A配列が、約120個のアデノシン残基の長さを有する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
RNAワクチンが、3'-非翻訳領域(UTR)をさらに含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
RNAワクチンが、停止コドンを含めたMHCクラスIシグナルペプチド断片ならびに膜貫通およびサイトゾルドメインをさらに含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
リンカーがグリシン及びセリン残基に富んでいる、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
RNAワクチンが、5'-capをさらに含む、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
5'-capが、
【化1】
(式中、R1およびR2は、独立してヒドロキシまたはメトキシであり、W、XおよびYは、独立して酸素、硫黄、セレン、またはBH3である)である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
R1およびR2は、ヒドロキシであり、W、XおよびYは、酸素である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
R1およびR2のうちの一方はヒドロキシであり、他方はメトキシであり、W、XおよびYは酸素である、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
Xは硫黄である、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
WおよびYは、酸素である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
5'-capが、m2 7,2'-OGppspGである、請求項22または23に記載の方法。
【請求項29】
m2 7,2'-OGppspGが、Rpジアステレオマー形態である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
m2 7,2'-OGppspGが、Spジアステレオマー形態である、請求項28に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の腫瘍に特異的であり、原発性腫瘍および腫瘍転移の免疫療法に有用な可能性があるワクチンの提供に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は主要な死亡原因、すべての死因の4件に1件を占めている。癌の処置は、伝統的には平均の法則、すなわち最多数の患者に最もよく効くものに基づいている。しかし、癌における分子多様性のため、認可された治療法の恩恵を受けるのは処置された個体の25%未満であることが多い。患者の特化処置に基づく個別化医薬が、薬剤開発における革新の低効率および高コストに対する可能な解決策としてみなされている。
【0003】
抗原特異的免疫療法は患者において特異的免疫応答を亢進または誘導することを目的とし、癌疾患を制御するための使用が成功している。T細胞はヒトおよび動物における細胞媒介性免疫において中心的な役割を果たす。特定の抗原の認識および結合はT細胞の表面上に発現されるT細胞受容体(TCR)によって媒介される。T細胞のT細胞受容体(TCR)は、主要組織適合複合体(MHC)分子と結合して標的細胞の表面上に提示される免疫原性ペプチド(エピトープ)と相互作用することができる。TCRの特異的結合はT細胞内でシグナルカスケードを始動し、増殖および成熟エフェクターT細胞への分化をもたらす。
【0004】
増加しつつある病原体および腫瘍関連抗原(TAA)の同定は、免疫療法のための適切な標的の幅広いコレクションをもたらした。これらの抗原に由来する免疫原性ペプチド(エピトープ)を提示する細胞は、能動または受動免疫戦略のどちらかによって特異的に標的化することができる。能動免疫は、患者において疾患細胞を特異的に認識および死滅させることができる抗原特異的T細胞を誘導および拡大させる傾向にあり得る。様々な抗原様式を、全癌細胞、タンパク質、ペプチドまたはRNA、DNAもしくはウイルスベクターなどの免疫ベクターを含めた腫瘍ワクチン接種に使用することができ、これは、インビボで直接または患者内に移入した後にDCをパルスすることによるインビトロのどちらかで施用することができる。
【0005】
癌はゲノム突然変異および後成的変化の蓄積から生じる場合があり、その一部が原因としての働きを有し得る。腫瘍関連抗原に加えて、ヒト癌は平均して100~120個の非同義突然変異を保有しており、その多くがワクチンによる標的化が可能である。腫瘍中の突然変異のうちの95%より多くが固有かつ患者特異的である(Weideら、2008: J. Immunother. 31、180~188頁)。腫瘍特異的T細胞エピトープをもたらし得る、タンパク質を変化させる体細胞突然変異の数は30~400個の範囲内である。患者1人あたり40~60個のHLAクラスI限定エピトープが腫瘍特異的体細胞突然変異に由来していることが、in silicoで予測されている(Azumaら、1993: Nature 366、76~79頁)。さらに、新規免疫原性HLAクラスII限定エピトープも腫瘍関連突然変異の結果もたらされる可能性が高いが、その数は未だ不明である。
【0006】
注目すべきことに、一部の非同義突然変異は、新生物性形質転換に原因として関与しており、発癌性表現型(ドライバー突然変異)の維持に重要であり、癌細胞の潜在的な「弁慶の泣き所」を提示し得る。そのような非同義突然変異は中枢免疫寛容を受けないため、個別癌ワクチンの開発の理想的な候補となる可能性がある。原発性腫瘍中に見つかる突然変異は転移中にも存在し得る。しかし、いくつかの研究により、患者の転移性腫瘍は個々の腫瘍の進化中にさらなる遺伝子突然変異を獲得し、これらは多くの場合臨床的に意味のあることが実証されている(Suzukiら、2007: Mol. Oncol. 1(2)、172~180頁、Campbellら、2010: Nature 467(7319)、1109~1113頁)。さらに、多くの転移の分子特徴は原発性腫瘍のものからも顕著にそれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO 97/24447号
【文献】PCT/EP2006/009448号
【文献】WO96/33739号
【非特許文献】
【0008】
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【文献】Suzukiら、2007: Mol. Oncol. 1(2)、172~180頁
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【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の根底にある技術的な問題は、有効性の高い個別化癌ワクチンを提供することである。
【0010】
本発明は、患者特異的な癌突然変異の同定および患者の個々の癌突然変異「シグネチャ」の標的化に基づく。具体的には、ゲノム、好ましくはエクソーム、またはトランスクリプトームのシーケンシングに基づく個別化免疫療法の手法を含む本発明は、癌中の複数の個別突然変異を免疫療法的に標的化することを目的とする。次世代シーケンシング(NGS)を使用したシーケンシングは、患者特異的な癌突然変異の素早く対費用効果の高い同定を可能にする。
【0011】
患者の主要組織適合複合体(MHC)分子に提示されるアミノ酸変化をもたらす非同義点突然変異の同定は、患者の癌に特異的であるが患者の正常細胞中には見つからない新規エピトープ(ネオエピトープ)を提供する。一組の突然変異を循環腫瘍細胞(CTC)などの癌細胞から収集することにより、遺伝的に明確に異なる部分集団および腫瘍転移を含有している場合でも原発性腫瘍を標的化する可能性のある免疫応答を誘導するワクチンの提供が可能となる。ワクチン接種では、本出願に従って同定されたそのようなネオエピトープが前記ネオエピトープを含むポリペプチドの形態で患者に提供され、適切なプロセッシングおよびMHC分子による提示の後、適切なT細胞を刺激するためにネオエピトープが患者の免疫系に表示される。
【0012】
好ましくは、そのようなポリペプチドは、ポリペプチドをコードしているRNAを投与することによって患者に提供される。インビトロ転写RNA(IVT-RNA)を様々な免疫化経路によって患者内に直接注入する戦略は、様々な動物モデルにおいて試験が成功している。RNAは形質移入細胞内で翻訳され発現されたタンパク質は、プロセッシング後に細胞の表面上のMHC分子に提示されて免疫応答を誘発し得る。
【0013】
RNAを一種の可逆的遺伝子療法として使用する利点には、一過性の発現および非形質転換性の特徴が含まれる。RNAは発現されるために核内に入る必要はなく、さらに宿主ゲノム内に組み込まれる可能性がないため、発癌の危険性が排除される。RNAで達成可能な形質移入率は比較的高い。さらに、達成されるタンパク質の量は生理的発現におけるものに相当する。
【0014】
複数の個別突然変異の免疫療法的標的化の理論的根拠は、(i)これらの突然変異が排他的に発現されること、(ii)突然変異したエピトープは、それらを認識するT細胞が胸腺選択を受けていないため、T細胞免疫療法に理想的であると予想できること、(iii)たとえば腫瘍表現型に関連性の高い「ドライバー突然変異」を標的化することによって腫瘍免疫回避を下げることができること、および(iv)マルチエピトープ免疫応答は改善された臨床上の利点をもたらす可能性がより高いことである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、癌患者において効率的かつ特異的な免疫応答を誘導し、原発性腫瘍および腫瘍転移を標的化する可能性のある個別化組換え癌ワクチンを提供するための、効率的な方法に関する。本発明に従って提供される癌ワクチンは、患者(patent)に投与した場合、MHCに提示されたエピトープが由来する抗原を発現する細胞に向けられたT細胞の刺激、初回刺激および/または拡大に適切な、患者の腫瘍に特異的なMHCに提示されたエピトープのコレクションを提供する。したがって、本明細書中に記載のワクチンは、好ましくは、1つまたは複数の癌で発現される抗原のクラスI MHCによる提示によって特徴づけられる癌疾患に対する細胞性応答、好ましくは細胞毒性T細胞活性を誘導または促進することができる。本発明に従って提供されたワクチンは癌特異的突然変異を標的とするため、これは患者の腫瘍に特異的となる。
【0016】
一態様では、本発明は、個別化癌ワクチンを提供する方法であって、
(a)癌患者の腫瘍検体中の癌特異的体細胞突然変異を同定して患者の癌突然変異シグネチャを提供するステップと、
(b)ステップ(a)で得られた癌突然変異シグネチャを特長とするワクチンを提供するステップと
を含む方法に関する。
【0017】
一実施形態では、本発明の方法は、
i)癌患者からの腫瘍検体および好ましくは癌患者に由来する非腫瘍形成性(non-tumorigeneous)検体を提供するステップと、
ii)腫瘍検体のゲノム、エクソームおよび/またはトランスクリプトームと非腫瘍形成性検体のゲノム、エクソームおよび/またはトランスクリプトームとの間の配列相違を同定するステップと、
iii)ステップ(ii)で決定された配列相違を取り込んだエピトープを含むポリペプチドを設計するステップと、
iv)ステップ(iii)で設計されたポリペプチドまたは前記ポリペプチドをコードしている核酸、好ましくはRNAを提供するステップと、
v)ステップ(iv)で提供されたポリペプチドまたは核酸を含むワクチンを提供するステップと
を含む。
【0018】
本発明によれば、腫瘍検体は、腫瘍または癌細胞を含有するまたは含有すると予想される患者に由来する身体試料などの任意の試料に関する。身体試料は、血液、原発性腫瘍もしくは腫瘍転移から得られた組織試料、または腫瘍もしくは癌細胞を含有する任意の他の試料などの任意の組織試料であり得る。好ましくは、身体試料は血液であり、癌特異的体細胞突然変異または配列相違は血液中に含有される1つまたは複数の循環腫瘍細胞(CTC)中で決定する。別の実施形態では、腫瘍検体は、循環腫瘍細胞(CTC)などの1つもしくは複数の単離した腫瘍もしくは癌細胞または循環腫瘍細胞(CTC)などの1つもしくは複数の単離した腫瘍もしくは癌細胞を含有する試料に関する。
【0019】
非腫瘍形成性検体は、患者または好ましくは患者と同じ種の別の個体、好ましくは腫瘍または癌細胞を含有しないまたは含有しないと予想される健康な個体に由来する身体試料などの任意の試料に関する。身体試料は、血液または非腫瘍形成性組織からの試料などの任意の組織試料であり得る。
【0020】
本発明によれば、用語「癌突然変異シグネチャ」とは、患者の1つもしくは複数の癌細胞中に存在するすべての癌突然変異をいい得るか、または患者の1つもしくは複数の癌細胞中に存在する癌突然変異の一部分のみをいい得る。したがって、本発明は、患者の1つもしくは複数の癌細胞中に存在するすべての癌特異的突然変異の同定を含み得るか、または患者の1つもしくは複数の癌細胞中に存在する癌特異的突然変異の一部分のみの同定を含み得る。一般に、本発明の方法は、ワクチン中に含めるために十分な数のネオエピトープを提供するいくつかの突然変異の同定を提供する。「癌突然変異」とは、癌細胞中に含有される核酸と正常細胞中に含有される核酸との間の配列相違に関する。
【0021】
好ましくは、本発明による方法において同定される突然変異は、非同義突然変異、好ましくは腫瘍または癌細胞中で発現されるタンパク質の非同義突然変異である。
【0022】
一実施形態では、癌特異的体細胞突然変異または配列相違は、腫瘍検体のゲノム、好ましくはゲノム全体中で決定する。したがって、本発明の方法は、1つまたは複数の癌細胞のゲノム、好ましくはゲノム全体の癌突然変異シグネチャを同定することを含み得る。一実施形態では、癌患者の腫瘍検体中の癌特異的体細胞突然変異を同定するステップは、全ゲノム癌突然変異プロフィールを同定することを含む。
【0023】
一実施形態では、癌特異的体細胞突然変異または配列相違は、腫瘍検体のエクソーム、好ましくはエクソーム全体中で決定する。エクソームとは、発現された遺伝子のコード部分であるエクソンによって形成された、生物のゲノムの一部である。エクソームはタンパク質および他の機能的遺伝子産物の合成において使用される遺伝的青写真を提供する。これはゲノムの最も機能的に関連性のある部分であり、したがって生物の表現型に寄与する可能性が最も高い。ヒトゲノムのエクソームは全ゲノムの1.5%を構成すると推定されている(Ng, PCら、PLoS Gen.、4(8):1~15頁、2008)。したがって、本発明の方法は、1つまたは複数の癌細胞のエクソーム、好ましくはエクソーム全体の癌突然変異シグネチャを同定することを含み得る。一実施形態では、癌患者の腫瘍検体中の癌特異的体細胞突然変異を同定するステップは、全エクソーム癌突然変異プロフィールを同定することを含む。
【0024】
一実施形態では、癌特異的体細胞突然変異または配列相違は、腫瘍検体のトランスクリプトーム、好ましくはトランスクリプトーム全体中で決定する。トランスクリプトームとは、1つの細胞または細胞集団中で産生された、mRNA、rRNA、tRNA、および他の非コードRNAを含めたすべてのRNA分子の組である。本発明の関連において、トランスクリプトームとは、特定の時点において所定の個体の1つの細胞、細胞集団、好ましくは癌細胞集団、またはすべての細胞中で産生されたすべてのRNA分子の組を意味する。したがって、本発明の方法は、1つまたは複数の癌細胞のトランスクリプトーム、好ましくはトランスクリプトーム全体の癌突然変異シグネチャを同定することを含み得る。一実施形態では、癌患者の腫瘍検体中の癌特異的体細胞突然変異を同定するステップは、全トランスクリプトーム癌突然変異プロフィールを同定することを含む。
【0025】
一実施形態では、癌特異的体細胞突然変異を同定するまたは配列相違を同定するステップは、1個または複数、好ましくは2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個またはさらにそれより多くの癌細胞の単一細胞シーケンシングを含む。したがって、本発明の方法は、前記1つまたは複数の癌細胞の癌突然変異シグネチャを同定することを含み得る。一実施形態では、癌細胞は循環腫瘍細胞である。循環腫瘍細胞などの癌細胞は単一細胞シーケンシングの前に単離し得る。
【0026】
一実施形態では、癌特異的体細胞突然変異を同定するまたは配列相違を同定するステップは、次世代シーケンシング(NGS)を使用することを含む。
【0027】
一実施形態では、癌特異的体細胞突然変異を同定するまたは配列相違を同定するステップは、腫瘍検体のゲノムDNAおよび/またはRNAのシーケンシングを行うことを含む。
【0028】
癌特異的体細胞突然変異または配列相違を明らかにするために、腫瘍検体から得られた配列情報は、好ましくは、患者または異なる個体のどちらかから入手し得る生殖系列細胞などの正常な非癌細胞のDNAまたはRNAなどの核酸のシーケンシングから得られた配列情報などの参照と比較する。一実施形態では、正常なゲノム生殖系列DNAは末梢血単核球(PBMC)から得られる。
【0029】
本発明の方法に従って提供されるワクチンは、患者(patent)に投与した場合に、好ましくは、同定された突然変異または配列相違に基づく配列変化を取り込んだ、MHCに提示されたエピトープのコレクション、たとえば、2個以上、5個以上、10個以上、15個以上、20個以上、25個以上、30個以上、好ましくは60個まで、55個まで、50個まで、45個まで、40個まで、35個までまたは30個までのMHCに提示されたエピトープを提供するワクチンに関する。また、そのような、同定された突然変異または配列相違に基づく配列変化を取り込んだMHCに提示されたエピトープは、本明細書中で「ネオエピトープ」とも呼ばれる。患者の細胞、特に抗原提示細胞によるこれらのエピトープの提示は、好ましくは、MHCに結合した際にT細胞がエピトープを標的化すること、したがって、患者の腫瘍、好ましくは原発性腫瘍および腫瘍転移が、MHCに提示されたエピトープが由来する抗原を発現し、腫瘍細胞の表面上に同じエピトープを提示することをもたらす。
【0030】
ワクチンを提供するために、本発明の方法は、十分な数のネオエピトープ(好ましくはコード核酸の形態)をワクチン内に任意で包含することを含んでいてよく、または、癌ワクチン接種用のエピトープ中の同定された突然変異の有用性を決定するさらなるステップを含んでいてよい。したがって、さらなるステップは以下のうちの1つまたは複数を含むことができる:(i)配列変化が既知のまたは予測されたMHCに提示されたエピトープ中に位置するかどうかの評価、(ii)配列変化がMHCに提示されたエピトープ中に位置するかどうかのインビトロおよび/またはin silico試験、たとえば、配列変化が、MHCに提示されたエピトープへとプロセッシングされるおよび/またはそれとして提示されるペプチド配列の一部であるかどうかの試験、ならびに(iii)想定された突然変異したエピトープが、特にその天然の配列構成で存在する場合、たとえば天然に存在するタンパク質中で前記エピトープにも隣接するアミノ酸配列に隣接している場合、および抗原提示細胞中で発現された場合に、所望の特異性を有する患者のT細胞を刺激することができるかどうかのインビトロ試験。そのような隣接配列は、それぞれ3個以上、5個以上、10個以上、15個以上、20個以上、好ましくは50個まで、45個まで、40個まで、35個までまたは30個までのアミノ酸を含んでいてよく、N末端および/またはC末端でエピトープ配列に隣接していてよい。
【0031】
本発明に従って決定される突然変異または配列相違は、癌ワクチン接種用のエピトープとしてその有用性について順位づけし得る。したがって、一態様では、本発明の方法は、同定された突然変異が、提供するそれぞれのワクチンにおけるその有用性について分析および選択される、手動またはコンピュータベースの分析処理を含む。好ましい実施形態では、前記分析処理はコンピュータアルゴリズムベースの処理である。好ましくは、前記分析処理は、以下のステップのうちの1つまたは複数、好ましくはすべてを含む:
-たとえば転写物を分析することによって、発現された、タンパク質を変更する突然変異を同定するステップ、
-免疫原性である可能性がある突然変異を同定するステップ、すなわち、得られたデータを、確認されている免疫原性エピトープの利用可能なデータセット、たとえばhttp://www.immunoepitope.orgのIMMUNE EPITOPE DATABASE AND ANALYSIS RESOURCEなどの公共免疫エピトープデータベースに含有されるものと比較することによって免疫原性である可能性がある突然変異を同定するステップ。
【0032】
免疫原性である可能性がある突然変異を同定するステップは、エピトープを、そのMHC結合能力、好ましくはMHCクラスI結合能力の予測に応じて決定および/または順位づけすることを含み得る。
【0033】
本発明の別の実施形態では、エピトープは、タンパク質インパクト(protein impact)、関連遺伝子発現、配列固有性、予測提示可能性、および癌遺伝子との関連などのさらなるパラメータを使用することによって選択および/または順位づけすることができる。
【0034】
また、複数のCTC分析は突然変異の選択および優先順位づけも可能にする。たとえば、CTCのより大部分中に見つかる突然変異は、CTCの下位部分中に見つかる突然変異よりも高く優先順位をつけ得る。
【0035】
本発明に従って同定され、本発明のワクチンによって提供される、突然変異に基づくネオエピトープのコレクションは、好ましくは、前記ネオエピトープ(ポリエピトープポリペプチド)を含むポリペプチド、または前記ポリペプチドをコードしている核酸、特にRNAの形態で存在する。さらに、ネオエピトープは、たとえば天然に存在するタンパク質中で前記エピトープにも隣接するアミノ酸配列に隣接して、ポリペプチド中にワクチン配列の形態で存在し得る、すなわちその天然の配列構成で存在し得る。そのような隣接配列は、それぞれ5個以上、10個以上、15個以上、20個以上、好ましくは50個まで、45個まで、40個まで、35個までまたは30個までのアミノ酸を含んでいてよく、N末端および/またはC末端でエピトープ配列に隣接していてよい。したがって、ワクチン配列は、20個以上、25個以上、30個以上、35個以上、40個以上、好ましくは50個まで、45個まで、40個まで、35個までまたは30個までのアミノ酸を含み得る。一実施形態では、ネオエピトープおよび/またはワクチン配列はポリペプチド中で頭-尾で並んでいる。
【0036】
一実施形態では、ネオエピトープおよび/またはワクチン配列はリンカー、特に中性リンカーによって離間されている。本発明による用語「リンカー」とは、エピトープまたはワクチン配列などの2つのペプチドドメインの間に付加して前記ペプチドドメインを接続するペプチドに関する。リンカー配列に関して特に制限はない。しかし、リンカー配列は2つのペプチドドメイン間の立体障害を減らし、良好に翻訳され、エピトープのプロセッシングを支援または許可することが好ましい。さらに、リンカーは免疫原性の配列要素を有さない、または僅かしか有さないべきである。リンカーは、好ましくは、所望しない免疫反応を生じ得る、近接ネオエピトープ間の接合部縫合から生じたものなどの非内在性ネオエピトープを作成するべきではない。したがって、ポリエピトープワクチンは、好ましくは、所望しないMHC結合性接合部エピトープの数を減らすことができるリンカー配列を含有するべきである。Hoytら(EMBO J. 25(8)、1720~9頁、2006)およびZhangら(J. Biol. Chem.、279(10)、8635~41頁、2004)は、グリシンに富んだ配列はプロテアソームプロセッシングを損なわせ、したがって、グリシンに富んだリンカー配列の使用は、プロテアソームによるプロセッシングが可能なリンカーに含有されるペプチドの数を最小限にする働きを持つことを示している。さらに、グリシンは、MHC結合溝位置で強力な結合を阻害することが観察された(Abastadoら、J. Immunol. 151(7)、3569~75頁、1993)。Schlessingerら(Proteins、61(1)、115~26頁、2005)は、アミノ酸配列中に含められたアミノ酸グリシンおよびセリンは、プロテアソームによってより効率的に翻訳およびプロセッシングされ、コードされているネオエピトープへのより良好な接近を可能にする、より柔軟なタンパク質をもたらすことを発見した。リンカーは、それぞれ3個以上、6個以上、9個以上、10個以上、15個以上、20個以上、好ましくは50個まで、45個まで、40個まで、35個までまたは30個までのアミノ酸を含み得る。好ましくは、リンカーはグリシンおよび/またはセリンアミノ酸に富んでいる。好ましくは、リンカーのアミノ酸の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%はグリシンおよび/またはセリンである。好ましい一実施形態では、リンカーはアミノ酸グリシンおよびセリンから実質的に構成される。一実施形態では、リンカーはアミノ酸配列(GGS)a(GSS)b(GGG)c(SSG)d(GSG)eを含み、式中、a、b、c、dおよびeは独立して、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20から選択される数字であり、a+b+c+d+eは0とは異なり、好ましくは2以上、3以上、4以上または5以上である。一実施形態では、リンカーは、配列GGSGGGGSGなどの、実施例中に記載のリンカー配列を含めた本明細書中に記載の配列を含む。
【0037】
本発明の別の実施形態では、本発明に従って同定され、本発明のワクチンによって提供される、突然変異に基づくネオエピトープのコレクションは、好ましくは様々なポリペプチド上の前記ネオエピトープを含むポリペプチドのコレクション(前記ポリペプチドはそれぞれ、重複することもできる1つもしくは複数のネオエピトープを含む)、または前記ポリペプチドをコードしている核酸、特にRNAのコレクションの形態で存在する。
【0038】
特に好ましい一実施形態では、本発明によるポリエピトープポリペプチドは、抗原提示細胞などの患者の細胞中で発現させてポリペプチドを産生させ得る核酸、好ましくはインビトロで転写されたまたは合成RNAなどのRNAの形態で、患者に投与する。また、本発明は、本発明の目的のために用語「ポリエピトープポリペプチド」によって含まれる1つまたは複数のマルチエピトープポリペプチドを、好ましくは、抗原提示細胞などの患者の細胞中で発現させて1つまたは複数のポリペプチドを産生させ得る核酸、好ましくはインビトロで転写されたまたは合成RNAなどのRNAの形態で投与することも想定する。複数のマルチエピトープポリペプチドを投与する場合、異なるマルチエピトープポリペプチドによって提供されるネオエピトープは異なるまたは部分的に重複していてよい。ひとたび抗原提示細胞などの患者の細胞中に存在すると、本発明によるポリペプチドはプロセッシングされ、本発明に従って同定されたネオエピトープを産生する。本発明に従って提供されるワクチンの投与は、MHCに提示されたエピトープが由来する抗原を発現する細胞に対するCD4+ヘルパーT細胞応答を誘発することができる、MHCクラスIIに提示されたエピトープを提供し得る。あるいはまたはそれに加えて、本発明に従って提供されるワクチンの投与は、MHCに提示されたエピトープが由来する抗原を発現する細胞に対するCD8+T細胞応答を誘発することができる、MHCクラスIに提示されたエピトープを提供し得る。さらに、本発明に従って提供されるワクチンの投与は、1つまたは複数のネオエピトープ(既知のネオエピトープおよび本発明に従って同定されたネオエピトープが含まれる)、ならびに癌特異的体細胞突然変異を含有しないが、癌細胞によって発現され、好ましくは癌細胞に対する免疫応答、好ましくは癌特異的免疫応答を誘導する1つまたは複数のエピトープを提供し得る。一実施形態では、本発明に従って提供されるワクチンの投与は、MHCクラスIIに提示されたエピトープであるおよび/またはMHCに提示されたエピトープが由来する抗原を発現する細胞に対するCD4+ヘルパーT細胞応答を誘発することができるネオエピトープ、ならびに癌特異的体細胞突然変異を含有せず、MHCクラスIに提示されたエピトープであるおよび/またはMHCに提示されたエ
ピトープが由来する抗原を発現する細胞に対するCD8+T細胞応答を誘発することができるエピトープを提供する。一実施形態では、癌特異的体細胞突然変異を含有しないエピトープは腫瘍抗原に由来する。一実施形態では、癌特異的体細胞突然変異を含有しないネオエピトープおよびエピトープは癌の処置において相乗効果を有する。好ましくは、本発明に従って提供されるワクチンは細胞毒性および/またはヘルパーT細胞応答のポリエピトープ刺激に有用である。
【0039】
さらなる態様では、本発明は、本発明による方法によって得ることができるワクチンを提供する。したがって、本発明は、突然変異に基づくネオエピトープを含む組換えポリペプチドまたは前記ポリペプチドをコードしている核酸を含むワクチンであって、前記エピトープが、癌患者の腫瘍検体中の癌特異的体細胞突然変異によって生じるワクチンに関する。また、そのような組換えポリペプチドには、上述の癌特異的体細胞突然変異が含まれないエピトープも含まれ得る。
【0040】
そのようなワクチンの好ましい実施形態は、本発明の方法との関連において上述されている。
【0041】
本発明に従って提供されるワクチンは薬学的に許容される担体を含んでいてよく、任意選択で1種または複数のアジュバント、安定化剤などを含んでいてよい。ワクチンは治療ワクチンまたは予防ワクチンの形態であり得る。
【0042】
別の態様は、本発明に従って提供されるワクチンを患者に投与することを含む、患者において免疫応答を誘導する方法に関する。
【0043】
別の態様は、癌患者を処置する方法であって、
(a)本発明による方法によって個別化癌ワクチンを提供するステップと、
(b)前記ワクチンを患者に投与するステップと
を含む方法に関する。
【0044】
別の態様は、癌患者を処置する方法であって、本発明によるワクチンを患者に投与するステップを含む方法に関する。
【0045】
さらなる態様では、本発明は、本明細書中に記載の処置方法で使用するため、特に癌の処置または防止で使用するための、本明細書中に記載のワクチンを提供する。
【0046】
本明細書中に記載の癌の処置は、外科的切除および/または放射線および/または伝統的な化学療法と組み合わせることができる。
【0047】
本発明の別の態様は、次世代シーケンシングデータに基づいて偽発見率を決定する方法であって、
遺伝物質の第1の試料を動物またはヒトから採取するステップと、
遺伝物質の第2の試料を動物またはヒトから採取するステップと、
遺伝物質の第1の試料を腫瘍細胞から採取するステップと、
遺伝物質の第2の試料を前記腫瘍細胞から採取するステップと、
腫瘍と、動物またはヒトからの遺伝物質の前記第1の試料および動物またはヒトからの遺伝物質の前記第2の試料のうちの少なくとも1つとのどちらにも含まれる参照ゲノムのすべての塩基を計数することによって、共通カバレッジ(common coverage)腫瘍比較を決定するステップと、
動物またはヒトからの遺伝物質の前記第1の試料および動物またはヒトからの遺伝物質の前記第2の試料のどちらにも含まれる参照ゲノムのすべての塩基を計数することによって、共通カバレッジ対同一物比較(same vs. same comparison)を決定するステップと、
前記共通カバレッジ腫瘍比較を前記共通カバレッジ対同一物比較で除算することによって正規化を形成するステップと、
1)動物またはヒトからの遺伝物質の前記第1の試料と動物またはヒトからの遺伝物質の前記第2の試料との比較においてQよりも高い品質スコアを有する単一ヌクレオチド変異の数を、2)前記腫瘍細胞からの遺伝物質の前記第1の試料と前記腫瘍細胞からの遺伝物質の前記第2の試料との比較においてQよりも高い品質スコアを有する単一ヌクレオチド変異の数で除算し、3)結果に前記正規化を乗することによって、偽発見率を決定するステップと
が含む方法に関する。
【0048】
一実施形態では、前記遺伝物質はDNAである。
【0049】
一実施形態では、Qは、
一組の品質特性S=(s1,…, sn)を確立するステップであって、すべてのi=1,…, nについてsi>tiである場合にSがT=(t1,…, tn)よりも好ましく、S>Tによって示されるステップと、
1)動物またはヒトからの前記第1のDNA試料と動物またはヒトからの前記第2のDNA試料との比較において品質スコアS>Tを有する単一ヌクレオチド変異の数を、2)前記腫瘍細胞からの前記第1のDNA試料と前記腫瘍細胞からの前記第2のDNA試料との比較において品質スコアS>Tを有する単一ヌクレオチド変異の数で除算し、3)結果に前記正規化を乗ずることによって、中間偽発見率を規定するステップと、
それぞれn個の品質特性を有するm個の突然変異について、それぞれの特性の値範囲を決定するステップと、
前記値範囲のうち、p個までの値をサンプリングするステップと、
サンプリングした品質値のそれぞれの可能な組合せを作成し、pn個のデータ点をもたらすステップと、
前記データ点のランダムサンプルをランダムフォレストトレーニングの予測子として使用するステップと、
対応する中間偽発見率値を前記ランダムフォレストトレーニングの応答として使用するステップと
によって決定され、その結果生じる、前記ランダムフォレストトレーニングの回帰スコアはQである。
【0050】
一実施形態では、動物またはヒトからの前記第2のDNA試料は、動物またはヒトからの前記第1のDNA試料に対して同種異系である。一実施形態では、動物またはヒトからの前記第2のDNA試料は、動物またはヒトからの前記第1のDNA試料に対して自己である。一実施形態では、動物またはヒトからの前記第2のDNA試料は、動物またはヒトからの前記第1のDNA試料に対して異種である。
【0051】
一実施形態では、前記遺伝物質はRNAである。
【0052】
一実施形態では、Qは、
一組の品質特性S=(s1,…, sn)を確立するステップであって、すべてのi=1,…, nについてsi>tiである場合にSがT=(t1,…, tn)よりも好ましく、S>Tによって示されるステップと、
1)動物またはヒトからの前記第1のRNA試料と動物またはヒトからの前記第2のRNA試料との比較において品質スコアS>Tを有する単一ヌクレオチド変異の数を、2)前記腫瘍細胞からの前記第1のRNA試料と前記腫瘍細胞からの前記第2のRNA試料との比較において品質スコアS>Tを有する単一ヌクレオチド変異の数で除算し、3)結果に前記正規化を乗することによって、中間偽発見率を規定するステップと、
それぞれn個の品質特性を有するm個の突然変異について、それぞれの特性の値範囲を決定するステップと、
前記値範囲のうち、p個までの値をサンプリングするステップと、
サンプリングした品質値のそれぞれの可能な組合せを作成し、pn個のデータ点をもたらすステップと、
前記データ点のランダムサンプルをランダムフォレストトレーニングの予測子として使用するステップと、
対応する中間偽発見率値を前記ランダムフォレストトレーニングの応答として使用するステップと
によって決定され、その結果生じる、前記ランダムフォレストトレーニングの回帰スコアはQである。
【0053】
一実施形態では、動物またはヒトからの前記第2のRNA試料は、動物またはヒトからの前記第1のRNA試料に対して同種異系である。一実施形態では、動物またはヒトからの前記第2のRNA試料は、動物またはヒトからの前記第1のRNA試料に対して自己である。一実施形態では、動物またはヒトからの前記第2のRNA試料は、動物またはヒトからの前記第1のRNA試料に対して異種である。
【0054】
一実施形態では、前記偽発見率を使用してワクチン配合物を作製する。一実施形態では、前記ワクチンは静脈送達可能である。一実施形態では、前記ワクチンは経皮送達可能である。一実施形態では、前記ワクチンは筋肉送達可能である。一実施形態では、前記ワクチンは皮下送達可能である。一実施形態では、前記ワクチンは特定の患者に特化されている。
【0055】
一実施形態では、動物またはヒトからの遺伝物質の前記第1の試料および動物またはヒトからの遺伝物質の前記第2の試料のうちの1つは前記特定の患者に由来する。
【0056】
一実施形態では、腫瘍と、動物またはヒトからの遺伝物質の前記第1の試料および動物またはヒトからの遺伝物質の前記第2の試料のうちの少なくとも1つとのどちらにも含まれる参照ゲノムのすべての塩基を計数することによって、共通カバレッジ腫瘍比較を決定する前記ステップは、すべての塩基を計数するために自動システムを使用する。
【0057】
一実施形態では、動物またはヒトからの遺伝物質の前記第1の試料および動物またはヒトからの遺伝物質の前記第2の試料のどちらにも含まれる参照ゲノムのすべての塩基を計数することによって、共通カバレッジ対同一物比較を決定する前記ステップは前記自動システムを使用する。
【0058】
一実施形態では、前記共通カバレッジ腫瘍比較を前記共通カバレッジ対同一物比較で除算することによって正規化を形成する前記ステップは前記自動システムを使用する。
【0059】
一実施形態では、1)動物またはヒトからの遺伝物質の前記第1の試料と動物またはヒトからの遺伝物質の前記第2の試料との比較においてQよりも高い品質スコアを有する単一ヌクレオチド変異の数を、2)前記腫瘍細胞からの遺伝物質の前記第1の試料と前記腫瘍細胞からの遺伝物質の前記第2の試料との比較においてQよりも高い品質スコアを有する単一ヌクレオチド変異の数で除算し、3)結果に前記正規化を乗ずることによって、偽発見率を決定する前記ステップは前記自動システムを使用する。
【0060】
本発明の別の態様は、推定受信者動作曲線(ROC)を決定する方法であって、
それぞれの突然変異が偽発見率(FDR)を伴う突然変異のデータセットを受信するステップと、
それぞれの突然変異について:
前記FDRを1から減算することによって真陽性率(TPR)を決定するステップと、
前記FPRを前記FDRに等しく設定することによって偽陽性率(FPR)を決定するステップと、
それぞれの突然変異について、前記突然変異までの累積TPRおよびFPR値の点を、すべてのTPRおよびFPR値の合計で除算してプロットすることによって、推定ROCを形成するステップと
を含む方法に関する。
【0061】
本発明の他の特長および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかであろう。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明を以下に詳述するが、方法、プロトコルおよび試薬は変動し得るため、本発明は本明細書中に記載の特定の方法、プロトコルおよび試薬に限定されないことを理解されたい。また、本明細書中で使用する用語は特定の実施形態を説明する目的のみのものであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図しないことも理解されたい。別段に定義しない限りは、本明細書中で使用するすべての技術用語および科学用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0063】
以下に本発明の要素を記載する。これらの要素は具体的な実施形態を用いて記載するが、これらを任意の様式および任意の数で組み合わせて追加の実施形態を作製し得ることを理解されたい。様々に記載した実施例および好ましい実施形態は、本発明を明白に記載した実施形態のみに限定すると解釈されるべきでない。この記載は、明白に記載した実施形態を任意の数の開示したおよび/または好ましい要素と組み合わせる実施形態を支援および包含すると理解されたい。さらに、内容により別段に示される場合以外は、本出願中のすべての記載した要素の任意の順列および組合せが、本出願の説明によって開示されているとみなされるべきである。たとえば、好ましい一実施形態ではRNAが120個のヌクレオチドからなるポリ(A)-テイルを含み、別の好ましい実施形態ではRNA分子が5'-cap類似体を含む場合、好ましい実施形態では、RNAは120個のヌクレオチドからなるポリ(A)-テイルおよび5'-cap類似体を含む。
【0064】
好ましくは、本明細書中で使用する用語は、「A multilingual glossary of biotechnological terms: (IUPAC Recommendations)」、H. G. W. Leuenberger、B. Nagel、およびH. Kolbl編、(1995) Helvetica Chimica Acta、CH-4010、スイス、Baselに記載されている通りに定義する。
【0065】
別段に指定しない限りは、本発明の実施には当分野の文献(たとえばMolecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、J. Sambrookら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor 1989を参照)に記載されている生化学、細胞生物学、免疫学、および組換えDNA技法の慣用方法を用いる。
【0066】
内容により別段に要する場合以外は、本明細書全体および続く特許請求の範囲全体にわたって、単語「含む(comprise)」、ならびに「含む(comprises)」および「含むこと(comprising)」などの変形は、記述したメンバー、整数もしくはステップまたはメンバー、整数もしくはステップの群の包含を暗示するが、任意の他のメンバー、整数もしくはステップまたはメンバー、整数もしくはステップの群を排除せず、ただし、一部の実施形態では、そのような他のメンバー、整数もしくはステップまたはメンバー、整数もしくはステップの群を排除し得る、すなわち、対象が記述したメンバー、整数もしくはステップまたはメンバー、整数もしくはステップの群の包含からなると理解されたい。用語「a」および「an」および「the」ならびに本発明の記載との関連で(特に特許請求の範囲との関連で)で使用する同様の言及は、本明細書中に別段に指定しないまたは内容により明らかに矛盾しない限りは、単数形および複数形をどちらも含むと解釈されたい。本明細書中の値の範囲の列挙は、範囲内のそれぞれの別々の値を個々に言及する省略方法としての役割を果たすことのみを意図する。本明細書中で別段に指定しない限りは、それぞれの個々の値は、本明細書中で個々に列挙されているかのように、本明細書中に組み込まれている。
【0067】
本明細書中に記載のすべての方法は、本明細書中で別段に指定しないまたは内容により明らかに矛盾しない限りは、任意の適切な順序で行うことができる。本明細書中で提供する任意かつすべての例、または例示的な言葉(たとえば「など(such as)」)の使用は、本発明をより良好に例示することのみを意図し、他の箇所で特許請求の範囲に記載した本発明の範囲に対する限定を提示しない。本明細書中のいかなる言葉も、本発明の実施に必須である任意の非特許請求要素を示すと解釈されるべきでない。
【0068】
いくつかの文書が本明細書の本文全体にわたって引用されている。本明細書中で引用した文書のそれぞれ(すべての特許、特許出願、科学的出版物、製造者の仕様書、指示書などが含まれる)は、上記であるか下記であるかにかかわらず、その全体で本明細書中に参考として組み込まれている。本明細書中にいかなるものも、先行発明に基づいて本発明がそのような開示に先行する権利を有さないという承認として解釈されるべきでない。
【0069】
本発明に従って提供されるワクチンは組換えワクチンである。
【0070】
用語「組換え」とは、本発明との関連において、「遺伝子操作によって作製された」ことを意味する。好ましくは、本発明との関連での組換えポリペプチドなどの「組換え実体」は天然に存在せず、好ましくは、天然では組み合わされないアミノ酸または核酸配列などの実体の組合せの結果である。たとえば、組換えポリペプチドは、本発明との関連において、ネオエピトープ、または異なるタンパク質もしくは同じタンパク質の異なる部分がたとえばペプチド結合もしくは適切なリンカーによって一緒に融合されたものに由来するワクチン配列などの、いくつかのアミノ酸配列を含有し得る。
【0071】
本明細書中で使用する用語「天然に存在する」とは、物体を自然で見つけることができることをいう。たとえば、生物(ウイルスを含めて)中に存在し、天然源から単離することができ、人によって実験室内で意図的に改変されていないペプチドまたは核酸は、天然に存在する。
【0072】
本発明によれば、用語「ワクチン」とは、投与の際に、病原体または癌細胞などの疾患細胞を認識して攻撃する免疫応答、特に細胞性免疫応答を誘導する、医薬調製物(医薬組成物)または生成物に関する。ワクチンは、疾患の防止または処置に使用し得る。用語「個別化癌ワクチン」とは特定の癌患者に関し、癌ワクチンが個々の癌患者の需要または特別な状況に適応していることを意味する。
【0073】
用語「免疫応答」とは、抗原に対する統合身体応答をいい、好ましくは細胞性免疫応答または細胞性および液性免疫応答をいう。免疫応答は保護的防止的/予防的および/または治療的であり得る。
【0074】
「免疫応答を誘導する」とは、誘導前には特定の抗原に対して免疫応答が存在しなかったことを意味し得るが、誘導前に特定の抗原に対する一定レベルの免疫応答が存在しており、誘導後に前記免疫応答が亢進されたことも意味し得る。したがって、「免疫応答を誘導する」には「免疫応答を亢進させる」ことも含まれる。好ましくは、対象において免疫応答を誘導した後、前記対象は癌疾患などの疾患を発症することから保護される、または免疫応答を誘導することによって病状が寛解される。たとえば、腫瘍発現抗原に対する免疫応答を、癌疾患に罹患している患者または癌疾患を発症する危険性にある対象において誘導し得る。この場合、免疫応答を誘導することは、対象の病状が寛解されている、対象が転移を発症しない、または癌疾患を発症する危険性にある対象が癌疾患を発症しないことを意味し得る。
【0075】
「細胞性免疫応答」、「細胞性応答」、「抗原に対する細胞性応答」または同様の用語には、クラスIまたはクラスII MHCを用いた抗原の提示によって特徴づけられる、細胞に向けられた細胞性応答が含まれることを意味する。細胞性応答は、「ヘルパー」または「キラー」のどちらかとして作用するT細胞またはT-リンパ球と呼ばれる細胞に関する。ヘルパーT細胞(CD4+T細胞とも呼ばれる)は免疫応答を調節することによって中心的な役割を果たし、キラー細胞(細胞毒性T細胞、細胞溶解性T細胞、CD8+T細胞またはCTLとも呼ばれる)は癌細胞などの疾患細胞を死滅させ、さらなる疾患細胞の産生を防止する。好ましい実施形態では、本発明は、1つまたは複数の腫瘍発現抗原を発現する腫瘍細胞に対する抗腫瘍CTL応答の刺激、および好ましくはクラスI MHCを用いてそのような腫瘍発現抗原を提示することを含む。
【0076】
本発明による「抗原」とは、免疫応答を誘発する任意の物質を含む。特に、「抗原」とは、抗体またはT-リンパ球(T細胞)と特異的に反応する任意の物質、好ましくはペプチドまたはタンパク質に関する。本発明によれば、用語「抗原」は、少なくとも1つのエピトープを含む任意の分子を含む。好ましくは、本抗原は、発明との関連において、任意選択でプロセッシング後に、好ましくは抗原(抗原を発現する細胞が含まれる)に特異的である免疫反応を誘導する分子である。本発明によれば、免疫反応の候補である任意の適切な抗原を使用してよく、免疫反応は好ましくは細胞性免疫反応である。本発明の実施形態のコンテキストでは、抗原は、好ましくは、MHC分子との関連において、疾患細胞、特に癌細胞が含まれる、細胞、好ましくは抗原提示細胞によって提示され、これは抗原に対する免疫反応をもたらす。抗原は、好ましくは、天然に存在する抗原に対応するまたはそれに由来する生成物である。そのような天然に存在する抗原には腫瘍抗原が含まれる。
【0077】
好ましい実施形態では、抗原は、腫瘍抗原、すなわち、腫瘍細胞中で発現されるタンパク質またはペプチドなどの腫瘍細胞の一部であり、これは、細胞質、細胞表面または細胞核、特に主に細胞内にまたは腫瘍細胞の表面抗原として存在するものに由来し得る。たとえば、腫瘍抗原には、癌胎児性抗原、α1-フェトプロテイン、イソフェリチン、および胎児スルホグリコプロテイン、α2-H-鉄タンパク質およびγ-フェトプロテインが含まれる。本発明によれば、腫瘍抗原は、好ましくは、腫瘍または癌および腫瘍または癌細胞中で発現され、それについて種類および/または発現レベルに関して任意選択で特徴的な、任意の抗原を含む。一実施形態では、用語「腫瘍抗原」または「腫瘍関連抗原」とは、正常状態下では限定された数の組織および/もしくは器官中または特定の発生段階においてで特異的に発現されるタンパク質に関し、たとえば、腫瘍抗原は、正常状態下では胃組織中、好ましくは胃粘膜中、生殖器中、たとえば精巣中、栄養芽細胞組織中、たとえば胎盤中、または生殖系列細胞中で特異的に発現される場合があり、1つまたは複数の腫瘍または癌組織中で発現または異常に発現される。この関連において、「限定された数」とは、好ましくは3つ以下、より好ましくは2つ以下を意味する。本発明との関連において、腫瘍抗原には、たとえば、分化抗原、好ましくは細胞種特異的分化抗原、すなわち正常状態下では特定の細胞種中で特定の分化段階において特異的に発現されるタンパク質、癌/精巣抗原、すなわち正常状態下では精巣中および場合によっては胎盤中で特異的に発現されるタンパク質、ならびに生殖系列特異的抗原が含まれる。好ましくは、腫瘍抗原または腫瘍抗原の異常な発現が癌細胞を同定する。本発明との関連において、対象、たとえば癌疾患を患っている患者において癌細胞によって発現される腫瘍抗原は、好ましくは前記対象中の自己タンパク質である。好ましい実施形態では、腫瘍抗原は、本発明との関連において、正常状態下では、非必須である組織もしくは器官、すなわち免疫系によって損傷を受けた場合に対象の死をもたらさない組織もしくは器官中、または免疫系によって接近可能でないもしくはわずかしか接近可能でない身体の器官もしくは構造体中で特異的に発現される。
【0078】
本発明によれば、用語「腫瘍抗原」、「腫瘍発現抗原」、「癌抗原」および「癌で発現される抗原」は均等物であり、本明細書中で互換性があるように使用される。
【0079】
用語「免疫原性」とは、免疫反応を誘導する抗原の相対的有効性に関する。
【0080】
本発明による「抗原ペプチド」とは、好ましくは、抗原に対する、または抗原の発現によって、好ましくは疾患細胞、特に癌細胞などの抗原の提示によって特徴づけられる細胞に対する免疫応答、好ましくは細胞性応答を刺激することができる、抗原の一部分または断片に関する。好ましくは、抗原ペプチドは、クラスI MHCを用いた抗原の提示によって特徴づけられる細胞に対する細胞性応答を刺激することができ、好ましくは抗原応答性細胞毒性T-リンパ球(CTL)を刺激することができる。好ましくは、本発明による抗原ペプチドは、MHCクラスIおよび/またはクラスIIに提示されるペプチドであるか、またはプロセッシングされてMHCクラスIおよび/またはクラスIIに提示されるペプチドを産生することができる。好ましくは、抗原ペプチドは抗原の断片のアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含む。好ましくは、前記抗原の断片はMHCクラスIおよび/またはクラスIIに提示されるペプチドである。好ましくは、本発明による抗原ペプチドはそのような断片のアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含み、プロセッシングされて、そのような断片、すなわち抗原に由来するMHCクラスIおよび/またはクラスIIに提示されるペプチドを産生する。
【0081】
ペプチドを直接、すなわちプロセッシングなし、特に切断なしで提示させる場合は、これはMHC分子、特にクラスI MHC分子との結合に適した長さを有し、好ましくは7~20個のアミノ酸の長さ、より好ましくは7~12個のアミノ酸の長さ、より好ましくは8~11個のアミノ酸の長さ、特に9または10個のアミノ酸の長さである。
【0082】
ペプチドが、たとえばワクチン配列またはポリペプチドの付加配列を含むより大きな実体の一部であり、プロセッシング後、特に切断後に提示させる場合は、プロセッシングによって産生されたペプチドは、MHC分子、特にクラスI MHC分子との結合に適した長さを有し、好ましくは7~20個のアミノ酸の長さ、より好ましくは7~12個のアミノ酸の長さ、より好ましくは8~11個のアミノ酸の長さ、特に9または10個のアミノ酸の長さである。好ましくは、プロセッシング後に提示させるペプチドの配列は抗原のアミノ酸配列に由来する、すなわち、その配列は抗原の断片に実質的に対応し、好ましくは完全に同一である。したがって、一実施形態では、本発明による抗原ペプチドまたはワクチン配列は、抗原の断片に実質的に対応し、好ましくは完全に同一である7~20個のアミノ酸の長さ、より好ましくは7~12個のアミノ酸の長さ、より好ましくは8~11個のアミノ酸の長さ、特に9または10個のアミノ酸の長さの配列を含み、これは、抗原ペプチドまたはワクチン配列のプロセッシング後に提示されたペプチドを構成する。本発明によれば、プロセッシングによって産生されたそのようなペプチドは、同定された配列変化を含む。
【0083】
本発明によれば、抗原ペプチドまたはエピトープは、複数の抗原ペプチドまたはエピトープを含むワクチン配列および/またはポリペプチドなどのより大きな実体の一部として、ワクチン中に存在し得る。提示された抗原ペプチドまたはエピトープは適切なプロセッシング後に産生される。
【0084】
クラスI MHCによって提示されるペプチドの配列に実質的に対応するアミノ酸配列を有するペプチドは、クラスI MHCによって提示されたペプチドのTCR認識、またはMHCとのペプチド結合に必須ではない1つまたは複数の残基で異なり得る。また、そのような実質的に対応するペプチドは抗原応答性CTLを刺激することもでき、免疫学的に均等であるとみなし得る。TCR認識に影響を与えないがMHCとの結合の安定性を改善させる残基において、提示されたペプチドと異なるアミノ酸配列を有するペプチドは、抗原ペプチドの免疫原性を改善させる場合があり、本明細書中で「最適化ペプチド」と呼び得る。これらの残基のうちのどれが、MHCまたはTCRのどちらかとの結合に影響を与えやすい可能性があるかに関する既存の知識を使用して、実質的に対応するペプチドを設計するための合理的な手法を用い得る。生じる機能的なペプチドは抗原ペプチドとして企図される。
【0085】
抗原ペプチドは、MHCによって提示された場合、T細胞受容体によって認識可能なはずである。好ましくは、抗原ペプチドは、T細胞受容体によって認識された場合、適切な共刺激シグナルの存在下で、抗原ペプチドを特異的に認識するT細胞受容体を保有するT細胞のクローン増殖を誘導することができる。好ましくは、抗原ペプチドは、特にMHC分子のとの関連において提示された場合、それらが由来する抗原、または抗原の発現によって特徴づけられる、好ましくは抗原の提示によって特徴づけられる細胞に対する免疫応答、好ましくは細胞性応答を刺激することができる。好ましくは、抗原ペプチドは、クラスI MHCを用いた抗原の提示によって特徴づけられる細胞に対する細胞性応答を刺激することができ、好ましくは抗原応答性CTLを刺激することができる。そのような細胞は、好ましくは標的細胞である。
【0086】
「抗原プロセッシング」または「プロセッシング」とは、ポリペプチドまたは抗原の、前記ポリペプチドまたは抗原の断片のプロセッシング産物への分解(たとえばポリペプチドのペプチドへの分解)、および、細胞、好ましくは抗原提示細胞による、特異的T細胞に対する提示のための、これらの断片のうちの1つまたは複数とMHC分子との会合(たとえば結合による)をいう。
【0087】
「抗原提示細胞」(APC)とは、その細胞表面上にMHC分子と会合したタンパク質抗原のペプチド断片を提示する細胞である。一部のAPCは抗原特異的T細胞を活性化し得る。
【0088】
プロフェッショナル抗原提示細胞は、貪食または受容体媒介エンドサイトーシスのどちらかによって抗原を内部移行し、その後、クラスII MHC分子と結合した抗原の断片をその膜上に表示することに、非常に効率的である。T細胞は抗原提示細胞の膜上の抗原-クラスII MHC分子複合体を認識してそれと相互作用する。その後、さらなる共刺激シグナルが抗原提示細胞によって生成され、T細胞の活性化をもたらす。共刺激分子の発現はプロフェッショナル抗原提示細胞の決定的な特長である。
【0089】
プロフェッショナル抗原提示細胞の主な種類は、最も広範囲の抗原提示を有しており恐らく最も重要な抗原提示細胞である樹状細胞、マクロファージ、B-細胞、および特定の活性上皮細胞。
【0090】
樹状細胞(DC)とは、末梢組織中で捕捉された抗原を、MHCクラスIIおよびIの抗原提示経路の両方によってT細胞に提示する白血球集団である。樹状細胞が免疫応答の強力な誘導因子であり、これらの細胞の活性化が抗腫瘍免疫の誘導の重要なステップであることは周知である。
【0091】
樹状細胞は「未成熟」および「成熟」細胞へと都合よく分類され、これは2つの十分に特徴づけられる表現型間を区別するための簡単な方法として使用することができる。しかし、この命名法は分化のすべての可能な中間段階を排除すると解釈されるべきでない。
【0092】
未成熟樹状細胞は抗原の取り込みおよびプロセッシングの高い能力を有する抗原提示細胞として特徴づけられ、これはFcγ受容体およびマンノース受容体の高い発現に相関している。成熟表現型は、典型的には、これらのマーカーの発現はより低いが、クラスIおよびクラスII MHC、接着分子(たとえば、CD54およびCD11)ならびに共刺激分子(たとえば、CD40、CD80、CD86および4-1BB)などのT細胞活性化を司っている細胞表面分子の発現が高いことによって特徴づけられる。
【0093】
樹状細胞の成熟は、そのような抗原提示樹状細胞がT細胞の初回刺激をもたらす樹状細胞活性化の状態をいう一方で、未成熟樹状細胞による提示は寛容をもたらす。樹状細胞の成熟は、生得的受容体によって検出された微生物特長を有する生体分子(細菌DNA、ウイルスRNA、内毒素など)、炎症誘発性サイトカイン(TNF、IL-1、IFN)、CD40Lによる樹状細胞表面上のCD40のライゲーション、およびストレス性の細胞死を経験している細胞から放出された物質によって主に引き起こされる。樹状細胞は、骨髄細胞をインビトロで顆粒球-マクロファージコロニー-刺激因子(GM-CSF)および腫瘍壊死因子アルファなどのサイトカインと共に培養することによって誘導することができる。
【0094】
非プロフェッショナル抗原提示細胞は、ナイーブT細胞との相互作用に必要なMHCクラスIIタンパク質を構成的に発現しない。これらは、IFNγなどの特定のサイトカインによる非プロフェッショナル抗原提示細胞の刺激の際にのみ発現される。
【0095】
「抗原提示細胞」は、細胞に、ペプチドまたは提示するペプチドを含むポリペプチドをコードしている核酸、好ましくはRNA、たとえば抗原をコードしている核酸を形質導入することによって、MHCクラスIに提示されるペプチドをロードすることができる。
【0096】
一部の実施形態では、樹状細胞または他の抗原提示細胞を標的とする遺伝子送達ビヒクルを含む本発明の医薬組成物を患者に投与して、インビボで起こる形質移入をもたらし得る。たとえば、樹状細胞のインビボ形質移入は、一般に、WO 97/24447号に記載のもの、またはMahviら、Immunology and cell Biology 75:456~460頁、1997によって記載されている遺伝子銃手法などの、当技術分野で知られている任意の方法を使用して行い得る。
【0097】
本発明によれば、用語「抗原提示細胞」には標的細胞も含まれる。
【0098】
「標的細胞」とは、細胞性免疫応答などの免疫応答の標的である細胞を意味するものとする。標的細胞には、抗原または抗原エピトープ、すなわち抗原に由来するペプチド断片を提示する細胞が含まれ、癌細胞などのすべての望ましくない細胞が含まれる。好ましい実施形態では、標的細胞とは、本明細書中に記載の抗原を発現しており、好ましくはクラスI MHCを用いて前記抗原を提示している細胞である。
【0099】
用語「エピトープ」とは、抗原などの分子中の抗原決定基、すなわち、特にMHC分子との関連において提示された場合に、免疫系によって認識される、たとえばT細胞によって認識される分子中の一部またはその断片をいう。腫瘍抗原などのタンパク質のエピトープは、好ましくは前記タンパク質の連続的または不連続的な一部分を含み、好ましくは5~100、好ましくは5~50、より好ましくは8~30、最も好ましくは10~25個のアミノ酸の長さである。たとえば、エピトープは、好ましくは9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25個のアミノ酸の長さであり得る。本発明との関連におけるエピトープはT細胞エピトープであることが特に好ましい。
【0100】
本発明によれば、エピトープは細胞の表面上のMHC分子などのMHC分子と結合してよく、したがって「MHC結合ペプチド」または「抗原ペプチド」であり得る。用語「MHC結合ペプチド」は、MHCクラスIおよび/またはMHCクラスII分子と結合するペプチドに関する。クラスI MHC/ペプチド複合体の場合、結合ペプチドは典型的には8~10個のアミノ酸の長さであるが、より長いまたは短いペプチドが有効であり得る。クラスII MHC/ペプチド複合体の場合、結合ペプチドは典型的には10~25個のアミノ酸の長さ、特に13~18個のアミノ酸の長さである一方で、より長いまたは短いペプチドが有効であり得る。
【0101】
用語「エピトープ」、「抗原ペプチド」、「抗原エピトープ」、「免疫原性ペプチド」および「MHC結合ペプチド」は本明細書中で互換性があるように使用され、好ましくは抗原または抗原を発現するもしくは含む、好ましくは提示する細胞に対する免疫応答を誘発することができる、抗原の不完全な提示に好ましくは関する。
【0102】
好ましくは、この用語は抗原の免疫原性部分に関する。好ましくは、これは、特にMHC分子との関連において提示された場合に、T細胞受容体によって認識される(すなわち特異的に結合される)抗原の一部分である。好ましいそのような免疫原性部分はMHCクラスIまたはクラスII分子と結合する。本明細書中で使用する免疫原性部分は、当技術分野で知られている任意のアッセイを使用してそのような結合が検出可能な場合に、MHCクラスIまたはクラスII分子と「結合する」といわれる。
【0103】
本明細書中で使用する用語「ネオエピトープ」とは、正常な非癌細胞または生殖系列細胞などの参照中には存在しないが、癌細胞中に見つかるエピトープをいう。これには、特に、正常な非癌細胞または生殖系列細胞中に対応するエピトープが見つかるが、癌細胞中の1つまたは複数の突然変異が原因でエピトープの配列が変化することよってネオエピトープを生じるような状況が含まれる。
【0104】
用語「一部分」とは画分をいう。アミノ酸配列またはタンパク質などの特定の構造に関して、用語、その「一部分」は、前記構造の連続的または不連続的な画分を指定し得る。好ましくは、アミノ酸配列の一部分は、前記アミノ酸配列のアミノ酸のうちの少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、さらにより好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%を含む。好ましくは、一部分が不連続的な画分である場合、前記不連続的な画分は構造の2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、またはそれより多くの部分から構成され、それぞれの部分は構造の連続的な要素である。たとえば、アミノ酸配列の不連続的な画分は、前記アミノ酸配列の2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、またはそれより多く、好ましくは4個以下の部分から構成されていてよく、それぞれの部分は、好ましくはアミノ酸配列の少なくとも5個の連続的なアミノ酸、少なくとも10個の連続的なアミノ酸、好ましくは少なくとも20個の連続的なアミノ酸、好ましくは少なくとも30個の連続的なアミノ酸を含む。
【0105】
用語「部分」および「断片」は本明細書中で互換性があるように使用され、連続的な要素をいう。たとえば、アミノ酸配列またはタンパク質などの構造の一部とは、前記構造の連続的な要素をいう。構造の一部分、一部または断片は、好ましくは前記構造の1つまたは複数の機能的特性を含む。たとえば、エピトープ、ペプチドまたはタンパク質の一部分、一部または断片は、好ましくはそれが由来するエピトープ、ペプチドまたはタンパク質に免疫学的に均等である。本発明との関連において、アミノ酸配列などの構造の「一部」は、構造またはアミノ酸配列全体の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも96%、少なくとも98%、少なくとも99%を好ましくは含み、好ましくはそれからなる。
【0106】
本発明との関連における用語「免疫反応性細胞」とは、免疫反応中にエフェクター機能を発揮する細胞に関する。「免疫反応性細胞」は、好ましくは、抗原または抗原の提示によって特徴づけられる細胞または抗原に由来する抗原ペプチドと結合し、免疫応答を媒介することができる。たとえば、そのような細胞は、サイトカインおよび/またはケモカインを分泌し、抗体を分泌し、癌細胞を認識し、任意選択でそのような細胞を排除する。たとえば、免疫反応性細胞は、T細胞(細胞毒性T細胞、ヘルパーT細胞、腫瘍浸潤性T細胞)、B細胞、ナチュラルキラー細胞、好中球、マクロファージ、および樹状細胞を含む。好ましくは、本発明のとの関連において、「免疫反応性細胞」はT細胞、好ましくはCD4+および/またはCD8+T細胞である。
【0107】
好ましくは、「免疫反応性細胞」は、特にMHC分子のコンテキストで抗原提示細胞または癌細胞などの疾患細胞の表面上などに提示された場合に、抗原または抗原に由来する抗原ペプチドをある程度の特異性で認識する。好ましくは、前記認識は、抗原または前記抗原に由来する抗原ペプチドを認識する細胞が応答性または反応性となることを可能にする。細胞が、MHCクラスII分子のコンテキストにおいて抗原または抗原に由来する抗原ペプチドを認識する受容体を保有するヘルパーT細胞(CD4+T細胞)である場合、そのような応答性または反応性は、サイトカインの放出ならびに/またはCD8+リンパ球(CTL)および/もしくはB細胞の活性化を含み得る。細胞がCTLである場合、そのような応答性または反応性は、たとえばアポトーシスまたはパーフォリン媒介性細胞溶解による、MHCクラスI分子のコンテキストにおいて提示された細胞、すなわちクラスI MHCを用いた抗原の提示によって特徴づけられる細胞の排除を含み得る。本発明によれば、CTL応答性には、持続的なカルシウム流、細胞分裂、IFN-γおよびTNF-αなどのサイトカインの産生、CD44およびCD69などの活性化マーカーの上方制御、ならびに抗原発現標的細胞の特異的細胞溶解性死滅が含まれ得る。また、CTL応答性は、CTL応答性を正確に示す人工レポーターを使用しても決定し得る。抗原または抗原に由来する抗原ペプチドを認識し、応答性または反応性であるようなCTLは、本明細書中で「抗原応答性CTL」とも呼ばれる。細胞がB細胞である場合、そのような応答性は免疫グロブリンの放出を含み得る。
【0108】
用語「T細胞」および「Tリンパ球」は、本明細書中で互換性があるように使用され、Tヘルパー細胞(CD4+T細胞)および細胞溶解性T細胞を含む細胞毒性T細胞(CTL、CD8+T細胞)が含まれる。
【0109】
T細胞はリンパ球として知られる白血球の群に属しており、細胞媒介性免疫において中心的な役割を果たす。これらは、T細胞受容体(TCR)と呼ばれる特別な受容体がその細胞表面上に存在することによって、B細胞およびナチュラルキラー細胞などの他のリンパ球種から識別することができる。胸腺はT細胞の成熟を司っている主要な器官である。T細胞のいくつかの異なる部分組が発見されており、それぞれが明白に異なる機能を有する。
【0110】
Tヘルパー細胞は、他の機能のなかでとりわけB細胞の形質細胞への成熟ならびに細胞毒性T細胞およびマクロファージの活性化を含めた免疫プロセスにおいて、他の白血球を援助する。これらの細胞は、その表面上にCD4タンパク質を発現するため、CD4+T細胞としても知られる。ヘルパーT細胞は、抗原提示細胞(APC)の表面上に発現されるMHCクラスII分子によってペプチド抗原が提示された際に活性化される。活性化された後、これらは迅速に分裂し、活性免疫応答を調節または援助するサイトカインと呼ばれる小タンパク質を分泌する。
【0111】
細胞毒性T細胞はウイルス感染細胞および腫瘍細胞を破壊し、また移植片拒絶にも関連づけられている。これらの細胞は、その表面上にCD8糖タンパク質を発現するため、CD8+T細胞としても知られる。これらの細胞は、身体のほぼすべての細胞の表面上に存在するMHCクラスIと会合した抗原と結合することによって、その標的を認識する。
【0112】
大多数のT細胞では、T細胞受容体(TCR)がいくつかのタンパク質の複合体として存在する。実際のT細胞受容体は、独立したT細胞受容体アルファおよびベータ(TCRαおよびTCRβ)遺伝子から産生される2つの別々のペプチド鎖から構成されており、α-およびβ-TCR鎖と呼ばれている。γδT細胞(ガンマデルタT細胞)は、その表面上に明白に異なるT細胞受容体(TCR)を保有するT細胞の小さな部分組を表す。しかし、γδT細胞中では、TCRは1本のγ-鎖および1本のδ-鎖からなっている。このT細胞の群はαβT細胞よりもはるかに稀である(全T細胞の2%)。
【0113】
T細胞の活性化における最初のシグナルは、T細胞受容体と別の細胞上の主要組織適合複合体(MHC)によって提示された短いペプチドとの結合によって提供される。これは、そのペプチドに特異的なTCRを有するT細胞のみが活性化されることを確実にする。パートナー細胞は、通常はプロフェッショナル抗原提示細胞(APC)であり、ナイーブ応答の場合は通常は樹状細胞であるが、B細胞およびマクロファージが重要なAPCである場合がある。MHCクラスI分子によってCD8+T細胞に提示されるペプチドは、典型的には8~10個のアミノ酸の長さである。MHCクラスII分子の結合間隙の末端は開いているため、MHCクラスII分子によってCD4+T細胞に提示されるペプチドは、典型的にはより長い。
【0114】
本発明によれば、T細胞受容体は、標準のアッセイにおいて事前に決定された標的に対して有意な親和性を有しており、前記事前に決定された標的と結合する場合に、前記事前に決定された標的と結合することができる。「親和性」または「結合親和性」は多くの場合、平衡解離定数(KD)によって測定する。T細胞受容体は、標準のアッセイにおいて標的に対して有意な親和性を有しておらず、前記標的と有意に結合しない場合に、前記標的と(実質的に)結合することができない。
【0115】
T細胞受容体は、好ましくは事前に決定された標的と特異的に結合することができる。T細胞受容体は、事前に決定された標的と結合することができる一方で、他の標的と(実質的に)結合することができない、すなわち、標準のアッセイにおいて他の標的に対して有意な親和性を有しておらず、他の標的と有意に結合しない場合に、前記事前に決定された標的に特異的である。
【0116】
細胞毒性Tリンパ球は、抗原または抗原ペプチドを抗原提示細胞内にインビボで取り込ませることによって、インビボで産生し得る。抗原または抗原ペプチドはタンパク質として、DNA(たとえばベクター内)として、またはRNAとして表し得る。抗原はプロセッシングされてMHC分子のペプチドパートナーを生じ得る一方で、その断片はさらなるプロセッシングを必要とせずに提示され得る。特にこれらがMHC分子と結合できる場合は後者の状況である。一般に、皮内注射による患者への投与が可能である。しかし、リンパ節内への結節内注射も実施し得る(Maloyら(2001)、Proc Natl Acad Sci USA 98:3299~303頁)。生じる細胞は目的の複合体を提示し、自己細胞毒性Tリンパ球によって認識され、これはその後に増殖する。
【0117】
CD4+またはCD8+T細胞の特異的活性化は様々な方法で検出し得る。特異的T細胞活性化を検出する方法には、T細胞の増殖、サイトカイン(たとえばリンホカイン)の産生、または細胞溶解活性の発生を検出することが含まれる。CD4+T細胞では、特異的T細胞活性化を検出する好ましい方法はT細胞の増殖の検出である。CD8+T細胞では、特異的T細胞活性化を検出する好ましい方法は細胞溶解活性の発生の検出である。
【0118】
用語「主要組織適合複合体」および略記「MHC」にはMHCクラスIおよびMHCクラスII分子が含まれ、すべての脊椎動物中に存在する遺伝子の複合体に関する。MHCタンパク質または分子は、免疫反応においてリンパ球と抗原提示細胞または疾患細胞との間のシグナル伝達に重要であり、MHCタンパク質または分子はペプチドと結合し、それらをT細胞受容体による認識のために提示する。MHCによってコードされているタンパク質は細胞の表面上に発現され、自己抗原(細胞自体からのペプチド断片)および非自己抗原(たとえば侵入微生物の断片)をどちらもT細胞に表示する。
【0119】
MHC領域はクラスI、クラスII、およびクラスIIIの3つの亜群に分けられる。MHCクラスIタンパク質はα-鎖およびβ2-ミクログロブリン(15番染色体によってコードされているMHCの一部ではない)を含有する。これらは抗原断片を細胞毒性T細胞に提示する。ほとんどの免疫系細胞、具体的には抗原提示細胞上で、MHCクラスIIタンパク質はα-およびβ-鎖を含有し、抗原断片をT-ヘルパー細胞に提示する。MHCクラスIII領域は、補体成分などの他の免疫構成要素およびサイトカインをコードしている一部のものをコードしている。
【0120】
ヒトでは、細胞表面上の抗原提示タンパク質をコードしているMHC領域中の遺伝子はヒト白血球抗原(HLA)遺伝子と呼ばれる。しかし、略記MHCは多くの場合、HLA遺伝子産物をいうために使用される。HLA遺伝子には9つのいわゆる古典的MHC遺伝子、すなわち、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DQA1、HLA-DQB1、HLA-DRA、およびHLA-DRB1が含まれる。
【0121】
本発明のすべての態様の好ましい一実施形態では、MHC分子はHLA分子である。
【0122】
「抗原の提示によって特徴づけられる細胞」もしくは「抗原を提示する細胞」または同様の表現とは、MHC分子、特にMHCクラスI分子のコンテキストにおいて、それが発現する抗原または前記抗原に由来する断片を、たとえば抗原のプロセッシングによって提示する疾患細胞、たとえば癌細胞、または抗原提示細胞などの細胞を意味する。同様に、用語「抗原の提示によって特徴づけられる疾患」とは、特にクラスI MHCを用いた抗原の提示によって特徴づけられる細胞を含む疾患を示す。細胞による抗原の提示は、細胞に、抗原をコードしているRNAなどの核酸を形質移入させることによって達成し得る。
【0123】
「提示されている抗原の断片」または同様の表現とは、たとえば抗原提示細胞に直接加えた場合に、MHCクラスIまたはクラスII、好ましくはMHCクラスIによって提示され得る断片を意味する。一実施形態では、断片は、抗原を発現する細胞によって天然に提示される断片である。
【0124】
用語「免疫学的に均等」とは、免疫学的に均等なアミノ酸配列などの免疫学的に均等な分子が、たとえば液性および/もしくは細胞性免疫応答の誘導などの免疫学的効果の種類、誘導された免疫反応の強度および/もしくは持続期間、または誘導された免疫反応の特異性に関して、同じもしくは本質的に同じ免疫学的特性を示すおよび/または同じもしくは本質的に同じ免疫学的効果を発揮することを意味する。本発明のコンテキストにおいて、用語「免疫学的に均等」は、好ましくは、免疫化に使用するペプチドの免疫学的効果または特性に関して使用する。たとえば、アミノ酸配列が対象の免疫系に曝された際に参照アミノ酸配列と反応する特異性を有する免疫反応を誘導する場合に、前記アミノ酸配列は参照アミノ酸配列に免疫学的に均等である。
【0125】
本発明のコンテキストにおける用語「免疫エフェクター機能」には、たとえば腫瘍細胞の死滅、または腫瘍の内転移および転移の阻害を含めた腫瘍成長の阻害および/もしくは腫瘍発生の阻害をもたらす、免疫系の構成要素によって媒介される任意の機能が含まれる。好ましくは、本発明のコンテキストにおける免疫エフェクター機能はT細胞に媒介されるエフェクター機能である。そのような機能は、ヘルパーT細胞(CD4+T細胞)の場合は、MHCクラスII分子のコンテキストにおけるT細胞受容体による抗原または抗原に由来する抗原ペプチドの認識、サイトカインの放出ならびに/またはCD8+リンパ球(CTL)および/もしくはB細胞の活性化、CTLの場合は、MHCクラスI分子のコンテキストにおけるT細胞受容体による抗原または抗原に由来する抗原ペプチドの認識、たとえばアポトーシスまたはパーフォリン媒介性細胞溶解による、MHCクラスI分子のコンテキストにおいて提示された細胞、すなわちクラスI MHCを用いた抗原の提示によって特徴づけられる細胞の排除、IFN-γおよびTNF-αなどのサイトカインの産生、ならびに抗原発現標的細胞の特異的細胞溶解性死滅を含む。
【0126】
用語「ゲノム」とは、生物または細胞の染色体中の遺伝情報の総量に関する。用語「エクソーム」とは、ゲノムのコード領域をいう。用語「トランスクリプトーム」とは、すべてのRNA分子の組に関する。
【0127】
本発明によれば、「核酸」とは、好ましくはデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)、より好ましくはRNA、最も好ましくはインビトロ転写RNA(IVT RNA)または合成RNAである。本発明によれば、核酸にはゲノムDNA、cDNA、mRNA、組換え産生および化学合成の分子が含まれる。本発明によれば、核酸は一本鎖または二本鎖の直鎖状または共有結合の環状閉鎖分子として存在し得る。本発明によれば、核酸は単離することができる。本発明によれば、用語「単離した核酸」とは、核酸が、(i)インビトロ、たとえばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅された、(ii)クローニングによって組換え産生された、(iii)たとえば切断およびゲル電気泳動による分離によって精製された、または(iv)たとえば化学合成によって合成されたことを意味する。核酸(nucleic)は細胞内への導入、すなわち形質移入のために、特にDNA鋳型からのインビトロ転写によって調製することができるRNAの形態で用いることができる。RNAは、施用前に配列の安定化、キャッピング、およびポリアデニル化によってさらに修飾することができる。
【0128】
用語「遺伝物質」とは、DNAもしくはRNAのどちらかの単離した核酸、二重らせんの一区間、染色体の一区間、または生物もしくは細胞のゲノム全体、特にそのエクソームもしくはトランスクリプトームをいう。
【0129】
用語「突然変異」とは、参照と比較した核酸配列の変化または相違(ヌクレオチドの置換、付加または欠失)をいう。「体細胞突然変異」は生殖細胞(精子および卵子)以外の身体の細胞のうちの任意のもので起こる場合があり、したがって子供には伝わらない。これらの変更は(必ずしもではないが)癌または他の疾患を引き起こす場合がある。好ましくは、突然変異は非同義突然変異である。用語「非同義突然変異」とは、翻訳産物中のアミノ酸置換などのアミノ酸変化をもたらす突然変異、好ましくはヌクレオチド置換をいう。
【0130】
本発明によれば、用語「突然変異」には点突然変異、インデル、融合、クロモスリプシスおよびRNA編集が含まれる。
【0131】
本発明によれば、用語「インデル」とは、共存する挿入および欠失ならびにヌクレオチドの正味増加または減少をもたらす突然変異として定義される、特別な突然変異クラスを説明する。ゲノムのコード領域では、インデルの長さが3の倍数でない限り、これらはフレームシフト突然変異を生じる。インデルは点突然変異と対照させることができる。インデルが配列からヌクレオチドを挿入および欠失させる場合には、点突然変異はヌクレオチドのうちの1つを置き換える置換の一形態である。
【0132】
融合は、2つの以前は別々の遺伝子から形成されたハイブリッド遺伝子を生じることができる。これは転座、中間部欠失、または染色体逆位の結果として生じることができる。多くの場合、融合遺伝子は癌遺伝子である。発癌性融合遺伝子は、新しいまたは2つの融合パートナーからの異なる機能を有する遺伝子産物をもたらし得る。あるいは、原癌遺伝子は強力なプロモーターと融合しており、したがって、発癌性機能は上流融合パートナーの強力なプロモーターによって引き起こされる上方制御によって機能し始める。また、発癌性融合転写物は、トランス-スプライシングまたはリードスルー事象によっても引き起こされ得る。
【0133】
本発明によれば、用語「クロモスリプシス」とは、単一の破壊事象によってゲノムの特異的領域が砕かれ、その後に縫合される遺伝的現象をいう。
【0134】
本発明によれば、用語「RNA編集」または「RNA編集する」とは、塩基構成中の化学的変化によってRNA分子中の情報内容が変更される分子プロセスをいう。RNA編集には、シチジン(C)からウリジン(U)およびアデノシン(A)からイノシン(I)などのヌクレオシド改変、脱アミノ化、ならびに非鋳型のヌクレオチド付加および挿入が含まれる。mRNAのRNA編集は、ゲノムDNA配列によって予測されているものと異なるように、コードされているタンパク質のアミノ酸配列を有効に変更する。
【0135】
用語「癌突然変異シグネチャ」とは、非癌性の参照細胞と比較した場合に癌細胞中に存在する一組の突然変異をいう。
【0136】
本発明によれば、「参照」は、腫瘍検体から本発明の方法で得られた結果を相関および比較するために使用し得る。典型的には、「参照」は、患者または1つもしくは複数の異なる個体、好ましくは健康な個体、特に同じ種の個体のどちらかから得られた、1つまたは複数の正常検体、特に癌疾患によって影響を受けていない検体に基づいて入手し得る。「参照」は、十分に多数の正常検体を試験することによって経験的に決定することができる。
【0137】
任意の適切なシーケンシング方法を本発明に従って使用することができ、次世代シーケンシング(NGS)技術が好ましい。方法のシーケンシングステップの速度を上げるために、将来は第三世代シーケンシング方法がNGS技術を置き換える可能性がある。明確にする目的のために、本発明のコンテキストにおける用語「次世代シーケンシング」または「NGS」とは、ゲノム全体を小片に切断することによって核酸鋳型をゲノム全体に沿ってランダムに並行して読み取る、サンガー化学として知られる「従来の」シーケンシング方法とは対照的に、すべての新規高スループットシーケンシング技術を意味する。そのようなNGS技術(超並列シーケンシング技術としても知られる)は、全ゲノム、エクソーム、トランスクリプトーム(ゲノムのすべての転写された配列)またはメチローム(ゲノムのすべてのメチル化された配列)の核酸配列情報を非常に短期間、たとえば、1~2週間以内、好ましくは1~7日間以内、または最も好ましくは24時間未満以内に送達することができ、原理上は単一細胞シーケンシング手法を可能にする。市販されているまたは文献中たとえば、Zhangら、2011: The impact of next-generation sequencing on genomics. J. Genet Genomics 38(3)、95~109頁またはVoelkerdingら、2009: Next generation sequencing: From basic research to diagnostics. Clinical chemistry 55、641~658頁に詳述されているものに言及されている複数のNGSプラットフォームを、本発明のコンテキストにおいて使用することができる。そのようなNGS技術/プラットフォームの非限定的な例は以下のとおりである。
1)たとえば、最初にRonaghiら、1998: A sequencing method based on real-time pyrophosphate. Science 281(5375)、363~365頁に記載されている、Roche関連会社454 Life Sciences(コネチカット州Branford)のGS-FLX 454 Genome Sequencer(商標)で実装されるパイロシーケンシングとして知られる合成技術によるシーケンシング。この技術は、エマルジョンPCR増幅のために油に取り囲まれたPCR反応物質を含有する水性ミセル中で激しく渦撹拌することによって一本鎖DNA結合ビーズがカプセル封入される、エマルジョンPCRを使用する。パイロシーケンシング工程中、ポリメラーゼがDNA鎖を合成する際にヌクレオチドの取り込み中にリン酸分子から放出される光が記録される。
2)可逆的色素-ターミネーターに基づいており、たとえばIllumina/Solexa Genome Analyzer(商標)およびIllumina HiSeq 2000 Genome Analyzer(商標)で実装されているSolexa(現在はIllumina Inc.の一部、カリフォルニア州San Diego)によって開発された、合成手法によるシーケンシング。この技術では、4つすべてのヌクレオチドを同時に、DNAポリメラーゼと共にフローセルチャネル中のオリゴ初回刺激したクラスター断片に加える。架橋増幅によりシーケンシングのために4つすべての蛍光標識ヌクレオチドを有するクラスター鎖を伸長させる。
3)たとえばApplied Biosystems(現在はLife Technologies Corporation、カリフォルニア州Carlsbad)のSOLid(商標)プラットフォームで実装されている、ライゲーション手法によるシーケンシング。この技術では、固定長のすべての可能なオリゴヌクレオチドのプールを、シーケンシングした位置に従って標識する。オリゴヌクレオチドがアニーリングおよびライゲーションされ、DNAリガーゼによる一致した配列の優先的なライゲーションは、その位置でのヌクレオチドの情報を与えるシグナルをもたらす。シーケンシングの前に、DNAをエマルジョンPCRによって増幅する。それぞれ同じDNA分子のコピーしか含有しない、生じるビーズをスライドガラス上に載せる。2つ目の例として、Dover Systems(ニューハンプシャー州Salem)のPolonator(商標)G.007プラットフォームも、ランダムにアレイ配置したビーズに基づくエマルジョンPCRを使用して、並列シーケンシングのためにDNA断片を増幅することによって、ライゲーション手法によるシーケンシングを用いる。
4)たとえば、Pacific Biosciences(カリフォルニア州Menlo Park)のPacBio RSシステムまたはHelicos Biosciences(マサチューセッツ州Cambridge)のHeliScope(商標)プラットフォームで実装されている単一分子シーケンシング技術。この技術の明確な特徴は、単一分子リアルタイム(SMRT)DNAシーケンシングと定義される、単一のDNAまたはRNA分子を増幅なしにシーケンシングするその能力である。たとえば、HeliScopeは、それぞれのヌクレオチドが合成されていく最中にそれを直接検出するために、高感度の蛍光検出システムを使用する。蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に基づく同様の手法がVisigen Biotechnology(テキサス州Houston)から開発されている。他の蛍光に基づく単一分子技法は、U.S.Genomics(GeneEngine(商標))およびGenovoxx(AnyGene(商標))からのものである。
5)たとえば複製中に単一鎖上のポリメラーゼ分子の動きを監視するためにチップ上に配置されている様々なナノ構造を使用する、単一分子シーケンシングのためのナノ技術。ナノ技術に基づく手法の非限定的な例は、Oxford Nanopore Technologies(英国Oxford)のGridON(商標)プラットフォーム、Nabsys(ロードアイランド州Providence)によって開発されたハイブリダイゼーション支援のナノポアシーケンシング(HANS(商標))プラットフォーム、およびコンビナトリアルプローブアンカーライゲーション(cPAL(商標))と呼ばれるDNAナノボール(DNB)技術を用いた商標を有するリガーゼに基づくDNAシーケンシングプラットフォームである。
6)単一分子シーケンシングのための電子顕微鏡観察に基づく技術、たとえばLightSpeed Genomics(カリフォルニア州Sunnyvale)およびHalcyon Molecular(カリフォルニア州Redwood City)によって開発されたもの。
7)DNAの重合中に放出される水素イオンの検出に基づくイオン半導体シーケンシング。たとえば、Ion Torrent Systems(カリフォルニア州San Francisco)は、この生化学的プロセスを超並列の様式で行うために微小測定ウェルの高密度アレイを使用する。それぞれのウェルは異なるDNA鋳型を有する。ウェルの下にイオン感受性層があり、その下に商標を有するイオンセンサーがある。
【0138】
好ましくは、DNAおよびRNA調製物はNGSの出発物質として役割を果たす。そのような核酸は、生体物質などの試料から、たとえば、新鮮な、フラッシュ凍結したもしくはホルマリン固定したパラフィン包埋腫瘍組織(FFPE)からまたは新たに単離した細胞からまたは患者の末梢血中に存在するCTCから、容易に得ることができる。正常な突然変異していないゲノムDNAまたはRNAは正常な体性組織から抽出することができるが、本発明のコンテキストにおいては生殖系列細胞が好ましい。生殖系列DNAまたはRNAを、非血液学的悪性腫瘍に罹患している患者における末梢血単核細胞(PBMC)から抽出する。FFPE組織または新鮮に単離した単一細胞から抽出した核酸は非常に断片化されているが、これらはNGSの応用には適している。
【0139】
エクソームシーケンシングのためのいくつかの標的NGS方法が文献(総説には、たとえばTeerおよびMullikin 2010: Human Mol Genet 19(2)、R145~51頁を参照)に記載されており、これらのすべてを本発明と併せて使用することができる。これらの方法の多く(たとえばゲノム捕捉、ゲノム分配、ゲノム濃縮などとして記載)はハイブリダイゼーション技法を使用し、アレイに基づく(たとえばHodgesら、2007: Nat. Genet. 39、1522~1527頁)および液体に基づく(たとえばChoiら、2009: Proc. Natl. Acad. Sci USA 106、19096~19101頁)ハイブリダイゼーション手法が含まれる。また、DNA試料の調製および続くエクソームの捕捉のための市販のキットも入手可能であり、たとえば、Illumina Inc.(カリフォルニア州San Diego)は、TruSeq(商標)DNA試料の調製キット(DNA Sample Preparation Kit)およびTruSeq(商標)エクソーム濃縮キット(Exome Enrichment Kit)を提供している。
【0140】
たとえば腫瘍試料の配列を生殖系列試料の配列などの参照試料の配列と比較する際に癌特異的体細胞突然変異または配列相違の検出において偽陽性の発見数を減らすために、これらの試料種のうちの一方または両方の複製中の配列を決定することが好ましい。したがって、生殖系列試料の配列などの参照試料の配列を2回、3回またはそれより多く決定することが好ましい。あるいはまたはそれに加えて、腫瘍試料の配列を2回、3回またはそれより多く決定する。また、生殖系列試料の配列などの参照試料の配列および/または腫瘍試料の配列はまた、ゲノムDNA中の配列を少なくとも1回決定し、前記参照試料および/または前記腫瘍試料のRNA中の配列を少なくとも1回決定することによって、複数回決定することも可能であり得る。たとえば、生殖系列試料などの参照試料の複製間の変異を決定することによって、予想される体細胞突然変異の偽陽性率(FDR)を統計的量として推定することができる。1つの試料の技術的反復は同一の結果を生じるはずであり、この「対同一物比較」中に検出されたすべての突然変異は偽陽性である。特に、参照試料に対する腫瘍試料における体細胞突然変異検出の偽発見率を決定するために、参照試料の技術的反復を、偽陽性の数を推定するための参照として使用することができる。さらに、様々な品質関連の測定基準(たとえばカバレッジまたはSNP品質)を、機械学習手法を使用して単一の品質スコアへと合わせ得る。所定の体性変異について、上回る品質スコアを有するすべての他の変異を計数してよく、これによりデータセット中のすべての変異の順位づけが可能となる。
【0141】
本発明によれば、高スループット全ゲノム単一細胞遺伝子型決定方法を適用することができる。
【0142】
高スループット全ゲノム単一細胞遺伝子型決定の一実施形態では、Fluidigmプラットフォームを使用し得る。そのような手法は以下のステップを含み得る:
1.所定の患者から腫瘍組織/細胞および健康な組織をサンプリングする。
2.遺伝物質を癌性および健康な細胞から抽出し、その後、標準の次世代シーケンシング(NGS)プロトコルを使用してそのエクソーム(DNA)をシーケンシングする。NGSのカバレッジは、少なくとも5%の頻度を有するヘテロ接合体対立遺伝子を検出することができるようなものである。また、トランスクリプトーム(RNA)も癌細胞から抽出し、cDNAへと変換し、シーケンシングして、どの遺伝子が癌細胞によって発現されるかを決定する。
3.非同義の発現された単一ヌクレオチド変異(SNV)を本明細書中に記載のように同定する。健康な組織中のSNPである部位をフィルタリング除去する。
4.様々な頻度をまたがる、(3)からのN=96個の突然変異を選択する。蛍光(florescence)検出に基づくSNP遺伝子型決定アッセイを設計し、これらの突然変異について合成する(そのようなアッセイの例には、Life TechnologiesによるTaqManに基づくSNPアッセイまたはFluidigmによるSNP型アッセイが含まれる)。アッセイには、所定のSNVを含有する単位複製配列(これはTaqManおよびSNP型アッセイにおける標準である)を増幅するための特異的標的増幅(STA)プライマーが含まれる。
5.レーザー顕微解剖(LMD)または単一細胞懸濁液への脱凝集のどちらかによって個々の細胞を腫瘍および健康な組織から単離し、次いで以前に記載されているように(Dalerba P.ら(2011) Nature Biotechnology 29:1120~1127頁)選別する。細胞を事前選択なしで(すなわち不偏的に)選択することができるか、あるいは癌細胞を濃縮することができる。濃縮方法には、特異的染色、細胞の大きさによる選別、LMD中の組織学的検査などが含まれる。
6.個々の細胞を、マスターミックスおよびSTAプライマーを含有するPCR管中で単離し、SNVを含有する単位複製配列を増幅する。あるいは、単一細胞のゲノムを、以前に記載の(Frumkin D.ら(2008) Cancer Research 68:5924)全ゲノム増幅(WGA)によって増幅する。細胞溶解は、95℃の加熱ステップまたは専用の溶解緩衝液のどちらかによって達成する。
7.STAで増幅した試料を希釈し、Fluidigm遺伝子型決定アレイ上にロードする。
8.健康な組織からの試料を陽性対照として使用して、ホモ接合体対立遺伝子クラスター(突然変異なし)を決定する。NGSデータはホモ接合体突然変異が非常に稀であることを示しているため、典型的には2つのクラスターのみ、すなわちXXおよびXYが予測され、X=健康である。
9.実行することができるアレイの数が制限されず、実際には約1000個までの単一細胞をアッセイすることが可能となる(約10個のアレイ)。384プレートで行った場合は、試料の調製を数日間まで短縮することができる。
10.その後、それぞれの細胞のSNVを決定する。
【0143】
高スループット全ゲノム単一細胞遺伝子型決定の別の実施形態では、NGSプラットフォームを使用し得る。そのような手法は以下のステップを含み得る:
1.上記ステップ1~6は、N(アッセイしたSNVの数)が96よりもはるかに大きいことができる以外は同一である。WGAの場合、数サイクルのSTAをその後に行う。STAプライマーはそれぞれのプライマー上に2つの普遍的タグ配列を含有する。
2.STAの後、バーコードプライマーを単位複製配列へとPCR増幅する。バーコードプライマーは固有のバーコード配列および上記普遍的タグ配列を含有する。したがって、それぞれの細胞は固有のバーコードを含有する。
3.すべての細胞からの単位複製配列を混合し、NGSによってシーケンシングする。多重化することができる細胞数の実用的な制限は、調製することができるプレートの数である。試料を384プレート中で調製することができるため、実用的な制限は約5000個の細胞となる。
4.配列データに基づいて、個々の細胞のSNV(または他の構造的異例)を検出する。
【0144】
抗原の優先順位をつけるために、単一細胞遺伝子型決定に基づく腫瘍系統学的再構築(「系統学的な抗原優先順位づけ」)を本発明に従って使用し得る。発現、突然変異の種類(非同義対他のもの)、MHC結合特徴などの基準に基づいた抗原優先順位づけ以外に、腫瘍内および腫瘍間の異種性ならびに生検の偏りに対処するように設計された、優先順位づけのさらなる次元を、たとえば以下に記載のように使用することができる。
【0145】
1.最も豊富な抗原の同定
高スループット全ゲノム単一細胞遺伝子型決定方法と関連した上述の単一細胞アッセイに基づいてそれぞれのSNVの頻度を正確に推定することができ、存在する最も豊富なSNVを、癌の個別化ワクチン(IVAC)を提供するために選択することができる。
【0146】
2.根付き木分析に基づいた一次基底(primary basal)抗原の同定
腫瘍からのNGSデータは、ホモ接合体突然変異(両方の対立遺伝子中でヒット)は稀な事象であることを示唆している。したがって、ハプロタイピングの必要はなく、腫瘍体細胞突然変異の系統樹を単一(singe)細胞SNVデータセットから作成することができる。生殖系列配列を使用して樹を根づかせる。祖先配列を複製するためのアルゴリズムを使用して、樹の根近くの節の配列を複製する。これらの配列は、原発性腫瘍中に存在すると予測される最も初期の突然変異(本明細書中で一次基底突然変異/抗原と定義される)を含有する。2つの突然変異がゲノム上の同じ位置での同じ対立遺伝子で生じる確率は低いため、祖先配列中の突然変異は腫瘍中で固定されていると予測される。
【0147】
一次基底抗原を優先順位づけすることは、生検中の最も頻繁な突然変異を優先順位づけすることと均等ではない(ただし、一次基底突然変異は生検中の最も頻繁なものの1つであると予想される)。その理由は以下のとおりである。2つのSNVが生検に由来するすべての細胞中に存在しているようにみえる(したがって同じ頻度、すなわち100%を有する)が、一方の突然変異は基底であり他方はそうではないと仮定した場合、基底突然変異がIVAC用に選択されるべきである。これは、基底突然変異は腫瘍のすべての領域中に存在する可能性が高い一方で、後者の突然変異は、生検を採取した領域中に偶然に固定された、より最近の突然変異であり得るためである。さらに、基底抗原は原発性腫瘍に由来する転移性腫瘍中に存在する可能性が高い。したがって、IVACのために基底抗原を優先順位づけすることによって、IVACが腫瘍の一部だけでなく腫瘍全体を根絶させることができる可能性を大きく高め得る。
【0148】
二次腫瘍が存在し、これらもサンプリングした場合、すべての腫瘍の進化樹を推定することができる。これは樹の頑健性を改善させる場合があり、すべての腫瘍の基底となる突然変異の検出を可能にする。
【0149】
3.腫瘍に最大限にまたがる抗原の同定
すべての腫瘍部位を最大限に標的とする抗原を得るための別の手法は、腫瘍からいくつかの生検を採取することである。1つの戦略は、NGS分析によってすべての生検中に存在すると同定された抗原を選択することであろう。基底突然変異を同定する確率を改善させるために、すべての生検からの単一細胞突然変異に基づく系統発生分析を行うことができる。
【0150】
転移の場合は、すべての腫瘍からの生検を得ることができ、NGSによって同定されたすべての腫瘍に共通する突然変異を選択することができる。
【0151】
4.CTCを使用した、転移を阻害する抗原の優先順位づけ
転移性腫瘍は単一細胞に由来すると考えられている。したがって、所定の患者の様々な腫瘍から抽出した個々の細胞を遺伝子型決定することと、患者の循環腫瘍細胞(CTC)を遺伝子型決定することとを併せることによって、癌の進化の歴史を再構築することができる。予想は、元の腫瘍から原発性腫瘍に由来するCTCのクレードを介して進化する転移性腫瘍を観察することである。
【0152】
以下(CTCを同定、計数および遺伝子プローブするための不偏的方法)に、CTCの不偏的単離およびゲノム分析のための、上述の高スループット全ゲノム単一細胞遺伝子型決定方法の拡張を記載する。上述の分析を使用して、その後にプライマー腫瘍、CTCおよび転移から生じる二次腫瘍(存在する場合)の系統樹を再構築することができる。この樹に基づいて、CTCが最初に原発性腫瘍から脱離した時点またはその直後に生じた突然変異(パッセンジャーまたはドライバー)を同定することができる。予想は、原発性腫瘍から生じるCTCのゲノムは二次腫瘍ゲノムよりも原発性腫瘍ゲノムに進化的に類似であることである。さらに、原発性腫瘍から生じるCTCのゲノムが、二次腫瘍中に固定されている、または二次腫瘍が将来形成された場合に固定される可能性が高い固有の突然変異を含有することが予想される。これらの固有の突然変異は、転移を標的とする(または防止する)IVACのために優先することができる。
【0153】
CTC突然変異対一次基底突然変異を優先順位づける利点は、CTCに由来する抗原が、転移を特異的に標的とするためにT細胞を動員することができ、したがって、原発性腫瘍を標的とするT細胞とは独立したアームとなる(異なる抗原(antiges)を使用する)ことである。さらに、腫瘍回避の確率(probably)は所定の抗原を保有する癌細胞の数に対応するはずであるため、二次腫瘍が少ない(または存在しない)場合は、CTCに由来する抗原からの免疫回避の可能性はより低いと予想される。
【0154】
5.同じ細胞上に共存する抗原の同定(「カクテル」IVAC)
免疫系および治療の選択圧が原因の突然変異を抑制するために腫瘍は進化すると考えられている。同じ細胞上に共存し、腫瘍中でも頻繁な複数の抗原を標的とする癌ワクチンは、腫瘍回避機構を覆す可能性がより高く、したがって再発(relapse)の可能性を低下させる。そのような「カクテルワクチン」は、HIV+患者の抗レトロウイルス組合せ療法に類似のものとなろう。共存する突然変異は、系統発生分析またはすべての細胞のSNVアラインメントの検査によって同定することができる。
【0155】
さらに、本発明によれば、CTCを同定、計数および遺伝子プローブするための不偏的方法を使用することができる。そのような手法は以下のステップを含み得る:
1.腫瘍の生検を入手し、体細胞突然変異の図譜を決定する。
2.オプション1:以前に確立された優先順位づけスキームに基づいたさらなる調査のために、N≧96個の突然変異を選択する。
オプション2:単一細胞アッセイ(上述の高スループット全ゲノム単一細胞遺伝子型決定方法を参照)、次いで系統発生分析を行って、多様性を最大限にするためにN≧96個の一次基底突然変異および場合によってはより最近の突然変異を選択する。前者の突然変異はCTCを同定するために(以下を参照)、後者は系統発生分析を生じるために有用である(「同じ細胞上に共存する抗原の同定(「カクテル」IVAC)」のセクションを参照)。
3.癌患者から全血を得る
4.赤血球を溶解する
5.CD45+細胞を枯渇させることによって白血球を除去して(たとえば、選別、抗CD45抗体とコンジュゲートした磁気ビーズなどによる)、CTCを濃縮する。
6.DNAase消化によって遊離DNAを除去する。遊離DNAの起源は、血液中に存在するDNAまたは死細胞からのDNAである場合がある。
7.残りの細胞をPCR管内に選別し、STAを行い(選択された突然変異に基づく)、Fluidigm上でスクリーニングする(上述の高スループット全ゲノム単一細胞遺伝子型決定方法)。CTCは、一般に複数のSNVに対して陽性であるべきである。
8.その後、癌性と同定された細胞(=CTC)を、スクリーニングしたSNVパネルに基づいてさらに系統学的に分析することができる(「同じ細胞上に共存する抗原の同定(「カクテル」IVAC)」のセクションを参照)。
【0156】
また、この方法を単離CTCの以前に確立された方法と組み合わせることも可能である。たとえば、EpCAM+細胞、またはサイトケラチンについて陽性の細胞を選別することができる(Rao CG.ら(2005) International journal of oncology 27:49、Allard WJ.ら(2004) Clinical Cancer Research 10:6897~6904頁)。その後、これらの推定上のCTCをFluidigm/NGS上で確認/プロファイリングして、その突然変異を誘導することができる。
【0157】
この方法を使用してCTCを計数することができる。この方法は、癌細胞によって発現されるまたはされない場合がある1つの特定のマーカーではなく、患者に固有の癌体細胞突然変異の突然変異プロフィールに依存するため、これはCTCを検出および数え上げるための不偏的方法である。
【0158】
本発明によれば、ドライバー突然変異を濃縮するための単一細胞遺伝子型決定に基づく腫瘍系統学的再構築を含む手法(「系統学的フィルタリング」)を使用し得る。
【0159】
この手法の一実施形態では、ドライバー突然変異を回復するための汎腫瘍系統発生分析を行う。
【0160】
たとえば、n=1個の腫瘍からのドライバー突然変異を検出し得る。
【0161】
上記セクション「根付き木分析に基づいた一次基底抗原の同定」では、祖先配列を回復する方法および/または樹の根に近い配列を有する細胞を同定する方法を記載している。定義によりこれらは樹の根に近い配列であるため、これらの配列中の突然変異の数は癌のバルク試料中の突然変異の数よりも顕著に少ないことが予想される。したがって、樹の根に近い配列を選択することによって、多くのパッセンジャー突然変異が「系統学的にフィルタリング」除去されると予想される。この手順はドライバー突然変異を大幅に濃縮する可能性を有する。その後、ドライバー突然変異を使用して患者の処置を同定/選択することができる、またはこれを新規治療法の手がかりとして使用することができる。
【0162】
別の例では、所定の種類のn>1個の腫瘍からのドライバー突然変異が検出され得る。
【0163】
特定の種類の多くの腫瘍から一次基底突然変異を再構築することによって、ドライバー突然変異を検出する可能性を大きく高めることができる。樹の根に近い基底配列は多くのパッセンジャー突然変異をフィルタリング除去するため、ドライバー突然変異の検出における信号対雑音比は大きく増加すると予測される。したがって、この方法は、(1)頻度がより低いドライバー突然変異、(2)より少ない試料から頻繁なドライバー突然変異を検出する可能性を有する。
【0164】
ドライバー突然変異を濃縮するための単一細胞遺伝子型決定に基づく腫瘍系統学的再構築を含む手法(「系統学的フィルタリング」)の別の実施形態では、ドライバー突然変異を引き起こす転移を回復するための系統発生分析を行う。
【0165】
上記セクション「CTCを使用した、転移を阻害する抗原の優先順位づけ」では、CTC関連の突然変異を検出する方法を記載している。この方法は、転移をもたらすドライバー突然変異を濃縮するためにも使用することができる。たとえば、プライマー腫瘍、二次腫瘍およびCTCの合わせた系統発生をマッピングすることによって、原発性腫瘍に由来するCTCは一次二次(primary secondary)腫瘍のクレード間を連結するはずである。そのような系統発生分析は、プライマーと二次腫瘍との間のこの移行に固有の突然変異の特定するを助けることができる。これらの突然変異の一画分はドライバー突然変異であることができる。さらに、同じ癌の様々な例からの固有のCTC突然変異(すなわちn>1個の腫瘍)を比較することによって、転移を引き起こす固有のドライバー突然変異をさらに濃縮することができる。
【0166】
本発明によれば、原発性対二次腫瘍を同定するための系統発生分析を使用し得る。
【0167】
転移の場合、すべての腫瘍をサンプリングした場合は、根付き木を使用して腫瘍が出現した時間的順序、すなわち、どの腫瘍が原発性腫瘍(樹の根に最も近い節)であり、どの腫瘍が最近のものかを予測することができる。これは、どの腫瘍が原発性であるかの決定が困難な場合に有用な場合がある。
【0168】
本発明のコンテキストにおいて、用語「RNA」とは、少なくとも1つのリボヌクレオチド残基を含み、好ましくは完全にまたは実質的にリボヌクレオチド残基から構成される分子に関する。「リボヌクレオチド」とは、β-D-リボフラノシル基の2'位にヒドロキシル基を有するヌクレオチドに関する。用語「RNA」は、二本鎖RNA、一本鎖RNA、部分的または完全に精製したRNAなどの単離したRNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、ならびに1つまたは複数のヌクレオチドの付加、欠失、置換および/または変更によって天然に存在するRNAと異なる修飾RNAなどの組換え産生したRNAを含む。そのような変更には、例えば、RNAの末端へのまたは内部での、たとえばRNAの1つもしくは複数のヌクレオチドでの非ヌクレオチド物質の付加を含めることができる。また、RNA分子中のヌクレオチドは、天然に存在しないヌクレオチドまたは化学合成ヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドなどの非標準のヌクレオチドも含むことができる。これらの変更されたRNAは、類似体または天然に存在するRNAの類似体と呼ぶことができる。
【0169】
本発明によれば、用語「RNA」には「mRNA」が含まれ、好ましくはそれに関する。用語「mRNA」とは「メッセンジャーRNA」を意味し、DNA鋳型を使用することによって作製され、ペプチドまたはポリペプチドをコードしている「転写物」に関する。典型的には、mRNAは、5'-UTR、タンパク質コード領域、および3'-UTRを含む。mRNAは細胞中およびインビトロにおいて限定された半減期しか持たない。本発明のコンテキストにおいて、mRNAはDNA鋳型からインビトロ転写によって作製し得る。インビトロ転写方法は当業者に知られている。たとえば、様々なインビトロ転写キットが市販されている。
【0170】
本発明によれば、RNAの安定性および翻訳効率は必要に応じて改変し得る。たとえば、RNAの安定化効果を有するおよび/または翻訳効率を増加させる1つまたは複数の修飾によって、RNAを安定化させ、その翻訳を増加させ得る。そのような修飾は、たとえば、本明細書中に参考として組み込まれているPCT/EP2006/009448号に記載されている。本発明に従って使用するRNAの発現を増加させるために、コード領域、すなわち発現されるペプチドまたはタンパク質をコードしている配列内で、好ましくは発現されるペプチドまたはタンパク質の配列を変更させずに修飾することによって、GC含有率を増加させてmRNAの安定性を増加させ、コドン最適化を行い、したがって細胞内の翻訳を亢進させ得る。
【0171】
本発明で使用するRNAのコンテキストにおける用語「修飾」には、前記RNA中に天然で存在しない、RNAの任意の修飾が含まれる。
【0172】
本発明の一実施形態では、本発明に従って使用するRNAは非キャップ5'-三リン酸を有さない。そのような非キャップ5'-三リン酸の除去は、RNAをホスファターゼで処理することによって達成することができる。
【0173】
本発明によるRNAは、その安定性を増加するおよび/または細胞毒性を低下するために、修飾されたリボヌクレオチドを有し得る。たとえば、一実施形態では、本発明に従って使用するRNA中で、シチジンを5-メチルシチジンで部分的または完全に、好ましくは完全に置換する。あるいはまたはそれに加えて、一実施形態では、本発明に従って使用するRNA中で、ウリジンをプソイドウリジンで部分的または完全に、好ましくは完全に置換する。
【0174】
一実施形態では、用語「修飾」とは、RNAに5'-capまたは5'-cap類似体を提供することに関する。用語「5'-cap」とは、mRNA分子の5'末端上に見つかるcap構造をいい、一般に、普通ではない5'から5'の三リン酸結合を介してmRNAと連結したグアノシンヌクレオチドからなる。一実施形態では、このグアノシンは7位でメチル化されている。用語「従来の5'-cap」とは、天然に存在するRNA5'-cap、好ましくは7-メチルグアノシンキャップ(m7G)をいう。本発明のコンテキストにおいて、用語「5'-cap」には、RNAcap構造に似ており、好ましくはインビボおよび/または細胞内でそれと付着している場合にRNAを安定化させるおよび/またはRNAの翻訳を亢進させる能力を有するように修飾されている、5'-cap類似体が含まれる。
【0175】
好ましくは、RNAの5'末端には、以下の一般式を有するCap構造が含まれる。
【0176】
【化1】
【0177】
式中、R1およびR2は、独立してヒドロキシまたはメトキシであり、W-、X-およびY-は、独立して酸素、硫黄、セレン、またはBH3である。好ましい実施形態では、R1およびR2はヒドロキシであり、W-、X-およびY-は酸素である。さらなる好ましい実施形態では、R1およびR2のうちの一方、好ましくはR1はヒドロキシであり、他方はメトキシであり、W-、X-およびY-は酸素である。さらなる好ましい実施形態では、R1およびR2はヒドロキシであり、W-、X-およびY-のうちの1つ、好ましくはX-は、硫黄、セレン、またはBH3、好ましくは硫黄であり、他のものは酸素である。さらなる好ましい実施形態では、R1およびR2のうちの一方、好ましくはR2はヒドロキシであり、他方はメトキシであり、W-、X-およびY-のうちの1つ、好ましくはX-は、硫黄、セレン、またはBH3、好ましくは硫黄であり、他のものは酸素である。
【0178】
上記式中、右側のヌクレオチドは、その3'基を介してRNA鎖と連結している。
【0179】
W-、X-およびY-のうちの少なくとも1つが硫黄である、すなわちホスホロチオエート部分を有するCap構造は、様々なジアステレオマーの形態で存在し、そのすべてが本明細書中に包含される。さらに、本発明は上記式のすべての互変異性体および立体異性体を包含する。
【0180】
たとえば、R1がメトキシであり、R2がヒドロキシであり、X-が硫黄であり、W-およびY-が酸素である上記構造を有するCap構造は、2つのジアステレオマーの形態(RpおよびSp)で存在する。これらは逆相HPLCによって分離することができ、逆相HPLCカラムからのその溶出順序に応じてD1およびD2と命名される。本発明によれば、m2 7,2'-OGppspGのD1異性体が特に好ましい。
【0181】
RNAに5'-capまたは5'-cap類似体を提供することは、前記5'-capまたは5'cap類似体の存在下におけるDNA鋳型のインビトロ転写によって達成してよく、前記5'-capが作製されたRNA鎖内に同時転写的に取り込まれるか、または、RNAは、たとえばインビトロ転写によって作製されてよく、5'-capは、キャッピング酵素、たとえばワクシニアウイルスのキャッピング酵素を使用して転写後にRNAに付着させてよい。
【0182】
RNAはさらなる修飾を含み得る。たとえば、本発明で使用するRNAのさらなる修飾は、天然に存在するポリ(A)テイルの伸長もしくは切断、または、前記RNAのコード領域に関連していないUTRの導入、たとえば、グロビン遺伝子、たとえばアルファ2-グロビン、アルファ1-グロビン、ベータ-グロビン、好ましくはベータ-グロビン、より好ましくはヒトベータ-グロビンに由来する1つもしくは複数、好ましくは2コピーの3'-UTRによる既存の3'-UTRの交換もしくはその挿入などの、5'-もしくは3'-非翻訳領域(UTR)の変更であり得る。
【0183】
マスキングされていないポリ-A配列を有するRNAは、マスキングされたポリ-A配列を有するRNAよりも効率的に翻訳される。用語「ポリ(A)テイル」または「ポリ-A配列」とは、典型的にはRNA分子の3'末端上に位置するアデニル(A)残基の配列に関し、「マスキングされていないポリ-A配列」とは、RNA分子の3'末端のポリ-A配列がポリ-A配列のAで終了し、ポリ-A配列の3'末端、すなわち下流に位置するA以外のヌクレオチドが続かないことを意味する。さらに、約120塩基対の長いポリ-A配列は、RNAの最適な転写安定性および翻訳効率をもたらす。
【0184】
したがって、本発明に従って使用するRNAの安定性および/または発現を増加させるために、好ましくは10~500、より好ましくは30~300、さらにより好ましくは65~200、特に100~150個のアデノシン残基の長さを有するポリ-A配列と共に存在するようにこれを修飾し得る。特に好ましい実施形態では、ポリ-A配列は約120個のアデノシン残基の長さを有する。本発明に従って使用するRNAの安定性および/または発現をさらに増加させるために、ポリ-A配列をマスキングしないことができる。
【0185】
さらに、RNA分子の3'-非翻訳領域内への3'-非翻訳領域(UTR)の取り込みは、翻訳効率の亢進をもたらすことができる。2個以上のそのような3'-非翻訳領域を取り込ませることによって、相乗効果を達成し得る。3'-非翻訳領域は、それらが導入されるRNAに対して自己または異種であり得る。特定の一実施形態では、3'-非翻訳領域はヒトβ-グロビン遺伝子に由来する。
【0186】
上述の修飾の組合せ、すなわちポリ-A配列の取り込み、ポリ-A配列の脱マスキングおよび1つまたは複数の3'-非翻訳領域の取り込みは、RNAの安定性および翻訳効率の増加に対して相乗的な影響を有する。
【0187】
用語、RNAの「安定性」とは、RNAの「半減期」に関連する。「半減期」とは、分子の活性、量、または数の半分を排除するために必要な期間に関する。本発明のコンテキストにおいて、RNAの半減期は前記RNAの安定性の指標である。RNAの半減期は、RNAの「発現の持続期間」に影響を与え得る。長い半減期を有するRNAは長期間の間発現されることを予測することができる。
【0188】
もちろん、本発明に従ってRNAの安定性および/または翻訳効率を減少させることが望ましい場合は、RNAの安定性および/または翻訳効率を増加させる上述の要素の機能を妨害するようにRNAを修飾することが可能である。
【0189】
用語「発現」とは、本発明に従って最も一般的な意味で使用され、たとえば転写および/または翻訳による、RNAおよび/またはペプチドもしくはポリペプチドの産生を含む。RNAに関して、用語「発現」または「翻訳」とは、特にペプチドまたはポリペプチドの産生に関する。また、これは核酸の部分的発現も含む。さらに、発現は一過性または安定であることができる。
【0190】
本発明によれば、用語発現には、「異常な発現」または「異常発現」も含まれる。本発明によれば、「異常な発現」または「異常発現」とは、参照、たとえば、特定のタンパク質、たとえば腫瘍抗原の異常な発現または異常発現に関連している疾患に罹患していない対象の状態と比較して、発現が変更されている、好ましくは増加していることを意味する。発現の増加とは、少なくとも10%、特に少なくとも20%、少なくとも50%もしくは少なくとも100%、またはそれより多くの増加をいう。一実施形態では、発現は患部組織中でのみ見つかり、健康な組織中の発現は抑制されている。
【0191】
用語「特異的に発現される」とは、タンパク質が本質的に特異的組織または器官中でのみ発現されることを意味する。たとえば、胃粘膜中で特異的に発現される腫瘍抗原とは、前記タンパク質が主に胃粘膜中で発現され、他の組織中では発現されないまたは他の組織もしくは器官種中では有意な程度には発現されないことを意味する。したがって、胃粘膜の細胞中で排他的に発現され、精巣などの任意の他の組織中では有意により少ない程度に発現されるタンパク質は、胃粘膜の細胞中で特異的に発現される。一部の実施形態では、腫瘍抗原はまた、正常状態下では、複数の組織型または器官、たとえば2つまたは3つの組織型または器官であるが、好ましくは3つ以下の異なる組織または器官種中で特異的に発現され得る。この場合、腫瘍抗原はこれらの器官中で特異的に発現される。たとえば、腫瘍抗原が正常状態下で肺および胃中で好ましくはほぼ同程度に発現される場合、前記腫瘍抗原は肺および胃中で特異的に発現される。
【0192】
本発明のコンテキストにおいて、用語「転写」とは、DNA配列の遺伝暗号がRNAへと転写されるプロセスに関する。続いて、RNAはタンパク質へと翻訳され得る。本発明によれば、用語「転写」は「インビトロ転写」を含み、用語「インビトロ転写」とは、RNA、特にmRNAが、無細胞系中で、好ましくは適切な細胞抽出物を使用してインビトロ合成されるプロセスに関する。好ましくは、クローニングベクターを転写物の作製に応用する。これらのクローニングベクターは一般に転写ベクターと命名され、本発明によれば用語「ベクター」によって包含される。本発明によれば、本発明で使用するRNAは好ましくはインビトロ転写RNA(IVT-RNA)であり、適切なDNA鋳型のインビトロ転写によって得られ得る。転写を制御するためのプロモーターは、任意のRNAポリメラーゼの任意のプロモーターであることができる。RNAポリメラーゼの具体的な例は、T7、T3、およびSP6 RNAポリメラーゼである。好ましくは、インビトロ転写は、本発明によればT7またはSP6プロモーターによって制御される。インビトロ転写のためのDNA鋳型は、核酸、特にcDNAをクローニングし、それをインビトロ転写のための適切なベクター内に導入することによって得られ得る。cDNAはRNAの逆転写によって得られ得る。
【0193】
本発明による用語「翻訳」とは、メッセンジャーRNAの鎖がアミノ酸の配列のアセンブリを指示してペプチドまたはポリペプチドを作製する、細胞のリボソーム中のプロセスに関する。
【0194】
本発明によれば核酸と機能的に連結していてもよい、発現制御配列または調節配列は、核酸に関して相同的または異種であることができる。コード配列および調節配列は、コード配列の転写または翻訳が調節配列の制御下または影響下となるように一緒に共有結合されている場合に、「機能的に」一緒に連結されている。調節配列とコード配列との機能的連結を用いてコード配列を機能的タンパク質へと翻訳させる場合は、調節配列の誘導は、コード配列の読み枠のシフトまたはコード配列が所望のタンパク質もしくはペプチドへと翻訳されないことを引き起こさずに、コード配列の転写をもたらす。
【0195】
本発明によれば、用語「発現制御配列」または「調節配列」とは、核酸の転写または誘導されたRNAの翻訳を制御する、プロモーター、リボソーム結合配列および他の制御要素を含む。本発明の特定の実施形態では、調節配列を制御することができる。調節配列の正確な構造は種または細胞種応じて変動する可能性があるが、一般に、TATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列などの転写または翻訳の開始に関与している5'-非転写ならびに5'-および3'-非翻訳配列を含む。特に、5'-非転写調節配列は、機能的に結合した遺伝子の転写制御のプロモーター配列が含まれるプロモーター領域を含む。また、調節配列は、エンハンサー配列または上流の活性化配列も含むことができる。
【0196】
好ましくは、本発明によれば、細胞中で発現させるRNAを前記細胞内に導入する。本発明による方法の一実施形態では、細胞内に導入するRNAは適切なDNA鋳型のインビトロ転写によって得られる。
【0197】
本発明によれば、「発現することができるRNA」および「コードしているRNA」などの用語は本明細書中で互換性があるように使用され、特定のペプチドまたはポリペプチドに関しては、RNAは、適切な環境中で、好ましくは細胞内に存在する場合、発現させて前記ペプチドまたはポリペプチドを産生することができることを意味する。好ましくは、本発明によるRNAは、細胞の翻訳機構と相互作用して、それが発現することができるペプチドまたはポリペプチドを提供することができる。
【0198】
「移す」、「導入する」または「形質移入する」などの用語は本明細書中で互換性があるように使用され、核酸、特に外因性または異種の核酸、特にRNAを細胞内に導入することに関する。本発明によれば、細胞は、器官、組織および/または生物の一部を形成することができる。本発明によれば、核酸の投与は、裸の核酸として達成する、または投与試薬と組み合わせて達成するのいずれかである。ある。好ましくは、核酸の投与は裸核酸の形態である。好ましくは、RNAはRNase阻害剤などの安定化物質と組み合わせて投与する。また、本発明は、長期間の持続的発現を可能にするために核酸を細胞内に繰返し導入することも想定している。
【0199】
細胞は、たとえばRNAと複合体を形成することまたはRNAを封入もしくはカプセル封入する小胞を形成することによってRNAと会合させ、裸RNAと比較して増加したRNAの安定性をもたらすことができる、任意の担体を用いて形質移入することができる。本発明に従って有用な担体には、たとえば、カチオン性脂質、リポソーム、特に陽イオン性リポソーム、およびミセルなどの脂質含有担体、ならびにナノ粒子が含まれる。カチオン性脂質は負荷電の核酸と複合体を形成し得る。任意のカチオン性脂質を本発明に従って使用し得る。
【0200】
好ましくは、細胞、特にインビボで存在する細胞内へのペプチドまたはポリペプチドをコードしているRNAの導入は、細胞中での前記ペプチドまたはポリペプチドの発現をもたらす。特定の実施形態では、核酸を特定の細胞に標的化することが好ましい。そのような実施形態では、核酸を細胞に投与するために適用する担体(たとえばレトロウイルスまたはリポソーム)は、標的化分子を示す。たとえば、標的細胞上の表面膜タンパク質または標的細胞上の受容体のリガンドに特異的な抗体などの分子を、核酸担体内に取り込ませ得る、またはそれと結合させ得る。核酸をリポソームによって投与する場合、標的化および/または取り込みを可能にするために、エンドサイトーシスに関連している表面膜タンパク質と結合するタンパク質をリポソーム配合物内に取り込ませ得る。そのようなタンパク質は、特定の細胞種、内部移行されるタンパク質に対する抗体、細胞内の位置を標的とするタンパク質などに特異的なカプシドタンパク質またはその断片を包含する。
【0201】
本発明によれば、用語「ペプチド」とは、ペプチド結合によって共有結合した、2個以上、好ましくは3個以上、好ましくは4個以上、好ましくは6個以上、好ましくは8個以上、好ましくは10個以上、好ましくは13個以上、好ましくは16個以上、好ましくは21個以上、かつ好ましくは8、10、20、30、40または50個まで、特に100個のアミノ酸を含む物質をいう。用語「ポリペプチド」または「タンパク質」とは、大きなペプチド、好ましくは100個を超えるアミノ酸残基を有するペプチドをいうが、一般に、用語「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」は同義語であり、本明細書中で互換性があるように使用される。
【0202】
本発明によれば、ペプチドまたはタンパク質に関する用語「配列変化」は、アミノ酸挿入変異体、アミノ酸付加変異体、アミノ酸欠失変異体およびアミノ酸置換変異体、好ましくはアミノ酸置換変異体に関する。本発明によれば、これらの配列変化はすべて、新しいエピトープを作製し得る可能性がある。
【0203】
アミノ酸挿入変異体は、特定のアミノ酸配列中に1個もしくは2個またはそれより多くのアミノ酸の挿入を含む。
【0204】
アミノ酸付加変異体は、1、2、3、4もしくは5個、またはそれより多くのアミノ酸などの1つまたは複数のアミノ酸のアミノおよび/またはカルボキシ末端融合を含む。
【0205】
アミノ酸欠失変異体は、配列からの1個または複数のアミノ酸の除去、たとえば、1、2、3、4もしくは5個またはそれ以上のアミノ酸の除去を特徴づけられる。
【0206】
アミノ酸置換変異体は、配列中の少なくとも1つの残基が除去され、別の残基がその代わりに挿入されることによって特徴づけられる。
【0207】
本発明によれば、用語「由来する」とは、特定の実体、特に特定の配列が、それが由来する物体、特に生物または分子中に存在することを意味する。アミノ酸配列、特に特定の配列領域の場合、「由来する」とは、特に、関連するアミノ酸配列が、それが存在するアミノ酸配列に由来することを意味する。
【0208】
用語「細胞」または「宿主細胞」は、好ましくは、無処置の細胞、すなわち、酵素、オルガネラ、または遺伝物質などのその正常な細胞内成分を放出していない無処置の膜を有する細胞である。無処置の細胞は、好ましくは、生細胞、すなわちどの正常な代謝機能を実施することができる生細胞である。好ましくは、本発明によれば、前記用語は、外因性の核酸を用いて形質転換または形質移入することができる任意の細胞に関する。本発明によれば、用語「細胞」には、原核細胞(たとえば大腸菌(E.coli))または真核細胞(たとえば、樹状細胞、B細胞、CHO細胞、COS細胞、K562細胞、HEK293細胞、HELA細胞、酵母細胞、および昆虫細胞)が含まれる。外因性の核酸は、細胞内に(i)それ自体で自由に分散して、(ii)組換えベクター内に組み込まれて、または(iii)宿主細胞ゲノムもしくはミトコンドリアDNA内に組み込まれて見つかり得る。ヒト、マウス、ハムスター、ブタ、ヤギ、および霊長類からの細胞などの哺乳動物細胞が特に好ましい。細胞は多数の組織型に由来していてよく、初代細胞および細胞系が含まれる。具体的な例には、ケラチノサイト、末梢血白血球、骨髄幹細胞、および胚性幹細胞が含まれる。さらなる実施形態では、細胞は抗原提示細胞、特に樹状細胞、単球、またはマクロファージである。
【0209】
核酸分子を含む細胞は、好ましくは核酸によってコードされているペプチドまたはポリペプチドを発現する。
【0210】
用語「クローン増殖」とは、特定の実体が増えるプロセスをいう。本発明のコンテキストにおいて、この用語は、好ましくは、リンパ球が抗原によって刺激され、増殖し、前記抗原を認識する特異的リンパ球が増幅される免疫学的応答との関連で使用される。好ましくは、クローン増殖はリンパ球の分化をもたらす。
【0211】
「低下させる」または「阻害する」などの用語は、好ましくは5%以上、10%以上、20%以上、より好ましくは50%以上、最も好ましくは75%以上の全体的なレベルの減少を引き起こす能力に関する。用語「阻害する」または同様の語句には、完全なまたは本質的に完全な阻害、すなわちゼロまたは本質的にゼロまでの低下が含まれる。
【0212】
「増加させる」、「亢進させる」、「促進する」または「延長する」などの用語は、好ましくは、少なくとも約10%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも100%、好ましくは少なくとも200%、特に少なくとも300%の増加、亢進、促進または延長に関する。また、これらの用語は、ゼロまたは測定不可能または検出不可能なレベルからゼロより高いレベルまたは測定可能もしくは検出可能なレベルへの増加、亢進、促進または延長にも関し得る。
【0213】
本明細書中に記載の薬剤、組成物および方法を使用して、疾患、たとえば、抗原を発現し、抗原ペプチドを提示する疾患細胞の存在によって特徴づけられた疾患に罹患している対象を処置することができる。特に好ましい疾患は癌疾患である。また、本明細書中に記載の薬剤、組成物および方法を使用して、本明細書中に記載の疾患を防止するために免疫化またはワクチン接種を行い得る。
【0214】
本発明によれば、用語「疾患」とは、癌疾患、特に本明細書中に記載の癌疾患の形態を含めた任意の病理状態をいう。
【0215】
用語「正常な」とは、健康な状態または健康な対象もしくは組織、すなわち非病的状態における状態をいい、「健康な」とは、好ましくは非癌性であることを意味する。
【0216】
本発明によれば、「抗原を発現する細胞を含む疾患」とは、患部組織または器官の細胞において抗原の発現が検出されることを意味する。患部組織または器官の細胞中の発現は、健康な組織または器官の状態と比較して増加していてよい。増加とは、少なくとも10%、特に少なくとも20%。少なくとも50%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも500%、少なくとも1000%、少なくとも10000%またはさらにそれより多くの増加をいう。一実施形態では、発現は患部組織中でのみ見つかり、健康な組織中の発現は抑制される。本発明によれば、抗原を発現する細胞を含むまたはそれに関連する疾患には癌疾患が含まれる。
【0217】
癌(医学用語は悪性新生物)とは、細胞の群が非制御の成長(正常な限界を超えた分裂)、侵襲(近接組織の侵入および破壊)、ならびに場合によっては転移(リンパまたは血液を介した身体内の他の位置への拡散)を示す疾患のクラスである。これら3つの癌の悪性特性により、これらが自己限定的であり浸潤または転移しない良性腫瘍から区別される。ほとんどの癌は腫瘍を形成するが、白血病などの一部のものは形成しない。
【0218】
悪性腫瘍は癌と本質的に同義である。悪性疾患、悪性新生物、および悪性腫瘍は癌と本質的に同義である。
【0219】
本発明によれば、用語「腫瘍」または「腫瘍疾患」とは、好ましくは腫脹または病変を形成する、細胞の異常成長(新生細胞、腫瘍形成性細胞または腫瘍細胞と呼ばれる)をいう。「腫瘍細胞」とは、迅速な非制御の細胞増殖によって成長し、新しい成長を開始した刺激が終わった後に成長し続ける異常細胞を意味する。腫瘍は構造的組織化および正常組織との機能的協調の部分的または完全な欠如を示し、通常は、良性、前悪性または悪性のいずれかであり得る明確な組織塊を形成する。
【0220】
良性腫瘍とは、癌の悪性特性の3つすべてを欠く腫瘍である。したがって、定義として、良性腫瘍は無制限の攻撃的な様式で成長せず、周辺組織を浸潤せず、非近接組織へと拡散しない(転移しない)。
【0221】
新生物とは、新形成の結果としての異常な組織塊である。新形成(ギリシャ語で新しい成長)とは、細胞の異常増殖である。細胞の成長は、その周りの正常組織の成長を上回り、協調的でない。成長は刺激が終わった後さえも同じ過剰な様式で持続する。これは通常は塊または腫瘍を引き起こす。新生物は良性、前悪性または悪性であり得る。
【0222】
本発明による「腫瘍の成長」または「腫瘍成長」とは、腫瘍の大きさが大きくなる傾向および/または腫瘍細胞が増殖する傾向に関する。
【0223】
本発明の目的のために、用語「癌」および「癌疾患」は、用語「腫瘍」および「腫瘍疾患」と互換性があるように使用される。
【0224】
癌は腫瘍に似ている細胞の種類、したがって腫瘍の起源であると推定される組織の種類によって分類される。これらはそれぞれ組織学および位置である。
【0225】
本発明による用語「癌」は、白血病、精上皮腫、黒色腫、奇形腫、リンパ腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、直腸癌、子宮内膜癌、腎臓癌、副腎癌、甲状腺癌、血液癌、皮膚癌、脳癌、子宮頸癌、腸癌、肝臓癌、結腸癌、胃癌、腸管癌、頭頸部癌、胃腸癌、リンパ節癌、食道癌、結腸直腸癌、膵臓癌、耳、鼻および咽頭(ENT)癌、乳癌、前立腺癌、子宮癌、卵巣癌および肺癌ならびにその転移を含む。その例は、肺癌腫、乳房癌腫、前立腺癌腫、結腸癌腫、腎細胞癌腫、子宮頸癌腫、または上述の癌種もしくは腫瘍の転移である。また、本発明によれば、用語癌は癌の転移および癌の再発(relapse)も含む。
【0226】
肺癌の主な種類は小細胞肺癌腫(SCLC)および非小細胞肺癌腫(NSCLC)である。主に3つの非小細胞肺癌腫の亜型、すなわち扁平細胞肺癌腫、腺癌腫、および大細胞肺癌腫が存在する。腺癌腫は肺癌の約10%を占める。この癌は通常は肺の末梢で見られ、小細胞肺癌および扁平細胞肺癌がいずれもより中央に位置する傾向にあるのとは対照的である。
【0227】
皮膚癌とは、皮膚上の悪性成長である。最も一般的な皮膚癌は、基底細胞癌、扁平細胞癌、および黒色腫である。悪性黒色腫は重篤な種類の皮膚癌である。これはメラニン形成細胞と呼ばれる色素細胞の非制御の成長が原因である。
【0228】
本発明によれば、「癌腫」とは上皮細胞に由来する悪性腫瘍である。この群は、乳房、前立腺、肺および結腸の癌の一般的な形態を含めた最も一般的な癌を表す。
【0229】
「細気管支癌腫」とは、終末細気管支の上皮に由来すると考えられている肺の癌腫であり、新生物組織が肺胞壁に沿って伸長し、肺胞内で小さな塊で成長する。ムチンが剥離細胞も含まれる細胞の一部および肺胞中の物質において実証され得る。
【0230】
「腺癌腫」とは腺組織を起源とする癌である。この組織は、上皮組織として知られるより大きな組織分類の一部でもある。上皮組織には、身体の空洞および器官を裏打ちする皮膚、腺および様々な他の組織が含まれる。上皮は、発生学的には外胚葉、内胚葉および中胚葉に由来する。腺癌腫として分類されるために、細胞は、分泌特性を有する限りは、必ずしも腺の一部である必要はない。この癌腫の形態は、ヒトを含めた一部の高等哺乳動物で起こる場合がある。十分に分化した腺癌腫はそれが由来する腺組織に似ている傾向にある一方で、分化が乏しいものはそうでない場合がある。生検からの細胞を染色することによって、病理学者は、腫瘍が腺癌腫であるか何らかの他の種類の癌であるかを決定する。身体内の腺の遍在性性質が原因で腺癌腫は身体の多くの組織中で生じることができる。それぞれの腺は同じ物質を分泌していない場合があるが、細胞に外分泌機能が存在する限りこれは腺であるとみなされ、したがってその悪性型は腺癌腫と命名される。悪性腺癌腫は他の組織を浸潤し、転移するために十分な時間がある場合は、多くの場合転移する。卵巣腺癌腫は卵巣癌腫の最も一般的な種類である。これには、漿液性および粘性の腺癌腫、明細胞腺癌腫および類内膜腺癌腫が含まれる。
【0231】
腎細胞癌または腎細胞腺癌腫としても知られる腎細胞癌腫は、血液を濾過して廃棄物を除去する腎臓内の非常に小さな管である近位の曲尿細管の裏打ちを起源とする腎臓癌である。腎細胞癌腫は成人において圧倒的に最も一般的な種類の腎臓癌であり、すべての泌尿生殖器(genitorurinary)腫瘍の中で最も致死的である。腎細胞癌腫の明確な亜型は明細胞腎細胞癌腫および乳頭性腎細胞癌腫である。明細胞腎細胞癌腫は腎細胞癌腫の最も一般的な形態である。顕微鏡下で見た場合、明細胞腎細胞癌腫を構成する細胞は色が非常に薄いまたは透明に見える。乳頭性腎細胞癌腫は2番目に一般的な亜型である。これらの癌は、腫瘍のほとんどではないにしても一部において小さなフィンガー様の突起(乳頭と呼ばれる)を形成する。
【0232】
リンパ腫および白血病は造血(血液形成)細胞に由来する悪性腫瘍である。
【0233】
芽細胞腫瘍または芽細胞腫は、未成熟または胚性の組織に似ている腫瘍(通常は悪性)である。これらの腫瘍の多くは子供に最も一般的である。
【0234】
「転移」とは、その元の部位から身体の別の部分への癌細胞の拡散を意味する。転移の形成は非常に複雑なプロセスであり、原発性腫瘍からの悪性細胞の脱離、細胞外基質の侵襲、体腔および血管に入るための内皮基底膜の貫通、その後、血液によって輸送された後に、標的器官の浸潤に依存する。最後に、標的部位での新しい腫瘍、すなわち二次腫瘍または転移性腫瘍の成長は血管形成に依存する。腫瘍転移は、多くの場合、原発性腫瘍の除去後にも起こり、これは腫瘍細胞または構成要素が残って転移能を発生し得るためである。一実施形態では、本発明による用語「転移」とは、原発性腫瘍および所属リンパ節系から離れた転移に関する「遠隔転移」に関する。
【0235】
二次または転移性腫瘍の細胞は元の腫瘍のものに似ている。これは、たとえば卵巣癌が肝臓に転移する場合、二次腫瘍は異常肝細胞ではなく異常卵巣細胞から構成されていることを意味する。この場合、肝臓中の腫瘍は肝臓癌ではなく転移性卵巣癌と呼ばれる。
【0236】
卵巣癌では、転移は以下の方法で起こる場合がある:直接接触または伸長によって、輸卵管、子宮、膀胱、直腸などの卵巣の付近または周囲に位置する近隣組織または器官に浸潤し得る;最も一般的な卵巣癌の拡散方法である、腹腔内への播種または脱粒によって、癌細胞が卵巣塊の表面から離脱し、肝臓、胃、結腸または横隔膜などの腹部中の他の構造に「落ちる」;卵巣塊から遊離することによって、リンパ管を浸潤し、その後に肺または肝臓などの身体の他の領域または遠位の器官へと移動する;卵巣塊から遊離することによって、血液系を浸潤し、身体の他の領域または遠位の器官へと移動する。
【0237】
本発明によれば、転移性卵巣癌には、輸卵管の癌、腹部の器官の癌、たとえば、腸の癌、子宮の癌、膀胱の癌、直腸の癌、肝臓の癌、胃の癌、結腸の癌、横隔膜の癌、肺の癌、腹部または骨盤の裏打ち(腹膜)の癌、および脳の癌が含まれる。同様に、転移性肺癌とは、肺から身体の遠位および/またはいくつかの部位へと拡散した癌をいい、肝臓の癌、副腎の癌、骨の癌、および脳の癌が含まれる。
【0238】
用語「循環腫瘍細胞」または「CTC」とは、原発性腫瘍または腫瘍転移から脱離して血流中に循環する細胞に関する。CTCは、続く様々な組織中のさらなる腫瘍(転移)の成長の種子を構成し得る。循環腫瘍細胞は、転移性疾患に罹患している患者の全血1mLあたり約1~10個のCTCの頻度で見つかる。CTCを単離するための研究方法が開発されている。当技術分野においてCTCを単離するためのいくつかの研究方法、たとえば、上皮細胞が正常な血液細胞中では存在しない細胞接着タンパク質EpCAMを一般的に発現することを使用する技法が記載されている。免疫磁気ビーズに基づく捕捉は、血液検体を、磁気粒子とコンジュゲートさせたEpCAMに対する抗体で処理し、続いて、タグづけされた細胞を磁場中で分離することを含む。その後、単離した細胞を別の上皮マーカー、サイトケラチン、および一般的な白血球マーカーCD45に対する抗体で染色することによって、稀なCTCを汚染白血球から識別する。この頑強かつ半自動的な手法は、CTCを約1個のCTC/mLの平均収率および0.1%の純度で同定する(Allardら、2004: Clin Cancer Res 10、6897~6904頁)。CTCを単離するための第2の方法は、EpCAMに対する抗体でコーティングすることによって機能的にした80,000個のマイクロポストを包埋したチャンバに全血を流すことを含む、マイクロ流体に基づくCTC捕捉装置を使用する。その後、CTCをサイトケラチンまたは前立腺癌におけるPSAもしくは乳癌におけるHER2などの組織特異的マーカーのいずれかに対する二次抗体で染色し、マイクロポストを複数の平面で三次元座標に沿って自動走査することによって可視化する。CTC-チップは、患者中のサイトケラチン(cytokerating)陽性循環腫瘍細胞を、収率の中央値が50個の細胞/ml、純度の範囲が1~80%で同定することができる(Nagrathら、2007: Nature 450、1235~1239頁)。CTCを単離するための別の可能性は、血液の管中のCTCを捕捉、同定、および計数するVeridex,LLC(ニュージャージー州Raritan)のCellSearch(商標)循環腫瘍細胞(CTC)試験を使用することである。CellSearch(商標)システムは、全血中のCTCを数え上げるための米国食品医薬品局(FDA)に認可された方法であり、免疫磁気標識および自動デジタル顕微鏡観察の組合せに基づく。CTCを単離するための他の方法が文献中に記載されており、そのすべてを本発明と併せて使用することができる。
【0239】
再発(relapseまたはrecurrence)は、人が、過去に影響を受けていた状態によって再度影響を受ける場合に起こる。たとえば、患者が腫瘍疾患を患い、前記疾患の処置を受けて成功し、前記疾患を再度発症する場合、前記新しく発症した疾患は再発(relapseまたはrecurrence)としてみなされ得る。しかし、本発明によれば、腫瘍疾患の再発(relapseまたはrecurrence)は、元の腫瘍の部位疾患で起こってもよいが、必ずしもそうである必要はない。したがって、たとえば、患者が卵巣腫瘍を患っており、受けた処置が成功した場合、再発(relapseまたはrecurrence)は、卵巣腫瘍の発生または卵巣とは異なる部位での腫瘍の発生であり得る。また、腫瘍の再発(relapseまたはrecurrence)には、腫瘍が元の腫瘍の部位とは異なる部位で発生する状況および元の腫瘍の部位で発生する状況も含まれる。好ましくは、患者が処置を受けた元の腫瘍は原発性腫瘍であり、元の腫瘍の部位とは異なる部位での腫瘍は二次または転移性腫瘍である。
【0240】
「処置する」とは、対象中の腫瘍の大きさもしくは腫瘍の数を低下させること、対象において疾患を停止もしくは遅延させること、対象において新しい疾患の発症を阻害もしくは遅延させること、疾患に現在罹患しているもしくは以前に罹患していた対象において症状および/もしくは再発(recurrence)の頻度もしくは重篤度を減少させること、ならびに/または対象の寿命を延長、すなわち増加させることを含めて、疾患を防止または排除するために、本明細書中に記載の化合物または組成物を対象に投与することを意味する。特に、用語「疾患の処置」には、疾患の発症またはその症状を治癒すること、持続期間を短縮すること、進行もしくは悪化を寛解、防止、遅延もしくは阻害すること、または防止もしくは遅延させることが含まれる。
【0241】
「危険性がある」とは、一般集団と比較して疾患、特に癌を発症する可能性が正常よりも高いと同定された対象、すなわち患者を意味する。さらに、疾患、特に癌を患っていた、または現在患っている対象とは、そのような対象は疾患を発症し続け得るため、疾患を発症する危険性が増加した対象である。また、癌を現在患っている、または患っていた対象も癌の転移の危険性が増加している。
【0242】
用語「免疫療法」とは、特異的免疫反応の活性化を含む処置に関する。本発明のコンテキストにおいて、「保護する」、「防止する」、「予防(的)」、「防止的」、または「保護的」などの用語は、対象における疾患の発生および/または増殖の防止もしくは処置または両方に関し、特に、対象が疾患を発症する可能性を最小限にすることまたは疾患の発症を遅延させることに関する。たとえば、上述の腫瘍の危険性にある人は、腫瘍を防止する治療法の候補となる。
【0243】
免疫療法の予防的投与、たとえば本発明の組成物の予防的投与は、好ましくはレシピエントを疾患の発症から保護する。免疫療法の治療的投与、たとえば本発明の組成物の治療的投与は、疾患の進行/成長の阻害をもたらし得る。これは、好ましくは疾患の排除をもたらす疾患の進行/成長の減速、特に疾患の進行の破壊を含む。
【0244】
免疫療法は、本明細書中に提供する薬物が疾患細胞を患者から除去するように機能する、様々な技法のうちの任意のものを使用して行い得る。そのような除去は、患者において抗原または抗原を発現する細胞に特異的な免疫応答を亢進または誘導することの結果として起こり得る。
【0245】
特定の実施形態では、免疫療法は活性免疫療法であってよく、処置は、疾患細胞に反応するように免疫応答改変剤(本明細書中に提供するポリペプチドおよび核酸など)の投与を用いて宿主の内在免疫系をインビボ刺激することに依存する。
【0246】
本明細書中に提供する薬物および組成物は、単独で、または手術、照射法、化学療法および/もしくは骨髄移植(自己、同系の、アロジェネイックまたは非関連)などの従来の治療レジメンと組み合わせて使用し得る。
【0247】
用語「免疫化」または「ワクチン接種」とは、治療的または予防的理由のために免疫応答を誘導する目的で対象を処置するプロセスを記載する。
【0248】
用語「インビボ」とは、対象内の状況に関する。
【0249】
用語「対象」、「個体」、「生物」または「患者」とは互換性があるように使用され、脊椎動物、好ましくは哺乳動物に関する。たとえば、本発明のコンテキストにおける哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長類、家畜、たとえばイヌ、ネコ、ヒツジ、畜牛、ヤギ、ブタ、ウマなど、実験動物、たとえばマウス、ラット、ウサギ、モルモットなど、ならびに捕獲動物、たとえば動物園の動物である。また、本明細書中で使用する用語「動物」にはヒトも含まれる。また、用語「対象」には、疾患、好ましくは本明細書中に記載の疾患に罹患している患者、すなわち動物、好ましくはヒトも含まれ得る。
【0250】
用語「自己」とは、同じ対象に由来するすべてのものを記載するために使用する。たとえば、「自己移植」とは、同じ対象に由来する組織または器官の移植をいう。そのような手順は、そうでなければ拒絶をもたらす免疫学的障壁を克服するため有利である。
【0251】
用語「異種」とは、複数の異なる要素からなるものを記載するために使用する。一例として、1つの個体の骨髄を別の個体内に移入することは異種移植を構成する。異種遺伝子とは、対象以外の供給源に由来する遺伝子である。
【0252】
免疫化またはワクチン接種のための組成物の一部として、好ましくは本明細書中に記載の1種または複数の薬剤を、免疫応答を誘導するまたは免疫応答を増加させるための1種または複数のアジュバントと一緒に投与する。用語「アジュバント」とは、免疫応答を延長または亢進または加速する化合物に関する。本発明の組成物は、好ましくはアジュバントを加えずにその効果を発揮する。それでも、本出願の組成物は任意の既知のアジュバントを含有し得る。アジュバントは油乳濁液(たとえばフロイントアジュバント)、無機化合物(ミョウバンなど)、細菌産物(百日咳菌(Bordetella pertussis)毒素など)、リポソーム、および免疫刺激複合体などの化合物の異種群を含む。アジュバントの例は、モノホスホリル-脂質-A(MPL SmithKline Beecham)、QS21(SmithKline Beecham)、DQS21(SmithKline Beecham、WO96/33739号)、QS7、QS17、QS18、およびQS-L1などのサポニン(Soら、1997、Mol. Cells 7:178~186頁)、不完全フロイントアジュバント、完全フロイントアジュバント、ビタミンE、モンタナイド(montanid)、ミョウバン、CpGオリゴヌクレオチド(Kriegら、1995、Nature 374:546~549頁)、ならびにスクワレンおよび/またはトコフェロールなどの生分解性の油から調製される様々な油中水乳濁液である。
【0253】
また、患者の免疫応答を刺激する他の物質も投与し得る。たとえば、リンパ球に対するその調節特性のおかげで、ワクチン接種中でサイトカインを使用することが可能である。そのようなサイトカインは、たとえば、ワクチンの保護作用を増加させることが示されたインターロイキン-12(IL-12)(Science 268:1432~1434頁、1995を参照)、GM-CSFおよびIL-18を含む。
【0254】
免疫応答を亢進し、したがってワクチン接種において使用し得るいくつかの化合物が存在する。前記化合物は、B7-1およびB7-2(それぞれCD80およびCD86)などのタンパク質または核酸の形態で提供される同時刺激分子を含む。
【0255】
本発明によれば、「腫瘍検体」とは、循環腫瘍細胞(CTC)などの腫瘍または癌細胞を含有する身体試料などの試料、特に体液を含めた組織試料および/または細胞試料である。本発明によれば、「非腫瘍形成性検体」とは、循環腫瘍細胞(CTC)などの腫瘍または癌細胞を含有しない身体試料などの試料、特に体液を含めた組織試料および/または細胞試料である。そのような身体試料は、パンチ生検を含めた組織生検によって、および血液、気管支吸引液、痰、尿、糞便または他の体液を採取することによってなどの従来の様式で得られ得る。本発明によれば、用語「試料」には、生体試料の画分または単離物、たとえば核酸もしくは細胞の単離物などの加工試料も含まれる。
【0256】
本明細書中に記載の治療活性を有する薬剤、ワクチンおよび組成物は、注射または輸液によるものを含めた、任意の従来の経路を介して投与し得る。投与は、たとえば、経口的に、静脈内に、腹腔内に、筋肉内に、皮下にまたは経皮に実施し得る。一実施形態では、投与はリンパ節内への注射によってなどの結節内で実施する。他の投与形態は、本明細書中に記載の核酸を用いた樹状細胞などの抗原提示細胞のインビトロ形質移入、次いで抗原提示細胞の投与を想定している。
【0257】
本明細書中に記載の薬剤は有効量で投与する。「有効量」とは、単独で、またはさらなる用量と一緒に、所望の反応または所望の効果を達成する量をいう。特定の疾患または特定の状態の処置の場合、所望の反応は、好ましくは疾患の経過の阻害に関する。これは、疾患の進行の遅延、特に疾患の進行の中断または逆行を含む。また、疾患または状態の処置における所望の反応は、前記疾患または前記状態の発症の遅延または発症の防止であってもよい。
【0258】
有効量の本明細書中に記載の薬剤は、処置する状態、疾患の重篤度、年齢、生理的状態、大きさおよび重量を含めた患者の個々のパラメータ、処置の持続期間、付随する治療の種類(存在する場合)、特定の投与経路および同様の要因に依存する。したがって、本明細書中に記載の薬剤の投与用量は、様々なそのようなパラメータに依存し得る。患者における反応が初期用量では不十分な場合、より高い用量(または、異なるより局所的な投与経路によって達成される有効により高い用量)を使用し得る。
【0259】
本発明の医薬組成物は好ましくは無菌的であり、所望の反応または所望の効果を生じるために有効量の治療活性を有する物質を含有する。
【0260】
本発明の医薬組成物は、一般に、薬学的に適合性のある量で、薬学的に適合性のある調製物で投与する。用語「薬学的に適合性のある」とは、医薬組成物の活性構成要素の作用と相互作用しない、無毒性の物質をいう。この種の調製物は、通常は、塩、緩衝物質、保存料、担体、アジュバント、たとえばCpGオリゴヌクレオチド、サイトカイン、ケモカイン、サポニン、GM-CSFおよび/またはRNAなどの補助免疫亢進物質、ならびに適切な場合は他の治療活性を有する化合物を含有し得る。医薬中で使用する場合は、塩は薬学的に適合性があるべきである。しかし、薬学的に適合性のない塩を薬学的に適合性のある塩の調製に使用してもよく、本発明に含まれる。この種の薬理学的および薬学的に適合性のある塩は、非限定的な様式で、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸などの酸から調製されたものを含む。また、薬学的に適合性のある塩は、ナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩などのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩としても調製し得る。
【0261】
本発明の医薬組成物は薬学的に適合性のある担体を含み得る。用語「担体」とは、適用を容易にするために活性構成要素を組み合わせる、天然または合成の性質の有機または無機の構成要素をいう。本発明によれば、用語「薬学的に適合性のある担体」には、患者への投与に適した1種または複数の適合性のある固体または液体の充填剤、希釈剤またはカプセル封入物質が含まれる。本発明の医薬組成物の構成要素は、通常、所望の薬学的有効性を実質的に損なわせる相互作用が起こらないようなものである。
【0262】
本発明の医薬組成物は、塩中の酢酸、塩中のクエン酸、塩中のホウ酸および塩中のリン酸などの適切な緩衝物質を含有し得る。
【0263】
また、医薬組成物は、適切な場合は、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベンおよびチメロサールなどの適切な保存料も含有し得る。
【0264】
医薬組成物は通常は均一剤形で提供され、それ自体で知られている様式で調製し得る。本発明の医薬組成物は、たとえば、カプセル剤、錠剤、ロゼンジ、液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤の形態で、または乳剤の形態であり得る。
【0265】
非経口投与に適した組成物は、通常、好ましくはレシピエントの血液に等張である、活性化合物の無菌的な水性または非水性調製物を含む。適合性のある担体および溶媒の例はリンゲル液および等張塩化ナトリウム溶液である。さらに、通常は無菌的な不揮発性の油が溶液または懸濁液の媒体として使用される。
【0266】
本発明を、以下の図および実施例によって詳述し、これらは例示目的でのみ使用し、限定することを意図しない。説明および実施例のおかげで、同様に本発明に含まれるさらなる実施形態が当業者によって利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0267】
図1】上:バルク腫瘍試料中の可能性のある免疫原性体細胞突然変異を発見および優先順位づけするためのプロセス。下:B16およびBlack6系に適用したプロセス。
図2】Kif18b中の検証された突然変異の例サンガーシーケンシングによって確認されたNGSエクソーム-シーケンシングによって、遺伝子Kif18b中で同定された突然変異。野生型細胞中では、配列はT/Tである。腫瘍細胞では、配列はT/Gの混合である。
図3】突然変異配列に対する免疫反応性マウス(n=5匹)を突然変異ペプチド配列(100μg+50μgのポリI:C、皮下)で2回免疫化した(d0、d7)。12日目にマウスを屠殺し、脾臓細胞を収集した。5×105個の脾臓細胞/ウェルをエフェクターとして使用し、ペプチドをロードした5×104個の骨髄樹状細胞(2μg/mlで2時間、37℃および5%のCO2)を標的細胞として使用して、IFNγ ELISpotを行った。エフェクター脾臓細胞を突然変異ペプチド、野生型ペプチドおよび対照ペプチド(水疱性口内炎ウイルス核タンパク質、VSV-NP、アミノ酸52~59)に対して試験した。VSV-NPに対するバックグラウンドスポットを減算した平均測定スポット数を、すべてのマウスについて示す(白丸:野生型ペプチドで免疫化したマウス、黒四角:突然変異ペプチドで免疫化したマウス)。データをそれぞれのマウスについて示し、平均±SEMを記す。
図4】新しく同定された突然変異ペプチド配列をワクチン接種したマウスの延命効果d0にB16F10細胞(7.5×104個)を皮下に接種した。-4日目、+2日目、+9日目にマウスにペプチド30(Jerini Peptide Technologies(ベルリン)、100μgのペプチド+50μgのポリI:C、皮下(Invivogen))をワクチン接種した。対照群はポリI:Cのみ(50μg、皮下)を受けた。腫瘍成長を+16日目まで監視し*、ログランク(Mantel-Cox)試験でp<0.05。
図5】(A)安定性および翻訳効率について最適化されたRNAを用いた、亢進されたタンパク質発現の例(左はeGFP、右はルシフェラーゼ)、(B)有効な抗原ルーティングについて最適化されたRNAを用いた、抗原特異的CD8+およびCD4+T細胞のポリエピトープ拡大の例(Kreiter, Konrad, Sesterら、Cancer Immunol. Immunother. 56:1577~1587頁. 2007を参照)。T(C)単一エピトープ(OVA-SIINFEKL)をコードしているRNAワクチンを使用した、B16黒色腫モデルにおける抗腫瘍有効性の前臨床証拠の例。ワクチン単独またはアジュバントと組み合わせたワクチンで処置したマウスについて生存データを得た。(D)個別化したポリ-ネオ-エピトープワクチン設計。ワクチンビヒクルは、増加した発現および最適化された免疫原性のための機能的要素を組み込んでいる。リンカーによって離間されている、分子1個あたり30個までの突然変異したエピトープを、その天然の配列構成で組み込むことができる。
図6】コンストラクトの設計(A)RNAポリエピトープコンストラクトの模式図。Cap: cap類似体、5'UTR:5'非翻訳領域、L:リンカー、配列番号1:突然変異アミノ酸を含有するペプチドをコードしているRNA配列、3'UTR:3'非翻訳配列、ポリ-A:ポリ-Aテイル。(B)B16F10からの突然変異アミノ酸を含めた2つのアミノ酸配列をコードしているRNAコンストラクトの配列。開始および停止コドンならびにシグナルペプチドおよびMITD配列は模式図の一部ではなく、「…」によって記号化されている。
図7】RNAポリエピトープの機能性(A~C)5×105個の脾臓細胞/ウェルをエフェクターとして使用し、5×104個のBMDCを標的細胞として使用した、IFNγ ELISpotのデータ。BMDCにペプチドをロードした(2μg/mlで2時間、37℃および5%のCO2)、または電気穿孔によってRNAを形質移入した(20μg)。対照RNAは、eGFP(左パネル)、またはリンカーによって隔てられた突然変異アミノ酸を含有する2つの非関連のペプチドをコードしているRNAコンストラクトであった。データは平均±SEMとして示す。(A)突然変異ペプチド30、野生型ペプチド30ならびに突然変異30および31をコードしているRNAのデータを示す。(B)突然変異ペプチド12、野生型ペプチド12ならびに突然変異12および39をコードしているRNAのデータを示す。(C)(B)に示す読み取りの単一マウスからの代表的なELISpot走査を示す。
図8】接合部エピトープを示すRNAポリ-ネオ-エピトープワクチンの2つの実施形態RNAワクチンは、突然変異をコードしているペプチド間でリンカーを用いて(上)または用いずに(下)作製することができる。良好なエピトープには、体細胞突然変異(「*」)が含まれ、MHC分子と結合するものが含まれる。不良エピトープには、MHC分子と結合するが、2つのペプチドの一部(下)またはペプチドおよびリンカー配列の一部(上)のどちらかを含有するエピトープが含まれる。
図9】「T細胞の新薬開発につながる(druggable)ミュータノーム(mutanome)」の発見および特徴づけ(A)B16F10およびC57BL/6の試料から開始してELISPOTの読み取りまでの実験手順の概要を示す流れ図である。(B)それぞれの評価ステップにおけるヒットの数ならびにDNA検証および免疫原性試験のための突然変異の選択のプロセスを示す。検証および免疫原性試験のために選択された突然変異は、免疫原性であると予測され、RPKM>10で発現された遺伝子中のものであった。(C)T細胞の新薬開発につながる突然変異をB16F10のゲノムにマッピングした。環は、外側から内側に向かって以下の部分組を表す:(1)すべてのトリプリケート中に存在する、(2)FDR<0.05を有する、(3)タンパク質コード領域中に位置する、(4)非同義の変化を引き起こす、(5)発現された遺伝子に局在化されている、および(6)検証した組中にある。マウス染色体(外側の円)、遺伝子密度(緑色)、遺伝子発現(緑色(低い)/黄色/赤(高い))、および体細胞突然変異(オレンジ色)。
図10】長い合成ペプチドを表す突然変異を用いたマウスのワクチン接種によってインビボで誘発された免疫応答(A、B)突然変異をコードしているペプチドでワクチン接種したマウスからのT細胞エフェクターのIFN-γ ELISPOT分析。コラムは1群あたり5匹のマウスの平均(±SEM)を表す。アステリスクは、突然変異および野生型ペプチドに対する反応性の統計的に有意な差を示す(スチューデントt-検定、p値<0.05)。(A)ワクチン接種したマウスの脾細胞を、ワクチン接種に使用する突然変異をコードしているペプチド、対応する野生型ペプチドおよび非関連の対照ペプチド(VSV-NP)を形質移入したBMDCで再刺激した。(B)内因的にプロセッシングされた突然変異に対するT細胞反応性を分析するために、ワクチン接種したマウスの脾細胞を、対照RNA(eGFP)または示した突然変異をコードしているRNAを形質移入したBMDCで再刺激した。(C)突然変異30(遺伝子Kif18B、タンパク質Q6PFD6、突然変異p.K739N)。突然変異のサンガーシーケンシングトレースおよび配列(上)。タンパク質ドメインおよび突然変異の位置(下)。
図11】攻撃的に成長しているB16F10腫瘍を有するマウスにおける突然変異ペプチドワクチンの抗腫瘍効果(A)C57BL/6マウス(n=7匹)に7.5×104個のB16F10細胞をマウスの側腹部内に皮下接種した。腫瘍接種後3および10日目に、マウスを100μgのMUT30またはMUT44ペプチド+50μgのポリ(I:C)またはアジュバント単独でワクチン接種した。(B)C57BL/6マウス(n=5匹)は-4日目に100μgのMUT30ペプチド+50μgのポリ(I:C)の1回の免疫化を受けた。0日目に、7.5×104個のB16F10細胞をマウスの側腹部内に皮下接種した。MUT30ペプチド(peptid)(+ポリ(I:C))を用いたブースター免疫化を2および9日目に行った。カプラン-マイヤー生存ブロット(左)。腫瘍成長の動力学(右)。
図12】突然変異をコードしているRNAを用いたワクチン接種はCD4+およびCD8+T細胞応答をもたらす突然変異をコードしているRNAでワクチン接種したマウスからのCD4+およびCD8+T細胞エフェクターにおける、IFN-γの細胞内サイトカイン染色分析データ。RNAは、1個(モノエピトープ、上段)、2個(バイエピトープ、中段)、または16個(ポリエピトープ、下段)の異なる突然変異をコードしていた。点は1群あたり3匹のマウスの平均を表す。アステリスクは、突然変異および対照ペプチド(VSV-NP)に対する反応性の統計的に有意な差を示す(スチューデントt-検定、p値<0.05)。FACSプロットはそれぞれの突然変異についてIFN-γ分泌が最も高い動物からのエフェクターを示し、T細胞応答の表現型を示す。
図13】突然変異をコードしているポリエピトープRNAを用いたワクチン接種は、いくつかの突然変異に対するT細胞応答(reponses)をもたらす16個の異なる突然変異を含めた、突然変異をコードしているポリエピトープでワクチン接種したマウスからのT細胞エフェクターのIFN-γ ELISPOT分析。コラムは1群あたり3匹のマウスの平均(±SEM)を表す。写真は、示したペプチドで再刺激した1匹の例示的な動物からの細胞のトリプリケートウェルを示す。
図14】1つのRNAによってコードされている5個の異なるモデルエピトープを用いたワクチン接種は、すべてのコードされているエピトープに対する免疫応答をもたらすA)5個の異なるモデルエピトープ(SIINFEKL、Trp2、VSV-NP、Inf-NP、OVAクラスII)を含めた、突然変異をコードしているモデルポリエピトープでワクチン接種したマウスからのT細胞エフェクターのIFN-γ ELISPOT分析。脾細胞を示したペプチドで再刺激した。スポットは1群あたり5匹のマウスからのトリプリケートウェルの平均を表す。B)1匹の対照マウスおよびモデルポリエピトープで免疫化した1匹のマウスの血液リンパ球の五量体染色。Inf-NP五量体で染色されたCD8+細胞はInf-NPペプチドに特異的である。
図15】CD4+T細胞誘導突然変異は、弱いCD8+T細胞エピトープと相乗作用して強力な抗腫瘍効果B16F10黒色腫を誘導することができるC57BL/6マウス(n=8匹)に1×105個のB16F10細胞をマウスの側腹部内に皮下接種した。腫瘍接種後3、10および17日目に、マウスを100μgのMUT30、Trp2または両方のペプチド+50μgのポリ(I:C)でワクチン接種した。A)それぞれの群の平均腫瘍成長動力学を示す。28日目に、単一処置群と未処置の動物と組合せ群との間の平均値は統計的に異なる(マン-ホイットニー検定、p値<0.05)。B)様々な群のカプラン-マイヤー生存プロット。MUT30およびMUT30+Trp2でワクチン接種したマウスの生存曲線は統計的に異なる(ログランク検定、p値=0.0029)。
図16】B16中で体細胞突然変異を発見するためのプロセスの概要個々のステップの数字は、1つのblack6試料と比較した1つのB16試料の一例として示す。「エクソン」とは、RefSeq転写物をコードしているすべてのタンパク質によって定義されるエクソン座標をいう。
図17】個々の、2つまたは3つすべてのソフトウェアツールによってそれぞれ見つかったタンパク質をコードしているエクソン中の体性変異の数を示す弁図フィルタリング後に数を計算し、3つすべての試料のコンセンサスを表す。
図18A】見つかった単一ヌクレオチド変異の例:3つすべてのB16試料中に見つかった体細胞突然変異(左)、すべてのB16およびblack6試料中に見つかった非体細胞突然変異(中央)および1つのblack6試料中のみに見つかった突然変異(右)。
図18B】検証された突然変異を選択したデータセットの計算したFDR分布。分布を平均推定ROC曲線として可視化し、灰色のバーが、均一にサンプリングした位置での両方の次元における平均の95%信頼区間を示す。平均は、すべての可能な18個の組合せのFDRの推定ROC曲線の分布から得た(本文参照)。
図19】A、3つの異なるソフトウェアツールの比較の推定ROC曲線(デュプリケート、38×カバレッジ)。B、様々な平均シーケンシング深度の比較の推定ROC曲線(samtools、複製なし)。38×は実験によって得られたカバレッジを示し、他のカバレッジはこのデータから開始してダウンサンプリングした。C、実験複製の効果を可視化する推定ROC曲線(38×カバレッジ、samtools)。D、様々なシーケンシングプロトコルの推定ROC曲線(samtools、複製なし)。曲線は、2×100ntのライブラリの結果を使用して計算した。
図20】A、最適なパラメータ組を使用して2396個の変異の最終組から選択した、最も低いFDRを有する10個の検証された突然変異。これらの突然変異はどれもdbSNP(バージョン128、ゲノムアセンブリmm9)中に存在しない。B、データセット中のすべての変異体および検証された突然変異について別々にプロットした、所定のFDRカットオフについてAと同じデータセット中で見つかる変異の相対量。視覚的な明確さのために、0~10%のFDRの値のみを示す。
図21】突然変異をコードしているポリエピトープRNAワクチンの抗腫瘍活性C57BL/6マウス(n=10匹)に1×105個のB16F10細胞をマウスの側腹部内に皮下接種した。腫瘍接種後3、6、10、17および21日目に、リポソームRNA形質移入試薬と配合したポリトープRNAをマウスにワクチン接種した。対照群はRNAなしのリポソームを受けた。図は様々な群のカプラン-マイヤー生存プロットを示す。生存曲線は統計的に異なる(ログランク検定、p値=0.0008)。
【0268】
(実施例)
本明細書中で使用する技法および方法は、本明細書中に記載されているか、またはそれ自体で知られている様式で、およびたとえばSambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、(1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク州Cold Spring Harborに記載されているように実施する。キットおよび試薬の使用を含めたすべての方法は、別段に具体的に示さない限りは製造者の情報に従って実施する。
【0269】
(実施例1)
突然変異の検出および優先順位づけ
本発明者らは、まず、体細胞突然変異を不偏的な様式で同定するために、腫瘍および正常試料の配列プロファイリングを実証する。本発明者らは、今回初めて、これをバルク腫瘍試料で実証するだけでなく、個々の循環腫瘍細胞からの突然変異も同定できることを実証する。次に、本発明者らは、突然変異の予測される免疫原性に基づいてポリ-ネオ-エピトープワクチン中に包含するために突然変異に優先順位をつけ、同定された突然変異が実際に免疫原性であることを実証する。
【0270】
突然変異の検出
CTCを使用する理論的根拠:癌患者の末梢血からの循環腫瘍細胞(CTC)の検出は、腫瘍の臨床経過の認められている独立した予後マーカーである(Pantelら、Trends Mol Med 2010;16(9):398~406頁)。長年の間、CTCの臨床的意義は腫瘍学における熱心な科学研究および臨床研究の対象であった。転移性乳房、前立腺および結腸直腸癌に罹患している患者の血液中のCTCの検出は予後関連性を有しており、従来のイメージング技法および他の予後腫瘍バイオマーカーに追加の情報を提供することが示されている。治療剤(全身性または標的化)による処置前、その処置の初期段階中、およびその処置後において患者から採取した経時的な血液試料は、処置の応答/失敗の情報を提供する。薬物耐性CTCの分子分析は、個々の患者における耐性機構(たとえば、特異的シグナル伝達経路中の突然変異または標的発現の損失)のさらなる識見を提供し得る。CTCのプロファイリングおよび遺伝的特徴づけからのさらなる可能性は、新しい標的療法を開発するための新規癌標的の同定である。この新診断的戦略は「液性腫瘍生検」と呼ばれる。このプロファイリングは素早く繰返し行うことができ、患者の血液のみを必要として手術を必要としないため、これは腫瘍状態の「リアルタイム」ビューを提供するであろう。
【0271】
腫瘍細胞からの突然変異:本発明者らは、B16黒色腫細胞を使用して突然変異を同定できること、タンパク質コード領域を抽出するためのエクソームの捕捉、本発明者らのHiSeq 2000を使用した次世代シーケンシング、次いで本発明者らの「iCAM」ソフトウェアパイプラインを使用した生物情報学分析を実証する(図1)。2448個の非同義突然変異を同定し、確認のために50個を選択した。50個すべての体細胞突然変異を確認することができた。
【0272】
以下は、B16黒色腫細胞中の発見された体細胞突然変異タンパク質インパクトの一例である。
Kif18b, NM_197959, exon 3
突然変異(+15 aa)
SPSKPSFQEFVDWENVSPELNSTDQPFLPS
野生型(+15 aa)
SPSKPSFQEFVDWEKVSPELNSTDQPFLPS
【0273】
個々の循環腫瘍細胞(CTC)からの突然変異:次に、本発明者らは、単一のCTCからのRNAのNGSプロファイリングから腫瘍に特異的な体細胞突然変異を同定することができた。標識したB16黒色腫細胞をマウスの尾部に静脈内注射し、マウスを屠殺し、血液を心臓から採取し、細胞を選別して標識した循環B16細胞(CTC)を回収し、RNAを抽出し、SMARTに基づくcDNA合成および非特異的増幅を行い、次いでNGS RNA-Seqアッセイおよび部分配列データ分析を行った(以下)。
【0274】
本発明者らは8個の個々のCTCをプロファイリングし、体細胞突然変異を同定した。さらに、8個中8個の細胞で、以前に同定された体細胞突然変異が同定された。複数の事例で、データは個々の細胞レベルで異種性を示した。たとえば、2番染色体上の位置144078227(アセンブリmm9)の遺伝子Snx15で、2つの細胞が参照ヌクレオチド(C)を示した一方で、2つの細胞が突然変異ヌクレオチド(T)を示した。
【0275】
このことは、個々のCTCをプロファイリングして体細胞突然変異を同定することができ、これが、患者が繰返しプロファイリングされ、その結果が以前の時点での状態ではなく現在の患者の状態を反映する、「リアルタイム」iVAC(個別化ワクチン)への基本的な道となることを実証している。さらに、このことは、腫瘍細胞の部分組中に存在する異種体細胞突然変異を同定することができ、主要な突然変異および稀な突然変異を同定するためなどの突然変異の頻度の評価が可能となることを実証している。
【0276】
方法
試料:プロファイリング実験では、試料には、C57BL/6マウス(「Black6」)からの5~10mmの尾部試料、および元々はBlack6マウスに由来する高度に攻撃的なB16F10ネズミ黒色腫細胞(「B16」)が含まれていた。
【0277】
蛍光標識したB16黒色腫細胞を使用して循環腫瘍細胞(CTC)を作製した。B16細胞をPBSに再懸濁させ、等体積の新鮮に調製したCFSE溶液(PBS中に5μM)を細胞に加えた。試料を渦撹拌によって穏やかに混合し、次いで10分間、室温でインキュベーションした。標識反応を停止させるために、20%のFSCを含有する等量のPBSを試料に加え、渦撹拌によって穏やかに混合した。20分間、室温でのインキュベーションの後、PBSを使用して細胞を2回洗浄した。最後に、細胞をPBSに再懸濁させ、マウスに静脈内(i.v.)注射した。3分後、マウスを屠殺し、血液を採取した。
【0278】
100μlの血液あたり1.5mlの新鮮に調製したPharmLyse Solution(Beckton Dickinson)を加えることによって、血液試料からの赤血球を溶解した。1回の洗浄ステップの後、7-AADを試料に加え、5分間、室温でインキュベートした。インキュベーションに次いで2回の洗浄ステップを行い、試料を500μlのPBSに再懸濁させた。
【0279】
CFSEで標識した循環B16細胞をAria I細胞選別器(BD)で選別した。単一細胞は、50μl/ウェルのRLT緩衝液(Quiagen)で調製した96ウェルのv字底プレート(plated)上で選別した。選別の終了後、核酸抽出および試料の調製が開始されるまでプレートを-80℃で保管した。
【0280】
核酸抽出および試料の調製:B16細胞(DNAおよびRNA)ならびにBlack6尾部組織(DNA)からの核酸を、Qiagen DNeasy血液および組織キット(Blood and Tissue kit)(DNA)ならびにQiagen RNeasyマイクロキット(Micro kit)(RNA)を使用して抽出した。
【0281】
個々の選別されたCTCについて、RNAを抽出し、SMARTに基づくcDNA合成および非特異的増幅を行った。選別されたCTC細胞からのRNAを、RNeasyマイクロキット(Qiagen、ドイツ、Hilden)を用いて供給者の指示に従って抽出した。改変BD SMARTプロトコルをcDNA合成に使用した。第1鎖合成反応の初回刺激のためにMint逆転写酵素(Mint Reverse Transcriptase)(Evrogen、ロシア、Moscow)を、オリゴ(dT)-T-プライマーロングおよびオリゴ(リボG)配列を導入するTS-ショート(Eurogentec S.A.、ベルギー、Seraing)と組み合わせて、逆転写酵素の末端トランスフェラーゼ活性による拡張鋳型の作製および鋳型スイッチを可能にした[Chenchik, A., Y.ら、1998. Generation and use of high quality cDNA from small amounts of total RNA by SMART PCR.、Gene Cloning and Analysis by RT-PCR.、P. L. J. Siebert編、BioTechniques Books、マサチューセッツ州Natick. 305~319頁]。製造者の指示に従って合成された第1鎖cDNAを、5UのPfuUltraホットスタート高忠実度DNAポリメラーゼ(PfuUltra Hotstart High-Fidelity DNA Polymerase)(Stratagene、カリフォルニア州La Jolla)および0.48μMのプライマーTS-PCRプライマーを用いた、200μMのdNTPの存在下における35回の増幅サイクルに供した(サイクリング条件:95℃で2分間、94℃で30秒間、65℃で30秒間、72℃で1分間、72℃で6分間の最終伸長)。CTC遺伝子の増幅の成功は、特異的プライマーで制御してアクチンおよびGAPDHを監視した。
【0282】
次世代シーケンシング、DNAシーケンシング:この事例ではすべてのマウスタンパク質コード領域を捕捉するために設計されたAgilent Sure-Select溶液に基づく捕捉アッセイを使用して[Gnirke Aら、Solution hybrid selection with ultra-long oligonucleotides for massively parallel targeted sequencing. Nat Biotechnol 2009、27:182~189頁]、DNA再シーケンシングのためのエクソームの捕捉を行った。
【0283】
手短に述べると、Covaris S2超音波装置を使用して3ugの精製ゲノムDNAを150~200bpに断片化した。gDNA断片を、T4 DNAポリメラーゼ、クレノウDNAポリメラーゼを使用して末端修復し、T4ポリヌクレオチドキナーゼを使用して5'リン酸化した。平滑末端化されたgDNA断片を、クレノウ断片を使用して3'アデニル化した(3'から5'エキソマイナス)。T4 DNAリガーゼを使用して、3'単一T-オーバーハングIllumina対合末端アダプターとgDNA断片とを、10:1のアダプター:ゲノムDNA挿入物のモル比を使用してライゲーションさせた。アダプターとライゲーションしたgDNA断片を捕捉前に濃縮し、Illumina PE PCRプライマー1.0および2.0ならびにHerculase IIポリメラーゼ(Agilent)を使用して、4回のPCRサイクルを使用してフローセル特異的配列を付加した。
【0284】
500ngのアダプターがライゲーションされたPCR濃縮gDNA断片を、AgilentのSureSelectビオチン標識マウス全エクソームRNAライブラリベイトと24時間65℃でハイブリダイズさせた。ハイブリダイズしたgDNA/RNAベイト複合体を、ストレプトアビジンでコーティングした磁気ビーズを使用して除去した。gDNA/RNAベイト複合体を洗浄し、SureSelect溶出緩衝液中での溶出中にRNAベイトを切断して、捕捉されたアダプターにライゲーションされたPCR濃縮したgDNA断片が残った。Herculase II DNAポリメラーゼ(Agilent)およびSureSelect GA PCRプライマーを10サイクル使用して、gDNA断片を捕捉後にPCR増幅した。
【0285】
すべてのクリーンアップは1.8×体積のAMPure XP磁気ビーズ(Agencourt)を使用して行った。すべての品質管理はInvitrogenのQubit HSアッセイを使用して行い、断片の大きさはAgilentの2100 Bioanalyzer HS DNAアッセイを使用して決定した。
【0286】
エクソームが濃縮されたgDNAライブラリをcBot上でTruseq SRクラスターキットv2.5を使用して7pMを使用してクラスタリングし、50bpをIllumina HiSeq2000上でTruseq SBSキット-HS 50bpを使用してシーケンシングした。
【0287】
次世代シーケンシング、RNAシーケンシング(RNA-Seq):バーコードmRNA-seq cDNAライブラリを、5ugの全RNAからIllumina mRNA-seqプロトコルの改変版を使用して調製した。mRNAはSeramagオリゴ(dT)磁気ビーズ(Thermo Scientific)を使用して単離した。単離したmRNAを二価陽イオンおよび熱を使用して断片化し、160~220bpの範囲の断片が生じた。ランダムプライマーおよびSuperScriptII(Invitrogen)を使用して断片化したmRNAをcDNAへと変換し、次いでDNAポリメラーゼIおよびRNaseHを使用して第2鎖を合成した。cDNAを、T4 DNAポリメラーゼ、クレノウDNAポリメラーゼを使用して末端修復し、T4ポリヌクレオチドキナーゼを使用して5'リン酸化した。平滑末端化されたcDNA断片を、クレノウ断片を使用して3'アデニル化した(3'から5'エキソマイナス)。T4 DNAリガーゼを使用して、3'単一T-オーバーハングIllumina多重特異的アダプターを、10:1のアダプター:cDNA挿入物のモル比を使用してライゲーションさせた。
【0288】
cDNAライブラリを精製し、E-Gelの2%SizeSelectゲル(Invitrogen)を使用して200~220bpでサイズ選択した。濃縮、Illumina六塩基インデックスおよびフローセル特異的配列の付加は、PCRによってPhusion DNAポリメラーゼ(Finnzymes)を使用して行った。すべてのクリーンアップは1.8×体積のAgencourt AMPure XP磁気ビーズを使用して行った。すべての品質管理はInvitrogenのQubit HSアッセイを使用して行い、断片の大きさはAgilentの2100 Bioanalyzer HS DNAアッセイを使用して決定した。
【0289】
バーコードRNA-SeqライブラリをcBot上でTruseq SRクラスターキットv2.5を使用して7pMを使用してクラスタリングし、50bpをIllumina HiSeq2000上でTruseq SBSキット-HS 50bpを使用してシーケンシングした。
【0290】
CTC:CTCのRNA-Seqプロファイリングでは、500~700ngのSMART増幅したcDNAを使用したこのプロトコルの改変版を使用し、対合末端アダプターをライゲーションさせ、Illumina PE PCRプライマー1.0および2.0を使用してPCR濃縮を行った。
【0291】
NGSデータ分析、遺伝子発現:発現値を決定するために、Illumina HiSeq 2000からのRNA試料からの出力配列の読取りをIllumina標準プロトコルに従って前処理した。これには低品質の読取りのフィルタリングおよび脱多重化が含まれる。RNA-Seqトランスクリプトーム分析では、ゲノムアラインメントにはパラメータ「-v2-best」を使用し、転写物アラインメントには初期設定パラメータを使用して、bowtie(バージョン0.12.5)[Langmead B.ら、Ultrafast and memory-efficient alignment of short DNA sequences to the human genome. Genome Biol 10:R25]を使用して配列の読取りを参照ゲノム配列とアラインメントした[Mouse Genome Sequencing Consortium. Initial sequencing and comparative analysis of the mouse genome. Nature、420、520~562頁(2002)]。アラインメント座標をRefSeq転写物のエクソン座標と比較し[Pruitt KD.ら、NCBI Reference Sequence (RefSeq): a curated non-redundant sequence database of genomes, transcripts and proteins. Nucleic Acids Res. 2005年1月1日;33(Database issue):D501~4頁]、それぞれの転写物について、重複するアラインメントの数を記録した。ゲノム配列とアラインメント可能でない配列の読取りは、RefSeq転写物のすべての可能なエクソン-エクソン接合部配列のデータベースとアラインメントした。スプライス接合部とアラインメントする読取りの数は以前のステップで得られたそれぞれの転写物数と合計し、それぞれの転写物についてRPKM(マッピングされる読取りの数/1キロ塩基のエクソンモデル/百万個のマッピングされた読取り[Mortazavi, A.ら(2008). Mapping and quantifying mammalian transcriptomes by rna-seq. Nat Methods、5(7):621~628頁])に対して正規化した。遺伝子発現およびエクソン発現の値はどちらも、それぞれの遺伝子またはエクソンと重複する読取りの正規化数に基づいてそれぞれ計算した。
【0292】
突然変異発見、バルク腫瘍:bwa(バージョン0.5.8c)を使用して[Li H.およびDurbin R.(2009) Fast and accurate short read alignment with Burrows-Wheeler Transform. Bioinformatics、25:1754~60頁]、初期設定オプションを使用して、Illumina HiSeq 2000からの50ntの単一末端の読取りを参照マウスゲノムアセンブリmm9とアラインメントした。曖昧な読取り-ゲノムの複数の位置にマッピングされる読取り-を除去し、残りのアラインメントを選別し、インデックスをつけ、バイナリ圧縮形式(BAM)に変換し、シェルスクリプトを使用して読取り品質スコアをIllumina標準phred+64から標準のサンガー品質スコアへと変換した。
【0293】
それぞれのシーケンシングレーンについて、samtools(バージョン0.1.8)[Li H.、Improving SNP discovery by base alignment quality. Bioinformatics. 2011年4月15日;27(8):1157~8頁. Epub 2011年2月13日]、GATK(バージョン1.0.4418)[McKenna A.ら、The Genome Analysis Toolkit: a MapReduce framework for analyzing next-generation DNA sequencing data. Genome Res. 2010年9月;20(9):1297~303頁. Epub 2010年7月19日]、およびSomaticSniper(http://genome.wustl.edu/software/somaticsniper)を含めた3つのソフトウェアプログラムを使用して突然変異を同定した。samtoolsでは、1ラウンド目のフィルタリング、最大カバレッジ200を含めた、著者に推奨されるオプションおよびフィルター基準を使用した。samtoolsの2ラウンド目のフィルタリングでは、最低インデル品質(qualtify)スコアは50であり、点突然変異の最低品質は30であった。GATK突然変異の呼出し(calling)では、GATKのユーザ手引きに提示されている、著者によって設計された最良の実施の指針に従った(http://www.broadinstitute.org/gsa/wiki/index.php/The_Genome_Analysis_Toolkit)。変異体スコア再較正ステップは省略し、ハードフィルタリングオプションによって置き換えた。SomaticSniper突然変異の呼出しでは、初期設定オプションを使用し、30以上の「ソマティックスコア」を有する予測された突然変異のみをさらに検討した。
【0294】
突然変異発見、CTC:バルク腫瘍のiCAMプロセスと同様に、bwa(バージョン0.5.8c)を使用して[5])、初期設定オプションを使用して、Illumina HiSeq 2000からの50ntの単一末端の読取りを参照マウスゲノムアセンブリmm9とアラインメントした。CTCのNGSの読取りはRNA-Seqアッセイに由来していたため、bowtie(上記)を使用して、読取りをエクソン-エクソン接合部を含めたトランスクリプトーム配列ともアラインメントした。すべてのアラインメントを使用して、読取りからのヌクレオチド配列を参照ゲノムおよびバルク腫瘍に由来するB16突然変異の両方と比較した。同定された突然変異は、パールスクリプトおよび手動の両方を使用して、ソフトウェアプログラムsamtoolsおよびIGV(Integrated Genome Viewer)を使用して評価して、結果をイメージングした。
【0295】
「突然変異発見」の出力は、試料からNGSデータから突然変異のリストへの、腫瘍細胞中の体細胞突然変異の同定である。B16試料では、エクソーム再シーケンシングを使用して2448個の体細胞突然変異が同定された。
【0296】
突然変異の優先順位づけ
次に、ワクチン包含のための突然変異の優先順位づけパイプラインの可能性を実証する。「個々の癌突然変異検出のパイプライン」(iCAM)と呼ばれるこの方法は、複数の最先端のアルゴリズムおよび生物情報学的方法を取り込んだ一連のステップによって、体細胞突然変異を同定および優先順位づけする。このプロセスの出力は、可能性のある免疫原性に基づいて優先順位がつけられた体細胞突然変異のリストである。
【0297】
体細胞突然変異の同定:B16およびBlack6試料(突然変異発見、上記)の両方について、3つの異なるアルゴリズムを使用して突然変異を同定する。最初のiCAMステップは、それぞれのアルゴリズムからの出力リストを合わせて体細胞突然変異の信頼度の高いリストを作成することである。GATKおよびsamtoolsは、参照ゲノムと比較した1つの試料中の変異体を報告する。所定の試料(すなわち腫瘍または正常)について偽陽性の少ない信頼度の高い突然変異を選択するために、すべての複製中で同定される突然変異を選択する。その後、腫瘍試料中には存在するが正常試料中には存在しない変異体を選択する。SomaticSniperは、腫瘍および正常のデータの対から潜在的な体性変異を自動的に報告する。複製から得られた結果の交差を通して結果をさらにフィルタリングする。可能な限り多くの偽陽性の呼出しを除去するために、3つすべてのアルゴリズムおよびすべての複製を使用することから誘導した突然変異のリストを交差させた。それぞれの体細胞突然変異の最終ステップは、カバレッジ深度、SNP品質、コンセンサス品質およびマッピング品質に基づいて、それぞれの突然変異について信頼度値(p値)を割り当てることである。
【0298】
突然変異インパクト:フィルタリング、コンセンサス、体細胞突然変異のインパクトは、iCaM突然変異パイプライン内のスクリプトによって決定される。第1に、一部のタンパク質パラログおよび擬似遺伝子で起こるものなどの、ゲノム内で固有でないゲノム領域中に存在する突然変異を分析から排除し、同様に、複数の位置とアラインメントする配列の読取りも除去する。第2に、突然変異が転写物中に存在するかどうかを決定する。第3に、突然変異がタンパク質コード領域中に存在するかどうかを決定する。第4に、突然変異を有するおよび有さない転写配列を翻訳して、アミノ酸配列に変化があるかどうかを決定する。
【0299】
突然変異の発現:iCAMパイプラインは、遺伝子中で見つかる体細胞突然変異および腫瘍細胞中で発現されるエクソンを選択する。発現レベルは腫瘍細胞のNGS RNA-Seq(上記)によって決定される。遺伝子およびエクソンで重複する読取りの数が発現レベルを示す。これらの計数をRPKM(読取り/1キロ塩基のエクソンモデル/百万個のマッピングされた読取り、[Mortazavi A.ら、Mapping and quantifying mammalian transcriptomes by RNA-Seq. Nat Methods. 2008年7月;5(7):621~8頁. Epub 2008年5月30日])に対して正規化し、10RPKMを超えて発現されたものを選択する。
【0300】
MHC結合:突然変異ペプチドを含有するエピトープがMHC分子と結合する可能性を決定するために、iCAMパイプラインは、免疫エピトープデータベース(http://www.iedb.org/)からのMHC予測ソフトウェアの改変版を実行する。ローカルインストレーションにはアルゴリズムを通るデータフローを最適化する改変が含まれる。B16およびBlack6データでは、すべての利用可能なblack6 MHCクラスI対立遺伝子およびそれぞれのペプチド長さのすべてのエピトープを使用して予測を実行した。すべてのMHC対立遺伝子および突然変異と重複するすべての潜在的なエピトープを考慮して、IEDBトレーニングデータ(http://mhcbindingpredictions.immuneepitope.org/dataset.html)の予測スコア分布の95パーセンタイル内に順位づけられたエピトープの範囲内にある突然変異を選択する。
【0301】
突然変異の選択基準:体細胞突然変異は以下の基準によって選択した:a)固有の配列含有率を有する、b)3つすべてのプログラムによって同定される、c)高い突然変異信頼度、d)非同義タンパク質変化、e)高い転写物の発現、f)および好都合なMHCクラスI結合予測。
【0302】
このプロセスの出力は、可能性のある免疫原性に基づいて優先順位をつけた体細胞突然変異のリストである。B16黒色腫細胞には2448個の体細胞突然変異が存在する。これらの突然変異のうち、1247個が遺伝子転写物中に見つかる。これらのうち、734個が非同義タンパク質変化を引き起こす。これらのうち、149個が腫瘍細胞中で発現される遺伝子中にある。これらのうち、これらの102個が発現され、非同義突然変異がMHC分子上に提示されると予測される。その後、これら102個の可能性のある免疫原性突然変異を突然変異の確認(以下)に送る。
【0303】
突然変異の確認
DNAエクソーム再シーケンシングからの体細胞突然変異は、突然変異領域の再シーケンシングおよびRNA-Seq分析の2つの方法のうちのどちらかによって確認した。
【0304】
再シーケンシングによる突然変異の確認には、突然変異を含有するゲノム領域を50ngの腫瘍DNAおよび正常な対照DNAの両方からの標準PCRによって増幅した。増幅産物の大きさは150~400個のヌクレオチドの範囲であった。反応の特異性はPCR産物をQiaxel装置(Qiagen)上に載せることによって制御した。PCR産物、minElute PCR精製キット(Qiagen)を使用して精製した。特異的PCR産物は、標準のサンガーシーケンシング方法(Eurofins)、次いで電気泳動図分析を使用してシーケンシングした。
【0305】
また、突然変異の確認は腫瘍RNAの検査によっても達成した。腫瘍遺伝子およびエクソンの発現値は、転写物にマッピングされたヌクレオチド配列を生じるRNA-Seq(RNAのNGS)から生成し、計数した。本発明者らは、腫瘍試料中の突然変異を同定するために配列データ自体を検査し[Berger MF.ら、Integrative analysis of the melanoma transcriptome. Genome Res. 2010年4月;20(4):413~27頁. Epub 2010年2月23日]、DNAに由来する同定された体細胞突然変異の独立した確認をもたらした。
【0306】
【表1A】
【0307】
【表1B】
【0308】
(実施例2)
IVAC選択アルゴリズムが免疫原性突然変異の検出を可能にする
特異的T細胞応答をB16F10黒色腫細胞からの確認された突然変異に対して誘導できるかどうかを調査するために、ナイーブC57BL/6マウス(n=5匹/ペプチド)に、皮下で、突然変異または野生型アミノ酸配列のどちらかを含む100μgのペプチド(+50μgのポリI:C、アジュバントとして)(Table 2(表2)を参照)で2回免疫化した(d0、d7)。すべてのペプチドは27個のアミノ酸の長さを有しており、突然変異/野生型アミノ酸は中央に位置していた。12日目にマウスを屠殺し、脾臓細胞を収集した。読み取り方法として、5×105個の脾臓細胞/ウェルをエフェクターとして使用し、ペプチドをロードした5×104個の骨髄樹状細胞(2μg/ml)を標的細胞として使用して、IFNγ ELISpotを行った。エフェクター脾臓細胞を突然変異ペプチド、野生型ペプチドおよび対照ペプチド(水疱性口内炎ウイルス核タンパク質、VSV-NP)に対して試験した。
【0309】
試験した44個の配列において、そのうちの6個が突然変異配列に向けられたT細胞免疫のみを誘導し、野生型ペプチドに向けられたものを誘導しなかったことが観察された(図3)。
【0310】
データは、同定および優先順位づけした突然変異を利用して、抗原ナイーブマウスにおいてペプチドワクチンとして利用した後に腫瘍特異的T細胞免疫を誘導できることを証明している。
【0311】
【表2】
【0312】
(実施例3)
同定された突然変異は治療的抗腫瘍免疫を提供することができる
同定された突然変異が、ナイーブマウスへのワクチン接種後に抗腫瘍免疫を与える可能性を有するかどうかを検証するために、本発明者らは、この質問を、突然変異に選択的なT細胞反応性を誘導することが示された突然変異30番のペプチドを用いて調査した。d0にB16F10細胞(7.5×104個)を皮下接種した。-4日目、+2日目、および+9日目にマウスにペプチド30(table 1(表1)を参照、100μgのペプチド+50μgのポリI:C、皮下)をワクチン接種した。対照群はポリI:Cのみ(50μg、皮下)を受けた。腫瘍成長を隔日で監視した。+16日目に、ペプチドワクチン群中の5匹のうち1匹のマウスのみが腫瘍を発生した一方で、対照群では5匹のうち4匹のマウスが腫瘍成長を示したことが観察された。
【0313】
データは、B16F10特異的突然変異を取り込んだペプチド配列が、腫瘍細胞を効率的に破壊することができる抗腫瘍免疫を与えることができることを証明している(図4を参照)。B16F10は非常に攻撃的な腫瘍細胞系であるため、突然変異を同定および優先順位づけするために適用された方法が、それ自体で既にワクチンとして強力である突然変異の選択を最終的にもたらしたという発見は、プロセス全体の重要な概念証明である。
【0314】
(実施例4)
ポリエピトープ抗原提示を支持するデータ
患者のタンパク質コード領域からの検証された突然変異は、RNAワクチンのGMP製造のための前駆体として使用するポリ-ネオエピトープワクチン鋳型のアセンブリのためにそこから候補を選択することができる、プールを構成する。ワクチン主鎖としての適切なベクターカセットは既に記載されている(Holtkamp, S.ら、Blood、108:4009~4017頁、2006、Kreiter, S.ら、Cancer Immunol. Immunother.、56:1577~1587頁、2007、Kreiter, S.ら、J. Immunol.、180:309~318頁、2008)。好ましいベクターカセットは、そのコードおよび非翻訳領域(UTR)が修飾されており、コードされているタンパク質の長期間における最大限の翻訳を確実にする(Holtkamp, S.ら、Blood、108:4009~4017頁、2006、Kuhn, A. N.ら、Gene Ther.、17:961~971頁、2010)。さらに、ベクター主鎖は細胞毒性およびヘルパーT細胞を同時拡大するための抗原ルーティングモジュールを含有する(Kreiter, S.ら、Cancer Immunol. Immunother.、56:1577~1587頁、2007、Kreiter, S.ら、J. Immunol.、180:309~318頁、2008、Kreiter, S.ら、Cancer Research、70(22)、9031~9040頁、2010)(図5)。重要なことに、本発明者らは、そのようなRNAワクチンを使用して複数のMHCクラスIおよびクラスIIエピトープを同時に提示させ得ることを証明した。
【0315】
IVACポリ-ネオエピトープRNAワクチン配列は、中央に突然変異が含まれる30個までのアミノ酸のストレッチから構築される。これらの配列は短いリンカーを介して頭-尾で連結されて、30個まで以上の選択された突然変異およびその隣接領域をコードしているポリ-ネオエピトープワクチンを形成する。これらの患者に特異的な個々に特化された挿入物は、コドン最適化し、上述のRNA主鎖内にクローニングする。そのようなコンストラクトの品質管理には、機能的転写および翻訳の検証のための細胞内でのインビトロ転写および発現が含まれる。翻訳の分析はC末端標的化ドメインに対する抗体を用いて行う。
【0316】
(実施例5)
RNAポリ-ネオエピトープコンストラクトの科学的概念の証明
RNAポリ-ネオエピトープの概念は、リンカー配列によって連結された、突然変異ペプチドをコードしている順次配置された配列からなる長いインビトロ転写mRNAに基づく(図6を参照)。コード配列は非同義突然変異から選択され、常に元の配列構成からの30~75塩基対の領域が隣接した突然変異アミノ酸のコドンから構築されている。リンカー配列は、優先的には、細胞の抗原プロセッシング機構によってプロセッシングされないアミノ酸をコードしている。インビトロ転写コンストラクトは、RNAの安定性および翻訳効率を増加させ、したがってコードされている抗原のT細胞刺激能力を亢進させることが示されている、T7プロモーター、タンデムベータ-グロビン3'UTR配列および120bpのポリ(A)テイルを含有するpST1-A120ベクターに基づく(Holtkamp S.ら、Blood 2006;PMID:16940422)。さらに、エピトープをクローニングするための、ポリ-リンカー配列に隣接する停止コドンを含めたMHCクラスIシグナルペプチド断片ならびに膜貫通およびサイトゾルドメイン(MHCクラスI輸送シグナルすなわちMITD)を挿入した(Kreiter S.ら、J. Immunol.、180:309~318頁、2008)。後者は、抗原提示を増加させ、したがって抗原特異的CD8+およびCD4+T細胞の拡大を亢進させ、エフェクター機能を改善することが示されている。
【0317】
最初の概念証明には、バイエピトープベクター、すなわち2つの突然変異したエピトープを含有する1つのポリペプチドをコードしているものを使用した。商業的供給者(Geneart、ドイツ、Regensburg)によって、(i)20~50個のアミノ酸の突然変異したエピトープ、(ii)グリシン/セリンに富んだリンカー、(iii)20~50個のアミノ酸の第2の突然変異したエピトープ、および(iv)上述のpST1に基づくコンストラクト内にクローニングするための制限エンドヌクレアーゼの適切な認識部位が隣接した、さらなるグリシン/セリンに富んだリンカーをコードしているコドン最適化した配列を設計し、合成した。配列の確認後、これらを、pST1に基づくベクター主鎖内にクローニングして、図6に示すコンストラクトを得た。
【0318】
上述のpST1-A120に基づくプラスミドを、クラスII制限エンドヌクレアーゼを用いて直鎖状にした。直鎖状にしたプラスミドDNAをフェノールクロロホルム抽出およびエタノール沈殿によって精製した。直鎖状にしたベクターDNAを分光光度計により定量し、本質的にPokrovskayaおよびGurevich(1994、Anal. Biochem. 220:420~423頁)に記載されているようにインビトロ転写に供した。cap類似体を転写反応に加えて、対応して修飾された5'-cap構造を有するRNAを得た。反応中、GTPは1.5mMで存在し、cap類似体は6.0mMで存在していた。すべての他のNTPは7.5mMで存在していた。転写反応の終わりに、直鎖状にしたベクターDNAを、0.1U/μlのTURBO DNase(Ambion、米国テキサス州Austin)を用いて15分間、37℃で消化した。MEGAclearキット(Ambion、米国テキサス州Austin)を使用し、製造者のプロトコルに従って、RNAをこれらの反応から精製した。RNAの濃度および品質は、分光光度法および2100 Bioanalyzer(Agilent、米国カリフォルニア州Santa Clara)での分析によって評価した。
【0319】
突然変異アミノ酸を取り込んでおり、リンカー配列が5'-および3'-位に隣接している配列が抗原特異的T細胞によってプロセッシング、提示および認識され得ることを証明するために、本発明者らは、ペプチドワクチン接種したマウスからのT細胞をエフェクター細胞として使用した。IFNγ ELISpotにおいて、上述のペプチドワクチン接種によって誘導されたT細胞がペプチドでパルスした(2μg/mlで2時間、37℃および5%のCO2)、または電気穿孔によってRNAを形質移入した(20μg、上述のように生成)どちらかの標的細胞(骨髄樹状細胞、BMDC)を認識できるかどうかを試験した。図7に例示したように、突然変異12および30(table 2(表2)を参照)では、RNAコンストラクトが突然変異特異的T細胞によって認識されるエピトープを生じさせ得ることを観察することができた。
【0320】
提供したデータを用いて、グリシン/セリンに富んだリンカーが含まれるRNAにコードされたポリ-ネオエピトープが抗原提示細胞内で翻訳およびプロセッシングされ、抗原特異的T細胞によって認識される正しいエピトープの提示をもたらし得ることを実証することができた。
【0321】
(実施例6)
ポリ-ネオエピトープワクチンの設計-リンカーの関連性
ポリ-ネオエピトープRNAコンストラクトは、リンカーペプチド配列と連結した複数の体細胞突然変異をコードしているペプチドがそれ内に配置される主鎖コンストラクトを含有する。主鎖によるコドンの最適化ならびに増加したRNAの安定性および翻訳効率に加えて、RNAポリ-ネオエピトープワクチンの一実施形態は、抗原ペプチドのMHCクラスIおよびII提示を増加させ、有害エピトープの提示を減少させるように設計されたリンカーを含有する。
【0322】
リンカー:リンカー配列は、複数の突然変異含有ペプチドを連結するように設計されている。リンカーは、突然変異エピトープの作製および提示を可能にする一方で、近接ペプチド間またはリンカー配列と内在性ペプチドとの間の接合部縫合で作製されたものなどの有害エピトープの作製を妨げるべきである。これらの「接合部」エピトープは、細胞表面上に提示させる意図するエピトープと競合してワクチンの有効性を減少させ得るだけでなく、所望しない自己免疫反応を生じる可能性がある。したがって、本発明者らは、リンカー配列を、a)MHC分子と結合する「接合部」ペプチドの作製を回避する、b)「接合部」ペプチドを作製するプロテアソームプロセッシングを回避する、c)プロテアソームによって効率的に翻訳およびプロセッシングされるように設計した。
【0323】
MHC分子と結合する「接合部」ペプチドの作製を回避するために、本発明者らは様々なリンカー配列を比較した。グリシン、たとえば、MHC結合溝位置で強力な結合を阻害する[Abastado JP.ら、J Immunol. 1993年10月1日;151(7):3569~75頁]。本発明者らは、複数のリンカー配列および複数のリンカー長を検査し、MHC分子と結合する「接合部」ペプチドの数を計算した。免疫エピトープデータベース(IEDB、http://www.immuneepitope.org/)からのソフトウェアツールを使用して、所定のペプチド配列がMHCクラスI分子と結合するリガンドを含有する可能性を計算した。
【0324】
B16モデルでは、MHCクラスI分子上に提示されると予測された、102個の発現された非同義体細胞突然変異を同定した。50個の確認された突然変異を使用して、本発明者らはリンカーを使用しないことまたは様々なリンカー配列の使用のどちらかを含めた様々なワクチンコンストラクトをコンピュータにより設計し、IEDBアルゴリズムを使用して有害な「接合部」ペプチドの数を計算した(図8)。
【0325】
Table 5(表5)は、いくつかの異なるリンカー、異なるリンカー長、ならびにリンカーの使用なしおよび5個のリンカーの結果を示す。MHC結合性接合部ペプチドの数の範囲は、9および10個のアミノ酸のエピトープ予測では2~91個であった(上および中央)。リンカーの大きさは接合部ペプチドの数に影響を与える(下)。この配列では、最も少ない9個のアミノ酸のエピトープが7個のアミノ酸のリンカー配列GGSGGGGで予測される。
【0326】
また、実験的に試験したRNAポリ-ネオエピトープワクチンコンストラクト中で使用したリンカー1およびリンカー2(以下を参照)も、好都合に少ない数の予測された接合部ネオエピトープを有していた。これは9量体および10量体の予測にもあてはまる。
【0327】
このことは、リンカーの配列が不良のMHC結合エピトープの作製に非常に重要であることを実証している。さらに、リンカー配列の長さが不良のMHC結合エピトープの数に影響を与える。本発明者らは、Gに富んだ配列がMHC結合リガンドの作製を妨げることを見出した。
【0328】
【表3】
【0329】
【表4】
【0330】
【表5】
【0331】
「接合部」ペプチドを作製し得るプロテアソームプロセッシングを回避するために、リンカー中で様々なアミノ酸を使用することを探索した。グリシンに富んだ配列はプロテアソームプロセッシングを損なわせる[Hoyt MAら(2006). EMBO J 25(8):1720~9頁、Zhang M.およびCoffino P.(2004) J Biol Chem 279(10):8635~41頁]。したがって、グリシンに富んだリンカー配列は、プロテアソームによってプロセッシングされ得るリンカー含有ペプチドの数を最小限にするように作用する。
【0332】
リンカーは、突然変異含有ペプチドがプロテアソームによって効率的に翻訳およびプロセッシングされることを可能にするべきである。アミノ酸グリシンおよびセリンは柔軟であり[Schlessinger AおよびRost B.、Proteins. 2005年10月1日;61(1):115~26頁]、それらをリンカー中に含めることでより柔軟なタンパク質がもたらされる。本発明者らは、タンパク質柔軟性を増加させるためにグリシンおよびセリンをリンカー内に取り込ませ、これは、プロテアソームによるより効率的な翻訳およびプロセッシングを可能にし、立ち代ってこれはコードされている抗原ペプチドへのより良好なアクセスを可能にするはずである。
【0333】
したがって、リンカーは、MHC結合不良エピトープの作製を妨げるためにグリシンに富んでいるべきであり、プロテアソームがリンカーペプチドをプロセッシングする能力を妨げるべきであり(これはグリシンを包含することで達成することができる)、突然変異含有ペプチドへのアクセスを増加させるために柔軟であるべきである(これはグリシンおよびセリンアミノ酸の組合せによって達成することができる)。したがって、本発明のワクチンコンストラクトの一実施形態では、配列GGSGGGGSGGおよびGGSGGGSGGSが好ましくはリンカー配列として含まれる。
【0334】
(実施例7)
RNAポリ-ネオエピトープワクチン
RNAポリ-ネオエピトープワクチンコンストラクトは、RNAの安定性および翻訳効率を増加させ、したがってコードされている抗原のT細胞刺激能力を亢進させることが示されている、T7プロモーター、タンデムベータ-グロビン3'UTR配列および120bpのポリ(A)テイルを含有するpST1-A120ベクターに基づく((Holtkamp S.ら、Blood 2006;PMID:16940422)。さらに、エピトープをクローニングするための、ポリ-リンカー配列に隣接する停止コドンを含めたMHCクラスIシグナルペプチド断片ならびに膜貫通およびサイトゾルドメイン(MHCクラスI輸送シグナルすなわちMITD)を挿入した(Kreiter S.ら、J. Immunol.、180:309~318頁、2008)。後者は、抗原提示を増加させ、したがって抗原特異的CD8+およびCD4+T細胞の拡大を亢進させ、エフェクター機能を改善することが示されている。
【0335】
B16F10の50個の同定および検証された突然変異のRNAポリ-ネオエピトープコンストラクトを提供するために、3つのRNAコンストラクトを作製した。コンストラクトは(i)25個のアミノ酸の突然変異したエピトープ、(ii)グリシン/セリンに富んだリンカー、(iii)突然変異したエピトープ配列の反復、次いでグリシン/セリンに富んだリンカーをコードしている、コドン最適化した配列からなる。突然変異したエピトープ含有配列およびリンカーの鎖には、上述のpST1に基づくコンストラクト内にクローニングするための制限エンドヌクレアーゼの適切な認識部位が隣接している。ワクチンコンストラクトはGENEARTによって設計および合成された。配列の確認後、これらを、pST1に基づくベクター主鎖内にクローニングして、RNAポリ-ネオエピトープワクチンコンストラクトを得た。
【0336】
臨床的手法の説明
臨床応用は以下のステップを網羅する。
・適格の患者は、次世代シーケンシングによるDNA分析に同意しなければならない。
・ルーチン的な診断手順(パラフィン包埋したホルマリン固定組織)から得られた腫瘍検体および末梢血細胞を入手し、記載のように突然変異分析に使用する。
・発見された突然変異を確認する。
・優先順位づけに基づいてワクチンを設計する。RNAワクチンには、マスタープラスミド鋳型を遺伝子合成およびクローニングによって作製する。
・プラスミドを臨床グレードのRNA産生、品質管理およびRNAワクチンの放出に使用する。
・ワクチン薬物製品を臨床応用のためにそれぞれの治験センターに送付する。
・RNAワクチンは、配合緩衝液中の裸ワクチンとして使用するか、またはたとえばリンパ節、皮下、静脈内、筋肉内への直接注射のためにナノ粒子もしくはリポソーム内にカプセル封入することができる。あるいは、RNAワクチンは、たとえば養子移入の樹状細胞のインビトロ形質移入に使用することができる。
【0337】
臨床プロセス全体は6週間未満しかかからない。治験薬製品が利用可能となるまで標準の治療レジメンの持続を許容することを含めて、患者のインフォームドコンセントと薬物の入手との間の「遅滞期」は臨床治験プロトコルによって注意深く取り組まれる。
【0338】
(実施例8)
腫瘍突然変異の同定および腫瘍ワクチン接種におけるそれらの活用
本発明者らは、B16F10ネズミ黒色腫細胞系中の突然変異発見にNGSエクソーム再シーケンシングを適用し、962個の非同義体性点突然変異を同定し、563個が発現された遺伝子中にあった。潜在的なドライバー突然変異は、古典的腫瘍抑制遺伝子(Pten、Trp53、Tp63、Pml)、ならびに細胞増殖(たとえばMdm1、Pdgfra)、細胞の接着および遊走(たとえばFdz7、Fat1)またはアポトーシス(Casp9)を制御するプロト-発癌性シグナル伝達経路に関与する遺伝子中に存在する。さらに、B16F10は、ヒト黒色腫中で頻繁に変更されていると以前に記載されているAim1およびTrrap中に突然変異を保有する。
【0339】
50個の検証された突然変異の免疫原性および特異性を、突然変異したエピトープをコードしている長いペプチドで免疫化したマウスC57BL/6を使用してアッセイした。その3分の1(16/50個)が免疫原性であると示された。これらのうち、60%が野生型配列と比較して突然変異配列に優先的に向けられた免疫応答を誘発した。
【0340】
本発明者らはこの仮説を腫瘍移植モデルで試験した。ペプチドを用いた免疫化は保護的および治療的設定においてインビボ腫瘍制御を与え、これにより、単一アミノ酸置換を含有する突然変異したエピトープが有効なワクチンとして認定された。
【0341】
動物
C57BL/6マウス(Jackson Laboratories)は、動物研究における連邦および州の政策に従ってマインズ大学で飼育した。
【0342】
細胞
B16F10黒色腫細胞系は、2010年にAmerican Type Culture Collectionから購入した(製品:ATCC CRL-6475、ロット番号:58078645)。細胞の初期(3代目、4代目)の継代を腫瘍実験に使用した。細胞をマイコプラズマ(Mycoplasma)についてルーチン的に試験した。細胞の再認証は受領以来行っていない。
【0343】
次世代シーケンシング
核酸抽出および試料の調製:バルクB16F10細胞からのDNAおよびRNAならびにC57BL/6尾部組織からのDNAを、Qiagen DNeasy血液および組織キット(DNA用)およびQiagen RNeasyマイクロキット(RNA用)を使用してトリプリケートで抽出した。
【0344】
DNAエクソームシーケンシング:DNA再シーケンシングのためのエクソームの捕捉は、すべてのマウスタンパク質コード領域を捕捉するために設計されたAgilent Sure-Selectマウス溶液に基づく捕捉アッセイを使用してトリプリケートで行った(Gnirke Aら、Nat Biotechnol 2009;27:182~9頁)。Covaris S2超音波装置を使用して3μgの精製ゲノムDNA(gDNA)を150~200bpに断片化した。製造者の指示に従って断片を末端修復し、5'リン酸化し、3'アデニル化した。Illumina対合末端アダプターとgDNA断片とを、10:1のアダプター:gDNAのモル比を使用してライゲーションさせた。Illumina PE PCRプライマー1.0および2.0を4回のPCRサイクルで使用して、濃縮された捕捉前およびフローセル特異的配列を付加した。500ngのアダプターがライゲーションした、PCR濃縮したgDNA断片を、AgilentのSureSelectビオチン標識マウス全エクソームRNAライブラリベイトと24時間65℃でハイブリダイズさせた。ハイブリダイズしたgDNA/RNAベイト複合体を、ストレプトアビジンでコーティングした磁気ビーズを使用して除去し、洗浄し、SureSelect溶出緩衝液中での溶出中にRNAベイトを切断した。これらの溶出されたgDNA断片を捕捉後に10サイクルPCR増幅した。エクソームが濃縮されたgDNAライブラリをcBot上でTruseq SRクラスターキットv2.5を使用して7pMを使用してクラスタリングし、50bpをIllumina HiSeq2000上でTruseq SBSキット-HS 50bpを使用してシーケンシングした。
【0345】
RNA遺伝子発現「トランスクリプトーム」プロファイリング(RNA-Seq):バーコードmRNA-seq cDNAライブラリを5μgの全RNAからトリプリケートで調製した(改変Illumina mRNA-seqプロトコル)。mRNAはSeramagオリゴ(dT)磁気ビーズ(Thermo Scientific)を使用して単離し、二価陽イオンおよび熱を使用して断片化した。生じる断片(160~220bp)を、ランダムプライマーおよびSuperScriptII(Invitrogen)を使用してcDNAへと変換し、次いでDNAポリメラーゼIおよびRNaseHを使用して第2鎖を合成した。製造者の指示に従ってcDNAを末端修復し、5'リン酸化し、3'アデニル化した。T4 DNAリガーゼを用いて、3'単一T-オーバーハングIllumina多重特異的アダプターを、10:1のアダプター:cDNA挿入物のモル比を使用してライゲーションさせた。cDNAライブラリを精製し、200~220bpでサイズ選択した(E-Gelの2%SizeSelectゲル、Invitrogen)。濃縮、Illumina六塩基インデックスおよびフローセル特異的配列の付加は、PCRによってPhusion DNAポリメラーゼ(Finnzymes)を使用して行った。このステップまでのすべてのクリーンアップは、1.8×体積のAgencourt AMPure XP磁気ビーズを用いて行った。すべての品質管理はInvitrogenのQubit HSアッセイを使用して行い、断片の大きさはAgilentの2100 Bioanalyzer HS DNAアッセイを使用して決定した。バーコードRNA-Seqライブラリを上述のようにクラスタリングおよびシーケンシングした。
【0346】
NGSデータ分析、遺伝子発現:RNA試料からの出力配列の読取りを、低品質の読取りのフィルタリングを含めてIllumina標準プロトコルに従って前処理した。bowtie(バージョン0.12.5)(Langmead Bら、Genome Biol 2009;10:R25)を用いて配列の読取りをmm9参照ゲノム配列(Waterston RHら、Nature 2002;420:520~62頁)とアラインメントした。ゲノムアラインメントでは、2個のミスマッチを許容し、最良のアラインメント(「-v2-best」)のみを記録した。トランスクリプトームアラインメントでは、初期設定パラメータを使用した。ゲノム配列とアラインメント可能でない読取りは、RefSeq転写物のすべての可能なエクソン-エクソン接合部配列のデータベースとアラインメントした(Pruitt KDら、Nucleic Acids Res 2007;35:D61~D65)。発現値は、読取り座標をRefSeq転写物のものと交差させ、重複するエクソンおよび接合部読取りを計数し、RPKM発現単位(マッピングされる読取り/1キロ塩基のエクソンモデル/百万個のマッピングされた読取り)に対して正規化することによって決定された(Mortazavi Aら、Nat Methods 2008;5:621~8頁)。
【0347】
NGSデータ分析、体細胞突然変異発見:体細胞突然変異を実施例9に記載のように同定した。bwa(初期設定オプション、バージョン0.5.8c)(Li HおよびDurbin R、Bioinformatics 2009;25:1754~60頁)を使用して、50個のヌクレオチド(nt)の単一末端読取りをmm9参照マウスゲノムとアラインメントした。ゲノムの複数の位置にマッピングされる曖昧な読取りを除去した。3つのソフトウェアプログラムを使用して突然変異を同定した:samtools(バージョン0.1.8)(Li H、Bioinformatics 2011;27:1157~8頁)、GATK(バージョン1.0.4418)(McKenna Aら、Genome Res 2010;20:1297~303頁)、およびSomaticSniper(http://genome.wustl.edu/software/somaticsniper)(Ding Lら、Hum Mol Genet 2010;19:R188~R196)。すべてのB16F10のトリプリケートで同定された潜在的な変異に「偽発見率」(FDR)信頼値を割り当てた(実施例9を参照)。
【0348】
突然変異の選択、検証、および機能
選択:突然変異は、選択されるために以下の基準を満たさなければならなかった:(i)すべてのB16F10中に存在し、すべてのC57BL/6のトリプリケート中に存在しない、(ii)FDR≦0.05、(iii)C57BL/6中で均質、(iv)RefSeq転写物中に存在する、および(v)非同義変化が信頼できる突然変異としてスコアづけされることを引き起こす。検証および免疫原性試験のための選択は、突然変異が発現された遺伝子であることを必要とした(複製間にわたる中央値RPKM>10)。
【0349】
検証:DNAに由来する突然変異は、サンガーシーケンシングまたはB16F10 RNA-Seq読取りのどちらかによって確認された場合に、検証されたとして分類された。すべての選択された変異体は、B16F10細胞およびC57BL/6の尾部組織からの50ngのDNAから隣接プライマーを使用して増幅し、産物を可視化し(QIAxcelシステム、Qiagen)、精製した(QIAquick PCR精製キット(PCR Purification Kit)、Qiagen)。予想された大きさの単位複製配列をゲルから切り出し、精製し(QIAquickゲル抽出キット(Gel Extraction Kit)、Qiagen)、PCR増幅に使用した順方向プライマーを用いてサンガーシーケンシングに供した(Eurofins MWG Operon、ドイツ、Ebersberg)。
【0350】
機能的インパクト:タンパク質ドメインの位置および種間配列保存に基づいてタンパク質機能におけるアミノ酸の機能的意義を予測するプログラムSIFT(Kumar Pら、Nat Protoc 2009;4:1073~81頁)およびPOLYPHEN-2(Adzhubei IAら、Nat Methods 2010;7:248~9頁)を用いて、選択された突然変異のインパクトを評価した。Ingenuity IPAツールを使用して遺伝子機能を推測した。
【0351】
合成ペプチドおよびアジュバント
卵白アルブミンクラスI(OVA258~265)、クラスII(OVAクラスII330~338)、インフルエンザ核タンパク質(Inf-NP366~374)、水疱性口内炎ウイルス核タンパク質(VSV-NP52~59)およびチロシナーゼ関連タンパク質2(Trp2180~188)を含めたすべてのペプチドは、Jerini Peptide Technologies(ドイツ、Berlin)から購入した。合成ペプチドは27個のアミノ酸の長さであり、突然変異(MUT)または野生型(WT)アミノ酸を位置14に有する。ポリイノシン酸:ポリシチジル酸(ポリ(I:C)、InvivoGen)を皮下注射アジュバントとして使用した。Inf-NP366~374ペプチドに特異的なMHC-五量体はProImmune Ltd.から購入した。
【0352】
マウスの免疫化
年齢を一致させた雌マウス、C57BL/6マウスに、PBS(全体積200μl)中で配合した100μgのペプチドおよび50μgのポリ(I:C)を外側の側腹部に皮下注射した(1群あたり5匹のマウス)。すべての群を、0日目および7日目に2つの異なる突然変異をコードしているペプチドで、側腹部あたり1つのペプチドを用いて免疫化した。最初の注射の12日後にマウスを屠殺し、免疫学的試験のために脾細胞を単離した。
【0353】
あるいは、年齢を一致させた雌マウス、C57BL/6マウスに、全注射体積200μlでPBS中に20μlのLipofectamine(商標)RNAiMAX(Invitrogen)を用いて配合した20μgのインビトロ転写RNAを静脈内注射した(1群あたり3匹のマウス)。すべての群を0、3、7、14および18日目に免疫化した。最初の注射の23日後にマウスを屠殺し、免疫学的試験のために脾細胞を単離した。1個(モノエピトープ)、2個(バイエピトープ)、または16個の突然変異(ポリエピトープ)を表すDNA配列を、50個のアミノ酸(aa)を使用して突然変異を位置25(バイエピトープ)で、または27個のアミノ酸を使用して突然変異を位置14(モノおよびポリエピトープ)で作製し、9個のアミノ酸のグリシン/セリンリンカーによって隔て、pST1-2BgUTR-A120主鎖内にクローニングした(Holtkampら、Blood 2006;108:4009~17頁)。この鋳型からのインビトロ転写および精製は以前に記載されている(Kreiterら、Cancer Immunol Immunother 2007;56:1577~87頁)。
【0354】
酵素結合免疫スポットアッセイ
酵素結合免疫スポット(ELISPOT)アッセイ(Kreiter Sら、Cancer Res 2010;70:9031~40頁)および刺激因子としての同系骨髄由来樹状細胞(BMDC)の作製は以前に記載されている(Lutz MBら、J Immunol Methods 1999;223:77~92頁)。BMDCは、示した突然変異または対照RNA(eGFP-RNA)をコードしているインビトロ転写(IVT)RNAを用いたペプチドパルス(2μg/ml)または形質移入のどちらかを行った。位置25に突然変異を有しており9個のアミノ酸のグリシン/セリンリンカーによって隔てられた、それぞれが50個のアミノ酸を含む2つの突然変異を表す配列を、pST1-2BgUTR-A120主鎖内にクローニングした(Holtkamp Sら、Blood 2006;108:4009~17頁)。この鋳型からのインビトロ転写および精製は以前に記載されている(Kreiter Sら、Cancer Immunol Immunother 2007;56:1577~87頁)。アッセイには、5×104個のペプチドまたはRNAを操作したBMDCを、5×105個の新鮮に単離された脾細胞と共に、抗IFN-γ抗体(10μg/mL、クローンAN18、Mabtech)でコーティングしたマイクロタイタープレート中で同時インキュベートした。37℃で18時間後、サイトカイン分泌を抗IFN-γ抗体(クローンR4-6A2、Mabtech)で検出した。スポット数を計数し、ImmunoSpot(登録商標)S5 Versa ELISPOT Analyzer、ImmunoCapture(商標)画像収集(Image Acquisition)ソフトウェアおよびImmunoSpot(登録商標)分析ソフトウェアバージョン5で分析した。統計分析はスチューデントt-検定およびマン-ホイットニー検定(ノンパラメトリック検定)によって行った。検定がp値<0.05を与え、平均スポット数が>30個のスポット/5×105個エフェクター細胞であった場合に、応答は有意であるとみなされた。反応性は平均スポット数によって評定した(-:<30、+:>30、++:>50、+++>200個のスポット/ウェル)。
【0355】
細胞内サイトカインアッセイ
ELISPOTアッセイのために調製された脾細胞のアリコートを細胞内フローサイトメトリーによるサイトカイン産生の分析に供した。この目的のために、2×106個の脾細胞/試料を、ゴルジ阻害剤ブレフェルジンA(10μg/mL)を追加した培養培地(RPMI+10%のFCS)中で96ウェルプレートにプレートした。それぞれの動物からの細胞を、5時間、37℃で、2×105個のペプチドパルスしたBMDCを用いて再刺激した。インキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、50μlのPBS中に再懸濁させ、以下の抗マウス抗体を用いて20分間、4℃で細胞外染色した:抗CD4 FITC、抗CD8 APC-Cy7(BD Pharmingen)。インキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、続いて外膜の透過処理のために100μLのCytofix/Cytoperm(BD Bioscience)溶液中に4℃で20分間再懸濁させた。透過処理後、細胞をPerm/Wash緩衝液(BD Bioscience)で洗浄し、Perm/Wash緩衝液中に50μL/試料で再懸濁させ、以下の抗マウス抗体を用いて30分間、4℃で細胞内染色した:抗IFN-γ PE、抗TNF-α PE-Cy7、抗IL2 APC(BD Pharmingen)。Perm/Wash緩衝液で洗浄した後、細胞をフローサイトメトリー分析のために1%のパラホルミルアルデヒド(paraformyldehyde)を含有するPBSに再懸濁させた。試料はBD FACSCanto(商標)II細胞計およびFlowJo(バージョン7.6.3)を使用して分析した。
【0356】
B16黒色腫腫瘍モデル
腫瘍ワクチン接種実験では、7.5×104個のB16F10黒色腫細胞をC57BL/6マウスの側腹部内に皮下接種した。予防的設定では、突然変異特異的ペプチドを用いた免疫化は腫瘍接種の4日前ならびに腫瘍接種後の2および9日目に行った。治療的実験では、ペプチドワクチンを腫瘍注射後の3および10日目に投与した。3日毎に腫瘍の大きさを測定し、腫瘍直径が15mmに達した際にマウスを屠殺した。
【0357】
あるいは、腫瘍ワクチン接種実験では、1×105個のB16F10黒色腫細胞を、年齢を一致させた雌のC57BL/6マウスの側腹部内に皮下接種した。ペプチドワクチン接種は、腫瘍接種後の3、10および17日目に、外側の側腹部内に皮下注射したPBS(全体積200μl)中で配合した100μgのペプチドおよび50μgのポリ(I:C)を用いて行った。RNA免疫化は、全注射体積200μlでPBS中に20μlのLipofectamine(商標)RNAiMAX (Invitrogen)を用いて配合した20μgのインビトロ転写突然変異コードRNAを使用して行った。対照として、1つの動物群にPBS中のRNAiMAX(Invitrogen)を注射した。動物は腫瘍接種後の3、6、10、17および21日目に免疫化した。3日毎にノギスを使用して腫瘍の大きさを測定し、腫瘍直径が15mmに達した際にマウスを屠殺した。
【0358】
B16F10マウス黒色腫中の非同義突然変異の同定
本発明者らの目的は、B16F10マウス黒色腫中の免疫原性の可能性がある体性点突然変異をNGSによって同定し、マウスのペプチドワクチン接種によってこれらをインビボ免疫原性について試験して誘発されたT細胞応答をELISPOTアッセイによって測定することであった(図9A)。C57BL/6野生型バックグラウンドゲノムのエクソームおよびB16F10細胞のそれを、それぞれトリプリケートの抽出および捕捉を用いてシーケンシングした。それぞれの試料について、1億万個を超える単一末端50ntの読取りが生じた。これらのうち、80%がマウスmm9ゲノムと固有にアラインメントし、49%が標的上でアラインメントし、これは標的濃縮の成功を実証しており、トリプリケート試料のそれぞれにおいて標的ヌクレオチドの70%について20倍を超えるカバレッジをもたらす。やはりトリプリケートでプロファイリングしたB16F10細胞のRNA-Seqは、3000万個の単一末端50ntの読取りの中央値を生じ、これらのうち80%がマウストランスクリプトームとアラインメントする。
【0359】
B16F10およびC57BL/6からのDNA読取り(エクソーム捕捉)を分析して、体細胞突然変異を同定した。コピー数変動分析(Sathirapongsasuti JFら、Bioinformatics 2011;27:2648~54頁)により、DNA増幅および腫瘍抑制因子Cdkn2a(サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2A、p16Ink4A)のホモ接合性欠失を含めたB16F10中の欠失が実証された。可能な免疫原性突然変異を同定するために点突然変異に焦点をおいて、本発明者らは3570個の体性点突然変異をFDR≦0.05で同定した(図9B)。最も頻繁な突然変異クラスはC>T/G>Aの転位であり、典型的には紫外光から生じる(Pfeifer GPら、Mutat Res 2005;571:19~31頁)。これらの体細胞突然変異のうち、1392個が転写物中に存在し、126個の突然変異は非翻訳領域中にある。コード領域中の1266個の突然変異のうち、962個が非同義タンパク質変化を引き起こし、このうちの563個が発現された遺伝子中に存在する(図9B)。
【0360】
同定された突然変異の担体遺伝子への割当ておよび検証
注目すべきことに、突然変異遺伝子の多く(非同義体性点突然変異を含有する962個の遺伝子)が癌表現型に以前に関連づけられている。突然変異はPten、Trp53(p53とも称する)、およびTp63を含めた確立された腫瘍抑制遺伝子中で見つかった。最も確立された腫瘍抑制因子であるTrp53では(Zilfou JTら、Cold Spring Harb Perspect Biol 2009;1:a001883)、タンパク質位置127でのアスパラギンからアスパラギン酸への突然変異(p.N127D)はDNA結合ドメイン中に局在化しており、SIFTによって機能を変更することが予測されている。Ptenは2つの突然変異(p.A39V、p.T131P)を含有しており、これらはどちらもタンパク質機能に有害な影響を与えると予測されている。p.T131P突然変異は、ホスファターゼ活性を消失させることが示されている突然変異(p.R130M)に近接している(Dey Nら、Cancer Res 2008;68:1862~71頁)。さらに、突然変異がBrca2(乳癌2、初期発症)、Atm(毛細血管拡張性運動失調症突然変異)、Ddb1(損傷特異的DNA結合タンパク質1)およびRad9b(RAD9相同体B)などのDNA修復経路に関連する遺伝子中に見つかっている。さらに、突然変異はAim1(腫瘍抑制因子「黒色腫1中に不在」)、Flt1(癌遺伝子Vegr1、fms関連チロシンキナーゼ1)、Pml(腫瘍抑制因子「前骨髄球白血病」)、Fat1(「FAT腫瘍抑制因子相同体1」)、Mdm1(TP53結合核タンパク質)、Mta3(転移関連1ファミリー、メンバー3)、およびAlk(未分化リンパ腫受容体チロシンキナーゼ)を含めた他の腫瘍関連遺伝子中に存在する。本発明者らは、以前に腫瘍中で同定された(Verhaak RGら、Cancer Cell 2010;17:98~110頁)、MAPK/ERK経路の細胞膜結合受容体チロシンキナーゼであるPdgfra(血小板由来成長因子受容体、アルファポリペプチド)中のp.S144Fに突然変異を発見した。突然変異がCasp9(カスパーゼ9、アポトーシス関連システインペプチダーゼ)中のp.L222Vに存在する。CASP9はポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)をタンパク質分解切断し、アポトーシスを調節し、いくつかの癌に関連づけられている(Hajra KMら、Apoptosis 2004;9:691~704頁)。本発明者らが発見した突然変異はPARPおよびアポトーシスシグナル伝達に潜在的に影響を与え得る。最も興味深いことに、Braf、c-Kit、KrasまたはNras中には突然変異は見つからなかった。しかし、突然変異がRassf7(RAS関連タンパク質)(p.S90R)、Ksr1(ras1のキナーゼ抑制因子)(p.L301V)、およびAtm(PI3K経路)(p.K91T)中で同定され、これらはすべてタンパク質機能に顕著な影響を与えると予測される。Trrap(形質転換/転写ドメイン関連タンパク質)が今年これまでにヒト黒色腫検体中で新規の潜在的な黒色腫標的として同定された(Wei Xら、Nat Genet 2011;43:442~6頁)。B16F10では、Trrap突然変異はp.K2783Rで起こり、重複するホスファチジルイノシトールキナーゼ(PIK)関連キナーゼFATドメインを乱すと予測される。
【0361】
NGSを使用して同定された962個の非同義突然変異から、FDR<0.05を有する41個を含めた50個の突然変異を、PCRに基づく検証および免疫原性試験のために選択した。選択基準は発現された遺伝子中の位置(RPKM>10)および予測される免疫原性であった。注目すべきことに、50個すべての突然変異を確認することができた(Table 6(表6)、図9B)。
【0362】
【表6A】
【0363】
【表6B】
【0364】
【表6C】
【0365】
図9CはB16F10染色体、遺伝子密度、遺伝子発現、突然変異、およびフィルタリングした突然変異(内側の環)の位置を示す。
【0366】
突然変異を表す長いペプチドを用いた免疫原性試験のインビボ試験
これらの突然変異の免疫原性試験の抗原を提供するために、本発明者らは、免疫化について他のペプチドを超える多くの利点を有する長いペプチドを用いた(Melief CJおよびvan der Burg SH、Nat Rev Cancer 2008;8:351~60頁)。長いペプチドは抗原特異的CD8+およびCD4+T細胞を誘導することができる(Zwaveling Sら、Cancer Res 2002;62:6187~93頁、Bijker MSら、J Immunol 2007;179:5033~40頁)。さらに、長いペプチドはMHC分子上に提示されるためにプロセッシングを必要とする。そのような取り込みは、強力なT細胞応答を初回刺激するために最適な樹状細胞によって最も効率的に行われる。対照的に、フィットする(fitting)ペプチドはトリミングを必要とせず、非活性化BおよびT細胞を含めたMHC分子を発現するすべての細胞上に外因的にロードされ、寛容および同胞殺しの誘導をもたらす(Toes REら、J Immunol 1996;156:3911~8頁、Su MWら、J Immunol 1993;151:658~67頁)。50個の検証された突然変異のそれぞれについて、突然変異または野生型アミノ酸が中央に位置する27個のアミノ酸の長さのペプチドを設計した。したがって、突然変異を保有する8~14個のアミノ酸の長さの任意の潜在的なMHCクラスIおよびクラスIIエピトープを、この前駆体ペプチドからプロセッシングすることができる。ペプチドワクチン接種のアジュバントとしては、交差提示を促進し、ワクチンの有効性を増加させることが知られているポリ(I:C)を使用した(Datta SKら、J Immunol 2003;170:4102~10頁、Schulz Oら、Nature 2005;433:887~92頁)。50個の突然変異をT細胞の誘導についてマウス内でインビボで試験した。印象的なことに、50個のうちの16個の突然変異コードペプチドが、免疫化したマウスにおいて免疫応答を誘発することが見出された。誘導されたT細胞は異なる反応パターンを示した(Table 7(表7))。
【0367】
【表7】
【0368】
11個のペプチドが突然変異したエピトープを優先的に認識する免疫応答を誘導した。これは、突然変異30(MUT30、Kif18b)および36(MUT36、Plod2)で免疫化したマウスで例示されている(図10A)。ELISPOT試験により、野生型ペプチドまたは非関連の対照ペプチド(VSV-NP)に対する交差反応のない強力な突然変異特異的免疫応答が明らかとなった。突然変異05(MUT05、Eef2)および25(MUT25、Plod2)を含めた5個のペプチドでは(図10A)、両方の突然変異および野生型ペプチドの比較可能な認識を伴う免疫応答が得られた。突然変異01(MUT01、Fzd7)、02(MUT02、Xpot)、および07(MUT07、Trp53)によって例示されるように、大多数の突然変異ペプチドは有意なT細胞応答を誘導することができなかった。発見された突然変異のいくつかによって誘導された免疫応答は、マウスを陽性対照としてネズミ黒色腫腫瘍抗原チロシナーゼ関連タンパク質2(Trp2180-188、図10A)からの記載したMHC-クラスIエピトープで免疫化することによって生じた免疫原性(immunogenecity)の範囲内に十分ある(500個のスポット/5×105個の細胞)(Bloom MBら、Exp Med 1997;185:453~9頁、Schreurs MWら、Cancer Res 2000;60:6995~7001頁)。強力な突然変異特異的T細胞応答を誘導する選択されたペプチドでは、独立した手法によって免疫認識を確認した。長いペプチドの代わりに、突然変異ペプチド断片MUT17、MUT30およびMUT44をコードしているインビトロ転写RNA(IVT RNA)を免疫学的読み取りに使用した。突然変異をコードしているRNAまたは非関連のRNAを形質移入したBMDCがELISPOTアッセイにおいて抗原提示細胞(APC)として役割を果たした一方で、免疫化したマウスの脾臓細胞がエフェクター細胞集団として役割を果たした。MUT17、MUT30およびMUT44をコードしているmRNAを形質移入したBMDCは、それぞれの長いペプチドで免疫化したマウスの脾細胞によって特異的かつ強力に認識された(図10B)。対照RNAを形質移入したBMDCに対する有意により低い反応性が記録され、これは一本鎖RNAによるBMDCの非特異的活性化が原因である可能性が高い(スチューデントt-検定、MUT17:p=0.0024、MUT30:p=0.0122、MUT44:p=0.0075)。これらのデータは、誘導された突然変異特異的T細胞が内因的にプロセッシングされたエピトープを事実上認識することを確認している。突然変異したエピトープの好ましい認識を誘導する2つの突然変異は、遺伝子Actn4およびKif18b中にある。ACTN4(アクチニン、アルファ4)中の体細胞突然変異は、カルシウム結合「EF-ハンド」タンパク質ドメイン中のp.F835Vにある。SIFTおよびPOLYPHENはどちらもタンパク質機能に対するこの突然変異の顕著な影響を予測しているが、この遺伝子は確立された癌遺伝子ではない。しかし、ACTN4に対する突然変異特異的T細胞が、最近陽性の患者結果と関連づけられている(Echchakir Hら、Cancer Res 2001;61:4078~83頁)。KIF18B(キネシンファミリーメンバー18B)は、細胞分裂の調節に関与している、微小管運動活動ならびにATPおよびヌクレオチド結合を有するキネシンである(Lee YMら、Gene 2010;466:16~25頁)(図10C)。p.K739をコードしている位置でのDNA配列は、参照C57BL/6中では同種である一方で、B16F10のDNA読取りではヘテロ接合性体細胞突然変異が明らかとなっている。どちらのヌクレオチドも、B16F10 RNA-Seq読取りで検出し、サンガーシーケンシングによって検証した。KIF18Bは以前に癌表現型に関連づけられていない。突然変異p.K739Nは既知の機能的または保存的タンパク質ドメインに局在化しておらず(図10C、下)、したがって、おそらくはドライバーよりはパッセンジャー突然変異である可能性が高い。これらの例は、突然変異認識免疫応答を誘導する能力と機能的または免疫学的な関連性との相関の欠如を示唆している。
【0369】
ワクチン候補の抗腫瘍活性のインビボ評価
インビボで誘発された免疫応答が腫瘍を保有するマウスにおいて抗腫瘍効果に翻訳されるかどうかを評価するために、本発明者らはMUT30(Kif18b中に突然変異)およびMUT44を例として選択した。これらの突然変異は、突然変異ペプチドに対して優先的に強力な免疫反応を誘導し、内因的にプロセッシングされることが示されている(図10A、B)。突然変異ペプチドを用いたワクチン接種の治療可能性は、マウスを、MUT30またはMUT44のどちらかおよびアジュバントで、7.5×105個のB16F10を移植した3および10日後に免疫化することによって調査した。腫瘍の成長は、対照群と比較してどちらのペプチドワクチン接種でも阻害された(図11A)。B16F10は非常に攻撃的に成長している腫瘍であるため、保護的免疫応答も試験した。マウスをMUT30ペプチドで免疫化し、4日後に7.5×105個のB16F10細胞を皮下接種し、腫瘍チャレンジの2および9日後にMUT30でブーストした。MUT30で処置したマウスの完全な腫瘍保護および40%の生存が観察された一方で、対照処置群のすべてのマウスは44日以内に死亡した(図11B左)。MUT30で免疫化したにもかかわらず腫瘍を発生するマウスでは、腫瘍の成長はより遅く、対照群と比較して6日間の生存期間中央値の延長がもたらされた(図11B右)。これらのデータは、単一突然変異に対するワクチン接種が既に抗腫瘍効果を与えることができることを暗示している。
【0370】
突然変異をコードしているRNAを用いた免疫化
B16F10黒色腫細胞系からの50個の検証された突然変異を使用して様々なRNAワクチンを作製した。1個(モノエピトープ)、2個(バイエピトープ)、または16個の異なる突然変異(ポリエピトープ)を表すDNA配列を、50個のアミノ酸(aa)を使用して突然変異を位置25(バイエピトープ)で、または27個のアミノ酸を使用して突然変異を位置14(モノおよびポリエピトープ)で作製し、9個のアミノ酸のグリシン/セリンリンカーによって隔てた。これらのコンストラクトは、mRNAのインビトロ転写のためにpST1-2BgUTR-A120主鎖内にクローニングした(Holtkampら、Blood 2006;108:4009~17頁)。
【0371】
様々なRNA-ワクチンに対するT細胞応答を誘導するインビボ能力を試験するために、3匹のC57BL/6マウスの群を、RNAをRNAiMAX lipofectamineと配合し、続いて静脈内注射することによって免疫化した。5回の免疫化の後、マウスを屠殺し、脾細胞を、対応する突然変異をコードしているペプチドまたは対照ペプチド(VSV-NP)を用いた再刺激後の細胞内サイトカイン染色およびIFN-γ ELISPOT分析を使用して、突然変異特異的T細胞応答について分析した。
【0372】
図12はそれぞれのワクチン設計の一例を示す。上段では、マウスを、MUT30に特異的なCD4+T細胞を誘導するMUT30(Kif18b中の突然変異)をコードしているモノエピトープ-RNAでワクチン接種した(例示的なFACSプロットを参照)。中段では、グラフおよびFACSプロットは、MUT33およびMUT08をコードしているバイエピトープで免疫化した後の、MUT08に特異的な(Ddx23中に突然変異)CD4+T細胞の誘導を示す。下段では、マウスを、MUT08、MUT33およびMUT27を含めた16個の異なる突然変異をコードしているポリエピトープで免疫化した(Table 8(表8)を参照)。グラフおよびFACSプロットは、MUT27に反応性のT細胞はCD8表現型のものであることを例示している。
【0373】
【表8】
【0374】
同じポリエピトープを使用して図13に示すデータを生成した。グラフは脾細胞を対照(VSV-NP)、MUT08、MUT27およびMUT33ペプチドで再刺激した後のELISPOTデータを示し、ポリエピトープワクチンがいくつかの異なる突然変異に対する特異的T細胞応答を誘導できることを証明している。
【0375】
総合すると、データは、RNAにコードされたモノ-、ビ-およびポリエピトープを使用して突然変異特異的T細胞を誘導する可能性を示している。さらに、データは、CD4+およびCD8+T細胞の誘導ならびに1つのコンストラクトからのいくつかの異なる特異性の誘導を示している。
【0376】
モデルエピトープを用いた免疫化
ポリエピトープRNA-ワクチン設計をさらに特徴づけるために、1つのMHCクラスIIエピトープを含めた5個の異なる既知のモデルエピトープ(卵白アルブミンクラスI(SIINFEKL)、クラスII(OVAクラスII)、インフルエンザ核タンパク質(Inf-NP)、水疱性口内炎ウイルス核タンパク質(VSV-NP)およびチロシナーゼ関連タンパク質2(Trp2))が含まれるDNA配列を作製した。エピトープは突然変異ポリエピトープで使用した同じ9個のアミノ酸のグリシン/セリンリンカーによって隔てた。このコンストラクトをmRNAのインビトロ転写のためにpST1-2BgUTR-A120主鎖内にクローニングした。
【0377】
インビトロ転写RNAを使用して、5匹のC57BL/6マウスを結節内免疫化によってワクチン接種した(鼠径部リンパ節中に20μgのRNAを4回免疫化、)。最後の免疫化の5日後に、分析のために血液試料および脾細胞をマウスから採取した。図14Aは、示したペプチドで再刺激した脾細胞のIFN-γ ELISPOT分析を示す。3つすべてのMHC-クラスIエピトープ(SIINFEKL、Trp2およびVSV-NP)が非常に多数の抗原特異的CD8+T細胞を誘導することが明確に見られる。また、MHC-クラスIIエピトープOVAクラスIIも強力なCD4+T細胞応答を誘導する。4つ目のMHCクラスIエピトープは、蛍光標識した五量体MHC-ペプチド複合体(五量体)を用いた、Inf-NPに特異的なCD8+T細胞の染色によって分析した(図14B)。
【0378】
これらのデータは、異なる免疫原性MHC-クラスIおよび-クラスIIエピトープを隔てるためにグリシン/セリンリンカーを使用したポリエピトープの設計が、その免疫優位性にかかわらずすべてのコードされているエピトープに対する特異的T細胞を誘導できることを証明している。
【0379】
突然変異をコードしているポリエピトープRNAワクチンを用いた治療後の抗腫瘍応答
図13で免疫原性について分析した同じポリエピトープを使用して、突然変異をコードしているRNAのB16F10腫瘍細胞に対する抗腫瘍活性を調査した。詳細には、C57BL/6マウスの群(n=10匹)に、1×105個のB16F10黒色腫細胞を側腹部に皮下接種した。3、6、10、17および21日目に、リポソーム形質移入試薬を使用してポリトープRNAを用いてマウスを免疫化した。対照群にはリポソームを単独で注射した。
【0380】
図21は群の生存曲線を示し、対照群における18.5日間の生存期間中央値と比較して、10匹のうち1匹のマウスが腫瘍なしで生存した、27日間という強力に改善された生存期間中央値が明らかとなる。
【0381】
突然変異および正常ペプチドの組合せを用いた治療後の抗腫瘍応答
検証された突然変異の抗腫瘍活性は、MUT30をペプチドワクチンとして使用することによる治療的インビボ腫瘍実験によって評価した。詳細には、C57BL/6マウスの群(n=8匹)に、1×105個のB16F10黒色腫細胞を側腹部に皮下接種した。3、10および17日目に、ポリI:Cをアジュバントとして使用して、MUT30、チロシナーゼ関連タンパク質2(Trp2180~188)または両ペプチドの組合せを用いてマウスを免疫化した。Trp2はB16F10黒色腫細胞によって発現される既知のCD8+エピトープである。
【0382】
図15Aは群の平均腫瘍成長を示す。既知のCD8+T細胞エピトープとCD4+T細胞誘導MUT30との組合せで免疫化した群では、28日目まで腫瘍成長がほぼ完全に阻害されていることが明確に見られる。既知のTrp2エピトープは、この設定において単独では良好な抗腫瘍効果を提供するために十分でないが、それでも、どちらの単一治療群(MUT30およびTrp2)も、実験の初期から25日目までの間、未処置群と比較して腫瘍成長の阻害を提供する。これらのデータは図15Bに示す生存曲線によって強化される。明らかに生存期間中央値は単一のペプチドを注射したマウスで増加しており、Trp2ワクチン接種の群で1/8匹のマウスが生存している。さらに、両方のペプチドで処置した群はさらに良好な生存期間中央値を示し、マウスの2/8匹が生存する。
【0383】
総合すると、両エピトープは相乗的な様式で作用して強力な抗腫瘍効果を提供する。
【0384】
(実施例9)
信頼度に基づく体細胞突然変異検出のフレームワークおよびB16-F10黒色腫細胞への応用
NGSは、ゲノム全体またはタンパク質をコードしているエクソンなどの標的領域内の変異の高スループット発見を可能にするという点で不偏的である。
【0385】
しかし、革命的である一方で、NGSプラットフォームは未だエラーの傾向があり、誤った変異の呼出しをもたらす。さらに、結果の品質は実験設計パラメータおよび分析方法に依存する。変異の呼出しには典型的には真の変異をエラーから識別するために設計されたスコアが含まれるが、これらのスコアの有用性もその解釈も実験の最適化に関して完全には理解されていない。これは、体細胞突然変異について腫瘍および正常を比較することなど組織状態を比較する場合に特にそうである。その結果、研究者は、突然変異を選択するための実験パラメータおよび自由裁量のフィルタリング閾値を決定するために個人的な経験に頼ることを強いられる。
【0386】
本研究は、a)パラメータを比較するためのフレームワークおよび体細胞突然変異を同定する方法を確立すること、ならびにb)同定された突然変異に信頼値を割り当てることを目的とする。本発明者らは、C57BL/6マウスおよびB16-F10黒色腫細胞系からトリプリケート試料をシーケンシングする。これらのデータを使用して検出された体細胞突然変異の偽発見率を公式化し、これは、その後に既存の突然変異発見ソフトウェアおよび実験室プロトコルを評価するために使用する指標である。
【0387】
様々な実験およびアルゴリズムの要因がNGSによって見つかる変異の偽陽性率に寄与する[Nothnagel. M.ら、Hum. Genet. 2011年2月23日[印刷の前にEpub]]。エラー原因には、PCR人工産物、初回刺激[Hansen, K.D.ら、Nucleic. Acids. Res. 38、e131(2010)、Taub, M.A.ら、Genome Med. 2、87(2010)]および標的化濃縮[Bainbridge, M.N.ら、Genome Biol. 11、R62(2010)]の偏り、配列効果[Nakamura, K.ら、Acids Res.(2011)、2011年5月16日に最初にオンラインで公開、doi:10.1093/nar/gkr344]、配列エラーを引き起こす塩基の呼出し[Kircher, M.ら、Genome Biol. 10、R83(2009). Epub 2009年8月14日]、ならびに読取りアラインメント[Lassmann, T.ら、Bioinformatics 27、130~131頁(2011)]が含まれ、さらなる下流分析、たとえばインデル周辺の変異体の呼出し[Li, H.、Bioinformatics 27、1157~1158頁(2011)]に影響を与えるカバレッジの変動およびシーケンシングのエラーを引き起こす。
【0388】
体細胞突然変異の呼出しに対する様々なエラー原因の影響を説明する一般的な統計的モデルは記載されておらず、すべての偏りを取り除かずに個々の側面のみが網羅されている。偽陽性の突然変異の呼出しの予想される量を測定するための最近のコンピュータ方法には、一組の変異の転位/塩基転換比の利用[Zhang, Z.、Gerstein, M.、Nucleic Acids Res 31、5338~5348頁(2003)、DePristo, M.A.ら、Nature Genetics 43、491~498頁(2011)]、機械学習[DePristo, M.A.ら、Nature Genetics 43、491~498頁(2011)]、およびファミリーゲノム[Ewen, K.R.ら、Am. J. Hum. Genet. 67、727~736頁(2000)]またはプールした試料[Druley, T.E.ら、Nature Methods 6、263~265頁(2009)、Bansal, V.、Bioinformatics 26、318~324頁(2010)]で作業する場合の継承エラーが含まれる。最適化目的のために、Druleyら[Druley, T.E.ら、Nature Methods 6、263~265頁(2009)]は短いプラスミド配列断片に依存したが、これは試料に代表的ではない場合がある。一組の単一ヌクレオチド変異(SNV)および選ばれた実験では、他の技法によって同定されたSNVとの比較は可能であるが[Van Tassell, CP.ら、Nature Methods 5、247~252頁(2008)]、新規体細胞突然変異に関して評価することは困難である。
【0389】
エクソームシーケンシングプロジェクトを例として使用して、本発明者らは、NGSデータ単独に基づいた偽発見率(FDR)の計算を提案する。この方法は診断的および治療的標的の選択および優先順位づけに適用可能なだけでなく、同様の実験の信頼度駆動の推奨を定義することを可能にすることによってアルゴリズムおよび方法の開発も支援する。
【0390】
突然変異を発見するために、3匹のC57BL/6(black6)マウス(同腹仔)の尾部組織からのDNAおよびB16-F10(B16)黒色腫細胞からのDNAを、トリプリケートで、タンパク質をコードしているエクソンについて個々に濃縮し(Agilent Sure Select全マウスエクソーム(Whole Mouse Exome))、6個の試料をもたらす。RNAをB16細胞からトリプリケートで抽出した。単一末端50nt(1×50nt)および対合末端100nt(2×100nt)の読取りをIllumina HiSeq 2000で生成した。それぞれの試料を個々のレーンに載せ、1レーンあたり平均1億400万個の読取りがもたらされた。bwa[Li, H.、Durbin, R.、Bioinformatics 25、1754~1760頁(2009)]を使用してDNAの読取りをマウス参照ゲノムとアラインメントさせ、RNAの読取りをbowtie[Langmead, B.ら、Genome Biol. 10、R25(2009)]とアラインメントさせた。標的領域の97%で38倍の平均カバレッジが1×50ntのライブラリで達成され、2×100nt実験では標的領域の98%で165倍の平均カバレッジが得られた。
【0391】
B16試料中で見つかった単一ヌクレオチド変異をblack6試料中の対応する座位と比較することによって(B16細胞は元々はblack6マウスに由来する)、ソフトウェアパッケージSAMtools[Li, H.ら、Bioinformatics 25、2078~2079頁(2009)]、GATK[DePristo, M.A.ら、Nature Genetics 43、491~498頁(2011)]およびSomaticSNiPer[Ding, L.ら、Hum. Mol. Genet(2010)、2010年9月15日に最初にオンラインで公開](図16)を使用して体性変異を独立して同定した。それぞれのソフトウェアの著者らによる推奨に従って(SAMtoolsおよびGATK)、またはSomaticSNiPerのソマティックスコアの適切な下弁閾値を選択することによって、潜在的な突然変異をそれぞれフィルタリングした。
【0392】
突然変異発見の偽発見率(FDR)を作成するために、本発明者らは最初に突然変異部位を交差させ、1,355個の高品質体細胞突然変異を3つすべてのプログラムのコンセンサスとして得た(図17)。しかし、適用したソフトウェアツールの結果で観察された相違は相当である。誤った結論を回避するために、本発明者らは、複製を使用してFDRをそれぞれの突然変異に割り当てる方法を開発した。試料の技術的反復は同一の結果を生じるはずであり、この「対同一物比較」におけるすべての検出された突然変異は偽陽性である。したがって、正常試料と比較した腫瘍試料中の体細胞突然変異検出の偽発見率を決定するためには(「腫瘍比較」)、正常試料の技術的反復を偽陽性の数を推定するための参照として使用することができる。
【0393】
図18Aは、体細胞突然変異(左)、参照に対する非体性変異(中央)、および可能性のある偽陽性(右)を含めた、black6/B16データ中に見つかる変異の例を示す。それぞれの体細胞突然変異を品質スコアQと関連づけることができる。腫瘍比較における偽陽性の数は、対同一物比較におけるいくつかの偽陽性を示している。したがって、腫瘍比較で検出された品質スコアQを有する所定の突然変異について、スコアがQまたはそれより良好な腫瘍比較中で見つかる突然変異の全体数に対する、スコアがQまたはそれより良好な対同一物の突然変異の割合を計算することによって偽発見率を推定する。
【0394】
ほとんどの突然変異検出フレームワークは複数の品質スコアを計算するため、Qの定義において課題が生じる。ここでは、複数のスコアを単一の品質スコアQへと合わせるためにランダムフォレスト分類子[Breiman, L.、Statist. Sci. 16、199~231頁(2001)]を適用する。品質スコアおよびFDRの計算の詳細に関しては方法セクションを参照されたい。
【0395】
比較方法の潜在的な偏りは格差のあるカバレッジであるため、カバレッジの偽発見率を正規化する。
【0396】
【数1】
【0397】
腫瘍および正常試料の両方または両方の「対同一物」試料に含まれる参照ゲノムのすべての塩基をそれぞれ計数することによって、共通カバレッジを計算する。
【0398】
それぞれのFDRで偽陽性および陽性の数を推定することによって(方法を参照)、それぞれの突然変異発見方法について受信者動作特性(ROC)曲線を生成し、AUC(曲線下面積)を計算し、それにより突然変異発見の戦略の比較が可能となる(図18B)。
【0399】
さらに、参照データの選択はFDRの計算に影響を与え得る。利用可能なblack6/B16データを使用して、18個のトリプリケートを作成することが可能である(black6対black6およびblack6対b16の組合せ)。体細胞突然変異の組の生じるFDR分布を比較する際、結果は一貫している(図18B)。
【0400】
偽発見率のこの定義を使用して、本発明者らは、生じる体細胞突然変異の組に対する数々の実験およびアルゴリズムのパラメータの影響を評価するための汎用フレームワークを確立した。次に、本発明者らはこのフレームワークを適用して体細胞突然変異の同定に対するソフトウェアツール、カバレッジ、対合末端シーケンシングおよび技術的複製の数の影響を研究する。
【0401】
まず、ソフトウェアツールの選択は同定された体細胞突然変異に明確な影響を与える(図19A)。試験したデータで、SAMtoolsがFDRによって順位づけられた一組の体細胞突然変異において真陽性の最も高い濃縮を生じる。しかし、すべてのツールが個々の突然変異の多くのパラメータおよび品質スコアを提供することに注意されたい。ここでは、アルゴリズムの開発者によって指定された初期設定を使用した。パラメータは最適化できると予想され、本明細書中で定義されたFDRフレームワークはそのような最適化を実行および評価するために設計されていることを強調する。
【0402】
記載したB16シーケンシング実験では、それぞれの試料を個々のフローセルレーン中でシーケンシングし、個々の試料で38倍の標的領域平均塩基カバレッジを達成した。しかし、同等に良好な体細胞突然変異の組を得るためにこのカバレッジは必要ない可能性があり、場合によってはコストが縮小される。また、全ゲノムSNV検出に対するカバレッジ(caverage)深度の影響が最近議論されている[Ajay, S.S.ら、Genome Res. 21、1498~1505頁(2011)]。エクソン捕捉データに対するカバレッジの効果を研究するために、すべての1×50ntのライブラリのアラインメントされた配列の読取りの数をダウンサンプリングしてそれぞれ約5、10および20倍のカバレッジを生成し、その後、突然変異の呼出しアルゴリズムを再度適用した。予想どおり、より高いカバレッジはより良好な(すなわちより少ない偽陽性の)体細胞突然変異の組をもたらすが、20倍のカバレッジから最大までの改善はわずかである(図19B)。
【0403】
利用可能なデータおよびフレームワークを使用して様々な実験設定をシミュレーションおよび順位づけすることは明白である。デュプリケートとトリプリケートを比較すると、トリプリケートはデュプリケートと比較して利点を提供しないが(図19C)、デュプリケートは複製を全く用いない研究と比較して明白な改善を提供する。所定の組中の体細胞突然変異の割合に関しては、5%のFDRにおいて、複製なしの実行では24.2%からデュプリケートでは71.2%、トリプリケートでは85.8%への濃縮が見られる。この濃縮にもかかわらず、より低いROC AUCおよび曲線の左へのシフトによって示されるように、トリプリケートの交差の使用は、低いFDRを有する突然変異を、高いFDRを有するものより多く除去する(図19C)。より低い感度を犠牲にして特異性がわずかに増加している。
【0404】
第2の読取りならびに/または読取りの3'および5'末端のin silicio除去によって、追加でシーケンシングした2×100ntのライブラリを使用して、1×100、2つの2×50および2つの1×50ntのライブラリをそれぞれシミュレーションして、合計5個のシミュレーションライブラリがもたらされる。予測された突然変異の計算されたFDRを使用してこれらのライブラリを比較した(図19D)。はるかにより高い平均カバレッジ(77より高い対38)にもかかわらず、2×50の5'および1×100ntのライブラリを使用して見つかった体細胞突然変異はより低いROC AUCを有しており、したがって1×50ntのライブラリよりも乏しいFDR分布を有する。この現象は低いカバレッジ領域中での高いFDRの突然変異の蓄積から生じ、これは見つかる低いFDRの突然変異の組が非常に類似しているためである。その結果、最適なシーケンシングの長さが、シーケンシングされた塩基が捕捉プローブ配列の周りに集中しているように小さく(ただし領域中に含まれない突然変異の体性状態の情報を失う可能性がある)、またはほぼ断片の長さとなるはずであり(この事例では約250ntの断片で2×100nt=200ntの合計の長さ)、カバレッジギャップが有効に埋られる。また、これは、3'読取り末端の塩基品質がより低いにもかかわらず2×50ntの5'ライブラリ(2×100ntのライブラリの5'末端のみを使用してシミュレーションした)のROC AUCよりも高い、2×50ntの3'ライブラリ(2×100ntのライブラリの3'末端のみを使用してシミュレーションした)のROC AUCによっても支援される。
【0405】
これらの観察により、体細胞突然変異を発見するための最良の実施手順を定義することが可能となる。すべての評価したパラメータにわたって、両方の試料での20倍のカバレッジおよび技術的なデュプリケートの使用が、これらの比較的均質な試料においてコストも考慮しながら最適に近い結果を達成する。約1億個の読取りをもたらす1×50ntのライブラリが、このカバレッジを達成するための最も実用的な選択肢であると考えられる。これはすべての可能なデータセットの対に忠実であり続ける。本発明者らは、これらのパラメータ設定を遡及的に適用し、生の変異体の呼出しの追加のフィルタリングを使用せずに、図17に示すように3つすべての方法の交差からの50個の選択された突然変異のFDRを計算した。すべての突然変異はサンガー再シーケンシングおよびB16 RNA-Seq配列の読取りの組合せによって確認された。これらの突然変異のうち44個は、5%のFDRカットオフを使用して見つかったであろう(図20)。陰性対照として、高いFDR(>50%)を有する44個の予測された突然変異の座位を再シーケンシングし、RNA-Seqデータ中のそれぞれの配列を検査した。これらの突然変異のうちの37個が検証されない一方で、潜在的な突然変異の残りの7個の座位がRNA-Seq読取りによってカバーされないのみならず、シーケンシング反応で得られないことが見出された。
【0406】
4つの具体的な質問へのフレームワークの適用を示すが、いかなる様式でもこれらのパラメータに限定されず、すべての実験またはアルゴリズムのパラメータの影響、たとえば、アラインメントソフトウェア、突然変異の測定基準の選択肢、またはエクソーム選択の供給元の選択肢の影響を研究するために適用することができる。
【0407】
すべての実験を一組のB16黒色腫細胞実験で行ったが、本方法はこれらのデータに限定されない。唯一の要件は「対同一物」参照データセットが入手可能であることであり、これは、それぞれの新しいプロトコルについて非腫瘍試料の少なくとも単一の技術的反復を行うべきであることを意味する。技術的反復の選択肢に関して一定の制限内で頑強であることを示しているため、反復は1つ1つの実験で必ずしも必要ではない。しかし、本方法は、様々な品質の測度が参照トレーニング組と残りのデータセットとの間で比較可能であることは必要とする。
【0408】
この寄与の範囲内で、本発明者らは偽発見率に駆動される体細胞突然変異の検出の統計的フレームワークを開拓した。このフレームワークは、診断的または治療的な標的選択に適用可能なだけでなく、生成された擬似的グランドトルース(quasi ground truth)データの実験およびコンピュータプロトコルのステップの一般的な比較も可能にする。ここでは、この発想を応用してソフトウェアツール、カバレッジ、複製および対合末端シーケンシングに関するプロトコルの決断を行った。
【0409】
方法
ライブラリの捕捉およびシーケンシング
次世代シーケンシング、DNAシーケンシング:DNA再シーケンシングのためのエクソームの捕捉は、本事例ではすべての既知のマウスエクソンを捕捉するように設計された、Agilent Sure-Select溶液に基づく捕捉アッセイを使用して行った[Gnirke, A.ら、Nat. Biotechnol. 27、182~189頁(2009)]。Covaris S2超音波装置を使用して3μgの精製ゲノムDNAを150~200ntに断片化した。gDNA断片を、T4 DNAポリメラーゼ、クレノウDNAポリメラーゼを使用して末端修復し、T4ポリヌクレオチドキナーゼを使用して5'リン酸化した。平滑末端化されたgDNA断片を、クレノウ断片を使用して3'アデニル化した(3'から5'エキソマイナス)。T4 DNAリガーゼを使用して、3'単一T-オーバーハングIllumina対合末端アダプターとgDNA断片とを、10:1のアダプター:ゲノムDNA挿入物のモル比を使用してライゲーションさせた。アダプターとライゲーションしたgDNA断片を捕捉前に濃縮し、Illumina PE PCRプライマー1.0および2.0ならびにHerculase IIポリメラーゼ(Agilent)を使用して、4回のPCRサイクルを使用してフローセル特異的配列を付加した。
【0410】
500ngのアダプターがライゲーションした、PCR濃縮したgDNA断片を、AgilentのSureSelectビオチン標識マウス全エクソームRNAライブラリベイトと24時間65℃でハイブリダイズさせた。ハイブリダイズしたgDNA/RNAベイト複合体を、ストレプトアビジンでコーティングした磁気ビーズを使用して除去した。gDNA/RNAベイト複合体を洗浄し、SureSelect溶出緩衝液中での溶出中にRNAベイトを切断して、捕捉されたアダプターにライゲーションされたPCR濃縮したgDNA断片が残った。Herculase II DNAポリメラーゼ(Agilent)およびSureSelect GA PCRプライマーを10サイクル使用して、gDNA断片を捕捉後にPCR増幅した。
【0411】
クリーンアップは1.8×体積のAMPure XP磁気ビーズ(Agencourt)を使用して行った。品質管理にはInvitrogenのQubit HSアッセイを使用し、断片の大きさはAgilentの2100 Bioanalyzer HS DNAアッセイを使用して決定した。
【0412】
エクソームが濃縮されたgDNAライブラリをcBot上でTruseq SRクラスターキットv2.5を使用して7pMを使用してクラスタリングし、Illumina HiSeq2000上でTruseq SBSキットを使用してシーケンシングした。
【0413】
エクソームデータ分析
bwa(バージョン0.5.8c)を使用して[Li, H.、Durbin, R.、Bioinformatics 25、1754~1760頁(2009)]、初期設定オプションを使用して、配列の読取りを参照マウスゲノムアセンブリmm9とアラインメントした[Mouse Genome Sequencing Consortium、Nature 420、520~562頁(2002)]。曖昧な読取り、-bwa出力によって提供されたゲノムの複数の位置にマッピングされる読取り-を除去した。残りのアラインメントを選別し、インデックスをつけ、バイナリ圧縮形式(BAM)に変換し、シェルスクリプトを使用して読取り品質スコアをIllumina標準phred+64から標準のサンガー品質スコアへと変換した。
【0414】
それぞれのシーケンシングレーンについて、3つのソフトウェアプログラムを使用して突然変異を同定した:SAMtools pileup(バージョン0.1.8)[Li, H.ら、Bioinformatics 25、2078~2079頁(2009)]、GATK(バージョン1.0.4418)[DePristo, M.A.ら、Nature Genetics 43、491~498頁(2011)]、およびSomaticSniper[Ding, L.ら、Hum. Mol. Genet(2010)、2010年9月15日に最初にオンラインで公開]。SAMtoolsでは、1ラウンド目のフィルタリング、最大カバレッジ200を含めた、著者に推奨されるオプションおよびフィルター基準を使用した(http://sourceforge.net/apps/mediawiki/SAMtools/index.php?title=SAM_FAQ、2011年9月にアクセス)。SAMtoolsの2ラウンド目のフィルタリングでは、最低インデル品質スコアは50であり、点突然変異の最低品質は30であった。GATK突然変異の呼出しでは、GATKのユーザ手引きに提示されている、著者によって設計された最良の実施の指針に従った(http://www.broadinstitute.org/gsa/wiki/index.php/The_Genome_Analysis_Toolkit、2010年10月にアクセス)。それぞれの試料について、インデル部位の周りの局所的再アラインメント、次いで塩基品質再較正を行った。UnifiedGenotyperモジュールを生じるアラインメントデータファイルに適用した。必要な場合は、dbSNPの既知の多型性[Sherry, S.T.ら、Nucleic Acids Res. 29、308~311頁(2009)](mm9にはバージョン128)を個々のステップに提供した。変異体スコア再較正ステップは省略し、ハードフィルタリングオプションによって置き換えた。SomaticSniper突然変異の呼出しでは、初期設定オプションを使用し、30以上の「ソマティックスコア」を有する予測された突然変異のみをさらに検討した。さらに、それぞれの潜在的に突然変異した座位について、正常組織での非ゼロカバレッジを必要とし、マウスゲノムアセンブリmm9についてUCSCゲノムブラウザ(Genome Browser)のRepeatMaskerトラックによって定義された反復配列中に位置するすべての突然変異を除去した[Fujita, P.A.ら、Nucleic Acids Res. 39、876~882頁(2011)]。
【0415】
RNA-Seq
バーコードmRNA-seq cDNAライブラリを、5ugの全RNAからIllumina mRNA-seqプロトコルの改変版を使用して調製した。mRNAはSeramagOligo(dT)磁気ビーズ(Thermo Scientific)を使用して単離した。単離したmRNAを二価陽イオンおよび熱を使用して断片化し、160~200bpの範囲の断片が生じた。ランダムプライマーおよびSuperScriptII(Invitrogen)を使用して断片化したmRNAをcDNAへと変換し、次いでDNAポリメラーゼIおよびRNaseHを使用して第2鎖を合成した。cDNAを、T4 DNAポリメラーゼ、クレノウDNAポリメラーゼを使用して末端修復し、T4ポリヌクレオチドキナーゼを使用して5'リン酸化した。平滑末端化されたcDNA断片を、クレノウ断片を使用して3'アデニル化した(3'から5'エキソマイナス)。T4 DNAリガーゼを使用して3'単一T-オーバーハングIllumina多重特異的アダプターをcDNA断片上にライゲーションさせた。cDNAライブラリを精製し、E-Gelの2%SizeSelectゲル(Invitrogen)を使用して300bpでサイズ選択した。濃縮、Illumina六塩基インデックスおよびフローセル特異的配列の付加は、PCRによってPhusion DNAポリメラーゼ(Finnzymes)を使用して行った。すべてのクリーンアップは1.8×体積のAgencourt AMPure XP磁気ビーズを使用して行った。
【0416】
バーコードRNA-seqライブラリをcBot上でTruseq SRクラスターキットv2.5を使用して7pMを使用してクラスタリングし、Illumina HiSeq2000上でTruseq SBSキットを使用してシーケンシングした。
【0417】
HiSeqの生の出力データを、低品質の読取りの除去および脱多重化を含めてIllumina標準プロトコルに従って処理した。その後、bowtie[Langmead, B.ら、Genome Biol. 10、R25(2009)]を使用して配列の読取りを参照ゲノム配列[Mouse Genome Sequencing Consortium、Nature 420、520~562頁(2002)]とアラインメントさせた。アラインメント座標をRefSeq転写物のエクソン座標と比較し[Pruitt, K.D.ら、Nucleic Acids Res. 33、501~504頁(2005)]、それぞれの転写物について、重複するアラインメントの数を記録した。ゲノム配列とアラインメントされない配列の読取りは、RefSeq転写物のすべての可能なエクソン-エクソン接合部配列のデータベースとアラインメントした[Pruitt, K.D.ら、Nucleic Acids Res. 33、501~504頁(2005)]。アラインメント座標をRefSeqエクソンおよび接合部座標と比較し、読取りを計数し、それぞれの転写物についてRPKM(マッピングされる読取りの数/転写物のヌクレオチドキロ塩基/百万個のマッピングされた読取り[Mortazavi, A.ら、Nat. Methods 5、621~628頁(2008)])に対して正規化した。
【0418】
SNVの検証
サンガー再シーケンシングおよびRNAによる検証のためにSNVを選択した。3つすべてのプログラムによって予測され、非同義であり、最低10のRPKMを有する転写物中で見つかるSNVを同定した。これらのうち、プログラムによって提供される最も高いSNP品質スコアを有する50個を選択した。陰性対照として、50%以上のFDRを有しており、1つの細胞系試料中にのみ存在し、1つの突然変異の呼出しプログラムによってのみ予測される44個のSNVを選択した。DNAを使用して、50ngのDNA、次いでサンガーシーケンシング(Eurofins MWG Operon、ドイツ、Ebersberg)を使用した領域のPCR増幅によって、選択された変異体を検証した。反応は陽性および陰性対照のそれぞれ50および32個の座位で成功した。また、検証は腫瘍RNA-Seq読取りの検査によっても行った。
【0419】
FDRの計算および機械学習
ランダムフォレスト品質スコアの計算:一般的に使用されている突然変異の呼出しのアルゴリズム(DePristo, M.A.ら、Nature Genetics 43、491~498頁(2011)、Li, H.ら、Bioinformatics 25、2078~2079頁(2009)、Ding, L.ら、Hum. Mol. Genet(2010)、2010年9月15日に最初にオンラインで公開)は複数のスコアを出力し、これらはすべて突然変異の呼出しの品質に潜在的に影響を与える。これらには、それだけには限定されないが、機器によって割り当てられた目的の塩基の品質、この位置の品質アラインメント、この位置を対象とする読取りの数、またはこの位置で比較した2つのゲノム間の相違のスコアが含まれる。偽発見率の計算には突然変異の順序づけを必要とするが、様々な品質スコアから矛盾する情報を有している可能性があるため、これはすべての突然変異で直接実現可能ではない。
【0420】
本発明者らは以下の戦略を使用して、完全な順序づけを実現する。第1のステップでは、すべてのカテゴリーにおいて優位である場合かつその場合に限り、1つの突然変異が別の突然変異よりも良好な品質を有すると仮定することによって、非常に厳格な優位性の定義を適用する。したがって、一組の品質特性S=(s1,…, sn)は、T=(t1,…, tn)よりも好ましく、すべてのi=1,…, nについてsi>tiである場合かつその場合に限り、S>Tによって示される。中間FDR(IFDR)を以下のように定義する。
【0421】
【数2】
【0422】
しかし、多くの密に関連する事例においてどのような比較も実現可能でなく、したがって利用可能な膨大な量のデータから恩恵を受けないため、IFDRは中間ステップのみとしてみなされる。したがって、ランダムフォレスト回帰の良好な一般化特性[Breiman, L.、Statist. Sci. 16、199~231頁(2001)]を活用し、Rで実装されるようにランダムフォレストをトレーニングする(R Development Core Team. R: A language and environment for statistical computing. R Foundation for Statistical Computing、Vienna、Austria、2010、Liaw, A.、Wiener, M.、R News 2、18~22頁(2002))。
【0423】
それぞれn個の品質特性を有するm個の入力突然変異について、それぞれの特性の値範囲を決定し、この範囲内から均一な間隔でp個までの値をサンプリングした。品質特性の値の組がpよりも小さい場合は、サンプリングした組の代わりにこの組を使用した。その後、サンプリングまたは選択した品質値のそれぞれの可能な組合せを作成し、これにより、n次元の品質空間内に最大pn個のデータ点がもたらされる。これらの点の1%および対応するIFDR値のランダムサンプルをランダムフォレストトレーニングのそれぞれ予測子および応答として使用した。
【0424】
生じる回帰スコアが一般化された品質スコアQであり、これを個々の品質スコアの局所的に重みづけした組合せとしてみなすことができる。これにより、任意の2つの突然変異の直接的な単一の値の比較および実際の偽発見率の計算が可能となる。
【0425】
【数3】
【0426】
本研究の結果を作成するために使用したランダムフォレストモデルのトレーニングには、すべての試料の体細胞突然変異に対する試料のIFDRを計算した後で、ランダムな1%の部分組を選択する。これにより、利用可能な品質空間全体をFDR値にマッピングすることが確実となる。品質特性「SNP品質」、「カバレッジ深度」、「コンセンサス品質」および「RMSマッピング品質」(SAMtools、p=20);「SNP品質」、「カバレッジ深度」、「変異体信頼度/フィルタリングされていない深度」および「RMSマッピング品質」(GATK、p=20);または「SNP品質」、「カバレッジ深度」、「コンセンサス品質」、「RMSマッピング品質」および「ソマティックスコア」(SomaticSNiPer、p=12)をそれぞれ使用した。様々なp値により、比較可能な規模の組の大きさが確実となる。
【0427】
共通カバレッジの計算:可能な突然変異の呼出しの数は偽発見率の定義に大きな偏りを導入する場合がある。腫瘍比較および対同一物比較について突然変異が起こる可能な位置が同じ数である場合にのみ、呼出しされた突然変異の数が比較可能であり、偽発見率の計算の基礎として役割を果たすことができる。この潜在的な偏りを補正するために、共通カバレッジ割合を使用する。共通カバレッジとして、両試料中で少なくとも1のカバレッジを有する塩基の数を定義し、これを突然変異の呼出しに使用する。腫瘍比較および対同一物比較について共通カバレッジを個々に計算する。
【0428】
ROCの推定
受信者動作特性(ROC)曲線および対応する曲線下面積(AUC)は、分類子を組織化し、その性能を可視化するために有用である[Fawcett, T.、Pattern Recogn. Lett. 27、861~874頁(2006)]。この概念を実験およびコンピュータ手順の性能を評価するために拡張する。しかし、ROCグラフのプロットには、高スループットデータ(NGSデータなど)では通常は与えられず、確立が困難な情報である、データセット中のすべての真および偽の陽性(TPおよびFP)の例の知識が必要である。したがって、本発明者らは計算したFDRを使用してそれぞれのTPおよびFPの割合を推定し、ROCグラフをプロットしてAUCを計算する。中心的概念は、データセット中の単一の突然変異のFDRが、この突然変異がどの程度TP/FP突然変異の合計に寄与するかの割合をそれぞれ与えることである。また、TPおよびFPへのランダムな割当てのリストでは、生じるROC AUCは本方法では0.5に等しくなり、完全にランダム予測を示す。
【0429】
2つの条件、すなわち
【0430】
【数4】
【0431】
および
FPR+TPR=1 [2]
で開始し、FPRおよびTPRはそれぞれ所定の突然変異の必要な偽陽性真陽性比であり、ROC空間中の対応する点を定義する。[1]および[2]は以下のように再編成することができる。
TPR=1-FPR [3]
および
FPR=FDR [4]
【0432】
推定ROC曲線を得るために、データセット中の突然変異をFDRによって選別し、それぞれの突然変異について、この突然変異までの累積TPRおよびFPR値をそれぞれすべてのTPRおよびTPR値の合計で除算した点をプロットする。AUCは、曲線とx軸の間のすべての連続する台形の面積を合計することによって計算する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9AB
図9C
図10AB
図10C
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図16
図17
図18A
図18B
図19
図20
図21
【配列表】
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