(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】銅マンガンスパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
C22F 1/08 20060101AFI20230619BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20230619BHJP
C22C 9/05 20060101ALI20230619BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230619BHJP
【FI】
C22F1/08 N
C23C14/34 A
C22C9/05
C22F1/00 613
C22F1/00 630A
C22F1/00 630C
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 604
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692Z
(21)【出願番号】P 2020520580
(86)(22)【出願日】2018-10-11
(86)【国際出願番号】 US2018055418
(87)【国際公開番号】W WO2019075204
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-10-04
(32)【優先日】2017-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500575824
【氏名又は名称】ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】Honeywell International Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】ステファン・フェラッセ
(72)【発明者】
【氏名】フランク・シー・アルフォード
(72)【発明者】
【氏名】スーザン・ディー・ストラザーズ
(72)【発明者】
【氏名】アイラ・ジー・ノーランダー
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・アール・ピンター
(72)【発明者】
【氏名】パトリック・アンダーウッド
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-533187(JP,A)
【文献】特開2014-043643(JP,A)
【文献】特開2013-067857(JP,A)
【文献】特開2016-183406(JP,A)
【文献】国際公開第2017/014990(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106399954(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/08
C23C 14/34
C22C 9/00-9/10
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度銅
マンガン合金を形成する方法であって、
熱処理工程において少なくとも30分間、マンガンを含む銅材料を400℃
以上の温度に加熱することであって、前記銅材料が
、2重量%
~20重量%のマンガン
、残部銅および不可避不純物を含み、
加熱後、銅材料は90~130のブリネル硬度を有する、加熱することと、
前記銅材料
を325℃
~350℃の温度に冷却さ
せることと、
前
記銅材料を
325℃~350℃の温度で等チャネル角押出(ECAE)で押
出すことと、を含む、方法。
【請求項2】
前記方法が、
ECAEで銅材料を押出す工程の後に、前記銅材料を第1の圧延工程に供することと、
第1の圧延工程の後に、前記
銅材料を、400℃~575℃の温度に少なくとも0.5時間加
熱することと、
前記銅材料を
400℃~575℃の温度に少なくとも0.5時間加熱した後に、前記銅材料を第2の圧延工程に
供することと、を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱処理工程において少なくとも30分間、マンガンを含む銅材料を400℃以上の温度に加熱することが、熱処理工程において少なくとも1時間、マンガンを含む銅材料を400℃を上回る温度に加熱することである、請求項1または2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高強度銅マンガン合金に関する。より具体的には、本開示は、少なくとも2重量%のマンガンを含有する銅マンガン合金に関する。いくつかの実施形態では、銅マンガン合金は、スパッタリングターゲットアセンブリで使用され得る。高強度銅マンガン合金を形成する方法も記載される。
【背景技術】
【0002】
物理蒸着法(physical vapor deposition、「PVD」)は、様々な基板の表面に材料の薄膜を形成するために広く使用されている。スパッタリングとして知られる1つのPVDプロセスでは、原子は、プラズマなどのガスイオンとの衝突によって、スパッタリングターゲットの表面から排出される。そのため、スパッタリングターゲットは、基板上に堆積される材料の供給源である。
【0003】
例示的なスパッタリングアセンブリの一部の線図を、
図1に示す。スパッタリングアセンブリ10は、結合されたスパッタリングターゲット14を有するバッキングプレート12を備える。半導体ウェハ18は、アセンブリ内に配置され、スパッタリングターゲット14のスパッタリング表面16から離間している。動作中、粒子又はスパッタリングされた材料22は、スパッタリングターゲット14の表面16から変位し、半導体ウェハ18の表面上に堆積して、ウェハ上にコーティング(又は薄膜)20を形成する。
図1に示されるスパッタリングアセンブリ10は、例えば、ターゲット14とバッキングプレート12の両方が任意の好適なサイズ又は形状であり得るため、例示的な構成であることを理解されたい。いくつかの実施形態では、物理蒸着装置10は、バッキングプレート12なしにスパッタリングターゲット14を含み得る。この構成は、モノリシック構成と称される。
【0004】
様々な金属及び合金は、PVD技術を使用して蒸着することができ、例えば、Al、Ti、Cu、Ta、Ni、Mo、Au、Ag、Pt、及びこれらの元素の合金が挙げられる。1つのそのような合金は、例えば、半導体産業で使用される様々な金属相互接続を形成するために、スパッタリングターゲットで使用されている銅マンガン(copper manganese、「CuMn」)である。現在のCuMn合金スパッタリングターゲットは、1重量%未満のMnを含有する。
【0005】
加えて、半導体ウェハ製造技術における進歩は、300mm及び450mmスパッタリングターゲット(すなわち、300mm又は450mmのシリコンウェハ堆積プロセスで使用するターゲット)などの、より大きなスパッタリングターゲット構成に対する要求をもたらした。高スパッタリング電力もまた、スループット、フィルム品質、及び均一性を改善するために使用されている。しかしながら、高スパッタリング電力は、従来のスパッタリングターゲットにおける偏向及び反りのリスクを増加させ得る。したがって、偏向を制限するためにより高い強度を有するスパッタリングターゲットのための半導体産業において望まれている。
【発明の概要】
【0006】
一実施形態では、高強度銅合金を形成する方法は、マンガンを含む銅材料を400℃を上回る温度に加熱することであって、銅材料が、約2重量%~約20重量%のマンガンを含む、加熱することと、銅材料を約325℃~約350℃の温度に冷却させて、冷却された銅材料を形成することと、冷却された銅材料を等チャネル角押出(equal channel angular extrusion、ECAE)で押出して、冷却された銅マンガン合金を形成することと、を含む。
【0007】
別の実施形態では、スパッタリングアセンブリは、スパッタリングターゲットを含み、銅を主成分とし、かつマンガンを含有する銅合金を有し、マンガンは、銅合金の重量で約2重量%~約20重量%の重量パーセントで存在する。スパッタリングターゲットは、実質的に精密化された二次相を有し、そのため、二次相は、鍛造及び圧延などの従来の熱機械処理方法によって得られる平均直径よりも少なくとも約1.5倍小さい平均直径を有する。
【0008】
多数の実施形態が開示されるが、当業者には、本発明の例示的実施形態を図示及び説明する以下の発明を実施するための形態から、本発明の更に他の実施形態が明らかになるであろう。したがって、図面及び発明を実施するための形態は、制限的なものではなく、本質的に実例とみなされるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】いくつかの実施形態による、銅マンガン合金を形成する方法のフロー図である。
【
図3】特定の例示的な銅合金について、ブリネル硬度及びアニーリング温度を比較するグラフである。
【
図4】特定の例示的な処理方法について、再結晶粒径をアニーリング温度と比較するグラフである。
【
図5A】光学顕微鏡で取られた特定の処理条件に供された銅マンガン合金の粒径を比較する顕微鏡写真である。
【
図5B】光学顕微鏡で取られた特定の処理条件に供された銅マンガン合金の粒径を比較する顕微鏡写真である。
【
図5C】光学顕微鏡で取られた特定の処理条件に供された銅マンガン合金の粒径を比較する顕微鏡写真である。
【
図5D】光学顕微鏡で取られた特定の処理条件に供された銅マンガン合金の粒径を比較する顕微鏡写真である。
【
図6】特定の例示的な処理方法に供された銅マンガン合金について、降伏強度及び極限引張強度を比較するグラフである。
【
図7】いくつかの既存のバッキングプレート材料の降伏強度を、特定の例示的な銅マンガン合金の降伏強度と比較するグラフである。
【
図8】いくつかの既存のバッキングプレート材料のブリネル硬度を、特定の例示的な銅マンガン合金のブリネル硬度と比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書では、例えば、スパッタリングターゲットで使用するための高強度銅マンガン合金が開示される。より具体的には、本明細書では、高強度、高熱安定性、及び精密化された微細構造を有する銅マンガン合金が開示される。熱処理工程及び等チャネル角押出(ECAE)を含む銅マンガン合金を形成する方法も開示される。
【0011】
高強度銅マンガン合金は、主成分としての銅及び微量成分としてのマンガンを含む。主成分としての銅は、微量成分であるマンガンよりも高い重量パーセントで存在する。例えば、高強度銅マンガン合金は、約80重量%~約98重量%、約88重量%~約97重量%、又は約90重量%~92重量%の銅、及び約2重量%~約20重量%、約3重量%~約12重量%、又は約8重量%~約10重量%のマンガンを含み得る。いくつかの実施形態では、高強度銅マンガン合金は、銅、マンガン、及び1つ以上の追加の微量成分を含み得る。他の実施形態では、高強度銅マンガン合金は、銅、マンガン、並びに酸素、炭素、及び他の微量元素などの不可避不純物からなり得る。
【0012】
高強度銅マンガン合金は、精密化された微細構造を有する。いくつかの実施形態では、合金は、最大約15μm(例えば、約0.2μm~約15μm)の直径の平均粒径を有する。例えば、粒径は、約0.2μm~約1μm、約1μm~約2.5μm、約2.5μm~約6.5μm、約6.5μm~約12.5μm、又は約12.5μm~約15μmであり得る。
【0013】
銅マンガン合金は、「鋳抜き」材料と比較して、本開示の銅マンガン合金中でより少ない空隙が生じるように、空隙を実質的に含まなくてもよい。いくつかの実施形態では、合金は、空隙が発生しないように空隙を含まなくてもよい。他の実施形態では、合金は、直径が約100μmよりも大きいものなどの大きな多孔性又は孔を実質的に含まなくてもよい。
【0014】
銅マンガン合金はまた、精密化された二次相を有し得る。高い(すなわち、2重量%以上の)重量パーセントのマンガンを有する銅合金は、スパッタリングターゲットにおいて望ましくない、マンガン沈殿物及び二次相又は含有物を含有し得る。二次相は、例えば、酸化マンガン(manganese oxides、MnO)及び/又はマンガン硫化物(MnS)を含み得、その形成は、合金化プロセス中に酸素及び/又は硫黄が存在するかどうかに依存する。現在の銅マンガン合金は、限られた量の二次相を含有し、存在する二次相は、従来の熱機械処理方法で処理された合金中に存在する二次相の直径よりも小さい平均直径を有する。例えば、現在の銅マンガン合金の二次相は、従来の方法で処理された合金の平均直径よりも少なくとも約1.5倍小さい平均直径を有し得る。従来の熱機械処理方法の例、又は本明細書では別名従来の方法と称される例としては、鋳抜き、鍛造、及び圧延が挙げられる。したがって、現在の処理方法で処理された銅マンガン合金は、従来の方法で処理された銅マンガン合金よりも少なくとも約1.5倍小さい平均直径を有する二次相を有し得る。
【0015】
銅マンガン合金はまた、増加した硬度特性を有し得る。いくつかの実施形態では、銅マンガン合金のブリネル硬度(Brinell Hardness、HB又はHBN)は、約155HB~約200HBであり得る。
【0016】
銅マンガン合金はまた、高い強度を有し得る。高い重量パーセント(すなわち、2重量%以上)のマンガンを有する銅合金は、典型的には、低い重量パーセント(すなわち、2重量%未満)のマンガンを有する銅合金よりも高い強度を有する。例えば、銅マンガン合金は、約475MPa~約700MPaの平均降伏強度を有し得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、銅マンガン合金は、
図1に示す装置10などの物理蒸着装置で使用するためのスパッタリングターゲットであり得る。いくつかの実施形態では、銅マンガン合金スパッタリングターゲットは、バッキングプレートに接続又は結合され得る。他の実施形態では、銅マンガン合金は、モノリシックターゲットであり得る。
【0018】
銅マンガン合金スパッタリングターゲット14は、
図2による方法によって形成され得る。
図2は、いくつかの実施形態による、銅マンガン合金を形成する方法100のフロー図である。一実施形態では、方法100は、第1の初期処理工程110を含む。第1の初期処理工程110は、例えば、粉末、チップ、フレーク、鋳造母合金、又は粒状物を使用して、合金元素(すなわち、マンガン)を添加して、好ましい材料組成物を得ることを含み得る。第1の初期処理工程110はまた、鋳造などの当業者に既知の他のプロセスを含み得る。いくつかの実施形態では、方法100はまた、初期熱機械(thermo-mechanical、TMP)処理を伴う第2の初期処理工程111も含む。1つの例示的なTMP処理方法は、銅マンガン材料の熱間鍛造を含む。熱間鍛造中、銅マンガンビレットの高さは、ビレットサイズが更なる処理に適するように低減される。熱間鍛造はまた更に、鋳抜き粒径を精密化し、均質化又は組成物、並びに空隙及び多孔性などの鋳抜き欠陥の低減を増加させ得る。熱間鍛造温度は、マンガンの重量百分率に依存する。例えば、より低い重量パーセントのマンガンを有する合金では、好適な熱間鍛造温度範囲は、少なくとも1時間の期間、約400~600℃であり得る。より高い重量パーセントのマンガンを有する合金では、好適な温度範囲は、少なくとも1時間の期間、約600~約950℃であり得る。熱間鍛造の後、銅材料は、空気中で室温まで水急冷又は冷却され得る。第2の初期処理工程111はまた、当業者に既知の他のプロセスを含み得る。
【0019】
方法100は、工程112、工程114、及び工程116を含む第1の処理シーケンス104を更に含む。工程112において、銅材料は、少なくとも1時間の期間にわたって400℃を上回る温度に加熱される。例えば、銅材料は、少なくとも1時間の期間にわたって約425℃~約450℃の温度に加熱され得る。しかしながら、この温度は、CuMn合金中に存在するマンガンの重量パーセントに応じて変動し得る。例えば、温度は、多孔性のより良好な治癒を達成し、かつ組成物を均質化するために、高い重量パーセントのマンガンを有するCuMn合金に対して、より高い場合がある。この温度は、ブリネル硬度を測定することによって決定することができる。例えば、ブリネル硬度は、クラッキングを制限し、かつその後のECAE処理中の負荷を低減するために、熱処理後に約90~130であるべきである。いくつかの実施形態では、温度は、ECAEの3~4回の通過を経た銅マンガン合金の完全再結晶化温度よりも約10℃低い場合がある。完全再結晶化温度は、様々な温度で1時間、銅材料を熱処理し、粒径及びブリネル硬度を測定することによって決定され得る。全粒が再結晶化されたときに、完全な再結晶化が完了する。銅材料は、銅とマンガンとの混合物であり、ここでは、銅は、一次成分として存在し、マンガンは、微量成分として存在する。例えば、銅は、約80重量%~約98重量%の銅、及び約2重量%~約20重量%のマンガンの量で存在し得る。銅材料はまた、他の微量成分又は不純物を含有し得る。いくつかの実施形態では、工程112は、均一な微細構造を提供するために均質化又はアニーリングによって行われ得る。
【0020】
工程114では、銅材料を約300℃~約350℃の温度に冷却して、冷却された銅材料を形成する。例えば、銅材料は、約325℃~約350℃の温度に冷却され得る。銅材料は、急冷などによって急速に冷却され得るか、又は周囲温度で空気冷却され得る。
【0021】
工程115では、冷却された銅材料は、第1の任意選択的な熱処理工程を経てもよい。例えば、冷却された銅材料は、少なくとも1時間の期間にわたって約425℃~約750℃の温度に加熱され得る。この任意選択的な熱処理を完了して、アニーリング工程112及び/又は冷却工程114から結果として得られる微細構造のいずれかの変形を再結晶化し得、より均一なかつ精密化された微細構造をもたらし得る。
【0022】
工程116では、冷却された銅材料をECAEで押出成形して、ECAE銅マンガン合金を形成する。いくつかの実施形態では、工程116は、ECAEの1~4回の通過を含む。他の実施形態では、工程116は、ECAEの4回以上の通過を含み得る。いくつかの実施形態では、銅管理合金は、ECAE通過間で回転され得る。例えば、工程116は、冷却された銅材料が各通過間で90度回転される、ECAEの4回の通過を含み得る。
【0023】
方法100は、例えば、多段階熱処理、応力除去、又は銅マンガン合金の特性に影響を及ぼさない任意の他のプロセスを含み得る、最終処理工程124を更に含み得る。次いで、合金は、モノリシックターゲットとして使用される更なる処理に供することができるか、又はスパッタリング用途で使用されるバッキングプレートに接合され得る。
【0024】
別の実施形態では、方法100は、上記に開示したような初期処理工程110、上記に開示したような第1の処理工程104、並びに工程118、工程120、及び工程122を含む任意選択的な第2の処理シーケンス106を含み得る。
【0025】
工程118では、冷却された銅マンガン合金は、第1の圧延工程に供される。
【0026】
工程120では、合金は、400℃を上回る温度に少なくとも0.5時間の期間加熱されて、加熱された銅マンガン合金を形成する、第2の任意選択的な熱処理工程を経てもよい。例えば、一実施形態では、冷却された銅マンガン合金は、約400℃~約575℃の温度に約0.5時間~約4時間の期間加熱され得る。別の実施例では、合金は、強度、粒径、及び任意の他の特性などの合金の所望の特性に応じて、約425℃~約550℃の温度に加熱され得る。
【0027】
工程122では、加熱された銅マンガン合金は、第2の圧延工程、あるいは鍛造、押出、又は延伸工程を経て、硬化銅マンガン合金を形成し得る。いくつかの実施形態では、この硬化銅マンガン合金は、実質的に精密化された微細構造を有し、これによって、粒子構造は実質的に均一であり、等軸化される。更に、いくつかの実施形態では、硬化銅マンガン合金は、約1.5μm~約15μmの平均粒径を有し得る。他の実施形態では、合金は、約1.5μm~約5μmの平均粒径を有し得る。方法100は、上記に開示したように、最終処理工程124を更に含み得る。
【0028】
高いパーセントのマンガンを有するCuMn合金は、多くの場合、より低いパーセントのマンガンを有するCuMn合金と比較して、増加した強度及び/又は硬度特性を呈する。しかしながら、より高いパーセントのマンガンを有するCuMn合金はより硬質であり、多孔性及び鋳造欠陥を形成する傾向がより高いため、多くの場合、材料の脆性に起因する亀裂の傾向がより高い。本明細書に記載のECAEプロセスは、製造可能なCuMn合金をもたらす。
【0029】
実施例1:硬度に対するアニーリング温度及びMn含有率の効果
約0.5重量%のMn~約10重量%のMnの重量パーセントを有する様々な銅マンガン合金について、硬度に対するアニーリング(すなわち、熱処理)温度の効果が観察された。銅マンガン合金を約250℃~約600℃の温度に加熱し、対応するブリネル硬度(HB)値を、米国規格ASTM E10~14に従って標準的なブリネル硬度試験を実施することによって決定した。
【0030】
図3は、表1に列挙される量で高純度銅をマンガンと組み合わせることによって形成された7つの異なる銅マンガン合金組成物について、HB値とアニーリング温度との間の関係を示す。この実施例で使用されるすべてのCuMn合金について、6N Cu(純度99.9999%)及び5N Mn(純度99.999%)を使用した。すべての合金をECAEで処理した。表1中のすべての数は、重量パーセント基準で表される。
【0031】
【0032】
図3に示すように、それぞれ7重量%及び10重量%のMnの重量パーセントを有する組成物2及び組成物6は、アニーリング温度にかかわらず、Mnのより低い重量パーセントを有する銅マンガン合金よりも高いHB値を有する。例えば、425℃では、組成物2及び組成物6の両方は、約90のHB値を有し、Mnのより低い重量パーセントを有する組成物3及び組成物4は、わずかに約60のHB値を有する。2.6重量%のMnの重量パーセントを有する組成物7は、より低い重量パーセントを有する銅マンガン合金よりも高いHB値を提供する。
【0033】
粒径との関係も
図3に示される。この実施例では、粒径は、それぞれのサンプルについて、米国規格ASTM E112に従って、複数の個々の粒の平均サイズを測定することによって測定される。1μm未満の粒径を得る限界は、破線で示されており、破線の上方の点は1μm未満の粒径を有し、破線の下方の点は1μm以上の粒径を有する。したがって、破線は、特定のアニーリング温度で1μm未満の粒径の硬度限界(すなわち、各合金について得ることができる最小硬度)を表す。例えば、組成物2及び組成物6は、より低い重量パーセントのMnを有する組成物と同じ粒径に到達するために、より高いアニーリング温度を必要とする。しかしながら、組成物2及び組成物6はまた、より低い重量パーセントのMnを有する組成物よりも同じ粒径でより高いHB値を有する。例えば、組成物6は、1μm未満の粒径で約120のHB値を有し、一方、同じ粒径では、組成物1、3、4、及び5は、約100~110のHB値のみを有した。
図3はまた、高い重量パーセントのマンガン及び1μm未満の粒径を有するCuMn合金の最大達成可能硬度が増加していることを示す。例えば、250℃では、組成物2及び6は、180~190の範囲のHB値を有し、組成物1、3、4、及び5は、150を下回るHB値を有する。
【0034】
実施例2:アニーリング温度及び処理方法の効果
アニーリング温度の効果は、3つの異なる処理方法について観察された。対照プロセスは、ECAEなしの標準的な鍛造及び圧延(鍛造+圧延)プロセスを含んだ。この対照プロセスは、1)4回の通過ECAE及び圧延(ECAE+圧延)プロセス、及び2)圧延なしの4回の通過ECAE(ECAE)プロセスと比較した。それぞれ標準的な鍛造+圧延、ECAE+圧延、及びECAE工程の後に、アニーリングを完了した。約10重量%のMnを有する銅マンガン合金をすべてのプロセスに使用した。結果を
図4に示す。
【0035】
図4は、ECAE+圧延プロセス及びECAEプロセスの両方が、すべての試験されたアニーリング温度における鍛造+圧延プロセスよりも微細な結晶構造及びより小さい再結晶粒径をもたらしたことを示す。平均して、
図4は、鍛造+圧延プロセスが、ECAEを伴うプロセスの各々よりも3~4倍大きい粒径を有したことを示す。例えば、500℃でアニーリングした場合、鍛造+圧延プロセスは、ECAE+圧延プロセス及びECAEプロセスの両方について約7μmの平均粒径と比較して、約20μmの平均粒径を有した。
【0036】
実施例3:再結晶化粒径に対するアニーリング温度の効果
ECAEで処理された銅マンガン合金については、粒径に対するアニーリング温度の効果が観察された。10重量%のマンガンを有する銅マンガン合金を、4回の通過のECAEで処理した後、様々な温度にアニーリングした。アニーリング後、合金サンプルの粒径を光学顕微鏡を用いて比較した。
【0037】
図5A、
図5B、
図5C、及び
図5Dは、結果として得られた粒径を示す。
図5Aでは、サンプルを約425℃の温度にアニーリングした。示されるように、平均粒径は、約1.8μm~約2.3μmであった。
図5Bでは、サンプルを約450℃の温度にアニーリングし、約3.75μmの平均粒径を得た。
図5Cでは、サンプルを約500℃の温度にアニーリングし、約6.5μmの平均粒径を得た。
図5Dでは、サンプルを約550℃にアニーリングし、約12.1μmの平均粒径を得た。したがって、この実施例では、より低い温度(すなわち、約425℃~約450℃)でアニーリングすると、より低い平均粒径を有するより精密化された結晶構造をもたらし、一方、より高温(すなわち、約500℃~約550℃)でアニーリングすると、有意により大きな平均粒径をもたらした。425℃を下回る温度でアニーリングすると、サブミクロン粒径をもたらした。
【0038】
実施例4:強度に対する処理方法の効果
2つの銅合金については、強度に対する処理方法の効果が観察された。Cu10Mn合金は、銅を10重量%のマンガンと組み合わせることによって形成した。このCu10Mn合金は、1)標準的な鍛造及び圧延、2)ECAE、及び3)圧延(ECAE+圧延)によるECAEを介して処理した。銅合金C18000(クロム、ニッケル、及びケイ素を含有する銅系合金)も試験した。Cu C18000は、スパッタリングターゲットのバッキングプレートに現在使用されている1つの合金である。Cu C18000材料を、1)「受け取り時」(すなわち、追加の処理なしで)、2)高温及び高圧が材料に適用された熱間等方圧加圧(HIP)プロセス後に試験した。ASTM E8規格に従って標準的な引張試験を実施することによって、すべてのサンプルについて降伏強度及び極限引張強度を決定した。5.08cm(2インチ)のゲージ長さ及び1.27cm(0.5インチ)の直径を有する円形引張試験片を各材料から切り出し、上記に参照した標準的な手順に従って室温で試験した。
【0039】
図6は、上記の各処理方法の降伏強度及び極限引張強度を比較する。Cu10Mn合金の結果は、ECAE及びECAE+圧延プロセスのより大きな降伏強度及び極限引張強度を示す。例えば、ECAE及びECAE+圧延サンプルは、それぞれ約600MPa及び630MPaの降伏強度を有し、それらは、約150MPaの降伏強度を有する標準的な鍛造及び圧延プロセスよりも約4.5倍高かった。同様に、ECAE及びECAE+圧延プロセスは、それぞれ約620MPa及び650MPaの最大引張強度を有し、これは、約320MPaの極限引張強度を有する標準的な鍛造及び圧延プロセスよりも約2倍高かった。
【0040】
図6はまた、Cu10Mn合金をC18000材料と比較する。結果は、Cu10Mn合金が、ECAE又はECAE+圧延のいずれかで処理されたとき、「受け取り時」及びHIP後の両方で試験したときのC18000材料よりも高い降伏強度及び極限引張強度を有することを示す。
【0041】
また、ECAE及びECAE+圧延プロセスの両方の後のCuMn合金の結果として得られた平均粒径は、1μm未満であった。これは、より精密化された微細構造に寄与するECAEに起因する。標準鍛造+圧延後のCuMn合金の平均粒径は、約30μmであった。
【0042】
実施例5:降伏強度に対する組成物の効果
様々な銅マンガン合金組成物及び様々な他のバッキングプレート材料について、降伏強度に対する組成物の効果を観察した。試験された材料が以下の表2に示されている。
【0043】
【0044】
サンプル1は、約10重量%のMnを含有し、標準的な鍛造及び圧延によって処理された。サンプル2~4は、スパッタリング用途で一般的に使用されるマンガンの量を含む。サンプル2~4は、それぞれ約0.43重量%、0.69重量%、及び0.87重量%のMnを含有する。サンプル5はまた、約10重量%のMnを含有する。サンプル2~5の各々を、4回の通過ECAEで処理した。ECAEの各通過間で、サンプル2~4を約325℃~約350℃の温度に加熱した。サンプル5は、ECAE通過間の熱処理プロセスに供された。このプロセスは、約400~450℃の温度に少なくとも30分間熱処理することと、周囲温度で約350℃の温度に到達するまで空気冷却することと、約325~350℃の温度に少なくとも30分間熱処理することと、を含む。このプロセスは、負荷を制限し、かつサンプルのより良好な表面品質を提供するために行われた。サンプル6~10は、スパッタリング用途で一般的に使用される様々なバッキングプレート材料を含む。
【0045】
図7は、上記の材料の降伏強度を比較する。図示のように、ECAE(すなわちサンプル2~5)で処理されたすべての材料は、平均して、ECAEで処理されていない材料よりも高い降伏強度をもたらした。サンプル5(ECAE Cu10Mn)は、試験したすべてのサンプルのうちで最も高い降伏強度を示し、サンプル1の降伏強度よりも4倍超高かった。例えば、サンプル5は約640MPaの降伏強度を有し、サンプル1はわずかに約140MPaの降伏強度を有した。サンプル5はまた、サンプル6~10のすべてよりも高い降伏強度を有した。
【0046】
実施例6:ブリネル硬度に対する組成物の効果
様々な銅マンガン合金組成物及び様々な他のバッキングプレート材料について、ブリネル硬度(HB)に対する組成物の効果を観察した。試験された材料が以下の表3に示されている。
【0047】
【0048】
サンプル1~4は、それぞれ約0.43重量%、0.43重量%、0.87重量%、及び1.7重量%のMnを含有する。サンプル5~6は、それぞれ約7重量%及び10重量%のMnを含有する。サンプル1を標準的な鍛造及び圧延によって処理し、約35μmの粒径をもたらした。サンプル2~6をECAEで処理し、1μm未満の粒径をもたらした。サンプル7~11は、スパッタリング用途で一般的に使用される様々なバッキングプレート材料を含む。
【0049】
図8は、上記の材料のブリネル硬度(HB)を比較する。再び、ECAE(サンプル2~5)で処理されたほとんどの材料は、サンプル10(高強度アルミニウム)及びサンプル11(C18000)を除いて、ECAEで処理されていない材料よりも高いHBをもたらした。しかしながら、それぞれ7重量%及び10重量%の重量パーセントを有するサンプル5~6は、試験したすべての他の材料よりも高いHBを有した。例えば、サンプル5は、約180のHBを有し、サンプル6は約190のHBを有し、サンプル10は約130のHBを有し、サンプル11は約160のHBを有した。したがって、約2重量%超(すなわち、約7重量%~約10重量%)のマンガンの重量パーセント、及びECAEでの処理は、最高のブリネル硬度をもたらした。
【0050】
実施例7:二次相に対する処理方法の効果
二次相のサイズに対する処理方法の効果が観察された。二次相は、統合SEM/EDXを使用して自動手順によって検出され、硫酸マンガン(manganese sulfate、MnS)を含む。本実施例で使用される統合型SEM/EDXシステムは、FEIによってAspex Explorerの名称で販売されており、最大50,000倍の倍率でデータ報告を提供する。約10重量%のマンガン(Cu10Mn)を有する銅マンガン合金中の二次相の平均直径は、鍛造及び圧延後、並びにECAE及び圧延後に「鋳抜き」材料で検出された。結果を以下の表4に比較する。すべての直径は、マイクロメートル(μm)である。
【0051】
【0052】
Cu10Mn材料中の二次相の平均面積はまた、鍛造及び圧延後、並びにECAE及び圧延の後に、「鋳抜き」材料で検出された。結果を以下の表5に比較する。すべての面積測定値は、平方マイクロメートル(μm2)である。
【0053】
【0054】
上記表4及び表5に示すように、ECAEに供されたCu10Mn合金は、「鋳抜き」材料並びに鍛造及び圧延材料の両方と比較して、より小さい二次相を示した。平均して、ECAEに供された材料中の二次相は、「鋳抜き」材料における二次相よりも約3倍小さい直径及び7倍小さい面積を有した。したがって、ECAEで銅マンガン合金を処理することにより、ECAEで処理しないよりも小さい直径及び/又は面積を有するより精密化された二次相(MnS)をもたらした。
【0055】
本発明の範囲から逸脱することなく、記載した例示的な実施形態に対して様々な修正及び付加を行うことができる。例えば、上述の実施形態は、特定の特徴に言及するものであるが、本発明の範囲はまた、異なる特徴の組み合わせを有する実施形態及び上述の特徴のすべてを含むわけではない実施形態を含む。
本明細書は以下の発明の態様を包含する。
[1]
高強度銅合金を形成する方法であって、
マンガンを含む銅材料を400℃を上回る温度に加熱することであって、前記銅材料が、約2重量%~約20重量%のマンガンを含む、加熱することと、
前記銅材料を約325℃~約350℃の温度に冷却させて、冷却された銅材料を形成することと、
前記冷却された銅材料を等チャネル角押出(ECAE)で押出して、冷却された銅マンガン合金を形成することと、を含む、方法。
[2]
前記銅合金を押出成形することが、等チャネル角押出の少なくとも4回の通過を含む、[1]に記載の方法。
[3]
前記高強度銅合金が、約400℃~約450℃の温度に少なくとも1時間加熱した後に、最大約2μmの直径の平均粒径を有する、[1]に記載の方法。
[4]
前記高強度銅合金が、約500℃~約550℃の温度に少なくとも1時間加熱した後に、直径約12μm~直径約15μmの平均粒径を有する、[1]に記載の方法。
[5]
前記方法が、
前記冷却された銅マンガン合金を第1の圧延工程に供することと、
前記冷却された銅マンガン合金を、約400℃~約575℃の温度に少なくとも0.5時間加熱して、加熱された銅マンガン合金を形成することと、
前記加熱された銅マンガン合金を第2の圧延工程に供して、硬化銅マンガン合金を形成することと、を更に含む、[1]に記載の方法。
[6]
前記硬化銅マンガン合金が、直径約1.5μm~直径約15μmの平均粒径を有する、[5]に記載の方法。
[7]
スパッタリングターゲットを備えるスパッタリングアセンブリであって、
銅を主成分とし、かつマンガンを含有する銅合金を含み、前記マンガンが、前記銅合金の重量で約2重量%~約20重量%の重量パーセントで存在し、前記スパッタリングターゲットが、実質的に精密化された二次相を有し、そのため、前記二次相が、従来の熱機械処理方法によって得られる平均直径よりも少なくとも約1.5倍小さい平均直径を有する、スパッタリングアセンブリ。
[8]
前記銅合金が、約3重量%~約12重量%のマンガンを含む、[7]に記載のスパッタリングアセンブリ。
[9]
前記銅合金が、最大約15μmの直径の平均粒径を有する、[7]に記載のスパッタリングアセンブリ。
[10]
前記銅合金が、約475MPa~約700MPaの平均降伏強度を有する、[7]に記載のスパッタリングアセンブリ。