(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】被検体搬送具
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20230619BHJP
【FI】
A61B6/03 323Z
A61B6/03 331
(21)【出願番号】P 2021157478
(22)【出願日】2021-09-28
(62)【分割の表示】P 2017016870の分割
【原出願日】2017-02-01
【審査請求日】2021-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】陣崎 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】名倉 武雄
(72)【発明者】
【氏名】荻原 直道
(72)【発明者】
【氏名】中野 真
(72)【発明者】
【氏名】佐渡友 哲也
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-101220(JP,A)
【文献】特開2008-279150(JP,A)
【文献】特開平06-154202(JP,A)
【文献】特開昭56-148340(JP,A)
【文献】特開2006-334188(JP,A)
【文献】特開2000-135246(JP,A)
【文献】特開2006-288559(JP,A)
【文献】登録実用新案第3156874(JP,U)
【文献】特開2015-198769(JP,A)
【文献】特開平02-026542(JP,A)
【文献】特表2003-522583(JP,A)
【文献】特開2000-139872(JP,A)
【文献】特開平06-098885(JP,A)
【文献】特開2015-039423(JP,A)
【文献】特開2008-278902(JP,A)
【文献】特開2002-263100(JP,A)
【文献】特開2006-075236(JP,A)
【文献】特開2013-208207(JP,A)
【文献】特開2002-272732(JP,A)
【文献】国際公開第2006/087947(WO,A1)
【文献】米国特許第04223862(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055、 6/00 - 6/14 、
A61G 1/00 - 5/14 、
G01T 1/161- 1/166
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有しかつ鉛直方向に移動可能な架台本体を含むX線コンピュータ断層撮影装置による座位の被検体のCT撮影に用いられる被検体搬送具であって、
前記被検体が着座するための座板と、
前記座板を支持する座板支持体と、
前記座板支持体に取り付けられた搬送用の車輪と、
前記座板支持体の両側部に架設された架橋部材であって、前記座板に着座する前記被検体の脚部の上方に配置され、当該架橋部材の床面からの高さが、座位のCT撮影において前記架台本体の移動可能範囲の下限高さに制限されている、架橋部材と、
を具備し、
前記架台本体により、前記開口内に配置される、前記座板に着座した座位の前記被検体がCT撮影される、
被検体搬送具。
【請求項2】
前記座板支持体に取り付けられ、前記座板の高さを変更する高さ変更機構を更に備える、請求項1記載の被検体搬送具。
【請求項3】
前記座板支持体に取り付けられ、前記床面の特定位置に設けられた構造体に嵌め合わせ可能な固定具を更に備える、請求項1記載の被検体搬送具。
【請求項4】
前記座板支持体に着脱可能に設けられた背板を更に備える、請求項1記載の被検体搬送具。
【請求項5】
前記座板支持体に取り付けられた介助者用の把持部を更に備える、請求項1記載の被検体搬送具。
【請求項6】
前記車輪の回転を抑止するブレーキ機構と、
前記座板支持体に設けられ、前記ブレーキ機構による前記車輪への押圧と解放とを切り替える介助者用のハンドルと、を更に備える、
請求項1記載の被検体搬送具。
【請求項7】
前記架橋部材は、前記座板に着座する前記被検体の両脚を上部から跨ぐように前記座板支持体に取り付けられる、請求項1
記載の被検体搬送具。
【請求項8】
前記架橋部材は、前記座板支持体に着脱可能に設けられる、請求項1記載の被検体搬送具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、被検体搬送具に関する。
【背景技術】
【0002】
X線コンピュータ断層撮影装置は、臥位撮影が主流であるが、被検体を体重負荷下で撮影する立位撮影が望まれている。
【0003】
立位撮影を行う場合、被検体を起立させ、更に撮影姿勢維持のために被検体の姿勢を保持する装具の装着の手間、それらの作業に係る時間の損失が発生するため、臥位撮影に比して撮影ワークフローが悪化してしまう虞がある。
【0004】
また、病院のCT撮影室内に立位撮影を行うX線コンピュータ断層撮影装置を設置する場合、CT撮影室の天井高の制限により、被検体は背を屈めて架台の開口内に入る必要があるため、臥位撮影に比して時間がかかり、また、被検体の快適性が劣る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-006329号公報
【文献】特開平08-266650号公報
【文献】特開2000-139872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実施形態の目的は、簡便且つ安全に座位撮影又は立位撮影を行う事が可能な被検体搬送具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影用の被検体搬送具は、被検体が着座するための座板と、前記座板を支持する座板支持体と、前記座板支持体に取り付けられた搬送用の車輪と、前記座板支持体の両側部に架設され、X線コンピュータ断層撮影装置の架台の座位撮影用の下限高さに床面からの高さが制限された架橋部材と、を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態に係わるX線コンピュータ断層撮影装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置の斜視図である。
【
図3】
図3は、X線コンピュータ断層撮影装置が設置されている床面の平面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置の立位撮影時の概観図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置の座位撮影時の概観図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る被検体搬送具の前方斜視図である。
【
図12】
図12は、本実施形態に係る被検体搬送具の架橋棒と架台本体の移動可能範囲との位置関係を示す図である。
【
図13】
図13は、本実施形態に係る立位撮影のための被検体搬送具の退避の状況を示す図である。
【
図16】
図16は、本実施形態に係る架台本体に設けられた投光器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係わるX線コンピュータ断層撮影装置及びX線コンピュータ断層撮影用の被検体搬送具を説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係わるX線コンピュータ断層撮影装置の構成を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置は、架台10とコンソール100とを有する。例えば、架台10はCT撮影室に設置され、コンソール100はCT検査室に隣接する制御室に設置される。架台10とコンソール100とは互いに通信可能に有線又は無線で接続されている。架台10は、立位及び座位の被検体をX線コンピュータ断層撮影(以下、X線CT撮影と呼ぶ)するための構成を有するスキャン装置である。コンソール100は、架台10を制御するコンピュータである。
【0011】
図1に示すように、架台10は、架台本体11と支柱13とを有する。架台本体11は、開口15が形成された略円筒形状の構造体である。
図1に示すように、架台本体11は、開口15を挟んで対向するように配置されたX線管17とX線検出器19とを収容する。
【0012】
より詳細には、架台本体11は、アルミ等の金属により形成されたメインフレーム(図示せず)と、メインフレームにより中心軸A1回りに軸受等を介して回転可能に支持された回転フレーム21とを更に有している。メインフレームの回転フレーム21との接触部には環状電極(図示せず)が設けられている。メインフレームの当該接触部には環状電極に摺り接触するように導電性の摺動子(図示せず)が取り付けられている。回転フレーム21は、アルミ等の金属により円環形状に形成された金属枠であり、例えば、X線管17とX線検出器19とが取付けられている。
【0013】
回転フレーム21は、回転駆動装置23からの動力を受けて開口15の中心軸A1回りに一定の角速度で回転する。回転駆動装置23は、架台制御回路25からの制御に従って回転フレーム21を回転させるための動力を発生する。回転駆動装置23は、架台制御回路25からの駆動信号のデューティ比等に応じた回転速度で駆動することにより動力を発生する。回転駆動装置23は、例えば、ダイレクトドライブモータやサーボモータ等のモータにより実現される。回転駆動装置23は、例えば、架台本体11に収容されている。
【0014】
支柱13は、架台本体11を床面から離反して支持する基体である。支柱13は、例えば、円柱形状や角柱形状等の柱状形状を有する。支柱13は、例えば、プラスチックや金属等の任意の物質により形成される。支柱13は、例えば、架台本体11の側面部に取付けられる。支柱13は、立位の被検体をX線CT撮影するため、開口15の中心軸A1が床面に対して垂直方向を維持した姿勢にて架台本体11を、床面に対して垂直方向にスライド可能に支持する。
【0015】
典型的には、支柱13は架台本体11の両側部に設けられる。しかしながら、本実施形態はこれに限定されない。例えば、1本の支柱13が架台本体11の両側部のうちの片側のみに接続されても良い。また、支柱13は柱状形状を有するとしたが、本実施形態はこれに限定されない。例えば、支柱13は、架台本体の少なくとも一方の側部を支持可能であれば、U字形状等の如何なる形状を有していても良い。
【0016】
なお、支柱13は、中心軸A1が床面に対して垂直に向くように架台本体11を固定している必要はない。すなわち、支柱13は、床面に対して平行する水平軸(以下、チルト軸と呼ぶ)回りに回転可能に架台本体11を支持するように構成されても良い。この場合、支柱13と架台本体11とは、架台本体11がチルト軸回りに回転可能に軸受等を介して接続されると良い。これにより、立位撮影、座位撮影及び臥位撮影を一台の架台10で実行することが可能となる。
【0017】
図1に示すように、支柱13には架台本体11の垂直方向に関するスライドのための駆動装置(以下、支柱駆動装置と呼ぶ)27が収容されている。支柱駆動装置27は、架台制御回路25からの制御に従って、架台本体11を垂直方向に関してスライドするための動力を発生する。具体的には、支柱駆動装置27は、架台制御回路25からの駆動信号のデューティ比等に応じた回転速度で駆動することにより動力を発生する。支柱13は、支柱駆動装置27からの動力を受けて、支柱13に対して架台本体11を垂直方向に関してスライドする。支柱駆動装置27は、例えば、サーボモータ等のモータにより実現される。
【0018】
図1に示すように、X線管17は、高電圧発生器31からの高電圧の印加を受けてX線を発生する。高電圧発生器31は、例えば、回転フレーム21に取付けられている。高電圧発生器31は、架台本体11の電源装置(図示せず)から環状電極を介して供給された電力から、架台制御回路25による制御に従いX線管17に印加する高電圧を発生する。高電圧発生器31とX線管17とは高圧ケーブル(図示せず)を介して接続されている。高電圧発生器31により発生された高電圧は、高圧ケーブルを介してX線管17に印加される。
【0019】
X線検出器19は、X線管17から発生され被検体Pを透過したX線を検出する。X線検出器19は、二次元湾曲面に配列された複数のX線検出素子(図示せず)を搭載する。各X線検出素子は、X線管17からのX線を検出し、検出されたX線の強度に応じた波高値を有する電気信号に変換する。各X線検出素子は、例えば、シンチレータと光電変換素子とを有する。シンチレータはX線を受けて蛍光を発生する。光電変換素子は、発生された蛍光を電荷パルスに変換する。電荷パルスはX線の強度に応じた波高値を有する。光電変換素子としては、具体的には、光電子増倍管やフォトダイオード等の蛍光を電気信号に変換する回路素子が用いられる。なお、本実施形態に係るX線検出器19としてはX線を一旦蛍光に変換してから電気信号に変換する間接変換型の検出器に限定されず、X線を直接的に電気信号に変換する直接変換型の検出器であっても良い。
【0020】
データ収集回路33は、被検体により減弱されたX線の強度を示すデジタルのデータをビュー毎に収集する。データ収集回路33は、例えば、複数のX線検出素子の各々について設けられた積分回路とA/D変換器とが並列して実装された半導体集積回路により実現される。データ収集回路33は、架台本体11内においてX線検出器19に接続されている。積分回路は、X線検出素子からの電気信号を所定のビュー期間に亘り積分し、積分信号を生成する。A/D変換器は、生成された積分信号をA/D変換し、当該積分信号の波高値に対応するデータ値を有するデジタルデータを生成する。変換後のデジタルデータは、生データと呼ばれている。生データは、生成元のX線検出素子のチャンネル番号、列番号、及び収集されたビューを示すビュー番号により識別されたX線強度のデジタル値のセットである。生データは、例えば、架台本体11に収容された非接触データ伝送装置(図示せず)を介してコンソール100に供給される。
【0021】
架台制御回路25は、コンソール100からの指令に従い高電圧発生器31、回転駆動装置23、支柱駆動装置27及びデータ収集回路33を制御する。架台制御回路25は、ハードウェア資源として、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)等の処理装置(プロセッサ)とROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の記憶装置(メモリ)とを有する。また、架台制御回路25は、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)やフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA)、他の複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)により実現されても良い。当該処理装置は、当該記憶装置に保存されたプログラムを読み出して実現することで上記機能を実現する。なお、当該記憶装置にプログラムを保存する代わりに、当該処理装置の回路内にプログラムを直接組み込むように構成しても構わない。この場合、当該処理装置は、当該回路内に組み込まれたプログラムを読み出して実行することで上記機能を実現する。
【0022】
図1に示すように、コンソール100は、演算回路101、表示回路103、入力回路105及び記憶回路107を有する。演算回路101、表示回路103、入力回路105及び記憶回路107間のデータ通信は、バスを介して行われる。
【0023】
演算回路101は、ハードウェア資源として、CPUやMPU、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサとROMやRAM等のメモリとを有する。演算回路101は、各種プログラムの実行により前処理機能111、再構成機能113、画像処理機能115及びシステム制御機能117を実現する。
【0024】
前処理機能111において演算回路101は、架台10から伝送された生データに対数変換等の前処理を施す。前処理後の生データは投影データと呼ばれる。
【0025】
再構成機能113において演算回路101は、前処理機能111により生成された投影データに基づいて被検体に関するCT値の空間分布を表現するCT画像を発生する。画像再構成アルゴリズムとしては、FBP(filtered back projection)法や逐次近似再構成法等の既存の画像再構成アルゴリズムが用いられれば良い。
【0026】
画像処理機能115において演算回路101は、再構成機能113により再構成されたCT画像に種々の画像処理を施す。例えば、演算回路101は、当該CT画像にボリュームレンダリングや、サーフェスボリュームレンダリング、画像値投影処理、MPR(Multi-Planer Reconstruction)処理、CPR(Curved MPR)処理等の3次元画像処理を施して表示画像を生成する。
【0027】
システム制御機能117において演算回路101は、本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置を統括的に制御する。具体的には、演算回路101は、記憶回路107に記憶されている制御プログラムを読み出してメモリ上に展開し、展開された制御プログラムに従ってX線コンピュータ断層撮影装置の各部を制御する。
【0028】
なお、前処理機能111、再構成機能113、画像処理機能115及びシステム制御機能117は、一の基板の演算回路101により実装されても良いし、複数の基板の演算回路101により分散して実装されても良い。
【0029】
表示回路103は、2次元のCT画像や表示画像等の種々のデータを表示する。具体的には、表示回路103は、表示インタフェース回路と表示機器とを有する。表示インタフェース回路は、表示対象を表すデータをビデオ信号に変換する。ビデオ信号は、表示機器に供給される。表示機器は、表示対象を表すビデオ信号を表示する。表示機器としては、例えば、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDディスプレイ、プラズマディスプレイ、又は当技術分野で知られている他の任意のディスプレイが適宜利用可能である。
【0030】
入力回路105は、ユーザからの各種指令を入力する。具体的には、入力回路105は、入力機器と入力インタフェース回路とを有する。入力機器は、ユーザからの各種指令を受け付ける。入力機器としては、キーボードやマウス、各種スイッチ等が利用可能である。入力インタフェース回路は、入力機器からの出力信号をバスを介して演算回路101に供給する。なお、入力回路105は、コンソール100だけでなく、架台10に設けられても良い。
【0031】
記憶回路107は、種々の情報を記憶するHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、集積回路記憶装置等の記憶装置である。また、記憶回路107は、CD-ROMドライブやDVDドライブ、フラッシュメモリ等の可搬性記憶媒体との間で種々の情報を読み書きする駆動装置等であっても良い。例えば、記憶回路107は、CT画像や表示画像のデータを記憶する。また、記憶回路107は、本実施形態に係る制御プログラム等を記憶する。
【0032】
以下、本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置とX線コンピュータ断層撮影用の被検体搬送具について詳細に説明する。
【0033】
本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置は、X線コンピュータ断層撮影用の被検体搬送具を用いることにより簡易に立位撮影の位置決めを実行可能である。また、本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置は、当該被検体搬送具を用いた座位撮影を可能にし、併せて座位撮影の位置決めを簡易に実行することも可能にする。すなわち、本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置は、当該被検体搬送具を用いた座位撮影及び立位撮影の新規なワークフローを提供する。なお、座位撮影とは、座位姿勢の被検体を対象とするX線CT撮影を指す。本実施形態に係る座位撮影は、被検体を搬送具に載せたまま行うX線CT撮影である。
【0034】
現在のX線コンピュータ断層撮影としては臥位撮影が主流であるが、被検体の体重荷重下での人体各部の断層像や立体像、動態像が臨床において求められている。整形外科領域において立位又は荷重位は、脊椎や関節が臥位に比してより生理的な位置であり、症状や病態をより反映するからである。立位撮影は、運動器疾患の診断及び評価において有用性が極めて高く、臨床的なインパクトが非常に大きい。立位撮影が可能なX線コンピュータ断層撮影装置は、生理的な骨や関節の位置を3次元情報として取得できるので、画期的且つ革新的な診断装置になり得る。また、呼吸器領域の慢性閉塞性肺疾患(COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)診断において、立位又は荷重位でのCT断層像や動態像を撮影することにより、最大吸気の状況を捉えることが臨床的価値になる。現状、最大吸気であるのか幾分吐いた状態であるのかの判別は困難であり、スパイロメータ(呼吸機能流量計)を必要としている。本実施形態によれば、スパイロメータを立位撮影又は座位撮影で置換することが可能になる。
【0035】
図2は、本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置の斜視図である。
図3は、X線コンピュータ断層撮影装置が設置されている床面50の平面図である。
図2及び
図3に示すように、床面50に一対の支柱13が立設されている。一対の支柱13は、立位姿勢の架台本体11を垂直方向に移動可能に支持している。架台本体11の立位姿勢とは、架台本体11の開口15の中心軸A1が床面に対して略垂直を向いている状態である。ここで、床面50に対して垂直の方向をZ軸方向、Z軸方向に水平に直交し且つ一対の支柱13の配列方向をX軸方向、Z軸方向及びX軸方向に水平に直交する方向をY軸方向と呼ぶことにする。また、-Z軸方向を下方、+Z軸方向を上方、-Y軸方向を前方、+Y軸方向を後方と呼ぶことにする。被検体は、前方から架台10の下方に進入する。
【0036】
図2及び
図3に示すように、架台本体11の下方には保護カバー51が設けられる。保護カバー51は、立位姿勢を有する架台本体11の開口15の投影の外縁151よりも内周側に設けられる。架台本体11と保護カバー51の干渉を回避するためである。保護カバー51は、架台本体11の開口15の垂直方向に関する移動経路の内側の空間領域R1と外部の空間領域R2とを仕切る。以下、開口15の移動経路の内側の空間領域を、開口内空間R1と呼ぶことにする。保護カバー51は、外部から開口内空間R1を視認するため透明である。例えば、保護カバー51は、アクリル材等により形成される。保護カバー51は、開口内空間R1とその外部空間(以下、開口外空間と呼ぶ)R2との間で被検体Pが行き来するための開閉可能な扉53を有している。例えば、保護カバー51の右方部55と左方部55とは固定され、前方部53と後方部53とが開閉扉として形成されている。右方部55と左方部55とに沿って開閉扉53の軌道が設けられている。開閉扉53は、当該軌道に沿ってスライド可能に設けられている。開閉扉53は、保護カバー51と同様の材質、例えば、アクリル材等により形成される。被検体Pは開口内空間R1にて架台本体11によりX線CT撮影される。
【0037】
保護カバー51の内側には被検体支持具57が設けられる。被検体支持具57は、立位又は臥位の被検体Pを支持するために床面50に立設された器具である。被検体支持具57は、例えば、一対の柱状体57を有する。一対の柱状体57は、床面50に立設される。一対の柱状体57に対応する一対の挿入口が床面に設けられている。一対の柱状体57が一対の挿入口に挿入されることにより床面50に固定される。なお、被検体支持具57は、一対の柱状体57を有するとしたが、一つの柱状体57を有しても良い。また、柱状体57は、被検体Pを支持可能であれば柱状体に限らず、如何なる形状でも良い。後述するように、柱状体57は、任意の位置に設置可能である。
【0038】
床面50には開口内空間R1を前方から後方に貫くように案内経路59が設けられている。案内経路59は、本実施形態に係る被検体搬送具を案内するために形成されている。以下、当該案内経路59を搬送具ガイド59と呼ぶことにする。搬送具ガイド59は、床面に記されたマークであっても良いし、被検体搬送具の走行を案内するレールであっても良い。具体的には、搬送具ガイド59は、開口内空間R1を基準とする前方部591と後方部593とに区分される。前方部591を前方ガイド、後方部593を後方ガイドと呼ぶことにする。前方ガイド591と後方ガイド593とは開口内空間R1により分断されていても良いし、接続されていても良い。前方ガイド591は、本実施形態に係る被検体搬送具に座っている被検体PをX線CT撮影のため開口内空間R1に搬送したり、X線CT撮影の終了時において開口内空間R1から退出したりする際に利用される。後方ガイド593は、立位撮影の際、本実施形態に係る被検体搬送具を開口内空間R1から一時的に退避させるために利用される。
【0039】
図2及び
図3に示すように、床面50には、本実施形態に係る被検体搬送具の位置決め機構として固定具61(以下、床側固定具と呼ぶ)が設けられている。床側固定具61は、本実施形態に係る被検体搬送具を床面50に対して固定する。床側固定具61は、被検体搬送具に着座する被検体Pの基準部位が架台本体11の解剖学的基準点に一致するように当該被検体搬送具を固定する。床側固定具61の詳細については後述する。
【0040】
図4は、本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置の立位撮影時の概観図であり、
図5は、本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置の座位撮影時の概観図である。
図4及び
図5に示すように、被検体Pは、解剖学的基準点が開口15の中心軸A1に一致するように位置決めされている。
【0041】
図4に示すように、立位撮影時において被検体Pは、保護カバー51の内側、すなわち開口内空間R1で起立している。保護カバー51の開閉扉53は閉じられている。立位撮影時における架台本体11の移動可能範囲RM1は、所定の上限高さULから床面近傍の下限高さLL1までに規定される。上限高さULは、CT撮影室の天井高や支柱13の高さ等に応じて設計される。架台本体11を下限高さLL1より下方に移動させないため、支柱13の下限高さLL1に相当する位置には機械的なストッパが設けられている。すなわち、立位撮影における下限高さLL1は機械的な下降限界である。立位撮影時において架台制御回路25は、架台本体11を上限高さULから下限高さLL1までの移動可能範囲RM1において移動する。
【0042】
図5に示すように、座位撮影時において被検体Pは、被検体搬送具70に座っている。
図5に示すように、被検体Pと被検体搬送具70とが共に開口内空間R1に配置されている。しかし、被検体搬送具70は開口内空間R1に収まらないので保護カバー51は開けられている。すなわち、座位撮影時において被検体Pと被検体搬送具70とは、開口内空間R1と開口外空間R2とに跨がって配置されている。被検体搬送具70は、
図2-
図5に示す前述の床側固定具61により、被検体Pの解剖学的基準点が開口15の中心軸A1に一致するように固定される。座位撮影時における架台本体11の移動可能範囲RM2は、上限高さULから所定の下限高さLL2までに規定される。下限高さLL2は、被検体搬送具70に座っている被検体を挟み込まない高さに設定される。座位撮影時において架台制御回路25は、架台本体11の移動可能範囲RM2を上限高さULから下限高さLL2までの間に制限する。具体的には、支柱13の下限高さLL2に相当する位置には電気的又は機械的な位置センサが設けられている。すなわち、座位撮影における下限高さLL2はインタロックによる下降限界である。当該位置センサにより架台本体11が下限高さLL2に到達したことが検知された場合、架台制御回路25は、架台本体11の下方への移動を停止する。これにより、架台本体11と被検体P及び被検体搬送具70との挟みこみを防止することができる。
【0043】
次に、本実施形態に係る被検体搬送具について詳細に説明する。
図6は、被検体搬送具70の前方斜視図であり、
図7は、被検体搬送具70の後方斜視図であり、
図8は、被検体搬送具70の側面図であり、
図9は、被検体搬送具70の平面図であり、
図10は、被検体搬送具70の底面図であり、
図11は、被検体Pが座っている被検体搬送具70の前方斜視図である。
【0044】
図6-
図11に示すように、本実施形態に係る被検体搬送具70は、位置合わせ機構と安全機構とを装備した手動式の車椅子である。具体的には、被検体搬送具70は、被検体Pが着座するための座板71を有する。座板71は、座板支持体73により支持されている。座板71の厚さの調節機構が設けられても良い。座板71の厚さを変えることにより被検体Pの身長の個人差を補償したり、撮影可能範囲を変えたりすることができる。なお、異なる厚みを有する複数の座板71が用意され、座板71が座板支持体73に着脱可能に設けられても良い。
座板支持体73には車輪75が取り付けられている。より詳細には、座板支持体73は、座板71の後方から垂下する一対のフレーム(以下、後方フレームと呼ぶ)731と後方フレーム731よりも更に後方に下がるフレーム(以下、後方補助フレームと呼ぶ)733と座板の前方から垂下する一対のフレーム(以下、前方フレームと呼ぶ)735とを有する。後方フレーム731の下端には車輪751が取り付けられ、後方補助フレーム733の下端には車輪(自在輪)753が回転可能に軸支され、前方フレーム735の下端には車輪(自在輪)755が回転可能に軸支されている。なお、以下、フレーム731,733,735等の座板支持体73の構成部材を区別しないときは、これらを区別せず、単に座板支持体73と呼ぶことにする。
【0045】
図6-
図11に示すように、座板支持体73には背板77が取り付けられている。具体的には、一対の後方フレーム731の上端に背板77が着脱可能に取り付けられている。座位撮影においては、例えば、座板71に座っている被検体Pの背骨が解剖学的基準点に一致するように位置決めされる。背中の体表から背骨までの距離は個人差が比較的少ないためである。背板77の厚みを変更することにより、解剖学的基準点に対する被検体Pの背骨の位置を調節することができる。例えば、異なる厚みを有する複数の背板77が用意され、被検体の体格に応じた背板77が座板支持体73に取り付けられる。あるいは、背板77の厚みを調節可能な機構が背板77又は座板支持体73に設けられても良い。このような厚み調節機構としては、例えば、背板77に設けられた空気袋の厚さを、空気圧により調節する機構が設けられると良い。あるいは、被検体の背骨の位置を調節するため、背板77のスライド機構が設けられても良い。また、異なる形状を有する複数の背板77が用意されても良い。これにより被検体Pの支持方法や支持高さを任意に変更することができる。
【0046】
図6-
図11に示すように、各前方フレーム735には、足のせ板79が取り付けられたフレーム(以下、足のせフレームと呼ぶ)737が取り付けられている。具体的には、足のせフレーム737は略L字に屈曲している。一方部分7371が床面に対して略水平を向き且つ他方部分7373が床面に向かうように、一方部分7371の中途部が前方フレーム735の頭頂部に取り付けられている。各足のせフレーム735の他方部分7373の先端部に足のせ板79が回転可能に支持されている。足のせ板79には座板71に着座する被検体Pの足が載せられる。足のせ板79は足のせフレーム737に着脱可能に設けられる。足のせフレーム737は座板支持体73に着脱可能に設けられる。また、足のせフレーム737は座板支持体73に対して長さ調節可能に設けられると良い。例えば、足のせフレーム737は座板支持体73に直結しても良いし、回転軸を介して支持することにより角度調節可能に設けられても良い。
【0047】
図6-
図11に示すように、前方フレーム735と足のせフレーム737とには下方において支持フレーム739が架け渡されている。支持フレーム739の中途部には固定具81(以下、搬送具側固定具)が取り付けられている。搬送具側固定具81は、具体的には、収容フレーム811と突起具813とを有する。収容フレーム811は、突起具813を出し入れ可能に収容する。収容フレーム811は、支持フレーム739の中途部から床面に向けて垂下している。
図2-
図5に示すように、床面50の所定箇所には床側固定具61が設けられている。床側固定具61は、突起具813に嵌まり合う形状を有する挿入口又は器具であり、突起具813は、床面に設けられた挿入口に挿入可能な形状を有する器具である。例えば、床側固定具61と搬送具側固定具81とはピン/ボス機構やフランジ固定等の位置決め機構により実現されれば良い。
【0048】
床側固定具61は、突起具813が挿入されている場合において座板71に座っている被検体Pの解剖学的基準点(例えば、背骨)が架台本体11の中心軸A1に位置するように、床面50に位置決めされる。換言すれば、床側固定具61に突起具813が挿入されている場合において座板71に座っている被検体Pの解剖学的基準点が中心軸A1に位置するように、背板77と床側固定具61と搬送具側固定具81との位置関係が設計される。
【0049】
図6-
図11に示すように、一対の足のせフレーム737には被検体搬送具70を操作するための操作ハンドル83が設けられている。操作ハンドル83は、主に介助者による操作に供される。操作ハンドル83は、例えば、足のせフレーム737から前方に突出する棒状部材である。一方の操作ハンドル83の下方には、座板支持体73に設けられた座板高さ調節機構87の操作のための操作レバー85が取り付けられている。例えば、操作レバー85を握って離すことにより、座板高さ調節機構87は座板71の高さを一段階上る。操作レバー85を握った状態において座板71が下方に押圧されることにより、座板高さ調節機構87は座板71を下げる。なお、座板高さ調節機構87による座板71の高さの調整は、操作レバー85の握持と解放とにより行われるとしたが、本実施形態はこれに限定されない。例えば、握持及び解放の代わりに、座板高さ調節機構87は、回すことにより高さを調節可能なハンドルであっても良い。他の例としては、例えば、操作レバー85の代わりに、座板71の高さを調節可能なボタンが設けられても良い。
【0050】
図6-
図11に示すように、他の操作ハンドル83の下方には、図示しないブレーキ機構の操作のための操作レバー89が取り付けられている。例えば、操作レバー89を握ることによりブレーキパッドが車輪に押し当てられ、操作レバー89を解放することにより、ブレーキパッドが車輪から離される。
【0051】
図6-
図11に示すように、座板支持体73には、当該座板支持体73の両側部に架設された架橋棒90が設けられる。具体的には、架橋棒90は、一対の足のせフレーム737の上方部7371に着脱可能に架設される。架橋棒90は、架台本体11による被検体Pの挟みこみを防止する機能を有する。このため、架橋棒90の床面からの高さは、座位撮影時の架台本体11の移動可能範囲RM2の下限高さLL2に制限される。
【0052】
図12は、被検体搬送具70の架橋棒90と架台本体11の移動可能範囲RMとの位置関係を示す図である。
図12に示すように、立位撮影時の架台本体11の移動可能範囲RM1は、上限ULから下限LL1までの範囲に規定される。下限LL1は、床面近傍に設定される。上限ULは、任意の高さに設定される。座位撮影時の架台本体11の移動可能範囲RM2は、上限ULから下限LL2までの範囲に規定される。下限LL2は、架橋棒90の床面からの高さと略同一高さに設定される。なお、下限LL2は、架台本体11と被検体搬送具70との干渉を回避するため、架橋棒90の床面50からの高さより低い高さに設定されることはない。
【0053】
被検体Pは、まず架橋棒90が座板支持体73から取り外された状態において、座板71に着座する。その後、座板71に着座する被検体Pの両脚を上部から跨ぐように、架橋棒90が座板支持体73に取り付けられる。すなわち、被検体Pの両脚が架橋棒90より上方に位置することを防止することができる。換言すれば、架橋棒90により、両脚のうちの最も高い部位(例えば、膝)の床面50からの高さを、架橋棒90の床面50からの高さに制限することができる。座位撮影においては、被検体Pの体躯部は開口内空間R1に収まるが、被検体Pの脚部等は開口内空間R1に収まらないことが想定される。従って、架台本体11による被検体Pの挟み込み防止のため、座位撮影の移動可能範囲RM2の下限高さLL2は架橋棒90の床面からの高さ以上に設定される。また、上記の通り、架台制御回路25は、座位撮影時において下限高さLL2より下方への架台本体11の移動指示がなされた場合であっても、インタロック制御により、架台本体11を下限高さLL2に留めることができる。このように、本実施形態においては、被検体Pの挟み込み防止について二重の安全策が施されている。なお、被検体Pが大きいため架橋棒90を座板支持体73に取り付けられない場合、被検体Pの脚部等が下限高さLL2より上方に位置することとなるので、当該被検体Pについて座位撮影は見送られることとなる。被検体Pの挟み込み防止のためである。
【0054】
座板支持体73に取り付けられた背板77についても、架橋棒90同様、下限高さLL2に床面からの高さが制限されても良い。これにより、背板77がX線透過率の低い材料で構成された場合に、背板77がFOVに入り込むことを防止し、背板77によるアーチファクトの発生を防止することができる。このように、被検体搬送具70を構成する部材のうち、床面から最も高い位置に配置された部材が架橋棒90になるように被検体搬送具70が設計されると良い。但し背板77がX線透過率の高い材料で構成される場合はこの限りでない。このように設計することにより、座位撮影のFOVに被検体搬送具70が入り込む事がなくなるので、被検体搬送具70によるアーチファクトの発生を防止することができる。また、上記設計により、被検体搬送具70によるアーチファクトの発生の懸念がなくなるので、被検体搬送具70の部材の選択の幅が広がる。
【0055】
以上により、本実施形態に係る被検体搬送具70の構造についての説明を終了する。なお、本実施形態に係る被検体搬送具70の部品点数や形状等の構造は上記のみに限定されない。本実施形態に係る被検体搬送具70は、少なくとも座板71と車輪75と架橋棒90とを有すれば、如何なる構造を有しても構わない。例えば、車輪75の数は5個に限定されず、例えば、3個若しくは4個等の如何なる個数でも良い。また、足のせ70や操作ハンドル83、操作レバー85、操作レバー89は必要なければ削除しても構わない。
【0056】
次に、本実施形態に係る被検体搬送具70を利用した位置決めについて説明する。典型的には、立位撮影をする場合も座位撮影をする場合も、まず、被検体Pは開口外空間R2において被検体搬送具70に着座する。介助者は、操作ハンドル83を把持して被検体P及び被検体搬送具70を前方ガイド591に沿って前進し、架台本体11下方の開口内空間R1に前方又は後方から搬送する。
【0057】
座位撮影をする場合、被検体Pは、まず、開口外空間R2において被検体搬送具70に着座し、介助者等により架台本体11下方の開口内空間R1に前方から搬送される。
図5に示すように、被検体搬送具70は、前述の床側固定具61により、被検体Pの解剖学的基準点が中心軸A1に一致するように固定され、被検体支持具57により支持される。そして架台制御回路25は、架台本体11により被検体Pの撮影部位をX線CT撮影する。X線CT撮影の終了後、介助者は、操作ハンドル83を把持して被検体P及び被検体搬送具70を前方ガイド591に沿って後進し、開口内空間R1から開口外空間R2に搬送する。なお、被検体Pの揺動が少ないと想定される場合、被検体支持具57が床面50から取り外されても良い。
【0058】
立位撮影をする場合、被検体Pは、座位撮影同様、まず、開口外空間R2において被検体搬送具70に座り、介助者等により架台本体11下方の開口内空間R1に前方から搬送される。そして被検体Pは、
図4に示すように、開口内空間R1で起立し、解剖学的基準点が中心軸A1に一致するように被検体支持具57により拘束される。被検体搬送具70は立位撮影の妨げになるので、介助者又は被検体Pは、
図13に示すように、被検体搬送具70を後方ガイド593に沿って前進させ、被検体搬送具70を被検体Pの後方に退避させる。被検体搬送具70の退避後、架台制御回路25は、架台本体11により被検体Pの撮影部位をX線CT撮影する。X線CT撮影の終了後、介助者は、被検体搬送具70を後方ガイド593に沿って後進して開口内空間R1に配置し、被検体Pは、配置された被検体搬送具70に着座する。そして介助者は、操作ハンドル83を把持して被検体P及び被検体搬送具70を前方ガイド591に沿って後進し、開口内空間R1から開口外空間R2に搬送する。
【0059】
なお、被検体搬送具70は前方ガイド591に沿って前方から搬入され、立位撮影の際には後方ガイド593に沿って後方に退避されるとしたが、本実施形態はこれに限定されない。例えば、被検体搬送具70は後方ガイド593に沿って後方から搬入され、立位撮影の際には前方ガイド591に沿って前方に退避されても良い。また、被検体搬送具70は前方ガイド591に沿って前方から搬入され、立位撮影の際においても前方ガイド591に沿って前方に退避されても良いし、後方ガイド593に沿って後方から搬入され、立位撮影の際にも後方ガイド593に沿って後方に退避されても良い。
【0060】
上記の通り、本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置は、被検体Pを架台本体11下方の開口内空間R1に配置する際、立位撮影及び座位撮影双方において被検体搬送具70により搬送する。被検体Pは被検体搬送具70に着座したまま架台本体11下方に搬送されるので、屈む必要無く架台本体11下方に移動することができる。よって被検体Pは、自力で架台本体11下方に移動していた従来に比して、負担無く架台本体11下方に移動することができる。床面50には開口内空間R1まで被検体搬送具70を案内する搬送具ガイド59が設けられているので、簡易且つ正確に被検体P及び被検体搬送具70を開口内空間R1まで搬送することができる。被検体搬送具70を搬送具側固定具81により床側固定具61に対して固定することにより、簡易且つ正確に被検体Pの解剖学的基準点を中心軸A1に位置決めすることができる。また、立位撮影を実行する際、被検体搬送具70を退避するための後方ガイド593が開口内空間R1の後方に設けられているので、容易に被検体搬送具70を退避させることができ、ひいては、立位撮影を容易に実行することが可能になる。
【0061】
次に、被検体支持具57について詳細に説明する。
図14は、被検体支持具57の斜視図である。
図14に示すように、被検体支持具57は、一対の柱状体571を有する。柱状体571は、固定具573により床面50に固定される。具体的には、床面50には、図示しない挿入口(以下、柱状体挿入口と呼ぶ)575が設けられ、柱状体挿入口575に挿入された固定具573により固定される。柱状体571は、FOVに入り込むので、アーチファクトの少ない材料、例えば、非金属材料により形成されると良い。
【0062】
図14に示すように、柱状体571には長手方向に沿って複数の挿入口(以下、装具挿入口と呼ぶ)576が設けられている。装具挿入口576には拘束具577又は把持具578が取り付けられる。拘束具577は、被検体Pを拘束して立位揺動又は座位揺動を抑制する装具である。拘束具577としては、例えば、被検体Pに巻き付けるバンドやベルトが用いられる。把持具578は、被検体Pの立位揺動等を抑制するため、立位状態の被検体Pが把持する装具である。拘束具577又は把持具578は、立位撮影と座位撮影とに応じて、あるいは、被検体Pの体格に応じて任意の高さに取り付け可能である。
【0063】
なお、柱状体571の床面50での位置は一箇所のみに限定されない。
図14に示すように、柱状体挿入口575が床面の複数箇所に設けられても良い。これにより、柱状体571をY軸方向に関して任意の位置に設けることができる。
【0064】
架台本体11と拘束具577又は把持具578との接触を回避するため、拘束具577又は把持具578が柱状体571に対して特定の向きに向くように、拘束具577、把持具578、柱状体571、柱状体挿入口575及び装具挿入口576が設計される。例えば、
図15に示すように、柱状体571の先端部5711と柱状体挿入口575とは、柱状体571が特定の向きでのみ挿込み可能な形状を有している。例えば、
図15に示すように、装具挿入口576が前方側に位置する向きでのみ柱状体571を柱状体挿入口575に挿し込み可能な先端部5711と柱状体挿入口575との形状が設計される。また、装具挿入口576は、柱状体571の特定の向きにのみ形成される。例えば、
図15の場合、柱状体挿入口575に挿しまれた柱状体571の前方側にのみ装具挿入口576が形成される。これにより、拘束具577又は把持具578を常に開口内空間R1に収めることができるので、拘束具577又は把持具578と架台本体11との接触を回避することが可能である。
【0065】
次に、投光器による位置決めについて説明する。
図16は、架台本体11に設けられた投光器91,93を示す図である。
図16は、架台本体11の横断面を概略的に示している。
図16に示すように、架台本体11には、開口15を挟んでX線管17とX線検出器19とが配置されている。X線検出器19の列方向はZ軸方向に略平行する。X線管17のX線焦点とX線検出器19の列方向の中心とを結ぶ面をスキャン中心面A2と呼ぶ。架台本体11の厚み(Z軸方向に関する距離)D1は、典型的には、1000mm以上であることが想定される。そのため、立位姿勢を有する架台本体11のスキャン中心面A2を挟んで上側と下側との各々に投光器91,93が設けられる。スキャン中心面A2の上側の投光器を上側投光器91、スキャン中心面A2の下側の投光器を下側投光器93と呼ぶことにする。上側投光器91と下側投光器93との各々は、開口15を挟んで反対側に投光する。上側投光器91は、架台本体11の+Z軸方向に関する端部、下側投光器93は、架台本体11の-Z軸方向に関する端部に設けられる。外部から投光器91,93から投光される光LIを視認するためである。
【0066】
図17は、上側投光器91を用いた位置決めの流れを模式的に示す図である。
図18は、下側投光器93を用いた位置決めの流れを模式的に示す図である。まず、上側投光器91又は下側投光器93を用いてアキシャル断面(XY平面)に関する位置合わせが行われる。位置決めに使用する投光器は、架台本体11の撮影姿勢や被検体Pの撮影部位の高さに応じて決定される。例えば、入力回路105を介して上側投光器91の点灯指示が入力された場合、架台制御回路25は、上側投光器91を点灯し、開口15内に起立する被検体Pに投光する。上側投光器91により発生された光は、FOVの範囲を示す。そして医療従事者等の指示に従い被検体Pの撮影部位がFOVに位置するように位置合わせされる。入力回路105を介して下側投光器93の点灯指示が入力された場合も同様に行われる。アキシャル断面での位置合わせが完了すると、被検体の撮影部位のZ軸方向に関する中心をスキャン中心面A2に一致させるため、架台本体11が上昇又は下降される。
【0067】
具体的には、
図17に示すように、上側投光器91により被検体Pが位置合わせされた場合、支柱13は、架台制御回路25による制御の下、架台本体11を第1距離だけ上方に移動する。第1距離は、例えば、上側投光器91の光軸A3とスキャン中心面A2との距離に設定される。
図18に示すように、下側投光器93により被検体Pが位置合わせされた場合、支柱13は、架台制御回路25による制御の下、架台本体11を第2距離だけ下方に移動する。第2距離は、例えば、下側投光器93の光軸A4とスキャン中心面A2との距離に設定される。
【0068】
以上により、投光器91,93による位置決めについての説明を終了する。上記の通り、本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置は、上側投光器91と下側投光器93とを装備し、上側投光器91での位置合わせ後は上記第1距離だけ上昇し、下側投光器93での位置合わせ後は上記第2距離だけ下降する。よって、開口15の内部を視認しづらい立位撮影又は座位撮影においても投光器91,93を用いて正確に位置合わせを行うことができる。
【0069】
上記の説明の通り、本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置は、X線管17、X線検出器19、架台本体11、支柱13、床側固定具61及び搬送具ガイド59を有する。X線管17は、X線を発生する。X線検出器19は、X線を検出する。架台本体11は、開口15を挟んで配置されたX線管17とX線検出器19とを有する。支柱13は、開口15の中心軸A1が床面50に対して略垂直を向く状態(立位姿勢)の架台本体11を、床面50に対して垂直方向に移動可能に支持する。床側固定具61は、立位姿勢を有する架台本体11の開口15の下方の開口内空間R1に被検体搬送具70を固定可能に構成される。搬送具ガイド59は、床面50に設けられ、被検体搬送具70を前方側から開口内空間R1に案内する前方ガイド591と、開口内空間R1から後方側に案内する後方ガイド593とを有する。
【0070】
また、本実施形態に係る被検体搬送具70は、座板71、座板支持体73、車輪75及び架橋棒90を有する。座板71は、被検体が着座するためのものである。座板支持体73は、座板71を支持する。車輪75は、座板支持体73に取り付けられた搬送用の車輪である。架橋棒90は、座板支持体73の両側部に架設され、X線コンピュータ断層撮影装置の架台の座位撮影用の下限高さLL2に床面50からの高さが制限されている。
【0071】
上記構成により、本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置は、X線コンピュータ断層撮影用の被検体搬送具を用いることにより、簡易且つ被検体Pの負担無く被検体Pを、座位撮影及び立位撮影のために、架台本体11下方の開口内空間R1に搬送することができる。また、本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置は、搬送具ガイド59を有しているので、簡易且つ正確に被検体P及び被検体搬送具70を開口内空間R1まで搬送することができる。立位撮影を実行する際、被検体搬送具70を退避するための後方ガイド593が開口内空間R1の後方に設けられているので、容易に被検体搬送具70を退避させることができ、ひいては、立位撮影を容易に実行することが可能になる。従って、本実施形態に係るX線コンピュータ断層撮影装置は、被検体搬送具70を用いた座位撮影及び立位撮影の新規なワークフローを提供することができる。また、被検体搬送具70は、座位撮影用の移動可能範囲RM2の下限高さLL2に床面50からの高さが制限された架橋棒90を有しているので、座位撮影時において架台本体11による被検体Pの挟み込みを防止することができる。
【0072】
かくして、本実施形態によれば、簡便且つ安全に座位撮影又は立位撮影を行う事が可能になる。
【0073】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0074】
10…架台、11…架台本体、13…支柱、15…開口、17…X線管、19…X線検出器、21…回転フレーム、23…回転駆動装置、25…架台制御回路、27…支柱駆動装置、31…高電圧発生器、33…データ収集回路、50…床面、51…保護カバー、53…開閉扉、57…被検体支持具、59…搬送具ガイド、61…床側固定具、70…被検体搬送具、71…座板、73…座板支持体、75…車輪、77…背板、79…足のせ板、81…搬送具側固定具、83…操作ハンドル、85…操作レバー、87…調節機構、89…操作レバー、90…架橋棒、91…上側投光器、93…下側投光器、100…コンソール、101…演算回路、103…表示回路、105…入力回路、107…記憶回路、111…前処理機能、113…再構成機能、115…画像処理機能、117…システム制御機能、571…柱状体、573…固定具、575…柱状体挿入口、576…装具挿入口、577…拘束具、578…把持具、591…前方ガイド、593…後方ガイド、731…後方フレーム、733…後方補助フレーム、735…前方フレーム、737…足のせフレーム、739…支持フレーム、811…収容フレーム、813…突起具。