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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】地質構造の温度を計算する方法
(51)【国際特許分類】
   G01V 3/08 20060101AFI20230619BHJP
   E21B 43/00 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
G01V3/08 F
E21B43/00 C
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021503772
(86)(22)【出願日】2019-07-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 NO2019050157
(87)【国際公開番号】W WO2020022908
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-05-26
(31)【優先権主張番号】1812189.7
(32)【優先日】2018-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】515339653
【氏名又は名称】エクイノール・エナジー・アーエス
【氏名又は名称原語表記】EQUINOR ENERGY AS
【住所又は居所原語表記】Torusbeen 50,4035 Stavanger,Norway
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100221729
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭介
(72)【発明者】
【氏名】セテル、ビョルン・マグヌス
(72)【発明者】
【氏名】タサロヴァ、スサナ・アラソナティ
(72)【発明者】
【氏名】ホクスタド、ケティル
(72)【発明者】
【氏名】テナヴスー-ミルケヴィシーネ、カティ
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-085114(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106556466(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106419857(CN,A)
【文献】特表2013-517515(JP,A)
【文献】特開2009-250246(JP,A)
【文献】特表2013-507617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00-99/00
G01K 1/00-19/00
E21B 43/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地質構造の温度を計算する方法であって、前記地質構造の少なくとも1つの磁気パラメータが提供され、前記方法は、
前記地質構造の磁気データを提供することと、前記磁気データをインバージョン処理して、少なくとも1つの磁気パラメータを提供することと、
及び前記少なくとも1つの磁気パラメータのみをインバージョン処理して、前記地質構造の前記温度を推定すること
を含み
前記少なくとも1つの磁気パラメータは、前記地質構造の総磁化を含み、前記総磁化は誘導された磁化及び残留磁化からなる、方法。
【請求項2】
前記磁気データは磁場データを含む、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記磁気データをインバージョン処理して、前記少なくとも1つの磁気パラメータを提供することは、マップインバージョン法を使用して実行される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記磁気データをインバージョン処理して、前記少なくとも1つの磁気パラメータを提供することは、深度間隔にわたり平均された側方変化磁化を提供する、請求項1、2又は3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記磁気データは磁力計を用いて取得される、請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの磁気パラメータをインバージョン処理して、前記地質構造の前記温度を推定することは、ベイズインバージョン法及び現象論モデルを使用して実行される、請求項1~の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記現象論モデルは、前記少なくとも1つの磁気パラメータと前記地質構造の前記温度との間の関係を提供する、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記現象論モデルは、
(i)スピノーダル離溶モデル及び/又は量子統計からのイジングモデル;若しくは
(ii)バイノーダル離溶モデル及び/又はJMAK動力学
を使用し、又は前記(i)若しくは前記(ii)に基づく、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記現象論モデルは1つ又は複数のパラメータを含み、前記方法は、前記1つ又は複数のパラメータを較正することを含む、請求項6、7又は8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記1つ又は複数のパラメータは、堆積時の溶岩の初期チタン割合及び/又は地表下の磁性材料の合計パーセントを含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
キュリー温度、鉱物組成、及び/又は異なるチタン磁鉄鉱位相の割合の推定を提供することを更に含む、請求項1~10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの磁気パラメータと前記地質構造の前記温度との間の前記関係を定義する現象論モデルを選択することを更に含む、請求項1~11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記計算された温度における不確実性を見つけることを更に含む、請求項1~12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記温度は、前記地質構造の特定のポイント/ロケーション/体積/空間について計算され、前記ポイント/ロケーション/体積/空間は前記少なくとも1つの磁気パラメータのポイント/ロケーション/体積/空間に対応する、請求項1~13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~14の何れか1項に記載の方法を実行することを含む、地質構造の温度モデルを生成する方法。
【請求項16】
請求項1~15の何れか1項に記載の方法を実行することと、坑井掘削又は坑道掘りの意思決定プロセスに計算された温度を使用することとを含む、地熱エネルギー、石油、及び/又は鉱物を調査する方法。
【請求項17】
請求項1~16の何れか1項に記載の方法を実行することを含む地熱エネルギーを利用する方法。
【請求項18】
請求項1~16の何れか1項に記載の方法を実行することを含む地質構造から石油を得る方法。
【請求項19】
請求項1~16の何れか1項に記載の方法を実行することを含む地質構造から鉱物を採掘する方法。
【請求項20】
コンピュータで実行されると、請求項1~16の何れか1項に記載の方法をプロセッサに実行させるように構成されたコンピュータ可読命令を含むコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地質構造の温度を計算する方法、地熱エネルギー及び/又は石油を調査する方法、海底採掘の方法、及び地熱エネルギーを利用且つ/又は石油を掘削する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
地中の温度の予測又は知識は、地熱エネルギー及び石油業界にとって非常に重要である。海底採掘及び地熱エネルギーを利用するため又は石油を得るための坑井掘削は高価で時間がかかる作業であり、したがって、採掘又は掘削前に、採掘又は掘削に最良のロケーションがどこであるか、採掘又は掘削に最良の方向はどこか、及び採掘又は掘削すべき深さを推定することが重要である。温度の知識は、採掘すべき又は坑井を掘削すべきロケーションを決める際に有用であることができる。
【0003】
物理量間の依存性は好都合なことにベイジアンネットワークにより表すことができる。図1は、地球物理学的パラメータ{σ,M,ρ,v,v}から地表下温度Tを推定する一般マルチ地球物理学的(multi-geophysical)ベイジアンネットワークを示す。図1に示されるように、地球物理学的パラメータ{σM,ρ,v,v}は、地球物理学的データ(地磁気データ(MT)、磁気データ(mag)、重力データ(grav)、及び地震データ(Seismic)のような)に依存し、これらは拡張ベイジアンネットワークに含むことができる。この図では、σは抵抗率(又は導電率)であり、Mは総磁化(誘導磁化及び残留磁化の両方を含む)であり、ρは密度であり、νはp波速度であり、νはS波速度である。
【0004】
しかしながら、従来の研究は、地表下温度の計算にMTデータからの抵抗率及び重力データからの密度しか使用しなかった。磁気データは従来、地表下温度の計算に使用されてこなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、地質構造の温度を推定する改良された方法が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、本発明は、地質構造の磁気パラメータが提供される、地質構造の温度を計算する方法を提供し、本方法は、磁気パラメータをインバージョン処理して、地質構造の温度を推定することを含む。
【0007】
本発明者らは、地質構造の磁気パラメータをインバージョン処理することにより地質構造の温度を見つけることができることを発見した。磁気パラメータは従来、地質構造の温度の推定に使用されておらず、磁気パラメータの使用は温度推定を改良することができるため、この方法は有利である。
【0008】
鉱物及び岩石の磁化は、量子力学的秩序と熱的無秩序との間の攻防として見ることができる。これらの2つのドメイン間の遷移はキュリー/ネール温度前後で生じ、キュリー温度未満では、岩石は強磁性又はフェリ磁性であり、キュリー温度超では、弱い常磁性又は反磁性だけが残る。このため、磁気データ及び磁化は、地質構造において働いている地熱系の存在についての有用な情報源であり得ると予期することができる。
【0009】
インバージョン処理又はインバージョンとは、当技術分野で周知の用語である。インバージョン処理又はインバージョンは、少なくとも1つの観測/測定されたパラメータから、そのパラメータの原因(又はそのパラメータの原因の少なくとも1つ)を計算するプロセスを記述する。したがって、ここでは、物理的に言えば、温度は地質構造の磁気パラメータに影響を及ぼす。しかしながら、測定されるのは磁気データであり、温度ではない。したがって、磁気パラメータから温度を計算することは、インバージョン処理すると記述し得る。
【0010】
本発明は、後述する等のモデル(現象論モデル又は岩石物理学モデル等)を使用する計算と見なすことができる。モデルは磁気パラメータを温度に関連付けて、磁気パラメータから温度値を計算し得る。
【0011】
好ましくは、地質構造の温度は磁気パラメータのみから又は磁気パラメータ及び1つ若しくは複数の更なる磁気パラメータのみから推定される。したがって、1つ又は複数の磁気パラメータのみが、地質構造の温度の推定に要求又は使用され得る。好ましい実施形態では、地質構造の温度は1つ(のみ)の磁気パラメータから推定される。
【0012】
本方法では、磁気パラメータは、例えば、地質構造の磁化であり得る。磁化は、例えば、残留磁化及び誘導磁化の両方を含む地質構造の総磁化であることができ、好ましくは総磁化である。代替的には、これらの磁化の1つのみ、例えば誘導磁化のみを磁気パラメータとして使用することができる。
【0013】
本方法は、好ましくは、インバージョン処理且つ/又はモデリングして測定された磁気データを変換し、磁気パラメータ(例えば磁化)を特定することも含む。
【0014】
測定されるデータは好ましくは、磁気データ、例えば磁場データ等の磁気異常データである。測定されるデータは(代替的に)、例えば地磁気及び/又は制御電源EMデータであることができる。
【0015】
次に、そのようにして特定された磁気パラメータをインバージョン処理して、地質構造の温度を特定し得る。
【0016】
磁気パラメータは好ましくは、例えば誘導磁化及び残留磁化の両方を含む地質構造の総磁化である。
【0017】
測定されたデータをインバージョン処理して、少なくとも1つの磁化パラメータを特定することは、マップインバージョン法、例えば、マルカート-レーベンバーグ型マップインバージョン法又はLi及びOldenburg(1996)又はHokstad et al.(2017)により提示される方法等の同じ目的を果たす任意の他の(例えば3D)インバージョン法を使用して実行し得る。測定されたデータのインバージョン処理は、例えば(妥当な)深度間隔にわたり平均された側方変化(総)磁化を特定し得る。
【0018】
少なくとも1つの磁気パラメータをインバージョン処理して、温度を特定することは好ましくは、ベイジアンインバージョン法及び現象論モデルを使用して実行される。
【0019】
現象論モデルは、例えば、(チタン磁鉄鉱)スピノーダル離溶モデル及び/又は量子統計からの(1D)イジングモデルを使用し得、又はこれ(ら)に基づき得る。そのようなモデルは、地質学的に活発なエリアでの比較的若い火山岩に特に適し得る。
【0020】
代替的には、例えば大陸地殻及びクラトン等の非常に古い火成岩の場合、JMAK動力学等のバイノーダル離溶モデルに基づく現象論モデルを使用することができる。他のモデルを代替的に使用してもよい。しかしながら、好ましくは、モデルは例えば、活性化エネルギー(すなわち、エネルギー障壁)を有する動力学的モデルであるべきである。
【0021】
現象論モデルは、堆積時の溶岩の初期チタン割合及び/又は地表下の磁性材料の合計パーセント等の1つ又は複数のパラメータを含み得る。1つ又は複数のパラメータは例えば、1つ又は複数のパラメータを結合して、例えば各地質構造について較正し得る実験的因子を形成することにより較正し得る。
【0022】
第2の段階のインバージョンの副産物として、キュリー温度、鉱物組成、及び/又は異なるチタン磁鉄鉱位相の割合の推定を(も)取得し得る。
【0023】
本方法は、例えば、地質構造の温度を特定するための磁気パラメータのインバージョンに使用する、磁気パラメータと地質構造の温度との間の関係を定義する現象論モデルを選択することを含み得る。
【0024】
現象論モデルは、磁気パラメータ(例えば磁化)と地質構造の温度との間の関係であり得る。
【0025】
現象論モデルは、磁気パラメータを温度に関連付ける予期される傾向に基づいて選択し得る。例えば、磁気パラメータは一般に、温度の上昇に伴って増大又は低減し得る(磁気パラメータに応じて)。磁化が磁気パラメータである場合、磁化は温度の上昇に伴って低減し得る。
【0026】
磁気パラメータが温度の上昇に伴って低減する場合、モデルは減衰関数、例えば、アレニウス式等の減衰指数関数であり得る(例えば、乾燥した玄武岩の導電率及び/又は抵抗率を記述するのに使用し得る)。磁気パラメータが温度の上昇に伴って増大する場合、モデルはシグモイド関数(例えば、キュリー温度未満での誘導磁化又は磁化率の)、又は指数関数、又は一次関数であり得る。
【0027】
したがって、上記から理解することができるように、岩石物理学関係の知識に基づいて当業者により厳密な現象論モデルを選択することができる。
【0028】
好ましくは、温度と磁気パラメータとの間の各モデル関係は、いかなる他の地球物理学的パラメータ等のいかなる他の変数にも依存しない。当然ながら、他の定数係数も存在し得るが、好ましくは1つのみの変数が存在する。定数係数はデータを用いた較正により見つけ得る。
【0029】
現象論モデルが系の完全な複雑さを示さないことがあり、すなわち、モデルが意図的に、磁気パラメータが温度のみに依存するように簡易化され得ることを理解されたい。実際には、地球物理学的/磁気パラメータは一般に多くの変数に依存する。しかしながら、本方法で使用されるモデルでは、磁気パラメータは、関心のある変数のみ、この場合では温度のみに依存し得る。
【0030】
例えば、磁気パラメータ及び地質構造の温度の少なくとも1つの測定値を含む較正データを提供し得る。このデータは、例えば、地質構造の(岩石)試料から取得し得る。本方法は、較正データを取得することを更に含み得る。較正データは好ましくは、磁気パラメータ及び地質構造の温度の複数の測定値を含み得る。一例では、坑井ログデータが、現象論モデルの較正及び/又は制約に使用される。
【0031】
本方法は、較正データに基づいて現象論モデルを最適化することを含み得る。この最適化は、較正データを使用して、現象論モデルにおけるその/任意の定数係数の最適値を見つけることを含み得る。典型的には、較正データの量が多いほど、最適化は良好になる。
【0032】
現象論モデルを最適化するために、現象論モデルが特定の誤差分布を有する(すなわち、少なくとも1つの磁気パラメータと温度との間の差が誤差分布を与える)と仮定し得る。好ましくは、誤差分布は好ましくはゼロ平均を有するガウス誤差分布であると仮定される。現象論モデルは、誤差分布の平均を可能な限りゼロに近づけ、誤差分布の分散を可能な限り小さくする等により可能な限り小さくなるように誤差分布を低減することにより最適化し得る。最適化は、現象論モデルを最適化する現象論モデルにおける定数係数の値を見つけることにより達成し得る。
【0033】
次に、最適化された現象論モデルをインバージョンに使用して、より正確なインバージョンを生成し得る。
【0034】
現象論モデルをインバージョンで使用して、特定の値の温度を所与として、少なくとも1つの磁気パラメータの確率分布(及び/又は平均及び/又は分散値(直接))を計算し得る。この確率分布関数を使用して、特定の値の磁気パラメータを所与として、温度の確率分布(及び/又は平均及び/又は分散値(直接))を計算し得る。
【0035】
本明細書では「現象論モデル」により、磁気パラメータを温度に関連付ける現象論モデル等のインバージョンで使用される数学的関係を単に意味し得る。
【0036】
上述したようにベイジアン設定でインバージョンを実行することは、計算された温度値の不確実性の(正確な)推定を見つけられるようにすることができる。したがって、本方法は、計算された温度における不確実性を見つけることを含み得る。
【0037】
磁気データ(例えば、磁場データ)は、磁力計、例えばGEM Systems GSM-19T Proton磁力計等を用いる等の既知の技法を使用して収集し得る。磁力計は、例えば衛星、船、又はドローンに担持し得る。磁力計はハンドヘルドであり得る。本方法は、例えば磁力計を用いて磁気データを収集/取得することを含み得る
【0038】
磁気データは、任意の掘削前に取得されていることが可能であり、その場合、磁気データは掘削前磁気データと見なし得る。このデータは、温度の掘削前推定を提供する(例えば、本発明の方法を実行することにより)のに使用し得る。追加又は代替として、磁気データは坑井の掘削中又は掘削後に収集されることが可能である。これは、温度の掘削中又は掘削後推定を提供するのに使用し得(例えば、本発明の方法を実行することにより)、既存の推定への更新と見なし得る。
【0039】
本方法は、掘削前、磁気データを取得することを含み得る。追加又は代替として、本方法は掘削中、磁気データを取得することを含み得る(部分的に掘削された坑井での1つ又は複数の坑井ログを通して等)。追加又は代替として、本方法は、坑井の掘削後、磁気データを取得することを含み得る(坑井での1つ又は複数の坑井ログを通して等)。掘削中又は掘削後に取得されるデータは、温度データ(すなわち、温度の直接測定値)であり得、又は温度データを含み得、更なる制約をインバージョン問題に提供することにより、前の温度推定(例えば、掘削前推定又は前の掘削中推定)の更新に使用することができる。
【0040】
本方法は、掘削前又は採掘動作前、温度を計算することを含み得る。
【0041】
追加又は代替として、本方法は、掘削中又は採掘動作中、温度を計算することを含み得る。これは、掘削前又は採掘前の温度計算への更新と見なし得る。
【0042】
追加又は代替として、本方法は、坑井が掘削された後、温度を計算することを含み得る。これは、掘削前及び/又は掘削中の温度計算への更新と見なし得る。
【0043】
上記方法は地質構造の特定のポイント/ロケーション/体積/空間の温度を計算し得、前記ポイント/ロケーション/体積/空間は、インバージョンステップで使用される磁気パラメータのポイント/ロケーション/体積/空間に対応することを理解されたい(これらの方法で使用される磁気パラメータは、地質構造における所与のポイント/ロケーション/体積/空間におけるそのパラメータの値であり得る)。したがって、空間依存温度関数を得るために、上記インバージョン方法は、地質構造における複数の異なるポイント/ロケーション/体積/空間でポイント毎に実行し得る。理解することができるように、磁気パラメータは地質構造の空間にわたって変化し得、これは空間的に変化する温度に対応し得る。
【0044】
したがって、本方法は、空間依存温度関数を構築することを含み得る。この関数は、地質構造の異なるポイント/ロケーション/体積/空間(好ましくは地質構造の全てのポイント/ロケーション/体積/空間)の温度を計算することにより構築し得る。温度は、地質構造の略全体にわたり又は特定のエリア及び/又は深さにわたり計算し得る。
【0045】
温度は一次元、二次元、又は三次元で見つけられ得る。
【0046】
温度は、深さの関数及び場合によっては水平ロケーションの関数としても見つけられ得る。これは、掘削又は採掘のターゲット候補の深さの推定及び場合によっては水平ロケーションの推定もユーザに提供し得る。そのようなターゲットは、例えば超臨界水槽であり得る。
【0047】
第2の態様では、本発明は、第1の態様の方法の何れかを実行することを含む地質構造の温度モデルを生成する方法を提供する。
【0048】
理解することができるように、上記方法は、地熱エネルギー、石油、及び/又は鉱物(例えば金属スフィド(metal sufides)を調査する場合、例えば地熱/石油坑井掘削又は鉱物採掘動作を計画し実行する場合、使用し得る。
【0049】
第3の態様では、本発明は、第1又は第2の態様の何れかの方法を実行することと、坑井掘削又は坑道掘りの意思決定プロセスにおいて計算された温度を使用することとを含む、地熱エネルギー、石油、及び/又は鉱物を調査する方法を提供する。
【0050】
計算された温度は、掘削又は採掘前、例えば坑井を掘削する場所及び/又は坑井を掘削する深さ又は坑道を掘る場所/深さを決定する際、使用し得る。温度計算は、温度(例えば温度と深さとの関係)推定を方法のユーザに提供し得、これは掘削又は採掘の場所、深さ、及び/又は方向の決定に使用することができる。
【0051】
追加又は代替として、計算された温度は、坑井の掘削又は坑道の掘り中又は後、例えばどの方向又はどの深さまで掘削又は採掘を続けるかを決定する際、使用し得る。これは、後述するように、坑井掘削又は坑道掘り中又は後、地球物理学的データが収集される場合に特に当てはまり得る。
【0052】
本方法は、掘削又は採掘前、温度の計算を実行することを含み得る。これは掘削前計算又は採掘前計算と呼ぶことができる。掘削前計算又は採掘前計算は、掘削又は採掘を開始する場所の決定に使用し得る。
【0053】
本方法は、地熱/石油坑井を掘削又は坑道を掘ることを含み得る。
【0054】
本方法は、掘削又は採掘中、新しい地球物理学的及び/又は磁気データを取得することを含み得る。この新しいデータは、掘削前計算又は採掘前計算で使用されたものと同じ磁気パラメータについてであり得る。しかしながら、追加又は代替として、この新しいデータは、掘削前計算又は採掘前計算で使用されたものと異なる地球物理学的及び/又は磁気パラメータについてであり得る。例えば、新しいデータは追加又は代替として、坑井又は坑道内からの温度の直接測定値を含み得る。少なくとも1つ、又は好ましくは少なくとも2つの磁気パラメータについての新しいデータがあり得る。新しい地球物理学的及び/又は磁気データは、掘削又は採掘中、1つ又は複数の坑井又は坑道ログをとること等により、部分的に掘削された坑井又は部分的に掘られた坑道から収集し得る。
【0055】
本方法は、前記新しい地球物理学的及び/又は磁気データをインバージョン処理して、対応する新しい地球物理学的/磁気パラメータを見つけることを含み得る。これは、第1の態様に関連して上述したように地球物理学的(磁気)データから地球物理学的(磁気)パラメータへのインバージョンを実行することを含み得る。直接温度データが坑井又は坑道から取得された場合、このデータはインバージョン計算の制約に使用し得る。
【0056】
本方法は、前記新しい地球物理学的/磁気パラメータをインバージョン処理して、温度の更新された推定を提供することを含み得る。掘削又は採掘中、2つ以上の新しい地球物理学的パラメータが見つかった場合、これらはインバージョンで使用される唯一の地球物理学的パラメータであり得る。しかしながら、新しい地球物理学的パラメータは、掘削前計算又は採掘前計算で使用される磁気パラメータの1つ又は複数と共にインバージョン処理されることもできる。このインバージョンステップは、第1又は第2の態様に関連して考察した温度を推定するための磁気パラメータのインバージョンに関連して考察した任意の特徴を含み得る。
【0057】
新しい地球物理学的及び/又は磁気データを取得するステップ及び新しい地球物理学的及び/又は磁気データをインバージョン処理して、温度の更新された推定を見つけるステップは、掘削プロセス又は採掘プロセス全体を通して繰り返し得る。
【0058】
温度の更新された推定は、掘削又は採掘する方向、掘削又は採掘する深さ、及び掘削又は採掘を停止すべきか否かの判断等の掘削又は採掘意思決定プロセスにおいて掘削又は採掘中、使用し得る。したがって、本方法を使用してより知識に基づいた掘削又は採掘プロセスを実行することができる。
【0059】
第4の態様では、本発明は地熱エネルギーを利用する方法を提供する。この方法は、第1、第2、又は第3の態様の何れかの任意の方法を実行することを含み得る。本方法は、地熱井からの地熱エネルギーを利用することを含み得る。地熱井からの地熱エネルギーの利用は、坑井を通って循環する流体の加熱及び/又は発電等の任意の既知の技法を使用して実行することができる。
【0060】
第5の態様では、本発明は、地質構造から石油を取得する方法を提供する。この方法は、第1、第2、又は第3の態様の何れかの任意の方法を実行することを含み得る。地質構造から石油を取得することは、任意の既知の技法を使用して実行することができる。
【0061】
第6の態様では、本発明は、地質構造から鉱物(例えば金属硫化物)を採掘する方法を提供する。この方法は、第1、第2、又は第3の態様の何れかの任意の方法を実行することを含み得る。地質構造から鉱物を採掘することは、任意の既知の採掘技法を使用して実行することができる。
【0062】
第7の態様では、本発明は、コンピュータで実行されると、上記方法の何れかをプロセッサに実行させるように構成されたコンピュータ可読命令を含むコンピュータプログラム製品を提供する。
【0063】
本明細書全体を通して、「計算する」及び「推定する」等の用語が使用され得る。これらは限定を意図せず、正確には単に、温度等の実際の物理値の値の特定又は取得(又は物理値の少なくとも(近い)近似又は推定)を意味する。
【0064】
本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して単なる例としてこれより考察する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
図1】地表下温度Tを推定する一般マルチ地球物理学的ベイジアンネットワークである。
図2】磁気異常データBから地表下温度Tを推定するベイジアンネットワークである。
【発明を実施するための形態】
【0066】
本発明の実施形態は、地質構造の温度を計算又は推定する方法を提供する。方法は2つの主要ステップを含む:
(i)磁気データをインバージョン処理して、地質構造の磁化を提供するステップ、及び
(ii)磁化をインバージョン処理して、地質構造の温度を推定するステップ。
【0067】
先に考察したように、磁気データは従来、地表下温度の計算に使用されていなかった。
【0068】
本発明の実施形態は、誘導磁化及び残留磁化の両方を含む図1に示される(上述した)ベイジアンネットワークの磁気ブランチを利用する。
【0069】
ベイジアンネットワークの磁気ブランチは図2により詳細に示されている。ここでは、Tは地表温度であり、ATIRは衛星データ(LANDSAT-8)からの熱赤外線帯であり、u及びuはウルボスピネルの初期及び現在の割合であり、δは酸化してチタノマグヘマイトになったチタン磁鉄鉱の割合であり、Tはキュリー温度であり、Bは背景地磁場(earth magnetic background field)(大きさ、伏角、及び偏角)であり、Mは総磁化(誘導及び残留)であり、Bは磁場データであり、cは玄武岩質岩におけるチタン磁鉄鉱の全体割合である。
【0070】
原理上、図2のベイジアンネットワークの全ての変数は確率変数として見なすことができる。しかしながら、ここでは、B、M、及びTのみを確率変数として解釈して簡易化された手法が使用される。他の変数は決定論的ハイパーパラメータとして又はデルタ関数分布を有するものとして扱われる。したがって、ここで関心のある主要パラメータは磁気データB、岩石磁化M、及び地表下温度Tである。
【0071】
ベイジアンネットワークを適用して、条件付き独立の原理を組み込んで、パラメータの集合の同時分布を取得することができる。確率ノードの集合{x,...,x}の同時確率は、
【数1】
として書くことができ、式中、xpa はxの親、すなわちネットワークにおいて上のレベルにあるノードを示す。
【0072】
式(1)を使用し、隠れ変数を周辺化して、磁気異常データBを所与とした地表下温度Tの事後分布は
【数2】
として書くことができ、式中、Cは正規化係数であり、Mは磁化の大きさである。積分は磁化Mを周辺化する。
【0073】
先に説明したように、実際には、インバージョンは2つの別個のステップで実行される:
(i)磁気データBをインバージョン処理して、総磁化Mを計算するステップ、次に
(ii)総磁化Mをインバージョン処理して、地表下温度Tを特定するステップ。
【0074】
ステップ(i)において、磁化Mは磁気異常データBのインバージョンにより計算される。ベイズルールを使用して以下が得られる。
p(M|B)∝p(B|M)p(M) (3)
【0075】
このステップは、幾何拘束された磁気性がインバージョン処理される場合、線形である。これについては後述する。
【0076】
ステップ(ii)において、地表下温度Tが磁化Mのインバージョン処理により計算される。ここでもベイズルールを使用して以下が得られる。
p(T|M)∝p(M|T)p(T) (4)
【0077】
これは、後述する磁化と温度との間の非線形現象論関係を含む。
【0078】
最後に、事後分布p(T|B)が式(2)により得られる。Mの周辺化は畳み込み形態で書くことができ、畳み込み形態は高速フーリエ変換(FFT)を使用して高速且つ効率的な計算を可能にする。
【0079】
磁気データBは、磁力計を用いて測定された磁場データである。
【0080】
ステップ(i)は、マップインバージョン法、例えばマルカート-レーベンバーグ型マップインバージョンを使用して実行されて、妥当な深度間隔にわたり平均された側方変化総磁化(laterally varying total magnetization)を特定する。これについてより詳細に後述する。代替的には、ステップ(i)は、Li and Oldenburg(1996)又はHokstad et al.(2017)により提示される方法等の同じ目的を果たす任意の他の(例えば3D)インバージョン法を使用して実行することができる。
【0081】
磁気データBは任意の掘削前に取得することができ、その場合、本発明による方法を実行することにより温度の掘削前推定を提供するのに使用することができる。追加又は代替として、磁気データBは坑井の掘削中(又は後)、取得することができる。これらのデータは、本発明による方法を実行することにより温度の掘削中又は掘削後推定を提供するのに使用することができ、掘削中又は掘削後推定は既存の推定への更新と見なし得る。
【0082】
これより、ステップ(i)において使用されるマップインバージョン法についてより詳細に説明する。
【0083】
磁気異常データは、地表下での双極子源に起因する。したがって、異常磁場Bは、逆距離電位(inverse distance potential)の二重微分により取得することができ
【数3】
式中、Mは磁化ベクトル(誘導磁化及び残留磁化を含む)であり、x’は磁気源の位置を示し、xは磁場が測定された位置であり、μは真空透磁性である。
【0084】
場データの標準的な取得では、総磁場の大きさのみの総磁気強度が取得され
【数4】
式中、Bは背景地磁場である。
【0085】
総磁気異常Bは局所磁場を差し引くことにより取得される
=|B+B|-|B| (7)。
【0086】
式(7)における平方根をBの二次に展開すると、総磁気異常は
【数5】
として書くことができ、式中、θはBとBとの間の角度である。
【0087】
単位ベクトルt=B/|B|をBの方向に導入すると、TMAは
【数6】
として書くことができる。
【0088】
|B|<<|B|である場合、第2項はごく僅かであり、総磁気異常は基本的に、背景地磁場の方向への異常磁場の射影である。
【0089】
この仮定は以下において使用される。
【0090】
磁気データは磁化の側方変化を非常によく捕捉するが、非常に小さな深度分解能を有する。したがって、3D磁気インバージョンはひどく不良であり、意味のある結果を与えるためにはひどく拘束されなければならない。3Dインバージョンからの磁気異常の深度分布は大方、使用される正則化により制御され、拡大解釈されるべきではない。
【0091】
本発明では、この問題は以下に説明するようにマップインバージョン法を使用して対処される。
【0092】
磁化は、深度から独立すると仮定され、又は
【数7】
のように深度範囲z~zにわたる平均を表す。次に、式5におけるz’上の積分を実行することができ、
【数8】
が与えられる。式中、後の便宜上、距離
【数9】
及び関数
F(z’)=ln[(z’-z)+r] (13)
を導入した。式5に代入し、式9を使用して、総磁気異常は
【数10】
として書くことができ、式中、t及びMはそれぞれベクトルt及びMの要素であり、Aij
【数11】
により与えられる二次テンソルの要素であり、式中、微分は水平座標(x,x)=(x,y)に関するものであり、
【数12】
及びδijはクロネッカーデルタ関数である。
【0093】
順モデル式14から、スカラーデータBのインバージョンにより3成分磁化Mを容易に得ることができないことが明らかである。しかしながら、磁化方向の推定が既知である場合、大きさについてのインバージョンを試みることができ、これは実現可能な問題である。
【0094】
したがって、
M=Me (17)
と書くことができ、式中、M(x’,y’)及びeはそれぞれ、磁化の大きさ及び磁化の方向における単位ベクトルである。多くの場合、磁化は、岩石が固化時の古地球磁場に概ね平行する。非常に若い火成岩の場合、e=tと仮定することが妥当である。磁化Mが誘導磁場Bに平行する場合、誘導磁化M=χHから残留磁化Mを区別することは難しく、式中、H=B/μである。追加情報なしで、2つの部分は多くの場合、見掛けの磁化率において一緒に混合される。
【数13】
【0095】
一般に、eを推定するには、地殻再構築(tectonic reconstruction)及び運動学的復元(kinematic restoration)が必要であり得る。
【0096】
個の測定値及びn個のモデルパラメータを有する地磁気問題を仮定すると、順問題は
d=Lm+n (19)
として行列-ベクトル形態で書くことができ、式中、dは成分d=B(x,y)を有するn×1データベクトルであり、mは成分
【数14】
を有するn×1モデルベクトルであり、nはノイズであり、Lはn×n行列である。e=tと仮定すると、行列Lの要素は
【数15】
になる。
【0097】
インバージョン問題の統計公式では、ベイズルールを使用して、事後分布p(m|d)は
p(m|d)=Cp(d|m)p(m)=Ce-Φ (21)
として書くことができ、式中、Cは正規化係数であり、Φは最適化型インバージョンの目的関数
【数16】
である。
【0098】
mの事前分布はゼロ平均を有するガウス分布であると仮定され、これは異常データのインバージョンにとって妥当である。順モデル式19はmにおいて線形であるため、尤度及び事後分布はガウス分布である。すると、事後確率の最大化は目的関数Φの最小化に等しい。これは最小二乗疑似逆(least squares-pseudo inverse)を用いて達成することができ
【数17】
式中、μm|dは磁化Mの事後平均を示す。簡潔にするために、Σは恒等行列に比例するように選ばれる。
【数18】

【数19】
として選ばれる場合、従来のマルカート-レーベンバーグ解が得られる。
【数20】

【数21】
として選ばれる場合、より平滑な解が得られ、式中、Dは一次導関数行列である。ここで、λは、目的関数のデータ項及び正則化項に掛けられる相対重みを制御するパラメータである。
【0099】
事後共分散行列はデータから独立し、
Σm|d=Σ-Σ[LΣ+Σ-1LΣ (26)
として明示的に書くことができる。
【0100】
事後共分散はΣm|dの対角要素である。右辺の第2項は正定値である。したがって、データからの情報を追加することの効果は、不確実性を低減することである。
【0101】
ステップ(ii)は、磁化を温度に関連付けて、磁化から温度値を計算する現象論モデルを含むベイジアンインバージョン法を使用する。現象論モデルは、チタン磁鉄鉱のスピノーダル離溶及び量子統計からの1Dイジングモデルに基づく。これについてより詳細に後述する。このステップの副産物として、キュリー温度及び異なるチタン磁鉄鉱位相の割合の推定も得られる。
【0102】
空間的に独立した3D温度関数を得るために、地質構造の温度は、地質構造の複数の異なるポイント/ロケーション/体積/空間でポイント毎に計算される。理解することができるように、磁気パラメータは地質構造の空間にわたり変化し得、これは空間的に変化する温度に対応し得る。
【0103】
磁化を基本的な岩石特性に関連付ける現象論モデルについてこれより説明する。
【0104】
岩石の磁気特性は主に、少数の強い磁性を有する鉱物によって決まる。最も重要なのはチタン磁鉄鉱であり、チタン磁鉄鉱はその後、酸化してチタノマグヘマイトになり得る。それにもかかわらず、チタン磁鉄鉱は、岩石総体積の比較的小さな割合のみ、通常1~10%を構成する。残留磁化及び誘導磁化は、化学反応及び熱水変質に加えて温度に強く依存する。磁化は強く温度に依存し、量子力学的秩序と熱的無秩序との間の攻防として思い描くことができる。マグマが冷えて固化するとき、磁鉄鉱及びウルボスピネルの固溶体として単磁区チタン磁鉄鉱が形成される。更に冷えると、この固溶体は溶解度ギャップに入り得、そこで不安定になり、異なる組成を有する新しい位相に分解される。
【0105】
磁化に対する熱の効果を説明するために、量子効果を巨視的磁化に統計的にリンクする単純なモデルが必要とされる。ここで、量子統計からのイジング(1925年)モデルの簡易版を使用する。イジングモデルでは、スピンσと相互作用し、外部磁場Hの影響下の粒子系のハミルトニアンΗ(エネルギー)は、
【数22】
により与えられ、式中、μは各粒子の磁気モーメントであり、Jは粒子間相互作用強度であり、表記<ij>は、合算が全ての最近傍組合せi;jにわたることを意味する。式27では、第1項は残留磁化を表し、第2項は誘導磁化を表す。
【0106】
いくらかの代数後、統計力学及びボルツマン分布の方法を使用して、粒子アンサンブルの巨視的磁化は、
【数23】
として書くことができる。ここで、Mは磁化の大きさであり、Mは絶対零度での磁化であり、Tは温度(ケルビン単位)であり、Tはキュリー温度であり、Cはキュリー定数である。式28の微分について以下に概説する。式28は、グラフ又は数値で解くことができる超越方程式である。磁化率χは
【数24】
により与えられ、式中、χは磁化率であり、M(T,0)=Mは残留磁化である。大きな温度の場合、式28は線形化することができ、キュリーワイスの法則に繋がる。
【数25】
【0107】
イジングモデルは、均質単磁区磁気位相の磁気特性を表すのに使用することができる。磁気位相の異種混合では、単相モデルの線形結合が使用され、
【数26】
式中、wは磁気位相jの重みである。線形重畳は式5及び式15のMにおける線形性によりサポートされる。
【0108】
式28を用いる場合、正の磁化しかモデリングすることができない。しかしながら、若いMORBの場合、負の残留磁化も往々にして磁気データで観測される。負の磁化は磁気位相の1つ又は複数の自己反転によりモデリングすることができる。実際には、これは式28における負の重みw及びHの符号反転により達成される。
【0109】
式31において与えられるモデルは、実験研究で示されたのと同様に、異なるキュリー温度を有する2つ又は3つのメカニズムの重畳により、磁化の多種多様な温度依存性を表すことができる。
【0110】
マグマの冷却により火成岩が形成されるとき、ウルボスピネル及び磁鉄鉱の固溶体としてチタン磁鉄鉱が形成される。また、チタン磁鉄鉱の一部は高温酸化によりチタノマグヘマイトに変わり得る。
【0111】
スピノーダル分解は単純な2成分溶液で行われる。均質固溶体が、初期割合u及びvの2つの成分を用いて、温度Tにおいて形成される。続けて温度Tまで冷却されると、固溶体は溶解度ギャップに入り、そこで不安定になり、組成u、v及びu、vを有する新しい位相に分解される。位相はバイノーダル分解により、組成u、v及びu、vを有する位相に引き続き分解され得る。しかしながら、これは核生成プロセスに頼り、はるかに遅いプロセスである。質量保存から、u及びvは独立せず、系はu及びvの一方により記述することができる。以下、uが使用される。
【0112】
スピノーダル分解はギブス自由エネルギーにより制御される。最も単純なモデルでは、ギブス自由エネルギー及びスピノーダルはu=1/2の回りで対称である。チタン磁鉄鉱のスピノーダル分解についての研究所での研究により、スピノーダルはこの対称性を有さないことが示される。2成分溶液のギブス自由エネルギーは、エンタルピー項及びエントロピー項からなる。磁鉄鉱は磁性であり、一方、ウルボスピネルは磁性ではないため、外部磁場では、磁鉄鉱のエントロピーはウルボスピネルのエントロピーよりも低くなる。系のギブス自由エネルギーGが
G(u,v,T)=W(uv+uδ+vδ)+kT[(1+h)ulnu+(1-h)vlnv+δlnδ] (32)
として表現される場合、この非対称性は捕捉することができ、式中、uは磁鉄鉱の割合であり、vはウルボスピネルの割合であり、δはチタノマグヘマイトの割合である。δは、スピノーダル分解中、小さく一定であると仮定される。質量保存により、条件u+v+δ=1及び
【数27】
が得られる。更に、Wは混合エンタルピーパラメータであり、kはボルツマン定数であり、パラメータhは、外部磁場の存在下での磁鉄鉱及びウルボスピネルの異なる磁気エントロピーを説明する。
【0113】
ギブス自由エネルギーの一次導関数及び二次導関数は
【数28】
及び
【数29】
として得られる。
【0114】
スピノーダル分解は、
【数30】
であるとき、行われ、
【数31】
により定義されるスピノードにおいて終わる。式34はuについての二乗式であり、異なる磁鉄鉱及びウルボスピネル割合を有する2つの異なる固溶体の2つの溶液u及びuを与える。h=0及びδ=0と設定すると、u=1/2の回りでスピノーダル対称を得る。パラメータW及びhは、スピノーダルモデルを実験測定値に合わせるように調整された。次に、温度を所与として、モデルは、組成u及びuをそれぞれ有する位相でのウルボスピネル及び磁鉄鉱の平衡割合を予測する。更に、Lattard et al.(2006)により提示された経験モデルから、
(u)=150u-580u+851 (35)
であり、2つの位相の対応するキュリー温度も得られる。
【0115】
MORBの主成分は橄欖石、輝石、及び斜長石である。チタン磁鉄鉱及び時にはチタノマグヘマイトは玄武岩の磁化の原因である主要鉱物であるが、これらの鉱物は通常、岩石総体積のわずかな割合のみ、典型的には2~10%を構成する。
【0116】
確率的平衡により、イジングモデル式31の重み関数は
【数32】
として得られ、式中、cは岩石中の磁性鉱物(チタン磁鉄鉱及びチタノマグヘマイト)の全体体積割合である。
【0117】
場データの深度分解能が低いことに起因して、式10に与えられるように、深度平均磁化に関する簡易化表現が選ばれた。したがって、地表下温度と深度との間の関係の簡易化パラメータ化も求められた。地表下温度Tは、
T(z,β)=T+(T-T)e-βz (39)
として表現され、式中、Tは地表面温度であり、Tはz→∞での漸近値である。0.1から0.5km-1に変化する減衰パラメータβを用いると、約40℃/kmの熱伝達勾配から沸騰曲線に近い地熱異常までのあらゆるものを表すことができる。
【0118】
地表面温度Tは活発な地熱エリア、例えば温泉及び噴気孔の近くでは大きく変化し得る。単純な選択肢はTをβの関数として表すことであり、
(β)=aβ+b (40)
式中、n=4又はn=6は妥当な結果を与える。
【0119】
地表面温度Tは観測データに拘束することもできる。地表面温度は遠隔検知衛星データを使用して推定することができる。ここで、LANDSAT-8帯4、5、及び8、すなわち、赤、近赤外線(NIR)、及び熱近赤外線(TIRS)帯を利用する方法が適用される。Avdan and Jovanovska(2016)による方法は、上記で磁化に提示されたものと同様に、統計インバージョン枠組みに適合されている。しかしながら、TIRS帯の分解能(90m)は温泉近くの高温を捕捉することができない。
【0120】
減衰パラメータβには、
【数33】
により定義される平均温度T(β)を関連付けることができる。
【0121】
磁気異常データのインバージョンからの平均磁化を所与として、平均磁化を磁気源層の平均地表下温度についてインバージョン処理することができる。式39及び41を使用して、平均温度と温度vs深度との間のリンクが、ベイジアンインバージョンの順モデリング段階において、すなわち、事後確率分布の尤度部を計算する部分として確立される。
【0122】
上記方法は、地熱エネルギー、石油、及び/又は鉱物(例えば金属スフィド)を調査する場合、例えば地熱/石油坑井掘削又は鉱物採掘動作を計画し実行する場合、使用することができる。
【0123】
一実施形態では、計算された温度は、掘削又は採掘前、坑井を掘削する場所及び/又は坑井を掘削する深さ又は坑道を掘る場所/深さを決める際、使用される。
【0124】
同じ又は他の実施形態では、計算された温度は、坑井掘削又は坑道掘り中又は後、掘削又は採掘を続ける方向又は深さを決める際、使用される。
【0125】
温度推定は、掘削/採掘中、新しい測定データに基づいて更新することができる。
【0126】
引用文献
Advan,U.,and G.Jovanovska,2016,Algorithm for automated mapping pf land surface temperature using LANDSAT 8 satellite data;Journal of Sensors,2016,1-8.
Hokstad,K.,and K.Taenavsuu-Mileviciene,2017,Temperature prediction by multigeophysical inversion:Application to the IDDP-2 well at Reykjanes,Iceland:GRC Transactions,42,1141-1152.
Lattard,D.,R.Engelmann,A.Kontny,and U.Sauerzapf,2006,Curie temperatures of synthetic titanomagnetites in the Fe-Ti-O system:Effects of composition,crystal chemistry,and thermomagnetic methods:J.Geophys.Res.,111.
Li,Y.,and D.Oldenburg,1996,3-D inversion of magnetic data:Geophysics,61,394-408.
図1
図2