(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】果実の生理障害および害虫に対して耐久性のある生態学的肥料
(51)【国際特許分類】
A01N 59/06 20060101AFI20230619BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20230619BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20230619BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20230619BHJP
C05C 7/00 20060101ALI20230619BHJP
A01G 22/05 20180101ALI20230619BHJP
A01C 21/00 20060101ALI20230619BHJP
A01M 7/00 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
A01N59/06 Z
A01P7/04
A01N25/02
A01N25/00 102
C05C7/00
A01G22/05 Z
A01C21/00 Z
A01M7/00 S
(21)【出願番号】P 2021540323
(86)(22)【出願日】2019-12-30
(86)【国際出願番号】 EP2019087130
(87)【国際公開番号】W WO2020144076
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2021-10-25
(32)【優先日】2019-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521304667
【氏名又は名称】ソシエダッド・アノニマ・リベルテ・プロドゥクトス・ミネラレス
【氏名又は名称原語表記】S.A. REVERTE PRODUCTOS MINERALES
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】プリエト ヒゴ,アルカディオ
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-087091(JP,A)
【文献】特表2001-524946(JP,A)
【文献】特表2002-530125(JP,A)
【文献】特表2017-537956(JP,A)
【文献】特開平06-122581(JP,A)
【文献】米国特許第07695541(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 59/
A01P 7/
A01N 25/
C05C 7/
A01G 22/
A01C 21/
A01M 7/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
98.5重量%より多くの炭酸カルシウムを含む固形カルシウム組成物を塗布することにより、農作物を害虫から保護するための、果実の生理障害に拮抗するための、あるいは農作物を害虫から保護するためと果実の生理障害に拮抗するための、いずれかの施肥方法であって、
水性懸濁液に分散させた該固形カルシウム組成物を、葉面レベルで1重量%と12重量%との間で塗布することを含み、
該固形カルシウム組成物の表面化学組成が、多湿条件下でCa
2+、CO
3
2-および次のイオン種:CaOH
+、CO
3H
-およびCO
3CaOH
-を含み、62ppm~132ppmの範囲のカルシウムの生体利用能を提供すること
を特徴とする、方法。
【請求項2】
農作物がナシおよび/またはリンゴの作物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該固形カルシウム組成物の水性懸濁液の塗布が、7バールと10バールの間の圧力でマイクロ粉砕され、直径が80μm以下の微小滴の噴霧を生成することでなされる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
該固形カルシウム組成物の水性懸濁液が農業サイクル全体にわたって塗布される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
塗布が:
a)1月に該固形カルシウム組成物の5%w/w水性懸濁液を50kg/Haの量で塗布することからなる、第1の処理;
b)4月末から5月初旬にかけて該固形カルシウム組成物の6%w/w水性懸濁液を60kg/Haの量で該作物に塗布することからなる、第2の処理;
c)6月に該固形カルシウム組成物の2%w/w水性懸濁液を該作物に20kg/Haの量で塗布し、7月に該固形カルシウム組成物の1%w/w水性懸濁液を該作物に10kg/Haの量でさらに塗布することからなる、第3の処理;
d)10月から11月にかけて該固形カルシウム組成物の1%w/w水性懸濁液を該作物に10kg/Haの量で塗布することからなる、第4の処理
を含む、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学の分野に、特に果実の生理障害および害虫に拮抗するのに適する新規なカルシウム肥料に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでの10年間で、植物の保護および害虫の制御において、化学殺虫剤が重要な役割を果たしてきた。しかしながら、これらの化学殺虫剤は、その使用がヒトの健康および環境に関連してリスクおよびインパクトのあることが知られている。これらのリスクを減らすために、殺虫剤の持続可能な使用を達成するための共通の法的枠組み(Directive 2009/128/EC)が確立された。このDirectiveは、特定の領域での化学殺虫剤の使用を最小限とするか、または禁止した。
【0003】
Directive 2009/128/ECは、殺虫剤の使用への依存を減らすために、別の解決方法または技法を開発することを促す。そこで、過去10年間にわたって重要な役割を果たしてきた合成殺虫剤の代替として、農業病害虫を制御するのに適する新規な天然の生成物を開発する必要性が創出された。
【0004】
これに関連して、本発明は作物を害虫から保護する活性を有する新規な天然の肥料に言及する。この新規な生成物は、意外にも、害虫の制御に加えて、桁外れの施肥特性を、ならびに果実の生理障害を回避する能力を有することが見いだされた。
【0005】
ここ数年で、新たな殺虫剤処理の開発には有意な向上があったが、今日まで、農作物を害虫から保護する能力を有し、同時に、栄養分が植物を横切って拡散することを含め、植物が葉面栄養を獲得することを可能とする生成物について、効果的な解決方法は何ら見いだされなかった。
【0006】
本発明は、炭酸カルシウムを基剤とする、害虫に拮抗する保護剤として、およびカルシウム肥料としての両方の意外な相乗作用を有する、新規な製剤に言及する。
【0007】
最先端の分野において、炭酸カルシウムを植物の肥料として、および害虫に拮抗する保護剤としての使用に言及する、様々な発明が開示されている。
【0008】
US6069112は、焼成炭酸カルシウムを含み得る細分割された熱処理された粒状材料の有効量を、植物の表面の少なくとも一部に塗布することを含む、光合成を低下させることなく、日焼けおよびみつ病、コルク化、苦とう病などの他の生理障害を防止する方法を開示している。
NZ280358は、沈殿物の形態の、実質的に純粋な炭酸カルシウムの微粒子を含む肥料を開示している。
AU7601491は、貝殻、珊瑚等から構成され、崖にて、川に沿って、および川床または石灰物が堆積した他の場所にて見られる、石灰堆積物を含む液状肥料の組成物に言及する。その実施例にて開示される炭酸カルシウムの量は84.30%、83.75%または81.8%である。
【0009】
DE10021029は、植物の成長を改善するための薬剤を製造する方法、および/または石灰岩の粉末を、少なくとも1つの結合剤、任意の他の添加剤と一緒に撹拌することで得られる殺虫剤の残留分を減少させる方法を開示する。
【0010】
JP2013087091は、コドリンガ(codling moths)を安全かつ経済的に制御する制御剤に言及する。該制御剤を果実の表面に塗布し、コドリンガが卵を産み付けるのを妨げる。該生成物は、炭酸カルシウムまたは炭酸マグネシウムと、該薬剤を果実の表面に固定するための固定剤とを含む。無機粉末の平均粒径は0.1~3μmの範囲にある。
【0011】
EP3033944は、炭酸カルシウムの、植物の成長の間における害虫に拮抗する植物保護剤としての使用を開示する。該炭酸カルシウムは粒径が0.1~200μmである粒子の形態にて使用される。
【0012】
WO9838867は、表面を節足動物の侵入から保護する方法であって、該表面を有効量の細分化された焼成カオリン、疎水性焼成カオリン、含水カオリン、疎水性含水カオリン、疎水性炭酸カルシウム、炭酸カルシウムまたはそれらの混合物で処理することを含む、方法を開示する。
最後に、JPH0680511は、粉末状の炭酸カルシウムを含む、害虫に拮抗する生成物に言及する。
【0013】
最先端の分野にて開示された発明に基づいて、仮に炭酸カルシウムが効果的な肥料として記載されているとしても、既知で現在利用可能な肥料の生成物は、作物におけるその短い耐久性(permanence)、またはその塗布方法に付随するリスクなどの様々な欠点があると結論付けることができる。その耐久性の短さは、強風、露、または雨などの悪天候の条件が発生する度に組成物が失われることを意味するため、それは重大な欠点である。このことは、組成物が失われる度にそれを塗布する必要があり、その結果として費用がかかるという、重大な経済的結果をもたらす。本発明の生成物は、この問題を解決し、組成物を作物に複数回の適用にて塗布する必要性を回避するものである。本発明は、たった一回の塗布で、悪天候の条件の後であっても、組成物が作物に留まり得るという利点を提供する。
【0014】
加えて、最先端の分野にて公知の代替物は、果実の外観に影響を及ぼし、収穫後に白い斑点として残る、欠点を有する。本発明は、果実の外観に悪影響を及ぼすことなく、農作物に影響を与える害虫を制御するため、この問題を解決している。
【0015】
さらに詳細には、この新規な生成物は次の問題に対する解決手段を付与する:
・生成物の耐久性:組成物を複数回の適用にて、特に悪天候の条件の後に、塗布する必要性を回避する;
・外観:その塗布は果実の外観に影響を与えず、残留物が白い斑点の形態にて残ることを回避する;
・施肥能力:農作物を害虫から保護しながら、それに養分を与える。特に、最も一般的に使用される液体肥料(塩化カルシウム、CaCl2)よりもさらに一層効果的であり、湿度の高い状況下でも持続的にカルシウムを供給する。従って、本発明の生成物は、施肥活動を達成するのに必要とされる塗布の回数を減らすことができる。
【発明の概要】
【0016】
上記の問題に対する解決手段を付与し、最先端の分野において公知の肥料に関連する欠点を回避することを目的として、本発明は、98.5重量%よりも多くの炭酸カルシウムを含むことを特徴とする、果実の生理障害および害虫に拮抗するのに適する、新規な固形カルシウム肥料に言及する。
【0017】
本発明の生成物の主たる利点は、それが作物にカルシウムを葉面レベルで滋養物を与えるのに適する、果実の作物の場合には、果実のクチクラを横切って、滋養物を与えるのに適する、効果的な固形生態学的肥料であることである。また、肥料が固体状態であるため、作物に耐久性を長く付与するという特徴もある。このことは、植物または樹木の根を通して施肥効果を達成する、最先端の分野の他の肥料と比較して、重要な利点である。
【0018】
作物を農業病害虫から保護するためにこの肥料を用いることも本発明の目的である。この目的を達成するために、該生成物は農業サイクルのあらゆる段階で塗布される。
本発明の好ましい実施態様において、該肥料は生態系に優しい農業にて、より好ましくはナシおよびリンゴの作物に影響を及ぼす害虫および疾患を制御するために使用されるであろう。
【0019】
塗布方法は、水性懸濁液に分散させた肥料を、1重量%~12重量%、より好ましくは2重量%~6重量%で塗布することを含む点で特徴付けられる。特に、12%水性懸濁液中の肥料で生物学的に利用可能なカルシウムの量は、62ppmと132ppmとの間で変動することができ、より好ましくはこの量は92ppmとすることができる。
【0020】
新規な肥料は果樹に影響を与える害虫の減少を80%以上で達成しうることが実証された。
本発明の好ましい実施態様において、該肥料はナシの作物をプシラ(psila)から保護するのに使用されるであろう。
本発明のもう一つ別の好ましい実施態様において、該肥料はリンゴの作物をカルポカプサエ(carpocapsae)(Cydia pomonella)から保護するのに使用されるであろう。
【0021】
本発明の目的とする肥料の主な利点は、以下の点である:
・その耐久性:農業サイクル全体を通して持続的な施肥および保護作用を可能とする。これにより、農作物の処理に関連する費用が減り、必要とされる塗布の回数ならびに植物化学物質の消費が減る;
・作物におけるその位置付け:肥料は葉の気孔の内側に浸透し、それはまた果実の表皮全体に沿って分散される。かくして、該肥料は塩化カルシウムなどのカルシウム農薬に代わる効果的なものであり、1ヘクタール当たりに必要とされる、肥料および害虫に拮抗する保護剤の量と関連付けられる費用を軽減することが可能である;
・肥料粒子の表面活動:肥料はカルシウムを持続的に固体状態にて提供することができる。該肥料はまた、多湿条件(露、雨)の時に高イオン表面活動を有し、果肉でのカルシウム生物学的利用能を高めることも可能である;および
・肥料は、耐久性の葉面カルシウム肥料として、および害虫に拮抗する保護剤としての両方の二元作用を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】作物中の肥料の分布を示す。特に、肥料を塗布した葉の気孔内に、カルシウム粒子がどのように分布しているかを示す。このことは、その大きさのために植物の気孔の内部に浸透できない当該分野にて公知の他の肥料と比べて、クレームに記載の肥料の重要な利点である。
【
図2】葉の気孔の孔辺細胞におけるカルシウム粒子の分布を示す。
【
図3】ゴールデン・リンゴ(Golden apple)のクチクラおよび表皮上でのカルシウム粒子の分布を示す。
【
図4】ゴールデン・リンゴの表皮の内部に浸透しているカルシウム粒子の詳細図である。
【
図5】コンファレンス・ナシ(Conference pear)のクチクラに分布したカルシウム粒子の詳細図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
最先端の分野にて知られる他のカルシウム肥料と比べて、本発明の肥料の主な利点の1つが、すべての気候条件下にあって、農業サイクル全体に及ぶ、作物でのその高い耐久性にある。従って、その主な利益の1つが該肥料が持続的なカルシウムポンプとして作用することである。これにより、塩化カルシウムなどのカルシウムの液体肥料を用いる時に必要とされる、複数回の葉面塗布にてカルシウムを塗布する必要性が回避される。
【0024】
新規な肥料のこの有利な効果は、Ca2+またはCO3
2-に加えて、CaOH+、CO3H-またはCO3CaOH-などの他のイオン種を含む、肥料の表面化学組成によるものである(XPSまたはTOF-SIMS測定により確認される)。それらはすべて、多湿条件(雨、露)の下で活性化され、カルシウムの生体利用能を高めることができる。特に、意外にも、本発明の肥料によって提供されるカルシウムの効果的な量が最先端の分野の他の肥料によって提供されるカルシウムよりもずっと多いことが判明した。実際に、意外にも高い相乗的な施肥効果を得ること、カルシウムの生体利用能を62ppm~132ppmの範囲にて達成することは予期せぬことであった。
【0025】
クレームに記載の肥料のカルシウムの持続的な供給に関与する化学的メカニズムは次のとおりである:
a)まず、固形カルシウム化合物の表面のイオン種のCa
2+またはCO
3
2-を活性化して水性懸濁液に遊離させ:
【化1】
b)次に、遊離したCO
3
2-を加水分解に付し、CO
3H
-に変換し:
【化2】
c)最後に、重炭酸陰イオンCO
3H
-を、水性媒体中でCO
2に変換する。
【化3】
【0026】
クレームに記載の肥料の高い表面活動により、Ca2+およびCO2の持続的な供給を得ることができる。というのも、これらのイオン種は多湿条件(雨または露)の下で遊離して、作物の木質部を横切り、果実の果肉に達するまで輸送されるからである。作物によるCO2吸収は平衡をCO3H-の生成を高める方向にシフトさせ、それと同時にCa2+およびCO2に変換される。
【0027】
かくして、肥料の作物の表面(茎、葉および果実)への塗布、および雨または露の作用は、重炭酸カルシウムの生成を増大させ、それは次に水溶液中でCa
2+およびCO
2に分解される。
【化4】
【0028】
農作物を害虫から保護するためにクレームに記載の肥料を使用することも本発明の目的である。肥料の葉/果実の表面での分布は、カルシウム肥料としてその後に活動するのに必須であり:薄い単層を形成するその沈着は肥料の被膜効果を最大限に発揮する。
【0029】
その上、これにより、肥料で処理される木の幹、植物の茎、葉または果実での肥料粒子の接触表面積が増加する。このように、肥料の耐久性はすべての気候条件(雨、露または風)の下で保証される。
【0030】
施肥活動に加えて、該肥料は農業病害虫に拮抗するのに適する。特に、該新規な肥料は樹木および果実の両方を日焼けおよび害虫から保護する。この新規な肥料は樹木に影響を与える害虫を80%以上減らすことができると実証されている。この効果は肥料が樹木の表面に分布される状況と、その長い耐久性によるものである。
【0031】
従って、農業サイクル全体を通して、肥料を農作物に塗布することも本発明の目的である。肥料の堆積は、該肥料の水性懸濁液を高圧(好ましくは、7バールと10バールの間)でマイクロ粉砕に付し、好ましくは直径が80μm以下のマイクロ小滴の噴霧を生成することにより達成される。粒子に含まれる水分をその後で蒸発させ、それらを、肥料が塗布される果実または葉の表面に均一な層を形成するように分配し、肥料の被覆作用を最大化する。
【0032】
(実験)
クレームに記載の生成物の有効性を証明するために、ナシおよびリンゴの作物を処理することからなる様々な実験を実施した。
施肥処理は、肥料の水中6重量%懸濁液(60kg肥料/Ha)を用い、それを8バールの圧力で粉砕して、4月の最後の週に行われた。
【0033】
図1および2は、肥料の葉上での分布を示す。特に、該図は、肥料が葉の気孔の内側にどのように浸透し得るか(
図1)を、または肥料が葉の表皮に位置する孔辺細胞の気孔の周辺にどのように分布するか(
図2)を示す。
【0034】
図3~5は肥料の果実での分布を示す。
図3は、肥料の粒子がゴールデン・アップルのクチクラと表皮にどのように分布しているかを示す。
図4は、いくつかの肥料の粒子がゴールデン・アップルの表皮の多形性細胞の内側にどのように浸透するかを示す。同様の実験が、ゴールデン・アップルのクチクラよりも厚いクチクラを有する、コンファレンス・ナシを用いて実施された。コンファレンス・ナシの細胞は多角性ではない。それらは丸みを帯びた形状であり、リンゴの細胞ほど秩序のある分布をしていない。
図5は、他の肥料の粒子が、細胞とコンファレンス・ナシの表皮細胞とを結ぶクチクラ細孔の近くで、無秩序な多層構造にて、ナシのクチクラ表面全体に沿ってどのように分布されるかを示す。表皮の下に周皮があり、その下に、柔組織細胞により形成される果肉がある。
【0035】
多湿条件(雨または露)の下では、該肥料は、果実で利用可能であり、果肉中に蓄積され得る、さらに多くのCa2+を遊離し得る。かくして、多湿条件の下では、該肥料は表皮にてCa2+およびCO2の「系内」での、および表皮から果肉への供給に有利に働く。
【0036】
実施された実験はまた、クレームに記載の肥料の特性による相乗作用を示した。特に、果実に供給されるCa2+の量が多いため、該肥料は、果実の硬度を維持しながら、ビターピットまたは皮目病斑ピットなどの果実の生理障害を軽減させる。
【0037】
クレームに記載の肥料のさらなる利点は、収穫された後に該肥料が果実から容易に除去されることである。したがって、該肥料は、焼成カオリンなどの他の周知の肥料と比較して、果実の外観に悪影響を与えない。
【0038】
新規な肥料の塗布は農業サイクル全体を通して実施することができ、塗布により効果的な量のカルシウムで作物に栄養を与えること、および該作物を農業病害虫から保護することの両方が可能となる。該処理は、気候条件に応じて、農業サイクルの異なる時点で実施され得る。
【0039】
本発明の好ましい実施態様において、この処理は次のように実施され得る:
・休眠処理(冬):
-果樹の収穫前保護:肥料の5%(w/w)水性懸濁液を50kg/Haの量で塗布することからなる1月での第1の処理
・春、夏および秋の処理:
- 4月末から5月初旬まで該肥料の6%(w/w)水性懸濁液を60kg/Haの量で塗布することからなる第2の処理において、日焼けおよび害虫から果実を保護することを含む、果実のCaとCO2での葉面施肥;
- 6月において該肥料の2%(w/w)水性懸濁液を20kg/Haの量で塗布し、7月に該肥料の1%(w/w)水性懸濁液を10kg/Haの量でさらに塗布することからなる第3の処理にて、日焼けおよび害虫から果実を保護することを含む、果実のCaとCO2でのクチクラ施肥;
- 10月から11月にかけて該肥料の1%(w/w)水性懸濁液を10kg/Haの量で塗布することからなる第4の処理での、果樹の害虫からの収穫後保護。
【0040】
この処理は好ましい実施態様であるが、作物の場所の気候条件に応じて、肥料を作物に塗布する時期を変えることが可能であろう。
しかしながら、カルシウムは、果実の細胞分裂と一致して(開花後6~8週間の間に)継続的により容易に吸収されるため、果実の果肉の第1の葉面処理はこの期間にて行われるのが好ましい。
【0041】
その上、作物の利用可能なカルシウムについて葉と果実との間に強いコンペテンスが存在する。このため、本発明の好ましい実施態様において、クレームに記載の新規な肥料は、カルシウムを、植物または樹木のクチクラおよび表皮を横切って果肉の内部に直接浸透させるために、複数回の葉面塗布がなされる。
【0042】
果実が、成長して、直径が約6~8cmに達すると、本発明の好ましい実施態様では、その工程は、該肥料を10kg/Ha~30kg/Haの低濃度でもう一度塗布し、カルシウムの果実の果肉への供給(葉およびクチクラの両方)を強化することを含むであろう。
【0043】
本発明の肥料はまた、当該最新の分野にて利用可能な液体肥料(最も一般的に使用されるCaCl2)を塗布する場合に一般的である、塩分指数の増加に伴う副作用なしに施肥活動を提供するという利点を有する。該新規な肥料は塩分濃度が低く、従って、塩化カルシウムなどのカルシウム塩の使用に付随する土壌のpHの上昇を回避する。かくして、塩化カルシウムの「塩分指数」は87であるが、その新規な肥料の「塩分指数」は0.8である。このことは、それにより土壌の浸透圧の上昇が回避されるため、重要な利点である。
【0044】
実験例1. ゴールデン・アップルの果肉の葉面施肥
ゴールデン・アップルの葉面施肥を測定するのに、第1の実験を実施した。
処理は、クレームに記載の肥料の水中3重量%懸濁液(30kg/1000リットル水/Ha)を用い、4月の最終の週に実施された。参照となる処理(ブランク)は3%CaCl2溶液(30kg/1000リットル水/Ha)であった。
クレームに記載の肥料は、CaCl2処理で達成されるカルシウムの供給と比べて、カルシウムの果肉への供給において50%効果的であることが証明された。
【0045】
この第1の実験の結果を下記の表1に示す:
【表1】
【0046】
この実験は、クレームに記載の新規な肥料が、最も一般的に使用される肥料(CaCl2)よりも効果的であることを示す。特に、クレームに記載の肥料が、ゴールデン・アップルに対して水中3%濃度(30kg肥料/1000リットル水/Ha)で塗布される場合に、カルシウムの果肉への供給が、CaCl2処理で達成されるカルシウムの供給と比べて、50%高いことが実証されている。
【0047】
実験例2. コンファレンス・ナシの果肉の葉面施肥
第2の実験を行い、コンファレンス・ナシの葉面施肥を測定した。
処理は、肥料の水中3重量%懸濁液(30kg/1000リットル水/Ha)を用い、4月の最終の週に実施された。ブランクは非処理の果実であった。
ブランク(処理していない果実)と比較した場合に、クレームに記載の肥料はカルシウムの果肉への供給において24%効果的であることが証明された。
【0048】
この第2の実験の結果を下記の表2に示す:
【表2】
【0049】
さらなる実験を行い、作物の病害虫からの保護における該肥料の有効性を実証した。
ナシの木を該新規な肥料でプシラに拮抗するように処理する比較試験を行った。プシラの占有率は、1Haの総作付面積よりサンプリングされた200本の吸枝を肉眼で検査することで計算された。これらの木は、プシラの疾病が45%であった非処理の樹木と比べて、プシラの疾病はわずかに5%であった。
【0050】
ナシの木を該新規な肥料でモモアカアブラムシ(green aphid)に拮抗するように処理するさらなる比較試験を行った。モモアカアブラムシの占有率は、1Haの総作付面積よりサンプリングされた200本の吸枝を肉眼で検査することで計算された。これらの樹木は、非処理の樹木が60%の割合で感染したのと比べて、感染していなかった。
本発明は、次の態様を含む。
1. 果実の生理障害および害虫に拮抗するのに適する固形カルシウム肥料であって、98.5重量%より多くの炭酸カルシウムを含むことを特徴とする、固形カルシウム肥料。
2. 農作物を害虫から保護するための項1に記載の肥料の使用。
3. 農作物がナシおよび/またはリンゴの作物である、項2に記載の肥料の使用。
4. 水性懸濁液に分散させた肥料を1重量%と12重量%との間で作物に塗布することを含む、項2または3に記載の肥料の使用。
5. 肥料の塗布が、7バールと10バールの間の圧力でマイクロ粉砕され、直径が80μm以下の微小滴の噴霧を生成することでなされる、項4に記載の肥料の使用。
6. 肥料が農業サイクル全体にわたって塗布される、項2~5のいずれか一項に記載の肥料の使用。
7. 塗布が:
a)1月に肥料の5%w/w水性懸濁液を50kg/Haの量で塗布することからなる、第1の処理;
b)4月末から5月初旬にかけて該肥料の6%w/w水性懸濁液を60kg/Haの量で該作物に塗布することからなる、第2の処理;
c)6月に該肥料の2%w/w水性懸濁液を該作物に20kg/Haの量で塗布し、7月に該肥料の1%w/w水性懸濁液を該作物に10kg/Haの量でさらに塗布することからなる、第3の処理;
d)10月から11月にかけて該肥料の1%w/w水性懸濁液を該作物に10kg/Haの量で塗布することからなる、第4の処理
を含む、項6に記載の肥料の使用。