(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】シリンダライナ及びシリンダボア
(51)【国際特許分類】
F02F 1/00 20060101AFI20230619BHJP
【FI】
F02F1/00 C
F02F1/00 K
(21)【出願番号】P 2021554476
(86)(22)【出願日】2019-11-06
(86)【国際出願番号】 JP2019043532
(87)【国際公開番号】W WO2021090410
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000215785
【氏名又は名称】TPR株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591206120
【氏名又は名称】TPR工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大平 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】梅田 直喜
(72)【発明者】
【氏名】田牧 清治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 喬
(72)【発明者】
【氏名】大泉 貴志
【審査官】二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-054045(JP,A)
【文献】特許第6533858(JP,B1)
【文献】特開2017-110804(JP,A)
【文献】特開2019-78267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00
F16J 10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に用いられる鋳鉄製シリンダライナであって、
前記シリンダライナのシリンダボアには、複数の溝部が形成されており、
前記シリンダボアは、ピストン摺動方向において、前記溝部の性状が異なる第1の摺動領域及び第2の摺動領域
のみから形成され、
前記第1の摺動領域は第2の摺動領域に対してより燃焼室側に位置しており、前記第1の摺動領域の溝面積率は、10%以下であり、且つ前記第2の摺動領域の溝面積率は、15%以上40%以下である、鋳鉄製シリンダライナ。
溝面積率:シリンダボア表面から深さ0.3μmの位置での溝部の面積の割合
【請求項2】
前記第1の摺動領域と第2の摺動領域とは連続した領域であって、その境界は、クランク角50°以上80°以下の範囲に存在する、請求項1に記載の鋳鉄製シリンダライナ。
【請求項3】
前記第2の摺動領域の溝面積率は、18%以上36%以下である、請求項1又は2に記載の鋳鉄製シリンダライナ。
【請求項4】
前記第2の摺動領域の表面粗さは、Raが0.13μm以上、0.45μm以下であり、Rkが0.36μm以上、0.82μm以下であり、Rvkが0.35μm以上、1.22μm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の鋳鉄製シリンダライナ。
【請求項5】
前記第1の摺動領域の表面粗さは、Raは0.08μm以上、0.11μm以下であり、Rkが0.20μm以上、0.27μm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の鋳鉄製シリンダライナ。
【請求項6】
前記内燃機関がディーゼル用内燃機関である、請求項1~5のいずれか1項に記載の鋳鉄製シリンダライナ。
【請求項7】
内燃機関のシリンダボアであって、
前記シリンダボアには、複数の溝部が形成されており、
前記シリンダボアは、ピストン摺動方向において、前記溝部の性状が異なる第1の摺動領域及び第2の摺動領域
のみから形成され、
前記第1の摺動領域は第2の摺動領域に対してより燃焼室側に位置しており、前記第1の摺動領域の溝面積率は、10%以下であり、且つ前記第2の摺動領域の溝面積率は、15%以上40%以下である、内燃機関のシリンダボア。
溝面積率:シリンダボア表面から深さ0.3μmの位置での溝部の面積の割合
【請求項8】
前記第1の摺動領域と第2の摺動領域とは連続した領域であって、その境界は、クランク角50°以上80°以下の範囲に存在する、請求項7に記載のシリンダボア。
【請求項9】
前記第2の摺動領域の溝面積率は、18%以上36%以下である、請求項7又は8に記載のシリンダボア。
【請求項10】
前記第2の摺動領域の表面粗さは、Raが0.13μm以上、0.45μm以下であり、Rkが0.36μm以上、0.82μm以下であり、Rvkが0.35μm以上、1.22μm以下である、請求項7~9のいずれか1項に記載のシリンダボア。
【請求項11】
前記第1の摺動領域の表面粗さは、Raは0.08μm以上、0.11μm以下であり、Rkが0.20μm以上、0.27μm以下である、請求項7~10のいずれか1項に記載のシリンダボア。
【請求項12】
前記内燃機関がディーゼル用内燃機関である、請求項7~11のいずれか1項に記載のシリンダボア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に用いられるシリンダライナ及びシリンダボアに関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダの内壁(シリンダボア)には、ピストンと摺動する際の摩擦を低減させるため、溝などの微細加工を施すことが行われている。
例えば特許文献1には、ストローク端における油切れが生じることがなく、しかもストローク中央部における摩擦損失を低減することができる低摩擦摺動部材を提供することを目的とし、摺動表面に形成された平滑面に深さが規則的に変化する微細な凹部を備え、凹部間にプラトー状の凸部が形成されている低摩擦摺動部材が提案されている。
【0003】
また、特許文献2には、摺動面に溝部を形成することで発生し得るスカッフを低減させるため、摺動面の表面粗さや溝部の深さを一定の範囲内とし、且つ溝部の開口縁を凸曲面としたシリンダブロックが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-235852号公報
【文献】特開2017-67271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記特許文献で提案された技術とは異なる技術により、摺動面のフリクションを低減させ、且つオイル消費を低減させることができる、シリンダライナ及びシリンダボアを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を進め、シリンダボアのピストン摺動方向において、燃焼室側領域とクランク室側領域で、摺動環境が異なっているという知見を得た。すなわち、シリンダボアのうち燃焼室側領域の摺動環境は潤滑オイルが少なく、境界潤滑が支配的となり、シリンダボアのうちクランク室側領域の摺動環境は潤滑オイルが比較的潤沢に存在し、流体潤滑が支配的となっていることを見出した。そして、当該知見に基づき、シリンダボアの各領域に応じてシリンダボアの表面性状を適切にすることで、摺動面のフリクションを低減させ、且つオイル消費を低減させることができることを見出し、発明を完成させた。
【0007】
本発明の一実施形態は、内燃機関に用いられる鋳鉄製シリンダライナであって、
前記シリンダライナのシリンダボアには、複数の溝部が形成されており、
前記シリンダボアは、ピストン摺動方向において、前記溝部の性状が異なる第1の摺動領域及び第2の摺動領域を有し、
前記第1の摺動領域は第2の摺動領域に対してより燃焼室側に位置しており、前記第1の摺動領域の溝面積率は、10%以下であり、且つ前記第2の摺動領域の溝面積率は、15%以上40%以下である、鋳鉄製シリンダライナである。
なお、上記溝面積率は、シリンダボア表面から深さ0.3μmの位置での溝部の面積の割合である。
【0008】
また、本発明の別の実施形態は、内燃機関のシリンダボアであって、
前記シリンダボアには、複数の溝部が形成されており、
前記シリンダボアは、ピストン摺動方向において、前記溝部の性状が異なる第1の摺動領域及び第2の摺動領域を有し、
前記第1の摺動領域は第2の摺動領域に対してより燃焼室側に位置しており、前記第1の摺動領域の溝面積率は、10%以下であり、且つ前記第2の摺動領域の溝面積率は、15%以上40%以下である、内燃機関のシリンダボア。
溝面積率:シリンダボア表面から深さ0.3μmの位置での溝部の面積の割合
【0009】
前記内燃機関がディーゼル用内燃機関であることが好ましく、また、前記第1の摺動領域と第2の摺動領域とは連続した領域であって、その境界は、クランク角50°以上80°以下の範囲に存在することが好ましい。
【0010】
前記第2の摺動領域の溝面積率は、18%以上36%以下である形態が好ましい。
【0011】
前記第2の摺動領域の表面粗さは、Raが0.13μm以上、0.45μm以下であり、Rkが0.36μm以上、0.82μm以下であり、Rvkが0.35μm以上、1.22μm以下であることが好ましく、前記第1の摺動領域の表面粗さは、Raは0.08μm以上、0.11μm以下であり、Rkが0.20μm以上、0.27μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、摺動面のフリクションを低減させ、且つオイル消費を低減させることができるシリンダライナ及びシリンダボアを提供できる。すなわち、低燃費と低オイル消費を両立させた内燃機関を達成し得る、シリンダライナ及びシリンダボアを提供できる。また、ディーゼル用内燃機関の場合にはオイルリングとして2ピースリングが用いられることが多く、この場合にはオイルリング摺動面が平らであるため、くさび効果よる摺動部の油膜厚さ増加に伴う流体潤滑領域でのフリクション低減は期待できない。そのため、本発明は、溝面積率を増加させることで流体潤滑領域での摺動面積の低減に伴うフリクション低減が期待できるため、ディーゼル用内燃機関に好適に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係るシリンダライナの断面模式図である。
【
図2】(a)、(b)共に、従来技術に係るシリンダボアに形成された溝の形状を模式的に示す断面図である。
【
図3】本実施形態に係るシリンダボアに形成された溝の形状を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態は、ディーゼル用内燃機関に好適に用いられる鋳鉄製シリンダライナであって、前記シリンダライナのシリンダボアには、複数の溝部が形成されている。そして、シリンダボアは、ピストン摺動方向において、前記溝部の性状が異なる第1の摺動領域及び第2の摺動領域を有している。また、本発明の別の実施形態は、シリンダボアであり得る。すなわちシリンダライナが存在しないシリンダボアであってよい。そのような場合であっても同様に、シリンダボアには複数の溝部が形成されている。そして、シリンダボアは、ピストン摺動方向において、前記溝部の性状が異なる第1の摺動領域及び第2の摺動領域を有している。シリンダライナを備えた実施形態について、
図1を用いて説明する。
【0015】
図1は、シリンダライナの断面図である。シリンダライナ10は、典型的には鋳鉄製のシリンダライナであるが、アルミニウム合金や銅合金により形成されてもよい。
シリンダライナ10は、内燃機関のシリンダブロックに設置されて、その内部をピストンが
図1中上下方向に摺動する。
図中鎖線4はオイルリングの上死点(TDC)を、鎖線5はオイルリングの下死点(BDC)を示し、シリンダボアは、上死点4を含む第1の摺動領域1と、下死点5を含む第2の摺動領域2を含む。第1の摺動領域1と第2の摺動領域2とは、境界3を介して連続した領域であり得る。
【0016】
本実施形態では、第2の摺動領域2の溝面積率が、第1の摺動領域1の溝面積率よりも高い。また、第1の摺動領域1の溝面積率が10%以下であり、第2の摺動領域2の溝面積率が、15%以上40%以下であり得る。溝面積率について、
図2及び3を用いて説明する。
【0017】
図2は、従来の実施形態において、シリンダボアに形成された溝の断面を示す模式図である。
図2(a)はシリンダボア表面溝の一形態を、また
図2(b)はシリンダボア表面溝の別の形態を示す。
図2(a)と(b)では、シリンダボア表面における表面溝面積率について、
図2(b)が大きくなるように溝が形成されている。そして、
図2(b)は溝面積率が大きいと同時に、溝深さ、すなわちRvkの値も大きくなっている。一般的な溝形成のプロセスにおいては、溝面積率を大きくする場合にはRvkの値も大きくなる。
【0018】
ここで、シリンダボアのうちクランク室側領域の摺動環境、すなわち第2の摺動領域2では、潤滑オイルが比較的潤沢に存在し、流体潤滑領域が支配的となっている。本発明者らは、流体潤滑領域が支配的となっている第2の摺動領域において、フリクションを低減させる方法を検討したところ、シリンダボア表面の最表面の溝面積率ではなく、シリンダボア表面から深さ0.3μmでの溝面積率を適度に大きくすることで、流体潤滑領域における油膜せん断面積が減少し、フリクションを低減できることに想到した。
【0019】
図3は、本実施形態におけるシリンダボアに形成された溝の断面を示す模式図である。本実施形態では、シリンダボア表面粗さとシリンダボア表面から深さ0.3μmの位置での溝の割合に着目し、それぞれの値を適切に制御することで、第2の摺動領域におけるフリクションを低減させ、結果オイル消費を低減させることができる。すなわち、シリンダボア表面から深さ0.3μmの位置での溝部の割合である溝面積率を、第2の摺動領域では第1の摺動領域より高くすることで、流体潤滑領域において油膜せん断面積が減少し、フリクションを低減できる。好ましい形態では、第1の摺動領域1ではRaは0.08μm以上、0.11μm以下であり、Rkが0.20μm以上、0.27μm以下であり、また第2の摺動領域ではRaが0.13μm以上、0.45μm以下であり、Rkが0.36μm以上、0.82μm以下であり、Rvkが0.35μm以上であり、1.22μm以下であることを満足する。
また、第1の摺動領域の溝面積率と、第2の摺動領域の溝面積率との差は、5%以上であってよく、10%以上であってよく、15%以上であってよい。また上限は40%以下であってよく、35%以下であってよい。
【0020】
また、第2の摺動領域において、シリンダボア表面から深さ0.3μmの位置での溝部の割合である溝面積率を15%以上とすることで、流体潤滑領域において油膜せん断面積が減少し、フリクションを低減できる。一方で、40%を超える場合には、LOC(Lubricating Oil Consumption)を抑制することが出来ない。
【0021】
なお、0.3μmよりも浅い位置の溝部の割合を大きくした場合であっても、油膜せん断面積の減少が不十分であり、フリクションの低減効果が得られにくい傾向にある。また、0.3μmの深さを測ることで、Rpk(初期摩耗高さ)によるノイズを打ち消すことができる。
第2の摺動領域の溝面積率は、15%以上であることが好ましく、18%以上であってよく、また40%以下であることが好ましく、36%以下であってよい。
【0022】
第1、及び第2の摺動領域の溝面積率は、シリンダボア表面から深さ0.3μmの位置での溝部の面積の割合であり、次のような手順で測定する。また基準となるシリンダボア表面を定義についても合わせて示す。
まず、Struers製RepliSet-F1もしくはF5を使用し、シリンダボア表面のレプリカ(2cm×2cm)を作成する。レプリカは、少なくともシリンダボアの対向する2か所を作成することが好ましい。作成したレプリカを、(株)キーエンス製形状解析レーザ顕微鏡(VK-X150)にて50倍の対物レンズを用いて観察する。その後、観察ソフト『VK Analyzer』にて観察データを傾き補正、反転(レプリカの凸部がシリンダボアの溝部にあたるため)する。反転したデータを『体積・面積解析』にて『高さのヒストグラム』を抽出し、その最頻度位置をしきい値として『シリンダボア表面』と定める。また、その表面から深さ0.3μm位置の溝面積の観察領域に占める割合を溝面積率とした。溝面積率はシリンダボア最表面(実体の最小内径位置)が望ましいが、データのばらつき(Rpk成分の影響)を考慮し、測定位置はシリンダボア表面から深さ0.3μmとした。なお、溝面積率は、シリンダボアの対向する2か所それぞれ10点の平均値とする。
【0023】
シリンダボア表面における第2の摺動領域のRaは、0.13μm以上であることが好ましく、0.15μm以上であってよく、また0.45μm以下であることが好ましく、0.38μm以下であってよい。Raが0.13μm以上、0.45μm以下であることで、LOC(Lubricating Oil Consumption)を抑制することができ、またスカッフの発生を抑制できる。
シリンダボア表面における第2の摺動領域のRkは、0.36μm以上であることが好ましく、0.37μm以上であってよく、また0.82μm以下であることが好ましく、0.73μm以下であってよい。Rkが0.36μm以上、0.82μm以下であることで、LOC(Lubricating Oil Consumption)を抑制することができ、またスカッフの発生を抑制できる。
【0024】
シリンダボア表面における第2の摺動領域のRvkは、0.35μm以上であることが好ましく、0.37μm以上であってよく、また1.22μm以下であることが好ましく、1.02μm以下であってよい。Rvkが0.35μm以上、1.22μm以下であることで、フリクションの悪化に起因するLOC(Lubricating Oil Consumption)を抑制することができる。
【0025】
シリンダボアは、ピストン摺動方向において、前記溝部の性状が異なる第1の摺動領域及び第2の摺動領域を有するが、第1の摺動領域及び第2の摺動領域が連続していることが好ましく、その場合、その境界は、オイルリングのクランク角50°以上80°以下の範囲に存在することが好ましい。境界が上記クランク角の範囲にあることで、シリンダボアの壁温が高く、オイルの蒸発によるオイル消費が多くなる第1の摺動領域にて溝面積率を低くすることになり、オイル消費低減の効果がより顕著となる。
なお、クランク角とは、ピストンの上死点を基準(0°)とした、エンジンの回転角度を意味する。
【0026】
本実施形態に係る第1の摺動領域は、第2の摺動領域が上記溝面積率を充足する限り特に限定されないが、溝面積率が10%以下であることが好ましい。第1の摺動領域は第2の摺動領域とは異なり、境界潤滑が支配的であり、溝面積率を小さくし、及び/又は表面粗さを小さくして、固体接触に起因する摩擦力を低減することが好ましい。
また、第1の摺動領域は第2の摺動領域とは異なり、燃焼室が近いためオイルが熱せられてLOCが悪化する傾向にあった。そのため、溝面積率を小さくし、及び/又は表面粗さを小さくして、シリンダボア表面からのオイル蒸発量を低減とすることが好ましい。
シリンダボア表面における第1の摺動領域のRaは、0.08μm以上であってよく、0.11μm以下であってよい。Raが0.08μm以上、0.11μm以下であることで、LOC(Lubricating Oil Consumption)を抑制することができる。
シリンダボア表面における第1の摺動領域のRkは、0.20μm以上であってよく、0.27μm以下であってよい。Rkが0.20μm以上、0.27μm以下であることで、LOC(Lubricating Oil Consumption)を抑制することができる。
【0027】
本実施形態に係るシリンダライナのシリンダボアは、第1の摺動領域と第2の摺動領域とでホーニング加工を変更し、ホーニング加工の回数や、ホーニング加工で用いる砥石の形状、種類、粒子径等を適宜調整することで、製造することができる。
ホーニング加工によりシリンダボアにクロスハッチが形成されてもよい。クロスハッチを形成する場合、その角度(鋭角)は2°以上が好ましく、5°以上であってよく、10°以上であってよい。また通常60°以下であり、45°以下であってよく、30°以下であってよく、15°以下であってよい。
【0028】
本実施形態におけるシリンダライナのシリンダボアの加工工程の一例を示す。
シリンダライナを鋳造後、ラフ(粗:Rough)ボーリング、ファイン(Fine)ボーリング、Iホーニング、IIホーニングの順にシリンダボア面寸法を完成寸法近傍まで加工する。その後、IIIホーニング・IVホーニングおよびVホーニングのホーニング加工工程により、所定の表面粗さを形成する。第1の摺動領域はIIIホーニングで加工し、第2の摺動領域はIVホーニングで加工する。IIIホーニングの砥石はIVホーニングの砥石よりも粒径が細かいものを使用する。
以上は、シリンダライナのシリンダボアが基材のままである場合を示し、リン酸塩被膜等の化成処理を施している場合、ホーニングの最終加工工程前に被膜を被覆する工程が追加され得る。
また、ホーニング機械の制御系の制約により、適宜、工程を追加してもよく、または、多様な制御が可能なホーニング機械を使用する場合は、加工工程を省略してもよい。
なお、シリンダライナを配置しないシリンダボアであっても、シリンダライナのシリンダボアと同様に、加工することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明について、実施例により詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
鋳鉄材を用いて、内径φ100クラスのシリンダライナを準備した。このシリンダライナのシリンダボアをホーニング加工することで、表1に示す溝面積率のシリンダライナを得た。その後、シリンダライナを実施試験のため、エンジン実機に搭載した。なお、シリンダボアにおける上部(燃焼室側)と下部(クランク室側)との境界は、オイルリングのクランク角65°とした。
【0030】
【0031】
上記実施例1~4及び比較例1~10のシリンダライナと、以下に示すピストンリングを装着したピストンを用いて、実機評価を行った。実機評価の運転条件、及び評価基準は以下のとおりとした。結果を表2に示す。
【0032】
<ピストンリング>
試験において用いたピストンリングのうち、トップリングは、幅(シリンダの軸方向寸法)が3.0mm、外周面はバレル形状、基材は、JIS SUS440B相当材を用い、外周面にアークイオンプレーティング法によるCrN被膜を施したものを用いた。トップリング張力のボア径比は、0.22(N/mm)である。
また、セカンドリングは、幅(シリンダ1の軸方向寸法)が3.0mm、外周面はテーパ形状、基材は、FC250相当材を用い、外周面に硬質Crめっきを施したものを用いた。セカンドリング張力のボア径比は、0.25(N/mm)である。
組合せオイルリングは、組合せ幅hが2.5mmであり、基材は、JIS SUS42
0J2相当材を用い、外周面に窒化を施したものを用いた。オイルリング張力のボア径比は、0.30(N/mm)である。
【0033】
<オイル消費量測定試験の方法について>
続いて、本実施の形態のシリンダライナを用いて行った、オイル消費量測定試験について説明する。オイル消費量測定試験においては、ボア径φ100mmクラスのエンジンを使用した。エンジンのならし運転後、負荷条件は全負荷の状態で、冷却水温は95℃、エンジンオイルの温度は105℃とし、エンジンオイルは10W-30(等級:JASO規格、粘度分類:SAE J300)を用いた。そして、エンジンの平均ピストン速度をVとし、Vが8.3m/sの条件でオイル消費量(LOC:Luburication Oil Consumption)を評価した。この平均ピストン速度は、エンジンの回転速度とストローク(行程)から求められる平均速度である。オイル消費量測定は、評価前後のオイル総重量差から算出する抜き出し法により測定した。
【0034】
<燃料消費試験の方法について>
続いて、本実施の形態のシリンダライナを用いて行った、燃料消費試験について説明する。オイル消費量測定試験においては、ボア径φ100mmクラスのエンジンを使用した。エンジンのならし運転後、負荷条件は全負荷の状態で、冷却水温は95℃、エンジンオイルの温度は105℃とし、エンジンオイルは10W-30(等級:JASO規格、粘度分類:SAE J300)を用いた。そして、エンジンの平均ピストン速度をVとし、Vが3.3~9.2m/sの区間領域で使用燃料、実トルクを測定し、燃料消費量を評価時の使用燃料と実トルクから算出した。この平均ピストン速度は、エンジンの回転速度とストローク(行程)から求められる平均速度である。
【0035】
<スカッフ試験の方法について>
続いて、本実施の形態のシリンダライナを用いて行った、スカッフ試験について説明する。スカッフ試験においては、ボア径φ100mmクラスのエンジンを使用した。エンジンのならし運転後、負荷条件は全負荷の状態で、冷却水温は120℃、エンジンオイルの温度は成り行きとし、エンジンオイルは10W-30(等級:JASO規格、粘度分類:SAE J300)を用いた。そして、エンジンの平均ピストン速度をVとし、Vが8.3m/sの条件で評価した。この平均ピストン速度は、エンジンの回転速度とストローク(行程)から求められる平均速度である。
【0036】
<評価基準>
・燃料消費試験
◎:ベース比より0.5%以上改善
〇:ベース比より0%より大きく0.5%未満改善
△:ベース比より0%~0.5%未満悪化
×:ベース比より0.5%以上悪化
・スカッフ試験(目視による確認)
〇:スカッフ発生なし
×:スカッフ発生
・オイル消費量試験
◎:ベース比より10%以上改善
〇:ベース比より0%より大きく10%未満改善
△:ベース比より0%~10%未満悪化
×:ベース比より10%以上悪化
なお、ベースは、第1摺動領域、第2摺動領域共に溝面積率18%程度のシリンダボアを使用。
【0037】
【0038】
次に、実施例2のシリンダライナを用い、オイルリングのクランク角を変化させて実機評価を行った。実機評価の運転条件、及び評価基準は上記と同様とした。結果を表3に示す。
【0039】
【0040】
次に、シリンダボアの溝面積率と、フリクションとの関係を確認するため、フリクション試験を行った。フリクション試験は、シリンダボアの表面粗さを変化させることなく溝面積率を変化させ、以下の手順により行った。結果を表4に示す。表4の結果から、溝面積率が15~50%であることで、600~1500rpmに回転数が変化したすべての場合において、フリクションを低減できることが理解できる。
【0041】
<フリクション試験>
フリクション試験は単気筒浮動ライナ試験(1サイクル中のピストン、ピストンリングのフリクション変化をとらえる試験)にて大気開放モータリング評価にて実施した。フリクション測定試験においては、ボア径83mmでストローク86mmのクランク式単気筒モータリング試験機(浮動ライナ方式)を使用した。
試験条件は冷却水温が80℃、エンジンオイルの温度が80℃とし、エンジンオイルが10W-30(等級:JASO規格、粘度分類:SAE J300)を用い、評価回転数は600rpmから2000rpmの間で評価した。
【0042】
【符号の説明】
【0043】
10 シリンダライナ
1 第1の摺動領域
2 第2の摺動領域
3 境界
4 上死点
5 下死点