(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】電子式にスリップコントロール可能な非人力ブレーキ設備を制御する方法、および非人力ブレーキ設備
(51)【国際特許分類】
B60T 17/18 20060101AFI20230619BHJP
B60T 13/20 20060101ALI20230619BHJP
B60T 13/68 20060101ALI20230619BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20230619BHJP
B60T 8/94 20060101ALI20230619BHJP
B60T 8/96 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
B60T17/18
B60T13/20
B60T13/68
B60T7/12 D
B60T8/94
B60T8/96
(21)【出願番号】P 2021563273
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(86)【国際出願番号】 EP2020057473
(87)【国際公開番号】W WO2020224845
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2021-10-25
(31)【優先権主張番号】102019206707.7
(32)【優先日】2019-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】マルカルト マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ズュルツレ ヘルムート
(72)【発明者】
【氏名】レルマン パトリック
【審査官】前原 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-073735(JP,A)
【文献】特開2011-189905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12 - 8/1769
8/32 - 8/96
B60T 15/00 - 17/22
B60T 13/00 - 13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイロット走行式の自動車のための電子式にスリップコントロール可能な非人力ブレーキ設備(10)を制御する方法であって、
前記非人力ブレーキ設備(10)は、
第1のアクチュエータユニット(12a)の第1の電子制御装置(16a)に供給をするための第1の電圧供給部(14a)を有し、
前記第1のアクチュエータユニット(12a)は、ブレーキ要求の検出のために運転者により操作可能なブレーキ要求検出デバイス(42~46)と、
検出されたブレーキ要求に依存して前記非人力ブレーキ設備(10)のブレーキ回路(20)でブレーキ圧力を生成するために電気式に作動可能なモータ(24)
を含み、前記モータ(24)により駆動される第1の圧力生成ユニット(22a
)と、を装備し、
第2のアクチュエータユニット(12b)の独立した第2の電子制御装置(16b)に供給をするための、前記第1の電圧供給部(14a)に対して独立した第2の電圧供給部(14b)を有し、
前記第2のアクチュエータユニット(12b)は電気式に作動可能な第2のモータ(24b)により駆動可能な第2の圧力生成ユニット(22b)を有し、
少なくとも前記第1のアクチュエータユニット(12a)の前記電圧供給部を監視するための監視デバイス(70)を有している、
非人力ブレーキ設備を制御する方法において、
故障に先立つ前記第1のアクチュエータユニット(12a)の前記電圧供給部の機能制約が前記監視デバイス(70)によって確認されたときに、前記ブレーキ回路(20)で必要に応じて要求されるブレーキ圧力が前記第2のアクチュエータユニット(12b)の前記第2の圧力生成ユニット(22b)によって調整され
、
前記第2のアクチュエータユニット(12b)へのブレーキ圧力生成の移行をもって、前記第1のアクチュエータユニット(12a)が前記圧力生成ユニット(22a)を例外として引き続き機能性を有するように前記第1のアクチュエータユニット(12a)の所要電力が低減される、
ことを特徴とする、非人力ブレーキ設備を制御する方法。
【請求項2】
前記ブレーキ回路(20)でのブレーキ圧力を調整するために前記第2の圧力生成ユニット(22b)の前記モータ(24b)が電気式に作動することをもって、前記第1の圧力生成ユニット(22a)の圧力発生器を駆動する前記モータ(24a)の電気式の作動が停止される、
ことを特徴とする、請求項1に記載の非人力ブレーキ設備を制御する方法。
【請求項3】
前記第2の圧力生成ユニット(22b)の前記モータ(24b)に対する作動信号が付属の前記電子制御装置(16b)によって判定される
ときに、前記第1のアクチュエータユニット(12a)の前記ブレーキ要求検出デバイス(42~46)の信号が考慮される、
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の非人力ブレーキ設備を制御する方法。
【請求項4】
ブレーキ要求を表す信号を生成して前記第2の圧力生成ユニット(22b)に送るために前記第1のアクチュエータユニット(12a)の各デバイスが利用され、
前記第1のアクチュエータユニット(12a)の圧媒吸入弁(32)および圧媒吐出弁(34)を用いてホイールスリップコントロール機能および/または走行安定性コントロール機能が引き続き必要時に実行される、
ことを特徴とする、請求項1から
3までのいずれか1項に記載の非人力ブレーキ設備を制御する方法。
【請求項5】
パイロット走行式の自動車のための電子式にスリップコントロール可能な非人力ブレーキ設備(10)を制御する方法であって、
前記非人力ブレーキ設備(10)は、
第1のアクチュエータユニット(12a)の第1の電子制御装置(16a)に供給をするための第1の電圧供給部(14a)を有し、
前記第1のアクチュエータユニット(12a)は、ブレーキ要求の検出のために運転者により操作可能なブレーキ要求検出デバイス(42~46)と、
検出されたブレーキ要求に依存して前記非人力ブレーキ設備(10)のブレーキ回路(20)でブレーキ圧力を生成するために電気式に作動可能なモータ(24)を含み、前記モータ(24)により駆動される第1の圧力生成ユニット(22a)と、を装備し、
第2のアクチュエータユニット(12b)の独立した第2の電子制御装置(16b)に供給をするための、前記第1の電圧供給部(14a)に対して独立した第2の電圧供給部(14b)を有し、
前記第2のアクチュエータユニット(12b)は電気式に作動可能な第2のモータ(24b)により駆動可能な第2の圧力生成ユニット(22b)を有し、
少なくとも前記第1のアクチュエータユニット(12a)の前記電圧供給部を監視するための監視デバイス(70)を有している、
非人力ブレーキ設備を制御する方法において、
故障に先立つ前記第1のアクチュエータユニット(12a)の前記電圧供給部の機能制約が前記監視デバイス(70)によって確認されたときに、前記ブレーキ回路(20)で必要に応じて要求されるブレーキ圧力が前記第2のアクチュエータユニット(12b)の前記第2の圧力生成ユニット(22b)によって調整され、
ブレーキ要求を表す信号を生成して前記第2の圧力生成ユニット(22b)に送るために前記第1のアクチュエータユニット(12a)の各デバイスが利用され、
前記第1のアクチュエータユニット(12a)の圧媒吸入弁(32)および圧媒吐出弁(34)を用いてホイールスリップコントロール機能および/または走行安定性コントロール機能が引き続き必要時に実行される、
ことを特徴とする、非人力ブレーキ設備を制御する方法。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法に基づいて制御される電子式にスリップコントロール可能な非人力ブレーキ設備を有する、パイロット走行式の自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提項の構成要件に基づく、特にパイロット走行式の自動車のための電子式にスリップコントロール可能な非人力ブレーキ設備を制御する方法に関し、および、請求項6に記載のパイロット走行式の自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
電子式にスリップコントロール可能な自動車の非人力ブレーキ設備は、特に、少なくともこのような設備の通常動作条件のもとでは、運転者の筋力によってブレーキ圧力が生成されるのでないという特徴がある。非人力ブレーキ設備では、運転者はブレーキ要求を設定するためにブレーキ要求検出デバイスを操作するだけであり、そこから当該操作に対応する信号がアクチュエータユニットの電子制御装置に転送される。この電子制御装置が到来した信号を作動信号へと変換し、この作動信号によってアクチュエータユニットの圧力発生器のモータが作動する。これを受けてアクチュエータユニットがブレーキ設備の少なくとも1つのブレーキ回路で、操作に対応するブレーキ圧力を非人力により生成する。
【0003】
パイロット走行式の車両で非人力ブレーキ設備を採用するために、このような種類の非人力ブレーキ設備は安全工学上の理由から、電子式に作動可能な第2のアクチュエータユニットを装備している。これは、第1のアクチュエータユニットの圧力生成ユニットに対して冗長的な第2の圧力生成ユニットを有している。第2の圧力生成ユニットは、従来、第1のアクチュエータユニットの故障が生じたときにブレーキ圧力の生成のために利用される。これらのアクチュエータユニットはそれぞれの機能の保全のために互いに独立した電子制御装置によって制御され、それに加えて独立した電圧供給部に付属している。
【0004】
第1のアクチュエータユニットの故障はさまざまな原因に帰することができ、たとえば第1のアクチュエータユニットの圧力変調デバイスの弁における電気的もしくは機械的な不具合、および/または不足する電圧供給に帰することができ、そのために付属の電子制御装置が、所望のブレーキ圧力の生成に必要なモータの所要電力を印加することができなくなる。
【0005】
第1のアクチュエータユニットが故障した場合、第2のアクチュエータユニットによって引き続き高い信頼度で車両を減速させることができるものの、ブレーキプロセスの進行中に故障が発生したとき、ブレーキ圧力を生成するアクチュエータユニットのこのような交代が、非人力ブレーキ設備の変化したブレーキ挙動によって運転者に知覚可能となる。その理由は、第1のアクチュエータユニットに付属するブレーキ要求検出デバイスが、障害のある第1のアクチュエータユニットに基づいて利用できなくなり、したがって、第2のアクチュエータユニットのセンサ信号から間接的に、生じているブレーキ要求を導き出すことしかできなくなることにある。しかも、第1のアクチュエータユニットが故障すると、第1のアクチュエータユニットの圧力変調デバイスの弁をホイール個別的なブレーキ圧力コントロールのために利用できなくなり、そのため、非人力ブレーキ設備の通常のスリップコントロール機能または走行安定性コントロール機能を制約のもとでしか利用可能でなくなる。
【0006】
このように、不十分なエネルギー供給のもとで差し迫っている第1のアクチュエータユニットの故障に早期に対処し、非人力ブレーキ設備のこのような種類の機能変化や挙動変化に対応するとともに、必要な対抗措置を開始する必要性がある。この関連において、運転者に警告メッセージを発することが考えられる。
【0007】
特許文献1または特許文献2には、第1のアクチュエータユニットの目前に迫った故障を早期に認識する方法および装置が開示されている。
【0008】
本発明の基礎となる、2つのアクチュエータユニットを有する電子式にスリップコントロール可能な非人力ブレーキ設備の液圧回路図が、たとえば先出願である特許文献3から公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】ドイツ特許出願公開第102010056006A1号明細書
【文献】ドイツ特許出願公開第102015221725A1号明細書
【文献】ドイツ特許出願公開第102018202287A1号明細書
【発明の概要】
【0010】
請求項1の構成要件に基づく本発明は、第1のアクチュエータユニットの潜在的な故障の前段階ですでに、この第1のアクチュエータユニットへの高い所要電力を伴うことになる非人力ブレーキ設備の機能が第2のアクチュエータユニットへと移転されることを提案する。
【0011】
すなわち、高い電気出力を必要とするブレーキ圧力生成が第2のアクチュエータユニットの圧力発生器によって行われ、それに伴い、第1のアクチュエータユニットの電圧供給部の電気的負荷が軽減される。
【0012】
このことは、第1のアクチュエータユニットでの考えられる電圧ディップのリスクの最小化という形で作用し、したがって、第1のアクチュエータユニットの電子制御装置の初期状態への差し迫ったリセットを防止する。第1のアクチュエータユニットのブレーキ要求検出デバイスは、そのセンサ機構やたとえば圧力変調ユニットなどのアクチュエータ機構の少ない所要電力に基づいて引き続き機能性を保ち、それにより、ブレーキ要求が依然として直接的に検出されて、第2のアクチュエータユニットの制御装置によってもブレーキ圧力生成のための入力量として利用することができる。それにより、第1のアクチュエータユニットの障害発生時でさえ、非人力ブレーキ設備のブレーキ挙動が運転者にとってわずかしか変化しない。
【0013】
これに加えて、非人力ブレーキ設備のスリップコントロール機能を引き続き利用することができる。そのために必要な第1のアクチュエータユニットの圧力変調デバイスの弁が、同じく低い電気出力の所要量に基づき、生じている機能障害にもかかわらずなおも十分に電力供給を受けるからである。
【0014】
本発明によると、ブレーキプロセスの進行時に故障に先立つ第1のアクチュエータユニットの電圧供給部の機能制約が相応の監視デバイスによって確認されたとき、すでに第1のアクチュエータユニットのモータの作動が取り消され、その代わりに第2のアクチュエータユニットの圧力生成ユニットのモータが、ブレーキ回路でのブレーキ圧力調整とブレーキ圧力制御のために作動する。
【0015】
本発明のその他の利点や好ましい発展例は、従属請求項および/または以下の説明から明らかとなる。
【0016】
第2のアクチュエータユニットのモータユニットへの作動信号の判定にあたって、第1のアクチュエータユニットのブレーキ要求検出デバイスの信号が基礎とされるのが好ましい。
【0017】
第1のアクチュエータユニットの電圧供給部を監視するためのデバイスは、第1または第2のアクチュエータユニットの電子制御装置に組み込むことができ、または、別個のモジュールとしてアクチュエータユニットの電圧供給部に接続することができる。
【0018】
本発明の実施例について、図面を参照しながら以下の記述において詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】特にパイロット走行式の自動車のために意図される、ここでの関連において本発明の基礎となる従来技術から周知の電子式にスリップコントロール可能な非人力ブレーキを示す液圧回路図である。
【
図2】この非人力ブレーキ設備を制御する方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示す電子式にスリップコントロール可能な非人力ブレーキ設備10は、互いに液圧配管された2つのアクチュエータユニット12a;12bで構成されている。両方のアクチュエータユニット12a;12bは、それぞれ他方のアクチュエータユニットに対して独立した独自の電圧供給部14a;14bと、独自の電子制御装置16a;16bと、を含む。
【0021】
第1のアクチュエータユニット12aは、これに接続された全部で4つのホイールブレーキ18に圧媒をブレーキ圧力のもとで供給する。そのためにそれぞれ2つのホイールブレーキ18が、全部で2つのブレーキ回路20a;20bにまとめられている。これらのブレーキ回路20のブレーキ圧力は、非人力ブレーキ設備10の通常動作条件のもとでは、第1のアクチュエータユニット12aの圧力生成ユニット22aによって生成される。この圧力生成ユニット22aは、プランジャシリンダ26およびその中でスライド可能に収容されたプランジャピストン28を有するプランジャユニットを操作するための電子式に作動可能なモータ24aを含んでいる。プランジャピストンはモータ24aにより、これらの間に介在するギヤを介して並進運動をするように駆動され、その際に圧媒をプランジャユニットのプランジャ作業室30から両方の接続されたブレーキ回路20a;20bの中に押し除ける。これを受けてブレーキ回路20a;20bでブレーキ圧力が生成され、その大きさは、その中へと押し除けられる圧媒容積の量に依存し、それに伴って最終的に、プランジャピストン28の進んだ操作ストロークに依存する。
【0022】
自動車のそれぞれのホイールでのスリップ状況に合わせてこのブレーキ圧力をホイール個別的に適合化するために、第1のアクチュエータユニット12aは圧力変調デバイスをさらに有している。これは存在するホイールブレーキ18ごとに、それぞれ1つの圧媒吸入弁32と圧媒吐出弁34とで構成される。これらの弁は電子式に操作可能であり、圧媒吸入弁32の場合には導通位置から遮断位置へ移行させることができ、または圧媒吐出弁34の場合には遮断位置から導通位置へ移行させることができる。圧媒吐出弁34は切換弁であり、それに対して圧媒吸入弁32は、改善されたブレーキ圧力制御のために比例弁として製作されている。
【0023】
圧力変調デバイス32,34とプランジャユニット26,28,30との間に、各々のブレーキ回路20a;20bはいわゆるプランジャ制御弁36を装備している。このプランジャ制御弁36を用いて、このプランジャユニット26,28,30とブレーキ回路20a;20bとの間の圧媒接続を制御可能である。それぞれの弁を非通電の状態で示す、図示している基本位置とは逆に、プランジャ制御弁36は非人力ブレーキ設備10の通常動作状態では通電され、それに伴って開かれる。プランジャピストン28が外側の方向転換点に達し、プランジャピストン28の運動方向の反転によってプランジャ作業室30が、圧媒の備蓄容器38へと直接通じる圧媒接続部を介して新しい圧媒で充填されると、必要に応じてプランジャ制御弁が時間を限定して閉じられる。
【0024】
さらに、各々のブレーキ回路20a;20bは回路分離弁40を装備している。これらの回路分離弁40はプランジャ制御弁36と並列につながれていて、第1のアクチュエータユニット12aが第2のアクチュエータユニット12bと接触するときに介在する2つの圧媒接続部を制御する。回路分離弁40は、通常動作条件のもとで電子式の作動により遮断位置へと切り換えられる常時開の切換弁として製作される。
【0025】
これに加えて第1のアクチュエータユニット12aは、ブレーキ要求検出デバイスをさらに有している。これは、一例としてブレーキペダル44の形態で製作されている操作部材によって操作可能なマスタブレーキシリンダ42で構成される。ブレーキペダル44の操作ストロークがストロークセンサ46で検出されて、第1のアクチュエータユニット12aに付属する第1の制御装置16aに供給される。この制御装置16aがストローク信号から、第1のアクチュエータユニット12aの圧力生成ユニット22aのモータ24aに対する作動信号を判定する。
【0026】
マスタブレーキシリンダ42は、それぞれ付属のマスタブレーキシリンダピストン50a;50bによって区切られた2つのシリンダ室48a;48bを有している。ブレーキペダル44の操作に伴い、マスタブレーキシリンダピストン50のうち少なくとも一方が付属のシリンダ室48の容積が縮小する方向に動く。両方のシリンダ室48は、液圧式の圧媒のための備蓄容器38に接続されている。圧媒を通す2つの通路が、マスタブレーキシリンダ42のシリンダ室48からさらに第2のアクチュエータユニット12bへと通じており、そこで第2の圧力生成ユニット22bの圧力側と接触している。
【0027】
最後に第1のアクチュエータユニット12aは、ペダルストロークシミュレータ52をさらに含んでいる。これは、弾性的な復帰部材の力に抗してシミュレータシリンダの中でスライド可能なシミュレータピストンからなるデバイスである。シミュレータピストンとシミュレータシリンダにより包囲されるシミュレータ室が、作動可能なシミュレータ制御弁54を介して、ブレーキペダル44のほうを向いているマスタブレーキシリンダ42の第1のシリンダ室48aと圧媒導通式に接続されている。非人力ブレーキ設備10の通常動作条件のもとでシミュレータ制御弁54が開いているとき、シミュレータ室は、操作されたマスタブレーキシリンダ42のこの第1のシリンダ室48aから押し除けられる圧媒を収容する。このようにシミュレータ室は、圧媒が第1のアクチュエータユニット12aから第2のアクチュエータユニット12bへと移送されることなしに、ブレーキペダル44の操作ストロークを可能にする。
【0028】
第2のアクチュエータユニット12bも、互いに分離された2つの第2の圧媒回路58a;58bに同じく分割されている。これらの圧媒回路58a;58bはほぼ同一に構成されており、第1のアクチュエータユニット12aの圧力生成ユニット22aに対して冗長的な第2の圧力生成ユニット22bによりブレーキ圧力を印加することができる。そのために第2の圧力生成ユニット22bは、作動可能な第2のモータ24bにより一緒に駆動可能である全部で2つのポンプ部材56で構成される。各々のポンプ部材56の吸込側が、圧媒の備蓄容器38と直接的に接触している。圧力側では、第2のアクチュエータユニット12bの各々のポンプ部材56は、それぞれの回路分離弁40の上流側で、第1のアクチュエータユニット12aの両方のブレーキ回路20a;20bのうちの一方と接触している。第2のアクチュエータユニット12bの各々の圧媒回路58a;58bは、作動可能な切換弁60をさらに有している。この切換弁60は必要時に、第2のアクチュエータユニット12bのポンプ部材56の圧力側と第1のアクチュエータユニット12aの回路分離弁40との間で、または、第2のアクチュエータユニット12bのポンプ部材56の圧力側とマスタブレーキシリンダ42のシリンダ室48との間で、液圧接続を成立させる。切換弁60が遮断位置から導通位置へと移行することで圧媒回路58a,58bのブレーキ圧力をコントロール可能であり、それに伴い、第2のアクチュエータユニット12bの圧力生成ユニット22bがホイールブレーキ18に印加する圧力をコントロール可能である。この切換弁60は常時開の切換弁であり、逆止め弁62により制御されるバイパス64がこれと並列につながれる。逆止め弁62は、切換弁60が閉じているときに圧媒がポンプ部材56の圧力側からマスタブレーキシリンダ42に向かって流出するのを防止し、それと同時に、第2のアクチュエータユニット12bがアクティブになったとき、運転者がマスタブレーキシリンダ42の操作によってホイールブレーキ18にブレーキ圧力を印加できることを可能にする。
【0029】
マスタブレーキシリンダ42と第2のアクチュエータユニット12bの圧媒接続部にある圧力センサ66が、運転者により設定されるブレーキ圧力を測定する。この測定値は従来、第1のアクチュエータユニット12aが故障したときに生じているブレーキ要求を表すものであり、このブレーキ要求が第2のアクチュエータユニット12bの電子制御装置16bにより、第2のアクチュエータユニット12bのポンプ部材56のモータ24bに対する作動信号を判定するための入力量として利用されている。
【0030】
非人力ブレーキ設備10の障害のない動作時には、運転者が自らのブレーキ要求に応じてブレーキペダル44を操作する。その際に圧媒は、ペダルストロークシミュレータ52に接続されたマスタブレーキシリンダ室48から、開いているシミュレータ制御弁54のもとでシミュレータ室の中へと押し除けられて、ブレーキペダル44がそれに応じたペダルストロークを進む。このペダルストロークが第1のアクチュエータユニット12aのブレーキ要求検出デバイスのストロークセンサ46により検出されて、この第1のアクチュエータユニット12aの電子制御装置16aに入力量として供給される。制御装置16aは、検出されたペダルストロークから、第1の圧力生成ユニット22aのモータ24aに対する作動信号を判定し、したがってこの圧力生成ユニットがブレーキ回路20aで、このペダルストロークに比例するブレーキ圧力を生成する。場合により、このブレーキ圧力が変調デバイスの圧媒吸入弁32および圧媒吐出弁34によりホイール個別的に、それぞれ付属のホイールで生じているスリップ状況に合わせて適合化される。
【0031】
第2のアクチュエータユニット12bはこのような通常ブレーキ動作中にはパッシブであり、それに応じて、説明したブレーキ圧力生成またはブレーキ圧力制御には関与しない。このとき第1のアクチュエータユニット12aの回路分離弁40は遮断位置をとり、それに伴い、第2のアクチュエータユニット12bを第1のアクチュエータユニット12aから液圧的に切り離す。
【0032】
従来技術では、第1のアクチュエータユニット12aが故障したときにその各弁は、図面に示すような基本位置をとる。この基本位置にあるとき、プランジャ制御弁36、シミュレータ制御弁54、および圧媒吐出弁34は閉じており、それに対して回路分離弁40と圧媒吸入弁32は開いている。
【0033】
第2のアクチュエータユニット12bは、その分離された電圧供給部14bに基づき、およびその分離された電子制御装置16bに基づき、第1のアクチュエータユニット12aの故障にもかかわらず全面的に機能性を有する。
【0034】
このように、第2のアクチュエータユニット12bの切換弁60が電子式に作動することは、マスタブレーキシリンダ42とポンプ部材56の圧力側との接続が遮断されることにつながり、それに対して、第1のアクチュエータユニット12aのブレーキ回路20とポンプ部材56の圧力側との接続が開いた回路分離弁40を介して成立する。
【0035】
それに応じて、付属のモータ24bの電気式の作動により第2のアクチュエータユニット12bのポンプ部材56が操作されることをもって、ホイールブレーキ18への印加のために必要なブレーキ圧力が生成される。ブレーキ要求は、このような従来型の方式のケースでは、第2のアクチュエータユニット12bの圧力センサ66の信号から導き出される。そのために圧力センサ信号が第2のアクチュエータユニット12bの電子制御装置16bにより作動信号へと変換され、これによってモータ24bが作動する。ポンプ部材56により生成されるブレーキ圧力が、開いた回路分離弁40と、同じく開いた第1のアクチュエータユニット12aの圧媒吸入弁32とを介して、接続されているホイールブレーキ18に到達する。
【0036】
冒頭で述べたとおり、第2のアクチュエータユニット12bの圧力センサ66の信号を参照してブレーキ要求を検出することは、完全に満足のいくものではない。ブレーキ要求の間接的な検出によって、非人力ブレーキ設備10のブレーキ挙動が運転者に知覚可能なように変化するからである。
【0037】
本発明はこのような欠点に対処するものであり、それは、ブレーキプロセスの進行中に第1のアクチュエータユニット12aによるブレーキ圧力生成を、第1のアクチュエータユニット12aがすでに故障しているときに初めて第2のアクチュエータユニット12bへ移行させるのでなく、第1のアクチュエータユニット12aの予想される故障の前段階ですでに、すなわち従来技術で知られている方法によって第1のアクチュエータユニット12aの電圧供給部での機能制約または非妥当性が確認されたときに、移行させることを提案することによる。そのような機能制約または非妥当性は故障に先立って起こることがあり、第1のアクチュエータユニット12aの電圧供給部14aを監視するデバイス70によって早期に認識することができる。そのために、このような監視デバイス70が第1のアクチュエータユニット12aの制御装置16aに組み込まれていてよく、第2のアクチュエータユニット12bの制御装置16bに組み込まれていてもよい。
【0038】
第2のアクチュエータユニット12bの冗長的な圧力生成ユニット22bへと圧力生成機能を早期に移行させることで、第1のアクチュエータユニット12aの電圧供給部の電気的負荷が少なくなり、電圧ディップの危険性が低減される。したがって第1のアクチュエータユニット12aは、圧力生成機能を例外として、引き続き用途に即して機能する。それに応じて機能性のあるブレーキ要求検出デバイス42~46により、ブレーキ要求を直接的に表す入力量を利用することができ、これを第2のアクチュエータユニット12bの電子制御装置16bにより、ポンプ部材56を駆動するためのモータ24bに対する作動信号を決定するための入力量として適用することができる。それにより、第2のアクチュエータユニット12bにより生成されるブレーキ圧力が運転者の既存のブレーキ要求に引き続き非常に良く相関し、ブレーキプロセスの進行中における非人力ブレーキ設備10のブレーキ挙動の変化が運転者にはほとんど知覚できなくなる。これに加えて、同じく引き続き機能性のある第1のアクチュエータユニット12aの圧力変調デバイスの圧媒吸入弁32と圧媒吐出弁34が、車両の走行安定性のコントロール可能性を引き続き可能にする。
【0039】
パイロット走行式の自動車の非人力ブレーキ設備10を制御する上に説明した方法が、
図2のフローチャートを用いて再度明示されている。
【0040】
この方法の第1のステップ80で、第1のアクチュエータユニット12aの電圧供給部が監視デバイス70を用いてチェックされる。
【0041】
この第1のアクチュエータユニット12aの潜在的な故障に先行する可能性がある、第1のアクチュエータユニット12aの電圧供給部の機能における機能制約または非妥当性をこの監視デバイス70が確認すると、付属の第1の電子制御装置16aによる第1のアクチュエータユニット12aのモータ24aの電気的な作動が妨げられる(符号82)。
【0042】
これと並行して符号84で、回路分離弁40および圧媒吸入弁32の既存の電子式の作動が取り消されて、第2のアクチュエータユニット12bの電子制御装置16bに通信信号90が発せられる。
【0043】
これを受けて第2のアクチュエータユニット12bの電子制御装置16bが切換弁60を遮断位置へと移し、ブレーキ回路20でのブレーキ圧力の生成のために第2のアクチュエータユニット12bの圧力生成ユニット22bのモータ24bを作動させる(符号86)。モータ24bに対する作動信号を決定するために、電子制御装置16bは第1のアクチュエータユニット12aのブレーキ要求検出デバイスの信号92を援用する。
【0044】
すなわちその結果として、ブレーキプロセスのときにブレーキ回路20で生じるブレーキ圧力が第2のアクチュエータユニット12bによって生成され、運転者は、理想的な場合には、非人力ブレーキ設備の変化したブレーキ挙動を知覚することがない。最後に、電子制御装置16のうちの1つによって音響式および/または光学式の警告信号または情報信号94を運転者に発することができ、これによって運転者はたとえば機能制約の示唆を受け、専門工場で非人力ブレーキ設備の点検を受けるよう要請される。さらに、車両のパイロット走行式の走行動作のアクティブ化が停止され、または、既存のパイロット走行動作が中断される。
【0045】
請求項1の構成要件に基づく本発明の基本思想から逸脱することなく、上述した方法の改変または補足が可能であるのは自明である。
【符号の説明】
【0046】
10 非人力ブレーキ設備
12a 第1のアクチュエータユニット
12b 第2のアクチュエータユニット
14a 第1の電圧供給部
14b 第2の電圧供給部
16a 第1の電子制御装置
16b 第2の電子制御装置
20 ブレーキ回路
22a 第1の圧力生成ユニット
22b 第2の圧力生成ユニット
24a モータ
24b モータ
32 圧媒吸入弁
34 圧媒吐出弁
42~46 ブレーキ要求検出デバイス
70 監視デバイス