(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】フラッフパルプ用パルプシート
(51)【国際特許分類】
D04H 1/26 20120101AFI20230619BHJP
D21H 15/02 20060101ALI20230619BHJP
D21H 11/04 20060101ALI20230619BHJP
A61F 13/53 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
D04H1/26
D21H15/02
D21H11/04
A61F13/53 300
(21)【出願番号】P 2022054608
(22)【出願日】2022-03-29
【審査請求日】2022-11-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】森下 徹
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-049696(JP,A)
【文献】特開2008-125605(JP,A)
【文献】特表2019-534391(JP,A)
【文献】特開平08-308873(JP,A)
【文献】特開平08-269869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F13/15-13/84
A61L15/16-15/64
D04H1/00-18/04
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
広葉樹
晒クラフトパルプ、針葉樹
晒クラフトパルプを含有し、
全パルプ繊維について繊維長0.02mm間隔で含有率を集計したときに、繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維の占める割合が42.6%以上であり、上記繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維における上記繊維長0.02mm間隔ごとの含有率の平均値が1.00%以上1.70%以下であり、
上記繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維における上記繊維長0.02mm間隔ごとの含有率の標準偏差σが
0.41%以上0.58%以下であり、
全パルプ繊維について繊維幅1μm間隔で含有率を集計したときに、繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維の占める割合が90.6%以上であり、上記繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維における上記繊維幅1μm間隔ごとの含有率の平均値が3.1%以上3.9%以下であり、
上記繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維における上記繊維幅1μm間隔ごとの含有率の標準偏差σが
2.5%以上2.90%以下であるフラッフパルプ用パルプシート。
【請求項2】
上記針葉樹
晒クラフトパルプに対する上記広葉樹
晒クラフトパルプの質量比が25/75以上38/62以下である請求項1に記載のフラッフパルプ用パルプシート。
【請求項3】
上記広葉樹晒クラフトパルプの原料木材におけるアカシア材の含有量が5質量%以上95質量%以下である請求項1又は請求項2に記載のフラッフパルプ用パルプシート。
【請求項4】
密度が0.50g/cm
3以上0.65g/cm
3以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載のフラッフパルプ用パルプシート。
【請求項5】
比破裂強度が1.0kPa・m
2/g以上1.7kPa・m
2/g以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のフラッフパルプ用パルプシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラッフパルプ用パルプシートに関する。
【背景技術】
【0002】
フラッフパルプは、木材パルプを機械的処理により解繊して製造されるものであり、使い捨て紙おむつ等の吸収性物品の吸収性部材として用いられている。
【0003】
このような吸収性物品に用いられるフラッフパルプ用のパルプとしては、嵩高性、水分吸収性及び解繊性が良好な針葉樹由来の木材パルプが広く用いられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、広葉樹由来の木材パルプは針葉樹由来のパルプに比べて比較的安価であるが、フラッフパルプに広葉樹由来の木材パルプを使用した場合、繊維長が短いため吸収性物品の空隙が減少し、吸水量及び吸水速度が低下しやすいおそれがある。また、広葉樹由来の木材パルプは針葉樹由来のパルプに比べて、繊維長が短く繊維の密度が大きくなるため、解繊性、吸収体の形成しやすさ等の作業性が良好でなく、生産性が低下しやすい傾向がある。特に、広葉樹由来の木材パルプの中でも、アカシアはユーカリに比べて繊維長が短いため、作業性が大きく低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、広葉樹由来の木材パルプを含有させても、吸収性能が高く、フラッフパルプの製造時における作業性が良好であるフラッフパルプ用パルプシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るフラッフパルプ用パルプシートは、広葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹晒クラフトパルプを含有し、全パルプ繊維について繊維長0.02mm間隔で含有率を集計したときに、繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維の占める割合が42.6%以上であり、上記繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維における上記繊維長0.02mm間隔ごとの含有率の平均値が1.00%以上1.70%以下であり、上記繊維長0.02mm間隔ごとの含有率の標準偏差σが0.58%以下であり、全パルプ繊維について繊維幅1μm間隔で含有率を集計したときに、繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維の占める割合が90.6%以上であり、上記繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維における上記繊維幅1μm間隔ごとの含有率の平均値が3.1%以上3.9%以下であり、上記繊維幅1μm間隔ごとの含有率の標準偏差σが2.90%以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、広葉樹由来の木材パルプを含有させても、吸収性能が高く、フラッフパルプの製造時における作業性が良好であるフラッフパルプ用パルプシートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例1について、繊維長0.02mm間隔で測定したときにおける含有率の平均値の分布を示す図である。
【
図2】
図2は、実施例1について、繊維幅1μm間隔で測定したときにおける含有率の平均値の分布を示す図である。
【
図3】
図3は、比較例1について、繊維長0.02mm間隔で測定したときにおける含有率の平均値の分布を示す図である。
【
図4】
図4は、比較例1について、繊維幅1μm間隔で測定したときにおける含有率の平均値の分布を示す図である。
【
図5】
図5は、比較例2について、繊維長0.02mm間隔で測定したときにおける含有率の平均値の分布を示す図である。
【
図6】
図6は、比較例2について、繊維幅1μm間隔で測定したときにおける含有率の平均値の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係るフラッフパルプ用パルプシートは、広葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹晒クラフトパルプを含有し、全パルプ繊維について繊維長0.02mm間隔で含有率を集計したときに、繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維の占める割合が42.6%以上であり、上記繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維における上記繊維長0.02mm間隔ごとの含有率の平均値が1.00%以上1.70%以下であり、上記繊維長0.02mm間隔ごとの含有率の標準偏差σが0.58%以下であり、全パルプ繊維について繊維幅1μm間隔で含有率を集計したときに、繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維の占める割合が90.6%以上であり、上記繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維における上記繊維幅1μm間隔ごとの含有率の平均値が3.1%以上3.9%以下であり、上記繊維幅1μm間隔ごとの含有率の標準偏差σが2.90%以下である。
【0011】
当該フラッフパルプ用パルプシートは、当該フラッフパルプ用パルプシートが針葉樹晒クラフトパルプを含有することで、当該フラッフパルプ用パルプシートを用いたフラッフパルプの嵩高性に優れる。また、当該フラッフパルプ用パルプシートが広葉樹晒クラフトパルプを含有することで、当該フラッフパルプ用パルプシートを用いたフラッフパルプ表面の緻密さを高め、上記フラッフパルプから製造される吸収性物品の吸水液の逆戻り量の低減効果及び肌のかぶれに対する抑制効果を向上できる。
また、当該フラッフパルプ用パルプシートは、全パルプ繊維について繊維長0.02mm間隔で含有率を集計したときに、繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維の占める割合が42.6%以上であり、繊維幅1μm間隔で含有率を集計したときに、繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維の占める割合が90.6%以上である。このように、全パルプ繊維における繊維長及び繊維幅の割合を上記範囲とすることで、当該フラッフパルプ用パルプシートに広葉樹由来の木材パルプを含有させても、製造工程時における解繊性が良好となり、フラッフパルプの製造時における作業性を向上できる。さらに、当該フラッフパルプ用パルプシートの吸水液の逆戻り量の低減効果を向上できる。従って、当該フラッフパルプ用パルプシートは、広葉樹由来の木材パルプを含有させても、吸収性能が高く、フラッフパルプの製造時における作業性が良好である。
さらに、当該フラッフパルプ用パルプシートは、全パルプ繊維に対して占める割合が42.6%以上である繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維について、繊維長0.02mm間隔で集計したときにおける上記繊維長0.02mm間隔ごとの含有率の平均値が1.00%以上1.70%以下であり、上記繊維長0.02mm間隔ごとの含有率の標準偏差σが0.58%以下である。また、全パルプ繊維に対して占める割合が90.6%以上である上記繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維について、繊維幅1μm間隔で集計したときにおける上記繊維幅1μm間隔ごとの含有率の平均値が3.1%以上3.9%以下であり、上記繊維幅1μm間隔ごとの含有率の標準偏差σが2.90%以下である。このように、特定範囲の繊維長の分布及び特定範囲の繊維幅の分布のばらつきを小さくすることで、当該フラッフパルプ用パルプシートは、広葉樹パルプを配合したにも関わらず吸収速度が低下することがなく、吸水液の逆戻りを抑制できる。そのため、当該フラッフパルプ用パルプシートを用いた吸収体においては、カブレを低減できる。
従って、当該フラッフパルプ用パルプシートは、広葉樹由来の木材パルプを含有させても、吸収性能が高く、フラッフパルプの製造時における作業性が良好である。
【0012】
上記針葉樹晒クラフトパルプに対する上記広葉樹晒クラフトパルプの質量比が25/75以上38/62以下であることが好ましい。当該フラッフパルプ用パルプシートは、広葉樹晒クラフトパルプ及び針葉樹晒クラフトパルプを上記質量比でバランスよく配合することで、フラッフパルプ用パルプシートに要求される吸水量、吸水速度及び嵩高性を良好にしたまま、吸水液の逆戻り量の低減効果を向上できる。
【0013】
上記広葉樹晒クラフトパルプの原料木材におけるアカシア材の含有量が5質量%以上95質量%以下であることが好ましい。上記広葉樹晒クラフトパルプの原料木材におけるアカシア材の含有量が上記範囲であることで、繊維幅の太いアカシア材を一定量または単一で配合されるので、均一なパルプ繊維間の空隙を十分に確保でき、フラッフパルプ製造工程時における解繊性をさらに向上できる。これにより吸収性物品に用いられるフラッフパルプにおいて吸水量及び吸水速度をさらに高めることができる。
【0014】
当該フラッフパルプ用パルプシートは、密度が0.50g/cm3以上0.65g/cm3以下であることが好ましい。当該フラッフパルプ用パルプシートの密度が上記範囲であることで、広葉樹由来の木材パルプを含有する当該フラッフパルプ用パルプシートであっても、製造工程時における解繊性をより向上できる。
【0015】
当該フラッフパルプ用パルプシートは、比破裂強度が1.0kPa・m2/g以上1.7kPa・m2/g以下であることが好ましい。当該フラッフパルプ用パルプシートの比破裂強度が上記範囲であることで、広葉樹由来の木材パルプを含有する当該フラッフパルプ用パルプシートであっても、製造工程時における解繊性をより向上できる。
【0016】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の一実施形態に係るフラッフパルプ用パルプシートについて詳説する。なお、以下で説明する紙基材に配合する各材料の配合量(絶乾内添量)は、特に記載がない場合は、紙基材のパルプの絶乾質量に対する質量割合を指す。
【0017】
<フラッフパルプ用パルプシート>
当該フラッフパルプ用パルプシートは、原料パルプを含有するスラリーを抄紙して得ることができる。
【0018】
(原料パルプ)
当該フラッフパルプ用パルプシートに用いる原料パルプは、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)及び広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)の組み合わせである。当該フラッフパルプ用パルプシートが針葉樹晒クラフトパルプを含有することで、当該フラッフパルプ用パルプシートを用いたフラッフパルプの嵩高性に優れる。また、当該フラッフパルプ用パルプシートが広葉樹晒クラフトパルプを含有することで、当該フラッフパルプ用パルプシートを用いたフラッフパルプ表面の緻密さを高め、上記フラッフパルプから製造される吸収性物品の吸水液の逆戻り量の低減効果及び肌のかぶれに対する抑制効果を向上できる。
【0019】
(広葉樹晒クラフトパルプ)
広葉樹晒クラフトパルプとしては、アカシア材又はユーカリ材から製造された広葉樹晒クラフトパルプが好ましい。
【0020】
アカシア材は、乾燥による縮みが少なく、衝撃にも強く、丈夫で硬い特徴を有する材料で、アカシア材から得られるパルプも元来の性状を引き継ぎ、水分の吸収や乾燥性が高く有用な原料パルプである。ユーカリ材は、ユーカリ属に属し、特にユーカリ・グロビュラス、ユーカリ・グランディス、ユーカリ・ユーロフィラ、ユーカリ・ナイテンス、ユーカリ・レグナンス等が古くから紙製造用の原料パルプ材として広く用いられ、得られるパルプは、繊維内腔(ルーメン)がつぶれにくく剛直であり、このパルプ繊維を配合することで嵩高な低密度のフラッフパルプ用パルプシートを得ることができる。広葉樹晒クラフトパルプとしては、アカシア材はユーカリ材に比べて繊維幅が太いため嵩高性があり、針葉樹晒クラフトパルプと組み合わせた際に、吸水速度の低下が少ないことから、アカシア材がより好ましい。
【0021】
(広葉樹クラフトパルプの原料木材におけるアカシア材の含有量)
上記広葉樹クラフトパルプの原料木材におけるアカシア材の含有量の下限としては、5質量%が好ましく、20質量%がより好ましく、50質量%がさらに好ましい。上記アカシア材の含有量の上限としては、95質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましい。当該フラッフパルプ用パルプシートの上記広葉樹クラフトパルプの原料木材におけるアカシア材の含有量が上記範囲であることで、針葉樹晒クラフトパルプに比べて繊維長が短く繊維同士が密に詰まりやすい広葉樹晒クラフトパルプであっても、また、その繊維がどの方向(例えば、当該フラッフパルプ用パルプシートから製造される吸収性物品の長さ方向・幅方向・厚み方向)に配向していたとしても、特に良好に繊維間の空隙を均一に確保できるため、フラッフパルプ用パルプシートに要求される、解繊性と吸水速度を両立することができる。上記範囲を外れる場合、例えば剛直なユーカリ材の割合が多くなると、剛直性に由来する空隙は多くなるものの、繊維幅がアカシア材よりも低いため、繊維がどの方向に配向しているかで、空隙にバラツキが生じやすいことから、当該フラッフパルプ用パルプシートを用いたフラッフパルプにおいて解繊性が低くなるだけでなく、吸水速度にムラが発生しやすく、結果として吸水速度が低下しやすくなるおそれがある。
【0022】
当該フラッフパルプ用パルプシートは、全パルプ繊維について繊維長0.02mm間隔で含有率を集計したときに、繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維の占める割合が42.6%以上であり、45.0%以上が好ましい。また、全パルプ繊維について繊維幅1μm間隔で含有率を集計したときに、繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維の占める割合が90.6%以上であり、91.0%以上が好ましい。このように、全パルプ繊維における繊維長及び繊維幅の割合を上記範囲とすることで、当該フラッフパルプ用パルプシートに広葉樹由来の木材パルプを含有させても、製造工程時における解繊性が良好となり、フラッフパルプの製造時における作業性を向上できる。さらに、当該フラッフパルプ用パルプシートの吸水液の逆戻り量の低減効果を向上できる。従って、当該フラッフパルプ用パルプシートは、広葉樹由来の木材パルプを含有させても、吸収性能が高く、フラッフパルプの製造時における作業性が良好である。
【0023】
当該フラッフパルプ用パルプシートは、当該フラッフパルプ用パルプシートは、全パルプ繊維に対して占める割合が42.6%以上である繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維について、繊維長0.02mm間隔で集計したときにおける上記繊維長0.02mm間隔ごとの含有率の平均値が1.00%以上1.70%以下である。ここで、繊維長を0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維を測定した点について説明する。針葉樹クラフトパルプは約5mm以上まで幅広く繊維含有率が存在し、広葉樹クラフトパルプについては0.50mm未満、1.1mm超の範囲の繊維含有率は比較的低いため、両者を混合したフラッフパルプ用パルプシートについて、本発明者等は0.50mm以上1.1mm未満の繊維含有率を指標とすることで、本発明のフラッフパルプ用パルプシートの効果を得ることを見出した。パルプ繊維を0.02mm間隔で測定したときにおける含有率の標準偏差σは、0.58%以下であり、0.56%以下が好ましく、0.54%以下がより好ましい。全パルプ繊維の繊維長の標準偏差σが0.58%を超えると、当該フラッフパルプ用パルプシートは、吸収速度の低下及び吸水液の逆戻りに対する抑制効果が低下するおそれがある。上記繊維長は、バルメット社製、繊維長測定機「VALMET FS5」を用いて、JIS-P8226:2011(ISO16065-2:2007)「パルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法」に準じて測定した、ISO重さ加重平均繊維長である。
【0024】
全パルプ繊維において、繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維を0.02mm間隔で測定したときにおける平均繊維長の下限としては、0.5mmであり、0.6mmが好ましい。上記平均繊維長の上限としては、0.8mmであり、0.7mmが好ましい。上記平均繊維長が0.5mm未満であると、フラッフパルプ用パルプシートの嵩高性が低下しやすく、製造工程時における解繊性が低下するおそれがある。上記平均繊維長の上限としては、0.8mmであり、0.7mmが好ましい。上記平均繊維長が0.8mmを超えると、当該フラッフパルプ用パルプシートを用いたフラッフパルプにおいて繊維がどの方向に配向しているかで空隙にバラツキが生じやすくなり、吸水速度が低下するおそれがある。
【0025】
当該フラッフパルプ用パルプシートは、全パルプ繊維に対して占める割合が90.6%以上である上記繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維について、繊維幅1μm間隔で集計したときにおける上記繊維幅1μm間隔ごとの含有率の平均値が3.1%以上3.9%以下である。ここで、繊維幅を10μm以上35μm未満のパルプ繊維を測定した点について説明する。針葉樹クラフトパルプは約55μm以上まで幅広く繊維含有率が存在し、広葉樹クラフトパルプについては10μm未満、35μm超の範囲の繊維含有率は極端に低いため、両者を混合したフラッフパルプ用パルプシートについて、本発明者等は10μm以上35μm未満の繊維含有率を指標とすることで、本発明のフラッフパルプ用パルプシートの効果を得ることを見出した。パルプ繊維を0.02mm間隔で測定したときにおける含有率の標準偏差σは、2.9%以下であり、2.8%以下が好ましく、2.6%以下がより好ましい。全パルプ繊維の繊維幅の標準偏差σが2.9%を超えると、当該フラッフパルプ用パルプシートは、吸収速度の低下及び吸水液の逆戻りに対する抑制効果が低下するおそれがある。上記繊維幅は、バルメット社製、繊維長測定機「VALMET FS5」を用いて、JIS-P8226:2011(ISO16065-2:2007)「パルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法」に準じて測定した。
【0026】
全パルプ繊維において、上記繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維を1μm間隔で測定したときにおける平均繊維幅の下限としては、15μmであり、18μmが好ましい。上記平均繊維幅の上限としては、30μmであり、27μmが好ましい。記平均繊維幅が15μm未満であると、当該フラッフパルプ用パルプシートを用いたフラッフパルプにおいて繊維間の空隙が密になり、吸水速度が低下するおそれがある。上記平均繊維幅が30μmを超えると、フラッフパルプ用パルプシートにおいてパルプ繊維同士の接触面積が大きくなりすぎて、繊維同士の結合力が高くなり、製造工程時の解繊性が低下するおそれがある。解繊性が低下しすぎると、当該フラッフパルプ用パルプシートを用いたフラッフパルプの製造工程では過解繊となり微細繊維が発生し、上記フラッフパルプにおいて吸水速度が低下するおそれもある。
【0027】
上記広葉樹晒クラフトパルプのカッパー価としては、0.3以下であることが好ましい。上記カッパー価が上記上限を超えると、繊維中のリグニンが十分に除去できておらず、パルプ繊維の吸水性が低くなり、かぶれが発生しやすくなるおそれがある。上記カッパー価は、JIS-P8211(2011)に準拠して測定される。
【0028】
広葉樹クラフトパルプを蒸解する白液の硫化度の下限としては、25%が好ましく、28%がより好ましい。上記硫化度が25%未満であると、パルプ繊維が痛みやすく当該フラッフパルプ用パルプシートを用いたフラッフパルプが密になり、吸水速度が低下するおそれがある。一方、上記硫化度の上限としては、32%が好ましく、30%がより好ましい。上記硫化度が上記上限を超えると、パルプ繊維が痛みにくく剛直のままとなり、フラッフパルプ用パルプシートから得られる吸収性物品の空隙にムラが多くなり、逆戻り量が多くなることで、かぶれが発生するおそれがある。上記硫化度は次式に従い、硫化ソーダと苛性ソーダの合計に対する、硫化ソーダの割合として計算した。
硫化度(%)=(Na2S/(NaOH+Na2S))×100
【0029】
(広葉樹晒クラフトパルプの未叩解パルプのフリーネス)
広葉樹晒クラフトパルプの未叩解パルプのカナダ標準ろ水度(CSF)としては、520ml以上580ml以下に調整されていることが好ましい。広葉樹晒クラフトパルプの未叩解パルプのフリーネスが520ml未満の場合、パルプシート製造時に脱水性が悪くなり、例えば抄紙機においてプレス脱水を強化する等、脱水を機械的に強化する必要があり、パルプ繊維同士の結合が強くなるだけでなくパルプシートの嵩高性が低くなることで、製造時における解繊性が低下するおそれがある。一方、上記未叩解パルプのカナダ標準ろ水度が580mlを超えると、パルプシートにおいては繊維間の空隙が多くなりすぎて解繊時に解繊ムラとなりやすくなるおそれがある。
【0030】
(針葉樹晒クラフトパルプ)
当該フラッフパルプ用パルプシートにおいては、針葉樹晒クラフトパルプの原料木材としてラジアータパインに代表される松類や、各種杉が好適に用いられる。
【0031】
(パルプ配合率)
当該フラッフパルプ用パルプシートに用いるパルプにおける上記針葉樹晒クラフトパルプに対する上記広葉樹晒クラフトパルプの質量比の下限としては、25/75が好ましく、28/72がより好ましい。上記針葉樹晒クラフトパルプに対する上記広葉樹晒クラフトパルプの質量比が25/75未満であると、全パルプ繊維における繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維の割合が42.6%以上であり、繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維の割合が90.6%以上であったとしても、当該フラッフパルプ用パルプシートから得られる吸収性物品の繊維間の空隙にムラが生じやすく、逆戻りしやすくかぶれが発生しやすくなるおそれがある。一方、上記針葉樹晒クラフトパルプに対する上記広葉樹晒クラフトパルプの質量比の上限としては、38/62が好ましく、35/65がより好ましい。上記針葉樹晒クラフトパルプに対する上記広葉樹晒クラフトパルプの質量比が38/62を超えると、広葉樹晒クラフトパルプの繊維幅が所定の範囲内であったとしても、フラッフパルプ用パルプシートが密になり、吸水速度が低下するおそれがある。
【0032】
(その他のパルプ)
フラッフパルプ用パルプシートは、広葉樹晒クラフトパルプ及び針葉樹晒クラフトパルプ以外のその他のパルプを含有していてもよい。上記その他のパルプとしては、例えばソーダパルプ、サルファイトパルプ、ケミサーモメカニカルパルプ、ケミリファイナーメカニカルパルプ、サーモケミメカニカルパルプ等が挙げられる。但し、繊維中のリグニンが十分に除去できていない場合、パルプ繊維の吸水量および吸水速度が低下しやすくなるため、十分にリグニンを除去した晒パルプが好ましい。上記その他のパルプを含有する場合、上記その他のパルプの含有量としては、パルプ原料全体に対して10質量%以下が好ましい。
【0033】
(その他の添加剤)
フラッフパルプ用パルプシートには、必要によりその他の添加剤を内添することができる。添加剤としては、例えば、填料、顔料、サイズ剤、凝結剤、耐油剤、硫酸バンド、歩留り向上剤、濾水性向上剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、着色顔料、耐水化剤等を、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0034】
[フラッフパルプ用パルプシートの物性]
(クレム吸水度)
クレム吸水度は、紙の下端を鉛直に水の中に浸せきし、毛管現象によって吸上げた高さを測定するものであり、JIS-P8141(2004)に準拠して測定する。クレム吸水度は、試料に水が接触してからの時間が比較的長いところの吸水性についての測定法であるが、吸収性物品においては、より短時間の吸水性が重要であるため、下記の通り測定する。フラッフパルプ用パルプシートを用いて試料を作製後、室温下で吸水度試験において、測定開始後1分の高さ[mm]及び測定開始後1分から2分の間の吸水速度[mm/分]を測定する。測定開始後1分の高さをフラッフパルプ用パルプシートの吸水量の尺度とし、測定開始後1分から2分の間の吸水速度をフラッフパルプ用パルプシートの吸水速度の尺度とする。
【0035】
当該フラッフパルプ用パルプシートの坪量200g/m2における測定開始後1分の吸水高さの下限としては、25mmが好ましく、27mmがより好ましく、29mmがさらに好ましい。上記測定開始後1分における吸水高さが25mm未満の場合、当該フラッフパルプ用パルプシートから作製されるフラッフパルプおよび吸収性物品では、吸水量が少ないため肌のかぶれが発生するおそれがある。一方、上記測定開始後1分における吸水高さの上限としては、40mmが好ましい。上記測定開始後1分における吸水高さが40mmを超える場合、吸水量が高すぎて、測定開始後1分から2分の間における吸水速度が低下し、当該フラッフパルプ用パルプシートから作製されるフラッフパルプおよび吸収性物品では、吸水液の逆戻り量が増加し肌のかぶれが発生するおそれがある。上記測定開始後1分における吸水高さが上記範囲であることで、当該フラッフパルプ用パルプシートは、吸水量が良好なフラッフパルプを得ることができる。
【0036】
当該フラッフパルプ用パルプシートの坪量200g/m2における測定開始後1分から2分の間の吸水速度の下限としては、5mm/分が好ましく、7mm/分がより好ましく、9mm/分がさらに好ましい。上記測定開始後1分から2分の間における吸水速度が5mm/分未満の場合、当該フラッフパルプ用パルプシートから作製されるフラッフパルプおよび吸収性物品では、吸水速度が低いため、吸水液の逆戻り量が増加し肌のかぶれが発生するおそれがある。上記測定開始後1分から2分の間における吸水速度が上記範囲であることで、当該フラッフパルプ用パルプシートは、吸水速度が良好なフラッフパルプを得ることができる。当該フラッフパルプ用パルプシートは、上記測定開始後1分における吸水高さと上記測定開始後1分から2分の間における吸水速度がともに上記範囲であることで、吸水量および吸水速度に優れたフラッフパルプを製造でき、逆戻りが少なく、かぶれを抑制できる吸収性物品を得ることができる。
ここで、当該フラッフパルプ用パルプシートの坪量200g/m2を超えるものであっても、JIS-P8220(2012)「パルプ-離解方法」に準拠して、試料を標準離解機によって離解処理した後、JIS-P8222(1998)「パルプ-試験用手すき紙の調製方法-標準手すき機による方法」によって、坪量200g/m2のサンプルを作成後、測定することもできる。
【0037】
(密度)
密度は、JIS-P8118(2014)に記載の「紙及び板紙-厚さ、密度及び比容積の試験方法」に準拠して測定される。当該フラッフパルプ用パルプシートの密度の下限としては、0.50g/cm3が好ましく、0.52g/cm3がより好ましく、0.55g/cm3がさらに好ましい。上記フラッフパルプ用パルプシートの密度の上限としては、0.65g/cm3が好ましく、0.62g/cm3がより好ましく、0.60/cm3がさらに好ましい。当該フラッフパルプ用パルプシートの密度が上記範囲であることで、製造工程時における解繊性を向上できるとともに、ムラなく均一に繊維間の空隙を確保しやすいフラッフパルプを得ることができる。従って、フラッフパルプに要求される吸水量および吸水速度を良好にできる。
なお、密度は、JIS-P8111(1998)に記載の「紙、板紙及びパルプ-調湿及び試験のための標準状態」のとおり、23±1℃、50±2%RHの雰囲気下で測定する。
【0038】
(比破裂強度)
比破裂強度は、JIS-P8131(2009)に準拠して測定されるキロパスカル(kPa)単位で表した紙の破裂強さを坪量で除した値である。比破裂強度の下限としては、1.0kPa・m2/gが好ましく、1.1kPa・m2/gがより好ましく、1.2kPa・m2/gがさらに好ましい。当該フラッフパルプ用パルプシートの上記比破裂強度が上記下限未満の場合、過解繊となり繊維が切断されやすいため、フラッフパルプが密になり、吸水速度が低下しかぶれが発生しやすくなるおそれがある。一方、当該フラッフパルプ用パルプシートの上記比破裂強度の上限としては、1.7kPa・m2/gが好ましく、1.6kPa・m2/gがより好ましく、1.5kPa・m2/gがさらに好ましい。当該フラッフパルプ用パルプシートの上記比破裂強度が上記上限を超える場合、製造工程時の解繊性が悪く、得られるフラッフパルプに空隙が多くなることで、吸水液が逆戻りしやすくなるとともにかぶれが発生しやすくなるおそれがある。当該フラッフパルプ用パルプシートの比破裂度が上記範囲であることで、上記広葉樹晒クラフトパルプと針葉樹晒クラフトパルプを混合したフラッフパルプ用パルプシートにおいて、製造工程時の解繊性を向上させることができ、フラッフパルプにおいてはムラなく均一に繊維間の空隙を確保しやすくなるため、フラッフパルプの吸水速度を良好にできる。
なお、比破裂度測定は、JIS-P8111(1998)に記載の「紙、板紙及びパルプ-調湿及び試験のための標準状態」のとおり、23±1℃、50±2%RHの雰囲気下で測定した。
【0039】
[フラッフパルプ用パルプシートの製造方法]
当該フラッフパルプ用パルプシートの製造方法は、特に限定されないが、例えば、原料木材を蒸解して未晒パルプとする蒸解工程と、脱リグニンを行う脱リグニン工程と、漂白して漂白パルプとする漂白工程と、漂白パルプを所望のフリーネスとなるように叩解する叩解工程と、パルプスラリーを調製する工程と、パルプスラリーを抄紙する工程とを有する。なお、上記工程間に適宜、脱水洗浄工程を設けることができる。
【0040】
(蒸解工程)
蒸解工程では、原料木材を蒸解して未晒パルプとする。蒸解釜に白液及び原料木材チップ(広葉樹または針葉樹)を入れて蒸解し、生成された黒液混じりの(未洗浄)パルプスラリーが連続蒸解釜の底部から取り出される。蒸解方法は、市販クラフト改良法であるMCC、EMCC、ITC、Lo-Solids、KobudoMari、Compact法、等から任意に選ぶことができ、蒸解釜としては連続蒸解釜あるいはバッチ釜の方式のどちらでも良く、また蒸解条件(蒸解温度、蒸解温度と蒸解時間の影響度を乗じて一つの因子にまとめたHファクター、活性アルカリ又は有効アルカリの含有割合等)については特に限定されない。
【0041】
(脱リグニン工程)
脱リグニン工程では、未晒パルプを脱リグニンする。未晒パルプにアルカリ性薬品及び酸素を添加し、高温高圧でリグニンを分解、アルカリ性薬品に溶出させる。脱リグニン工程は、低濃度(パルプ濃度:3%~8%)、中濃度(パルプ濃度:8%~15%)、高濃度(パルプ濃度:20%~30%)の方式は特に問わない。
【0042】
(洗浄工程)
洗浄工程では、未晒パルプを置換、希釈または脱水を組み合わせることで洗浄を行う。洗浄方式としては特に限定されず、公知の洗浄機を用いて洗浄することができる。例えば、置換洗浄方式、希釈・脱水方式、プレス洗浄方式、あるいはこれらを組み合わせた洗浄方式が用いられる。置換洗浄方式の洗浄機としては、ディフュージョンウォッシャーや加圧ディフュージョンウォッシャー、ベルトタイプ洗浄機などが用いられる。希釈・脱水方式の洗浄機としては、真空フィルター洗浄機、加圧フィルター洗浄機などが用いられる。プレス洗浄方式としてはスクリュー型プレス洗浄機、ディスク型プレス洗浄機、ロール型プレス洗浄機などが用いられる。
【0043】
本発明においては、リグニンを除去し、カッパー価を低減させることが好ましいため、リグニンを除去しやすいプレス洗浄機を用いることが好ましい。プレス洗浄方式による洗浄後のパルプ濃度としては、30%以上が好ましく、32%以上がより好ましく、35%以上がさらに好ましい。プレス洗浄方式による脱水では、繊維内部の水分も絞り出して除去できるため、他の洗浄方式と比べて、パルプ繊維内部で遊離しているリグニンを十分に除去しやすい。
【0044】
(漂白工程)
漂白工程では、脱リグニンを行った未晒パルプを漂白して漂白パルプとする。漂白方式としては特に限定されず、公知の漂白方法で漂白することができる。例えば、酸処理、オゾン漂白、二酸化塩素漂白、過酸化水素漂白や、さらにこれらとアルカリ抽出、酸素を添加したアルカリ抽出、酸素と過酸化水素を添加したアルカリ抽出等を、単独または複数組み合わせて実施することができる。
【0045】
漂白工程においては、パルプ繊維を痛めることによりパルプ繊維の吸水性を調整することができるオゾン漂白を用いることが好ましい。オゾン漂白の方式としては特に限定されず、高濃度(30~40%),中濃度(8~15%),低濃度(1~3%)のいずれでも実施できるが、より繊維を傷めやすい高濃度法が好ましい。
オゾン発生装置は、公知の装置を用いることができる。発生したオゾンは、そのままパルプと混合、または水中へ溶解してからパルプと混合させても良い。
【0046】
オゾン漂白においては、pHが低いほど脱リグニンは促進される一方、繊維への傷みは少なくなるため、フラッフパルプ用パルプシートの要求品質に応じてpHを調整することが好ましい。フラッフパルプ用パルプシートのオゾン漂白におけるpHとしては、6以下が好ましく、4以下がより好ましく、2~3がさらに好ましい。フラッフパルプ用パルプシートのオゾン漂白におけるpHが上記範囲であることで、フラッフパルプ用パルプシートに要求される吸水速度を向上できる。
【0047】
(調成工程)
調成工程においては、パルプスラリーを調製する。また、必要があれば、調成工程では、漂白パルプを所望のフリーネスとなるように叩解する。その後、その他の添加剤を必要に応じ添加し、紙料を調製する。
【0048】
(抄紙工程)
次に、これらの原料スラリーを用いて、pHが6以上8以下になるように中性域で抄紙機にて抄紙する。上記抄紙工程では、走行するワイヤー上に噴出させたパルプ原料を抄紙する抄紙機を用いて原料パルプを抄紙する。抄紙機は特に限定されるものではなく、公知の抄紙機、例えば長網抄紙機、円網抄紙機、ハイブリッドフォーマー、ギャップフォーマー等の抄紙機を使用することができ、シート状に抄紙される。フラッフパルプ用パルプシートは1層または複数層の抄き合わせにより製造することができるが、1層であれば、層内の密度を均一にしやすいため好ましい。
【0049】
当該フラッフパルプ用パルプシートによれば、広葉樹由来の木材パルプを含有させても、吸収性能が高く、フラッフパルプの製造時における作業性が良好である。
【0050】
[フラッフパルプ]
フラッフパルプは、当該フラッフパルプ用パルプシートを機械的処理により繊維状に解繊して得ることができる。本発明においてフラッフパルプに用いられる当該フラッフパルプ用パルプシートは、ベール状またはロール状のいずれでも良いが、ロール状であれば、フラッフパルプを用いた吸収性物品の生産性を向上させやすいため好ましい。
【0051】
本発明において、解繊するための機械的処理に用いる装置は特に限定されない。紙おむつ等の吸収性物品の製造時などに使用されている公知の解繊機を使用でき、機械的処理として摩擦力やせん断力を利用する解繊機を好適に使用できる。解繊機の方式としては、例えば、ハンマー式解繊機、衝撃式解繊機、ロール式解繊機及びシェット気流式解繊機などを用いることができる。
【0052】
[吸収性物品]
上記吸収性物品は、フラッフパルプ用パルプシートを用いる。上記吸収性物品が、当該フラッフパルプ用パルプシートを用いていることで、吸水量および吸水速度を向上でき、肌のかぶれを抑制できる。上記吸収性物品としては、特に限定はないが、例えば、紙おむつ、尿とりパッド、軽失禁パッド、生理用ナプキン等が挙げられる。
【0053】
上記吸収性物品の製造方法は、特に限定されず、公知の方法で製造することができる。例えば、紙おむつであれば、瑞光社製、東亜機工社製、エアハルトライマー社製の製造機械を用い、例えばパネル式、レッグホール式、縦流れ式、横流れ式等の方式により製造できる。
【0054】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
[実施例1~実施例19及び比較例1~比較例5]
実施例1~実施例19及び比較例1~比較例5のフラッフパルプ用パルプシートを以下の手順で作製した。なお、比較例1は市販されている既存のフラッフパルプ用パルプシートの組成を再現したものである。
【0057】
(蒸解工程)
(1)広葉樹
アカシア及びユーカリを表1に記載の質量比となるよう混合し、所定の硫化度を有する白液を添加し、液比6.0(L/kg)、最高温度170℃で回転式オートクレーブによる蒸解を行い、カッパー価約16の広葉樹未晒クラフトパルプを得た。なお、表1の「-」は、該当する成分を含まないことを示す。
(2)針葉樹
杉に所定の硫化度を有する白液を添加し、液比6.0(L/kg)、最高温度170℃で回転式オートクレーブによる蒸解を行い、カッパー価約30の針葉樹未晒クラフトパルプを得た。
【0058】
(洗浄工程)
未晒パルプをパルプ濃度約2%まで希釈した後、ブフナー漏斗にNo.2ろ紙(ADVANTEC社製)を敷き、パルプ濃度を約12%まで脱水した。その後、未晒パルプを角型ろ紙(ADVANTEC社製)で挟み、プレス機で圧力を掛け、パルプ濃度33%まで脱水した。この洗浄工程を2回実施した。
【0059】
(漂白工程)
(1)広葉樹
(1-1)オゾン漂白
未晒クラフトパルプについて、45℃で8.1%濃度のオゾンガスにて約2分間でオゾン漂白した。なお、オゾン漂白には、住友精密工業製PSA Ozonizer SGA-01A-PSA4 のラボオゾン発生器からのオゾンガスを用いた。
(1-2)二酸化塩素漂白
オゾン漂白後のパルプについて、二酸化塩素添加率1.5%、パルプ濃度10質量%、70℃で二酸化塩素漂白を行い、広葉樹晒クラフトパルプを得た。
なお、各漂白工程の間では、パルプ濃度約2%まで希釈した後、ブフナー漏斗にNo.2ろ紙(ADVANTEC社製)を敷き、パルプ濃度を約12%まで脱水する希釈洗浄工程を2回実施した。
(2)針葉樹
未晒クラフトパルプについて、二酸化塩素添加率1.5%、パルプ濃度10質量%、70℃で30分間二酸化塩素漂白を行った。続いて、アルカリ添加率1%、過酸化水素添加率0.3%、パルプ濃度10質量%、70℃で120分間アルカリ性過酸化水素漂白を行った。続いて、水酸化ナトリウム添加率0.2%、パルプ濃度10質量%、70℃で120分間、アルカリ処理を行った。続いて、二酸化塩素添加率0.3%、パルプ濃度10質量%、70℃で150分間二酸化塩素漂白を行い、針葉樹晒クラフトパルプを得た。
なお、各漂白工程の間では、パルプ濃度約2%まで希釈した後、ブフナー漏斗にNo.2ろ紙(ADVANTEC社製)を敷き、パルプ濃度を約12%まで脱水する希釈洗浄工程を2回実施した。
【0060】
(抄紙工程)
得られた広葉樹晒クラフトパルプおよび針葉樹晒クラフトパルプは、叩解せずに、濃度約2%に希釈して、表2に記載の配合率となるように調整した。そして、調整後のパルプスラリーを用いて、半自動シートマシン(熊谷理機工業社製)を用いて、坪量800g/m2となるよう手抄きシートを作成した。このようにして、実施例1~実施例19及び比較例1~比較例5のフラッフパルプ用パルプシートを得た。
【0061】
(パルプ繊維における繊維長0.02mm間隔ごとの含有率、繊維幅1μm間隔ごとの含有率及び標準偏差)
蒸解工程及び洗浄工程後の実施例1~実施例19及び比較例1~比較例5の広葉樹未晒クラフトパルプにおける繊維長及び繊維幅を測定した。繊維長及び繊維幅は、バルメット社製、繊維長測定機「VALMET FS5」を用いて、JIS-P8226:2011(ISO16065-2:2007)「パルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法」に準じて測定した。繊維分析計「VALMET FS5」は、希釈したパルプ繊維が繊維分析計内部の測定セルを通過する際の画像分析により高い精度でパルプ繊維の長さ、幅を測定できる。
上記繊維分析計により、全パルプ繊維について繊維長0.02mm間隔で含有率を集計した後、繊維長が0.5mm以上1.1mm未満の範囲のパルプ繊維の占める割合を求めた。そして、この繊維長が0.5mm以上1.1mm未満の範囲のパルプ繊維について、上記繊維長0.02mm間隔ごとの含有率の平均値及び上記繊維長0.02mm間隔ごとの含有率の標準偏差σを算出した。
また、全パルプ繊維について繊維幅1μm間隔で含有率を集計した後、繊維幅が10μm以上35μm未満の範囲のパルプ繊維の占める割合を求めた。そして、この繊維幅が10μm以上35μm未満の範囲のパルプ繊維について、上記繊維幅1μm間隔ごとの含有率の平均値及び上記繊維幅1μm間隔ごとの含有率の標準偏差σを算出した。
なお、上記標準偏差測定値は繊維分析計に基づいて測定したn=10000以上から算出した値である。算出結果を表1に示す。
【0062】
また、全パルプ繊維における繊維長0.02mm間隔で集計したときにおける上記繊維長0.02mm間隔ごとの含有率の平均値、及び繊維幅1μm間隔で集計したときにおける上記繊維幅1μm間隔ごとの含有率の平均値の分布の例を
図1~
図6に示す。
図1は、実施例1の繊維長0.02mm間隔ごとの含有率の平均値の分布を示し、
図2は、実施例1の繊維幅1μm間隔ごとの含有率の平均値の分布を示す。また、
図3は、比較例1の繊維長0.02mm間隔ごとの含有率の平均値の分布を示し、
図4は、比較例1の繊維幅1μm間隔ごとの含有率の平均値の分布を示す。
図5は、比較例2の繊維長0.02mm間隔ごとの含有率の平均値の分布を示し、
図6は、比較例2の繊維幅1μm間隔ごとの含有率の平均値の分布を示す。
【0063】
【0064】
[評価]
以上のようにして得られたフラッフパルプ用パルプシートの各種評価を行った。
【0065】
(フラッフパルプ用パルプシートの密度)
各フラッフパルプ用パルプシートの密度は、JIS-P8118(2014)に記載の「紙及び板紙-厚さ、密度及び比容積の試験方法」に準拠して測定した。
【0066】
(フラッフパルプ用パルプシートの比破裂強度)
各フラッフパルプ用パルプシートの比破裂強度は、JIS-P8131(2009)に準拠して測定されたキロパスカル(kPa)単位で表した紙の破裂強さを坪量で除した。
【0067】
(フラッフパルプ用パルプシートの解繊性)
各フラッフパルプ用パルプシートの解繊性は、上記フラッフパルプ用パルプシートの比破裂強度の値に基づいて、以下の5段階の評価基準で評価した。評価がA、B、C及びDの場合、フラッフパルプ用パルプシートにおける解繊性が良好であり、なかでもAが優れる。また、Dはやや劣るが実用上は問題のないレベルである。
A:比破裂強度が1.2kPa・m2/g以上1.5kPa・m2/g以下である。
B:比破裂強度が1.6kPa・m2/g又は1.1kPa・m2/gである。
C:比破裂強度が1.7kPa・m2/g又は1.0kPa・m2/gである。
D:比破裂強度が1.8kPa・m2/g又は0.9kPa・m2/gである。
E:比破裂強度が1.9kPa・m2/g以上又は0.8kPa・m2/g以下である。
【0068】
(クレム吸水度)
各フラッフパルプ用パルプシートのクレム吸水度は、JIS-P8141(2004)に記載の「紙及び板紙-吸水度試験方法-クレム法」に準拠して測定し、測定開始後1分の高さ[mm]及び測定開始後1分から2分の間の吸水速度[mm/分]を測定した。
なお、上記クレム吸水度については、坪量200g/m2の各フラッフパルプ用パルプシートを作成し、測定した数値である。
【0069】
(フラッフパルプ用パルプシートの吸収性能)
フラッフパルプ用パルプシートの吸収性能は、上記フラッフパルプ用パルプシートのクレム吸水度における測定開始後1分の高さの値に基づいて吸収量を評価し、クレム吸水度における測定開始後1分から2分の間の吸水速度の値に基づいて吸水速度を評価した。評価基準は、吸収量について以下の4段階、吸収速度について以下の5段階の通りとした。吸収量について評価がA、B及びCの場合、フラッフパルプ用パルプシートの吸収量が良好である。吸収速度について評価がA、B、C及びDの場合、フラッフパルプ用パルプシートの吸収速度が良好である。
(1)吸収量
A:クレム吸水度における測定開始後1分の高さが29mm以上40mm以下である。
B:クレム吸水度における測定開始後1分の高さが27mm以上28mm以下である。
C:クレム吸水度における測定開始後1分の高さが25mm以上26mm以下である。
D:クレム吸水度における測定開始後1分の高さが24mm以下である。
(2)吸水速度
A:クレム吸水度における測定開始後1分から2分の間の吸水速度が9mm/分以上である。
B:クレム吸水度における測定開始後1分から2分の間の吸水速度が7mm/分以上8mm/分以下である。
C:クレム吸水度における測定開始後1分から2分の間の吸水速度が5mm/分以上6mm/分以下である。
D:クレム吸水度における測定開始後1分から2分の間の吸水速度が4mm/分である。
E:クレム吸水度における測定開始後1分から2分の間の吸水速度が3mm/分以下である。
【0070】
(作業性)
フラッフパルプの製造時における作業性は、坪量200g/m2の各フラッフパルプ用パルプシートを2cm×2cmに裁断し、市販のミキサー(テスコム社製、ミキサーTM856)で粉砕し、粉砕時の紙紛の発生程度を評価した。なお、パルプの蓄積量は、EからAに向かうにつれて多くなっている。評価は、以下の5段階の通りとした。評価がA、B、C及びDの場合、作業性が良好である。
A:パルプシート粉砕時に紙紛の舞い、ミキサー壁面に、わずかにパルプの堆積がある。
B:パルプシート粉砕時に紙紛が舞い、ミキサー壁面に、若干のパルプの堆積がある。
C:パルプシート粉砕時に紙紛が舞い、ミキサー壁面に、少量のパルプの堆積がある。
D:パルプシート粉砕時に紙紛が舞い、ミキサー壁面に、多少のパルプの堆積があるが、問題がない範囲である。
E:パルプシート粉砕時に紙紛が舞い、ミキサー壁面に、多くのパルプが堆積し、実使用に耐えないレベルである。
【0071】
(吸収性物品の肌のかぶれ)
実施例1~実施例19及び比較例1~比較例5のフラッフパルプ用パルプシートを用いて紙オムツを作製後、モニターのべ220名に、実施例1~実施例19及び比較例1~比較例5のいずれかを各10枚使用してもらい、かぶれが発生した枚数を百分率で評価した。評価は、以下の5段階の通りとした。評価がA、B、C及びDの場合、肌のかぶれに対する抑制効果が既存品と同じ組成の比較例1よりも良好である。
A:かぶれ発生率が比較例1より優れる。
B:かぶれ発生率が比較例1より多少優れる。
C:かぶれ発生率が比較例1より若干優れる。
D:かぶれ発生率が比較例1より僅かに優れ、実使用可能である。
E:かぶれ発生率が比較例1と同等であり、既存品と同じレベルである。
【0072】
各実施例及び比較例の評価結果を表2に示す。
【0073】
【0074】
表2に示されるように、広葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹晒クラフトパルプを含有し、全パルプ繊維について繊維長0.02mm間隔で集計したときにおける繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維の割合が42.6%以上であり、この繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維の上記繊維長0.02mm間隔ごとの含有率の平均値が1.00%以上1.70%以下、かつ標準偏差σが0.58%以下であり、全パルプ繊維について繊維幅1μm間隔で集計したときにおける繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維の割合が90.6%以上であり、この繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維の上記繊維幅1μm間隔ごとの含有率の平均値が3.1%以上3.9%以下、かつ標準偏差σが2.9%以下である実施例1~実施例19は、解繊性、吸水量。吸水速度、フラッフパルプの製造時における作業性及び吸収性物品におけるかぶれ抑制効果のいずれも良好な結果が得られた。
【0075】
一方、針葉樹晒クラフトパルプのみの比較例1は解繊性と吸収速度が劣り、吸収性物品におけるかぶれ抑制効果も劣った。広葉樹晒クラフトパルプのみの比較例2は解繊性、吸収量、吸収速度に劣り、作業性と吸収性物品におけるかぶれ抑制効果も劣った。また、全パルプ繊維について繊維長0.02mm間隔で集計したときにおける繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維の割合が42.6%以上であり、繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維の上記繊維長0.02mm間隔ごとの含有率の平均値が1.00%以上1.70%以下、かつ標準偏差σが0.58%以下であり、繊維幅1μm間隔で集計したときにおける繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維の割合が90.6%以上であり、この繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維の上記繊維幅1μm間隔ごとの含有率の平均値が3.1%以上3.9%以下、かつ標準偏差σが2.9%以下であることを満たさない比較例3、比較例4及び比較例5は、フラッフパルプの製造時の作業性又は吸収性物品におけるかぶれ抑制効果が劣っていた。
【0076】
以上の結果、当該フラッフパルプ用パルプシートは、広葉樹由来の木材パルプを含有させても、吸収性能が高く、フラッフパルプの製造時の作業性が良好であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のフラッフパルプ用パルプシートは、吸収性物品に好適である。
【要約】
【課題】吸収性能が高く、フラッフパルプの製造時における作業性が良好であるフラッフパルプ用パルプシートを提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係るフラッフパルプ用パルプシートは、全パルプ繊維について、繊維長0.02mm間隔で含有率を集計したときに、繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維の占める割合が42.6%以上であり、繊維長0.5mm以上1.1mm未満のパルプ繊維における繊維長0.02mm間隔ごとの含有率の平均値が1.00%以上1.70%以下、かつ含有率の標準偏差σが0.58%以下であり、繊維幅1μm間隔で含有率を集計したときに、繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維の占める割合が90.6%以上であり、繊維幅10μm以上35μm未満のパルプ繊維における繊維幅1μm間隔ごとの含有率の平均値が3.1%以上3.9%以下、かつ含有率の標準偏差σが2.90%以下である。
【選択図】なし