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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】超硬合金製切断刃
(51)【国際特許分類】
   B26D 1/06 20060101AFI20230619BHJP
   B26D 1/00 20060101ALI20230619BHJP
   B23D 35/00 20060101ALI20230619BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20230619BHJP
   H01G 13/00 20130101ALI20230619BHJP
【FI】
B26D1/06 Z
B26D1/00
B23D35/00 A
H01G4/30 311A
H01G13/00 391H
H01G4/30 517
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022500073
(86)(22)【出願日】2021-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2021021202
(87)【国際公開番号】W WO2021256280
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-01-04
(31)【優先権主張番号】P 2020105952
(32)【優先日】2020-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 篤史
(72)【発明者】
【氏名】林 武彦
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-269506(JP,A)
【文献】特開2006-027972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26D 1/06
B26D 1/00
B23D 35/00
H01G 4/30
H01G 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、
前記基部の延長線上に設けられ、最先端部である刃先を有する刃部とを備え、
ビッカース硬度HVが1250以上2030以下であり、
刃渡り方向に直交する縦断面において、前記刃先を座標原点とし、前記刃先から前記基部に向かう方向をZ軸方向とし、Z軸方向および刃渡り方向に直交する方向をY軸方向とし、前記刃部の外表面をYZ平面で表し、前記外表面の第一の点の座標を(Y1,Z1(=1.00μm))としa=Z1/(Y1)で定義される定数aと、前記外表面の第二の点の座標を(Y2,Z2(=5.00μm))としb=Z2/(Y2)で定義される定数bとの比率b/aが0.30以上1.00以下であり、
Z1における前記刃部のY軸方向厚さT1が0.60μm以上1.50μm以下であり、
T1が0.60μm以上0.91μm以下において0.30≦b/a≦1.52T1-0.61であり、
T1が0.91μm以上1.06μmにおいて0.64T1-0.28≦b/a≦1.52T1-0.61であり、
T1が1.06μm以上1.50μmにおいて0.64T1-0.28≦b/a≦1.00である、超硬合金製切断刃。
【請求項2】
Yが0からY2のすべての範囲において、前記刃部の外表面は前記座標原点と点(Y2,Z2)とを結ぶ直線よりも外側に位置する、請求項1に記載の超硬合金製切断刃。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超硬合金製切断刃に関する。本出願は、2020年6月19日に出願した日本特許出願である特願2020-105952号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
従来、切断刃は、たとえば特開平10-217181号公報(特許文献1)、特開2001-158016号公報(特許文献2)、国際公開第2014/050883号(特許文献3)、国際公開第2014/050884号(特許文献4)、特開2017-42911号公報(特許文献5)および特開2004-17444号公報(特許文献6)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-217181号公報
【文献】特開2001-158016号公報
【文献】国際公開第2014/050883号
【文献】国際公開第2014/050884号
【文献】特開2017-42911号公報
【文献】特開2004-17444号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の超硬合金製切断刃は、基部と、基部の延長線上に設けられ、最先端部である刃先を有する刃部とを備え、ビッカース硬度HVが1250以上2030以下であり、刃渡り方向に直交する縦断面において、刃先を座標原点とし、刃先から基部に向かう方向をZ軸方向とし、Z軸方向および刃渡り方向に直交する方向をY軸方向とし、刃部の外表面をYZ平面で表し、外表面の第一の点の座標を(Y1,Z1(=1.00μm))としa=Z1/(Y1)で定義される定数aと、外表面の第二の点の座標を(Y2,Z2(=5.00μm))としb=Z2/(Y2)で定義される定数bとの比率b/aが0.30以上1.00以下であり、Z1における刃部のY軸方向厚さT1が0.60μm以上1.50μm以下である。T1が0.60μm以上0.91μm以下において0.30≦b/a≦1.52T1-0.61であり、T1が0.91μm以上1.06μmにおいて0.64T1-0.28≦b/a≦1.52T1-0.61であり、T1が1.06μm以上1.50μmにおいて0.64T1-0.28≦b/a≦1.00である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、実施の形態1に従った超硬合金製切断刃1の縦断面図である。
図2図2は、実施の形態2に従った超硬合金製切断刃1の縦断面図である。
図3図3は、実施の形態3に従った超硬合金製切断刃1の縦断面図である。
図4図4は、切断試験を説明するための装置の斜視図である。
図5図5は、図4中のV-V線に沿った断面図である。
図6図6は、表1から3で示す各試料番号の超硬合金製切断刃1において、刃先121tから1.00μmの位置(Z=Z1=1.00μm)の刃部120の厚みT1と、b/aとの関係を示すグラフである。
図7図7は、切断刃の欠けを示す顕微鏡観察写真(マイクロスコープ)観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
刃厚が薄いと、カット衝撃に刃先が耐えられず、チッピングが発生するという問題があった。刃厚が厚いと、切断抵抗が高く、断面品質悪くなり断面が荒れるという問題があった。
【0007】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0008】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に従った超硬合金製切断刃1の縦断面図である。図1で示すように、超硬合金製切断刃1は刃渡り方向に延びる刃先121tを有する。図1は、刃渡り方向に直交する方向の縦断面である。平刃状の超硬合金製切断刃1は、図1に示すように基部110、および切断実行部である刃部120を有する。基部110と刃部120との間に連結部を有していてもよい。
【0009】
(材質)
超硬合金製切断刃1に用いた材質はタングステンカーバイドとコバルトを主成分とした超硬合金である。超硬合金に使用されるコバルトの含有率は3~25質量%の範囲である。コバルトの含有率は5~20%の範囲であることが好ましい。超硬合金中を構成する元素の組成の特定は、ICP発光分光分析、Co滴定によって行う。本開示における超硬合金とは主成分タングステンカーバイド、コバルトの他、粒度等の特性調整の為、クロム、バナジウム、タンタル、ニオブ等の元素を含む場合もある。超硬合金中のタングステンカーバイド結晶の大きさが0.1μm~4μmであることが好ましい。結晶の大きさが2μm以下がより好ましい。
【0010】
また、超硬合金中のタングステンカーバイトの結晶粒成長抑制のための成分TaC(タンタルカーバイド)を有し、その含有率が0.1~2質量%であることが好ましい。結晶粒成長を抑制するための添加剤はV(バナジウムカーバイド)、Cr(クロムカーバイド)であってもよい。TaC、V、Crの少なくとも一種類の置き替え、及び組み合わせる事ができる。その場合は各々の含有率が0.1~2質量%となる。
【0011】
超硬合金のビッカース硬度HVは1250以上2030以下である。ビッカース硬度はビッカース硬さ試験機により測定する。ビッカース硬度が1250未満である場合、材質として耐変形性能が小さくなり、切断において重要視される耐座屈性、垂直切断性を満たすことがし難くなる。ビッカース硬度が2030を超えると、組織や刃先端部稜線が滑らかであっても高硬度であり欠けが発生し易くなる。また、欠け対策としては、材質だけでなく刃先先端形状が重要である。
【0012】
(形状)
超硬合金製切断刃1の形状は基本的に矩形の板形状である。板の最も短い辺を厚さとする。
【0013】
超硬合金製切断刃1は、基部110と、基部110の延長線上に設けられ、最先端部である刃先121tに向けて厚みが薄くなる形状を有する刃部120とを備える。
【0014】
基部110の厚さは一定であることが好ましい。基部110は、たとえば50~1000μmの厚みがあり、切断される切断物の大きさにより必要とされる厚みが変わる。また切断を行う刃部120は基部110から延長される一辺に形成される。刃部120から基部110に向かう方向(Z軸方向)の刃部120の寸法を刃部120の長さまたは高さと表す。刃渡り方向および刃部120の長さ方向に対して垂直な方向(Y軸方向)の寸法を刃部120の厚みと表す。
【0015】
刃渡り方向に直交する縦断面において刃先から5.00μmの範囲において刃部120の外形が外方向に凸120tの部分を有し、凸120tの部分は刃先121tおよび刃先121tからの長さ方向の距離がZ2(5.00μm)の位置を結ぶ直線Sよりも外側に位置する。凸120tの部分が存在することで凸120tの部分が存在しないストレート形状の切断刃と比較して刃部120の強度を高くすることができる。
【0016】
外表面121sは湾曲した形状である。互いに対向する位置にある2つの外表面121sのなす角度は、刃先121tに近づくにつれて大きくなる。この実施の形態では、外表面121sは中心線Cに対して左右対称である。しかしながら、外表面121sは中心線Cに対して左右非対称であってもよい。刃先121tからの距離Z1の点1201と、刃先121tからの距離Z2の点1203とでは、外表面121sの傾斜が異なる。
【0017】
超硬合金製切断刃1の切断対象物は、たとえば、積層コンデンサ若しくは積層インダクタなどの焼成前のセラミックグリーンシート、金属箔、紙、繊維または、硬質樹脂などである。
【0018】
押切りによる切断の場合、切断対象物を押し広げながら切断する。切断対象物である、例えばセラミックグリーンシートであれば、素材硬度が高いものは切断刃への負荷が増加し、切断刃に欠けが発生し易くなっている。
【0019】
図1に示すように、Z軸方向に超硬合金製切断刃1を下降し、切断を行う超硬合金製切断刃1においては、刃先に大きな負荷がかかる。薄刃で且つ2つの外表面121sがなす角度が小さい方、即ち鋭角とした場合、欠け(チッピングとも言う)が発生し易い。欠けが発生すると当然ながら切れ味は悪くなり、切断対象物の切断断面には傷がつき易くなり寿命となる。このような刃先121t最先端部が極めて鋭角である場合、他の材料に比較し高硬度且つ靱性が低い超硬合金は、耐座屈性、耐摩耗性に優れるものの、特に欠け易い課題がある。
【0020】
本発明者は刃先121tの欠けを防止するために、刃部120の特定の点を通る二次関数に着目した。縦断面をYZ平面とし、刃先121tを座標原点(0,0)とする。原点と、第一の点(Y1,Z1(=1.00μm))とを通る二次曲線Z=aYの定数aを求める。刃部120の外形が中心線C(座標原点を通るZ軸)に対して左右対称形状である場合にはY1=T1/2とする。刃部120の外形が中心線Cに対して左右非対称形状である場合には刃部120の外形上の点は(Y11,Z1)と(Y12,Z1)となる。Y11とY12とを比較して絶対値の大きい方をY1とする。
【0021】
原点と、第二の点(Y2,Z2(=5.00μm))とを通る二次曲線Z=bYの定数bを求める。刃部120の外形が中心線Cに対して左右対称形状である場合にはY2=T2/2とする。刃部120の外形が中心線Cに対して左右非対称形状である場合には刃部120の外形上の点は(Y21,Z2)と(Y22,Z2)となる。Y21とY22とを比較して絶対値の大きい方をY2とする。a=Z1/(Y1)、およびb=Z2/(Y2)によりaおよびbを求める。
【0022】
ここで、b/aの値が0.30以上、1.00以下である。0.30未満の場合は、表裏2つの刃面から得られる刃先先端角度θが大きいことを示し、刃面での切断抵抗は大きくなり、切断時の押し広げる力が大きくなり、切断物に亀裂を生じさせるリスクがある。b/aが1.00を超える場合は刃先先端が比較的平であり、表裏2つの刃面から得られる刃先先端角度θが小さいことを示し、刃先先端の鋭利さは鈍くなりまた、切断時の衝撃が先端部に大きくかかり、欠け易いリスクがある。Z1における刃部の厚さT1が0.60μm以上1.50μm以下である。T1が0.60μm未満であれば刃部が薄くなり欠けやすいリスクがある。T1が1.50μmを超えると刃部が厚くなりすぎて切断抵抗が大きくなる。
【0023】
T1が0.60μm以上0.91μm以下において0.30≦b/a≦1.52T1-0.61であり、T1が0.91μm以上1.06μmにおいて0.64T1-0.28≦b/a≦1.52T1-0.61であり、T1が1.06μm以上1.50μmにおいて0.64T1-0.28≦b/a≦1.00である。この範囲外であれば、刃先の強度が小さくなり刃先に欠けが生じやすくなる、または、切断抵抗が大きくなり被切断物の切断面が粗くなる、などの不都合が生じる。
【0024】
Yが0からY2のすべての範囲において、刃部120の外表面121sは座標原点と点(Y2,Z2)とを結ぶ直線sよりも外側に位置する。
【0025】
本開示は、主に積層セラミックコンデンサのセラミックスグリーンシート(以下グリーンシートとも呼ぶ)などの切断対象物を押切り切断する平刃状切断刃に関する。b/aおよびT1を上述の範囲とすることで、高精度な切断加工、切断対象物への損傷の抑制、安定した切断対象物の形状の実現できる。また切断刃が長寿命であるなどの効果が得られる。
【0026】
ここで、超硬合金製切断刃は、切断に寄与する切断実行部即ち刃先部およびこの切断刃を切断装置に固定するために平行な面を有する基部(シャンクとも呼ぶ)を持つ形状である。より具体的な必要特性としては、切れ味よく、耐摩耗性があり、切断対象物に対する耐溶着性があり、座屈に対し強度があり、更に長寿命であることなどが求められている。
【0027】
切れ味に関しては、特に刃先の形状が重要とされ、被切断物への損傷をも考慮し、薄刃で且つ刃先先端の角度は小さい方(鋭角)がよい。しかし薄刃になるほど強度が悪化することは避けられない。そのため現在用いられている切断刃は刃先から基部までの間に一段又は複数段の角度を付けることにより、最先端の刃先角度を大きくするなどの工夫がされている。
【0028】
このような薄刃は、例えば高炭素鋼の他、超硬合金などの硬質材料が用いられている。しかし加工が容易ではなくその原因として、特に材質が硬質材料である場合、剛性はあるものの、難切削性であり且つ靱性が低く欠け易い。また製品使用時にも欠け易くなる。
【0029】
従来、上述の特性を満たすために種々の切断刃が提案されているが、欠け難い材質と刃先形状についての詳細な知見がなかった。
【0030】
また、縦断面において刃先に近づくにつれて刃部の幅が細くなるように外形が曲線形状とされることが好ましい。曲線形状は、単一の曲率半径を有するものであってもよく、複数の曲率半径を有する、いわゆる複合R形状であってもよい。
【0031】
縦断面において刃先に近づくにつれて刃部の幅が細くなるように外形が曲線形状とされることで、応力集中部位における欠けを最も効果的に抑制できる。
【0032】
本開示は、欠けに影響する因子である、上記、材質、および最先端部形状、即ち刃厚の組み合わせを最適化したものであり、これらを全て満たすことにより欠けが発生し易いことを見出したものである。
【0033】
また、耐欠け性に関しては、刃先121tが鋭利であることは切れ味良いが、欠け発生においてはリスクあり、このリスクをさらに軽減するためには刃部120先端部が曲面を有することが効果的である。刃先121tは切断継続するに従い摩耗することは明白であり、上述のb/aおよびT1の範囲を満たし且つ丸みを持たせる方がより望ましい。
【0034】
基部110方向に形成する切断実行部である刃部120の刃面がひとつの刃面、また複数の刃面を有しても同様の効果が得られる。また、縦断面形状においてその外形が直線から成る場合、また一部に曲線を有していても同様の効果が得られる。
【0035】
刃部120を加工して上記の形状を得る方法は、たとえば、従来法と同様に砥石による研磨によりなされる。また微小曲面の形成手法としてブラスト手法を用いることができる。さらに、切断対象物より柔らかい、例えば研磨剤を分散させた粘度等を切断することで微小曲面を形成することができる。
【0036】
例えば、硬質材料粉を混合した硬質研磨剤入り固形物を超硬合金製切断刃1で切断することにより、硬質研磨剤入り固形物中の硬質材料と刃部120を接触させて加工を行い、刃部120を形成することができる。
【0037】
ここで、硬質研磨剤入り固形物としては、例えば、粘土質材料が挙げられる。また、硬質材料としてはダイヤモンド、W、Mo、WC、Al、TiO、TiC、TiCN、SiC、Si、BN等の粉末が例として挙げられる。
【0038】
これらの硬質材料の粉末粒径は、二次粒子の平均粒径がFsss(Fisher Sub-Sieve Sizer)粒度で1μm以下であるのが好ましい。特に仕上げとして硬質材料粒子の種類、サイズ、固形物への添加量並びに加工時間を調整して得ることができる。なお、超硬合金製切断刃1の製造方法は、上述のものに限定されない。
【0039】
(実施の形態2)
図2は、実施の形態2に従った超硬合金製切断刃1の縦断面図である。図2で示すように、実施の形態2に従った超硬合金製切断刃1においては、第二部分122は刃先121tからの距離がZ2(5.00μm)を超える部分に存在する。
【0040】
(実施の形態3)
図3は、実施の形態3に従った超硬合金製切断刃1の縦断面図である。図3で示すように、高さZ1近傍において、外表面121sの傾斜が不連続に変化する点が存在する点において、実施の形態1に従った超硬合金製切断刃1と異なる。
【0041】
[本開示の実施形態の詳細]
(実施例1)
図4は、切断試験を説明するための装置の斜視図である。図5は、図4中のV-V線に沿った断面図である。試験に用いる超硬合金製切断刃1(平刃状切断刃)は、刃渡り方向(X軸方向)40mm、基部厚さ(Y軸方向)0.1mm、刃高さ(Z軸方向)22.0mmであり、切断実行部の刃加工高さ(刃部120のZ軸方向高さ)2.0mmとした。材質は炭化タングステンおよびコバルトを基本組成としており、炭化クロム、炭化バナジウム、および炭化タンタル等の金属炭化物を添加剤として炭化タングステンの粒径を調整、更にコバルト添加量を調整して超硬合金の焼結体を得た。一例としてビッカース硬度1580の超硬合金素材を使用した。硬度を変更するには炭化タングステンの粒径調整とコバルトの添加量を調整し行った。
【0042】
<研磨>
製造された焼結体はダイヤモンド砥石を用いた研削機により厚さ100μm、刃高さ22mm、長さ40mmの板形状に削り出し先端刃部加工用の素材とした。
【0043】
<刃付け>
続いて上記素材を用いて先端刃部の形成加工行った。形成加工に於いてはダイヤモンド円筒砥石を使用した専用の研削機を用い角度調整可能な専用のワークレストに素材を固定して加工を行った。刃部が2段である場合には、加工は素材長辺長さ40mm方向の一辺に対して最も先端にある先端角を持つ第一部分121、それに連なり配置され基部110に連続する第二部分122を有する刃部120を形成した。
【0044】
<平面の外表面成形>
図2で示すような平面の外表面122sを形成するためには、円筒砥石を用いて最先端部に対して凸形状加工を両面に施した。
【0045】
<凸湾曲の外表面成形>
図1で示すような凸湾曲面である外表面121sを形成するためには、炭化タングステンとコバルトをパラフィンなどのバインダーでプレス成型し長さ50mm-幅50mm-高さ30mmのブロック状にし、そのブロックに刃先を高速で連続的に押し付け凸型形状を成形した。凸の大きさを調整するには押し付け速度、角度、深さにより調整を行った。凸形状の形成にあたっては非常に精密な加工である為、切断メディアとなる炭化タングステン粒子や押し付け速度、深さなどの緻密な研削条件の設定が非常に肝要である。
【0046】
外表面121s,122sの算術平均粗さSa(算術平均高さISO25178)は0.02μm以下とした。外表面121s,122sの算術平均粗さSaは、白色干渉計を用いた非接触式の面粗さ測定装置を用いて測定する。具体的には、Zygo Corporation製の非接触三次元粗さ測定装置(Nexview(登録商標))を用い、上記縦断面における測定範囲を、X方向に0.15mm、Z方向に0.05mmとする。測定視野は、ズームレンズの倍率を2倍、対物レンズの倍率を50倍とした。
【0047】
<断面確認>
断面確認を日本電子社製のショットキー電界放出形走査電子顕微鏡JSM-7900Fを用いて10,000倍にて撮像し、機械座標と測長機能を活用し、刃先121tから1.00μmおよび5.00μmの部分の刃厚(刃部120の厚み)を測定した。ビッカース換算硬さは、フィッシャー・インストルメンツ社製PICODENTOR HM500を用いて測定した。それらの結果を表1から3に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
表1から3における「硬度HV」とは超硬合金製切断刃1のビッカース硬度をいう。
「T1(μm)」とは刃先121tからZ軸方向に1.00μmの位置(Z=Z1)における刃部120のY軸方向の厚みをいう。「T2(μm)」とは刃先121tからZ軸方向に5.00μmの位置(Z=Z2)における刃部120のY軸方向の厚みをいう。
【0052】
「定数a」とは外表面の第一の点の座標を(Y1,Z1(=1.00μm))としたときに、a=Z1/(Y1)で定義される定数をいう。「定数b」とは外表面の第二の点の座標を(Y2,Z2(=5.00μm))としたときに、b=Z2/(Y2)で定義される定数をいう。「b/a」とは定数bを定数aで割った値をいう。「図」とは各試料の形状に対応する図面を示す。すべての試料において、座標原点から点1203の間において、直線Sよりも外側に位置する凸120tが存在することを確認した。さらに、座標原点から点1203の間において、すべての外表面121sが直線Sよりも外側に位置することを確認した。
【0053】
図6は、表1から3で示す各試料番号の超硬合金製切断刃1において、刃先121tから1.00μmの位置(Z=Z1=1.00μm)の刃部120の厚みT1と、b/aとの関係を示すグラフである。各表における「座標位置」とは、図6における各試料の座標位置を示す。
【0054】
切断評価試験は、均一な組成と硬度に着目して、切断対象物は一般的に入手可能な塩ビ板とした。厚みが0.1mm以上3.0mm以下の粘着シートを用いて固定した。また、粘着シートは、押切切断時に刃先最先端部が切断対象物を支持するテーブルと接触して欠けることを防ぐ機能を有している。切断対象物においては、X軸方向の幅が30mm、Z軸方向の厚さが0.5mm、である。切断速度は、Z軸方向に300mm/sとした。
【0055】
本テストの条件(図4および図5
ワーク材質:塩化ビニル板100 厚み0.5mm、幅290mm、長さ30mm、ビッカース換算硬さHVが15
テスト装置:牧野フライス製作所製マシニングセンタV55(ステージ2004)にキスラー製切削動力計9255(切削動力計2003)をセットしたもの
ワークセット:下から厚み10mmのアクリル板2002、厚み1mmの両面粘着シート2001、ワークとしての塩化ビニル板100を積層した。
【0056】
切断条件:切断速度300mm/秒、押込み量0.55mm、長手方向のワークと刃角度±0.5°、ワークと刃断面角度90°±0.5°、切断回数100回(2.5mm間隔)
図4および5に示すような装置にて、チャック3001,3002により超硬合金製切断刃1を保持した。超硬合金製切断刃1の降下速度を30mm/秒として連続的に切断した。ここで連続的に切断するために切断対象物である塩化ビニル板100の同じ位置を切断しないように、超硬合金製切断刃1が上昇するたびに切断位置が移動できるようにした。
【0057】
上記切断を100回行った後の刃先の状態を、刃渡り方向全体の欠けの発生数により評価した。カウントする欠けの定義は、刃先の稜線部において、欠けの幅10μm以上、又は深さ3μmを超えた場合のいずれかを欠け(図7)としてカウントした。
【0058】
図7は、切断刃の欠けを示す顕微鏡観察写真(マイクロスコープ)観察像である。欠けの測定方法では、100回押切切断した後の40mmの刃渡り全面を倍率1000倍にて測定顕微鏡観察にて行った。具体的には、オリンパス製の測定顕微鏡(STM6-LM)に、50倍の接眼レンズおよび20倍の対物レンズを取り付け、切断刃(XZ面)を平面に置く。図7の切断刃の刃先121tと測定ステージが平行になるように注意する。刃先121tに焦点を合わせ、測定器のX軸方向の基準線に欠け121kの両端に位置する刃先121tを合わせ、Yの測定値を「0」とし、基準にする。図7のX軸方向の基準線と欠け121kの端との交わる2点の間の距離を欠け121kの幅とする。X軸から測定して欠け121kのY方向に一番低い箇所を欠け121kの深さとする。この時、幅10μm以上、深さ3μm以上のいずれか一方でも該当した場合に刃先に欠け121kが発生したと定義した。
【0059】
刃先121tの欠けが5個以内の場合の評価を「A」とし、欠けが6から20個の場合の評価を「B」とし、欠けが20個を超える場合の評価を「C」とした。
【0060】
切断面状態については、切断面評価は、100回目の切断品に対し、切断面を50倍にて拡大撮影し、切断方向の30μm以上の長さの傷の数を数えた。評価は3段階とし、10ヶ以下を「A」、11ヶ以上20ヶ以下を「B」、20ヶ超えを「C」として評価した。
【0061】
切断評価の結果を図6に示す。横軸に表1から3におけるT1、縦軸にb/aを示している。五角形の実線で囲まれた範囲、具体的には、T1が0.60μm以上0.91μm以下において0.30≦b/a≦1.52T1-0.61であり、T1が0.91μm以上1.06μmにおいて0.64T1-0.28≦b/a≦1.52T1-0.61であり、T1が1.06μm以上1.50μmにおいて0.64T1-0.28≦b/a≦1.00の範囲が効果を発揮する範囲である。この範囲において表1から3における「刃先の欠けの状態」および「切断面性状」において「A」の結果が得られていることが分かる。
【0062】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0063】
1 超硬合金製切断刃、100 塩化ビニル板、110 基部、120 刃部、120t 凸、121 第一部分、121k 欠け、121s,122s 外表面、121t 刃先、122 第二部分、2001 両面粘着シート、2002 アクリル板、2003、 切削動力計、2004 ステージ、3001,3002 チャック。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7