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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】圧延機および圧延方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/68 20060101AFI20230619BHJP
   B21B 37/28 20060101ALI20230619BHJP
   B21B 13/14 20060101ALI20230619BHJP
   B21B 31/02 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
B21B37/68 Z
B21B37/28 C
B21B13/14 K
B21B31/02 A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022515176
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(86)【国際出願番号】 JP2020016934
(87)【国際公開番号】W WO2021210175
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】314017543
【氏名又は名称】Primetals Technologies Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】杉本 達則
(72)【発明者】
【氏名】堀井 健治
(72)【発明者】
【氏名】黒田 彰夫
(72)【発明者】
【氏名】佐古 彰
(72)【発明者】
【氏名】金森 信弥
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-040097(JP,A)
【文献】国際公開第2014/003014(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/086043(WO,A1)
【文献】特開2007-190579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/00-37/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下一対のワークロールと、
前記ワークロールを回転自在に支持するロールチョックと、
前記ロールチョックの圧延方向における入側及び出側、且つ作業側及び駆動側に設けられており、前記ロールチョックの圧延方向における位置を変更すると共に、前記ロールチョックに対する第1押圧力を計測可能に構成された複数の押圧装置と、
前記押圧装置を駆動して前記ロールチョックの位置を制御する制御装置と、を備えた圧延機において、
前記制御装置は、
前記入側及び前記出側の前記第1押圧力と前記作業側及び前記駆動側のオフセット分力とに基づき前記作業側及び前記駆動側の各々の前記ロールチョックに作用する第2押圧力を求め、
前記作業側の前記第2押圧力と前記駆動側の前記第2押圧力との差が所定値以下となるように、前記複数の押圧装置のうち、前記上下一対のワークロールのうち少なくともいずれか一方のワークロールのロールチョックの位置を変更する前記押圧装置を駆動制御する
ことを特徴とする圧延機。
【請求項2】
請求項1に記載の圧延機において、
前記ワークロールの前記出側の圧延材にかかる張力に関する情報を取得する張力情報取得装置を更に備え、
前記制御装置は、
前記情報に基づいて前記圧延材の幅方向における張力分布を求め、
前記差が所定値を超えている間は、前記張力分布に基づいて前記押圧装置を制御する
ことを特徴とする圧延機。
【請求項3】
請求項2に記載の圧延機において、
前記制御装置は、前記情報、および前記圧延機の幅方向における中心と前記圧延材の幅方向における中心とのズレに基づいて前記張力分布を求める
ことを特徴とする圧延機。
【請求項4】
請求項3に記載の圧延機において、
前記張力情報取得装置は、前記圧延機の前記入側又は前記出側の少なくとも一方における前記圧延材の画像を撮影するカメラを含み、
前記情報は、前記画像を含み、
前記制御装置は、
前記画像に基づいて前記ズレを求め、
前記入側及び前記出側の前記第1押圧力、前記画像、および前記ズレに基づいて前記張力分布を求める
ことを特徴とする圧延機。
【請求項5】
請求項3に記載の圧延機において、
前記張力情報取得装置は、前記圧延機の前記入側及び前記出側における前記圧延材の画像を撮影するカメラを含み、
前記情報は、前記入側及び前記出側の前記画像を含み、
前記制御装置は、
前記入側及び前記出側の前記画像に基づいて前記ズレを求め、
前記入側及び前記出側の前記第1押圧力、前記画像、および前記ズレに基づいて前記張力分布を求める
ことを特徴とする圧延機。
【請求項6】
請求項3に記載の圧延機において、
前記張力情報取得装置は、前記圧延機の前記入側又は前記出側の少なくとも一方における前記圧延材から作用する前記圧延材の幅方向のトルク分布のデータを取得する形状計を含み、
前記情報は、前記形状計で取得された前記トルク分布のデータを含み、
前記制御装置は、前記トルク分布のデータに基づいて前記ズレを求める
ことを特徴とする圧延機。
【請求項7】
請求項2乃至6の何れか1項に記載の圧延機において、
前記制御装置は、前記張力分布を線形近似した一次式として求め、前記一次式の一次成分を低減するように前記押圧装置を駆動する
ことを特徴とする圧延機。
【請求項8】
上下一対のワークロールと、
前記ワークロールを回転自在に支持するロールチョックと、
前記ロールチョックの圧延方向における入側及び出側、且つ作業側及び駆動側に設けられており、前記ロールチョックの圧延方向における位置を変更すると共に、前記ロールチョックに対する第1押圧力を計測可能に構成された複数の押圧装置と、
前記押圧装置を駆動して前記ロールチョックの位置を制御する制御装置と、を備えた圧延機の制御方法において、
前記ロールチョックに対する第1押圧力を計測する押圧力計測ステップと、
前記入側及び前記出側の前記第1押圧力と前記作業側及び前記駆動側のオフセット分力とに基づき前記作業側及び前記駆動側の各々の前記ロールチョックに作用する第2押圧力を求める押圧力演算ステップと、
前記作業側の前記第2押圧力と前記駆動側の前記第2押圧力との差を求める差分演算ステップと、
前記差が所定値以下となるように、前記複数の押圧装置のうち前記上下一対のワークロールのうち少なくともいずれか一方のワークロールのロールチョックの位置を変更する前記押圧装置を駆動制御する押圧制御ステップと、を備える
ことを特徴とする圧延機の制御方法。
【請求項9】
請求項8に記載の圧延機の制御方法において、
前記ワークロールの前記出側の圧延材にかかる張力に関する情報を取得する張力情報取得ステップと、
前記情報に基づいて前記圧延材の幅方向における張力分布を求める張力分布演算ステップと、を更に備え、
前記押圧制御ステップでは、前記差が所定値を超えている間は、前記張力分布に基づいて前記押圧装置を制御する
ことを特徴とする圧延機の制御方法。
【請求項10】
請求項9に記載の圧延機の制御方法において、
前記圧延機の幅方向における中心と前記圧延材の幅方向における中心とのズレを求めるズレ演算ステップを更に備え、
前記張力分布演算ステップでは、前記情報、および前記ズレに基づいて前記張力分布を求める
ことを特徴とする圧延機の制御方法。
【請求項11】
請求項10に記載の圧延機の制御方法において、
前記情報は、カメラにより撮影される前記ワークロールの前記入側又は前記出側の少なくとも一方における前記圧延材の画像を含み、
前記ズレ演算ステップでは、前記画像に基づいて前記ズレを求め、
前記張力分布演算ステップでは、前記入側及び前記出側の前記第1押圧力、前記画像、および前記ズレに基づいて前記張力分布を求める
ことを特徴とする圧延機の制御方法。
【請求項12】
請求項10に記載の圧延機の制御方法において、
前記情報は、カメラにより撮影される前記ワークロールの前記入側及び前記出側における前記圧延材の画像を含み、
前記ズレ演算ステップでは、前記入側及び前記出側の前記画像に基づいて前記ズレを求め、
前記張力分布演算ステップでは、前記入側及び前記出側の前記第1押圧力、前記画像、および前記ズレに基づいて前記張力分布を求める
ことを特徴とする圧延機の制御方法。
【請求項13】
請求項10に記載の圧延機の制御方法において、
前記情報は、形状計により取得される前記圧延機の前記入側又は前記出側の少なくとも一方における前記圧延材から作用する前記圧延材の幅方向のトルク分布のデータを含み、
前記ズレ演算ステップでは、前記トルク分布のデータに基づいて前記ズレを求める
ことを特徴とする圧延機の制御方法。
【請求項14】
請求項9乃至13の何れか1項に記載の圧延機の制御方法において、
前記張力分布演算ステップでは、前記張力分布を線形近似した一次式として求め、
前記押圧制御ステップでは、前記一次式の一次成分を低減するように前記押圧装置を駆動する
ことを特徴とする圧延機の制御方法。
【請求項15】
上下一対のワークロールと、
前記ワークロールを回転自在に支持するロールチョックと、
前記ロールチョックの圧延方向における入側及び出側、且つ作業側及び駆動側に設けられており、前記ロールチョックの圧延方向における位置を変更すると共に、前記ロールチョックに対する第1押圧力を計測可能に構成された複数の押圧装置と、
前記ワークロールの前記出側の圧延材にかかる張力に関する情報を取得する張力情報取得装置と、
前記押圧装置を駆動して前記ロールチョックの位置を制御する制御装置と、を備えた圧延機において、
前記制御装置は、
前記入側及び前記出側の前記第1押圧力に基づき前記作業側及び前記駆動側の各々の前記ロールチョックに作用する第2押圧力を求め、
前記情報に基づいて前記圧延材の幅方向における張力分布を求め、
前記作業側の前記第2押圧力と前記駆動側の前記第2押圧力との差が所定値以下となるように、前記複数の押圧装置のうち、前記上下一対のワークロールのうち少なくともいずれか一方のワークロールのロールチョックの位置を変更する前記押圧装置を駆動制御し、
前記差が所定値を超えている間は、前記張力分布に基づいて前記押圧装置を制御する
ことを特徴とする圧延機。
【請求項16】
上下一対のワークロールと、
前記ワークロールを回転自在に支持するロールチョックと、
前記ロールチョックの圧延方向における入側及び出側、且つ作業側及び駆動側に設けられており、前記ロールチョックの圧延方向における位置を変更すると共に、前記ロールチョックに対する第1押圧力を計測可能に構成された複数の押圧装置と、
前記押圧装置を駆動して前記ロールチョックの位置を制御する制御装置と、を備えた圧延機の制御方法において、
前記ロールチョックに対する第1押圧力を計測する押圧力計測ステップと、
前記入側及び前記出側の前記第1押圧力に基づき前記作業側及び前記駆動側の各々の前記ロールチョックに作用する第2押圧力を求める押圧力演算ステップと、
前記作業側の前記第2押圧力と前記駆動側の前記第2押圧力との差を求める差分演算ステップと、
前記ワークロールの前記出側の圧延材にかかる張力に関する情報を取得する張力情報取得ステップと、
前記情報に基づいて前記圧延材の幅方向における張力分布を求める張力分布演算ステップと、
前記差が所定値以下となるように、前記複数の押圧装置のうち前記上下一対のワークロールのうち少なくともいずれか一方のワークロールのロールチョックの位置を変更する前記押圧装置を駆動制御する押圧制御ステップと、を備え、
前記押圧制御ステップでは、前記差が所定値を超えている間は、前記張力分布に基づいて前記押圧装置を制御する
ことを特徴とする圧延機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延機および圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
厚板圧延機、及び熱延粗圧延機において、強力なロールベンディング力を付与することにより板クラウン・形状を十分に制御し、さらに、蛇行、キャンバー、反りの発生を抑制したタンデム圧延設備、及び、それを用いた安定かつ高効率な圧延方法の一例として、特許文献1には、上作業ロールを支持する、上作業ロール内側チョック及び上作業ロール外側チョックを備え、下作業ロールの胴部に負荷される圧延方向力が、プロジェクトブロックと下作業ロールチョックとの接触面によって支持され、上作業ロールの胴部に負荷される圧延方向力が、プロジェクトブロックの上方に位置する圧延機ハウジングウインドウと上作業ロール内側チョックとの接触面によって支持され、上作業ロールチョックは、油圧シリンダーからインクリースベンディング力を受ける、複数台の圧延機から構成される、ことが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、圧延材の蛇行や片ゲージを防止するロールクロス圧延機の制御方法の一例として、上下の作業ロールがクロス機構を備えているクロス圧延機において、クロスポイントとミルの中心や板の中心とのオフセンター量を設定項目として、上下の作業ロールのクロス角度をずらして制御することにより、圧延材の蛇行や片ゲージを防止する、ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5533754号
【文献】特開平7-171608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属板材の圧延作業においては、圧延板のクラウン及び形状が重要な品質指標となっており、板クラウン・形状制御に関する技術が開示されている。
【0006】
例えば特許文献1には、ワークロールチョックに作用する圧延方向力(水平力)を測定し、圧延方向力の作業側と駆動側の左右差に基づいて上下ロール間ギャップ差(レベリング)を操作することで、圧延材のキャンバー等を抑制することが開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、幅端位置検出器と板プロフィール計からそれぞれ検出された信号から蛇行量と板ウェッジとを算出し、これらから上下ワークロールのクロス角度をそれぞれ単独で角度設定することで、圧延材の蛇行や板厚差(板ウェッジ)を制御することが開示されている。
【0008】
しかし、上述の特許文献1では、チョック上方の圧下装置を操作することでレベリング制御するだけでは限界があり、作業側と駆動側との両方の板ウェッジを精度良く制御するには更に改良の余地がある。また、レベリング制御は、間違った方向にギャップを操作すると板ウェッジが急激に発生して圧延が不安定になり易い、との課題がある。
【0009】
特許文献2では、制御に用いる情報の検出器として幅端位置検出器や板プロフィール計を備えているが、通常、板プロフィール計は最終仕上げ圧延機の出側に設置されているもので、各スタンド間には設置されていない。
【0010】
また、実際に、ロールクロス角を設定値に調整したとしても、設備中に存在するガタなどにより、ロール位置を正確な位置に設定できず、その結果、クロス角のズレを生じてしまう。従って、これらの情報から幾何学的にクロス角度を算出し、調整するのでは限界があり、板ウェッジを精度良く制御するために更なる改良の余地があることが明らかとなった。
【0011】
本発明は、従来に比べて板ウェッジをより容易に、かつ精度良く制御することが可能な圧延機および圧延方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、上下一対のワークロールと、前記ワークロールを回転自在に支持するロールチョックと、前記ロールチョックの圧延方向における入側及び出側、且つ作業側及び駆動側に設けられており、前記ロールチョックの圧延方向における位置を変更すると共に、前記ロールチョックに対する第1押圧力を計測可能に構成された複数の押圧装置と、前記押圧装置を駆動して前記ロールチョックの位置を制御する制御装置と、を備えた圧延機において、前記入側及び前記出側の前記第1押圧力と前記作業側及び前記駆動側のオフセット分力とに基づき前記作業側及び前記駆動側の各々の前記ロールチョックに作用する第2押圧力を求め、前記作業側の前記第2押圧力と前記駆動側の前記第2押圧力との差が所定値以下となるように、前記複数の押圧装置のうち、前記上下一対のワークロールのうち少なくともいずれか一方のワークロールのロールチョックの位置を変更する前記押圧装置を駆動制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来に比べて板ウェッジをより容易に、かつ精度良く制御することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例1の圧延機であって、一方に液圧装置、他方に定位置制御装置を設けた4段圧延機の正面図である。
図2】実施例1の圧延機における下ワークロール部分を拡大した図である。
図3】実施例1の圧延機における圧延時の制御の流れを示したフローチャートである。
図4】比較例の圧延機において、圧延材の中心がずれている場合の様子を示した図である。
図5】圧延材の中心がずれている場合に比較例の圧延機により圧延を行った場合の圧延材の様子を示す図である。
図6】実施例1の圧延機において、圧延材の中心がずれている場合の様子を示した図である。
図7】圧延材の中心がずれている場合に実施例1の圧延機により圧延を行った場合の圧延材の様子を示す図である。
図8】本発明の実施例2の圧延機の概略を示す図である。
図9】実施例2の圧延機において、蛇行量(測定値)と水平力(測定値)から張力分布(1次:幅方向直線分布)を算出する方法の概略を示す図である。
図10】実施例2の圧延機における圧延時の制御の流れを示したフローチャートである。
図11】本発明の実施例3の圧延機の概略を示す図である。
図12】実施例3の圧延機における形状計の構成の一例を示した図である。
図13】実施例3の圧延機における圧延時の制御の流れを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の圧延機および圧延方法の実施例を、図面を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0016】
また、以下の実施例や図面では、駆動側(「DS(Drive Side)」とも記載)とは圧延機を正面から見てワークロールを駆動する電動機が設置されている側を、作業側(「WS(Work Side)」とはその反対側を意味するものとする。
【0017】
<実施例1>
本発明の圧延機および圧延方法の実施例1について図1乃至図7を用いて説明する。
【0018】
最初に、本実施例の圧延機の全体構成について図1および図2を用いて説明する。図1は本実施例の4段圧延機の正面図である。図2は、図1の圧延機における下ワークロール、下バックアップロール部分を拡大した図である。
【0019】
図1において、圧延機1は、圧延材Sを圧延する4段のペアクロスロール圧延機であって、ハウジング100と、制御装置20と、油圧装置30とを有している。なお、圧延機は図1に示すような1スタンドの圧延機に限られず、2スタンド以上からなる圧延機であってもよい。
【0020】
ハウジング100は、上下一対の上ワークロール110A及び下ワークロール110B、これらワークロール110A,110Bを支持する上下一対の上バックアップロール120Aおよび下バックアップロール120Bを備えている。
【0021】
圧下シリンダ170は、上バックアップロール120Aを押圧することで、上バックアップロール120Aや上ワークロール110A,下ワークロール110B,下バックアップロール120Bに対して圧下力を付与するシリンダである。圧下シリンダ170は、ハウジング100のうち、作業側と駆動側とにそれぞれ設けられている。
【0022】
ロードセル180は、ワークロール110A,110Bによる圧延材Sの圧延力を計測する圧延力計測手段としてハウジング100の下部に設けられており、計測結果を制御装置20に出力している。
【0023】
油圧装置30は、ワークロール押圧装置130A,130Bやワークロール用定位置制御装置140A,140Bの油圧シリンダに接続されており、この油圧装置30は制御装置20に接続されている。同様に、油圧装置30は、バックアップロール押圧装置150A,150Bやバックアップロール用定位置制御装置160A,160Bの油圧シリンダに接続されている。
【0024】
制御装置20は、ロードセル180やワークロール用定位置制御装置140A,140B、バックアップロール用定位置制御装置160A,160Bの位置計測器からの計測信号の入力を受けている。
【0025】
制御装置20は油圧装置30を作動制御し、ワークロール押圧装置130A,130B,131Bやワークロール用定位置制御装置140A,140Bの油圧シリンダに圧油を給排することでそれらの油圧シリンダを駆動して、ワークロール110A,110Bを支持するロールチョック112A,112B(図2参照)の位置を変更している。
【0026】
同様に、制御装置20は油圧装置30を作動制御し、バックアップロール押圧装置150A,150Bやバックアップロール用定位置制御装置160A,160Bの油圧シリンダに圧油を給排することでそれらの油圧シリンダを駆動して、バックアップロール120A,120Bを支持するロールチョック(図示省略)の位置を変更している。
【0027】
次に、図2を用いて下ワークロール110Bに関係する構成について説明する。なお、上ワークロール110Aや上バックアップロール120A、下バックアップロール120Bについても同等の構成を有しており、その詳細な説明も略同じであるため、省略する。
【0028】
圧延機1の下ワークロール110Bの両端側にハウジングが位置しており、下ワークロール110Bのロール軸に対して垂直に立てられている。
【0029】
下ワークロール110Bは、ハウジング100にそれぞれ作業側ロールチョック112A及び駆動側ロールチョック112Bを介して回転自在に支持されている。
【0030】
ワークロール用定位置制御装置141Bは、ハウジング100の作業側部分の出側と作業側ロールチョック112Aの間に配置され、下ワークロール110Bのロールチョック112Aの圧延方向の位置を調節する油圧シリンダを有している。このワークロール用定位置制御装置141Bは、油圧シリンダの動作量を計測する位置計測器(図示省略)を備えており、油圧シリンダの位置を調節することで、ロールチョック112Aの位置を変更する。
【0031】
ここで、定位置制御装置とは、本実施例では、装置内に内蔵されている位置計測器を用いて押圧装置としての油圧シリンダの油柱位置を測定し、所定の油柱位置となるまで油柱位置を制御する装置のことを意味する。以後説明する定位置制御装置もすべて同様とする。
【0032】
ワークロール押圧装置131Bは、ハウジング100の作業側部分の入側と作業側ロールチョック112Aの間に配置され、ワークロール用定位置制御装置141Bによる位置調節に伴い、一定の押圧力を維持するように下ワークロール110Bのロールチョック112Aを圧延方向に押圧することで、ロールチョック112Aの位置を変更する。
【0033】
ワークロール用定位置制御装置140Bは、ハウジング100の駆動側部分の入側と駆動側ロールチョック112Bの間に配置され、下ワークロール110Bのロールチョック112Bの圧延方向の位置を調節する油圧シリンダを有している。このワークロール用定位置制御装置140Bは、油圧シリンダの動作量を計測する位置計測器(図示省略)を備えており、油圧シリンダの位置を調節することで、ロールチョック112Bの位置を変更する。
【0034】
ワークロール押圧装置130Bは、ハウジング100の駆動側部分の出側と駆動側ロールチョック112Bの間に配置され、ワークロール用定位置制御装置140Bによる位置調節に伴い、一定の押圧力を維持するように下ワークロール110Bのロールチョック112Bを反圧延方向に押圧することで、ロールチョック112Bの位置を変更する。
【0035】
これらワークロール用定位置制御装置140B,141Bやワークロール押圧装置130B,131Bは、いずれも、ロールチョック112A,112Bに対する第1押圧力を計測可能に構成されている。
【0036】
次に、本実施例に係る圧延機における圧延時の制御の詳細や、圧延方法について、下ワークロール110Bを参照して図3を参照して説明する。図3は実施例1の圧延機における圧延時の制御の流れを示したフローチャートである。
【0037】
まず、図3に示すように、ワークロール用定位置制御装置140B,141Bやワークロール押圧装置130B,131B等により、ワークロール110A,110Bやバックアップロール120A,120Bを支持するロールチョック112A,112Bなどに対する押圧力(第1押圧力)を計測する(ステップS10)。押圧力を計測するのは、本実施例のように油圧シリンダでもよいが、ロードセルを用いてもよい。本ステップS10が、ロールチョック112A,112Bを入側又は出側に押圧して第1押圧力を計測する押圧力計測ステップに相当する。
【0038】
次いで、制御装置20は、ステップS10において計測された入側及び出側の第1押圧力に基づき作業側及び駆動側の各々のロールチョック112A,112Bに作用する第2押圧力(水平力)を求める(ステップS11)。このステップS11が、押圧力演算ステップに相当する。
【0039】
次いで、制御装置20は、ステップS11にて求めた作業側の第2押圧力と駆動側の第2押圧力との差分を求める(ステップS12)。その後、制御装置20は、ステップS12で求めた作業側の第2押圧力と駆動側の第2押圧力との差分が所定値εより大きいか否かを判定する(ステップS13)。差分が所定値εより大きいと判定されたときは処理をステップS14に進める。これに対し、差分が所定値ε以下と判定されたときは処理を終了する。
【0040】
次いで、制御装置20は、求めた作業側の第2押圧力と駆動側の第2押圧力との差が所定値以下となるように、ワークロール用定位置制御装置140B,141Bやワークロール押圧装置130B,131Bのうち少なくともいずれか一方のロールチョック112A,112Bの位置を変更するワークロール用定位置制御装置140B,141Bやワークロール押圧装置130B,131Bを制御する。まずは、蛇行量を考慮して、水平力・モーメント釣合式から張力1次成分を算出する(ステップS14)。ここで、本実施例では、蛇行量は0と仮定して張力分布を求めるとともに、その1次成分を算出する。
【0041】
次いで、制御装置20は、ステップS14で求めた張力1次成分が低減する方向にワークロールの水平方向位置(傾き)を調整し(ステップS15)、処理を終了する。
【0042】
圧延機1は、圧延中に図3に示した各ステップを絶えず実行する。
【0043】
次に、本実施例の効果について、図4乃至図7を用いて説明する。図4は、比較例の圧延機において、圧延材Sが蛇行している場合の様子を示した図である。図5は、圧延材Sが蛇行している場合に比較例の圧延機により圧延を行った場合の圧延材Sの様子を示す図である。図6は、実施例1の圧延機において、圧延材Sが蛇行している場合の様子を示した図である。図7は、圧延材Sが蛇行している場合に実施例1の圧延機により圧延を行った場合の圧延材Sの様子を示す図である。
【0044】
圧延時に、圧延材Sが駆動側に蛇行した場合を考える。
【0045】
この場合、図2に示すように、下ワークロール110Bには、圧延材Sからのモーメントと、圧延材Sが下流側圧延機に圧下されることによる拘束モーメントとを受け、下ワークロール110Bを保持する作業側ロールチョック112Aには反圧延方向に水平力(WS)が加わるとともに、駆動側ロールチョック112Bには圧延方向に水平力(DS)が加わる。
【0046】
この場合、ワークロール110Bなどをクロスさせずに定位置制御を行う場合は、図4に示すように、上下ロール間ギャップは作業側が狭く、駆動側が広くなる。
【0047】
その結果、図5に示すように、圧延後の圧延材Sの断面は、駆動側が厚く、作業側が薄い左右非対称の形状となる。更に、駆動側が厚く、作業側が薄いことにより、圧延材Sの作業側が駆動側に比べて長くなり、板伸びが発生し、その結果、蛇行がより大きくなってしまう。
【0048】
しかしながら、上述した本発明の実施例1の圧延機1では、制御装置20は、入側及び出側の第1押圧力に基づき作業側及び駆動側の各々のロールチョック112A,112Bに作用する第2押圧力を求め、作業側の第2押圧力と駆動側の第2押圧力との差が所定値以下となるように、ワークロール用定位置制御装置140B,141Bやワークロール押圧装置130B,131Bのうち少なくともいずれか一方のロールチョック112A,112Bの位置を変更するワークロール用定位置制御装置140B,141Bやワークロール押圧装置130B,131Bを制御する。
【0049】
これにより、例えば図6に示すように、圧延材Sが駆動側に蛇行した場合に、上下ロール間ギャップを作業側を広く、駆動側を狭くするようにワークロール用定位置制御装置140B,141Bが駆動される。より具体的には、下ワークロール110Bの作業側が圧延材Sの出側にシフトされる。
【0050】
これによって、図7に示すように、圧延後の圧延材Sの断面は、駆動側と作業側との厚さがほぼ等しい左右対称の形状となるとともに、蛇行圧延材の蛇行量を維持したまま、あるいは目標値に維持したまま、圧延を継続することができる。
【0051】
このように、作業側と駆動側の第2押圧力の差を、ロールチョック112A,112Bの水平方向における位置制御に用いることによって、上述した特許文献1,2で記載のあるレベリング位置、ロールクロス角位置の調整時に存在する設備中のガタにより生ずる設置位置ズレの影響を受けることなく、押圧力の差に基づいて圧延方向における押圧装置位置を調整することができ、板ウェッジを従来に比べてより容易に、かつ精度良く制御することができる。
【0052】
また、制御に用いる力の測定方向と、制御方向とが一致するので、オペレータにとっての確認のし易さや調整方向の分かり易さにつながる、という効果も奏する。
【0053】
<実施例2>
本発明の実施例2の圧延機および圧延方法について図8乃至図10を用いて説明する。図8は本実施例2の圧延機の概略を示す図、図9は蛇行量(測定値)と水平力(測定値)から張力分布(1次:幅方向直線分布)を算出する方法の概略を示す図、図10は圧延時の制御の流れを示したフローチャートである。
【0054】
図8に示すように、本実施例の圧延機は、図1に示した実施例1の圧延機1に加えて、ワークロール110A,110Bの出側の圧延材Sにかかる張力に関する情報を取得する張力情報取得装置として、対象の圧延機の出側に圧延材Sの画像を撮影するカメラ200が設けられている。
【0055】
また、本実施例では、制御装置20Aは、蛇行量演算器20A1、張力演算器20A2、圧延機制御器20A3、および水平力演算器20A4を有しており、入側及び出側の第1押圧力、およびカメラ200による撮像画像情報に基づいて圧延材Sの幅方向における張力分布を求める。更に、作業側の第2押圧力と駆動側の第2押圧力との差が所定値を超えている間は、張力分布に基づいて少なくともいずれか一方のロールチョック112A,112Bの位置を変更するようにワークロール用定位置制御装置140B,141Bやワークロール押圧装置130B,131Bを制御するものとなっている。
【0056】
ここで、本実施例の制御装置20Aでは、蛇行量演算器20A1は、カメラ200により撮像される圧延材Sの画像に基づいて、圧延機1の幅方向における中心と圧延材Sの幅方向における中心とのズレ、すなわち圧延材Sの蛇行量を求める。
【0057】
更に、制御装置20Aの張力演算器20A2において、入側及び出側の第1押圧力、情報、およびズレに基づいて張力分布を求める。
【0058】
そのうえで、圧延機制御器20A3において、求めた張力分布から張力分布の一次成分を低減させる為に必要なワークロール水平方向位置(傾き)を求める。
【0059】
この際、圧延機制御器20A3は、張力分布を線形近似した一次式として求めることができる。
【0060】
蛇行などの通板不良発生の主因は、左右張力差(1次成分:C1)であり、1次成分(C1)を検出できれば良いことがわかる。その他にも、2次成分(C2)や4次(C4)成分もあるものの、蛇行とは関連性は小さいと考えられるため、除外することができると思われる。更に、3次成分(C3)もあるものの、その値は小さく、制御するアクチュエータもないため、除外することが可能である。
【0061】
一方、後述するように、既知の2つの釣合式(力:水平方向力の釣合式、モーメント釣合式)から、張力分布式の未知数は2つまでしか求められない、との制約がある。
【0062】
したがって、これらの制約から、後述する(1)式のように、T=T0+T1xの未知数(T0,T1)を算出するものとすることができる。
【0063】
その後、油圧装置30のシリンダ位置調整器30Aにおいて、求められた傾きを実現するために必要なワークロール用定位置制御装置140A,140B等の各定位置制御装置の油圧シリンダに供給すべき圧油量を求め、求められた圧油量が供給されるように各油圧回路を制御する。
【0064】
ここで、図9を用いて蛇行量(測定値)と水平力(測定値)から張力分布(1次:幅方向直線分布)を算出する方法について説明する。本実施例では、圧延機の出側に設置されたカメラ200により検出される蛇行量は、圧延材Sの圧延機での位置の蛇行量とみなすものとする。
【0065】
板張力分布は下記(1)式で表される。
【0066】
T(x)=C+C*x ・・・ (1)
ここで、Yc:蛇行量,W:板幅としたときに、
-W/2-Yc≦x≦W/2-Yc ・・・ (2)
の関係を満たすものとする。
【0067】
水平力FD,FW(出側:正と定義)は下記(3)式および(4)式にて常時算出される。
【0068】
FD=FDS_D(駆動側出側シリンダ力)-FDS_E(駆動側入側シリンダ力)-Fofs(駆動側オフセット分力)-Fc(駆動側クロス力) ・・・ (3)
FW=FWS_D(作業側出側シリンダ力)-FWS_E(作業側入側シリンダ力)-Fofs(作業側オフセット分力)+Fc(作業側クロス力) ・・・ (4)
なお、シリンダ力は圧力値から換算した値とする。
【0069】
更に、a=-W/2-Yc、b=W/2-Ycとすると、水平方向力の釣合式は、
FD+FW=∫ T(x)dx ・・・ (5)
の関係を満たす。
【0070】
したがって、c=(L/2-Yc)-W/2、d=(L/2-Yc)+W/2とすると、
L*FW=∫ {T(x)*x}dx (6)
上記(5)式および(6)式より、張力分布の未知数(C0,C1)を求めることができる。
【0071】
次に、本実施例に係る圧延機における圧延時の制御の詳細や、圧延方法について、図10を参照して説明する。
【0072】
図10に示す各ステップのうち、ステップS30,S31,S32,S33の各ステップは、図3に示すステップS10,S11,S12,S13と各々同じであり、その詳細は省略する。
【0073】
本実施例では、図10に示すように、ステップS30,S31,S32,S33と並行して、カメラ200により圧延中の圧延材Sを撮影し、撮像画像を収集する(ステップS21)。このステップS21が、張力情報取得ステップに相当する。
【0074】
その後、制御装置20Aの蛇行量演算器20A1において、カメラ200の位置での蛇行量を検出するとともに、その蛇行量から圧延機位置での圧延材Sの蛇行量を求める(ステップS22)。このステップS22が、ズレ演算ステップに相当する。
【0075】
次いで、制御装置20Aの張力演算器20A2は、ステップS22で求めた蛇行量と、ステップS30乃至S32で求めた水平力とから、水平力・モーメント釣合式を用いて張力1次成分(C1)を算出する(ステップS34)。このステップS34が、張力分布演算ステップに相当する。
【0076】
次いで、制御装置20Aの圧延機制御器20A3および油圧装置30のシリンダ位置調整器30Aにおいて、ステップS34で求めた張力1次成分が低減する方向にワークロールの水平方向位置(傾き)を調整し(ステップS35)、処理を終了する。
【0077】
圧延機は、圧延中に図10に示した各ステップを絶えず実行する。
【0078】
その他の構成・動作は前述した実施例1の圧延機および圧延方法と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0079】
本発明の実施例2の圧延機および圧延方法においても、前述した実施例1の圧延機および圧延方法とほぼ同様な効果が得られる。
【0080】
また、ロールチョック112A,112Bに作用する第2押圧力には、蛇行に伴う成分と張力分布(張力の左右の偏り)に伴う成分とが含まれる。そこで、ワークロール110A,110Bの出側の圧延材Sにかかる張力に関する情報を取得する張力情報取得装置を更に備え、制御装置20Aは、入側及び出側の第1押圧力、および情報に基づいて圧延材Sの幅方向における張力分布を求め、差が所定値を超えている間は、張力分布に基づいて、少なくともいずれか一方のロールチョック112A,112Bの位置を変更するようにワークロール用定位置制御装置140B,141Bやワークロール押圧装置130B,131Bを制御することにより、より板ウェッジを精度良く制御することができる。
【0081】
更に、制御装置20Aは、入側及び出側の第1押圧力、情報、および圧延機1の幅方向における中心と圧延材Sの幅方向における中心とのズレに基づいて張力分布を求めることで、ロールチョック112A,112Bに作用する第2押圧力が、蛇行に伴う成分と張力分布に伴う成分とが支配的である場合、計測された第1押圧力から蛇行に伴う成分を考慮すれば、より精度良く張力分布を求めることができる。
【0082】
また、張力情報取得装置は、圧延機1の入側又は出側の少なくとも一方における圧延材Sの画像を撮影するカメラ200を含み、情報は、画像を含み、制御装置20Aは、画像に基づいてズレを求めることにより、蛇行量を直接測定した値を用いることができるため、蛇行変化に伴う水平力成分変化を捉えることができ、この影響を考慮することで、より精度良く張力分布を求めることができる。
【0083】
また、制御装置20は、張力分布を線形近似した一次式として求め、一次式の一次成分を低減するようにワークロール用定位置制御装置140B,141Bやワークロール押圧装置130B,131Bを制御するため、蛇行・板ウェッジの制御精度に影響を及ぼす張力分布(一次成分)を第2押圧力差から直接演算でき、押圧装置の位置制御により張力分布を低減できるので、圧延材Sの通板性能、および品質を向上できる。
【0084】
なお、カメラ200が対象とする圧延機の出側のみに設けられている場合について説明したが、対象とする圧延機の入側のみに設ける形態とすることができる。更には、入側と出側のいずれにもカメラ200を設ける形態とすることができる。
【0085】
入側と出側のいずれにも設ける場合、蛇行量演算器20A1は、入側と出側のカメラ200により撮像される圧延材Sの画像に基づいて、圧延機1の幅方向における中心と圧延材Sの幅方向における中心とのズレ、すなわち圧延材Sの蛇行量を求める。
【0086】
このような形態によると、より正確に圧延機位置での蛇行に伴う成分を考慮することができるようになり、より精度良く張力分布を求めることができる、との効果が得られる。
【0087】
<実施例3>
本発明の実施例3の圧延機および圧延方法について図11乃至図13を用いて説明する。図11は本実施例3の圧延機の概略を示す図、図12は形状計の構成の一例を示した図、図13は圧延時の制御の流れを示したフローチャートである。
【0088】
図11に示すように、本実施例の圧延機は、図1に示した実施例1の圧延機1に加えて、ワークロール110A,110Bの出側の圧延材Sにかかる張力に関する情報を取得する張力情報取得装置として、対象の圧延機の出側に圧延材Sの形状からセグメントロール311に作用するトルク分布を取得する形状計300が設けられている。
【0089】
また、本実施例では、制御装置20Bは、蛇行量演算器20B1、張力演算器20B2、圧延機制御器20B3、および水平力演算器20B4を有しており、入側及び出側の第1押圧力、および形状計300による圧延材Sの形状からセグメントロール311に作用するトルク分布データ情報に基づいて圧延材Sの幅方向における張力分布を求める。
【0090】
図12に示すように、形状計300は、駆動モータ301に接続され且つ圧延材Sの幅方向に延設する支持軸302を備えており、この支持軸302にはテーブル303が支持されている。テーブル303は圧延材Sをガイドするガイド部材304と、このガイド部材304を支持するガイド支持部材305とから構成され、ガイド支持部材305の圧延方向下流側の面には、7個の検出器306が支持されている。そして、テーブル303の両側方の支持軸302には、フレーム(図示省略)に支持される軸受307が設けられている。
【0091】
検出器306は、圧延材Sが接触すると連れ回りされるセグメントロール311と、このセグメントロール311を一端間に支持する一対の支持アーム312と、この支持アーム312の他端を支持し且つテーブル303のガイド支持部材305に支持される固定部材313とを備えている。
【0092】
セグメントロール311は支持アーム312の一端に設けられた自動調心ベアリング(図示省略)を介して支持アーム312間に回転可能に支持されている。また、固定部材313には支持シャフト(図示省略)が貫通されており、この支持シャフトの端部には支持アーム312の他端に設けられた自動調心ベアリング(図示省略)に支持されている。そして、支持アーム312の他端と固定部材313との間には、リング状のトルクメータ314,315が介在されており、このトルクメータ314,315の開口部に支持シャフトが貫通されている。また、トルクメータ314,315は制御装置20B内の蛇行量演算器20B1に接続されている。
【0093】
セグメントロール311に圧延材Sが接触すると、その荷重がセグメントロール311に作用し、トルクメータ314,315に伝えられる。
【0094】
トルクメータ314,315では、入力された荷重をセグメントロール311の両端に作用するモーメントとして検出して蛇行量演算器20B1に出力する。
【0095】
蛇行量演算器20B1では、入力されたモーメントからセグメントロール311上における圧延材Sの板端の位置を演算し、この圧延材Sの板端の位置から圧延材Sの蛇行量(圧延スタンド内の走行中心位置に対する圧延材Sの幅方向中心位置とのズレ量)を演算した後、この蛇行量を張力演算器20B2に出力する。
【0096】
張力演算器20B2では、蛇行量演算器20B1から入力された、測定されたトルク分布および蛇行量に基づいて張力分布を演算し、圧延機制御器20B3へ出力する。
【0097】
圧延機制御器20B3は、ワークロール110A,110B及びバックアップロール120A,120Bの水平方向位置調整量を演算し、油圧装置30のシリンダ位置調整器30Aに出力する。
【0098】
油圧装置30のシリンダ位置調整器30Aは、入力された調整量を実現するためのシリンダ位置を演算し、この演算したシリンダ位置に基づいてワークロール用定位置制御装置140B,141Bを制御して、圧延材Sの張力1次成分を減少させるようにワークロール110A,110B及びバックアップロール120A,120Bの水平方向位置を調整して圧延を行う。
【0099】
次に、本実施例に係る圧延機における圧延時の制御の詳細や、圧延方法について、図13を参照して説明する。
【0100】
図13に示す各ステップのうち、ステップS50,S51,S52,S53の各ステップは、図3に示すステップS10,S11,S12,S13と各々が略同じであり、その詳細は省略する。なお、本実施例では、ステップS50,S51,S52,S53の各ステップにおける演算は水平力演算器20B4により実行される。
【0101】
本実施例では、図13に示すように、ステップS50,S51,S52,S53と並行して、形状計300の7台のセグメントロール311の各々の両端に設けた14個のトルクメータ314,315により、トルクを検出し、圧延材Sに作用する幅方向のトルク分布のデータを取得する(ステップS41)。このステップS41が、張力情報取得ステップに相当する。なお、本ステップS41では、圧延材Sが接触している範囲のセグメントロール311のトルクメータ314,315のみ検出するものとすることができる。
【0102】
その後、制御装置20Bの蛇行量演算器20B1において、圧延材Sが接触するセグメントロール311のトルクメータ314,315でのトルク検出値を用いて蛇行量を演算する(ステップS42)。このステップS42が、ズレ演算ステップに相当する。
【0103】
次いで、制御装置20Bの張力演算器20B2は、ステップS42で求めた蛇行量と、ステップS41で検出した全測定トルクを用いて張力1次成分(C1)を算出する(ステップS54)。このステップS54が、張力分布演算ステップに相当する。
【0104】
次いで、制御装置20Bの圧延機制御器20B3および油圧装置30のシリンダ位置調整器30Aにおいて、ステップS54で求めた張力1次成分が低減する方向にワークロールの水平方向位置(傾き)を調整し(ステップS55)、処理を終了する。
【0105】
圧延機は、圧延中に図13に示した各ステップを絶えず実行する。
【0106】
その他の構成・動作は前述した実施例1の圧延機および圧延方法と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0107】
本発明の実施例3の圧延機および圧延方法においても、前述した実施例1の圧延機および圧延方法とほぼ同様な効果が得られる。
【0108】
また、張力情報取得装置は、圧延機1の入側又は出側の少なくとも一方における圧延材Sの形状からセグメントロール311に作用するトルク分布を取得する形状計300を含み、情報は、形状計300で取得された圧延材Sの形状からセグメントロール311に作用するトルク分布データを含み、制御装置20Bは、セグメントロール311に作用するトルク分布に基づいてズレを求めることによっても、蛇行量を演算により求めた値を用いることができるため、蛇行変化に伴う水平力成分変化を捉えることができ、この影響を考慮することで、より精度良く張力分布を求めることができる。したがって、より精度の高い形状制御を実現することができる。
【0109】
<その他>
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0110】
また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【0111】
例えば、上述の各実施例では、ワークロールとバックアップロールをペアとして、上下ペアのロール組を水平面内で軸線を相互にクロスさせるペアクロスミルの場合について説明したが、本発明は上下のワークロールを水平面内で軸線を相互にクロスさせるワークロールクロスミルに対しても適用することができる。
【0112】
また、4段圧延機に適用した場合について説明したが、4段圧延機以外にも6段圧延機に対しても本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0113】
S…圧延材
1…圧延機
20,20A,20B…制御装置
20A1,20B1…蛇行量演算器
20A2,20B2…張力演算器
20A3,20B3…圧延機制御器
20A4,20B4…水平力演算器
30…油圧装置
30A…シリンダ位置調整器
100…ハウジング
110A…上ワークロール
110B…下ワークロール
112A…作業側ロールチョック
112B…駆動側ロールチョック
120A…上バックアップロール
120B…下バックアップロール
130A,130B,131B…ワークロール押圧装置(押圧装置)
140A,140B,141B…ワークロール用定位置制御装置(押圧装置)
150A,150B…バックアップロール押圧装置(押圧装置)
160A,160B…バックアップロール用定位置制御装置(押圧装置)
170…圧下シリンダ
180…ロードセル
200…カメラ(張力情報取得装置)
300…形状計(張力情報取得装置)
301…駆動モータ
302…支持軸
303…テーブル
304…ガイド部材
305…ガイド支持部材
306…検出器
307…軸受
311…セグメントロール
312…支持アーム
313…固定部材
314,315…トルクメータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13