(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】ピロフェオホルバイドコンジュゲート及びがんの処置における蛍光性マーカーとしてのその使用
(51)【国際特許分類】
C07D 519/00 20060101AFI20230620BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230620BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20230620BHJP
A61K 31/522 20060101ALI20230620BHJP
A61K 47/55 20170101ALN20230620BHJP
【FI】
C07D519/00 311
C07D519/00 CSP
A61P35/00 ZNA
A61P35/04
A61K31/522
A61K47/55
(21)【出願番号】P 2020524684
(86)(22)【出願日】2018-07-20
(86)【国際出願番号】 EP2018069836
(87)【国際公開番号】W WO2019016397
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-06-23
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(73)【特許権者】
【識別番号】513005017
【氏名又は名称】サントル・ホスピテリエ・レジオナル・エ・ユニヴェルシテール・ドゥ・リール
(73)【特許権者】
【識別番号】518057608
【氏名又は名称】ユニベルシテ・ドゥ・リール
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】512079439
【氏名又は名称】ユニベルシテ ドゥ ロレーヌ
(73)【特許権者】
【識別番号】507002284
【氏名又は名称】アンスティテュ・パステュール・ドゥ・リル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アンリ・アゼ
(72)【発明者】
【氏名】ピエール・コリネ
(72)【発明者】
【氏名】ナディラ・デレム-フェライ
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・モラレス
(72)【発明者】
【氏名】セルジュ・モルドン
(72)【発明者】
【氏名】セリーヌ・フロショ
(72)【発明者】
【氏名】レジス・バンデレス
(72)【発明者】
【氏名】オレリー・スタリヴィエリ
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-518890(JP,A)
【文献】特表2009-511456(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102895670(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106279212(CN,A)
【文献】Bioorg. Med. Chem.,2015年,23,1453-1462
【文献】Bioorg. Med. Chem.,2005年,13,2799-2808
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61P 35/00
A61P 35/04
A61K 31/522
A61K 47/55
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物
【化1】
及び薬学的に許容されるその塩。
【請求項2】
医薬品として使用するための、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
がんの処置において使用するための、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
光線力学的治療によるがんの処置において使用するための、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
転移を発症する危険性の低下において使用するための、請求項3又は4に記載の化合物。
【請求項6】
がんが、卵巣、肺、腎臓、子宮内膜、結腸直腸又は乳房のがん、膵臓がん、脳、胃、肝臓、前立腺、精巣、膀胱、又は頭頸部のがんから選択される、使用するための、請求項3又は4に記載の化合物。
【請求項7】
がんが、卵巣がんである、使用するための、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
腹腔内又は静脈内投与されることを企図される、使用するための、請求項2から7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
式(I)の化合物を調製するための方法であって、
【化2】
式(II)の化合物
【化3】
及び葉酸をカップリングする工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項10】
式(I)の化合物を調製するための方法であって、
(a)式(IV)の化合物
【化4】
及びN-Boc-2,2'-(エチレンジオキシ)ジエチルアミンをカップリングして、式(III)の化合物を得る工程と、
【化5】
b)工程a)で得られた式(III)の化合物を脱保護して、式(II)の化合物を得る工程と、
【化6】
c)工程b)で得られた式(II)の化合物及び葉酸をカップリングして、式(I)の化合物を得る工程と
【化7】
を含むことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1に記載の式(I)の化合物
を含む蛍光性マーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光増感剤の分野に関し、より具体的には、がん、特に卵巣がんを処置するための光線力学的治療プロトコールにおけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
卵巣がんは、フランスでは毎年4500の新規症例を示している。症例の大部分は、国際産婦人科連合(FIGO)のステージIII及びIVと診断され、疾患の進行と共に生存率が低下することから、疾患の予後不良は、診断の遅延に結び付けられる。卵巣がんは、米国及び西ヨーロッパにおいて、婦人科がんによる死亡の大部分を占めている。フランスでは毎年、およそ3500人が卵巣がんに起因して死亡している。
【0003】
この疾患は、しばしば進行して、腹骨盤腔の器官表面に存在する数々の腫瘍に相当する腹膜上皮悪性癌腫症の形態で、転移を出現させる。腹膜は、腹部、骨盤及び内臓を覆って腹膜腔の仮想的な空間の境界を定める、連続的な漿膜(中皮細胞の単層によって形成される)である。内臓腹膜(器官の外部を覆う)と壁側腹膜(腹部壁の内側面を覆う)は、区別される。
【0004】
現在の治療は、可能な場合には、手術を、白金塩の使用に基づく化学療法と組み合わせ、ある特定の場合には標的治療と組み合わせる。手術後に残存病変が存在しないことは、良好な予後の主要因子であることが認められている。したがって、腫瘍の生着のすべてを根絶するための手術処置の能力は、決定的である。全身性アジュバント又はネオアジュバント化学療法は、特に初期段階で、生存率を5年に改善することができており、ステージI及びIIについては、カルボプラチン及びパクリタキセルを組み合わせる3サイクルの化学療法後に81%である。最大限の細胞切除の文脈では、肉眼(macroscopically)での完全な腫瘍低減手術の補助として、腹腔内化学療法及び腹腔内光線力学的治療等の治療戦略が想定され得る。数々の臨床治験が行われているにもかかわらず、この適応における腹腔内化学療法の利益は実証されておらず、この選択肢は臨床治験外では推奨されない。
【0005】
温熱療法を伴う又は伴わない腹腔内化学療法とは対照的に、早期病変を選択的に、且つこれらの病変だけを標的にする光増感剤に頼ることにより、腫瘍組織内で光増感剤の存在下のみで光の作用が生じるので、処置の毒性を低減することが可能になるはずである。手術中に見落とされる顕微鏡的転移を処置することを可能にすることもできる。したがって、卵巣腫瘍細胞によって過剰発現された受容体を標的にする、より特異的な光増感剤に頼ることにより、光線力学的治療(PDT)の有効性を強化することができる。
【0006】
この文脈では、Schneider等(Bioorganic & Medicinal Chemistry、2005、13、2799~2808頁)は、光線力学的治療における適用に有利な蛍光特性及び抗増殖特性の両方を有する、葉酸とコンジュゲートしたトリフェニルポルフィリニル(triphenylporphyrinyl)単位(TPP-FA)を含む光増感剤を合成した。より具体的には、Azais等(Photodiagnosis and Photodynamic Therapy、2016、13、130~138頁)は、この光増感剤が、卵巣上皮がんの腹膜転移に特に特異的であることを動物モデルで実証し、したがって、それを腹腔内光線力学的治療プロトコールの開発において使用しても、患者にとって毒性とならないことを示唆した。しかし、この光増感剤は、一方では非常に弱い蛍光を示すことから、婦人科医によって一般に使用される医療機器を用いる検出が阻まれ、他方では安定性が低い。
【0007】
You等(Bioorganic & Medicinal Chemistry、2015、23、1453~1462頁)は、フェオホルバイド-aコンジュゲート、特にポリエチレングリコールタイプのスペーサアームを介して葉酸とコンジュゲートしたフェオホルバイド-a単位を含む光増感剤(Pheo-PEG-FA)も開発した。特にYou等は、この光増感剤(Pheo-PEG-FA)が、葉酸受容体を標的にし、したがってその蛍光特性を視野に入れて、葉酸受容体を過剰発現するがんを処置するための光線力学的治療プロトコールにおいて使用できることを示した。しかし、この光増感剤は、相対的に中程度の蛍光を示す。
【0008】
したがって現在、光線力学的治療において使用される新しい光増感剤を開発することが、実際に必要とされている。これらの光増感剤は、良好な治療有効性を有し、且つ健康な組織を損傷しないように病変を選択的に標的にしなければならず、医療機器を用いてこれらの病変を可視化するために十分な蛍光を有していなければならない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Schneider等(Bioorganic & Medicinal Chemistry、2005、13、2799~2808頁)
【文献】Azais等(Photodiagnosis and Photodynamic Therapy、2016、13、130~138頁)
【文献】You等(Bioorganic & Medicinal Chemistry、2015、23、1453~1462頁)
【文献】Berge等(J. Pharm. Sci. 1977、66(1)、1~19頁)
【文献】Munck等(Photodiagnosis and Photodynamic Therapy、2016、16、23~26頁)
【文献】Guyon等(Journal of Biomedical Optics、2012、17(3))
【文献】Assaraf等(Drug resistance Updates、2014、17、89~95頁)
【文献】Rose等、Am. J. Obstet. Gynecol. 1996、175(3 Pt 1)、593~9頁
【文献】Azais等(Int J Gynecol Cancer 2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者等は、この問題に直面して、優れた収量を保証する方法を用いることによって、ポリエチレングリコールタイプのスペーサアームを介して葉酸とコンジュゲートしたピロフェオホルバイド-a単位を含む新しい光増感剤(Pyro-PEG-FA)を合成した。この光増感剤の分析によって、前述の構造的に類似のコンジュゲートと比較して改善された物理化学的特性を実証し、良好な光安定性を実証することも可能になった。本発明者等はまた、この新しい光増感剤によって、抗腫瘍性エフェクター免疫応答の質を損なうことなく、卵巣上皮がんの顕微鏡的な腹膜転移を特異的に標的にすることが可能になることを実証した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明は、式(I)の化合物
【0012】
【0013】
及び薬学的に許容されるその塩に関する。
【0014】
本発明はまた、医薬品としての、式(I)のこの化合物の使用に関する。
【0015】
本発明の特定の一実施形態によれば、式(I)の化合物は、特に光線力学的治療によるがんの処置のために使用される。特に、本発明の式(I)の化合物は、転移を発症する危険性を低減するために使用される。好ましくは、式(I)の化合物は、卵巣、肺、腎臓、子宮内膜、結腸直腸又は乳房のがん、膵臓がん、脳、胃、肝臓、前立腺、精巣、膀胱、又は頭頸部のがんから選択されるがんを処置するために使用される。より優先的には、式(I)の化合物は、卵巣がんを処置するために使用される。
【0016】
別の特定の実施形態によれば、式(I)の化合物は、腹腔内又は静脈内投与されることを企図される。
【0017】
本発明の別の主題は、先に提示される式(I)の化合物を調製するための方法であって、式(II)の化合物
【0018】
【0019】
及び葉酸をカップリングする工程を含む、方法に関する。
【0020】
本発明の別の主題はまた、蛍光性マーカーとしての、先に提示される式(I)の化合物の使用に関する。
【0021】
本発明の別の主題はまた、対象において画像化するための方法であって、前記対象に予め投与され、光源によって光活性化された式(I)の化合物によって放出された蛍光を可視化する工程を含む、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】式(I)のPyro-PEG-FA化合物を合成するための方法を示す図である。
【
図2】葉酸(FA)、式(I)のPyro-PEG-FA化合物(Pyro-S-FA)、Pheo-PEG-FA化合物(Pheo-S-FA)、及びTPP-FA化合物(P1-S-FA)の経時的な光分解(365nm、5mW/cm
2、DMSO中[0.45mM])を示す図である。
【
図3A】PDTに晒したSKOV-3(A)及びOVCAR-3(B)卵巣腫瘍細胞におけるATPの相対量の測定を示す図である。
【
図3B】OVCAR-3卵巣腫瘍細胞によるサイトカイン分泌に対するPDTの影響を示す図である。
【
図4A】腹膜上皮悪性癌腫症を発症している免疫担当性ラット(immunocompetent rat)において、式(I)のPyro-PEG-FA化合物を注射した後の腹腔鏡検査画像の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者等によって以下の実施例において示され、実証される通り、本発明は、
i)卵巣上皮がんの顕微鏡的腹膜転移を、特異的に標的にすることを可能にし、
ii)良好な治療有効性を有しており、
iii)従来の医療機器を用いることによって、病変を可視化するのに十分な蛍光を提供し、
iv)その合成のための工程が少なくて済み、
v)免疫細胞増殖を活性化する、
葉酸とカップリングした式(I)の新しい光増感剤を提供する。
【0024】
式(I)のPyro-PEG-FA化合物
したがって、本発明は、式(I)の化合物
【0025】
【0026】
及び薬学的に許容されるその塩に関する。
【0027】
式(I)のこの化合物は、ポリエチレングリコールタイプのスペーサアームを介して葉酸とコンジュゲートしたピロフェオホルバイド-a単位を含むコンジュゲート化合物(Pyro-PEG-FA)である。ピロフェオホルバイド-a単位は、病変を視覚化するのに満足な蛍光を式(I)の化合物に与える。ポリエチレングリコールタイプのスペーサアームは、ポリエチレングリコールの2つのモノマーPEG2を含む。葉酸単位は、葉酸受容体を特異的に標的することを可能にする。本説明では、式(I)の化合物は、「Pyro-PEG-FA」又は「Pyro-PEG2-FA」によって表される。
【0028】
「薬学的に許容されるその塩」という表現は、所望の生物活性を有する式(I)の対象となる化合物の塩を示す。薬学的に許容される塩は、特定の化合物中に存在する酸性又は塩基性基の塩を含む。薬学的に許容される酸付加塩は、それに限定されるものではないが、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩(hydriodide)、硝酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、イソニコチン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、パントテン酸塩、酒石酸水素塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ゲンチジン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩(glucaronate)、サッカリン酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩及びp-トルエンスルホン酸塩及びパモ酸塩(すなわち、1,1'-メチレンビス(2-ヒドロキシ-3-ナフト酸塩))を含む。適切な塩基性塩は、それに限定されるものではないが、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、亜鉛及びジエタノールアミン塩を含む。薬学的に許容される塩の一覧は、特にBerge等(J. Pharm. Sci. 1977、66(1)、1~19頁)の総説に公開されている。
【0029】
式(I)の化合物は、式(II)の化合物
【0030】
【0031】
及び葉酸をカップリングする工程を含む簡単な方法を用いることによって、合成することができる。
【0032】
より具体的に、式(I)の化合物は、Boc sciences社によって販売されている式(IV)のピロフェオホルバイド-aから出発する3つの工程を含む方法を用いることによって、合成することができる。好ましい一実施形態によれば、式(I)の化合物は、
(a)式(IV)の化合物
【0033】
【0034】
及びN-Boc-2,2'-(エチレンジオキシ)ジエチルアミンをカップリングして、式(III)の化合物を得る工程と、
【0035】
【0036】
b)工程a)で得られた式(III)の化合物を脱保護して、式(II)の化合物を得る工程と、
【0037】
【0038】
c)工程b)で得られた式(II)の化合物及び葉酸をカップリングして、式(I)の化合物を得る工程と
【0039】
【0040】
を含む方法を用いることによって調製される。3つの工程だけを必要とするこの簡単な方法によって、You等の化合物(Pheo-PEG-FA)を使用する方法を用いることによって得られる収量と比較して特に高く、非常に満足な収量で式(I)の化合物を得ることが可能になる。したがってこの方法は、より有利であり、産業上の利用に適している。
【0041】
適用
前述の式(I)の化合物は、好ましくはがんの処置における医薬品として使用することができる。
【0042】
本発明の目的では、「処置」及び「処置する」という用語は、疾患又は障害、好例としてがんの改善、予防又は逆転を示す。「がんの処置」という用語は、同様に、転移の数の減少及び/又は転移を発症する危険性の低下を意味することを企図される。転移の処置の文脈では、その目的は、特に、がんの発症に関して患者の再発率又は再燃率を低減することである。「がんの処置」という用語は、がん細胞増殖の阻害を意味することも企図される。
【0043】
特定の作用機序に拘泥するものではないが、式(I)の化合物は、免疫系を活性化し、したがってがんとの戦いに寄与することを可能にする。したがって、免疫療法による、特に光線力学的処置後の免疫系の活性化によるがんの処置において、本発明による式(I)の化合物を使用することが提案される。
【0044】
より具体的に、式(I)の化合物は、光線力学的治療によるがんの処置において使用される。
【0045】
一般にPDTの頭字語で呼ばれる光線力学的治療は、病理組織を、光活性化可能な分子(光増感剤又は光感作剤と呼ばれる)、好例として本発明の文脈における式(I)の化合物と接触させ、次にこの組織に、光増感剤の活性化特徴に適した波長(色)を有する光を照射することからなる。光による分子の活性化及び組織の酸素との反応の後、非常に毒性の種が局所的に生成されて、最終的にがん病変の破壊を誘導する。PDTの主な利点は、その選択性である。実際、使用される光は、それ自体有害ではなく、光を伴わない光増感剤には、毒性がない。反応を誘導するためには、光、光増感剤及び酸素の作用の組合せが必要である。したがって、光増感剤の濃度及び光の線量を最適化することによって、細胞を選択的に破壊することが可能である。
【0046】
したがって、本発明はまた、がんの処置において使用するための前述の式(I)の化合物に関し、ここで、有効用量の式(I)の化合物は、後に光源に曝露されるがん細胞及び/又は転移と接触させられる。
【0047】
本発明はまた、がんを処置するための方法であって、がん細胞を、有効用量の前述の式(I)の化合物と接触させ、がん細胞を光源に曝露する工程を含む、方法に関する。
【0048】
「有効用量」という用語は、満足な蛍光を得、したがって所望の治療効果を得るのに十分な用量を意味することを企図される。当業者は、この用量を、処置されるがんの重症度及び種類の関数として調整することができる。それにもかかわらず、式(I)の化合物の有効用量は、0.1mg/kg~100mg/kgの間、0.1mg/kg~50mg/kgの間、0.1mg/kg~10mg/kgの間、好ましくは0.1mg/kg~5mg/kgの間、及び更により好ましくは0.1mg/kg~3mg/kgの間で構成され得る。
【0049】
光増感剤、好例として本発明の文脈における式(I)の化合物の光活性化は、当業者に公知の任意の種類の光源によって得ることができる。特に、光活性化は、紫外若しくは赤外タイプの放射線等の放射線を用いる人工光(ランプ、レーザー)によって、又は可視光若しくは自然光によって行うことができる。ヒトの身体腔内に置かれる光デバイスを用いることによる適切な照射方法は、処置されるがんの種類の関数として、当業者によって選択される。例えば、肝臓がんでは、光デバイスは、腹膜腔内に置かれる。卵巣がんでは、光デバイスは、骨盤腔内等に置かれる。光デバイスの非限定的な例として、Munck等(Photodiagnosis and Photodynamic Therapy、2016、16、23~26頁)によって記載されている光バルーン、又はGuyon等(Journal of Biomedical Optics、2012、17(3))によって記載されている発光テキスタイル(LEF)を挙げることができる。
【0050】
使用される光の波長は、最も有効な光増感剤の効果を得るために選択される。特に、300~800nmの間、好ましくは400~700nmの間、及びより好ましくは約668nmの波長が使用される。
【0051】
照射は、一般に1~200ジュール/cm2の間、好ましくは1~150ジュール/cm2の間、及び更により好ましくは約150ジュール/cm2の線量で適用される。細胞には、1~10ジュール/cm2の間の線量が一般に適用される。
【0052】
好ましくは、1~150mW/cm2、1~100mW/cm2、30~70mW/cm2、好ましくは約50mW/cm2の光強度の光源が使用される。細胞には、1~10mW/cm2、又は更に良好にはおよそ5mW/cm2の光強度の光源が使用される。
【0053】
光増感剤の光活性化及び光源へのがん細胞への曝露は、1分間~3時間、10分間~2時間、30分間~90分間の範囲の期間、好ましくは1時間又は60分間の期間にわたって行うことができる。
【0054】
本願に記載される本発明は、優先的にヒトで行われる。
【0055】
式(I)の化合物は葉酸単位を有しており、したがって葉酸受容体を発現する任意の種類のがんのための光線力学的治療による処置の文脈において使用することができる。葉酸受容体を発現するこれらのがんの一覧は、Assaraf等(Drug resistance Updates、2014、17、89~95頁)に記載されており、それには、特に卵巣、肺、腎臓、子宮内膜、結腸直腸及び乳房のがん、膵臓がん、脳、胃、肝臓、前立腺、精巣及び膀胱のがん、又は頭頸部がんが含まれる。
【0056】
本発明の好ましい一実施形態によれば、がんは、卵巣、肺、腎臓、子宮内膜、結腸直腸及び乳房のがん、膵臓がん、脳、胃、肝臓、前立腺、精巣及び膀胱のがん、又は頭頸部がんから選択される。更により好ましい実施形態によれば、がんは、卵巣がんである。
【0057】
式(I)の化合物は、処置されるがんの種類の関数として、当業者に公知の任意の種類の経路によって、患者に投与することができる。例えば、卵巣がんを処置するためには、腹腔内経路又は静脈内経路を使用することができる。本発明の好ましい一実施形態によれば、式(I)の化合物は、腹腔内又は静脈内、好ましくは静脈内投与されることが企図される。
【0058】
式(I)の化合物は、その改善された吸収特性及び蛍光特性を考慮すると、蛍光性マーカーとして使用することができる。例えば、蛍光性マーカーとしての式(I)の化合物は、蛍光ガイド手術によるがんの処置、及び/又は画像化方法若しくは診断方法において使用することができる。
【0059】
したがって、対象のがんを画像化又は診断するための方法であって、前記対象に式(I)の化合物を投与し、式(I)の化合物を照射又は光活性化し、放出された蛍光を可視化する工程を含む、方法が記載される。この方法によって、がん細胞に過剰発現する葉酸受容体を可視化することが可能になる。したがって、この画像化によって、がん帯域の境界を定め、また適切な場合にはアブレーションタイプの手術行為を導くことが可能になる。
【0060】
したがって、本発明の主題は、対象において画像化するための方法であって、前記対象に予め投与され、光源によって光活性化された式(I)の化合物によって放出された蛍光を可視化する工程を含む、方法である。
【0061】
式(I)の化合物は、その同じ特性を考慮すると、一般的な座瘡又は皮膚老化の処置である光若返り等の化粧的及び皮膚科学的適用における光増感剤として使用することもできる。
【0062】
したがって、本発明はまた、光増感剤としての、前述の式(I)の化合物の非治療的な使用に関する。
【0063】
本発明の他の態様及び利点は、例示的且つ非限定的であるとみなされるべきである以下の実施例を読み取ることによって明らかになろう。
【実施例】
【0064】
(実施例1)
本発明による式(I)のPyro-PEG-FAコンジュゲート及びYou等のPheo-PEG-FAコンジュゲートの合成
Pyro-PEG-FAコンジュゲートを合成するための3つの工程を含む方法を、以下に記載し、
図1によっても例示する。
【0065】
工程a)Pyro-PEG-NHBoc(式III)の合成
ピロフェオホルバイド-a100mg(0.19mmol)、N-Boc-2,2'-(エチレンジオキシ)ジエチルアミン46.4mg(0.19mmol)、EDC71.7mg(0.38mmol)及びDMAP30.5mg(0.25mmol)を、THF30mlに溶解させた。反応混合物を、周囲温度において窒素雰囲気下で、暗所中、24時間撹拌した。次に、溶媒を留去した。粗製材料を、シリカゲルクロマトグラフィーカラムでCH2Cl2中5%EtOHを用いて精製した。Pyro-PEG-NHBoc化合物は、暗緑色固体の形態で、収率92%(132mg)で得られる。Rf=0.27(CH2Cl2/EtOH=95/5、v/v)。1H NMR(300MHz、DMSO-d6):δ(ppm)=-2.01(s, 2H, NH, Pyro(a)-COOH)、1.30(s, 9H, Boc)、1.60(t, 3H, CH3, Pyro(a)-COOH)、1.79(d, 3H, CH3, Pyro(a)-COOH)、2.98(q, 2H, CH2)、3.15、3.35、3.59(3×s, 3H×3, CH3, Pyro(a)-COOH)、3.46(q, 2H, CH2)、3.60(m, 8H, CH2)、3.65(m, 2H, CH2, Pyro(a)-COOH)、4.31、4.56(2×d, 1H×2, CH, Pyro(a)-COOH)、5.16(q, 2H, CH2, Pyro(a)-COOH)、6.34、6.40(2×d, 1H×2, =CH2, Pyro(a)-COOH)、6.66(s, 1H, NH-スペーサ)、7.83(t, 1H, NH-スペーサ)、8.19(q, 1H, -CH=, Pyro(a)-COOH)、8.88、9.38、9.65(3×s, 1H×3, CH, Pyro(a)-COOH)。HRMS(ESI+):C44H56N6O6[M+H]+についてのm/z算出値765.4334、実測値765.4304。
【0066】
工程b)Pyro-PEG-NH2(式II)の合成
Pyro-PEG-NHBoc化合物を、TFA2mlに溶解させた。溶液を、周囲温度において、暗所中及び窒素下で2時間撹拌し、次にTFAを除去するために凍結乾燥させた。有色の残留物をCH2C12(10ml)に溶解させ、色が青色から緑色に変化するまで、無水炭酸カリウムを添加した。濾過後、有機相を濃縮した。粗製材料を、シリカゲルクロマトグラフィーカラムで、CH2C12/EtOH(90:10~50:50、v/v)を用いて精製して、Pyro-PEG-NH2(103mg、90%)を緑色固体の形態で得た。Rf=0.17(CH2C12/EtOH=1:1、v/v)。1H NMR(300MHz、DMSO-d6):δ(ppm)=-1.94(s, 2H, NH, Pyro(a)-COOH)、1.63(t, 3H, CH3, Pyro(a)-COOH)、1.79(d, 3H, CH3, Pyro(a)-COOH)、2.87(t, 2H, CH2)、3.17(q, 2H, CH2)、3.23~3.62(3×s, 3H×3, CH3, Pyro(a)-COOH)、3.50(s, 8H, CH2)、3.71(m, 2H, CH2, Pyro(a)-COOH)、4.30、4.58(2×d, 1H×2, CH, Pyro(a)-COOH)、5.17(q, 2H, CH2, Pyro(a)-COOH)、6.22、6.39(2×d, 1H×2, =CH2, Pyro(a)-COOH)、7.98(t, 1H, NH)、8.18(s, 2H, NH2)、8.24(q, 1H, -CH=, Pyro(a)-COOH)、8.90、9.45、9.73(3×s, 1H×3, C20-10-5, Pyro(a)-COOH)。HRMS(ESI+):C39H48N6O4[M+H]+についてのm/z算出値665.3810、実測値665.3801。
【0067】
工程c)Pyro-PEG-FA(式I)の合成
葉酸(0.95当量、63mg)及びDCC(1当量、31mg)を、無水DMSO(5ml)及びピリジン(2ml)の混合物に溶解させた。混合物を、周囲温度において、暗所中及び窒素下で15分間撹拌した。次に、Pyro-PEG-NH2(0.9当量)を添加し、反応混合物を周囲温度で24時間撹拌した。溶液を、激しく撹拌した冷却ジエチルエーテル(45ml)にゆっくり注いだ。得られた沈殿物を遠心分離によって収集し、ジエチルエーテル(50ml)で洗浄した。Pyro-PEG-FA粉末を、真空乾燥させた(107mg、69%)。1H NMR(300MHz、DMSO-d6):-1.97(s, 2H, NH, Pyro(a)-COOH)、1.62(t, 3H, C8:CH3, Pyro(a)-COOH)、1.76(d, 3H, C18:CH3, Pyro(a)-COOH)、4.32(2H, CH+C17, FA+Pyro(a)-COOH)、4.40(d, 2H, CH2, FA)、4.56(d, 1H, C18, Pyro(a)-COOH)、5.17(q, 2H, C13:CH2, Pyro(a)-COOH)、6.21、6.50(2×d, 1H×2, C3:=CH2, Pyro(a)-COOH)、6.60(d, 2H, CHarom., FA)、7.29(br, 3H, NH+NH2)、7.61(d, 2H, CHarom., FA)、7.81(s, 2H, NH2)、7.92(d, 1H, NH, FA)、8.20(q, 1H, C3:-CH=, Pyro(a)-COOH)、8.59(d, 1H, CHarom., FA)、8.88、9.42、9.68(3×s, 1H×3, C20-10-5, Pyro(a)-COOH)。HRMS(ESI+): C58H65N13O9 [M+Na]+についてのm/z算出値1110.4920、実測値1110.4872。
【0068】
You等のコンジュゲート(Pheo-PEG-FA)を、前述のものと同じ3工程法に従って合成した。3つの工程のそれぞれについて得られた収率を、以下のTable 1(表1)に記載する。
【0069】
【0070】
驚くべきことに、前述の合成方法によって、You等の化合物と比較して2倍高い合計収率で式(I)の化合物を得ることが可能になる。したがって、式(I)の化合物の合成は、特に経済的観点から、You等の化合物の合成よりも工業的に有利である。
【0071】
(実施例2)
本発明による式(I)のPyro-PEG-FAコンジュゲート、You等のPheo-PEG-FAコンジュゲート、及びSchneider等のTPP-FAコンジュゲートの光物理的特性
材料及び方法
吸収スペクトルを、UV-3600ダブルビームUV可視分光光度計(島津製作所社、フランス、マルヌ=ラ=ヴァレ)を用いて測定した。蛍光スペクトルを、450Wキセノンアークランプ、恒温(25℃)キュベットホルダー区画、R928 UV可視光電子増倍管(浜松ホトニクス社、日本)及び液体窒素冷却InGaAs赤外検出器(DSS-16A020L Electro-Optical System社、USA、ペンシルベニア州、フェニックスビル)を備えたFluorolog FL3-222分光蛍光光度計(Horiba Jobin Yvon社、フランス、ロンジュモー)を用いて測定した。励起ビームを、SPEXダブルグレーティングモノクロメーターによって回折させる(1200ライン/mm、330nmでブレーズド)。蛍光を、UV可視検出器によって、SPEXダブルグレーティング発光モノクロメーター(1200ライン/mm、500nmでブレーズド)を介して測定した。一重項酸素の生成を、赤外検出器によって、SPEXダブルグレーティング発光モノクロメーター(600ライン/mm、1μmでブレーズド)及び780nmの高域フィルタを介して測定した。すべてのスペクトルを、4面石英キュベットを使用して測定した。すべての発光スペクトル(一重項酸素蛍光及び発光)を、ランプ及び光電子増倍管補正を用いて同じ吸光度(0.2未満)に関連し戻した。
【0072】
蛍光量子収率を、等式(1)によって決定した。
【0073】
【0074】
式中、φf及びφfo、If及びIfo、OD及びODo、n及びnoは、それぞれ、試料及び参照の量子収率、蛍光強度、光学密度、及び屈折率である。
【0075】
蛍光量子収率を算出するために使用する参照は、φfo0.11を有するトルエン中テトラフェニルポルフィリンである。
【0076】
一重項酸素生成についての量子収率を、等式(2)によって決定する。
【0077】
【0078】
式中、φΔ及びφΔo、I及びIo、OD及びODoは、それぞれ、試料及び参照の一重項酸素生成についての量子収率、一重項酸素生成強度及び光学密度である。
【0079】
一重項酸素生成についての量子収率を算出するために使用する参照は、φΔo0.68を有するエタノール中ローズベンガルである。
【0080】
蛍光寿命実験は、励起についてはPDL 800-Dパルス発生器(PicoQuant GmbH社、ドイツ、ベルリン)につないだ407nmで放出するパルスレーザーダイオード(LDH-P-C-400M、FWHM<70ps、1MHz)を使用し、検出については650nmの高域フィルタにつないだSPCM-AQR-15アバランシェフォトダイオード(EG & G社、カナダ、ヴォードライユ)を使用して行った。
【0081】
取得を、PHR-800 4-チャネルルーター(PicoQuant GmbH社、ドイツ、ベルリン)に連結したPicoHarp 300モジュールを使用して行った。蛍光減退を、単光子計数法(時間相関単一光子計数技術 TCSPC)を使用して記録した。チャネルに蓄積した1000カウントが得られるまでデータを収集し、次に、TCSPC Fluofitソフトウェア(PicoQuant GmbH社、ドイツ、ベルリン)を使用し、多次指数関数的減衰を得ることができるLevensberg-Marquandtアルゴリズムを使用して、反復再畳み込みに基づいて分析した。
【0082】
一重項酸素の寿命測定は、415nmで放出するSpectraLED-415パルス励起ダイオード、キュベットホルダー区画、瀬谷波岡型の発光モノクロメーター(600~2000nm)及びH10330-45熱電制御型の近赤外線光電子増倍管(浜松ホトニクス社、日本)から構成されたTempro-01分光光度計(Horiba Jobin Yvon社、フランス、ロンジュモー)を用いて行った。アセンブリは、FluoroHub-B計数モジュール及びDataStation及びDAS6ソフトウェア(Horiba Jobin Yvon社)によって調節する。
【0083】
発光スペクトル及びリン光の寿命測定は、450W連続キセノンランプ、キセノンフラッシュランプ、恒温(25℃)キュベットホルダー区画、及びR928 UV可視光電子増倍管(浜松ホトニクス社、日本)を備えたFluorolog FL3-22分光蛍光光度計(Horiba Jobin Yvon社、フランス、ロンジュモー)を用いて行った。アセンブリは、FluoroHub-B計数モジュールによって調節する。発光スペクトルについてはFluorEssenceソフトウェア(Horiba Jobin Yvon社)を使用し、リン光寿命の測定についてはDataStation及びDAS6ソフトウェア(Horiba Jobin Yvon社)を使用した。
【0084】
結果
エタノールにおける光物理的特性を、以下のTable 2(表2)に示す。
【0085】
【0086】
本発明の式(I)のPyro-PEG-FA化合物は、You等のPheo-PEG-FA化合物の吸収を超える吸収を示している。特に、臨床で使用される励起波長におけるモル吸光係数(εQI)は、1.5倍高い。
【0087】
本発明の式(I)のPyro-PEG-FA化合物は、Schneider等のTPP-FA化合物の吸収を超える吸収を示している。特に、本発明の化合物は、668nmにおける吸収ピークを有しており、これはTPP-FA化合物(643nmにおける吸収ピーク)よりも良好に透過する、より好ましい値である。更に、蛍光量子収率(φF)及びモル吸光係数(εQI)は、本発明の化合物の方がそれぞれおよそ3倍及び10倍高い。
【0088】
結論として、本発明の式(I)のPyro-PEG-FA化合物は、You等のPheo-PEG-FA化合物及びSchneider等のTPP-FA化合物と比較して、吸収に関して改善された光物理的特性を有している。
【0089】
(実施例3)
本発明による式(I)のPyro-PEG-FAコンジュゲート、You等のPheo-PEG-FAコンジュゲート、及びSchneider等のTPP-FAコンジュゲートの光安定性
材料及び方法
PS-アーム-葉酸(式(I)のPyro-PEG-FA)(0.45mM)のDMSO(3ml)溶液に、2時間照射した(λ=365nm、5mW.cm-2、Xe-Hgランプ、Lightningcure(商標)LC5、浜松ホトニクス社)。溶液100μlを15分ごとに取り出し、メタノール1.9mlで希釈した。各試料(40μl)を、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)によって、Prostar HPLC装置(Varian社)で分析した。HPLCは、Pursuit 5-C18カラム(2.5μm、4.6×150mm、Varian社)で、アセトニトリル/(水+0.1%TFA)勾配[10%:90%]~[0%:100%]を25分間にわたって使用し、その後、均一濃度プラトーのアセトニトリルを10分間使用し、次に初期条件に5分間戻して行った。分解の百分率を、初期コンジュゲート及び分解したコンジュゲートに対応するピーク面積を比較することによって算出した。
【0090】
【0091】
本発明の式(I)のPyro-PEG-FA化合物は、You等のPheo-PEG-FA化合物及びSchneider等のTPP-FA化合物よりも非常に安定である。実際、2時間(120分)照射した後、本発明のPyro-PEG-FA化合物は、5%の分解を示した一方、Pheo-PEG-FA及びTPP-FA化合物は、30~40%が分解されている。
【0092】
したがって、本発明の式(I)のPyro-PEG-FA化合物は、その良好な光安定性を考慮すると、光線力学的治療適用により適している。
【0093】
(実施例4)
In vitro生物学的評価
4.1.腫瘍細胞及びそのセクレトームに対する光線力学的治療の影響
材料及び方法
I.細胞培養
SKOV-3及びOVCAR-3卵巣腫瘍株を、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(ATCC)から購入した。SKOV-3細胞を、50%DMEM(4.5g/LのD-グルコース、L-グルタミン;Gibco社)及び50%F-12(栄養混合物F-12ハム、Gibco社)中で培養し、OVCAR-3細胞を、1%の2mM L-グルタミン、0.02mMのピルビン酸ナトリウム、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン及び10%の非働化(decomplemented)ウシ胎仔血清(Gibco社)を含有するRPMI-1640中で培養した。
【0094】
II.光線力学的治療
百万個の細胞を、25cm2のフラスコ中で沈着させ、24時間後、完全培地を、本発明の式(I)のPyro-PEG-FA化合物(PS)(培地100ml当たり1mg)を含有する培地で置き換えた。24時間後、PSを含有する培地を、PBS(Gibco BRL、Invitrogen社、GB)で2回すすいだ後、完全培地で置き換えた。最後に、細胞を、特異的波長(668nm)のレーザーに1時間晒した。24時間後、上清を回収し、遠心分離して懸濁液中の腫瘍細胞を除去し、次に-20℃で凍結させた。非処置SKOV-3及びOVCAR-3腫瘍細胞(NT)、PSと接触させたが照射しなかった細胞(+PS)、照射だけを行った細胞(+illu)の3つの対照、並びにPDTに晒した細胞(PDT)を使用した。
【0095】
III.PBMC単離
末梢血単核細胞(PBMC)を、1体積の無菌PBS(Gibco BRL、Invitrogen社、GB)で希釈した血液試料から単離し、Ficoll-Paque(商標)Plus(Amersham Biosciences AB社、スウェーデン)密度勾配で沈着させた。400gで40分間、減速なしに遠心分離した後、単核細胞のリングを回収し、PBSで2回洗浄し(300g、10分)、次に濾過した。
【0096】
IV.リアルタイム定量的PCR
1.RNA抽出
NK細胞、Bリンパ球、CD4+リンパ球、制御性Tリンパ球(Treg)及びCD8+リンパ球からのRNAの抽出を、細胞2×105個の乾燥ペレットから、RNeasy Plus Mini抽出キット(Qiagen社、ドイツ、ヒルデン)を用いて製造者の指示に従って行った。RNAse/DNaseを含まない水(超高純度蒸留水、Gibco BRL、Invitrogen社、GB)30μlを、RNA溶出のために使用した。SKOV-3、OVCAR-3及びPBMCのRNA抽出を、トリゾール(Invitrogen社、ニュージーランド)1mlに溶解させた細胞106個のペレットから、製造者の指示に従って行った。ペレットを、RNAse/DNaseを含まない水10μlに可溶化させた。RNA定量化を、分光光度法(Ultraspec 3100 Pro、Amersham Biosciences社、USA)によって行った。全RNAを-80℃で保存した。1%アガロースゲル電気泳動法(超高純度アガロース、Invitrogen社、USA)によって、抽出されたRNAの完全性を検証することが可能になる。
【0097】
2.逆転写
Superscript II逆転写酵素キットを、RTのために使用した(Gibco BRL、Invitrogen社、GB)。cDNAを、体積15μlの水中、2μg/μlの全RNAから合成した。次に、1μlのオリゴdT(Roche社、フランス)+0.1μlのRNAsin 40U/μl(Promega社、USA)+4μlのRNAse/Dnaseを含まない水の混合物5μlを添加した。70℃で10分間、次にATで5分間経過した後、6μlの5×緩衝液(Tris-HCl、KCl、MgCl2、Invitrogen社、GB)+1μlのジチオトレイトール(Invitrogen社、GB)+2μlの10mM dNTP(Amersham Biosciences社、GB)+0.1μlのRNAsin(Promega社、USA)+1μlのSuperscript II逆転写酵素(Invitrogen社、GB)を含有する第2の混合物10μlを添加した。試料を、45℃で1時間インキュベートし、次に95℃で5分間インキュベートした。反応を、初期RNAの1μg当たり水70μlを添加することによって停止させ、最終濃度は10ng/μlであった。
【0098】
3.定量的PCR
原理は、SybrGreen(DNAにインターカレートする蛍光色素)の組込みの測定に基づいてDNA二本鎖のネオ合成(neosynthesis)をモニタリングすることである。この反応は、反応混合物1μl当たりRNA10ngと等濃度のcDNAから開始して行った。プライマーを設計し、Q-PCR(MWG-Biotech社、ドイツ)のために特異的に合成した。結果を、3つのハウスキーピング遺伝子:18S、GAPDH及びHPRTを使用して標準化した(以下のTable 3(表3))。
【0099】
転写物を、96ウェルの光学プレート(Eurogentec社、フランス)中、Mx3005P(Stratagene社、USA)を使用して定量した。10μlの一対の特異的プライマー(10pmol/μl)を、各ウェル中二つ組で沈着させ、各プレートは44対のプライマーを含有しており、対照ウェルはH2Oを含有していた。Q-PCRを、1μlのcDNA試料(RNA10ng/μlと等濃度)/ウェルから開始し、製造者の指示に従って、Mesa Green qPCR MasterMix Plus for SYBR(登録商標)アッセイキット(Eurogentec社、フランス)を用いて行った。95℃で5分間、最初に変性させた後、反応混合物を、95℃で15秒(DNA二本鎖の変性)、次に60℃で1分(プライマーのハイブリダイゼーション及びネオ合成DNA鎖の伸長)の一連の継代からなる45の増幅サイクルに晒した。蛍光強度を、各伸長サイクルの最後に測定し、溶融サイクルを、最終増幅直後にプログラム化した。SKOV-3及びOVCAR-3腫瘍細胞による、葉酸受容体の2つのアイソフォームであるFOLR1及びFOLR2の同時発現を、PBMC、ナチュラルキラー(NK)リンパ球、Bリンパ球、CD4+リンパ球、CD8+リンパ球及び制御性Tリンパ球等の様々な免疫細胞株によって、前記アイソフォームの同時発現と同様に分析した。
【0100】
4.結果の分析及び表示
遺伝子の定量的発現を、ΔCT法を使用して解釈した。遺伝子発現を「CT」(サイクル閾値)として得、次に3つのハウスキーピング遺伝子=ΔCTの平均によって標準化する。実験は、二つ組で行った。
【0101】
【0102】
V.生存率試験
腫瘍細胞に対する試験:2000個の腫瘍細胞(SKOV-3及びOVCAR-3)を、白色ボトム96ウェルプレート(Falcon(登録商標))中、それらの対応する媒体(DMEM/F-12及びRPMI)100μlに入れた。細胞を、予めプレート上に適用した(37℃で2時間)1μg/mlの抗CD3抗体(Ab)及び1μg/mlの抗CD28抗体を用いて活性化した。培養は、3時間、24時間、72時間及び120時間の時間経過に従って行い、次に生存率試験を、時間ごとに行った。この試験によって、培養下で生存可能な細胞の数を決定するためのルシフェラーゼ反応に基づいて、細胞中に存在するATPを定量することが可能になる。
【0103】
免疫細胞に対する試験:105個のPBMCを、50%のML10(50μl)、及び様々な条件に晒し(非処置、PSだけ、照射だけ及びPDTに晒した)、事前に収集した腫瘍細胞由来の50%の上清(50μl)と共に培養した。
【0104】
VI.増殖アッセイ
105個のPBMCを、丸底96ウェルプレート(BD Falcon(登録商標))中、RPMI-1640、1%の2mM L-グルタミン、0.02mMのピルビン酸ナトリウム、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、10%の非働化ヒトAB血清(GIBCO BRL、Invitrogen社、GB)の培養培地50μl及び50μlの腫瘍細胞由来の上清中、様々な条件(NT、PSだけ、照射だけ及びPDT)に従って培養した。細胞を、予めプレート上に沈着させた(37℃で2時間)、1μg/mlの抗CD3及び100ng/mlの抗CD28を用いて活性化した。増殖を、培養終了の18時間前に、1μCi/ウェルのトリチウム標識チミジン(3H-Th)(GE Healthcare社、フランス)を組み込むことによって評価した。24時間、48時間、72時間及び120時間の時間経過に従って、プレートを濾過し、フィルタを放射活性カウンター(1450 Trilux、Wallac社、フィンランド)で読み取った。実験を三つ組で行い、結果を、1分当たりの計数(cpm)で表す。
【0105】
VII.フローサイトメトリー
使用した抗ヒトモノクローナル抗体を、蛍光色素にカップリングした(以下のTable 4(表4)を参照されたい)。対照については、様々なモノクローナル抗体のアイソタイプを対照として使用した。細胞105個を、体積100μlの無菌PBSに溶かし、5μlの各Acと共にインキュベートした(周囲T°(AT)及び暗所中で10分)。標識された細胞を、PBS200μlを添加することによって洗浄し、次に600gで5分間遠心分離し、次に上清を破棄した。次に、細胞をPBS200μlに溶かし、最後に、フローサイトメトリー(BD FACSCanto-II)によって分析した。
【0106】
【0107】
結果
トランスクリプトーム分析は、研究した卵巣腫瘍細胞株(SKOV-3及びOVCAR-3)が、FOLR1アイソフォームを優先的に発現し、したがって本発明の新しい光増感剤である式(I)のPyro-PEG-FAに関してそれらの潜在的感受性を示し、したがって光線力学的治療(PDT)誘導死に対してそれらの感受性を示すことを示した。
【0108】
PDTの最後に、SKOV-3及びOVCAR-3卵巣腫瘍細胞のin vitro形態学的分析によって、それらが早くも照射1時間後には目に見える効果を伴って、PDTに対して感受性であることが示された(非接着細胞、細胞溶解の出現)。これらの結果は、in vitroで光線力学的治療に晒した卵巣腫瘍細胞に関する生存率試験(MTT)によって裏付けられた。実際、PDTに晒したSKOV-3及びOVCAR-3卵巣腫瘍細胞は、それらの細胞生存率の経時的な著しい低下を示したことが観測された。他方では、非処置腫瘍細胞、又はPSだけ若しくは照射だけに晒した腫瘍細胞の生存率には、著しい修正がなかったことが観測された。したがって、これらの結果は、本発明のPSである式(I)のPyro-PEG-FAの有効性の妥当性を検証するものであり、腫瘍細胞の90%が照射のわずか1時間後に死滅することから(
図3A)、PDTが、非常に急速な効果と共に、卵巣腫瘍細胞死を実際に誘導できることを示している。
【0109】
PDTに晒した卵巣腫瘍細胞のセクレトームの、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)に対する影響を試験した。PDTに晒したOVCAR-3又はSKOV-3由来の上清と共に培養したPBMCは、培養のわずか3時間後にそれらの生存率の上昇を示した。ミトコンドリア代謝におけるこの上昇は、3つの独立な実験で得られたものであり、統計的に有意である(48時間及び120時間目において)。したがってこれらの結果は、式(I)のこの新しい光増感剤Pyro-PEG-FAを使用するPDTが、ヒト免疫細胞増殖を活性化するセクレトームにとって有利に、腫瘍細胞のセクレトームを修正できることを示している。
【0110】
PDTに晒したSKOV-3腫瘍細胞のセクレトームの、免疫集団の表現型に対する効果を分析した。そのために、様々な免疫集団のマーカーの発現をフローサイトメトリーによって分析した。得られた結果は、SKOV-3腫瘍細胞のセクレトームが、培養条件に関係なく、PBMCにおいていかなる百分率のCD4+T及びCD8+Tリンパ球、単球、Bリンパ球又はNK細胞の修正も誘導しなかったことを示した。更に、初期及び後期活性化マーカーを、CD4+T細胞において特異的に分析したが、その結果は、様々な処置に晒した卵巣腫瘍細胞のセクレトームも、CD4+T活性化のいかなる修正も誘導しなかったことを示した。したがって、放射線療法又は化学療法とは対照的に、得られた結果のすべてによって、新しい光増感剤である式(I)のPyro-PEG-FAを使用するPDTが、抗腫瘍性エフェクター免疫応答の質を損なわなかったことが示された。
【0111】
自然制御性Tリンパ球の集団及び誘導制御性Tリンパ球(Tr1)の集団に対する、PDTに晒したSKOV-3細胞のセクレトームの影響も研究した。得られた結果(トリプル標識CD4+CD18+CD49b又はCD4+CD49b+LAG3+に基づいてTr1を分析することによって)の分析により、非処置SKOV-3細胞のセクレトームによってTr1型集団が誘導されることが示された。驚くべきことに、様々な処置(照射+、PS+又はPDT)は、このTr1誘導を促進しないことが観測された。したがって、従来の放射線療法とは対照的に、式(I)のこの新しい光増感剤Pyro-PEG-FAを使用するPDTは、免疫系を逃れる腫瘍にとって、したがって腫瘍進行にとって好ましいはずのより高い免疫抑制性の環境にとって有利には、腫瘍細胞のセクレトームを修正しない。
【0112】
4.2.免疫細胞の活性化
様々なTリンパ球集団、特にCD4+(CCR7+、CD25、CD30、CD69、CTLA4及びHLADR)Tリンパ球(LT)及びCD8+(CCR7+、CD25、CD30、CD69、CTLA4及びHLADR)LTの活性化状態を、フローサイトメトリーによって分析した。
【0113】
まず、CD4+LTでは、CD69+マーカー(初期活性化マーカー)が24時間から72時間まで存在することが観測される。PDTは、処置しなかった細胞よりもCD69+マーカーを多く発現させる。照射単独又は光増感剤(Ps)単独条件に関して、結果は、非処置細胞と比較していかなる大きな変動も示さない。
【0114】
CD8+LTでは、CD69+マーカーは、24時間から120時間まで存在している。蛍光中央値は、非処置細胞についてより高いので、PDTに晒した細胞は、初期活性化マーカーであるCD69+マーカーの発現を増大させる。ILL単独又はPs単独条件に関して、結果は、非処置細胞と比較していかなる大きな変動も示さない。
【0115】
したがって、これらの結果は、PDTに晒した卵巣癌腫症細胞が、CD4+及びCD8+Tリンパ球の初期活性化を促進する因子を生成することを示唆している。
【0116】
CTLA4+マーカー(初期活性化マーカー)の存在を、CD4+及びCD8+LTについて24時間から72時間まで観測する。蛍光中央値は、非処置細胞と比較してPDTに晒した細胞について2つの場合において高いことがわかる。このことは、PDTに晒したがん細胞による馴化培地が、CD4+LT及びCD8+LT上のマーカーの発現を増強可能にすることを示している。
【0117】
照射条件は、このマーカーの発現を強力に増大する。
【0118】
Ps単独条件に関して、CTLA4+マーカーの発現が、非処置細胞よりも常に低いことが観測される。72時間後、PDT条件では、CTLA4+マーカーの発現が喪失し、前記マーカーは、CD4+LT及びCD8+LTの両方についてHLADR+マーカー(抗原提示と関連する活性化マーカー)によって置き換えられる。したがって、本発明者等の結果は、PDTが、免疫活性化にとって好ましいHLADRの発現(i)を間接的に促進し、CTLA4の発現(ii)を最初は促進するが、次にこのマーカーの発現の減少が観測されることを示唆している。この結果は、CTLA4が、免疫応答中の後期の免疫チェックポイントとして、すなわち免疫応答の負のフィードバックポイントとしてみなされているので一貫している。
【0119】
24時間目に、CD30+マーカー(後期活性化マーカー)の発現の増大が、PDTに晒した細胞で本質的に観測される。これは、48時間目のCD4+LTについて当てはまる。他方では、CD8+LTについて、PDT条件は、CD30+マーカーを過剰発現し、次に、その後CD25+マーカー(活性化マーカー及びIL-2R-アルファ受容体)を過剰発現する。72時間後、CD30+活性化マーカーは、PDT条件/非処置条件においてCD4+LT上で減少する。他方では、CD8+LTについて、CD30+マーカーの発現は、PDT条件において非常に高い。120時間後、CD25+マーカーの発現は、PDT条件の細胞についてCD4+LT及びCD8+LTの2つの場合において増大する。したがって、これらの結果のすべては、PDTに晒した卵巣癌腫症細胞が、CD4+及びCD8+Tリンパ球の活性化を促進する因子を生成することを示唆している。
【0120】
培養の48時間後及び120時間まで、CD4+LT及びCD8+LTの両方について、CCR7+マーカー(CCL19及びCCL21ケモカイン受容体)の発現の増大が観測される。マーカーの発現は、一般にPDTに晒した細胞についてより高い。したがってPDTは、免疫細胞リンパ節遊走に関与するケモカイン受容体であるCCR7+マーカーの発現を可能にする。照射単独自体でも、このCCR7+マーカーの発現が著しく増大することがわかる。したがって、これらの結果は、PDTに晒した卵巣癌腫症細胞が、CCL19及びCCL21ケモカインを介してCD4+及びCD8+Tリンパ球の遊走を促進することができる因子を生成することを示唆している。
【0121】
したがって本発明者等は、馴化培地が、免疫細胞のクローン増殖だけでなく、ある特定数の活性化マーカーの経時的な(初期又は後期)増大を誘導することをフローサイトメトリーによって示したが、このことは、免疫細胞がエフェクター細胞であり、すなわち免疫細胞が抗腫瘍効果を保証可能にする活性化表現型を有することを示唆している。
【0122】
4.3.サイトカイン分泌に対する影響
腫瘍細胞由来の上清が、PDT処置後にサイトカインを発現し、放出するかどうかを決定するために、免疫アッセイを、PDTによって処置したOVCAR-3卵巣癌腫症腫瘍細胞の上清で行った。
【0123】
方法
サンドイッチELISAアッセイを行った。第一に、求められるサイトカインに特異的な一次抗体を、4℃で一晩、支持体に結合させる。翌日、PBS-0.05%Tweenで洗浄することによって、非結合抗体を除去することが可能になる。他の非特異的な分子の支持体上への吸収を防止するために、一次抗体の可変の特異的帯域と親和性を有していない分子(この場合、ウシ血清アルブミン(BSA))で遊離帯域をコーティングすることによって飽和させる。次に、試料を添加する前に懸濁液中の分子を除去するために、洗浄を行う。求められるサイトカインが存在する場合、免疫複合体が、前記免疫複合体に特異的な一次抗体と共に形成される。存在可能な非特異的分子は、懸濁液に残存する。洗浄によって、非結合要素を除去することが可能になる。最終的な工程は、サイトカインに特異的な二次抗体を添加することからなる。発色基質(オルト-フェニレンジアミン)を、分光光度計で定量可能な発色団生成物に変換する酵素であるペルオキシダーゼを用いることによって、可視化を行う。この酵素を、ストレプトアビジンに結合させる。ストレプトアビジンに強力な親和性を有する、二次抗体上に存在するビオチンに基づいて、ビオチン/ストレプトアビジン/ペルオキシダーゼ複合体が形成されて、定量化が可能になる。酵素反応を停止させるために、二酸(この場合、HCl)を添加する。
【0124】
【0125】
インターロイキン6(IL6)
IL6は、炎症促進性サイトカインであり、すなわち炎症過程を促進することができるサイトカインであるが、特にこのがんにおいて炎症生成によって腫瘍進行及び転移伝播が促進されるので、有益ではない。結果は、非処置対照であるOvcar-3細胞(NT)について、IL6サイトカイン濃度は、大量の53.45pg/mlになることが観測されることを示している。照射したOvcar-3細胞では、非処置細胞と比較してサイトカインの強力な減少(9.06pg/ml)が観測され、それによって、1時間照射に晒されたOvcar-3卵巣がん細胞の照射が、IL6サイトカインの存在を低減すると推定することが可能になり、このことは非常に有望である。Ps単独では、IL6サイトカインが減少する(29.08pg/ml)。PDTによって処置したOvcar-3細胞の試験では、非処置細胞(53.45pg/ml)と比較して減少(19.12pg/ml)が観測される。
【0126】
したがって、これらの結果は、PDTによって処置したOvcar-3細胞が、それらのIL6サイトカイン生成を低減することを示唆している。これらの最初の結果は、抗腫瘍処置としてのPDTの使用に関して非常に好ましい。
【0127】
インターロイキン2(IL2)
IL2は、特にTリンパ球の生存及び増殖を促進することによって、免疫応答ホメオスタシスにおいて大きな役割を果たしている。非処置Ovcar-3細胞対照の条件(NT)では、72.50pg/mlの濃度でIL2の存在が検出される。他方では、ILL及びPs条件では、IL2サイトカインは、もはや観測されず、濃度は0pg/mlに等しい。したがって、照射単独によって処置した細胞及びPs単独と接触させた細胞は、IL2サイトカイン分泌を著しく低減させる。PDTに晒したOvcar-3細胞について、本発明者等は、非処置細胞と比較してIL2生成が増大(122.50pg/ml)し、それによって、PDTによる処置がLT増殖にとって有利になることが示されることを観測した。
【0128】
したがって、これらの結果は、PDTが、卵巣癌腫症細胞によるIL-2分泌を促進することを示しており、これは特に免疫細胞及びLT上の増殖効果にとって有利である。この結果は、CD4+及びCD8+LT上のCD25の発現の増大と相関する(サイトメトリーの結果を参照されたい)。
【0129】
インターフェロンガンマ(IFN-ガンマ)
非処置がん細胞を用いる対照条件では、2.72pg/mlの濃度のIFN-ガンマが検出される。照射によって処置したOvcar-3細胞は、このサイトカインを非常にわずかに増大させる(2.85pg/ml)。他方では、Ps単独と接触させたOvcar-3細胞では、IFN-ガンマは検出不能であり、これは、Ps単独によってこのサイトカインが排除されることを意味する。試験条件(PDTに晒した細胞)では、IFN-ガンマの強力な増大(28.55pg/ml)が観測される。
【0130】
これらの結果は、PDTが、卵巣癌腫症細胞によるIFN-ガンマ生成を促進することができ、したがって、このサイトカインを介して抗腫瘍効果に寄与できることを示している。実際、IFN-ガンマは、特に血管新生を阻害することによって、B及びTリンパ球成熟を刺激することによって、また単球等の他の免疫細胞型を活性化することによっても、悪性腫瘍及び転移の発症を防止することを可能にする。
【0131】
TGF-ベータ
非処置がん細胞は、TGF-ベータを28.94pg/mlの濃度で生成する。「照射によって処置されたOvcar-3細胞」条件は、サイトカイン濃度の減少(8.95pg/ml)を示しており、有望である。他方では、PSだけと接触させたOvcar-3細胞では、サイトカイン濃度の著しい増大(49.56pg/ml)が観測される。PDT条件では、濃度がかなり低下した(1.36pg/ml)ことが観測される。
【0132】
したがって、得られた結果は、PDTが、卵巣癌腫症細胞による免疫抑制サイトカインTGF-ベータの生成を低減することを示唆している。この効果は、腫瘍成長にとって好ましい免疫抑制微小環境を制限することを可能にするので有益である。
【0133】
結論
本発明者等は、末梢血単核細胞に対する、PDTに晒した卵巣がん細胞の上清の影響について研究した。本発明者等は、様々なTリンパ球集団、特にCD4+LT及びCD8+LTの活性化状態について研究した。結果は、PDTに晒したOvcar-3細胞が、CD4+T及びCD8+Tリンパ球を活性化できることを示した。したがって、CD69+、CTLA4+、CCR7+、CD30+、CD25+及びHLADR+活性化マーカーの増大が観測された。
【0134】
本発明者等はまた、Ovcar-3細胞をPDTによって処置した後の、潜在的なサイトカイン生成を調査した。観測された結果は、PDTに晒した腫瘍細胞が、IL6等の炎症促進性サイトカインを減少させ、免疫抑制性であるTGF-ベータの存在を低減することを示している。その結果は、免疫細胞の生存及び増殖及び活性化にとって好ましい、IL2及びIFN-ガンマサイトカイン等のサイトカインの増大を明らかにすることも可能にする。
【0135】
卵巣腫瘍細胞のPDT生成物は、Th1経路(細胞性免疫経路)を促進し、それは抗腫瘍性免疫応答にとって特に好ましい。更に、それらの生成物は、炎症経路又は制御経路を活性化しない。
【0136】
(実施例5)
In vivo研究
I.ラット卵巣癌:NuTu-19細胞株
NuTu-19細胞株は、免疫担当性ラットにおいて卵巣腫瘍を発症させるラットの同質遺伝子的卵巣腺癌株であった(Rose等、Am. J. Obstet. Gynecol. 1996、175(3 Pt 1)、593~9頁)。細胞を液体窒素(クライオチューブ1本当たり細胞5×106個)で保存し、次に、10%の非働化ウシ胎仔血清及び1%のペニシリン/ストレプトマイシン混合物及び1%のglutamaxを補充したDMEM(Gibco-Life Technologies(商標))中で培養した。細胞を、標準条件下(5%CO2、湿度100%、37℃)でインキュベートした。細胞がコンフルエンスになったら、接着細胞を剥がし、それらを収集するためにトリプシン処理し(0.25%トリプシン溶液、Gibco-Life Technologies(商標))、PBS(ダルベッコリン酸緩衝食塩水、Gibco-Life Technologies(商標))で洗浄し、生存率を評価するために、トリパンブルー排除試験後に計数した。腹膜上皮悪性癌腫症モデルを得るために、細胞を、PBS中細胞懸濁液の形態で、様々なラットに腹腔内注射した。
【0137】
II.腹膜上皮悪性癌腫症の動物モデル
妥当性を検証された腹膜上皮悪性癌腫症モデル(Rose等、Am. J. Obstet. Gynecol. 1996、175(3 Pt 1)、593~9頁)を使用した。雌のフィッシャーF344ラットを、供給社Harlan(登録商標)から得た。動物を、Departement Hospitalo-Universitaire de Recherche Experimentale [Hospital-University Experimental Research Department](DHURE-University of Medicine Research Pole-CHRU of Lille)の動物舎に収容した。食餌(SAFE(商標))及び水は自由に摂取させた。
【0138】
上皮性悪性癌腫症レベルを、PBS中NuTu-19細胞懸濁液(ラット1匹当たり細胞20×106個)を腹腔内接種することによって得た。ラットを、腹水症の発症が生じて腫瘍進行が立証されるまで、又は腹膜上皮悪性癌腫症病変の存在を確認することを企図された探索的腹腔鏡検査を実施するまで、定期的にモニタリングした。
【0139】
NuTu-19細胞株及び上皮性悪性癌腫症病変による葉酸受容体の発現が、Azais等(Int J Gynecol Cancer 2015)によって確認された。
【0140】
光増感剤を4mg/kgの用量で腹腔内投与して4時間後に、in vivo蛍光測定を行った。上皮性悪性癌腫症病変によって放出された蛍光を可視化するために(光診断(photodiagnosis))、イソフルランを用いる麻酔の直後に、腹腔鏡検査によって検出プロトコールを行った。
【0141】
III.光診断
式(I)のPyro-PEG-FA化合物を、PDD(光診断)機能を有するOlympus(登録商標)医学的腹腔鏡検査機器(Evis Exera II)を用いて、蛍光によって検出した。使用した光学腹腔鏡検査は、視野角30°を有する4mmのOlympus(登録商標)膀胱鏡であった。
【0142】
PDD機能は、白色光下では目に見えない膀胱腫瘍(上皮内癌、異形成、限局性の小腫瘍)を診断するために、Olympus(登録商標)によって開発された。プロトポルフィリンIX前駆体(PpIX)、5-アミノレブリン酸(5-ALA)及び更に最近ではヘキシルアミノレブリネート(HAL、Hexvix(登録商標))の投与によって、膀胱病変を特異的に可視化することが可能になっており、その病変は青色光の下で蛍光性(赤色)に見える。
【0143】
光源はキセノン源であった。第1のフィルタ系によって、380~440nmの間の青色光励起が可能になった。第2の黄色フィルタが約640nmで放出される蛍光の最適な観測を可能にすると仮定すると、このフィルタによって、青色光と625~655nmの間で放出される赤色蛍光とのコントラストを強調することが可能になった。PpIXによって放出された赤色蛍光は、青色光と比較して弱すぎるので、青色と赤色とのコントラストを強調し、病変を良好に可視化するために、この黄色フィルタをカメラのレベルに挿入した。
【0144】
腹腔内注射の4時間後に、イソフルラン(1.5%~3%の範囲の濃度)の連続吸入によって全身麻酔薬を投与した。正中線で開放腹腔鏡検査を実施して、5mmの外套針を導入した。外套針の周りを気密に維持するために、Vicryl(登録商標)2.0を用いて巾着縫合を挿入した。この外套針栓の適所に送気装置をつなぎ、流量0.2l/分のCO2を用いて、3mmHgの一定の気腹を得ることを可能にした。この外套針に5mmの腹腔鏡を導入することによって、最初に白色光の下で、次に青色光の下で腹膜腔を調査することを可能にした。
【0145】
その手順を、3匹のラットで、PSを用量4mg/kgで腹腔内投与した後に行った。
【0146】
図4Aは、腹膜上皮悪性癌腫症を発症している免疫担当性ラットにおいて、NuTu-19細胞(ラット同質遺伝子的卵巣腺癌細胞株)をIP注射した後に得られた腹腔鏡検査画像である。上皮性悪性癌腫症病変は、白色に見える。
図4Bは、白色光の下での
図4Aに相当する。
【配列表】