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特許7298065水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物、遮熱性塗料塗装工法、および遮熱性舗装体
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  • 特許-水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物、遮熱性塗料塗装工法、および遮熱性舗装体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物、遮熱性塗料塗装工法、および遮熱性舗装体
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20230620BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20230620BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230620BHJP
   E01C 7/35 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D7/65
B05D7/24 302T
E01C7/35
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019086543
(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2019194323
(43)【公開日】2019-11-07
【審査請求日】2022-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2018088415
(32)【優先日】2018-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第32回日本道路会議論文集(DVD-ROM)で平成29年10月31日に公開、社団法人日本道路協会主催の第32回日本道路会議において平成29年11月1日に発表
(73)【特許権者】
【識別番号】590002482
【氏名又は名称】株式会社NIPPO
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 敏明
(72)【発明者】
【氏名】早川 淳
(72)【発明者】
【氏名】池上 綾
(72)【発明者】
【氏名】岩間 将彦
(72)【発明者】
【氏名】吉中 保
(72)【発明者】
【氏名】西岡 俊介
(72)【発明者】
【氏名】深江 典之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 重宣
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 裕文
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-053115(JP,A)
【文献】特開2013-112782(JP,A)
【文献】特開2016-204509(JP,A)
【文献】特開2018-035341(JP,A)
【文献】特開2017-110130(JP,A)
【文献】特開平05-339542(JP,A)
【文献】特開平01-301761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00 - 201/10
B05D 7/24
E01C 7/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中に分散される塗膜形成バインダ成分の粒子として、ヒドラジン構造を有するポリウレタンとカルボニル基含有アクリル系ポリマーとを含有させた水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)と、水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)と、水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C)とを含み、かつ有色顔料とを含む主剤と;
前記主剤の塗膜形成バインダ成分と架橋反応を生じて塗膜を硬化させるポリマーからなる、硬化剤を兼ねた反応性造膜助剤と;
からなり、
前記主剤が、塗膜強度向上剤としてセルロースナノファイバーを含み、
前記水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)は、その水酸基価が10~30mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)が25~45℃の範囲内にあり、
前記水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)は、その水酸基価が50~70mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)が30~50℃の範囲内にあり、
前記水酸基含有ウレタンディスパージョンポリオール(C)は、その水酸基価が40~60mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)が-30~-10℃の範囲内にあることを特徴とする、水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物。
【請求項2】
請求項に記載の水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物において、
前記主剤全体に占めるセルロースナノファイバーの割合が0.01~10.0重量%の範囲内であることを特徴とする、水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物において、
前記塗膜形成バインダ成分全体に占める、水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)の配合割合が、50~90重量%の範囲内、水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)の配合割合が、10~40重量%の範囲内、水酸基含有ウレタンディスパージョンポリオール(C)の配合割合が、5~30重量%の範囲内であることを特徴とする、水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物。
【請求項4】
請求項1~請求項のいずれかの請求項に記載の水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物において、
前記有色顔料が、平均粒子径が、0.5~2.0μmの範囲内にある遮熱性有色顔料であることを特徴とする、水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物。
【請求項5】
請求項に記載の水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物において、
前記遮熱性有色顔料が、酸化チタン、酸化鉄、複合酸化物系顔料のうちから選ばれた1種以上であることを特徴とする、水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物。
【請求項6】
請求項1~請求項のいずれかの請求項に記載の水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物において、
硬化剤を兼ねた前記反応性造膜助剤が、ポリイソシアネートからなることを特徴とする、水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物。
【請求項7】
請求項に記載の水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物において、
ポリイソシアネートからなる前記反応性造膜助剤と、主剤における塗膜形成バインダ成分との配合割合は、反応性造膜助剤のイソシアネート基と塗膜形成バインダ成分におけるポリオールの水酸基とのモル比が0.8~1.1の範囲内であることを特徴とする、水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物。
【請求項8】
請求項1~請求項のいずれかの請求項に記載の遮熱性塗料組成物における前記主剤と前記反応性造膜助剤とを混練して水性塗料とし、その水性塗料を、舗装基材上に塗装することを特徴とする、遮熱性塗料塗装工法。
【請求項9】
舗装基材の表面に遮熱性塗膜が形成された遮熱性舗装体であって、前記遮熱性舗装体が、
塗膜形成バインダ成分として、ヒドラジン構造を有するポリウレタンとカルボニル基含有アクリル系ポリマーとを含有させた水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)と、水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)と、水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C)とを含むとともに、有色顔料を含む主剤と;
前記主剤の塗膜形成バインダ成分と架橋反応を生じて塗膜を硬化させるポリマーからなる、硬化剤を兼ねた反応性造膜助剤と;
からなり、
前記主剤が、塗膜強度向上剤としてセルロースナノファイバーを含み、
前記水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)は、その水酸基価が10~30mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)が25~45℃の範囲内にあり、
前記水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)は、その水酸基価が50~70mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)が30~50℃の範囲内にあり、
前記水酸基含有ウレタンディスパージョンポリオール(C)は、その水酸基価が40~60mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)が-30~-10℃の範囲内にあり、
前記各ポリオールと反応性造膜助剤とが架橋結合されてなることを特徴とする遮熱性舗装体。
【請求項10】
請求項9に記載の遮熱性舗装体において、
前記舗装基材が、アスファルト、コンクリート、もしくはゴムチップウレタンであることを特徴とする遮熱性舗装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト舗装など、主として車道等の路面舗装におけるトップコート塗装材として施工される水性保護仕上げ塗膜用の遮熱性塗料組成物に関し、特に水性2液常温架橋型の遮熱性塗料組成物、およびそれを用いた塗装工法、遮熱性舗装体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の都市部におけるヒートアイランド現象や地球規模での気象変動などにより、路面などの舗装については、アスファルト舗装やコンクリート舗装などの舗装面に遮熱性塗料を塗布して遮熱コート層を形成すること、すなわち遮熱性舗装とすることが多くなっている。一方、路面のうちでも車道について遮熱コート層を形成する場合、歩道よりも高い塗膜強度、耐久性、特に高い耐剥がれ性、耐摩耗性が要求される。
車道の遮熱コート層に使用される塗料としては、従来は、溶剤型のMMA(メチルメタクリレート)系の樹脂を主剤とする遮熱塗料が使用されており、この種のMMA系遮熱塗料では、遮熱性と同時に、かなりの塗膜強度、耐久性を示す。
【0003】
しかしながらMMA系遮熱塗料は、溶剤型であるため、環境衛生面や安全面が懸念される。そこで、これらの面で有利な常温乾燥型の水性塗料(エマルジョン系塗料)を、車道の舗装にも適用するこが望まれている。
【0004】
歩道や公園などの舗装面の遮熱コート層に使用する水性遮熱塗料としては、例えば特許文献1、特許文献2に示されるようなものが知られている。しかしながら従来の一般的な水性遮熱塗料は、歩道には適用可能であっても、車道に適用した場合は、塗膜強度、耐久性が溶剤型のMMA系遮熱塗料と比較して格段に劣る問題がある。特に路面への降雨による水の影響によって強度低下が生じるなどの耐久性の点で問題があり、大重量の車両が通過する車道では、早期に摩耗したり、剥がれたりする問題を避け得なかった。
【0005】
また従来の一般的な水性遮熱塗料は、乾燥性(速乾性)が悪く、塗布してから乾燥するまでにかなりの時間を要し、そのため施工を開始してから十分に塗膜が乾燥するまでの間、長時間の交通規制を必要としてしまう問題がある。そしてこれらの理由から、従来の水性遮熱塗料は、車道の路面の舗装に用いるには、必ずしも好適ではない、とされていた。
【0006】
上記の如く、従来は、舗装面の遮熱性向上のための水性塗料としては、満足できるものは少なく、遮熱性に優れると同時に、特に、車道に好適な程度に高強度でかつ耐久性に優れていて、長期持続可能であり、しかも施工時の速乾性に優れているものはなかったのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平2-105879号公報
【文献】特開平1-301761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような事情を背景としてなされたものであって、基本的には、アスファルト舗装などの舗装基材表面のトップコート材として遮熱性向上のために塗装される水性2液タイプの塗料組成物として、充分な遮熱性を発揮して、路面温度の上昇を確実に抑制することができるばかりでなく、車道にも適用可能な程度の十分な塗膜強度、耐久性を有する塗膜を形成することができると同時に、乾燥性(速乾性)にも優れた遮熱性塗料組成物、およびそれを用いた遮熱性塗料塗装工法と、遮熱性舗装体を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述のような課題を解決するため、本発明者等が鋭意実験、検討を重ねた結果、舗装路面の遮熱性向上のためのトップコート材として、溶剤系ではない水性2液性の塗料組成物を、主剤における水性媒体中に分散される塗膜形成バインダ成分を特定の3種のポリオールからなる成分系とし、さらに主剤の塗膜形成バインダ成分と架橋反応を生じて塗膜を硬化させる、ポリマーからなる反応性造膜助剤を加えた構成とすることが有効であることを見出し、またさらに主剤に塗膜強度向上剤としてセルロースナノファイバーを加えることが、より一層有効であることを見出した。
【0010】
すなわち本発明の基本的な態様(第1の態様)による水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物は、
水性媒体中に分散される塗膜形成バインダ成分の粒子として、ヒドラジン構造を有するポリウレタンとカルボニル基含有アクリル系ポリマーとを含有させた水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)と、水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)と、水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C)とを含み、かつ有色顔料を含む主剤と;
前記主剤の塗膜形成バインダ成分と架橋反応を生じて塗膜を硬化させるポリマーからなる、硬化剤を兼ねた反応性造膜助剤と;
からなることを特徴とするものである。
【0011】
また本発明の第2の態様による水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物は、前記第1の態様による遮熱性塗料組成物において、
前記主剤が、塗膜強度向上剤としてセルロースナノファイバーを含むことを特徴とするものである。
【0012】
また本発明の第3の態様による水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物は、前記第2の態様による遮熱性塗料組成物において、
前記主剤全体に占めるセルロースナノファイバーの割合が0.01~10.0重量%の範囲内であることを特徴とすることを特徴とするものである。
【0013】
さらに本発明の第4の態様による水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物は、前記第1~第3のいずれかの態様の遮熱性塗料組成物において、
前記塗膜形成バインダ成分全体に占める、水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)の配合割合が、50~90重量%の範囲内、水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)の配合割合が、10~40重量%の範囲内、水酸基含有ウレタンディスパージョンポリオール(C)の配合割合が、5~30重量%の範囲内であることを特徴とするものである。
【0014】
また本発明の第5の態様の水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物は、前記第1~第4のいずれかの態様の遮熱性塗料組成物において、
前記水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)は、その水酸基価が10~30mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)が25~45℃の範囲内にあり、
前記水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)は、その水酸基価が50~70mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)が30~50℃の範囲内にあり、
前記水酸基含有ウレタンディスパージョンポリオール(C)は、その水酸基価が40~60mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)が-30~-10℃の範囲内にあることを特徴とするものである。
【0015】
また本発明の第6の態様の水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物は、前記第1~第5のいずれかの態様の遮熱性塗料組成物において、
前記水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオールの平均粒径が130~230nm、前記水酸基含有アクリルエマルジョンポリオールの平均粒径が90~140nm、前記水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオールの平均粒径が40~90nmであることを特徴とするものである。
【0016】
また本発明の第7の態様の水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物は、前記第6の態様の遮熱性被覆塗料組成物において、
前記遮熱性有色顔料が、酸化チタン、酸化鉄、複合酸化物系顔料のうちから選ばれた1種以上であることを特徴とするものである。
【0017】
また本発明の第8の態様の水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物は、前記第1~第7のいずれかの態様の遮熱性塗料組成物において、
硬化剤を兼ねた前記反応性造膜助剤が、ポリイソシアネートからなることを特徴とするものである。
【0018】
また本発明の第9の態様の水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物は、前記第8の態様の遮熱性塗料組成物において、
ポリイソシアネートからなる前記反応性造膜助剤と、主剤における塗膜形成バインダ成分との配合割合は、反応性造膜助剤のイソシアネート基と塗膜形成バインダ成分におけるポリオールの水酸基とのモル比が0.8~1.1の範囲内であることを特徴とするものである。
【0019】
また次の第10の態様では、前記各態様の水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物を用いた舗装面へのトップコート塗装工法として、前記各態様の遮熱性塗料組成物を用いた遮熱性塗料塗装工法を規定している。
【0020】
すなわち本発明の第10の態様の遮熱性塗料塗装工法は、
前記第1~第9のいずれかの態様の水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物における前記主剤と前記反応性造膜助剤とを混練して水性塗料とし、その水性塗料を、舗装基材上に塗装することを特徴とするものである。
【0021】
さらに次の第11~第13の態様では、水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物を用いて、舗装面へのトップコート塗装を行った遮熱性舗装体を規定している。
【0022】
すなわち本発明の第11の態様の遮熱性舗装体は、
舗装基材の表面に遮熱性塗膜が形成された遮熱性舗装体であって、
前記遮熱性舗装体が、
塗膜形成バインダ成分として、ヒドラジン構造を有するポリウレタンとカルボニル基含有アクリル系ポリマーとを含有させた水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)と、水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)と、水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオールとを含むとともに、有色顔料を含む主剤と;
前記主剤の塗膜形成バインダ成分と架橋反応を生じて塗膜を硬化させるポリマーからなる、硬化剤を兼ねた反応性造膜助剤と;
からなり、
前記各ポリオールと反応性造膜助剤とが架橋結合されてなることを特徴とするものである。
【0023】
また本発明の第12の態様の遮熱性舗装体は、
第11の態様の遮熱性舗装体において、
前記主剤が、塗膜強度向上剤としてセルロースナノファイバーを含むことを特徴とすることを特徴とするものである。
【0024】
また本発明の第13の態様の遮熱性舗装体は、
第11、第12のいずれかの態様の遮熱性舗装体において、
前記舗装基材が、アスファルト、コンクリート、もしくはゴムチップウレタンであることを特徴とするものである。
【0025】
なお上記の第11~第13の態様の遮熱性舗装体においても、塗料組成物としては、第2~第9の態様で記載したものを用い得ることはもちろんである。
【発明の効果】
【0026】
本発明の遮熱性塗料組成物によれば、例えばアスファルト舗装などの舗装のトップコート材として遮熱性向上のために塗装される水性2液タイプの塗料組成物として、充分な遮熱性を発揮して、路面温度の上昇を確実に抑制することができ、しかも高強度を有していて、耐久性、特に耐剥がれ性や耐摩耗性が優れている塗膜を形成することができるとともに、速乾性にも優れていて、道路での塗装作業においても交通規制時間を短縮することができる等、種々の効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の遮熱性塗料組成物を用いて形成した遮熱性舗装体の一例の断面構造を模式的に示す略解断面図である。
図2】実験例における路面温度低減性能評価のための室内照射試験結果を示すグラフである。
図3】実験例における耐久性評価のためのねじれ法によるはがれ抵抗性試験結果を示すグラフである。
図4】実験例における耐久性評価のための打撃法によるはがれ抵抗性試験結果を示すグラフである。
図5】実験例における耐久性評価のための、ねじれ法によるウェットトラック試験前後のはがれ抵抗性試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態の遮熱性塗料組成物についてより詳細に説明する。
【0029】
本発明では、アスファルト性舗装などの舗装面に遮熱機能を付加するためのトップコート塗装材として使用される水性2液常温架橋タイプの遮熱性塗料組成物を規定している。ここで、本発明による2液架橋タイプの遮熱性塗料組成物は、塗膜形成バインダ成分を主体とし、さらに硬化剤を兼ねた反応性造膜助剤を有している。また本発明による2液架橋タイプの遮熱性塗料組成物の主剤は、塗膜形成バインダ成分のほか、塗膜強度向上剤としてセルロースナノファイバー(CNF)を含んでいることが、より好ましい。
【0030】
主剤は、塗膜形成バインダ成分として、それぞれ水酸基を有する3種類の樹脂(ポリオール)、すなわち、ヒドラジン構造を有するポリウレタンとカルボニル基含有アクリル系ポリマーとを含有させた水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)と、水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)と、水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C)を含む。主剤は、これら3種のポリールのほか、さらに有色顔料(好ましくは遮熱性有色顔料)を含む。なお主剤は、上記の3種のポリールと有色顔料のほか、塗膜強度向上剤としてセルロースナノファイバーを含有することが好適である。
【0031】
そしてこのような主剤に、塗装施工直前の段階で分散媒である水等の水性媒体とともに、硬化剤を兼ねた反応性造膜助剤を混合(混練)して、水性塗料としてアスファルトなどの舗装基材の表面に塗装することになる。
【0032】
図1に、例えばコンクリートやアスファルト混合物層などからなる舗装基材1の上に本発明の遮熱性被覆組成物(但し本例は主剤としてセルロースナノファイバーを含有する遮熱性被覆組成物)からなる水性2液塗料を塗装して、遮熱性塗膜3を形成した状態について、模式的に示している。
なお実際の施工では、舗装基材1の表面に、図示しないプライー層を形成してから、そのプライマー層の表面に本発明の遮熱性被覆組成物からなる水性2液塗料を塗装することもあるが、本明細書では、予めプライマー層を形成する場合も含めて、「舗装基材の上に本発明の遮熱性被覆組成物からなる水性2液塗料を塗装する」と表現している。
【0033】
本例における遮熱性塗膜3は、前記のような主剤のバインダ樹脂成分である3種類の樹脂(水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)、水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)、および水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C))と、硬化剤および反応性造膜助剤を兼ねた助剤によって一体に形成された樹脂マトリクス31中に、セルロースナノファイバー32が絡み合って網目状に存在し、さらに有色顔料としての例えば遮熱性有色顔料33が分散した構成となる。なおここでは必要に応じて添加される滑り止め材としての骨材は図示を省略している。
【0034】
本発明では、主剤のバインダ樹脂成分として3種類の樹脂(水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)、水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)、および水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C))を配合したことが重要である。すなわち上記の3種の樹脂の配合によって速乾性と強度を確保することが可能となった。さらに、セルロースナノファイバー(CNF)を塗膜中に網目状に存在させることによって、塗膜の強度を一層向上させ、ひいては塗膜の耐久性、特に耐摩耗性及び耐剥がれ性を向上させることが可能となり、その結果、歩道だけではなく、車道にも十分に適用可能となったのである。
【0035】
ここで、上記の3種の樹脂の配合の有効性、及びセルロースナノファイバーの配合の有効性については、次の実験例として示す本発明者等の実験によって見出されたことである。
【0036】
〔実験例〕
この実験に用いた本発明遮熱塗料組成物の構成は次の通りである。
塗膜形成バインダ成分の粒子として。
・ヒドラジン構造を有するポリウレタンとカルボニル基含有アクリル系ポリマーとを含有させた水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)、
・水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)、
・水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C)、
の3種のポリオールの粒子を配合し、さらに、セルロースナノファイバーと反応性造膜助剤、及び遮熱性有色顔料と骨材とを配合した。
具体的には、ヒドラジン構造を有するポリウレタンとカルボニル基含有アクリル系ポリマーとを含有させた水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)としては、水酸基価が20mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)が35℃であって、平均粒径が180nmのものを用い、水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)としては水酸基価が60mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)が40℃であって、平均粒径が120nmのものを用い、水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C)としては水酸基価が50mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)が-20℃であって、平均粒径が60nmのものを用いた。また反応性造膜助剤としては、ポリイソシアネートを用いた。
【0037】
これらを、水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)の割合が21重量%、水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)の割合が10.5重量%、水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C)の割合が3.5重量%となるように配合し、セルロースナノファイバーの割合が2.0重量%となるように、セルロースナノファイバーを配合し、骨材として珪砂を58.0重量%となるように配合し、遮熱性有色顔料として平均粒子径が1.0μmの酸化チタンを、4.5重量%となるように配合し、さらに平均粒子径が1.1μmの複合酸化物を、0.5重量%となるように配合した。
【0038】
このような配合材料と、反応性造膜助剤としてのポリイソシアネートを、そのイソシアネート基(-NCO)と、塗膜形成バインダ成分のポリオール(3種類のポリオールの合計)の水酸基(-OH)とのモル比が1.0となるように混合して水性塗料とし、アスファルト舗装面に単位面積当たりの塗布量が600g/mとなる塗布を2回行い、常温付近で乾燥させて本発明塗料組成物によるトップコート層を有する遮熱舗装とした。なお乾燥後の塗膜厚は、平均で500~600μm程度である。
【0039】
このような本発明の一実施形態の塗料組成物による遮熱舗装(以下「本発明遮熱」と称する)について、次のように評価した。なお 比較のため、従来の一般的な水性遮熱塗料(従来エマルジョン系遮熱塗料)によるオーバーコート層を有する遮熱舗装(以下「従来遮熱舗装」と称する)についても評価し、また評価項目によっては、溶剤型遮熱塗料であるMMA系遮熱塗料によるオーバーコート層を有する遮熱舗装(以下「MMA系遮熱舗装」と称する)についても評価した。
【0040】
なお上記の従来の一般的な水性遮熱塗料(従来エマルジョン系遮熱塗料)の配合組成、塗布条件は次の通りである。
酸化チタン:10重量%、有機黒色顔料:1重量%、炭酸カルシウム:10重量%、アクリルエマルションの樹脂成分:15重量%、珪砂:33重量%、その他の水および添加剤:31%を混合したものを水性遮熱塗料とした。塗布条件としては、500g/m×2回塗りしたものを比較体とした。
また溶剤型遮熱塗料であるMMA系遮熱塗料の配合組成、塗布条件は次の通りである。
酸化チタン:10重量%、有機黒色顔料:1重量%、炭酸カルシウム:10重量%、硬化性MMA樹脂:80重量%を混合したものを使用した。これに有機アミンを0.9重量%、過酸化ベンゾイルを2.4%添加して硬化させた。塗布条件としては、下塗として400g/m塗布し、セラミック骨材を500g/m散布後、さらに上塗として400g/m塗布したものを比較体とした。
【0041】
<路面温度低減性能評価>
表1は、本発明遮熱舗装の日射反射率を、従来遮熱舗装と比較した測定結果である。この結果から、本発明遮熱舗装は近赤外領域で70%以上の日射反射率を示し、従来遮熱舗装と同等の日射反射率特性を備えていることがわかった。また、性能確認のために実施した室内照射試験でも、図2に示すように、従来遮熱舗装と遜色のない路面温度上昇抑制性能を備えていることを確認した。なお図2において、「一般舗装」とは、遮熱のためのトップコート層を持たないアスファルト舗装を意味している。なおまた、これらの評価試験では、本発明遮熱舗装としては、前述のように、主剤にセルロースナノファイバーを添加したものを用いているが、セルロースナノファイバーを添加しない場合でも、図2、表1に示した本発明遮熱舗装とほぼ同等の日射反射率特性、路面温度上昇抑制性能を示すことが確認されている。
【0042】
【表1】
【0043】
<塗膜物性評価>
塗膜の耐摩耗性と乾燥性を確認するため、テーバー摩耗試験と速乾性評価を実施した。表2に示すように、摩耗性の評価では、従来遮熱舗装と比較して、本発明遮熱舗装が耐摩耗性に優れることがわかる。速乾性の評価でも、本発明遮熱舗装が5℃の条件下でも従来遮熱舗装に比べ約1/3の養生時間で乾燥し、乾燥性が改善されていることを確認した。なおこの評価試験でも、本発明遮熱舗装としては、前述のような主剤にセルロースナノファイバーを添加したものを用いているが、セルロースナノファイバーを添加しない場合でも、表2に示した本発明遮熱舗装とほぼ同等の耐摩耗性と乾燥性を示すことが確認されている
【0044】
【表2】
【0045】
<耐久性評価:はがれ抵抗性>
本発明遮熱舗装の耐久性を検討するため、ポーラスアスファルトに遮熱材を塗布した後に、はがれ抵抗性試験を実施した。本発明遮熱舗装としては、前述のような主剤にセルロースナノファイバー(CNF)を添加したもの、及びセルロースナノファイバー(CNF)を添加ないもの(CNF以外の配合については、CNFを添加したものと同じ)を用いこれらのCFF添加品とCNF添加無しの物について評価した。また比較例として、従来遮熱舗装と、主に車道に適用されているMMA系遮熱舗装についても同様に試験を実施した。
図3は、ねじれ法による試験結果である。結果より、CNFを添加した本発明遮熱舗装は、従来遮熱舗装に比べてはがれ面積率が約5 割であり、はがれ抵抗性が大幅に改善されている。このことは、図4に示す打撃法による試験結果からも確認できる。なおCNFを添加した本発明遮熱舗装のはがれ抵抗性は、MMA系遮熱舗装と比較しても遜色ない結果である。これらは、本実験で添加したセルロースナノファイバーにより塗膜の靱性が向上したためと推察すされる。なお、CNFを添加しない本発明遮熱舗装のはがれ抵抗性も、従来遮熱舗装と比較すれば、かなり改善されていることが、図3図4から明らかである。
【0046】
<耐久性評価:耐候性試験後のはがれ抵抗性>
CNFを添加した本発明遮熱舗装の供用開始後の耐久性を検討するため、メタルハライドランプによる耐候性試験(照射50時間)後に、はがれ抵抗性試験(ねじれ法)を実施した。試験結果を図5に示す。
結果より、本発明遮熱舗装は従来遮熱舗装と比較し、耐候性試験後のはがれ面積率が約5割となり、試験後でも規格値を満足していることがわかる。これより,従来遮熱舗装に比べて耐候性が大幅に改善していることを確認した。MMA系遮熱舗装と比較しても、はがれ面積率の差は10%以内であり、本発明遮熱舗装は良好な耐候性を有している。なお、CNFを添加しない本発明遮熱舗装の場合も、良好な耐候性を有していることが確認されている。
【0047】
<耐久性評価:ウェットトラック試験による耐水性>
塗膜の耐水性を評価するために、乳剤系表面処理工法の評価で用いられているウェットトラック試験を実施した。
表3は,CNFを添加した本発明遮熱舗装及び従来遮熱舗装についての、ウェットトラック試験前後の塗装表面とはがれ面積率である。結果より、従来遮熱舗装では水浸の影響で耐摩耗性が顕しく低下しているのに対して、本発明遮熱舗装では、はがれは確認されなかった。このことから、施工直後の本発明遮熱舗装は優れた耐水性を備えていることがわかった。なお、CNFを添加しない本発明遮熱舗装の場合も、従来遮熱舗装よりも良好な耐水性を有していることが確認されている。
【0048】
【表3】
【0049】
<施工現場評価>
現場における作業性と品質を確認するために、CNFを添加した本発明遮熱舗装工区と従来遮熱舗装工区を設けた構内試験施工を実施した。施工時の外気温は約5℃であり、吹付けはリシンガンで行った。施工時の塗布幅は均一であり、塗布してから約90 分で完全に乾燥したことから、本発明遮熱舗装の作業性と乾燥性は良好であったと判断した。
施工翌日に、はがれ抵抗性を確認するため、実車据え切り試験を実施した。表4に示す結果より、従来遮熱舗装では部分的なはがれが確認されたのに対して、本発明遮熱舗装では、はがれは見られず健全だった。これより、本発明遮熱舗装は、速乾性と耐久性に優れており、車道での適用が期待できることが確認された。なお、CNFを添加しない本発明遮熱舗装の場合も、従来遮熱舗装よりも良好な速乾性と耐久性を有していることが確認されている。
【0050】
【表4】
【0051】
以上のような各評価結果から、特定の3種のポリオールとセルロースナノファイバー(CNF)、および反応性造膜助剤を組み合わせた水性2液硬化性を有する遮熱性塗料組成物(エマルジョン系遮熱性塗料組成物)による本発明遮熱舗装は、従来から車道に適用されているMMA系遮熱舗装と遜色ない施工性と耐久性が得られることが確認された。
そしてまた、セルロースナノファイバーを添加しない場合においても、セルロースナノファイバーを添加した場合と同等か、又は少なくとも従来の一般的な水性塗料による遮熱舗装(従来遮熱舗装)よりも良好な施工性と耐久性が得られることが確認された。
【0052】
さらに本発明の遮熱性塗料組成物における主剤成分について詳細に説明する。
【0053】
主剤における塗膜形成バインダ成分としては、水性2液常温架橋が可能となるように、水酸基を有するポリオール樹脂を用いているが、そのポリオール樹脂粒子としては、単一のエマルジョン粒子又はディスパージョン粒子を用いるのではなく、主成分としてのエマルジョン粒子に、相対的に小径でかつ粒子特性が異なるエマルジョン粒子及びディスパージョン粒子を、相対的に少量配合して、合計3種類のポリオール樹脂を配合している。すなわち、本発明の遮熱性塗料組成物の主剤では、水性媒体中に塗膜形成バインダ成分として次の(A)~(C)の3種類の水性樹脂粒子が分散される。
(A): ヒドラジン構造を有するポリウレタンとカルボニル基含有アクリル系ポリマーとを含有させた水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール
(B): 水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール
(C): 水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール
【0054】
ここで、水性樹脂には、水溶性型、ディスパージョン型、エマルジョン型の三つの形態がある。各形態の樹脂の一般的な特性は、次の通りである。
【0055】
樹脂の外観:水溶性型は透明、ディスパージョン型は半透明~乳白色、エマルジョン型は乳白色に大別される。
・粒子径:水溶性型は10nm以下、ディスパージョン型は10nm~100nm、エマルジョン型は50nm~500nm、に大別される。
・分子量:水溶性型は小(10~10)、ディスパージョン型は中(10~10)、エマルジョン型は大(10以上)、に大別される。
・粘度:水溶性型は高粘度で分子量に相関し、ディスパージョン型は中粘度で分子量にやや相関し、エマルジョン型は低粘度で分子量に相関しない、に大別される。
・流動性:水溶性型はニュートン流動、ディスパージョン型はチキソトロピー性、エマルジョン型はチキソトロピー性、に大別される。
・造膜性:水溶性型は溶剤系樹脂に近い緻密な塗膜を形成、ディスパージョン型は水溶性型とエマルジョン型の中間の性質、エマルジョン型は粒子融着で塗膜形成し緻密性に欠ける、に大別される。
・耐水性:水溶性型は、やや不良ないし良好、ディスパージョン型は良好、エマルジョン型は非常に良好、に大別される。
【0056】
したがって、本発明において遮熱性塗料組成物の主剤に塗膜形成バインダ成分として使用される水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)および水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)は、エマルジョン型の水性樹脂として、また水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C)は、ディスパージョン型の水性樹脂として、概ね上記のような特性を有するものである。なお上記の区分は、あくまで概念的なものであり、本発明で使用する各樹脂の特性などを限定するものではない。
【0057】
このように塗膜形成バインダ成分として3種類の水性樹脂粒子(A)、(B)、(C)を配合している理由は次の通りである。
【0058】
すなわち水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)は、ヒドラジン構造を有するポリウレタンとカルボニル基含有アクリル系ポリマーとを含有して、自己架橋性を示すと同時に、ウレタン反応により常温で架橋(2液硬化)可能な水性樹脂であり、塗膜形成バインダ成分の主成分として、塗膜に適切な硬さを与え、塗膜の耐久性、耐候性を確保すると同時に、乾燥性(速乾性)を向上させるために必要な樹脂である。そこで本実施形態においても、塗膜形成バインダ成分の50重量%以上(90重量%以下)を占める主成分として用いることとしている。しかしながら、塗膜形成バインダの樹脂として、比較的大径のエマルジョン粒子のみを用いた場合、粒子間の隙間が大きくなって、塗膜の緻密性が欠けるため、耐水性、接着性が充分に得られず、また塗膜の柔軟性が低下して脆くなり、塗膜の剥離や欠損が生じやすくなるなど、耐久性に問題が生じる。さらに水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)単独では、造膜させるために高沸点溶剤を必要とするため、これがアスファルトを溶かすことで下地(アスファルトなどの舗装基材表面)との接着性も充分ではない。
【0059】
そこで本発明では、ヒドラジン構造を有するポリウレタンとカルボニル基含有アクリル系ポリマーとを含有する水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)に組み合わせて、相対的に小径のエマルジョン粒子として水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)と、より小径のディスパージョン粒子として水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C)を配合し、塗膜の緻密性を高め、柔軟性、ひいては耐久性を向上させるとともに、耐水性を向上させるようにしている。
【0060】
ここで、主成分の水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)以外の樹脂(ポリオール)の粒子としては、塗膜形成バインダ成分の主成分である水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(A)よりも小径で粒子形態、粒子特性も異なる水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)と、主成分である水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(A)の骨格とは異なるウレタン骨格を有し、かつ小径で粒子形態、粒子特性も異なる水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C)とを用いることとしている。
【0061】
このように、主剤の樹脂としては、主成分である水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)に、水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)と、水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C)とを組み合わせた配合とし、かつ主剤に対して後述する硬化剤を兼ねた反応性造膜助剤を加えることよって、塗膜強度(耐久性)、速乾性、柔軟性に優れた塗膜を得ることが可能となったのである。
【0062】
ここで、塗膜形成バインダ成分全体(すなわち水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(A)と、水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)と、水酸基含有アクリルディスパージョンポリオール(C)との合計量)に占める水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)の配合割合は、50~90重量%の範囲内、水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(B)の配合割合は、10~40重量%の範囲内、水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C)の配合割合は、5~30重量%の範囲内とすることが望ましい。
【0063】
また各塗膜形成バインダ成分の樹脂粒子の平均粒径は、要は水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)の平均粒径よりも、水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)の平均粒径および水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C)の平均粒径が小さければよいが、具体的な粒径としては、水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(A)の平均粒径は130~230nm程度が好ましく、水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)の平均粒径は90~140nm程度が好ましく、水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C)の平均粒径は40~90nm程度が好ましい。
【0064】
これらのバインダ樹脂成分(A)、(B)、(C)の詳細について、さらに説明する。
【0065】
<水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(A)>
水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(A)は、水性2液常温架橋型の遮熱性塗料組成物における塗膜形成バインダ成分の主成分であって、ヒドラジン構造を有するポリウレタンとカルボニル基含有アクリル系ポリマーとを含有しているため、ケチミン反応による自己架橋性を示し、そのため、水性塗料としての塗布後の乾燥過程において早期に自己架橋して硬化する。また同時にこの水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(A)は、水酸基(-OH)を有するため、常温でウレタン反応による架橋(2液硬化)を進行させることができ、特に、反応性造膜助剤の添加により十分にウレタン反応による架橋を進行させることができる。このように、水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(A)は、塗膜に硬さを付与して強度、耐久性を確保すると同時に、乾燥性(速乾性)を良好にするために必要な水性樹脂である。この水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(A)としては、水酸基価が10~30mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)が25~45℃の範囲内のものを使用することが望ましい。さらに水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)の粒径は、平均粒径で130~230nmの範囲内が好ましい。
【0066】
ここで、水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(A)の水酸基価が10mgKOH/g未満では、耐候性、耐水性、耐汚染性が得られず、一方、30mgKOH/gを超えれば、脆さが大きくなる。またガラス転移温度(Tg)が25℃未満では、耐候性、耐水性、耐汚染性が低下し、一方45℃を超えれば脆さが大きくなる。さらに、塗膜形成バインダ成分全体における水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(A)の配合割合が50重量%未満では、塗膜の硬さが不十分となって、耐久性(耐候性、耐水性、耐汚染性)が低下し、90重量%を超えれば、脆さが大きくなる。
【0067】
<水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)>
水酸基含有アクリルエマルジョンポリオールも、水酸基(-OH)を有するため、常温で反応性造膜助剤の添加により架橋反応(2液硬化)を十分に進行させ得る水性樹脂である。特に反応性造膜助剤の添加により十分にウレタン反応による架橋を進行させることができる水性樹脂である。このような水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)を、前述の塗膜形成バインダの主成分である水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)に対して組み合わせて比較的少量を配合することによって、主として塗膜の強度(強靭性)を向上させ、また乾燥性(速乾性)の向上にも寄与する。この水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)としては、水酸基価が50~70mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)が30~50℃の範囲内のものを使用することが望ましい。さらに水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)の粒径は、平均粒径で90~140nmの範囲内が好ましい。
【0068】
使用する水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)の水酸基価が50mgKOH/g未満では、耐候性、耐水性、耐汚染性が低下し、一方、70mgKOH/gを超えれば、脆さが大きくなる。また使用する水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)のガラス転移温度(Tg)が30℃未満では、耐候性、耐水性、耐汚染性が低下し、一方50℃を超えれば、脆さが大きくなる。さらに、塗膜形成バインダ成分全体における水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)の配合割合が10重量%未満では、耐候性、耐水性、耐汚染性が低下し、40重量%を超えれば、脆さが大きくなる。
【0069】
なお水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)の粒子としては、いわゆるコアシェル構造を有するものを用いてもよい。例えば、コア部分は硬質で、シェル部分が軟質となるように、コアとシェルとで、特性を変えた水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール粒子を用いてもよい。具体的には、例えば水酸基含有アクリルエマルジョンポリオールの分子量や水酸基価をコアとシェルとで異ならせた粒子を用いることができる。但し、このようなコアシェル構造を有するものに限定されないことはもちろんである。
【0070】
<水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C)>
水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオールも、常温でウレタン反応による2液硬化可能な水性樹脂として、前述の塗膜形成バインダの主成分である水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)に対して組み合わせて比較的少量を配合することによって、強靭性、柔軟性の向上に有効である。ここで、水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C)は、その骨格自体にウレタンを含有しているため、反応性造膜助剤が比較的少量でも硬化するから、反応性造膜助剤の添加量を少なくして、柔軟性を維持することが可能である。ここで使用する水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C)は、水酸基価が40~60mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)が-30~-10℃の範囲内のものが望ましい。さらに水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C)の粒径は、平均粒径で40~90nmの範囲内が好ましい。
【0071】
使用する水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C)の水酸基価が40mgKOH/g未満では、耐候性、耐水性、耐汚染性が低下し、一方、60mgKOH/gを超えれば、脆さが大きくなる。また使用する水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C)のガラス転移温度(Tg)が-30℃未満では、耐候性、耐水性、耐汚染性が低下し、一方、-10℃を超えれば脆さが大きくなる。さらに、塗膜形成バインダ成分全体における水酸基含有ポリウレタンディスパージョン(C)の配合割合が5重量%未満では、塗膜の柔軟性が低下し、30重量%を超えれば、乾燥性や強靭性が低下する。
【0072】
さらに本発明の実施形態の遮熱性塗料組成物の主剤は、上記の塗膜形成バインダ成分(A)、(B)、(C)のほか、有色顔料、好ましくは遮熱性有色顔料を含有する。さらに、塗膜強度向上剤としてセルロースナノファイバー(CNF)を含有することが望ましい。
【0073】
主剤における、上記のバインダ樹脂成分以外の各成分について次に説明する。
【0074】
<セルロースナノファイバー(CNF)>
セルロースナノファイバー(CNF)は、木材繊維(パルプ)等の植物繊維をナノオーダーまで微細化したバイオマス素材であり、塗膜中で絡み合って網目状に存在することにより、塗膜の強度、とりわけ耐剥がれ性、耐摩耗性を向上させて、遮熱塗膜の耐久性を向上させるのに有効である。また同時に、水濡れ性が良好な水溶性のファイバーであって、水性塗料中において均一に分散させることができ、しかも強度的にも他の多くの水溶性ファイバーよりも有利である。
【0075】
上記のように植物繊維由来のセルロースナノファイバーを含有させることが遮熱塗膜の強度向上、耐久性向上に有効であることは、本発明者等の実験により新規に見出されたことである。すなわち本発明の塗料組成物においては、既に述べたような3種類のポリールの配合による塗膜強度向上効果に加え、さらにセルロースナノファイバーを添加することによって、より一層顕著に塗膜強度、耐久性が向上して、車道でも十分に適用可能となったのである。
【0076】
なお、使用するセルロースナノファイバーのサイズは特に限定されず、また業界としての定義も完全に定まっているわけではないが、通常は、繊維長が1~100μmあり、繊維径が1~1000nmであればよい。但し、実際に塗膜成分として塗料に配合する際においては、セルロースナノファイバーは数十~数百μm程度に凝集した粉末状となっているものが用いやすい。
【0077】
ここで、主剤全体に占めるセルロースナノファイバーの割合は、0.01~10.0重量%の範囲内とすることが望ましく、その範囲内でも0.2~3.0重量%の範囲内が好適である。セルロースナノファイバーの割合が0.2重量%未満、とりわけ0.01重量%未満では、セルロースナノファイバーノ添加による充分な強度向上効果、耐久性向上効果が得られなくなるおそれがある。一方セルロースナノファイバーの割合が3.0重量%を越えれば、とりわけ10.0重量%を越えれば、水性塗料とした状態での粘性が大きくなりすぎて、塗装作業性が低下することが懸念される。
【0078】
<有色顔料>
有色顔料としては、遮熱性有色顔料を用いることが望ましい。有色顔料として遮熱性有色顔料を用いれば、その顔料は遮熱用フィラーとしても機能する。すなわち遮熱性有色顔料を用いれば、別途遮熱用フィラーを添加することなく(あるいは別途添加する遮熱用フィラーの添加量を少なくして)、遮熱性を確保することが可能となる。遮熱性有色顔料としては、遮熱性に優れた酸化チタンを用いることが好ましく、また酸化チタンのほか、色相によって遮熱性を示す酸化鉄(例えば赤色酸化鉄、黄色酸化鉄など)、そのほか複合酸化物系顔料などを使用することができる。酸化チタンで代表される遮熱性有色顔料としては、一般的な酸化チタン粉末の粒子径(平均で約0.2μm)よりも粒子径が大きくて、太陽光中の近赤外線を反射する効果が大きい大粒径遮熱性有色顔料、例えば平均粒子径が0.5~2.0μmの大粒径酸化チタンなどの遮熱性有色顔料を用いることが好ましい。酸化チタンなどの遮熱性有色顔料の平均粒子径が0.5μm未満では、近赤外線を反射して遮熱性を高める効果が充分に得られず、一方、2.0μmを越えれば、耐候性、耐水性が低下する。
【0079】
ここで、遮熱性有色顔料の、骨材を除いた塗料組成物に対する配合量が5重量%未満では、遮熱性有色顔料による遮熱性向上の効果が充分に発揮されず、一方25重量%を越えれば、耐候性、耐水性、付着性が低下するため、遮熱性有色顔料の配合割合は5~25重量%の範囲内が好ましい。
【0080】
<その他の主剤成分>
さらに、主剤には、トップコート遮熱層の表面の滑り止め材として、必要に応じて、珪砂やセラミック粉末などの骨材を含んでいてもよい。滑り止め材としての骨材は、その平均粒径が0.053~1.5mm程度が望ましく、またその量は、塗料組成物の重量に対して例えば50~70重量%程度であればよい。
【0081】
さらに、場合によっては粘性調整剤を含んでいてもよい。すなわち、セルロースナノファイバーの配合量が少ない場合や、滑り止め材などの骨材を配合する場合、水性塗料としての粘性が低すぎれば、これらが沈降してしまうことがあり、そこで塗料の粘性をある程度大きくするために粘性調整剤を添加してもよい。この場合の粘性調整剤としては、例えばメタクリル酸を主成分とする水溶性高分子を用いた溶液型の添加材を用いることができる。
【0082】
そのほか、一般的な水性塗料と同様に、必要に応じて体質顔料、沈降防止剤、湿潤分散剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、防黴剤などを配合してもよいことはもちろんである。
【0083】
本発明の遮熱性塗料組成物における主剤は、水等の水性媒体に分散させ、下地であるアスファルトなどの舗装面に塗装する直前に、硬化剤を兼ねた反応性造膜助剤を添加、混合する。
【0084】
この反応性造膜助剤は、水性塗料として水性媒体中に分散された主剤におけるバインダ成分の樹脂粒子との2液硬化を可能にするためのものである。この種の造膜助剤としては、従来一般には、水性塗料エマルジョン粒子の造膜を手助けする高沸点溶剤が用いられているが、高沸点溶剤を用いた場合、その溶剤成分が被覆膜中に残って、弊害が伴うことが多い。例えば、下地の舗装面と塗膜との間に不要な樹脂膜が形成されて結合力が失われたり、塗膜中に溶剤成分が残存して、塗膜の凝集破壊が生じたりする。
【0085】
そこで本発明における反応性造膜助剤としては、その物質自体もポリマーであって、バインダ成分である水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)、水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)、水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C)と反応して、硬化(架橋)させることが可能な物質を使用することとしている。具体的には、各ポリオールの水酸基(-OH)との間でウレタン架橋反応を生起する、イソシアネート基(-NCO)を含むポリイソシアネート系樹脂を反応性助剤として用いることとしている。具体的なポリイソシアネート系樹脂としては、水分散性のイソシアヌレート環を有する樹脂等を用いることが好ましい。
【0086】
そして、水性塗料としてアスファルトなどの舗装面に塗装する直前に、主剤にポリイソシアネートを反応性造膜助剤として添加混合し、直ちに塗装施工すれば、塗膜中でそのイソシアネート基(-NCO)が主剤バインダ成分の各ポリオールの水酸基(-OH)との間での架橋によりウレタン結合が生じ、その反応性造膜助剤を介して、各ポリオール樹脂粒子が結合され、塗膜が硬化(造膜)されることになる。
このようなポリイソシアネートは、それ自体がポリマーであるため、下地のアスファルト舗装などの表面と塗膜との間に不要な樹脂膜が形成されて結合力が失われたり、被覆膜中に溶剤成分が残存して塗膜の凝集破壊が生じたりすることがなく、成膜した際に耐水性等に悪影響を及ぼすおそれが少ない。
【0087】
反応性造膜助剤であるポリイソシアネートのイソシアネート基(-NCO)と主剤のバインダ成分である各ポリオールの水酸基(-OH)とのモル比は0.8~1.1が好ましく、このモル比が0.8未満では、未架橋のポリオールの割合が多くなり、接着性、柔軟性が低下し、モル比が1.1を超えると耐候性、耐水性、耐汚染性が低下する。
【0088】
なお、顔料として、前述の遮熱性有色顔料のほか、グリーン系、ブルー系、イエロー系、レッド系などの有色色調を呈させるため、各々の有色顔料などを添加してもよい。その場合のこれらの顔料の配合割合は、必要に応じて定めればよく、特に限定されないが、通常は、骨材を除いた塗料組成物に対して、0.1~10重量%程度とすればよい。
【0089】
本発明の塗料組成物を用いた遮熱性舗装の施工方法の一例は、以下のとおりである。但し以下に説明する施工方法は、飽くまで例示に過ぎず、以下の工法に限定されないことはもちろんである。
【0090】
最初に、本発明の塗料組成物を、施工する舗装面(路面)、例えばアスファルト舗装面に付着したゴミ、砂埃、油分等を除去し、必要に応じてマスキングテープで養生を行う。
次に、本発明の塗料組成物の主剤と反応性助剤とを所定の重量比で調合するとともに、水性媒体として水を添加し、ハンドミキサ等の混合手段を用いて十分に攪拌し、水性塗料とする。なお、必要に応じて、前述のように珪砂等のすべり止め骨材を水性塗料に添加してもよい。
【0091】
そして、エア塗装装置によるリシンスプレーガンを用い、この水性塗料をアスファルト舗装面に吹き付ける1回目の吹き付け作業を行う。このときの水性塗料の散布量は特に限定されないが、塗料組成物の付着量にして、0.5~0.7kg/m程度、例えば0.6kg/m程度とすればよい。水性塗料の散布量が0.5kg/m未満では少なすぎて散布ムラが生じ、0.7kg/mを超えれば多すぎて不経済であると共に乾燥性も著しく低下する。吹き付けた水性塗料が乾燥したことを確認した後、1回目と同じ方法で、2回目の吹き付け作業を行う。なお吹き付け作業に代えて、自在ほうき、ゴムレーキ、ローラ刷毛などを用いて塗装してもよい。
また、必要に応じてアスファルト舗装面などの基材舗装面にプライマー層を塗布などで形成した後、そのプライマー層の表面に上記の水性塗料を吹き付けなどによって塗装してもよい。
その後、マスキングテープを取り除き、吹き付けた水性塗料が十分に乾燥(硬化)したことを確認した後、交通開放すればよい。なお乾燥時間は、通常、常温で15分~2時間程度で充分である。
【0092】
ここで、水性塗料塗布後の乾燥過程においては、ヒドラジン構造を有するポリウレタンとカルボニル基含有アクリル系ポリマーとを含有させた水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)が早期に自己架橋する。また乾燥過程から乾燥後にかけて、硬化剤を兼ねた反応性造膜助剤の存在によって、バインダ成分である酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)、水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)、水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C)がウレタン反応によって架橋されて造膜が進行する。
【0093】
なお本発明の遮熱性舗装体に適した舗装としては、アスファルト舗装面、コンクリート舗装面、そのほかゴム粒やコルク粒を配合したアスファルト系弾性舗装などがあるが、特に車道の舗装面に有効である。
【0094】
なおまた、本発明の遮熱性舗装体は、新設または既設の舗装面に、本発明の遮熱性塗料組成物を塗装して施工するものである。この舗装体は、車道、歩道を問わず、道路に適用することができ、そのほか各種の屋外施設などに適用できる。
そして本発明の遮熱性舗装体を道路などに適用することにより、舗装の蓄熱を防止して、路面の温度上昇を抑制することができる。また、歩行者などの熱環境が改善され、夏期の熱中症対策として有効である。さらに、水系塗料であるため、人と環境への悪影響が少なく、施工時の臭気もほとんど発生しないなど、環境衛生や安全面で有利である。
【0095】
以下、本発明の実施例を、比較例とともに示す。なお以下の実施例は、本発明の効果を説明するためのものであって、実施例に記載された構成、プロセス、条件が本発明の技術的範囲を限定するものでないことはもちろんである。
【実施例
【0096】
表5の上段のNo.1~No.11に示すような、配合を種々異ならせた水系塗料組成物を用いた塗膜について種々の試験、評価を行ったので、その結果を表5の下段に示す。なお表5の上段の配合については、有色顔料及び骨材についてはその表示を省略している。
【0097】
具体的に実施例を説明すれば、塗膜形成バインダ成分として、水酸基価が20mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)が35℃、平均粒径が180nmのヒドラジン構造を有するポリウレタンとカルボニル基含有アクリル系ポリマーとを含有させた水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A)の樹脂と、水酸基価が60mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)が40℃、平均粒径が40nmの水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B)の樹脂と、水酸基価が50mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)が-20℃、平均粒径が60nmの、水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C)の樹脂とを用意した。
【0098】
さらに、塗膜強化剤として、繊維長100μm以下、繊維太さ50~1000μmのセルロースナノファイバー(CNF)を2重量%の濃度で純水に分散させたCNF水分散体(以下、「CNF(I)」と記す)を用意した。また同じサイズのセルロースナノファイバー(CNF)の凝集体の径数十~数百μm程度の粉末(以下、「CNF(II)」と記す)を用意した。
また、比較のための塗膜強化剤として、一般的な水溶性セルロースである、繊維長1mm以下、繊維幅20~30μmのカルボキシルメチルセルロース(CMC)、および繊維長1mm以下、繊維幅20~30μmのヒドロキシエチルセルロース(HEC)を用意した。
【0099】
一方、硬化剤を兼ねた反応性造膜助剤として、水分散性のイソシアヌレート環を有するポリイソシアネートを用意した。
【0100】
また遮熱用フィラーを兼ねた遮熱性有色顔料として、平均粒径1.0μmの酸化チタンおよび平均粒径1.1μmの複合酸化物を用意した。また滑り止め材としての骨材として、平均粒径0.08~0.8mmの珪砂を用意した。さらに粘性調整剤として、メタクリル酸を主成分とする水溶性高分子を用いた溶液型の添加剤を用意した。
【0101】
上記の(A)、(B),(C)の3種のポリオールを、次のように配合して、塗膜形成バインダ成分とした。なお各配合量(重量%)は、合計の塗膜形成バインダ成分に対する割合である。
・水酸基含有常温架橋ポリマーエマルジョンポリオール(A):60重量%
・水酸基含有アクリルエマルジョンポリオール(B):30重量%
・水酸基含有ポリウレタンディスパージョンポリオール(C):10重量%
【0102】
上記のように配合した塗膜形成バインダ成分に、さらに粘性調整剤を添加するとともに、遮熱性有色顔料としての酸化チタン4.5重量%、複合酸化物0.5%、および滑り止め材としての骨材として、珪砂を58.0重量%添加して主剤とした。さらに、前記反応性造膜助剤を主剤に添加混合した後、直ちに密粒アスファルトの表面に、常法にしたがって吹き付け塗装した。塗装量は、600g/mを2回塗りとした(平均の塗膜厚で約500~600μm)。塗装後、72時間常温で放置して、表5のNo.1として示すブランク品(CNF添加無し)とした。
【0103】
また、CNF添加の効果を確認するため、No.1のブランク品(CNF添加無し)の主剤に、CNF(I)もしくはCNF(II)を、種々の割合で添加して、表5のNo.4~No.10に示すCNF添加品とした。なお粘性調整剤は、CNF添加量が1%のNo.7では1%に減少させ、CNF添加量が2%以上のNo.8~10では添加しなかった。そのほかのCNF添加品の配合はNo.1のブランク品と同じである。
【0104】
さらに比較のため、一般的な水溶性セルロースである前記のカルボキシルメチルセルロース(CMC)、もしくはヒドロキシエチルセルロース(HEC)を、No.1のブランク品(CNF添加無し)の主剤に添加して、表5のNo.2、No.3に示す比較品とした。
また、従来の一般的な水系塗料を密粒アスファルトの表面に、常法にしたがって吹き付け塗装した従来品をNo.11とした。ここで、従来の一般的な水系塗料とは、歩道用として従来使用されているアクリルエマルション系の1液遮熱塗料であり、その具体的配合、塗布条件は、次の通りである。
酸化チタン:10重量%、有機黒色顔料:1重量%、炭酸カルシウム:10重量%、アクリルエマルションの樹脂成分:15重量%、珪砂:33重量%、その他の水および添加剤:31%を混合したものを水性遮熱塗料とした。塗布条件としては、500g/m×2回塗りしたものを比較体とした。
【0105】
No.1~No.11の各塗装品について、種々の測定もしくは評価試験を行ったので、その結果を表5の下段に示す。
各測定、評価試験の内容は、次のとおりである。
【0106】
・粘度測定:JISK5600-2-2のストーマー粘度測定法にて測定した。
・乾燥性評価:気温20℃・湿度50%環境にて、指触評価(指で触った際に、塗料が付着しなくなるまでの時間の測定)、タックフリー評価(靴で踏んで、痕が残らなくなるまでの時間の測定)を行った。
・耐衝撃性評価:密粒アスファルトに塗装し、養生7日後に、重り3kgの分銅を高さ1mから落下させた際の剥離状態を観察した。
・ゴム輪ねじれ試験:ソリッドタイヤに試験者が乗り、90°に捩じる作業を行った際の剥離状態を観察した。
【0107】
なおここで、耐衝撃性およびゴム輪ねじれ試験は、剥離状態に応じて次のように評価した。
〇:剥離無し。
〇△:表面の凸部で骨材が若干露出。
△:直径5mm程度以下の小さな剥離が、20cm当たり、5個以下認められる。
×:中程度(直径1cm程度)の剥離が認められる。
××:大きな剥離(直径2cm程度以上)が認められる。
×××:全面積の1/2以上が大きく剥離。
【0108】
【表5】
【0109】
表5に示す結果から、本発明塗料組成物を用いた場合には、CNF添加の有無にかかわらず、良好な特性を有する塗膜が得られることが分かる。また、セルロースとしてCMCもしくはHECを添加した場合は、塗料としての粘度が大きくなりすぎて、実際上塗装作業が困難となるのに対し、CNF添加品では粘度の増加は少なく、塗装作業性を損なうことも少ないことが分かる。なお表5の結果から、CNFを添加する場合には、CNFの添加量が0.2~3.0%が好ましいことが分かる。
【0110】
さらに、水系塗料組成物による塗膜の耐摩耗性を調べるため、表5のNo.1のブランク品(本発明品:CNF添加無し)と、CNFを添加した本発明品であるNo.8のCNF2.0%添加品についてテーバー耐摩耗試験を行った。また比較のため、従来の一般的な水系塗料(No.11)についてもテーバー耐摩耗試験を行った。ここでテーバー耐摩耗試験は、JIS K5600-5-9の耐摩耗性(摩耗輪法)に準拠して行った。その結果を表6に示す。
【0111】
【表6】
【0112】
表6から、CNFを添加することによって、耐摩耗性が向上することが分かる。
【0113】
さらに、水系塗料組成物における塗膜の乾燥性(速乾性)を調べた。No.1のブランク品(CNF添加無し)についての乾燥性評価結果を表7に、No.8の2.0%CNF添加品についての乾燥性評価結果を表8に、No.11の従来の一般的な水系塗料による場合の乾燥性評価結果を表9に示す。なお乾燥性は、各種環境にて、指触による評価(指で触った際に、塗料が付着しなくなるまでの時間)と、タックフリーによる評価(靴で踏んで、痕が残らなくなるまでの時間)を調べた。
【0114】
【表7】
【0115】
【表8】
【0116】
【表9】
【0117】
表7~表9を比較すれば明らかなように、本発明品では、CNF無添加品、CNF添加品のいずれも、従来は水系塗料として乾燥性が悪くて不適当とされていた低温領域や多湿領域でも、CNF添加品では、良好な乾燥性が得られることが分かる。
【0118】
さらに、屋外での実車による耐すえ切り性と耐水すえ切り性を調べたので、その結果を表10に示す。試験方法としては、ライトバンに大人二人が乗車し、ハンドルの最大可動領域を10往復させ、塗膜の剥離状況を調べた。なお表10の上段の「耐すえ切り性」は、乾燥した塗膜で試験した結果を示、下段の「耐水すえ切り性」は散水した塗膜で試験した結果を示す。
【0119】
【表10】
【0120】
表10から、本発明品では、CNF無添加品、CNF添加品のいずれも、耐すえ切り性および耐水すえ切り性がともに優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0121】
1・・・舗装基材
3・・・遮熱性塗膜
31・・・塗膜のマトリックス
32・・・セルロースナノファイバー
33・・・無機遮熱性有色顔料
図1
図2
図3
図4
図5