(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】ゴム部材の接着方法
(51)【国際特許分類】
B29C 65/48 20060101AFI20230620BHJP
B29C 65/52 20060101ALI20230620BHJP
C09J 4/02 20060101ALI20230620BHJP
C09J 5/02 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
B29C65/48
B29C65/52
C09J4/02
C09J5/02
(21)【出願番号】P 2019040188
(22)【出願日】2019-03-06
【審査請求日】2022-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2018043763
(32)【優先日】2018-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108111
【氏名又は名称】セメダイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151688
【氏名又は名称】今 智司
(72)【発明者】
【氏名】辻 知希
(72)【発明者】
【氏名】緑川 智洋
(72)【発明者】
【氏名】橋向 秀治
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-195108(JP,A)
【文献】米国特許第7014790(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00-65/82
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
60℃以上の耐熱性を有するゴム部材を用いて構成される被着体の所定の領域にハイドロパーオキサイドを含有するプライマーを塗布するプライマー塗布工程と、
前記ハイドロパーオキサイドを含有するプライマーが塗布された領域の少なくとも一部に液状常温硬化型接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、
前記被着体の前記ハイドロパーオキサイドを含有するプライマー及び前記液状常温硬化型接着剤が塗布された部分に、前記被着体の一部、又は前記被着体とは異なる被着体を貼り合わせて接合部材を得る貼り合わせ工程と
を備
え、
前記異なる被着体が、60℃以上の耐熱性を有するゴム部材を用いて構成され、
前記液状常温硬化型接着剤が、重合性ビニルモノマーを含有するA剤、並びに前記重合性ビニルモノマー及び重合開始剤との間でレドックス触媒系を形成する還元剤を含有するB剤を有する2液アクリル系接着剤であるゴム部材の接着方法。
【請求項2】
前記プライマー塗布工程の前に、前記所定の領域に前処理を施す前処理工程を更に備える請求項
1に記載の接着方法。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の接着方法により前記被着体の一部同士、又は前記被着体と前記被着体とは異なる被着体とを接着して得られる接合部材
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム部材の接着方法に関する。特に、本発明は、接着性に優れた接着領域を有するゴム部材の接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被接合部材表面に還元剤を含有する溶液をプライマーとして事前に塗布し、(1)重合性ビニルモノマー、(2)重合開始剤、(3)ブチルゴムを含有する組成物を用いて被接合部材同士を接合する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の方法によれば、被接合部材をブチルゴム系素材で接合する場合に、良好な粘着性を示し、かつ、接合後は速やかに接合強度が発現させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の方法においては、還元剤を含有するプライマーを用いていることから接着強度が十分ではない場合がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、接着性に優れた接着領域を有するゴム部材の接着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため、ゴム部材を用いて構成される被着体の所定の領域にハイドロパーオキサイドを含有するプライマーを塗布するプライマー塗布工程と、ハイドロパーオキサイドを含有するプライマーが塗布された領域の少なくとも一部に液状常温硬化型接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、被着体のハイドロパーオキサイドを含有するプライマー及び液状常温硬化型接着剤が塗布された部分に、被着体の一部、又は当該被着体とは異なる被着体を貼り合わせて接合部材を得る貼り合わせ工程とを備えるゴム部材の接着方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明のゴム部材の接着方法によれば、接着性に優れた接着領域を有するゴム部材の接着方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ゴム部材を用いて構成される被着体(第1の被着体)を他の被着体(第2の被着体)に接着すること、又は被着体の一部同士を接着すること(つまり、ある被着体の端部等と、当該被着体の当該端部等とは異なる端部等とを接着すること)で接合部材が得られる。近年は係る接合部材に耐熱性や接着性が求められている。第1の被着体を第2の被着体に接着する場合や被着体の一部同士を接着する場合において、従来の瞬間接着剤等を用いて接着した場合、耐熱性や接着性に劣る場合がある。また、2液型アクリル系接着剤のみを用いて第1の被着体を第2の被着体に接着した場合や被着体の一部同士を接着した場合、硬化した接着剤と被着体との界面で剥がれが発生し、接着性が十分ではない。そこで、本発明者は、様々な接着剤、様々なプライマー等を用い、様々な接着プロセスを検討した結果、ゴム部材を用いて構成される被着体の表面に有機過酸化物(特に、ハイドロパーオキサイド)を含有するプライマーを塗布し、そこに液状常温硬化型接着剤を塗布した後に他の被着体又は被着体の他の部分を貼り合わせて接着剤を硬化させると、接着性に優れた接着領域が特異的に形成され、接着剤と被着体とが強固に接着する(あるいは、第1の被着体と第2の被着体とが強固に接着する、又は被着体と当該被着体の他の部分とが強固に接着する)という知見を得た。本発明に係るゴム部材の接着方法は、係る知見に基づく。
【0009】
具体的に、本発明に係るゴム部材の接着方法は、ゴム部材を用いて構成される被着体の所定の領域にハイドロパーオキサイドを含有するプライマーを塗布するプライマー塗布工程と、ハイドロパーオキサイドを含有するプライマーが塗布された領域の少なくとも一部に液状常温硬化型接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、被着体のハイドロパーオキサイドを含有するプライマー及び液状常温硬化型接着剤が塗布された部分に、被着体の一部、又は当該被着体とは異なる被着体を貼り合わせて接合部材を得る貼り合わせ工程とを備える。また、有機過酸化物の被着体への濡れ性を向上させる観点から、プライマー塗布工程の前に、被着体の所定の領域に、表面あらしや、研磨、脱脂処理、UV洗浄、コロナ放電処理、プラズマ処理、フレーム処理、ハロゲン化処理等の前処理を施す前処理工程を備えることが好ましい。第1の被着体と第2の被着体とを接着させること、又は被着体の一部と当該被着体の他の部分とを接着させることで接合部材が形成される。以下の説明では、原則として、第1の被着体と第2の被着体とを用いた例を挙げて説明する。
【0010】
[被着体]
第1の被着体と第2の被着体とは同一の材料から形成されていても、互いに異なる材料から形成されていてもよい。但し、被着体、及び第1の被着体は、ゴム部材を用いて構成される。ゴム部材を構成するゴム材料は、様々なゴム材料が挙げられ、高温使用限界における温度が60℃以上の耐熱性を有するゴム材料を用いることが好ましい。ゴム材料としては、例えば、天然ゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム等が挙げられるが、特にジエン系ゴムの貼り合わせに好適に用いることができる。また、被着体、若しくは第1の被着体及び第2の被着体の形状に特に限定はなく、互いに貼り合わせることができる領域(プライマー及び/又は接着剤が塗布可能な領域であり、平面が好ましい)を少なくとも一部に有している限り、様々な形状にすることができる。
【0011】
[プライマー]
本発明のプライマーは有機過酸化物を含有するプライマーである。そして、本発明の有機過酸化物としては、単体では常温環境下で安定であり、取り扱いが簡便であることと、及び還元剤との併用により常温環境下で容易に反応が開始することから、ハイドロパーオキサイドを用いる。ハイドロパーオキサイドとしては、例えば、t-ブチルハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。なお、プライマー単独で用いるだけでなく、プライマーを所定の溶媒で希釈して用いることもできる。所定の溶媒は有機溶媒であって、例えば、アセトン、ヘプタン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、トルエン等が挙げられる。なお、本発明において、プライマーはその他の添加剤として、更にポリメチルメタクリレート、ポリビニルブチラール、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、メタクリル酸エステル-ブタジエン-スチレン共重合体、メタクリル酸エステル-ブタジエン-アクリロニトリル-スチレン共重合体等の熱可塑性樹脂、スチレン-ブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、塩化ゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム等のゴム、液状ポリブタジエン、末端アクリル変性液状ポリブタジエン、液状アクリロニトリル-ブタジエン共重合体等の液状ゴムを配合することができる。また、揺変性の付与を目的として微粉末ポリエチレン、ジベンジリデン-D-ソルビトール、セルローストリアセテート、ステアリン酸アミド、ベントナイト、微粉末ケイ酸等の揺変性付与剤を配合することができる。更に、着色のための染料や顔料を配合することができる。
【0012】
[液状常温硬化型接着剤]
液状常温硬化型接着剤として、アクリル系接着剤やエポキシ系接着剤等が挙げられる。液状常温硬化型接着剤としては、耐熱性、耐久性に優れ、速硬化である観点から、アクリル系接着剤を用いることが好ましい。更にアクリル系接着剤としては、重合性ビニルモノマーを含有するA剤、及び重合性ビニルモノマーと重合開始剤との間でレドックス触媒系を形成する還元剤とを含有するB剤を有する2液アクリル系接着剤が好ましく、A剤が更に重合開始剤を含有する2液アクリル系接着剤であることがより好ましい。
【0013】
(重合性ビニルモノマー)
重合性ビニルモノマーとしては、様々な重合性ビニルモノマーを用いることができる。具体的に、ラジカル重合が可能である各種の重合性ビニルモノマーを用いることができる。重合性ビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、α-アルキルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルエーテル、ジビニルエーテル、無水マレイン酸、マレイン酸エステル、N-ビニルピロリドン、2-ビニルピリジン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。良好な重合反応性を有するという観点から、(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
【0014】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、以下の(i)~(v)で示される化合物が挙げられる。
【0015】
(i)一般式が、Z-O-R1で表される単量体。
【0016】
式(i)中、Zは(メタ)アクリロイル基を示し、R1は水素又は炭素数1~20のアルキル基、シクロアルキル基、ベンジル基、フェニル基、テトラヒドロフルフリル基、グリシジル基、ジシクロペンチル基、ジシクロペンテニル基、(メタ)アクリロイル基、イソボルニル基を表す。
【0017】
一般式(i)で表される単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、グリセロール(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
【0018】
(ii)一般式が、Z-O-(R2O)p-R1で示される単量体。
【0019】
式(ii)中、Z及びR1は上記と同一である。また、R2は、-C2H4-、-C3H6-、-CH2CH(CH3)-、-C4H8-、又は-C6H12-を示し、pは1~25の整数を表す。
【0020】
一般式(ii)で表される単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、及び1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0021】
(iii)一般式が、
Z-(OR2)q-O-pH-C(R3)2-pH-O-(R2O)q-Z
で示される単量体。
【0022】
式(iii)中、Z及びR2は上記と同一である。R3は水素又は炭素数1~4のアルキル基を表し、qは0~8の整数を表し、pHはフェニレン基を表す。
【0023】
一般式(iii)で表される単量体としては、例えば、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、及び2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン等のEO変性エポキシ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0024】
(iv)一般式(i)、一般式(ii)、又は一般式(iii)で表される単量体を除く多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル。
【0025】
(iv)に含まれる単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0026】
(v)(メタ)アクリロイルオキシ基を有するウレタンプレポリマー。
【0027】
(v)に含まれる単量体としては、例えば、水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル、有機ポリイソシアネート及び多価アルコールを反応させることにより得られる化合物が挙げられる。
【0028】
ここで水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、及び(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル等が挙げられる。
【0029】
(重合開始剤)
重合開始剤としては、様々な重合開始剤を用いることができる。本発明の重合開始剤としては、有機過酸化物を用いることが好ましい。重合開始剤としての有機過酸化物としては、例えば、t-ブチルパーオキシベンゾエート、クメンハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンジハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド及びベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。これらの中では、常温環境下で安定であり、取り扱いが簡便であることと、還元剤との併用により常温環境下で容易に反応が開始することから、ハイドロパーオキサイド類が好ましく、特にクメンハイドロパーオキサイドを用いることが好ましい。
【0030】
(還元剤)
還元剤としては、重合開始剤若しくはプライマーとして用いる有機過酸化物が還元剤と反応してラジカルを発生する各種の化合物を用いることができる。還元剤としては、例えば、アミンとアルデヒドとの反応縮合物、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルパラトルイジン、2-メルカプトベンズイミダゾール、メチルチオ尿素、ジブチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、エチレンチオ尿素、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸銅、バナジルアセチルアセトネート等が挙げられる。これらの中では、ハイドロパーオキサイドとの反応性が良好なことからバナジルアセチルアセトネートやエチレンチオ尿素が好ましい。
【0031】
(その他の添加剤)
液状常温硬化型接着剤、又は液状常温硬化型接着剤が2液アクリル系接着剤である場合、その他に、A剤中及び/又はB剤中に、改質剤として、粘度調整及び硬化物の柔軟性を向上させることを目的にポリメチルメタクリレート、ポリビニルブチラール、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、メタクリル酸エステル-ブタジエン-スチレン共重合体、メタクリル酸エステル-ブタジエン-アクリロニトリル-スチレン共重合体等の熱可塑性樹脂、スチレン-ブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、塩化ゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム等のゴム、液状ポリブタジエン、末端アクリル変性液状ポリブタジエン、液状アクリロニトリル-ブタジエン共重合体等の液状ゴムを配合することができる。また、揺変性の付与を目的として微粉末ポリエチレン、ジベンジリデン-D-ソルビトール、セルローストリアセテート、ステアリン酸アミド、ベントナイト、微粉末ケイ酸等の揺変性付与剤を配合することができる。更に、空気接触面の硬化性を改良するためのパラフィン、蜜ロウ等、及び着色のための染料や顔料を配合することができる。
【0032】
[ゴム部材の接着方法]
本発明のゴム部材の接着方法は、上述の通り、前処理工程、プライマー塗布工程、接着剤塗布工程、及び/又は貼り合わせ工程を備える。
【0033】
(前処理工程)
前処理工程は、第1の被着体及び/又は第2の被着体のプライマー及び/又は液状常温硬化型接着剤を塗布する領域(以下、単に「所定の領域」と称する)に対して所定の前処理を施す工程である。前処理としては、例えば、所定の領域をサンドペーパー等のやすりを用いて荒らす処理、研磨する処理、及び/又は洗浄剤やアセトン若しくはメチルエチルケトン等の有機溶媒等を用いて所定の領域の表面を洗浄/脱脂する処理が挙げられる。なお、1つの被着体のみを用いる場合は、当該被着体の所定の領域に前処理を施す。
【0034】
(プライマー塗布工程)
プライマー塗布工程は、ゴム部材を用いて構成される第1の被着体及び/又は第2の被着体の所定の領域にハイドロパーオキサイドを含有するプライマーを塗布する工程である。プライマー塗布工程においては、ハイドロパーオキサイド単体、若しくは所定の溶媒や必要に応じて添加したその他の添加剤を配合したハイドロパーオキサイドを含有するプライマーを所定の領域に塗布する。なお、所定の領域は、前処理工程において前処理が施されていることが好ましい。また、プライマー塗布工程は、プライマーを塗布した後にプライマーを乾燥させる乾燥工程を含んでもよい。なお、1つの被着体のみを用いる場合は、当該被着体の所定の領域にハイドロパーオキサイドを含有するプライマーを塗布する。
【0035】
(接着剤塗布工程)
接着剤塗布工程は、プライマー塗布工程後、ハイドロパーオキサイドを含有するプライマーが塗布された領域の少なくとも一部に液状常温硬化型接着剤を塗布する工程である。接着剤塗布工程は、液状常温硬化型接着剤として2液アクリル系接着剤を用いる場合、A剤とB剤とを準備する工程と、A剤とB剤とを混合する工程と、この混合物をハイドロパーオキサイドを含有するプライマーが塗布された領域の少なくとも一部に塗布する工程を含む。なお、所定の領域上においてA剤とB剤とを混合してもよい。ハイドロパーオキサイドを含有するプライマーと液状常温硬化型接着剤とが接触することで、液状常温硬化型接着剤に含まれる還元剤とハイドロパーオキサイドとの反応が進行する。なお、プライマー塗布工程及び接着剤塗布工程の塗布方法に特に限定はなく、刷毛等を用いて塗布する方法やスプレーにより塗布する方法等を用いることができる。
【0036】
(貼り合わせ工程)
貼り合わせ工程は、第1の被着体及び/又は第2の被着体のハイドロパーオキサイドを含有するプライマー及び液状常温硬化型接着剤が塗布された部分に、第1の被着体とは異なる第2の被着体を貼り合わせて接合部材を作製する工程である。なお、1つの被着体のみを用いる場合、当該被着体のハイドロパーオキサイドを含有するプライマー及び液状常温硬化型接着剤が塗布された部分に、当該被着体の他の部分を貼り合わせて接合部材を作製する。液状常温硬化型接着剤が硬化することで第1の被着体と第2の被着体とが接着され(1つの被着体のみを用いる場合、当該被着体の一部と当該被着体の当該一部とは異なる部分とが接着され)、液状常温硬化型接着剤が硬化した部分が接着領域になる。これにより、接合部材が得られる。なお、液状常温硬化型接着剤は、常温(23℃)で所定時間(例えば、12時間)放置することで硬化する。また、硬化速度を向上させる観点から、加温処理を施してもよい。
【0037】
なお、液状常温硬化型接着剤のA剤には重合開始剤が含まれていることが好ましく、重合開始剤としては有機過酸化物が挙げられる。A剤に含まれる重合開始剤が有機過酸化物である場合において、プライマーを用いない場合は、被着体と当該被着体の他の部分、又は第1の被着体と第2の被着体とは実用に耐え得る範囲で接着しない。これは、A剤に有機過酸化物が含まれていたとしても、この有機過酸化物は被着体の表面に対して実質的にプライマーとしての効果を発揮しないことを示唆する。つまり、被着体の表面に有機過酸化物としてのハイドロパーオキサイドが存在していること(すなわち、被着体の表面にハイドロパーオキサイドを含有するプライマーを直接、塗布すること)が、被着体のある部分と他の部分、又は第1の被着体と第2の被着体との接着強度を向上させることに寄与していると推測される。
【0038】
また、被着体のある部分と他の部分、又は第1の被着体の第2の被着体に対する接着強度(若しくは第2の被着体の第1の被着体に対する接着強度)は、ハイドロパーオキサイドを含有するプライマーと液状常温硬化型接着剤とからなる接着領域が剥離方向に移動する所定の力を接合部材に加えた場合、以下の剥離強度を接着領域が有することが好ましい。
【0039】
a)被着体のある部分若しくは他の部分の少なくともいずれか一方、又は第1の被着体若しくは第2の被着体の少なくともいずれか一方が伸長しきってしまい、それ以上の測定が不可の状態になる剥離強度を接着領域が有すること、及び/又は
b)被着体のある部分若しくは他の部分の少なくともいずれか一方の内部から、又は第1の被着体若しくは第2の被着体の少なくともいずれか一方の内部から破壊されること(材料破壊)で被着体のある部分と他の部分とが分離する、若しくは第1の被着体と第2の被着体とが分離する剥離強度を接着領域が有すること。
【0040】
なお、接着領域は、100℃以上環境下で24時間放置後であっても、物性を維持できる耐熱性を有していることがより好ましい。
【0041】
[実施の形態の効果]
本発明に係るゴム部材の接着方法は、ゴム部材を用いて構成される被着体の表面にハイドロパーオキサイドを塗布し、ここに液状常温硬化型接着剤を塗布して被着体の他の部分若しくは他の被着体を貼り合わせる。ハイドロパーオキサイドを含有するプライマーをゴム材料からなる被着体の表面に直接、塗布することで、被着体と当該被着体の他の部分とを貼り合わせて得られる接合部材、若しくは第1の被着体と第2の被着体とを貼り合わせて得られる接合部材において、被着体同士、若しくは第1の被着体と第2の被着体とが強固に接着する。また、接着領域が良好な耐熱性を示す効果も望まれる。これにより、接着性及び/又は耐熱性や耐久性に優れた接合部材を作製できる。なお、本発明のゴム部材の接着方法は、各種電気・電子分野用、自動車用、建築物用、土木用等の様々な工業分野に用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げて更に具体的に説明する。なお、これらの実施例は例示であり、限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0043】
(実施例1)
実施例1においては、天然ゴム(NR)製の第1の被着体及び第2の被着体を準備した。第1の被着体及び第2の被着体はそれぞれ、縦150mm×横20mm×厚み2mmの天然ゴム(商品名:NB603、日東化工株式会社製)製の試験片である。そして、第1の被着体及び第2の被着体の縦方向の片端部から縦100mm×横20mmの領域をサンドペーパー(#100)を用いて表面の光沢が無くなるまで研磨後、メチルエチルケトン(MEK)を用いて脱脂処理(洗浄処理)を施した(前処理工程)。次に、前処理を施した第1の被着体及び第2の被着体を用意し、前処理を施した領域(第1の被着体及び第2の被着体の双方の領域)にプライマーとしてクメンヒドロパーオキサイド(CHP、商品名:パークミル(登録商標)H、日油株式会社製)を刷毛にて塗布し、数分間乾燥させた(プライマー塗布工程)。続いて、第1の被着体及び第2の被着体双方のCHPを塗布した領域それぞれに液状常温硬化型接着剤である2液アクリル系接着剤(商品名:Y630D、セメダイン株式会社製)を約0.2mmの厚さで塗布し(接着剤塗布工程)、第1の被着体に第2の被着体を貼り合わせて約100gの重りを載せて固定し、23℃50%RH環境下で12時間放置して接着剤を硬化させた(貼り合わせ工程)。これにより、実施例1に係る接合部材(実施例1に係る接着試験片)が得られた。そして、得られた実施例1に係る接合部材について、所定の評価を実施した。
【0044】
(接着性評価)
実施例1に係る接着試験片を23℃環境下にて、オートグラフAG-I(株式会社島津製作所製)を用いて、T字剥離試験(引張り速度100mm/min)を実施し、接着性を下記の評価方法に従って評価した。
【0045】
○:剥がれない、又は部材破壊の割合が70%以上の場合。
△:部材破壊が40%以上70%未満の場合。
×:界面破壊の場合、又は部材破壊が40%未満の場合。
【0046】
(実施例2)
実施例2は実施例1とは異なり、ハイドロパーオキサイドを含有するプライマーとして1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド(商品名:パーオクタ(登録商標)H、日油株式会社製)を用いた点を除き、実施例1と同様にして実施例2に係る接合部材を作製し、評価した。
【0047】
(実施例3)
実施例3は実施例1とは異なり、CHPを溶剤であるメチルエチルケトン(MEK)で希釈した点を除き、実施例1と同様にして実施例3に係る接合部材を作製し、評価した。なお、50重量部のCHPを50重量部のMEKに溶解させた。
【0048】
(実施例4)
実施例4は実施例1とは異なり、CHPを溶剤であるヘプタンで希釈した点を除き、実施例1と同様にして実施例4に係る接合部材を作製し、評価した。なお、50重量部のCHPを50重量部のヘプタンに溶解させた。
【0049】
(実施例5)
実施例5は実施例1とは異なり、液状常温硬化型接着剤である2液アクリル系接着剤(商品名:Y630D、セメダイン株式会社製)のB剤のみを用いた点を除き(すなわち、過酸化物を含むA剤を用いず)、実施例1と同様にして実施例5に係る接合部材を作製し、評価した。
【0050】
(実施例6)
実施例6は実施例3とは異なり、前処理工程でMEKを用いた脱脂処理を省略した点を除き、実施例3と同様にして実施例6に係る接合部材を作製し、評価した。
【0051】
(実施例7)
実施例7は実施例1とは異なり、被着体として天然ゴム(NR)の代わりにクロロプレンゴム(CR)を用いた点を除き、実施例1と同様にして実施例7に係る接合部材を作製し、評価した。
【0052】
(比較例1)
比較例1はプライマー塗布工程を省いた点を除き、実施例1と同様にして比較例1に係る接合部材を作製し、評価した。
【0053】
(比較例2)
比較例2は実施例1とは異なり、ハイドロパーオキサイドを含有するプライマーではなくジアルキルパーオキサイドであるジ-t-ヘキシルパーオキサイド(商品名:パーヘキシル(登録商標)D、日油株式会社製)を用いた点を除き、実施例1と同様にして比較例2に係る接合部材を作製し、評価した。
【0054】
(比較例3)
比較例3は実施例1とは異なり、ハイドロパーオキサイドを含有するプライマーではなくパーオキシエステルである1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-ヘキサン酸エチル(商品名:パーオクタ(登録商標)O-70(S)、日油株式会社製)を用いた点を除き、実施例1と同様にして比較例3に係る接合部材を作製し、評価した。
【0055】
(比較例4)
比較例4は実施例1とは異なり、ハイドロパーオキサイドを含有するプライマーではなく、還元剤を含有するプライマー(ネオデカン酸銅(日本化学産業株式会社製)1重量部、n-ブチルアルデヒドアニリン(商品名:ノクセラー(登録商標)8、大内新興化学工業株式会社製)30重量部、MEK70重量部の混合物)を用いた点を除き、実施例1と同様にして比較例4に係る接合部材を作製し、評価した。
【0056】
表1に各工程における各処理、及び用いた材料を示す。また、得られた接合部材について評価した結果を示す。なお、表1の工程内容・使用材料において、化合物の欄の数値の単位は重量部であり、採用した工程及び使用した材料の欄に「〇」を付した。
【0057】
【0058】
表1を参照すると分かるように、実施例1~7に係る接合部材においてはいずれも、接着性の評価が「〇」又は「△」であり、良好な接着性を有することが示された。
【0059】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せのすべてが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点、及び本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能である点に留意すべきである。