IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ゾール メディカル コーポレイションの特許一覧

<>
  • 特許-胸部コンプライアンスに従う胸部圧迫 図1
  • 特許-胸部コンプライアンスに従う胸部圧迫 図2
  • 特許-胸部コンプライアンスに従う胸部圧迫 図3
  • 特許-胸部コンプライアンスに従う胸部圧迫 図4
  • 特許-胸部コンプライアンスに従う胸部圧迫 図5
  • 特許-胸部コンプライアンスに従う胸部圧迫 図6A
  • 特許-胸部コンプライアンスに従う胸部圧迫 図6B
  • 特許-胸部コンプライアンスに従う胸部圧迫 図7
  • 特許-胸部コンプライアンスに従う胸部圧迫 図8
  • 特許-胸部コンプライアンスに従う胸部圧迫 図9
  • 特許-胸部コンプライアンスに従う胸部圧迫 図10
  • 特許-胸部コンプライアンスに従う胸部圧迫 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】胸部コンプライアンスに従う胸部圧迫
(51)【国際特許分類】
   A61H 31/00 20060101AFI20230620BHJP
【FI】
A61H31/00
【請求項の数】 36
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021196211
(22)【出願日】2021-12-02
(62)【分割の表示】P 2018502425の分割
【原出願日】2016-09-16
(65)【公開番号】P2022043105
(43)【公開日】2022-03-15
【審査請求日】2021-12-28
(31)【優先権主張番号】62/221,167
(32)【優先日】2015-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504242032
【氏名又は名称】ゾール メディカル コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】ZOLL Medical Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フリーマン、ゲイリー、エイ.
【審査官】山田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-532438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
能動圧迫及び圧迫解除装置を使用して患者に心肺蘇生法(CPR)を施す際に前記能動圧迫及び圧迫解除装置の1又は複数のプロセッサが実行する方法であって、
前記1又は複数のプロセッサが、少なくとも1つの運動センサ及び少なくとも1つの力覚センサから、前記能動圧迫及び圧迫解除装置により前記患者の胸部への能動圧迫及び圧迫解除の実行中に記録されたデータを受信する段階と、
前記1又は複数のプロセッサが、前記少なくとも1つの運動センサ及び前記少なくとも1つの力覚センサから受信した前記データに基づいて変位及び力を含む前記能動圧迫及び圧迫解除の間の胸部コンプライアンスを計算する段階と、
前記1又は複数のプロセッサが、前記能動圧迫及び圧迫解除のサイクルが施される間に、前記胸部コンプライアンスの計算値から得られるコンプライアンス曲線の特徴に基づいて、前記能動圧迫及び圧迫解除のサイクルに対する前記胸部の中立位置を推定する段階と、
前記1又は複数のプロセッサが、前記少なくとも1つの運動センサ及び/又は前記少なくとも1つの力覚センサから受信した前記データ並びに前記胸部の前記中立位置に基づいて定まる前記胸部の前記中立位置の上の距離及び前記胸部の前記中立位置の下の圧迫の深度に関する情報をインターフェースに表示する段階と、を備える方法。
【請求項2】
前記表示する段階は、さらに、前記少なくとも1つの運動センサ及び/又は前記少なくとも1つの力覚センサから受信した前記データ並びに前記胸部の前記中立位置に基づいて定まる変位、速度、時間、及び向きのうちの少なくとも1つを前記インターフェースに表示する段階を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コンプライアンス曲線は、胸部の変位に対する胸部コンプライアンスにより定められるヒステリシスコンプライアンス曲線を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記胸部の中立位置は、前記ヒステリシスコンプライアンス曲線の交差点に基づいて推定される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記胸部の中立位置は、2つのコンプライアンス曲線の2つのピークの間のおよそ中間の点に基づいて推定される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記コンプライアンス曲線は、非ヒステリシスコンプライアンス曲線を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記胸部の中立位置は、前記コンプライアンス曲線のピークに基づいて推定される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記患者の前記胸部への前記能動圧迫及び圧迫解除の実行の間に記録される前記データは、圧力測定値を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記患者の前記胸部への前記能動圧迫及び圧迫解除の実行の間に記録される前記データは、変位信号を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記患者の前記胸部への前記能動圧迫及び圧迫解除の実行の間に記録される前記データは、前記CPRの少なくとも1つの遷移点に到達したかどうかを判定するための情報を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの遷移点は、CE期及びCN期の間、DE期及び前記CE期の間、前記DE期及び前記胸部が前記中立位置の上に位置する期間の間、並びに前記胸部が前記中立位置の上に位置する期間及び前記CE期の間のうちの少なくとも1つである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの遷移点は、CN期及びDN期の間、前記CN期及び前記胸部が前記中立位置の下に位置する期間の間、並びに前記胸部が前記中立位置の下に位置する期間及び前記DN期の間のうちの少なくとも1つである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの遷移点は、DN期及びDE期の間である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記1又は複数のプロセッサが、前記胸部コンプライアンスに少なくとも部分的に基づいてCPRを受けている患者が負傷する可能性を識別して前記インターフェースに表示する段階、
をさらに備える、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記胸部コンプライアンスが予め定められた閾値を下回ることにより、CPRを受けている前記患者が負傷する可能性が識別される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記胸部の前記中立位置は、前記能動圧迫及び圧迫解除のサイクルが施される間に変化する、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
心肺蘇生法(CPR)を補助するためのシステムであって、
患者の胸部に付着するように構成された能動圧迫及び圧迫解除装置に動作可能に連結された少なくとも1つの運動センサであり、前記能動圧迫及び圧迫解除装置は、ユーザの操作により前記患者の前記胸部に能動圧迫及び圧迫解除を提供するように構成されている、前記少なくとも1つの運動センサと、
前記能動圧迫及び圧迫解除装置に動作可能に連結された少なくとも1つの力覚センサと、
1又は複数のプロセッサと、実行されると、前記1又は複数のプロセッサに、操作を実行させる命令を含むコンピュータプログラムで符号化された非一時的コンピュータ可読ストレージ媒体と、
を備え、前記操作は、
前記少なくとも1つの運動センサ及び前記少なくとも1つの力覚センサから受信したデータに基づいて変位及び力を含む前記能動圧迫及び圧迫解除の間の胸部コンプライアンスを計算する手順と、
前記能動圧迫及び圧迫解除のサイクルが施される間に、前記胸部コンプライアンスの計算値から得られるコンプライアンス曲線の特徴に基づいて、前記能動圧迫及び圧迫解除のサイクルに対する前記胸部の中立位置を推定する手順と、
前記少なくとも1つの運動センサ及び/又は前記少なくとも1つの力覚センサから受信した前記データ並びに前記胸部の前記中立位置に基づいて定まる前記胸部の前記中立位置の上の距離及び前記胸部の前記中立位置の下の圧迫の深度に関する情報をインターフェースに表示する手順と、
を含む、システム。
【請求項18】
前記表示する手順は、さらに、前記少なくとも1つの運動センサ及び/又は前記少なくとも1つの力覚センサから受信した前記データ並びに前記胸部の前記中立位置に基づいて定まる変位、速度、時間、及び向きのうちの少なくとも1つを前記インターフェースに表示する手順を含む、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記コンプライアンス曲線は、胸部の変位に対する胸部コンプライアンスにより定められるヒステリシスコンプライアンス曲線を含む、請求項17又は18に記載のシステム。
【請求項20】
前記胸部の中立位置は、前記ヒステリシスコンプライアンス曲線の交差点に基づいて推定される、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記胸部の中立位置は、2つのコンプライアンス曲線の2つのピークの間のおよそ中間の点に基づいて推定される、請求項19又は20に記載のシステム。
【請求項22】
前記コンプライアンス曲線は、非ヒステリシスコンプライアンス曲線を含む、請求項17から21のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項23】
前記胸部の中立位置は、前記非ヒステリシスコンプライアンス曲線のピークに基づいて推定される、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記能動圧迫及び圧迫解除装置は、吸引カップ及びハンドルを備える、請求項17から23のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項25】
前記少なくとも1つの力覚センサは、圧力測定値に変換可能な出力を提供する、請求項17から24のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項26】
前記少なくとも1つの運動センサ及び前記少なくとも1つの力覚センサのうちの少なくとも一方は、前記能動圧迫及び圧迫解除装置のコンポーネントである、請求項17から25のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項27】
前記少なくとも1つの運動センサは、加速度計を含む、請求項17から26のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項28】
前記少なくとも1つの運動センサは、前記CPRの少なくとも1つの遷移点に到達したかどうかを判定するための情報を測定する、請求項17から27のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項29】
前記少なくとも1つの遷移点は、CE期及びCN期の間、DE期及び前記CE期の間、前記DE期及び前記胸部が前記中立位置の上に位置する期間の間、並びに前記胸部が前記中立位置の上に位置する期間及び前記CE期の間のうちの少なくとも1つである、請求項28に記載のシステム。
【請求項30】
前記少なくとも1つの遷移点は、CN期及びDN期の間、前記CN期及び前記胸部が前記中立位置の下に位置する期間の間、並びに前記胸部が前記中立位置の下に位置する期間及び前記DN期の間のうちの少なくとも1つである、請求項28に記載のシステム。
【請求項31】
前記少なくとも1つの遷移点は、DN期及びDE期の間である、請求項28に記載のシステム。
【請求項32】
前記1又は複数のプロセッサは、前記胸部コンプライアンスに少なくとも部分的に基づいてCPRを受けている患者が負傷する可能性を識別して前記インターフェースに表示するように構成される、請求項17から31のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項33】
前記胸部コンプライアンスが予め定められた閾値を下回ることにより、CPRを受けている前記患者が負傷する可能性が識別される、請求項32に記載のシステム。
【請求項34】
前記能動圧迫及び圧迫解除装置は、前記患者の前記胸部に陰圧を加えるように構成されたインピーダンス閾値装置を備える、請求項17から33のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項35】
前記能動圧迫及び圧迫解除装置は、患者の胸部の少なくとも一部分に接着するよう構成された粘着性パッドを備える、請求項17から34のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項36】
前記胸部の前記中立位置は、前記能動圧迫及び圧迫解除のサイクルが施される間に変化する、請求項17から35のいずれか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[優先権の主張]
本出願は、米国特許法第119条(e)の定めにより、参照によって全体の内容が本明細書に組み込まれる、2015年9月21日に出願された、米国仮特許出願第62/221,167号の優先権の利益を主張する。
本発明は、心臓蘇生法の分野に関連し、特に、心肺蘇生法(CPR)の間の胸部の能動的な圧迫および圧迫解除の実行において救助者を補助する装置に関連する。
【背景技術】
【0002】
突発的な心停止は、世界中で主な死亡原因であり、心臓病および重大な外傷を含む、様々な事情の結果である。心停止の場合、複数の手段が、患者の生存率を改善するために必須であると見なされてきた。心肺蘇生法(CPR)と呼ばれるこれらの手段は、患者の呼吸および血液循環を少なくとも部分的にでも再開させるために、できるだけ早く講じられる必要がある。CPRは、患者の外部表面(例えば、胸部、腹部、脚部)の外部からの操作を介して血流を提供することと、典型的には外部酸素および他の気体を患者の肺へ供給することによって患者の血液に酸素添加することとの両方を目的とする、一群の治療介入である。1つの一般的な技法は、およそ30年前に開発された胸部圧迫である。
【0003】
CPR中の胸部圧迫は、心臓が再開するまで血液循環および酸素供給を維持することによって、心停止状態の対象者における循環を機械的に補助するために使用される。犠牲者の胸部は、例えばアメリカ心臓協会(AHA)ガイドラインなどの医療ガイドラインに沿った圧迫の速度および深度で救助者によって圧迫されることが理想的である。他の重要な胸部圧迫パラメータは、圧迫解除速度または解放速度、ならびに、圧迫期および圧迫解除期のデューティサイクルである。
【0004】
従来の胸部圧迫は、救助者が患者を仰臥位で寝かせ、救助者の2つの手を患者の胸骨上に配置し、次に、下方向の力を加えながら、前後方向に患者の脊椎に向かって胸骨領域を下方向に圧迫することによって実行される。救助者は次に、手を上方向に上げ、患者の胸骨領域から手を離し、胸部が自然の弾性によって広がることを可能にし、その結果、患者の胸壁が広がる。救助者は次に、この上下運動を、適切な血流を生じさせるのに十分な速度で、周期的、反復的な方式で繰り返す。圧迫のうちの下方向期は、典型的には、圧迫期と呼ばれる。圧迫サイクルのうちの上方向に移動する部分は、典型的には、解放期または圧迫解除期と呼ばれる。
【0005】
心臓を通る血流を生じさせるための重要なステップの1つは、各胸部圧迫の後に、胸部を適切に解放することである。胸部は、胸腔内の陰圧を高めるように十分に解放される必要がある。これにより、心臓の心室の静脈充填が促進され、次の胸部圧迫の間に分配するために利用可能な血液の量が増加する。胸部が適切に解放されない場合、静脈還流および右心房充填が妨げられるであろう。
【0006】
救助者が適切な胸部圧迫を提供するには、救助者が圧迫の様々な側面を調整して患者に最適な治療を提供することを可能にするようなリアルタイムのフィードバックを救助者に提供できるようにすることが有益である。ZOLL Medical RealCPRHelp(Chelmsford MA)のようなシステムは、加速度計または他の運動センサを使用して患者の胸骨の運動を測定し、上記のような胸部圧迫パラメータについてのリアルタイムのフィードバックを提供する。また、胸骨の運動は、救助者または他の医療従事者が確認できるように、除細動器、または、さらにはスマートフォン、スマートウォッチなどのモニタリング装置に記憶される。いくつかのシステムは、患者の胸部コンプライアンスについてのいくつかの公称値を想定し、かつ、測定された力から推定される変位を計算することによって、力覚センサのみを使用して胸部圧迫運動パラメータを推定する。
【0007】
胸部圧迫によって誘導される心肺循環を増大させるために、能動的圧迫および圧迫解除(ACD)と呼ばれる技法が開発されてきた。ACD技法によれば、アプリケータ本体が、救助者の手と患者の胸骨との間に置かれ、アプリケータ本体はさらに、1もしくは複数の吸引カップ、または自己粘着パッドを介して付着される。圧迫期の間、救助者は、標準的な胸部圧迫と同様に、アプリケータパッドを押して、患者の胸骨を圧迫する。標準的な胸部圧迫では、解放期の間、胸部は受動的に中立位置に戻るが、それと異なり、ACDでは、解放期または圧迫解除期の間、救助者は能動的に上方向へ引っ張る。このような能動的な上方向への引っ張り、または、能動的圧迫解除は、解放速度を増加させ、その結果、標準的な胸部圧迫と比較して、胸腔内の陰圧を増加させ、患者の末梢静脈血管系から心臓および肺へ流れ込む静脈血液の増大を誘導する。患者にACDを実行するための装置および方法は、米国特許第5,454,779号および第5,645,552号に説明されている。
【0008】
ACD胸部圧迫の間、患者の胸骨は典型的には、圧迫解除期の間に胸骨の中立位置を超えて上方向に引っ張られる。ここで、「中立」とは、救助者によって上方向または下方向のいずれの力も加えられていないときの、胸骨の安定状態の位置として定義される。図3を参照して以下で説明されるように、圧迫期および圧迫解除期の両方は、胸骨が中立位置を超えて上方向へ引っ張られている運動部分を有する。これは、「上昇」期と呼ばれる。従って、4つのフェーズ、すなわち、圧迫:上昇(CE)、圧迫:非上昇(CN)、圧迫解除:上昇(DE)、圧迫解除:非上昇(DN)が存在する。 能動圧迫および圧迫解除サイクルのこれら種々のフェーズについてのリアルタイムなフィードバックを救助者に提供できることは有益である。
【0009】
蘇生の時間経過の間、胸壁に加えられる反復的な力(適切な血流に十分なほど胸骨を変位させるには、100ポンドを超える力が必要となることもある)、および、その結果として生じる反復的な運動の結果、患者の胸壁は「改変」される。典型的は、胸骨/軟骨/肋骨の生体力学系が大きく曲げられ、圧力を受けるとき、胸部コンプライアンスは実質的に増加する。従って、適切な圧迫および圧迫解除の深度まで胸骨を変位させるのに必要な力の量も、大きく変化するであろう。胸壁の改変の過程の間、前後方向の直径、すなわち、胸骨と脊椎との間の距離も、非常に頻繁に実質的に変動するであろう。このことは、蘇生の過程において、中立位置が変化することを意味する。蘇生の過程の間、中立位置の正確な測定が常に必要である。従って、蘇生の開始時の初期位置を測定し、蘇生の過程において中立位置は一定であると想定することは、圧迫サイクルのCE、CN、DE、およびDN期の運動パラメータの正確な推定値を生じさせるのに不十分であろう。例えば、DE期およびCN期の間の運動パラメータと、提供される力とを互いに独立に、かつ、CE期およびDN期を除外して測定できることは、特に有益である。
【0010】
一部のACDシステムは、救助者の手と、圧迫が提供される患者の胸骨との間に置かれた力覚センサを使用して、胸部圧迫の弛緩期をモニタリングする。しかしながら、胸部圧迫のための胸骨への力は、血流と相関せず、胸骨の運動または胸壁の動態とも相関しない。個別の患者の胸部の多様なコンプライアンスに起因して、各患者は、胸骨および心肺系の同一の圧迫を実現するために、特有の力の量を必要とする。さらに、力覚センサは一般的に、提供される胸部圧迫の質と静脈還流の量とを理解するための重要なパラメータである、胸骨の運動を測定することができない。
【0011】
加速度計などの運動検知システムを利用する他の胸部圧迫モニタリングシステム、例えば、ZOLL Medical RealCPRHelp(Chelmsford MA)は、速度および変位などの運動パラメータを測定することができる。
【0012】
しかしながら、ACD圧迫を提供する方式が原因で、既存のシステムでは、上昇期の運動と非上昇期の運動とを区別する能力が限定される。
【発明の概要】
【0013】
特に、一態様において、心肺蘇生法(CPR)を補助するためのシステムを説明する。システムは、少なくとも1つのセンサと、少なくとも1つのセンサから受信したデータに基づいて胸部コンプライアンス関係を計算するように、および、胸部コンプライアンス関係の特徴に少なくとも部分的に基づいて胸部圧迫の中立位置を判定するように構成される1または複数のプロセッサとを備える。システムは、能動圧迫および圧迫解除装置の形態をとり得る。
【0014】
システムには、複数の利点がある。例えば、システムは、救助者が施しているCPR処置の有効性を救助者が理解することを可能にするフィードバックを(例えばユーザインタフェース上で)提供できる。これにより、救助者は、CPR処置の間に自分が加えている力を調整でき、調整によって処置の有効性が改善しているかどうかを確認するためのフィードバックを受信できる。実装によっては、フィードバックは、CPR装置によって提供され得るか、または、CPR装置の外部にある第2装置へ伝送され得る。このようにして、犠牲者の蘇生においてCPR処置が有効である可能性が高くなり、CPR処置によって犠牲者が負傷する可能性が低くなる。
【0015】
1つまたは複数の実装の詳細は、以下の添付図面および明細書において説明される。他の特徴、目的、および利点は、説明および図面から、ならびに、特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ユーザが能動圧迫および圧迫解除(ACD)CPRを患者に対して実行することを補助する装置を示す。
図2】患者の胸部の形状の変化を表す。
図3】CPR中に記録された信号を表す。
図4図1に示されるACD装置のコンポーネントのブロック図である。
図5】胸部コンプライアンス曲線を含むグラフの例を示す。
図6A】剛性曲線のグラフを示す。
図6B】剛性曲線のグラフを示す。
図7】ヒステリシスループを形成する胸部コンプライアンス曲線を含むグラフの例を示す。
図8】ユーザインタフェースの例を示す。
図9】胸部圧迫サイクルの状態遷移図を示す。
図10】胸部改変の傾向グラフを示す。
図11】例示的なコンピュータシステムのブロック図である。 様々な図面における同様の参照記号は、同様の要素を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、心臓事象から救助されている患者104に対してユーザ102が能動圧迫および圧迫解除(ACD)CPRを実行することを補助する装置100を示す。装置100は、(救助者と呼ばれることもある)ユーザ102が施しているCPRの有効性についてのフィードバックをユーザ102に提供するユーザインタフェース106を備える。フィードバックは、(ACD装置と呼ばれることもある)装置100によって測定されるような、(犠牲者と呼ばれることもある)患者104の胸部コンプライアンスについての情報に部分的に基づいて決定される。
【0018】
胸部コンプライアンスは、加えられた力を吸収して、力に応じて形状を変化させるという胸部の能力の指標である。CPRに関連して、胸部コンプライアンスについての情報は、患者の蘇生において有効であろう方式で患者の胸部にどのように力を加えることができるかを判定するために使用できる。患者に加えられる力は、血液の流れを生じさせる真空を心臓内に作るために十分であることが理想的である。しかしながら、この真空を作るために力が十分でない場合、CPRは有効でなく、患者は死亡するか、さもなければ悪化するであろう。さらに、力が正確に加えられていないか、または、大きすぎる場合、患者が負傷し得る。ユーザ102に提供されるフィードバックは、胸部圧迫の中立位置を判定することによって、および、CPR処置の実行についての情報を使用してCPR処置の成功確率を改善させるガイダンスをユーザ102に与えることによって、強化させることができる。
【0019】
中立位置の場所、または、他のフェーズ遷移点は、本明細書において説明される方法によって判定され得る。また、中立位置は、ACD圧迫の間に救助者によって加えられる力または圧力がゼロである位置とみなされ得る。
【0020】
胸部圧迫の間に発生する、いわゆる胸部改変が原因で、患者の前後方向の直径が複数回の圧迫サイクルの後に縮小するにつれて、力がゼロであるこの中立位置は、蘇生努力の過程において変化し得る。代替的に、中立位置の場所は、単純に、胸部圧迫開始前の胸骨の初期位置であり得る。
【0021】
いくつかの実装において、装置100は、ユーザに何のフィードバックを提供するかを判定するために後に使用される胸部コンプライアンス関係を判定する(例えば、計算する)。例えば、装置100は、胸部コンプライアンスに関連する、変位および力などの、2つの変数の間の数学的関係を計算し得る。装置100は次に、CPR処置についての情報を判定するために使用できる、この関係の1または複数の特徴を識別し得る。CPR処置についての情報が判定されると、装置100は、何のフィードバック(例えば、CPR処置の進捗についてのフィードバック、胸部圧迫サイクルの非上昇部分にあるときの胸部圧迫の深度に関連するフィードバック、または、胸部圧迫サイクルの上昇部分にあるときの力に関連するフィードバック)をユーザに提供するかを決定できる。
【0022】
いくつかの例において、CPR処置についての情報は、胸部圧迫の中立位置などの、患者についての情報を含み得る。いくつかの実装において、胸部コンプライアンス関係は、曲線(例えば、関係を表すグラフの曲線)として考えることができるか、または、表すことができる。いくつかの実装において、胸部コンプライアンス関係は、測定値(例えば、複数の時間インデックスにおける、変位および力についての値)の表などのデータとして記憶され得る。
【0023】
図1に示されるように、装置100は、ユーザ102が力を加えるために握るためのハンドル108、110を備える。また、装置100は、装置100を患者104の胸部114に接触させた状態で維持する役割を果たす吸引カップ112を備える。ユーザが装置100を使用して上方向の力を加えるとき、患者の胸部114は、それに応じて、吸引カップ112の吸引力に起因して上方向に引っ張られる。この上方向の力は、CPR処置の解放期の間に、患者の胸部内に陰圧を生じさせる。このように陰圧を生じさせる装置は、インピーダンス閾値装置(ITD)と呼ばれることがある。
【0024】
いくつかの例において、ユーザ102に(例えば、ユーザインタフェース106上で)提供されるフィードバックは、ユーザ102が装置100を使用して胸部を圧迫する方式において、ユーザを誘導する。例えば、ユーザインタフェース106は、圧迫サイクルの上方向部分および下方向部分の有効性の可視表示を含み得る。フィードバックが提供され得るパラメータは、圧迫深度および圧迫解放速度を含む。このようにして、ユーザ102は、フィードバックに応じて、自分の圧迫動作の様々な要素を調整できる。
【0025】
実世界の例として、ユーザインタフェース106は、上方向または下方向の力が強すぎるか、または、十分に強くないかを示すグラフを表示し得て、これにより、ユーザ102は、それに従って調整できる。例えば、圧迫期の深度が有効なCPR処置のために十分でないと装置100が判定した場合、装置100は、下方向の運動の深度が有効性の閾値に届いていないことを示すフィードバックを表示できる。いくつかの実装において、装置100は、患者104の胸部圧迫の中立位置の推定に基づいて、上方向または下方向の力が強すぎるか、または、十分に強くないかを判定できる。患者104の胸部圧迫の中立位置は、上方向のストローク中である胸部の運動と、下方向のストローク中である胸部の運動とを区別するために、および、圧迫サイクルのCE、CN、DN、およびDE期の固有の測定値を生成するために使用できる変曲点の役割を果たす。
【0026】
ユーザ102は手動で圧迫を提供するので、本明細書に示されるACD装置100は、手動ACD装置の例である。他の種類の機械的ACD装置は、例えば、胸部圧迫の中立位置を判定するための技法などの、以下において説明される技法と共に使用することができる。本明細書において示されるACD装置100は、ハンドルおよび吸引カップを備えるが、以下で説明される技法と共に使用される他の種類のACD装置は、これらの要素を備える必要は無い。例えば、他の種類のACD装置は、患者の身体の表面に付着されるように構成される第1要素と、救助者の手と連結するように構成される第2要素とを備え得る。これらの例において、第1要素は、患者の体表面との接触を維持しつつ、患者の体表面を上方向に引っ張ることを可能にする。さらに、これらの例において、第2要素は、救助者が胸部を押すこと、および、胸部を引き上げることを可能にする。
【0027】
吸引カップおよびハンドルは、それぞれ、第1要素および第2要素の例であり、これらの要素のうち、使用することができる唯一の種類のものであるわけではない。例えば、第1要素は、複数の吸引カップの1または複数のアセンブリを含み得るか、または、第1要素は、患者の胸部に付着する粘着剤(例えば粘着ゲル)によって部分的または全体的に覆われた表面であり得るか、または、第1要素は、これらのものの任意の組み合わせであり得る。複数の吸引カップのアセンブリの例は、参照によって全体が組み込まれる、「Method and Device for Performing Alternating Chest Compression and Decompression」と題される米国特許第8,920,348号において説明されている。第2要素は、上記のハンドルの代わりに、または、それに加えて、救助者の手をACD装置に強く固定する1または複数のストラップまたはブラケットを含み得る。
【0028】
図2は、ACD装置100がACD CPRを実行するために使用されるときの、患者104の胸部200の形状の変化を表す。ヒトの胸部200は固定的ではないので、胸部は加えられた力に応じて形状を変化させる。CN期において胸骨が下方向202に圧迫されるとき、胸部200は、前後方向(AP)の寸法206が圧迫され、かつ、横方向の寸法208が拡がった形状204を示す傾向がある。この形状204は、圧迫形状と呼ばれることがある。DE期210の間、胸部200は、AP方向の寸法206が拡がり、かつ、横方向の寸法208が狭くなった形状212を示す傾向がある。この形状212は、圧迫解除形状と呼ばれることがある。胸部200は、上方向または下方向のいずれの力も加えられていないとき、胸部圧迫の中立位置に対応する形状214を示す。換言すれば、形状214は、例えば、CPR胸部圧迫中に、加えられた力によって形状が実質的に影響を受けていないときの胸部の自然位置に対応する。
【0029】
胸部コンプライアンスとは、力が加えられた結果として形状を変化させるという、この傾向の数学的表現である。胸部コンプライアンスは剛性の反対である。胸部コンプライアンスは、深度の増分変化を、特定の瞬間における力の増分変化によって除算した値である。胸部圧迫サイクルの場合、コンプライアンスは、図3に示されるように、横軸上の時間に対してプロットされ得るか、または代替的に、コンプライアンスは、図5図6A、および図6Bに示されるように、ループ軌跡内に時間変数が示唆される、深度を独立変数とするループとしてプロットされ得る。患者の胸部が、特定の力の変化に応じて、比較的小さい形状変化を示す場合、患者は比較的小さい胸部コンプライアンスを有する。対照的に、患者の胸部が、特定の力の変化に応じて、比較的大きい形状変化を示す場合、患者は比較的大きい胸部コンプライアンスを有する。更に、胸部が下方向に圧迫されるとき、および、上方向に引っ張られるときの位置/配置の変化に起因する、胸腔の構造変化の結果、胸部が圧迫されるにつれて、胸部コンプライアンスは変動する。これは、図5および図7を参照して以下で説明される。例えば、胸部が下方向に圧迫されるとき、胸部が柔軟性の限界(例えば、領域508、または、図7の曲線の右側の平らな領域)に近づくにつれて、胸部のコンプライアンスは減少する。
【0030】
各時点nについて、変位がシステムによって測定され、力も測定される。その結果、各サンプル時間nについての変位/力のベクトル対[d、f]ができる。一般的に、コンプライアンスcは、基準時点と比較した変位の変化値を、基準時点と比較した圧力の変化値で除算した値に等しい(c=Δd/Δp)。
【0031】
「瞬間コンプライアンス」(IC)は、基準時点tが時点tに隣接しているか、または、ほぼ隣接しているときを指し、従って、むしろ特定時点における変位‐力曲線の勾配の指標である。例えば、基準時点tは、時間tの直前のサンプル時点であり得る。基準時点は、例えば、当業者に周知である、移動平均、加重移動平均、またはローパスフィルタを使用するなど、時間tの直前にある複数のサンプル時点から成り得る。基準時点と時間tとの間には、例えば1秒以下などの小さい時間の差が存在し得る。いくつかの変形において、基準時点は、セグメントの開始時点となるように選択され得る。例えば、図6Bにおける勾配1(圧迫の第1セグメントであり、従って、セグメントの開始は圧迫の開始でもある)についての圧迫の開始時点、または、同一の図における勾配2についての基準時間tについての点線が選択され得る。
瞬間コンプライアンスInC=|(d-d)/(p-p)|
ここで、InCは、時点tにおける距離/圧力曲線の勾配の推定値であり、dは、時間tにおける変位であり、pは、時間tにおける圧力であり、dおよびpは、それぞれ、基準時間tにおける距離および圧力である。
【0032】
一方、「絶対コンプライアンス」(AC)は、基準点tが、一群の胸部圧迫の当初の圧力および変位などの絶対的基準を使用するときを指す。CPRの間、胸部圧迫の「ラウンド」と呼ばれる、胸部圧迫が提供される期間がおよそ1~3分間ほど存在し得て、その後、この期間の最後に、圧迫が停止され、患者のECGの分析、除細動のための電気ショックの提供、または、エピネフリンもしくはアミオダロンなどの薬剤の投与など、様々な他の治療措置が実行され得る。従って、ACの決定については、基準点tは、圧迫の第1ラウンドの前、すなわち、CPRの開始時点を含む、胸部圧迫の任意のラウンドの開始前である。ほとんどの場合において、この時点の圧力はゼロであり、変位は、変位推定ソフトウェアによって効果的にゼロに較正される。胸部の絶対コンプライアンスは、圧迫変位、および、関連する圧迫圧力から推定することができる。基準圧力「p」は、時間tにおける圧力であり、胸部変位「d」は、時間tにおける変位である。圧力「p」は、変位「d」を達成するのに必要な圧力である。胸部コンプライアンスは、以下の数式から推定される。
絶対コンプライアンス=|(d-d)/(p-p)|
ここで、dは、圧迫のピークにおける変位であり、pは、圧迫のピークにおける圧力である。
【0033】
胸部200のコンプライアンスおよび圧迫深度は、装置100におけるセンサ216a‐cによって測定できる。例えば、力覚センサ216aと、加速度計216bなどの運動センサとを使用できる。いくつかの実装において、力覚センサ216aおよび加速度計216bが、装置100の筐体218内に配置される。加速度計は、CPR中の胸部の運動を検知し、力覚センサは、加えられた力または圧力を測定する。筐体218の変位を判定するために加速度計の信号が統合され、力覚センサの出力は、標準的な圧力または力の単位に変換される。
【0034】
いくつかの実装において、加速度計は、例えば、患者の胸骨上に配置される筐体など、別個の筐体内にあり、力覚センサは、例えば装置100の筐体218などの筐体内にある。そのような実装において、加速度計を格納する筐体と、力覚センサを有する装置とは、CPR中に取り付けられるか、または、接続されるように構成され得る。
【0035】
いくつかの実装において、複数の加速度計216b、216cが使用され得る。例えば、第2加速度計216cは、吸引カップ112の内周または付近において、患者の胸骨上に配置され得る。第2加速度計は、ZOLL CPR Stat-Padz (Chelmsford,MA)などの自己粘着フォームの別個のアセンブリ内に格納され得る。このように、第1加速度計216bは、救助者の手102(図1)が受ける加速度を測定する役割を果たし、第2加速度計216cは、患者の胸骨104の加速度を測定する役割を果たす。別の態様においては、第1加速度計216aは、加えられた上方向の力によって生じる運動を測定するように構成され得る。例えば、第1加速度計216aは、吸引カップ112に近接しているか、または、さもなければ機械的に連結しているので、吸引カップ112が患者の胸骨を引き上げるときに加えられる力の適切な指標を提供する。さらに、第2加速度計216bは、加えられた下方向の力によって生じる運動を測定し得る。例えば、第2加速度計216bは、装置100のハンドルに近接しているか、または、さもなければ機械的に連結しているので、第2加速度計216bは、救助者の手によって加えられる下方向の力の適切な指標を提供する。この方式では、システムは、ACD装置と患者の胸骨との間の粘着が不十分かどうかを検出し、ACD装置を患者の胸部に貼り直すように救助者に警告できる。
【0036】
図3は、例えば、図2において示されるセンサ214aから214cを使用することによってCPR中に記録される信号を表す。絶対コンプライアンスは、中立位置を判定するために使用され得るが、InCは、中立位置のより正確な測定を提供するであろう。
【0037】
圧迫(C1‐C5)は、変位信号から検出できる。圧迫速度は、圧迫の間の間隔(例えば、C2の時間-C1の時間)から計算され、圧迫深度は、圧迫開始からピークまでの変位(例えば、d1-d0)から測定される。開始時の圧迫値およびピーク圧迫値は、圧迫ごとに保存される。圧迫の開始時および終了時の圧力は、所与の圧迫深度を達成するために使用される力を判定するために使用される。
【0038】
胸部コンプライアンスはさらに、2007年5月22日に出願された、参照によって全体が本明細書に組み込まれる、「Method and Apparatus for Enhancement of Chest Compressions During CPR」と題する、米国特許第7,220,235号において説明されている。圧迫速度および変位は、参照によって各々の全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第8,862,228号、第6,827,695号、および第6,390,996号に説明されているような方法を介して推定できる。
【0039】
図4は、図1に示されるACD装置100のコンポーネントのブロック図である。装置は、例えば、命令を遂行する(例えば、入力データを処理して出力データを生成し、装置100の他のコンポーネントとの間でデータを伝達する)、マイクロプロセッサのような電子コンポーネントなどのプロセッサ400を備える。例えば、プロセッサ400は、力覚センサ402などのセンサと、加速度計404a、404b(または、いくつかの実装においては、単一の加速度計)などの運動センサとから信号を受信する。他の種類の運動センサは、上記の米国特許第7,220,235号において説明されるような磁気誘導ベースのシステムを含み得る。
【0040】
また、プロセッサ400は、出力情報406をユーザインタフェースモジュール408へ伝達する。出力情報406は、CPR処置の有効性を示し、部分的には、例えば力覚センサ402および加速度計404a、404bなどのセンサから受信された信号に基づいて、プロセッサ400によって判定される。ユーザインタフェースモジュール408は、複数の形態のうちの1つをとり得る。
【0041】
いくつかの実装において、ユーザインタフェースモジュール408は、ソフトウェアおよびハードウェアの組み合わせであり、装置100のユーザに情報を提示するディスプレイを有する。例えば、提示される情報には、文字情報と、グラフおよび図表などのグラフィカル情報とが含まれ得る。ユーザインタフェースモジュールはまた、例えば、ボタン、キーなどの入力装置のような他のコンポーネントを有し得る。いくつかの実装において、ユーザインタフェースモジュールは、例えば、マイク、スピーカ、音声処理ソフトウェアなどの音声入力/出力要素を有する。
【0042】
いくつかの実装において、ユーザインタフェースモジュール408は、例えば、ACD装置100から独立して動作可能な装置などの外部装置412上にユーザインタフェースを表示させる。例えば、外部装置は、スマートフォン、タブレット、コンピュータ、または、別のモバイル装置であり得る。また、外部装置は、加速度計が除細動パッド(CPR Stat-Padz)の中に組み込まれたZOLL Medical Corp X-Series除細動器(Chelmsford MA)などの除細動器か、または、患者の胸骨に貼り付けられて主に患者の胸骨の運動を測定する運動センサを格納する他の自己粘着アセンブリであり得る。このアセンブリは、除細動電極と統合されていても、統合されていなくてもよい。除細動器は、加速または運動データをACD装置から受信し得て、ACDセンサの運動を比較し得て、それを、除細動パッドからの加速度計、または、他の貼り付けられた胸骨運動検知アセンブリからの加速度計情報または運動情報と比較し得る。例えば、特に圧迫サイクルの圧迫解除期の間に、2つの運動の違いが0.25インチより大きいことが分かった場合、救助者は、ACD装置を貼り直すように通知され得る。
【0043】
いくつかの実装において、外部装置412は、Bluetooth(登録商標)などの無線通信技法を使用して、ACD装置100と通信する。この例において、ACD装置100は、無線通信モジュール410を備える。例えば、ユーザインタフェースモジュール408は、無線通信モジュール410を使用して、外部装置412との間で信号を伝達し得る。ここでは、Bluetooth(登録商標)を例として使用するが、WiFi、Zigbee(登録商標)、802.11などのような他の無線通信技法が使用され得る。いくつかの実装において、プロセッサ400は、胸部コンプライアンス414の推定値を決定するために、例えば、図2を参照して上で説明した数式を使用して、計算を実行し得る。
【0044】
いくつかの実装において、プロセッサ400は、2回の圧迫の間に患者の胸部が実質的に解放されたかどうか(すなわち、心臓の静脈充填を促進する圧力を胸部内で生じさせるほど十分に解放されたかどうか)を判定するために計算を実行し得る。ユーザインタフェースモジュール408は、装置100のユーザインタフェース106(図1)に、例えば圧迫の間に胸部をより完全に解放するための、および/または、圧迫中に胸部をより強く押すためのガイダンスまたは他のフィードバックをユーザ102(図1)に与えるメッセージを表示させることができる。
【0045】
プロセッサ400はさらに、例えば、胸部圧迫の推定深度、および、胸部コンプライアンスの推定値414などのデータに基づいて、胸部圧迫の中立位置の推定値416を計算できる。計算は、部分的には、図5図6A、および図6Bを参照して以下でさらに詳細に説明されるようなコンプライアンス関係の特徴に基づき得る。
【0046】
出力情報406は、胸部コンプライアンスの推定値414、および、胸部圧迫の中立位置416に基づいて決定される情報を含み得る。例えば、出力情報406は、圧迫非上昇(CN)深度、または、圧迫解除上昇(DE)高度などの情報を含み得る。出力情報406はまた、CPR処置の有効性を向上させるであろう方式でユーザの動作を調整することについての、ユーザへのフィードバックを含み得る。例は、図7を参照して下で説明されている。
【0047】
いくつかの実装において、プロセッサ400は、第1加速度計404aおよび第2加速度計404bによって受信された信号を比較する。図2を参照して上で説明したように、第1加速度計404aは、ACD装置100の筐体の中または付近に配置され得て、第2加速度計404bは、ACD装置100の吸引カップ112の中または付近に配置され得る。このようにして、第1加速度計216bは、ユーザ102(図1)が受ける加速度を測定する役割を果たし、第2加速度計は、患者104が受ける加速度を測定する役割を果たす。いくつかの実装において、複数の加速度計216b、216cが使用され得る。例えば、第2加速度計216cは、吸引カップ112の内周または付近において、患者の胸骨上に配置され得る。第2加速度計は、ZOLL CPR Stat-Padz (Chelmsford,MA)などの自己粘着フォームの別個のアセンブリ内に格納され得る。このようにして、第1加速度計216bは、救助者の手102(図1)が受ける加速度を測定する役割を果たし、第2加速度計216cは、患者の胸骨104の加速度を測定する役割を果たす。この方式では、システムは、ACD装置と患者の胸骨との間の粘着が不十分かどうかを検出し、ACD装置を患者の胸部に貼り直すように救助者に警告できる。
【0048】
いくつかの実装において、プロセッサ400は、データを記憶できるメモリ418を含むか、または、それにアクセスできる。メモリ418は、いくつかの形態のいずれかをとることができ、プロセッサ400と統合され得るか(例えば、同一の集積回路内の一部であり得る)、または、プロセッサ400と通信する別個のコンポーネントであり得るか、または、その両方の組み合わせであり得る。いくつかの実装において、メモリ418は、胸部コンプライアンスの推定値414および胸部圧迫の中立位置416についての値などのデータを、それらがプロセッサ400によって計算されるときに記憶する。いくつかの実装において、プロセッサ400は、メモリ418を使用して、後に取得するためにデータを記憶する。例えば、CPRの実行中に、後に同一のCPRの実行中に取得するための、または、後に異なるCPRの実行中に取得するためのデータを記憶する。
【0049】
図5は、胸部コンプライアンス曲線502を含む例示的なグラフ500を示す。いくつかの実装において、コンプライアンス曲線502は、例えば力覚センサおよび/または加速度計などのセンサから受信される入力に基づいて、プロセッサ400(図4)によって計算されるデータの表現である。図5に示されるグラフ500は、時間を(例えば秒単位で)表すx軸と、胸部コンプライアンスを表すy軸とを含む。曲線502は、正弦波形状を示す。この種類のコンプライアンス曲線502は、非ヒステリシスコンプライアンス曲線と呼ばれることがある。
【0050】
実際面では、救助者がACD装置(例えば、図1に示される装置100)を使用して犠牲者に対してCPRを実行しているとき、救助者は、下方向および上方向の力を犠牲者の胸部に加える。力によって胸部の形状が自然の限度に近づくにつれて、犠牲者の胸部コンプライアンスは、最低となる。換言すれば、引き上げられるにつれて、または、引き下げられるにつれて、犠牲者の胸部コンプライアンスは、下限に近付く。いくつかのシナリオにおいて、胸部コンプライアンスがこの下限に近付くとき、肋骨の引張強度に到達したこと、および、追加の力が加えられる場合、1または複数の肋骨が骨折するリスクが上昇することを示す。システムのいくつかの変形において、聴覚的、視覚的、または、触覚的/ハプティックな通知の形式で、コンプライアンスがある閾値レベルより下に低下したことを示す警告が提供され得る。
【0051】
図6Aは、胸骨の影響についての代表的な剛性曲線を示し、図6Bは、曲線の剛性領域を示す。これらの図を参照すると、代表的な曲線の勾配は、剛性(例えば、コンプライアンスの反対)である。ループの各々は、異なる対象者についての曲線である。図6Bにおける勾配1は、圧迫のCN期についての剛性であり、勾配の値がより小さく、剛性がより小さい(従って、コンプライアンスがより大きい)。図の複数のループから分かるように、圧迫のCN期の勾配は対象者ごとに異なっているが、全部ではなくとも大部分の場合において、勾配2へのシフトによって表されるように、圧迫中のいくつかの変曲点における、第2のより急な勾配(コンプライアンスがより小さく、剛性がより大きい)への勾配の変化がある。
【0052】
2本の線(図における勾配1および勾配2)の交差点によって表される変曲点において、骨折のリスクは依然として比較的低い。変曲点が検出されると、システムは、依然として安全範囲にあるので、その圧迫深度を維持するように救助者に通知し得る。この患者固有の圧迫深度は、AHA/ILCORガイドラインと(例えば、2インチより大きく)異なる可能性がある。例えば、最初、蘇生努力の開始時に、特に高齢の患者において、胸骨を肋骨に付着させている胸骨軟骨が石灰化して硬化したことにより、患者の胸部の剛性が遥かに高いことがあり得る。救助者が、AHA/ILCORのガイドラインによって推奨される深度で圧迫を提供するように試みる場合、このような患者の肋骨骨折の原因となる可能性が高い。事実、このガイドライン自体の記述において、既存の胸部圧迫の方法を使用するとき、一般的に肋骨骨折が発生しやすいことが認められている。「肋骨骨折および他の負傷は一般的であるが、心停止による死亡の代案であることを考慮すれば、CPRの許容可能な結果である。」(2005年1月23日から30日にテキサス州ダラスでアメリカ心臓協会が主催した2005 International Consensus Conference on Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Science with Treatment Recommendationsから引用した。) 院内の肋骨骨折の不快感を別にすれば、肋骨骨折の不運な副作用は、それらの結果、胸壁の回復力が低下し、従って、圧迫解除期中の胸部の自然な反動が減少し、その結果、静脈還流が減少し、胸部圧迫の有効性が低下することである。これらの理由から、肋骨骨折を最低限に抑えるか、または、無くすことが望ましい。胸壁コンプライアンスの変化を検出し、検出の結果、救助者に通知を行うことにより、胸部圧迫の深度は、肋骨および胸骨の負傷閾値を超えることはないであろう。
【0053】
中立位置、および、胸部の全体的なコンプライアンスは、蘇生努力の過程において変動するので、この手法を使用するとき、救助者がシステムのリアルタイム通知によって誘導される深度も変動するであろう。
【0054】
胸壁改変として知られている現象は、胸部圧迫の開始後、最初の数分間に発生する。AP直径は、0.5~1インチほども縮小し得て、胸骨軟骨が徐々に軟化するにつれて、胸壁のコンプライアンスは増加するであろう。胸部が徐々に軟化するにつれて、各圧迫サイクルについて、個別の各患者のためにカスタマイズされた方式において安全限度内に留まることにより、負傷が減少するが、より重要なことに、胸壁の自然な回復力が維持され、より効果的な胸部圧迫が患者に提供される。
【0055】
一般的に、勾配の変化を検出するための方法は、CE期の勾配の初期の統計的特性を判定する段階と、次に、勾配の何らかの著しい持続的な増加について、勾配を分析する段階とを備え得る。例えば、Basseville(Basseville M,Nikiforov IV.Detection of Abrupt Changes:Theory and Application.Engelwood,N.J.:Prentice-Hall 1993)またはPettitt(Pettitt AN)「A simple cumulative sum type statistic for the change point problem with zero-one observations」(Biometrika 1980;67:79-84.)によって説明されるような変化点分析などの技法が使用され得る。最初に勾配の変化を検出し、次に、検出された変化が、増加であり、かつ、圧迫の深度が深すぎること、および、今後の圧迫では何らかの手段で圧迫の深度を小さくすることを救助者に示す通知を生じさせるのに十分な大きさであるかどうかを評価するためにシューハート管理図のような他の方法が利用され得る。より単純な変形において、通知は、コンプライアンスが、特定の圧迫の開始時点における初期コンプライアンス値より、ある閾値パーセンテージほど下に低下したとき(例えば、コンプライアンスが15%低下したとき)に開始され得る。初期コンプライアンス値は、1つより多くの圧迫期にわたって平均値を求められ得て、複数の圧迫サイクルのための比較値として使用され得る。いくつかの実施形態において、DE期中およびCN期中の両方(すなわち、圧迫サイクルの圧迫解除部分[DN期およびDE期])の最上部、および、圧迫サイクルの圧迫部分[CE期およびCN期]の最下部)における負傷のリスクを判定するために、コンプライアンスについての別個の試験が実行され得る。
【0056】
対照的に、犠牲者の胸部が、胸部圧迫の(一般的には、胸部の自然静止位置に対応する)中立位置にあるとき、胸部コンプライアンスは、最高点にある傾向がある。従って、図5に示される曲線502において、最高の胸部コンプライアンスに対応する点504、506(例えば、正弦波のピーク)は、胸部圧迫の中立位置に対応する傾向がある。対照的に、最低の胸部コンプライアンスに対応する点508(例えば、正弦波の谷)は、胸部の圧迫形状または圧迫解除形状の限度に対応する傾向がある。
【0057】
いくつかの実装において、プロセッサ400(図4)は、非ヒステリシスコンプライアンス曲線502の特徴を使用して、胸部圧迫の中立位置の推定値416(図4)を計算し得る。例えば、プロセッサ400は、曲線502のピーク504、506を使用して、胸部圧迫の中立位置の推定値を計算し得る。
【0058】
図7は、ヒステリシスループを形成する胸部コンプライアンス曲線602を含むグラフ600の例を示す。この種類のコンプライアンス曲線602は、ヒステリシスコンプライアンス曲線と呼ばれることがある。いくつかの実装において、コンプライアンス曲線502は、例えば力覚センサなどのセンサ、および/または、例えば加速度計などの運動センサから受信される入力に基づいて、プロセッサ400(図4)によって計算されるデータの表現である。図7に示されるグラフ600は、(例えば、センチメートル単位で)深度を表すx軸と、胸部コンプライアンスを表すy軸とを含む。曲線上の矢印は、1つの圧迫サイクルの過程における時間の進行を示し、ACD装置100(図1)の運動を表す。例えば、矢印が右を向いている曲線部分は、圧迫サイクルの圧迫部分(CEおよびCN)についての瞬間コンプライアンス(IC)を示し、矢印が左を向いている曲線部分は、圧迫サイクルの圧迫解除部分(DEおよびDN)についての瞬間コンプライアンス(IC)を示す。例えば、ACD装置100が大きい深度から小さい深度へ移動するとき、(胸部が圧迫の中立位置に近づくにつれて)胸部コンプライアンスは増加し、その後、(胸部がより圧迫されるにつれて)減少する。次に、ACD装置100が最小深度から再び大きい深度へ移動するとき、(胸部が圧迫の中立位置に近づくにつれて)胸部コンプライアンスは再度増加し、(胸部がより圧迫解除されるにつれて)再度減少する。
【0059】
いくつかの実装において、プロセッサ400(図4)は、ヒステリシスコンプライアンス曲線602の特徴を使用して、胸部圧迫の中立位置の推定値416(図4)を計算し得る。いくつかの特徴のうちの1つが使用され得る。
【0060】
例えば、ヒステリシスコンプライアンス曲線602の交差点である点604は、胸部圧迫の中立位置416を推定するために使用できる。この点604は、胸部圧迫の中立位置に対応し得る深度を(例えば、x軸の座標として)表す。
【0061】
別の例として、ヒステリシスコンプライアンス曲線602の2つのピークである614と616との間のおよそ中間にある点612が、胸部圧迫の中立位置416を推定するために使用できる。点612は、例えば、ピーク614とピーク616との間の距離610を測定し、距離610の中心に対応する点を判定することによって決定できる。代替的に、中立の点は、距離610の予め定められたパーセンテージに対応する点であり得る。
【0062】
別の例として、ヒステリシスコンプライアンス曲線602の他の特徴の間のおよそ中間にある点606が、胸部圧迫の中立位置416を推定するために使用できる。例えば、プロセッサは、コンプライアンスについて同一の値を有する、ヒステリシスコンプライアンス曲線602の2つの点の間の距離608を識別し得て、次に、距離608の中心に対応する点を判定することによって、点606が計算され得る。
【0063】
図8は、ユーザインタフェース700の例を示す。例えば、ユーザインタフェース700は、図1に示されるACD装置のユーザインタフェース106の例であり得る。さらに、ユーザインタフェース700は、図4に示されるユーザインタフェースモジュール408によって制御され得る。
【0064】
ユーザインタフェース700は、CPR処置の有効性を表す情報702を表示する。情報702は、ACD装置100(図1)のユーザ102が、CPR処置を効果的に施すことを可能にするような方式で表示される。
【0065】
情報702は、CPR処置のDE高度706およびCN深度708を表すグラフ704を含む。深度および高度は、境界710によって区切られている。いくつかの実装において、DE高度706およびCN深度708は、プロセッサ400(図4)によって判定される。例えば、DE高度706およびCN深度708は、中立位置と併せてピークの高度および深度の発生時間が分かっていれば、加速度計404a‐404bの情報を使用して計算され得る。代替的に、DE高度およびCN深度は、プロセッサ400によって決定される、胸部コンプライアンスの推定値414、および、胸部圧迫の中立位置416などの計算された情報を使用して、力覚センサ402から推定され得る。代替的に、ディスプレイのフィードバックのDE部分706またはCN部分708は、変位ではなく、圧力の測定値を表示し得る。例えば、一実施形態において、DE部分706は、圧力または力の測定値であるDE荷重を表示し得て、一方、CN部分708は、変位の測定値であるCN深度を表示し得る。
【0066】
図9を参照すると、いくつかの例において、圧迫方向(すなわち、DEまたはCN)の入力と、中立点416に到達したどうかとに基づいて圧迫サイクルのフェーズ(例えば、CN期、DN期、DE期、およびCE期)を判定するために、状態遷移図が使用され得る。中立位置(NP)の検出を用いて、CE期904からCN期902へ、および、DN期906からDE期908へ遷移する。CN期902またはDE期908のいずれかに遷移すると、NPは0にリセットされる。すなわち、遷移はエッジセンシティブである。方向の遷移は、レベルセンシティブである。CN期902からDE期908への遷移、および、DN期906からCE期904への遷移は、方向が変化すると発生する。速度、距離、平均速度、最高速度などのような、運動を説明するパラメータは、圧迫期の状態の間の遷移の発生時間が分かっていれば計算され得る。いくつかの変形において、情報702は、圧迫解除期の間に発生する速度などの、表示され得る他の運動情報も含み得る。より具体的には、中立位置が発生する時間における速度が表示され得るか、または、さもなければ、救助者に伝達され得る(例えば、トーン、音声など)。代替的に、救助者に伝達される速度は、圧迫解除期の重要な部分(上昇部分および非上昇部分の両方)の間の運動の平均、または、他の統計的表示であり得る。
【0067】
図8を参照すると、グラフ704は、DE高度閾値インジケータ712、および、CN深度閾値インジケータ714も含む。これらのインジケータは、DE高度およびCN深度のいずれかまたは両方が浅すぎるか、または深すぎるかについての情報を装置のユーザに提供する。例えば、DE高度706が閾値インジケータ712に届いていないことをユーザが見た場合、ユーザは自身の運動を調整して、(例えば、DE運動中に、より大きい力でACD装置を引っ張ることによって)DE高度を増加させることができる。
【0068】
同様に、DE高度インジケータ706が閾値インジケータ712を超えていることをユーザが見た場合、ユーザは、自身の運動を調整して、(例えば、DE運動中に、より小さい力でACD装置を引っ張ることによって)DE高度を減少させることができる。同様に、CN深度708が閾値インジケータ714に届いていないことをユーザが見た場合、ユーザは、CN運動中の力を調整できる。
【0069】
さらに、情報702は、インジケータ712、714によって表される閾値に基づいてユーザに表示されるガイダンスを含み得る。例えば、DE深度またはCN深度のいずれかが、特定の範囲の閾値内に無い場合(例えば、閾値より10%以上高い、または、閾値より10%以上低い)、ユーザインタフェース700は、ユーザを誘導するメッセージを表示し得る。図8に示される例において、CN深度インジケータ708は、CN深度がCN閾値インジケータ714に遥かに及ばないことを示している。ユーザインタフェース700は、これに応答して、最適な圧迫に到達するには、より強く押す必要があることを示すメッセージ718をユーザに表示する。DE高度インジケータ706がそれぞれの閾値に及ばない場合、(最適な圧迫解除に関して)同様のメッセージが表示され得る。同様に、DE高度706またはCN深度708がそれぞれの閾値を相当な量だけ超えた(例えば、閾値インジケータを10%より大きく超えた)場合、ユーザインタフェース700は、警告メッセージ(例えば、「患者の負傷を避けるためにCN荷重を減らしてください」)を表示し得る。
【0070】
代替的に、すべての携帯電話において使用されるような小型バイブレータが、救助者の手に物理的に接触するようにアセンブリ内に含まれ得て、正確なCN深度およびDE高度についてのハプティックフィードバックが伝達され得て、例えば、閾値に到達したときに振動する。
【0071】
図8に示される例において、DE高度インジケータ706は、DE閾値インジケータ712に近い。従って、ユーザインタフェース700は、ユーザがDE運動に対して適切な量の力を使用していることを示すメッセージ718を表示する。
【0072】
いくつかの実装において、静的な値である閾値に基づく閾値インジケータ712、714が表示される。例えば、プロセッサ400(図4)のメモリ418は、例えば、患者におけるDE高度およびCN深度についての実験データに基づいて、静的な値を記憶し得る。静的な値が直接使用され得るか、または、CPR処置を受けている患者に関して測定された変数によって値が修正され得る。いくつかの実装において、閾値インジケータ712、714は、例えば、図4に示されるプロセッサ400などのプロセッサによって計算された閾値に基づいて表示される。いくつかの例において、計算された閾値は、例えば、図4に示される胸部コンプライアンス414の推定値などの、胸部コンプライアンスの計算に基づく。例えば、図7に示されるコンプライアンス曲線602を参照すると、胸部コンプライアンスの最低値に対応する深度の値は、最大DE高度および最大CN深度に対応し得る。
【0073】
いくつかの実装において、ユーザインタフェース700は、胸部改変を表す傾向グラフを示す。例えば、傾向グラフは、CPR処置の過程において患者の胸部に何が発生するかを表し得る。図10は、ユーザインタフェース700上に表示され得る傾向グラフ1000の例を示す。傾向グラフ1000は、時間を表すx軸1002と、コンプライアンスを表すy軸1004とを有する。図の例に示されるように、傾向グラフ1000は、ゼロ点傾向線1006(例えば、患者の胸部の開始時深度を表す傾向線)、および、コンプライアンス傾向線1008を含み得る。傾向グラフによって表されるように、CPR処置が提供されるにつれて、ゼロ点およびコンプライアンスは経時的に変化する。
【0074】
図11は、例示的なコンピュータシステム1100のブロック図である。例えば、図1を参照すると、ACD装置100は、本明細書において説明されるシステム1100の例であり得て、外部装置412(図4)についても同様であり得る。システム1100は、プロセッサ1110、メモリ1120、記憶装置1130、および、1または複数の入力/出力インタフェース装置1140を備える。コンポーネント1110、1120、1130、および1140の各々は、例えば、システムバス1150を使用して、相互接続され得る。
【0075】
プロセッサ1110は、図4に示されるプロセッサ400の例であり得て、システム1100内において実行するための命令を処理できる。本明細書において使用される「実行」という用語は、プログラムコードがプロセッサに1または複数のプロセッサ命令を遂行させる技法を指す。いくつかの実装において、プロセッサ1110は、シングルスレッドプロセッサである。いくつかの実装において、プロセッサ1110は、マルチスレッドプロセッサである。いくつかの実装において、プロセッサ1110は、量子コンピュータである。プロセッサ1110は、メモリ1120または記憶装置1130内に記憶された命令を処理できる。プロセッサ1110は、少なくとも部分的にはコンプライアンス曲線の特徴に基づいて、胸部圧迫の中立位置を判定するなどの操作を実行し得る。メモリ1120は、システム1100内の情報を記憶する。いくつかの実装において、メモリ1120は、コンピュータ可読媒体である。いくつかの実装において、メモリ1120は、揮発性メモリユニットである。いくつかの実装において、メモリ1120は、非揮発性メモリユニットである。
【0076】
記憶装置1130は、システム1100のための大容量ストレージを提供できる。いくつかの実装において、記憶装置1130は、非一時的コンピュータ可読媒体である。様々な種々の実装において、記憶装置1130は、例えば、ハードディスク装置、光ディスク装置、ソリッドステートドライブ、フラッシュドライブ、磁気テープ、または、いくつかの他の大容量記憶装置を含み得る。いくつかの実装において、記憶装置1130は、クラウド記憶装置であり得て、例えば、ネットワーク上に分散され、かつ、ネットワークを使用してアクセスされる1または複数の物理記憶装置を含む論理記憶装置であり得る。いくつかの例において、記憶装置は、長期データを記憶し得る。入力/出力インタフェース装置1140は、システム1100のために入力/出力操作を提供する。いくつかの実装において、入力/出力インタフェース装置1140は、例えば図4に示される無線通信モジュール410もしくはイーサネット(登録商標)インタフェースなどのネットワークインタフェース装置、例えばRS‐232インタフェースなどのシリアル通信装置、および/または、例えば802.11インタフェース、3G無線モデム、4G無線モデムなどの無線インタフェース装置のうちの1つまたは複数を含み得る。ネットワークインタフェース装置は、システム1100がデータを伝達(例えば、送信および受信)することを可能にする。いくつかの実装において、入力/出力装置は、他の入力/出力装置(例えば、キーボード、プリンタ、およびディスプレイ装置1160)との間で入力データを受信して出力データを送信するように構成されるドライバ装置を有し得る。いくつかの実装において、モバイルコンピューティング装置、モバイル通信装置、および他の装置が使用され得る。
【0077】
図4を参照すると、プロセッサ400によって遂行される段階は、実行時に1または複数の処理装置に上記の(例えば、CPR処置に関連する情報を判定する)プロセスおよび機能を遂行させる命令によって実現され得る。そのような命令は、例えば、スクリプト命令、または、実行可能コード、または、コンピュータ可読媒体に記憶される他の命令などの、解釈された命令を含み得る。コンピュータシステム1100は、サーバファーム(1組の広く分散されたサーバ)などのネットワークにわたって分散的に実装され得るか、または、互いに連携して動作する複数の分散装置を含む単一の仮想装置において実装され得る。例えば、装置の1つは、他の装置を制御し得るか、または、装置は、1組の協調的な規則もしくはプロトコルに従って動作し得るか、または、装置は、別の方式で連携され得る。複数の分散装置の連携動作は、単一装置として動作するような外観を呈する。
【0078】
いくつかの例において、システム1100は、単一の集積回路パッケージ内に格納される。プロセッサ1110および1または複数の他のコンポーネントの両方が単一の集積回路パッケージ内に格納され、および/または単一の集積回路として作成される、この種類のシステム1100は、マイクロコントローラと呼ばれることがある。いくつかの実装において、集積回路パッケージは、例えば、入力/出力インタフェース装置1140のうちの1または複数との間で信号を伝達するために使用され得る、入力/出力ポートに対応するピンを含む。
【0079】
図11において、例示的な処理システムが説明されたが、主題および上記の機能的動作の実装は、他の種類のデジタル電子回路において、または、本明細書において開示される構造、および、その構造的な均等物を含む、コンピュータ、ソフトウェア、ファームウェア、もしくはハードウェア、または、それらのうちの1または複数の組み合わせにおいて実装され得る。アーティファクトの記憶、維持、および表示などの、本明細書において説明される主題の実装は、1または複数のコンピュータプログラム製品として実装され得る。すなわち、処理システムによる実行、または、処理システムの動作の制御のために、例えばコンピュータ可読媒体などの有形のプログラムキャリア上に符号化されたコンピュータプログラム命令の1または複数のモジュールとして実装され得る。コンピュータ可読媒体は、機械可読記憶装置、機械可読記憶基板、メモリ装置、または、それらのうち1もしくは複数の組み合わせであり得る。
【0080】
「システム」という用語は、データを処理するための、すべての機器、装置、および機械を包含し得る。これには、例として、プログラマブルプロセッサ、コンピュータ、または、複数のプロセッサもしくはコンピュータが含まれる。処理システムは、ハードウェアに加えて、対象となるコンピュータプログラムのための実行環境を生成するコード(例えば、プロセッサファームウェア、プロトコルスタック、データベース管理システム、オペレーティングシステム、または、それらの1もしくは複数の組み合わせを構成するコード)を備え得る。
【0081】
コンピュータプログラム(プログラム、ソフトウェア、ソフトウェアアプリケーション、スクリプト、実行可能ロジック、またはコードとしても知られている)は、コンパイラ言語もしくはインタプリタ言語、または、宣言型言語もしくは手続き型言語を含む任意の形態のプログラミング言語で書かれ得て、スタンドアロンプログラム、または、モジュール、コンポーネント、サブルーチン、もしくは、コンピューティング環境における使用に適した他のユニットを含む、任意の形態で展開され得る。コンピュータプログラムは、ファイルシステム内のファイルに必ずしも対応しない。プログラムは、他のプログラムまたはデータ(例えば、マークアップ言語ドキュメントで記憶される1または複数のスクリプト)を保持するファイルの一部に、または、対象となるプログラム専用の単一ファイルに、または、複数の連携ファイル(例えば、1または複数のモジュール、サブプログラム、またはコードの一部を格納するファイル)に格納されることができる。コンピュータプログラムは、1つのコンピュータ上で、または、1つの場所に配置されているか、もしくは、複数の場所にわたって分散されて通信ネットワークによって相互接続されている複数のコンピュータ上で実行されるように展開され得る。
【0082】
コンピュータプログラム命令およびデータを記憶することに適したコンピュータ可読媒体は、すべての形式の非揮発性もしくは揮発性のメモリ、媒体、およびメモリ装置を含む。これらには、例として、例えばEPROM、EEPROM、およびフラッシュメモリ装置などの半導体メモリ装置と、例えば内部ハードディスクもしくはリムーバブルディスクもしくは磁気テープなどの磁気ディスクと、光磁気ディスクと、CD‐ROM、DVD‐ROM、およびBlu‐Rayディスクとが含まれる。プロセッサおよびメモリは、特定用途向け論理回路により補完され、またはこれに組み込まれ得る。 サーバは、例えば、場合によっては汎用コンピュータであり、場合によっては特別注文の特定用途向け電子装置であり、場合によってはこれらの組み合わせである。実装は、バックエンドコンポーネント(例えば、データサーバ)、または、ミドルウェアコンポーネント(例えば、アプリケーションサーバ)、または、フロントエンドコンポーネント(例えば、ユーザが本明細書に記載の主題の実装とインタラクトするために利用できるグラフィカルユーザインタフェースまたはウェブブラウザを有するクライアントコンピュータ)、または、1もしくは複数のそのようなバックエンド、ミドルウェア、もしくはフロントエンドコンポーネントの任意の組み合わせを備え得る。システムのコンポーネントは、例えば通信ネットワークなどの、デジタルデータ通信の任意の形態または媒体によって相互接続され得る。通信ネットワークの例には、ローカルエリアネットワーク(「LAN」)、および、例えばインターネットなどのワイドエリアネットワーク(「WAN」)が含まれる。本発明の複数の実施形態を説明した。しかしながら、本発明の思想および範囲から逸脱することなく、様々な修正が加えられ得ることを理解されたい。従って、他の実施形態は、以下の特許請求の範囲内にある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11