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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】樹脂成形体および樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230620BHJP
   C08F 299/06 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
C08J5/18 CFF
C08F299/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018006297
(22)【出願日】2018-01-18
(65)【公開番号】P2019123821
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 洋平
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-002764(JP,A)
【文献】特開昭62-236867(JP,A)
【文献】特開2016-102154(JP,A)
【文献】特開2017-111257(JP,A)
【文献】特開2001-170561(JP,A)
【文献】特開2002-105310(JP,A)
【文献】特開2007-204736(JP,A)
【文献】特開2010-272662(JP,A)
【文献】国際公開第2016/039129(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B32B 1/00 - 43/00
C08F 283/01
C08F 290/00 - 290/14
C08F 299/00 - 299/08
C08J 5/00 - 5/02
C08J 5/12 - 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ20μm以上100μm以下であり、動的粘弾性測定における周波数1.0Hzでの損失正接tanδのピークトップ値が1.0以下であることを特徴とする樹脂成形体の製造方法であり、かつ、
ウレタン骨格と2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレートであって2種類以上の異なるウレタン(メタ)アクリレートと、光硬化開始剤とを少なくとも含む光硬化性組成物を支持体に塗布して塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜へ紫外線を照射する工程と、
前記紫外線照射の前または後の少なくとも一方に赤外線を照射する工程と、
前記支持体上に形成した樹脂成形体を前記支持体から剥離する工程と、
を含むことを特徴とする樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
前記支持体に前記光硬化性組成物を塗布して塗布膜を形成する工程の後に、さらに前記塗布膜を乾燥させる工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記支持体が可撓性基材であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の
樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
前記支持体として用いた可撓性基材をロール・ツー・ロールで搬送することを特徴とする請求項3に記載の樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性組成物およびウェットコーティング法を用いて、支持体上に当該光硬化性組成物からなる硬化膜を形成して得られる樹脂成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線や電子線のような活性エネルギー線照射による架橋反応を経て硬化する樹脂、いわゆる光硬化性樹脂を主成分として形成される樹脂成形体は、プラスチックフィルムや光学表示装置用の透明基材などの用途に幅広く利用されている。
【0003】
なかでも、フィルム部材や透明基材として用いられる樹脂成形体は、他部材と組合せる際の取扱いやすさや、全体としての層構成の制約などにより、厚さ数十μm程度の単独膜として利用されることが多い。
【0004】
また、前記樹脂成形体は、用途に応じてさまざまな材料が用いられているが、いずれの用途においてもその耐久性が求められている。なかでも、耐熱性は、樹脂成形体の後加工の有無、用途に限らず必須である。
【0005】
光硬化性組成物は、その主成分である光硬化性樹脂の材料種が豊富であり特性の選択性が高いことなどから、プラスチックフィルム、光学表示装置用部材などに活用することが可能であり、その耐熱性を向上する方法として、紫外線照射量を増やすことにより硬化度を上げる方法が知られている。(例えば、特許文献1参照)
【0006】
しかし、厚さ数十μmの樹脂成形体は、主に紫外線照射量を増やして光硬化度を高めることで耐熱性を向上させるため、一般的に耐熱性の向上に伴い形成する樹脂成形体の柔軟性を損なってしまい、加工性を低下させることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-24227号公報
【文献】国際公開第2016/039129号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の問題を鑑みて、本発明の課題とするところは、光硬化性組成物からなる厚さ数十μmの樹脂成形体の単独膜において、柔軟性を維持したまま耐熱性の高い樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、
ウレタン骨格と2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレートであって2種類以上の異なるウレタン(メタ)アクリレートと、光硬化開始剤とを少なくとも含む光硬化性組成物からなる樹脂成形体であって、
厚さ20μm以上100μm以下であり、動的粘弾性測定における周波数1.0Hzでの損失正接tanδのピークトップ値が1.0以下であることを特徴とする樹脂成形体である。
【0010】
なお、本発明において「(メタ)アクリロイル基」とは「アクリロイル基」と「メタクリロイル基」の両方を示している。また、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」と「メタクリレート」の両方を示している。
【0011】
また本発明は、前記樹脂成形体のガラス転移温度Tgにおいて、同一の光硬化性組成物から赤外線未照射で形成された樹脂成形体のTgに対する、赤外線照射して形成された樹脂成形体のTgの上昇率が3%以上であることを特徴とする樹脂成形体である。
【0012】
また本発明は、前記樹脂成形体の製造方法であって、
ウレタン骨格と2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレートであって2種類以上の異なるウレタン(メタ)アクリレートと、光硬化開始剤とを少なくとも含む光硬化性組成物を支持体に塗布して塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜へ紫外線を照射する工程と、
前記紫外線照射の前または後の少なくとも一方に赤外線を照射する工程と、
前記支持体上に形成した樹脂成形体を前記支持体から剥離する工程と、
を含むことを特徴とする樹脂成形体の製造方法である。
【0014】
また本発明は、前記支持体に前記光硬化性組成物を塗布して塗布膜を形成する工程の後に、さらに前記塗布膜を乾燥させる工程を含むことを特徴とする樹脂成形体の製造方法である。
【0015】
また本発明は、前記支持体が可撓性基材であることを特徴とする樹脂成形体の製造方法である。
【0016】
また本発明は、前記支持体として用いた可撓性基材をロール・ツー・ロールで搬送することを特徴とする樹脂成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の樹脂成形体及びその製造方法によれば、光硬化性組成物により厚さ数十μmの樹脂成形体を製造する際に赤外線照射を用いることで、耐熱性が高く且つ柔軟性を損なわない樹脂成形体を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の樹脂成形体の一例を示す概略図である。
図2】本発明の樹脂成形体を支持体から剥離する工程を示す概略図である。
図3】本発明の実施形態に係る樹脂成形体の製造装置の一例を示す概略図である。
図4】実施例1~2、比較例1で得られた樹脂成形体の動的粘弾性測定により得られた貯蔵弾性率E’を示したグラフ。
図5】実施例1~2、比較例1で得られた樹脂成形体の動的粘弾性測定により得られた損失弾性率E”を示したグラフ。
図6】実施例1~2、比較例1で得られた樹脂成形体の動的粘弾性測定により得られた損失正接tanδを示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明による樹脂成形体およびその製造方法の一例について図を参照して説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
本発明における一実施形態の樹脂成形体は、図1に示すように、支持体20の上に設け
た光硬化性組成物の塗布膜を硬化させることにより、樹脂成形体10として得られる。
【0021】
図1で得られた樹脂成形体は、図2に示すように、支持体20から剥離することで、単独膜としての樹脂成形体10としても用いることができる。
【0022】
(光硬化性組成物)
次に、樹脂成形体を製造するための光硬化性組成物について説明する。
【0023】
本発明で使用される光硬化性組成物には、紫外線や電子線のような活性エネルギー線照射により架橋反応を経て硬化する樹脂、すなわち光硬化性樹脂を用いることができる。
【0024】
本発明で使用される光硬化性樹脂として、ウレタン骨格と2個以上の(メタ)アクリロイル基とを有するウレタン(メタ)アクリレートを用いることができる。
これには既知のものを用いることができるが、例えば、ジイソシアネートをはじめとするポリイソシアネートとポリオールとを反応させてウレタン結合を形成した後、(メタ)アクリル酸のヒドロキシエステルなどを反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレートを用いることができる。
【0025】
上記ポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオールなどを用いることができる。
【0026】
ポリイソシアネートとして、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどを用いることができる。
【0027】
これらの方法により得られたウレタン(メタ)アクリレートは、モノマー、または一部が重合したオリゴマーとして得られたものを用いることができる。その分子量は、光硬化性組成物として調製したものが均一に塗布膜を形成できれば限定されるものではないが、1000000以下が好ましく、500000以下がさらに好ましい。
【0028】
さらに、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレートとして、市販されているものを用いることができる。例えば、紫光UV-3520(日本合成化学工業)、紫光UV-7000(日本合成化学工業)、UF-8001G(共栄社化学)などを用いることができる。
【0029】
また、芳香環もしくは脂環構造を有するウレタン(メタ)アクリレートは比較的機械的特性が高く、例えば、UA-306I(共栄社化学)、AH-600(共栄社化学)などを用いることができる。
【0030】
これらのウレタン(メタ)アクリレートの中から2種類以上を組み合わせて用いることができる。その際、機械的特性の異なるものどうしを組み合わせることにより、用途に合わせた特性をもつ樹脂成形体を得ることができる。
【0031】
また本発明では、上記以外の光硬化性樹脂を添加することもできる。例えば、イソシアヌル酸骨格を有する多官能(メタ)アクリレートを用いれば機械的強度の高い樹脂成形体を製造することが可能であり、例えば、イソシアヌル酸変性ジ及びトリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸変性(メタ)トリアクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキシド変性ジ及びトリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス((メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレートなどを用いることができる。
【0032】
さらに、イソシアヌル酸骨格を有する多官能(メタ)アクリレートとして、M-215(東亞合成)、M-315(東亞合成)、A-9300(新中村化学工業)、A-9300-1CL(新中村化学工業)などを用いることができる。
【0033】
(光硬化開始剤)
本発明に用いる光硬化性組成物に含まれる光硬化開始剤としては、特に限定されないが、透明樹脂の硬化で、特に着色の少ないものであればよい。例えば、表面硬化系の光硬化開始剤としては、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル〕-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンなどのα-ヒドロキシケトンや、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンなどのα-アミノケトンを用いることができる。
【0034】
また、内部硬化系の光硬化開始剤としては、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドなどのアシルフォスフィンオキサイドや、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1などを用いることができる。
【0035】
また、上記に示されるもの以外にも、例えば、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類など表面硬化系、内部硬化系の特徴を有する光硬化開始剤であれば適宜選択して用いることができる。
【0036】
また、これらの光硬化開始剤は単独、もしくは2種類以上を混合して用いることができる。
【0037】
また、光硬化開始剤の添加量は、光硬化性組成物中のすべての光硬化性樹脂の合計100質量%に対して0.1質量%以上10質量%以下程度であることが好ましく、1質量%以上7質量%以下程度であることがより好ましい。この範囲より多くても少なくても、得られる樹脂成形体の硬化度は低くなる傾向にある。特に、多すぎる場合には、樹脂成形体が着色する可能性がある。
【0038】
(溶剤)
本発明に用いる光硬化性組成物に含まれる溶剤は、光硬化性樹脂や光硬化開始剤を溶解するものであれば特に限定されるものではない。例えば、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、1,3,5-トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールなどのエーテル類、またアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、およびメチルシクロヘキサノンなどのケトン類、また蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸n-ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン醸エチル、酢酸n-ペンチル、およびγ-ブチロラクトンなどのエステル類、さらにメチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、およびセロソルブアセテートなどのセロソルブ類、また炭酸ジメチルなどを用いることができる。これらの溶剤は単独、もしくは2種類以上を混合して用いることができる。
【0039】
溶剤の配合比率は、光硬化開始剤など光硬化性組成物中の固形分を均一に溶解できれば、後述の塗布方法に応じて適した粘度範囲となるように適宜調整すればよく、光硬化性組成物全体量に対して1質量%以上50質量%以下であることが好ましい。溶剤の配合比率が1質量%より少ない場合、溶剤による効果的な粘度低下が起こらずに塗布膜厚が不均一になる可能性があり、50質量%より多い場合、乾燥工程において溶剤を完全に除去することができず樹脂成形体中の残留溶剤が特性に影響する可能性がある。
【0040】
また、光硬化性組成物による塗布膜の面性を良化させるためには、比較的沸点の高い溶剤の方がレベリング性(均一塗布性)が向上するため好ましい。一方、塗布膜厚が厚い場合、膜中に溶剤が残りやすくなるため、できるだけ溶剤の沸点は低いほうがよく、前者と後者のバランスを考慮して溶剤を決定すればよい。
【0041】
また、本発明に用いる光硬化性組成物は、添加剤として高分子系可塑剤、防汚剤、表面調整剤、レベリング剤、屈折率調整剤、硬化剤、光増感剤、導電材料などを用いることができる。作製する樹脂成形体の用途に応じて適宜選べばよい。
【0042】
(支持体)
次いで、本発明に用いる光硬化性組成物の支持体への塗布工程について説明する。
【0043】
上記成分を含有する光硬化性組成物は、支持体に塗布し、紫外線照射の前または後の少なくとも一方に赤外線照射を含み紫外線照射することにより、樹脂成形体となる硬化膜を形成することができる。
【0044】
本発明に使用する支持体としては、光硬化性組成物中に含まれる各成分に溶解せず、光硬化性組成物を塗布した後、紫外線照射、赤外線照射などの各工程において支持体が変形することがなければ、一般的な材料を用いることができる。
【0045】
なかでも、平滑性、耐熱性を備え、機械的強度に優れたものが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリビニルアセタール、ポリエーテルケトンなどの各種樹脂からなるフィルム状の可撓性基材、もしくはロール状の金属体などを挙げることができる。
【0046】
可撓性基材を支持体としてロール・ツー・ロールで搬送して樹脂成形体を作製する場合、可撓性基材は基材搬送装置により連続的に搬送できる厚さがあれば良い。厚さは、25μm以上200μm以下程度であることが好ましく、さらには40μm以上100μm以下が好ましい。25μmより薄い場合、可撓性基材にかかる張力により破断する可能性があり、また200μmより厚い場合、硬化膜の形成工程において熱や光を減衰させる要因となる可能性がある。ただし、可撓性基材の厚さは上記範囲に限定されるものではない。
【0047】
(塗布方法)
支持体上に光硬化性組成物を塗布する方法としては、厚さ20~100μmの樹脂成形体を均一な膜厚で製造できれば特に限定されるものではないが、適宜公知の塗布方法の中からウェットコーティング法と総称される方法を用いることができる。例えば、ディップコーティング法、スピンコーティング法、フローコーティング法、スプレーコーティング法、ロールコーティング法、グラビアロールコーティング法、エアドクターコーティング法、プレードコーティング法、ワイヤードクターコーティング法、ナイフコーティング法、リバースコーティング法、トランスファロールコーティング法、マイクログラビアコーティング法、キスコーティング法、キャストコーティング法、スロットオリフィスコーティング法、カレンダーコーティング法、ダイコーティング法、キャップコーティング法、アプリケータコーティング法、バーコーティング法などを用いることができる。中でも、ダイコーティング法、キャップコーティング法、ロールコーティング法などの塗布方法では、広い範囲の粘度の光硬化性組成物について均一な塗布膜を形成できる。
【0048】
光硬化性組成物中に溶剤を含む場合、塗布膜から溶剤を除去するために乾燥工程を含んでもよい。その場合、乾燥工程には、適宜公知の乾燥手段を用いることができる。例えば、加熱、送風、熱風などを用いることができる。
【0049】
(紫外線照射および赤外線照射)
支持体上に形成した塗布膜を硬化して樹脂成形体を得る方法としては、適宜公知の紫外線照射方法を用いることができる。例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク灯、キセノンランプ、無電極放電管などの光源を採用できる。照射条件として、紫外線照射量は100~2000mJ/cmに設定することができる。これ以下の照射量では樹脂が十分に硬化せず強度不足となる可能性があり、これ以上の照射量では開始剤などの分解による着色が起こる可能性がある。
【0050】
また、紫外線照射の前または後の少なくとも一方で赤外線を照射する方法としては、適宜公知の紫外線照射方法を用いることができる。例えば、短波長赤外線ヒーター、中波長赤外線ヒーター、カーボンヒーターなど、ヒーターの最大エネルギー波長が1.2~2.7μmのものを用いることができる。
【0051】
赤外線照射量は、60~150kW/mに設定することができ、塗布膜や支持体の過度の加熱による荒れや波打ちなどのダメージが起こらない範囲であれば限定されるものではない。
【0052】
赤外線照射ユニットは、紫外線露光装置内の紫外線光源ユニットと併設することができる。紫外線光源ユニットの前後に併設することにより、紫外線照射工程と一括して赤外線照射を行うことができる。
【0053】
硬化後の塗布膜厚は、塗布精度、取扱いの観点から20μm以上100μm以下の範囲であることが好ましい。20μm未満では機械的強度が低いため取り扱い難い。また、100μmより厚い場合、巻き取りや光硬化性組成物の均一な塗布が困難となる。
【0054】
(剥離工程)
また、支持体上に形成した樹脂成形体は、支持体から剥離して単独膜の樹脂成形体として得ることができる。
【0055】
そのため、形成した樹脂成形体を支持体から剥離する工程を含んでもよい。支持体からの剥離は、適宜公知の方法を用いることができる。例えば、ロール・トゥー・ロールで搬送する場合は支持体をロール状に巻取り、得られた樹脂成形体もロール状に巻き取って回収することができる。その際、支持体からの剥離による帯電が生じる場合は、剥離部にイオナイザーなどの除電設備を敷設することにより防止することができる。
【0056】
さらに、形成した樹脂成形体を剥離可能な支持体を用いることができ、支持体上に得られた樹脂成形体の剥離性を良くするために、支持体の光硬化性組成物の塗布面に離型性を付与することができる。離型性を付与する方法としては、支持体の表面にシリコーンオイル、シリコーンワニスに代表される離型剤を塗っても良いし、あるいはシリコーンゴムの薄膜層を形成してもよい。また同じ目的でフッ素系樹脂、フッ素系ゴムも利用されうるし、フッ素樹脂微粉末をシリコーンゴムあるいは、普通のゴムに混ぜて剥離性を出すなどの使い方をしてもよい。支持体への光硬化性組成物の均一な塗布、硬化膜の形成が可能であれば、いずれの方法を用いてもよい。
【0057】
また、支持体として可撓性基材を用いる場合、樹脂成形体の剥離性をよくするために、予め表層に離型層が構成されている汎用の離型フィルムを用いることができる。
【0058】
(製造装置)
支持体をロール・トゥー・ロールで搬送する場合の、本発明の樹脂成形体の製造装置の一例を図3に示す。支持体巻出し部31より搬送された支持体20の上に樹脂成形体を形成するために、光硬化性組成物を塗布する塗布部41、樹脂成形体の硬化ユニット50に加えて、必要に応じて乾燥部42を設けることができる。
【0059】
樹脂成形体の硬化ユニット50を構成する要素として、紫外線照射部51、赤外線照射部52を設けることができる。赤外線照射部52は、紫外線照射部の前後に設けることができ、紫外線照射前に設ける赤外線照射部52aと、紫外線照射後に設ける赤外線照射部52bとのいずれか一方だけを設けてもよいし、併設して必要に応じて使い分けてもよいし、製造条件ごとに赤外線照射部52の配置を変更した樹脂成形体の硬化ユニット50を用いてもよい。
【0060】
樹脂成形体の硬化ユニット50により塗布膜を硬化させて形成した樹脂成形体10は、支持体巻取り部32により支持体を剥離し、樹脂成形体単独として巻取り部33により巻き取られた形態で得ることができる。
【0061】
(微粒子)
以上のようにして得た樹脂成形体には、ブロッキング防止や硬度付与、防眩性、帯電防止性能付与、または屈折率調整のために無機あるいは有機化合物の微粒子を含ませることができる。
【0062】
上記無機あるいは有機化合物の微粒子は、光硬化性組成物に混合できるものであれば特に限定されず、光硬化性組成物に混合して支持体に塗布することにより樹脂成形体に含ませることができる。
【0063】
樹脂成形体に含ませる無機微粒子としては、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化スズ、五酸化アンチモンといった酸化物やアンチモンドープ酸化スズ、リンドープ酸化スズ等複合酸化物などを用いることができる。その他では、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、カオリン、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウムなども使用することができる。
【0064】
また、有機微粒子としては、ポリメタクリル酸メチルアクリレート樹脂粉末、アクリル-スチレン系樹脂粉末、ポリメチルメタクリレート樹脂粉末、シリコン樹脂粉末、ポリスチレン系粉末、ポリカーボネート粉末、メラミン系樹脂粉末、ポリオレフィン系樹脂粉末などを用いることができる。
【0065】
これらの微粒子粉末の平均粒径としては、5nm~20μmが好ましく、10nm~10μmがより好ましい。また、これらの微粒子は2種類以上を複合して用いることもできる。ただし、微粒子径は作製する樹脂成形体の膜厚の範囲内で選択する。
【0066】
本発明で得られる樹脂成形体は、必要に応じて、反射防止性能、帯電防止性能、防汚性能、防眩性能、電磁波シールド性能、赤外線吸収性能、紫外線吸収性能、又は色補正性能などを有する機能層を積層させてもよい。なお、これらの機能層は単層であってもかまわないし、複数の層であってもかまわない。例えば、反射防止層にあっては、低屈折率層単層から構成されても構わないし、低屈折率層と高屈折率層の繰り返しによる複数層から構成されていても構わない。また、機能層は、防汚性能を有する反射防止層というように、1層で複数の機能を有していても構わない。
【実施例
【0067】
以下に、実施例について説明する。ただし、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0068】
樹脂成形体を作製するにあたり、ウレタンアクリレートの製造方法については特開2013-159691号公報を参考にした。
【0069】
[ウレタンアクリレート1の製造]
冷却管、攪拌装置および温度計を取り付けた反応容器中で、「イソホロンジイソシアネート(IPDI)」31.5質量部と、ジブチル錫ジラウレート0.1質量部とを混合し、50℃にて「ε-カプロラクトン1mol変性2-ヒドロキシエチルアクリレート」68.4質量部を1時間かけて滴下した後、90℃で10時間攪拌した。
この反応液中の残存イソシアネート量をFT-IRを使用して測定したところ、ウレタン化反応が定量的に行われ、最終的にはイソシアネートがなくなり、多官能ウレタンアクリレート(以下、ウレタンアクリレート1)99.9質量部を得た。
【0070】
[実施例1]
上記条件で製造した「ウレタンアクリレート1」80重量部と、多官能ウレタンアクリレート「UV-7000B(日本合成化学工業)34.3重量部と、光硬化開始剤「イルガキュア184(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)」(BASF)5.7重量部と、溶剤「メチルエチルケトン」80重量部とを混合、攪拌し、光硬化性組成物を調製した。
【0071】
調製した光硬化性組成物を、透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(「ルミラー75T60」:東レ)を支持体として、アプリケータを用いて硬化後の樹脂成形体の膜厚が50μm程度となるように塗布し、100℃のオーブンにて3分間乾燥させ、赤外線照射手段として中波長カーボンヒーター(最大エネルギー波長1.7μm)照射、紫外線照射手段としてメタルハライドランプ(500mJ/cm)照射、の順に塗布膜への照射を行い、樹脂成形体を得た。なお本実施例の樹脂成形体の膜厚は、下記表1に記載した。
【0072】
[実施例2]
支持体上に形成した塗布膜への紫外線照射と赤外線照射の順序を逆にした(紫外線照射した後に赤外線照射)ことを除き、実施例1と同様の方法にて樹脂成形体を得た。
【0073】
[実施例3]
光硬化開始剤として「ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド」(BASF)を用いたことを除き、実施例1と同様の方法にて樹脂成形体を得た。
【0074】
[実施例4]
光硬化開始剤として「ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド」(BASF)を用いたことを除き、実施例2と同様の方法にて樹脂成形体を得た。
【0075】
[実施例5]
光硬化開始剤として「ESACURE ONE」(DKSHジャパン)を用いたことを除き、実施例1と同様の方法にて樹脂成形体を得た。
【0076】
[実施例6]
光硬化開始剤として「ESACURE ONE」(DKSHジャパン)を用いたことを除き、実施例2と同様の方法にて樹脂成形体を得た。
【0077】
[実施例7]
光硬化性組成物の塗布工程において、硬化後の樹脂成形体の膜厚が20μm程度となるようにしたことを除き、実施例5と同様の方法にて樹脂成形体を得た。
【0078】
[実施例8]
「ウレタンアクリレート1」93.3重量部と、多官能ウレタンアクリレート「UV-7000B(日本合成化学工業)40重量部と、光硬化開始剤「ESACURE ONE」(DKSHジャパン)6.7重量部と、溶剤「メチルエチルケトン」60重量部とを混合、攪拌し、光硬化性組成物を調製した。
【0079】
調製した光硬化性組成物を、透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(「ルミラー75T60」:東レ)を支持体として、アプリケータを用いて硬化後の樹脂成形体の膜厚が100μm程度となるように塗布し、100℃のオーブンにて5分間乾燥させ、中波長カーボンヒーター(最大エネルギー波長1.7μm)照射、メタルハライドランプ(500mJ/cm)照射の順に塗布膜への照射を行い、樹脂成形体を得た。
【0080】
[比較例1]
支持体上に形成した塗布膜に対し紫外線のみを照射して硬化させたことを除き、実施例1と同様の方法にて樹脂成形体を得た。
【0081】
[比較例2]
光硬化開始剤として「ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド」(BASF)を用いたことを除き、比較例1と同様の方法にて樹脂成形体を得た。
【0082】
[比較例3]
光硬化開始剤として「ESACURE ONE」(DKSHジャパン)を用いたことを除き、比較例1と同様の方法にて樹脂成形体を得た。
【0083】
上記により作製した樹脂成形体を支持体から剥離し、次に示す方法で動的粘弾性測定、引張試験測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0084】
[動的粘弾性測定]
作製した樹脂成形体は、支持体から剥離した後、日立ハイテクサイエンス社製の動的粘弾性測定装置を用いて測定した。引張りモード、周波数1.0Hzにおいて測定した貯蔵弾性率E’、損失弾性率E”の比(=E”/E’)である損失正接tanδの最大値(ピークトップ値)を求めた。また、損失正接tanδが最大値となる温度をガラス転移温度(Tg)として求めた。
【0085】
[引張試験測定]
作製した樹脂成形体を支持体から剥離した後、80mm×15mmの短冊状にサンプルを切り出し、島津製作所社製小型卓上試験機EZ-Lを用い、測定開始時のチャック間距離を50mmとし、引張り速度5mm/minにて試験をおこなった。
サンプルが破断するまでの間の最大応力を引張強度として求めた。また、引張伸びは下記式(i)を用いて算出した。
引張伸び={(破断時の長さ)-(引張り前の初期長さ)}/引張り前の初期長さ
・・・式(i)
【0086】
また、実施例1~2、比較例1の粘弾性測定結果より、貯蔵粘弾率E’のグラフを図4に示し、損失弾性率E”のグラフを図5に示し、損失正接tanδのグラフを図6に示す。
図6のグラフから、赤外線照射を行った実施例1及び2のピーク値が、赤外線照射を行わない比較例1に比べて小さくなり、ガラス転移温度Tgが高温側にシフトしていることがわかる。
ここで、同じ光硬化剤のグループ毎に、比較例のTg(即ち赤外線未照射の樹脂成形体のTg)をTg0とし、各実施例のTg(即ち赤外線を照射した樹脂成形体のTg)をTg1として、その変化率をTg上昇率と定義し、次式(1)を用いて算出して表1に記載した。
Tg上昇率(%)=(Tg1/Tg0)×100 ・・・(1)
これらの結果から、赤外線照射を行わない比較例に対し、赤外線照射を行った各実施例のTgがどの程度変化したかを確認できる。
【0087】
【表1】
【0088】
表1より、作製した樹脂成形体は、支持体から剥離した単独膜として20μmから100μm程度の膜厚となり、いずれも膜厚は均一であった。
【0089】
また、表1より、紫外線照射の前または後に赤外線照射を行った実施例1~8では、樹脂成形体は、いずれも損失正接tanδは1.0以下であった。一方で、赤外線照射を行わずに樹脂成形体を製造した比較例1~3では、損失正接tanδはいずれも1.0を超える値となった。
【0090】
また、異なる光硬化開始剤を用いたいずれの場合も、紫外線照射のみの場合(比較例1~3)と比べ、赤外線照射を行うことにより(実施例1~8)、ガラス転移温度Tgが高くなり、適用温度範囲が広くなった。
Tg上昇率は、実施例1~8において少なくとも3%以上の上昇率が得られた。
【0091】
実施例はいずれも比較例のように赤外線照射を行わない場合と比べて同等の引張強度、引張伸びを維持していた。上述のようにガラス転移温度Tgが上昇しても脆くなったり破断しやすくなることはなく、フィルム状の樹脂成形体としての柔軟性は維持されていた。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、液晶表示装置、プラズマ表示装置、エレクトロクロミック表示装置、発光ダイオード表示装置、EL表示装置、タッチパネルなどの光学表示装置や包装材、建築部材などに用いられる機能性フィルムなどに利用することができる。
【符号の説明】
【0093】
10・・・・・樹脂成形体
20・・・・・支持体
31・・・・・支持体巻き出し部
32・・・・・支持体巻取り部
33・・・・・樹脂成形体巻取り部
41・・・・・塗布部
42・・・・・乾燥部
50・・・・・樹脂成形体の硬化ユニット
51・・・・・紫外線照射部
52・・・・・赤外線照射部
52a・・・・・紫外線照射前の赤外線照射部
52b・・・・・紫外線照射後の赤外線照射部
図1
図2
図3
図4
図5
図6