IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱マテリアル株式会社の特許一覧

特許7298201ヒートシンク付き絶縁回路基板及びパワーモジュール
<>
  • 特許-ヒートシンク付き絶縁回路基板及びパワーモジュール 図1
  • 特許-ヒートシンク付き絶縁回路基板及びパワーモジュール 図2
  • 特許-ヒートシンク付き絶縁回路基板及びパワーモジュール 図3
  • 特許-ヒートシンク付き絶縁回路基板及びパワーモジュール 図4
  • 特許-ヒートシンク付き絶縁回路基板及びパワーモジュール 図5
  • 特許-ヒートシンク付き絶縁回路基板及びパワーモジュール 図6
  • 特許-ヒートシンク付き絶縁回路基板及びパワーモジュール 図7
  • 特許-ヒートシンク付き絶縁回路基板及びパワーモジュール 図8
  • 特許-ヒートシンク付き絶縁回路基板及びパワーモジュール 図9
  • 特許-ヒートシンク付き絶縁回路基板及びパワーモジュール 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】ヒートシンク付き絶縁回路基板及びパワーモジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20230620BHJP
   H01L 23/13 20060101ALI20230620BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
H01L23/36 C
H01L23/12 C
H01L23/36 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019042194
(22)【出願日】2019-03-08
(65)【公開番号】P2020145361
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-09-30
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】青木 慎介
(72)【発明者】
【氏名】大井 宗太郎
(72)【発明者】
【氏名】大開 智哉
【審査官】高橋 優斗
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-182175(JP,A)
【文献】特開2016-181549(JP,A)
【文献】特開2014-029974(JP,A)
【文献】特開2007-173496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/00-23/66
H01L 25/00-25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の一方の面に電子部品を搭載するための回路層が接合されるとともに、前記セラミックス基板の他方の面に金属層が接合されてなる絶縁回路基板における前記金属層と、中央部に前記絶縁回路基板の少なくとも一部が収容される収容凹部が形成されたヒートシンクにおける前記収容凹部の底面とがろう付けされたヒートシンク付き絶縁回路基板であって、
前記収容凹部の外周に位置する前記ヒートシンクの周壁部の内側側面の少なくとも一部にろう溜まり凹部が形成されており、
平面視で、前記ヒートシンクの前記収容凹部は前記絶縁回路基板の前記セラミックス基板より大きく形成され、
前記ろう溜まり凹部は、前記ヒートシンクの前記周壁部の上面より下方位置に形成されており、
前記周壁部の高さ方向に沿う前記ろう溜まり凹部の厚さが0.05mm~0.5mmであり、深さが0.05mm~10mm(ただし、0.25mm以下は除く)であることを特徴とするヒートシンク付き絶縁回路基板。
【請求項2】
前記ろう溜まり凹部は、前記周壁部の内側側面の全周にわたって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のヒートシンク付き絶縁回路基板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のヒートシンク付き絶縁回路基板と、
前記絶縁回路基板の前記回路層上に設けられる半導体チップと、
前記半導体チップ上及び前記収容凹部内にモールドされた樹脂材と、を備えることを特徴とするパワーモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシンク付き絶縁回路基板及びこれを用いたパワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁回路基板として、窒化アルミニウムを始めとするセラミックス基板からなる絶縁層の一方の面に回路層が接合されるとともに、他方の面に金属層を介してヒートシンクが接合されたヒートシンク付き絶縁回路基板が知られている。
例えば、特許文献1に開示されているヒートシンク付き絶縁回路基板は、セラミックス基板の一方の面に回路層が接合されるとともに、セラミックス基板の他方の面に放熱層を介してヒートシンクが接合されてなり、ヒートシンクの天板部には、絶縁回路基板が収容される収容凹部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-181549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に開示されている絶縁回路基板をヒートシンクに接合する際に、マグネシウムを含むアルミニウム合金クラッド材(ろう材)を用いて接合すると、余剰な溶融ろうがヒートシンクにおける収容凹部の底部から該収容凹部の内側側面を這い上がり、収容凹部の外周に位置する周壁部の天面にまで達することがある。この内側側面及び周壁部の天面に這い上がった溶融ろうは、これらの表面で固化する。この固化した溶融ろう(以下、残存ろうという)は、周囲の周壁部とその組成が異なるため、外観不良が生じる。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ヒートシンク付き絶縁回路基板におけるヒートシンクの周壁部の外観を向上できるヒートシンク付き絶縁回路基板及びパワーモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のヒートシンク付き絶縁回路基板は、セラミックス基板の一方の面に電子部品を搭載するための回路層が接合されるとともに、前記セラミックス基板の他方の面に金属層が接合されてなる絶縁回路基板における前記金属層と、中央部に前記絶縁回路基板の少なくとも一部が収容される収容凹部が形成されたヒートシンクにおける前記収容凹部の底面とがろう付けされたヒートシンク付き絶縁回路基板であって、前記収容凹部の外周に位置する前記ヒートシンクの周壁部の内側側面の少なくとも一部にろう溜まり凹部が形成されており、平面視で、前記ヒートシンクの前記収容凹部は前記絶縁回路基板の前記セラミックス基板より大きく形成され、前記ろう溜まり凹部は、前記ヒートシンクの前記周壁部の上面より下方位置に形成されており、前記周壁部の高さ方向に沿う前記ろう溜まり凹部の厚さが0.05mm~0.5mmであり、深さが0.05mm~10mm(ただし、0.25mm以下は除く)である
【0007】
本発明では、ヒートシンクにおける収容凹部の底面と絶縁回路基板の金属層とをろう材を用いて接合する際に生じる余剰な溶融ろうが周壁部の内側側面に形成されたろう溜まり凹部に溜まる。これにより、ヒートシンクの周壁部の上面に溶融ろうが這い上がることを抑制でき、ヒートシンクの周壁部の外観を向上できる。
【0008】
本発明のヒートシンク付き絶縁回路基板の好ましい態様としては、前記ろう溜まり凹部は、前記周壁部の内側側面の全周にわたって形成されているとよい。
上記態様では、ろう溜まり凹部が周壁部の内側側面の全周にわたって形成されているので、ヒートシンクにおける収容凹部の底面と絶縁回路基板の金属層とをろう材を用いて接合する際に生じる余剰な溶融ろうをろう溜まり凹部に確実に溜めることができ、ヒートシンクの周壁部の外観を確実に向上できる。
【0009】
本発明のパワーモジュールは、上記ヒートシンク付き絶縁回路基板と、前記絶縁回路基板の前記回路層上に設けられる半導体チップと、前記半導体チップ上及び前記収容凹部内にモールドされた樹脂材と、を備える。
【0010】
本発明では、ろう溜まり凹部に残存ろうが溜まることから、収容凹部の内側側面と樹脂との密着性を高めることができ、信頼性の高いパワーモジュールを提供できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ヒートシンク付き絶縁回路基板におけるヒートシンクの周壁部の外観を向上でき、かつ、信頼性の高いパワーモジュールを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るヒートシンク付き絶縁回路基板を用いたパワーモジュールを示す断面図である。
図2図1に示すヒートシンク付き絶縁回路基板の一部を拡大して示す拡大図である。
図3図1に示すヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法を説明する断面図であり、(a)が絶縁回路基板とヒートシンクとの接合前、(b)が接合後の状態を示す。
図4】上記実施形態におけるヒートシンク付き絶縁回路基板の平面図である。
図5】上記実施形態におけるパワーモジュールのケースへの取り付け例を示す分解斜視図である。
図6】上記実施形態の第1変形例に係るヒートシンク付き絶縁回路基板を用いたパワーモジュールを示す断面図である。
図7】上記実施形態の第2変形例に係るヒートシンク付き絶縁回路基板の一部を拡大して示す図である。
図8】上記第2変形例に係るヒートシンク付き絶縁回路基板の側面を示す側面図である。
図9】上記実施形態の第3変形例に係るヒートシンク付き絶縁回路基板の一部を拡大して示す図である。
図10】上記第3変形例に係るヒートシンク付き絶縁回路基板の側面を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
[ヒートシンク付き絶縁回路基板の概略構成]
本発明に係るヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法により製造されるヒートシンク付き絶縁回路基板1は、図1に示すように、絶縁回路基板10に、複数のフィンが立設されたフィン一体型のヒートシンク20が接合されたものである。
【0015】
[パワーモジュールの構成]
そして、このヒートシンク付き絶縁回路基板1の表面に半導体チップ等の電子部品30が搭載され、その上に樹脂材60がモールドされることにより、パワーモジュール100が製造される。
なお、フィン一体型のヒートシンク20を備えるパワーモジュール100は、例えば図5に示すようなケース40に取り付けられた状態で使用される。このケース40は、複数のピン状フィン25を内部に挿入状態として取り付けるための開口部41が形成されるとともに、その開口部41の周囲を囲むようにパッキン収容溝42が形成されている。そして、パッキン収容溝42の外側にねじ穴43が形成されており、ヒートシンク20をピン状フィン25が下方を向くように配置することにより開口部41内に挿入し、開口部41の周囲にパッキン50を介して密接させ、ねじ止めにより固定する構成とされる。
図5に示す例では、2個のヒートシンク付き絶縁回路基板1(パワーモジュール100)が取り付けられるようになっており、白抜き矢印で示すように、ケース40の内部に冷却媒体が流通して挿入状態のピン状フィン25を冷却するようになっている。
【0016】
[絶縁回路基板の構成]
ヒートシンク付き絶縁回路基板を構成する絶縁回路基板10は、セラミックス基板11と、セラミックス基板11の一方の面に形成された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面に形成された金属層13とを備える。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13の間の電気的接続を防止する絶縁材であって、例えば窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si)等により形成され、その板厚は0.2mm~1.2mmである。
【0017】
回路層12は、セラミックス基板11に接合された第1回路層121と、第1回路層121の上面に接合された第2回路層122とを備えている。
これらのうち第1回路層121は、純度99質量%以上の純アルミニウムが用いられ、JIS規格では1000番台の純アルミニウム、特に1N90(純度99.9質量%以上:いわゆる3Nアルミニウム)又は1N99(純度99.99質量%以上:いわゆる4Nアルミニウム)を用いることができる。一方、第2回路層122は、A6063系等のアルミニウム合金が用いられている。例えば、第1回路層121の厚さは、0.4mm~1.6mmに設定され、第2回路層121の厚さは、0.5mm~1.5mmに設定されている。
なお、本実施形態では、第2回路層122は、A6063系等のアルミニウム合金が用いられることとしたが、これに限らず、銅又は銅合金を用いてもよい。また、回路層12は、第1回路層121及び第2回路層122を備えることとしたが、これに限らず、純アルミニウム又はアルミニウム合金からなる1つの回路層により構成されてもよい。
【0018】
金属層13は、純度99質量%以上の純アルミニウム又はアルミニウム合金が用いられ、JIS規格では1000番台のアルミニウム、特に1N99(純度99.99質量%以上:いわゆる4Nアルミニウム)を用いることができる。例えば、金属層13の厚さは、0.4mm~1.6mmに設定されている。
【0019】
[ヒートシンクの構成]
この絶縁回路基板10に接合されるヒートシンク20は、A6063系等のアルミニウム合金からなる板材により形成される。そして、金属層13に接合されるヒートシンクの中央部21に、絶縁回路基板10の少なくとも一部が収容される収容凹部22が形成され、収容凹部22の外周側に厚肉部分が残されることにより周壁部23が形成されている。この収容凹部22の底面に絶縁回路基板10の金属層13が、アルミニウム系ろう材箔を介して積層し、これらを積層方向に加圧して加熱することにより絶縁回路基板10にヒートシンク20が接合される。
例えば、ヒートシンク20の中央部21は、平面視で77mm×67mm、周壁部23の外径は、平面視で100mm×80mmとされ、絶縁回路基板10は、平面視で75mm×65mmとされている。
【0020】
また、ヒートシンク20は、中央部21の厚み寸法(収容凹部22の底面部分の厚み寸法)が周壁部23の厚み寸法よりも薄く形成されている。本実施形態においては、ヒートシンク20がA6063系アルミニウム合金からなる総厚2.1mm~6.8mmの板材により形成され、周壁部23の厚み寸法が2.1mm~6.8mm、収容凹部22の底面部分の厚み寸法が0.5mm~1.5mmに設定されている。このヒートシンク20の中央部21の下面21bには、複数のピン状フィン25が立設され、このピン状フィン25の先端位置は水平面上に揃えられ、下面21bの表面からほぼ等しい立設高さとなるように形成されている。
【0021】
さらに、ヒートシンク20の収容凹部22の外周に位置する周壁部23の内側側面230にろう溜まり凹部231が形成されている。このろう溜まり凹部231は、図1及び2に示すように、内側側面230における中腹部より上側(収容凹部22の開口端部側)に位置し、図4に示すように、周壁部23の内側側面230の全周にわたって形成される溝部により構成されている。このろう溜まり凹部231の縦幅w1は、絶縁回路基板10とヒートシンク20とを接合する際に用いられるろう材箔14(図3(a)参照)の厚さよりも大きく形成され、例えば、その厚さは0.05mm~0.5mmに設定されている。このろう溜まり凹部231の縦幅w1がろう材箔14の厚さより小さいと、余剰なろう材を保持できなくなる可能性がある。
また、ろう溜まり凹部231は、ヒートシンク20に絶縁回路基板10をろう付けする際に生じた余剰な溶融ろうを溜めおく必要があるため、その深さh1は、例えば、0.05mm~10mmに設定されている。
【0022】
例えば、図3(a)に示すろう材箔14の平面視における縦寸法がXmm、横寸法がYmmに形成され、絶縁回路基板10とヒートシンク20との接合に最低必要なろう材箔14の厚さが0.01mmであると推定される場合、上記接合に必要なろう材箔14の体積は、0.01XYmmとなる。この場合において、接合に用いられるろう材箔14の厚さが0.03mmである場合、余剰となるろう材の体積は0.02XYmmとなる。このため、ろう溜まり凹部231の体積は、0.02XYmm以上であることが好ましい。
この場合、接合に必要なろう材箔の厚さより大きい厚さである0.03mmの厚さのろう材箔14を用いるのは、最低必要な厚さである0.01mmであるとした場合、絶縁回路基板10とヒートシンク20との接合が安定せず、これらの接合率が低下するおそれがあるためである。
このろう溜まり凹部231には、図2に示すように、上記ろう付けの際に周壁部23の内側側面230を這い上がった溶融ろうが固化した残存ろう14aが固定されている。
【0023】
なお、このようなヒートシンク20の外周縁には、例えば図5に示すように、ケース40等の各種機器への取り付けの際にねじ止めを行うための締結穴26が形成されている。
また、ヒートシンク20に立設されるフィンの形状は特に限定されるものではなく、本実施形態のようなピン状フィン25の他、ひし形フィンや帯板状のフィン等を形成することもできる。
【0024】
なお、パワーモジュール100を構成する電子部品30は、必ずしも限定されるものではないが、回路層12の表面に形成されたNiめっき(不図示)上に、Sn‐Ag‐Cu系、Zn‐Al系、Sn‐Ag系、Sn‐Cu系、Sn‐Sb系もしくはPb‐Sn系等のはんだ材を用いて接合される。また、電子部品30と回路層12の端子部との間は、アルミニウムからなるボンディングワイヤ(不図示)により接続される。
【0025】
[ヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法]
次に、本実施形態のヒートシンク付き絶縁回路基板1の製造方法について説明する。
その製造方法は、セラミックス基板11に回路層12及び金属層13を接合して絶縁回路基板10を形成する絶縁回路基板形成工程と、絶縁回路基板10にヒートシンク20を接合するヒートシンク接合工程とからなる。以下、この工程順に説明する。
【0026】
(絶縁回路基板形成工程)
第1回路層121、セラミックス基板11、金属層13を、それぞれAl-Si系、Al-Ge系、Al-Cu系、Al-Mg系、Al-Mn系、又はAl-Si-Mg系ろう材箔を介して積層し、その積層体を積層方向に加圧した状態で加熱した後、冷却することにより、セラミックス基板11の一方の面11aに第1回路層121、他方の面11bに金属層13が接合される。
このときの接合条件は、必ずしも限定されるものではないが、真空雰囲気中で、積層方向の加圧力が0.3MPa~1.5MPaで、630℃以上655℃以下の加熱温度に20分以上120分以下保持するのが好適である。
【0027】
そして、第1回路層121上にアルミニウム系ろう材箔14を介して積層し、その積層体を積層方向に加圧した状態で加熱した後、冷却することにより、第1回路層121と第2回路層122とを強固に接合する。このろう材箔14は、例えば、Al-Si系やAl-Si-Mg系ろう材箔を用いることもできるが、好適には、A3003等のアルミ合金の両面にAl-Si-Mg系ろう材(一例として、Al-10.5質量%Si-1.5質量%Mg)が形成されたアルミニウム合金クラッド材を用いるとよい。このような、クラッド材を用いると、比較的固相線温度の低いアルミニウム合金からなる第2回路層122を比較的低温で接合することができる。この積層方向の加圧力は、0.1MPa~0.5MPaで、590℃以上615℃以下の加熱温度に3分以上20分以下保持するのが好適である。
これにより、セラミックス基板11の一方の面に回路層12(第1回路層121及び第2回路層122)が接合され、他方の面に金属層13が接合された絶縁回路基板10が形成される。
【0028】
(ヒートシンク接合工程)
そして、図3(a)に示すように、絶縁回路基板10の金属層13の下面と、ヒートシンク20の収容凹部22の底面(中央部21)との間にアルミニウム系ろう材箔14を介在させ、積層方向に加圧した状態で加熱することにより、金属層13とヒートシンク20とを接合する。なお、アルミニウム系ろう材箔としては、上述したものと同様のものを利用でき、ヒートシンクが比較的の固相線温度が低いアルミニウム合金から構成されることから、アルミニウム合金クラッド材を用いることが好適な点も同様である。
これにより、絶縁回路基板10にヒートシンク20が接合され、図3(b)に示すヒートシンク付き絶縁回路基板1が形成される。
なお、この積層方向の加圧力は、0.1MPa~0.5MPaで、590℃以上615℃以下の加熱温度に3分以上20分以下保持するのが好適である。
【0029】
ここで、ヒートシンク接合工程において、アルミニウム系ろう材箔14を用いて絶縁回路基板10をヒートシンク20に接合すると、余剰な溶融ろうがヒートシンク20における収容凹部22の底面から周壁部23の内側側面230を這い上がる。特に、アルミニウム系ろう材箔にMgを含む場合や、上述した、A3003等のアルミ合金の両面にAl-Si-Mg系ろう材が形成されたアルミニウム合金クラッド材を用いた場合には、ろう材が溶融しやすいため、このような這い上がりが顕著に生じる。この点、本実施形態では、内側側面230にろう溜まり凹部231が形成されているので、図2に示すように、ヒートシンク20における収容凹部22の底面と絶縁回路基板10の金属層13とを上記ろう材を用いて接合する際に生じる余剰な溶融ろうが周壁部23の内側側面230に形成されたろう溜まり凹部231に溜まる。そして、積層体の加熱が終了して、これが冷却されると、溶融ろうが固化して残存ろう14aとなり、この残存ろう14aが内側側面230の一部及びろう溜まり凹部231内に固定される。これにより、ヒートシンク20の周壁部23の上面24に溶融ろうが這い上がることを抑制している。
【0030】
なお、第1回路層121と第2回路層122との接合と、ヒートシンク接合工程は同時に行うことが可能である。この場合、同じアルミニウム系ろう材箔14を用いることが好ましい。すなわち、第1回路層121とセラミックス基板11と金属層13の接合体に対し、第1回路層121上にアルミニウム系ろう材箔14を介して第2回路層122を積層するとともに、ヒートシンク20上にアルミニウム系ろう材箔14を介して金属層13が接触するように積層し、この積層体を積層方向に加圧しながら加熱して、第1回路層121と第2回路層122とを接合するとともに、ヒートシンク20と金属層13とを接合してヒートシンク付き絶縁回路基板1を製造することができる。なお、この積層方向の加圧力は、0.1MPa~0.5MPaで、590℃以上615℃以下の加熱温度に3分以上20分以下保持するのが好適である。
【0031】
そして、上記製造方法により製造されたヒートシンク付き絶縁回路基板1の回路層12の表面に半導体チップ等の電子部品30が搭載され、その上に樹脂材60がモールドされることにより、パワーモジュール100が製造される。
【0032】
上記実施形態のヒートシンク付き絶縁回路基板1では、ヒートシンク20における収容凹部22の底面と絶縁回路基板10の金属層13とをろう材箔14を用いて接合する際に生じる余剰な溶融ろうが周壁部23の内側側面230に形成されたろう溜まり凹部231に溜まるので、ヒートシンク20の周壁部23の上面24に溶融ろうが這い上がることを抑制でき、ヒートシンク20の周壁部23の外観を向上できる。
また、ヒートシンク付き絶縁回路基板1を用いたパワーモジュール100は、ろう溜まり凹部231に残存ろう14aが溜まることから、周壁部23の内側側面230と樹脂との密着性を高めることができ、信頼性の高いパワーモジュールを提供できる。
【0033】
その他、細部構成は実施形態の構成のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、ろう溜まり凹部231は、周壁部23の内側側面230における中腹部よりも収容凹部22の開口端側に形成することとしたが、これに限らない。
【0034】
[実施形態の第1変形例]
図6は、上記実施形態の第1変形例に係るヒートシンク付き絶縁回路基板1Aを示す断面図である。本変形例では、ろう溜まり凹部231Aは、周壁部23の内側側面230における収容凹部22の底面側の端部に形成されている。具体的には、収容凹部22の底面とろう溜まり凹部231Aの底面とが一致している。このため、絶縁回路基板10とヒートシンク20とを接合する際に生じた余剰な溶融ろうは、収容凹部22の底面を伝って、直接ろう溜まり凹部231Aへと流入し、ろう溜まり凹部231A内に溜められることとなる。
【0035】
ここで、上記実施形態のように、ろう溜まり凹部231が周壁部23の内側側面230における中間部や収容凹部22の底面とは反対側(開口端側)に形成されている場合、内側側面230におけるろう溜まり凹部231に達するまでの領域には、残存ろう14aが固定されることとなる。
これに対し、本変形例では、ろう溜まり凹部231Aが周壁部23の内側側面230における底面側の端部に形成されているので、溶融ろうの内側側面230の這い上がりを確実に抑制でき、周壁部23の内側側面230の外観を向上できる。また、内側側面230の大部分に残存ろう14aが固定されることがないので、収容凹部22内に樹脂材60をモールドした際における樹脂密着性を向上できる。
【0036】
上記実施形態では、ろう溜まり凹部231は、周壁部23の内側側面230の全周にわたって形成される溝部により構成されていることとしたが、これに限らない。例えば、ろう溜まり凹部231は、周壁部23の内側側面230の全周にわたって連続して形成されなくてもよく、断続的に形成されるものでもよい。
【0037】
[実施形態の第2変形例]
図7は、上記実施形態の第2変形例に係るヒートシンク付き絶縁回路基板1Bの一部を拡大して示す断面図であり、図8は、上記実施形態の第2変形例に係るヒートシンク付き絶縁回路基板1Bの側面を示す側面図である。
本変形例では、ろう溜まり凹部231Bは、上記実施形態と同様に周壁部23の内側側面230における中腹部より若干収容凹部22の開口端側に形成されている。このろう溜まり凹部231Bは、複数(例えば、20個)の細長い溝部からなり、例えば、1つの溝部の縦幅w1が0.2mm、横寸法w2が5mm、深さ寸法h1が5mmとされる。これら複数の溝部のそれぞれは、所定の間隔をあけて断続的に配置され、隣り合う溝部の間隔w3は、例えば、0.05mm~10mmとされる。また、このろう溜まり凹部231Bを構成する複数の溝部の体積の総和は、絶縁回路基板10とヒートシンク20とを接合する際に生じた余剰な溶融ろうの体積よりも大きく設定されている。
【0038】
このため、本変形例においても絶縁回路基板10とヒートシンク20とを接合する際に生じた余剰な溶融ろうは、収容凹部22の底面及び周壁部23を伝って、ろう溜まり凹部231B(複数の溝部)へと流入し、ろう溜まり凹部231B内に溜められることとなることから、溶融ろうの内側側面230の這い上がりを抑制して、周壁部23の外観を向上できる。
【0039】
[実施形態の第3変形例]
図9は、上記実施形態の第2変形例に係るヒートシンク付き絶縁回路基板1Cの一部を拡大して示す断面図であり、図10は、上記実施形態の第3変形例に係るヒートシンク付き絶縁回路基板1Cの側面を示す側面図である。
本変形例では、ろう溜まり凹部232は、周壁部23の内側側面230における中腹部より若干収容凹部22の開口端側に形成されている。このろう溜まり凹部232は、複数(例えば、32個)の貫通孔からなり、例えば、1つの貫通孔の径w1が0.2mmとされる。これら複数の貫通孔のそれぞれは、所定の間隔をあけて断続的に配置され、隣り合う貫通孔の間隔w4は、例えば、0.05mm~10mmとされる。
なお、本変形例では、ろう溜まり凹部232が複数の貫通孔により構成されているため、複数の貫通孔の体積の総和は、絶縁回路基板1とヒートシンク20とを接合する際に生じた余剰な溶融ろうの体積よりも大きくする必要はない。
【0040】
このため、本変形例では、絶縁回路基板10とヒートシンク20とを接合する際に生じた余剰な溶融ろうは、収容凹部22の底面及び周壁部23を伝って、ろう溜まり凹部232(複数の貫通孔)へと流入し、ろう溜まり凹部232内に溜まるか、若しくは、周壁部23の外周面側へと流れ出ることから、溶融ろうの内側側面230の這い上がりを抑制して、周壁部23の外観を向上できる。
【0041】
なお、上記第2変形例及び第3変形例においても、第1変形例と同様に、ろう溜まり凹部231B,232を周壁部23の内側側面230における収容凹部22の底面側の端部に形成してもよい。
また、上記実施形態では、図1に示すように回路層12が2個に分かれている構成としたが、これに限らず、2個以上の複数、例えば6個や12個等に分かれている構造としてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 1A 1B 1C ヒートシンク付き絶縁回路基板
10 絶縁回路基板
11 セラミックス基板
12 回路層
121 第1回路層
122 第2回路層
13 金属層
20 ヒートシンク
21 中央部
22 収容凹部
23 周壁部
230 内側側面
231 231A 231B ろう溜まり凹部
232 ろう溜まり凹部
24 上面
24A 下面
25 ピン状フィン
26 締結穴
30 電子部品
40 ケース
41 開口部
42 パッキン収容溝
43 ねじ穴
50 パッキン
60 樹脂材
100 パワーモジュール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10