(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】弾性クローラ
(51)【国際特許分類】
B62D 55/253 20060101AFI20230620BHJP
【FI】
B62D55/253 B
B62D55/253 A
(21)【出願番号】P 2019117139
(22)【出願日】2019-06-25
【審査請求日】2022-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西辻 凌輔
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】実開昭54-157331(JP,U)
【文献】特開2009-234425(JP,A)
【文献】特開2000-072056(JP,A)
【文献】特開平08-156850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 55/253
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性材料から形成されており、かつエンドレスベルト状である主部と、
上記主部の外周面から突出しておりかつ接地面を有する複数のラグと、
上記主部に埋設された複数の第一芯金及び複数の第二芯金と、
を有しており、
それぞれの第一芯金が、中央部と、この中央部から負の幅方向に向かって延びる長翼と、この中央部から正の幅方向に向かって延びる短翼とを有しており、
それぞれの第二芯金が、中央部と、この中央部から負の幅方向に向かって延びる短翼と、この中央部から正の幅方向に向かって延びる長翼とを有しており、
上記長翼の幅方向外端の位置が、上記接地面の幅方向外端の位置よりも、幅方向において外側であ
り、
厚み方向から見られたとき、それぞれの長翼の外端が全体として1つのラグと重なる弾性クローラ。
【請求項2】
上記第一芯金及び上記第二芯金が、周方向に沿って交互に配置されている請求項1に記載の弾性クローラ。
【請求項3】
上記長翼の幅方向外端の位置と上記主部の外縁との距離が、30mm以下である請求項1又は2に記載の弾性クローラ。
【請求項4】
上記短翼の幅方向外端の位置が、上記接地面の幅方向外端の位置よりも、幅方向において内側である請求項1から3のいずれかに記載の弾性クローラ。
【請求項5】
上記長翼の長さと上記短翼の長さとの差が10mm以上である請求項1から4のいずれかに記載の弾性クローラ。
【請求項6】
上記長翼の長さと上記短翼の長さとの差が40mm以下である請求項1から5のいずれかに記載の弾性クローラ。
【請求項7】
上記弾性クローラが厚み方向から見られたとき、それぞれのラグが重なる第一芯金及び第二芯金の合計数が、3以上である
請求項1から6のいずれかに記載の弾性クローラ。
【請求項8】
上記ラグが1つの第一芯金及び2つの第二芯金と重なる
請求項7に記載の弾性クローラ。
【請求項9】
それぞれが実質的に周方向に延在する一対の抗帳体を有しており、
一方の抗帳体が第一芯金の長翼及び第二芯金の短翼の直下に位置し、かつ他方の抗帳体が第一芯金の短翼及び第二芯金の長翼の直下に位置しており、
上記短翼の厚みが上記長翼の厚みよりも小さい
請求項1から8のいずれかに記載の弾性クローラ。
【請求項10】
それぞれのラグが、上記接地面よりも回転方向前側に位置する前スロープを有しており、
上記短翼の幅方向外端の位置よりも幅方向外側のゾーンにおいて、上記前スロープが実質的に平坦面である
請求項1から9のいずれかに記載の弾性クローラ。
【請求項11】
それぞれのラグが、上記接地面よりも回転方向前側に位置する前スロープを有しており、
上記短翼の幅方向外端の位置よりも幅方向外側のゾーンにおいて、幅方向に対する上記前スロープの角度が40°以上60°以下である
請求項1から10のいずれかに記載の弾性クローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行装置の弾性クローラに関する。詳細には、本発明は、芯金及びラグを有するクローラに関する。
【背景技術】
【0002】
一部の建設機器は、弾性クローラを有している。この弾性クローラは、凹凸の激しい地面の上を走行する。従って弾性クローラは、縁石、大きな石等に乗り上げる。この弾性クローラには、建設機器の車重がかかる。この車重により、弾性クローラには大きな張力がかかる。
【0003】
弾性クローラが、縁石から滑り落ちることがある。前述の通りこの弾性クローラには張力がかかっているので、滑り落ちにより弾性クローラに亀裂が生じることがある。亀裂は、弾性クローラの外縁の近傍に生じやすい。この亀裂は、「耳切れ」と称されている。
【0004】
特開2010-247562公報には、外縁の厚みが変動する弾性クローラが開示されている。この弾性クローラは、縁石から滑り落ちにくい。従ってこの弾性クローラでは、亀裂が生じにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特開2010-247562公報に開示された弾性クローラであっても、縁石からの滑り落ちが十分に抑制されるわけではない。従って、この弾性クローラでも、亀裂は頻繁に生じうる。
【0007】
本発明の目的は、亀裂が生じにくい弾性クローラの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る弾性クローラは、
弾性材料から形成されており、かつエンドレスベルト状である主部と、
上記主部の外周面から突出しておりかつ接地面を有する複数のラグと、
上記主部に埋設された複数の第一芯金及び複数の第二芯金と、
を有する。それぞれの第一芯金は、中央部と、この中央部から負の幅方向に向かって延びる長翼と、この中央部から正の幅方向に向かって延びる短翼とを有する。それぞれの第二芯金は、中央部と、この中央部から負の幅方向に向かって延びる短翼と、この中央部から正の幅方向に向かって延びる長翼とを有する。長翼の幅方向外端の位置は、接地面の幅方向外端の位置よりも、幅方向において外側である。
【0009】
好ましくは、第一芯金及び第二芯金は、周方向に沿って交互に配置される。
【0010】
好ましくは、長翼の幅方向外端の位置と主部の外縁との距離は、30mm以下である。
【0011】
好ましくは、短翼の幅方向外端の位置は、接地面の幅方向外端の位置よりも、幅方向において内側である。
【0012】
好ましくは、長翼の長さと短翼の長さとの差は、10mm以上である。好ましくは、長翼の長さと短翼の長さとの差は、40mm以下である。
【0013】
好ましくは、弾性クローラが厚み方向から見られたとき、長翼の外端の近傍は、1つのラグと重なる。
【0014】
好ましくは、弾性クローラが厚み方向から見られたとき、それぞれのラグが重なる第一芯金及び第二芯金の合計数は、3以上である。好ましくは、ラグは、1つの第一芯金及び2つの第二芯金と重なる。
【0015】
弾性クローラが、それぞれが実質的に周方向に延在する一対の抗帳体を有してもよい。一方の抗帳体は第一芯金の長翼及び第二芯金の短翼の直下に位置し、かつ他方の抗帳体は第一芯金の短翼及び第二芯金の長翼の直下に位置する。好ましくは、短翼の厚みは、長翼の厚みよりも小さい。
【0016】
それぞれのラグが、接地面よりも回転方向前側に位置する前スロープを有してもよい。好ましくは、短翼の幅方向外端の位置よりも幅方向外側のゾーンにおいて、前スロープは、実質的に平坦面である。好ましくは、短翼の幅方向外端の位置よりも幅方向外側のゾーンにおいて、幅方向に対する前スロープの角度は、40°以上60°以下である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る弾性クローラは、縁石等に乗り上げにくい。従って、この弾性クローラが縁石等から滑り落ちる頻度は、少ない。しかもこの弾性クローラでは、応力が分散される。この弾性クローラでは、亀裂が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る弾性クローラの一部が示された底面図である。
【
図4】
図4(a)は
図1のクローラの左ラグが示された底面図であり、
図4(b)は
図4(a)のB-B線に沿った断面図であり、
図4(c)は
図4(a)のC-C線に沿った断面図である。
【
図5】
図5は、
図1のクローラの第一芯金及び第二芯金が示された説明図である。
【
図6】
図6は、
図1のクローラのラグが芯金と共に示された底面図である。
【
図7】
図7(a)は
図1のクローラの第一芯金が抗帳体と共に示された断面図であり、
図7(b)は
図1のクローラの第二芯金が抗帳体と共に示された断面図である。
【
図8】
図8は、本発明の他の実施形態に係る弾性クローラの一部が示された底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0020】
図1は弾性クローラ2の底面図であり、
図2はその断面図であり、
図3は他の断面図である。
図1-3において、矢印Xは幅方向であり、矢印Yは周方向であり、矢印Zは厚み方向である。
図1における右側は、正の幅方向である。
図1における下側は、弾性クローラ2の進行方向である。
【0021】
図1-3に示された弾性クローラ2は、主部4、複数の左ラグ6、複数の右ラグ8、複数の第一芯金10a、複数の第二芯金10b及び一対の抗帳体12を有している。この弾性クローラ2は、建設機器、農業機器及び土木機器のような走行装置に装着される。一般的な走行装置は、駆動輪、転動輪及びスプロケットを有する。弾性クローラ2は、この駆動輪と転動輪との間に巻き掛けられる。
【0022】
主部4は、エンドレスベルト状である。この主部4は、内周面14及び外周面16を有している。主部4はさらに、一対の外縁18を有している。
図1において矢印Wで示されているのは、主部4の幅である。幅Wは、一方の外縁18から他方の外縁18までの距離である。主部4の幅Wは、クローラ2の幅でもある。一般的な弾性クローラ2の幅Wは、100mm以上500mm以下である。主部4は、複数の係合孔20を有している。クローラ2が走行装置に装着されると、この係合孔20にスプロケットの爪が入り込む。
【0023】
主部4は、弾性材料から形成されている。ゴム、合成樹脂、エラストマー等が、主部4に用いられ得る。典型的には、主部4は、ゴム組成物が架橋されることで形成される。
【0024】
図2及び3に示されるように、それぞれの左ラグ6は、クローラ2の幅方向中心よりも左側に位置している。この左ラグ6は主部4の外周面16から突出している。
図1に示されるように、多数の左ラグ6が、周方向に沿って並んでいる。本実施形態では、これらの左ラグ6は、等ピッチで並んでいる。左ラグ6は、主部4と一体で成形されている。左ラグ6の材質は、主部4の材質と同じである。
【0025】
図4(a)は
図1のクローラ2の左ラグ6が示された底面図であり、
図4(b)は
図4(a)のB-B線に沿った断面図であり、
図4(c)は
図4(a)のC-C線に沿った断面図である。この左ラグ6は、接地面22、外スロープ24、内スロープ26、前スロープ28及び後スロープ30を有している。
【0026】
接地面22は、平坦である。接地面22は、平坦な地面をクローラ2が走行したときに、この地面と接触する面である。接地面22は外エッジ32、内エッジ34、前エッジ36及び後エッジ38を含んでいる。接地面22は、概して、進行方向後ろ側に向かって、幅方向外側に向かう方向に、傾斜している。接地面22が、幅方向に延在してもよい。クローラ2が、平坦でない接地面を有してもよい。
【0027】
外スロープ24は、外エッジ32よりも幅方向外側に位置している。この外スロープ24は、接地面22と主部4の外縁18(
図1参照)とを結ぶ。内スロープ26は、内エッジ34よりも幅方向内側に位置している。この内スロープ26は、接地面22と主部4の外周面16(
図2参照)とを結ぶ。前スロープ28は、前エッジ36よりも進行方向前側に位置している。この前スロープ28は、接地面22と主部4の外周面16(
図2参照)とを結ぶ。後スロープ30は、後エッジ38よりも進行方向後側に位置している。この後スロープ30は、接地面22と主部4の外周面16(
図2参照)とを結ぶ。
【0028】
図2及び3に示されるように、それぞれの右ラグ8は、クローラ2の幅方向中心よりも右側に位置している。この右ラグ8は主部4の外周面16から突出している。
図1に示されるように、多数の右ラグ8が、周方向に沿って並んでいる。本実施形態では、これらの右ラグ8は、等ピッチで並んでいる。右ラグ8は、主部4と一体で成形されている。右ラグ8の材質は、主部4の材質と同じである。
【0029】
右ラグ8は、
図4に示された左ラグ6の形状が左右反転された形状を有する。従って、右ラグ8は、左ラグ6と同様に、接地面22、外スロープ24、内スロープ26、前スロープ28及び後スロープ30を有している。右ラグ8の接地面22は、左ラグ6の接地面22と同様に、外エッジ32、内エッジ34、前エッジ36及び後エッジ38を含んでいる。
【0030】
図1から明らかなように、本実施形態では、複数の左ラグ6と複数の右ラグ8とが、ジグザグに配置されている。
【0031】
図2に、第一芯金10aが示されている。この第一芯金10aは、中央部40a(40)、長翼42a(42)及び短翼44a(44)を有している。長翼42aは、中央部40aから負の幅方向に向かって延びている。短翼44aは、中央部40aから正の幅方向に向かって延びている。長翼42aの長さは、短翼44aの長さよりも大きい。中央部40a、長翼42a及び短翼44aは、一体で形成されている。第一芯金10aは、硬質材料からなる。第一芯金10aの典型的な材質は、スチール、ステンレススチール等の金属である。
【0032】
図2から明らかなように、第一芯金10aは主部4に埋設されている。第一芯金10aの一部が、主部4から露出してもよい。芯金10の一部が主部4から露出する場合も含め、本発明では、「埋設」と称される。
【0033】
図3に、第二芯金10bが示されている。この第二芯金10bは、中央部40b(40)、短翼44b(44)及び長翼42b(42)を有している。短翼44bは、中央部40bから負の幅方向に向かって延びている。長翼42bは、中央部40bから正の幅方向に向かって延びている。短翼44bの長さは、長翼42bの長さよりも小さい。中央部40b、短翼44b及び長翼42bは、一体で形成されている。第二芯金10bの材質は、第一芯金10aの材質と同じである。第二芯金10bは、主部4に埋設されている。
図2及び3の対比から明らかなように、第二芯金10bは、第一芯金10aの形状が左右反転した形状を有する。
【0034】
図5には、複数の第一芯金10a及び第二芯金10bが示されている。
図5から明らかなように、これらの第一芯金10a及び上記第二芯金10bは、周方向に沿って交互に配置されている。クローラ2の中心CLよりも左側には、第一芯金10aの長翼42aと第二芯金10bの短翼44bとが存在している。クローラ2の中心CLよりも左側では、複数の長翼42aと複数の短翼44bとが、周方向に沿って交互に並んでいる。クローラ2の中心CLよりも右側には、第一芯金10aの短翼44aと第二芯金10bの長翼42bとが存在している。クローラ2の中心CLよりも右側では、複数の短翼44aと複数の長翼42bとが、周方向に沿って交互に並んでいる。
【0035】
それぞれの抗帳体12は、コード46が巻回されることで形成されている。コード46の延在方向は、実質的に周方向である。コード46は螺旋巻きされるので、コード46の延在方向は、厳密には、周方向に対して若干傾斜している。典型的なコード46の材質は、スチール、ステンレススチール等の金属である。コード46が、有機繊維から形成されてもよい。両抗帳体12は、クローラ2の中心線に対し、実質的に左右対称に位置している。
【0036】
図2から明らかなように、左側の抗帳体12は第一芯金10aの長翼42aの直下に位置しており、右側の抗帳体12は第一芯金10aの短翼44aの直下に位置している。
図3から明らかなように、左側の抗帳体12は第二芯金10bの短翼44bの直下にも位置しており、右側の抗帳体12は第二芯金10bの長翼42bの直下にも位置している。
【0037】
図6は、
図1のクローラ2の左ラグ6が芯金10と共に示された底面図である。以下、
図6に基づき、左ラグ6の位置等が説明される。この説明は、右ラグ8にも当てはまる。
【0038】
図6では、クローラ2が厚み方向から見られている。前述の通り、芯金10は主部4に埋設されている。従って、
図6において、芯金10は目視され得ない。
図6では、底面視の(つまり厚み方向から見られた)芯金10の位置が、点線で示されている。
図6において、符号S1は長翼42の幅方向外端を通過し周方向に延びる線分を表し、符号S2は接地面22の幅方向外端を通過し周方向に延びる線分を表す。
【0039】
線分S1は、線分S2よりも、幅方向において外側に位置する。換言すれば、長翼42の幅方向外端の位置は、接地面22の幅方向外端(外エッジ32)の位置よりも、幅方向において外側である。このクローラ2が縁石に触れたとき、外縁18の近傍における変形が、長翼42によって抑制される。従って、クローラ2と縁石との接触面積が抑制され、クローラ2の縁石への乗り上げが阻止される。このクローラ2の、縁石への乗り上げの頻度は、少ない。従ってこのクローラ2の、縁石からの滑り落ちの頻度は、少ない。このクローラ2では、亀裂が生じにくい。
【0040】
図6における矢印L1は、線分S1と線分S2との距離を表す。亀裂の抑制の観点から、距離L1は0.5mm以上が好ましく、1.0mm以上が特に好ましい。
【0041】
図6における矢印L2は、主部4の外縁18と接地面22の外端(外エッジ32)との距離を表す。亀裂の抑制の観点から、距離L2は30mm以下が好ましく、25mm以下が特に好ましい。芯金10の露出の防止の観点から、距離L2は10mm以上が好ましい。
【0042】
前述の通り、複数の第一芯金10aと複数の第二芯金10bとが、周方向に沿って交互に配置されている。従って、複数の長翼42と複数の短翼44とは、周方向に沿って交互に配置されている。換言すれば、芯金10の外端位置は、幅方向において揃っていない。従って、芯金10の外端にかかる応力は、分散される。この分散は、亀裂を抑制する。
【0043】
複数の第一芯金10aと複数の第二芯金10bとが交互ではない配置を、クローラが有してもよい。例えば、第一芯金10a-第一芯金10a-第二芯金10b-第二芯金10b-第一芯金10a-第一芯金10a-第二芯金10b-第二芯金10bのような配置を、クローラが有してもよい。さらに、第一芯金10a-第一芯金10a-第二芯金10b-第二芯金10b-第一芯金10a-第二芯金10b-第一芯金10a-第一芯金10a-第二芯金10b-第二芯金10b-第一芯金10a-第二芯金10bのような配置を、クローラが有してもよい。いずれの場合も、芯金10の外端にかかる応力は、分散される。
【0044】
図6において符号S3は、短翼44の幅方向外端を通過し周方向に延びる線分を表す。線分S3は、線分S2よりも、幅方向において内側に位置する。換言すれば、短翼44の幅方向外端の位置は、接地面22の幅方向外端(外エッジ32)の位置よりも、幅方向において内側である。短翼44の外端は、長翼42の外端と離れている。このクローラ2が縁石に乗り上げたとき、外縁18の近傍において応力が分散する。この分散により、亀裂が抑制される。
【0045】
図6における矢印L3は、線分S2と線分S3との距離を表す。亀裂の抑制の観点から、距離L1は0.5mm以上が好ましく、1.0mm以上が特に好ましい。
【0046】
図2及び3において、矢印LLは長翼42の長さを表し、矢印LSは短翼44の長さを表す。亀裂の抑制の観点から、長さLLと長さLSとの差(LL-LS)は10mm以上が好ましく、15mm以上が特に好ましい。短翼44の外端近傍への応力集中抑制の観点から、差(LL-LS)は40mm以下が好ましく、35mm以下が特に好ましい。
【0047】
長さLSが小さな短翼44は、クローラ2の軽量及び低コストにも寄与しうる。
【0048】
図6から明らかなように、長翼42の外端の近傍は、1つのラグ6と重なっている。ラグ6が存在する箇所におけるクローラ2の厚みは、ラグ6が存在しない箇所におけるクローラ2の厚みよりも大きい。長翼42の外端の近傍がラグ6と重なることにより、この外端のゴムからの露出が抑制される。
【0049】
図6から明らかなように、ラグ6は、1つの第一芯金10aと重なっており、2つの第二芯金10bとも重なっている。ラグ6が重なる第一芯金10a及び第二芯金10bの合計数は、3である。この合計数が3以上であるクローラ2では、厚み方向への変形が抑制される。このクローラ2の、縁石への乗り上げの頻度は、少ない。従ってこのクローラ2の、縁石からの滑り落ちの頻度は、少ない。このクローラ2では、亀裂が生じにくい。
【0050】
前述の通り、ラグ6は、1つの第一芯金10aと重なっており、2つの第二芯金10bとも重なっている。換言すれば、このラグ6は、2つの短翼44と重なっており、これらの短翼44に挟まれた1つの長翼42とも重なっている。このラグ6は、ゴムから露出しにくい。
【0051】
図7(a)は
図1のクローラ2の第一芯金10aが抗帳体12と共に示された断面図であり、
図7(b)は
図1のクローラ2の第二芯金10bが抗帳体12と共に示された断面図である。
図7において、矢印TLは長翼42の厚みを表し、矢印TSは短翼44の厚みを表す。厚みTSは、厚みTLよりも小さい。短翼44の長さは小さいので、短翼44の先端の直下には、抗帳体12のコード46が位置する。厚みTSが小さいので、短翼44の先端とコード46との厚み方向距離は、大きい。従って、短翼44の先端とコード46との干渉が抑制される。このクローラ2では、コード46の破損が抑制されうる。この観点から、厚みTLと厚みTSとの差(TL-TS)は1.0mm以上が好ましく、2.0mm以上が特に好ましい。差(TL-TS)は、7mm以下が好ましい。厚みTLは、2mm以上15mm以下が好ましい。
【0052】
図8は、本発明の他の実施形態に係る弾性クローラの一部が示された底面図である。
図8には、左ラグ48が示されている。このクローラは、右ラグも有している。右ラグは、左ラグ48の形状が反転した形状を有する。このクローラは、
図1-7に示された弾性クローラ2と同様、主部4、複数の第一芯金10a(10)、複数の第二芯金10b(10)及び一対の抗帳体12を有している。
【0053】
この左ラグ48は、接地面50、外スロープ52、内スロープ54、前スロープ56及び後スロープ58を有している。接地面50は、平坦である。接地面50は外エッジ60、内エッジ62、前エッジ64及び後エッジ66を含んでいる。接地面50は、概して、進行方向後ろ側に向かって、幅方向外側に向かう方向に、傾斜している。
【0054】
外スロープ52は、外エッジ60よりも幅方向外側に位置している。この外スロープ52は、接地面50と主部4の外縁とを結ぶ。内スロープ54は、内エッジ62よりも幅方向内側に位置している。この内スロープ54は、接地面50と主部4の外周面とを結ぶ。前スロープ56は、前エッジ64よりも進行方向前側に位置している。この前スロープ56は、接地面50と主部4の外周面とを結ぶ。後スロープ58は、後エッジ66よりも進行方向後側に位置している。この後スロープ58は、接地面50と主部4の外周面とを結ぶ。
【0055】
図8には、第二芯金10bも示されている。
図8において、符号S3は第二芯金10bの短翼44の幅方向外端を通過し周方向に延びる線分を表し、符号S4はラグ48の外端を通過し周方向に延びる線分を表す。以下、線分S3と線分S4とに挟まれたゾーンは、外側ゾーンZOと称される。
【0056】
外側ゾーンZOにおいて、前スロープ56は実質的に平坦である。この前スロープ56は、縁石に引っかかりにくい。この前スロープ56を有するクローラの、縁石への乗り上げの頻度は、少ない。従ってこのクローラの、縁石からの滑り落ちの頻度は、少ない。このクローラでは、亀裂が生じにくい。
【0057】
図8において矢印θは、外側ゾーンZOにおける前スロープ56の、幅方向に対する角度を表す。クローラが縁石に乗り上げにくいとの観点から、角度θは40°以上60°以下が好ましく、45°以上55°以下が特に好ましい。
【0058】
外側ゾーンZOにおいて前スロープ56が、複数の平面が複合された形状を有してもよい。この場合、各平面の角度θが上記範囲内であることが、好ましい。
【0059】
外側ゾーンZOにおいて前スロープ56が、1又は2以上の曲面を有してもよい。この場合、外側ゾーンZOのすべての範囲にわたり、曲面の接線方向の幅方向に対する角度が、40°以上60°以下であることが、好ましい。
【0060】
外側ゾーンZOにおいて前スロープ56が、平面と曲面とを有してもよい。この場合、平面の角度θが40°以上60°以下であり、かつ、外側ゾーンZOのすべての範囲にわたって曲面の接線方向の幅方向に対する角度が40°以上60°以下であることが、好ましい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0062】
[実施例1]
図1-7に示された構造を有する弾性クローラを製作した。このクローラの芯金は、長翼と短翼とを有している。長翼の外端は、接地面の外端よりも、幅方向外側に位置している。短翼の外端は、接地面の外端よりも、幅方向内側に位置している。
【0063】
[実施例2]
図8に示された構造を有する弾性クローラを製作した。このクローラの芯金は、長翼と短翼とを有している。長翼の外端は、接地面の外端よりも、幅方向外側に位置している。短翼の外端は、接地面の外端よりも、幅方向内側に位置している。外側ゾーンZOにおいて、前スロープは平坦である。外側ゾーンZOにおける前スロープの、幅方向に対する角度θは、50°である。
【0064】
[比較例1]
従来の弾性クローラを準備した。この弾性クローラの芯金は、中央部、左翼及び右翼を有している。右翼は、左翼の形状が左右反転した形状を有する。左翼の外端は、接地面の外端よりも、幅方向内側に位置している。右翼の外端も、接地面の外端よりも、幅方向内側に位置している。
【0065】
[評価]
各弾性クローラが装着された走行装置を走行させて、斜め方向から縁石に侵入させた。この走行を繰り返して、クローラの亀裂の有無を目視で確認した。亀裂が見られないものをA、小さな亀裂が見られるものをB、そして大きな亀裂が見られるものをCに格付けした。この結果が、下記の表に示されている。
【0066】
実施例1 実施例2 比較例1
亀裂の抑制 B A C
【0067】
この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る弾性クローラは、種々の走行装置に適している。
【符号の説明】
【0069】
2・・・弾性クローラ
4・・・主部
6、48・・・左ラグ(ラグ)
8・・・右ラグ
10・・・芯金
10a・・・第一芯金
10b・・・第二芯金
12・・・抗帳体
16・・・内周面
18・・・外縁
22、50・・・接地面
28、56・・・前スロープ
40・・・中央部
42、42a、42b・・・長翼
44、44a、44b・・・短翼
46・・・コード