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特許7298380二次電池用負極及びそれを用いた二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】二次電池用負極及びそれを用いた二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/02 20060101AFI20230620BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20230620BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20230620BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20230620BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20230620BHJP
   H01M 4/75 20060101ALI20230620BHJP
   C01B 32/00 20170101ALI20230620BHJP
   H01M 10/058 20100101ALN20230620BHJP
【FI】
H01M4/02 Z
H01M4/133
H01M4/04 Z
H01M10/04 Z
H01M4/66 A
H01M4/75 Z
C01B32/00
H01M10/058
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019145742
(22)【出願日】2019-08-07
(65)【公開番号】P2021026957
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 広幸
(72)【発明者】
【氏名】岡 秀亮
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-149824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/02
H01M 4/133
H01M 4/04
H01M 10/04
H01M 4/66
H01M 4/75
H01M 50/531
C01B 32/00
H01M 10/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維を束ねた繊維束と、
前記繊維束の長手方向に沿って前記繊維束に挿通された金属ワイヤと、
を備え
前記繊維束及び前記金属ワイヤの合計重量に対する前記金属ワイヤの重量の比が7重量%以上30重量%以下である、
二次電池用負極。
【請求項2】
前記炭素繊維の長さは、前記金属ワイヤの長さと同じである、
請求項1に記載の二次電池用負極。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の二次電池用負極と、
前記二次電池用負極の周囲を囲うように設けられた分離膜と、
正極活物質を含み、前記分離膜の周囲に設けられた正極と、
を備えた二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する発明は、二次電池用負極及びそれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エネルギー密度の高い二次電池としては、複数の柱状負極と、各柱状負極の周囲を囲うように設けられた分離膜と、隣合う分離膜同士の間を埋めるように設けられた正極とを備えたものが知られている(特許文献1)。この二次電池は、分離膜で周囲を囲われた柱状負極が正極内に配置された構造である。この二次電池の正極は、正六角柱からなる柱状正極を空間充填して得られたものであり、分離膜で囲われた柱状負極が、柱状正極の中心孔に配置されている。柱状負極としては、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料などからなる円柱体に、断面が円形状の集電線が埋設されたものが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-152229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の二次電池では、出入力特性や急速充電性が十分高いとはいえず、また、柱状負極の長手方向の抵抗が比較的高いため柱状負極を長くすることが困難であった。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、出入力特性や急速充電性を向上させると共に二次電池の形状自由度も向上させることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、二次電池用負極に工夫を施すことにより出入力特性や急速充電性を向上させると共に二次電池の形状自由度も向上させることができることを見い出し、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本明細書で開示する二次電池用負極は、炭素繊維を束ねた繊維束と、前記繊維束の長手方向に沿って前記繊維束に挿通された金属ワイヤと、を備えたものである。
【0008】
また、本明細書で開示する二次電池は、上述した二次電池用負極と、前記二次電池用負極の周囲を囲うように設けられた分離膜と、正極活物質を含み、前記分離膜の周囲に設けられた正極と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本明細書で開示する二次電池用負極では、繊維束を構成する炭素繊維は、負極活物質であると同時に集電体としても機能する。また、繊維束に金属ワイヤを挿通することで、集電抵抗が低減する。したがって、この二次電池用負極を用いた二次電池によれば、出入力特性や急速充電性が向上する。また、負極の長手方向の抵抗が小さいため、負極の長さを比較的長くすることができ、二次電池の形状自由度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】負極10の概略構成を示す斜視図
図2】ピン形二次電池30の概略構成を示す斜視図。
図3】角形二次電池40の概略構成を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本実施形態で開示する負極10、ピン形二次電池30及び角形二次電池40について図面を用いて説明する。図1は負極10の概略構成を示す斜視図、図2は二次電池30の概略構成を示す斜視図、図3は角形二次電池40の概略構成を示す斜視図である。ここでは、説明の便宜のため、二次電池としてリチウムイオンをキャリアとするリチウムイオン二次電池を例示して説明する。
【0012】
負極10は、図1に示すように、リチウムイオン二次電池用の円柱形状の負極であり、炭素繊維12を束ねた繊維束14と、この繊維束14の長手方向に沿って繊維束14に挿通された金属ワイヤ16とを備えている。
【0013】
繊維束14は、ストレート形状の炭素繊維12を多数本束ねたものである。炭素繊維12の直径は、1μm以上200μm以下であることが好ましい。この直径が1μm以上であれば、繊維束14としての強度を担保することができ安定した充放電ができる。また、この直径が200μm以下であれば、キャリアであるイオンの移動距離が長くなりすぎず、高出力性能が得られる。また、この直径がこの範囲であれば、単位体積あたりのエネルギー密度をより高めることができる。あるいは、この範囲であれば、キャリアであるイオンの移動距離をより短くすることができ、より大きな電流で充放電を行うことができる。炭素繊維12の直径は、5μm以上20μm以下であることがより好ましい。炭素繊維12の長手方向の長さは、20mm以上200mm以下であることが好ましい。炭素繊維12の長さが20mm以上であれば、電池容量をより高めることができ好ましく、200mm以下(特に150mm以下)であれば、負極10の電気抵抗をより低減することができ好ましい。
【0014】
繊維束14は、導電性を有する炭素繊維12の束であるため、別途導電材を含んでいる必要はないが、必要に応じてバインダを含んでいてもよい。バインダは、炭素繊維12同士を繋ぎ止めて所定の形状を保つ役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。
【0015】
金属ワイヤ16は、繊維束14の中心を炭素繊維12の長手方向に沿って挿通している。金属ワイヤ16は、室温における体積抵抗率が10μΩcm以下のものが好ましく、例えばCuやNiが好ましい。金属ワイヤ16は、1本の金属線であってもよいし、複数本の金属線の集合体であってもよい。金属ワイヤ16の長さは、炭素繊維12の長さと同じであることが好ましい。金属ワイヤ16の直径は10μm以上100μm以下が好ましい。この直径が10μm以上であれば、負極10の電気抵抗が十分小さくなるため好ましい。この直径が100μm以下であれば、容量を比較的高くすることができるため好ましい。金属ワイヤ16の直径は20μm以上50μm以下であることがより好ましい。繊維束14及び金属ワイヤ16の合計重量に対する金属ワイヤ16の重量の比は、7重量%以上30重量%以下であることが好ましい。この比が7重量%以上であれば、出入力特性や急速充電性に関連のあるレート性が良好になるため好ましい。また、この比が30重量%以下(特に16重量%以下)であれば、繊維束14及び金属ワイヤ16の合計重量で規格化した負極容量(単位:mAh/g)が比較的高い値になるため好ましい。
【0016】
次に、この負極10を用いたピン形二次電池30について図2に基づいて説明する。
【0017】
ピン形二次電池30は、図2に示すように、負極10と、分離膜(隔壁ともいう)18と、柱状正極20とを備えている。
【0018】
負極10は、既に説明したとおりのものである。
【0019】
分離膜18は、円柱状の負極10の外周面(上部を除く)及び下端面を囲うように設けられている。分離膜18は、負極10の上端面には設けられていない。分離膜18は、キャリアであるイオンの伝導性を有し、負極10と柱状正極20とを絶縁するものである。分離膜18としては、イオン伝導性と絶縁性とを有するポリマーが好適である。この分離膜18は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体や、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、及びPMMAとアクリルポリマーとの共重合体などが挙げられる。例えば、PVdFとHFPとの共重合体では、電解液の一部がこの膜を膨潤ゲル化し、イオン伝導膜となる。この分離膜18の厚さは、例えば、絶縁性を確保することを考慮すると、0.5μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、5μm以上であるものとしてもよい。また、分離膜18の厚さは、イオン伝導性の低下を抑制することを考慮すると、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。そのため、分離膜18の厚さは、0.5~20μmの範囲であることが、イオン伝導性と絶縁性とを両立させる上で好適である。この分離膜18は、例えば、原料を含む溶液へ負極10を浸漬させてその表面にコートすることにより形成されるものとしてもよい。
【0020】
電解液は、本実施形態では、非水系溶媒にリチウムイオンを含む支持塩を溶解したもの(非水系電解液)とした。非水系溶媒としては、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。
【0021】
柱状正極20は、中心孔20aを有する円柱形状に形成されている。柱状正極20の中心孔20aには、外周面及び下端面が分離膜18で囲われた負極10が配置されている。中心孔20aは、柱状正極20の中心軸に沿って柱状正極20の上端面から下端面の手前まで設けられた有底筒状の孔である。そのため、負極10の外周面及び下端面と、柱状正極20の中心孔20aの内壁及び底面とは、分離膜18によって絶縁されている。
【0022】
柱状正極20は、正極活物質を含んでいるが、正極活物質が導電性を有さない場合は、導電性を有する導電材を混合して成形したものとしてもよい。柱状正極20は、例えば、正極活物質と、必要に応じて導電材と、結着材とを混合し成形したものとしてもよい。正極活物質は、例えば、キャリアであるリチウムを吸蔵放出可能な材料が挙げられる。正極活物質としては、リチウムと遷移金属とを有する化合物が挙げられる。こうした化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物やリチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物などが挙げられる。具体的には、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0≦x≦1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn24などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoaNibMnc2(a>0、b>0、c>0、a+b+c=1)、Li(1-x)CoaNibMnc4(0<a<1、0<b<1、1≦c<2、a+b+c=2)などとするリチウムコバルトニッケルマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV23などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV25などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。また、基本組成式をLiFePO4とするリン酸鉄リチウム化合物などを正極活物質として用いることができる。これらのうち、リチウムコバルトニッケルマンガン複合酸化物、例えば、LiCo1/3Ni1/3Mn1/32やLiNi0.4Co0.3Mn0.32などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素、例えば、AlやMgなどの成分を含んでもよい趣旨である。
【0023】
柱状正極20に導電材を含ませる場合、その導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。柱状正極20に結着材を含ませる場合、その結着材は、活物質粒子や導電材粒子を繋ぎ止めて所定の形状を保つ役割を果たすものであれば特に限定されず、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。
【0024】
以上詳述したピン形二次電池30によれば、出入力特性や急速充電性が向上すると共にピン形二次電池30の形状自由度も向上する。こうした効果が得られる理由は、以下のように考えられる。すなわち、ピン形二次電池30の負極10では、繊維束14を構成する炭素繊維12は、負極活物質であると同時に集電体としても機能する。また、繊維束14に金属ワイヤ16を挿通することで、集電抵抗が低減する。したがって、この負極10を用いたピン形二次電池30によれば、出入力特性や急速充電性が向上する。また、負極10の長手方向の抵抗が小さいため、負極10の長さを比較的長くすることができ、ピン形二次電池30の形状自由度が向上する。
【0025】
次に、負極10を用いた角形二次電池40について図3に基づいて説明する。
【0026】
角形二次電池40は、図3に示すように、電池本体42と、負極集電体44と、正極集電体46とを備えている。
【0027】
電池本体42は、ピン形二次電池30を負極10の上端面が上向きになるように、左右方向にm個(mは2以上の整数)、前後方向にn個(nは2以上の整数)並べて、全体形状が直方体になるように左右及び前後に圧縮したものである。そのため、電池本体42を構成するピン形二次電池30の柱状正極20は、中心孔20aを有する直方体になっている。電池本体42の各辺の長さは、短いものから順に並べると、左右方向の長さX、上下方向の長さY、前後方向の長さZとなる(X<Y<Z)。
【0028】
負極集電体44は、導電性材料で形成された板状部材であり、電池本体42の上面に配置されている。負極集電体44には、すべての負極10の上端面が並列接続されている。負極集電体44を形成する導電性材料としては、例えば、カーボンペーパー、アルミニウム、銅、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、白金、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性(還元性)を向上させる目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタン、銀、白金、金などで処理したものも用いることができる。
【0029】
正極集電体46は、導電性材料で形成された板状部材であり、電池本体42の左側面に配置されている。正極集電体46は、負極10や負極集電体44と電気的に絶縁されている。正極集電体46を形成する導電性材料としては、負極集電体44を形成する導電性材料として例示したものが挙げられる。
【0030】
以上詳述した角形二次電池40も、負極10を用いているため、出入力特性や急速充電性が向上するし、負極10の長さを比較的長くすることができ、角形二次電池40の形状自由度が向上する。
【0031】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0032】
例えば、上述した実施形態では、二次電池のキャリアをリチウムイオンとしたが、特にこれに限定されず、ナトリウムイオンやカリウムイオンなどのアルカリ金属イオン、カルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの2族元素イオンとしてもよい。また、正極活物質は、キャリアのイオンを吸蔵放出可能な材料であればよい。また、電解液を非水系電解液としたが、水系電解液としてもよい。
【0033】
上述した実施形態では、二次電池として電解液を用いるものを例示したが、電解液を用いない全固体電池としてもよい。
【0034】
上述した実施形態では、負極10を構成する繊維束14をストレート形状の炭素繊維12を多数本束ねたものとしたが、特にこれに限定されるものではなく、例えば多数本の炭素繊維12を撚ったものとしてもよい。
【0035】
上述した実施形態では、ピン形二次電池30の柱状正極20を円柱形状としたが、特にこれに限定されるものではなく、例えば空間充填可能な正多角柱(例えば正六角柱、正三角柱、正四角柱など)であってもよい。なお、「空間充填」とは、空間内を3次元形状の物体で隙間なく埋め尽くすことをいう。
【0036】
上述した実施形態では、角形二次電池40の負極集電体44や正極集電体46を板状としたが、特に板状に限定されるものではなく、例えば、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチングシート、ガラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などでもよい。また、負極及び正極集電体44,46は、同じ形状であってもよいし、異なる形状であってもよい。
【0037】
上述した実施形態では、角形二次電池40の電池本体42は、柱状正極20を備えたピン形二次電池30を集合させたものとして説明したが、特にこれに限定されるものではなく、例えば、分離膜18の付いた負極10が電池本体42とほぼ同じ大きさの直方体形状の正極内に互いに接することなく独立して立設されたものとしてもよい。
【0038】
上述した実施形態では、角形二次電池40の左側面に正極集電体46を設けたが、特にこれに限定されるものではなく、右側面に設けてもよいし、前面あるいは後面に設けてもよいし、下面に設けてもよい。但し、角形二次電池40の左右方向の長さXが上下方向の長さYや前後方向の長さZよりも短いため、角形二次電池40の左側面又は右側面に正極集電体46を設けることが好ましい。こうすることにより、正極の電気抵抗が小さくなるからである。
【実施例
【0039】
[実施例1]
長さ100mm、直径10μmの炭素繊維を1000本束ねた繊維束のほぼ中心に、長さ100mm、直径20μmのCuワイヤ(金属ワイヤ)を挿通し、それをバインダであるポリフッ化ビニリデン(PVdF)を溶解したN-メチルピロリドン(NMP)溶液に浸漬し、乾燥させることで、直径250μm、長さ100mmの負極を作製した。このとき、繊維束及びCuワイヤの合計重量に対するCuワイヤの重量の比が3%となるように、Cuワイヤの本数を調整した。ポリフッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン(PVdF-HFP)を溶解したNMP溶液を用いたディップコート法により、負極の外周面及び下面に厚さ12μmのPVdF-HFP分離膜を形成した。続いて、分離膜を備えた負極に水系正極ペーストをディップコートすることで、隔壁表面に正極合材層を形成した。正極ペーストとしては、Li(NiCoMn)O2とカーボンブラックとPVdFバインダを水中に分散させたものを用いた。この一体物に電解液(1M LiPF6,EC/DMC/EMC=3/4/3(体積比))を注液後、密閉し、外周面にアルミホイルを巻いて正極集電体することで、ピン形リチウムイオン二次電池を作製した。
【0040】
得られたピン形リチウムイオン二次電池のレート性と負極容量を測定した。レート性は、25℃、4Cレート、2V~4.1Vで充放電試験を行った場合の放電容量を求め、その放電容量の、実施例4(後述)の放電容量に対する割合(百分率)とした。負極容量は、分離膜を備えた上述の負極をLi金属対極と対向させ、注液したセルを作製して評価した。充放電条件は、25℃、0.1Cレート、0.005V~2Vとし、放電容量は、繊維束とCuワイヤの合計重量で規格化した値とした。結果を表1に示す。
【0041】
[比較例1,実施例2~4]
Cuワイヤの重量比を変更したこと以外は実施例1と同様にしてレート性、負極容量を求めた。結果を表1に示す。
【0042】
[実施例5,6]
負極の長さ(炭素繊維の長さ及びCuワイヤの長さ)を変更したこと以外は実施例2と同様にしてレート性、負極容量を求めた。結果を表1に示す。
【0043】
[実施例7]
Cuワイヤの直径を50μmに変更したこと以外は実施例2と同様にしてレート性、負極容量を求めた。結果を表1に示す。
【0044】
[実施例8]
Cuワイヤの代わりにNiワイヤを用いたこと以外は実施例2と同様にしてレート性、負極容量を求めた。結果を表1に示す。
【0045】
[実施例9]
Cuワイヤの代わりにNiワイヤを用いたこと以外は実施例7と同様にしてレート性、負極容量を求めた。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
炭素繊維を束ねた繊維束に金属ワイヤを挿通した負極を用いた実施例1~9では、金属ワイヤが挿通されていない負極を用いた比較例1に比べて、レート性が向上した。レート性が高いほど、出入力特性や急速充電性が良好になる。また、実施例1~4の結果から、金属ワイヤの重量比が増加するほどレート性が向上することがわかり、実施例2,5,7の結果から、負極長さが短いほどレート性が向上することがわかった。このようにレート性が向上したのは、負極の電気抵抗が低下したためと考えられる。更に、実施例2,8や実施例7,9の結果から、金属ワイヤがCuであってもNiであってもほぼ同等の結果が得られることがわかった。負極容量については、実施例1~9では、比較例1に比べてやや低下したものの比較的高い値であった。レート性を考慮すると、金属ワイヤの重量比は7重量%以上30重量%以下が好ましく、レート性及び負極容量を両立させることを考慮すると、金属ワイヤの重量比は7重量%以上16重量%以下が好ましいといえる。
【符号の説明】
【0048】
10 負極、12 炭素繊維、14 繊維束、16 金属ワイヤ、18 分離膜、20 柱状正極、20a 中心孔、30 ピン形二次電池、40 角形二次電池、42 電池本体、44 負極集電体、46 正極集電体。
図1
図2
図3