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  • 特許-コイルエンド冷却構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】コイルエンド冷却構造
(51)【国際特許分類】
   H02K 9/19 20060101AFI20230620BHJP
【FI】
H02K9/19 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019172025
(22)【出願日】2019-09-20
(65)【公開番号】P2021052445
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 潤一
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-222904(JP,A)
【文献】特開2019-161948(JP,A)
【文献】特開2019-088116(JP,A)
【文献】特開2019-030098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 9/00- 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油冷式の回転機のコイルエンド冷却構造であって、
前記回転機の固定子の端面上部側における前記固定子とフレームとの間から冷却油を流下させてコイルエンドカバーの本体部に供する複数の油冷ダクトを有し、
前記複数の油冷ダクトのうち、いくつかの油冷ダクトは、前記固定子と前記フレームと間から当該固定子の軸方向に沿って前記コイルエンドカバーの本体部側に当該固定子の端面から張り出して設けられ、
前記いくつかの油冷ダクトのうち、一方のいくつかの油冷ダクトは他方のいくつかの油冷ダクトとは張り出し長さが異なること
を特徴とするコイルエンド冷却構造。
【請求項2】
前記複数の油冷ダクトは、前記固定子の軸方向及び重力方向に沿う断面を対称に配置されることを特徴とする請求項1に記載のコイルエンド冷却構造。
【請求項3】
前記一方のいくつかの油冷ダクトは、前記他方のいくつかの油冷ダクトよりも前記断面に近い位置において前記対称に配置されることを特徴とする請求項2に記載のコイルエンド冷却構造。
【請求項4】
前記一方のいくつかの油冷ダクトは、その張り出し長さが前記コイルエンドカバーの軸方向長さの半分未満であることを特徴とする請求項3に記載のコイルエンド冷却構造。
【請求項5】
前記冷却油は、前記コイルエンドカバーの外周面に達した当該冷却油が当該コイルエンドカバーの端部からはみ出ない程度の流速で供されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のコイルエンド冷却構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油冷式の回転機のコイルエンド冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図4に示された油冷式の回転機のコイルエンド冷却構造としては、例えば、冷却油を固定子の軸方向の中間部位から導入して固定子とフレームとの間に流通させてから固定子の端部からコイルエンドに流出させる方式が知られている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-523009号公報
【文献】特開2015-211543号公報
【文献】特開2019-41487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図4に例示された従来のコイルエンドカバー4の冷却構造は、固定子3の軸方向の中間部位から導入された冷却油が固定子3とフレーム7との間に介在する油冷ダクト10cに供される。油冷ダクト10cは固定子3の外周部に複数配置形成されている。この油冷ダクト10cを介して固定子3の端部に達した冷却油は、固定子3(回転子5,シャフト6)の軸方向に直交する同一平面に在る複数の油冷ダクト10cからコイルエンドカバー4の本体部40の外周面に流れ出る。ここで、図5の冷却油の流れの解析結果によると、隣接する油冷ダクト10cから流出された冷却油が干渉するので、冷却油の流速が低下する傾向にある。このことから、コイルエンドカバー4の冷却効率を高めるには、この干渉を可能な限り少なくすることが必要となる。
【0005】
本発明は、以上の事情を鑑み、油冷式の回転機の固定子とフレームとの間から供される冷却油によりコイルエンドを効率よく冷却することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明の一態様は、油冷式の回転機のコイルエンド冷却構造であって、前記回転機の固定子とフレームとの間から冷却油をコイルエンドカバーの本体部に供する複数の油冷ダクトを有し、前記複数の油冷ダクトのうち、いくつかの油冷ダクトは、前記固定子と前記フレームとの間から前記本体部側に張り出して設けられ、前記いくつかの油冷ダクトのうち、一方のいくつかの油冷ダクトは、他方のいくつかの油冷ダクトとは張り出し長さが異なる。
【0007】
本発明の一態様は、前記コイルエンド冷却構造において、前記複数の油冷ダクトは、前記固定子の軸方向及び重力方向に沿う断面を対称に配置される。
【0008】
本発明の一態様は、前記コイルエンド冷却構造において、前記一方のいくつかの油冷ダクトは、前記他方のいくつかの油冷ダクトよりも前記断面に近い位置において前記対称に配置される。
【0009】
本発明の一態様は、前記コイルエンド冷却構造において、前記一方のいくつかの油冷ダクトは、その張り出し長さが前記コイルエンドカバーの軸方向長さの半分未満である。
【0010】
本発明の一態様は、前記コイルエンド冷却構造において、前記冷却油は、前記コイルエンドカバーの外周面に達した冷却油が当該コイルエンドカバーの端部からはみ出ない程度の流速で供される。
【発明の効果】
【0011】
以上の本発明によれば、油冷式の回転機の固定子とフレームとの間から供される冷却油によりコイルエンドを効率よく冷却できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)は本発明のコイルエンド冷却構造の態様例を示した斜視図、(b)は当該態様例の平面図。
図2図1の態様例における冷却油の流れを示す解析結果。
図3】(a)は従来のコイルエンド冷却構造の態様例における熱伝達率の分布の解析結果、(b)は図1の態様例における熱伝達率の分布を示す解析結果。
図4】(a)は従来のコイルエンド冷却構造の態様例を示した正面図、(b)は当該態様例の油冷ダクトを示した拡大正面図、(c)は当該態様例の斜視図、(d)は当該態様例の正面図。
図5図4の態様例における冷却油の流れを示す解析結果。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0014】
図1に示された本発明の一態様であるコイルエンド冷却構造1は、例えば、図4に示された油冷式の回転機2に適用される。すなわち、コイルエンド冷却構造1は、同図の回転機2において、固定子3とフレーム7との間から冷却油をコイルエンドカバー4の本体部40に供する油冷ダクト10a,10b,10cを有する。
【0015】
油冷ダクト10a,10b,10cは、固定子3の外周部14において固定子3(コイルエンドカバー4、回転子5、シャフト6)の軸方向に沿って形成されている。特に、油冷ダクト10a,10bは、図4の固定子3とフレーム7との間から、固定子3の軸方向に沿ってコイルエンドカバー4の本体部40側に張り出して設けられている。
【0016】
また、油冷ダクト10aは、油冷ダクト10bとは張り出し長さが異なる。例えば、油冷ダクト10aの張り出し長さLaは、油冷ダクト10bの張り出し長さLbよりも長く且つコイルエンドカバー4の軸方向長さLcの半分未満に設定される。
【0017】
以上の油冷ダクト10a,10b,10cは、固定子3の軸方向及び重力方向に沿う断面を対称に配置される。特に、図示の態様において、油冷ダクト10aは、油冷ダクト10bよりも前記断面に近い位置において前記対称に配置形成されている。また、油冷ダクト10cは、油冷ダクト10a,10a間、油冷ダクト10a,10b間に配置形成されている。さらに、油冷ダクト10a,10b,10cの設置数及び油冷ダクト10a,10bの張り出し長さLa,Lbは、コイルエンドカバー4の寸法に応じて適宜に設定される。
【0018】
以下、図1,2を参照してコイルエンド冷却構造1の作用とその効果について説明する。
【0019】
固定子3の軸方向の中間部位から導入された冷却油は、油冷ダクト10a,10b,10cから放物線状にコイルエンドカバー4の本体部40側に流下する。前記冷却油は、例えば、コイルエンドカバー4の本体部40の外周面に達した当該冷却油がコイルエンドカバー4の本体部40の端部からはみ出ない程度の流速で供される。
【0020】
本態様のコイルエンドカバー4における冷却油の流れの解析した結果を図2に示した。
【0021】
本解析に供したコイルエンドカバー4は、内径280mmのフレーム7に対し、コイルエンドカバー4の外径は220mm、固定子3の端部からのコイルエンドカバー4の張り出し長さは150mmとした。油冷ダクト10aは口径が1mm×15mm及び張り出し長さLaが25mm、油冷ダクト10bは口径が1mm×15mm及び張り出し長さLbが20mm、油冷ダクト10cは口径が1mm×15mmである。冷却油は通常の工業油を用いた。冷却油の流速は0.56[m/s]に設定された。本解析においては、コイルエンドカバー4の上方から片側5つの油冷ダクト(上流側から油冷ダクト10c,10a,10c,10b,10c)からの流れを解析した。同図の結果から明らかなように、油冷ダクト10a,10b,10cから各々流れ出た冷却油は互いに干渉しないことがわかる。特に、冷却油が上流側から流れと大きく干渉していないことがわかる。さらに、冷却油のかかる領域がコイルエンドカバー4の端部まで及んでおり、図5に示された油冷ダクト10cのみが形成された従来の冷却構造における冷却油のかかる領域よりも拡大することがわかる(尚、同図の解析条件は、コイルエンドカバー4に油冷ダクト10a,10bが設けられていないこと以外は、図2の解析条件と同じである)。
【0022】
また、上述の冷却油の流れの解析結果から得られたコイルエンドの表面の熱伝達率をマッピングした結果を図3に示した。同図(a)は、従来技術のコイルエンドカバー4のマッピング結果を示す。同図(b)は、本態様のコイルエンドカバー4のマッピング結果を示す。両者の結果において、局所的な熱伝達率熱に大きな違いは見られないが、本態様のコイルエンドカバー4のように、油冷ダクト10a,10bを有することで、熱伝達率がゼロ以上の範囲が広くなっていることがわかる。
【0023】
さらに、両者の定量的な比較のために、コイルエンドカバー4の表面における熱伝達率の平均値を同図に示した。同図(a)の従来のコイルエンドカバー4における平均熱伝達率は18.9[W/(m2・K)]であった。一方、同図(b)の本態様のコイルエンドカバー4における平均熱伝達率は23.2[W/(m2・K)]であった(尚、カッコ内の値は前記従来の平均熱伝達率との差である)。本態様のコイルエンドカバー4の平均熱伝達率は、従来のコイルエンドカバー4に比べて23%大きいことがわかる。したがって、油冷ダクト10a,10bを適切に延長することでコイルエンドカバー4の冷却効率を任意に上げられることがわかる。
【0024】
以上のように、本態様のコイルエンド冷却構造1によれば、固定子3とフレーム7との間から供される冷却油によりコイルエンドカバー4を効率よく冷却できる。
【0025】
特に、固定子3の軸方向に沿ってコイルエンドカバー4の本体部40側に張り出した複数の油冷ダクト10a,10bのうち、一方のいくつかの油冷ダクト10aは、他方のいくつかの油冷ダクト10bとは張り出し長さが異なる。したがって、コイルエンドカバー4の周方向に隣り合う油冷ダクト10a,10b,10cから供された冷却油が、互いに干渉しなくなると共に、コイルエンドカバー4の軸方向に拡充して供されるので、コイルエンドカバー4が効率的に冷却される。
【0026】
また、複数の油冷ダクト10a,10bは、固定子3の軸方向及び重力方向に沿う断面を対称に配置されることで、上記の効果に加えて、冷却油をコイルエンドカバー4の上半分側の外周部に均等に供給できる。
【0027】
さらに、複数の油冷ダクト10aが前記断面寄りの位置において前記対称に配置されることで、上記の効果に加えて、特に、コイルエンドカバー4の端部寄りの上半分側の外周部に均等に供給できる。
【0028】
そして、油冷ダクト10aは、その張り出し長さがコイルエンドカバー4の軸方向長さの半分未満に設定されることで、上記の効果に加えて、冷却油の供給制御により、油冷ダクト10aから放物線状に供される冷却油の流れを任意に調整できる。
【0029】
また、冷却油は、コイルエンドカバー4の外周面に達した冷却油がコイルエンドカバー4の端部からはみ出ない程度の流速で供されることで、上記の効果に加えて、コイルエンドカバー4に対して冷却油を無駄なく供給できる。
【符号の説明】
【0030】
1…冷却構造
2…回転機
3…固定子
4…コイルエンドカバー、40…本体部
5…回転子
6…シャフト
7…フレーム
10a,10b,10c…油冷ダクト
La…油冷ダクト10aの張り出し長さ
Lb…油冷ダクト10bの張り出し長さ
Lc…コイルエンドカバー4の軸方向長さ
図1
図2
図3
図4
図5