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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】検出装置、検出方法及び検出プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20230620BHJP
   G06F 3/044 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
G06F3/041 595
G06F3/041 422
G06F3/044 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019203343
(22)【出願日】2019-11-08
(65)【公開番号】P2021077104
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2021-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100188307
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【弁理士】
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】塚野 聖仁
【審査官】塩屋 雅弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-018432(JP,A)
【文献】特開2016-224606(JP,A)
【文献】国際公開第2019/122874(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0028575(US,A1)
【文献】特開2010-015204(JP,A)
【文献】特表2015-524977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041
G06F 3/044
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1枚の部材で構成されるカバーと、
前記カバーに設置されている電極を有し、前記カバーへの接触に基づく検出信号として前記カバーと前記電極との間の静電容量を出力する複数のタッチセンサと、
前記検出信号を取得する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記検出信号に基づいて前記カバーへの接触を検出し、
前記カバーへの接触が開始してから終了するまでの間の、前記各タッチセンサが出力する検出信号の時間変化データに基づいて、所定パターンの入力があったか判定し、
前記各タッチセンサは、前記カバーに接触している位置から前記各タッチセンサまでの距離が短いほど、前記検出信号として大きい信号を出力する、検出装置。
【請求項2】
1枚の部材で構成されるカバーと、
前記カバーに設置されている電極を有し、前記カバーへの接触に基づく検出信号として前記カバーと前記電極との間の静電容量を出力する複数のタッチセンサと、
前記検出信号を取得する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記検出信号に基づいて前記カバーへの接触を検出し、
前記カバーへの接触が開始してから終了するまでの間の、前記各タッチセンサが出力する検出信号の時間変化データである、前記各タッチセンサが出力する検出信号の大きさを、前記各タッチセンサの出力に対応する軸を基底とする仮想空間において時刻を媒介変数として関連づけることによって生成した軌跡に基づいて、所定パターンの入力があったか判定する、検出装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記所定パターンの入力があった場合にあらかじめ取得された軌跡と、前記所定パターンの入力があったか判定する対象となる入力があった場合に取得される軌跡との類似度に基づいて、前記所定パターンの入力があったか判定する、請求項に記載の検出装置。
【請求項4】
前記仮想空間は、少なくとも3次元の空間である、請求項又はに記載の検出装置。
【請求項5】
前記所定パターンの入力は、スライド入力を含む、請求項1から4までのいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項6】
1枚の部材で構成されるカバーに設置されている電極を有する複数のタッチセンサから、前記カバーへの接触に基づき、前記カバーに接触している位置から前記各タッチセンサまでの距離が短いほど大きい信号で出力される検出信号として前記カバーと前記電極との間の静電容量を取得するステップと、
前記検出信号に基づいて、カバーへの接触を検出するステップと、
前記カバーへの接触が開始してから終了するまでの間の、前記各タッチセンサが出力する検出信号の時間変化データに基づいて、所定パターンの入力があったか判定するステップと
を含む、検出方法。
【請求項7】
1枚の部材で構成されるカバーに設置されている電極を有する複数のタッチセンサから、前記カバーへの接触に基づく検出信号として前記カバーと前記電極との間の静電容量を取得するステップと、
前記検出信号に基づいて、カバーへの接触を検出するステップと、
前記カバーへの接触が開始してから終了するまでの間の、前記各タッチセンサが出力する検出信号の時間変化データである、前記各タッチセンサが出力する検出信号の大きさを、前記各タッチセンサの出力に対応する軸を基底とする仮想空間において時刻を媒介変数として関連づけることによって生成した軌跡に基づいて、所定パターンの入力があったか判定するステップと
を含む、検出方法。
【請求項8】
1枚の部材で構成されるカバーに設置されている電極を有する複数のタッチセンサから、前記カバーへの接触に基づき、前記カバーに接触している位置から前記各タッチセンサまでの距離が短いほど大きい信号で出力される検出信号として前記カバーと前記電極との間の静電容量を取得するステップと、
前記検出信号に基づいて、カバーへの接触を検出するステップと、
前記カバーへの接触が開始してから終了するまでの間の、前記各タッチセンサが出力する検出信号の時間変化データに基づいて、所定パターンの入力があったか判定するステップと
をプロセッサに実行させる、検出プログラム。
【請求項9】
1枚の部材で構成されるカバーに設置されている電極を有する複数のタッチセンサから、前記カバーへの接触に基づく検出信号として前記カバーと前記電極との間の静電容量を取得するステップと、
前記検出信号に基づいて、カバーへの接触を検出するステップと、
前記カバーへの接触が開始してから終了するまでの間の、前記各タッチセンサが出力する検出信号の時間変化データである、前記各タッチセンサが出力する検出信号の大きさを、前記各タッチセンサの出力に対応する軸を基底とする仮想空間において時刻を媒介変数として関連づけることによって生成した軌跡に基づいて、所定パターンの入力があったか判定するステップと
をプロセッサに実行させる、検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、検出装置、検出方法及び検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ユーザの指等の接触を複数のセンサで検知し、各センサの検知結果に基づいて接触位置を検知する入力装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-244520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
センサによる接触位置の検知精度が低下すると、誤入力が起こりやすくなる。誤入力を低減するためにセンサの数を増やすことが考えられるが、センサの数をできるだけ減らすことが求められる。
【0005】
本開示は、上述の点に鑑みてなされたものであり、少ないセンサで誤入力を低減できる検出装置、検出方法及び検出プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
幾つかの実施形態に係る検出装置は、1枚の部材で構成されるカバーと、前記カバーに設置されている電極を有し、前記カバーへの接触に基づく検出信号として前記カバーと前記電極との間の静電容量を出力する複数のタッチセンサと、前記検出信号を取得する制御部とを備え、前記制御部は、前記検出信号に基づいて前記カバーへの接触を検出し、前記カバーへの接触が開始してから終了するまでの間の、前記各タッチセンサが出力する検出信号の時間変化データに基づいて、所定パターンの入力があったか判定する。前記各タッチセンサは、前記カバーに接触している位置から前記各タッチセンサまでの距離が短いほど、前記検出信号として大きい信号を出力する。このように、検出信号の時間変化データに基づいて判定することによって、検出信号を接触位置の座標に変換することなく入力のパターンが判定される。座標変換が省略されることによって、座標変換で生じる誤差が低減される。座標の変換誤差を小さくするためにタッチセンサの数を増やす必要が無くなる。その結果、タッチセンサの数を増やさずに誤入力が低減される。
また、幾つかの実施形態に係る検出装置は、1枚の部材で構成されるカバーと、前記カバーに設置されている電極を有し、前記カバーへの接触に基づく検出信号として前記カバーと前記電極との間の静電容量を出力する複数のタッチセンサと、前記検出信号を取得する制御部とを備え、前記制御部は、前記検出信号に基づいて前記カバーへの接触を検出し、前記カバーへの接触が開始してから終了するまでの間の、前記各タッチセンサが出力する検出信号の時間変化データである、前記各タッチセンサが出力する検出信号の大きさを、前記各タッチセンサの出力に対応する軸を基底とする仮想空間において時刻を媒介変数として関連づけることによって生成した軌跡に基づいて、所定パターンの入力があったか判定する。
【0007】
一実施形態に係る検出装置において、前記所定パターンの入力は、スライド入力を含んでよい。このようにすることで、検出信号を接触位置の座標に変換して、座標の移動を取得することなく、スライド入力のパターンが判定される。その結果、誤入力が低減される。
【0008】
一実施形態に係る検出装置において、前記各タッチセンサは、前記カバーに接触している位置から前記各タッチセンサまでの距離が短いほど、前記検出信号として大きい信号を出力してよい。このように、接触位置からタッチセンサまでの距離に応じて信号の大きさが一意に決まることによって、入力によって生成される時間変化データがパターンごとに一意に決まる。その結果、誤入力が低減される。
【0009】
一実施形態に係る検出装置において、前記制御部は、前記各タッチセンサが出力する検出信号の大きさを、前記各タッチセンサの出力に対応する軸を基底とする仮想空間において時刻を媒介変数として関連づけることによって生成した軌跡に基づいて、前記所定パターンの入力があったか判定してよい。このように、軌跡に基づいて判定することによって、入力のパターンが簡便に判定される。その結果、誤入力が低減され得る。
【0010】
一実施形態に係る検出装置において、前記制御部は、前記所定パターンの入力があった場合にあらかじめ取得された軌跡と、前記所定パターンの入力があったか判定する対象となる入力があった場合に取得される軌跡との類似度に基づいて、前記所定パターンの入力があったか判定してよい。このように、あらかじめ登録したパターンに対応する軌跡と比較することによって、入力のパターンの判定精度が向上する。その結果、誤入力が低減され得る。
【0011】
幾つかの実施形態に係る検出方法は、1枚の部材で構成されるカバーに設置されている電極を有する複数のタッチセンサから、前記カバーへの接触に基づき、前記カバーに接触している位置から前記各タッチセンサまでの距離が短いほど大きい信号で出力される検出信号として前記カバーと前記電極との間の静電容量を取得するステップと、前記検出信号に基づいて、カバーへの接触を検出するステップと、前記カバーへの接触が開始してから終了するまでの間の、前記各タッチセンサが出力する検出信号の時間変化データに基づいて、所定パターンの入力があったか判定するステップとを含む。このように、検出信号の時間変化データに基づいて判定することによって、検出信号を接触位置の座標に変換することなく入力のパターンが判定される。座標変換が省略されることによって、座標変換で生じる誤差が低減される。座標の変換誤差を小さくするためにタッチセンサの数を増やす必要が無くなる。その結果、タッチセンサの数を増やさずに誤入力が低減される。
また、幾つかの実施形態に係る検出方法は、1枚の部材で構成されるカバーに設置されている電極を有する複数のタッチセンサから、前記カバーへの接触に基づく検出信号として前記カバーと前記電極との間の静電容量を取得するステップと、前記検出信号に基づいて、カバーへの接触を検出するステップと、前記カバーへの接触が開始してから終了するまでの間の、前記各タッチセンサが出力する検出信号の時間変化データである、前記各タッチセンサが出力する検出信号の大きさを、前記各タッチセンサの出力に対応する軸を基底とする仮想空間において時刻を媒介変数として関連づけることによって生成した軌跡に基づいて、所定パターンの入力があったか判定するステップとを含む。
【0012】
幾つかの実施形態に係る検出プログラムは、1枚の部材で構成されるカバーに設置されている電極を有する複数のタッチセンサから、前記カバーへの接触に基づき、前記カバーに接触している位置から前記各タッチセンサまでの距離が短いほど大きい信号で出力される検出信号として前記カバーと前記電極との間の静電容量を取得するステップと、前記検出信号に基づいて、カバーへの接触を検出するステップと、前記カバーへの接触が開始してから終了するまでの間の、前記各タッチセンサが出力する検出信号の時間変化データに基づいて、所定パターンの入力があったか判定するステップとをプロセッサに実行させる。このように、検出信号の時間変化データに基づいて判定することによって、検出信号を接触位置の座標に変換することなく入力のパターンが判定される。座標変換が省略されることによって、座標変換で生じる誤差が低減される。座標の変換誤差を小さくするためにタッチセンサの数を増やす必要が無くなる。その結果、タッチセンサの数を増やさずに誤入力が低減される。
また、幾つかの実施形態に係る検出プログラムは、1枚の部材で構成されるカバーに設置されている電極を有する複数のタッチセンサから、前記カバーへの接触に基づく検出信号として前記カバーと前記電極との間の静電容量を取得するステップと、前記検出信号に基づいて、カバーへの接触を検出するステップと、前記カバーへの接触が開始してから終了するまでの間の、前記各タッチセンサが出力する検出信号の時間変化データである、前記各タッチセンサが出力する検出信号の大きさを、前記各タッチセンサの出力に対応する軸を基底とする仮想空間において時刻を媒介変数として関連づけることによって生成した軌跡に基づいて、所定パターンの入力があったか判定するステップとをプロセッサに実行させる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、少ないセンサで誤入力を低減できる検出装置、検出方法及び検出プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】比較例に係る検出装置の構成を示す平面図である。
図2A】本開示の一実施形態に係る検出装置を備えるフィールド機器の構成例を示す平面図である。
図2B図2AのA-A断面図である。
図3】本開示の一実施形態に係る検出装置を備えるフィールド機器の構成例を示すブロック図である。
図4A】Y軸の負の方向にスライド入力する動作を示す図である。
図4B図4Aに示されるスライド入力による各タッチセンサの出力の変化を示すグラフである。
図4C図4Bに示される各タッチセンサの出力に基づく軌跡を示すグラフである。
図5A】Y軸の正の方向にスライド入力する動作を示す図である。
図5B図5Aに示されるスライド入力による各タッチセンサの出力の変化を示すグラフである。
図5C図5Bに示される各タッチセンサの出力に基づく軌跡を示すグラフである。
図6A】X軸の負の方向にスライド入力する動作を示す図である。
図6B図6Aに示されるスライド入力による各タッチセンサの出力の変化を示すグラフである。
図6C図6Bに示される各タッチセンサの出力に基づく軌跡を示すグラフである。
図7A】X軸の正の方向にスライド入力する動作を示す図である。
図7B図7Aに示されるスライド入力による各タッチセンサの出力の変化を示すグラフである。
図7C図7Bに示される各タッチセンサの出力に基づく軌跡を示すグラフである。
図8A】フィールド機器の上位階層のメニュー画面の一例を示す図である。
図8B】フィールド機器の下位階層のメニュー画面の一例を示す図である。
図9】本開示の一実施形態に係る検出方法の手順例を示すフローチャートである。
図10】極座標系のパラメータを説明する図である。
図11】三次元空間に描かれた軌跡の一例を示す図である。
図12】SWφ-SW3平面内に描かれた軌跡を区間に分ける例を示す図である。
図13】隠れマルコフモデルにおいてθが含まれる区間の遷移確率を表す行列Aの構成要素を示す表である。
図14】θが区間iに含まれる場合のrの値の確率分布を示す図である。
図15A】タッチセンサのリファレンス信号の一例を示すグラフである。
図15B】タッチセンサの出力信号の一例を示すグラフである。
図16A】出力信号とリファレンス信号との間の時間軸のスケールの違いを表すグラフである。
図16B】出力信号のスケールをリファレンス信号に合わせた場合を表すグラフである。
図17A】時間軸に沿って引き伸ばした出力信号を表すグラフである。
図17B】時間軸に沿って圧縮した出力信号を表すグラフである。
図18A】時間軸に沿って時間が戻る方向に平行移動した出力信号を表すグラフである。
図18B】時間軸に沿って時間が進む方向に平行移動した出力信号を表すグラフである。
図19】2つのベクトルの距離を類似度として計算する方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示されるように、比較例に係る検出装置90は、タッチセンサ91、92及び93と、カバー94とを備える。検出装置90は、ユーザの指等の接触物がカバー94に接触した場合に、接触物の接触位置95を検出する。タッチセンサ91は、接触位置95までの距離D1を検出する。タッチセンサ92は、接触位置95までの距離D2を検出する。タッチセンサ93は、接触位置95までの距離D3を検出する。タッチセンサ91、92及び93が一直線上に並んでいない場合、検出装置90は、距離D1、D2及びD3に基づいて、接触位置95の座標を特定できる。
【0016】
タッチセンサ91、92及び93は、接触物の接触による静電容量の変化に基づいて、接触位置95までの距離を検出する。カバー94が厚いほど、静電容量の変化の検出精度が低くなる。その結果、接触位置95の座標の検出精度が低くなる。
【0017】
さらに、接触物がカバー94に接触したままスライドすることがある。検出装置90は、接触物の移動に応じて接触位置95を逐次検出することによってスライドの軌跡を検出する。接触位置95の座標の検出精度が低い場合、スライドの軌跡の検出精度が低くなる。スライドの軌跡が所定のコマンドに対応づけられる場合、スライドの軌跡の検出精度の低下は、誤入力を引き起こし得る。
【0018】
検出装置90がフィールド機器に用いられる場合、耐薬品性能を確保するためにカバー94が厚くされることがある。したがって、カバー94が厚い場合でも接触位置95の座標の検出精度の向上が求められる。接触位置95の座標の検出精度を向上するために、タッチセンサの数を増やすことが考えられる。しかし、タッチセンサの増加は、検出装置90の設計自由度の低下、又は、検出装置90のコスト増大を引き起こし得る。
【0019】
また、検出装置90でスライドを検出する場合、以下の4ステップが実行される。
(1)検出装置90は、各タッチセンサの検出結果に基づいて、各タッチセンサから接触位置95までの距離を算出する。
(2)検出装置90は、各タッチセンサから接触位置95までの距離に基づいて、接触位置95の座標を算出する。
(3)検出装置90は、接触位置95の座標を所定期間にわたって取得し、座標が移動した軌跡を把握する。
(4)検出装置90は、把握した軌跡があらかじめ登録されている軌跡と一致又は類似する場合、登録されている軌跡に関連づけられるコマンドが入力されたと判定する。
【0020】
検出のためのステップ数が多い場合、各ステップの処理の誤差が累積して、誤入力を引き起こすことがある。また、ステップ数が多いことによって、検出装置90の負荷が大きくなる。
【0021】
検出装置90がフィールド機器に用いられる場合、ユーザは厚手のグローブをはめた状態で操作することがある。この場合、接触物がカバー94に接触する範囲が広くなる。そうすると、接触位置95の座標は、所定の範囲内のどこかの点として算出される。したがって、接触位置95の座標の誤差が大きくなり得る。また、フィールド機器においてカバー94の面積は小さい。この場合、接触位置95がある領域に含まれる場合と、接触位置95が他の領域に含まれる場合とに異なるコマンドが割り当てられると、ユーザが意図しない領域に接触してしまい、意図しないコマンドが実行される可能性が高まる。接触範囲が広くなる場合でも誤入力を低減できることが求められる。
【0022】
以上述べてきたとおり、比較例に係る検出装置90において、カバー94が厚い場合でも誤入力を低減するために、タッチセンサの数を増やすことが考えられる。しかし、タッチセンサの増加によるデメリットもあるため、タッチセンサの数を増やさずに誤入力を低減できることが求められる。また、スライド動作を簡便に検出することが求められる。
【0023】
そこで、本開示は、少ないセンサで誤入力を低減でき、スライド動作を簡便に検出できる検出装置及び検出方法を説明する。
【0024】
(本開示の実施形態)
図2A及び図2Bに示されるように、一実施形態に係るフィールド機器100は、タッチセンサ1と、カバー2と、表示部3と、筐体5とを備える。筐体5は、タッチセンサ1とカバー2と表示部3とを収容している。カバー2は、タッチセンサ1及び表示部3よりも正面側に位置し、タッチセンサ1及び表示部3を保護する。
【0025】
タッチセンサ1は、カバー2の裏面に位置する透明電極を含む。タッチセンサ1は、カバー2の表面と透明電極との間の静電容量を検出する。カバー2の表面にユーザの指又はスタイラス等の接触物が接触した場合、カバー2の表面に接触する接触物と透明電極との間の静電容量が増加する。タッチセンサ1は、静電容量の増加を検出することによって、カバー2の表面に対する接触物の接触を検出できる。タッチセンサ1は、接触物が接触する位置に近いほど、大きい静電容量を検出するように構成されるとする。つまり、接触位置がタッチセンサ1に近づいている場合に、タッチセンサ1が静電容量の増加を検出する。接触位置がタッチセンサ1から遠ざかっている場合に、タッチセンサ1が静電容量の減少を検出する。言い換えれば、接触物が接触する位置からタッチセンサ1までの距離に応じてタッチセンサ1が検出する静電容量が一意に決まる。
【0026】
カバー2は、表示部3に表示される内容が表面側からユーザに見えるように、透光性の部材で構成される。カバー2は、フィールド機器100が設置される環境に応じて構成される。カバー2は、例えば、高耐圧の材料で構成されてもよいし、耐薬品性を有する材料で構成されてもよい。カバー2は、例えばガラス又は樹脂等を含んで構成されてよい。
【0027】
表示部3は、例えば液晶パネルを含んでよい。表示部3は、液晶パネルに限られず、種々の表示デバイスを含んでよい。筐体5は、例えば樹脂等を材料として構成されてよい。
【0028】
図3に示されるように、フィールド機器100は、制御部12と、出力部20と、通信部30と、物理量測定部40とを更に備える。タッチセンサ1と制御部12とを含む構成は、検出装置10とも称される。つまり、フィールド機器100は、検出装置10を更に備える。タッチセンサ1は、A/Dコンバータを介して制御部12に接続されてもよい。物理量測定部40は、A/Dコンバータを介して制御部12に接続されてもよい。A/Dコンバータは、タッチセンサ1又は物理量測定部40が出力するアナログ信号をデジタル信号に変換して制御部12に出力する。
【0029】
制御部12は、フィールド機器100又は検出装置10の各構成部から情報を取得したり、各構成部を制御したりする。制御部12は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含んで構成されてよい。制御部12は、所定のプログラムを実行することによって、フィールド機器100又は検出装置10の種々の機能を実現してよい。
【0030】
制御部12は、記憶部を備えてよい。記憶部は、制御部12の動作に用いられる各種情報、又は、制御部12の機能を実現するためのプログラム等を格納してよい。記憶部は、制御部12のワークメモリとして機能してよい。記憶部は、例えば半導体メモリ等で構成されてよい。記憶部は、制御部12と別体で構成されてもよい。
【0031】
制御部12は、物理量測定部40から測定結果を取得する。制御部12は、測定結果を外部機器300に通知するために、測定結果に基づく電流信号を出力部20に生成させ、外部機器300に出力させる。制御部12は、出力部20に対して、電流信号を出力させるための制御情報を出力する。出力部20は、制御部12からの制御情報に基づいて電流信号を生成し、外部機器300に出力する。外部機器300は、電流信号に基づいて測定結果を取得できる。外部機器300は、測定結果を監視するモニタ機器であってよい。出力部20と外部機器300とは、4線式で接続されてもよいし、2線式で接続されてもよい。
【0032】
フィールド機器100から外部機器300に対して測定結果を通知するために用いる信号は、計装用標準信号とも称される。計装用標準信号は、例えば、4mA以上20mA以下の大きさの電流を含む。つまり、計装用標準信号は、所定範囲内で電流の大きさが制御された電流信号である。フィールド機器100は、例えば、差圧式伝送器であってよい。フィールド機器100は、差圧式伝送器に限られず、他の種々の装置であってよい。
【0033】
通信部30は、制御部12及び出力部20に接続されている。通信部30は、フィールド機器100を管理する上位機器200に接続される。上位機器200は、例えば、分散制御システム(DCS:Distributed Control System)を構成する機器であってよい。通信部30は、制御部12及び出力部20と上位機器200との間でデータを送受信する。フィールド機器100は、例えば、物理量測定部40の測定結果に関するデータを上位機器200に送信してもよい。通信部30は、例えば、LAN(Local Area Network)等の通信インタフェースを備えてよい。通信インタフェースは、有線又は無線によって上位機器200と通信可能に接続されてよい。通信部30は、上位機器200に限られず、他の種々の機器と通信可能に接続されてよい。
【0034】
物理量測定部40は、例えば、差圧センサ又は圧力センサ等を含んでよい。物理量測定部40は、温度センサ、流量センサ、又は、pHセンサ等を含んでよい。物理量測定部40は、これらに限られず、他の種々の物理量を測定するセンサを含んでよい。
【0035】
フィールド機器100は、物理量測定部40の測定結果を、外部機器300で取得できるデータに変換して出力する。制御部12は、測定結果に対する演算を実行することでデータを変換する。制御部12は、パラメータに基づいてデータを変換してよい。パラメータは、測定結果を変換する単位を指定する情報を含んでよい。パラメータは、測定結果の上限及び下限と、出力するデータの上限及び下限とを対応づける情報を含んでもよい。
【0036】
フィールド機器100は、ユーザがパラメータを設定できるように、検出装置10によってHMI(Human Machine Interface)の機能を提供する。フィールド機器の設定は、機器のケースを開けて外部の設定機器と配線で接続して実施されることがある。これに対して、本実施形態に係るフィールド機器100は、HMIの機能を利用してパラメータを設定できる。このようにフィールド機器100を操作して設定する方法は、LPS(Local Parameter Setting)と称される。
【0037】
フィールド機器100は、表示部3に、パラメータを設定するメニュー、設定されたパラメータの内容、又は、パラメータに基づいて変換された測定結果等を表示させる。フィールド機器100は、ユーザが指又はスタイラス等の接触物でカバー2にタッチしたり、カバー2にタッチした接触物をスライドしたりする動作を、タッチセンサ1によって検出する。フィールド機器100は、タッチセンサ1によって検出した動作をユーザが入力するコマンドとして解釈する。フィールド機器100は、入力されたコマンドに基づいて表示部3に表示させる内容を変更したり、パラメータの設定内容を変更したりする。
【0038】
(検出装置の動作例)
上述のとおり、制御部12は、検出装置10を制御する。制御部12は、タッチセンサ1から検出信号を取得して、カバー2の表面に対するユーザのタッチ又はスライド等の動作を、ユーザから入力されるコマンドとして解釈する。
【0039】
ユーザの指又はスタイラス等の接触物がカバー2の表面に接触する場合、タッチセンサ1からカバー2の表面に対する接触物の接触位置までの距離が短いほど、タッチセンサ1によって検出される静電容量が大きくなる。タッチセンサ1は、検出した静電容量に基づく検出信号を出力する。制御部12は、タッチセンサ1が出力する検出信号を、タッチセンサ1の出力として取得する。上述したとおり、タッチセンサ1が検出する静電容量は、接触位置からタッチセンサ1までの距離に応じて一意に決まる。したがって、タッチセンサ1の出力の大きさは、接触位置からタッチセンサ1までの距離に応じて一意に決まる。
【0040】
タッチセンサ1は、カバー2の表面に何も接触していない場合に0を表す検出信号を出力するように構成されてよい。つまり、タッチセンサ1は、検出信号の大きさをオフセットできるように構成されてよい。制御部12は、タッチセンサ1が出力する検出信号をオフセットしてもよい。例えば、制御部12は、カバー2の表面に何も接触していない場合にタッチセンサ1が出力した検出信号をオフセット信号として取得し、検出信号からオフセット信号を差し引いてもよい。
【0041】
図2Aに示されるように、タッチセンサ1は、タッチセンサSW1と、タッチセンサSW2と、タッチセンサSW3とを含む。タッチセンサ1の数は、3つに限られず、2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。以下、タッチセンサSW1、SW2及びSW3は、互いに区別されなくてもよい場合、複数のタッチセンサ1として表される。制御部12は、各タッチセンサ1から出力を取得する。ここで、制御部12は、各タッチセンサ1の出力に基づいて、接触位置の座標を検出しなくてもよい。
【0042】
制御部12は、各タッチセンサ1の出力を連続時間又は離散時間で取得する。制御部12が各タッチセンサ1の出力を離散時間で取得する場合、所定のサンプリング周期で取得してもよいし、不定間隔で取得してもよい。制御部12は、各タッチセンサ1の出力を、時間を媒介変数(パラメータ)として関連づけ、各タッチセンサ1の出力に対応する軸を基底とする仮想空間に描かれる1つの軌跡として把握する。制御部12がタッチセンサSW1、SW2及びSW3からの出力を取得する場合、所定期間にわたるタッチセンサSW1、SW2及びSW3それぞれの出力は、時間を媒介変数として関連づけられることによって、仮想的な3次元空間の軌跡として表される。タッチセンサ1の数がN個(N:自然数)である場合、所定期間にわたる各タッチセンサ1の出力は、時間を媒介変数として関連づけられることによって、仮想的なN次元空間の軌跡として表される。
【0043】
<上から下へのスライド>
図4Aに示されるように、カバー2の表面において、矢印で示されるようにY軸の負の方向に向けて接触物がスライドする場合が説明される。この場合、タッチセンサSW1、SW2及びSW3の出力は、図4Bのグラフに示される。図4Bのグラフにおいて、横軸は、時間(t)の経過を表す。縦軸は、各タッチセンサ1の出力を表す。最初に、Y軸の正の方向の側(上側)に位置するタッチセンサSW3の出力が大きくなる。次に、Y軸の負の方向の側(下側)に位置するタッチセンサSW1及びSW2の出力が大きくなる。
【0044】
図4Bに示される各タッチセンサ1の出力は、時間を媒介変数として関連づけることによって、図4Cに示される軌跡として表される。図4Cにおいて、SW1、SW2及びSW3の3つの直交軸は、3次元空間の基底を構成しており、それぞれタッチセンサSW1、SW2及びSW3の出力を表す。図4Cに表される軌跡は、原点を出発してタッチセンサSW3の出力が増大する方向に進む。次に、軌跡は、タッチセンサSW3の出力が減少しながらタッチセンサSW1及びSW2の出力が増大する方向に進む。さらに、軌跡は、タッチセンサSW1及びSW2の出力が減少する方向に進み、原点に戻っている。
【0045】
制御部12は、ユーザによるスライド入力があった場合に各タッチセンサ1の出力を取得して軌跡を生成する。制御部12は、その軌跡が図4Cに示される軌跡に一致する又は類似する場合に、カバー2の表面においてY軸の負の方向に向かってスライドする入力があったと判定してよい。
【0046】
<下から上へのスライド>
図5Aに示されるように、カバー2の表面において、矢印で示されるようにY軸の正の方向に向けて接触物がスライドする場合が説明される。この場合、タッチセンサSW1、SW2及びSW3の出力は、図5Bのグラフに示される。図5Bのグラフにおいて、横軸は、時間(t)の経過を表す。縦軸は、各タッチセンサ1の出力を表す。最初に、Y軸の負の方向の側(下側)に位置するタッチセンサSW1及びSW2の出力が大きくなる。次に、Y軸の正の方向の側(上側)に位置するタッチセンサSW3の出力が大きくなる。
【0047】
図5Bに示される各タッチセンサ1の出力は、時間を媒介変数として関連づけることによって、図5Cに示される軌跡として表される。図5Cにおいて、SW1、SW2及びSW3の3つの直交軸は、3次元空間の基底を構成しており、それぞれタッチセンサSW1、SW2及びSW3の出力を表す。図5Cに表される軌跡は、原点を出発してタッチセンサSW1及びSW2の出力が増大する方向に進む。次に、軌跡は、タッチセンサSW1及びSW2の出力が減少しながらタッチセンサSW3の出力が増大する方向に進む。さらに、軌跡は、タッチセンサSW3の出力が減少する方向に進み、原点に戻っている。
【0048】
制御部12は、ユーザによるスライド入力があった場合に各タッチセンサ1の出力を取得して軌跡を生成する。制御部12は、その軌跡が図Cに示される軌跡に一致する又は類似する場合に、カバー2の表面においてY軸の正の方向に向かってスライドする入力があったと判定してよい。
【0049】
<右から左へのスライド>
図6Aに示されるように、カバー2の表面において、矢印で示されるようにX軸の負の方向に向けて接触物がスライドする場合が説明される。この場合、タッチセンサSW1、SW2及びSW3の出力は、図6Bのグラフに示される。図6Bのグラフにおいて、横軸は、時間(t)の経過を表す。縦軸は、各タッチセンサ1の出力を表す。最初に、X軸の正の方向の側(右側)に位置するタッチセンサSW2の出力が大きくなる。次に、タッチセンサSW2よりX軸の負の方向の側(左側)に位置するタッチセンサSW3の出力が大きくなる。さらに、タッチセンサSW3よりX軸の負の方向の側(左側)に位置するタッチセンサSW1の出力が大きくなる。
【0050】
図6Bに示される各タッチセンサ1の出力は、時間を媒介変数として関連づけることによって、図6Cに示される軌跡として表される。図6Cにおいて、SW1、SW2及びSW3の3つの直交軸は、3次元空間の基底を構成しており、それぞれタッチセンサSW1、SW2及びSW3の出力を表す。図6Cに表される軌跡は、原点を出発してタッチセンサSW2の出力が増大する方向に進む。次に、軌跡は、タッチセンサSW3の出力が増大する方向に進む。タッチセンサSW3の出力が増大している間、タッチセンサSW2の出力は最大値まで増加し、その後減少し始める。さらに、軌跡は、タッチセンサSW1の出力が増大する方向に進む。タッチセンサSW1の出力が増大している間、タッチセンサSW3の出力は最大値まで増加し、その後減少し始める。さらに、タッチセンサSW1の出力が減少する方向に進み、原点に戻っている。
【0051】
制御部12は、ユーザによるスライド入力があった場合に各タッチセンサ1の出力を取得して軌跡を生成する。制御部12は、その軌跡が図6Cに示される軌跡に一致する又は類似する場合に、カバー2の表面においてX軸の負の方向に向かってスライドする入力があったと判定してよい。
【0052】
<左から右へのスライド>
図7Aに示されるように、カバー2の表面において、矢印で示されるようにX軸の正の方向に向けて接触物がスライドする場合が説明される。この場合、タッチセンサSW1、SW2及びSW3の出力は、図7Bのグラフに示される。図7Bのグラフにおいて、横軸は、時間(t)の経過を表す。縦軸は、各タッチセンサ1の出力を表す。最初に、X軸の負の方向の側(左側)に位置するタッチセンサSW1の出力が大きくなる。次に、タッチセンサSW1よりX軸の正の方向の側(右側)に位置するタッチセンサSW3の出力が大きくなる。さらに、タッチセンサSW3よりX軸の正の方向の側(右側)に位置するタッチセンサSW2の出力が大きくなる。
【0053】
図7Bに示される各タッチセンサ1の出力は、時間を媒介変数として関連づけることによって、図7Cに示される軌跡として表される。図7Cにおいて、SW1、SW2及びSW3の3つの直交軸は、3次元空間の基底を構成しており、それぞれタッチセンサSW1、SW2及びSW3の出力を表す。図7Cに表される軌跡は、原点を出発してタッチセンサSW1の出力が増大する方向に進む。次に、軌跡は、タッチセンサSW3の出力が増大する方向に進む。タッチセンサSW3の出力が増大している間、タッチセンサSW1の出力は最大値まで増加し、その後減少し始める。さらに、軌跡は、タッチセンサSW2の出力が増大する方向に進む。タッチセンサSW2の出力が増大している間、タッチセンサSW3の出力は最大値まで増加し、その後減少し始める。さらに、タッチセンサSW2の出力が減少する方向に進み、原点に戻っている。
【0054】
制御部12は、ユーザによるスライド入力があった場合に各タッチセンサ1の出力を取得して軌跡を生成する。制御部12は、その軌跡が図7Cに示される軌跡に一致する又は類似する場合に、カバー2の表面においてX軸の正の方向に向かってスライドする入力があったと判定してよい。
【0055】
<所定方向へのスライド>
接触物がX軸又はY軸の沿った方向にスライドする入力を検出する例が説明されてきた。接触物が例えばX軸又はY軸に対して所定角度の傾きを有する任意の方向にスライドする場合であっても、その入力は検出され得る。
【0056】
制御部12は、接触物が所定方向にスライドした場合における軌跡をあらかじめ取得しておく。制御部12は、ユーザによるスライド入力があった場合に各タッチセンサ1の出力を取得する。制御部12は、各タッチセンサ1の出力を、時間を媒介変数として関連づけることによって軌跡として表す。制御部12は、その軌跡があらかじめ取得した軌跡に一致する又は類似する場合に、所定パターンに沿ってスライドする入力があったと判定してよい。
【0057】
<パターン入力>
接触物が一方向にスライドする入力を検出する例が説明されてきた。接触物が例えばZ字又はO字等の所定パターンに沿ってスライドする場合であっても、その入力は検出され得る。
【0058】
制御部12は、接触物が所定パターンに沿ってスライドした場合における軌跡をあらかじめ取得しておく。制御部12は、ユーザによるスライド入力があった場合に各タッチセンサ1の出力を取得して軌跡を生成する。制御部12は、その軌跡があらかじめ取得した軌跡に一致する又は類似する場合に、所定パターンに沿ってスライドする入力があったと判定してよい。
【0059】
所定パターンとして一筆書きできるパターンが採用されてもよい。このようにすることで、制御部12は、1つの軌跡に基づいて入力を判定できる。その結果、所定パターンに沿ったスライド動作が簡便に検出され得る。
【0060】
制御部12は、接触物がカバー2の表面に接触しているか監視してよい。制御部12は、接触物のカバー2の表面への接触を検出し始めてから、接触物のカバー2の表面への接触を検出しなくなるまでの間に各タッチセンサ1の出力を取得し、この間の出力に基づく軌跡を1つの軌跡として、入力されたパターンを判定してよい。
【0061】
以上述べてきたように、本実施形態に係る検出装置10は、タッチセンサ1の出力を接触位置の座標に変換せず、出力の時間変化データのままで処理して、スライド入力のパターンを判定できる。このようにすることで、比較例に係る検出装置90(図1参照)よりも処理ステップ数が削減される。その結果、スライド動作が簡便に検出され得る。また、接触位置の座標に変換しないことによって、座標の変換で生じる誤差に起因する誤入力が防がれる。つまり、座標の変換誤差を小さくするためにタッチセンサ1の数を増やす必要が無くなる。その結果、本実施形態に係る検出装置10は、タッチセンサ1の数を増やさずに誤入力を低減できる。
【0062】
また、本実施形態に係る検出装置10は、タッチセンサ1の出力を座標軸とするN次元空間における軌跡として処理することによって、スライド入力のパターンを簡便に判定できる。
【0063】
上述したとおり、接触物が接触する位置からタッチセンサ1までの距離に応じてタッチセンサ1の検出信号の大きさが一意に決まる。これによって、接触物が所定パターンに沿ってスライドした場合における軌跡が、パターンごとに一意に決まる。その結果、誤入力が低減され得る。
【0064】
(フィールド機器の操作例)
フィールド機器100は、表示部3にメニュー画面を表示して、ユーザの操作入力を受け付けてよい。フィールド機器100の制御部12は、例えば図8Aに示されるメニュー画面を表示部3に表示させてよい。Setupと表示されている項目は、フィールド機器100のパラメータを設定するための項目であってよい。Alarmと表示されている項目は、フィールド機器100におけるアラーム基準を設定するための項目であってよい。Calibrateと表示されている項目は、フィールド機器100の校正を実施するための項目であってよい。
【0065】
仮に、Setupと記載されている項目が選択されるとする。この場合、制御部12は、図8Bに示されるメニュー画面を表示部3に表示させてよい。Variableと表示されている項目は、フィールド機器100が出力する値の種類又は単位等を設定するための項目であってよい。Functionと表示されている項目は、フィールド機器100が出力する値を平均化したり二乗平均をとったりする等の演算処理を設定するための項目であってよい。Scaleと表示されている項目は、フィールド機器100が出力する信号の上限及び下限に対応づける、物理量測定部40の測定結果の上限及び下限を設定するための項目であってよい。
【0066】
メニュー画面は、階層化されてよい。メニュー画面の階層数は、2層に限られず、3層以上であってよい。
【0067】
制御部12は、スライド入力があった場合に、メニュー画面においてハイライト表示されている項目を動かしてよい。例えば、制御部12は、図4Aに例示されるスライド入力(上から下に向かうスライド入力)があったと判定した場合、現在ハイライト表示されている項目のハイライトを解除するとともに、その下の項目をハイライト表示に変更してよい。例えば、制御部12は、図5Aに例示されるスライド入力(下から上に向かうスライド入力)があったと判定した場合、現在ハイライト表示されている項目のハイライトを解除するとともに、その上の項目をハイライト表示に変更してよい。
【0068】
制御部12は、スライド入力があった場合に、メニュー画面の階層を変更してよい。例えば、制御部12は、図6Aに例示されるスライド入力(右から左に向かうスライド入力)があったと判定した場合、現在表示しているメニュー画面の階層よりも1つ上位の階層のメニュー画面を表示部3に表示させてよい。例えば、制御部12は、図7Aに例示されるスライド入力(左から右に向かうスライド入力)があったと判定した場合、現在表示しているメニュー画面の階層よりも1つ下位の階層のメニュー画面を表示部3に表示させてよい。
【0069】
制御部12は、スライド入力があった場合に、メニュー画面に表示されているコマンドを実行してよい。例えば、制御部12は、Z字等の所定パターンのスライド入力があったと判定した場合、ハイライト表示されているコマンドを実行してよい。
【0070】
フィールド機器100を操作するコマンドと、スライド入力のパターンとの関係は、上述の例に限られない。制御部12は、上下方向のスライド入力と異なるスライド入力があった場合にハイライト表示されている項目を動かしてもよい。制御部12は、左右方向のスライド入力と異なるスライド入力があった場合にメニュー画面の階層を変更してもよい。制御部12は、種々のパターンのスライド入力を条件として各操作を実行してもよい。
【0071】
本実施形態に係るスライド入力の検出は、単純なLPSの操作入力だけではなく、誤動作防止のためにロックをはずす動作にも適用できる。例えば、フィールド機器100は、カバー2の上で特定の模様を指でなぞるとロックがはずれてLPS機能が有効になるように構成されてもよい。
【0072】
(フローチャート)
検出装置10は、スライド入力の検出方法として、図9のフローチャートに例示される手順を実行してよい。図9のフローチャートに例示される手順は、プロセッサに実行させる検出プログラムとして実現されてもよい。
【0073】
検出装置10の制御部12は、複数のタッチセンサ1から検出信号を取得する(ステップS1)。制御部12は、検出信号の取得を継続してよい。
【0074】
制御部12は、検出信号に基づいて、カバー2に対して接触物が接触を開始したことを検出する(ステップS2)。制御部12は、接触物が接触を開始したことを検出するまでステップS1及びS2の手順を繰り返してよい。
【0075】
制御部12は、接触物が接触を開始した後に取得した検出信号を格納する(ステップS3)。制御部12は、検出信号を記憶部に格納してもよい。制御部12は、連続した信号として検出信号を格納してもよいし、所定のタイミングでサンプリングした離散信号として検出信号を格納してもよい。所定のタイミングは、周期的なタイミングであってよいし、不定期のタイミングであってもよい。
【0076】
制御部12は、接触物の接触が終了したことを検出したか判定する(ステップS4)。制御部12は、接触物の接触が終了したことを検出していない場合(ステップS4:NO)、つまり、接触物の接触が続いていることを検出している場合、ステップS3の手順に戻って検出信号の格納を続ける。
【0077】
制御部12は、接触物の接触が終了したことを検出した場合(ステップS4:YES)、検出信号の格納を終了し、接触物が接触していた間に取得した検出信号の時間変化データを生成する(ステップS5)。時間変化データは、時刻と検出信号の大きさとを関連づけるデータを含む。
【0078】
制御部12は、制御部12がフィールド機器100の操作入力とみなすパターンに対応する登録パターンと、ステップS2の手順からステップS4の手順までの間に接触物によって入力されたスライドのパターンに対応する入力パターンとの類似度を算出する(ステップS6)。登録パターンは、例えば、上下方向又は左右方向にスライドするパターンを含んでよい。登録パターンは、例えばZ字又はO字等の所定パターンを含んでよい。
【0079】
制御部12は、登録パターンでスライド入力があった場合の検出信号の時間変化データをあらかじめ取得しておく。制御部12は、あらかじめ取得した時間変化データを記憶部に格納しておいてよい。制御部12は、複数の登録パターンについて、対応する時間変化データをあらかじめ取得してよい。
【0080】
制御部12は、ステップS5の手順で生成した時間変化データと、あらかじめ取得しておいた時間変化データとを比較し、これらのデータの類似度を算出する。類似度の算出方法は、後述される。算出した類似度は、登録パターンと入力パターンとの類似度とみなされる。
【0081】
制御部12は、算出した類似度が閾値以上か判定する(ステップS7)。
【0082】
制御部12は、類似度が閾値以上である場合(ステップS7:YES)、登録パターンの入力があったと判定する(ステップS8)。制御部12は、ステップS8の手順を実行した後、図9のフローチャートの手順の実行を終了する。
【0083】
制御部12は、類似度が閾値以上でない場合(ステップS7:NO)、つまり、類似度が閾値未満である場合、登録パターンの入力がなかったと判定する(ステップS9)。制御部12は、ステップS9の手順を実行した後、図9のフローチャートの手順の実行を終了する。
【0084】
制御部12は、図9のフローチャートの手順の実行によって得られた判定結果に基づいて、フィールド機器100の各構成部を制御する。
【0085】
以上述べてきたように、本実施形態に係る検出方法によれば、タッチセンサ1の検出信号を接触位置の座標に変換することなくスライド入力のパターンが判定され得る。このようにすることで、比較例に係る検出装置90(図1参照)よりも処理ステップ数が削減される。その結果、誤入力が低減され得る。
【0086】
本実施形態に係る検出装置10及び検出方法において、制御部12は、所定パターンのスライド入力に対応する時間変化データをあらかじめ取得しておく。制御部12は、ユーザによるスライド入力で生じたタッチセンサ1の出力に基づく時間変化データを生成する。制御部12は、ユーザによるスライド入力が所定パターンのスライド入力に対応するか判定する。つまり、制御部12は、ユーザによるスライド入力を対象として所定パターンのスライド入力があったか判定する。制御部12が所定パターンのスライド入力があったか判定する対象となる、ユーザによるスライド入力は、判定対象入力とも称される。制御部12は、あらかじめ取得しておいた所定パターンのスライド入力に対応する時間変化データと、判定対象入力に対応する時間変化データとの類似度を算出し、類似度に基づいて、所定パターンのスライド入力があったか判定する。このようにすることで、制御部12は、スライド入力を簡便に判定できる。
【0087】
制御部12は、登録パターンを取得するために、フィールド機器100をティーチングモードで動作させてもよい。制御部12は、ティーチングモードにおいて入力されたスライド入力のパターンを登録パターンとして格納してもよい。
【0088】
(検出装置における類似度算出の具体例)
以下、制御部12が図9のステップS6の手順として実行する類似度の算出方法が具体的に説明される。
【0089】
<算出例1:軌跡の類似判定>
図10に示されるように、タッチセンサSW1、SW2及びSW3それぞれの出力を表す軸を基底とする三次元空間に極座標が導入される。極座標は、r、θ及びφの3つのパラメータによって所定点の位置を特定する座標系である。rは、原点から所定点までの距離を表す。θは、原点から所定点までを結ぶ線分とSW3に対応する軸とがなす角度を表す。言い換えれば、θは、SW3に対応する軸に対する回転角を表す。φは、原点からSW1-SW2平面に所定点を射影した点までを結ぶ線分とSW1に対応する軸とがなす角度を表す。言い換えれば、φは、SW1-SW2平面における、SW1に対応する軸に対する回転角を表す。θ及びφの値は、0からπ/2までの範囲内で変動する。
【0090】
タッチセンサSW1、SW2及びSW3それぞれの出力はそれぞれ、単に、SW1、SW2及びSW3と表されるとする。SW1、SW2及びSW3それぞれの値と、極座標の各パラメータとの関係は、以下の式(1)で表される。
【数1】
【0091】
制御部12は、タッチセンサSW1、SW2及びSW3それぞれの出力に式(1)を適用することによって、r、θ及びφを算出できる。また、タッチセンサSW1、SW2及びSW3それぞれの出力に基づく軌跡を構成する所定点は、r、θ及びφで特定される。
【0092】
ユーザの指又はスタイラス等の接触物がカバー2の表面に接触して上下方向にスライドする場合、タッチセンサSW3から接触位置までの距離が大きく変動する。その結果、タッチセンサSW3の出力が大きく変動する。タッチセンサSW3の出力の変動に伴って、θが大きく変動し得る。スライドの方向が左右方向であれば、タッチセンサSW1及びSW2から接触位置までの距離が大きく変動する。その結果、タッチセンサSW1及びSW2の出力が大きく変動する。タッチセンサSW1及びSW2の出力の変動に伴って、φが大きく変動し得る。
【0093】
図11に、ユーザの指又はスタイラス等の接触物がカバー2の表面に接触して上下方向にスライドする場合における各タッチセンサ1の出力に基づく軌跡の一例が示される。軌跡に含まれる任意の点は、極座標で表される。極座標のパラメータであるr、θ及びφはそれぞれ動き得るが、ここでは、説明の簡易化のために、φを一定として、θ及びrの動きだけに注目する。図11の例において、軌跡は、φが一定である範囲内で描かれるとみなされる。この場合、SW1に対応する軸に対して角度φだけ傾斜する方向に延びる軸が存在すると仮定する。仮定される軸は、SWφと表される。
【0094】
この仮定の下で、図12に示されるように、軌跡は、SWφ-SW3平面内に描かれる。軌跡に含まれる任意の点を特定するφの値は一定である。θの値は、0からπ/2までの範囲で変動する。軌跡は、複数の区間に分けられてよい。図12において、軌跡は、第1区間から第k区間までのk個の区間に分けられている。軌跡の各区間に含まれる点を特定するθの値は、軌跡に対応するk個の区間に分けられる。
【0095】
軌跡に含まれる所定点を特定するθの値は、k個の区間のいずれかの区間に含まれる。また、所定点を特定するrの値は、θを引数とする関数で表され得る。制御部12は、接触物の接触位置に対応するθの値がk個の区間のうちどの区間に含まれるか算出する。また、制御部12は、θの値が第i区間に含まれる場合におけるrの値を算出する。制御部12は、θの値が含まれる区間と、そのときのrの値とを隠れマルコフモデルで判定する。
【0096】
隠れマルコフモデルにおいて、状態の遷移確率が定義される。状態は、θの値が含まれる区間に対応する。例えば、θが時刻t-1において第i区間に含まれる場合に、時刻tにおいてθが第j区間に含まれる確率は、遷移確率として定義され、Ai,jと表される。言い換えれば、Ai,jは、時刻t-1から時刻tに進むときにθが第i区間から第j区間に移動する確率に対応する。区間の数がk個である場合、状態数がkである。k個の状態間の遷移確率は、k×k次の行列Aとして表され得る。遷移確率Ai,jは、行列Aの要素を構成する。行列Aを構成する要素は、図13に示される表の形式で表現され得る。図13の表において、時刻t-1においてθが含まれる区間が行に対応する。時刻tにおいてθが含まれる区間が列に対応する。遷移確率Ai,jは、行が第i区間に対応し且つ列が第j区間に対応するセルに記載されている。
【0097】
軌跡が連続することを考慮すると、θが近隣の区間に移動する確率は、θが遠くの区間に移動する確率よりも高くなる傾向にある。例えば、Ai,i+1は、Ai,i+2より高くなる傾向にある。また、Ai,1又はAi,kは、ゼロに近くなる傾向にある。
【0098】
隠れマルコフモデルにおいて、rは、連続型確率変数である。rの値は、図14に例示されるように確率分布で表される。確率分布は、正規分布に従うように表されてよい。確率分布は、θが含まれる区間毎に生成される。例えば、θが第i区間に含まれる場合におけるrの値の確率分布と、θが第j区間に含まれる場合におけるrの値の確率分布とは、別個の確率分布として生成される。
【0099】
以上のように、隠れマルコフモデルは、θが含まれる区間の遷移確率の行列と、θが第i区間に含まれる場合のrの値の確率分布とによって特定される。制御部12は、あるパターンのスライド入力があった場合の軌跡の極座標パラメータの変化に基づいて、θが含まれる区間の遷移確率の行列と、θが第i区間に含まれる場合のrの値の確率分布とを推定する。これによって、隠れマルコフモデルが推定される。
【0100】
制御部12は、カバー2の表面に接触する接触物が上から下に向けてスライドする場合、及び、下から上に向けてスライドする場合のそれぞれの場合において、隠れマルコフモデルを推定してよい。制御部12は、スライド入力のパターンごとに隠れマルコフモデルを推定してよい。制御部12は、推定した隠れマルコフモデルを、スライド入力のパターンに関連づける。制御部12は、推定した隠れマルコフモデルを、スライド入力のパターンに関連づけて記憶部に格納してよい。
【0101】
制御部12は、接触物がカバー2の表面に接触したことの検出を開始してから終了するまでの期間において、θが含まれる区間とrの値とを取得し、それらを時系列に並べた時間変化データを生成する。時刻tにおいてθが含まれる区間がzと表されるとする。時刻tにおけるrの値がrと表されるとする。接触検出の開始時刻が0とされ、且つ、終了時刻がTとされる場合、時間変化データは、(z,r)から(z,r)までのT+1組のデータを含む。制御部12が時間変化データを生成する時点で、どのようなパターンのスライド入力があったかわからない。
【0102】
制御部12は、生成した時間変化データの同時確率を隠れマルコフモデルを用いて算出する。同時確率は、隠れマルコフモデルを特定するパラメータに基づいて算出される。隠れマルコフモデルを特定するパラメータは、遷移確率を表す行列Aと、rの確率分布とを含む。同時確率は、隠れマルコフモデルにおいて、所定の時間変化データどおりにθの状態が遷移し、rが生成される確率を表す。同時確率が高い場合、隠れマルコフモデルに当てはめた時間変化データは、その隠れマルコフモデルに関連づけられるパターンのスライド入力によって生成された確率が高い。同時確率は、類似度とみなされ得る。
【0103】
制御部12は、類似度(同時確率)が閾値以上である場合に、その隠れマルコフモデルに関連づけられるパターンのスライド入力があったと判定してよい。制御部12は、類似度(同時確率)が最も高くなる隠れマルコフモデルに対応づけられるパターンのスライド入力があったと判定してよい。制御部12は、最大の類似度(同時確率)が閾値未満である場合、つまり、どの隠れマルコフモデルに当てはめても類似度(同時確率)が閾値以上とならない場合、制御部12があらかじめ把握しているパターンでのスライド入力が無かったと判定してもよい。
【0104】
上述の説明において、φが一定とみなされるとしたが、θが一定とみなされる場合でも同じ考え方が適用され得る。したがって、制御部12は、左右方向のスライド入力があったかを、同時確率を算出することによって判定できる。
【0105】
また、θ及びφが両方とも変化する場合でも同じ考え方が適用され得る。したがって、制御部12は、一方向のスライドに限られず、Z字又はO字等の所定のパターンのスライド入力があったかを、同時確率を算出することによって判定できる。
【0106】
<算出例2:多項式近似による類似判定>
制御部12は、カバー2の表面に接触物が接触したスライドしている間に取得された、タッチセンサSW1、SW2及びSW3それぞれの出力を時間の関数として扱うことによって、類似度を算出してもよい。タッチセンサ1の出力を時間の関数として表した信号は、出力信号とも称される。本例において、制御部12は、出力信号を時間の関数として表し、リファレンス信号との類似度を算出する。
【0107】
あるパターンのスライド入力があった場合に得られた出力信号は、そのパターンのスライド入力に関連づけられたリファレンス信号とみなされる。所定パターンのスライド入力に関連づけられたリファレンス信号は、所定パターンのリファレンス信号とも称される。例えば、上から下に向かうスライド入力があった場合の出力信号は、上から下に向かうスライド入力のリファレンス信号とみなされる。制御部12は、あらかじめ所定パターンのスライド入力が実行された場合における各タッチセンサ1の出力を離散時間で取得し線形補間することによって算出した出力信号を、リファレンス信号として採用してよい。制御部12は、あらかじめ所定パターンのスライド入力が実行された場合における各タッチセンサ1の出力を連続に取得することによって得られる出力信号を、リファレンス信号として採用してもよい。制御部12は、上から下に向かうスライド入力、又は、左から右に向かうスライド入力等のパターンごとにリファレンス信号を取得してよい。
【0108】
制御部12は、どのようなパターンか不明のスライド入力に基づいて各タッチセンサ1が出力する値を離散時間で取得し線形補間することによって出力信号を算出する。制御部12は、リファレンス信号と出力信号との類似度を算出する。制御部12は、類似度が閾値以上となった場合に、そのリファレンス信号に関連づけられたパターンでスライド入力されたと判定してよい。制御部12は、複数のリファレンス信号について出力信号との類似度を算出し、類似度が最大となるリファレンス信号に関連づけられたパターンでスライド入力されたと判定してもよい。制御部12は、最大の類似度が閾値未満である場合、つまり、どのリファレンス信号の類似度も閾値以上とならない場合、制御部12があらかじめ把握しているパターンでのスライド入力が無かったと判定してもよい。
【0109】
制御部12は、以下のようにして、リファレンス信号と出力信号との類似度を算出してよい。
【0110】
説明で用いられる信号は、以下の式(2)~式(6)のように表されるとする。式(2)は、タッチセンサ1の出力信号を表す。式(3)は、上から下に向かうスライド入力に対応するリファレンス信号を表す。式(4)は、下から上に向かうスライド入力に対応するリファレンス信号を表す。式(5)は、左から右に向かうスライド入力に対応するリファレンス信号を表す。式(6)は、右から左に向かうスライド入力に対応するリファレンス信号を表す。
【数2】
【0111】
(t)は、タッチセンサSW_iの出力信号を表す。S (t)は、上から下に向かうスライド入力に対応する、タッチセンサSW_iのリファレンス信号を表す。S (t)は、下から上に向かうスライド入力に対応する、タッチセンサSW_iのリファレンス信号を表す。S (t)は、左から右に向かうスライド入力に対応する、タッチセンサSW_iのリファレンス信号を表す。S (t)は、右から左に向かうスライド入力に対応する、タッチセンサSW_iのリファレンス信号を表す。iは、1、2及び3のいずれかである。SW_1、SW_2及びSW_3はそれぞれ、SW1、SW2及びSW3に読み替えられる。
【0112】
時間の関数として取得されたタッチセンサSW3のリファレンス信号は、図15Aに例示されるグラフのように表され得る。時間の関数として取得されたタッチセンサSW3の出力信号は、図15Bに例示されるグラフのように表され得る。図15A及び図15Bにおいて、横軸は時刻を表す。縦軸は出力を表す。図15A及び図15Bにおいて、上から下に向かうスライド入力に対応する、タッチセンサSW3のリファレンス信号及び出力が例示されている。タッチセンサSW1及びSW2についても同様に、リファレンス信号及び出力が時間の関数として取得されている。また、他のパターンのスライド入力に対応するリファレンス信号も取得されている。
【0113】
リファレンス信号と出力とは、両方とも時間の関数として取得されている。スライドの速さの違いがある場合、関数のグラフの時間軸のスケールが異なる。例えば、図16Aに示されるように、S(t)のグラフと、S (t)のグラフとで時間軸のスケールが異なる場合、制御部12がこれらのグラフを単純に比較すると類似度が低くなる。したがって、制御部12は、出力とリファレンス信号とを単純に比較できず、時間軸のスケールを考慮して比較する必要がある。
【0114】
そこで、図16Bに示されるように、S(t)のグラフは、その時間軸に係数αをかけて、さらに係数βで平行移動することによって、S(α・t+β)のグラフに補正されてよい。0<α<1が成立するようにαの値が選択されることで、タッチセンサ1の出力のグラフは、図17Aに示されるように、時間軸に沿って引き伸ばした形状となる。α>1が成立するようにαの値が選択されることで、タッチセンサ1の出力のグラフは、図17Bに示されるように、時間軸に沿って圧縮された形状となる。また、β>0となるようにβの値が選択されることで、タッチセンサ1の出力のグラフは、図18Aに示されるように、時間軸に沿って、時間が戻る方向に平行移動したグラフとなる。β<0となるようにβの値が選択されることで、タッチセンサ1の出力のグラフは、図18Bに示されるように、時間軸に沿って、時間が進む方向に平行移動したグラフとなる。
【0115】
以上説明したように、制御部12は、α及びβの値を変更することによって、タッチセンサ1の出力のグラフを時間軸に沿って変形できる。制御部12は、αの値として、α、α、・・・、α等の所定値、及び、βの値として、β、β、・・・、β等の所定値をあらかじめ準備しておき、各所定値に対して類似度を算出してよい。制御部12は、各所定値に対して算出した類似度のうち、最も高い値を比較対象のリファレンス信号との類似度として採用してよい。制御部12は、最も高い類似度も閾値未満であるリファレンス信号に類似していないと判定してよい。このようにすることで、カバー2の表面への接触が意図しない入力に類似すると判定されてしまい誤動作を引き起こすことが避けられ得る。
【0116】
以下、アルゴリズムの一例が示される。類似度は、dで表される。閾値は、dthで表される。類似度の最適値は、比較しているリファレンス信号と出力信号とが最も似ているときの類似度として定義される値であり、doptで表される。
【0117】
【表1】
【0118】
上述のアルゴリズムにおいて、類似度d(r rref )の計算例が代表として説明されている。他の類似度は、同じように計算され得る。類似度は、リファレンス信号とタッチセンサ1の出力との距離の近さとして算出される。この例において、リファレンス信号とタッチセンサ1の出力とは、SW1、SW2及びSW3の3つの要素からなる三次元ベクトルで表される。制御部12は、時間軸を一致させた上で、リファレンス信号とタッチセンサ1の出力との差分のノルムを各時刻において計算することによって、各時刻における2つのベクトル間の距離を計算できる。そして、制御部12は、所定範囲内の時刻について上述の計算を実行し、各時刻において計算したノルムの累積和を計算する。以上の計算で得られる結果は、リファレンス信号とタッチセンサ1の出力との距離に基づくので、リファレンス信号とタッチセンサ1の出力とが類似するほど小さい値になる。制御部12は、以上の計算で得られる結果を所定値から減算した値を類似度として採用してよい。制御部12は、以上の計算で得られる結果の逆数を類似度として採用してもよい。これらの場合、リファレンス信号とタッチセンサ1の出力とが類似するほど、類似度が大きい値になる。制御部12は、以上の計算で得られる結果をそのまま類似度として採用してもよい。この場合、類似度の値が小さいほどリファレンス信号とタッチセンサ1の出力とが類似すると定義される。以上述べてきたように、類似度が高いという表現は、必ずしも類似度の値が大きいことを意味しない。リファレンス信号とタッチセンサ1の出力との差が小さいほど、類似度が高いといえる。類似度が高いほど、類似度の値が大きくされてもよいし、小さくされてもよい。
【0119】
類似度の計算アルゴリズムが以下に例示される。
【表2】
【0120】
類似度計算の方法は、例えば図19を参照して説明される。制御部12は、ある時刻tでリファレンス信号とタッチセンサ1の出力とを取得し、三次元ベクトルを作成する。制御部12は、2つのベクトルの距離を計算する。制御部12は、この処理を他の時刻(t,t,t,・・・,t)に対しても行い、全ての距離の総和を計算することで類似度を算出できる。
【0121】
類似度は、上述の算出例1及び2に限られず、種々の方法で算出されてもよい。
【0122】
本開示に係る実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0123】
通常、タッチセンサ1を設置すれば、各タッチセンサ1に指が接触したか接触していないかの2つの状態を検出するにとどまる。設置した3つのタッチセンサ1から検出される情報を三次元空間上での軌跡と考えることで、多数のタッチセンサ1を配置しなくても、指等の接触物が画面をなぞるような動作が認識され得る。
【0124】
また、本実施形態に係る検出装置10は、静電容量方式のタッチセンサ1を用いており、筐体5又はカバー2に物理的なスイッチを設置しないので新規にタッチセンサ1を搭載する場合に筐体5の大幅な変更をしなくてもよい。
【0125】
本実施形態において、具体例として、3個のタッチセンサ1を備える構成が説明されてきた。タッチセンサ1の数は、3個に限られず、2個であってもよいし、4個以上であってもよい。制御部12は、N個のタッチセンサ1から出力を取得することによって、N次元空間に描かれる軌跡を用いて、入力されたスライド入力のパターンを判別してよい。
【0126】
具体例では、スライド入力、つまり、なぞる動作のみを対象とした説明がされてきた。一方で、単純にカバー2の表面をタップする操作によるタッチセンサ1の出力が軌跡とみなされてもよい。タップ操作で生成される軌跡が他の操作で生成される軌跡と区別される場合、本実施形態に係る検出方法によって、タップ操作も検出され得る。また、タップ操作が検出される場合、タッチセンサ1が配置されていない場所でも仮想的にスイッチを構成できる。つまり、検出装置10は、スライド入力だけでなくタップ操作も含む所定パターンの入力があったか判定してもよい。
【0127】
本実施形態に係る検出装置10及び検出方法によれば、例えば球殻のような立体的で複雑な形をしている物体であっても、少数のタッチセンサ1を配置して指等の接触物が接触したことを検出できれば、その物体の上をなぞった指の動きを認識できる。
【0128】
検出装置10は、フィールド機器100に限られず他の種々の機器において、接触物のスライド入力を検出するために用いられてよい。
【符号の説明】
【0129】
10 検出装置
100 フィールド機器(1:タッチセンサ、2:カバー、3:表示部、5:筐体、12:制御部、20:出力部、30:通信部、40:物理量測定部)
200 上位機器
300 外部機器
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図16A
図16B
図17A
図17B
図18A
図18B
図19