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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】絶縁型DC/DC変換器
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20230620BHJP
【FI】
H02M3/28 H
H02M3/28 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019204334
(22)【出願日】2019-11-12
(65)【公開番号】P2021078274
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 勇
【審査官】町田 舞
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-115130(JP,A)
【文献】特開2013-251998(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152366(WO,A1)
【文献】特開2014-121194(JP,A)
【文献】特開2019-058029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00-7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1コンデンサと、
前記第1コンデンサの正負極間に直列接続された第1,第2半導体素子と、
前記第1コンデンサの正負極間に直列接続された第3,第4半導体素子と、
第2コンデンサと、
前記第2コンデンサの正負極間に直列接続された第5,第6半導体素子と、
前記第2コンデンサの正負極間に直列接続された第7,第8半導体素子と、
前記第3,第4半導体素子の接続点に一端が接続された第1リアクトルと、
前記第7,第8半導体素子の接続点に一端が接続された第2リアクトルと、
前記第1リアクトルの他端と前記第1,第2半導体素子の接続点との間に1次巻線が接続され、前記第2リアクトルの他端と前記第5,第6半導体素子の接続点との間に2次巻線が接続されたトランスと、
制御回路と、
を備えた絶縁型DC/DC変換器であって、
前記制御回路は、
第1コンデンサ電圧と第2コンデンサ電圧の偏差に応じて電圧制御を行い、一次側位相指令値と二次側位相指令値を生成する位相指令値生成部と、
ゲート生成部と、
を備え、
前記ゲート生成部は、
キャリア信号に同期した第1矩形波を生成する矩形波生成部と、
前記一次側位相指令値と前記二次側位相指令値に前記第1矩形波をそれぞれ乗算して一次側の第2矩形波と二次側の第2矩形波を出力する第1乗算器と、
前記一次側の第2矩形波と前記キャリア信号とを比較して、前記第1,第2半導体素子のゲート信号と前記第3,第4半導体素子のゲート信号を生成し、前記二次側の第2矩形波と前記キャリア信号とを比較して、前記第5,第6半導体素子のゲート信号と前記第7,第8半導体素子のゲート信号を生成する第1比較器と、
を備え、
前記制御回路は、
前記電圧制御の結果に基づいて、予備充電時に前記第1コンデンサ電圧と前記第2コンデンサ電圧の偏差を小さくするゲート信号を生成することを特徴とする絶縁型DC/DC変換器。
【請求項2】
第1コンデンサと、
前記第1コンデンサの正負極間に直列接続された第1,第2半導体素子と、
前記第1コンデンサの正負極間に直列接続された第3,第4半導体素子と、
第2コンデンサと、
前記第2コンデンサの正負極間に直列接続された第5,第6半導体素子と、
前記第2コンデンサの正負極間に直列接続された第7,第8半導体素子と、
前記第3,第4半導体素子の接続点に一端が接続された第1リアクトルと、
前記第7,第8半導体素子の接続点に一端が接続された第2リアクトルと、
前記第1リアクトルの他端と前記第1,第2半導体素子の接続点との間に1次巻線が接続され、前記第2リアクトルの他端と前記第5,第6半導体素子の接続点との間に2次巻線が接続されたトランスと、
制御回路と、
を備えた絶縁型DC/DC変換器であって、
前記制御回路は、
所望の位相差を有する一次側の第3矩形波と二次側の第3矩形波を生成して出力電力を制御する電力制御部と、
第1コンデンサ電圧と第2コンデンサ電圧の偏差に応じて電圧制御により位相指令値を生成し、前記一次側の第3矩形波と前記二次側の第3矩形波と前記位相指令値に基づいて、前記第1,第2半導体素子のゲート信号と、前記第3,第4半導体素子のゲート信号と、前記第5,第6半導体素子のゲート信号と、前記第7,第8半導体素子のゲート信号と、を生成する出力電圧制御部と、
を備え
前記制御回路は、
前記第1コンデンサ電圧と前記第2コンデンサ電圧の偏差に応じて前記電圧制御を行い、前記電圧制御の結果に基づいて、予備充電時に前記第1コンデンサ電圧と前記第2コンデンサ電圧の偏差を小さくするゲート信号を生成することを特徴とする絶縁型DC/DC変換器。
【請求項3】
前記電力制御部は、
キャリア信号に同期した第1矩形波を生成する矩形波生成部と、
一次側位相指令値および二次側位相指令値に前記第1矩形波をそれぞれ乗算して一次側の第2矩形波と二次側の第2矩形波を出力する第1乗算器と、
前記一次側の第2矩形波と前記キャリア信号とを比較して前記一次側の第3矩形波を生成し、前記二次側の第2矩形波と前記キャリア信号とを比較して前記二次側の第3矩形波を生成する第1比較器と、を備え、
前記出力電圧制御部は、
前記一次側の第3矩形波と前記二次側の第3矩形波に基づいて一次側位相制御用三角波と二次側位相制御用三角波を生成する三角波生成部と、
前記第1コンデンサ電圧と前記第2コンデンサ電圧の偏差に応じて前記位相指令値を生成する電圧制御部と、
前記一次側の第3矩形波と前記位相指令値に基づいて第1,第2半導体素子の位相指令値と第3,第4半導体素子の位相指令値を出力し、前記二次側の第3矩形波と前記位相指令値に基づいて第5,第6半導体素子の位相指令値と第7,第8半導体素子の位相指令値を出力する第2乗算器と、
前記第1,第2半導体素子の位相指令値と前記一次側位相制御用三角波とを比較して前記第1,第2半導体素子のゲート信号を生成し、前記第3,第4半導体素子の位相指令値と前記一次側位相制御用三角波とを比較して前記第3,第4半導体素子のゲート信号を生成し、前記第5,第6半導体素子の位相指令値と前記二次側位相制御用三角波とを比較して前記第5,第6半導体素子のゲート信号を生成し、前記第7,第8半導体素子の位相指令値と前記二次側位相制御用三角波とを比較して前記第7,第8半導体素子のゲート信号を生成する第2比較器と、を備えたことを特徴とする請求項2記載の絶縁型DC/DC変換器。
【請求項4】
前記制御回路は、
予備充電時に、前記キャリア信号の周波数を通常運転時のキャリア信号よりも高くすることを特徴とする請求項1または3記載の絶縁型DC/DC変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波トランスを用いた絶縁型DC/DC変換器の予備充電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術における絶縁型DC/DC変換器では、図11図12に示すような回路構成の場合、二次側に予備充電するために、検出した電流値に基づいて一次側の出力電圧値を調整することで予備充電時の突入電流を抑制している。
【0003】
特許文献1では、一次側と二次側の電位差が大きい場合の突入電流の対策として、図13に示すように過電流防止回路14を設けている。
【0004】
特許文献2には、蓄電装置と蓄電装置に接続されるコンデンサの電圧を一致させるように制御することで蓄電装置に流れる突入電流を防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-118806号公報
【文献】特開2017-123739号公報
【文献】特開2018-26961号公報
【文献】特開2016-208630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術における絶縁型DC/DC変換器では、予備充電専用の制御回路と電流検出用センサを設け、電流制御することで予備充電時における突入電流を抑制している。しかし、電流検出用センサが必要となることから装置全体が高コスト化するという課題がある。
【0007】
次に、特許文献1では、一次側と二次側の電位差が大きい場合の突入電流の対策として、図13に示すように過電流防止回路14を設けている。この構成の場合、突入電流は抑制できるがコストアップや装置の大型化につながるという問題がある。
【0008】
特許文献2は、蓄電装置とコンデンサを接続する前にはコンデンサの電圧を蓄電装置と一致させるために充電を行う必要があるがその詳細に関しては記載がない。
【0009】
以上示したようなことから、絶縁型DC/DC変換器において、電流検出用センサや過電流防止回路を設けることなく、予備充電時に突入電流を抑制しつつ安全にコンデンサの電圧を充電することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、第1コンデンサと、前記第1コンデンサの正負極間に直列接続された第1,第2半導体素子と、前記第1コンデンサの正負極間に直列接続された第3,第4半導体素子と、第2コンデンサと、前記第2コンデンサの正負極間に直列接続された第5,第6半導体素子と、前記第2コンデンサの正負極間に直列接続された第7,第8半導体素子と、前記第3,第4半導体素子の接続点に一端が接続された第1リアクトルと、前記第7,第8半導体素子の接続点に一端が接続された第2リアクトルと、前記第1リアクトルの他端と前記第1,第2半導体素子の接続点との間に1次巻線が接続され、前記第2リアクトルの他端と前記第5,第6半導体素子の接続点との間に2次巻線が接続されたトランスと、を備えた絶縁型DC/DC変換器であって、第1コンデンサ電圧と第2コンデンサ電圧の偏差に応じて電圧制御を行い、前記電圧制御の結果に基づいて、ゲート信号を生成する制御回路を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、その一態様として、前記制御回路は、前記第1コンデンサ電圧と前記第2コンデンサ電圧の偏差に応じて電圧制御を行い、一次側位相指令値と二次側位相指令値を生成する位相指令値生成部と、キャリア信号と前記一次側位相指令値と前記二次側位相指令値に基づいて、前記第1,第2半導体素子のゲート信号と、前記第3,第4半導体素子のゲート信号と、前記第5,第6半導体素子のゲート信号と、前記第7,第8半導体素子のゲート信号を生成するゲート生成部と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、その一態様として、前記ゲート生成部は、前記キャリア信号に同期した第1矩形波を生成する矩形波生成部と、前記一次側位相指令値と前記二次側位相指令値に前記第1矩形波をそれぞれ乗算して一次側の第2矩形波と二次側の第2矩形波を出力する第1乗算器と、前記一次側の第2矩形波と前記キャリア信号とを比較して、前記第1,第2半導体素子のゲート信号と前記第3,第4半導体素子のゲート信号を生成し、前記二次側の第2矩形波と前記キャリア信号とを比較して、前記第5,第6半導体素子のゲート信号と前記第7,第8半導体素子のゲート信号を生成する第1比較器と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、他の態様として、前記制御回路は、所望の位相差を有する一次側の第3矩形波と二次側の第3矩形波を生成して出力電力を制御する電力制御部と、前記第1コンデンサ電圧と前記第2コンデンサ電圧の偏差に応じて電圧制御により位相指令値を生成し、前記一次側の第3矩形波と前記二次側の第3矩形波と前記位相指令値に基づいて、前記第1,第2半導体素子のゲート信号と、前記第3,第4半導体素子のゲート信号と、前記第5,第6半導体素子のゲート信号と、前記第7,第8半導体素子のゲート信号と、を生成する出力電圧制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
また、その一態様として、前記電力制御部は、キャリア信号に同期した第1矩形波を生成する矩形波生成部と、一次側位相指令値および二次側位相指令値に前記第1矩形波をそれぞれ乗算して一次側の第2矩形波と二次側の第2矩形波を出力する第1乗算器と、前記一次側の第2矩形波と前記キャリア信号とを比較して前記一次側の第3矩形波を生成し、前記二次側の第2矩形波と前記キャリア信号とを比較して前記二次側の第3矩形波を生成する第1比較器と、を備え、前記出力電圧制御部は、前記一次側の第3矩形波と前記二次側の第3矩形波に基づいて一次側位相制御用三角波と二次側位相制御用三角波を生成する三角波生成部と、前記第1コンデンサ電圧と前記第2コンデンサ電圧の偏差に応じて位相指令値を生成する電圧制御部と、前記一次側の第3矩形波と前記位相指令値に基づいて第1,第2半導体素子の位相指令値と第3,第4半導体素子の位相指令値を出力し、前記二次側の第3矩形波と前記位相指令値に基づいて、第5,第6半導体素子の位相指令値と第7,第8半導体素子の位相指令値を出力する第2乗算器と、前記第1,第2半導体素子の位相指令値と前記一次側位相制御用三角波とを比較して前記第1,第2半導体素子のゲート信号を生成し、前記第3,第4半導体素子の位相指令値と前記一次側位相制御用三角波とを比較して前記第3,第4半導体素子のゲート信号を生成し、前記第5,第6半導体素子の位相指令値と前記二次側位相制御用三角波とを比較して前記第5,第6半導体素子のゲート信号を生成し、前記第7,第8半導体素子の位相指令値と前記二次側位相制御用三角波とを比較して前記第7,第8半導体素子のゲート信号を生成する第2比較器と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
また、その一態様として、前記制御回路は、予備充電時に、前記キャリア信号の周波数を通常運転時のキャリア信号よりも高くすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、絶縁型DC/DC変換器において、電流検出用センサや過電流防止回路を設けることなく、予備充電時に突入電流を抑制しつつ安全にコンデンサの電圧を充電することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態1~3における絶縁型DC/DC変換器を示す回路構成図。
図2】電圧Va,Vb,電流i1の動作波形例を示すタイムチャート。
図3】予備充電回路を設けた絶縁型DC/DC変換器の代表例を示す回路構成図。
図4】実施形態1における制御回路を示すブロック図。
図5】実施形態1適用前の各種波形を示すタイムチャート。
図6】実施形態1適用後の各種波形を示すタイムチャート。
図7】実施形態2における制御回路を示すブロック図。
図8】実施形態2における生成波形例を示すタイムチャート。
図9】スイッチングパターン例を示す図。
図10】実施形態3における制御回路を示すブロック図。
図11】従来技術における絶縁型DC/DC変換器を示す回路構成図。
図12】従来技術における絶縁型DC/DC変換器の制御回路を示すブロック図。
図13】特許文献1における絶縁型DC/DC変換器を示す回路構成図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本願発明における絶縁型DC/DC変換器の実施形態1~3を図1図10に基づいて詳述する。
【0019】
[実施形態1]
図1に本実施形態1における絶縁型DC/DC変換器の主回路構成例を示す。図1に示すように、絶縁型DC/DC変換器は、第1コンデンサC1と第2コンデンサC2を有する。第1コンデンサC1の正負極間に第1,第2半導体素子U1,V1が直列接続される。また、第1コンデンサC1の正負極間に第3,第4半導体素子X1,Y1が直列接続される。第1~第4半導体素子U1,V1,X1,Y1で第1電力変換器を構成する。
【0020】
第2コンデンサC2の正負極間に第5,第6半導体素子U2,V2が直列接続される。第2コンデンサC2の正負極間に第7,第8半導体素子X2,Y2が直列接続される。第5~第8半導体素子U2,V2,X2,Y2で第2電力変換器を構成する。
【0021】
第3,第4半導体素子X1,Y1の接続点に第1リアクトルL1の一端が接続される。第7,第8半導体素子X2,Y2の接続点に第2リアクトルL2の一端が接続される。
【0022】
トランスTrは、第1リアクトルL1の他端と第1,第2半導体素子U1,V1の接続点との間に1次巻線が接続され、第2リアクトルL2の他端と第5,第6半導体素子U2,V2の接続点との間に2次巻線が接続される。
【0023】
ここで、第1,第2コンデンサ電圧(直流電圧)をE1,E2とし、トランスTrの1次巻線の電圧をVaとし、トランスTrの2次巻線の電圧をVbとする。また、第3,第4半導体素子X1,Y1の接続点の電流をi1とし、第5,第6半導体素子U2,V2の接続点の電流をi2とする。
【0024】
図1はフルブリッジの第1,第2電力変換器を2台使用し、2台の第1,第2電力変換器が出力する電圧Va,Vbの位相差δを調整すること(つまり、第1,第2電力変換器内の半導体素子のゲート信号(オンオフ指令信号)を調整すること)で、電力を伝送している。
【0025】
出力電力Pの大きさは以下の(1)式で定義される。ωはスイッチング周波数,E1,E2は第1,第2コンデンサ電圧(直流電圧)、Lは第1,第2リアクトルのインダクタンス値(L1+L2)、δは電圧Va,Vbの位相差を表している。
【0026】
【数1】
【0027】
(1)式からわかるように、位相差δを可変にすることで、第1,第2リアクトルL1,L2に流れる電流を制御することができるため出力電力Pを制御できる。位相差δ=90°の時に出力できる出力電力Pは最大となる。なお、(1)式は、トランスTrの損失等を考慮していない理論式である。
【0028】
図2は、図1の回路における電圧Va,Vb,電流i1の動作波形の例である。電圧Vaが正のとき、ゲート信号によって第2,第3半導体素子V1,X1がオンしている。電圧Vaが負のとき、ゲート信号によって第1,第4半導体素子U1,Y1がオンしている。電圧Vbが正のとき、ゲート信号によって第6,第7半導体素子V2,X2がオンしている。電圧Vbが負のとき、ゲート信号によって第5,第8半導体素子U2,Y2がオンしている。また、スイッチング周期Tsは、Ts=2π/ωである。
【0029】
図1の回路を直流母線と接続するアプリケーションにおいて、予備充電を行う場合、図3のような回路構成が考えられる。本実施形態1では、電圧が確立された直流母線に絶縁型DC/DC変換器を接続する場合の予備充電方法を説明する。図3に示すように、直流母線21と第1コンデンサC1との間には、スイッチSW1が接続される。また、スイッチSW1には、予備充電回路20が並列接続される。予備充電回路20は、予備充電抵抗Rと、予備充電抵抗Rに直列接続されたスイッチSW2と、を備える。
【0030】
この場合、図3に示している予備充電回路20(スイッチSW2)が投入されると同時に第1,第2電力変換器の運転を開始することで第1コンデンサC1及び第2コンデンサC2を同時に充電し、充電電流を抑制することができる。
【0031】
しかし、第1コンデンサC1よりも第2コンデンサC2の容量が大きい場合、時定数が異なるため、過渡的に第1コンデンサ電圧E1が第2コンデンサ電圧E2よりも大きくなる。これにより、大きな充電電流が発生してしまうケースがある。
【0032】
過大な充電電流はコンデンサの寿命低下や、トランス、変換器の焼損につながる恐れがあり防ぐ必要がある。その解決策の一例として特許文献1のような過電流防止回路が電流抑制に有効となるが追加部品が必要となるためコストアップ、体積の大型化につながるため望ましくない。本実施形態1は上述の問題を解決するための制御手法である。
【0033】
本実施形態1は先行技術のような電流検出用センサ、過電流防止回路を用いることなく予備充電時の突入電流を防止できる手法を説明する。
【0034】
本実施形態1では図3のような構成において、予備充電時に過渡的に発生する第1コンデンサ電圧E1と第2コンデンサ電圧E2の偏差を小さくすることで突入電流を抑制する。具体的な制御回路の構成を図4に示す。
【0035】
図4の回路は第1コンデンサ電圧E1と第2コンデンサ電圧E2の偏差の大きさに応じて一次側と二次側の出力電圧の位相差δを制御することで伝送電力を制御する。第1コンデンサ電圧E1と第2コンデンサ電圧E2の偏差が大きい場合には位相差δを大きくすることで伝送電力を大きくし、第1コンデンサ電圧E1と第2コンデンサ電圧E2の偏差を小さくすることで、突入電流を抑制する。
【0036】
図4に示すように、本実施形態1の制御回路は、位相指令値生成部1とゲート生成部2とを備える。
【0037】
位相指令値生成部1は、減算器3において、第1コンデンサ電圧E1と第2コンデンサ電圧E2の偏差を演算する。PI制御部4は、前記偏差の大きさに基づいて電圧制御を行い、一次側位相指令値と二次側位相指令値を生成する。
【0038】
ゲート生成部2は、まず、矩形波生成部5にキャリア信号を入力することで、キャリア信号に同期した第1矩形波を生成する。第1乗算器6a,6bは、一次側位相指令値,二次側位相指令値と第1矩形波の振幅を掛け合わせて振幅を調整し一次側の第2矩形波と二次側の第2矩形波を生成する。第1比較器7aは、一次側の第2矩形波とキャリア信号と比較することで、第3,第4半導体素子X1,Y1のゲート信号,第1,第2半導体素子U1,V1のゲート信号を生成する。第1比較器7bは、二次側の第2矩形波とキャリア信号とを比較することで、第7,第8半導体素子X2,Y2のゲート信号,第5,第6半導体素子U2,V2のゲート信号を生成する。これにより、1次側と2次側で必要な位相差δを持ったゲート信号を生成できる。
【0039】
図5に本実施形態1適用前の動作波形例を示し、図6に本実施形態1適用後の動作波形例を示す。図5図6を比較するとわかるように制御を行わない場合と比較して電流i1,i2が抑制できていることがわかる。
【0040】
以上示したように、本実施形態1によれば、予備充電時に電流検出用センサや過電流防止回路を設けることなく突入電流を抑制しつつ、安全にコンデンサの電圧を充電することが可能となる。
【0041】
[実施形態2]
本実施形態2では第1コンデンサ電圧E1と第2コンデンサ電圧E2の偏差が大きい場合に電圧が大きいほうの電力変換器の出力電圧を小さくすることで突入電流を抑制する。
【0042】
本実施形態2における制御回路を図7に示し、生成波形例を図8に示す。本実施形態2による図7の制御回路は、電力制御部8と出力電圧制御部9とを備える。電力制御部8は、一次側位相指令値と二次側位相指令値に応じて位相差δを有する一次側と二次側の出力電圧を生成する。出力電圧制御部9は、第1コンデンサ電圧E1と第2コンデンサ電圧E2の偏差の大きさに応じて出力電圧を調整する。
【0043】
電力制御部8は、まず矩形波生成部5にキャリア信号を入力することで、キャリア信号に同期した第1矩形波を生成する。その後、第1乗算器6a,6bは、一次側位相指令値,二次側位相指令値と第1矩形波の振幅を掛け合わせて振幅を調整した一次側の第2矩形波と二次側の第2矩形波を生成する。第1比較器7a,7bは、第2矩形波とキャリア信号と比較することで、所望の位相差δを持った一次側の第3矩形波と二次側の第3矩形波を生成する。これにより、1次側と2次側で必要な位相差δを有するゲート信号を生成できる。
【0044】
出力電圧制御部9は電力制御部8にて生成した一次側の第3矩形波と二次側の第3矩形波を入力する。三角波生成部10a,10bでは一次側の第3矩形波,二次側の第3矩形波に同期した一次側位相制御用三角波,二次側位相制御用三角波を生成する。
【0045】
また、出力電圧の大きさを決める位相指令値は第1コンデンサ電圧E1と第2コンデンサ電圧E2の偏差の大きさに応じて生成される。すなわち、減算器3において、第1コンデンサ電圧E1と第2コンデンサ電圧E2の偏差が演算する。PI制御部4は、前記偏差に基づいて電圧制御を行い、位相指令値を生成する。
【0046】
第2乗算器11a~11dにおいて、一次側の第3矩形波,二次側の第3矩形波は位相指令値と掛け合わされ、一次側の第3矩形波と二次側の第3矩形波を調整し、第3,第4半導体素子X1,Y1の位相指令値,第1,第2半導体素子U1,V1の位相指令値,第7,第8半導体素子X2,Y2の位相指令値,第5,第6半導体素子U2,V2の位相指令値を出力する。
【0047】
そして、第2比較器12aにおいて、一次側位相制御用三角波と第3,第4半導体素子X1,Y1の位相指令値とを比較し、第3,第4半導体素子X1,Y1のゲート信号を生成する。第2比較器12bにおいて、一次側位相制御用三角波と第1,第2半導体素子U1,V1の位相指令値とを比較し、第1,第2半導体素子U1,V1のゲート信号を生成する。第2比較器12cにおいて、二次側位相制御用三角波と第7,第8半導体素子X2,Y2の位相指令値とを比較し、第7,第8半導体素子X2,Y2のゲート信号を生成する。第2比較器12dにおいて、二次側位相制御用三角波と第5,第6半導体素子U2,V2の位相指令値とを比較し、第5,第6半導体素子U2,V2のゲート信号を生成する。これにより、一次側と二次側で必要な位相差δを持ち、且つ、所望の出力電圧値を出力できるゲート信号を生成できる。
【0048】
図9に、従来手法と本実施形態2による動作波形の違いを示す。図9では一次側の動作波形を示し、二次側の動作波形は省略する。図9中のU1,X1,V1,Y1は各半導体素子の導通状態(ゲート信号)を表す。図9(b)に示すように、本実施形態2では、第1,第2半導体素子U1,V1の位相指令値と第3,第4半導体素子X1,Y1の位相指令値とを有する。第1,第2半導体素子U1,V1の位相指令値と第3,第4半導体素子X1,Y1の位相指令値は、キャリア周波数に同期した矩形波であり、位相差を有する。
【0049】
図9(b)に示すように、一次側位相制御用三角波と第1,第2半導体素子U1,V1の位相指令値を比較することで第1,第2半導体素子U1,V1の導通状態(ゲート信号)を制御する。また、一次側位相制御用三角波と第3,第4半導体素子X1,Y1の位相指令値を比較することで第3,第4半導体素子X1,Y1の導通状態(ゲート信号)を制御する。
【0050】
例えば、一次側位相制御用三角波よりも第1,第2半導体素子U1,V1の位相指令値が大きい場合は、第1半導体素子U1がOFF,第2半導体素子V1がON状態となり、一次側位相制御用三角波よりも第3,第4半導体素子X1,Y1の位相指令値が大きい場合は、第3半導体素子X1がON,第4半導体素子Y1がOFF状態となる。
【0051】
また、第1,第2半導体素子U1,V1の位相指令値と第3,第4半導体素子X1,Y1の位相指令値の振幅を制御することで第1,第2半導体素子U1,V1のゲート信号と、第3,第4半導体素子X1,Y1のゲート信号の位相差を制御することができる。第1,第2半導体素子U1,V1の位相指令値と第3,第4半導体素子X1,Y1の位相指令値の振幅が0の時、第1,第2半導体素子U1,V1と、第3,第4半導体素子X1,Y1の位相差は0°となる。
【0052】
従来手法の場合、第1,第2半導体素子U1,V1のゲート信号と、第3,第4半導体素子X1,Y1のゲート信号の位相差は0°のため、トランスTrに印加される電圧Vaは矩形波となる。
【0053】
これに対して、本実施形態2では、第1,第2半導体素子U1,V1のゲート信号と第3,第4半導体素子X1,Y1のゲート信号の位相差を0°よりも大きくすることで、トランスTrに印加される電圧は3段階の波形となる。これにより、印加される電圧の実効値を低減することができるため、励磁電流を低減することが可能となる。
【0054】
また、位相指令値が0の場合、矩形波の出力電圧が出力されるため、直流電圧に応じた出力電圧が出力される。一方、位相指令値が0以上の場合、出力電圧が0の期間を含んだ3段階の波形となるため、出力電圧を下げることができる。流れる電流は出力電圧値に比例するため、突入電流を抑制できる。
【0055】
以上示したように、本実施形態2によれば、予備充電時に電流検出用センサや過電流防止回路を設けることなく突入電流を抑制しつつ、安全にコンデンサの電圧を充電することが可能となる。
【0056】
[実施形態3]
本実施形態3ではキャリア信号の周波数を高くすることで、予備充電時に発生する突入電流を抑制する。突入電流はキャリア周波数と反比例する特性を持つためキャリア周波数を変化させることで突入電流も変化させることができる。制御回路は、実施形態1もしくは実施形態2のものを適用する。
【0057】
図10に本実施形態3における制御回路を示す。図10の回路は図4の回路に対して選択回路13を追加した点に特徴がある。選択回路13は、通常のキャリア信号と予備充電用キャリア信号とを入力する。ここで、予備充電用キャリア信号は通常のキャリア信号よりもキャリア周波数が高いものとする。
【0058】
選択回路13は、通常運転時は通常のキャリア信号を出力し、予備充電時には予備充電用キャリア信号を出力する。これにより、予備充電時は通常動作時よりもキャリア周波数が高くなり、突入電流を抑制することが可能となる。
【0059】
なお、ここでは実施形態1に実施形態3を適用する方法について説明したが、実施形態2に実施形態3を適用しても良い。
【0060】
以上示したように、本実施形態3によれば、実施形態1,2の作用効果に加え、予備充電時にキャリア周波数を高く設定することで突入電流を抑制することが可能となる。
【0061】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0062】
U1,V1,X1,Y1,U2,V2,X2,Y2…第1~第8半導体素子
L1,L2…第1,第2リアクトル
C1,C2…第1,第2コンデンサ
Tr…トランス
1…位相指令値生成部
2…ゲート生成部
3…減算器
4…PI制御部
5…矩形波生成部
6a,6b…第1乗算器
7a,7b…第1比較器
8…電力制御部
9…出力電圧制御部
10a,10b…三角波生成部
11a~11d…第2乗算器
12a~12d…第2比較器
13…選択回路
図1
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