(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】ワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
H01B 7/00 20060101AFI20230620BHJP
H01B 7/42 20060101ALI20230620BHJP
C08L 101/00 20060101ALN20230620BHJP
C08L 83/04 20060101ALN20230620BHJP
C08K 3/013 20180101ALN20230620BHJP
C08K 3/22 20060101ALN20230620BHJP
C08K 7/06 20060101ALN20230620BHJP
C08K 7/28 20060101ALN20230620BHJP
【FI】
H01B7/00 301
H01B7/42 C
C08L101/00
C08L83/04
C08K3/013
C08K3/22
C08K7/06
C08K7/28
(21)【出願番号】P 2020020506
(22)【出願日】2020-02-10
【審査請求日】2022-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川上 尊史
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 一雄
(72)【発明者】
【氏名】前田 悠作
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0367791(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109181134(CN,A)
【文献】国際公開第2018/135140(WO,A1)
【文献】特開2004-315761(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109206849(CN,A)
【文献】特開2020-009974(JP,A)
【文献】特開平06-252572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁被覆および導体によって構成される絶縁電線と、前記絶縁電線が挿通される外装材と、熱伝導性材料で構成され、前記絶縁電線と前記外装材との間に配置される放熱材と、を備え、
前記放熱材を構成する前記熱伝導性材料が、
ベース樹脂およびフィラーを含み、
前記フィラーが、
気層を内包しない熱伝導性フィラーおよび気層を内包する粒子である中空フィラーを含み、
前記フィラーの含有量が、材料全量基準で、20.0体積%以上90.0体積%以下であり、
前記中空フィラーの含有量が、前記フィラー全量基準で、25.0体積%以上70.0体積%以下である、
ワイヤーハーネス。
【請求項2】
前記熱伝導性フィラーが、繊維状フィラーを含む、請求項1に記載の
ワイヤーハーネス。
【請求項3】
前記熱伝導性フィラーが、繊維状フィラーおよび粒状フィラーを含む、請求項1に記載の
ワイヤーハーネス。
【請求項4】
前記繊維状フィラーが、炭素繊維である、請求項2または請求項3に記載の
ワイヤーハーネス。
【請求項5】
前記繊維状フィラーの繊維長が、50μm以上300μm以下である、請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の
ワイヤーハーネス。
【請求項6】
前記粒状フィラーが、アルミナ粒子である、請求項3に記載の
ワイヤーハーネス。
【請求項7】
前記中空フィラーが、気層を内包するガラス粒子である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の
ワイヤーハーネス。
【請求項8】
前記中空フィラーの形状が、球状である、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の
ワイヤーハーネス。
【請求項9】
前記中空フィラーのメジアン径d50が、15μm以上90μm以下である、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の
ワイヤーハーネス。
【請求項10】
パワーコントロールユニットとバッテリーとの間を接続する高圧電線として用いられる、請求項
1から請求項9のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス。
【請求項11】
前記高圧電線は、電気自動車用である、請求項
10に記載のワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱伝導性材料およびワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車において、パワーコントロールユニット(PCU)とバッテリーとの間は、高圧電線によって接続されている。高圧電線には大電流が流れるため、高圧電線は導体径が太くなっている。しかし、高圧電線の導体径が太いと、重量増、曲げ性の低下、配策スペースなどの問題が生じる。このため、高圧電線の導体径を細くしたい要望がある。一方で、高圧電線の導体径が細くなると、大電流が流れる高圧電線では、ジュール熱による温度上昇が大きくなるため、放熱性を確保する必要がある。
【0003】
例えば特許文献1には、電線と該電線を挿通するようにこの外側に配設される保護用筒部材と、該保護用筒部材の内面に直接又は間接的に接触する金属製の伝熱部材とを備えるワイヤーハーネスが開示されている。特許文献1のワイヤーハーネスによれば、電線で発生した熱が伝熱部材により保護用筒部材に伝えられ、保護用筒部材から外部に熱が放出されるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のワイヤーハーネスでは、伝熱部材が金属で構成され、効率よく保護用筒部材に伝熱するために電線の延びる方向全体にわたり電線を包み込むように伝熱部材が配設されると、重量増は避けられない。このため、特許文献1のワイヤーハーネスは、放熱性と軽量化の面で十分ではなかった。
【0006】
本開示の解決しようとする課題は、放熱性と軽量化を両立できる熱伝導性材料およびワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る熱伝導性材料は、ベース樹脂およびフィラーを含み、前記フィラーが、熱伝導性フィラーおよび気層を内包する粒子である中空フィラーを含み、前記フィラーの含有量が、材料全量基準で、20.0体積%以上90.0体積%以下であり、前記中空フィラーの含有量が、前記フィラー全量基準で、25.0体積%以上70.0体積%以下であるものである。
【0008】
そして、本開示に係るワイヤーハーネスは、絶縁被覆および導体によって構成される絶縁電線と、前記絶縁電線が挿通される外装材と、前記絶縁電線と前記外装材との間に配置される放熱材と、を備え、前記放熱材が、本開示に係る熱伝導性材料で構成されるものである。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る熱伝導性材料によれば、放熱性と軽量化を両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示のワイヤーハーネスを配策した車両の模式図である。
【
図2】
図2は、本開示のワイヤーハーネスの延びる方向の断面図である。
【
図3】
図3は、本開示のワイヤーハーネスの径方向の断面図である。
【
図4】
図4は、試料2の内部構造状態を示した3画面画像である。
【
図5】
図5は、試料4の内部構造状態を示した3画面画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0012】
(1)本開示に係る熱伝導性材料は、ベース樹脂およびフィラーを含み、前記フィラーが、熱伝導性フィラーおよび気層を内包する粒子である中空フィラーを含み、前記フィラーの含有量が、材料全量基準で、20.0体積%以上90.0体積%以下であり、前記中空フィラーの含有量が、前記フィラー全量基準で、25.0体積%以上70.0体積%以下であるものである。本開示の熱伝導性材料は、前記中空フィラーを含むことによって、前記熱伝導性材料中に気層が形成されるので、前記熱伝導性材料の比重を小さくすることができる。また、前記熱伝導性材料中に前記中空フィラーを含むことによって、前記中空フィラーと前記中空フィラーの間のベース樹脂中に前記熱伝導性フィラーが集中するので、前記熱伝導性フィラーが互いにつながりやすくなり、熱伝導パスが形成されやすくなる。このため、放熱性と軽量化を両立できる。
【0013】
(2)前記熱伝導性フィラーは、繊維状フィラーを含むとよい。前記中空フィラーと前記中空フィラーの間の前記ベース樹脂中に前記繊維状フィラーが配向して互いにつながりやすくなり、熱伝導パスがより形成されやすくなるからである。
【0014】
(3)前記熱伝導性フィラーは、繊維状フィラーおよび粒状フィラーを含むとよい。前記ベース樹脂中において配向する前記繊維状フィラーどうしを前記粒状フィラーがつなぐことで、熱伝導パスがより形成されやすくなるからである。
【0015】
(4)前記繊維状フィラーは、炭素繊維であるとよい。熱伝導率の高い材料であり、熱伝導性の向上に貢献するからである。
【0016】
(5)前記繊維状フィラーの繊維長は、50μm以上300μm以下であるとよい。熱伝導パスがより形成されやすくなるからである。
【0017】
(6) 前記粒状フィラーは、アルミナ粒子であるとよい。熱伝導率の高い材料であり、熱伝導性の向上に貢献するからである。
【0018】
(7)前記中空フィラーは、気層を内包するガラス粒子であるとよい。強度に優れ、前記熱伝導性材料中において気層を維持する効果に優れるからである。
【0019】
(8)前記中空フィラーの形状は、球状であるとよい。強度に優れ、前記熱伝導性材料中において気層を維持する効果に優れるからである。
【0020】
(9)前記中空フィラーのメジアン径d50は、15μm以上90μm以下であるとよい。前記中空フィラーと前記中空フィラーの間のベース樹脂中に、前記熱伝導性フィラーが適度に分散されるからである。
【0021】
(10)本開示に係るワイヤーハーネスは、絶縁被覆および導体によって構成される絶縁電線と、前記絶縁電線が挿通される外装材と、前記絶縁電線と前記外装材との間に配置される放熱材と、を備え、前記放熱材が、本開示に係る熱伝導性材料で構成されるものである。本開示のワイヤーハーネスは、前記絶縁電線と前記外装材との間に配置される放熱材が、本開示に係る熱伝導性材料で構成されることから、放熱性と軽量化を両立できる。
【0022】
(11)本開示に係るワイヤーハーネスは、パワーコントロールユニットとバッテリーとの間を接続する高圧電線として用いられるとよい。放熱性と軽量化を両立できることからである。
【0023】
(12)前記高圧電線は、電気自動車用であるとよい。放熱性と軽量化を両立できることからである。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の熱伝導性材料および本開示のワイヤーハーネスの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではない。
【0025】
本開示に係る熱伝導性材料は、ベース樹脂およびフィラーを含み、前記フィラーが、熱伝導性フィラーおよび気層を内包する粒子である中空フィラーを含み、 前記フィラーの含有量が、材料全量基準で、20.0体積%以上90.0体積%以下であり、前記中空フィラーの含有量が、前記フィラー全量基準で、25.0体積%以上70.0体積%以下である。フィラーは、導電性(非絶縁性)であってもよいし、非導電性(絶縁性)であってもよい。絶縁性とは、電気絶縁性であり、電気抵抗率が極めて高いこと(106Ω・m以上)をいう。
【0026】
ベース樹脂は、特に限定されるものではない。ベース樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよいし、熱硬化性樹脂であってもよい。これらのうちでは、耐熱性により優れるなどの観点から、熱硬化性樹脂がより好ましい。ベース樹脂としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。これらは、ベース樹脂として1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらのうちでは、耐熱性に優れる、成形性に優れる、寸法安定性に優れるなどの観点から、シリコーン樹脂がより好ましい。
【0027】
熱伝導性フィラーとしては、無機フィラーが挙げられる。無機フィラーは、導電性(非絶縁性)であってもよいし、非導電性(絶縁性)であってもよい。無機フィラーは、特に限定されるものではないが、熱伝導性を向上させるなどの観点から、熱伝導率1.00W/m・K以上であることが好ましい。より好ましくは熱伝導率20.00W/m・K以上であり、更に好ましくは30.00W/m・K以上である。熱伝導性に優れる無機フィラーとしては、アルミニウム、金、銅等の金属粒子や、黒鉛、グラファイト、炭素繊維等の炭素材料、酸化アルミニウム(アルミナ)、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、タルク、ベーマイト、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素などが挙げられる。これらは、熱伝導性フィラーとして1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
熱伝導性フィラーの形状は、特に限定されるものではない。熱伝導性フィラーの形状としては、繊維状、粒状、針状、扁平状、鱗片状などが挙げられる。粒状とは、不定形状、球状および楕円球状からなる群より選択される1種または2種以上を含む。粒状としては、球状のみを含むものが好ましい。繊維状および針状は、特に区別されるものではないが、短軸の長さが比較的短く、より細いものを繊維状、短軸の長さが比較的長く、より太いものを針状とすればよい。
【0029】
熱伝導性フィラーは、繊維状フィラーを含むとよい。中空フィラーと中空フィラーの間のベース樹脂中に繊維状フィラーが配向して互いにつながりやすくなり、熱伝導パスがより形成されやすくなるからである。また、熱伝導性フィラーは、繊維状フィラーおよび粒状フィラーを含むとよい。ベース樹脂中において配向する繊維状フィラーどうしを粒状フィラーがつなぐことで、熱伝導パスがより形成されやすくなるからである。繊維状フィラーは、炭素繊維であるとよい。熱伝導率の高い材料であり、熱伝導性の向上に貢献するからである。粒状フィラーは、アルミナ粒子であるとよい。アルミナ粒子は、熱伝導率の高い材料であり、熱伝導性の向上に貢献するからである。また、アルミナ粒子は、球状粒子である。
【0030】
繊維状フィラーの繊維長(長軸長さ)は、特に限定されるものではないが、50μm以上300μm以下であるとよい。繊維状フィラーの繊維長が50μm以上であると、繊維状フィラーによる熱伝導パスがより形成されやすい。また、この観点から、繊維状フィラーの繊維長は、より好ましくは70μm以上、さらに好ましくは100μm以上である。そして、繊維状フィラーの繊維長が300μm以下であると、繊維状フィラーの強度が確保されやすい。また、単位体積当たりで繊維状フィラーによる熱伝導パスがより形成されやすい。また、この観点から、繊維状フィラーの繊維長は、より好ましくは250μm以下、さらに好ましくは200μm以下である。繊維状フィラーの繊維長は、マイクロスコープ、走査型電子顕微鏡(SEM)、粒度分布計などにより測定することができる。繊維状フィラーの繊維長は、測定対象の繊維状フィラーの繊維長の算術平均値で表せばよい。
【0031】
繊維状フィラーの繊維径(短軸長さ)は、特に限定されるものではないが、5μm以上20μm以下であるとよい。繊維状フィラーの繊維径が5μm以上であると、繊維状フィラーの強度が確保されやすい。また、この観点から、繊維状フィラーの繊維径は、より好ましくは7μm以上、さらに好ましくは10μm以上である。そして、繊維状フィラーの繊維径が20μm以下であると、単位体積当たりで繊維状フィラーによる熱伝導パスがより形成されやすい。また、この観点から、繊維状フィラーの繊維径は、より好ましくは17μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。繊維状フィラーの繊維径は、マイクロスコープ、走査型電子顕微鏡(SEM)、粒度分布計などにより測定することができる。繊維状フィラーの繊維径は、測定対象の繊維状フィラーの繊維径の算術平均値で表せばよい。
【0032】
繊維状フィラーのアスペクト比(長軸長さ/短軸長さ)は、特に限定されるものではないが、8以上が好ましい。より好ましくは9以上30以下である。繊維状フィラーのアスペクト比が8未満であると、繊維状フィラーによる熱伝導パスの形成効果が低下しやすい。
【0033】
中空フィラーは、気層を内包する粒子である。気層を内包するとは、中空フィラー内の閉鎖された部分に気層を有することをいう。多孔質体は、閉鎖されていない部分に気層を有することから、多孔質体は本開示における中空フィラーには含まれない。閉鎖された外殻の内側に気層を有する構造体であり、中空フィラーとしては、コアシェル構造体やマイクロスフェア構造体などが挙げられる。
【0034】
中空フィラーの外殻を構成する材料としては、ガラス、樹脂などが挙げられる。樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂が挙げられる。中空フィラーの外殻を構成する材料としては、強度に優れ、前記熱伝導性材料中において気層を維持する効果に優れるなどの観点から、ガラスがよい。すなわち、中空フィラーは、気層を内包するガラス粒子であるとよい。中空フィラーの気層は、空気、窒素やアルゴンなどの不活性ガス、炭化水素ガスなどで構成されていればよい。例えば、中空フィラーの外殻を構成する材料が熱可塑性樹脂であり、中空フィラーの気層が炭化水素ガスであると、加熱されることにより外殻が膨張し、所望の発泡倍率に調整することができる。
【0035】
中空フィラーの形状は、特に限定されるものではない。中空フィラーの形状としては、球状、楕円球状などが挙げられる。中空フィラーの形状は、球状であるとよい。強度に優れ、熱伝導性材料中において気層を維持する効果に優れるからである。
【0036】
中空フィラーのメジアン径d50は、15μm以上90μm以下であるとよい。中空フィラーと中空フィラーの間のベース樹脂中に、熱伝導性フィラーが適度に分散されるからである。また、中空フィラーのメジアン径d50は、より好ましくは30μm以上80μm以下、さらに好ましくは50μm以上80μm以下である。
【0037】
熱伝導性材料において、フィラーは、熱伝導性フィラーおよび中空フィラーのみで構成されていてもよいし、他のフィラーを含んでいてもよい。
【0038】
熱伝導性材料において、フィラーの含有量は、材料全量基準で、20.0体積%以上90.0体積%以下であり、中空フィラーの含有量は、フィラー全量基準で、25.0体積%以上70.0体積%以下である。このような配合バランスによって、低比重と高熱伝導率とをバランスよく実現できる。 熱伝導性材料において、フィラーの含有量が、材料全量基準で、90.0体積%超であると、熱伝導性材料が脆く、自動車用放熱材として適さない。
【0039】
熱伝導性材料において、フィラーの含有量は、材料全量基準で、より好ましくは25.0体積%以上85.0体積%以下、さらに好ましくは30.0体積%以上80.0体積%以下である。また、熱伝導性材料において、中空フィラーの含有量は、フィラー全量基準で、より好ましくは30.0体積%以上65.0体積%以下、さらに好ましくは35.0体積%以上60.0体積%以下である。また、熱伝導性材料において、熱伝導性フィラーの含有量は、フィラー全量基準で、好ましくは30.0体積%以上75.0体積%以下、より好ましくは35.0体積%以上70.0体積%以下、さらに好ましくは40.0体積%以上65.0体積%以下である。
【0040】
熱伝導性材料において、熱伝導性フィラーの含有量は、材料全量基準で、20.0体積%以上60.0体積%以下であることが好ましい。より好ましくは、材料全量基準で、25.0体積%以上60.0体積%以下、さらに好ましくは、材料全量基準で、30.0体積%以上60.0体積%以下である。熱伝導性フィラーの含有量が材料全量基準で20.0質量%以上であると、熱伝導性材料の熱伝導率がより優れる。また、熱伝導性フィラーの含有量が材料全量基準で30.0質量%以上であると、熱伝導性材料の熱伝導率が特に優れる。熱伝導性フィラーの含有量が材料全量基準で60.0体積%以下であると、熱伝導性材料の強度を確保しやすい。
【0041】
熱伝導性材料において、中空フィラーの含有量は、材料全量基準で、20.0体積%以上60.0体積%以下であることが好ましい。中空フィラーの含有量が材料全量基準で20.0質量%以上であると、熱伝導性材料の比重を小さくしやすい。中空フィラーの含有量が材料全量基準で60.0質量%以下であると、熱伝導性材料の強度を確保しやすい。
【0042】
熱伝導性材料の比重は、1.50未満であることが好ましい。より好ましくは1.40以下、さらに好ましくは1.30以下である。また、熱伝導性材料の熱伝導率は、0.50W/m・K以上であることが好ましい。より好ましくは0.80W/m・K以上、さらに好ましくは1.00W/m・K以上である。熱伝導性材料の比重は、JIS K5400に準拠して測定することができる。熱伝導性材料の熱伝導率は、JIS A1412に準拠して熱流計法により測定することができる。
【0043】
本開示の熱伝導性材料は、ベース樹脂およびフィラーに加え、ベース樹脂に添加される添加剤などを含んでもよいし、含んでいなくてもよい。
【0044】
以上に示す本開示の熱伝導性材料によれば、ベース樹脂およびフィラーを含み、前記フィラーが、熱伝導性フィラーおよび気層を内包する粒子である中空フィラーを含み、前記フィラーの含有量が、材料全量基準で、20.0体積%以上90.0体積%以下であり、前記中空フィラーの含有量が、前記フィラー全量基準で、25.0体積%以上70.0体積%以下であることから、放熱性と軽量化を両立できる。
【0045】
本開示の熱伝導性材料は、放熱性が求められる種々の部材に用いることができる。本開示の熱伝導性材料は、例えば、放熱性が求められる絶縁性の部材として用いることができる。放熱性が求められる絶縁性の部材としては、絶縁電線の絶縁被覆、ワイヤーハーネスを配策等する際に用いられる絶縁テープ、絶縁電線やワイヤーハーネスを配策等する際に用いられる保護管等の外装材、絶縁電線やワイヤーハーネスと外装材の間に配置される放熱材、部材間の接着や止水に用いられる接着剤、コネクタハウジングなどを挙げることができる。
【0046】
本開示の熱伝導性材料は、絶縁電線と外装材の間に配置される放熱材として特に好適に用いることができる。
【0047】
次に、本開示のワイヤーハーネスについて説明する。本開示のワイヤーハーネスは、絶縁被覆および導体によって構成される絶縁電線と、前記絶縁電線が挿通される外装材と、前記絶縁電線と前記外装材との間に配置される放熱材と、を備える。前記放熱材は、本開示の熱伝導性材料で構成される。
【0048】
本開示のワイヤーハーネスは、特に限定されるものではないが、電気自動車やハイブリッド自動車に配策される、パワーコントロールユニット(PCU)とバッテリーとの間を接続する高圧電線として好適である。
【0049】
図1は、本開示のワイヤーハーネスを配策した車両の模式図である。
図2、
図3は、本開示の一実施形態に係るワイヤーハーネスを示したものであり、
図2は、ワイヤーハーネスの延びる方向の断面図であり、
図3は、ワイヤーハーネスの径方向の断面図である。
【0050】
図1には、車両として電気自動車を示している。電気自動車1は、図示しないモータを動力として駆動する車両である。モータには、パワーコントロールユニット2を介してバッテリー3から電力が供給されるようになっている。パワーコントロールユニット2は、モータが配置される車両内部前側に搭載されている。バッテリー3は、車両内部後側に搭載されている。なお、パワーコントロールユニット2およびバッテリー3の配置は一例であって、これに限定されるものではない。パワーコントロールユニット2とバッテリー3との間は、ワイヤーハーネス4によって接続されている。
【0051】
本開示の一実施形態に係るワイヤーハーネス4は、絶縁電線5と、絶縁電線5が挿通される外装材6と、放熱材7と、を備える。絶縁電線5は、導体8と、導体8の外周を被覆する絶縁被覆9と、を備える。導体8は、断面が円形状である。絶縁電線5の周囲には、金属製のシールド部材10が配置されている。シールド部材10は、金属細線をメッシュ状に編み込んだ編組や金属箔などで構成される。シールド部材10により、絶縁電線5は、外部環境との電磁的干渉が抑えられる。
【0052】
導体8は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などの導電性に優れる金属で構成される。導体8は、単線であってもよいし、複数本の金属素線の束で構成されていてもよい。導体断面積は、特に限定されるものではないが、軽量化などの観点から、90mm2以下であることが好ましい。
【0053】
絶縁被覆9の材料としては、例えば、ゴム、ポリオレフィン、PVC、熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。これらは単独で用いても良いし、2種以上混合して用いても良い。絶縁被覆9の材料中には、適宜、各種添加剤が添加されていても良い。添加剤としては、難燃剤、充填剤、着色剤等を挙げることができる。
【0054】
外装材6は、円筒状の部材であり、絶縁電線5を長さ方向に沿って連続的あるいは非連続的に覆うことで絶縁電線5と外部環境の接触を抑えて保護するものである。このような部材としては、円筒状や角筒状などの筒状パイプ、コルゲートチューブなどが挙げられる。コルゲートチューブは、長さ方向に沿って凸凹状の波形を持たせたチューブ(蛇腹状チューブ)であり、材質に基づく剛性を有するとともに、形状に基づく柔軟性も備え、曲げやすく配策しやすい。
【0055】
外装材6は、樹脂材料またはゴム材料によって形成される。外装材6は、剛性に優れ、絶縁電線5を外部環境との接触から保護する機能に優れるなどの観点から、樹脂材料によって形成されることが好ましい。樹脂材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂やその共重合体、ポリアミド、ポリエステル、フッ素樹脂などが挙げられる。これらの内では、耐熱性に優れる、剛性に優れる、伸びが大きい、射出成型がしやすいなどの観点から、ポリプロピレンがより好ましい。ゴム材料としては、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、天然ゴムなどが挙げられる。
【0056】
放熱材7は、本開示の熱伝導性材料で構成されており、絶縁電線5と、絶縁電線5が挿通される外装材6と、の間に配置されている。放熱材7は、円筒状に成形されており、放熱材7の内周面は、絶縁電線5の外周面に全周にわたって接触しており、放熱材7の外周面は、外装材6の内周面に全周にわたって接触している。絶縁電線5の延びる方向には、所定の間隔をあけて放熱材7が複数設けられている。放熱材7が配置される部分において、絶縁電線5と外装材6の間に空気層が極力形成されないため、絶縁電線5において発生した熱は、放熱材7を介して外装材6に効率よく伝えられ、放熱効果に優れる。
【0057】
放熱材7は、シート状やチューブ状に成形されていればよい。シート状とは、長さ方向に端部を有する形状であり、チューブ状とは、長さ方向に端部を有していない形状で筒状である。放熱材7は、例えばシート状のものを絶縁電線5の外周面に所定の厚みとなるように巻き付けることにより配置することができる。また、チューブ状のものの内側に絶縁電線5を挿通することにより配置することができる。
【0058】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本開示は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0059】
例えば、上記実施形態では、放熱材7は、絶縁電線5の延びる方向には、所定の間隔をあけて複数設けられているとされているが、絶縁電線5の延びる方向に全長にわたって連続的に放熱材7が設けられていてもよい。また、上記実施形態では、断面円形状の導体8としているが、導体8の形状は、断面円形状に限られず、断面長円形状、断面四角形状など種々の形状であってもよい。また、上記実施形態では、円筒状の外装材6としているが、外装材6の形状は、円筒状に限られず、角筒状など種々の形状であってもよい。また、上記実施形態では、円筒状の放熱材7としているが、放熱材7の形状は、円筒状に限られず、角筒状など種々の形状であってもよい。また、上記実施形態では、絶縁電線5はシールド部材10で覆われているものとなっているが、シールド部材10で覆われていない一般電線であってもよい。また、上記実施形態では、外装材6に挿通される絶縁電線5は一つとしているが、外装材6に挿通される絶縁電線は、二つ以上であってもよい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本開示を説明するが、本開示は、実施例により限定されるものではない。
【0061】
(試料の調製)
表に記載の配合組成(体積%)で各成分を配合することにより、各試料を調製した。
【0062】
(熱伝導性材料の作製)
調製した試料を硬化することにより、熱伝導性材料を作製した。
【0063】
熱伝導性材料の作製に用いた材料は、以下の通りである。
(ベース樹脂)
・シリコーン(ポリジメチルシロキサン): 信越シリコーン製「KE‐1886」
(熱伝導性フィラー)
・炭素繊維(カーボンファイバー): 日本グラファイトファイバー製「XN-100-15M」繊維径(平均繊維径)13μm、繊維長(平均繊維長)150μm
・グラファイトカーボン:デンカ製「デンカブラック(粒状品)」粒径(メジアン径)35nm
・アルミナ<1>(球状):エア・ブラウン製「BAK-90」粒径(メジアン径)90μm
・アルミナ<2>(球状):エア・ブラウン製「BAK-120」粒径(メジアン径)120μm
・アルミナ<3>(球状):昭和電工製「AS-50」粒径(メジアン径)9μm
・アルミナ<4>(球状):昭和電工製「CB-A100S」粒径(メジアン径)100μm
(中空フィラー)
・ガラス中空球:3M製「K1」粒径(メジアン径)65μm
【0064】
(比重)
JIS K5400に準拠し、室温で測定した。
【0065】
(熱伝導率)
JIS A1412に準拠し、室温で測定した。サンプルは円盤状(Φ50mm、厚み2mm±0.2mm)を使用した。
【0066】
試料2(比較例2)、試料4(実施例2)について、X線CT装置を用い、熱伝導性材料の内部構造状態を観察した。その結果を
図4および
図5に示す。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
図4は、試料2(比較例2)の熱伝導性材料の内部構造状態の再構成断面像(3面図)である。
図4に示すように、試料2(比較例2)では、ベース樹脂のシリコーン内部に炭素繊維が確認できる(図中、三角で示した部分)。
図5は、試料4(実施例2)の熱伝導性材料の内部構造状態の再構成断面像(3面図)である。
図5に示すように、試料4(実施例2)では、ベース樹脂のシリコーン内部に炭素繊維と中空粒子が確認できる(図中、三角で示した部分)。
【0073】
表1から、ベース樹脂に対し、中空フィラーを配合しないで熱伝導性フィラーを配合すると(比較例2)、ベース樹脂(比較例1)に対し、材料の熱伝導性は上がるが、材料の比重も上がる。一方、ベース樹脂に対し、熱伝導性フィラーとともに中空フィラーを所定の配合比で配合すると(実施例1、実施例2)、材料の熱伝導性を上げつつ、材料の比重の上昇が抑えられる。同様に、表2から、ベース樹脂に対し、中空フィラーを配合しないで熱伝導性フィラーを配合すると(比較例3)、ベース樹脂(比較例1)に対し、材料の熱伝導性は上がるが、材料の比重も上がる。一方、ベース樹脂に対し、熱伝導性フィラーとともに中空フィラーを所定の配合比で配合すると(実施例3、実施例4)、材料の熱伝導性を上げつつ、材料の比重の上昇が抑えられる。同様に、表3から、ベース樹脂に対し、中空フィラーを配合しないで熱伝導性フィラーを配合すると(比較例4)、ベース樹脂(比較例1)に対し、材料の熱伝導性は上がるが、材料の比重も上がる。一方、ベース樹脂に対し、熱伝導性フィラーとともに中空フィラーを所定の配合比で配合すると(実施例5、実施例6)、材料の熱伝導性を上げつつ、材料の比重の上昇が抑えられる。したがって、本開示の熱伝導性材料によれば、放熱性と軽量化を両立できる。
【0074】
表4によれば、実施例3、実施例5、実施例1の比較から、熱伝導性フィラーの体積割合および中空フィラーの体積割合が同じ条件において、熱伝導性フィラーとしてアルミナ粒子を用いたときよりもアルミナ粒子と炭素繊維を併用したときのほうが、比重が小さく、かつ、熱伝導率に優れることがわかる。また、アルミナ粒子と炭素繊維を併用したときよりも炭素繊維を用いたときのほうが、比重が小さく、かつ、熱伝導率に優れることがわかる。実施例4、実施例6、実施例2の比較においても、同様のことがいえる。
【0075】
表5によれば、熱伝導性材料全量基準で、熱伝導性フィラーの体積割合が20.0体積%以上であると、熱伝導率により優れる。また、熱伝導性フィラーの体積割合が30.0体積%以上であると、熱伝導率が1.00W/m・Kを超え、熱伝導率に特に優れる。そして、熱伝導性材料全量基準で、中空フィラーの体積割合が20.0体積%以上であると、より低比重にできる。
【0076】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本開示は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 電気自動車
2 パワーコントロールユニット
3 バッテリー
4 ワイヤーハーネス
5 絶縁電線
6 外装材
7 放熱材
8 導体
9 絶縁被覆
10 シールド部材