(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】排気浄化システムおよびその制御方法
(51)【国際特許分類】
F01N 3/20 20060101AFI20230620BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
F01N3/20 K
B01D53/94 300
B01D53/94 222
(21)【出願番号】P 2020031806
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2022-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】藤野 竜介
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-044515(JP,A)
【文献】国際公開第2014/054064(WO,A1)
【文献】特開2015-075068(JP,A)
【文献】特開2008-019780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/20
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路に配置された触媒装置と、
バッテリからの電力の供給によりこの触媒装置を加熱する加熱装置と、を備える排気浄化システムにおいて、
前記触媒装置の入口を通過する排気の入口温度を取得する入口温度取得装置と、前記触媒装置の出口を通過する排気の出口温度を取得する出口温度取得装置と、前記加熱装置による加熱の駆動を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置に入口設定温度と出口設定温度とが予め設定されて、
前記出口設定温度が、前記触媒装置が活性化したことを判定可能な値の中での下限を示す下限温度に設定されていて、前記入口設定温度が、前記触媒装置の入口側の温度と出口側の温度との間に生じる温度差に基づいて前記出口設定温度よりも高い温度に設定されていて、
前記制御装置は、前記入口温度取得装置が取得した前記入口温度が前記入口設定温度以上かつ前記出口温度取得装置が取得した前記出口温度が前記出口設定温度以上の場合に前記加熱装置の駆動を停止し、それ以外の場合に前記加熱装置を駆動する制御を行う構成であることを特徴とする排気浄化システム。
【請求項2】
前記触媒装置が還元剤噴射装置から噴射された還元剤を用いる選択的還元触媒装置であり、
前記出口設定温度は、前記還元剤噴射装置の噴射の有無を判定する噴射判定温度の近傍の値に設定され、前記入口設定温度は、前記出口設定温度よりも高い前記下限温度の近傍の値に設定される請求項1に記載の排気浄化システム。
【請求項3】
前記加熱装置は排気の流れに関して前記触媒装置の上流側の前記排気通路に配置されて通過する排気を加熱する構成であり、
前記加熱装置を通過する排気の流量に関するパラメータを取得するパラメータ取得装置を備え、
前記制御装置に設定流量が予め設定されて、
前記制御装置は前記パラメータ取得装置が取得したパラメータに基づいて得られた前記加熱装置を通過する排気の流量が前記設定流量よりも多い場合に前記入口温度と前記出口温度とに基づいて前記加熱装置の駆動の有無を判定し、排気の流量が前記設定流量以下の場合に前記加熱装置の駆動を停止する制御を行う構成である請求項1または2に記載の排気浄化システム。
【請求項4】
前記加熱装置の出力と前記設定流量とが正の相関があり、前記設定流量は前記加熱装置により排気を加熱するときの出力の最大値に基づいて設定される請求項3に記載の排気浄化システム。
【請求項5】
前記加熱装置へ電力を供給する
前記バッテリの電圧を取得する電圧取得装置を備え、
前記制御装置に設定電圧が予め設定されて、
前記制御装置は前記電圧取得装置が取得した電圧が前記設定電圧よりも高い場合に前記入口温度と前記出口温度とに基づいて前記加熱装置の駆動の有無を判定し、取得した電圧が前記設定電圧以下の場合に前記加熱装置の駆動を停止する制御を行う構成である請求項1~4のいずれか1項に記載の排気浄化システム。
【請求項6】
制御装置によりバッテリからの電力が供給されて触媒装置を加熱する加熱装置を制御する排気浄化システムの制御方法において、
前記制御装置に予め入口設定温度と出口設定温度とを設定しておき、前記出口設定温度が、前記触媒装置が活性化したことを判定可能な値の中での下限を示す下限温度に設定されていて、前記入口設定温度が、前記触媒装置の入口側の温度と出口側の温度との間に生じる温度差に基づいて前記出口設定温度よりも高い温度に設定されていて、
前記触媒装置の入口を通過する排気の入口温度を取得するとともに、前記触媒装置の出口を通過する排気の出口温度を取得し、
前記制御装置により、取得した前記入口温度が
前記入口設定温度以上かつ取得した前記出口温度が
前記出口設定温度以上の場合に前記加熱装置の駆動を停止し、それ以外の場合に前記加熱装置を駆動することを特徴とする排気浄化システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は排気浄化システムおよびその制御方法に関し、より詳細には排気通路に配置された触媒装置に流入する排気を加熱装置により加熱する排気浄化システムおよびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの排気通路に加熱装置を配置して、その加熱装置により排気を加熱する排気浄化システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、排気浄化システムが備える触媒装置はその性能が十分に発揮される温度帯が予め決まっている。そこで、上記の特許文献1に記載の発明は、加熱装置により加熱した排気が流入する触媒装置の入口を通過する排気の温度とその温度帯に基づいて設定した設定温度を比較して加熱装置による加熱とその加熱の停止とを制御している。
【0005】
しかし、触媒装置の入口を通過する排気の温度が温度帯の下限値に達しただけでは、触媒装置の全体が昇温されておらず、加熱が不十分な状態に陥るという問題がある。一方で、触媒装置の入口を通過する排気の温度が温度帯の上限に達するまで加熱装置による加熱を継続すると、触媒装置を十分に昇温させることが可能となるが、加熱装置で消費されるエネルギーが大きくなるという問題がある。
【0006】
これらの問題に対して、触媒装置の入口を通過する排気の温度、排気流量、触媒装置の容量や熱容量などを用いてその触媒装置の全体の温度や触媒装置の中心部の温度を予測し、予測したその温度に基づいて加熱装置による加熱を制御する方法がある。また、PID制御により触媒装置の全体が十分に加熱され、かつ、加熱装置で消費されるエネルギーが過剰に大きくならないようにゲインの設定など制御を適正化して加熱装置による加熱を制御する方法がある。
【0007】
しかしながら、それらの方法では計算負荷が重くなるという問題や計算に用いるモデル化やPID制御に用いるゲインの設定など制御の適正化に要するコストが高くなるという問題がある。
【0008】
本開示の目的は、触媒装置に対する十分な昇温効果と加熱装置で消費されるエネルギーの低減とを両立しつつ、計算負荷を低減するとともに制御の適正化に要するコストを低減する排気浄化システムおよびその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成する本発明の一態様の排気浄化システムは、排気通路に配置された触媒装置と、バッテリからの電力の供給によりこの触媒装置を加熱する加熱装置と、を備える排気浄化システムにおいて、前記触媒装置の入口を通過する排気の入口温度を取得する入口温度取得装置と、前記触媒装置の出口を通過する排気の出口温度を取得する出口温度取得装置と、前記加熱装置による加熱の駆動を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置に入口設定温度と出口設定温度とが予め設定されて、前記出口設定温度が、前記触媒装置が活性化したことを判定可能な値の中での下限を示す下限温度に設定されていて、前記入口設定温度が、前記触媒装置の入口側の温度と出口側の温度との間に生じる温度差に基づいて前記出口設定温度よりも高い温度に設定されていて、前記制御装置は、前記入口温度取得装置が取得した前記入口温度が前記入口設定温度以上かつ前記出口温度取得装置が取得した前記出口温度が前記出口設定温度以上の場合に前記加熱装置の駆動を停止し、それ以外の場合に前記加熱装置を駆動する制御を行う構成であることを特徴とする。
【0010】
上記の目的を達成する本発明の一態様の排気浄化システムの制御方法は、制御装置によりバッテリからの電力が供給されて触媒装置を加熱する加熱装置を制御する排気浄化システムの制御方法において、前記制御装置に予め入口設定温度と出口設定温度とを設定しておき、前記出口設定温度が、前記触媒装置が活性化したことを判定可能な値の中での下限を示す下限温度に設定されていて、前記入口設定温度が、前記触媒装置の入口側の温度と出口側の温度との間に生じる温度差に基づいて前記出口設定温度よりも高い温度に設定されていて、前記触媒装置の入口を通過する排気の入口温度を取得するとともに、前記触媒装置の出口を通過する排気の出口温度を取得し、前記制御装置により、取得した前記入口温度が前記入口設定温度以上かつ取得した前記出口温度が前記出口設定温度以上の場合に前記加熱装置の駆動を停止し、それ以外の場合に前記加熱装置を駆動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、触媒装置の入口温度に加えて出口温度を判定することで触媒装置の昇温状態を適切に見極めることが可能となる。それ故、触媒装置に対する十分な昇温効果と加熱装置で消費されるエネルギーの低減とを両立することができる。また、入口温度と出口温度との二つの温度を用いることで、触媒装置自体の温度を推定する方法やPID制御を用いる方法に比して、計算負荷を低減するとともに制御の適正化に要するコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態の排気浄化システムを例示する構成図である。
【
図2】
図1の排気浄化システムにおいて時刻の経過に伴う触媒装置の温度の変化を例示する変化図である。
【
図3】
図1の加熱装置の出力電力と加熱装置を通過する排気の流量との関係を例示する関係図である。
【
図4】実施形態の排気浄化システムの制御方法を例示するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本開示における排気浄化システムおよびその制御方法の実施形態について説明する。図中において、白抜き矢印は吸気または空気の流れを示し、塗り潰し矢印は排気の流れを示し、一点鎖線は信号線を示す。なお、本実施形態において、吸気は内燃機関1の気筒に吸入される気体であり、空気に排気が混合されたものを含むものとする。
【0014】
図1に例示するように、本実施形態の排気浄化システム10は車両の内燃機関1から燃料の燃焼により生じた排気が流通する排気通路2の中途位置に配置されて、排気を浄化するものである。内燃機関1は排出された排気が通過する排気通路2と、吸入される吸気が通過する吸気通路3と燃料の燃焼により得られた動力を出力するクランクシャフト4とを備えて構成される。なお、排気浄化システム10は車両に搭載される内燃機関1に限定されない。
【0015】
排気浄化システム10は、排気通路2の中途位置に配置されて、排気管燃料噴射装置11、酸化触媒装置12、フィルタ装置13、還元剤噴射装置14、選択的還元触媒装置15、および、還元剤吸着触媒装置16を備える。
【0016】
排気管燃料噴射装置11は排気の流れに関して酸化触媒装置12の上流側に配置されて、排気通路2に未然の燃料を噴射する。酸化触媒装置12は排気の流れに関してフィルタ装置13の上流側に配置されて、排気に含有する炭化水素、一酸化炭素、及び一酸化窒素を酸化する触媒を有する。フィルタ装置13は排気に含有する粒子状物質を捕集する。還元剤噴射装置14は排気の流れに関して選択的還元触媒装置15の上流側に配置されて、尿素水を噴射して選択的還元触媒装置15に還元剤であるアンモニアを供給する。選択的還元触媒装置15は排気の流れに関して還元剤吸着触媒装置16の上流側に配置されて、アンモニアを還元剤として排気に含有する窒素酸化物を還元浄化する触媒を有する。還元剤吸着触媒装置16は選択的還元触媒装置15を通過後の排気に含まれる還元剤を吸着除去する触媒を有するとともにアンモニアを還元剤として排気に含有する窒素酸化物を還元浄化する触媒も有する。排気浄化システム10は排気管燃料噴射装置11を備えない代わりに、内燃機関1の図示しない燃料噴射装置のポスト噴射により酸化触媒装置12に未然燃料を供給する構成にしてもよい。
【0017】
本開示において触媒装置とは排気に含有する窒素酸化物を浄化する触媒を有するものであり、本実施形態における選択的還元触媒装置15および還元剤吸着触媒装置16がその触媒装置に相当する。なお、還元剤吸着触媒装置16がその触媒を有さない場合もあり、その場合に選択的還元触媒装置15のみが触媒装置に相当する。また、本開示の触媒装置はアンモニアを還元剤として排気に含有する窒素酸化物を還元浄化する触媒を有する装置に限定されるものではない。触媒装置としては、排気中の窒素酸化物を排気がリーン状態のときに一旦吸蔵させ、排気がリッチ空燃比状態のときに吸蔵された窒素酸化物を放出させて、貴金属触媒の三元機能により還元する触媒を有するものでもよい。また、フィルタ装置13が窒素酸化物を浄化する触媒を有し、粒子状物質の捕集と窒素酸化物の浄化との二つの機能を兼ね備える場合は、その窒素酸化物を浄化可能なフィルタ装置13も触媒装置に相当する。
【0018】
排気浄化システム10は上記の構成に加えて、加熱装置20と入口温度取得装置21と出口温度取得装置22とパラメータ取得装置として回転数取得装置23および吸気量取得装置24と電圧取得装置25と制御装置30と、を備えて構成される。
【0019】
加熱装置20は排気の流れに関して選択的還元触媒装置15よりも上流側で、かつ、フィルタ装置13よりも下流側の排気通路2に配置される。より好ましくは、還元剤噴射装置14よりも上流側の排気通路2に配置される。加熱装置20が還元剤噴射装置14よりも上流側の排気通路2に配置されることで、噴射された還元剤が付着することを回避するには有利となる。加熱装置20としては自身を通過する空気を加熱する電気ヒータで構成され、バッテリ5にスイッチを介して接続される。このバッテリ5は内燃機関1の動力により発電する発電機6により充電されるとともに内燃機関1を始動させるスタータ7に電力を供給する。
【0020】
入口温度取得装置21は選択的還元触媒装置15の入口を通過する排気の温度である入口温度Txを取得する装置である。入口温度取得装置21は直に排気の温度を取得する温度センサで構成され、加熱装置20と選択的還元触媒装置15との間の排気通路2に配置される。
【0021】
出口温度取得装置22は還元剤吸着触媒装置16の出口を通過する排気の温度である出口温度Tyを取得する装置である。出口温度取得装置22は直に排気の温度を取得する温度センサで構成され、排ガスの流れに関して還元剤吸着触媒装置16より下流側の排気通路2に配置される。なお、前述したとおり還元剤吸着触媒装置16が窒素酸化物を浄化する触媒を有しない場合に、出口温度取得装置22は選択的還元触媒装置15と還元剤吸着触媒装置16との間に配置されることが望ましい。また、排気の流れに関して還元剤吸着触媒装置16よりも下流側に弁装置や分岐通路が備えられる場合は、それらの装置よりも上流側に配置されることが望ましい。
【0022】
回転数取得装置23および吸気量取得装置24は加熱装置20を通過する排気の流量Qgに関するパラメータを取得するパラメータ取得装置である。回転数取得装置23は内燃機関1のクランクシャフト4の回転数Neを取得する装置である。吸気量取得装置24は吸気通路3の吸気量Qxを取得する装置である。本実施形態において、パラメータ取得装置は取得したパラメータに基づいて加熱装置20を通過する排気の流量Qgを取得可能な装置であればよく、回転数取得装置23および吸気量取得装置24に限定されない。例えば、パラメータ取得装置としては加熱装置20を通過する排気の流量を直に取得する流量取得装置で構成されてもよい。
【0023】
電圧取得装置25は加熱装置20へ電力を供給するバッテリ5の電圧Vxを取得する装置である。電圧取得装置25はバッテリ5の電圧Vxを直に取得する装置に限定されずに、バッテリ5の電圧Vxを間接的に取得する装置でもよい。例えば、電圧取得装置25は発電機6からバッテリ5への発電状態を監視する装置でもよい。
【0024】
制御装置30は排気浄化システム10の制御を行う装置であり、排気管燃料噴射装置11の未然燃料の噴射によるフィルタ装置13の再生制御や還元剤噴射装置14の還元剤の噴射制御に加えて、加熱装置20の加熱を制御する。制御装置30は信号線により排気管燃料噴射装置11、還元剤噴射弁14、加熱装置20、および、各種取得装置に電気的に接続される。
【0025】
制御装置30は各種情報処理を行う中央演算装置(CPU)、その各種情報処理を行うために用いられるプログラムや情報処理結果を読み書き可能な内部記憶装置、及び各種インターフェースなどから構成されるハードウェアである。
【0026】
制御装置30は、入口設定温度Taと、出口設定温度Tbと、設定流量Qaを示すアイドル回転数Niおよび最低吸入量Qmと、設定電圧Vaとが予め内部記憶装置に設定される。また、制御装置30は、機能要素として判定部31および加熱制御部32を有する。各機能要素は、プログラムとして内部記憶装置に記憶されていて、適時、中央演算装置により実行されている。なお、各機能要素としては、プログラムの他にそれぞれが独立して機能するプログラマブルコントローラ(PLC)や電気回路で構成されてもよい。
【0027】
図2に例示するように、選択的還元触媒装置15および還元剤吸着触媒装置16が活性化して、窒素酸化物を還元浄化する性能が十分に発揮される温度帯として下限温度Tdと上限温度Tuとが予め設定される。これらの下限温度Tdと上限温度Tuとは触媒の種類に応じて予め定められた固定値であり、選択的還元触媒装置15や還元剤吸着触媒装置16の実際の温度を示している。なお、本実施形態において選択的還元触媒装置15や還元剤吸着触媒装置16の実際の温度はそれぞれの装置の中心部の温度やそれぞれの装置における全域の温度のうちの最低温度を示すものとする。また、選択的還元触媒装置15および還元剤吸着触媒装置16は下限温度Tdよりも低い温度や上限温度Tuよりも高い温度で窒素酸化物を全く還元浄化できないわけではない。
【0028】
入口設定温度Taおよび出口設定温度Tbのそれぞれは触媒装置が活性化したことを判定可能な値に設定される。触媒装置が活性化したことを判定可能な値としては、下限温度Tdと上限温度Tuとの間の温度が例示される。入口設定温度Taおよび出口設定温度Tbのそれぞれが下限温度Tdと上限温度Tuとの間に設定されることで、選択的還元触媒装置15や還元剤吸着触媒装置16の昇温効果を見極めるには有利となる。なお、本実施形態において下限温度Tdと上限温度Tuとの間の温度とは、下限温度Tdと上限温度Tuとを含んでもよい。
【0029】
また、入口設定温度Taは出口設定温度Tbよりも高い温度に設定される。選択的還元触媒装置15や還元剤吸着触媒装置16は排気が入口から出口に向かって流れるために入口側の温度が出口側の温度よりも高くなる傾向にある。そこで、入口設定温度Taを出口設定温度Tbよりも高い温度に設定することで、入口側の温度と出口側の温度との間に生じる温度差を考慮した加熱制御が可能となる。
【0030】
本実施形態で、出口設定温度Tbは下限温度Tdに設定され、入口設定温度Taは下限温度Tdに触媒装置が十分に活性化した状態における入口温度Txと出口温度Tyとの差分の平均値よりも高い温度を加算した温度に設定される。なお、入口設定温度Taと出口設定温度Tbとの関係はこれに限定されずに、予め実験や試験、あるいはシミュレーションにより求まるものであり、排気浄化システム10の構成、加熱装置20の出力電力、内燃機関1の排気量などにより適宜設定可能である。
【0031】
図3に例示するように、加熱装置20の出力電力と加熱装置20を通過する排気の流量Qgとは正の相関となり、加熱装置20の出力電力は加熱装置20を通過する排気の流量Qgの大小により設定可能な値が定められている。つまり、加熱装置20の出力電力を大きくして加熱装置20により触媒装置を迅速に昇温するには排気の流量を大きくする必要がある。
【0032】
本実施形態において、加熱装置20の出力電力を最大値Pmaxにするには、排気の流量Qgを設定流量Qaよりも多い状態にする必要がある。設定流量Qaは、回転数取得装置23が取得する内燃機関1の回転数Neがアイドル回転数Niよりも多く、かつ、吸気量取得装置24が取得する吸気量Qxが内燃機関1において燃焼可能な最低吸入量Qmよりも多い状態の流量である。
【0033】
設定電圧Vaは内燃機関1が始動して発電機6による発電が開始されたことを判定可能な値に設定される。バッテリ5の電圧Vxは内燃機関1が始動して発電機6による発電が開始されてその発電機6で発電された電力が充電される状態になると、その設定電圧Va以上の電圧に確保される。設定電圧Vaはスタータ7が駆動可能な電圧に設定されることが好ましい。
【0034】
判定部31は入口温度取得装置21、出口温度取得装置22、回転数取得装置23、吸気量取得装置24、および、電圧取得装置25のそれぞれが取得する取得値が入力されて、入力されたそれらの取得値に基づいて、加熱装置20の駆動の有無を判定する機能要素である。具体的に、判定部31はそれらの取得値と、予め設定された入口設定温度Ta、出口設定温度Tb、アイドル回転数Ni、最低吸入量Qm、および、設定電圧Vaとを比較して加熱装置20の駆動の有無を判定し、その判定結果を加熱制御部32に出力する機能要素である。
【0035】
加熱制御部32は判定部31の判定結果が入力されて、その判定結果に基づいて加熱装置20の駆動を制御する機能要素である。
【0036】
図4に例示するように、本実施形態の排気浄化システム10の制御方法を制御装置30の機能として説明する。この制御方法はイグニッションキーがオンの状態になると開始され、イグニッションキーがオフの状態になると終了する。制御フローは所定の周期ごとに繰り返し行われ、リターンでスタートや前のステップに戻ると一周期が経過するものとする。
【0037】
イグニッションキーがオンの状態になると、判定部31は各取得装置(21~25)を介してそれぞれの取得値(入口温度Tx、出口温度Ty、回転数Ne、吸気量Qx、電圧Vx)を取得する(S110)。
【0038】
ついで、判定部31は取得した入口温度Txと出口温度Tyとの基づいた加熱装置20の駆動の有無の判定を行うための判定を行う。判定部31は取得した回転数Neおよび吸気量Qxに基づいて得られる加熱装置20を通過する排気の流量Qgが設定流量Qaよりも多いか否かを判定する(S120)。具体的に、このステップS120は、取得した回転数Neがアイドル回転数Niよりも多いか否かを判定するとともに取得した吸気量Qxが最低吸入量Qmよりも多いか否かを判定するステップである。また、判定部31は取得した電圧Vxが設定電圧Vaよりも大きいか否かを判定する(S130)。
【0039】
排気の流量Qgが設定流量Qaよりも多いと判定し(S120:YES)、かつ、電圧Vxが設定電圧Vaよりも大きいと判定すると(S130:YES)、判定部31は入口温度Txと出口温度Tyとの基づいた加熱装置20の駆動の有無の判定を行う。一方、排気の流量Qgが設定流量Qa以下と判定する(S120:NO)、または、電圧Vxが設定電圧Va以下と判定すると(S130:NO)、判定部31は加熱装置20の駆動を停止するという判定結果を加熱制御部32に送る。ついで、加熱制御部32がその判定結果に基づいて加熱装置20の駆動を停止する(S170)。なお、このステップ170を行う際に加熱装置20の駆動が停止している場合に、その停止が継続される。
【0040】
温度に基づいた加熱装置20の駆動の有無の判定において、判定部31は取得した入口温度Txが入口設定温度Taよりも低いか否かを判定する(S140)。また、判定部31は取得した出口温度Tyが出口設定温度Tbよりも低いか否かを判定する(S150)。
【0041】
この二つの判定により、判定部31は、入口温度Txが入口設定温度Ta以上(S140:NO)、かつ、出口温度Tyが出口設定温度Tb以上(S150:NO)の場合に、加熱装置20の駆動を停止するという判定結果を加熱制御部32に送る。次いで、加熱制御部32がその判定結果に基づいて加熱装置20の駆動を停止する(S170)。
【0042】
一方、判定部31は、入口温度Txが入口設定温度Taよりも低い(S140:YES)、または、出口温度Tyが出口設定温度Tbよりも低い(S150:YES)場合に、加熱装置20を駆動するという判定結果を加熱制御部32に送る。ついで、加熱制御部32がその判定結果に基づいて加熱装置20を駆動する(S160)。なお、このステップ160を行う際に加熱装置20が駆動している場合に、その駆動が継続される。
【0043】
以上のステップS110~S170はイグニッションキーがオフの状態になるまで、繰り返し行われる。
【0044】
図2に例示するように、本開示の制御方法による加熱装置20による触媒装置の加熱は内燃機関1が冷間始動した直後に行われる。なお、本開示の制御方法による加熱装置20の触媒装置の加熱は内燃機関1の燃料の噴射が停止して車両が減速しているときにも行われる。
【0045】
図中では、点線の軌跡が本開示の制御方法を行わない、つまり、加熱装置20を用いない状態の触媒装置の温度を示し、一点鎖線の軌跡が入口温度Txのみの判定で加熱装置20の駆動の有無を判定した制御の触媒装置の温度を示し、実線の軌跡が本開示の制御方法による触媒装置の温度を示す。なお、触媒装置の温度は実験により求めたものであり、触媒装置の中心部の温度を示すものとする。
【0046】
本開示の制御方法では、イグニッションキーがオンの状態になり内燃機関1が冷間始動すると、上記のステップが順に行われる。時刻t1が経過するまでの間はステップS120およびステップS130の判定により温度に基づく加熱装置20の駆動の有無の判定を行っていない期間である。時刻t1になると、ステップS120およびステップS130の判定により温度に基づく加熱装置20の駆動の有無の判定が許可されて、温度の判定により加熱装置20の駆動により触媒装置の温度が昇温する。
【0047】
本開示の制御方法では、時刻t2になると触媒装置の温度が下限温度Tdを超える。一方、入口温度Txのみの判定で加熱装置20の駆動の有無を判定した制御では時刻t3になるまで触媒装置の温度が下限温度Tdを超えない。これは、入口温度Txが入口設定温度Taを超える時刻が時刻t1と時刻t2との間にあり、入口温度Txのみの判定加熱装置20の駆動の有無を判定した制御では触媒装置の温度が十分に昇温しないうちに加熱装置20の駆動を停止してしまうからである。
【0048】
以上のように、本開示の排気浄化システム10は、触媒装置の入口温度Txに加えて出口温度Tyを判定し、入口温度Txが入口設定温度Ta以上、かつ、出口温度Tyが出口設定温度Tb以上の場合に触媒装置が十分に昇温した状態と判定し、それ以外の場合に触媒装置の昇温が不十分と判定する。このように、排気浄化システム10によれば、二つの温度に基づいて判定することで触媒装置の昇温状態を適切に見極めることができる。これにより、触媒装置に対する十分な昇温効果と加熱装置20で消費されるエネルギーの低減とを両立することができる。
【0049】
また、本開示の排気浄化システム10は、入口温度Txと出口温度Tyとの二つの温度を用いて、それぞれと予め設定された入口設定温度Taと出口設定温度Tbとを比較することで加熱装置20の駆動の有無を判定する。このように、排気浄化システム10によれば、温度の比較判定という簡易な判定方法を用いることで、触媒装置自体の温度を推定する方法やPID制御を用いる方法に比して、計算負荷を低減するとともに制御の適正化に要するコストを低減することができる。
【0050】
排気浄化システム10は加熱装置20の駆動の有無の判定において、入口温度Txと出口温度Tyとの両方の温度を同時に用いる。そのため、入口設定温度Taと出口設定温度Tbとの関係を、触媒装置が十分に活性化した状態における入口温度Txと出口温度Tyとの差分の平均値に基づいて設定するとよい。具体的に、入口設定温度Taを出口設定温度Tbにその差分の平均値よりも高い温度を加算した温度に設定することが望ましい。このように設定することで、触媒装置の昇温速度を確保するには有利になる。
【0051】
加熱装置20は排気通路2に配置されて自身を通過する排気を加熱する電気ヒータを例示したが、触媒装置を直に加熱する装置としてもよい。本開示の排気浄化システム10は加熱装置が触媒装置を直に加熱する装置で構成されても適用可能である。
【0052】
本実施形態において、入口温度取得装置21として触媒装置の入口の近傍に配置された温度センサと、出口温度取得装置22として触媒装置の出口の近傍に配置された温度センサとの二つの温度センサを用いたが、温度センサを触媒装置の入口の近傍にのみ配置する構成にしてもよい。出口温度Tyは、入口温度Tx、排気の流量Qg、触媒装置の熱容量から推定可能である。そこで、出口温度取得装置22としては、それらの取得値から出口温度Tyを推定する装置や制御装置30の機能要素が例示される。なお、触媒装置の温度を推定する方法は触媒装置の全域の温度や触媒装置の中心部の温度を推定するものであり、出口温度Tyを推定する方法と比して計算が複雑であることはいうまでもない。
【0053】
本実施形態において、触媒装置が活性化したことを判定可能な値として還元剤噴射装置14の噴射の有無を判定する噴射判定温度Tnに基づいた温度を用いてもよい。噴射判定温度Tnは還元剤である尿素水が十分に加水分解する温度を判定可能な温度である。この場合に、出口設定温度Tbが噴射判定温度Tnの近傍の値に設定され、入口設定温度Taがその噴射判定温度Tnの近傍の値よりも高い下限温度Tdの近傍の値に設定される。
【符号の説明】
【0054】
10 排気浄化システム
15 選択的還元触媒装置
16 還元剤吸着触媒装置
20 加熱装置
21 入口温度取得装置
22 出口温度取得装置
23 回転数取得装置
24 吸気量取得装置
25 電圧取得装置
30 制御装置
Ta 入口設定温度
Tb 出口設定温度
Qa 設定流量
Va 設定電圧