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特許7298518樹脂組成物、樹脂組成物の硬化物、樹脂シート、プリント配線板及び半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂組成物の硬化物、樹脂シート、プリント配線板及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20230620BHJP
   C08K 5/3415 20060101ALI20230620BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230620BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20230620BHJP
   H01L 23/14 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/3415
C08K3/013
H05K1/03 610H
H01L23/14 R
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020038998
(22)【出願日】2020-03-06
(65)【公開番号】P2021138873
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-10-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 恒太
【審査官】長岡 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-241343(JP,A)
【文献】特開2010-138364(JP,A)
【文献】特開2000-026553(JP,A)
【文献】特開2020-158705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08K 3/00- 5/59
H01L 23/00-23/10
H05K 1/03
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリカーボネート樹脂、及び、(B)炭素原子数が5以上のアルキル基及び炭素原子数が5以上のアルキレン基をみ、前記炭素原子数が5以上のアルキレン基が、直鎖状のアルキレン基と環状のアルキレン基とを含マレイミド化合物を含み、(B)成分に対する(A)成分の質量比を示すA/Bの値が、0.05以上かつ1.5以下である、樹脂組成物。
【請求項2】
(A)成分が、脂肪族骨格含有ポリカーボネート樹脂及び芳香族骨格含有ポリカーボネート樹脂のいずれか1種以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
(A)成分が芳香族骨格含有ポリカーボネート樹脂を含む、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
(A)成分の数平均分子量又は粘度平均分子量が1000以上かつ300000以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
(A)成分の含有量が、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、1質量%以上かつ40質量%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
(B)成分が、下記一般式(B1)で表される、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【化1】
一般式(B1)中、Mは炭素原子数が5以上のアルキル基及び炭素原子数が5以上のアルキレン基を含む基を表し、前記炭素原子数が5以上のアルキレン基は直鎖状のアルキレン基と環状のアルキレン基とを含み、Lは単結合又は2価の連結基を表す。
【請求項7】
(B)成分に含まれる炭素原子数が5以上のアルキル基が、炭素原子数が5以上50以下のアルキル基であり、(B)成分に含まれる炭素原子数が5以上のアルキレン基が、炭素原子数が5以上50以下のアルキレン基である、請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
(B)成分の含有量が、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、0.1質量%以上かつ60質量%以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
(C)無機充填材をさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
(C)成分の含有量が、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、30質量%以上である、請求項9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
(D)ラジカル重合性化合物をさらに含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
(D)成分が、分子中に、ラジカル重合性不飽和基として、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、フマロイル基、マレオイル基、ビニルフェニル基、スチリル基及びシンナモイル基から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項11に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
(D)成分が、分子中に、ラジカル重合性不飽和基を2つ以上有する、請求項11又は12に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
200℃で90分間熱処理して得られる硬化物を、空洞共振摂動法により測定周波数5.8GHz及び測定温度23℃の条件で測定した場合の誘電率が3.2以下である、請求項1~13のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
200℃で90分間熱処理して得られる硬化物を、空洞共振摂動法により測定周波数5.8GHz及び測定温度23℃の条件で測定した場合の誘電正接が0.0040以下である、請求項1~14のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項16】
180℃で30分間熱処理して得られる硬化物を、粗化液に80℃で20分間浸漬した後に、当該硬化物を非接触型表面粗さ計で測定した場合の算術平均表面粗さが260nm以下である、請求項1~15のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項17】
絶縁層形成用である、請求項1~16のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項18】
導体層を形成するための絶縁層形成用である、請求項1~17のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか1項に記載の樹脂組成物の硬化物。
【請求項20】
支持体と、該支持体上に設けられた、請求項1~18のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む樹脂組成物層とを含む、樹脂シート。
【請求項21】
請求項1~18のいずれか1項に記載の樹脂組成物の硬化物又は請求項19に記載の硬化物により形成された絶縁層を含む、プリント配線板。
【請求項22】
請求項21に記載のプリント配線板を含む、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関する。さらには、当該樹脂組成物の硬化物、並びに、当該樹脂組成物を用いて得られる、樹脂シート、プリント配線板、及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置用のプリント配線板の製造技術として、絶縁層と導体層を交互に積み重ねるビルドアップ方式による製造方法が知られている。そして、絶縁層上に形成される配線はさらなる微細化が進んでいる。
【0003】
このような絶縁層に用いられるプリント配線板の絶縁材料として、例えば、特許文献1には、マレイミド化合物を含有する樹脂組成物が開示されている。また、本出願人による未公開特許出願(出願番号:特願2019-061616)にも、マレイミド化合物を含有する樹脂組成物が記載されている。また、プリント配線板の絶縁材料として、特許文献2には、ポリカーボネート樹脂を含有する樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-044128号公報
【文献】特開2019-035056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、半導体装置の回路基板における信号の高周波数化に伴い、絶縁層には誘電特性に優れていることが求められている。ここで、マレイミド化合物を含有する樹脂組成物の硬化物は、一般に、誘電特性に優れていることから、マレイミド化合物は、樹脂組成物に用いることが検討されている。
【0006】
しかしながら、本発明者の検討の結果、マレイミド化合物を含有する樹脂組成物の硬化物は、当該硬化物を下地としてその上に設けられる導体(例えば銅箔)との密着性(以下、「下地密着性」ともいう)に劣る場合があり、さらには当該硬化物に設けためっきの密着性(以下、「めっき密着性」ともいう)に劣る場合があることが判明した。なお、下地密着性とめっき密着性を総称して単に「密着性」という場合がある。
【0007】
また、本発明者の検討の結果、マレイミド化合物を含有する樹脂組成物の硬化物は、耐薬品性に劣る場合があることが判明した。硬化物が耐薬品性に劣ると、めっき等を設ける対象となる絶縁層表面を薬液(例えばアルカリ性液)に曝した際に、当該表面が過剰に粗化され、その結果、特に高周波用途における表皮効果が大きくなる場合がある。
【0008】
本発明の課題は、密着性及び耐薬品性に優れる硬化物を得ることができる樹脂組成物;当該樹脂組成物の硬化物;当該樹脂組成物を含む樹脂シート;当該樹脂組成物の硬化物により形成された絶縁層を含むプリント配線板、及び半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、(A)ポリカーボネート樹脂、及び、(B)炭素原子数が5以上のアルキル基及び炭素原子数が5以上のアルキレン基の少なくともいずれかの炭化水素鎖を含むマレイミド化合物を組み合わせて用いることで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の内容を含む。
[1] (A)ポリカーボネート樹脂、及び、(B)炭素原子数が5以上のアルキル基及び炭素原子数が5以上のアルキレン基の少なくともいずれかの炭化水素鎖を含むマレイミド化合物を含む、樹脂組成物。
[2] (A)成分が、脂肪族骨格含有ポリカーボネート樹脂及び芳香族骨格含有ポリカーボネート樹脂のいずれか1種以上である、[1]に記載の樹脂組成物。
[3] (A)成分が芳香族骨格含有ポリカーボネート樹脂を含む、[2]に記載の樹脂組成物。
[4] (A)成分の数平均分子量又は粘度平均分子量が1000以上かつ300000以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5] (A)成分の含有量が、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、1質量%以上かつ40質量%以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6] (B)成分に対する(A)成分の質量比を示すA/Bの値が、0.01以上かつ1.5以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7] (B)成分が、下記一般式(B1)で表される、[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【化1】
[8] (B)成分が、炭素原子数が5以上50以下のアルキル基及び炭素原子数が5以上50以下のアルキレン基の少なくともいずれかの炭化水素鎖を含むマレイミド化合物である、[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[9] (B)成分の含有量が、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、0.1質量%以上かつ60質量%以下である、[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[10] (C)無機充填材をさらに含む、[1]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[11] (C)成分の含有量が、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、30質量%以上である、[10]に記載の樹脂組成物。
[12] (D)ラジカル重合性化合物をさらに含む、[1]~[11]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[13] (D)成分が、分子中に、ラジカル重合性不飽和基として、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、フマロイル基、マレオイル基、ビニルフェニル基、スチリル基及びシンナモイル基から選ばれる少なくとも1種を含む、[12]に記載の樹脂組成物。
[14] (D)成分が、分子中に、ラジカル重合性不飽和基を2つ以上有する、[12]又は[13]に記載の樹脂組成物。
[15] 200℃で90分間熱処理して得られる硬化物を、空洞共振摂動法により測定周波数5.8GHz及び測定温度23℃の条件で測定した場合の誘電率が3.2以下である、[1]~[14]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[16] 200℃で90分間熱処理して得られる硬化物を、空洞共振摂動法により測定周波数5.8GHz及び測定温度23℃の条件で測定した場合の誘電正接が0.0040以下である、[1]~[15]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[17] 180℃で30分間熱処理して得られる硬化物を、粗化液に80℃で20分間浸漬した後に、当該硬化物を非接触型表面粗さ計で測定した場合の算術平均表面粗さが260nm以下である、[1]~[16]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[18] 絶縁層形成用である、[1]~[17]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[19] 導体層を形成するための絶縁層形成用である、[1]~[18]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[20] [1]~[19]のいずれかに記載の樹脂組成物の硬化物。
[21] 支持体と、該支持体上に設けられた、[1]~[19]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む樹脂組成物層とを含む、樹脂シート。
[22] [1]~[19]のいずれかに記載の樹脂組成物の硬化物又は[20]に記載の硬化物により形成された絶縁層を含む、プリント配線板。
[23] [22]に記載のプリント配線板を含む、半導体装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、密着性及び耐薬品性に優れる硬化物を得ることができる樹脂組成物;当該樹脂組成物の硬化物;当該樹脂組成物を含む樹脂シート;当該樹脂組成物の硬化物により形成された絶縁層を含むプリント配線板、及び半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の樹脂組成物、樹脂組成物の硬化物、樹脂シート、プリント配線板及び半導体装置について詳細に説明する。
【0013】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂、及び、(B)炭素原子数が5以上のアルキル基及び炭素原子数が5以上のアルキレン基の少なくともいずれかの炭化水素鎖を含むマレイミド化合物を含む樹脂組成物である。この樹脂組成物は、密着性及び耐薬品性に優れる硬化物を得ることができる。このような樹脂組成物を用いれば、当該樹脂組成物の硬化物;当該樹脂組成物の樹脂組成物層を含む樹脂シート;当該樹脂組成物を用いて形成された絶縁層を備えるプリント配線板、及び半導体装置を提供することができる。
【0014】
樹脂組成物は、(A)成分及び(B)成分の他に、必要に応じて、(C)無機充填材、(D) ラジカル重合性化合物、(E)硬化促進剤、及び(G)任意の添加物を含んでいてもよい。以下、本発明の樹脂組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。
【0015】
<(A)ポリカーボネート樹脂>
樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂を含有する。樹脂組成物が(A)成分を含有することにより、樹脂組成物の硬化物の耐薬品性を向上させることができる。そして、硬化物の耐薬品性が優れるため、めっき等を設ける対象となる絶縁層表面を薬液(例えばアルカリ性液)に曝した際に、当該表面が過剰に粗化されることを抑制でき(低粗度化を実現でき)、その結果、特に高周波用途における表皮効果を抑制できることとなる。このような効果を奏することができる理由の一つとして、(A)成分が分子中に薬品(特にはアルカリ溶液中の酸化剤)に侵され難い原子又は原子団を含んでいないか若しくは少ないからであると考えられる。また、樹脂組成物が(A)成分を含有することにより、樹脂組成物の硬化物と当該硬化物の表面に設ける導体層、特にはめっきとの密着性を向上させることができる。(A)成分がこのような効果を奏することができる理由の一つとして、(A)成分が分子中に剛性に優れたカーボネート基を有するので、樹脂組成物の硬化物全体の靱性を高めて物理的な密着強度を高めることができるからであると考えられる。そして、硬化物の物理的な密着性を高めることができることにより、破壊を伴う導体層の剥離を生じ難くすることができることとなる。そのため、本発明の樹脂組成物の硬化物は、低粗度の導体(例えば算術平均粗さRaが50μm以下の表面の銅箔)との密着性にも優れている。また、樹脂組成物がエポキシ樹脂を含まない場合、樹脂組成物の硬化物は、一般に、密着性に優れるとはいえない傾向にあるが、本発明では、密着性に優れた硬化物を形成できる点において利点がある。
【0016】
(A)成分としては、分子中にカーボネート基を有していれば特に限定されず、例えば、脂肪族骨格含有ポリカーボネート樹脂、芳香族骨格含有ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。なお、芳香族骨格及び脂肪族骨格を含有するポリカーボネート樹脂を用いてもよく、これは芳香族骨格含有ポリカーボネート樹脂に分類される。(A)成分は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。ここで、カーボネート基とは、「-O-C(=O)-」で表される基をいう。
【0017】
(A)成分は、一般にポリヒドロキシ化合物とカーボネート基前駆体とを反応させて製造することができ、ポリヒドロキシ化合物由来の構造単位を有する。ポリヒドロキシ化合物及びカーボネート基前駆体は、それぞれ1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、2種以上のポリヒドロキシ化合物を共重合させた共重合体とカーボネート基前駆体とを反応させて(A)成分を製造してもよい。構造単位とは、化合物から1つまたは複数の水素原子を取り除いた構造を意味する。
【0018】
カーボネート基前駆体としては、例えば、炭酸エステル、ホスゲン等が挙げられる。
【0019】
ポリヒドロキシ化合物としては、脂肪族骨格含有ポリヒドロキシ化合物、芳香族骨格含有ポリヒドロキシ化合物等が挙げられる。ここで、脂肪族骨格含有ポリヒドロキシ化合物とは、分子内に芳香環を含まないポリヒドロキシ化合物をいい、芳香族骨格含有ポリヒドロキシ化合物とは、分子内に芳香環を含むポリヒドロキシ化合物をいう。また、脂肪族骨格含有ポリヒドロキシ化合物を用いて得られたポリカーボネート樹脂を脂肪族骨格含有ポリカーボネート樹脂といい、芳香族骨格含有ポリヒドロキシ化合物を用いて得られたポリカーボネート樹脂を芳香族骨格含有ポリカーボネート樹脂という。
【0020】
芳香族骨格含有ポリヒドロキシ化合物としては、本発明の所期の効果を高める観点から、芳香族骨格含有ジヒドロキシ化合物が好ましい。芳香族骨格含有ジヒドロキシ化合物としては、例えば、ビスフェノール、ナフタレンジオール等が挙げられ、本発明の所期の効果を高める観点から、ビスフェノールが好ましい。即ち、芳香族骨格含有ポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノール構造単位を有するカーボネート樹脂であることが好ましい。ここで、ビスフェノールとは、2つのヒドロキシフェニル基を有する化合物の総称である。
【0021】
ビスフェノール構造単位を構成するビスフェノールとしては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールZ等が挙げられ、高温高湿環境下での環境試験後の密着性及び埋め込み性を特に良好にする観点から、ビスフェノールA、ビスフェノールCが好ましい。
【0022】
芳香族骨格含有ポリカーボネート樹脂としては、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、三菱ガス化学社製の「FPC2136」、「FPC0220」、「PCZ200」、「FPC0330」、「PCZ300」、「PCZ400」などが挙げられる。
【0023】
脂肪族骨格含有ポリヒドロキシ化合物としては、本発明の所期の効果を高める観点から、脂肪族骨格含有ジヒドロキシ化合物が好ましい。脂肪族骨格含有ジヒドロキシ化合物としては、例えばジオール化合物等が挙げられる。即ち、脂肪族骨格含有ポリカーボネート樹脂としては、ジオール構造単位を有するカーボネート樹脂であることが好ましい。ジオール構造単位を構成するジオール化合物としては、例えば、6-ヘキサメチレンジオール等が挙げられる。
【0024】
脂肪族骨格含有ポリカーボネート樹脂としては、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、旭化成社製の「T5652」、「G3452」、「G4672」などが挙げられる。
【0025】
(A)成分としては、本発明の所期の効果を高める観点から、脂肪族骨格含有ポリカーボネート樹脂、及び芳香族骨格含有ポリカーボネート樹脂のいずれか1種以上であることが好ましく、ジオール構造単位を有するカーボネート樹脂、及びビスフェノール構造単位を有するポリカーボネート樹脂のいずれか1種以上であることがより好ましい。本発明の所期の効果をより高める観点から、(A)成分が、芳香族骨格含有ポリカーボネート樹脂を含むことがさらに好ましい。
【0026】
(A)成分の数平均分子量(Mn)としては、本発明の所期の効果を高める観点から、好ましくは1000以上、より好ましくは1500以上、さらに好ましくは2000以上である。また、上限は特に制限されるものではないが、樹脂組成物の溶融粘度を低下させる観点からは、好ましくは300000以下であり、200000以下、100000以下、50000以下又は35000以下とし得る。数平均分子量は、以下の<ポリカーボネート樹脂の数平均分子量の測定方法>の記載に従って測定することができる。
【0027】
<ポリカーボネート樹脂の数平均分子量の測定方法>
まず、測定対象のポリカーボネート樹脂100mg、分散剤(関東化学社製「N-メチルピロリドン」)5gをバイアル瓶に秤取り、超音波にて20分間分散する。続いて、メンブレンフィルター(東洋濾紙社製「アドバンテック」、0.5μmカット)を使用して濾過を行う。そして、得られた濾液について、ゲル浸透クロマトグラフ測定装置(昭光サイエンティフィック社製「Shodex GPC-101」)を使用して、ポリスチレン換算の数平均分子量を測定する。後述する実施例の欄に記載のポリカーボネート樹脂の数平均分子量は、この測定方法にしたがって測定されたものである。
【0028】
(A)成分の粘度平均分子量(Mv)としては、本発明の所期の効果を高める観点から、好ましくは1000以上、より好ましくは1500以上、さらに好ましくは2000以上である。また、上限は特に制限されるものではないが、樹脂組成物の溶融粘度を低下させる観点からは、好ましくは300000以下であり、200000以下、100000以下、50000以下又は30000以下とし得る。粘度平均分子量の測定・算出方法としては、例えば、日本国特許第6343680号公報に記載された方法を用いることができる。
【0029】
(A)成分の含有量は、(B)成分の含有量に応じて決定されることが好ましく、本発明の所期の効果を高める観点からは、(B)成分の含有量よりも少ないことがより好ましい。樹脂組成物中における(B)成分に対する(A)成分の質量比を示すA/Bの値の下限は、0.01以上、0.02以上、0.03以上、0.04以上又は0.05以上とし得る。また、A/Bの値の上限は、1.5以下、1.3以下、1.1以下、1.0以下、1.0未満又は0.9以下とし得る。本発明の所期の効果を高める観点からは、A/Bの値の上限は、1.0未満であることが好ましい。また、(B)成分が分子中に有する炭化水素鎖の炭素原子数が多いほど、(A)成分の含有量を増大させることが好ましい傾向にあり、この場合、A/Bの値は、例えば0.5以上1.0未満であり、好ましくは0.6以上1.0未満である。
【0030】
また、(A)成分の含有量は、樹脂組成物の不揮発成分を100質量%とした場合、(A)成分及び(B)成分以外の成分の含有量に依存するものの、本発明の所期の効果を奏する観点からは、0.1質量%以上、1質量%以上、2質量%以上又は3質量%以上とし得る。本発明の所期の効果を高める観点からは、下限は、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。上限は、樹脂組成物が(A)成分及び(B)成分以外の成分を含まない場合、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下とし得る。本発明の所期の効果を高める観点からは、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0031】
<(B)マレイミド化合物>
樹脂組成物は、(B)成分として炭素原子数が5以上のアルキル基及び炭素原子数が5以上のアルキレン基の少なくともいずれかの炭化水素鎖を含むマレイミド化合物(以下、「脂肪族構造含有マレイミド化合物」ともいう)を含有する。(B)成分は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。(B)成分は、炭素原子数が5以上50以下のアルキル基及び炭素原子数が5以上50以下のアルキレン基の少なくともいずれかの炭化水素鎖を含むマレイミド化合物であることが好ましい。
【0032】
樹脂組成物が(B)成分を含有することにより、樹脂組成物の硬化物と当該硬化物の表面に設ける導体層との密着性を向上させることができる。(B)成分がこのような効果を奏することができる理由の一つとして、(B)成分が分子中に炭素原子数が5以上のアルキル基及び炭素原子数が5以上のアルキレン基の少なくともいずれかの炭化水素鎖を有するので、硬化物の表面に設けられる導体に対する化学的な密着強度を高めることができるからであると考えられる。そして、硬化物の化学的な密着性を高めることができることにより、(A)成分による物理的な密着性の向上と相まって、破壊を伴う導体層の剥離をより生じ難くすることができることとなる。さらに、マレイミド化合物は、後述するように分子中に反応性を有するマレイミド基を有するので、架橋反応の際に、樹脂組成物に含まれる(A)成分を取り囲んで架橋構造を形成するため、硬化物の密着性がさらに高められると考えられる。他方で、(B)成分が分子中に有する炭化水素鎖は、一般に、耐薬品性(例えば、アルカリ溶液に対する耐性又はラジカル的酸化に対する耐性)に劣る傾向があるものの、樹脂組成物が、(B)成分とともに、耐薬品性に優れる(A)成分を含むことにより、硬化物の耐薬品性が損なわれるのを抑制することができる。さらには、マレイミド化合物を含む樹脂組成物の硬化物は、一般に、脆いという傾向を示すが、本発明による樹脂組成物は、(B)成分とともに、一般に柔軟性に優れる(A)成分を含むため、(B)成分を含むことによる硬化物の脆さを補うことができ、その結果、硬化物と当該硬化物の表面に設ける導体層との密着性を向上させることに寄与しているとも考えられる。
【0033】
(B)成分は、下記式で表されるマレイミド基を少なくとも1つ分子中に含有する脂肪族構造含有マレイミド化合物である。下記式に示す構造において、窒素原子の3つの結合手のうち他の原子と結合していない1つの結合手は単結合を意味する。
【化2】
【0034】
(B)成分における1分子当たりのマレイミド基の数は、誘電特性に優れる硬化物を得る観点から、1個以上であり、好ましくは2個以上、より好ましくは3個以上であり、上限は限定されるものではないが、10個以下、6個以下、4個以下、又は3個以下とし得る。
【0035】
脂肪族構造含有マレイミド化合物が有する炭素原子数が5以上のアルキル基の炭素原子数は、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、好ましくは50以下、より好ましくは45以下、さらに好ましくは40以下である。このアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよく、中でも直鎖状が好ましい。このようなアルキル基としては、例えば、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。炭素原子数が5以上のアルキル基は、炭素原子数が5以上のアルキレン基の置換基であってもよい。
【0036】
炭素原子数が5以上のアルキレン基の炭素原子数は、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、好ましくは50以下、より好ましくは45以下、さらに好ましくは40以下である。このアルキレン基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよく、中でも直鎖状が好ましい。ここで、環状のアルキレン基とは、環状のアルキレン基のみからなる場合と、直鎖状のアルキレン基と環状のアルキレン基との両方を含む場合も含める概念である。このようなアルキレン基としては、例えば、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、ヘプタデシレン基、ヘキサトリアコンチレン基、オクチレン-シクロヘキシレン構造を有する基、オクチレン-シクロヘキシレン-オクチレン構造を有する基、プロピレン-シクロヘキシレン-オクチレン構造を有する基等が挙げられる。
【0037】
脂肪族構造含有マレイミド化合物は、本発明の所期の効果を高める観点から、炭素原子数が5以上のアルキル基及び炭素原子数が5以上のアルキレン基の両方を含むことが好ましく、炭素原子数が5以上50以下のアルキル基及び炭素原子数が5以上50以下のアルキレン基の両方を含むことがより好ましい。
【0038】
炭素原子数が5以上のアルキル基及び炭素原子数が5以上のアルキレン基は、鎖状であってもよいが、少なくとも一部の炭素原子が互いに結合して環を形成していてもよく、環構造は、スピロ環や縮合環も含む。互いに結合して形成された環としては、例えば、シクロヘキサン環等が挙げられる。
【0039】
炭素原子数が5以上のアルキル基及び炭素原子数が5以上のアルキレン基は、置換基を有していなくても、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、-OH、-O-C1-10アルキル基、-N(C1-10アルキル基)、C1-10アルキル基、C6-10アリール基、-NH、-CN、-C(O)O-C1-10アルキル基、-COOH、-C(O)H、-NO等が挙げられる。ここで、「Cx-y」(x及びyは正の整数であり、x<yを満たす。)という用語は、この用語の直後に記載された有機基の炭素原子数がx~yであることを表す。例えば、「C1-10アルキル基」という表現は、炭素原子数1~10のアルキル基を示す。これら置換基は、互いに結合して環を形成していてもよく、環構造は、スピロ環や縮合環も含む。ここで、置換基の炭素原子数は、炭素原子数が5以上のアルキル基及び炭素原子数が5以上のアルキレン基の炭素原子数には含めない。上述の置換基は、さらに置換基(以下、「二次置換基」という場合がある。)を有していてもよい。二次置換基としては、特に記載のない限り、上述の置換基と同じものを用いてよい。
【0040】
脂肪族構造含有マレイミド化合物において、炭素原子数が5以上のアルキル基及び炭素原子数が5以上のアルキレン基は、マレイミド基の窒素原子に直接結合していることが好ましい。
【0041】
脂肪族構造含有マレイミド化合物の1分子当たりのマレイミド基の数は、1個でもよいが、好ましくは2個以上であり、好ましくは10個以下、より好ましく6個以下、特に好ましくは3個以下である。脂肪族構造含有マレイミド化合物が1分子当たり2個以上のマレイミド基を有することにより、本発明の効果を顕著に得ることができる。
【0042】
脂肪族構造含有マレイミド化合物は、下記一般式(B1)で表されるマレイミド化合物であることが好ましい。
【化3】
【0043】
Mは、置換基を有していてもよい炭素原子数が5以上のアルキレン基を表す。Mのアルキレン基は、上記した炭素原子数が5以上のアルキレン基と同様である。Mの置換基としては、例えば、ハロゲン原子、-OH、-O-C1-10アルキル基、-N(C1-10アルキル基)、C1-10アルキル基、C6-10アリール基、-NH、-CN、-C(O)O-C1-10アルキル基、-COOH、-C(O)H、-NO等が挙げられる。ここで、「Cx-y」(x及びyは正の整数であり、x<yを満たす。)という用語は、この用語の直後に記載された有機基の炭素原子数がx~yであることを表す。例えば、「C1-10アルキル基」という表現は、炭素原子数1~10のアルキル基を示す。これら置換基は、互いに結合して環を形成していてもよく、環構造は、スピロ環や縮合環も含む。上述の置換基は、さらに置換基(以下、「二次置換基」という場合がある。)を有していてもよい。二次置換基としては、特に記載のない限り、上述の置換基と同じものを用いてよい。Mの置換基は、好ましくは炭素原子数が5以上のアルキル基である。ここで、置換基の炭素原子数は、炭素原子数が5以上のアルキレン基の炭素原子数には含めない。
【0044】
Lは単結合又は2価の連結基を表す。2価の連結基としては、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-NR-(Rは水素原子、炭素原子数1~3のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、C(=O)NR-、フタルイミド由来の2価の基、ピロメリット酸ジイミド由来の2価の基、及びこれら2種以上の2価の基の組み合わせからなる基等が挙げられる。アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、フタルイミド由来の2価の基、ピロメリット酸ジイミド由来の2価の基、及び2種以上の2価の基の組み合わせからなる基は、炭素原子数が5以上のアルキル基を置換基として有していてもよい。
【0045】
フタルイミド由来の2価の基とは、フタルイミドから誘導される2価の基を表し、具体的には以下の一般式で表される基である。式中、「*」は結合手を表す。
【化4】
【0046】
ピロメリット酸ジイミド由来の2価の基とは、ピロメリット酸ジイミドから誘導される2価の基を表し、具体的には以下の一般式で表される基である。式中、「*」は結合手を表す。
【化5】
【0047】
Lにおける2価の連結基としてのアルキレン基は、炭素原子数1~50のアルキレン基が好ましく、炭素原子数1~45のアルキレン基がより好ましく、炭素原子数1~40のアルキレン基が特に好ましい。このアルキレン基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。このようなアルキレン基としては、例えば、メチルエチレン基、シクロヘキシレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、ヘプタデシレン基、ヘキサトリアコンチレン基、オクチレン-シクロヘキシレン構造を有する基、オクチレン-シクロヘキシレン-オクチレン構造を有する基、プロピレン-シクロヘキシレン-オクチレン構造を有する基等が挙げられる。
【0048】
Lにおける2価の連結基としてのアルケニレン基は、炭素原子数2~20のアルケニレン基が好ましく、炭素原子数2~15のアルケニレン基がより好ましく、炭素原子数2~10のアルケニレン基が特に好ましい。このアルケニレン基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。このようなアルケニレン基としては、例えば、メチルエチレニレン基、シクロヘキセニレン基、ペンテニレン基、へキセニレン基、ヘプテニレン基、オクテニレン基等が挙げられる。
【0049】
Lにおける2価の連結基としてのアルキニレン基は、炭素原子数2~20のアルキニレン基が好ましく、炭素原子数2~15のアルキニレン基がより好ましく、炭素原子数2~10のアルキニレン基が特に好ましい。このアルキニレン基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。このようなアルキニレン基としては、例えば、メチルエチニレン基、シクロヘキシニレン基、ペンチニレン基、へキシニレン基、ヘプチニレン基、オクチニレン基等が挙げられる。
【0050】
Lにおける2価の連結基としてのアリーレン基は、炭素原子数6~24のアリーレン基が好ましく、炭素原子数6~18のアリーレン基がより好ましく、炭素原子数6~14のアリーレン基がさらに好ましく、炭素原子数6~10のアリーレン基がさらにより好ましい。アリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基等が挙げられる。
【0051】
Lにおける2価の連結基であるアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、及びアリーレン基は置換基を有していてもよい。置換基としては、一般式(B1)中のMの置換基と同様であり、好ましくは炭素原子数が5以上のアルキル基である。
【0052】
Lにおける2種以上の2価の基の組み合わせからなる基としては、例えば、アルキレン基、フタルイミド由来の2価の基及び酸素原子との組み合わせからなる2価の基;フタルイミド由来の2価の基、酸素原子、アリーレン基及びアルキレン基の組み合わせからなる2価の基;アルキレン基及びピロメリット酸ジイミド由来の2価の基の組み合わせからなる2価の基;等が挙げられる。2種以上の2価の基の組み合わせからなる基は、それぞれの基の組み合わせにより縮合環等の環を形成してもよい。また、2種以上の2価の基の組み合わせからなる基は、繰り返し単位数が1~10の繰り返し単位であってもよい。
【0053】
中でも、一般式(B1)中のLとしては、酸素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数6~24のアリーレン基、置換基を有していてもよい炭素原子数が1~50のアルキレン基、炭素原子数が5以上のアルキル基、フタルイミド由来の2価の基、ピロメリット酸ジイミド由来の2価の基、又はこれらの基の2以上の組み合わせからなる2価の基であることが好ましい。中でも、Lとしては、アルキレン基;アルキレン基-フタルイミド由来の2価の基-酸素原子-フタルイミド由来の2価の基の構造を有する2価の基;アルキレン基-フタルイミド由来の2価の基-酸素原子-アリーレン基-アルキレン基-アリーレン基-酸素原子-フタルイミド由来の2価の基の構造を有する2価の基;アルキレン-ピロメリット酸ジイミド由来の2価の基の構造を有する2価の基がより好ましい。
【0054】
脂肪族構造含有マレイミド化合物は、下記一般式(B2)で表されるマレイミド化合物であることが好ましい。
【化6】
【0055】
はそれぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素原子数が5以上のアルキレン基を表す。Mは、一般式(B1)中のMと同様である。
【0056】
Aはそれぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素原子数が5以上のアルキレン基又は置換基を有していてもよい芳香環を有する2価の基を表す。Aにおけるアルキレン基としては、鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよく、中でも環状、即ち置換基を有していてもよい炭素原子数が5以上の環状のアルキレン基が好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、好ましくは50以下、より好ましくは45以下、さらに好ましくは40以下である。このようなアルキレン基としては、例えば、オクチレン-シクロヘキシレン構造を有する基、オクチレン-シクロヘキシレン-オクチレン構造を有する基、プロピレン-シクロヘキシレン-オクチレン構造を有する基等が挙げられる。
【0057】
Aが表す芳香環を有する2価の基における芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フタルイミド環、ピロメリット酸ジイミド環、芳香族複素環等が挙げられ、ベンゼン環、フタルイミド環、ピロメリット酸ジイミド環が好ましい。即ち、芳香環を有する2価の基としては、置換基を有していてもよいベンゼン環を有する2価の基、置換基を有していてもよいフタルイミド環を有する2価の基、置換基を有していてもよいピロメリット酸ジイミド環を有する2価の基が好ましい。芳香環を有する2価の基としては、例えば、フタルイミド由来の2価の基及び酸素原子との組み合わせからなる基;フタルイミド由来の2価の基、酸素原子、アリーレン基及びアルキレン基の組み合わせからなる基;アルキレン基及びピロメリット酸ジイミド由来の2価の基の組み合わせからなる基;ピロメリット酸ジイミド由来の2価の基;フタルイミド由来の2価の基及びアルキレン基の組み合わせからなる基;等が挙げられる。上記アリーレン基及びアルキレン基は、一般式(B1)中のLが表す2価の連結基におけるアリーレン基及びアルキレン基と同様である。
【0058】
Aが表す、アルキレン基及び芳香環を有する2価の基は置換基を有していてもよい。置換基としては、一般式(B1)中のMの置換基が表す置換基と同様である。
【0059】
Aが表す基の具体例としては、以下の基を挙げることができる。式中、「*」は結合手を表す。
【化7】
【化8】
【0060】
一般式(B2)で表されるマレイミド化合物は、下記一般式(B2-1)で表されるマレイミド化合物、及び下記一般式(B2-2)で表されるマレイミド化合物のいずれかであることが好ましい。
【化9】
【化10】
【0061】
及びMはそれぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素原子数が5以上のアルキレン基を表す。M及びMは、一般式(B1)中のMが表す炭素原子数が5以上のアルキレン基と同様であり、ヘキサトリアコンチレン基が好ましい。
【0062】
30はそれぞれ独立に、酸素原子、アリーレン基、アルキレン基、又はこれら2種以上の2価の基の組み合わせからなる基を表す。アリーレン基、アルキレン基は、一般式(B1)中のLが表す2価の連結基におけるアリーレン基及びアルキレン基と同様である。R30としては、2種以上の2価の基の組み合わせからなる基又は酸素原子であることが好ましい。
【0063】
30における2種以上の2価の基の組み合わせからなる基としては、酸素原子、アリーレン基、及びアルキレン基の組み合わせが挙げられる。2種以上の2価の基の組み合わせからなる基の具体例としては、以下の基を挙げることができる。式中、「*」は結合手を表す。
【化11】
【0064】
、M及びMはそれぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素原子数が5以上のアルキレン基を表す。M、M及びMは、一般式(B1)中のMが表す置換基を有していてもよい炭素原子数が5以上のアルキレン基と同様であり、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基が好ましく、オクチレン基がより好ましい。
【0065】
はそれぞれ独立に置換基を有していてもよい芳香環を有する2価の基を表す。Mは、一般式(B2)中のAが表す置換基を有していてもよい芳香環を有する2価の基と同様であり、アルキレン基及びピロメリット酸ジイミド由来の2価の基の組み合わせからなる基;フタルイミド由来の2価の基及びアルキレン基の組み合わせからなる基が好ましく、アルキレン基及びピロメリット酸ジイミド由来の2価の基の組み合わせからなる基がより好ましい。
【0066】
が表す基の具体例としては、例えば以下の基を挙げることができる。式中、「*」は結合手を表す。
【化12】
【0067】
31及びR32はそれぞれ独立に炭素原子数が5以上のアルキル基を表す。R31及びR32は、上記した炭素原子数が5以上のアルキル基と同様であり、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基が好ましく、ヘキシル基、オクチル基がより好ましい。
【0068】
u1及びu2はそれぞれ独立に1~15の整数を表し、1~10の整数が好ましい。
【0069】
脂肪族構造含有マレイミド化合物の具体例としては、以下の(b1)、(b2)、(b3)及び(b4)の化合物を挙げることができる。但し、脂肪族構造含有マレイミド化合物はこれら具体例に限定されるものではない。式(b1)、(b2)、(b3)中、n9、n10、n11は1~10の整数を表す。
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【0070】
脂肪族構造含有マレイミド化合物の具体例としては、デザイナーモレキュールズ社製の「BMI-1500」(式(b1)の化合物)、「BMI-1700」(式(b2)の化合物)、「BMI-3000J」(式(b3)の化合物)及び「BMI-689」(式(b4)の化合物)等が挙げられる。本発明の所期の効果を高める観点からは、脂肪族構造含有マレイミド化合物として、「BMI-3000J」を用いることが好ましい。
【0071】
(B)成分のマレイミド基当量は、本発明の所期の効果を顕著に得る観点から、好ましくは50g/eq.~2000g/eq.、より好ましくは100g/eq.~1000g/eq.、さらに好ましくは150g/eq.~500g/eq.である。マレイミド基当量は、1当量のマレイミド基を含むマレイミド化合物の質量である。
【0072】
(B)成分の含有量は、樹脂組成物の不揮発成分を100質量%とした場合、(A)成分及び(B)成分以外の成分の含有量に依存するものの、0.01質量以上、0.02質量以上、0.03質量以上、0.04質量以上又は0.05質量以上とし得る。本発明の所期の効果を奏する観点からは、下限を、0.1質量%以上、1質量%以上、2質量%以上又は3質量%以上とし得る。本発明の所期の効果を高める観点又は誘電特性に優れる硬化物を得る観点から、下限は、好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは17質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上である。(B)成分の含有量は、(A)成分の含有量よりも多いことが好ましい。上限は、樹脂組成物が(A)成分及び(B)成分以外の成分を含まない場合、60質量%以下、55質量%以下、50質量%以下とし得る。本発明の所期の効果を高める観点からは、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは35質量%以下である。
【0073】
<(C)無機充填材>
樹脂組成物は、上述した成分以外に、任意の成分として、更に、(C)成分として無機充填材を含有していてもよい。誘電特性に優れる硬化物を得る観点、機械的強度に優れる硬化物を得る観点又は低膨張率性を有する硬化物を得る観点からは、樹脂組成物は、(C)成分を含むことが好ましい。(C)成分は、硬化性の樹脂成分とは異質な成分にあたるため、一般には樹脂成分とのなじみやすさに劣る傾向があるものの、本発明の樹脂組成物の硬化物(架橋構造)中において(C)成分は、均一に取り込まれる傾向にある点において利点がある。これは、本発明の樹脂組成物に含まれる(A)成分及び(B)成分が、密着性に優れるのと同様に、(C)成分とのなじみやすさに優れる傾向にあるためであると考えられる。
【0074】
無機充填材の材料としては、無機化合物を用いる。無機充填材の材料の例としては、シリカ、アルミナ、ガラス、コーディエライト、シリコン酸化物、硫酸バリウム、炭酸バリウム、タルク、クレー、雲母粉、酸化亜鉛、ハイドロタルサイト、ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化マンガン、ホウ酸アルミニウム、炭酸ストロンチウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム、及びリン酸タングステン酸ジルコニウム等が挙げられる。これらの中でもシリカが特に好適である。シリカとしては、例えば、無定形シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、合成シリカ、中空シリカ等が挙げられる。また、シリカとしては、球状シリカが好ましい。(C)無機充填材は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
(C)成分の市販品としては、例えば、デンカ社製の「UFP-30」;新日鉄住金マテリアルズ社製の「SP60-05」、「SP507-05」;アドマテックス社製の「YC100C」、「YA050C」、「YA050C-MJE」、「YA010C」;トクヤマ社製の「シルフィルNSS-3N」、「シルフィルNSS-4N」、「シルフィルNSS-5N」;アドマテックス社製の「SC2500SQ」、「SO-C4」、「SO-C2」、「SO-C1」;などが挙げられる。
【0076】
(C)成分の比表面積としては、好ましくは1m/g以上、より好ましくは2m/g以上、特に好ましくは3m/g以上である。上限に特段の制限は無いが、好ましくは60m/g以下、50m/g以下又は40m/g以下である。無機充填材の比表面積は、BET全自動比表面積測定装置(マウンテック社製Macsorb HM-1210)を使用して、試料表面に窒素ガスを吸着させ、BET多点法を用いることにより、算出することで得られる。
【0077】
(C)成分の平均粒径は、本発明の所期の効果を顕著に得る観点から、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、特に好ましくは0.1μm以上であり、好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。
【0078】
(C)成分の平均粒径は、ミー(Mie)散乱理論に基づくレーザー回折・散乱法により測定することができる。具体的には、レーザー回折散乱式粒径分布測定装置により、無機充填材の粒径分布を体積基準で作成し、そのメディアン径を平均粒径とすることで測定することができる。測定サンプルは、無機充填材100mg、メチルエチルケトン10gをバイアル瓶に秤取り、超音波にて10分間分散させたものを使用することができる。測定サンプルを、レーザー回折式粒径分布測定装置を使用して、使用光源波長を青色及び赤色とし、フローセル方式で(C)成分の体積基準の粒径分布を測定し、得られた粒径分布からメディアン径として平均粒径を算出できる。レーザー回折式粒径分布測定装置としては、例えば堀場製作所社製「LA-960」等が挙げられる。
【0079】
(C)成分は、耐湿性及び分散性を高める観点から、表面処理剤で処理されていることが好ましい。表面処理剤としては、例えば、ビニルシラン系カップリング剤、(メタ)アクリル系カップリング剤、フッ素含有シランカップリング剤、アミノシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、メルカプトシラン系カップリング剤、シラン系カップリング剤、アルコキシシラン、オルガノシラザン化合物、チタネート系カップリング剤等が挙げられる。中でも、本発明の効果を顕著に得る観点から、ビニルシラン系カップリング剤、(メタ)アクリル系カップリング剤、アミノシラン系カップリング剤が好ましい。また、表面処理剤は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0080】
表面処理剤の市販品としては、例えば、信越化学工業社製「KBM1003」(ビニルトリエトキシシラン)、信越化学工業社製「KBM503」(3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン)、信越化学工業社製「KBM403」(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、信越化学工業社製「KBM803」(3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン)、信越化学工業社製「KBE903」(3-アミノプロピルトリエトキシシラン)、信越化学工業社製「KBM573」(N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン)、信越化学工業社製「SZ-31」(ヘキサメチルジシラザン)、信越化学工業社製「KBM103」(フェニルトリメトキシシラン)、信越化学工業社製「KBM-4803」(長鎖エポキシ型シランカップリング剤)、信越化学工業社製「KBM-7103」(3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン)等が挙げられる。
【0081】
表面処理剤による表面処理の程度は、無機充填材の分散性向上の観点から、所定の範囲に収まることが好ましい。具体的には、無機充填材100質量部は、0.2質量部~5質量部の表面処理剤で表面処理されていることが好ましく、0.2質量部~3質量部で表面処理されていることが好ましく、0.3質量部~2質量部で表面処理されていることが好ましい。
【0082】
表面処理剤による表面処理の程度は、無機充填材の単位表面積当たりのカーボン量によって評価することができる。無機充填材の単位表面積当たりのカーボン量は、無機充填材の分散性向上の観点から、0.02mg/m以上が好ましく、0.1mg/m以上がより好ましく、0.2mg/m以上が更に好ましい。一方、樹脂ワニスの溶融粘度及びシート形態での溶融粘度の上昇を抑制する観点から、1mg/m以下が好ましく、0.8mg/m以下がより好ましく、0.5mg/m以下が更に好ましい。
【0083】
無機充填材の単位表面積当たりのカーボン量は、表面処理後の無機充填材を溶剤(例えば、メチルエチルケトン(MEK))により洗浄処理した後に測定することができる。具体的には、溶剤として十分な量のMEKを表面処理剤で表面処理された無機充填材に加えて、25℃で5分間超音波洗浄する。上澄液を除去し、固形分を乾燥させた後、カーボン分析計を用いて無機充填材の単位表面積当たりのカーボン量を測定することができる。カーボン分析計としては、堀場製作所社製「EMIA-320V」等を使用することができる。
【0084】
(C)成分の含有量は、誘電特性に優れる硬化物を得る観点から、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは35質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上又は45質量%以上である。上限は、他の成分の含有量に応じて定まるが、例えば90質量%以下、80質量%以下又は70質量%以下とし得る。
【0085】
<(D)ラジカル重合性化合物>
樹脂組成物は、任意成分として、(D)ラジカル重合性化合物を含んでいてもよい。但し、(D)成分には、(B)成分に該当するものは除かれる。(D)成分を樹脂組成物に含有させることにより、(B)成分と(D)成分との反応が起こり、(B)成分の硬化を促進することができる。(D)成分は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0086】
(D)成分としては、熱又は光によりラジカルが発生し、(B)成分を硬化させる機能を有する化合物、即ち、分子中に、ラジカル重合性不飽和基を有する化合物を用いることができる。このような化合物としては、ビニルフェニル基を含有するビニルフェニル系ラジカル重合性化合物、(メタ)アクリル系ラジカル重合性化合物、アリル系ラジカル重合性化合物、及びブタジエン系ラジカル重合性化合物を挙げることができる。
【0087】
(D)成分は、通常、ラジカル重合性不飽和基を有している。ラジカル重合性不飽和基としては、例えば、活性エネルギー線の照射により硬化性を示すエチレン性二重結合を有する基が挙げられる。このような基としては、例えば、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、及びメタクリロイル基、フマロイル基、マレオイル基、ビニルフェニル基、スチリル基及びシンナモイル基が挙げられ、このうち、ラジカル重合性不飽和基の末端にエチレン性二重結合を有する基が好ましい。
【0088】
(D)成分としては、ラジカル重合性不飽和基を通常1つ以上有しており、ラジカル重合性不飽和基を2つ以上有することがより好ましい。ラジカル重合性不飽和基の数の上限については特に制限はないが、10個以下等とし得る。
【0089】
ラジカル重合性不飽和基を複数有する場合、(D)成分は、複数のラジカル重合性不飽和基の間に、ラジカル重合性不飽和基の数と同じ数の結合手を有する連結基(主骨格)を有するラジカル重合性化合物であることが好ましい。斯かる連結基は、耐薬品性に優れる硬化物を得る観点又は誘電特性に優れる硬化物を得る観点からは、1つ又は複数の環状構造を含むことが好ましく、1つ又は複数の芳香環構造(例えば、ポリフェニレンエーテル構造、ビフェニル構造)を含むことがより好ましい。斯かる連結基は、密着性に優れる硬化物を得る観点からは、脂環式構造を含むことも好ましい。化学的な密着性を高める観点からは、斯かる連結基は、1つ又は複数の極性基(例えば、-O-、-C(=O)-、-C(=O)-O-)を含むことが好ましい。物理的な密着性を高める観点から、斯かる連結基は、炭化水素基を含んでいてもよく、この場合、斯かる炭化水素基の炭素原子数の数に特に制限はないが、炭素原子数が2以上の炭化水素基であることが好ましく、耐薬品性を高める観点からは炭素原子数が4以下の炭化水素基であることが好ましい。
【0090】
ビニルフェニル系ラジカル重合性化合物は、ビニルフェニル基を有するラジカル重合性化合物である。ビニルフェニル基とは、以下に示す構造を有する基である。
【化17】
【0091】
ビニルフェニル系ラジカル重合性化合物は、誘電特性に優れる硬化物を得る観点から、分子あたり2つ以上のビニルフェニル基を有することが好ましい。
【0092】
ビニルフェニル系ラジカル重合性化合物は、誘電特性に優れる硬化物を得る観点から、環状基含有構造を有することが好ましい。環状基含有構造は、環状基を含む。環状基としては、2価の環状基が好ましい。環状基は、脂環式環状基及び芳香族基のいずれであってもよい。また、環状基含有構造は、2価の環状基を複数有していてもよい。
【0093】
2価の環状基は、本発明の所期の効果を高める観点から、好ましくは3員環以上、より好ましくは4員環以上、さらに好ましくは5員環以上であり、好ましくは20員環以下、より好ましくは15員環以下、さらに好ましくは10員環以下である。また、2価の環状基としては、単環構造であってもよく、多環構造であってもよい。
【0094】
2価の環状基における環は、炭素原子以外にヘテロ原子により環の骨格が構成されていてもよい。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられ、酸素原子が好ましい。ヘテロ原子は前記の環に1つ有していてもよく、2つ以上を有していてもよい。
【0095】
環状基含有構造の具体例としては、下記の2価の基(xii)又は(xiii)が挙げられる。
【化18】
【0096】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。炭素原子数が6以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられ、メチル基であることが好ましい。R51、R52、R55、R56、R57、R61、及びR62としては、メチル基を表すことが好ましい。R53、R54、R58、R59、及びR60は、水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0097】
また、環状基含有構造は、複数の2価の環状基を組み合わせて含んでいてもよい。2価の環状基を組み合わせた場合の具体例としては、下記の式(D-a)で表される2価の環状基が挙げられる。
【化19】
【0098】
71、R72、R85及びR86は、式(xii)中のR51と同じである。R73、R74、R83及びR84は、式(xii)中のR53と同じである。R75、R76、R77、R81、及びR82は、式(xiii)中のR55と同じである。R78、R79、及びR80は、式(xiii)中のR58と同じである。
【0099】
d1及びd2は0~300の整数を表す。但し、d1及びd2の一方は0である場合を除く。d1及びd2としては、1~100の整数を表すことが好ましく、1~50の整数を表すことがより好ましく、1~10の整数を表すことがさらに好ましい。d1及びd2は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0100】
2価の環状基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールアルキル基、シリル基、アシル基、アシルオキシ基、カルボキシ基、スルホ基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、オキソ基等が挙げられ、アルキル基が好ましい。
【0101】
ビニルフェニル基は、2価の環状基に直接結合していてもよく、2価の連結基を介して結合していてもよい。2価の連結基としては、例えば、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、-C(=O)O-、-O-、-NHC(=O)-、-NC(=O)N-、-NHC(=O)O-、-C(=O)-、-S-、-SO-、-NH-等が挙げられ、これらを複数組み合わせた基であってもよい。アルキレン基としては、炭素原子数1~10のアルキレン基が好ましく、炭素原子数1~6のアルキレン基がより好ましく、炭素原子数1~5のアルキレン基、又は炭素原子数1~4のアルキレン基がさらに好ましい。アルキレン基は、直鎖、分岐、環状のいずれであってもよい。このようなアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、1,1-ジメチルエチレン基等が挙げられ、メチレン基、エチレン基、1,1-ジメチルエチレン基が好ましい。アルケニレン基としては、炭素原子数2~10のアルケニレン基が好ましく、炭素原子数2~6のアルケニレン基がより好ましく、炭素原子数2~5のアルケニレン基がさらに好ましい。アリーレン基、ヘテロアリーレン基としては、炭素原子数6~20のアリーレン基又はヘテロアリーレン基が好ましく、炭素原子数6~10のアリーレン基又はヘテロアリーレン基がより好ましい。2価の連結基としては、アルキレン基が好ましく、中でもメチレン基が好ましい。
【0102】
ビニルフェニル系ラジカル重合性化合物は、下記式(D1)で表されることが好ましい。
【化20】
【0103】
91及びR92はそれぞれ独立に2価の連結基を表す。2価の連結基としては、上記の2価の連結基と同様である。
【0104】
環B1は、2価の環状基を表す。環B1としては、上記の2価の環状基と同様である。
【0105】
環B1は、置換基を有していてもよい。置換基としては、上記の2価の環状基が有していてもよい置換基と同様である。
【0106】
以下、ビニルフェニル系ラジカル重合性化合物の具体例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【化21】
【0107】
ビニルフェニル系ラジカル重合性化合物は、市販品を用いてもよく、例えば、三菱ガス化学社製の「OPE-2St」等が挙げられる。ビニルフェニル系ラジカル重合性化合物は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0108】
ビニルフェニル系ラジカル重合性化合物の数平均分子量は、本発明の所期の効果を奏する観点から、好ましくは3000以下、より好ましくは2500以下、さらに好ましくは2000以下、1500以下である。下限は、好ましくは100以上、より好ましくは300以上、さらに好ましくは500以上、1000以上である。数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を使用して測定されるポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0109】
(メタ)アクリル系ラジカル重合性化合物は、アクリロイル基及びメタクリロイル基並びにそれらの組み合わせを包含する化合物である。(メタ)アクリル系ラジカル重合性化合物としては、本発明の所期の効果を高める観点から、1分子あたり2個以上の(メタ)アクリロイル基を有することが好ましい。用語「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基及びメタクリロイル基並びにそれらの組み合わせを包含する。
【0110】
(メタ)アクリル系ラジカル重合性化合物は、本発明の所期の効果を高める観点から、環状基含有構造を有することが好ましい。環状基含有構造は、環状基を含む。環状基としては、2価の環状基が好ましい。環状基は、脂環式環状基及び芳香族基のいずれであってもよい。中でも、本発明の所期の効果を高める観点から、脂環式環状基を含むことが好ましい。
【0111】
2価の環状基は、本発明の所期の効果を高める観点から、好ましくは3員環以上、より好ましくは4員環以上、さらに好ましくは5員環以上であり、好ましくは20員環以下、より好ましくは15員環以下、さらに好ましくは10員環以下である。また、2価の環状基としては、単環構造であってもよく、多環構造であってもよい。
【0112】
2価の環状基における環は、炭素原子以外にヘテロ原子により環の骨格が構成されていてもよい。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられ、酸素原子が好ましい。ヘテロ原子は前記の環に1つ有していてもよく、2つ以上を有していてもよい。
【0113】
環状基含有構造の具体例としては、下記の2価の基(i)~(xi)が挙げられる。中でも、2価の環状基としては、(x)又は(xi)が好ましい。
【化22】
【0114】
2価の環状基は、置換基を有していてもよい。このような置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールアルキル基、シリル基、アシル基、アシルオキシ基、カルボキシ基、スルホ基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、オキソ基等が挙げられ、アルキル基が好ましい。
【0115】
(メタ)アクリロイル基は、2価の環状基に直接結合していてもよく、2価の連結基を介して結合していてもよい。2価の連結基としては、例えば、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、-C(=O)O-、-O-、-NHC(=O)-、-NC(=O)N-、-NHC(=O)O-、-C(=O)-、-S-、-SO-、-NH-等が挙げられ、これらを複数組み合わせた基であってもよい。アルキレン基としては、炭素原子数1~10のアルキレン基が好ましく、炭素原子数1~6のアルキレン基がより好ましく、炭素原子数1~5のアルキレン基、又は炭素原子数1~4のアルキレン基がさらに好ましい。アルキレン基は、直鎖、分岐、環状のいずれであってもよい。このようなアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、1,1-ジメチルエチレン基等が挙げられ、メチレン基、エチレン基、1,1-ジメチルエチレン基が好ましい。アルケニレン基としては、炭素原子数2~10のアルケニレン基が好ましく、炭素原子数2~6のアルケニレン基がより好ましく、炭素原子数2~5のアルケニレン基がさらに好ましい。アリーレン基、ヘテロアリーレン基としては、炭素原子数6~20のアリーレン基又はヘテロアリーレン基が好ましく、炭素原子数6~10のアリーレン基又はヘテロアリーレン基がより好ましい。2価の連結基としては、アルキレン基が好ましく、中でもメチレン基、1,1-ジメチルエチレン基が好ましい。
【0116】
(メタ)アクリル系ラジカル重合性化合物は、下記式(D2)で表されることが好ましい。
【化23】
【0117】
101及びR104はそれぞれ独立にアクリロイル基又はメタクリロイル基を表し、アクリロイル基が好ましい。
【0118】
102及びR103はそれぞれ独立に2価の連結基を表す。2価の連結基としては、(メタ)アクリロイル基が結合していてもよい2価の連結基と同様である。
【0119】
環B2は、2価の環状基を表す。環B2としては、上記の2価の環状基と同様である。環B2は、置換基を有していてもよい。置換基としては、上記の2価の環状基が有していてもよい置換基と同様である。
【0120】
(メタ)アクリル系ラジカル重合性化合物の具体例としては、以下のものが挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【化24】
【0121】
(メタ)アクリル系ラジカル重合性化合物は、市販品を用いてもよく、例えば、新中村化学工業社製の「A-DOG」、共栄社化学社製の「DCP-A」、日本化薬社製「NPDGA」、「FM-400」、「R-687」、「THE-330」、「PET-30」、「DPHA」、新中村化学工業社製の「NKエステルDCP」等が挙げられる。
【0122】
(メタ)アクリル系ラジカル重合性化合物の(メタ)アクリロイル基当量は、本発明の所期の効果を奏する観点から、好ましくは30g/eq.~400g/eq.、より好ましくは50g/eq.~300g/eq.、さらに好ましくは75g/eq.~200g/eq.である。(メタ)アクリロイル基当量は、1当量の(メタ)アクリロイル基を含む(メタ)アクリル系ラジカル重合性化合物の質量である。
【0123】
アリル系ラジカル重合性化合物とは、アリル基を分子中に少なくとも1つ有する化合物である。アリル系ラジカル重合性化合物は、1分子あたり1個以上のアリル基を有することが好ましく、2個以上のアリル基を有することがより好ましい。下限は特に制限されないが、好ましくは10個以下、より好ましくは5個以下とし得る。
【0124】
また、アリル系ラジカル重合性化合物は、本発明の所期の効果を高める観点から、アリル基に加えて、ベンゾオキサジン環、フェノール環、イソシアヌル環、エポキシ基、及び環状構造を有するカルボン酸誘導体のいずれかを有することが好ましい。
【0125】
ベンゾオキサジン環を有するアリル系ラジカル重合性化合物は、ベンゾオキサジン環の窒素原子及びベンゼン環のいずれかと結合していることが好ましく、窒素原子と結合していることがより好ましい。
【0126】
フェノール環を有するアリル系ラジカル重合性化合物としては、例えば、アリル基を含むクレゾール樹脂、アリル基を含むノボラック型フェノール樹脂、アリル基を含むクレゾールノボラック樹脂等が挙げられる。
【0127】
イソシアヌル構造を有するアリル系ラジカル重合性化合物は、イソシアヌル構造の窒素原子とアリル基とが直接結合していることが好ましい。イソシアヌル構造を有するアリル系ラジカル重合性化合物としては、イソシアヌル酸アリル、イソシアヌル酸ジアリル、イソシアヌル酸トリアリル等が挙げられる。
【0128】
エポキシ基を有するアリル系ラジカル重合性化合物は、エポキシ基を1分子中に2個以上含むことが好ましい。また、エポキシ基を有するアリル系ラジカル重合性化合物は、芳香族構造を有することが好ましく、エポキシ基を有するアリル系ラジカル重合性化合物を2種以上用いる場合は少なくとも1種が芳香族構造を有することがより好ましい。芳香族構造とは、一般に芳香族と定義される化学構造であり、多環芳香族及び芳香族複素環をも含む。エポキシ基を有するアリル系ラジカル重合性化合物としては、ビスフェノール構造を有することが好ましく、ビスフェノール構造としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAF型等が挙げられる。
【0129】
環状構造を有するカルボン酸誘導体を有するアリル系ラジカル重合性化合物としては、環状構造を有するカルボン酸アリルが好ましい。環状構造としては、脂環式構造を含む環状基及び芳香環構造を含む環状基のいずれであってもよい。また、環状基は、炭素原子以外にヘテロ原子により環の骨格が構成されていてもよい。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられ、窒素原子が好ましい。ヘテロ原子は前記の環に1つ有していてもよく、2つ以上を有していてもよい。
【0130】
環状構造を有するカルボン酸としては、例えば、イソシアヌル酸、ジフェン酸、フタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。環状構造を有するカルボン酸誘導体を有するアリル系ラジカル重合性化合物としては、例えば、イソシアヌル酸アリル、イソシアヌル酸ジアリル、イソシアヌル酸トリアリル、ジフェン酸ジアリル、ジフェン酸アリル、オルトジアリルフタレート、メタジアリルフタレート、パラジアリルフタレート、シクロヘキサンジカルボン酸アリル、シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル等が挙げられる。
【0131】
アリル系ラジカル重合性化合物は、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、明和化成社製「MEH-8000H」、「MEH-8005」(フェノール環を有するアリル系ラジカル重合性化合物);日本化薬社製「RE-810NM」(エポキシ基を有するアリル系ラジカル重合性化合物);四国化成工業社製「ALP-d」(ベンゾオキサジン環を有するアリル系ラジカル重合性化合物);四国化成工業社製「L-DAIC」(イソシアヌル環を有するアリル系ラジカル重合性化合物);日本化成社製「TAIC」(イソシアヌル環を有するアリル系ラジカル重合性化合物(トリアリルイソシアヌレート));大阪ソーダ社製「MDAC」(シクロヘキサンジカルボン酸誘導体を有するアリル系ラジカル重合性化合物);日触テクノファインケミカル社製「DAD」(ジフェン酸ジアリル);大阪ソーダ社製「ダイソーダップ(登録商標)モノマー」(オルトジアリルフタレート)等が挙げられる。
【0132】
アリル系ラジカル重合性化合物のアリル基当量は、本発明の所期の効果を奏する観点から、好ましくは20g/eq.~1000g/eq.、より好ましくは50g/eq.~500g/eq.、さらに好ましくは100g/eq.~300g/eq.である。アリル基当量は、1当量のアリル基を含むアリル系ラジカル重合性化合物の質量である。
【0133】
ブタジエン系ラジカル重合性化合物とは、ブタジエン骨格を分子中に少なくとも1つ有する化合物である。ポリブタジエン構造は主鎖に含まれていても側鎖に含まれていてもよい。なお、ポリブタジエン構造は、一部が水素添加されていてもよい。ブタジエン系ラジカル重合性化合物としては、水素化ポリブタジエン骨格含有樹脂、ヒドロキシ基含有ブタジエン樹脂、フェノール性水酸基含有ブタジエン樹脂、カルボキシ基含有ブタジエン樹脂、酸無水物基含有ブタジエン樹脂、エポキシ基含有ブタジエン樹脂、イソシアネート基含有ブタジエン樹脂及びウレタン基含有ブタジエン樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂がより好ましい。
【0134】
ブタジエン系ラジカル重合性化合物の具体例としては、日本曹達社製の「JP-100」、CRAY VALLEY社製の「Ricon100」、「Ricon150」、「Ricon130MA8」、「Ricon130MA13」、「Ricon130MA20」、「Ricon131MA5」、「Ricon131MA10」、「Ricon131MA17」、「Ricon131MA20」、「Ricon 184MA6」等が挙げられる。
【0135】
(D)成分の含有量としては、(B)成分の反応を促進する観点から、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上又は2質量%であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0136】
<(E)硬化促進剤>
樹脂組成物は、上述した成分以外に、任意の成分として、(E)硬化促進剤を含んでいてもよい。(E)硬化促進剤を用いることにより、樹脂組成物を硬化させる際に硬化を促進できる。
【0137】
(E)硬化促進剤としては、例えば、リン系硬化促進剤、アミン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、グアニジン系硬化促進剤、金属系硬化促進剤、過酸化物系硬化促進剤が挙げられる。中でも、リン系硬化促進剤、アミン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、金属系硬化促進剤が好ましく、アミン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、金属系硬化促進剤がより好ましく、アミン系硬化促進剤が特に好ましい。(E)硬化促進剤は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0138】
リン系硬化促進剤としては、例えば、トリフェニルホスフィン、ホスホニウムボレート化合物、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、n-ブチルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラブチルホスホニウムデカン酸塩、(4-メチルフェニル)トリフェニルホスホニウムチオシアネート、テトラフェニルホスホニウムチオシアネート、ブチルトリフェニルホスホニウムチオシアネートが挙げられる。中でも、トリフェニルホスフィン、テトラブチルホスホニウムデカン酸塩が好ましい。
【0139】
アミン系硬化促進剤としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のトリアルキルアミン、4-ジメチルアミノピリジン、ベンジルジメチルアミン、2,4,6,-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセンが挙げられる。中でも、4-ジメチルアミノピリジン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセンが好ましい。
【0140】
イミダゾール系硬化促進剤としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[1,2-a]ベンズイミダゾール、1-ドデシル-2-メチル-3-ベンジルイミダゾリウムクロライド、2-メチルイミダゾリン、2-フェニルイミダゾリン等のイミダゾール化合物;及び、イミダゾール化合物とエポキシ樹脂とのアダクト体;が挙げられる。中でも、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾールが好ましい。
【0141】
イミダゾール系硬化促進剤としては、市販品を用いてもよく、例えば、三菱ケミカル社製の「P200-H50」が挙げられる。
【0142】
グアニジン系硬化促進剤としては、例えば、ジシアンジアミド、1-メチルグアニジン、1-エチルグアニジン、1-シクロヘキシルグアニジン、1-フェニルグアニジン、1-(o-トリル)グアニジン、ジメチルグアニジン、ジフェニルグアニジン、トリメチルグアニジン、テトラメチルグアニジン、ペンタメチルグアニジン、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、1-メチルビグアニド、1-エチルビグアニド、1-n-ブチルビグアニド、1-n-オクタデシルビグアニド、1,1-ジメチルビグアニド、1,1-ジエチルビグアニド、1-シクロヘキシルビグアニド、1-アリルビグアニド、1-フェニルビグアニド、1-(o-トリル)ビグアニドが挙げられる。中でも、ジシアンジアミド、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エンが好ましい。
【0143】
金属系硬化促進剤としては、例えば、コバルト、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、マンガン、スズ等の金属の、有機金属錯体又は有機金属塩が挙げられる。有機金属錯体の具体例としては、コバルト(II)アセチルアセトナート、コバルト(III)アセチルアセトナート等の有機コバルト錯体、銅(II)アセチルアセトナート等の有機銅錯体、亜鉛(II)アセチルアセトナート等の有機亜鉛錯体、鉄(III)アセチルアセトナート等の有機鉄錯体、ニッケル(II)アセチルアセトナート等の有機ニッケル錯体、マンガン(II)アセチルアセトナート等の有機マンガン錯体が挙げられる。有機金属塩としては、例えば、オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸スズ、ステアリン酸亜鉛が挙げられる。
【0144】
過酸化物系硬化促進剤としては、例えば、シクロヘキサノンパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイドが挙げられる。
【0145】
過酸化物系硬化促進剤としては、市販品を用いることができ、例えば、日油社製の「パークミル(登録商標)D」が挙げられる。
【0146】
(E)硬化促進剤を用いる場合、樹脂組成物における(E)硬化促進剤の量は、本発明の所期の効果を奏する観点から、樹脂組成物中の不揮発成分100質量%に対して、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、特に好ましくは0.05質量%以上であり、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。
【0147】
<(F)その他の添加剤>
樹脂組成物は、上述した成分以外に、任意の成分として、更にその他の添加成分を含んでいてもよい。このような添加成分としては、例えば、増粘剤、消泡剤、レベリング剤、密着性付与剤等の樹脂添加剤などが挙げられる。これらの添加成分は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。それぞれの含有量は当業者であれば適宜設定できる。また、添加成分としては、エポキシ樹脂、熱硬化性樹脂、(B)成分に属さないマレイミド化合物が挙げられ、これらの成分の含有量は、本発明の所期の効果を過度に損なわない量で適宜設定される。
【0148】
<樹脂組成物の物性、用途>
本発明の樹脂組成物は、(A)成分及び(B)成分を含む。これにより、密着性及び耐薬品性に優れる硬化物を得ることができる。通常、エポキシ樹脂含有の樹脂組成物に比べて、エポキシ樹脂不含の樹脂組成物は、密着性に劣る傾向にあるが、本発明によれば、十分に優れた密着性を有する硬化物を提供することが可能である。また、本発明の樹脂組成物は、後述するように誘電特性に優れる硬化物を提供することができる。そのため、本発明の樹脂組成物は、その硬化物を含むプリント配線板、回路基板、半導体装置において、高周波信号を動作させるのに適したものとすることが可能である。
【0149】
本発明の樹脂組成物に関し、当該樹脂組成物を180℃で30分間熱処理して得られる硬化物は、耐薬品性に優れている。例えば、斯かる硬化物を、アルカリ溶液に80℃で20分間浸漬した後に、当該硬化物を非接触型表面粗さ計で測定した場合の算術平均表面粗さが、後述の実施例において例証されたように、例えば270nm以下、好ましくは260nm以下である。このように本発明の樹脂組成物は、硬化させた場合に、耐薬品性に優れるために、低粗度の硬化物を提供することができる。これにより、斯かる硬化物を絶縁層として、高周波信号を動作させるプリント配線板又は回路基板に用いても、表皮効果を抑制することができる。そのため、本発明の樹脂組成物は、その硬化物を用いたプリント配線板、回路基板、半導体装置は、高周波信号を動作させるのに適したものとすることが可能である。
【0150】
本発明の樹脂組成物に関し、当該樹脂組成物を200℃で90分間熱処理して得られる硬化物は、誘電特性に優れている。例えば、斯かる硬化物は、空洞共振摂動法により測定周波数5.8GHz及び測定温度23℃の条件で測定した場合の誘電率が、後述の実施例において例証されたように、3.2以下であり、好ましくは3.2未満である。例えば、斯かる硬化物は、空洞共振摂動法により測定周波数5.8GHz及び測定温度23℃の条件で測定した場合の誘電正接が、後述の実施例において例証されたように、例えば0.0044未満であり、好ましくは0.0040以下であり、好ましくは0.0039以下、より好ましくは0.0038以下である。
【0151】
本発明の樹脂組成物は、密着性及び耐薬品性に優れる硬化物で形成された絶縁層をもたらすことができる。したがって、本発明の樹脂組成物は、絶縁用途の樹脂組成物として好適に使用することができる。具体的には、絶縁層上に形成される導体層(再配線層を含む)を形成するための当該絶縁層を形成するための樹脂組成物(導体層を形成するための絶縁層形成用樹脂組成物)として好適に使用することができる。
【0152】
また、後述する多層プリント配線板において、多層プリント配線板の絶縁層を形成するための樹脂組成物(多層プリント配線板の絶縁層形成用樹脂組成物)、プリント配線板の層間絶縁層を形成するための樹脂組成物(プリント配線板の層間絶縁層形成用樹脂組成物)として本発明の樹脂組成物を好適に使用することができる。
【0153】
特に、誘電特性に優れる硬化物及び表皮効果を抑制可能な低粗度の硬化物を得ることができるという利点を活用して、本発明の樹脂組成物は、高周波回路基板の絶縁層を形成するための樹脂組成物(高周波回路基板の絶縁層形成用の樹脂組成物)として好適に使用することができる。中でも、この樹脂組成物は、高周波回路基板の層間絶縁層を形成するための樹脂組成物(高周波回路基板の層間絶縁層形成用の樹脂組成物)としてより好適に使用することができる。ここで、「高周波回路基板」とは、高周波帯域の電気信号であっても動作させることができる回路基板を意味する。また、「高周波帯域」とは、通常1GHz以上の帯域を意味し、上記の樹脂組成物は例えば28GHz~80GHzの帯域においても有効である。
【0154】
また、例えば、以下の(1)~(6)工程を経て半導体チップパッケージが製造される場合、本発明の樹脂組成物は、再配線層を形成するための絶縁層としての再配線形成層用の樹脂組成物(再配線形成層形成用の樹脂組成物)、及び半導体チップを封止するための樹脂組成物(半導体チップ封止用の樹脂組成物)としても本発明の樹脂組成物を好適に使用することができる。半導体チップパッケージが製造される際、封止層上に更に再配線層を形成してもよい。
(1)基材に仮固定フィルムを積層する工程、
(2)半導体チップを、仮固定フィルム上に仮固定する工程、
(3)半導体チップ上に封止層を形成する工程、
(4)基材及び仮固定フィルムを半導体チップから剥離する工程、
(5)半導体チップの基材及び仮固定フィルムを剥離した面に、絶縁層としての再配線形成層を形成する工程、及び
(6)再配線形成層上に、導体層としての再配線層を形成する工程
【0155】
<樹脂組成物の調製方法>
本発明の樹脂組成物の調製方法は、特に限定されるものではなく、例えば、配合成分を、必要により溶媒等とともに混合し、回転ミキサーなどを用いて分散する方法などが挙げられる。
【0156】
[樹脂組成物の硬化物]
<樹脂組成物の硬化物の物性、用途>
本発明の樹脂組成物を熱処理して得られる硬化物は、通常、耐薬品性に優れている。例えば、本発明の樹脂組成物を熱処理して得られた硬化物を、アルカリ溶液に80℃で20分間浸漬した後に、当該硬化物を非接触型表面粗さ計で測定した場合の算術平均表面粗さは、例えば270nm以下であり得る。算術平均表面粗さの値の好ましい範囲等については樹脂組成物について述べたのと同様である。このように本発明の樹脂組成物の硬化物は、通常、耐薬品性に優れるために、低粗度であり得る。これにより、斯かる硬化物を絶縁層として、高周波信号を動作させるプリント配線板又は回路基板に用いても、表皮効果を抑制し得る。そのため、本発明の樹脂組成物の硬化物を用いたプリント配線板、回路基板、半導体装置は、高周波信号を動作させるのに適したものとすることが可能である。
【0157】
本発明の樹脂組成物を熱処理して得られる硬化物は、通常、誘電特性に優れる。例えば、本発明の樹脂組成物を熱処理して得られる硬化物は、空洞共振摂動法により測定周波数5.8GHz及び測定温度23℃の条件で測定した場合の誘電率が、3.2以下であり得る。誘電率の値の好ましい範囲等については樹脂組成物について述べたのと同様である。また、例えば、斯かる硬化物は、空洞共振摂動法により測定周波数5.8GHz及び測定温度23℃の条件で測定した場合の誘電正接が、例えば0.0044未満であり得る。誘電正接の値の好ましい範囲等については樹脂組成物について述べたのと同様である。
【0158】
本発明の樹脂組成物の硬化物は、通常、密着性及び耐薬品性に優れている硬化物で形成された絶縁層をもたらすことができる。したがって、本発明の樹脂組成物の硬化物は、絶縁用途の樹脂組成物として好適に使用することができる。具体的には、絶縁層上に形成される導体層(再配線層を含む)を形成するための当該絶縁層として本発明の樹脂組成物の硬化物を好適に使用することができる。
【0159】
また、後述する多層プリント配線板において、多層プリント配線板の絶縁層として本発明の樹脂組成物の硬化物を好適に使用することができる。
【0160】
[樹脂シート]
本発明の樹脂シートは、支持体と、該支持体上に設けられた、本発明の樹脂組成物で形成された樹脂組成物層を含む。
【0161】
樹脂組成物層の厚さは、プリント配線板の薄型化、及び当該樹脂組成物の硬化物が薄膜であっても絶縁性に優れた硬化物を提供できるという観点から、好ましくは50μm以下、より好ましくは45μm以下、さらに好ましくは42μm以下である。樹脂組成物層の厚さの下限は、特に限定されないが、通常、5μm以上等とし得る。
【0162】
支持体としては、例えば、プラスチック材料からなるフィルム、金属箔、離型紙が挙げられ、プラスチック材料からなるフィルム、金属箔が好ましい。
【0163】
支持体としてプラスチック材料からなるフィルムを使用する場合、プラスチック材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略称することがある。)、ポリエチレンナフタレート(以下「PEN」と略称することがある。)等のポリエステル、ポリカーボネート(以下「PC」と略称することがある。)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル、環状ポリオレフィン、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエーテルサルファイド(PES)、ポリエーテルケトン、ポリイミド等が挙げられる。中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましく、安価なポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0164】
支持体として金属箔を使用する場合、金属箔としては、例えば、銅箔、アルミニウム箔等が挙げられ、銅箔が好ましい。銅箔としては、銅の単金属からなる箔を用いてもよく、銅と他の金属(例えば、スズ、クロム、銀、マグネシウム、ニッケル、ジルコニウム、ケイ素、チタン等)との合金からなる箔を用いてもよい。
【0165】
支持体は、樹脂組成物層と接合する面にマット処理、コロナ処理、帯電防止処理を施してあってもよい。
【0166】
また、支持体としては、樹脂組成物層と接合する面に離型層を有する離型層付き支持体を使用してもよい。離型層付き支持体の離型層に使用する離型剤としては、例えば、アルキド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタン樹脂、及びシリコーン樹脂からなる群から選択される1種以上の離型剤が挙げられる。離型層付き支持体は、市販品を用いてもよく、例えば、アルキド樹脂系離型剤を主成分とする離型層を有するPETフィルムである、リンテック社製の「SK-1」、「AL-5」、「AL-7」、東レ社製の「ルミラーT60」、帝人社製の「ピューレックス」、ユニチカ社製の「ユニピール」等が挙げられる。
【0167】
支持体の厚みとしては、特に限定されないが、5μm~75μmの範囲が好ましく、10μm~60μmの範囲がより好ましい。なお、離型層付き支持体を使用する場合、離型層付き支持体全体の厚さが上記範囲であることが好ましい。
【0168】
一実施形態において、樹脂シートは、さらに必要に応じて、その他の層を含んでいてもよい。斯かるその他の層としては、例えば、樹脂組成物層の支持体と接合していない面(即ち、支持体とは反対側の面)に設けられた、支持体に準じた保護フィルム等が挙げられる。保護フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、1μm~40μmである。保護フィルムを積層することにより、樹脂組成物層の表面へのゴミ等の付着やキズを抑制することができる。
【0169】
樹脂シートは、例えば、有機溶剤に樹脂組成物を溶解した樹脂ワニスを調製し、この樹脂ワニスを、ダイコーター等を用いて支持体上に塗布し、更に乾燥させて樹脂組成物層を形成させることにより製造することができる。
【0170】
有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)及びシクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート及びカルビトールアセテート等の酢酸エステル類;セロソルブ及びブチルカルビトール等のカルビトール類;トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド(DMAc)及びN-メチルピロリドン等のアミド系溶剤等を挙げることができる。有機溶剤は1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0171】
乾燥は、加熱、熱風吹きつけ等の公知の方法により実施してよい。乾燥条件は特に限定されないが、樹脂組成物層中の有機溶剤の含有量が10質量%以下、好ましくは5質量%以下となるように乾燥させる。樹脂ワニス中の有機溶剤の沸点によっても異なるが、例えば30質量%~60質量%の有機溶剤を含む樹脂ワニスを用いる場合、50℃~150℃で3分間~10分間乾燥させることにより、樹脂組成物層を形成することができる。
【0172】
樹脂シートは、ロール状に巻きとって保存することが可能である。樹脂シートが保護フィルムを有する場合、保護フィルムを剥がすことによって使用可能となる。
【0173】
[プリント配線板]
本発明のプリント配線板は、本発明の樹脂組成物の硬化物により形成された絶縁層を含む。
【0174】
プリント配線板は、例えば、上述の樹脂シートを用いて、下記(I)及び(II)の工程を含む方法により製造することができる。
(I)内層基板上に、樹脂シートの樹脂組成物層が内層基板と接合するように積層する工程
(II)樹脂組成物層を熱硬化して絶縁層を形成する工程
【0175】
工程(I)で用いる「内層基板」とは、プリント配線板の基板となる部材であって、例えば、ガラスエポキシ基板、金属基板、ポリエステル基板、ポリイミド基板、BTレジン基板、熱硬化型ポリフェニレンエーテル基板等が挙げられる。また、該基板は、その片面又は両面に導体層を有していてもよく、この導体層はパターン加工されていてもよい。基板の片面または両面に導体層(回路)が形成された内層基板は「内層回路基板」ということがある。またプリント配線板を製造する際に、さらに絶縁層及び/又は導体層が形成されるべき中間製造物も本発明でいう「内層基板」に含まれる。プリント配線板が部品内蔵回路板である場合、部品を内蔵した内層基板を使用し得る。
【0176】
内層基板と樹脂シートの積層は、例えば、支持体側から樹脂シートを内層基板に加熱圧着することにより行うことができる。樹脂シートを内層基板に加熱圧着する部材(以下、「加熱圧着部材」ともいう。)としては、例えば、加熱された金属板(SUS鏡板等)又は金属ロール(SUSロール)等が挙げられる。なお、加熱圧着部材を樹脂シートに直接プレスするのではなく、内層基板の表面凹凸に樹脂シートが十分に追随するよう、耐熱ゴム等の弾性材を介してプレスするのが好ましい。
【0177】
内層基板と樹脂シートの積層は、真空ラミネート法により実施してよい。真空ラミネート法において、加熱圧着温度は、好ましくは60℃~160℃、より好ましくは80℃~140℃の範囲であり、加熱圧着圧力は、好ましくは0.098MPa~1.77MPa、より好ましくは0.29MPa~1.47MPaの範囲であり、加熱圧着時間は、好ましくは20秒間~400秒間、より好ましくは30秒間~300秒間の範囲である。積層は、好ましくは圧力26.7hPa以下の減圧条件下で実施する。
【0178】
積層は、市販の真空ラミネーターによって行うことができる。市販の真空ラミネーターとしては、例えば、名機製作所社製の真空加圧式ラミネーター、ニッコー・マテリアルズ社製のバキュームアップリケーター、バッチ式真空加圧ラミネーター等が挙げられる。
【0179】
積層の後に、常圧下(大気圧下)、例えば、加熱圧着部材を支持体側からプレスすることにより、積層された樹脂シートの平滑化処理を行ってもよい。平滑化処理のプレス条件は、上記積層の加熱圧着条件と同様の条件とすることができる。平滑化処理は、市販のラミネーターによって行うことができる。なお、積層と平滑化処理は、上記の市販の真空ラミネーターを用いて連続的に行ってもよい。
【0180】
支持体は、工程(I)と工程(II)の間に除去してもよく、工程(II)の後に除去してもよい。
【0181】
工程(II)において、樹脂組成物層を熱硬化して絶縁層を形成する。樹脂組成物層の熱硬化条件は特に限定されず、プリント配線板の絶縁層を形成するに際して通常採用される条件を使用してよい。
【0182】
例えば、樹脂組成物層の熱硬化条件は、樹脂組成物の種類等によっても異なるが、硬化温度は好ましくは120℃~240℃、より好ましくは150℃~220℃、さらに好ましくは170℃~210℃である。硬化時間は好ましくは5分間~120分間、より好ましくは10分間~100分間、さらに好ましくは15分間~100分間とすることができる。
【0183】
樹脂組成物層を熱硬化させる前に、樹脂組成物層を硬化温度よりも低い温度にて予備加熱してもよい。例えば、樹脂組成物層を熱硬化させるのに先立ち、50℃以上120℃未満(好ましくは60℃以上115℃以下、より好ましくは70℃以上110℃以下)の温度にて、樹脂組成物層を5分間以上(好ましくは5分間~150分間、より好ましくは15分間~120分間、さらに好ましくは15分間~100分間)予備加熱してもよい。
【0184】
プリント配線板を製造するに際しては、(III)絶縁層に穴あけする工程、(IV)絶縁層を粗化処理する工程、(V)導体層を形成する工程をさらに実施してもよい。これらの工程(III)乃至工程(V)は、プリント配線板の製造に用いられる、当業者に公知の各種方法に従って実施してよい。なお、支持体を工程(II)の後に除去する場合、該支持体の除去は、工程(II)と工程(III)との間、工程(III)と工程(IV)の間、又は工程(IV)と工程(V)との間に実施してよい。また、必要に応じて、工程(II)~工程(V)の絶縁層及び導体層の形成を繰り返して実施し、多層配線板を形成してもよい。
【0185】
工程(III)は、絶縁層に穴あけする工程であり、これにより絶縁層にビアホール、スルーホール等のホールを形成することができる。工程(III)は、絶縁層の形成に使用した樹脂組成物の組成等に応じて、例えば、ドリル、レーザー、プラズマ等を使用して実施してよい。ホールの寸法や形状は、プリント配線板のデザインに応じて適宜決定してよい。
【0186】
工程(IV)は、絶縁層を粗化処理する工程である。通常、この工程(IV)において、スミアの除去も行われる。粗化処理の手順、条件は特に限定されず、プリント配線板の絶縁層を形成するに際して通常使用される公知の手順、条件を採用することができる。例えば、膨潤液による膨潤処理、酸化剤による粗化処理、中和液による中和処理をこの順に実施して絶縁層を粗化処理することができる。
【0187】
粗化処理に用いる膨潤液としては特に限定されないが、アルカリ溶液、界面活性剤溶液等が挙げられ、好ましくはアルカリ溶液であり、該アルカリ溶液としては、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液がより好ましい。市販されている膨潤液としては、例えば、アトテックジャパン社製の「スウェリング・ディップ・セキュリガンスP」、「スウェリング・ディップ・セキュリガンスSBU」、「スウェリングディップ・セキュリガントP」等が挙げられる。膨潤液による膨潤処理は、特に限定されないが、例えば、30℃~90℃の膨潤液に絶縁層を1分間~20分間浸漬することにより行うことができる。絶縁層の樹脂の膨潤を適度なレベルに抑える観点から、40℃~80℃の膨潤液に絶縁層を5分間~15分間浸漬させることが好ましい。
【0188】
粗化処理に用いる粗化液は、通常、酸化剤を含有する。粗化液としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウムの水溶液に過マンガン酸カリウムや過マンガン酸ナトリウムを溶解したアルカリ性過マンガン酸溶液が挙げられる。アルカリ性過マンガン酸溶液等の酸化剤による粗化処理は、60℃~100℃に加熱した酸化剤溶液に絶縁層を10分間~30分間浸漬させて行うことが好ましい。また、アルカリ性過マンガン酸溶液における過マンガン酸塩の濃度は5質量%~10質量%が好ましい。粗化液のpHは、11以上が好ましい。市販されている粗化液としては、例えば、アトテックジャパン社製の「コンセントレート・コンパクトP」、「コンセントレート・コンパクトCP」、「ドージングソリューション・セキュリガンスP」等のアルカリ性過マンガン酸溶液が挙げられる。
【0189】
また、粗化処理に用いる中和液としては、酸性の水溶液が好ましく、市販品としては、例えば、アトテックジャパン社製の「リダクションソリューション・セキュリガントP」が挙げられる。中和液による処理は、酸化剤による粗化処理がなされた処理面を30℃~80℃の中和液に1分間~30分間浸漬させることにより行うことができる。作業性等の点から、酸化剤による粗化処理がなされた対象物を、35℃~70℃の中和液に5分間~20分間浸漬する方法が好ましい。
【0190】
一実施形態において、粗化処理後の絶縁層表面の算術平均粗さ(Ra)は、好ましくは300nm以下、より好ましくは250nm以下、さらに好ましくは200nm以下である。下限については特に限定されないが、好ましくは30nm以上、より好ましくは40nm以上、さらに好ましくは50nm以上である。絶縁層表面の算術平均粗さ(Ra)は、非接触型表面粗さ計を用いて測定することができる。
【0191】
工程(V)は、導体層を形成する工程であり、絶縁層上に導体層を形成する。導体層に使用する導体材料は特に限定されない。好適な実施形態では、導体層は、金、白金、パラジウム、銀、銅、アルミニウム、コバルト、クロム、亜鉛、ニッケル、チタン、タングステン、鉄、スズ及びインジウムからなる群から選択される1種以上の金属を含む。導体層は、単金属層であっても合金層であってもよく、合金層としては、例えば、上記の群から選択される2種以上の金属の合金(例えば、ニッケル・クロム合金、銅・ニッケル合金及び銅・チタン合金)から形成された層が挙げられる。中でも、導体層形成の汎用性、コスト、パターニングの容易性等の観点から、クロム、ニッケル、チタン、アルミニウム、亜鉛、金、パラジウム、銀若しくは銅の単金属層、又はニッケル・クロム合金、銅・ニッケル合金、銅・チタン合金の合金層が好ましく、クロム、ニッケル、チタン、アルミニウム、亜鉛、金、パラジウム、銀若しくは銅の単金属層、又はニッケル・クロム合金の合金層がより好ましく、銅の単金属層が更に好ましい。
【0192】
導体層は、単層構造であっても、異なる種類の金属若しくは合金からなる単金属層又は合金層が2層以上積層した複層構造であってもよい。導体層が複層構造である場合、絶縁層と接する層は、クロム、亜鉛若しくはチタンの単金属層、又はニッケル・クロム合金の合金層であることが好ましい。
【0193】
導体層の厚さは、所望のプリント配線板のデザインによるが、一般に3μm~35μm、好ましくは5μm~30μmである。
【0194】
一実施形態において、導体層は、めっきにより形成してよい。例えば、セミアディティブ法、フルアディティブ法等の従来公知の技術により絶縁層の表面にめっきして、所望の配線パターンを有する導体層を形成することができ、製造の簡便性の観点から、セミアディティブ法により形成することが好ましい。以下、導体層をセミアディティブ法により形成する例を示す。
【0195】
まず、絶縁層の表面に、無電解めっきによりめっきシード層を形成する。次いで、形成されためっきシード層上に、所望の配線パターンに対応してめっきシード層の一部を露出させるマスクパターンを形成する。露出しためっきシード層上に、電解めっきにより金属層を形成した後、マスクパターンを除去する。その後、不要なめっきシード層をエッチング等により除去して、所望の配線パターンを有する導体層を形成することができる。
【0196】
[半導体装置]
本発明の半導体装置は、本発明のプリント配線板を含む。本発明の半導体装置は、本発明のプリント配線板を用いて製造することができる。
【0197】
半導体装置としては、電気製品(例えば、コンピューター、携帯電話、デジタルカメラ及びテレビ等)及び乗物(例えば、自動二輪車、自動車、電車、船舶及び航空機等)等に供される各種半導体装置が挙げられる。
【0198】
本発明の半導体装置は、プリント配線板の導通箇所に、部品(半導体チップ)を実装することにより製造することができる。「導通箇所」とは、「プリント配線板における電気信号を伝える箇所」であって、その場所は表面であっても、埋め込まれた箇所であってもいずれでも構わない。また、半導体チップは半導体を材料とする電気回路素子であれば特に限定されない。
【0199】
半導体装置を製造する際の半導体チップの実装方法は、半導体チップが有効に機能しさえすれば、特に限定されないが、具体的には、ワイヤボンディング実装方法、フリップチップ実装方法、バンプなしビルドアップ層(BBUL)による実装方法、異方性導電フィルム(ACF)による実装方法、非導電性フィルム(NCF)による実装方法、等が挙げられる。ここで、「バンプなしビルドアップ層(BBUL)による実装方法」とは、「半導体チップをプリント配線板の凹部に直接埋め込み、半導体チップとプリント配線板上の配線とを接続させる実装方法」のことである。
【実施例
【0200】
以下、本発明について、実施例を示して具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものでは無い。以下の説明において、量を表す「部」及び「%」は、別途明示の無い限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。また、以下に説明する操作は、別途明示の無い限り、常温常圧の環境で行った。
【0201】
[実施例1]
<樹脂ワニスAの調製>
(B)成分としてのマレイミド化合物b1(デザイナーモレキュールズ社製「BMI-3000J」25部、(A)成分としてのポリカーボネート樹脂a1(三菱ガス化学社製「FPC2136」;数平均分子量:20895)20部を、メチルエチルケトン(MEK)20部及びトルエン15部に撹拌しながら加熱溶解させた。これにより、溶液を得た。
【0202】
得られた溶液を室温にまで冷却した。その後、当該溶液に、(D)成分としてのラジカル重合性化合物d1(三菱ガス化学社製「OPE-2St」(オリゴフェニレンエーテル・スチレン樹脂);数平均分子量:1200、不揮発成分65質量%のトルエン溶液)9部、(C)成分としての無機充填材c(信越化学工業社製アミン系シランカップリング剤「KBM573」で表面処理されたアドマテックス社製の球形シリカ「SO-C2」(平均粒径:0.5μm、比表面積:5.8m/g))50部、(E)成分としての硬化促進剤(日油社製「パーヘキシル(登録商標)D」)0.1部を添加し、混合し、さらに、高速回転ミキサーで均一に分散した。これにより、分散液を得た。これにより、(A)~(E)成分を含有する樹脂組成物の樹脂ワニス(不揮発成分含有量:73%)を調製した。以下、このように調製される樹脂ワニスを総称して「樹脂ワニスA」ともいう。
【0203】
<樹脂シートBの作製>
支持体として、一方の主面をアルキド樹脂系離型剤(リンテック社製「AL-5」)で離型処理したPETフィルム(東レ社製「ルミラーR80」;厚み38μm、軟化点130℃、以下「離型PET」ということがある。)を用意した。
【0204】
樹脂ワニスAを、乾燥後の樹脂組成物層の厚みが40μmとなるよう、離型PETの離型処理面上にダイコーターにて均一に塗布し、90℃で3分間乾燥した。これにより、支持体と該支持体上に設けられた樹脂組成物を含む樹脂組成物層を含む樹脂シートを得た。次いで、樹脂組成物層が離型PETと接合していない面に、保護フィルムとしてのポリプロピレンフィルム(王子エフテックス社製「アルファンMA-411」、厚み15μm)の粗面を、樹脂組成物層と接合するように積層した。これにより、離型PET(支持体)、樹脂組成物層、及び保護フィルムの順からなる樹脂シート(以下、このように作製される樹脂シートを総称して「樹脂シートB」ともいう)を得た。
【0205】
<樹脂組成物の硬化物の評価>
樹脂シートBの樹脂組成物層を用いて、樹脂組成物の硬化物を、誘電特性、下地密着性、薬液処理後の粗度及びめっき密着性の観点から、後述する評価方法に従って評価した。
【0206】
[実施例2]
実施例1において、(A)成分としてのポリカーボネート樹脂a1(三菱ガス化学社製「FPC2136」;数平均分子量:20895)20部を、(A)成分としてのポリカーボネート樹脂a2(三菱ガス化学社製「FPC0220」;数平均分子量:18911)20部に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を含む樹脂ワニスAを調製した。そして、樹脂ワニスAを用いて、実施例1と同様にして、樹脂シートBを得て、樹脂シートBの樹脂組成物層を実施例1と同様にして評価に供した。
【0207】
[実施例3]
実施例1において、(A)成分としてのポリカーボネート樹脂a1(三菱ガス化学社製「FPC2136」;数平均分子量:20895)20部を、(A)成分としてのポリカーボネート樹脂a3(三菱ガス化学社製「PCZ200」;粘度平均分子量:21500)20部に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を含む樹脂ワニスAを調製した。そして、樹脂ワニスAを用いて、実施例1と同様にして、樹脂シートBを得て、樹脂シートBの樹脂組成物層を実施例1と同様にして評価に供した。
【0208】
[実施例4]
実施例1において、(B)成分としてのマレイミド化合物b1(デザイナーモレキュールズ社製「BMI-3000J」)25部を、(B)成分としてのマレイミド化合物b2(デザイナーモレキュールズ社製「BMI-1700」25部に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を含む樹脂ワニスAを調製した。そして、樹脂ワニスAを用いて、実施例1と同様にして、樹脂シートBを得て、樹脂シートBの樹脂組成物層を実施例1と同様にして評価に供した。
【0209】
[実施例5]
実施例1において、(B)成分としてのマレイミド化合物b1(デザイナーモレキュールズ社製「BMI-3000J」)25部を、(B)成分としてのマレイミド化合物b3(デザイナーモレキュールズ社製「BMI-1500」25部に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を含む樹脂ワニスAを調製した。そして、樹脂ワニスAを用いて、実施例1と同様にして、樹脂シートBを得て、樹脂シートBの樹脂組成物層を実施例1と同様にして評価に供した。
【0210】
[実施例6]
実施例1において、(B)成分としてのマレイミド化合物b1(デザイナーモレキュールズ社製「BMI-3000J」)25部を、(B)成分としてのマレイミド化合物b3(デザイナーモレキュールズ社製「BMI-689」25部に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を含む樹脂ワニスAを調製した。そして、樹脂ワニスAを用いて、実施例1と同様にして、樹脂シートBを得て、樹脂シートBの樹脂組成物層を実施例1と同様にして評価に供した。
【0211】
[実施例7]
実施例1において、(D)成分としてのラジカル重合性化合物d1(三菱ガス化学社製「OPE-2St」;数平均分子量:1200、不揮発成分65質量%のトルエン溶液)9部を、(D)成分としてのラジカル重合性化合物d2(新中村化学工業社製NKエステル「DCP」(トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート);分子量:332)6部に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を含む樹脂ワニスAを調製した。そして、樹脂ワニスAを用いて、実施例1と同様にして、樹脂シートBを得て、樹脂シートBの樹脂組成物層を実施例1と同様にして評価に供した。
【0212】
[実施例8]
実施例1において、(D)成分としてのラジカル重合性化合物d1(三菱ガス化学社製「OPE-2St」;数平均分子量:1200、不揮発成分65質量%のトルエン溶液)9部を、(D)成分としてのラジカル重合性化合物d3(日触テクノファインケミカル社製ジフェン酸ジアリル「DAD」(2,2’-ビフェニルジカルボン酸ジアリルエステル);分子量:322)6部に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を含む樹脂ワニスAを調製した。そして、樹脂ワニスAを用いて、実施例1と同様にして、樹脂シートBを得て、樹脂シートBの樹脂組成物層を実施例1と同様にして評価に供した。
【0213】
[実施例9]
実施例1において、(D)成分としてのラジカル重合性化合物d1(三菱ガス化学社製「OPE-2St」;数平均分子量:1200、不揮発成分65質量%のトルエン溶液)9部を、(D)成分としてのラジカル重合性化合物d4(新中村化学工業社製NKエステル「A-DOG」;分子量:326)6部に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を含む樹脂ワニスAを調製した。そして、樹脂ワニスAを用いて、実施例1と同様にして、樹脂シートBを得て、樹脂シートBの樹脂組成物層を実施例1と同様にして評価に供した。
【0214】
[比較例1]
実施例1において、(B)成分としてのマレイミド化合物b1(デザイナーモレキュールズ社製「BMI-3000J」25部を用いなかった。また、実施例1において、(D)成分としてのラジカル重合性化合物d1(三菱ガス化学社製「OPE-2St」;数平均分子量:1200、不揮発成分65質量%のトルエン溶液)の質量部を、9部から48部に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を含む樹脂ワニスAを調製した。そして、樹脂ワニスAを用いて、実施例1と同様にして、樹脂シートBを得て、樹脂シートBの樹脂組成物層を実施例1と同様にして評価に供した。
【0215】
[比較例2]
実施例1において、(B)成分としてのマレイミド化合物b1(デザイナーモレキュールズ社製「BMI-3000J」25部を用いなかった。また、実施例1において、(D)成分としてのラジカル重合性化合物d1(三菱ガス化学社製「OPE-2St」;数平均分子量:1200、不揮発成分65質量%のトルエン溶液)9部を、ラジカル重合性化合物d4(新中村化学工業社製NKエステル「A-DOG」;分子量:326)31部に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を含む樹脂ワニスAを調製した。そして、樹脂ワニスAを用いて、実施例1と同様にして、樹脂シートBを得て、樹脂シートBの樹脂組成物層を実施例1と同様にして評価に供した。
【0216】
[比較例3]
実施例1において、(A)成分としてのポリカーボネート樹脂a1(三菱ガス化学社製「FPC2136」;数平均分子量:20895)20部を用いずに、(A’)成分としての熱可塑性樹脂(三菱ケミカル社製の「YX6954BH30」;不揮発成分30質量%のMEKとシクロヘキサノンの1:1溶液、不揮発成分の重量平均分子量:35000)66部を用いた。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を含む樹脂ワニスAを調製した。そして、樹脂ワニスAを用いて、実施例1と同様にして、樹脂シートBを得て、樹脂シートBの樹脂組成物層を実施例1と同様にして評価に供した。
【0217】
[比較例4]
実施例1において、(B)成分としてのマレイミド化合物b1(デザイナーモレキュールズ社製「BMI-3000J」)25部を用いずに、(B’)成分としてのマレイミド化合物(ケイ・アイ化成社製「BMI-70」(ビス-(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン);(B)成分に属さないマレイミド化合物)25部を用いた。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を含む樹脂ワニスAを調製した。そして、樹脂ワニスAを用いて、実施例1と同様にして、樹脂シートBを得て、樹脂シートBの樹脂組成物層を実施例1と同様にして評価に供した。
【0218】
[比較例5]
実施例1において、(B)成分としてのマレイミド化合物b1(デザイナーモレキュールズ社製「BMI-3000J」)25部を用いずに、(B’)成分としてのマレイミド化合物(ケイ・アイ化成社製「BMI-70」(ビス-(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン);(B)成分に属さないマレイミド化合物)25部を用いた。また、実施例1において、(D)成分としてのラジカル重合性化合物d1(三菱ガス化学社製「OPE-2St」;数平均分子量:1200、不揮発成分65質量%のトルエン溶液)9部を、ラジカル重合性化合物d4(新中村化学工業社製NKエステル「A-DOG」;分子量:326)6部に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を含む樹脂ワニスAを調製した。そして、樹脂ワニスAを用いて、実施例1と同様にして、樹脂シートBを得て、樹脂シートBの樹脂組成物層を実施例1と同様にして評価に供した。
【0219】
[評価方法]
上述した実施例及び比較例で得た樹脂シートBの樹脂組成物層を用いて、樹脂組成物層の硬化物を、誘電特性、下地密着性、薬液処理後の粗度及びめっき密着性の観点から、下記の方法によって評価した。
【0220】
<<誘電特性の評価>>
誘電特性の評価は、以下の手順にて、誘電率及び誘電正接の値を測定し、測定値を総合評価することにより行った。測定結果及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0221】
<評価用硬化物Cの作製>
実施例及び比較例で作製した樹脂シートBから保護フィルムを剥がして、200℃にて90分間加熱して樹脂組成物層を熱硬化させた後、支持体を剥離することで、樹脂組成物の硬化物で形成された硬化物フィルムを得た。硬化物フィルムを、幅2mm、長さ80mmに切り出し、評価用硬化物Cを得た。
【0222】
<測定>
各評価用硬化物Cについて、アジレントテクノロジーズ社製「HP8362B」を用いて、空洞共振摂動法により測定周波数5.8GHz、測定温度23℃にて、誘電率及び誘電正接の値を測定した。3本の試験片について測定を行い、平均値を算出した。
【0223】
<評価>
算出した誘電率及び誘電正接の平均値を以下の基準で評価した。
「○」:誘電率の平均値が3.2以下、かつ、誘電正接の平均値が0.0040以下を満たす場合に、誘電特性に優れていると評価した。
「×」:誘電率の平均値及び誘電正接の平均値の一方又は双方が上記基準を満たさない場合に、誘電特性に劣ると評価した。
【0224】
<<下地密着性の評価>>
下地密着性の評価は、以下の手順にて、銅箔引き剥がし強度を測定することにより行った。測定結果及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0225】
<評価基板Dの作製>
(1)銅箔の下地処理
三井金属鉱山社製「3EC-III」(電界銅箔、35μm)の光沢面をメック社製メックエッチボンド「CZ-8201」に浸漬することにより、銅表面のRa値が0.5μmとなるように粗化処理を行い、次いで防錆処理(CL8300)を施した。この銅箔をCZ銅箔という。さらに、130℃のオーブンで30分間加熱処理した。これにより、表面が低粗度のCZ銅箔を得た。
【0226】
(2)樹脂組成物層のラミネート、銅箔のラミネート及び絶縁層形成
実施例及び比較例で作製した各樹脂シートBから保護フィルムを剥がして、樹脂組成物層を露出させた。バッチ式真空加圧ラミネーター(名機社製「MVLP-500」)を用いて、露出させた樹脂組成物層が、内層回路を形成したガラス布基材エポキシ樹脂両面銅張積層板(銅箔の厚さ18μm、基板の厚さ0.4mm、パナソニック社製「R1515A」)と接合するように、保護フィルムを剥がした樹脂シートBを当該積層板の両面にラミネート処理した。ラミネート処理は、30秒間減圧して気圧を13hPa以下に調整した後、100℃、圧力0.74MPaで30秒間圧着することにより行った。ラミネート処理された樹脂シートBから支持体を剥離した。各樹脂組成物層の上に、CZ銅箔の処理面を、上記と同様の条件で、ラミネート処理した。そして、190℃、90分の硬化条件で樹脂組成物層を硬化して絶縁層を形成した。このようにして、両面にCZ銅箔が積層された評価基板Dを作製した。
【0227】
<銅箔引き剥がし強度の測定>
作製した評価基板Dを150×30mmの小片に切断した。小片の銅箔部分に、カッターを用いて幅10mm、長さ100mmの部分の切込みをいれて、銅箔の一端を剥がして後記引っ張り試験機に付属のつかみ具で掴み、室温(常温)中にて、50mm/分の速度で垂直方向に35mm引き剥がした時の荷重[kgf/cm]を測定した。測定には、引っ張り試験機(ティー・エス・イー社製オートコム万能試験機「AC-50C-SL」)を使用した。測定は日本工業規格JIS C6481に準拠して行った。この測定の結果得られる荷重の値を、銅箔引き剥がし強度ともいう。
【0228】
<評価>
測定の結果得られた銅箔引き剥がし強度の値を以下の基準で評価した。
「○」:銅箔引き剥がし強度の値が0.50kgf/cm以上を満たす場合に、下地密着性に優れていると評価した。
「×」:銅箔引き剥がし強度の値が上記基準を満たさない場合(0.50kgf/cm未満の場合)に、下地密着性に劣ると評価した。
【0229】
<<耐薬品性の評価及びめっき密着性の評価>>
めっき密着性の評価は、以下の手順にて、めっき引き剥がし強度を測定することにより行った。薬液処理後の粗度の評価は、めっき密着性の評価のために評価基板を用意する途中に算術平均粗さを測定することにより行った。測定結果及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0230】
<評価基板Eの作製>
(1)積層板の下地処理
内層回路が形成されたガラス布基材エポキシ樹脂両面銅張積層板(銅箔の厚さ18μm、基板厚み0.3mm、松下電工(株)製「R5715ES」)の両面をメック(株)製「CZ8100」に浸漬することにより、銅表面の粗化処理を行った。これにより、銅表面が粗化された積層板を得た。
【0231】
(2)樹脂組成物層のラミネート
実施例及び比較例で作成した樹脂シートBから保護フィルムを剥がして、樹脂組成物層を露出させた。バッチ式真空加圧ラミネーター(名機社製「MVLP-500」)を用いて、露出させた樹脂組成物層と接合するように、保護フィルムを剥がした樹脂シートBを当該積層板の両面にラミネート処理した。ラミネート処理は、30秒間減圧して気圧を13hPa以下に調整した後、100℃、圧力0.74MPaで30秒間圧着することにより行った。
【0232】
(3)絶縁層形成
ラミネート処理された樹脂シートBから支持体を剥離した。そして、100℃で30分、その後に180℃で30分の硬化条件で樹脂組成物層を硬化した。これにより、両面に絶縁層が形成された積層板を得た。
【0233】
(4)粗化処理及び粗化処理後の絶縁層の算術平均粗さ(Ra)の測定
積層板を、アトテックジャパン社製の膨潤液「スウェリング・ディップ・セキュリガンスP」(ジエチレングリコールモノブチルエーテル含有)に、60℃で5分間浸漬した。次に、積層板をアトテックジャパン社製の粗化液「コンセントレート・コンパクトP」(KMnO:60g/L、NaOH:40g/Lの水溶液、pH:11)に、80℃で20分間浸漬した。最後に、積層板を、アトテックジャパン社製の中和液「リダクションソリューシン・セキュリガンスP」に、40℃で5分間浸漬した。このようにして積層板の両面に露出している絶縁層に対して粗化処理を施した。粗化処理を施した絶縁層について、後述するようにして、耐薬品性を評価した。
【0234】
(5)セミアディティブ工法(SAP)による導体層形成
粗化処理を施した絶縁層の表面に回路を形成するために、積層板を、PdClを含む無電解メッキ用溶液に浸漬し、次に無電解銅メッキ液に浸漬した。その後、150℃にて30分間加熱してアニール処理を行った。さらに、エッチングレジストを形成した後、エッチングによるパターン形成を行った。続いて、硫酸銅電解メッキを行い、30±5μmの厚さで導体層を形成した。次に、アニール処理を180℃にて60分間行った。このようにして評価基板Eを作製した。この評価基板Eについて、後述するようにして、めっき密着性を評価した。
【0235】
<耐薬品性の評価>
耐薬品性の評価は、上記(4)にて粗化処理を施した絶縁層の算術平均粗さ(Ra)を測定し、測定の結果得られた算術平均粗さ(Ra)の値を評価することにより行った。測定結果及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0236】
<算術平均粗さ(Ra)の測定>
非接触型表面粗さ計(ビーコインスツルメンツ社製「WYKO NT3300」)を用いて、VSIモード、50倍レンズにより測定範囲を121μm×92μmとして得られる数値から、算術平均粗さ(Ra)の値[nm]を求めた。また、10点の平均値を求めることにより測定した。
【0237】
<評価>
測定の結果得られた算術平均粗さ(Ra)の平均値を以下の基準で評価した。
「○」:算術平均粗さ(Ra)の平均値が300nm未満を満たす場合に、薬液処理後の粗度が十分に低く、耐薬品性に優れると評価した。
「×」:算術平均粗さ(Ra)の平均値が300nm以上を満たす場合に、薬液処理後の粗度が高く、耐薬品性に劣ると評価した。
【0238】
<めっき引き剥がし強度(ピール強度)の測定>
評価基板Eの導体層に、幅10mm、長さ100mmの部分の切込みをいれて、導体層の一端を剥がしてつかみ具で掴み、室温中にて、50mm/分の速度で垂直方向に35mm引き剥がした時の荷重[kgf/cm]を測定した。測定には、銅箔引き剥がし強度の測定と同様に、引っ張り試験機(ティー・エス・イー社製オートコム万能試験機「AC-50C-SL」)を使用した。測定は日本工業規格JIS C6481に準拠して行った。この測定の結果得られる荷重の値を、めっき引き剥がし強度(ピール強度)ともいう。
【0239】
<評価>
測定の結果得られためっき引き剥がし強度の値を以下の基準で評価した。
「○」:めっき引き剥がし強度の値が0.35kgf/cm以上を満たす場合に、めっき密着性に優れていると評価した。
「×」:めっき引き剥がし強度の値が上記基準を満たさない場合(0.35kgf/cm未満の場合)に、めっき密着性に劣ると評価した。
【0240】
[結果]
上述した実施例及び比較例の結果を、下記の表1及び表2に示す。下記の表1及び表2において、各成分の量は、不揮発成分換算量を表す。また、表1及び表2に示す「A/樹脂成分」は、樹脂組成物中の樹脂成分を100質量%とした場合、(A)成分の含有量を示しており、「A/B」は、(B)成分に対する(A)成分の質量比の値を示しており、「C/不揮発成分」は、樹脂組成物中の不揮発成分を100質量%とした場合、(A)成分の含有量を示している。なお、樹脂成分とは、樹脂組成物中の不揮発成分から、(C)成分及び(A’)成分を除いたすべての成分をさす。
【0241】
【表1】
【0242】
【表2】
【0243】
<検討>
表1及び表2から分かるように、実施例と比較例の対比から、実施例においては、マレイミド化合物を用いることによる優れた誘電特性が損なわれることなく、密着性及び耐薬品性に優れる硬化物を得ることができる樹脂組成物を提供できることが分かった。また、実施例に係る樹脂組成物の硬化物;当該樹脂組成物を含む樹脂シート;当該樹脂組成物の硬化物により形成された絶縁層を含むプリント配線板、及び半導体装置を提供することも可能となることが分かった。また、実施例に係る樹脂組成物の硬化物は、耐薬品性に優れることから低粗度を実現でき、かつ、誘電特性にも優れていることから、高周波帯域の電気信号であっても動作させることができる回路基板及び半導体装置の提供に適していることが分かった。
【0244】
なお、実施例1~9において、(C)成分~(E)成分を含有しない場合であっても、程度に差はあるものの、上記実施例と同様の結果に帰着することを確認している。また、実施例1~9において、(A’)成分及び(B’)成分の一方又は双方を本発明の所期の効果を阻害しない量で含有しても、程度に差はあるものの、上記実施例と同様の結果に帰着することを確認している。