(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
F02D 19/08 20060101AFI20230620BHJP
F02D 19/02 20060101ALI20230620BHJP
F02M 27/02 20060101ALI20230620BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
F02D19/08 Z
F02D19/08 B
F02D19/02 A
F02M27/02 Z
C01B3/04 B
(21)【出願番号】P 2020078186
(22)【出願日】2020-04-27
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】本間 隆行
(72)【発明者】
【氏名】竹内 秀隆
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-211155(JP,A)
【文献】特開2015-10581(JP,A)
【文献】特開2019-178623(JP,A)
【文献】特開2009-138570(JP,A)
【文献】特開2009-185624(JP,A)
【文献】特開2009-250045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 19/08
F02D 19/02
F02M 27/02
C01B 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンに供給される空気が流れる吸気通路と、
前記エンジンから発生した排気ガスが流れる排気通路と、
前記エンジンに向けてアンモニアを噴射するアンモニア噴射弁と、
前記吸気通路に配設され、前記エンジンに供給される前記空気の流量を制御する空気流量制御弁と、
前記アンモニアを貯蔵するアンモニアタンクと、
前記アンモニアを燃焼させて発生した熱を利用して前記アンモニアを水素に分解する触媒を有し、前記アンモニアを改質して前記水素を含有した改質ガスを生成する改質器と、
前記改質器に供給される前記空気が流れる空気流路と、
前記改質器に前記アンモニアを供給するアンモニア供給部と、
前記空気流路に配設され、前記改質器に供給される前記空気の流量を調整する空気流量調整部と、
前記改質器により生成された前記改質ガスが前記エンジンに向けて流れる改質ガス流路と、
前記アンモニアタンク内の前記アンモニアの残量を検知する残量検知部と、
前記アンモニア噴射弁、前記空気流量制御弁、前記アンモニア供給部及び前記空気流量調整部を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記残量検知部により検知された前記アンモニアタンク内の前記アンモニアの残量が予め決められた規定量以下であるときに、前記改質器に供給される前記空気の流量を減少させるように前記空気流量調整部を制御するエンジンシステム。
【請求項2】
前記残量検知部は、前記アンモニアタンク内の前記アンモニアの残圧を検出する圧力センサを有し、前記アンモニアの残圧から前記アンモニアの残量を検知する請求項1記載のエンジンシステム。
【請求項3】
前記改質器の温度を検出する温度検出部を更に備え、
前記制御部は、前記改質器に供給される前記空気の流量を減少させるように前記空気流量調整部を制御した後、前記温度検出部により検出された前記改質器の温度が予め決められた規定温度以下になると、前記アンモニア噴射弁及び前記空気流量制御弁を閉じるように制御すると共に、前記改質器への前記アンモニア及び前記空気の供給を停止させるように前記アンモニア供給部及び前記空気流量調整部を制御する請求項1または2記載のエンジンシステム。
【請求項4】
前記残量検知部により検知された前記アンモニアタンク内の前記アンモニアの残量が前記規定量以下であるときに、前記アンモニアの残量が空に近い状態である旨を報知する報知部を更に備える請求項1~3の何れか一項記載のエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のエンジンシステムとしては、例えば特許文献1に記載されている技術が知られている。特許文献1に記載のエンジンシステムは、機関本体と、この機関本体の燃焼室に接続された機関吸気通路及び機関排気通路と、機関吸気通路の内部に配置されたスロットル弁と、機関吸気通路に向かって気体のアンモニアを噴射するアンモニア噴射弁と、液体のアンモニアを貯留するタンクと、液体のアンモニアを加熱して気化させる蒸発器と、気体のアンモニアを触媒により分解して水素を生成する分解器と、機関吸気通路と接続され、分解器に空気を供給する空気供給管と、機関吸気通路と接続され、分解器で生成された水素を含む気体が流出する流出管と、気体のアンモニアを蒸発器からアンモニア噴射弁に供給するアンモニア供給管とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術においては、タンク内のアンモニアが空の状態になると、燃料切れによりエンジンが停止してしまう。このとき、燃料であるアンモニアの不足によって改質器の内部が酸化雰囲気に晒されやすくなるため、特に高温時に改質器の触媒の酸化劣化が進んでしまう。
【0005】
本発明の目的は、燃料切れによる改質器の触媒の酸化劣化を防止することができるエンジンシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るエンジンシステムは、エンジンと、エンジンに供給される空気が流れる吸気通路と、エンジンから発生した排気ガスが流れる排気通路と、エンジンに向けてアンモニアを噴射するアンモニア噴射弁と、吸気通路に配設され、エンジンに供給される空気の流量を制御する空気流量制御弁と、アンモニアを貯蔵するアンモニアタンクと、アンモニアを燃焼させて発生した熱を利用してアンモニアを水素に分解する触媒を有し、アンモニアを改質して水素を含有した改質ガスを生成する改質器と、改質器に供給される空気が流れる空気流路と、改質器にアンモニアを供給するアンモニア供給部と、空気流路に配設され、改質器に供給される空気の流量を調整する空気流量調整部と、改質器により生成された改質ガスがエンジンに向けて流れる改質ガス流路と、アンモニアタンク内のアンモニアの残量を検知する残量検知部と、アンモニア噴射弁、空気流量制御弁、アンモニア供給部及び空気流量調整部を制御する制御部とを備え、制御部は、残量検知部により検知されたアンモニアタンク内のアンモニアの残量が予め決められた規定量以下であるときに、改質器に供給される空気の流量を減少させるように空気流量調整部を制御する。
【0007】
このようなエンジンシステムにおいては、改質器及びエンジンにそれぞれアンモニア及び空気が供給されると、改質器によってアンモニアが改質されて水素を含有した改質ガスが生成され、エンジンに改質ガスが供給される。そして、エンジンにおいて、アンモニアが改質ガス中の水素と共に燃焼する。エンジンの燃焼動作時には、アンモニアが消費されるため、アンモニアタンク内のアンモニアの残量が徐々に少なくなる。そこで、残量検知部によってアンモニアタンク内のアンモニアの残量が検知される。このとき、アンモニアタンク内のアンモニアの残量が規定量以下であるときは、改質器に供給される空気の流量が減少するように空気流量調整部が制御される。このため、改質器の内部が酸化雰囲気に晒されにくくなる。また、改質器に供給される空気の流量が減少することで、改質器におけるアンモニアの燃焼の促進が抑えられるため、改質器の温度上昇が抑制される。以上により、燃料切れによって改質器の触媒の酸化劣化が進むことが防止される。
【0008】
残量検知部は、アンモニアタンク内のアンモニアの残圧を検出する圧力センサを有し、アンモニアの残圧からアンモニアの残量を検知してもよい。このような構成では、圧力センサを使用することにより、アンモニアタンク内のアンモニアの残量を簡単に且つ安価に検知することができる。
【0009】
エンジンシステムは、改質器の温度を検出する温度検出部を更に備え、制御部は、改質器に供給される空気の流量を減少させるように空気流量調整部を制御した後、温度検出部により検出された改質器の温度が予め決められた規定温度以下になると、アンモニア噴射弁及び空気流量制御弁を閉じるように制御すると共に、改質器へのアンモニア及び空気の供給を停止させるようにアンモニア供給部及び空気流量調整部を制御してもよい。このような構成では、改質器の温度が規定温度以下になると、改質器へのアンモニア及び空気の供給が停止するため、改質器による改質ガスの生成が停止する。また、エンジンへのアンモニア、空気及び改質ガスの供給も停止するため、エンジンが停止するようになる。
【0010】
エンジンシステムは、残量検知部により検知されたアンモニアタンク内のアンモニアの残量が規定量以下であるときに、アンモニアの残量が空に近い状態である旨を報知する報知部を更に備えてもよい。このような構成では、車両の運転者は、報知部によってアンモニアタンク内のアンモニアの残量が僅かであることを知り、手動運転により車両を安全な場所に移動させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、燃料切れによる改質器の触媒の酸化劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るエンジンシステムを示す概略構成図である。
【
図2】
図1に示されたエンジンシステムの制御系の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図2に示された制御ユニットにより実行される制御処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【
図4】アンモニアガス及び空気の供給流量と改質触媒の温度との関係を状態毎に比較して示すグラフである。
【
図5】
図1に示されたエンジンシステムの変形例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図面において、同一または同等の要素には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係るエンジンシステムを示す概略構成図である。
図1において、本実施形態のエンジンシステム1は、エンジン式の車両10に搭載されている。エンジンシステム1は、アンモニアエンジン2と、吸気通路3と、排気通路4と、複数(ここでは4つ)のメインインジェクタ5と、メインスロットルバルブ6とを備えている。
【0015】
アンモニアエンジン2は、アンモニア(NH3)を燃料として使用するエンジンである。アンモニアエンジン2は、例えば4気筒エンジンであり、4つの燃焼室2aを有している。燃焼室2aには、アンモニアと共に水素(H2)が供給される。これにより、燃焼室2aにおいてアンモニアに水素が混合されるため、アンモニアが燃焼しやすくなる。
【0016】
吸気通路3は、燃焼室2aに接続されている。吸気通路3は、燃焼室2aに供給される空気が流れる通路である。吸気通路3には、空気に含まれる塵及び埃等の異物を除去するエアクリーナ7が配設されている。
【0017】
排気通路4は、燃焼室2aに接続されている。排気通路4は、燃焼室2aから発生した排気ガスが流れる通路である。排気通路4には、排気ガスに含まれる有害物質を除去する排気浄化触媒8が配設されている。
【0018】
メインインジェクタ5は、燃焼室2aに向けてアンモニアガス(NH3ガス)を噴射する電磁式のアンモニア噴射弁である。メインインジェクタ5は、後述する気化器12とアンモニアガス流路9を介して接続されている。アンモニアガス流路9は、アンモニアガスが流れる流路である。メインインジェクタ5は、アンモニアエンジン2に取り付けられている。
【0019】
メインスロットルバルブ6は、吸気通路3におけるエアクリーナ7とアンモニアエンジン2との間に配設されている。メインスロットルバルブ6は、アンモニアエンジン2に供給される空気の流量を制御する電磁式の空気流量制御弁である。
【0020】
また、エンジンシステム1は、アンモニアタンク11と、気化器12と、改質器13と、空気流路14と、改質スロットルバルブ15と、改質インジェクタ16と、電気ヒータ17と、改質ガス流路18と、改質ガスクーラ19と、ストップバルブ20とを備えている。
【0021】
アンモニアタンク11は、アンモニアを液体状態で貯蔵するタンクである。つまり、アンモニアタンク11は、液体アンモニアを貯蔵する。気化器12は、アンモニアタンク11に貯蔵された液体アンモニアを気化させてアンモニアガスを生成する。
【0022】
改質器13は、アンモニアガスを改質して、水素を含有した改質ガスを生成する。改質器13は、例えばハニカム構造の担体13aと、この担体13aに塗布された改質触媒13bとを有している。
【0023】
改質触媒13bは、アンモニアガスを燃焼させて発生した熱を利用してアンモニアガスを水素に分解する触媒である。改質触媒13bは、アンモニアガスを水素に分解する機能に加え、アンモニアガスを燃焼させる機能も有している。改質触媒13bは、例えばATR(Autothermal Reformer)式アンモニア改質触媒である。改質触媒13bとしては、例えばコバルト系触媒、ロジウム系触媒、ルテニウム系触媒またはパラジウム系触媒等が使用される。
【0024】
空気流路14は、吸気通路3と改質器13とを接続している。具体的には、空気流路14の一端は、吸気通路3におけるエアクリーナ7とメインスロットルバルブ6との間の部分に分岐接続されている。空気流路14の他端は、改質器13に接続されている。空気流路14は、改質器13に供給される空気が流れる流路である。
【0025】
改質スロットルバルブ15は、空気流路14に配設されている。改質スロットルバルブ15は、改質器13に供給される空気の流量を調整する電磁式の空気流量調整部である。
【0026】
改質インジェクタ16は、気化器12とアンモニアガス流路21を介して接続されている。アンモニアガス流路21は、気化器12により生成されたアンモニアガスが流れる流路である。改質インジェクタ16は、改質器13に向けてアンモニアガスを噴射する電磁式の燃料噴射弁である。具体的には、改質インジェクタ16は、空気流路14における改質スロットルバルブ15と改質器13との間にアンモニアガスを噴射する。従って、空気流路14における改質スロットルバルブ15と改質器13との間の部分には、空気及びアンモニアガスが流れることとなる。改質インジェクタ16は、改質器13にアンモニアガスを供給するアンモニア供給部を構成している。
【0027】
アンモニアガス流路21には、減圧弁23が配設されている。減圧弁23は、アンモニアエンジン2及び改質器13に供給されるアンモニアガスを減圧して、アンモニアガスの圧力を所定圧に保持する。
【0028】
電気ヒータ17は、改質器13に供給されるアンモニアガスを加熱することにより、改質器13を昇温させる。電気ヒータ17は、空気流路14に配設された発熱体24と、この発熱体24を通電するヒータ電源25とを有している。発熱体24は、例えばハニカム構造を呈している。電気ヒータ17により加熱されたアンモニアガスの熱が改質器13に伝達されることで、改質器13が昇温する。なお、電気ヒータ17は、改質器13を直接加熱することにより、改質器13を昇温させてもよい。
【0029】
改質ガス流路18は、改質器13と吸気通路3とを接続している。具体的には、改質ガス流路18の一端は、改質器13に接続されている。改質ガス流路18の他端は、吸気通路3におけるメインスロットルバルブ6とアンモニアエンジン2との間の部分に分岐接続されている。改質ガス流路18は、改質器13により生成された改質ガスがアンモニアエンジン2に向けて流れる流路である。
【0030】
改質ガスクーラ19は、改質ガス流路18に配設されている。改質ガスクーラ19は、アンモニアエンジン2に供給される改質ガスを冷却する。これにより、メインスロットルバルブ6等の吸気系部品が熱により損傷することが防止される。また、改質ガスの体積膨張が抑制されるため、空気がアンモニアエンジン2の燃焼室2aに十分に吸入されやすくなる。
【0031】
ストップバルブ20は、改質ガス流路18における改質ガスクーラ19と吸気通路3との間に配設されている。ストップバルブ20は、改質ガス流路18を開閉する電磁式の開閉弁である。
【0032】
また、エンジンシステム1は、圧力センサ27と、温度センサ28と、表示器29と、制御ユニット30とを備えている。
【0033】
圧力センサ27は、アンモニアタンク11内の圧力を検出するセンサである。具体的には、圧力センサ27は、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残圧を検出する。
【0034】
温度センサ28は、改質器13の温度を検出する温度検出部である。温度センサ28は、例えば改質器13の改質触媒13bの温度を検出する。
【0035】
表示器29は、エンジンシステム1の各部の状態を表示する。表示器29は、例えばエンジンシステム1の各部の状態を音声と共に画面表示する。
【0036】
制御ユニット30は、CPU、RAM、ROM及び入出力インターフェース等により構成されている。制御ユニット30は、圧力センサ27及び温度センサ28の検出値等に基づいて、メインインジェクタ5、メインスロットルバルブ6、改質スロットルバルブ15、改質インジェクタ16、ストップバルブ20、ヒータ電源25及び表示器29を制御する。
【0037】
制御ユニット30は、
図2に示されるように、残量判定部31と、表示制御部32と、バルブ制御部33とを有している。
【0038】
残量判定部31は、圧力センサ27の検出値に基づいて、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が規定量以下であるかどうかを判定することにより、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が空に近い状態、つまり燃料切れに近い状態であるかどうかを判定する。残量判定部31は、圧力センサ27と協働して、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量を検知する残量検知部を構成している。
【0039】
表示制御部32は、残量判定部31によりアンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が空に近い状態であると判定されたときに、液体アンモニアの残量が空に近い状態である旨を報知させるように表示器29を制御する。表示制御部32は、表示器29と協働して、残量判定部31により検知されたアンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が規定量以下であるときに、液体アンモニアの残量が空に近い状態である旨を報知する報知部を構成している。
【0040】
バルブ制御部33は、メインインジェクタ5、メインスロットルバルブ6、改質スロットルバルブ15、改質インジェクタ16及びストップバルブ20を制御する制御部を構成している。
【0041】
バルブ制御部33は、残量判定部31により検知されたアンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が規定量以下であるときに、改質器13に供給される空気の流量を減少させるように改質スロットルバルブ15を制御し、その後温度センサ28により検出された改質器13の温度が規定温度以下になると、メインインジェクタ5、改質インジェクタ16、メインスロットルバルブ6及び改質スロットルバルブ15を閉じるように制御する。改質インジェクタ16を閉じると、改質器13へのアンモニアガスの供給が停止する。改質スロットルバルブ15を閉じると、改質器13への空気の供給が停止する。
【0042】
図3は、制御ユニット30により実行される制御処理手順の詳細を示すフローチャートである。本処理は、アンモニアエンジン2においてアンモニアガスが改質ガス中の水素と共に燃焼する定常運転時に実行される。なお、定常運転時には、メインインジェクタ5、メインスロットルバルブ6、改質スロットルバルブ15、改質インジェクタ16及びストップバルブ20は、開状態となっている。
【0043】
図3において、制御ユニット30は、まず圧力センサ27の検出値を取得する(手順S101)。続いて、制御ユニット30は、圧力センサ27の検出値に基づいて、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が予め決められた規定量以下であるかどうかを判定する(手順S102)。
【0044】
アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が少なくなると、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残圧が低下する。このため、アンモニアタンク11内における液体アンモニアの残量と液体アンモニアの残圧との関係を予め実験等により求め、マップデータとしてメモリに記憶しておく。
【0045】
そして、制御ユニット30は、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残圧が予め決められた規定圧以下であるかどうかを判断し、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残圧が規定圧以下であると判断したときに、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が規定量以下であると判定する。制御ユニット30は、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が規定量以下でないと判断したときは、手順S101を再度実行する。
【0046】
制御ユニット30は、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が規定量以下であると判断したときは、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が空に近い状態である旨を表示器29に表示させるように表示器29を制御する(手順S103)。このとき、表示器29は、液体アンモニアの残量が空に近い状態であることがすぐに分かる画面表示に加えて、例えば「自動クールダウン→停止します」といった案内表示を行ってもよい。
【0047】
そして、制御ユニット30は、改質スロットルバルブ15の開度が小さくなるように改質スロットルバルブ15を制御する(手順S104)。これにより、改質器13に供給される空気の流量が減少する。このとき、空気の供給流量は、改質器13の温度が改質触媒13bの酸化劣化が発生する酸化劣化温度域の下限温度T
L(
図4参照)よりも低くなるように設定される。また、空気の供給流量は、例えばアンモニアガスの供給流量よりも少なくなるように設定される(
図4参照)。
【0048】
続いて、制御ユニット30は、温度センサ28の検出値を取得する(手順S105)。そして、制御ユニット30は、温度センサ28の検出値に基づいて、改質器13の温度が予め決められた規定温度以下であるかどうかを判断する(手順S106)。規定温度は、例えば酸化劣化温度域よりも低い温度である。制御ユニット30は、改質器13の温度が規定温度以下でないと判断したときは、手順S105を再度実行する。
【0049】
制御ユニット30は、改質器13の温度が規定温度以下であると判断したときは、メインインジェクタ5及び改質インジェクタ16を閉じるように制御する(手順S107)。これにより、アンモニアエンジン2及び改質器13へのアンモニアガスの供給が停止する。
【0050】
続いて、制御ユニット30は、改質スロットルバルブ15及びストップバルブ20を閉じるように制御する(手順S108)。これにより、改質器13への空気の供給が停止する。続いて、制御ユニット30は、メインスロットルバルブ6を閉じるように制御する(手順S109)。これにより、アンモニアエンジン2への空気の供給が停止する。手順S108,S109は、例えば手順S107の直後に実行される。なお、手順S107~S109は、同時に実行されてもよい。
【0051】
ここで、残量判定部31は、手順S101,S102を実行する。表示制御部32は、手順S103を実行する。バルブ制御部33は、手順S104~S109を実行する。
【0052】
以上において、エンジンシステム1が起動されると、電気ヒータ17の発熱体24が発熱する。そして、改質インジェクタ16が開弁することで、改質インジェクタ16からアンモニアガスが噴射し、改質器13にアンモニアガスが供給される。このとき、発熱体24の熱によってアンモニアガスが加熱され、暖められたアンモニアガスの熱が改質器13に伝達されるため、改質器13が昇温する。そして、改質スロットルバルブ15が開弁することで、改質器13に空気が供給される。このとき、アンモニアガスの供給流量は、空気の供給流量よりも多い(
図4参照)。
【0053】
次いで、メインスロットルバルブ6及びメインインジェクタ5が開弁することで、アンモニアエンジン2の燃焼室2aに空気が供給されると共に、メインインジェクタ5からアンモニアガスが噴射し、アンモニアエンジン2の燃焼室2aにアンモニアガスが供給される。
【0054】
改質器13の温度が燃焼可能温度に達すると、改質器13の改質触媒13bによってアンモニアガスが燃焼し、その燃焼熱によって改質器13が更に昇温する。具体的には、下記式のように、一部のアンモニアと空気中の酸素とが化学反応(酸化反応)することで、アンモニアの燃焼反応が起こる。
NH3+3/4O2→1/2N2+3/2H2O+Q
【0055】
そして、改質器13の温度が改質可能温度に達すると、改質器13の改質触媒13bによってアンモニアガスの改質が開始され、水素を含有した改質ガスが生成される。具体的には、下記式のように、アンモニアの燃焼熱によってアンモニアが水素と窒素とに分解される改質反応が起こり、水素及び窒素を含む改質ガスが生成される。
NH3→3/2H2+1/2N2-Q
【0056】
改質ガスは、改質ガス流路18を流れてアンモニアエンジン2の燃焼室2aに供給される。これにより、燃焼室2aにおいてアンモニアガスが改質ガス中の水素と共に燃焼するようになる。以上により、エンジンシステム1は、改質器13の暖気が完了した後の定常運転となる。
【0057】
そのような定常運転時には、アンモニアガスが消費されるため、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が徐々に少なくなる。そして、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が空に近い状態になると、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が空に近い状態である旨が表示器29に画面表示される。すると、車両10の運転者は、表示器29の画面表示を見て、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が空に近い状態であることを知り、手動運転により車両10を安全な場所へ移動させることができる。
【0058】
また、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が空に近い状態になると、改質器13に供給される空気の流量が減少する。このため、後述するように、改質器13の改質触媒13bの温度上昇が抑えられる。ただし、改質器13には空気が供給され続けるため、改質器13による改質動作が継続される。
【0059】
その後、改質器13の温度が規定温度以下になると、メインインジェクタ5及び改質インジェクタ16が閉弁することで、アンモニアエンジン2及び改質器13へのアンモニアガスの供給が停止すると共に、メインスロットルバルブ6及び改質スロットルバルブ15が閉弁することで、アンモニアエンジン2及び改質器13への空気の供給が停止する。これにより、アンモニアエンジン2が惰性で数回転してから完全に停止する。
【0060】
ここで、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が足りている状態にある正常時には、
図4(a)に示されるように、改質器13に供給されるアンモニアガス及び空気の流量は一定である。なお、
図4において、実線Pが改質器13に供給されるアンモニアガスの流量を示し、破線Qが改質器13に供給される空気の流量を示している。このとき、発熱反応であるアンモニアの燃焼反応と吸熱反応であるアンモニアの改質反応とが平衡状態となっている。このため、改質触媒13bの温度(
図4中の実線R参照)は、酸化劣化温度域の下限温度T
L(前述)よりも低い温度で一定となる。
【0061】
アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が空に近い状態となる異常時には、
図4(b)に示されるように、改質器13に供給されるアンモニアガスの流量が減少する。従って、アンモニアの改質反応が抑制されるため、発熱反応と吸熱反応との熱バランスが崩れ、発熱反応が吸熱反応に比べて促進される。その結果、改質触媒13bの温度が上昇する。
【0062】
このとき、改質器13に供給されるアンモニアガスの流量が改質器13に供給される空気の流量よりも少なくなると、改質器13の内部が酸素雰囲気に晒されやすくなる。このため、改質触媒13bの温度が酸化劣化温度域に達すると、改質触媒13bの酸化劣化が進んでしまう。
【0063】
そのような不具合に対し、
図4(c)に示されるように、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が空に近い状態となったときに、改質器13に供給される空気の流量を減少させると、改質器13の内部が酸素雰囲気に晒されにくくなる。また、改質器13に供給される空気の流量を減少させることにより、改質触媒13bの燃焼反応の促進が抑えられる。従って、発熱反応と吸熱反応との熱バランスが均等になり、改質触媒13bの温度上昇が抑えられるため、改質触媒13bの温度が酸化劣化温度域に達することが防止される。従って、改質器13の内部が僅かに酸素雰囲気に晒されても、改質触媒13bの酸化劣化の進行が抑制される。
【0064】
以上のように本実施形態にあっては、改質器13及びアンモニアエンジン2にそれぞれアンモニアガス及び空気が供給されると、改質器13によってアンモニアガスが改質されて水素を含有した改質ガスが生成され、アンモニアエンジン2に改質ガスが供給される。そして、アンモニアエンジン2において、アンモニアガスが改質ガス中の水素と共に燃焼する。アンモニアエンジン2の燃焼動作時には、アンモニアガスが消費されるため、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が徐々に少なくなる。そこで、圧力センサ27及び残量判定部31によって、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が検知される。このとき、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が規定量以下であるときは、改質器13に供給される空気の流量が減少するように改質スロットルバルブ15が制御される。このため、改質器13の内部が酸化雰囲気に晒されにくくなる。また、改質器13に供給される空気の流量が減少することで、改質器13におけるアンモニアガスの燃焼の促進が抑えられるため、改質器13の温度上昇が抑制される。以上により、燃料切れによって改質器13の改質触媒13bの酸化劣化が進むことが防止される。
【0065】
また、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が規定量以下であると検知されても、改質器13による改質ガスの生成が規定時間継続されるように改質スロットルバルブ15及び改質インジェクタ16が制御される。従って、アンモニアエンジン2への改質ガスの供給が継続されるため、アンモニアエンジン2の燃焼動作が継続される。このため、アンモニアエンジン2が停止するまでの間に車両10を安全な場所に移動させることが可能となる。これにより、燃料切れになりそうな状況でも、安全な場所でアンモニアエンジン2を停止させることができる。
【0066】
また、本実施形態では、圧力センサ27により検出されたアンモニアタンク11内の液体アンモニアの残圧から、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が検知される。このように圧力センサ27を使用することにより、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量を簡単に且つ安価に検知することができる。
【0067】
また、本実施形態では、改質器13の温度が規定温度以下になると、改質器13へのアンモニアガス及び空気の供給が停止するため、改質器13による改質ガスの生成が停止する。また、アンモニアエンジン2へのアンモニアガス、空気及び改質ガスの供給も停止するため、アンモニアエンジン2が停止するようになる。
【0068】
また、本実施形態では、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が規定量以下であるときは、液体アンモニアの残量が空に近い状態である旨が報知される。従って、車両10の運転者は、表示器29によってアンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量が僅かであることを知り、手動運転により車両10を安全な場所に確実に移動させることができる。
【0069】
図5は、
図1に示されたエンジンシステム1の変形例を示す概略構成図である。
図5において、本変形例のエンジンシステム1は、上記の実施形態における構成に加え、流量計35を備えている。流量計35は、アンモニアガス流路21を流れるアンモニアガスの流量を計測する。流量計35は、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量を検知する残量検知部の一部を構成する。
【0070】
このような流量計35を使用することにより、アンモニアタンク11内の液体アンモニアの残量を精度良く検知することができる。また、アンモニアガス流路21、気化器12及び減圧弁23といったアンモニアガスの供給系の異常を検知することもできる。
【0071】
なお、本発明は、上記実施形態には限定されない。例えば上記実施形態では、温度センサ28により改質器13の温度が直接検出されているが、特にその形態には限られず、改質器13の出口から出力された改質ガスの温度を温度センサ28で計測し、その計測値から改質器13の温度を推定することで、改質器13の温度を検出してもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、改質器13の温度が規定温度以下になったときに、アンモニアエンジン2が停止するようにメインインジェクタ5、改質インジェクタ16、メインスロットルバルブ6、改質スロットルバルブ15及びストップバルブ20が閉制御されているが、特にそのような形態には限られない。例えば、アンモニアガスの流量、空気の流量、時間及び室温等から改質器13の温度を推定することも可能であるため、改質スロットルバルブ15の開度を小さくするように変更してからの経過時間に基づいて、アンモニアエンジン2が停止するようにメインインジェクタ5、改質インジェクタ16、メインスロットルバルブ6、改質スロットルバルブ15及びストップバルブ20を閉制御してもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、改質器13は、アンモニアガスを燃焼させる機能とアンモニアガスを水素に分解する機能とを併せ持った改質触媒13bを有しているが、特にそのような形態には限られない。改質器13は、アンモニアガスを燃焼させる燃焼触媒と、アンモニアガスを水素に分解する改質触媒とを有していてもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、アンモニアエンジン2の各燃焼室2aにアンモニアガスを噴射する複数のメインインジェクタ5がアンモニアエンジン2に取り付けられているが、メインインジェクタ5の数としては、1つであってもよい。この場合には、メインインジェクタ5は、吸気通路3にアンモニアガスを噴射するように配置されていてもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、改質器13に供給される空気が流れる空気流路14が吸気通路3に分岐接続されているが、特にその形態には限られず、アンモニアエンジン2と接続された吸気通路3とは異なる経路から空気流路14に空気が供給されてもよい。この場合には、吸気通路3の脈動の影響を受けることを防止できる。
【0076】
また、上記実施形態では、アンモニアガス流路21に、改質器13に向けてアンモニアガスを噴射する改質インジェクタ16が接続されているが、特にその形態には限られず、例えば改質インジェクタ16に代えて、流量調整弁を用いてもよい。この場合には、アンモニアガス流路21を空気流路14に接続すると共に、アンモニアガス流路21に流量調整弁を配設する。流量調整弁を用いることにより、アンモニアガスを改質器13に連続供給することができる。この場合、流量調整弁は、アンモニア供給部を構成する。
【0077】
また、上記実施形態では、吸気通路3にメインスロットルバルブ6が配設され、空気流路14に改質スロットルバルブ15が配設されているが、特にそのようなスロットルバルブには限られず、例えばマスフローコントローラを使用してもよい。この場合、空気流路14に配設されたマスフローコントローラは、空気流量調整部を構成する。また、空気流量調整部は、圧縮機やポンプ等であってもよい。
【0078】
また、上記実施形態では、アンモニアエンジン2及び改質器13に供給される燃料として、気体のアンモニアガスが使用されているが、特にそれには限られず、液体のアンモニアを使用してもよい。この場合には、気化器12が不要となる。
【0079】
また、上記実施形態のエンジンシステム1は、エンジン式の車両10に搭載されているが、本発明は、例えばハイリッド式の車両にも適用可能である。また、本発明は、特に車両には限られず、例えば定置式の発電機等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0080】
1…エンジンシステム、2…アンモニアエンジン(エンジン)、3…吸気通路、4…排気通路、5…メインインジェクタ(アンモニア噴射弁)、6…メインスロットルバルブ(空気流量制御弁)、13…改質器、13b…改質触媒(触媒)、14…空気流路、15…改質スロットルバルブ(空気流量調整部)、16…改質インジェクタ(アンモニア供給部)、18…改質ガス流路、27…圧力センサ(残量検知部)、28…温度センサ(温度検出部)、29…表示器(報知部)、31…残量判定部(残量検知部)、32…表示制御部(報知部)、33…バルブ制御部(制御部)、35…流量計(残量検知部)。