(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】ワイヤーハーネスの固定構造
(51)【国際特許分類】
H01B 7/40 20060101AFI20230620BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20230620BHJP
H02G 3/30 20060101ALI20230620BHJP
H02G 3/04 20060101ALI20230620BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
H01B7/40 307Z
H01B7/00 301
H02G3/30
H02G3/04
B60R16/02 620Z
(21)【出願番号】P 2020547923
(86)(22)【出願日】2019-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2019011094
(87)【国際公開番号】W WO2020066071
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2018184719
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100117662
【氏名又は名称】竹下 明男
(74)【代理人】
【識別番号】100103229
【氏名又は名称】福市 朋弘
(72)【発明者】
【氏名】バリラロ ソフィア
(72)【発明者】
【氏名】丹治 亮
(72)【発明者】
【氏名】野村 康
(72)【発明者】
【氏名】平井 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】東小薗 誠
(72)【発明者】
【氏名】水野 芳正
(72)【発明者】
【氏名】後藤 幸一郎
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-234638(JP,A)
【文献】国際公開第2007/032391(WO,A1)
【文献】特開2018-107250(JP,A)
【文献】実開昭57-143835(JP,U)
【文献】特開2002-249004(JP,A)
【文献】特開昭50-032622(JP,A)
【文献】特開2011-065862(JP,A)
【文献】特開昭64-031309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/40
H01B 7/00
H02G 3/30
H02G 3/04
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状の導体及び当該導体を被覆する絶縁層を有する電線と、車体の一部である金属部材と、前記電線を前記金属部材に固定するための放熱部とを備え、
前記金属部材の面上において前記電線が波形状に曲がっており、
前記放熱部はホットメルト接着剤又は粘着剤であり、
前記放熱部は、前記電線の軸方向に沿って非連続に設けられた帯体を含み、
波形状に配置される前記電線のうち直線状の部分に、非連続の前記帯体が部分的に設けられる、ワイヤーハーネスの固定構造。
【請求項2】
前記放熱部は、ホットメルト接着剤を含む、請求項
1に記載のワイヤーハーネスの固定構造。
【請求項3】
前記ホットメルト接着剤は、ポリエステル系の接着剤である、請求項
2に記載のワイヤーハーネスの固定構造。
【請求項4】
前記ホットメルト接着剤は、熱伝導性フィラーを含有している、請求項
2又は請求項
3に記載のワイヤーハーネスの固定構造。
【請求項5】
前記放熱部は、粘着剤を含む、請求項
1に記載のワイヤーハーネスの固定構造。
【請求項6】
前記粘着剤は、熱伝導性フィラーを含有している、請求項
5に記載のワイヤーハーネスの固定構造。
【請求項7】
前記熱伝導性フィラーはアルミナ又は窒化ホウ素である、請求項4又は請求項6に記載のワイヤーハーネスの固定構造。
【請求項8】
前記導体は、電線の許容電流に基づいてJASO D609に規定された式を用いて推定される当該電線の導体の断面積よりも小さい断面積を有する、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のワイヤーハーネスの固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワイヤーハーネスに関する。
本出願は、2018年9月28日出願の日本出願第2018-184719号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
最近の車の傾向は、次世代の車が楽しく且つ魅力的であるとともに高水準の安全性及び快適性の要求に応えなければならないことを示している。しかし、技術の観点から高効率の車を造ることは、主として電気デバイス及びワイヤーハーネスが占めるスペースが増大することに起因して、車両内部のより快適な空間について考えることの妨げとなっている。
【0003】
ワイヤーハーネスは、通常、周囲環境及び振動による影響を低減させるために、テーピング又は保護材(保護シート)によって全ての電線ができるだけコンパクトな形状にまとめられている(例えば、特許文献1参照)。かかるワイヤーハーネスは、例えばクリップ部材又はバンドクリップ部材により車体の被取付部に固定される(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-072798号公報
【文献】特開2016-34230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車体への配置又は取付けに際し、ワイヤーハーネスはできるだけ小さなスペースを占めるように設計されるが、その長さと形状のために、依然としてかさばっており、また、前記クリップ部材等を介して車体の被取付部に固定されることから、省スペース化には限界があった。また、通電による電線の温度上昇を一定の範囲内に収めることを考慮すると、現状の電線のサイズ(断面積)を小さくすることは難しい。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、省スペース化を図ることができるワイヤーハーネスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るワイヤーハーネスは、線状の導体及び当該導体を被覆する絶縁層を有する電線と、前記電線を金属部材に固定するための放熱部とを備えている。
【発明の効果】
【0008】
上記発明によれば、省スペース化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のワイヤーハーネスの一実施形態の断面説明図である。
【
図2】本発明のワイヤーハーネスの他の実施形態の断面説明図である。
【
図3】本発明のワイヤーハーネスの配置例を示す平面説明図である。
【
図4】本発明のワイヤーハーネスの配置例を示す平面説明図である。
【
図5】本発明のワイヤーハーネスの更に他の実施形態の断面説明図である。
【
図6】本発明のワイヤーハーネスの他の実施形態の断面説明図である。
【
図7】本発明のワイヤーハーネスの更に他の実施形態の断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔本発明の実施形態の説明〕
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
本発明の一態様に係るワイヤーハーネスは、
(1)線状の導体及び当該導体を被覆する絶縁層を有する電線と、前記電線を金属部材に固定するための放熱部とを備えている。
【0011】
本態様に係るワイヤーハーネスは、絶縁層に被覆された導体からなる電線が、放熱部により金属部材に固定されている。これにより、導体を電流が流れることで発生する熱は、放熱部を通って車体の一部であるドアトリム、補強バー、屋根材等の金属部材に伝達される。換言すれば、電線と車体の金属部材とを放熱部を介して接触させることで、通電により発生する熱を金属部材中に分散させることができる。その結果、通電による電線の温度上昇を一定の範囲内に収める観点から規定される導体の断面積を従来のものに比べて小さくすることができる。また、従来のグリップ部材等の補助具を用いることなく、電線を放熱部を介して車体の一部である金属部材に固定する構成であるので、ワイヤーハーネスの車体内部における占有スペースを小さくすることができる。
【0012】
(2)上記(1)のワイヤーハーネスにおいて、前記放熱部は、前記電線の軸方向に沿って連続又は非連続に設けられた帯体を含むものとすることができる。放熱部が、電線の軸方向に沿って連続に設けられる帯体を含む場合、導体に通電することで発生する熱を効率よく金属部材に分散させることができる。また、放熱部が、電線の軸方向に沿って非連続に設けられる帯体を含む場合、電線の一部を、放熱部を介して金属部材に固定されていない非拘束部分とすることで、電線と金属部材との熱膨張の差によって電線に繰り返し応力が作用して当該電線が損傷することを抑制することができる。
【0013】
(3)上記(1)又は(2)のワイヤーハーネスにおいて、前記放熱部を、ホットメルト接着剤を含むものとすることができる。この場合、ホットメルト接着剤により簡単に電線を車体の金属部材に固定することができる。
【0014】
(4)上記(3)のワイヤーハーネスにおいて、前記ホットメルト接着剤を、ポリエステル系の接着剤とすることができる。この場合、ポリエステル系の接着剤により簡単に電線を車体の金属部材に固定することができる。
【0015】
(5)上記(3)又は(4)のワイヤーハーネスにおいて、前記ホットメルト接着剤は、熱伝導性フィラーを含有していることが望ましい。この場合、熱伝導性フィラーを含有したホットメルト接着剤により電線を車体の金属部材に固定することで、通電により発生する熱を金属部材に効率よく分散させることができる。
【0016】
(6)上記(1)のワイヤーハーネスにおいて、前記放熱部を、リベットとすることができる。この場合、電線に通電することで発生する熱を金属製のリベットを介して車体の金属部材に分散させることができる。
【0017】
(7)上記(1)又は(2)のワイヤーハーネスにおいて、前記放熱部を、超音波溶着部とすることができる。この場合、電線を金属部材に超音波溶着することで当該電線を金属部材に固定することができる。
【0018】
(8)上記(1)又は(2)のワイヤーハーネスにおいて、前記放熱部は、粘着剤を含むものとすることができる。この場合、粘着剤により簡単に電線を車体の金属部材に固定することができる。
【0019】
(9)上記(8)のワイヤーハーネスにおいて、前記粘着剤は、熱伝導性フィラーを含有していることが望ましい。この場合、熱伝導性フィラーを含有した粘着剤により電線を車体の金属部材に固定することで、通電により発生する熱を金属部材に効率よく分散させることができる。
【0020】
(10)上記(1)~(9)のワイヤーハーネスにおいて、前記導体は、電線の許容電流に基づいてJASO D609に規定された式を用いて推定される当該電線の導体の断面積よりも小さい断面積を有するものとすることができる。この場合、導体の断面積を小さくすることで当該導体を含むワイヤーハーネスの占有スペースを従来のものよりも小さくすることができる。
【0021】
〔本発明の実施形態の詳細〕
以下、本発明のワイヤーハーネスを詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係るワイヤーハーネス1の断面説明図である。ワイヤーハーネス1は、電線2と、放熱部としてのホットメルト接着剤層3とを備えている。電線2は、横断面が円形の線状の導体4及び当該導体4を被覆する絶縁層5を有している。
【0023】
導体4は、銅、鉄、アルミニウム等の金属で作製され、通信用又は電力供給用として用いられる。絶縁層5は、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂、合成ゴム等で作製することができる。
【0024】
ホットメルト接着剤層3は、ワイヤーハーネス1が配置又は固定される、車体の一部であるドアトリム、補強バー、屋根材等の金属部材6の表面上に直接設けられている。換言すれば、ホットメルト接着剤層3は金属部材6の表面と直接に接触している。ホットメルト接着剤層3を構成するホットメルト接着剤としては、例えばポリエステル系の接着剤、オレフィン系の接着剤を用いることができる。このうち、絶縁層中の可塑剤による劣化を抑えるという点からは、ホットメルト接着剤として、ポリエステル系の接着剤を用いることが望ましい。電線2は、金属部材6の表面に設けられたホットメルト接着剤層3によって金属部材6に固定されている。
【0025】
電線2は、金属部材6上に直接設けられたホットメルト接着剤層3により当該金属部材6に固定されているので、導体4を電流が流れることで発生する熱は、ホットメルト接着剤層3を通って金属部材6に伝達される。換言すれば、通電によって導体4に発生する熱をホットメルト接着剤層3を介して金属部材6中に分散させることができる。その結果、通電による温度上昇を一定の範囲内に収める観点から規定される導体4の断面積を従来のものに比べて小さくすることができる。すなわち、電線2を従来のものよりも細くして、ワイヤーハーネス1が占めるスペースを小さくすることができる。
【0026】
電線2の導体4の許容電流は、JASO D609に規定された以下の式(1)を用いて算出することができる。
I2r=(T1-T2)/R ・・・・・・(1)
式(1)において、Iは許容電流、rは導体抵抗、T1は導体温度限界点、T2は周囲温度、Rは熱抵抗である。また、R=R1+R2であり、R1は絶縁体の熱抵抗、R2は表面熱抵抗であり、それぞれ以下の式(2)~(3)で算出することができる。
R1=(P1/2π)ln(d2/d1) ・・・・・・(2)
R2=10P2/πd2 ・・・・・・(3)
式(2)において、P1は絶縁体の固有熱抵抗であり、例えばポリ塩化ビニルの場合、P1=600℃/W/cm3である。また、d1は導体の外径であり、d2は絶縁体の外径である。
また、式(3)において、P2は電線の固有表面熱抵抗であり、d2≦12.5mmでは、P2=300+32d2,d2>12.5mmでは、P2=700である。
【0027】
周囲温度T2を例えば40℃とし、絶縁層の厚さ{(d2-d1)/2}、導体に流れる電流値及び当該導体が耐えうる温度である導体温度限界点を適宜設定すれば、r、P1、P2は導体の材料等により定まる定数であるので、そのときに必要な導体の外径d1を推定することができる。本実施形態に係るワイヤーハーネス1では、車体の金属部材6に直接接触して設けられる放熱部としてのホットメルト接着剤層3により電線2が当該金属部材6に固定されているので、通電時に電線2で発生する熱を金属部材6に分散させることができる。換言すれば、電流値が同じ場合に、導体2の外径を従来のものよりも小さくしても導体温度限界点以下とすることができる。
【0028】
放熱部としてのホットメルト接着剤層3は、電線2に沿って帯状に設けられているが、その幅wは、絶縁層5の外径Dに対して、例えば1D~10D、好ましくは1D~3Dとすることができる。
【0029】
ホットメルト接着剤層3を構成するホットメルト接着剤には、熱伝導性を向上させるために、例えばアルミナや窒化ホウ素等の熱伝導性のフィラーを含有させることが望ましい。これにより、通電により電線が発生する熱を効率よく金属部材6に伝達し、当該金属部材6中に分散させることができる。
【0030】
なお、ホットメルト接着剤に代えて、ブチルテープやアクリルフォーム等の粘着剤を用いることもできる。この場合、粘着剤を含む粘着剤層が電線2を金属部材6に固定する放熱部として機能する。また、粘着剤は、ホットメルト接着剤の場合と同様に、当該粘着剤に前述した熱伝導性のフィラーを含有させることが望ましい。また、ホットメルト接着剤に代えて、UV硬化接着剤を用いることもできる。
【0031】
図2は、本発明の他の実施形態に係るワイヤーハーネス11の断面説明図である。本実施形態に係るワイヤーハーネス11が、
図1に示されるワイヤーハーネス1と異なる点は、
図1に示されるワイヤーハーネス1では放熱部としてホットメルト接着剤層3が用いられているのに対し、本実施形態では、放熱部として電線12に超音波を適用して得られる超音波溶着部13が用いられていることである。すなわち、本実施形態では、ホットメルト接着剤層3という電線2とは別の部材を用いて当該電線2を金属部材6に固定するのではなく、電線12を構成する絶縁層15に超音波を適用して当該絶縁層15の一部を溶融し、この溶融した部分を金属部材16に付着させて超音波溶着部13としている。なお、
図2において、符号14は絶縁層15により被覆された横断面が円形の線状の導体である。
【0032】
金属部材16上に当該金属部材16と接触して配置された電線12に、超音波溶着機(図示せず)により超音波振動(例えば、20khzより大きい周波数の振動)を与えつつ当該電線12を加圧すると、金属部材16と接触している電線12の部分が溶融し、この溶融した部分が電線12と金属部材16とを溶着する。超音波溶着により、金属部材16と絶縁層15という互いに異なる材料間での接合を実現することができる。
【0033】
図2に示される実施形態においても、電線12は、金属部材16上に直接設けられた超音波溶着部13により当該金属部材16に固定されているので、導体14を電流が流れることで発生する熱は、超音波溶着部13を通って金属部材16に伝達される。換言すれば、通電によって導体14に発生する熱を金属部材16中に分散させることができる。
【0034】
図3~4は前述した実施形態に係るワイヤーハーネス1,11の配置例を示しており、ワイヤーハーネス1,11を構成する電線2,12の軸心に直交する方向であって当該ワイヤーハーネス1,11が固定される金属部材6,16の面と直交する方向から見た平面説明図である。
【0035】
図3に示される例では、放熱部としてのホットメルト接着剤層3又は超音波溶着部13は電線2,12の軸方向に沿って連続して設けられた帯体を含んでいる。放熱部を、電線2,12の軸方向に沿って連続して帯状に設けた場合、導体4,14に通電することで発生する熱を効率よく金属部材6,16に分散させることができる。
【0036】
一方、
図4に示される例では、放熱部としてのホットメルト接着剤層3又は超音波溶着部13は電線2,12の軸方向に沿って非連続に設けられた帯体を含んでいる。より詳細には、波形状に配置される電線2,12の直線状の部分だけに細長い帯状の放熱部が設けられている。放熱部を、電線2,12の軸方向に沿って非連続に設け、当該電線2,12の一部(
図4の例では、電線2,12の曲線状の部分)を、放熱部を介して金属部材6,16に固定されていない非拘束部分とすることで、電線2,12と金属部材6,16との熱膨張の差によって電線2,12に繰り返し応力が作用して当該電線2,12が損傷することを抑制することができる。
図4に示される例では、隣接する放熱部間を曲線状の部分とすることで電線2,12に変形の余裕度を与えているので、上記熱膨張の差に起因する電線2,12の損傷をさらに抑制することができる。したがって、設計上、例えばL字状に曲げて電線を配置する場合、この曲がる角部の前後を放熱部を設けない非拘束の部分とすることで、上記熱膨張の差に起因する電線の損傷を抑制することができる。
【0037】
図5は、本発明の更に他の実施形態に係るワイヤーハーネス21の断面説明図である。ワイヤーハーネス21は、電線22と、放熱部としてのリベット23とを備えている。電線22は、横断面が円形の線状の導体24及び当該導体24を被覆する絶縁層25を有している。
【0038】
本実施形態に係るワイヤーハーネス21は、
図1~4に示されるワイヤーハーネス1,11と異なり、ホットメルト接着剤層3又は超音波溶着部13により接着や溶着で金属部材6,16に固定されるのではなく、リベット23によって機械的に金属部材26に固定されている。リベット23としては、金属部材26の片側から電線22を当該金属部材26に固定することができるブラインドリベット等を用いることができる。ブラインドリベットでは、予め金属部材26に孔を形成しておく必要があるが、通常のリベットやセルフピアスリベット等の類似の技術に比べて広範な厚さの部材を接合することができる。使用されるリベットの種類は、金属部材及び後述する絶縁層の延長部の特性や厚さに応じて選定することができる。
【0039】
なお、リベット23による固定法を採用する場合、導体24を被覆する絶縁層25は、当該導体24の周囲に設けられる部分以外に、リベット23と係合するための延長部25aを設ける必要がある。この延長部25aは、電線22を確実に金属部材26に固定するという観点からは、当該電線22の導体24の両側(
図5において導体24の右側及び左側)に設けることが望ましい。
【0040】
図5に示される実施形態においても、電線22は、金属部材26と直接に接触するリベット23により当該金属部材26に固定されているので、導体24を電流が流れることで発生する熱は、絶縁層25及びリベット23を通って金属部材26に伝達される。換言すれば、通電によって導体24に発生する熱を金属部材26中に分散させることができる。
【0041】
図6は、本発明の他の実施形態に係るワイヤーハーネス31の断面説明図である。本実施形態では、電線32を構成する導体34が複数の単線をより合わせた撚線を含んでいる。また、並んで配置された4本の撚線を共通の絶縁層35が被覆している。ワイヤーハーネス31は、ブラインドリベット等のリベット33によって絶縁層35の延長部35aを金属部材36に固定することで、当該金属部材36に固定されている。
【0042】
図6に示される実施形態においても、電線32は、金属部材36と直接に接触するリベット33により当該金属部材36に固定されているので、導体34を電流が流れることで発生する熱は、絶縁層35及びリベット33を通って金属部材36に伝達される。換言すれば、通電によって導体34に発生する熱を金属部材36中に分散させることができる。
【0043】
〔実験例〕
つぎに本発明のワイヤーハーネスの放熱性を確認する実験例について説明する。
[実験例1]
表1は、超音波溶着によって電線を車体の金属部材(鋼)に固定した場合(実験No.1~7)の剥離強度と通電時の電線の温度とを示している。また、比較のために、金属部材等に固定されていない電線単独の場合(実験No.11~13)の通電時の電線の温度を示している。電線の仕様、及び超音波溶着の条件は、表1に示されるとおりである。導体は銅で作製されている。
【0044】
【0045】
表1より、放熱部としての超音波溶着部により電線を金属部材に固定することで、電線単独の場合に比べて、通電時の電線の温度を低下させ得ることがわかる。また、超音波溶着によって一定の強度で電線を金属部材に固定できることがわかる。
【0046】
[実験例2]
表2は、
図6に示されるようにリベットを用いて、撚線を含む導体を有する電線を車体の金属部材に固定した場合(実験No.8~10)の剥離強度と通電時の電線の温度とを示している。また、比較のために、金属部材等に固定されていない電線単独の場合(実験No.14~16)の通電時の電線の温度を示している。電線の仕様は、表2に示されるとおりである。導体は銅で作製されている。
【0047】
【0048】
表2より、放熱部としてのリベット(ブラインドリベット)により電線を金属部材に固定することで、電線単独の場合に比べて、通電時の電線の温度を低下させ得ることがわかる。また、リベットによって一定の強度で電線を金属部材に固定できることがわかる。超音波溶着による固定よりもリベットを用いて電線を固定する方が、大きな剥離強度が得られることがわかる。
【0049】
前述した種々の実施形態に係るワイヤーハーネスは、従来のグリップ部材等の補助具を用いることなく車体の金属部材に固定されている。また、ワイヤーハーネスは、車内空間において車体と離間して設けられるのではなく、当該車体と接触するように設けられている。このように、本発明のワイヤーハーネスは、従来の三次元形状から二次元のデザインに変換したものであり、その結果、車内スペースを節約することができるとともに、製造の自動化を容易にすることができる。従来のワイヤーハーネスでは、車体への固定等、人手による作業が多く残っていたが、放熱部により電線を車体に固定する前記実施形態に係るワイヤーハーネスは、単純なデザインであり多くの工程を必要としないので、容易に自動化を図ることができる。
【0050】
また、電線を車体に固定するために、接着、粘着、超音波溶着、リベット等、多様な手段を採用することができるので、ステンレス鋼、アルミニウム、マグネシウム合金等の車体を構成する多様な材料に応じて、電線の固定手段を適宜選定することができる。
【0051】
また、前述した実施形態によれば、通電時の電線の放熱性を向上させることで当該電線のサイズを小さくすることができ、また、ワイヤーハーネスを車体に固定するためのグリップ部材等の補助具の使用を省略することができるので、当該ワイヤーハーネスの重量を減少させることができる。これにより、車両重量を減少させることが可能となり、結果として車両燃費を向上させることができる。
【0052】
〔その他の変形例〕
本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、前述した実施形態では、金属部材の平坦な表面にワイヤーハーネスを固定しているが、
図7に示されるように、金属部材40の表面に溝41を形成し、この溝41の底面41aにワイヤーハーネス42を固定することもできる。この場合、通電時にワイヤーハーネス42の電線43で発生した熱は、当該電線43を溝41の底面41aに固定する、ホットメルト接着剤等の放熱部44を介して金属部材40に分散される。溝41内には、
図7に示されるように、1本のワイヤーハーネス42を配置してもよいし、溝41の幅を大きくして、当該溝41の底面41aに複数本のワイヤーハーネスを並べて配置してもよい。
【0053】
また、前述した実施形態では、波状に配置した電線について放熱部を非連続に設けているが、直線状に配置する電線について放熱部を非連続に設けた場合においても、熱膨張の差に起因する電線の損傷を抑制することができる。
また、前述した実施形態では、電線はむき出しの状態であるが、この電線の上に銅やアルミニウム等からなる金属シート又は金属メッシュを貼付することもできる。この場合、金属シート又は金属メッシュを貼付することで通電時に電線が発生する熱の放熱性を向上させることができる。また、金属シートの場合はノイズの伝搬を抑制することもできる。
【0054】
また、前述した実施形態では、金属部材の表面に直接にホットメルト接着剤等の放熱部が設けられているが、電線との密着性を向上させるために、当該金属部材の表面に防食、粗面化、塗装等の表面処理を行うこともできる。例えば、塗装としては、電線の絶縁層を構成する合成樹脂と同じものを電線が固定される金属部材の表面に塗装することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 ワイヤーハーネス
2 電線
3 ホットメルト接着剤層
4 導体
5 絶縁層
6 金属部材
11 ワイヤーハーネス
12 電線
13 超音波溶着部
14 導体
15 絶縁層
16 金属部材
21 ワイヤーハーネス
22 電線
23 リベット
24 導体
25 絶縁層
26 金属部材
31 ワイヤーハーネス
32 電線
33 リベット
34 導体
35 絶縁層
36 金属部材
40 金属部材
41 溝
41a 底面
42 ワイヤーハーネス
43 電線
44 放熱部