(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】スロットアレイアンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/22 20060101AFI20230620BHJP
H01P 3/123 20060101ALI20230620BHJP
G01S 7/03 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
H01Q13/22
H01P3/123
G01S7/03 230
(21)【出願番号】P 2019108031
(22)【出願日】2019-06-10
【審査請求日】2022-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2018113890
(32)【優先日】2018-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】300052246
【氏名又は名称】ニデックエレシス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【氏名又は名称】梶原 慶
(74)【代理人】
【識別番号】100188813
【氏名又は名称】川喜田 徹
(73)【特許権者】
【識別番号】315008773
【氏名又は名称】株式会社WGR
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【氏名又は名称】梶原 慶
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100188813
【氏名又は名称】川喜田 徹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】加茂 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】桐野 秀樹
【審査官】鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-188867(JP,A)
【文献】特開2011-211298(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0238085(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 13/00-13/28
H01P 3/00- 5/22
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正面側の第1導電性表面および背面側の第2導電性表面を有する第1導電部材と、
前記第2導電性表面に対向する第3導電性表面を有する第2導電部材と、
前記第3導電性表面上のリッジ状の導波部材であって、前記第2導電性表面に対向し第1の方向に沿って延びる導電性の導波面を有する導波部材と、
前記導波部材の両側に位置する複数の導電性ロッドであって、各々が、前記第3導電性表面に接続された基部、および前記第2導電性表面に対向する先端部を有する複数の導電性ロッドと、
を備え、
前記第1導電部材は、複数のスロットを有し、
前記複数のスロットは、
前記第1の方向に沿って並ぶ第1スロット群と、
前記第1スロット群に隣接し、前記第1の方向に沿って並ぶ第2スロット群と、
を含み、
前記導波面に垂直な方向から見たとき、
前記第1スロット群における各スロットの中心は、前記導波面の中心線の一方の側に位置し、
前記第2スロット群における各スロットの中心は、前記導波面の中心線の他方の側に位置し、
前記第1スロット群および前記第2スロット群における各スロットの中心と前記導波面の前記中心線との距離は、前記導波面の前記中心線と前記中心線に最も近い導電性ロッドの中心との距離よりも短く、
前記第1の方向において、前記第1スロット群における少なくとも1つのスロットの中心は、前記第2スロット群におけるいずれか2つの隣接するスロットの間に位置し、
前記第1の方向において、前記第2スロット群における少なくとも1つのスロットの中心は、前記第1スロット群におけるいずれか2つの隣接するスロットの間に位置し、
前記第1スロット群および前記第2スロット群に含まれる各スロットの開口の少なくとも中央部は、前記第1の方向、または前記第1の方向から45度未満の角度だけ傾斜した方向に延び、
前記第2導電部材は、貫通孔を有し、
前記導波部材は、前記貫通孔によって第1リッジと第2リッジとに分断され、
前記導波面に垂直な方向から見たとき、前記貫通孔の中心は、前記第1スロット群に含まれる1つのスロットと、前記第2スロット群に含まれる1つのスロットとの間に位置し、
前記貫通孔の開口は、前記第1の方向と交差する第2の方向に延びる横部分と、前記横部分の一端部に接続され、前記第1の方向に延びる第1の縦部分と、前記横部分の他端部に接続され、前記第1の方向に延びる第2の縦部分と、を含み、
前記第1の縦部分および前記第2の縦部分の少なくとも一方の前記第1の方向における位置は、前記第1スロット群および前記第2スロット群に含まれる少なくとも1つのスロットの前記第1の方向における位置と少なくとも部分的に重なり、
前記第1スロット群および前記第2スロット群における一部のスロットは、前記第1リッジの前記導波面と前記第2導電性表面との間の第1の導波路を介して、前記貫通孔内の導波路に接続され、
前記第1スロット群および前記第2スロット群における残りのスロットは、前記第2リッジの前記導波面と前記第2導電性表面との間の第2の導波路を介して、前記貫通孔内の前記導波路に接続される、
スロットアレイアンテナ。
【請求項2】
前記横部分の一端は、前記第1の縦部分の両端の間に位置し、
前記横部分の他端は、前記第2の縦部分の両端の間に位置する、
請求項1に記載のスロットアレイアンテナ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスロットアレイアンテナであって、
前記第1の方向を正の方向、前記第1の方向の反対の方向を負の方向と呼ぶとき、
前記第1の縦部分の前記正の方向側の端部は、前記第1の縦部分の前記負の方向側の端部よりも前記横部分に近く、
前記第2の縦部分の前記負の方向側の端部は、前記第2の縦部
分の前記正の方向側の端部よりも前記横部分に近く、
前記第1の縦部分の前記正の方向側の前記端部は、前記第1の縦部分の前記負の方向側の前記端部よりも、前記第1スロット群の内の前記横部分に最も近いスロットの中心までの距離が小さく、
前記第2の縦部分の前記負の方向側の前記端部は、前記第2の縦部分の前記正の方向側の前記端部よりも、前記第2スロット群の内の前記横部分に最も近いスロットの中心までの距離が小さい、
スロットアレイアンテナ。
【請求項4】
請求項1または2に記載のスロットアレイアンテナであって、
前記第1の方向を正の方向、前記第1の方向の反対の方向を負の方向と呼ぶとき、
前記第1の縦部分の前記負の方向側の端部は、前記第1の縦部分の前記正の方向側の端部よりも前記横部分に近く、
前記第2の縦部分の前記正の方向側の端部は、前記第2の縦部
分の前記負の方向側の端部よりも前記横部分に近く、
前記導波面に垂直な方向から見たとき、
前記第1の縦部分の前記正の方向側の前記端部は、前記第1スロット群の内の前記横部分に最も近いスロットと少なくとも部分的に重なり、
前記第2の縦部分の前記負の方向側の前記端部は、前記第2スロット群の内の前記横部分に最も近いスロットと少なくとも部分的に重なる、
スロットアレイアンテナ。
【請求項5】
前記導波面に垂直な方向から見たとき、前記貫通孔の少なくとも一部は、前記第1スロット群に含まれる1つのスロットと、前記第2スロット群に含まれる1つのスロットの少なくとも一方に重なる、請求項1または2に記載のスロットアレイアンテナ。
【請求項6】
前記導波面に垂直な方向から見たとき、前記貫通孔の前記中心は、前記第1スロット群が分布する領域の中央部と前記第2スロット群が分布する領域の中央部との間に位置する、請求項1から5のいずれかに記載のスロットアレイアンテナ。
【請求項7】
前記貫通孔は前記第1の方向において前記導波部材の中央部に位置し、
前記貫通孔を通じて、前記第1スロット群および前記第2スロット群の配列の中央の1箇所から、前記第1スロット群および前記第2スロット群における各スロットに向けて給電される、
請求項1から6のいずれかに記載のスロットアレイアンテナ。
【請求項8】
前記第1導電部材の前記第1導電性表面は、導電性のホーンを規定する形状を有し、
前記ホーンは、前記第1導電性表面から立ち上がり前記第1の方向に延びる一対の壁面を含み、
前記第1導電性表面に垂直な方向から見たとき、前記第1スロット群および前記第2スロット群は、前記一対の壁面の間に位置する、
請求項1から7のいずれかに記載のスロットアレイアンテナ。
【請求項9】
前記第1スロット群、前記第2スロット群、前記導波部材、および前記貫通孔の組み合わせと同一の組み合わせを複数組有し、
前記複数組の組み合わせは、前記第1の方向に交差する方向に配列され、
前記複数の導電性ロッドは、各導波部材の周囲に位置する、
請求項1から8のいずれかに記載のスロットアレイアンテナ。
【請求項10】
前記第2導電部材は、前記第3導電性表面の反対側に第4導電性表面を有し、
前記スロットアレイアンテナは、前記第4導電性表面に対向する第5導電性表面を有する第3導電部材をさらに備え、
前記第4導電性表面と前記第5導電性表面との間に、前記貫通孔に接続される導波路が形成されている、
請求項1から9のいずれかに記載のスロットアレイアンテナ。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載のスロットアレイアンテナと、
前記スロットアレイアンテナに接続されたマイクロ波集積回路と、
を備えるレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スロットアレイアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
線上または面上に複数の放射素子(「アンテナ素子」とも称する。)が配列されたアレイアンテナ(「アンテナアレイ」とも称する。)が、様々な用途、例えばレーダおよび通信システムに利用されている。アレイアンテナから電磁波を放射するには、電磁波を生成する回路から各放射素子に電磁波、例えば高周波の信号波を供給する必要がある。このような信号波の供給は、導波路を介して行われる。導波路は、アンテナ素子で受けた電磁波を受信回路に送るためにも用いられる。
【0003】
従来、アレイアンテナへの給電には、マイクロストリップ線路が用いられることが多かった。しかし、アレイアンテナによって送信または受信する電磁波の周波数が、例えばミリ波帯域のように30ギガヘルツ(GHz)を超える高い周波数である場合、マイクロストリップ線路の誘電体損失が大きくなり、アンテナの効率が低下する。このため、このような高周波領域では、マイクロストリップ線路に代わる導波路が必要になる。
【0004】
マイクロストリップ線路に代わる導波路構造として、特許文献1から3、ならびに非特許文献1から3は、リッジ型導波路の両側に配置された人工磁気導体(AMC:Artificial Magnetic Conductor)を利用して電磁波の導波を行う構造を開示している。特許文献1および非特許文献1、3は、このような導波路構造を利用したスロットアレイアンテナを開示している。
【0005】
一方、特許文献4、5は、複数のスロットを有する中空導波管を備えたスロットアレイアンテナを開示している。
【0006】
特許文献4、5、および非特許文献3に開示されたスロットアレイアンテナは、導波路が延びる方向に垂直な方向に電界が振動する偏波を放射することができる。これらのスロットアレイアンテナは、導波路に沿って配列された矩形状の複数のスロットをアンテナ素子として備える。複数のスロットの各々は、その長手方向が導波路の延びる方向に一致するように配置されている。複数のスロットのうち、端から数えて奇数番目のスロットは、導波路の中心線に対して、一方の側に位置し、偶数番目のスロットは、導波路の中心線に対して他方の側に位置している。導波路に沿った方向における隣り合う2つのスロットの間隔は、導波路を伝搬する電磁波の波長のおよそ2分の1である。このような構造により、導波路に沿った方向におけるスロットの間隔が導波路内での波長よりも短い場合でも、各スロットを同相で励振させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第8779995号明細書
【文献】米国特許第8803638号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1331688号明細書
【文献】特開2005-167755号公報
【文献】米国特許第4513291号明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】Kirino et al., "A 76 GHz Multi-Layered Phased Array Antenna Using a Non-Metal Contact Metamaterial Waveguide", IEEE Transaction on Antennas and Propagation, Vol. 60, No. 2, February 2012, pp 840-853
【文献】Kildal et al., "Local Metamaterial-Based Waveguides in Gaps Between Parallel Metal Plates", IEEE Antennas and Wireless Propagation Letters, Vol. 8, 2009, pp84-87
【文献】Syed Kamal Mustafa, Chalmers University of Technology, Master's Thesis “Hybrid Analog-Digital Beam-Steered Slot Antenna Array for mm-Wave Applications in Gap Waveguide Technology”, October 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示は、比較的簡単な構成で、良好な放射特性を持つスロットアレイアンテナを実現するための技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様に係るスロットアレイアンテナは、正面側の第1導電性表面および背面側の第2導電性表面を有する第1導電部材と、前記第2導電性表面に対向する第3導電性表面を有する第2導電部材と、前記第3導電性表面上のリッジ状の導波部材であって、前記第2導電性表面に対向し第1の方向に沿って延びる導電性の導波面を有する導波部材と、前記導波部材の両側に位置する複数の導電性ロッドであって、各々が、前記第3導電性表面に接続された基部、および前記第2導電性表面に対向する先端部を有する複数の導電性ロッドと、を備える。前記第1導電部材は、複数のスロットを有する。前記複数のスロットは、前記第1の方向に沿って並ぶ第1スロット群と、前記第1スロット群に隣接し、前記第1の方向に沿って並ぶ第2スロット群と、を含む。前記導波面に垂直な方向から見たとき、前記第1スロット群における各スロットの中心は、前記導波面の中心線の一方の側に位置し、前記第2スロット群における各スロットの中心は、前記導波面の中心線の他方の側に位置し、前記第1スロット群および前記第2スロット群における各スロットの中心と前記導波面の前記中心線との距離は、前記導波面の前記中心線と前記中心線に最も近い導電性ロッドの中心との距離よりも短い。前記第1の方向において、前記第1スロット群における少なくとも1つのスロットの中心は、前記第2スロット群におけるいずれか2つの隣接するスロットの間に位置する。前記第1の方向において、前記第2スロット群における少なくとも1つのスロットの中心は、前記第1スロット群におけるいずれか2つの隣接するスロットの間に位置する。前記第1スロット群および前記第2スロット群に含まれる各スロットの開口の少なくとも中央部は、前記第1の方向、または前記第1の方向から45度未満の角度だけ傾斜した方向に延びる。前記第2導電部材は、貫通孔を有する。前記導波部材は、前記貫通孔によって第1リッジと第2リッジとに分断されている。前記導波面に垂直な方向から見たとき、前記貫通孔の中心は、前記第1スロット群に含まれる1つのスロットと、前記第2スロット群に含まれる1つのスロットとの間に位置する。前記第1スロット群および前記第2スロット群における一部のスロットは、前記第1リッジの前記導波面と前記第2導電性表面との間の第1の導波路を介して、前記貫通孔内の導波路に接続される。前記第1スロット群および前記第2スロット群における残りのスロットは、前記第2リッジの前記導波面と前記第2導電性表面との間の第2の導波路を介して、前記貫通孔内の前記導波路に接続される。
【発明の効果】
【0011】
本開示の実施形態によれば、比較的簡単な構成で、良好な放射特性を持つスロットアレイアンテナを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、導波路装置が備える基本構成の限定的ではない例を模式的に示す斜視図である。
【
図2A】
図2Aは、導波路装置100のXZ面に平行な断面の構成の例を模式的に示す図である。
【
図2B】
図2Bは、導波路装置100のXZ面に平行な断面の構成の他の例を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、第1導電部材110と第2導電部材120との間隔を極端に離した状態にある導波路装置100を模式的に示す斜視図である。
【
図4】
図4は、
図2Aに示す構造における各部材の寸法の範囲の例を示す図である。
【
図5A】
図5Aは、導波部材122の上面である導波面122aのみが導電性を有し、導波部材122の導波面122a以外の部分は導電性を有していない構造の例を示す断面図である。
【
図5B】
図5Bは、導波部材122が導電部材120上に形成されていない変形例を示す図である。
【
図5C】
図5Cは、導電部材120、導波部材122、および複数の導電性ロッド124の各々が、誘電体の表面に金属などの導電性材料がコーティングされた構造の例を示す図である。
【
図5D】
図5Dは、導電部材110、120、導波部材122、および導電性ロッド124の各々の最表面に、誘電体の層110c、120cを有する構造の例を示す図である。
【
図5E】
図5Eは、導電部材110、120、導波部材122、および導電性ロッド124の各々の最表面に、誘電体の層110c、120cを有する構造の他の例を示す図である。
【
図5F】
図5Fは、導波部材122の高さが導電性ロッド124の高さよりも低く、導電部材110の導電性表面110aのうち、導波面122aに対向する部分が、導波部材122の側に突出している例を示す図である。
【
図5G】
図5Gは、
図5Fの構造において、さらに、導電性表面110aのうち導電性ロッド124に対向する部分が、導電性ロッド124の側に突出している例を示す図である。
【
図6A】
図6Aは、導電部材110の導電性表面110aが曲面形状を有する例を示す図である。
【
図6B】
図6Bは、さらに、導電部材120の導電性表面120aも曲面形状を有する例を示す図である。
【
図7A】
図7Aは、導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110aとの間隙における幅の狭い空間を伝搬する電磁波を模式的に示している。
【
図7B】
図7Bは、中空導波管330の断面を模式的に示す図である。
【
図7C】
図7Cは、導電部材120上に2個の導波部材122が設けられている形態を示す断面図である。
【
図7D】
図7Dは、2つの中空導波管330を並べて配置した導波路装置の断面を模式的に示す図である。
【
図8A】
図8Aは、スロットアンテナ200の構成を模式的に示す斜視図である。
【
図8B】
図8Bは、
図8Aに示すスロットアンテナ200におけるスロット112の中心を通るXZ面に平行な断面の一部を模式的に示す図である。
【
図8C】
図8Cは、スロット112と、導波部材122および複数の導電性ロッド124との配置関係を示す上面図である。
【
図8D】
図8Dは、スロット112の内部に形成される電界の例を模式的に示す図である。
【
図9A】
図9Aは、スロット112の一部のみが第2導電性表面120aに対向している例を示す上面図である。
【
図9B】
図9Bは、スロット112の一部のみが第2導電性表面120aに対向している他の例を示す上面図である。
【
図11A】
図11Aは、スロット112がU型であり、スロット112の開口の一部が導波面122aに対向している例を示している。
【
図11B】
図11Bは、スロット112がU型であり、スロット112の開口の全体が導波面122aに対向していない例を示している。
【
図11C】
図11Cは、スロット112が曲線状スロットであり、スロット112の開口の一部が導波面122aに対向している例を示している。
【
図11D】
図11Dは、スロット112がZ型スロットであり、スロット112の開口の端部のみが導波面122aに対向している例を示している。
【
図11E】
図11Eは、スロット112がH型スロットであり、スロット112の開口が導波面122aの2つの縁を跨いで配置されている例を示している。
【
図12】
図12は、導波面122に沿って配置された複数のスロット112を備えるスロットアンテナ200Aの構成例を模式的に示す斜視図である。
【
図13】
図13は、複数のスロット112と、導波面122aおよび複数の導電性ロッド124との配置関係を示す上面図である。
【
図14A】
図14Aは、各スロット112の一部が導波面122aに対向している例を示す図である。
【
図14B】
図14Bは、各スロット112の長さ方向が導波面122aの延びる方向から45度未満の角度で傾斜している例を示す図である。
【
図16】
図16は、複数の導波部材122を備えるスロットアンテナの構成を模式的に示す上面図である。
【
図17A】
図17Aは、導波部材の中央部にある貫通孔から給電されるスロットアレイアンテナ300の構成例を示す上面図である。
【
図17C】
図17Cは、第1導波路装置100aにおける導波部材122Uの平面レイアウトを示す図である。
【
図17D】
図17Dは、第2導波路装置100bにおける導波部材122Lの平面レイアウトを示す図である。
【
図18A】
図18Aは、本開示の他の実施形態によるスロットアレイアンテナ300Aを示す平面図である。
【
図18B】
図18Bは、スロットアレイアンテナ300Aを-Y方向から見た側面図である。
【
図19A】
図19Aは、放射層210および励振層220の構成の一部を示す断面図である。
【
図20D】
図20Dは、ポート145Uと、スロット112A、112Bとの位置関係を説明するための図である。
【
図22A】
図22Aは、第2導電部材120における1つの導波部材122Uの中心を通りYZ面に平行な平面で切断したときのスロットアレイアンテナ300Aの断面図である。
【
図23】
図23は、実施形態の変形例におけるスロットアレイアンテナ300Bを示す図である。
【
図24B】
図24Bは、変形例における励振層220の一部を拡大して示す図である。
【
図24C】
図24Cは、変形例における各部材の位置関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の実施形態を説明する前に、本開示の基礎となった知見を説明する。
【0014】
前述の特許文献1から3、および非特許文献1から3に開示されているリッジ導波路は、人工磁気導体として機能するワッフルアイアン構造中に設けられている。このような人工磁気導体を、本開示に基づき利用するリッジ導波路は、マイクロ波またはミリ波帯において、損失の低いアンテナ給電路を実現できる。また、このようなリッジ導波路を利用することにより、アンテナ素子を高密度に配置することが可能である。このようなリッジ導波路を、本明細書において、ワッフルアイアンリッジ導波路(WRG)と称することがある。以下、ワッフルアイアンリッジ導波路の基本的な構成および動作の例を説明する。
【0015】
人工磁気導体は、自然界には存在しない完全磁気導体(PMC: Perfect Magnetic Conductor)の性質を人工的に実現した構造体である。完全磁気導体は、「表面における磁界の接線成分がゼロになる」という性質を有している。これは、完全導体(PEC: Perfect Electric Conductor)の性質、すなわち、「表面における電界の接線成分がゼロになる」という性質とは反対の性質である。完全磁気導体は、自然界には存在しないが、例えば複数の導電性ロッドの配列のような人工的な構造によって実現され得る。人工磁気導体は、その構造によって定まる特定の周波数帯域において、完全磁気導体として機能する。人工磁気導体は、特定の周波数帯域(伝搬阻止帯域)に含まれる周波数を有する電磁波が人工磁気導体の表面に沿って伝搬することを抑制または阻止する。このため、人工磁気導体の表面は、高インピーダンス面と呼ばれることがある。
【0016】
特許文献1から3、および非特許文献1から3に開示されている導波路装置では、行および列方向に配列された複数の導電性ロッドによって人工磁気導体が実現されている。このようなロッドは、ポストまたはピンと呼ばれることもある突出部である。これらの導波路装置のそれぞれは、全体として、対向する一対の導電プレートを備えている。一方の導電プレートは、他方の導電プレートの側に突出するリッジと、リッジの両側に位置する人工磁気導体とを有している。リッジの上面は導電性を有し、ギャップを介して、他方の導電プレートの導電性表面に対向している。人工磁気導体の伝搬阻止帯域に含まれる波長を有する電磁波(信号波)は、この導電性表面とリッジの上面との間の空間(ギャップ)をリッジに沿って伝搬する。
【0017】
図1には、互いに直交するX、Y、Z方向を示すXYZ座標が示されている。
図1に示されている導波路装置100は、対向して平行に配置されたプレート状(板形状)の第1導電部材110および第2導電部材120を備えている。第2導電部材120には複数の導電性ロッド124が配列されている。
【0018】
なお、本願の図面に示される構造物の向きは、説明のわかりやすさを考慮して設定されており、本開示の実施形態が現実に実施されるときの向きをなんら制限するものではない。また、図面に示されている構造物の全体または一部分の形状および大きさも、現実の形状および大きさを制限するものではない。
【0019】
図2Aに示されるように、第1導電部材110は、第2導電部材120に対向する側に導電性表面110aを有している。導電性表面110aは、導電性ロッド124の軸方向(Z方向)に直交する平面(XY面に平行な平面)に沿って二次元的に拡がっている。この例における導電性表面110aは平滑な平面であるが、後述するように、導電性表面110aは平面である必要はない。
【0020】
図3は、わかりやすさのため、第1導電部材110と第2導電部材120との間隔を極端に離した状態にある導波路装置100を模式的に示す斜視図である。現実の導波路装置100では、
図1および
図2Aに示したように、第1導電部材110と第2導電部材120との間隔は狭く、第1導電部材110は、第2導電部材120の全ての導電性ロッド124を覆うように配置されている。
【0021】
図1から
図3は、導波路装置100の一部分のみを示している。導電部材110、120、導波部材122、および複数の導電性ロッド124は、実際には、図示されている部分の外側にも拡がって存在する。導波部材122の端部には、後述するように、電磁波が外部空間に漏洩することを防止するチョーク構造が設けられる。チョーク構造は、例えば、導波部材122の端部に隣接して配置された導電性ロッドの列を含む。
【0022】
再び
図2Aを参照する。第2導電部材120上に配列された複数の導電性ロッド124は、それぞれ、導電性表面110aに対向する先端部124aを有している。図示されている例において、複数の導電性ロッド124の先端部124aは同一平面上にある。この平面は人工磁気導体の表面125を形成している。導電性ロッド124は、その全体が導電性を有している必要はなく、ロッド状構造物の少なくとも表面(上面および側面)が導電性を有していればよい。また、第2導電部材120は、複数の導電性ロッド124を支持して人工磁気導体を実現できれば、その全体が導電性を有している必要はない。第2導電部材120の表面のうち、複数の導電性ロッド124が配列されている側の面120aが導電性を有し、隣接する複数の導電性ロッド124の表面が導体で接続されていればよい。言い換えると、第2導電部材120および複数の導電性ロッド124の組み合わせの全体は、第1導電部材110の導電性表面110aに対向する凹凸状の導電性表面を有していればよい。
【0023】
第2導電部材120上には、複数の導電性ロッド124の間にリッジ状の導波部材122が配置されている。より詳細には、導波部材122の両側に人工磁気導体が位置しており、導波部材122は両側の人工磁気導体によって挟まれている。
図3からわかるように、この例における導波部材122は、第2導電部材120に支持され、Y方向に直線的に延びている。図示されている例において、導波部材122は、導電性ロッド124の高さおよび幅と同一の高さおよび幅を有している。後述するように、導波部材122の高さおよび幅は、それぞれ、導電性ロッド124の高さおよび幅とは異なっていてもよい。導波部材122は、導電性ロッド124とは異なり、導電性表面110aに沿って電磁波を案内する方向(この例ではY方向)に延びている。導波部材122も、全体が導電性を有している必要はなく、第1導電部材110の導電性表面110aに対向する導電性の導波面122aを有していればよい。第2導電部材120、複数の導電性ロッド124、および導波部材122は、連続した単一構造体の一部であってもよい。さらに、第1導電部材110も、この単一構造体の一部であってもよい。
【0024】
導波部材122の両側において、各人工磁気導体の表面125と第1導電部材110の導電性表面110aとの間の空間は、特定周波数帯域内の周波数を有する電磁波を伝搬させない。そのような周波数帯域は「禁止帯域」と呼ばれる。導波路装置100内を伝搬する信号波の周波数(以下、「動作周波数」と称することがある。)が禁止帯域に含まれるように人工磁気導体は設計される。禁止帯域は、導電性ロッド124の高さ、すなわち、隣接する複数の導電性ロッド124の間に形成される溝の深さ、導電性ロッド124の径、配置間隔、および導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110aとの間の間隙の大きさによって調整され得る。
【0025】
次に、
図4を参照しながら、
図2Aに示す構造における各部材の寸法、形状、配置などの例を説明する。導波路装置は、所定の帯域(「動作周波数帯域」と称する。)の電磁波の送信および受信の少なくとも一方に用いられる。本明細書において、第1導電部材110の導電性表面110aと導波部材122の導波面122aとの間の導波路を伝搬する電磁波(信号波)の自由空間における波長の代表値(例えば、動作周波数帯域の中心周波数に対応する中心波長)をλoとする。また、動作周波数帯域における最高周波数の電磁波の自由空間における波長をλmとする。各導電性ロッド124のうち、第2導電部材120に接している方の端の部分を「基部」と称する。
図4に示すように、各導電性ロッド124は、先端部124aと基部124bとを有する。各部材の寸法、形状、配置などの例は、以下のとおりである。
【0026】
(1)導電性ロッドの幅
導電性ロッド124の幅(X方向およびY方向のサイズ)は、λm/2未満に設定され得る。この範囲内であれば、X方向およびY方向における最低次の共振の発生を防ぐことができる。なお、XおよびY方向だけでなくXY断面の対角方向でも共振が起こる可能性があるため、導電性ロッド124のXY断面の対角線の長さもλm/2未満であることが好ましい。ロッドの幅および対角線の長さの下限値は、工法的に作製できる最小の長さであり、特に限定されない。
【0027】
(2)導電性ロッドの基部から第1導電部材の導電性表面までの距離
導電性ロッド124の基部124bから第1導電部材110の導電性表面110aまでの距離は、導電性ロッド124の高さよりも長く、かつλm/2未満に設定され得る。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の基部124bと導電性表面110aとの間において共振が生じ、信号波の閉じ込め効果が失われる。
【0028】
導電性ロッド124の基部124bから第1導電部材110の導電性表面110aまでの距離は、第1導電部材110と第2導電部材120との間隔に相当する。例えば導波路をミリ波帯である76.5±0.5GHzの信号波が伝搬する場合、信号波の波長は、3.8934mmから3.9446mmの範囲内である。したがって、この場合、λmは3.8934mmとなるので、第1導電部材110と第2導電部材120との間隔は、3.8934mmの半分よりも小さく設定される。第1導電部材110と第2導電部材120とが、このような狭い間隔を実現するように対向して配置されていれば、第1導電部材110と第2導電部材120とが厳密に平行である必要はない。また、第1導電部材110と第2導電部材120との間隔がλm/2未満であれば、第1導電部材110および/または第2導電部材120の全体または一部が曲面形状を有していてもよい。他方、第1および第2導電部材110、120の平面形状(XY面に垂直に投影した領域の形状)および平面サイズ(XY面に垂直に投影した領域のサイズ)は、用途に応じて任意に設計され得る。
【0029】
図2Aに示される例において、導電性表面120aは平面であるが、例えば、
図2Bに示すように、導電性表面120aは断面がU字またはV字に近い形状である面の底部であってもよい。導電性ロッド124または導波部材122が、基部に向かって幅が拡大する形状を持つ場合に、導電性表面120aはこのような構造になる。この例において、導波部材122および複数の導電性ロッド124の各々は、傾斜した側面を基部に有する。導波部材122および各導電性ロッド124の側面の頂部における傾斜角度は、基部における傾斜角度よりも小さい。このような構造であっても、導電性表面110aと導電性表面120aとの間の距離が波長λmの半分よりも短ければ、
図2Bに示す装置は、導波路装置として機能し得る。
【0030】
(3)導電性ロッドの先端部から導電性表面までの距離L2
導電性ロッド124の先端部124aから導電性表面110aまでの距離L2は、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110aとの間を電磁波が往復する伝搬モードが生じ、電磁波を閉じ込められなくなるからである。なお、複数の導電性ロッド124のうち、少なくとも導波部材122と隣り合うものについては、先端が導電性表面110aとは電気的には接触していない状態にある。ここで、導電性ロッドの先端が導電性表面に電気的に接触していない状態とは、先端と導電性表面との間に空隙がある状態、あるいは、導電性ロッドの先端と導電性表面とのいずれかに絶縁層が存在し、導電性ロッドの先端と導電性表面が絶縁層を間に介して接触している状態、のいずれかを指す。
【0031】
(4)導電性ロッドの配列および形状
複数の導電性ロッド124のうちの隣接する2つの導電性ロッド124の間の隙間は、例えばλm/2未満の幅を有する。隣接する2つの導電性ロッド124の間の隙間の幅は、当該2つの導電性ロッド124の一方の表面(側面)から他方の表面(側面)までの最短距離によって定義される。このロッド間の隙間の幅は、ロッド間の領域で最低次の共振が起こらないように決定される。共振が生じる条件は、導電性ロッド124の高さ、隣接する2つの導電性ロッド間の距離、および導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110aとの間の空隙の容量の組み合わせによって決まる。よって、ロッド間の隙間の幅は、他の設計パラメータに依存して適宜決定される。ロッド間の隙間の幅には明確な下限はないが、製造の容易さを確保するために、ミリ波帯の電磁波を伝搬させる場合には、例えばλm/16以上であり得る。なお、隙間の幅は一定である必要はない。λm/2未満であれば、導電性ロッド124の間の隙間は様々な幅を有していてもよい。
【0032】
複数の導電性ロッド124の配列は、人工磁気導体としての機能を発揮する限り、図示されている例に限定されない。複数の導電性ロッド124は、直交する行および列状に並んでいる必要はなく、行および列は90度以外の角度で交差していてもよい。複数の導電性ロッド124は、行または列に沿って直線上に配列されている必要はなく、単純な規則性を示さずに分散して配置されていてもよい。各導電性ロッド124の形状およびサイズも、第2導電部材120上の位置に応じて変化していてよい。
【0033】
複数の導電性ロッド124の先端部124aが形成する人工磁気導体の表面125は、厳密に平面である必要はなく、微細な凹凸を有する平面または曲面であってもよい。すなわち、各導電性ロッド124の高さが一様である必要はなく、導電性ロッド124の配列が人工磁気導体として機能し得る範囲内で個々の導電性ロッド124は多様性を持ち得る。
【0034】
導電性ロッド124は、図示されている角柱形状に限らず、例えば円筒状の形状を有していてもよい。さらに、単純な柱状の形状を有している必要はない。人工磁気導体は、導電性ロッド124の配列以外の構造によっても実現することができ、多様な人工磁気導体を本開示の導波路装置に利用することができる。なお、導電性ロッド124の先端部124aの形状が角柱形状である場合は、その対角線の長さはλm/2未満であることが好ましい。楕円形状であるときは、長軸の長さがλm/2未満であることが好ましい。先端部124aがさらに他の形状をとる場合でも、その差し渡し寸法は一番長い部分でもλm/2未満であることが好ましい。
【0035】
導電性ロッド124(特に、導波部材122に隣接する導電性ロッド124)の高さ、すなわち、基部124bから先端部124aまでの長さは、導電性表面110aと導電性表面120aとの間の距離(λm/2未満)よりも短い値、例えば、λo/4に設定され得る。
【0036】
(5)導波面の幅
導波部材122の導波面122aの幅、すなわち、導波部材122が延びる方向に直交する方向における導波面122aのサイズは、λm/2未満(例えばλo/8)に設定され得る。導波面122aの幅がλm/2以上になると、幅方向で共振が起こり、共振が起こるとWRGは単純な伝送線路としては動作しなくなるからである。
【0037】
(6)導波部材の高さ
導波部材122の高さ(図示される例ではZ方向のサイズ)は、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の基部124bと導電性表面110aとの距離がλm/2以上となるからである。同様に、導電性ロッド124(特に、導波部材122に隣接する導電性ロッド124)の高さについても、λm/2未満に設定される。
【0038】
(7)導波面と導電性表面との間の距離L1
導波部材122の導波面122aと導電性表面110aとの間の距離L1については、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導波面122aと導電性表面110aとの間で共振が起こり、導波路として機能しなくなるからである。ある例では、当該距離はλm/4以下である。製造の容易さを確保するために、ミリ波帯の電磁波を伝搬させる場合には、例えばλm/16以上とすることが好ましい。
【0039】
導電性表面110aと導波面122aとの距離L1の下限、および導電性表面110aとロッド124の先端部124aとの距離L2の下限は、機械工作の精度と、上下の2つの導電部材110、120を一定の距離に保つように組み立てる際の精度とに依存する。プレス工法またはインジェクション工法を用いた場合、上記距離の現実的な下限は50マイクロメートル(μm)程度である。MEMS(Micro-Electro-Mechanical System)を用いて例えばテラヘルツ領域の製品を作る場合には、上記距離の下限は、2~3μm程度である。
【0040】
次に、導波部材122、導電部材110、120、および複数の導電性ロッド124を有する導波路構造の変形例を説明する。以下の変形例は、後述する各実施形態におけるいずれの箇所のWRG構造にも適用され得る。
【0041】
図5Aは、導波部材122の上面である導波面122aのみが導電性を有し、導波部材122の導波面122a以外の部分は導電性を有していない構造の例を示す断面図である。導電部材110、120も同様に、導波部材122が位置する側の表面(導電性表面110a、120a)のみが導電性を有し、他の部分は導電性を有していない。このように、導波部材122、導電部材110、120の各々は、全体が導電性を有していなくてもよい。
【0042】
図5Bは、導波部材122が導電部材120上に形成されていない変形例を示す図である。この例では、導波部材122は、導電部材110、120を支持する支持部材(例えば、筐体の内壁等)に固定されている。導波部材122と導電部材120との間には間隙が存在する。このように、導波部材122は導電部材120に接続されていなくてもよい。
【0043】
図5Cは、導電部材120、導波部材122、および複数の導電性ロッド124の各々が、誘電体の表面に金属などの導電性材料がコーティングされた構造の例を示す図である。導電部材120、導波部材122、および複数の導電性ロッド124は、相互に導電体で接続されている。一方、導電部材110は、金属などの導電性材料で構成されている。
【0044】
図5Dおよび
図5Eは、導電部材110、120、導波部材122、および導電性ロッド124の各々の最表面に、誘電体の層110c、120cを有する構造の例を示す図である。
図5Dは、導体である金属製の導電部材の表面を誘電体の層で覆った構造の例を示す。
図5Eは、導電部材120が、樹脂などの誘電体製の部材の表面を、金属などの導体で覆い、さらにその金属の層を誘電体の層で覆った構造を有する例を示す。金属表面を覆う誘電体の層は樹脂などの塗膜であってもよいし、当該金属が酸化する事で生成された不動態皮膜などの酸化皮膜であってもよい。
【0045】
最表面の誘電体層は、WRG導波路によって伝播される電磁波の損失を増やす。しかし、導電性を有する導電性表面110a、120aを腐食から守ることができる。また、直流電圧や、WRG導波路によっては伝播されない程度に周波数の低い交流電圧の影響を遮断することができる。
【0046】
図5Fは、導波部材122の高さが導電性ロッド124の高さよりも低く、導電部材110の導電性表面110aのうち、導波面122aに対向する部分が、導波部材122の側に突出している例を示す図である。このような構造であっても、
図4に示す寸法の範囲を満たしていれば、前述の構成と同様に動作する。
【0047】
図5Gは、
図5Fの構造において、さらに、導電性表面110aのうち導電性ロッド124に対向する部分が、導電性ロッド124の側に突出している例を示す図である。このような構造であっても、
図4に示す寸法の範囲を満たしていれば、前述の例と同様に動作する。なお、導電性表面110aの一部が突出する構造に代えて、一部が窪む構造であってもよい。
【0048】
図6Aは、導電部材110の導電性表面110aが曲面形状を有する例を示す図である。
図6Bは、さらに、導電部材120の導電性表面120aも曲面形状を有する例を示す図である。これらの例のように、導電性表面110a、120aは、平面形状に限らず、曲面形状を有していてもよい。曲面状の導電性表面を有する導電部材も、「板形状」の導電部材に該当する。
【0049】
上記の構成を有する導波路装置100によれば、動作周波数の信号波は、人工磁気導体の表面125と導電部材110の導電性表面110aとの間の空間を伝搬することはできず、導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110aとの間の空間を伝搬する。このような導波路構造における導波部材122の幅は、中空導波管とは異なり、伝搬すべき電磁波の半波長以上の幅を有する必要はない。また、導電部材110と導電部材120とを厚さ方向(YZ面に平行)に延びる金属壁によって電気的に接続する必要もない。
【0050】
図7Aは、導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110aとの間隙における幅の狭い空間を伝搬する電磁波を模式的に示している。
図7Aにおける3本の矢印は、伝搬する電磁波の電界の向きを模式的に示している。伝搬する電磁波の電界は、導電部材110の導電性表面110aおよび導波面122aに対して垂直である。
【0051】
導波部材122の両側には、それぞれ、複数の導電性ロッド124によって形成された人工磁気導体が配置されている。電磁波は導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110aとの間隙を伝搬する。
図7Aは、模式的であり、電磁波が現実に作る電磁界の大きさを正確には示していない。導波面122a上の空間を伝搬する電磁波(電磁界)の一部は、導波面122aの幅によって区画される空間から外側(人工磁気導体が存在する側)に横方向に拡がっていてもよい。この例では、電磁波は、
図7Aの紙面に垂直な方向(Y方向)に伝搬する。このような導波部材122は、Y方向に直線的に延びている必要は無く、不図示の屈曲部および/または分岐部を有し得る。電磁波は導波部材122の導波面122aに沿って伝搬するため、屈曲部では伝搬方向が変わり、分岐部では伝搬方向が複数の方向に分岐する。
【0052】
図7Aの導波路構造では、伝搬する電磁波の両側に、中空導波管では不可欠の金属壁(電気壁)が存在していない。このため、この例における導波路構造では、伝搬する電磁波が作る電磁界モードの境界条件に「金属壁(電気壁)による拘束条件」が含まれず、導波面122aの幅(X方向のサイズ)は、電磁波の波長の半分未満である。
【0053】
図7Bは、参考のため、中空導波管330の断面を模式的に示している。
図7Bには、中空導波管330の内部空間332に形成される電磁界モード(TE
10)の電界の向きが矢印によって模式的に表されている。矢印の長さは電界の強さに対応している。中空導波管330の内部空間332の幅は、波長の半分よりも広く設定されなければならない。すなわち、中空導波管330の内部空間332の幅は、伝搬する電磁波の波長の半分よりも小さく設定され得ない。
【0054】
図7Cは、導電部材120上に2個の導波部材122が設けられている形態を示す断面図である。このように隣接する2個の導波部材122の間には、複数の導電性ロッド124によって形成される人工磁気導体が配置されている。より正確には、各導波部材122の両側に複数の導電性ロッド124によって形成される人工磁気導体が配置され、各導波部材122が独立した電磁波の伝搬を実現することが可能である。
【0055】
図7Dは、参考のため、2つの中空導波管330を並べて配置した導波路装置の断面を模式的に示している。2つの中空導波管330は、相互に電気的に絶縁されている。電磁波が伝搬する空間の周囲が、中空導波管330を構成する金属壁で覆われている必要がある。このため、電磁波が伝搬する内部空間332の間隔を、金属壁の2枚の厚さの合計よりも短縮することはできない。金属壁の2枚の厚さの合計は、通常、伝搬する電磁波の波長の半分よりも長い。したがって、中空導波管330の配列間隔(中心間隔)を、伝搬する電磁波の波長よりも短くすることは困難である。特に、電磁波の波長が10mm以下となるミリ波帯、あるいはそれ以下の波長の電磁波を扱う場合は、波長に比して十分に薄い金属壁を形成することが難しくなる。このため、商業的に現実的なコストで実現することが困難になる。
【0056】
これに対して、人工磁気導体を備える導波路装置100は、導波部材122を近接させた構造を容易に実現することができる。このため、複数のアンテナ素子が近接して配置されたアレイアンテナへの給電に好適に用いられ得る。
【0057】
次に、上記のような導波路構造を利用したスロットアンテナの構成例を説明する。「スロットアンテナ」とは、アンテナ素子として1つまたは複数のスロット(「貫通孔」とも称する。)を備えたアンテナ装置を意味する。特に、複数のスロットをアンテナ素子として備えたスロットアンテナを、「スロットアレイアンテナ」または「スロットアンテナアレイ」と称する。
【0058】
図8Aは、X方向に電界が振動する偏波を放射することが可能なスロットアンテナ200の例を示す斜視図である。
図8Bは、
図8Aに示すスロットアンテナ200におけるスロット112の中心を通るXZ面に平行な断面の一部を模式的に示す図である。このスロットアンテナ200におけるスロット112は、その長さ方向がY方向に一致し、その中心のX方向における位置が導波部材122の中心のX方向における位置とは異なっている。なお、ここでは簡単のため、第1導電部材110が1個のスロット112を備えている場合の構成を説明する。後述するように、スロット112の数を2個以上にすれば、スロットアレイアンテナを実現できる。
【0059】
スロットアンテナ200は、第1導電部材110と、第2導電部材120と、導波部材122と、人工磁気導体(この例では、複数の導電性ロッド124を含む)とを備えている。第1導電部材110は、平面または曲面形状の第1導電性表面110aを有する。第1導電部材110は、スロット112を有する。第2導電部材120は、第1導電性表面110aに対向する第2導電性表面120aを有する。導波部材122は、第1導電部材110の第1導電性表面110aに対向するストライプ形状の導電性の導波面122aを有する。本明細書において「ストライプ形状」とは、縞(stripes)の形状を意味するのではなく、単一のストライプ(a stripe)の形状を意味する。一方向に直線的に延びる形状だけでなく、途中で曲がったり、分岐したりする形状も「ストライプ形状」に含まれる。「ストライプ形状」を「ストリップ形状」と称することもある。
【0060】
人工磁気導体は、第1導電部材110と第2導電部材120との間において少なくとも導波部材122の両側に位置する。導波部材122に隣接して、人工磁気導体として機能する複数の導電性ロッド124が導波部材122の両側に配置されている。
【0061】
スロットアンテナ200は、所定の帯域の電磁波の送信および受信の少なくとも一方に用いられる。当該所定の帯域の電磁波のうち、最も周波数が高い電磁波の自由空間における波長をλmとするとき、導波部材122の幅、各導電性ロッド124の幅、隣接する2つの導電性ロッド124の間の空間の幅、第1導電性表面110aと第2導電性表面120aとの間の距離、および、導波部材122に隣接する導電性ロッド124と導波部材122との間の空間の幅は、λm/2未満である。
【0062】
スロット112は、第1導電部材110に形成された貫通孔であり、第1導電部材110における導電性の内壁面によって囲まれた領域である。
図8Bに示すように、スロット112は、第1導電部材110を貫通して第1導電性表面110aに開口する開口112aを有する。開口112aは、スロット112において、第1導電性表面110aと同一の平面内にあるとみなせる部分を指す。スロット112の開口112aは、直線(線分)または曲線(複数の線分の組み合わせを含む)によって規定される長さと、長さ方向に垂直な方向の寸法である幅とを有する。なお、開口112aの長さを規定する直線または曲線とは、開口112aの縁の直線部分または曲線部分を指すものではなく、開口の幅方向の中央部を開口の一方の端から他方の端まで繋いだ仮想的な直線または曲線を指す。図示されるように直線的に延びたI型のスロット112では、開口の長さは、当該直線の長さに等しい。後述するように、スロット112は、I形状以外の形状を有していてもよい。
【0063】
図8Aの例におけるスロット112のY方向の長さは、自由空間における信号波の中心波長λoの半分よりも長い値に設定される。この条件が満たされているとき、波長λoの電磁波がスロット112を通過することができる。このようなスロット112をもつスロットアンテナ200は、導波部材122が延びる方向(Y方向)に垂直な方向(X方向)に電界が振動する電磁波を送信または受信することができる。
【0064】
図8Cは、スロット112と、導波部材122および複数の導電性ロッド124との配置関係を示す上面図である。
図8Cは、スロット112を第1導電部材110の導電性表面110aの法線方向から見たときの状況を示している。
図8Cにおいて、第1導電部材110の背面側(-Z方向側)にある導波部材122および複数の導電性ロッド124は、点線で示されている。導波部材122の導波面122aは、導波面122aの幅を規定する2つの縁122b1、122b2を有する。この例では、第1導電性表面110aの法線方向から見た場合に、スロット112の開口の幅方向と、導波面122aの幅方向とが一致している(ともにX方向)。スロット112の開口の全体は、導波面122aの一方の縁122b1の外側(
図8Cでは左側)において、第2導電部材120の第2導電性表面120aに対向している。第1導電性表面110aの法線方向から見た場合に、スロット112の開口は、導波面122aの2つの縁122b1、122b2のいずれとも交差せず、一方の縁122b1に近接している。
【0065】
スロットアンテナ200は、不図示の電子回路(例えばミリ波集積回路)に接続される。送信時には、導波部材122の導波面122aと、第1導電部材110の導電性表面110aとの間の導波路に、当該電子回路から電磁波(信号波)が供給される。
【0066】
図8Dは、送信時または受信時のある瞬間にスロット112の内部に形成される電界の例を模式的に示す図である。図中の矢印は電界の向きを、矢印の長さは電界の強さに対応している。スロット112は、X方向に短くY方向に長いI形状を有し、スロット112の中心のX方向における位置が、導波面122aの中心の位置から-X側に位置している。スロット112の内部に形成される電界の振動方向は、スロット112の内壁面に垂直であり、中央に近いほど振幅が大きい。このため、スロット112の中央付近において、導波面122aの幅方向(X方向)に振動する電界が形成される。すなわち、X方向に強い電界成分をもつ電磁波を送信または受信することができる。X方向を水平方向、Y方向を鉛直方向とした場合に、水平方向の偏波を送信または受信することが可能である。
【0067】
この例では、スロット112の開口の全体が第2導電性表面120aに対向している。このような構成に限らず、スロット112の開口の一部のみが第2導電性表面120aに対向していてもよい。
【0068】
図9Aは、スロット112の一部のみが第2導電性表面120aに対向している例を示す上面図である。この構成では、スロット112が、
図8Cに示す配置よりも+X側に位置している。その結果、スロット112の一部が第2導電性表面120aに対向し、スロット112の他の一部が導波面122aに対向している。このようなスロット112の配置であっても、X方向に電界が振動する電磁波を送信または受信することができる。
【0069】
図9Bは、スロット112の一部のみが第2導電性表面120aに対向している他の例を示す上面図である。この例では、平面視において、スロット112の長さ方向と、導波面122aが延びる方向(Y方向)とが交差している。スロット112の長さ方向と導波面122aが延びる方向とが成す角度は、45度よりも小さい。スロット112は、導電性表面110a、120aの法線方向から見た場合に、第2導電性表面120aに重なる部分と、導波面122aに重なる部分と、導電性ロッド124に重なる部分とを有している。送信または受信される電磁波の電界の主な方向は、導波面122aの幅方向(X方向)から45度未満の角度で交差する方向であり、X方向そのものではない。しかし、この場合でも、導波面122aが延びる方向(Y方向)よりも導波面122aの幅方向(X方向)に強い電界成分をもつ電磁波を送信または受信できる。
【0070】
以上のように、第1導電性表面110aの法線方向から見た場合に、スロット112の長さ方向と、導波面122aが延びる方向とが45度未満の角度で交差し、かつスロット112の開口の中心が導波面122aの中心線のX方向側に位置している。このような構成により、Y方向に比べてX方向の電界成分が大きい電磁波の送信および受信の少なくとも一方が可能である。
【0071】
以上の例においては、スロット112の形状がI形状であるが、スロット112は他の形状であってもよい。本開示の実施形態において、以下の要件(1)~(3)を満足している限り、スロットの形状および配置の態様は任意である。
(1)第1導電性表面110aの法線方向から見た場合に、スロット112の開口は、少なくとも開口の長さ方向における中央部において、開口の幅方向と、導波面122aの幅方向とが成す角が45度よりも小さい部分(「小角度部」と称する。)を含む。
(2)第1導電性表面110aの法線方向から見た場合に、小角度部の少なくとも一部が、導波面122aの2つの縁の一方の外側において、第2導電性表面120aに重なる。
(3)第1導電性表面110aの法線方向から見た場合に、小角度部は、導波面122aの2つの縁の当該一方と交差し且つ2つの縁の他方と交差しない、または、2つの縁の当該一方から、導波面122aの幅よりも短い距離を隔てて位置する。
【0072】
図10Aから
図10Eは、スロットアンテナ200において用いられ得るスロット112の開口の形状のいくつかの例を示している。これらの図において、矢印はスロット112の開口の長さ方向を示している。矢印の長さがスロット112の開口の長さを表している。各例におけるスロット112の開口は、直線(線分)または曲線(複数の線分の組み合わせを含む)によって規定される長さと、長さ方向に垂直な方向の寸法である幅とを有する。以下の説明において、スロット112の開口を、単にスロット112と称することがある。いずれの例においても、スロット112の長さは、高次の共振が起こらず、かつ、スロットインピーダンスが小さくなり過ぎない値に設定される。典型的には、スロット112の長さは、スロットアンテナ200の動作周波数帯域の中心周波数における電磁波の自由空間における波長をλoとして、λo/2よりも大きくλo未満の値に設定される。
【0073】
図10Aは、これまでに説明したI形状のスロット112の例を示している。I形状のスロット112では、スロット112の両端を結ぶ線分によって長さが規定される。長さ方向のどの位置でも、幅方向は一定である。スロット112の両端は丸くてもよいし、平らであってもよい。楕円に類似する形状または矩形形状のI型スロットを用いてもよい。I型のスロット112を用いる場合、スロット112の開口の全体が「小角度部」に該当するように配置される。すなわち、I型スロット112は、開口全体において幅方向が導波面122aの幅方向と成す角が45度未満になるように配置される。
【0074】
図10Bは、U字型の曲線(この例では3つの線分の組み合わせ)に沿って長さが定義されたスロット112の一例を示している。この例におけるスロット112は、平行な一対の直線状部分と、それらの端部同士を結ぶ他の直線状部分とを含む。
図10Bに示すスロット112を時計回りに90度回転させた形状は、アルファベットの「U」に類似する。このため、このようなスロット112を、本明細書では「U型スロット」と称することがある。U型スロットを用いる場合、中央部に相当する底部(
図10Bでは右側の直線状部分)が「小角度部」に該当するように配置される。
【0075】
図10Cは、逆Z字型の曲線(この例では3つの線分の組み合わせ)に沿って長さが定義されたスロット112の一例を示している。
図10Cに示すスロットを左右反転させ、Z字型の曲線に沿って長さが定義されたスロットを用いてもよい。このようなスロット112を、本明細書では「Z型スロット」と称することがある。Z型スロットも、平行な一対の直線状部分と、それらの端部同士を結ぶ他の直線状部分とを含む。Z型スロットを用いる場合、中央の直線状部分が「小角度部」に該当するように配置される。
【0076】
図10Dは、アルファベットの「H」に類似する形状を有するスロット112の一例を示している。このようなスロット112は、平行な一対の直線状部分と、一対の直線状部分の中央部同士を結ぶ他の直線状部分とを含んでいる。このようなスロット112を「H型スロット」と称することがある。H型スロット112の長さは、平行な一対の直線状部分の長さの和の半分と、当該一対の直線状部分の中心間の距離との和で定義される。H型スロットにおいては、中央の直線状部分が「小角度部」に該当するように配置される。
【0077】
図10Eは、円弧状の曲線によって長さが規定されるスロット112の一例を示している。円弧以外の曲線によって長さが規定されるスロットを用いてもよい。このようなスロット112を「曲線状スロット」と称することがある。直線的部分を含まない曲線状スロットでは、長さ方向に沿った位置によって幅方向が連続的に変化する。曲線状スロット112を用いる場合も、中央部分における幅方向が導波面122aの幅方向となす角が45度未満になるように配置される。
【0078】
次に、
図11Aから
図11Eを参照して、スロット112と導波面122aとの配置関係のいくつかの例を説明する。
図11Aから
図11Eにおいて、スロット112の開口の小角度部は、ハッチングで示されている。
図11Aから
図11Eは、いずれも第1導電性表面110aの法線方向から見た図である。見易さのため、スロット112および導波面122a以外の要素の図示は省略されている。
【0079】
図11Aは、スロット112がU型であり、スロット112の開口の一部が導波面122aに対向している例を示している。この例におけるスロット112の小角度部112sは、第1導電性表面110aの法線方向(導波面122aの法線方向と同じ)から見た場合に、導波面122aの2つの縁の一方と交差し、且つ他方の縁と交差していない。小角度部112sの一部は導波面122aに対向し、他の一部は第2導電性表面120aに対向している。この例では、導波面122aの幅方向から45度よりも小さい角度だけ傾いた方向に電界が振動する偏波が送信または受信される。
【0080】
図11Bは、スロット112がU型であり、スロット112の開口の全体が導波面122aに対向していない例を示している。この例におけるスロット112の小角度部112sは、第1導電性表面110aの法線方向から見た場合に、導波面122aの2つの縁のいずれとも交差しておらず、2つの縁の一方に接している。小角度部112sの全体が第2導電性表面120aに対向している。小角度部112sの幅方向が導波面122aの幅方向と一致しているため、当該方向に電界が振動する偏波が送信または受信される。
【0081】
図11Cは、スロット112が曲線状(または三日月状)スロットであり、スロット112の開口の一部が導波面122aに対向している例を示している。この例におけるスロット112の小角度部112sは、第1導電性表面110aの法線方向から見た場合に、導波面122aの2つの縁の一方と交差し、他方とは交差していない。小角度部112sの一部は導波面122aに対向し、他の一部は第2導電性表面120aに対向している。この例では、スロット112の中央部付近において、導波面122aの幅方向に近い方向に電界が振動する電磁波が送信または受信される。
【0082】
図11Dは、スロット112がZ型スロットであり、スロット112の開口の端部のみが導波面122aに対向している例を示している。第1導電性表面110aの法線方向から見た場合に、小角度部112sは、導波面122aの2つの縁の一方の外側において、第2導電性表面120aと重なっている。小角度部112sは、2つの縁の当該一方から、導波面122aの幅Wよりも短い距離Dを隔てて位置している。このように、平面視において小角度部112sが導波面122aから離れて位置していてもよい。ただし、離れすぎるとスロット112内に十分な強度の電磁界が形成されない。そこで、
図11Dの例では、平面視において、小角度部112sと導波面122aの近い方の縁との距離Dを、導波面122aの幅Wよりも短くしている。このような条件を満足していれば、スロット112内の電磁界の強度が極端に小さくなることが回避される。本明細書において、小角度部112sと導波面122aの一方の縁との距離Dは、小角度部112sの領域のうち、当該縁との距離が最も短くなる箇所と、当該縁との距離を意味する。
図11Dのスロット112を用いた場合、小角度部112sの中央部付近に、導波面122aの幅方向と45度未満の角度で交差する方向に電界が振動する偏波が送信または受信される。
【0083】
図11Eは、スロット112がH型スロットであり、スロット112の開口が導波面122aの2つの縁を跨いで配置されている例を示している。第1導電性表面110aの法線方向から見た場合に、小角度部112sは、導波面122aの2つの縁の一方と交差し、他方とは交差していない。しかし、スロット112の開口の小角度部112s以外の部分(2つの端部)は、導波面122aの2つの縁の両方と交差している。このような構成であっても、スロット112の中央部において、導波面122aの幅方向に電界が振動する偏波を送信または受信することができる。
【0084】
以上のように、本開示の実施形態において使用され得るスロット112の形状および配置は様々である。上記要件(1)~(3)を満たすことにより、導波面122aの幅方向または当該方向から45度未満の角度で交差する方向に電界が振動する偏波の送信および受信の少なくとも一方が可能である。
【0085】
次に、複数のスロットを備えたスロットアンテナ(スロットアレイアンテナ)の構成例を説明する。
【0086】
図12は、導波面122aに沿って配置された複数のスロット112を備えるスロットアレイアンテナ200Aの構成例を模式的に示す斜視図である。
図13は、この例における複数のスロット112と、導波面122aおよび複数の導電性ロッド124との配置関係を示す上面図である。この例では、第1導電部材110は、導波面122aの2つの縁の一方122b1の側に位置する複数のスロット112と、2つの縁の他方122b2の側に位置する複数のスロット112とを有する。以下の説明において、前者の複数のスロットを、「第1種のスロット」と称し、その集合を「第1スロット群」と称することがある。後者の複数のスロットを、「第2種のスロット」と称し、その集合を「第2スロット群」と称することがある。複数のスロット112の各々はI形状を有している。各スロット112の長さ方向は導波部材122が延びる方向(Y方向)に一致している。各スロット112の開口の全体は、第2導電性表面120aに対向しており、導波面122aおよび複数の導電性ロッド124の先端部には対向していない。言い換えれば、第1導電性表面110aの法線方向から見た場合に、各スロット112の開口は、導波部材122および人工磁気導体に重ならない。
【0087】
この例では、複数の第1種のスロットと、複数の第2種のスロットとが、交互に並んでいる。言い換えれば、導波面122aに沿った方向(Y方向)について、第2種のスロットは、複数の第1種のスロットのうち、Y方向に隣接する2つの第1種のスロットの間に位置する。同様に、Y方向について、第1種のスロットは、複数の第2種のスロットのうち、Y方向に隣接する2つの第2種のスロットの間に位置する。このようなスロット112の配置を、「千鳥配置」(staggered Arrangement)と称することができる。
【0088】
複数のスロット112のうちの隣接する2つのY方向の中心間隔は、λg/2に設定されている。ここでλgは、スロットアレイアンテナ200Aの動作周波数帯域における中心周波数の電磁波(自由空間波長がλo)が導波面122aと第1導電性表面110aとの間の導波路を伝搬するときの波長である。隣接する2つのスロット112のY方向の中心間隔をλg/2にすることで、信号波の送信時に、隣接する2つのスロット112の位置における信号波の位相を半波長(180度またはπ)ずらすことができる。その結果、複数のスロット112から同一方向に電界が振動する電磁波を放射することができる。言い換えれば、複数のスロット112から位相の揃った電磁波を放射することができる。
【0089】
なお、導波部材122に沿った方向(Y方向)に隣接する2つのスロット112のY方向の中心間隔は、必ずしもλg/2である必要はない。Y方向において、最も近い2つの第1種のスロットの距離、および最も近い2つの第2種のスロットの距離がλgの整数倍であり、Y方向において、最も近い第1種のスロットおよび第2種のスロットの距離がλgの半整数倍であれば、同様の効果が得られる。また、用途によっては、これらの距離の条件を厳密に満たしていなくてもよい。例えば、Y方向において、最も近い2つの第1種のスロットの距離、および最も近い2つの第2種のスロットの距離は、ある距離a(aは0.5λo以上1.5λo未満)の整数倍であり、Y方向において、最も近い第1種のスロットおよび第2種のスロットの距離が、距離aの半整数倍であってもよい。
【0090】
このような構成によれば、複数のスロット112のそれぞれから、導波面122aの幅方向に電界が振動し、位相が揃った電磁波を送信するアレイアンテナを実現することができる。このため、例えばX方向を水平方向、Y方向を鉛直方向として、水平方向に電界が振動する偏波を送受信可能な高利得のアレイアンテナを実現し得る。
【0091】
上記のスロット112の形状、配置、数は一例であり、様々な変形が可能である。以下、変形例を例示する。
【0092】
図14Aは、各スロット112の一部が導波面122aに対向している例を示している。このような配置であっても、X方向に電界が振動する偏波を送信または受信できる。
【0093】
図14Bは、各スロット112の長さ方向が導波面122aの延びる方向(Y方向)から45度未満の角度で傾斜している例を示している。このような配置によれば、X方向から傾斜した方向に電界が振動する偏波を送信または受信することができる。
【0094】
以上の例においては、各スロット112の形状がI形状であるが、各スロット112は他の形状であってもよい。複数のスロット112のうち、導波面122aの一方の縁122b1の側に配置された第1種のスロットは、前述の要件(1)~(3)を満足していればよい。一方、導波面122aの他方の縁122b2の側に配置された第2種のスロットは、以下の要件(1’)~(3’)を満足していればよい。
(1’)第1導電性表面110aの法線方向から見た場合に、スロット112の開口は、少なくとも開口の長さ方向における中央部において、開口の幅方向と、導波面122aの幅方向とが成す角が45度よりも小さい部分(小角度部)を含む。
(2’)第1導電性表面110aの法線方向から見た場合に、小角度部の少なくとも一部が、導波面122aの2つの縁の他方122b2の外側(
図14における右側)において、第2導電性表面120aに重なる。
(3’)第1導電性表面110aの法線方向から見た場合に、小角度部は、導波面122aの2つの縁の他方122b2と交差し且つ2つの縁の一方122b1と交差しない、または、2つの縁の他方122b2から、導波面122aの幅よりも短い距離を隔てて位置している。
【0095】
要件(1’)~(3’)は、要件(1)~(3)とほぼ同じであるが、スロット112と導波面122aの2つの縁との位置関係が異なっている。
【0096】
以下、スロット112の形状および配置の他のいくつかの例を例示する。
【0097】
図15Aは、各スロット112がU形状を有している例を示している。
図15Bは、各スロット112がZ形状を有している例を示している。
図15Cは、各スロット112がH形状を有している例を示している。
図15Dは、各スロット112が曲線形状を有している例を示している。
図15Aから
図15Dのいずれの例においても、隣接する2つのスロット112のY方向の中心間の距離は、λg/2に設定されている。ただし、用途によってはλg/2以外の値に設定される場合もあり得る。各スロット112の中央部における幅方向が導波面122aの幅方向(X方向)にほぼ一致している。このため、X方向に強い電界成分をもつ電磁波を送信または受信することができる。
図15Aから
図15Dに示す各例において、各スロット112のX方向の位置を僅かに変えて中央付近の小角度部が導波面122aに対向するようにしてもよい。また、各スロット112をZ軸に平行な軸周りに回転させて、X方向から傾いた方向に電界が振動する偏波を送信または受信するようにしてもよい。
【0098】
次に、複数の導波部材を有するスロットアレイアンテナの例を説明する。
【0099】
図16は、複数の導波部材122を有するスロットアレイアンテナの構成を模式的に示す上面図である。
図16は、複数のスロット112と、複数の導波部材122および複数の導電性ロッド124との配置関係を示している。この例におけるスロットアレイアンテナは、隣り合う2つの導波部材122を含む複数の導波部材を備えている。導波部材122の数は、図示されている2つに限らず、さらに多数であってもよい。
【0100】
以下の説明において、
図16に示す2つの導波部材122のうち、左側の導波部材122を「第1導波部材」と称し、右側の導波部材122を「第2導波部材」と称することがある。第1導電部材110は、第1導波部材に沿って並ぶ複数のスロット112と、第2導波部材に沿って並ぶ複数のスロット112とを有する。
【0101】
このような構成によれば、複数のスロット112が2次元に配置されたスロットアレイアンテナを実現することができる。各スロット112から、X方向、またはX方向から45度未満の角度で傾斜した方向に強い電界成分をもつ電磁波を送信または受信することができる。
【0102】
次に、複数の導波部材122を有するスロットアレイアンテナの実施形態を説明する。
【0103】
図17Aは、例示的な実施形態によるスロットアレイアンテナ300を+Z方向からみた上面図である。
図17Bは、
図17AのB-B線断面図である。スロットアレイアンテナ300は、第1導電部材110と、第2導電部材120と、第3導電部材130と、第2導電部材120上の複数の導波部材122Uおよび複数の導電性ロッド124Uと、第3導電部材130上の導波部材122Lおよび複数の導電性ロッド124Lとを備える。第1導電部材110、第2導電部材120、第3導電部材130は、この順に間隙を空けて積層されている。
図17Bにおいては、わかり易くするために、複数の導波部材122U、122Lは、ハッチングで示されている。
【0104】
第1導電部材110は、正面側の第1導電性表面110bと、背面側の第2導電性表面110aとを有する。第2導電部材120は、第2導電性表面110aに対向する正面側の第3導電性表面120aと、その反対側の第4導電性表面120bとを有する。第3導電部材130は、第4導電性表面120bに対向する正面側の第5導電性表面130aを有する。ここで「正面側」とは、電磁波が放射される側または電磁波が到来する側を指し、「背面側」とは、正面側の反対側を指す。
【0105】
図示されるスロットアレイアンテナ300においては、第1導波路装置100aと、第2導波路装置100bとが積層されている。第1導波路装置100aは、複数のスロット112に直接的に結合する複数の導波部材122Uを備える。第2導波路装置100bは、第1導波路装置100aの複数の導波部材122Uに結合する導波部材122Lを備える。第2導波路装置100bの導波部材122Lおよび各導電性ロッド124Lは、第3導電部材130上に配置されている。第2導波路装置100bは、基本的には、第1導波路装置100aの構成と同様の構成を備えている。
【0106】
図17Aに示すように、第1導電部材110は、第1の方向(Y方向)および第1の方向に交差(この例では直交)する第2の方向(X方向)に配列された複数のスロット112を備える。複数の導波部材122Uの導波面122aは、Y方向に延びている。各導波部材122Uの導波面122aは、複数のスロット112のうち、Y方向に並んだ6つのスロットを含む第1スロット群(前述の第1種のスロットに相当)、およびY方向に並んだ6つのスロットを含む第2スロット群(前述の第2種のスロットに相当)に結合する。この例では導電部材110は、48個のスロット112を有しているが、スロット112の数はこの例に限定されない。また、各スロット112の形状および位置もこの例に限定されない。隣接する2つの導波面122aの中心間隔は、例えば波長λoよりも短く設定され、より好ましくは、波長λo/2よりも短く設定される。
【0107】
図17Cは、第1導波路装置100aにおける複数の導波部材122Uの平面レイアウトを示す図である。
図17Dは、第2導波路装置100bにおける導波部材122Lの平面レイアウトを示す図である。これらの図から明らかなように、第1導波路装置100aにおける各導波部材122Uは直線状に延びており、分岐部も屈曲部も有していない。一方、第2導波路装置100bにおける導波部材122Lは分岐部および屈曲部の両方を有している。第2導波路装置100bにおける「第2導電部材120」と「第3導電部材130」との組み合わせは、第1導波路装置100aにおける「第1導電部材110」と「第2導電部材120」との組み合わせに相当する。
【0108】
第1導波路装置100aにおける各導波部材122Uは、第2導電部材120が有するポート(貫通孔)145Uを通じて第2導波路装置100bにおける導波部材122Lに結合する。言い換えると、第2導波路装置100bの導波部材122Lを伝搬してきた電磁波は、ポート145Uを通って第1導波路装置100aの導波部材122Uに達し、第1導波路装置100aの導波部材122Uを伝搬することができる。このとき、各スロット112は、導波路を伝搬してきた電磁波を空間に向けて放射する放射素子として機能する。反対に、空間を伝搬してきた電磁波がスロット112に入射すると、その電磁波はスロット112の直下に位置する第1導波路装置100aの導波部材122Uに結合し、導波部材122Uを伝搬する。導波部材122Uを伝搬してきた電磁波は、ポート145Uを通って第2導波路装置100bの導波部材122Lに達し、導波部材122Lを伝搬することも可能である。第2導波路装置100bの導波部材122Lは、第3導電部材130のポート145Lを介して、外部にある導波路装置または電子回路(例えば高周波回路)に結合され得る。
図17Dには、一例として、ポート145Lに接続された電子回路310が示されている。電子回路310は、特定の位置に限定されず、任意の位置に配置されていてよい。電子回路310は、例えば、第3導電部材130の背面側(
図17Bにおける下側)の回路基板に配置され得る。そのような電子回路310は、例えば、ミリ波を生成するMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)などのマイクロ波集積回路を含み得る。電子回路310は、マイクロ波集積回路に加えて、他の回路、例えば、信号処理回路をさらに含んでいてもよい。そのような信号処理回路は、例えばスロットアンテナアレイを備えたレーダシステムの動作に必要な各種の処理を実行するように構成され得る。電子回路310は、通信回路を含んでいてもよい。通信回路は、スロットアンテナアレイを備えた通信システムの動作に必要な各種の処理を実行するように構成され得る。
【0109】
図17Aに示される第1導電部材110を「放射層」と呼ぶことができる。
図17Cに示される第2導電部材120、複数の導波部材122U、および複数の導電性ロッド124Uの全体を「励振層」と呼ぶことができる。
図17Dに示される第3導電部材130、導波部材122L、および複数の導電性ロッド124Lの全体を「分配層」と呼ぶことができる。あるいは、「励振層」と「分配層」とをまとめて「給電層」と呼ぶこともできる。「放射層」、「励振層」および「分配層」は、それぞれ、一枚の金属プレートを加工することによって量産され得る。放射層、励振層、分配層、および分配層の背面側に設けられる電子回路は、モジュール化された1つの製品として製造され得る。
【0110】
この例におけるアレイアンテナ装置では、
図17Bからわかるように、プレート状の放射層、励振層および分配層が積層されている。このため、全体としてフラットかつ低姿勢(low profile)のフラットパネルアンテナが実現されている。例えば、
図17Bに示す断面構成を持つ積層構造体の高さ(厚さ)を10mm以下にすることができる。
【0111】
図17Dに示される導波部材122Lによれば、第3導電部材130のポート145Lから第2導電部材120の各ポート145U(
図17C参照)までの、導波路に沿った距離が全て等しい。このため、第3導電部材130のポート145Lから、導波部材122Lに入力された信号波は、第2導波部材122UのY方向における中央に配置された4つのポート145Uのそれぞれに同じ位相で到達する。その結果、第2導電部材120上に配置された4個の導波部材122Uは、同位相で励振され得る。
【0112】
なお、用途によっては、アンテナ素子として機能する全てのスロット112が同位相で電磁波を放射する必要はない。
図17Dに示される第3導電部材130のポート145Lから、
図17Cに示される第2導電部材120の複数のポート145Uまでの導波路に沿った距離が、それぞれの間で異なっていてもよい。励振層および分配層における導波部材122U、122Lのネットワークパターンは任意であり、図示される形態に限定されない。
【0113】
電子回路310は、
図17Cおよび
図17Dに示すポート145U、145Lを介して励振層における各導波部材122U上の導波路に接続されている。電子回路310から出力された信号波は、分配層で分岐した上で、励振層における複数の導波部材122U上を伝搬し、複数のスロット112まで到達する。X方向に隣接する2つのスロット112の位置で信号波の位相を同一にするために、例えば電子回路310からX方向に隣接する2つのスロット112までの導波路の長さの合計が実質的に等しくなるように設計され得る。
【0114】
本実施形態では、第2導電部材120上に4つの導波部材122Uが配置されているが、導波部材122Uの数は1つ以上の任意の数であってよい。導波部材122Uの数に応じて、第1導電部材110が有するスロット112の列数が決定される。導波部材122Uが単数である場合、第1導電部材110は、当該導波部材122Uに結合する2列の千鳥配列のスロット(第1スロット群および第2スロット群)のみを有していてもよい。この点は、以下の実施形態においても同様である。
【0115】
次に、本開示の他の実施形態を説明する。
【0116】
図18Aは、本開示の他の実施形態によるスロットアレイアンテナ300Aを示す平面図である。
図18Bは、スロットアレイアンテナ300Aを-Y方向から見た側面図である。このスロットアレイアンテナ300Aは、間隙を空けて積層された第1導電部材110と、第2導電部材120と、第3導電部材130とを備える。第2導電部材120上には、複数の導波部材122Uおよび複数の導電性ロッド124Uが配置されている。第3導電部材120上にも、複数の導波部材122Lおよび複数の導電性ロッド124Lが配置されている。第1導電部材110は、放射層210を構成する。第2導電部材120と、その上の複数の導波部材122Uおよび複数の導電性ロッド124Uは、励振層220を構成する。第3導電部材130と、その上の複数の導波部材122Lおよび複数の導電性ロッド124Lは、分配層230を構成する。各導電部材110、120、130は、例えば金属板を加工して成形され得る。各導電部材110、120、130は、成形された樹脂(プラスチック)にめっきを施して作製することも可能である。
【0117】
図19Aは、放射層210および励振層220の構成の一部を拡大して示す断面図である。
図19Aに示すように、第2導電部材120上の導波部材122Uの列と導電性ロッド124Uの列は、X方向に沿って交互に並んでいる。この例では、各導波部材122Uの高さ(すなわちZ方向における寸法)が各導電性ロッドの高さよりも小さい。このような構造により、各導波部材122Uに沿って伝搬する信号波の分離度(isolation)を高めることができる。
【0118】
図19Bは、放射層210の一部を拡大して示す図である。放射層210を構成する第1導電部材110は、複数のスロット112を有する。複数のスロット112は、複数のスロット列を構成している。
【0119】
各スロット列は、第1の方向(Y方向)に沿って配列された第1スロット群および第2スロット群を含む。第1スロット群は、Y方向に並ぶ複数のスロット112を含む。第2スロット群も同様に、Y方向に並ぶ複数のスロット112を含む。第2スロット群は、第1スロット群に隣接する。第1スロット群における各スロットのY方向における位置は、第2スロット群における各スロットのY方向における位置とは異なっている。Y方向において、第1スロット群における1つ以上のスロットの中心は、第2スロット群におけるいずれか2つの隣接するスロットの間に位置する。同様に、Y方向において、第2スロット群における1つ以上のスロットの中心は、第1スロット群におけるいずれか2つの隣接するスロットの間に位置する。
図18Aの例においては、第1スロット群のY方向における位置は、第2スロット群のY方向における位置から、導波路内の電磁波の波長の半分に相当する長さだけ離れている。第1スロット群および第2スロット群の配列は、前述の「千鳥配列」である。
【0120】
図19Bには、第1スロット群および第2スロット群に最も近い導波部材の導波面の中心線Cが破線で示されている。
図19Bの例のように、中心線Cからスロットまでの距離は、スロットごとに異なっていても良い。
図19Bの例では、スロットの列の端に近づくにつれて、スロットは導波面の中心線Cに近づいている。また、スロットの形状や幅も、同一である必要はなく、スロット列中の位置に応じて、適宜変化していても良い。第1スロット群、第2スロット群に、このような特徴を追加する事で、スロットアンテナの放射パターンを調節できる。なお、スロットの中心線Cからの距離が、スロット群内での位置に応じて異なる場合、そのスロット群を構成するスロットが並ぶ方向は、導波面が伸びる方向とは厳密には一致しない。しかし、スロット列の位置のずれが、導波面の幅の2倍未満である場合は、本明細書においては、導波面が延びる方向に沿ってスロットが並ぶ状態である、とする。
【0121】
第1導電部材110の正面側の第1導電性表面110bは、X方向に配列された複数のホーン114を規定する形状を有する。各ホーン114は、第1の方向(Y方向)に延びた構造を有する。各ホーン114は、第1導電性表面110bから立ち上がり、第1の方向に延びる導電性の一対の壁面114a(以下、導電壁114aとも称する)を含む。第1導電性表面110bに垂直な方向から見たとき、第1スロット群および第2スロット群は、一対の壁面114aの間に位置する。この例では、複数のホーン114は、複数のスロット列をそれぞれ収容する。すなわち、各ホーン114は、第1スロット群および第2スロット群を収容する。ここで「収容する」とは、ホーン114が有する導電壁によって包囲することを意味する。
【0122】
複数のホーン114は、第2の方向(X方向)に配列されている。
図18Aの例では、8列のホーン114が配列されている。このような構造により、複数のホーン114内のスロット112から、位相の異なる電磁波を放射することができる。
【0123】
図19Bに示すように、各ホーン114は、長手方向に延びる一対の導電壁114aを有する。各導電壁114aは、階段状(山型)に成形されている。導電壁114aの形状は、階段状に限らず、例えば傾斜した平面状であってもよい。
【0124】
各ホーン114の底部には、複数のスロット112(第1スロット群および第2スロット群)が設けられている。本実施形態における各スロット112の開口形状は矩形であり、その長手方向がY方向に一致している。ただしこのような形状、配置である必要はなく、必要なアンテナ特性に応じて適宜調整が可能である。
【0125】
図20Aは、励振層220を示す平面図である。
図20Bは、励振層220の一部を拡大して示す斜視図である。
図20Cは、励振層220の一部を拡大して示す平面図である。励振層220は、第2導電部材120と、その上の複数の導波部材122Uおよび複数の導電性ロッド124Uとを含む。第2導電部材120は、各導波部材122Uの中央部に、給電ポイントとなるポート145U(貫通孔)を有する。以下、ポート145Uを「給電スロット」と称することがある。各ポート145Uの開口は、X方向に延びる横部分と、横部分の両端からY方向に延びる一対の縦部分とからなる形状を有する。この例では、一対の縦部分は、横部分の両端から互いに逆方向に延びる。複数の導波部材122Uは、X方向に並んでいる。各導波部材122Uの導波面は、ポート145Uの近傍及び導波面の両端部の近傍に複数の凹部(切り欠き)を有する。これらの凹部の位置および深さは、所望の放射特性または受信特性を得るために、適切に設計されている。複数の導電性ロッド124Uは、複数の導波部材122Uに沿って並ぶ複数のロッド列を構成している。この例では、隣り合う2つの導波部材122Uの間には1つのロッド列が配置されている。
【0126】
図20Bに示すように、+Z方向から見た各導電性ロッド124Uの形状は、矩形状である。当該形状が正方形状である場合に比べて、各ロッド124UのY方向における寸法が小さい。また、Y方向に並ぶ隣接する2つのロッド124Uの間の隙間の幅は、例えばλm/10以下の範囲に設定され得る。この結果、各ロッド124UのY方向における配置周期(隣接するロッドの中心間の距離)は、λm/9以上λm/5未満の値に設定され得る。このような配置間隔であっても、導波部材122Uに沿って伝搬する高周波信号の漏れを防ぐことができる。
【0127】
図20Dは、第2導電部材120のポート145Uと、第1導電部材110における第1スロット群に含まれるスロット112Aおよび第2スロット群に含まれるスロット112Bとの位置関係を説明するための図である。図示されるように、導波部材122Uの導波面に垂直な方向(+Z方向)から見たとき、第1スロット群における各スロット112Aの中心は、導波面の中心を結ぶ線C(「中心線」と称する。)の一方の側(図では左側)に位置し、第2スロット群における各スロットの中心は、導波面の中心線Cの他方の側(図では右側)に位置している。この位置関係は、中心線Cが、第1スロット群における各スロットの中心が成す列と、第2スロット群における各スロットの中心が成す列との間を通る、とも表現できる。+Z方向から見たとき、第1スロット群および第2スロット群における各スロットの中心と導波面の中心線Cとの距離は、導波面の中心線Cと当該中心線Cに最も近い導電性ロッド124Uの中心との距離よりも短い。同様に+Z方向から見たとき、ポート145Uの中心は、第1スロット群に含まれるスロット112Aと、第2スロット群に含まれるスロット112Bとの間に位置する。より具体的には、導波面に垂直な方向から見たとき、ポート145Uの中心は、第1スロット群が分布する領域の中央部と第2スロット群が分布する領域の中央部との間に位置する。本実施形態では、ポート145Uは、いずれのスロットにも重ならないが、これらのうちの少なくとも一方に重なっていてもよい。
【0128】
図20Dに示すように、この例では、各ポート145Uの開口は、第1の方向(Y方向)に交差する第2の方向(X方向)に延びる横部分145lと、横部分145lの一端に接続され、Y方向に延びる第1の縦部分145t1と、横部分145lの他端に接続され、Y方向に延びる第2の縦部分145t2とを含む形状を有する。なお、縦部分145t1、145t2が延びる方向は、横部分145lが延びる方向に直交していなくてもよい。第1の方向(+Y方向)を正の方向、第1の方向の反対の方向(-Y方向)を負の方向とすると、第1の縦部分145t1の正の方向側の端部145p1は、第1の縦部分145t1の負の方向側の端部145n1よりも横部分145lに近い。また、第2の縦部分145t2の負の方向側の端部145n2は、第2の縦部分145t2の正の方向側の端部145p2よりも横部分145lに近い。第1の縦部分145t1の正の方向側の端部145p1は、第1の縦部分145t1の負の方向側の端部145n1よりも、第1スロット群のうちの、横部分145lに最も近いスロット112Aの中心までの距離が小さい。また、第2の縦部分145t2の負の方向側の端部145n2は、第2の縦部分145t2の正の方向側の端部145p2よりも、第2スロット群のうちの、横部分145lに最も近いスロット112Bの中心までの距離が小さい。
【0129】
図20Dの例では、第1の縦部分145t1の第1の方向(Y方向)における位置が、第2のスロット群に含まれるスロット112BのY方向における位置と部分的に重なっており、第2の縦部分145t2のY方向における位置が、第1のスロット群に含まれるスロット112AのY方向における位置と部分的に重なっている。このような構造に限定されず、第1の縦部分145t1および第2の縦部分145t2の少なくとも一方のY方向における位置が、第1スロット群および第2スロット群に含まれる少なくとも1つのスロットの第1の方向における位置と少なくとも部分的に重なるように、各スロットおよび貫通孔(ポート)が配置され得る。
【0130】
本実施形態では、+Z方向から見た各スロット112の開口の形状はY方向に延びる矩形形状(I型形状)であるが、
図10Aから
図10Eに例示されているような他の形状であってもよい。各スロット112の配置についても、図示される例に限定されない。例えば
図11Aから
図11Eを参照して説明したとおり、多様な配置が可能である。本開示の実施形態において、第1スロット群および第2スロット群に含まれる各スロットの開口は、その少なくとも中央部が、Y方向、またはY方向から45度未満の角度だけ傾斜した方向に延びた形状を有する。そのような構成により、Y方向よりもX方向の電界成分が大きい電磁波を放射することができる。複数のスロット112の向きが全て揃っている必要もない。所望の放射特性または受信特性に応じて、複数のスロット112の向きが個々に異なる態様も可能である。また、第1スロット群および第2スロット群のそれぞれに含まれる複数のスロットがY方向に沿って等間隔に並んでいなくてもよい。
【0131】
導波面に垂直な方向から見たとき、各ポート145Uは、対応する導波部材122Uの中央部にあり、第1スロット群の中央部と第2スロット群の中央部との間に位置する。各ポート145Uの位置は、導波部材122Uの中央部からずれていてもよい。
【0132】
図21Aは、分配層230の構成を示す平面図である。
図21Bは、分配層230の一部を拡大して示す図である。分配層230における第3導電部材130は、複数のポート145L(貫通孔)を有する。この例におけるポート145Lの数は8個である。これらのポート145Lは、Y方向における位置が交互にずれながら、X方向に沿って配列されている。
【0133】
第3導電部材130の導電性表面130a上には、複数の導波部材122Lおよび複数の導電性ロッド124Lが配置されている。複数の導波部材122Lの端部は、複数のポート145Lにそれぞれ接続されている。複数の導波部材122Lは、それぞれ独立し、1つ以上の屈曲部を有する。これらの導波部材122Lは、互いに異なる長さの経路で、ポート145Lから、第2導電部材120における対応するポート145Uに対向する位置まで延びている。このような構成により、位相の異なる電磁波を第2導電部材120の複数のポート145Uに供給することができる。
【0134】
複数の導電性ロッド124Lは、X方向およびY方向に沿って2次元的に配列されている。これらの導電性ロッド124Lは、各ポート145Lおよび各導波部材122Lを囲んでいる。各ポート145Lは、不図示の導波路を介して、MMICなどのマイクロ波集積回路を含む電子回路の端子に接続される。すなわち、電子回路は、複数のポート145Lを介して、導波部材122Lと第2導電部材120との間の導波路に接続される。なお、電子回路と導波路とを接続する構造は、例えば、米国特許出願第15/996795、米国特許出願第16/022893、米国特許出願第16/145491、米国特許出願第16/170172、米国特許出願第16/234749、および国際特許出願公開第2018/105513に開示されている。これらの文献の開示内容の全体を本願明細書に援用する。
【0135】
図21Bに示すように、各導波部材122Lは、屈曲部に凹部を有する。また、各導波部材122Lにおいてポート145Lに接続される一方の端部には切欠きがある。各導波部材122Lは、1つ以上の凸部も有する。これらの凹部および凸部は、各導波部材122Lと第2導電部材120との間の導波路のインピーダンスと、第2導電部材120のポート145Uのインピーダンスとを整合させるために設けられている。これらの凹部および凸部により、信号波の反射が抑制される。
【0136】
図22Aは、第2導電部材120における1つの導波部材122Uの中心を通りYZ面に平行な平面で切断したときのスロットアレイアンテナ300Aの断面図である。
図22Bは、
図22Aに示す構造の一部を拡大して示す図である。導波部材122Uは、ポート145Uによって2つの部分に分断されている。当該2つの部分を、第1リッジ122U1および第2リッジ122U2と称する。第1リッジ122U1および第2リッジ122U2は、ポート145Uを挟んで互いに対向する一対の導電性の端面122eをそれぞれ有する。第1リッジ122U1および第2のリッジ122U2における一対の端面122e、およびポート145Uは、中空導波路(hollow waveguide)を規定する。第1スロット群および第2スロット群におけるスロットのうち、第1リッジ122U1に沿って並ぶ一部のスロットは、第1リッジ122U1の導波面と第1導電部材110の背面側の第2導電性表面との間の第1の導波路を介して、ポート145U内の導波路、およびその下層の導波路に接続される。同様に、第1スロット群および第2スロット群におけるスロットのうち、第2リッジ122U2に沿って並ぶ残りのスロットは、第2リッジ122U2の導波面と第1導電部材110の背面側の第2導電性表面との間の第2の導波路を介して、ポート145U内の導波路、およびその下層の導波路に接続される。この例における下層の導波路は、導波部材122Lの導波面と第2導電部材120の背面側の第4導電性表面との間に形成されたリッジ導波路である。ポート145Uの下層の導波路は、リッジ導波路に限らず、中空導波管などの他の導波路であってもよい。
【0137】
本実施形態によれば、各スロット列の給電ポイントが、当該スロット列の途中(例えば中央)の1箇所のみにある。ポート145Uを通じて、第1スロット群および第2スロット群の配列の中央の1箇所から、第1スロット群および第2スロット群における各スロットに向けて給電される。給電スロットであるポート145Uから供給された電磁波を、各スロットから横偏波または斜め偏波として放射することが可能である。スロット列の両端から給電する構成と比較して、装置構成を簡単にすることができる。また、中空導波管を用いたスロットアレイアンテナと比較して、装置を小型化できる。このため、例えばミリ波のような高周波の電磁波を用いた場合においても、良好な放射特性または受信特性を実現することができる。
【0138】
次に、本実施形態の変形例を説明する。
【0139】
図23は、本変形例におけるスロットアレイアンテナ300Bを示す図である。
図24Aは、本変形例における励振層220を示す平面図である。
図24Bは、本変形例における励振層220の一部を拡大して示す図である。本変形例では、第2導電部材120における複数のポート145Uの開口形状がH形状である点で前述の実施形態とは異なる。その他の点は前述の実施形態と同様である。
【0140】
図24Cは、本変形例における各部材の位置関係を説明するための図である。
図24Cにおいて、励振層220における導波部材122U、導電性ロッド124U、およびポート145Uは、実線で示されている。放射層210におけるスロット122A、122B、およびホーン114の導電壁114aは、点線で示されている。分配層230における導電性ロッド124Lは、破線で示されている。なお、分配層230における導波部材122Lは、
図24Cには示されていない。
【0141】
この例におけるポート145Uの開口は、横部分145lと、第1の縦部分145t1と、第2の縦部分145t2とを含むH形状を有する。横部分145lの一端は、第1の縦部分145t1の両端の間に位置し、横部分145lの他端は、第2の縦部分145t2の両端の間に位置する。
【0142】
この例においては、千鳥配置された第1スロット群におけるスロット112Aおよび第2スロット群におけるスロット112Bと、その下側に位置する給電用のポート145Uとが、僅かに重なる。また、分配層230における導電性ロッド124Lと、ポート145Uとが僅かに重なる。このため、+Z方向から中央のスロット112A、112Bを見通すと、
図23に示すように、ポート145Uの端部を視認することができる。ポート145Uを電磁波が通過するとき、その中央部において強い電界が生じ、周辺部においては僅かな電界しか生じない。このため、ポート145Uの端部とスロット112A、112Bの端部との間に重なりが生じても、アンテナとしての機能は必ずしも損なわれない。このような構造により、スロット112A、およびスロット112Bの配置間隔を、より自由に選択する事が可能になり、スロットアレイアンテナ300Bの指向性を改善する事が容易になる。この例のように、導波部材122Uの導波面に垂直な方向から見たとき、ポート145U(貫通孔)の少なくとも一部は、第1スロット群に含まれる1つのスロットと、第2スロット群に含まれる1つのスロットの少なくとも一方に重なっていてもよい。
【0143】
図24Dは、他の変形例を示す図である。この例では、ポート145Uの形状が
図24Cにおける例とは異なっている。それ以外の点は、
図24Cの例と同様である。
図24Dに示す例でも、各ポート145Uの開口は、X方向に延びる横部分145lと、横部分145lの一端に接続され、Y方向に延びる第1の縦部分145t1と、横部分145lの他端に接続され、Y方向に延びる第2の縦部分145t2とを含む形状を有する。縦部分145t1、145t2が延びる方向は、横部分145lが延びる方向に直交していなくてもよい。第1の方向(+Y方向)を正の方向、第1の方向の反対の方向(-Y方向)を負の方向とすると、第1の縦部分145t1の負の方向側の端部は、第1の縦部分145t1の正の方向側の端部よりも横部分145lに近い。また、第2の縦部分145t2の正の方向側の端部は、第2の縦部分145t2の負の方向側の端部よりも横部分145lに近い。導波部材122Uの導波面に垂直な方向から見たとき、第1の縦部分145t1の正の方向側の端部は、第1スロット群の内の、横部分145lに最も近いスロット112Aと少なくとも部分的に重なり、第2の縦部分145t2の負の方向側の端部は、第2スロット群の内の横部分に最も近いスロット112Bと少なくとも部分的に重なる。このような構成でも、前述の構成と同様の特性が得られる。
【0144】
図17Aから
図24Dを参照して説明した各実施形態におけるスロットアレイアンテナは、第1スロット群、第2スロット群、導波部材122U、および貫通孔(ポート145U)の組み合わせを複数組有している。当該複数組の組み合わせは、第1の方向(Y方向)に交差するX方向に配列されている。複数の導電性ロッド124Uは、各導波部材122Uの周囲に位置している。本開示の実施形態はこのような形態に限定されない。例えば、スロットアレイアンテナは、第1スロット群、第2スロット群、導波部材122U、および貫通孔(ポート145U)の組み合わせを1つのみ有していてもよい。また、励振層、分配層を構成するに当たっては、導波路における様々の回路要素を利用する事ができる。それらの例は、例えば米国特許第10042045、米国特許第10090600、米国特許第10158158、国際特許出願公開第2018/207796、国際特許出願公開第2018/207838、米国特許出願第16/121768に開示されている。これらの文献の開示内容の全体を本願明細書に援用する。
【0145】
本開示の実施形態におけるスロットアレイアンテナは、例えば車両、船舶、航空機、ロボット等の移動体に搭載されるレーダ装置またはレーダシステムに好適に用いられ得る。レーダ装置は、上述したいずれかの実施形態におけるスロットアレイアンテナと、当該スロットアレイアンテナに接続されたMMICなどのマイクロ波集積回路とを備える。レーダシステムは、当該レーダ装置と、当該レーダ装置のマイクロ波集積回路に接続された信号処理回路とを備える。信号処理回路は、例えば、マイクロ波集積回路によって受信された信号に基づき、到来波の方位を推定する処理等を行う。信号処理回路は、例えば、MUSIC法、ESPRIT法、およびSAGE法などのアルゴリズムを実行して、到来波の方位を推定し、推定結果を示す信号を出力するように構成され得る。信号処理回路は、さらに、公知のアルゴリズムにより、到来波の波源である物標までの距離、物標の相対速度、物標の方位を推定し、推定結果を示す信号を出力するように構成されていてもよい。
【0146】
本開示における「信号処理回路」の用語は、単一の回路に限られず、複数の回路の組み合わせを概念的に1つの機能部品として捉えた態様も含む。信号処理回路は、1個または複数のシステムオンチップ(SoC)によって実現されてもよい。例えば、信号処理回路の一部または全部がプログラマブルロジックデバイス(PLD)であるFPGA(Field-Programmable Gate Array)であってもよい。その場合、信号処理回路は、複数の演算素子(例えば汎用ロジックおよびマルチプライヤ)および複数のメモリ素子(例えばルックアップテーブルまたはメモリブロック)を含む。または、信号処理回路は、汎用プロセッサおよびメインメモリ装置の集合であってもよい。信号処理回路は、プロセッサコアとメモリとを含む回路であってもよい。これらは信号処理回路として機能し得る。
【0147】
本開示の実施形態のスロットアレイアンテナは、小型化が可能なワッフルアイアン構造を備えているため、従来の構成と比較して、アンテナ素子が配列される面の面積を著しく小さくすることができる。このため、当該スロットアレイアンテナを搭載したレーダシステムを、例えば車両のリアビューミラーの鏡面の反対側の面のような狭小な場所、またはUAV(Unmanned Aerial Vehicle、所謂ドローン)のような小型の移動体にも容易に搭載することができる。なお、レーダシステムは、車両に搭載される形態の例に限定されず、例えば道路または建物に固定されて使用され得る。
【0148】
本開示の実施形態におけるスロットアレイアンテナは、無線通信システムにも利用できる。そのような無線通信システムは、上述したいずれかの実施形態におけるスロットアレイアンテナと、スロットアレイアンテナに接続された通信回路(送信回路または受信回路)とを備える。送信回路は、例えば、送信すべき信号を表す信号波をスロットアレイアンテナ内の導波路に供給するように構成され得る。受信回路は、スロットアレイアンテナを介して受信された信号波を復調してアナログまたはデジタルの信号として出力するように構成され得る。
【0149】
本開示の実施形態におけるスロットアレイアンテナは、さらに、屋内測位システム(IPS:Indoor Positioning System)におけるアンテナとしても利用することができる。屋内測位システムでは、建物内にいる人、または無人搬送車(AGV:Automated Guided Vehicle)などの移動体の位置を特定することができる。スロットアレイアンテナはまた、店舗または施設に来場した人が有する情報端末(スマートフォン等)に情報を提供するシステムにおいて用いられる電波発信機(ビーコン)に用いることもできる。そのようなシステムでは、ビーコンは、例えば数秒に1回、IDなどの情報を重畳した電磁波を発する。その電磁波を情報端末が受信すると、情報端末は、通信回線を介して遠隔地のサーバコンピュータに、受け取った情報を送信する。サーバコンピュータは、情報端末から得た情報から、その情報端末の位置を特定し、その位置に応じた情報(例えば、商品案内またはクーポン)を、当該情報端末に提供する。
【0150】
WRG構造を有するスロットアレイアンテナを備えたレーダシステム、通信システム、および各種監視システムの応用例が、例えば米国特許第9786995号明細書および米国特許第10027032号明細書に開示されている。これらの文献の開示内容の全体を本願明細書に援用する。本開示のスロットアレイアンテナは、これらの文献に開示された各応用例に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本開示のスロットアレイアンテナは、電磁波を利用するあらゆる技術分野において利用可能である。例えばギガヘルツ帯域またはテラヘルツ帯域の電磁波の送受信を行う各種の用途に利用され得る。特に小型化が求められる車載レーダシステム、各種の監視システム、屋内測位システム、および無線通信システムなどに用いられ得る。
【符号の説明】
【0152】
100 導波路装置
110 第1導電部材
110a、110b 第1導電部材の導電性表面
112 スロット
114 ホーン
114 ホーンの導電壁
120 第2導電部材
120a、120b 第2導電部材の導電性表面
122、122U、122L 導波部材
122a 導波面
124、124U、124L 導電性ロッド
124a 導電性ロッドの先端部
124b 導電性ロッドの基部
125 人工磁気導体の表面
130 第3導電部材
130a、130b 第3導電部材の導電性表面
200 スロットアンテナ
200A スロットアレイアンテナ
300、300A、300B スロットアレイアンテナ
310 電子回路
330 中空導波管
332 中空導波管の内部空間