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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】生体情報計測システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/242 20210101AFI20230620BHJP
   G01R 33/02 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
A61B5/242
G01R33/02 R
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019158120
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021035469
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000173795
【氏名又は名称】公益財団法人電磁材料研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早坂 淳一
(72)【発明者】
【氏名】菅原 和幸
(72)【発明者】
【氏名】植竹 宏明
(72)【発明者】
【氏名】荒井 賢一
(72)【発明者】
【氏名】金高 弘恭
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-192236(JP,A)
【文献】特開平05-151535(JP,A)
【文献】特開2017-147004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/24 - 5/398
G01R 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体情報を計測するためのシステムであって、
生体に与えられる刺激信号を発生する刺激信号発生器と、
複数の磁気センサが配列されることにより構成されている磁気センサアレイと、
解析処理装置と、
画像表示装置と、を備え、
前記複数の磁気センサのそれぞれが、
一対の主面を有する板状の誘電体基板と、
前記誘電体基板の一方の主面に積層され、前記一方の主面の前後に延在する信号線路層と、
前記一方の主面に積層され、前記信号線路層から左右それぞれに離間して前後に延在する第1接地導体層および第2接地導体層ならびに他方の主面に積層され、前記他方の主面の前後に延在する第3接地導体層により構成された伝送線路と、
前記第1接地導体層、前記第2接地導体層および前記第3接地導体層のいずれか一つの一端部に電気的に接続された単一の入出力端子と、
前記信号線路層の端部であって、前記入出力端子が設けられている一端部とは別の他端部の一部に積層された軟磁性薄膜と、を備え
前記軟磁性薄膜の前記一方の主面の前後方向の長さの前記一方の主面の左右方向の長さに対する比が1以上2以下である磁気センサであって、
外部磁場が印加されると、前記信号線路層の他端部の一部に積層された前記軟磁性薄膜の透磁率が変化し、前記伝送線路の他端部のインピーダンスが変化するとともに、前記入出力端子から入射される入射信号に対する反射信号の割合に基づいて外部磁場を検知し、
前記解析処理装置が、
前記伝送線路の前記入出力端子に入射信号を送信する機能と、
前記伝送線路の当該入出力端子から反射信号を受信する機能と、
前記反射信号を解析することにより前記複数の磁気センサのそれぞれの配置態様に応じた外部磁場の分布態様を検知する機能と、を有し、
前記画像表示装置が、前記刺激信号発生器により発生された刺激信号が付与された生体を対象として前記解析処理装置により検知された外部磁場の分布態様を表示することを特徴とする生体情報計測システム。
【請求項2】
請求項1記載の生体情報計測システムにおいて、
前記第1接地導体層、前記第2接地導体層および前記第3接地導体層のうちいずれか一つの他端部と前記信号線路層の他端部とが電気的に短絡されていることを特徴とする生体情報計測システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の生体情報計測システムにおいて、
前記入出力端子を介して接続され、前記第1接地導体層、前記第2接地導体層および前記第3接地導体層のうちいずれか一つの他端部から送信信号の波長の4分の1の長さの同軸ケーブルまたは線路を介して前記解析処理装置に接続されていることを特徴とする生体情報計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気的計測手段を用いて生体情報を計測するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
脳卒中による片麻痺や脊髄損傷による四肢麻痺のために自発運動が困難になった筋肉あるいは関節を、本人の意思と努力によってわずかでも動かし、その際に生じる動きの、部位、方向および強さに対応する信号をセンサで検出する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。例えば、手の指などの人体の特定箇所に取り付けられた複数の反射器の位置が、複数のCCDカメラを用いた光学的センサにより測定される。センサ信号のレベルに応じて、強度および繰り返し回数が異なるパルス磁場を発生させ、磁気刺激によって筋収縮を生じさせる。この過程が繰り返されて、脳の可塑性が積極的に利用されることにより新たな神経ネットワークの構築が図られることにより、効果的なリハビリテーションが実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5893367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本人の意思に応じた神経活動があるにもかかわらず手の指などの動きがごくわずかあるいは皆無である場合、そこに取り付けられた反射器の位置の変化が光学的センサによって測定することは困難であり、リハビリテーションの進行が停滞する可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、磁気的計測手段を用いて生体情報の計測精度の向上を図りうるシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の生体情報計測システムは、生体情報を計測するためのシステムであって、生体に与えられる刺激信号を発生する刺激信号発生器と、複数の磁気センサが配列されることにより構成されている磁気センサアレイと、解析処理装置と、画像表示装置と、を備え、前記複数の磁気センサのそれぞれが、一対の主面を有する板状の誘電体基板と、前記誘電体基板の一方の主面に積層され、前記一方の主面の前後に延在する信号線路層と、前記一方の主面に積層され、前記信号線路層から左右それぞれに離間して前後に延在する第1接地導体層および第2接地導体層ならびに他方の主面に積層され、前記他方の主面の前後に延在する第3接地導体層により構成された伝送線路と、前記第1接地導体層、前記第2接地導体層および前記第3接地導体層のいずれか一つの一端部に電気的に接続された単一の入出力端子と、前記信号線路層の端部であって、前記入出力端子が設けられている一端部とは別の他端部の一部に積層された軟磁性薄膜と、を備え、前記軟磁性薄膜の前記一方の主面の前後方向の長さの前記一方の主面の左右方向の長さに対する比が1以上2以下である磁気センサであって、外部磁場が印加されると、前記信号線路層の他端部の一部に積層された前記軟磁性薄膜の透磁率が変化し、前記伝送線路の他端部のインピーダンスが変化するとともに、前記入出力端子から入射される入射信号に対する反射信号の割合に基づいて外部磁場を検知し、前記解析処理装置が、前記伝送線路の前記入出力端子に入射信号を送信する機能と、前記伝送線路の当該入出力端子から反射信号を受信する機能と、前記反射信号を解析することにより前記複数の磁気センサのそれぞれの配置態様に応じた外部磁場の分布態様を検知する機能と、を有し、前記画像表示装置が、前記刺激信号発生器により発生された刺激信号が付与された生体を対象として前記解析処理装置により検知された外部磁場の分布態様を表示することを特徴とする。
【0007】
本発明の生体情報計測システムによれば、以下に説明するように磁気センサアレイを構成する複数の磁気センサのそれぞれの小型化および高密度化が可能であり、微小な検知対象部に近接することが可能であるため、外部磁場の検知精度の向上および空間分解能の向上が図られている。すなわち、この磁気センサは、外部磁場が印加されると、伝送線路の他方の端部の一部に積層された軟磁性薄膜の透磁率が変化し、伝送線路の端部(終端)のインピーダンスが変化するとともに、(解析処理装置から送信される)入射信号に対する(伝送線路からの)反射信号の割合(反射係数)が変化する機構を有し、よって、反射係数が解析されることにより、外部磁場が検知されうる。このような形態の磁気センサであれば、軟磁性薄膜と伝送線路とを有する磁気センサであっても、伝送線路の高周波電流を通電するための2つの端子を必要とせず、単一の同軸ケーブルまたは線路のみで磁気信号が得られる。このため、磁気センサの小型化および高密度化が可能であり、微小な検知対象部に近接することが可能な磁気センサが実現できる。
【0008】
よって、対象とする生体の特定箇所が外観上は動いていないまたはほとんど動いていなくても、刺激信号が付与された当該生体の神経、あるいは筋肉の活動により生じる微小な磁場の変化が、当該磁場の分布態様として検知され、かつ、可視化される。これにより、例えば、リハビリテーション中の患者に対して、意思に応じて身体は動いてないものの神経が活動をしており、リハビリテーションが進展していることを実感させ、さらなるリハビリテーションの推進に取り組むモチベーションを与えることができる。
【0009】
本発明の生体情報計測システムを構成する磁気センサアレイ、ひいてはこれを構成する各磁気センサは、軟磁性薄膜の容易軸と直交する方向に、所定の磁気バイアスを印加する機構を有する。磁気バイアスの強さは、軟磁性薄膜の異方性磁界の大きさと同等であることが望ましい。なお、異方性磁界は、軟磁性薄膜の困難軸方向の磁化曲線で磁場が飽和に達する磁界の強さである。異方性磁界の大きさ程度の磁気バイアスを印加することで、軟磁性薄膜の磁化回転に伴う比較的大きな透磁率を得ることができ、磁気センサの感度の向上が図られる。
【0010】
本発明の生体情報計測システムを構成する磁気センサアレイ、ひいてはこれを構成する各磁気センサは、前記第1接地導体層、前記第2接地導体層および前記第3接地導体層のうちいずれか一つの他端部(終端部)と前記信号線路層の他端部(終端部)とを電気的に短絡させていることが好ましい。終端部を短絡させることで、外来雑音の影響を受け受け難くなり、動作が安定する。また、反射係数の磁性薄膜の透磁率変化に対する変化量が増加し、感度の向上が図られる。終端部の短絡の方法としては、信号線路層と接地導体層を電気的に接続する方法と、信号線路層と接地導体層を(金属的な)軟磁性薄膜を介して電気的に接続する方法がある。
【0011】
本発明の生体情報計測システムを構成する磁気センサアレイ、ひいてはこれを構成する各磁気センサは、前記入出力端子を介して接続され、前記第1接地導体層、前記第2接地導体層および前記第3接地導体層のうちいずれか一つの他端部から送信信号の波長λの1/4の長さ(=λ/4)を有する同軸ケーブルまたは線路を介して解析処理装置に接続してもよい。
【0012】
抵損失の同軸ケーブル(あるいは単に「線路」)のλ/4周期の共鳴を利用することによって、より効果的に外部磁場に応じた反射係数の変化が捉えられる。また、同軸ケーブルの長さが調節されることで、最適条件の周波数が調整されうる。これは、複数個の磁気センサを集積化させるアレイ状の構造を形成する場合には、一つ一つの磁気センサの特性を合わせる必要があり、有効な手段となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態の生体情報計測システムの構成に関する説明図。
図2】複数の磁気センサが並べられて構成されている磁気センサアレイの構成に関する説明図。
図3】磁気センサアレイを構成する磁気センサの構成に関する説明図。
図4】磁気センサの構成に関する他の説明図。
図5】信号線路層の近傍に発生する磁界分布に関する説明図。
図6】比較例の磁気センサの斜視図。
図7】比較例の磁気センサの概念的側面図。
図8】第1変形実施形態としての磁気センサの構成に関する説明図。
図9】第2変形実施形態としての磁気センサの構成に関する説明図。
図10】第3変形実施形態としての磁気センサの構成に関する説明図。
図11】軟磁性薄膜、信号線路層および接地導体層の配置例に関する説明図。
図12】磁気センサモジュールを構成する解析処理装置のブロック図。
図13】軟磁性薄膜の印加磁気バイアスと磁化容易軸との関係に関する説明図。
図14】磁気センサの伝送線路の終端部の拡大図。
図15】伝送線路の終端部のインピーダンスと反射率との関係に関する説明図。
図16】磁気バイアスの印加機構を有する磁気センサの部分拡大図。
図17】磁気バイアスの他の印加機構を有する磁気センサの部分拡大図。
図18】同軸ケーブル(線路)を有する磁気センサの構成に関する説明図。
図19】神経の興奮を表わす磁気信号の検出結果に関する説明図。
図20】複数回の刺激に対する神経の興奮による磁気信号波形に関する説明図。
図21】神経の興奮の信号振幅の累積分布関数に関する説明図。
図22】生体情報計測システムの磁気センサアレイの配置例に関する説明図。
図23】電気刺激に対する磁気信号波形に関する説明図。
図24A】微小磁界発生源からの磁気信号の評価結果(高周波信号の直交成分における磁気信号の振幅)に関する説明図。
図24B】微小磁界発生源からの磁気信号の評価結果(高周波信号の同相成分における磁気信号の振幅)に関する説明図。
図25A】高周波信号の直交成分における磁気信号の周波数依存性に関する説明図。
図25B】高周波信号の同相成分における磁気信号の周波数依存性に関する説明図。
図26】磁気センサの高周波信号の同相成分および直交成分のそれぞれの出力特性に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(生体情報計測システムの構成)
図1に示されている本発明の一実施形態としての生体情報計測システムは、刺激信号発生器20、電極202、磁気センサアレイ22、信号増幅器24、混合器26、濾過器27、解析画像生成装置28および画像表示装置29を備えている。刺激信号発生器20、信号増幅器24、混合器26および濾過器27は、後述する解析処理装置200を構成する(図12参照)。
【0015】
刺激信号発生器20は、動物の身体の指定箇所、例えば、人間の上肢において尺骨神経Nvが通っている第1指定箇所に配置された電極202を通じて電気刺激または磁気刺激を付与する。尺骨神経Nvが興奮(刺激によって神経細胞の膜電位が活動電位に達すること)し、その活動電位が軸索上を伝導したときに、尺骨神経Nvの近傍に磁界が生じる。神経損傷などによって興奮しない場合または活動電位が伝導しない場合には磁界が生じない。また、この磁界の強度は、神経から離れるにつれて急激に減衰する。よって、磁界の分布様態は神経の解剖学的構造、配置および機能状態によって異なる。
【0016】
磁気センサアレイ22は、尺骨神経Nvが通っている第2指定箇所の近傍に配置され、磁界信号を検出する。信号増幅部24は、磁界信号を増幅する。混合器26は、刺激信号発生器20の刺激信号と、磁気センサアレイ22により検出された磁界信号とを乗算する。濾過器27は、混合器24の出力信号から高周波帯の信号成分を除去する。解析画像生成装置28は、神経または筋肉の解剖学的構造、配置および機能状態を表わす画像を生成する。画像表示装置29は、当該画像を表示する。
【0017】
(磁気センサアレイの構成)
図2には、複数の磁気センサ1が並べられて構成されている磁気センサアレイ22が示されている。磁気センサアレイ22は、検知曲面Cの法線方向に感軸方向が一致するように配された複数の磁気センサ1と、複数のコネクタ160と、複数のコネクタ160のそれぞれを介して複数の磁気センサ1のそれぞれに接続された複数の同軸ケーブル162と、を有している。当該構成の磁気センサアレイにより、検知曲面Cの詳細な二次元の磁気情報が得られる。
【0018】
図3および図4に示されている磁気センサ1は、誘電体基板100と、誘電体基板100の上面101に前後に延在する略矩形状に積層された信号線路層110と、誘電体基板100の上面101において信号線路層110から左右それぞれに離間して前後に延在する一対の略矩形状の接地導体層121(第1接地導体層)および接地導体層122(第2接地導体層)と、誘電体基板100の下面102に形成された接地導体層124(第3接地導体層)と、接地導体層124、121および122により構成される伝送線路120の一端部に電気的に接続される入出力端子160と、当該伝送線路120の他端部に部分的に積層された軟磁性薄膜140と、を備えている。接地導体層124は省略されてもよい。
【0019】
誘電体基板100としては、例えば、半導体系の単結晶シリコン、ゲルマニウム、化合物半導体系のGaAs、GaN、SiC、ZnSe、CdS、ZnO、InP、SiGeや、水晶、サファイヤ、ガラスの他、セラミックス系のアルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム、ジルコニア、炭化珪素、チタニア、イットリア、またはそれらの複合材料からなる基板が用いられてもよい。
【0020】
信号線路層110、伝送線路120、接地導体層121-124としては、Al、Cu、Au、Pt、Ag、Ti、あるいは、それらの積層薄膜が用いられてもよい。
【0021】
軟磁性薄膜140としては、Co-Fe-Si-B、Co-Nb-Zr系のアモルファス薄膜、Fe-Si、Fe-Zr-N系の微結晶薄膜、あるいは、それらの薄膜の間にSiOなどの薄い絶縁層を挟んで積層した多層薄膜、Ni-Fe、 Fe-Si-Al系の結晶性薄膜、さらには、Fe-Si合金、Fe-Co-Ni合金、センダスト合金のバルク材料、Co-Fe-Ni-Si-B、Fe-Co-Ni-Zr、 Fe-Ni-B、 Co-Fe-Zr、 Co-Zr系のアモルファス合金薄帯、軟磁性フェライトからなる薄膜が用いられてもよい。
【0022】
薄膜磁石150としては、Pt-Fe系、SmCo系、Nd-Fe-B系、Sm-Fe-N系、Nd-Fe-N系のスパッタ薄膜、あるいは、Mn-Al-Co、Co-Pt、Fe-Pt、Fe-Al-Niなどの金属系バルク磁石、酸化物系のフェライト磁石、希土類系のSmCo、Nd-Fe-B磁石が用いられてもよい。
【0023】
軟磁性薄膜140は、信号線路層110の近傍に配置されていることが望ましい。図5には、信号線路層110の近傍に発生する磁界分布が示されている。信号線路層110に高周波電流(角周波数ω)が流れると、図3に示されているように信号線路層110の周囲に磁界B(ω)が生じる。磁界B(ω)の強さは、信号線路層110から離れるにしたがって急減する。また、電界E(ω)は、信号線路層110と接地導体層121、122との間に強く分布する。伝送線路120の特性インピーダンスは、電界E(ω)および磁界B(ω)の比によって定義され、電界E(ω)および磁界B(ω)が分布する信号線路層110の近傍媒体の誘電率εおよび透磁率μに強く依存する。よって、信号線路層110の近傍に高透磁率の軟磁性薄膜140が配置されることにより、外部磁場に敏感な特性インピーダンスの変化が得られる。この特性インピーダンスの変化を、後述する解析処理装置200を用いて解析することで、高感度な磁気センサが実現される。
【0024】
図6および図7に示されているように、第1軟磁性薄膜141が信号線路層110の一端部に積層され、第2軟磁性薄膜142が第1軟磁性層薄膜141に連続し、かつ、信号線路層110の延在方向に沿ってそのほぼ全域にわたって積層される場合、第2軟磁性膜142の反射損により、磁気感度が低下する。つまり、第2軟磁性膜142の領域は、被検知対象物23との間の距離が大きく、外部磁界の影響が及ばず、単に、第2軟磁性薄膜142の存在によるインピーダンスの不整合のために、外部磁場の検出に寄与しない反射21が生じる。第1軟磁性薄膜141の領域は、外部磁場の大きさに応じて第1軟磁性薄膜141の透磁率が効果的に変化しインピーダンスが変わることで、外部磁場の検出に寄与する反射22が生じる。
【0025】
したがって、図8に示されているように、軟磁性薄膜140は信号線路層110の一端部の上側に配置されていることが好ましい。あるいは、図9に示されているように、軟磁性薄膜140は信号線路層110の一端部の下側に配置されていることが好ましい。あるいは、図10に示されているように、軟磁性薄膜140は信号線路層110の一端部の左右両側に配置されていることが好ましい。軟磁性薄膜140の当該配置態様により、外部磁場に敏感な特性インピーダンスの変化が得られる。この特性インピーダンスの変化が、後述する解析処理装置200を用いて解析されることにより、高感度な磁気センサが実現される。
【0026】
図11に示されているように、略矩形状の軟磁性薄膜140の感軸方向(信号線路層110の長手方向)のサイズaおよび不感軸方向(信号線路層110の幅方向)のサイズbの比率である、当該軟磁性薄膜140のアスペクト比a/bは、1以上でありかつ2以下であること(1≦a/b≦2であること)が好ましい。軟磁性薄膜140のアスペクト比a/bが1未満である場合、感軸方向の反磁界の影響により磁気感度が低下するためであり、アスペクト比a/bが2を超える場合、被検知対象物との間の距離が大きくなる領域の拡大に伴って反射損が増加し、磁気感度が低下するためである。
【0027】
また、軟磁性薄膜140の不感軸方向のサイズbは、信号線路層110の幅b1と、信号線路層110と接地導体層121、122との間隙b2の2倍との和b3(b1+2b2)以下であり、かつ、信号線路層110の幅b1以上であること(b1≦b≦b1+2b2であること)が好ましい。軟磁性薄膜140の不感軸方向のサイズbがb1未満である場合、信号線路層に流れる高周波電流によって生じる磁界Bに影響を及ぼす軟磁性薄膜のサイズが小さく、磁気感度が低下するためであり、軟磁性薄膜140の不感軸方向のサイズbがb1+2b2を超える場合、信号線路層に流れる高周波電流によって生じる磁界Bの及ばない(b1+2b2より大きな)領域にまで軟磁性薄膜があることと、軟磁性薄膜の感軸方向のサイズaが一定としたときに、アスペクト比a/bが小さくなり、感軸方向の反磁界の影響により磁気感度が低下するためである。
【0028】
外部磁界が及ぶ範囲は、当該磁界を発生する検知対象物からの距離の3乗に反比例して急減する。ゆえに、基本的には、軟磁性薄膜140のサイズは可能な限り小さくし、当該磁界が及ぶ範囲に全体が含まれるように配置されることが望ましい。
【0029】
軟磁性薄膜140の長さaが長くなるにつれて、軟磁性薄膜140の磁気抵抗が増加するため、漏れ磁束が増加する。したがって、軟磁性薄膜140の長さaが一定以上に長いことは、磁界に対する軟磁性薄膜140のインピーダンスの変化に寄与しない。
【0030】
また、磁界が及ぶ範囲を超えた領域にある軟磁性薄膜140は、伝送線路120の反射損の原因となり、同様に軟磁性薄膜140のインピーダンスの変化に寄与しない。
【0031】
さらには、信号線路層110に流れる電流によって生成される磁界(疑似TEMモード)は、信号線路層の近傍(両端の接地導体層までの範囲)に集中するため、軟磁性薄膜140の不感軸方向の長さbをb1+2b2より大きくすることは無用である(先述のアスペクトの要件より、軟磁性薄膜の長さaが長くなる)。
【0032】
図12には、本発明の一実施形態としての磁気センサモジュールを構成する解析処理装置200のブロック図が示されている。解析処理装置200は、高周波信号発生器210、増幅器212、214、216、218、241、242、サーキュレータ220、分配器222、224、226、251、252、混合器231、232、261、262、263、264、参照信号を生成する参照信号発生器20、および、低域通過フィルタ271、272、273、274を備えている。低域通過フィルタ271、272、273、274のそれぞれを通じて、高周波信号の第1同相成分(I)および第1直交成分(Q)と、磁界信号の第2同相成分および第2直交成分の組合せからなる4通りの出力が得られる。
【0033】
参照信号発生器20は、図1の刺激信号発生器20により構成され、電極202を介して人体に付与される刺激信号と同等の参照信号を生成するように構成されている。第5増幅器241および第6増幅器242は、図1の増幅器24を構成する。第3混合器261、第4混合器262、第5混合器263および第6混合器264は、図1の混合器26を構成する。第1低域通過フィルタ271、第2低域通過フィルタ272、第3低域通過フィルタ273および第4低域通過フィルタ274は、図1の濾過器27を構成する。
【0034】
高周波信号発生器210により発生された高周波信号は、第1増幅器212により増幅され、第1分配器222を介してサーキュレータ220ならびに第1混合器231および第2混合器232の二方向に同位相で分配される。サーキュレータ220に供給される高周波信号は、第2増幅器214により増幅され、サーキュレータ220のポート1からポート2を経由して磁気センサアレイ22を構成する磁気センサ1の入出力端子に供給される。磁気センサ1によって、高周波信号が(検知対象物が発する)磁気信号で変調された高周波変調信号は、サーキュレータ220のポート2からポート3を経由し、第3増幅器216により増幅され、第2分配器224を介して第1混合器231および第2混合器232の二方向に同位相で分配される。
【0035】
一方、第1分配器222から第1混合器231および第2混合器232に供給される高周波信号は、第4増幅器218により増幅され、第3分配器226を介して第1混合器231および第2混合器232の二方向に同相かつ直交で分配される。第1混合器231の出力信号は、第5増幅器241により増幅され、第4分配器251を介して、第3混合器261および第4混合器262の方向に直交成分および同相成分のそれぞれが分配される。第2混合器232の出力信号は、第6増幅器242により増幅され、第5分配器252を介して、第5混合器263および第6混合器264の方向に直交成分および同相成分のそれぞれが分配される。
【0036】
第3混合器261において、参照信号発生器20が生成する参照信号と混合された第4分配器251の出力信号は、第1低域通過フィルタ271を介して不要なノイズが除去された後、高周波信号に同相であり、かつ、参照信号の直交成分を有する信号(第1信号)として出力される。第4混合器262において、参照信号発生器20が生成する参照信号と混合された第4分配器251の出力信号は、第2低域通過フィルタ272を介し、高周波信号に同相であり、かつ、参照信号の同相成分を有する信号(第2信号)として出力される。第5混合器263において、参照信号発生器20が生成する参照信号と混合された第5分配器252の出力信号は、第3低域通過フィルタ273を介し、高周波信号に直交であり、かつ、磁気信号の同相成分を有する信号(第3信号)として出力される。第6混合器264において、参照信号発生器20が生成する参照信号と混合された第5分配器252の出力信号は、第4低域通過フィルタ274を介し、高周波信号に直交で、かつ磁気信号の直交成分を有する信号(第4信号)として出力される。
【0037】
磁気センサ1の高周波信号の位相は、第1信号と第4信号との比率、あるいは第2信号と第4信号との比率から求められる。このため、高周波信号の位相調整器は不要であり、一定の感度が保持されうる。また、磁気センサ1の磁気信号の位相は、第2信号と第1信号との比率、あるいは、第3信号と第4信号との比率から求められる。このため、磁気センサ1と検知対象物の位相関係を考慮して煩雑な調整作業を行う必要がなく、簡便に高精度な計測を行うことが可能である。
【0038】
(軟磁性膜の一軸異方性、磁気バイアス)
図13には、磁気センサ1における伝送線路120における軟磁性薄膜140の拡大図が示されている。軟磁性薄膜140に対して、信号線路層110の長手方向(X軸)に磁気バイアスBbiasが印加されている。あらかじめ一軸異方性が付与された軟磁性薄膜140の磁化容易軸AEMは、信号線路層110の長手方向に対し略直交する方向に延在している。軟磁性薄膜140の磁化困難軸は、信号線路層110の長手方向に対して平行な方向に延在している。したがって、磁気バイアス42が信号線路層110の長手方向に与えられ、その強さが軟磁性薄膜140の異方性磁界と同等に調節されることで、軟磁性薄膜140の磁化回転により高い透磁率が得られ、高い磁気感度が実現される。
【0039】
また、軟磁性薄膜140に対して、信号線路層110の幅方向(Y軸)に磁気バイアスBbiasが印加されてもよい。この場合、軟磁性薄膜140の磁化容易軸AEMは、信号線路層110の長手方向に延在している。よって、軟磁性薄膜140の磁化困難軸は、信号線路層110の幅方向に延在している。したがって、磁気バイアスBbiasが信号線路層110の幅方向に与えられ、その強さが軟磁性薄膜140の異方性磁界と同等に調節されることで、軟磁性薄膜140の磁化回転により高い透磁率が得られ、信号線路層110の長手方向に直交するY軸方向の高い磁気感度が実現される。
【0040】
(伝送線路120の終端短絡)
図14に示されているように、信号線路層110と接地導体層121、122とが、電気的導体層1210および1220を介して短絡されることにより、磁気センサ1の伝送線路120の終端部が短絡されている。接地導体層接地導体層121、122は電気的導体層1210および1220が形成された後に積層され、軟磁性薄膜140は信号線路層110が形成された後に領域Sに積層される。
【0041】
伝送線路120の反射率Γは、関係式(1)により表わされる。
【0042】
Γ=(Z-Z0)/(Z+Z0) ‥(1)。
【0043】
ここで、Z0は伝送線路120の特性インピーダンス、Zは伝送線路120の終端部のインピーダンスである。図15には、伝送線路120の終端部のインピーダンスと反射率との関係が示されている。伝送線路120の特性インピーダンスZ0が50Ωで、終端部のインピーダンスZが同じ50Ωの場合、反射率Γは「0」となる。終端部に送信された電圧(あるいは電流)は、全て吸収され、反射電圧(あるいは電流)は「0」となる。
【0044】
また、伝送線路120の終端部が開放されている場合、あるいはその特性インピーダンスZ0に比べて極めて大きなインピーダンスを有する場合、反射率Γは「+1」となり、終端部に送信された電圧(あるいは電流)は全反射される。その一方、伝送線路120の終端部が短絡されている場合、あるいは特性インピーダンスZ0に比べて極めて小さなインピーダンスを有する場合、反射率Γは「-1」となり、終端部に送信された電圧あるいは電流は全反射(但し、逆相)される。
【0045】
本発明の磁気センサ1は、外部磁場に対する伝送線路120のインピーダンス変化を利用している。このインピーダンス変化量は、伝送線路120の終端部における反射率の変化量に依存することから、磁気感度を最大化するためには、外部磁場に対する反射率の変化量を大きくすればよい。伝送線路120の終端部の反射率Γの変化量ΔΓに関して、終端部のインピーダンスが開放されている場合(ΔΓ)、伝送線路120の特性インピーダンスZ0と等しい場合(50Ω終端のとき、ΔΓ50とする)、短絡されている場合(ΔΓ0)の大小関係は、図10により、関係式(2)としての不等式により表わされる。
【0046】
ΔΓ<ΔΓ50<ΔΓ0 ‥(2)。
【0047】
つまり、伝送線路120の終端部のインピーダンス(駆動点インピーダンス)が短絡されている場合、反射率の変化量が最大となり、大きな磁気感度が得られる。
【0048】
図16には、磁気バイアスの印加機構を有する磁気センサ1の部分拡大図が示されている。当該磁気センサ1は、信号線路層110および接地導体層121、122を有する伝送線路120の終端部が短絡され、当該終端部に薄膜磁石150および軟磁性薄膜140が積層された構造を有している。薄膜磁石150は、あらかじめ軟磁性薄膜140の長手方向に着磁されており、薄膜磁石150の磁界は、高透磁率を有する軟磁性薄膜140に誘導される。すなわち、薄膜磁石150および軟磁性薄膜140は閉磁路構造をなしている。よって、磁気バイアスが軟磁性薄膜140に対して効率よく付与される。
【0049】
この構造は、その他の磁気バイアスの機構、例えば、バルク磁石あるいはコイルに電流を流す方法に比べて小型化が可能である。コイルに電流を流す方法とは異なり消費電力が不要であるという利点がある。磁気バイアスの強さは、軟磁性薄膜140の異方性磁界の大きさと同等であることが望ましい。この異方性磁界の大きさは、軟磁性薄膜140の組成、成膜条件、熱処理条件等で調整することが可能である。また、薄膜磁石150の強さを示す残留磁化も、組成、成膜条件、熱処理条件等で調整することが可能である。
【0050】
図17には、磁気バイアスの他の印加機構を有する磁気センサ1の部分拡大図が示されている。この磁気センサ1は、支持基板100に形成されたダイヤフラム104に、信号線路層110および接地導体層121、122を有する伝送線路120の終端部が金属導体層1210、1220によって短絡され、当該終端部の直下において、他の支持基板100に薄膜磁石150および軟磁性薄膜140が積層された構造を有している。薄膜磁石150は、あらかじめ軟磁性薄膜140の長手方向に着磁されており、薄膜磁石150の磁界は、高透磁率を有する軟磁性薄膜140に誘導される。すなわち、薄膜磁石150と軟磁性薄膜140は、閉磁路構造をなしている。よって、効率よく磁気バイアスが軟磁性薄膜140に付与される。
【0051】
この構造は、小型化が可能で、消費電力が不要であることに加え、線路の構造体と、薄膜磁石150および軟磁性薄膜140を有する構造体を別々の工程で製作されたうえで、最終工程で組み立て可能である。このため、製作条件、特に薄膜磁石150の熱処理温度などを他の制約条件によらずに設計、製造が可能である。また、線路の直下が空洞であるため、当該線路の誘電損が低減されるという利点がある。
【0052】
図18には、同軸ケーブルまたは線路を有する磁気センサ1が示されている。磁気センサ1に所望の長さの同軸ケーブル162が接続されている。同軸ケーブル162において、外部磁界を検知する磁気センサ1の終端部から高周波信号の波長λの1/4λの整数倍の位置P1、P2、P3およびP4のそれぞれにおいて、並列および直列共鳴が生じる。同軸ケーブル162は、線路の形態および透磁率、誘電率の材料特性が一様で低損失であるため、極めて高い品質係数Qを示す。したがって、例えば、磁気センサ1の終端部から1/4λだけ離れている位置X1において、磁気信号が検出されれば解析処理装置200(図12参照)において大きな出力が得られる。同軸ケーブル162の長さが制御されることで、磁気感度が調整可能である。
【0053】
(機能)
図19には、刺激信号発生器20により上肢の第1指定箇所に対して与えられた刺激信号に応じて、第2指定箇所において磁気センサアレイ22により検出された、神経Nvの興奮または筋活動を表わす磁気信号が示されている。刺激期間T1においては、数Hz~3kHzの周波数の指定強度Bpの刺激信号211が第1指定箇所に与えられる。例えば、刺激信号211の強度は1~25mAの範囲で調節される。また、刺激信号211の周波数f0が1kHzであり、刺激回数nが100である場合、刺激期間T1は0.1秒となる。刺激信号211に対する神経Nvの興奮または筋活動に伴う磁気信号212は、刺激信号211の付与開始から僅かに遅れた時点から徐々に増加し、一定の大きさApで飽和する。その後、刺激信号211の付与が停止されると刺激停止期間T2において磁気信号212は徐々に減少して略0となる。
【0054】
図20は、複数回の刺激に対する神経の興奮、あるいは筋活動による磁気信号波形を示している。評価時間 T3における複数回の刺激に対する磁気信号波形 M{m1、m2、m3、‥、mp-1、mp}の信号振幅 A{A1、A2、A3、‥、Ap-1、Ap}が得られ、平均、標準偏差などの統計量を求めることができる。また、あらかじめ閾値Aを設定し、単一の刺激mpに対する磁気信号振幅Apの大きさから、神経の興奮、あるいは筋活動の有無を判定することもできる。評価期間T3における磁気信号波形 Mの平均値の大きさから、神経の興奮、あるいは筋活動の有無を判定してもよい。評価時間 T3は、例えば、刺激期間T1(=0.1秒(刺激周波数f0=1kHz、刺激回数n=100))、刺激停止期間T2(=1秒)の周期1.1秒を、10回繰り返す場合は11秒となる。
【0055】
図21は、本発明の生体情報計測システムによる神経の興奮、あるいは筋活動の信号振幅Aの累積分布関数である。同図中の累積分布関数41について考える。例えば、閾値Aに設定すると、評価期間T3における複数回の刺激に対する磁気信号波形 M{m1、m2、m3、‥、mp-1、mp}の信号振幅 A{A1、A2、A3、‥、Ap-1、Ap}の検出率はRsとなる。閾値が同じAであっても、累積分布42の場合の検出率は略零となり、累積分布43の場合の検出率は略1となる。閾値の設定値によって、検出率は変動する。
累積分布関数42の振幅信号Aが雑音によるものであり、閾値をAsより低いA sとした場合でも、検出率Rは同様の指示値Rsを示し、誤った事象を検出することになる。つまり、誤認率は高くなる。また、閾値をAsより高いA sとすると、検出率Rの指示値は低い値(略零)を示し、有効な事象を検出することができず、不検出率は高くなる。よって、検出率が高く、かつ雑音のような誤った事象を検出することがないように閾値を設定することが、誤検出率、不検出率を低く、信頼性の高い評価を行うためには重要であり、閾値はAsおよびA sの間に設定することが望ましい。
【0056】
図22には、生体情報計測システムを構成する複数の磁気センサアレイ22の配置例が示されている。掌上に等間隔で3×3の磁気センサアレイ22が配置されることで、各磁気センサアレイ22の配置態様に応じた掌全体の外部磁場の分布態様が同時刻に検知され、画像表示装置29に表示することができる。なお、磁気センサアレイ22が単一の磁気センサ1により構成されていてもよい。
【0057】
図23には、本発明の生体情報計測システムによる電気刺激に対する磁気信号波形が示されている。被験者の左前腕部の尺骨神経に電気刺激(周波数1kHz、時間100ms)を与え、左手掌(薬指と小指の付根付近)から発する磁気信号波形を計測できることを確認した。
【0058】
(実施例)
誘電体基板110としては、例えば表面に熱酸化膜(厚み1μm)が形成されたシリコン基板(厚み500μm)が用いられる。誘電体基板110としてのシリコン基板の上に、信号線路層110および接地導体層121、122、124(Au/Cu/Ti積層膜、厚み3μm)からなるコプレーナ構造が、公知のスパッタリング法などの薄膜形成技術およびフォトリソグラフィー技術によって形成される。
【0059】
2GHz帯の高周波信号を伝送するために、信号線路層110の幅は300μmに設計され、信号線路層110と接地導体層121、122との間隙は150μmに設計される。軟磁性薄膜140は、例えば、CoFeSiBアモルファス膜(1μm)であって、同様にスパッタリング法によって形成される。そのサイズは、例えば信号線路層110の幅と同等の幅300μmに設計され、長さはアスペクト比が2となるように600μmに設計される。また、軟磁性薄膜140に対して、磁場中熱処理(回転磁場中熱処理:290℃、10rpm、80kA/m、2時間、静磁場中熱処理:290℃、80kA/m、1時間)が施され、信号線路層110の幅方向と平行になる方向に磁化容易軸が付与される。なお、その異方性磁界Hkは約1kA/mであり、この値と同等の磁気バイアスを、軟磁性薄膜の磁化容易軸と直交する方向、つまり磁化困難軸方向に印加することで、磁気感度を最大化することができる。
【0060】
図17に示されているように、コプレーナ伝送線路構造体、軟磁性薄膜140および薄膜磁石150を有する検知構造体が別々の工程で製作され、最終工程で組み立てられてもよい。異方性エッチング法などによって、空洞98が形成されたシリコン基板100のダイヤフラム104の上に、信号線路110および接地導体層121、122が形成される。他のシリコン基板106の上に薄膜磁石150および軟磁性薄膜140が積層され、所望のパターンが形成される。そして、伝送線路120の端部の直下に軟磁性薄膜140のパターンが配置されるように、2つの構造体が種々の接合技術により接合される。
【0061】
コプレーナ構造の伝送線路120は、誘電体基板上の同一面に信号線路と接地導体層が形成されるため製作工程が簡素であるという利点があるが、設計上、ストリップ線路構造など他の伝送線路120であってもよい。
【0062】
感磁膜である軟磁性薄膜、例えば、CoFeSiBアモルファス膜のサイズは、前述のとおり300μm×600μmであり、検知対象物のサイズ(例えば、数mm)と比べても小さく、また、その検知対象物の近傍に配置することも可能である。そのため、微小な磁気源、検知対象物からの微弱な磁界を検出することができる。
【0063】
(評価結果)
図24Aおよび図24Bのそれぞれには、磁気センサの高周波信号発生器21により周波数1~3GHz、電力-10dBmの高周波信号が供給され、数mmサイズの磁界発生源(検知対象物)からの磁気信号が評価された結果が示されている。図24Aには、高周波信号の直交成分における磁気信号の振幅が示されている。図24Bには、高周波信号の同相成分における磁気信号の振幅が示されている。高周波信号の同相成分および直交成分のそれぞれにおいて、磁気バイアスHは1.3mTで最大値を示し、軟磁性薄膜の異方性磁界Hkの値と一致していることがわかる。また、高周波信号の周波数において、線路長の1/4λ共鳴の効果により、1.5GHzおよび2.3GHz付近に最大値がみられる。
【0064】
より詳細な結果が図25Aおよび図25Bに示されている。図25Aには、高周波信号の直交成分における磁気信号の周波数依存性が示されている。これは、磁気信号によって変調された高周波信号が第2混合器227において乗算され、さらに第5混合器236および第6混合器237において磁気信号の参照信号と乗算して得られた高周波信号の直交成分における磁気信号(振幅値)の高周波信号の周波数依存性である(図12参照)。図25Bには、高周波信号の同相成分における磁気信号の周波数依存性が示されている。これは、磁気信号によって変調された高周波信号が第1混合器226において乗算され、さらに第3混合器234および第4混合器235において磁気信号の参照信号と乗算して得られた高周波信号の同相成分における磁気信号(振幅値)の高周波信号の周波数依存性である(図12参照)。
【0065】
図25Aおよび図25Bのいずれにおいても、高周波信号の2.3GHz付近に高いQ値(約300以上)を示すピークがみられる。また、その前後にも線路内の多重反射によるピーク値がみられる(ただし、この部分は本質的ではない)。このように、高周波信号の1/4λの位置で、磁気信号が検出されることで、極めて大きな出力が得られる。同軸ケーブルの長さが調節されることで、磁気感度が調整可能である。
【0066】
図26には、磁気センサの高周波信号の同相成分および直交成分のそれぞれの出力特性が示されている。同相成分および直交成分の磁気感度は、各々98mV/μT、93mV/μTである。線形誤差は、各々0.4%FS、0.3%FSである。また、検出分解能は、ともに1nT以下である。本発明の磁気センサは、数mm以下の検知対象物からの極めて微弱な磁界を検出することが可能であり、電子回路基板、部品、電池等の異常欠陥の検査や、自動車、鉄道、航空機等の非破壊検査あるいは生体磁気を検出する手段として有望である。
【符号の説明】
【0067】
1‥磁気センサ、20‥刺激信号発生器(参照信号発生器)、22‥磁気センサアレイ、24‥増幅器、26‥混合器、27‥濾過器、28‥解析画像生成装置、29‥画像表示装置、100‥誘電体基板、110‥信号線路層、120‥伝送線路、121、122、124‥接地導体層、140‥軟磁性薄膜、141‥第1軟磁性薄膜、142‥第2軟磁性薄膜、160‥入出力端子、162‥同軸ケーブル、200‥解析処理装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24A
図24B
図25A
図25B
図26