(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】微小液滴製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
B81B 1/00 20060101AFI20230620BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20230620BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20230620BHJP
B01J 13/00 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
B81B1/00
G01N37/00 101
B01J19/00 321
B01J13/00 C
(21)【出願番号】P 2022579654
(86)(22)【出願日】2022-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2022014830
(87)【国際公開番号】W WO2022210476
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2021054498
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515177608
【氏名又は名称】ヨダカ技研株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100111785
【氏名又は名称】石渡 英房
(72)【発明者】
【氏名】平藤 衛
(72)【発明者】
【氏名】東 和彦
(72)【発明者】
【氏名】橋本 雅彦
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0314819(US,A1)
【文献】特開2019-005700(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0060890(US,A1)
【文献】特開2019-150748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81B 1/00
G01N 37/00
B01J 19/00
B01J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体を吸蔵する合成樹脂から形成された板状のチップ本体と、
前記チップ本体の1つの面に形成された分岐の無い1本の流路と、
前記流路を塞ぐ板状の流路蓋と、
前記流路の片方の端部と連通し、前記流路が形成されている面とは反対の面に開口した液体導入部と、
前記流路のもう一方の端部と連通し、前記流路が形成されている面とは反対の面に開口した液滴貯留部と、
前記液滴貯留部を封止するための陰圧蓋と
液滴貯留部と流路との接続部に段差を備え、
前記チップ本体を減圧したのちに、前記液体導入部から油相を導入することで、
前記液滴貯留部のふちに油相が溜まり、流路出口部が油相に完全に覆われている構造を有し、
前記液体導入部から水相を導入することで、
前記流路と前記液滴貯留部に段差を有する接続部で微小液滴が製造され
、
前記減圧が、真空包装機により行われ、気密性の高い包材で包装されていることを特徴とするマイクロ流体チップ。
【請求項2】
前記減圧が、絶対圧500Pa以下及び2時間以上の条件で行われることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項3】
気体を吸蔵する合成樹脂から形成された板状のチップ本体と、
前記チップ本体の1つの面に形成された分岐の無い1本の流路と、
前記流路を塞ぐ板状の流路蓋と、
前記流路の片方の端部と連通し、前記流路が形成されている面とは反対の面に開口した液体導入部と、
前記流路のもう一方の端部と連通し、前記流路が形成されている面とは反対の面に開口した液滴貯留部と、
前記液滴貯留部を封止するための陰圧蓋と
液滴貯留部と流路との接続部に段差を備え、
前記チップ本体を減圧したのちに、前記液体導入部から油相を導入することで、
前記液滴貯留部のふちに油相が溜まり、流路出口部が油相に完全に覆われている構造を有し、
前記液体導入部から水相を導入することで、
前記流路と前記液滴貯留部に段差を有する接続部で微小液滴が製造され
、
前記減圧が、真空包装機により行われ、気密性の高い包材で包装されていることを特徴とする微小液滴製造方法。
【請求項4】
前記減圧が、絶対圧500Pa以下及び2時間以上の条件で行われることを特徴とする請求項3に記載の微小液滴製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体制御装置、およびその製造方法に関する。詳しくはライフサイエンス研究に用いられる微小液滴(マイクロドロップレット)の製造機構であり、低コスト化、迅速化、単純化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のライフサイエンス研究分野では、マイクロ流体力学に基づいたマイクロ流体デバイス(マイクロ流体チップ)を工夫して医療応用を目指す研究開発が進められている。中でもバイオテクノロジーの研究分野や診断研究分野、医薬品生産技術研究において微小液滴(エマルジョン)を作製するニーズが高まっており、様々な流路パターンがデザインされ幅広く応用されようとしている。
【0003】
その中でも次世代シーケンサーの発展により、遺伝子配列を一度に多種類解読する能力が高まり、微小液滴を一つの反応容器として遺伝子増幅したのち、各微小液滴を破壊し再度中身の成分を混合して装置にかけ解析しても、それぞれの配列解読を行うことが出来るようになった。
【0004】
あるいは微小液滴を一つの反応容器として遺伝子増幅したのち、液滴内部で増幅が成功したもののみを蛍光色素で光らせ、光っている液滴の数を数えることで、自分が知りたい遺伝子数が元々どのくらい存在したかを1分子単位で検出できるようになった。
【0005】
更にはセルソーティング技術と組み合わせることで、微小液滴に包埋した微生物、免疫細胞などを1個ずつ高精度に漏らさず分取するというアプリケーションや、細胞が1個ずつ入っている微小液滴を顕微鏡下で微小液量スポイトを用いてピッキングするという試みも以前から行われている。
【0006】
このような微小液滴を作製する場合には、一般的に分岐流路を有するマイクロ流体チップを用いる。
【0007】
分岐流路を有するマイクロ流体チップには、連続相となる油相液用の注入口と、細胞などが含まれ分散相となる水相液の注入口が有り、そこにシリコンチューブやテフロン(登録商標)チューブなどの細くて柔軟性のあるチューブを接続し、加圧ポンプ(空圧、水圧、油圧、機械式)にてそれぞれ送液を行うのが一般的である。
【0008】
あるいは、マイクロ流体チップの各注入口をウェル形状にして、ウェル内に液を貯留したのち、空気の流入口がある蓋をして、その流入口から空気を送り圧力をかけることで送液を行う方法もある。
【0009】
しかしながら、このような従来法は、下記の問題を有している。
【0010】
(1)比較的高額で操作や調整が難しい送液システムを必要とする。
【0011】
(2) 送液制御が難しい分岐流路を有するマイクロ流体チップを用いる。
【0012】
(3) 低ボリュームのマイクロ流路を用いていながら、気泡抜きや最初の条件出しなどで相当量のデッドボリュームを発生させる。
【0013】
このような問題点を有しているがゆえに、本技術を使用できるユーザーは理工学系の知識を持つ研究者か、高額な自動化装置を購入できる研究者に限られていた。
【0014】
このような背景の中、(1)の問題点を解決する手段として、下記文献の技術が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特許第4410040号
【文献】特開2019-005700号公報
【0016】
特許文献1に記載のマイクロ流体チップは、ゴムのような弾性のある高分子材料で製作されており、マイクロ流路の複数の端部には開口するポートが存在し、マイクロ流路と連通している減圧室が外部と遮蔽され、これを脱気した後、大気中にて開口部から液体を導入し流路に流れ込み減圧室が密閉状態になることで減圧室内に存在する空気が高分子材料に溶解し、開口部との間に圧力差が生じる。この圧力差が存在している間、液体が減圧室に流れ込む機構となっている。
【0017】
特許文献2は、特許文献1の効果を更に発展させるために、減圧効果を高めた機構であり、マイクロ流路と連通している減圧部に網目状の微細構造空間を形成することにより、密閉空間の面積が拡大し、チップ本体内への吸蔵速度が大きくなり、特許文献1より大きな圧力差を生みだす仕組みとなっている。これに伴って液体が流れる速度が速くなり、微小液滴の製造速度も速くなる。また、微細構造空間において、吸蔵速度が大きな状態が持続することが予想される。
【0018】
このように特許文献1、2の技術により、(1)の問題は解決することができるが、しかしながら、(2)の分岐流路を用いること (3)のデッドボリュームを発生させる という課題は解決することが出来ていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上記従来技術の事情に鑑みてなされたものでありその課題と解決する処は、高額な送液装置を用いず、そのためマイクロ流体チップへの接続も必要なく、かつデッドボリュームを最小限に低減することで試薬代も節約され安価となり、分岐流路を用いずとも、高速に微小液滴が製造され、マイクロ流体力学の知識が無くても手軽にすぐ実験ができる、真空パックで包装された、微小液滴製造装置を提供することを目的とする。
【0020】
マイクロ流体チップへ液体を導入するもので一般的なのは、シリンジポンプを利用する場合と圧縮空気をバルブで徐々に開放するシステムを用いる場合とがある。
【0021】
シリンジポンプを利用する場合、チューブへの接続が必要となるため、マイクロ流体チップにシリコンチューブを接着したりコネクタを介してフッ素系チューブを接続したりという工夫を行う。その後、導入したい液体サンプルの種類分の台数となるシリンジポンプを準備し、それぞれ液体サンプルをシリンジの先端から吸い込み、シリンジ先端をマイクロ流体チップから来るチューブと接続し、シリンジをモーター装置にセットし、モーターを駆動させることで送液を行っている。
【0022】
圧縮空気とバルブのシステムを利用する場合、まず高圧チャンバーがあり、その蓋に接続されているチューブから圧縮空気がチャンバー内に流れ込む構造となっている。その蓋を開けて中に液体サンプルが入った容器をセットし、蓋から延びるチューブの先端を容器中の空間に配置し、高圧チャンバーを閉じる。これも各液体サンプルの種類分、装置を準備しそれぞれセットを行った後に、バルブの開閉による制御で送液を行っている。
【0023】
いずれの装置にしても、それぞれ1台分の体積や重さは、マイクロ流体チップに比べていずれも数百倍~数千倍になり、そのポンプシステムが実験部材のほとんどを占める。また、これらの装置を研究者が個別に準備した場合でも数十万円の費用がかかり、既にシステム化された製品では200~300万円が市場価格となっている。
【0024】
また、前記のように装置を使用する場合、マイクロ流体チップに複数のチューブから同時に液体を流すと流路内に気泡を噛んでしまい、液体の流れを変えてしまい、実験結果に悪影響を及ぼすことが頻繁に発生する。このため、最初に気泡を抜く作業を行うのが一般的であるが、そのために使用する試薬の量がデッドボリュームとなりうる。
【0025】
加えて、微小液滴製造に使用する試薬が重量当たり2,000円~3,000円/gと高額な部類に入るため無駄に使用するとコストがかさむ。
【0026】
他にも、微小液滴製造を分岐流路で行う際に、流路設計としてレイノルズ数や流路断面積などの数値を用いるが、これらの数値を持ってマイクロ流路の設計を行っても、実験時の気温、湿度、材質、液体の種類などによって刻々と条件が変わってしまう。これは分岐流路の形状が複雑になればなるほど顕著に表れるが、それを前記送液装置の流量調整をもって最適化を行う。
【0027】
しかしながら、このような調整には高度なノウハウが必要となるため本来の生物学的実験から離れて、流体力学や液体操作技術を駆使しなければならなくなるなど、目的からかけ離れていってしまうことがある。
【0028】
このように、従来のマイクロ流体チップによる微小液滴製造には多くの課題が存在するため、高い必要性がありながらライフサイエンス研究の多くの研究者は使用したことが無いのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0029】
上記従来技術にかかる状況において本発明者は鋭意研究を重ねたところ、微小液滴の製造が、従来の分岐流路部ではなくマイクロ流路と液滴貯留部の境界で高速に行われることを見出した(
図1~
図3)。
【0030】
この現象は、微小液滴製造装置(
図4)の減圧されている液滴貯留部(
図5)に吸引力によって油相がマイクロ流路を介して流れ込み、マイクロ流体チップの材質と油相のなじみやすさを起因に油相が液滴貯留部の底壁際を満たしてマイクロ流路の出口を塞いでいる構造を造り出し、水相が前記同様の吸引力によって液滴貯留部に流れ込もうと油相に突入すると、
図6のように接触部で水相がひとだま形状を経て流路出口部の段差と油相によってちぎられ球状の液滴に変わるというものである。
【0031】
前記
図6に示すように、液滴に変わる直前において水相はマイクロ流路出口付近で急激に絞られた形状に変化したのち、圧力が解放される貯留部分に一部が出ると、上部方向への吸引力により、ひとだま形状を経て細くなった部分を流路上部の段差を用いて油相に切られ、球状となる。
【0032】
この現象を作り出すにあたり最低限必要となる材料は、1本のマイクロ流路を有する板状のマイクロ流体チップと、前記マイクロ流路の両端と連通して流路とは反対の面に開口する液体導入部および液滴貯留部と、前記マイクロ流路を塞ぐ流路蓋と、前記液滴貯留部を塞ぐ陰圧蓋と、液滴を製造するための連続相となる油相と、水相と、である。
【0033】
微小液滴製造では顕微鏡観察をおこなうため、ここで使用するマイクロ流体チップは、透明性と低蛍光性を必要とする。そのような性質があれば特に材質を限定するものでないが、最もよく使用されている材質はPDMSであり、これは半導体製造技術を応用して鋳型を作り、その型に常温において液状の前記物質を流して、高温処理(70℃以上)により固め、剥離することで高い転写性を持ってマイクロ構造を作り出せる。また、気体を吸蔵する性質を持つため最適な材質と言える。
【0034】
また、マイクロ流体チップには板状構造の広い面の片側に直線、または曲線、あるいは折れ曲がった線となる分岐の無い1本以上の流路構造があり、片方の端部に液体を導入するために開口した液体導入部と、もう片方の端部に液滴貯留部を備えている。
【0035】
前記流路は、大きさは特に限定されないが、製造したい液滴の大きさが10μm~1000μm付近であることを考慮すると、断面積は1mm2以下、より好ましくは0.5mm2以下、より好ましくは0.2mm2以下である。
【0036】
加えて、マイクロ流体チップには流路構造とは反対側の面に、形状や手法は特に限定しないが、レーザー加工や鋳型転写によりマイクロパターンが形成されており、マス目状や格子状であればよく、特にこの場合にはマス目状が好ましい。
【0037】
液体導入部は、大きさ及び形状は特に限定されないが、ピペットによる液体導入の容易さから、直径1mm以上の円筒形が望ましい。
【0038】
液体貯留部は、大きさ及び形状は特に限定されないが、均一な液滴を効率よく製造するため、前記流路の断面積に対して、液体貯留部の断面積は2倍以上、より好ましくは4倍以上、更に好ましくは10倍以上である。
【0039】
マイクロ流路を塞ぐ流路蓋は分散相となる水相になじまない材質の方が好ましく、平滑な板形状であればよく、顕微鏡観察をおこなうため、透明性、低蛍光性があればなおよい。このような性質であれば特に材質を限定するものでないが、PDMS、COP、PMMA、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリエチレンなどの透明プラスチックか、もしくはガラスであれば疎水性コートを施したガラスの方がより好ましい。
【0040】
前記、マイクロ流体チップの流路構造とは反対側の面に形成されたマイクロパターン部と液滴貯留用開口部とを減圧する際には1枚、もしくはそれぞれの部分に陰圧蓋が必要となるが、これは平滑な板形状であればよく、顕微鏡観察をおこなうため、透明性、低蛍光性があればなおよい。このような性質であれば特に材質を限定するものでないが、PDMS、COP、PMMA、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリエチレンなどの透明プラスチックか、もしくはガラスであればよい。
【0041】
また、前記陰圧蓋には、形状や手法を特に限定するものではないが、レーザー加工や鋳型転写によりマイクロパターンが形成されていてもよく、前記マイクロパターンの形状はマス目状や格子状であれば好ましく、作成の容易さから特にマス目状が好ましい。
【0042】
前記液滴貯留部から製造された液滴を回収するため、前記陰圧蓋には貫通孔が形成されていてもよく、液滴製造の際には陰圧状態を保つため、前記貫通孔がシール等で塞がれていることが好ましい。
【0043】
油相は分散相となる水相と相溶しなければ特に限定しないが、フッ素系オイルが好ましく、特にパーフルオロエーテル、パーフルオロカーボンが好ましい。
【0044】
また、前記油相は界面活性剤を含んでいればなお良く、前記油相に溶解すればその種類や量は特に限定されない。
【0045】
水相は前記油相と相溶しなければ特に限定されないが、純水、水溶液、エマルジョン、細胞懸濁液、生体抽出液、血液が好ましい。
【0046】
また、前記水相は界面活性剤を含んでいても良く、液滴製造を妨げなければその種類や量は特に限定されない。
【0047】
液滴を製造するには、前記微小液滴製造装置を減圧したのちに、液体導入部より油相を導入し、次に水相を導入することで液滴を製造する。前記減圧条件は特に限定されないが、絶対圧500Pa以下、2時間以上で行うことが好ましく、より好ましくは350Pa以下で6時間以上行うことが好ましい。
【0048】
前記減圧は、真空包装機を用いて真空包装された状態で使用者に提供することで、使用性が向上する。前記真空包装で使用する包材は特に限定されないが、真空状態を長く維持するために、ナイロン製、ポリエチレン製、アルミ製が好ましく、あるいはこれらの複合材が多層構造となっているものがより好ましい。
【0049】
参考までに従来技術の図を以下に示す。微小液滴製造時に用いられているT字流路図(
図13)とT字流路を用いて微小液滴を作製している写真像図(
図14)、および十字流路図(
図15)と十字流路を用いて微小液滴を作製している写真像図(
図16)を表す。
【発明の効果】
【0050】
本発明は、以上の構成となり、高額な装置を用いず、マイクロ流体チップへの接続も必要ない部分は文献2と同様であるが、かつデッドボリュームを最小限に低減し、試薬代も節約され安価になり、分岐流路を用いずとも高速に微小液滴が製造され、マイクロ流体力学の知識が無くても手軽にすぐ実験ができる、真空パックで包装された、微小液滴製造装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】微小液滴製造装置を用いて液滴製造を始めた直後の液滴貯留部と流路の接続部の写真像図である。
【
図2】前記接続部にて液滴を30個ほど製造した写真像図である。
【
図3】前記接続部にて液滴を50個ほど製造した写真像図である。
【
図5】
図4で丸囲いした微小液滴製造装置の液滴貯留部である。
【
図11】微小液滴製造装置を真空パックした図である。
【
図13】一般的な液滴製造で用いられるT字流路の図である。
【
図14】
図13と同等の流路で液滴を製造している写真像図である。
【
図15】一般的な液滴製造で用いられる十字流路の図である。
【
図16】
図15と同等の流路で液滴を製造している写真像図である。
【
図17】実施例1で用いたマイクロ流体チップの流路構造図である。
【
図18】前記流路とは反対の面にレーザー加工機を用いて形成した格子状マイクロパターンの写真像図である。
【
図19】流路蓋と陰圧蓋を密着させた、デシケーターに設置する前の微小液滴製造装置の図である。
【
図20】前記、微小液滴製造装置を用いて微小液滴を製造している途中の液滴貯留部の写真像図である。
【
図21】実施例2で用いたマイクロ流体チップの流路構造図である。
【
図22】前記流路とは反対の面にレーザー加工機を用いて形成した格子状マイクロパターンの写真像図である。
【
図23】実施例2で用いた微小液滴製造装置を真空パックした写真像図である。
【
図24】前記、微小液滴製造装置を用いて微小液滴を製造している途中の液滴貯留部の写真像図である。
【
図25】実施例3で用いたマイクロ流体チップの流路構造図である。
【
図26】前記マイクロ流体チップの写真像図である。
【
図27】レーザー加工機を用いて形成した格子状マイクロパターンの写真像図である。
【
図28】前記、微小液滴製造装置を用いて微小液滴を製造している途中の液滴貯留部の写真像図である。
【
図29】実施例4で用いた微小液滴製造装置の液滴貯留部と流路と、その間にある幅広流路の写真像図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明を実施例に基づき、より具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0053】
実施例1 デシケーターにより減圧した微小液滴製造装置を用いての液滴製造
1-1)マイクロ流体チップの作製
(
図17)に示す流路構造を有したマイクロ流体チップを、標準的なソフトリソグラフィ工程により作製した。なお、マイクロ流体チップの材質はPDMSである。流路の幅は250μm、高さは31μmである。次に大きな圧力差を生み出すための格子状マイクロパターンを、流路とは反対の面にレーザー加工機を用いて形成した(
図18)。
得られたチップ本体を流路蓋となるポリカーボネート基板に密着させたのち、この流路の両端と連通するようにして、液滴導入部はφ5mm、液滴貯留部にはφ6mmのポンチにより貫通孔を形成した。
【0054】
1-2)微小液滴の製造
液滴貯留部及びレーザー加工されたマイクロパターンを塞ぐように陰圧蓋となるスライドグラスを密着させた(
図19)のち、デシケーター内に配置して減圧した。絶対圧350Paに到達後、ポンプとデシケーターの間にあるバルブを閉め、圧力漏れの無い状態を作り、6時間静置し、デシケーターからチップを取り出し液体導入部の開口部を上にして、机上に乗せた。その直後に、液体導入部より油相(RTFLS-2%10 emulseo.com)10μLを、マイクロピペットを用いて導入し、約10秒後に前記と同じ液体導入部より青色に着色した水相(Indigo Carmin CI-73015 東京化成工業)40μLをピペットにより導入し油相の上に乗せた。
滴貯留部において、吸引力は陰圧蓋方向(この場合上方向)にかかるが油相はマイクロ流体チップ材質への相互作用が強く、また用いている油相の比重が高い(1.1~1.2)ため液体貯留部の底壁際となる端に溜まり、流路の出口を塞ぐ。その状態を保持しながら水相が液滴貯留部に流れ込むと、ひとだま形状を経て、流路出口部の段差と油相によってちぎられ液滴を形成する。
この状態で液滴貯留部と流路の連通部を観察した様子が(
図20)である。25秒間にわたり連続的に高速で液滴が製造された。液滴直径は約170μm、製造速度は640個/秒であった。
【実施例2】
【0055】
実施例2 真空包装機により減圧した微小液滴製造装置を用いての液滴製造
2-1)マイクロ流体チップの作製
図20に示す流路構造を有したマイクロ流体チップを、標準的なソフトリソグラフィ工程により作製した。なお、マイクロ流体チップの材質はPDMSである。流路の幅は250μm、高さは31μmである。次に大きな圧力差を生み出すための格子状マイクロパターンを、流路とは反対の面にレーザー加工機を用いて形成した(
図21)。
得られたチップ本体を流路蓋となるポリカーボネート基板に密着させたのち、この流路の両端と連通するようにして、液滴導入部はφ5mm、液滴貯留部にはφ6mmのポンチにより貫通孔を形成した(
図22)。
【0056】
2-2)微小液滴の製造
液滴貯留部及びレーザー加工されたマイクロパターンを塞ぐように陰圧蓋となるスライドグラスを密着させたのち、真空用ポリパック(HEIKO ナイロンポリ バリアタイプ SPN-1217)内に収め、真空包装機内に配置して減圧した。絶対圧350Paに到達後、約20秒間減圧状態を保ち、自動シールのうえ真空パックを得た(
図23)。15時間後に真空パックを開封し、液体導入部より油相(RTFLS-2%10)10μLを、マイクロピペットを用いて導入し、約20秒後に前記と同じ液体導入部より青色に着色した水相(Indigo Carmin)40μLをピペットにより導入し油相の上に乗せた。
この状態で液滴貯留部と流路の連通部を観察した様子が
図24である。600秒以上にわたり連続的に液滴が製造された。液滴直径は約170μm、製造速度は30個/秒であった。
【実施例3】
【0057】
実施例3 実施例1からのマイクロパターン配置変更(マイクロ流体チップ→陰圧蓋)
3-1)マイクロ流体チップの作製
図25に示す流路構造を有したマイクロ流体チップを、標準的なソフトリソグラフィ工程により作製した。なお、マイクロ流体チップの材質はPDMSである。流路の幅は40μm、高さは50μmである。
得られたチップ本体と流路蓋とを密着させたのち、この流路の両端と連通するようにして、液滴導入部はφ4mm、液滴貯留部にはφ5mmのポンチにより貫通孔を形成した(
図26)。次に大きな圧力差を生み出すためのマイクロパターンをPDMSにて作製した陰圧蓋側に、レーザー加工を用いて施した(
図27)。
【0058】
3-2)微小液滴の製造
前記、レーザー加工を施した陰圧蓋にて液滴貯留部を塞ぐように密着させたのち、デシケーター内に配置して減圧した。絶対圧350Paに到達後デシケーター内に配置して減圧した。絶対圧350Paに到達後、ポンプとデシケーターの間にあるバルブを閉め、圧力漏れの無い状態を作り、12時間静置し、デシケーターからチップを取り出した。その直後に、液体導入部より油相(RTFLS-2%10 emulseo.com)10μLを、マイクロピペットを用いて導入し、約20秒後に前記と同じ液体導入部より青色に着色した水相(Indigo Carmin)30μLをピペットにより導入し油相の上に乗せた。
この状態で液滴貯留部と流路の連通部を観察した様子が
図28である。300秒以上にわたり連続的に液滴が製造された。液滴直径は約120μm、製造速度は100個/秒であった。
【実施例4】
【0059】
実施例4 液滴を製造するために必要な油相膜構造と段差構造の確認
実施例1と同様に、片側の面に流路構造、反対側の面にレーザー加工を施したマイクロ流体チップを作製し、液体導入部にφ4mm、液滴貯留部にはφ6mmの貫通穴をポンチにより作製した。流路蓋としてポリカーボネート基板、陰圧蓋としてスライドグラスを用いた。液滴貯留部と流路の間に流路より幅が広い半円状の構造を構築した。液滴貯留部において、吸引力は陰圧蓋方向にかかるが油相はマイクロ流体チップ材質への相互作用が強く、また用いている油相の比重が高い(1.1~1.2)ため液体貯留部の底壁際となる端に溜まり、流路の出口を塞ぐ。このような構造になるため、流路と半円状の構造との接続部には油相がとどまらず、この接続部では液滴が製造されないが、液滴貯留部と幅広の流路との接続部で液滴が製造される(
図29)。
【0060】
〔発明を実施するための形態〕
1.微小液滴製造装置
【0061】
2.マイクロ流体チップ
流路構造
液体導入部
液滴貯留部
マイクロパターン構造
【0062】
3.流路蓋
疎水性・撥水性板状構造
【0063】
4.陰圧蓋
マイクロパターン構造
貯留液滴回収孔
回収孔シール
【0064】
5.真空パック袋
【0065】
6.油相
オイル
界面活性剤
【0066】
7.水相
【符号の説明】
【0067】
1.微小液滴製造装置
10.液体駆動手段(減圧された空間により液体が駆動する手段)
11.液体駆動部
【0068】
2.マイクロ流体チップ
21.マイクロ流体チップ側マイクロパターン
22.流路構造
23.液体導入部
24.液滴貯留部
25.液体導入孔シール
【0069】
3.流路蓋
【0070】
4.陰圧蓋部
41 .陰圧蓋側マイクロパターン
42 .液滴回収孔
43.液滴回収孔シール
【0071】
50.ひとだま形状
51.上部段差
52.油相(膜)
53.製造された液滴
【0072】
6.真空パック