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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】熱産生タンパク質発現促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/758 20060101AFI20230620BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20230620BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20230620BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20230620BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20230620BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230620BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20230620BHJP
   A61K 31/01 20060101ALN20230620BHJP
   A61K 31/015 20060101ALN20230620BHJP
   A61K 31/045 20060101ALN20230620BHJP
   A61K 31/11 20060101ALN20230620BHJP
   A61K 31/215 20060101ALN20230620BHJP
【FI】
A61K36/758
A61K8/9789
A61K9/72
A61P3/04
A61P3/06
A61P43/00 111
A61P43/00 105
A61Q13/00 101
A61K31/01
A61K31/015
A61K31/045
A61K31/11
A61K31/215
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019154845
(22)【出願日】2019-08-27
(65)【公開番号】P2021031458
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2021-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】591137628
【氏名又は名称】中野BC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】308038613
【氏名又は名称】公立大学法人和歌山県立医科大学
(72)【発明者】
【氏名】門脇 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】水▲崎▼ 愛
(72)【発明者】
【氏名】我藤 伸樹
(72)【発明者】
【氏名】井原 勇人
(72)【発明者】
【氏名】中谷 雅弓
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-113104(JP,A)
【文献】特開2018-126114(JP,A)
【文献】特開2012-249560(JP,A)
【文献】特開2004-043399(JP,A)
【文献】特開2016-108242(JP,A)
【文献】国際公開第2007/063648(WO,A1)
【文献】Life Sciences,2016年,Vol.153,pp.198-206
【文献】Natural Medicines,1997年,Vol.51,pp.249-258
【文献】和歌山医学,2018年,Vol.69, No.2,pp.129-130
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A61K 31/00-31/80
A61K 8/00-8/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気蒸留法により得られたサンショウ精油を主成分とし、前記精油の揮発成分を吸引して効果を得ることを特徴とする熱産生タンパク質発現促進剤。
【請求項2】
熱産生タンパク質がUncoupling Protein 1(UCP-1)であることを特徴とする請求項1記載の熱産生タンパク質発現促進剤。
【請求項3】
水蒸気蒸留法により得られたサンショウ精油を主成分とし、前記精油の揮発成分を吸引して効果を得ることを特徴とするメタボリックシンドローム改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサンショウの精油を用いた熱産生タンパク質発現促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脱共役蛋白質(Uncoupling protein ; UCP-1と略す)は、ミトコンドリア内膜での酸化的リン酸化を脱共役させ、エネルギーを直接熱へと散逸する。哺乳動物ではUCPは現在までに5つのタイプが知られており、代表的なものにUCP-1がある。
UCP-1は褐色脂肪組織(BAT ; Brown adipose tissue)やベージュ細胞に発現しており、熱産生タンパク質とも呼ばれている。
一方、我国において全国民の約6 人に1 人、40&#12316;74 歳の男性に限れば2 人に1 人が、メタボリックシンドロームに該当、もしくはその予備軍であると見込まれており、肥満症の改善は喫緊の課題である。
肥満の成因は多食など摂取したカロリー量だけではなく、個々のエネルギー消費や基礎代謝の高低も大きく影響している。さらに肥満者や糖尿病患者では、熱産生や基礎代謝がいっそう低下し、たとえ食事量を見直しても、肥満を解消することが困難となる。基礎代謝は体内での熱産生とも大きく関係しており、基礎代謝の低下は、基礎体温の低下につながり、ひいては免疫が下がるなどして、多くの疾病へと発展する恐れがある。
体内でのUCP-1発現を促進することができれば、熱産生、エネルギー消費の増加を通して、メタボリックシンドロームの治療や、肥満改善が期待される。
【0003】
UCP-1による熱産生は、交感神経により調節されている。寒冷暴露などの刺激により、交感神経活動が亢進すると、ノルアドレナリンが分泌され、褐色脂肪細胞にあるβアドレナリン受容体を活性化し、UCP-1の発現量を増加させる。またノルアドレナリンは、脂肪細胞に蓄積された中性脂肪を分解して遊離脂肪酸を産生し、UCP-1を活性化することで熱を産生する。
【0004】
UCP-1増強する方法として、トウガラシの成分であるカプサイシンやカプシノイド、甘味料(サッカリンやシュクロース)といった食品やβアドレナリン受容体のアゴニストを摂取する方法がある。また、UCP-1の発現を直接見たわけではないが、グレープフルーツの精油を吸引させることで、肩甲間褐色脂肪組織の交感神経を興奮状態にし、同組織の体温を上昇させたことを報告している。尚、同文献において、グレープフルーツ精油の95%を占めるリモネンが活性成分であるとしている。(非特許文献1)。また香気成分とされるリモネンを直接、脂肪細胞に添加してもUCP-1の発現が促進されるとの報告もある(非特許文献2)。
【0005】
サンショウは、ミカン科サンショウ属の落葉低木である。サンショウは古くから香辛料として使われており、また漢方薬の原料としても用いられてきた。さらに食用として用いられ、実山椒は佃煮やちりめん山椒として、乾燥させた果皮は香味料として知られる。また若葉は木の芽とも呼ばれ、食用される。一方、和精油としてサンショウの精油も作られているが、その精油が熱産生タンパク質の発現を促進することは知られていない。
【0006】
サンショウと熱産生に関しては、サンショウから抽出されたエキスの機能として、熱産生交感神経活性化剤(特許文献1)や、選択的ヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤(特許文献2)がある。またサンショウに含まれる成分で、サンショウオール類にも熱産生タンパク質発現促進(特許文献3)が報告されている。しかしこれらの投与経路は、経口投与や経皮投与であった。したがって、呈味性や刺激性が課題となるケースがあった。揮発成分の吸引により熱産生タンパク質の発現を促進することができれば、より簡便にその剤を利用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-51486
【文献】特開2006-96666
【文献】特開2010-180165
【非特許文献】
【0008】
【文献】永井克也、香料. ,2010.,246., 31-44
【文献】Lone J, Yun JW. Life Science., 2016. 153:198-206.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はサンショウの精油を用いた熱産生タンパク質発現促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意研究努力を重ねた結果、サンショウの精油は、熱産生タンパク質の発現を促進することを見出した。即ち、本発明は、次に示す技術に関するものである。
[1] サンショウの精油を主成分とする熱産生タンパク質発現促進剤
[2] 熱産生タンパク質がUncoupling protein 1 (UCP-1)であることを特徴とする請求項1記載の熱産生タンパク質発現促進剤
[3] 精油が、β-ミルセン、リモネン、β-フェランドレン、シトロネラール、酢酸ゲラニル、ゲラニオールの2成分以上の組み合わせからなることを特徴とする請求項1~2記載の熱産生タンパク質発現促進剤
[4]精油の揮発成分を吸引して効果を得ることを特徴とする請求項1~3記載の熱産生タンパク質発現促進剤
[5]サンショウの精油を主成分とするメタボリックシンドローム改善剤
【発明の効果】
【0011】
本発明の剤は、熱産生タンパク質(UCP-1)発現促進を有し、さらに関連して、熱産生促進、抗肥満、メタボリックシンドロームの改善、褐色脂肪細胞活性化、代謝促進、体脂肪減少などの各作用を示すことが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】サンショウ精油による内在性UCP-1遺伝子発現増強
図2】サンショウ精油成分によるUCP-1/ルシフェラーゼレポーター遺伝子発現誘導の結果イメージ
図3】サンショウ精油成分によるUCP-1/ルシフェラーゼレポーター遺伝子発現誘導の定量解析結果
図4】UCP-1/ルシフェラーゼレポーター遺伝子発現誘導の結果イメージ。(control、リモネン、グレープフルーツ精油、サンショウ精油による)
図5】リモネン、グレープフルーツ精油、サンショウ精油の暴露によるUCP-1レポーター発光量の比較
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のサンショウ精油には、サンショウ属植物(Zanthoxylum)のうち、サンショウ(Zanthoxylum piperitum)、また同属異種のカホクサンショウ(Zanthoxylum simulans Hance.)、ヒレサンショウ(Zanthoxylum beecheyanum) 、アメリカサンショウ(Zanthoxylum americanum)、トウサンショウ(Zanthoxylum simulana)、イヌザンショウ(Zanthoxylum schinifolium)、カラスザンショウ(Zanthoxylum ailanthoides)、フユザンショウ(Zanthoxylum armatum) を用いることができるが、その中でもサンショウ(Zanthoxylum piperitum)を用いることが特に好ましい。
さらにサンショウの系統品種としてブドウサンショウ、アサクラザンショウ(Zanthoxylum piperium f. inerme)、ヤマアサクラザンショウ(Zanthoxylum piperium f. brevispinum)等、竜神山椒を用いることができるが、特にブドウサンショウが好ましい。
【0014】
サンショウは、果実、種、葉、枝の部位を用いることができるが、好ましくは果実を用いる。未熟な果実(実山椒)や乾燥させた果実や用いることができるが、より好ましくは乾燥果実を用いる。また乾燥果実は果皮と種に分離できるが、好ましくは果皮を用いる。乾燥果実は、果実を公知の方法で乾燥できればいいが、60℃で12時間程度の温風乾燥が好ましい。また乾燥後に種を除去した果皮のみを使用するのが好ましい。
【0015】
精油を得る方法は、本発明の効果を妨げない限り、公知の方法を広く採用することができる。例えば水蒸気蒸留法、圧搾法、溶媒抽出法、減圧蒸留法、減圧水蒸気蒸留法などが挙げられる。光毒性の物質を含ませないことから、特に水蒸気蒸留法が好ましい。
【0016】
サンショウの乾燥物を乾式粉砕により、粗粉砕するが、その方法は特に限定されない。できるだけ熱をかけないで短時間で粉砕できるハンマーミルやピンミル、パルパーなどが好ましい。粉砕粒度は、油胞を残した状態で行うため、できるだけ大きいパスサイズが良いが、好ましくはスクリーンサイズが5 mm~0.3 mm、さらに好ましくは3 mm~0.5 mmがよい。5 mmより大きいと次の工程で目詰まりを起こす危険性があり、0.3 mmより小さいと油胞が破壊されて精油のロスが生じてしまう。
【0017】
湿式粉砕の方法は、サンショウ粗粉砕果皮を微粉砕状態にできれば特に限定されないが、この工程では油胞を積極的に破壊する目的で行うので、水道水などを加水して懸濁状態で微粒化した方が、精油のロスをおさえることができる。例えばコロイドミルやホモジナイザーなどは液状物を微粒子にまで磨り潰すことができるので好ましい。微粉砕粒度は細かければ細かいほど良いが、油胞が破壊できるギャップサイズ1 mm~0.1 mmが好ましい。さらに好ましくは0.5 mm~0.1 mm、より好ましくは0.3 mm~0.1 mmがよい。ギャップサイズ1 mmより大きいと油胞が破壊されない場合があり、ギャップサイズ0.1 mmm未満にすると、ローターの発熱により液温が急上昇し、精油が揮発してしまう恐れがある。
【0018】
本発明で作製した精油は、他の精油やキャリアオイル、エタノール、水、グリセリン等と混合して使用しても良い。混合率は、好ましくは10-80 %、より好ましくは30-60 %である。また混合物を、マッサージに用いる場合は1 %以下で混合するのが好ましい。
【0019】
本発明の熱タンパク質発現促進剤は、アロマセラピー等に用いる吸引方法であれば、特に制限なく採用できる。例えば、ディフューザーやアロマストーンを用いた吸引や、沐浴、湿布、アロマトリートメント等が挙げられる。
またスプレー等を用いてティッシュや布、不織布に滲み込ませてそこから発生する揮発成分を吸引させる方法にて、さらにはマスクにしみこませて装着することによって吸引して使用することもできる。
【実施例
【0020】
以下に、実施例を挙げて本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明がかかる実施例にのみ限定を受けないことは、言うまでもない。
【0021】
<実施例1>
(サンショウ精油の製造)
サンショウとして、ブドウサンショウを用いた。種抜きを行った乾燥サンショウ(JAありだ)をハンマーミル(HM-100、ラボネクト株式会社製)にて乾式で粉砕を行った。次に水道水に懸濁した粉砕物2 kgをコロイドミル(株式会社シンマルエンタープレイゼス社製)にて、ギャップサイズ0.1 mmで湿式粉砕を行った。この微粉砕液をアロマ蒸留機(株式会社本村製作所社製)に投入し、さらに水道水を加え、最終的に40 Lとした。100℃に達するまでは蒸留釜に直接蒸気を15 kg/hで、100℃以降は、ジャケットに水蒸気を10 kg/hの流量で送り間接的に加熱した。品温100℃に到達した時点から1時間の常圧蒸留を行った。
得られた精油は114 mlで、乾式粉砕物当たりの収率は57 ml/kgであった。
【0022】
<実施例2>
(通常マウスでの吸引投与による褐色脂肪組織におけるUCP-1遺伝子発現増強)
近交系マウスC57BL6bマウス(8週令)を導入後、1週間にわたり実験環境(12時間の明暗サイクル、23℃)に慣らした後、1匹用マウスケージにサンショウ精油成分200 μlを吸着させたアロマストーン1枚を装着し吸引暴露させた。あらかじめ、ケージ内のアロマ成分濃度の経時的変化を調べるため、時間ごとのケージ内(半密封、1500 cm3)の空気を採取し、ガスクロマトグラフィーで定量した。その結果12時間で約半分に低下することから、12時間毎にアロマストーンを交換することとした。
上記の条件下、各時間ポイントごとに3匹のマウスを用いて、サンショウ精油を5時間、24時間、48時間、72時間、吸引暴露させた後に、褐色脂肪組織を摘出し、そのTotal RNAを抽出した。リアルタイムPCRキット(タカラバイオ)を用いて、RNAからcDNAを合成したのち、Thermal cycler Dice TP870リアルタイムPCR装置(タカラバイオ)を用いて、サンショウ精油成分暴露によって発現誘導された内在性のUCP-1 mRNA量を定量した。また、変化しない内部標準遺伝子として18S ribosomal RNAを同様に定量してUCP-1発現量を内部標準遺伝子の発現量で補正した。 UCP-1 mRNA定量のために用いたプライマーの配列及び18S ribosomal RNA のプライマーは以下の通りである。UCP-1; Forward primer; 5’-CAC TCA GGA TTG GCC TCT ACG AC-3’ 、Reverse prime; 5’-GCT CTG GGC TTG CAT TCT GAC-3’ 18S ribosomal RNA; Forward primer ; 5’-GTA ACC CGT TGA ACC CCC ATT-3’、Reverse prime; 5’- CCA TCC AAT CGG TAG TAG CG -3’
【0023】
図1には、リアルタイムPCRの解析結果を示す。縦軸はコントロール条件下の18S ribosomal RNA 発現量で補正したUCP-1 mRNAを1として、サンショウ精油吸引暴露させた時間経過に伴う補正したUCP-1 mRNA発現量を相対定量値として示し、また横軸は吸引暴露の時間を示しており、そのタイムコースを示している。サンショウ精油成分に暴露後5時間から褐色脂肪組織でのUCP-1遺伝子発現が誘導され始め、24時間後に約2倍の発現量となりピークを迎え、48時間、72時間にかけて斬減していくタイムコースを取ることが分かった。
生理学的に嗅覚刺激は順応する(選択的疲労:1つの匂いに反応しなくなる)ことが知られており、このような誘導パターンとなるのは順応によるものと考えられた。
【0024】
<実施例3>
(Thermo Mouse(FVB/N-Tg(UCP-1-luc2-tdTomato)1Kajim/J 、The Jackson Laboratory)を用いた発光生体イメージング法による解析)
UCP-1遺伝子転写調節領域を含む遺伝子座をルシフェラーゼ・レポーター遺伝子に連結させた外来遺伝子を導入されたThermo Mouse(UCP-1/ルシフェラーゼ・レポーター遺伝子導入トランスジェニックマウス)を用いて、実施例2の条件下と同様に同一個体にサンショウ精油成分を5時間、24時間、48時間、72時間暴露後、ルシフェラーゼ・レポーター遺伝子発現量を生体イメージング装置IVIS-XR(Caliper社製)を用いて、発光強度を指標に定量解析した。
マウスの褐色脂肪組織付近をカバーするように関心領域を設定し、また発光に関与しない領域をバックグラウンド領域として定量し、関心領域の値からバックグラウンド量を差し引いた値を用いた。同じ面積の関心領域を各マウス個体の発光部位に重ね合わせて、イメージング装置に付属する解析ソフトを用いて発光量を定量解析した。
尚、この発光イメージング法を用いれは、同一個体で動物を殺すことなく何度でもモニターすることが可能となる。目的とするレポーター遺伝子を変えることによって、その他のアロマ成分の定量にも用いることができるものと考えられる。
【0025】
図2に発光強度の経時的変化並びに各時間ポイントにおける生体イメージング像を示す。また図3の発光強度の経時的変化を示すグラフでは、縦軸が同一面積の関心領域内の発光の総カウント数を示している。また横軸はサンショウ精油の吸引暴露時間を示している。内在性UCP-1 mRNAの発現誘導と同じようなタイムコースを示すことが分かった。すなわち、暴露後5時間から褐色脂肪組織で発光シグナルが急激に誘導され(UCP-1遺伝子発現の誘導を意味する)、24時間後に刺激前の10&#12316;12倍の倍の発光量となりピークを迎え、72時間にかけて斬減していくタイムコースを取ることが分かった。尚、48時間、72時間の発光量は、刺激前の約6倍であり、ピーク時からの50%以上の値を保持していた。
この結果より、サンショウ精油の吸引によりUCP-1遺伝子発現量が増加したことが分かった。よって、UCP-1タンパク質も発現増加していることが示唆される。
ここで、図3において24時間後の発現誘導が、刺激前の10&#12316;12倍となっているのは、1)レポータータンパク量と発光量との間の増幅効率が関与していること、また2)レポータータンパクであるルシフェラーゼのタンパク質自体の半減期とUCP-1 mRNA の半減期が異なるためであると考えられた。すなわち、定常状態においてレポータータンパク質の半減期が内在性のUCP-1 mRNAより不安定で分解されているものと考えられる。刺激前の発光がほとんど見られないのはそのためであると思われる。
【0026】
<試験例1>
(サンショウ精油の香気分析)
山椒精油の香気成分はガスクロマトグラフィー(GC)を用いて行った。精油をアセトンで 50 倍希釈してサンプルとした。
分析条件は次の通りである。
GC装置:GC-2014(島津製作所製)、カラム: DB-WAX 0.25 mmφ×30 m 膜厚0.25 μm(アジレント・テクノロジー製)、注入方法: スプリット(スプリット比 50:1)、注入口温度: 250℃、試料注入量: 1 μl、カラム温度: 40℃(2分)→6℃/分→220℃(13分)
香気分析の結果を表1に示す。表では、各成分のピークの面積比を含有%として示した。サンショウ精油中に含まれる香気成分は、多い順にリモネン、酢酸ゲラニル、β-フェランドレン、シトロネラール、β-ミルセン、ゲラニオールであった。リモネンが大部分を占めるグレープフルーツ精油とは異なり、サンショウ精油は6割以上がリモネン以外の成分で構成されていることが分かった。
【0027】
【表1】
【0028】
<試験例2>
(各精油におけるリモネンの定量)
リモネン標準品は、(R)-(+)-リモネン(和光純薬工業株式会社)を用いた。これを、アセトンで50 ppm、100 ppm、500 ppm、1,000 ppm、5,000 ppm、10,000 ppmとなるように調製した。試験例1で示した条件でGC分析を行い、リモネンのピークの面積と濃度で、検量線を作成した。この検量線を用いて、サンショウ精油およびグレープフルーツ精油(株式会社 生活の木)に含まれるリモネンを定量した。尚、今回用いたグレープフルーツ精油の香気成分比は、表2に示した通りである(含有%は、メーカーの試験成績表より)。
定量の結果、サンショウ精油には約324,000 ppm、グレープフルーツ精油にはその約2.2倍量の709,000 ppmのリモネンが含まれていることが分かった。
【0029】
【表2】
【0030】
<比較例>
(リモネン単独暴露とグレープフルーツ精油暴露によるUCP-1レポーター発光量)
本発明のサンショウの精油を用いた熱産生タンパク質発現促進剤には、グレープフルーツ精油に含まれ、その活性成分であるとされるリモネンも含有されている。試験例2の結果から、サンショウの精油に含まれるリモネン含有量と同量のリモネン単独、及び同量のリモネンを含むグレープフルーツ精油をThermo Mouseに吸引暴露し、実施例3で示した条件下でUCP-1/ルシファラーゼレポーター発光量で比較した。
尚、サンショウ精油、グレープフルーツ精油およびリモネン標準品を用いた比較実験において、アロマストーン1枚あたりの滴下量を、サンショウ精油は200 μL、グレープフルーツ精油は91 μL、リモネン標準品は77 μLとすることで、暴露するリモネン量を同量にした。
【0031】
図4に暴露24時間後におけるイメージ結果を示した。マウスの肩甲骨あたりの色のついた部分が発光した領域を表している。発光量が大きいほど白く見えるが、このことよりサンショウ精油は、リモネン単独、グレープフルーツ精油よりも強く発光していることが分かる。すなわちサンショウ精油においては、UCP-1遺伝子発現量がより多くなっていることを示している。
また図5には、1)リモネン単独、2)同量のリモネンを含むグレープフルーツ精油、3)同量のリモネンを含むサンショウ精油をそれぞれ吸引暴露し、生体イメージング装置IVIS-XRでUCP-1/ルシファラーゼレポーター発光量を比較した結果を示している。
リモネン、グレープフルーツ精油でもUCP-1 遺伝子誘導効果があった。しかし、同等の量のリモネン単独暴露に比し、サンショウ精油暴露24時間における発光量は2.9 ~ 3倍程度高かった。さらにその95%がリモネンであるグレープフルーツ精油による刺激に比べても、サンショウ精油の方が2.9倍程度高かった。
また刺激に対する反応の持続性を見ると、サンショウ精油では、48時間、72時間経過後もピーク時の50%以上の発光量を維持していたが、リモネン、グレープフルーツ精油では50%以下であった。このことから、サンショウアロマでは効果の持続性においても優れていることが分かった。
以上のことから、サンショウ精油成分に含まれる他の成分もUCP-1遺伝子発現増強や感度の維持に関与していることが示され、サンショウ精油の香気成分組成特有の効果であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の熱産生タンパク質発現促進剤は、サンショウ精油からなり、吸引することでUCP-1の発現を促進する。従って、本発明のサンショウ精油は長期にわたる治療が必要なメタボリックシンドロームの予防又は改善、または体温維持のために好適に使用できる。

図1
図2
図3
図4
図5