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特許7298846β-1,3-1,6-グルカン粉末、グルカン含有組成物、β-1,3-1,6-グルカン粉末の製造方法、包接複合体、包接複合体の製造方法およびゲスト分子の回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】β-1,3-1,6-グルカン粉末、グルカン含有組成物、β-1,3-1,6-グルカン粉末の製造方法、包接複合体、包接複合体の製造方法およびゲスト分子の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/04 20060101AFI20230620BHJP
   C13B 40/00 20110101ALI20230620BHJP
   C08B 37/00 20060101ALN20230620BHJP
   A61K 31/716 20060101ALN20230620BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20230620BHJP
   A61P 37/04 20060101ALN20230620BHJP
   A61K 31/12 20060101ALN20230620BHJP
   A61K 31/05 20060101ALN20230620BHJP
   A61K 31/015 20060101ALN20230620BHJP
   A61K 47/61 20170101ALN20230620BHJP
   A61K 9/14 20060101ALN20230620BHJP
   A61K 8/73 20060101ALN20230620BHJP
   A61K 8/34 20060101ALN20230620BHJP
   A61K 8/67 20060101ALN20230620BHJP
【FI】
C12P19/04 Z
C13B40/00
C08B37/00 C
A61K31/716
A61P35/00
A61P37/04
A61K31/12
A61K31/05
A61K31/015
A61K47/61
A61K9/14
A61K8/73
A61K8/34
A61K8/67
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019548209
(86)(22)【出願日】2018-10-10
(86)【国際出願番号】 JP2018037651
(87)【国際公開番号】W WO2019073989
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2017198297
(32)【優先日】2017-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】397022911
【氏名又は名称】学校法人甲南学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】北原 義孝
(72)【発明者】
【氏名】甲元 一也
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-319150(JP,A)
【文献】特開2011-132223(JP,A)
【文献】特開2014-193967(JP,A)
【文献】特開2016-183120(JP,A)
【文献】特開2007-267718(JP,A)
【文献】特開2009-060895(JP,A)
【文献】特開2005-307150(JP,A)
【文献】STAHMANN, K.P. et al.,"Structural properties of native and sonicated cinerean, a beta-(1-->3)(1-->6)-D-glucan produced by Botrytis cinerea.",CARBOHYDRATE RESEARCH,1995年01月03日,Vol.266, No.1,pp.115-128,doi: 10.1016/0008-6215(94)00245-B
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
C08B 1/00-37/18
A23L 2/00-35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃における、水に対する飽和溶解度が1.0~20.0質量%である、β-1,3-1,6-グルカン粉末であって、
前記β-1,3-1,6-グルカン粉末を、動的光散乱測定によって測定したβ-1,3-1,6-グルカンの粒径分布のうち、体積分率が最も大きいピークの粒径が5nm以上100nm未満の範囲にあり、前記粒径が5nm以上100nm未満の範囲外のピークの体積分率は、前記体積分率が最も大きいピークの体積分率の30%以下であり、
前記グルカン粉末に含まれるβ-1,3-1,6-グルカンは、三重鎖螺旋構造が一本鎖のランダムコイル構造に解離した状態から、他の分子を共存させずに三重螺旋状態に戻してなる部分的に乱れた三重螺旋構造である、
β-1,3-1,6-グルカン粉末。
【請求項2】
請求項1に記載のβ-1,3-1,6-グルカン粉末と水を含むグルカン含有組成物。
【請求項3】
水と、β-1,3-1,6-グルカンを含むグルカン含有組成物であって、
水に対して、1.0~20.0質量%の割合でβ-1,3-1,6-グルカンが溶解しており、
前記組成物を動的光散乱測定によって測定したβ-1,3-1,6-グルカンの粒径分布のうち、体積分率が最も大きいピークの粒径が5nm以上100nm未満の範囲にあり、前記粒径が5nm以上100nm未満の範囲外のピークの体積分率は、前記体積分率が最も大きいピークの体積分率の30%以下であり、
前記β-1,3-1,6-グルカンは、三重鎖螺旋構造が一本鎖のランダムコイル構造に解離した状態から、他の分子を共存させずに三重螺旋状態に戻してなる部分的に乱れた三重螺旋構造である、グルカン含有組成物。
【請求項4】
前記組成物の25℃における波長660nmの光の透過率が70%以上である、請求項2または3に記載のグルカン含有組成物。
【請求項5】
水とβ-1,3-1,6-グルカンを含むプレ組成物であって、前記プレ組成物を動的光散乱測定によって測定したβ-1,3-1,6-グルカンの粒径分布のうち、体積分率が最も大きいピークの粒径が10nm以上1000nm未満の範囲にあり、粒径が1000nm以上のピークの体積分率は、前記体積分率が最も大きいピークの体積分率の10%以下であるプレ組成物に対し、凍結乾燥およびスプレードライの少なくとも一方を行うことを含む、請求項1に記載のβ-1,3-1,6-グルカン粉末の製造方法。
【請求項6】
前記プレ組成物は、β-1,3-1,6-グルカンを含む原料組成物から、遠心分離、ろ過または透析により、粒径が大きいβ-1,3-1,6-グルカンを除去して得られる、請求項5に記載のβ-1,3-1,6-グルカン粉末の製造方法。
【請求項7】
前記β-1,3-1,6-グルカン粉末が請求項1~3のいずれか1項に記載のβ-1,3-1,6-グルカン粉末である、請求項5または6に記載のβ-1,3-1,6-グルカン粉末の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載のβ-1,3-1,6-グルカン粉末、および、請求項2~4のいずれか1項に記載のグルカン含有組成物の少なくとも1種に由来するβ-1,3-1,6-グルカンに、ゲスト分子が包接されている、包接複合体。
【請求項9】
前記包接複合体が、粉末状である、請求項8に記載の包接複合体。
【請求項10】
請求項1に記載のβ-1,3-1,6-グルカン粉末、および、請求項2~4のいずれか1項に記載のグルカン含有組成物の少なくとも1種を用いてゲスト分子を包接させることを含む、包接複合体の製造方法。
【請求項11】
前記包接複合体が、粉末状である、請求項10に記載の包接複合体の製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載のβ-1,3-1,6-グルカン粉末、および、請求項2~4のいずれか1項に記載のグルカン含有組成物の少なくとも1種を用いてゲスト分子を包接させることを含む、ゲスト分子の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β-1,3-1,6-グルカン粉末、グルカン含有組成物、β-1,3-1,6-グルカン粉末の製造方法、包接複合体、包接複合体の製造方法およびゲスト分子の回収方法に関する。
特に、水に対する溶解度が高いβ-1,3-1,6-グルカン粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オ-レオバシディウム属(Aureobasidium sp.)等の微生物がβ-D-グルカンを生産することが知られている。β-D-グルカンは、制ガン作用や免疫活性化作用を有することが示唆されており、健康食品素材として有用である。
【0003】
一般に、β-D-グルカンはその構造から水溶液中で剛直な3重螺旋構造を取るため、平均二乗回転半径が大きい。このため菌体外に産生されたβ-グルカンを含む微生物培養液は高粘度で、その精製は困難である。例に漏れず、オーレオバシジウム属微生物の培養液も、菌体外に産生されたβ-1,3-1,6-D-グルカンを含むことから粘度が高く、その培養液から菌体を除去し、β-1,3-1,6-D-グルカンを回収、精製することは非常に困難である。
かかる状況のもと、特許文献1には、β-D-グルカンを含む微生物培養液または微生物破砕液をpH12以上に調整する第1工程と、微生物または不溶性夾雑物を除去して上清を得る第2工程と、上清をアルカリ性下で限外ろ過してβ-D-グルカンより低分子の夾雑物の全部または一部を除去する第3工程とを含む精製β-D-グルカンの製造方法が開示されている。特許文献1には、また、かかる製造方法により、透明度の高いβ-D-グルカンを得ることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-267718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、β-1,3-1,6-グルカン培養液にアルカリを添加し、珪藻土を添加した後、ろ過をし、クエン酸水溶液で中和した後凍結乾燥することが記載されている。
しかしながら、本発明者が上記特許文献1を検討したところ、得られるβ-1,3-1,6-グルカン粉末は、水に対する溶解度が低いことが分かった。
本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、水に対する溶解度が高いβ-1,3-1,6-グルカン粉末、ならびに、前記粉末等を用いたグルカン含有組成物、β-1,3-1,6-グルカン粉末の製造方法、包接複合体、包接複合体の製造方法およびゲスト分子の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題のもと、本発明者が鋭意検討を行った結果、水とβ-1,3-1,6-グルカンを含む原料組成物から、粒径が大きいβ-1,3-1,6-グルカンを除去した後、β-1,3-1,6-グルカンを凍結乾燥およびスプレードライの少なくとも一方で粉末化することにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段<1>により、好ましくは<2>~<15>により、上記課題は解決された。
<1>25℃における、水に対する飽和溶解度が1.0~20.0質量%である、β-1,3-1,6-グルカン粉末。
<2>前記β-1,3-1,6-グルカン粉末を、動的光散乱測定によって測定したβ-1,3-1,6-グルカンの粒径分布のうち、体積分率が最も大きいピークの粒径が5nm以上100nm未満の範囲にあり、前記粒径が5nm以上100nm未満の範囲外のピークの体積分率は、前記体積分率が最も大きいピークの体積分率の30%以下である、<1>に記載のβ-1,3-1,6-グルカン粉末。
<3>β-1,3-1,6-グルカン粉末であって、
前記β-1,3-1,6-グルカン粉末を、動的光散乱測定によって測定したβ-1,3-1,6-グルカンの粒径分布のうち、体積分率が最も大きいピークの粒径が5nm~15nmの範囲にあり、前記粒径が5~15nmの範囲外のピークの体積分率は、前記体積分率が最も大きいピークの体積分率の30%以下である、β-1,3-1,6-グルカン粉末。
<4><1>~<3>のいずれか1つに記載のβ-1,3-1,6-グルカン粉末と水を含むグルカン含有組成物。
<5>水と、β-1,3-1,6-グルカンを含むグルカン含有組成物であって、
水に対して、1.0~20.0質量%の割合でβ-1,3-1,6-グルカンが溶解しており、
前記組成物を動的光散乱測定によって測定したβ-1,3-1,6-グルカンの粒径分布のうち、体積分率が最も大きいピークの粒径が5nm以上100nm未満の範囲にあり、前記粒径が5~15nmの範囲外のピークの体積分率は、前記体積分率が最も大きいピークの体積分率の30%以下である、グルカン含有組成物。
<6>水とβ-1,3-1,6-グルカンを含むβ-1,3-1,6-グルカン含有組成物であって、
前記グルカン含有組成物を動的光散乱測定によって測定したβ-1,3-1,6-グルカンの粒径分布のうち、体積分率が最も大きいピークの粒径が5~15nmの範囲にあり、前記粒径が5~15nmの範囲外のピークの体積分率は、前記体積分率が最も大きいピークの体積分率の30%以下である、グルカン含有組成物。
<7>前記組成物の25℃における波長660nmの光の透過率が70%以上である、<4>~<6>のいずれか1つに記載のグルカン含有組成物。
<8>水とβ-1,3-1,6-グルカンを含むプレ組成物であって、前記プレ組成物を動的光散乱測定によって測定したβ-1,3-1,6-グルカンの粒径分布のうち、体積分率が最も大きいピークの粒径が10nm以上1000nm未満の範囲にあり、粒径が1000nm以上のピークの体積分率は、前記体積分率が最も大きいピークの体積分率の10%以下であるプレ組成物に対し、凍結乾燥およびスプレードライの少なくとも一方を行うことを含む、β-1,3-1,6-グルカン粉末の製造方法。
<9>前記プレ組成物は、β-1,3-1,6-グルカンを含む原料組成物から、遠心分離、ろ過または透析により、粒径が大きいβ-1,3-1,6-グルカンを除去して得られる、<8>に記載のβ-1,3-1,6-グルカン粉末の製造方法。
<10>前記β-1,3-1,6-グルカン粉末が<1>~<3>のいずれか1つに記載のβ-1,3-1,6-グルカン粉末である、<8>または<9>に記載のβ-1,3-1,6-グルカン粉末の製造方法。
<11><1>~<3>のいずれか1つに記載のβ-1,3-1,6-グルカン粉末、および、<4>~<6>のいずれか1つに記載のグルカン含有組成物の少なくとも1種に由来するβ-1,3-1,6-グルカンに、ゲスト分子が包接されている、包接複合体。
<12>前記包接複合体が、粉末状である、<11>に記載の包接複合体。
<13><1>~<3>のいずれか1つに記載のβ-1,3-1,6-グルカン粉末、および、<4>~<7>のいずれか1つに記載のグルカン含有組成物の少なくとも1種を用いてゲスト分子を包接させることを含む、包接複合体の製造方法。
<14>前記包接複合体が、粉末状である、<13>に記載の包接複合体の製造方法。
<15><1>~<3>のいずれか1つに記載のβ-1,3-1,6-グルカン粉末、および、<4>~<7>のいずれか1つに記載のグルカン含有組成物の少なくとも1種を用いてゲスト分子を包接させることを含む、ゲスト分子の回収方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、水に対する溶解度が高いβ-1,3-1,6-グルカン粉末、ならびに、前記粉末等を用いたグルカン含有組成物、β-1,3-1,6-グルカン粉末の製造方法、包接複合体、包接複合体の製造方法およびゲスト分子の回収方法を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施例で準備した凍結乾燥前のβ-1,3-1,6-グルカンの粒子径の分布を示すグラフである。
図2図2は、本実施例で準備した凍結乾燥後のβ-1,3-1,6-グルカンの粒子径の分布を示すグラフである。
図3図3は、本実施例で準備したクルクミンを包接したβ-1,3-1,6-グルカン包接複合体および包接していないクルクミン(グルカンなし)の吸光度を示すグラフである。
図4図4は、本実施例で準備した溶液の写真画像を示す。
図5図5は、本実施例で準備したクルクミンを包接したβ-1,3-1,6-グルカン包接複合体の経時の安定性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本発明における溶液とは、2種以上の物質から構成される液体状態の混合物をいう。従って、β-1,3-1,6-グルカン粒子や包接複合体が水などの溶媒に分散している組成物なども、本発明における溶液に含まれる。
【0010】
<β-1,3-1,6-グルカン粉末>
本発明におけるβ-1,3-1,6-グルカン粉末の第一の形態は、水に溶解したときの25℃における飽和溶解度が1.0~20.0質量%である。詳細を後述する実施例で示す通り、従来の方法で得られたβ-1,3-1,6-グルカン粉末を水に溶解しても、このような高い飽和溶解度は得られなかった。しかしながら、本発明者が検討したところ、水とβ-1,3-1,6-グルカンを含む溶液(原料組成物)から粒径が大きいβ-1,3-1,6-グルカンを除去した溶液(プレ組成物)を経て粉末化することにより、飽和溶解度が高いβ-1,3-1,6-グルカン粉末が得られることを見出したものである。このように、水に対する溶解度を高くできると、包接複合体をより容易に製造しやすくなる。
また、本発明におけるβ-1,3-1,6-グルカンの溶解とは、遠心分離操作を繰り返し行っても、沈殿物を生じず、上清のグルカン濃度が変わらない状態をいう。より具体的には、後述する実施例の記載に従う。また、本発明におけるβ-1,3-1,6-グルカンの飽和溶解度とは、水にβ-1,3-1,6-グルカン粉末を加え、攪拌し、上述のように遠心分離操作を繰り返し行っても、沈殿物を生じない最大の濃度でβ-1,3-1,6-グルカンが溶解した、β-1,3-1,6-グルカンの溶解度をいう。より具体的には、後述する実施例の記載に従う。
また、本発明におけるβ-1,3-1,6-グルカン粉末の他の形態は、β-1,3-1,6-グルカン粉末を、動的光散乱測定によって測定したβ-1,3-1,6-グルカンの粒径分布のうち、体積分率が最も大きいピークの粒径が5~15nm(好ましくは8nm以上、また、好ましくは13nm以下)の範囲にあり、前記粒径が5~15nmの範囲外のピーク(他のピーク)の体積分率は、前記体積分率が最も大きいピークの体積分率の30%以下(好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下)である、β-1,3-1,6-グルカン粉末である。他のピークの体積分率が、体積分率が最も大きいピークの体積分率の30%以下であるとは、[(他のピークの体積分率/最も大きいピークの体積分率)]×100(単位%)が30%以下であることをいう。以下、同様に考える。体積分率は、実施例に記載の方法で測定される。
【0011】
<原料β-1,3-1,6-グルカン>
本発明のβ-1,3-1,6-グルカン粉末の製造に用いる原料β-1,3-1,6-グルカンは、キノコや海藻、細菌など、自然界に広く存在する多糖である。
β-1,3-1,6-グルカンは、β-グルカンの一種で、グルコースから構成される多糖体の一つである。β-1,3-1,6-グルカンの分子構造は、グルコースがβ-1,3-グルコシド結合によってたくさん結合した鎖のような構造をしており、種によって導入率の異なるβ-1,6-グルコシド側鎖が部分的に導入されていると推定されており、天然の状態では水中においては、3本のβ-1,3-1,6-グルカン分子主鎖が互いに影響し合って三重鎖螺旋構造を形成していると推定されている。
本発明に用いるβ-1,3-1,6-グルカンにおいて、主鎖のβ-1,3結合数に対する側鎖のβ-1,6結合数の比率である分岐度は、通常、1~100%、好ましくは5~100%、より好ましくは30~100%である。
β-1,3-1,6-グルカンが上記分岐度を有することは、β-1,3-1,6-グルカンをエキソ型のβ-1,3-グルカナーゼ(キタラーゼM、ケイ・アイ化成株式会社製)で加水分解処理した場合に分解生成物としてグルコースとゲンチオビオースが遊離すること、および、NMRの積算比から確認できる(今中忠行監修、微生物利用の大展開、1012-1015、エヌ・ティー・エス(2002))。
【0012】
本発明のβ-1,3-1,6-グルカン粉末の原料となるβ-1,3-1,6-グルカンは、細菌を培養して分取したり、キノコ、海藻等から抽出して得ることができる。具体的には、本発明のβ-1,3-1,6-グルカン粉末の原料となるβ-1,3-1,6-グルカンとしては、例えば、黒酵母菌(Aureobasidium pullulans)由来のβ-1,3-1,6-グルカン、ハナビラタケ由来のβ-1,3-1,6-グルカン、パン酵母由来のβ-1,3-1,6-グルカン、アガリクス由来のβ-1,3-1,6-グルカン、エイランタイ由来のリケニン、スエヒロダケ由来のシゾフィラン、コンブ由来のラミナリン、菌核由来のスクレログルカン、シイタケ由来のレンチナン、カワラタケ由来のクレスチン、マッシュルーム由来のパッキマン、アグロバクテリウム由来のカードラン、マイタケ由来のグリフォラン、酵母から抽出されたザイモサン、植物細胞壁に含まれるカロース、ユーグレナ由来のパラミロン等が例示される。
β-1,3-1,6-グルカン粉末の原料となるβ-1,3-1,6-グルカンを得る方法としては、特開2014-193967号公報の段落0025および0026の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0013】
上記細菌等から得られた原料となるβ-1,3-1,6-グルカンは、不溶物や培養原料、タンパク質等を取り除くことが好ましい。具体的には、遠心分離、ろ過または透析により、それらを取り除くことが好ましい。このような混入物を取り除いた後のβ-1,3-1,6-グルカンの重量平均分子量は、5,000~20,000,000であることが好ましい。
また、混入物を取り除いた後のβ-1,3-1,6-グルカンは低分子量化してもよい。低分子量化することによって、β-1,3-1,6-グルカン分子主鎖間で生じる多点相互作用が弱まり、β-1,3-1,6-グルカンの水に対する溶解性が高まる。加えて、粒径が大きいβ-1,3-1,6-グルカンが生成しにくくなる利点がある。低分子量化においては、β-1,3-1,6-グルカンの重量平均分子量を200,000以下とすることが好ましく、80,000以下とすることがより好ましい。下限値はβ-1,3-1,6-グルカンが三重鎖螺旋構造を形成するのに必要な分子量、例えば、2,000以上、さらには、3,000以上であることが好ましい。β-1,3-1,6-グルカンの低分子量化は、超音波分解、酸加水分解、エンド型のβ-1,3-グルカナーゼを用いる酵素加水分解等で行うことが好ましい。
混入物を取り除いた原料β-1,3-1,6-グルカンは、凍結乾燥等によって、一旦、粉末化してもよいし、粉末化せずに後続の作業を行ってもよい。
【0014】
上記混入物を取り除いた原料β-1,3-1,6-グルカンは、アルカリ変性させることが好ましい。アルカリ変性させることにより、例えば、三重鎖螺旋構造のβ-1,3-1,6-グルカンを一本鎖にすることができる。さらに、アルカリ変性したβ-1,3-1,6-グルカンは、中和させることが好ましい。中和させることにより、より包接能力に優れた三重鎖螺旋構造のβ-1,3-1,6-グルカンが得られる。アルカリ変性および中和については、特開2014-193967号公報の段落0027~0029の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0015】
本発明では、混入物を取り除いた原料β-1,3-1,6-グルカンを溶媒に溶解させたものを、原料組成物という、原料組成物は、必要に応じてなされるアルカリ変性と中和を行った後のβ-1,3-1,6-グルカン溶液であってもよい。後述する実施例における再生β-1,3-1,6-グルカン溶液は、本発明の原料組成物の一例として挙げられる。また、原料組成物は、β-1,3-1,6-グルカンを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
原料組成物における溶媒は、水や1種または2種以上の有機溶媒が例示され、水が好ましい。原料組成物の、25℃における波長660nmの光の透過率は、通常98%以下、さらには80%以下である。前記透過率の下限値としては、例えば、30%以上であり、さらには50%以上である。また、原料組成物のβ-1,3-1,6-グルカンの濃度は、β-1,3-1,6-グルカン分子主鎖の分岐度、分子量によって最大濃度に違いがあるが、プレ組成物やグルカン含有組成物を効率的に製造することを考えると、モノマーグルコース濃度で、好ましくは0.1~200mmol/Lであり、より好ましくは1~150mmol/Lであることが好ましい。
その他、原料組成物の調製については、特開2014-40394号公報の段落0027~0035の記載、特開2014-40640号公報の段落0026~0034の記載、特開2013-227471号公報の段落0023~0031の記載等を参酌することができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0016】
原料組成物は、粒径が大きいβ-1,3-1,6-グルカンを除去することが好ましい。粒径が大きいβ-1,3-1,6-グルカンを除去する方法は、特に定めるものではないが、遠心分離、ろ過または透析などが例示され、遠心分離が好ましい。このように、原料組成物から、粒径が大きいβ-1,3-1,6-グルカンを除去した後の水とβ-1,3-1,6-グルカンを含む組成物を、プレ組成物という。後述する実施例における、凍結乾燥前の遠心再生β-1,3-1,6-グルカン溶液がプレ組成物の一例として挙げられる。
【0017】
<プレ組成物>
本発明におけるプレ組成物は、上述のとおり、原料組成物から、粒径が大きいβ-1,3-1,6-グルカンを除去した後の組成物である。
プレ組成物の第一の実施形態は、水とβ-1,3-1,6-グルカンを含むプレ組成物であって、前記プレ組成物を動的光散乱測定によって測定したβ-1,3-1,6-グルカンの粒径分布のうち、体積分率が最も大きいピークの粒径が10nm以上1000nm未満の範囲にあり、粒径が1000nm以上のピークの体積分率は、前記体積分率が最も大きいピークの体積分率の10%以下である組成物である。また、プレ組成物は、β-1,3-1,6-グルカンを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。 プレ組成物の第二の実施形態は、水とβ-1,3-1,6-グルカンを含むプレ組成物であって、前記プレ組成物を動的光散乱測定によって測定したβ-1,3-1,6-グルカンの粒径分布のうち、体積分率が最も大きいピークの粒径が10nm以上100nm未満(好ましくは12nm以上、また、好ましくは80nm以下、より好ましくは、60nm以下、さらに好ましくは50nm以下、一層好ましくは40nm以下、より一層好ましくは30nm以下)の範囲にあり、前記粒径が5nm以上100nm未満の範囲外のピークの体積分率は、いずれも、前記体積分率が最も大きいピークの体積分率の30%以下(好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下)である組成物である。
プレ組成物の第三の実施形態は、水とβ-1,3-1,6-グルカンを含むプレ組成物であって、前記プレ組成物を動的光散乱測定によって測定したβ-1,3-1,6-グルカンの粒径分布のうち、体積分率が最も大きいピークの粒径が10nm以上1000nm未満の範囲に、体積分率が5%以上(好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上)のピークを1つのみ有する組成物である。
本発明におけるプレ組成物は、第一~第三の実施形態の少なくとも1つを満たすことが好ましく、少なくとも第一の実施形態を満たすことがより好ましい。
【0018】
プレ組成物の25℃における波長660nmの光の透過率は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。前記透過率の上限値は特に定めるものではないが、例えば、99%以下とすることができる。特に、25℃のプレ組成物の波長660nmにおける光の透過率は、原料組成物の波長660nmにおける透過率より、1%以上高いことが好ましく、2%以上高いことがより好ましい。また、25℃のプレ組成物の波長660nmにおける光の透過率は、原料組成物の波長660nmにおける透過率より、20%以下の範囲で高いことが現実的である。
さらに、プレ組成物のβ-1,3-1,6-グルカンの濃度は、β-1,3-1,6-グルカン分子主鎖の分岐度、分子量によって最大濃度に違いがあるが、グルカン含有組成物を効率的に製造することを考えると、モノマーグルコース濃度で、30~60mmol/L(0.49~0.97質量%)であることが好ましい。
【0019】
<β-1,3-1,6-グルカン粉末とその製造方法>
本発明では、プレ組成物を粉末化することによって、所望のβ-1,3-1,6-グルカン粉末を得ることができる。β-1,3-1,6-グルカン粉末は、β-1,3-1,6-グルカンを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
粉末化する方法としては、凍結乾燥、スプレードライ、エレクトロスピニング、再沈殿、再結晶、濃縮乾固などが例示され、凍結乾燥およびスプレードライの少なくとも一方であることがより好ましく、凍結乾燥であることがさらに好ましい。
すなわち、本発明では、プレ組成物に対し、凍結乾燥およびスプレードライの少なくとも一方を行うことを含む、β-1,3-1,6-グルカン粉末の製造方法を開示する。本発明では、プレ組成物を凍結乾燥等によって粉末化することにより、溶解度が向上し、また、β-1,3-1,6-グルカンの粒子径をより小さくすることができる。
【0020】
スプレードライ法は、インレット温度50~200℃、アウトレット温度30~100℃で行うことが好ましい。
さらに、本発明のβ-1,3-1,6-グルカン粉末の製造方法によると、前記β-1,3-1,6-グルカン粉末(蒸留水に溶解させて測定)の動的光散乱測定によって測定したβ-1,3-1,6-グルカンの粒径分布のうち、体積分率が最も大きいピークの粒径が、前記プレ組成物を動的光散乱測定によって測定したβ-1,3-1,6-グルカンの粒径分布のうち、体積分率が最も大きいピークの粒径よりも、3nm以上(好ましくは3~7nm、より好ましくは3~5nm)小さくなるように調整することができる。
【0021】
具体的には、本発明のβ-1,3-1,6-グルカン粉末の一実施形態は、水に溶解したときの25℃における飽和溶解度は、1.0~20.0質量%である。前記飽和溶解度の下限値は、3.0質量%以上であることが好ましく、4.0質量%以上であることがより好ましい。前記飽和溶解度の上限は特に定めるものではないが、例えば、15.0質量%以下でも十分に要求性能を満たすものである。
特に、本発明のβ-1,3-1,6-グルカン粉末の重量平均分子量を100,000以下、さらには80,000以下とすることにより、例えば、飽和溶解度を9.0質量%以上にすることもできる。
【0022】
本発明のβ-1,3-1,6-グルカン粉末は、動的光散乱測定によって測定したβ-1,3-1,6-グルカンの粒径分布のうち、体積分率が最も大きいピークの粒径が5nm以上100nm未満の範囲(好ましくは8nm以上、また、好ましくは60nm以下、より好ましくは30nm以下、さらに好ましくは20nm以下、一層好ましくは15nm以下)にあり、前記粒径が5nm以上100nm未満の範囲外のピークの体積分率は、前記体積分率が最も大きいピークの体積分率の30%以下(好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下)であることが好ましい。すなわち、本発明では、プレ組成物を凍結乾燥等によって粉末化することによって、β-1,3-1,6-グルカンの粒子径を小さくできる。
【0023】
本発明のβ-1,3-1,6-グルカン粉末は、重量平均分子量(Mw)が5,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましい。また、Mwの上限値は、20,000,000以下であることが好ましい。Mwを上記下限値以上とすることにより、より適切にゲスト分子を包接できる。また、Mwを上記上限値以下とすることにより、β-1,3-1,6-グルカンを含む液の粘度が高くなりすぎたりすることを効果的に抑制することが可能になる。
【0024】
本発明のβ-1,3-1,6-グルカン粉末の25℃の溶解率(β-1,3-1,6-グルカン粉末のうち、溶解したものの割合、単位:質量%)は、25℃の水に対し、30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上とすることもできる。溶解率の上限は、100質量%が理想であるが凍結乾燥やスプレードライの条件下、含まれる結晶水の影響もあり、99質量%以下が実際的である。
【0025】
<グルカン含有組成物>
本発明のグルカン含有組成物は、本発明のβ-1,3-1,6-グルカン粉末と水を含む組成物である。すなわち、グルカン含有組成物には、粉末化した後、再溶解することによって得られる、より粒子径の小さいβ-1,3-1,6-グルカン溶液が含まれる。後述する実施例における凍結乾燥後の遠心再生β-1,3-1,6-グルカン溶液が、グルカン含有組成物の一例として挙げられる。
本発明のグルカン含有組成物の第一の実施形態は、水と、β-1,3-1,6-グルカンを含むグルカン含有組成物であって、水に対して、1.0~20.0質量%の割合でβ-1,3-1,6-グルカンが溶解しており、前記グルカン含有組成物を動的光散乱測定によって測定したβ-1,3-1,6-グルカンの粒径分布のうち、体積分率が最も大きいピークの粒径が5nm以上100nm未満の範囲(好ましくは8nm以上、また、好ましくは60nm以下、より好ましくは30nm以下、さらに好ましくは20nm以下、一層好ましくは15nm以下)にあり、前記粒径が5nm以上100nm未満の範囲外のピークの体積分率は、前記体積分率が最も大きいピークの体積分率の30%以下(好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下)である、グルカン含有組成物である。
本発明のグルカン含有組成物の第二の実施形態は、水とβ-1,3-1,6-グルカンを含むグルカン含有組成物であって、前記グルカン含有組成物を動的光散乱測定によって測定したβ-1,3-1,6-グルカンの粒径分布のうち、体積分率が最も大きいピークの粒径が5~15nm(好ましくは8nm以上、また、好ましくは13nm以下)の範囲にあり、前記粒径が5nm以上100nm未満の範囲外のピークの体積分率は、前記体積分率が最も大きいピークの体積分率の30%以下(好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下)である、グルカン含有組成物である。例えば、Aureobasidium pullulnans由来のβ-1,3-1,6-グルカンを用いると、このようなグルカン含有組成物が得られやすい。
本発明のグルカン含有組成物の第三の実施形態は、水とβ-1,3-1,6-グルカンを含むグルカン含有組成物であって、動的光散乱測定によって測定したβ-1,3-1,6-グルカンの粒径分布のうち、体積分率が最も大きいピークの粒径が、前記プレ組成物を動的光散乱測定によって測定したβ-1,3-1,6-グルカンの粒径分布のうち、体積分率が最も大きいピークの粒径よりも、3nm以上(好ましくは3~7nm、より好ましくは3~5nm)小さいグルカン含有組成物である。
本発明のグルカン含有組成物を動的光散乱測定によって測定したβ-1,3-1,6-グルカンの粒径分布のうち、体積分率が最も大きいピークの粒径の体積分率は、10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましい。上限は、高ければ高いほどよいが、例えば、25%以下、さらには20%以下でも要求性能を満たすものである。
【0026】
また、本発明のβ-1,3-1,6-グルカン粉末は水に対する溶解性が高いことから、例えば、本発明のグルカン含有組成物の25℃における波長660nmの光の透過率を70%以上とすることができる。さらには、前記透過率を80%以上とすることもでき、特には、83%以上とすることもできる。
また、本発明のグルカン含有組成物のβ-1,3-1,6-グルカンの濃度の、25℃における飽和濃度としては、モノマーグルコース濃度で、300~650mmol/Lであることが好ましい。
【0027】
また、本発明のグルカン含有組成物におけるβ-1,3-1,6-グルカンの重量平均分子量および分散度は、本発明のβ-1,3-1,6-グルカン粉末の重量平均分子量および分散度と同じ範囲が好ましい。
【0028】
<包接>
β-1,3-1,6-グルカンは、強アルカリ性の溶液中やジメチルスルホキシド(DMSO)などの非プロトン性極性溶媒中では、三重鎖螺旋構造が解け、一本鎖のランダムコイル構造に解離することが知られている。また、この強アルカリ性やDMSOによる一本鎖のランダムコイル構造に解いた状態から溶液を中和や、希釈/透析すると、再度、元の三重鎖状態に戻ることが知られている。この一本鎖ランダムコイル構造に解いた状態から元の三重鎖状態に戻る過程において、他の分子を共存させると三重鎖の中に他の分子を取り込むことができる。つまり、β-1,3-1,6-グルカンは包接ホストとして働き、他の分子を包接ゲストとして包接することができる。
また、この一本鎖ランダムコイル構造に解いた状態から、他の分子を共存させずに元の三重鎖状態に戻すと部分的に三重鎖螺旋構造が乱れたβ-1,3-1,6-グルカンを調製することができる。このβ-1,3-1,6-グルカンは、中性水溶液中で添加した他の分子を包接させることができ、強アルカリ性で分解する分子を包接させることもできる。 すなわち、本発明では、本発明のβ-1,3-1,6-グルカン粉末、および、本発明のグルカン含有組成物の少なくとも1種を用いてゲスト分子が包接されている、包接複合体を開示する。
ゲスト分子としては、β-1,3-1,6-グルカンで包接可能な化合物であれば特に定めるものではないが、通常、難水溶性物質であり、難水溶性のビタミンおよびその誘導体、カロテノイドおよびその誘導体、テルペンおよびその誘導体、脂肪酸およびその誘導体、ポリフェノールおよびその誘導体、難水溶性の薬剤およびその誘導体、難水溶性の染色剤およびそれらの誘導体、難水溶性の炭素素材およびその誘導体、難水溶性の導電性高分子およびその誘導体、難水溶性のナノ粒子、ならびに、難水溶性の顔料およびその誘導体の1種または2種以上を用いることができる。
【0029】
本発明は、また、本発明のβ-1,3-1,6-グルカン粉末、および、本発明の組成物の少なくとも1種を用いてゲスト分子を包接させることを含む、包接複合体の製造方法を開示する。
本発明のβ-1,3-1,6-グルカン粉末は、ゲスト分子の回収にも用いることができる。より具体的には、本発明のβ-1,3-1,6-グルカン粉末、および、本発明の組成物の少なくとも1種を用いてゲスト分子を包接させることを含む、ゲスト分子の回収方法が挙げられる。
【0030】
本発明において、ゲスト分子の包接能力をより高めるために、特開2016-183120号公報、特開2016-113381号公報に記載の包接技術を採用することもでき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
本発明の包接複合体は、β-1,3-1,6-グルカンに対してゲスト分子を加えるだけで包接できる。さらに、β-1,3-1,6-グルカンは、食品添加物として認可されているため、新規な認可申請をすることなく、食品に利用することができる。
また、食品の他、医薬品、化粧品などにも好ましく用いられる。
【実施例
【0031】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
尚、以下の実験は、特に述べない限り、25℃の雰囲気下で行った。
【0032】
<β-1,3-1,6-グルカン>
実施例1~4では、以下のグルカンを用いた。
実施例1
Aureobasidium pullulans由来のβ-1,3-1,6-グルカン
実施例2
スエヒロダケ由来のβ-1,3-1,6-グルカン(シゾフィラン):
主鎖がβ-1,3-グルカンであり、主鎖のグルコース3個に1つ、β-1,6-モノグルコシド分岐鎖を持つ、β-1,3-1,6-グルカン
実施例3
コンブ由来のβ-1,3-1,6-グルカン(ラミナリン):
主鎖が主としてβ-1,3-グルカンであり、部分的にβ-1,6-結合を形成するところがある。また、β-1,6-結合の糖間架橋や分岐点を持つとされる。
実施例4
菌核由来のβ-1,3-1,6-グルカン(スクレログルカン):
主鎖がβ-1,3-グルカンであり、主鎖のグルコース3個に1つ、β-1,6-モノグルコシド分岐鎖を持つ、β-1,3-1,6-グルカン
【0033】
<β-1,3-1,6-グルカンの培養および抽出>
5Lのフラスコを備えたミニジャーファーメンター(サンキ精機社製)にD-スクロースを10質量%、硝酸カリウムを0.24質量%、リン酸水素二カリウムを0.12質量%、塩化カリウムを0.06質量%、硫酸マグネシウム七水和物を0.05質量%、硫酸鉄(II)七水和物を0.12質量%、L-アスコルビン酸0.40質量%、酵母エキス(アサヒグループ食品社製、ミーストP1G)を0.02質量%含む培地水溶液(3L)を調製し、予め種培養しておいたAureobasidium pullulansの菌体溶液を加え、27℃で7日間培養した。
得られた培養液を蒸留水で4倍に希釈し、ブフナーロート(アドバンテック社製、No.5C)で菌体をろ別し、ろ液はエタノールに滴下し、再沈殿を行なった。得られた固体をエタノールで洗浄後、水を加えて凍結乾燥し、白色のβ-1,3-1,6-グルカン粉末24.5gを得た。得られた粉末を、β-1,3-1,6-グルカン粉末(Aureobasidium pullulans由来)と称する。
【0034】
<超音波分解によるβ-1,3-1,6-グルカンの低分子量化>
β-1,3-1,6-グルカン粉末(Aureobasidium pullulans由来)200mgに蒸留水300mLを加え、電子レンジで加熱し、可能な限り溶解させた。その後、不溶物を遠心分離操作(Avanti J-E(BECKMAN COULTER社製)、14,000rpm、30分間、25℃)により取り除き、β-1,3-1,6-グルカン溶液を調製した。得られたβ-1,3-1,6-グルカン溶液を500mLのビーカーに移し、プローブ式超音波照射機(アズワン社製、UH-50)のプローブホーンを溶液に差し込み、室温で25時間超音波照射を行った。
得られたβ-1,3-1,6-グルカン溶液に浮遊する不溶物を遠心分離操作(Avanti J-E(BECKMAN COULTER社製)、14,000rpm、30分間、25℃)によって取り除いた後、溶液を凍結乾燥し、低分子量化β-1,3-1,6-グルカン粉末(以下、「β-1,3-1,6-グルカン粉末(低分子量)」と呼ぶ)を得た。
得られたβ-1,3-1,6-グルカン粉末(低分子量)の分子量は、ゲル排除クロマトグラフィー(担体:トヨパールHW-65F、溶離液:0.7M水酸化ナトリウム水溶液、分子量スタンダード:プルラン(Shodex社製、P-82))によって測定したところ、重量平均分子量(Mw)=84,000、数平均分子量(Mn)=2,500、Mw/Mn=33.5であった。
また、上記超音波照処理を行う前のβ-1,3-1,6-グルカン粉末(Aureobasidium pullulans由来)の分子量は、Mw=3,470,000、Mn=254,000、Mw/Mn=13.7であった。これはアルカリ溶液中で1本鎖となったβ-1,3-1,6-グルカンをプルランで換算した分子量である。また、実験に用いた他のβ-1,3-1,6-グルカンの分子量は、スクレログルカン(フナコシ社製、PS135)でMw=2,300,000、Mn=58,300、Mw/Mn=39.4、ラミナリン(シグマ社製、L9634)でMw=372,000、Mn=283,000、Mw/Mn=1.32、シゾフィラン(ナカライテスク社製、カタログ番号:Tlrl-spg)でMw=675,000、Mn=287,000、Mw/Mn=2.35であった。
【0035】
<再生β-1,3-1,6-グルカン溶液の調製>
再生β-1,3-1,6-グルカンは、特開2016-113381号公報の段落0033および0034に記載の方法に従って調製した。
β-1,3-1,6-グルカン粉末(Aureobasidium pullulans由来)を1.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に2.5質量%の濃度で溶解させて、アルカリ水溶液を得た。
得られたアルカリ水溶液に、同体積の1.0mol/Lの塩酸をゆっくりと加えて中和し、25℃で7日間撹拌を続け、再生β-1,3-1,6-グルカン溶液を得た。得られた溶液を透析膜(分子量14,000カット、日本メディカルサイエンス社製)に移し、24時間、蒸留水で透析した。この際、得られた溶液(再生β-1,3-1,6-グルカン溶液)は懸濁していた。得られた再生β-1,3-1,6-グルカン溶液の濃度(モノマーグルコース濃度)はフェノール硫酸法によって決定した。
フェノール硫酸法は、96穴マイクロプレートを用いて行った。氷冷した96穴マイクロプレートにサンプル溶液50μLを入れ、80質量%で調製したフェノール水溶液を1.2μL加えた。そこに濃硫酸を124μL添加し、そのまま10分間氷冷を続けた。シェイキングインキュベーター(アズワン社製、SI-150)を用いて1300rpmで20秒間プレートを攪拌し、溶液を混合した後、60℃で30分間静置し、発色反応を進行させた。その後、紫外線(UV)プレートリーダー(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)で492nmの吸光度を測定した。あらかじめ、グルコースを用いて検量線(グルコース濃度0.5~2.5mmol/L)を作成しておき、得られた吸光度からモノマーグルコース濃度を算出した。
また、濁度は波長660nmのOD660(透過率)を測定した。すなわち、グルコース濃度が30mmol/L(0.49質量%)となるように希釈し、測定し、換算して、波長660nmのOD660を算出した。
β-1,3-1,6-グルカンとして、シゾフィラン、ラミナリンおよび、スクレログルカンについても同様に行った。
得られた結果を表1にまとめた。用いたすべてのβ-1,3-1,6-グルカンにおいて、β-1,3-1,6-グルカンの構造に依存せず、40~60mmol/Lのモノマーグルコース濃度で、再生β-1,3-1,6-グルカン溶液を得ることができた。しかし、すべての再生β-1,3-1,6-グルカン溶液で懸濁が確認された。
【0036】
【表1】
【0037】
<遠心再生β-1,3-1,6-グルカン溶液の調製>
上記で調製した各再生β-1,3-1,6-グルカン溶液に含まれる不溶物を、遠心分離操作(KUBOTA3740(久保田製作所社製)、14,000G、120分間)によって取り除き、透明な遠心再生β-1,3-1,6-グルカン溶液(遠心再生β-1,3-1,6-グルカン溶液)を得た。得られた遠心再生β-1,3-1,6-グルカン溶液の濃度(モノマーグルコース濃度)はフェノール硫酸法によって決定し、濁度は660nmのOD660を測定した。すなわち、グルコース濃度が30mmol/L(0.49質量%)となるように希釈し、測定し、換算して、660nmのOD660を算出した。
得られた結果を表2にまとめた。遠心分離操作を経ると、溶液中に浮遊する不溶物(グルカンからなるミクロゲル)が沈降し、透明な溶液となった。また、それに伴って上清のグルコース濃度は低くなった。いずれのサンプルにおいても、透明度が増加していた。この際、遠心分離操作を繰り返しても上清のグルコース濃度に変化がないことを確認した。
【0038】
【表2】
【0039】
<β-1,3-1,6-グルカングルカン由来の粉末の取得>
上記で得られた各再生β-1,3-1,6-グルカン溶液、各遠心再生β-1,3-1,6-グルカン溶液を凍結乾燥機(東京理化器械社製、FDU-1200)で凍結乾燥し、各β-1,3-1,6-グルカン粉末を得た。
また、Aureobasidium pullulans由来のβ-1,3-1,6-グルカンについては、遠心再生β-1,3-1,6-グルカン溶液を、Buchi社製、Mini Spray Dryer B-290(インレット温度:160℃、アウトレット温度:80℃)を用いてスプレードライ法によっても粉末化した。
さらに、Aureobasidium pullulans由来のβ-1,3-1,6-グルカンについては、既存の方法でも粉末化した。すなわち、Aureobasidium pullulans培養液に最終濃度が2.4質量%となるように25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を加え、撹拌した。そこに、珪藻土を1質量%の濃度で加え、ブフナーロートで菌体をろ別した。得られたろ液に、50質量%クエン酸水溶液を加え、pHを3.5に調整後、エタノールで再沈殿した。この際、エタノールの最終濃度は66体積%とし、生成した固体はエタノールで洗浄後、蒸留水を加え、凍結乾燥し、既存の方法でβ-1,3-1,6-グルカン粉末を得た。
【0040】
<β-1,3-1,6-グルカン粉末の溶解度>
得られた各β-1,3-1,6-グルカン粉末の水への再溶解性を調べるために、以下の実験を行なった。
上記で得られた各β-1,3-1,6-グルカン粉末10mgを1.5mLのプラスチックチューブに入れ、蒸留水1mLを加えた後(1.0質量%の濃度)、ボルテックスミキサーで5分間撹拌し、可能な限り溶解させた(溶解しにくかったものに関しては最長で30分間撹拌を続けた)。溶解しなかったβ-1,3-1,6-グルカンを取り除くため、遠心分離操作(Micro-12 High Speed Micro Centrifuge(グライナー社製)、15,000rpm、5分間)を行い、上清を取り出し、溶解したβ-1,3-1,6-グルカンの濃度(モノマーグルコース濃度)をフェノール硫酸法から算出した。同時に、10mgの粉末がすべてグルカンであったと仮定して、溶解率(β-1,3-1,6-グルカン粉末のうち、溶解したものの割合、単位:質量%)を算出した。
得られた結果を表3にまとめた。表3より、従来法によって粉末化したβ-1,3-1,6-グルカン粉末では、加えた10mgのβ-1,3-1,6-グルカン粉末のほとんどは溶解せずに固形物として沈殿し、グルカンの溶解度は22質量%しかなく、OD660も0.28という高い値を示した。一方、本発明の方法に従って調製されたβ-1,3-1,6-グルカンでは、70質量%以上の溶解率を示し、沈殿物はほとんど確認することはできなかった。OD660も0.04以下であり、本発明においては、従来技術よりも高いグルカン濃度で、再溶解性の極めて高いβ-1,3-1,6-グルカン粉末を得ることができた。
【0041】
【表3】
【0042】
上記表3に示したように、各遠心再生β-1,3-1,6-グルカンにおいて、再溶解性の高いβ-1,3-1,6-グルカン粉末を得ることができた。これは、遠心分離操作によって粒子径の大きな粒子を取り除いたことに起因すると考えられる。
そこで、遠心分離操作前後で起こるβ-1,3-1,6-グルカン溶液の濁度の違いを、動的光散乱測定(マルバーン社製、ゼーターサイザーナノZS)で粒子径の変化を測定することで比較した
動的光散乱測定に用いたサンプル溶液はAureobasidium pullulans由来のβ-1,3-1,6-グルカンで調製した再生β-1,3-1,6-グルカン、遠心再生β-1,3-1,6-グルカンの溶液、β-1,3-1,6-グルカン粉末を再溶解させた溶液を用い、25℃で測定した。各β-1,3-1,6-グルカン溶液におけるモノマーグルコース濃度(フェノール硫酸法によって測定)は、10mmol/Lになるように希釈し、調整した。
【0043】
動的光散乱測定は、蒸留水に溶解したβ-1,3-1,6-グルカンを用いて測定した。具体的には、β-1,3-1,6-グルカンの屈折率:1.673、グルカンの吸光度(633nm):0.01、分散媒(水)の温度:25℃、分散媒の粘度:0.8872cP、分散媒の屈折率:1.33、平衡時間:120秒、スキャン回数:10回、測定時間:10秒で測定した。この測定を10回繰り返し、得られたデータを平均化したものを結果として用いた。
結果を図1および下記表4に示した。横軸が粒径を、縦軸が体積分率を示している。破線が凍結乾燥前の再生β-1,3-1,6-グルカンを、実線が凍結乾燥前の遠心再生β-1,3-1,6-グルカンを示している。図1より、遠心分離前のサンプルでは粒子径1000nm以上(1μm以上)の大きな粒子も混在しているが、遠心分離操作を行うと、大きな粒子は取り除かれ粒子径は100nm未満(数十nm程度)となることが分かった。
さらに、凍結乾燥を行った遠心再生β-1,3-1,6-グルカンを用いると、粒子径は凍結乾燥前よりも小さくなることが分かった(図2、表4)。実線が凍結乾燥前の遠心再生β-1,3-1,6-グルカンを、破線が凍結乾燥後の遠心再生β-1,3-1,6-グルカンを示している。例えば、再生β-1,3-1,6-グルカンでは、粒子径51.3nmを中心とする体積分率のピークが粒子径25.6nmを中心とする体積分率のピークへ、粒子径1176nmを中心とする体積分率のピークが粒子径817.7nmを中心とする体積分率のピークへとシフトした。遠心再生β-1,3-1,6-グルカンにおいても粒子径16.0nmを中心とする体積分率のピークが粒子径11.3nmを中心とする体積分率のピークへとシフトした(図2)。また、遠心再生β-1,3-1,6-グルカンでは、凍結乾燥させた粉末を再溶解させても粒子径の大きなグルカンが生成することはなかった。
【0044】
【表4】
【0045】
<遠心再生β-1,3-1,6-グルカン粉末の飽和溶解度>
上述のとおり、本発明の方法に従って調製された遠心再生β-1,3-1,6-グルカン粉末は従来法で得られたβ-1,3-1,6-グルカン粉末よりも、高い溶解度を示した。
そこで、Aureobasidium pullulans由来のβ-1,3-1,6-グルカン粉末を用いて、25℃における飽和溶解度を測定した。
ここで用いたβ-1,3-1,6-グルカン粉末は、遠心再生β-1,3-1,6-グルカン粉末に加えて、超音波照射によって低分子量化した遠心再生β-1,3-1,6-グルカン粉末(低分子)を用い、操作は以下のように行った。
200μLの蒸留水を入れた1.5mLのプラスチックチューブに、遠心再生β-1,3-1,6-グルカン粉末1mgを加え、ボルテックスミキサーで5分間撹拌する作業を、加えた粉末が溶け残るまで続けたところ、総量10mgまで溶解したが、11mgでは溶解しなかった。同様の実験を、遠心再生β-1,3-1,6-グルカン粉末(低分子量)でも行ったところ、総量20mgで飽和した。
得られた結果より、遠心再生β-1,3-1,6-グルカン粉末では5.0質量%の飽和溶解度、遠心再生β-1,3-1,6-グルカン粉末(低分子)では10.0質量%の飽和溶解度を示し、分子量が低くなると、飽和溶解度は上昇することが示された。
また、下記表5には、凍結乾燥前の遠心再生β-1,3-1,6-グルカンの濃度を示した。アルカリ溶液に溶解させたグルカン濃度が高くなると、溶液がゲル化してしまい、遠心再生β-1,3-1,6-グルカン溶液を得ることができなくなり、最大でも0.8質量%しか得ることはできない。しかし、本発明に従う粉末化法を経て、再溶解させると、5.0質量%(従来法の6倍の濃度)にまでグルカン濃度を上昇させることができた。すなわち、粉末化に伴って、従来は製造することができなかった高濃度のグルカン溶液を調製できるようになった。
【0046】
【表5】
※ゲル化してしまい、遠心分離をしても上清溶液を取り出すことができなかった。
【0047】
<難水溶性物質の包接実験(包接複合体の調製)>
粉末化に伴う遠心再生β-1,3-1,6-グルカンの特性変化を調べるため、遠心再生β-1,3-1,6-グルカンの持つ難水溶性物質に対する包接、可溶化能力を比較した。
遠心再生β-1,3-1,6-グルカン粉末としては、Aureobasidium pullulans由来のβ-1,3-1,6-グルカン(凍結乾燥)を用い、難水溶性物質としてはクルクミン(東京化成工業社製、カタログ番号:C0435)を用いた。
遠心再生β-1,3-1,6-グルカン粉末は1.0質量%の濃度で蒸留水に溶解させ、フェノール硫酸法によってグルコース濃度を算出したのち、希釈して用いた。また、粉末化による包接能力の変化を調べるコントロールとして粉末化前の遠心再生β-1,3-1,6-グルカン溶液を用い、同じく希釈して実験に使用した。
モノマーグルコース濃度を0.002mol/Lに調整した各遠心再生β-1,3-1,6-グルカン溶液を1mLずつ用意し、0.05mol/Lの濃度に調整したクルクミンのアセトン溶液をアセトンの最終濃度が1体積%となるように添加した。この際、包接されなかったクルクミンを沈殿させるためにシェイキングインキュベーター(アズワン社製、SI-150)で25℃、1300rpm、3時間振とう撹拌した。遠心分離操作(KUBOTA3740(久保田製作所社製)、14,000G、5分間)を行い、不溶物を取り除き、上清の波長405nmにおける吸光度を比較した。包接されなかったクルクミンは遠心分離操作によって除去されているため、吸光度は、遠心再生β-1,3-1,6-グルカンによって包接、可溶化されたクルクミンに由来するものである。
図3に示す様に、上清のクルクミンに由来する吸光度(波長405nm)は、β-1,3-1,6-グルカン非存在下で0.045、凍結乾燥を行っていない再生β-1,3-1,6-グルカン溶液で0.340、再生β-1,3-1,6-グルカン粉末由来の溶液(凍結乾燥)で0.404(18%増)、再生β-1,3-1,6-グルカン粉末由来の溶液(スプレードライ)β-1,3-1,6-グルカン粉末由来の溶液で0.138であった。凍結乾燥を行なった遠心再生β-1,3-1,6-グルカン粉末では、クルクミンに対する包接能力が向上していることが明らかとなった。
【0048】
<包接複合体の粉末化と飽和溶解度>
30mMの濃度に調整した再生β-1,3-1,6-グルカン粉末溶液20mLに0.05mol/Lの濃度に調整したクルクミンのアセトン溶液をアセトンの最終濃度が1体積%となるように0.20mL添加した。包接されなかったクルクミンを沈殿させるためにボルテックスミキサーで5分間撹拌した。遠心分離操作(KUBOTA3740(久保田製作所社製)、14,000G、5分間)を行い、不溶物を取り除き、上清を凍結乾燥し、黄色の粉末80mgを得た。
得られたクルクミン/遠心再生β-1,3-1,6-グルカン複合体の粉末の飽和溶解度を測定した。200μLの蒸留水を入れた1.5mLのプラスチックチューブに、クルクミン/遠心再生β-1,3-1,6-グルカン複合体粉末1mgを加え、ボルテックスミキサーで5分間撹拌する作業を、加えた粉末が溶け残るまで続けたところ、総量10mgで飽和した。
得られた結果は、上記で得られた遠心再生β-1,3-1,6-グルカン粉末(難水溶性物質を包接していないβ-1,3-1,6-グルカン)の飽和溶解度と差がないことから、難水溶性物質を包接しても、包接していなくても、得られるβ-1,3-1,6-グルカン粉末の飽和溶解度に差が生じないことが明らかとなった。
【0049】
<クルクミンに対する飽和溶解度の比較>
上記で調製されたクルクミン/β-1,3-1,6-グルカン複合体粉末の溶解性の高さを評価するために、クルクミンを含む溶液とその吸光度を比較した。実験には、クルクミン(東京化成工業社製、カタログ番号:C0435)から、上記で得られたクルクミン/遠心再生β-1,3-1,6-グルカン複合体溶液を、その溶液を凍結乾燥して調製されたクルクミン/遠心再生β-1,3-1,6-グルカン複合体の粉末から得られた飽和溶解度の溶液、秋ウコン100質量%粉末(オリヒロ社製)10mgを水1mLにボルテックスミキサーを使って最大限に溶解した溶液、ウコンの力(登録商標、ハウスウェルネスフーズ社製)の市販品溶液をそれぞれ用いた。
図4には、溶液の写真画像を示した。左から秋ウコン100質量%粉末、ウコンの力、クルクミン/遠心再生β-1,3-1,6-グルカン複合体溶液、クルクミン/遠心再生β-1,3-1,6-グルカン複合体粉末から得られた飽和溶液を示しているが、明らかに本発明に従う粉末から調製された溶液の溶解度が高いことが見て取れた。
表6に示す上清の吸光度(440nm)から見積もったクルクミンの溶解度は、秋ウコン100質量%粉末に対して、ウコンの力は15倍、クルクミン/遠心再生β-1,3-1,6-グルカン複合体溶液で143倍であったのに対して、本発明に従うクルクミン/遠心再生β-1,3-1,6-グルカン複合体粉末から得られた飽和溶液では1320倍にまで向上した。これは粉末化していないクルクミン/遠心再生β-1,3-1,6-グルカン複合体溶液と比較しても、9.2倍も高い。
尚、希釈して測定したサンプルは、希釈後に測定した吸光度に希釈倍率をかけた値を示している。
【0050】
【表6】
【0051】
<包接複合体の安定性>
上記で調製したクルクミン/遠心再生β-1,3-1,6-グルカン複合体溶液、クルクミン/遠心再生β-1,3-1,6-グルカン複合体粉末を使って、包接されたクルクミンの放出挙動(包接安定性)を比較した。クルクミン/遠心再生β-1,3-1,6-グルカン複合体粉末は、3mgを図り取り、蒸留水5mLに溶解させたものを使用した。
得られた溶液の安定性は、40℃に設定した恒温インキューベーターに静置し、一定時間ごとの上清の吸光度(波長:405nm)をマイクロプレートリーダーで測定した。クルクミンは水溶性が低く、β-1,3-1,6-グルカンから放出されると沈殿するため、吸光度は減少していく。つまり、吸光度が小さくなるほど、複合体が不安定であることを意味している。
得られた結果より、例えば、40℃ではクルクミン/遠心再生β-1,3-1,6-グルカン複合体溶液(図5中の白丸)は、1時間後に45質量%のクルクミンが放出されているのに対して、クルクミン/遠心再生β-1,3-1,6-グルカン複合体粉末を再溶解させた溶液(図5中の黒丸)は、1時間後に30質量%の放出にとどまった。放出速度から半減期を算出したところ、クルクミン/遠心再生β-1,3-1,6-グルカン複合体溶液は1.6時間、クルクミン/遠心再生β-1,3-1,6-グルカン複合体粉末2.2時間であり、明らかに安定性が増していることがわかる(図5)。この粉末化に伴う熱安定性の向上は、40℃以外の温度でも同様に現れており、粉末化に伴う機能向上であると言える。
【0052】
<他の難水溶性物質に対する粉末化効果>
また、上記包接複合体において、クルクミンをレスベラトロール、β-カロテンに代え、他は同様に行ったところ、同様の傾向を示すことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明により、水に対する溶解度が高いβ-1,3-1,6-グルカン粉末が得られ、難水溶性ゲスト分子などについても、高濃度溶液が提供可能になった。
図1
図2
図3
図4
図5