(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】セパレータ、セパレータの製造方法及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/44 20210101AFI20230620BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20230620BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20230620BHJP
H01M 50/42 20210101ALI20230620BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20230620BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20230620BHJP
H01M 50/411 20210101ALI20230620BHJP
【FI】
H01M50/44
H01M50/449
H01M50/414
H01M50/42
H01M50/489
H01M50/403 Z
H01M50/411
(21)【出願番号】P 2019059520
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】金 翼水
(72)【発明者】
【氏名】上村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲せい▼雨
(72)【発明者】
【氏名】黄 博然
(72)【発明者】
【氏名】朱 春紅
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 建二
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/100783(WO,A1)
【文献】特開2019-028047(JP,A)
【文献】特開2006-092829(JP,A)
【文献】特開2011-074536(JP,A)
【文献】特表2014-532979(JP,A)
【文献】特表2015-508937(JP,A)
【文献】特表2013-510389(JP,A)
【文献】特表2009-528396(JP,A)
【文献】Zhao, Y. Y. et al.,The effects of organic solvent on the electrospinning of water-soluble polyacrylamide with ultrahigh molecular weight,Solid State Phenomena,スイス,2007年,Vols. 121-123,pp. 113-116
【文献】中野翔太, 富田直人, 松葉豪,PAN/DMF/水系のゲルの構造と形成プロセス,平成25年度繊維学会年次大会予稿集2PB47,日本,2013年06月12日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレート(PET)を主成分とする繊維を主に含む不織布基材層と、
ポリアクリルアミド(PAM)及びポリアクリロニトリル(PAN)を主成分とするナノ繊維を主に含み、前記不織布基材層の少なくとも一方の面に形成されたナノ繊維層とを備えることを特徴とするセパレータ。
【請求項2】
前記不織布基材層は、PETからなる繊維により構成されていることを特徴とする請求項1に記載のセパレータ。
【請求項3】
前記ナノ繊維層は、PAM及びPANからなるナノ繊維により構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のセパレータ。
【請求項4】
前記ナノ繊維の構成材料を重量で評価するとき、前記ナノ繊維は、PANよりもPAMを多く含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のセパレータ。
【請求項5】
前記不織布基材層の厚みは、5μm~30μmの範囲内にあり、
前記ナノ繊維層の厚みは、1μm~5μmの範囲内にあることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のセパレータ。
【請求項6】
溶質の主成分としてポリアクリルアミド(PAM)及びポリアクリロニトリル(PAN)を含有する紡糸溶液を準備する紡糸溶液準備工程と、
前記紡糸溶液を用いた電界紡糸により、ポリエチレンテレフタレート(PET)を主成分とする繊維を主に含む不織布基材層の少なくとも一方の面に、PAM及びPANを主成分とするナノ繊維を主に含むナノ繊維層を形成するナノ繊維層形成工程とを含むことを特徴とするセパレータの製造方法。
【請求項7】
前記不織布基材層は、PETからなる繊維により構成されていることを特徴とする請求項6に記載のセパレータの製造方法。
【請求項8】
前記紡糸溶液は、前記ナノ繊維を形成するための高分子成分としてPAM及びPANのみを含有することを特徴とする請求項6又は7に記載のセパレータの製造方法。
【請求項9】
前記紡糸溶液の溶質を重量で評価するとき、前記紡糸溶液は、PANよりもPAMを多く含むことを特徴とする請求項6~8のいずれかに記載のセパレータの製造方法。
【請求項10】
前記ナノ繊維層形成工程においては、
前記不織布基材層として、厚みが5μm~30μmの範囲内にあるものを用い、
厚みが1μm~5μmの範囲内となるように前記ナノ繊維層を形成することを特徴とする請求項6~9のいずれかに記載のセパレータの製造方法。
【請求項11】
前記紡糸溶液は、0.05wt%~0.5wt%の過塩素酸テトラブチルアンモニウム(TBAP)をさらに含有することを特徴とする請求項6~10のいずれかに記載のセパレータの製造方法。
【請求項12】
請求項1~5のいずれかに記載のセパレータを備えることを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セパレータ、セパレータの製造方法及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、二次電池の一種であるリチウムイオン電池がよく知られている。リチウムイオン電池は、高エネルギー密度、高電圧、長寿命及び低自己放電率等の特徴を有する。このため、リチウムイオン電池は、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラ等、多くの携帯型端末の電源として広く用いられている。さらに、設置型の電源や自動車(ハイブリット車及び電気自動車)用の電源のような大型・大容量の電源としてのリチウムイオン電池の需要も拡大している。
【0003】
リチウムイオン電池においては、正極と負極との物理的接触を避けるため、両極の間にセパレータが配置されている。セパレータの特性はリチウムイオン電池の性能に大きな影響を与えるため、リチウムイオン電池の技術分野においては、セパレータの性能向上が求められている。
【0004】
セパレータとしては、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)からなるシートを延伸等で多孔質化したもの(多孔質化樹脂シート)が広く一般に用いられている。一方、高温状態における安定性(耐熱性)、出力特性、サイクル寿命等を向上させるため、不織布を用いたセパレータについての研究も行われている。不織布を用いたセパレータとしては、不織布のみからなるセパレータが知られている(例えば、特許文献1参照。)。不織布からなる不織布基材層をセラミックでコーティングし、耐熱性や濡れ性等の特性の向上を図ったセパレータ(例えば、特許文献2参照。)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-329393号公報
【文献】特開2015-156342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
不織布を用いたセパレータは多くの優れた特性を持ちうることが判明しているが、多孔質化樹脂シートを用いたセパレータと比較して知見がまだ少ないこともあり、本格的な普及には至っていない。
【0007】
そこで、本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、不織布を用い優れた特性を有するセパレータを提供することを目的とする。また、不織布を用い優れた特性を有するセパレータを製造可能なセパレータの製造方法を提供することを特徴とする。さらに、本発明のセパレータを用いた高品質なリチウムイオン電池を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]本発明のセパレータは、ポリエチレンテレフタレート(PET)を主成分とする繊維を主に含む不織布基材層と、ポリアクリルアミド(PAM)及びポリアクリロニトリル(PAN)を主成分とするナノ繊維を主に含み、前記不織布基材層の少なくとも一方の面に形成されたナノ繊維層とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明のセパレータによれば、不織布基材層とナノ繊維層とを備えるため、後述する実施例に示すように、不織布基材層をセラミックでコーティングしたセパレータ(以下、単に従来のセパレータという。)と比較して、引張強度を高くすることが可能となる。
【0010】
また、本発明のセパレータによれば、ポリアクリルアミド(PAM)及びポリアクリロニトリル(PAN)を主成分とするナノ繊維を主に含むナノ繊維層を備えるため、後述する実施例に示すように、リチウムイオン電池の構成要素としては十分に高い耐熱性を有するようにすることが可能となる。
【0011】
また、本発明のセパレータによれば、ナノ繊維層を備えるため、後述する実施例に示すように、従来のセパレータよりも電解液吸収率及び空隙率を高くすることが可能となる。
【0012】
本発明のセパレータによれば、後述する実施例に示すように、上記のような特性を有するようにしつつ、従来のセパレータよりも薄型化することが可能となる。
【0013】
以上のように、本発明のセパレータは、不織布を用い優れた特性を有するセパレータとなる。
【0014】
また、本発明のセパレータによれば、ナノ繊維がナノ繊維の接着性を向上させるPANを含有するため、不織布基材層とナノ繊維層とを結合させるためのプレス工程を行わずに製造することが可能となる。その結果、本発明のセパレータによれば、プレス工程を行って製造するセパレータと比較して製造コストを低減することが可能となる。
【0015】
[2]本発明のセパレータにおいては、前記不織布基材層は、PETからなる繊維により構成されていることが好ましい。
【0016】
このような構成とすることにより、PETの特徴である優れた機械的強度及び耐熱性を十分に得ることが可能となる。
【0017】
[3]本発明のセパレータにおいては、前記ナノ繊維層は、PAM及びPANからなるナノ繊維により構成されていることが好ましい。
【0018】
このような構成とすることにより、十分に高い耐熱性及び機械的強度を得ることが可能となる。
【0019】
[4]本発明のセパレータにおいては、前記ナノ繊維の構成材料を重量で評価するとき、前記ナノ繊維は、PANよりもPAMを多く含むことが好ましい。
【0020】
このような構成とすることにより、製造時の溶媒として水を用いることが可能となり、製造コスト及び環境負荷を低減することが可能となる。
【0021】
[5]本発明のセパレータにおいては、前記不織布基材層の厚みは、5μm~30μmの範囲内にあり、前記ナノ繊維層の厚みは、1μm~5μmの範囲内にあることが好ましい。
【0022】
このような構成とすることにより、十分な機械的強度を得ることが可能となり、かつ、リチウムイオン電池の小型化や高エネルギー化を十分に達成することが可能となる。
また、上記のような構成とすることにより、十分な電解液吸収率及び空隙率を得ることが可能となり、かつ、必要以上の高コスト化を回避することが可能となる。
【0023】
なお、不織布基材層の厚みが5μmより小さい場合には、十分な機械的強度が得られない場合があり、不織布基材層の厚みが30μmより大きい場合には、リチウムイオン電池の構成要素として用いたときに、リチウムイオン電池の小型化や高エネルギー化を十分に達成することができない場合がある。
また、ナノ繊維層の厚みが1μmより小さい場合には、十分な電解液吸収率及び空隙率が得られない場合があり、ナノ繊維層の厚みが5μmより大きい場合には、ナノ繊維層が厚すぎることに起因して必要以上にコストが高くなってしまう場合がある。
【0024】
[6]本発明のセパレータの製造方法は、溶質の主成分としてポリアクリルアミド(PAM)及びポリアクリロニトリル(PAN)を含有する紡糸溶液を準備する紡糸溶液準備工程と、前記紡糸溶液を用いた電界紡糸により、ポリエチレンテレフタレート(PET)を主成分とする繊維を主に含む不織布基材層の少なくとも一方の面に、PAM及びPANを主成分とするナノ繊維を主に含むナノ繊維層を形成するナノ繊維層形成工程とを含むことを特徴とする。
【0025】
本発明のセパレータの製造方法は、上記した紡糸溶液準備工程及びナノ繊維形成工程を含むため、不織布を用い優れた特性を有する本発明のセパレータを製造することが可能なセパレータの製造方法となる。
【0026】
[7]本発明のセパレータの製造方法においては、前記不織布基材層は、PETからなる繊維により構成されていることが好ましい。
【0027】
このような製造方法とすることにより、PETの特徴である優れた機械的強度及び耐熱性を十分に有するセパレータを製造することが可能となる。
【0028】
[8]本発明のセパレータの製造方法においては、前記紡糸溶液は、前記ナノ繊維を形成するための高分子成分としてPAM及びPANのみを含有することを特徴とする請求項6又は7に記載のセパレータ。
【0029】
このような製造方法とすることにより、十分に高い耐熱性及び機械的強度を有するセパレータを製造することが可能となる。
【0030】
[9]本発明のセパレータの製造方法においては、前記紡糸溶液の溶質を重量で評価するとき、前記紡糸溶液は、PANよりもPAMを多く含むことが好ましい。
【0031】
このような製造方法とすることにより、溶媒として水を用いることが可能となり、製造コスト及び環境負荷を低減することが可能となる。
【0032】
[10]本発明のセパレータの製造方法においては、前記ナノ繊維層形成工程においては、前記不織布基材層として、厚みが5μm~30μmの範囲内にあるものを用い、厚みが1μm~5μmの範囲内となるように前記ナノ繊維層を形成することが好ましい。
【0033】
このような製造方法とすることにより、十分な機械的強度を得ることが可能であり、かつ、リチウムイオン電池の小型化や高エネルギー化を十分に達成することが可能なセパレータを製造することが可能となる。
また、上記のような製造方法とすることにより、十分な電解液吸収率及び空隙率を得ることが可能であり、かつ、必要以上の高コスト化を回避することが可能なセパレータを製造することが可能となる。
【0034】
[11]本発明のセパレータの製造方法においては、前記紡糸溶液は、0.05wt%~0.5wt%の過塩素酸テトラブチルアンモニウム(TBAP)をさらに含有することが好ましい。
【0035】
このような製造方法とすることにより、紡糸溶液の電導性を高くして、繊維径の均一性が高い高品質なナノ繊維層を形成することが可能となる。
【0036】
[12]本発明のリチウムイオン電池は、上記[1]~[5]のいずれかに記載のセパレータを備えることを特徴とする。
【0037】
本発明のリチウムイオン電池は、本発明のセパレータを用いた高品質なリチウムイオン電池となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】実施形態に係るセパレータ1の断面図である。
【
図2】実施形態に係るセパレータの製造方法のフローチャートである。
【
図3】実施例における電界紡糸装置100を説明するために示す模式図である。
【
図4】実施例における各試料の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図5】実施例における引張試験の結果を示すグラフである。
【
図6】実施例における濡れ性に関する試験結果を示す写真である。
【
図7】実施例における耐熱性(熱安定性)に関する試験結果を示す写真である。
【
図8】実施例における熱処理後の各試料の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図9】実施例における熱処理温度と電解質吸収率との関係を示す棒グラフである。
【
図10】実施例における熱処理温度と空隙率との関係を示す棒グラフである。
【
図11】実施例の電池試験における放電容量を示すグラフである。
【
図12】実施例の電池試験における充電効率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明に係るセパレータ、セパレータの製造方法及びリチウムイオン電池について、図に示す実施形態に基づいて説明する。以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明に必須であるとは限らない。
【0040】
[実施形態]
1.セパレータ
図1は、実施形態に係るセパレータ1の断面図である。
実施形態に係るセパレータ1は、
図1に示すように、不織布基材層10と、不織布基材層10の少なくとも一方の面に形成されたナノ繊維層20とを備える。なお、
図1においては、ナノ繊維層20は不織布基材層10の一方の面のみに形成されているが、ナノ繊維層20が不織布基材層10の両方の面に形成されていてもよい。
【0041】
不織布基材層10は、ポリエチレンテレフタレート(PET)を主成分とする繊維を主に含む。
本明細書において「主成分」とは、対象としてみるもの(繊維等)の重量の半分より多い重量を占める成分のことをいう。また、本明細書において、「ある繊維」について「主に含む」とは、繊維の過半が「ある繊維」であることをいう。
【0042】
不織布基材層10は、PETの重量が不織布基材層10の重量の半分以上を占めるものであることが好ましい。また、不織布基材層10は、PETからなる繊維により構成されていることが一層好ましい。
なお、「PETからなる繊維」及び「PETからなる繊維により構成されている不織布基材層」は、不可避的に混入する不純物や微量成分等の存在まで排除するものではない。また、「PETからなる繊維」は、繊維の主骨格を構成する高分子物質がPETであるもののことをいう。「PETからなる繊維」は、形状や物性を過剰に損なわない程度であれば、非高分子成分を含有していてもよい。
不織布基材層10の厚みは、5μm~30μmの範囲内にあることが好ましい。
【0043】
ナノ繊維層20は、ポリアクリルアミド(PAM)及びポリアクリロニトリル(PAN)を主成分とするナノ繊維を主に含む。
本明細書における「ナノ繊維(ナノファイバー)」とは、直径がおおよそ1μm以下で長さが直径の100倍以上の繊維状物質のことをいう。
【0044】
ナノ繊維層20は、PAM及びPANを合計した重量がナノ繊維層20の重量の半分以上を占めるものであることが好ましい。また、ナノ繊維層20は、PAM及びPANからなるナノ繊維により構成されていることが一層好ましい。
なお、「PAM及びPANからなるナノ繊維により構成されている」とは、不可避的に混入する不純物や微量成分等の存在まで排除するものではない。また、「PAM及びPANからなるナノ繊維」は、ナノ繊維の主骨格を構成する高分子物質がPAM及びPANであるもののことをいう。「PAM及びPANからなるナノ繊維」は、形状や物性を過剰に損なわない程度であれば、非高分子成分(例えば、後述するTBAP)を含有していてもよい。
【0045】
セパレータ1においては、ナノ繊維の構成材料を重量で評価するとき、ナノ繊維は、PANよりもPAMを多く含む。ナノ繊維におけるPAMとPANとの比率は、例えば、重量比でPAM:PAN=70:30~99:1とすることができる。
ナノ繊維層20の厚みは、1μm~5μmの範囲内にあることが好ましい。
【0046】
実施形態に係るセパレータ1の引張強度は、50MPa以上であることが一層好ましい。このような構成とすることにより、後述する実施例に示すように、応力による破断に対する十分な耐性を得ることが可能となる。
【0047】
実施形態に係るセパレータ1においては、セパレータ1を裁断して30mm×30mmの試料とし、後述する実施例におけるLiPF6溶液と同様の溶液(以下、所定の溶液という。)を試料に1滴滴下したとき、30秒後の濡れ面積(濡れにより変色した部分の面積)が2cm2以上であることが好ましく、5cm2以上であることが一層好ましく、8cm2以上であることがより一層好ましい。このような構成とすることにより、電解質の保持力を十分に高くし、電解質をスムーズに拡散させることが可能となる。
【0048】
実施形態に係るセパレータ1においては、昇温速度を2℃/minとし、200℃、空気雰囲気中で30分間熱処理(以下、所定の熱処理という。)を行ったときの熱収縮率(ある一方向における長さの変化率)が1%以下であることが好ましく、0.1%以下であることが一層好ましい。このような構成とすることにより、十分な耐熱性を有するようにして、高温環境下でも十分に安定して使用することが可能となる。
【0049】
実施形態に係るセパレータ1においては、所定の溶液についての電解質吸収率(算出方法については、後述する実施例参照。)が200%以上であることが好ましく、300%以上であることが一層好ましい。このような構成とすることにより、十分に多量の電解質を保持することが可能となる。
また、上記所定の熱処理を行った後の電解質吸収率が200%以上であることが好ましく、300%以上であることが一層好ましい。このような構成とすることにより、高温環境にさらされても十分に多量の電解質を保持することが可能となる。
【0050】
実施形態に係るセパレータ1においては、空隙率(算出方法については、後述する実施例参照。)が60%以上であることが好ましく、70%以上であることが一層好ましい。このような構成とすることにより、リチウムイオンの電導性を十分に高くすることが可能となる。
また、実施形態に係るセパレータ1においては、上記所定の熱処理を行った後の空隙率が60%以上であることが好ましく、70%以上であることが一層好ましい。このような構成とすることにより、高温環境にさらされてもリチウムイオンの電導性を十分に高くすることが可能となる。
【0051】
2.セパレータの製造方法
図2は、実施形態に係るセパレータの製造方法のフローチャートである。
実施形態に係るセパレータの製造方法は、
図2に示すように、紡糸溶液準備工程S10と、ナノ繊維層形成工程S20とを含む。
【0052】
紡糸溶液準備工程S10は、溶質の主成分としてポリアクリルアミド(PAM)及びポリアクリロニトリル(PAN)を含有する紡糸溶液を準備する工程である。紡糸溶液は、ナノ繊維を形成するための高分子成分としてPAM及びPANのみを含有することが好ましい。
また、紡糸溶液の溶質を重量で評価するとき、紡糸溶液は、PANよりもPAMを多く含む。紡糸溶液におけるPAMとPANとの比率は、例えば、重量比でPAM:PAN=70:30~99:1とすることができる。
紡糸溶液は、PAM及びPANの他に、電界紡糸を補助するための物質等を含有していてもよい。
例えば、紡糸溶液は、0.05wt%~0.5wt%の過塩素酸テトラブチルアンモニウム(Tetrabutylammonium Perchlorate、TBAP)をさらに含有することが好ましい。
【0053】
ナノ繊維層形成工程S20は、紡糸溶液を用いた電界紡糸により、ポリエチレンテレフタレート(PET)主成分とする繊維を主に含む不織布基材層10の少なくとも一方の面に、PAM及びPANを主成分とするナノ繊維を主に含むナノ繊維層20を形成する工程である。電界紡糸は、公知の種々の方法により実施することができる。
【0054】
不織布基材層10は、上記したセパレータ1における不織布基材層10と同様のものであるため、再度の説明は省略する。
ナノ繊維層形成工程S20においては、厚みが1μm~5μmの範囲内となるようにナノ繊維層20を形成することが好ましい。
【0055】
ナノ繊維層形成工程S20においては、不織布基材層10として、実際に用いるサイズよりも大きいものを用いてもよい。また、不織布基材層10として、実際に用いるサイズと同じ大きさのものを用いてもよい。
不織布基材層10として実際に用いるサイズよりも大きいものを用いる場合においては、セパレータの製造方法は、セパレータ1を裁断等してサイズを調整する工程をさらに含んでいてもよい。
【0056】
3.リチウムイオン電池
実施形態に係るリチウムイオン電池(図示せず。)は、実施形態に係るセパレータ1を備える。
本明細書における「リチウムイオン電池」は、「リチウムイオンが電気伝導を担う電池であって充電可能なもの」のことをいう。
以下、実施形態に係るリチウムイオン電池の構造を説明する。実施形態に係るリチウムイオン電池は、セパレータとして実施形態に係るセパレータ1を用いること以外は、一般に知られているリチウムイオン電池と同様の構成を有する。このため、実施形態に係るリチウムイオン電池に関しての図示は省略し、その構造についても簡単に説明するに留める。
【0057】
リチウムイオン電池は、セパレータ1以外に、正極、負極、電解質(電解液)及び外装を備える。リチウムイオン電池の正極、負極、電解質及び外装としては、従来のリチウムイオン電池で用いられているものをそのまま用いることができる。
正極としては、例えば、活物質(リチウム遷移金属酸化物)、導電材(カーボンブラック等)、バインダー(高分子物質)を含むものを用いることができる。
負極としては、例えば、活物質(代表的には黒鉛)、導電材、バインダー等を含むものを用いることができる。
電解質としては、例えば、リチウム塩と溶媒(例えば、エチレンカーボネート)とを含むものを用いることができる。また、電解質は、電解質をゲル化させるための高分子物質(ポリマー)を含んでいてもよい。
外装は、代表的なものとして、金属缶(スチール缶、アルミ缶等)及びアルミラミネートフィルムパックを挙げることができる。
【0058】
4.実施形態に係るセパレータ1、セパレータの製造方法及びリチウムイオン電池の効果
実施形態に係るセパレータ1は、不織布基材層10とナノ繊維層20とを備えるため、後述する実施例に示すように、不織布基材層をセラミックでコーティングしたセパレータ(従来のセパレータ)と比較して、引張強度を高くすることが可能となる。
【0059】
また、実施形態に係るセパレータ1によれば、ポリアクリルアミド(PAM)及びポリアクリロニトリル(PAN)を主成分とするナノ繊維を主に含むナノ繊維層20を備えるため、後述する実施例に示すように、リチウムイオン電池の構成要素としては十分に高い耐熱性を有するようにすることが可能となる。
【0060】
また、実施形態に係るセパレータ1によれば、ナノ繊維層20を備えるため、後述する実施例に示すように、従来のセパレータよりも電解液吸収率及び空隙率を高くすることが可能となる。
【0061】
また、実施形態に係るセパレータ1によれば、後述する実施例に示すように、上記のような特性を有するようにしつつ、従来のセパレータよりも薄型化することが可能となる。
【0062】
以上より、実施形態に係るセパレータ1は、不織布を用い優れた特性を有するセパレータとなる。
【0063】
また、実施形態に係るセパレータ1によれば、ナノ繊維がナノ繊維の接着性を向上させるPANを含有するため、不織布基材層10とナノ繊維層20とを結合させるためのプレス工程を行わずに製造することが可能となる。その結果、実施形態に係るセパレータ1によれば、プレス工程を行って製造するセパレータと比較して製造コストを低減することが可能となる。
【0064】
また、実施形態に係るセパレータ1によれば、不織布基材層10がPETからなる繊維により構成されている場合には、PETの特徴である優れた機械的強度及び耐熱性を十分に得ることが可能となる。
【0065】
また、実施形態に係るセパレータ1によれば、ナノ繊維層20がPAM及びPANからなるナノ繊維により構成されている場合には、十分に高い耐熱性及び機械的強度を得ることが可能となる。
【0066】
また、実施形態に係るセパレータ1によれば、ナノ繊維の構成材料を重量で評価するとき、ナノ繊維は、PANよりもPAMを多く含むため、製造時の溶媒として水を用いることが可能となり、製造コスト及び環境負荷を低減することが可能となる。
【0067】
また、実施形態に係るセパレータ1によれば、不織布基材層10の厚みが5μm~30μmの範囲内にある場合には、十分な機械的強度を得ることが可能となり、かつ、リチウムイオン電池の小型化や高エネルギー化を十分に達成することが可能となる。
【0068】
また、実施形態に係るセパレータ1によれば、ナノ繊維層20の厚みが1μm~5μmの範囲内にある場合には、十分な電解液吸収率及び空隙率を得ることが可能となり、かつ、必要以上の高コスト化を回避することが可能となる。
【0069】
実施形態に係るセパレータの製造方法は、溶質の主成分としてポリアクリルアミド(PAM)及びポリアクリロニトリル(PAN)を含有する紡糸溶液を準備する紡糸溶液準備工程S10と、紡糸溶液を用いた電界紡糸により、ポリエチレンテレフタレート(PET)を主成分とする繊維を主に含む不織布基材層10の少なくとも一方の面に、PAM及びPANを主成分とするナノ繊維を主に含むナノ繊維層20を形成するナノ繊維層形成工程S20とを含むため、不織布を用い優れた特性を有する実施形態に係るセパレータ1を製造することが可能なセパレータの製造方法となる。
【0070】
また、実施形態に係るセパレータの製造方法によれば、不織布基材層10がPETからなる繊維により構成されている場合には、PETの特徴である優れた機械的強度及び耐熱性を十分に有するセパレータ1を製造することが可能となる。
【0071】
また、実施形態に係るセパレータの製造方法によれば、紡糸溶液がナノ繊維を形成するための高分子成分としてPAM及びPANのみを含有する場合には、十分に高い耐熱性及び機械的強度を有するセパレータ1を製造することが可能となる。
【0072】
また、実施形態に係るセパレータの製造方法によれば、紡糸溶液の溶質を重量で評価するとき、紡糸溶液は、PANよりもPAMを多く含むため、溶媒として水を用いることが可能となり、製造コスト及び環境負荷を低減することが可能となる。
【0073】
また、実施形態に係るセパレータの製造方法によれば、不織布基材層10として、厚みが5μm~30μmの範囲内にあるものを用いる場合には、十分な機械的強度を得ることが可能であり、かつ、リチウムイオン電池の小型化や高エネルギー化を十分に達成することが可能なセパレータ1を製造することが可能となる。
【0074】
また、実施形態に係るセパレータの製造方法によれば、ナノ繊維層形成工程S20において厚みが1μm~5μmの範囲内となるようにナノ繊維層20を形成する場合には、十分な電解液吸収率及び空隙率を得ることが可能であり、かつ、必要以上の高コスト化を回避することが可能なセパレータ1を製造することが可能となる。
【0075】
また、実施形態に係るセパレータの製造方法によれば、紡糸溶液が0.05wt%~0.5wt%の過塩素酸テトラブチルアンモニウム(TBAP)をさらに含有する場合には、紡糸溶液の電導性を高くして、繊維径の均一性が高い高品質なナノ繊維層20を形成することが可能となる。
【0076】
実施形態に係るリチウムイオン電池は、実施形態に係るセパレータ1を備えるため、実施形態に係るセパレータ1を用いた高品質なリチウムイオン電池となる。
【0077】
[実施例]
実施例においては、実際に本発明に係るセパレータを製造し、構造の観察、物性等に関する試験等を行った。
【0078】
まず、実施例で用いた原料、試薬、装置等について説明する。
実施例で用いたPAM・PAN混合溶液及び不織布基材層(PETシート)は、荒川化学工業株式会社より提供されたものを用いた。
比較対象である従来のセパレータ(不織布基材層をセラミックでコーティングしたセパレータ)は、中国のGuangdong Jundong Technology社より提供されたものを用いた。
【0079】
n-ブタノール、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)及びアセトンは、和光純薬工業株式会社を通じて購入したものをそのまま用いた。過塩素酸テトラブチルアンモニウム(TBAP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)溶液は、シグマアルドリッチを通じて購入したものをそのまま用いた。
LiPF6溶液は実施例における電解質(電解液)である。LiPF6溶液としては、炭酸エチレン(Ethylene Carbonate、EC)と炭酸エチルメチル(Ethyl Methyl Carbonate、EMC)との混合溶媒(体積比でEC:EMC=1:1)にLiPF6を溶解させたものを用いた。LiPF6溶液中のLiPF6の濃度は1.0Mであった。
【0080】
図3は、実施例における電界紡糸装置100を説明するために示す模式図である。
実施例においては、
図3に示すように、キャピラリーチップ112を取り付けたシリンジ110と、コレクタ120と、電源装置130とを備える電界紡糸装置100を用いた。
シリンジ110としては、5mLプラスチックシリンジを用いた。キャピラリーチップ112としては、内径が0.6mmのものを用いた。
コレクタ120としては、接地した回転型ドラムコレクタを用いた。紡糸時には、コレクタ120をキッチンペーパー及びアルミ箔で覆った。
電源装置130としては、松定プレシジョン株式会社のHar-100*12を用いた。電源装置130のアノードとシリンジ110内の紡糸溶液との間の電気的接続には、銅線132を用いた。
印加電圧及びキャピラリーチップ112-コレクタ120間の距離(TCD)は、紡糸するナノ繊維ごとに決定した。PAM及びPANからなるナノ繊維を紡糸するときには、印加電圧及びTCDをそれぞれ17.5kV及び17cmとした。PVDFからなるナノ繊維を紡糸するときには、印加電圧及びTCDをそれぞれ14kV及び17cmとした。
【0081】
走査型電子顕微鏡(SEM)としては、日本電子株式会社(JEOL)のJSM-6010LAを用いた。試料に導電性を持たせるためのスパッタ装置としては、日本電子株式会社のJFC-1600を用いた。コーティング材料としては、白金を用いた。
引張試験機としては、株式会社エー・アンド・デイのテンシロン万能材料試験機を用いた。測定においては、10Nのロードセルを用い、チャック間距離は50mmとし、移動速度は20mm/minとした。
濡れ性の試験においては、濡れ面積の割り出しのためにImage Jを用いた。
電気炉としては、株式会社モトヤマのNHV-1515Dを用いた。
バッテリーテスティングシステムとしては、Neware Technology Ltd(中国)のCT-4008-5V6a-S1を用いた。
【0082】
(1)セパレータの製造方法
次に、実施例に係るセパレータの製造方法について説明する。実施例においては、本発明に係るセパレータである「PETからなる繊維により構成される不織布基材層と、PAM及びPANからなるナノ繊維により構成されるナノ繊維層とを備えるセパレータ(以下、「実施例に係るセパレータ」という。)」を製造した。また、比較用に「PETからなる繊維により構成される不織布基材層と、PVDFからなるナノ繊維により構成されるナノ繊維層とを備えるセパレータ(以下、「比較例に係るセパレータ」という。)」を製造した。
【0083】
(1-1)紡糸溶液準備工程
実施例に係るセパレータを製造するための紡糸溶液は、まず、PAM・PAN混合溶液と蒸留水とを重量比で8:2の割合となるように混合し、さらに、濃度が0.1wt%となるようにTBAPを添加し、その後撹拌することにより調製した。
また、比較例に係るセパレータを製造するための紡糸溶液は、DMFとアセトンとを体積比で6:4の割合となるように混合した溶媒を準備し、当該溶媒に濃度が24wt%となるようにPVDFを添加し、その後攪拌することによりを調製した。
撹拌時間は、それぞれ24hとした。
【0084】
(1-2)ナノ繊維層形成工程
上記のようにして作製した紡糸溶液を用い、PETからなる繊維により構成されている不織布基材層の一方の面にナノ繊維層を形成し、実施例に係るセパレータ及び比較例に係るセパレータを製造した。
電界紡糸(エレクトロスピニング)は、上記電界紡糸装置100(
図3参照。)を用いて実施した。紡糸時の温度は20℃~30℃とし、湿度は40%~50%とした。
【0085】
(2)表面観察
図4は、実施例における各試料の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図4(a)は不織布基材層のSEM画像であり、
図4(b)は従来のセパレータのSEM画像であり、
図4(c)は実施例に係るセパレータのSEM画像であり、
図4(d)は比較例に係るセパレータのSEM画像である。
【0086】
まず、不織布基材層、従来のセパレータ、実施例に係るセパレータ及び比較例に係るセパレータについて、SEMを用いた表面観察を行った。
その結果、不織布基材層がマイクロサイズの繊維径を有する繊維からなることが確認できた(
図4(a)参照。)。また、従来のセパレータにおいては、繊維上に粒子が付着していることが確認できた(
図4(b)参照。)。なお、当該粒子はべーマイト粒子であり、セパレータの耐熱性及び濡れ性を向上させる目的で塗布されているものである。
【0087】
一方、実施例に係るセパレータ及び比較例に係るセパレータにおいては、ナノ繊維層が形成できていることが確認できた(
図4(c)及び
図4(d)参照。)。実施例に係るセパレータにおけるナノ繊維の平均繊維径は128.52nmであり、比較例に係るセパレータにおけるナノ繊維の平均繊維径は404.76nmであった。
【0088】
なお、従来のセパレータの厚さは25μmであったのに対し、実施例に係るセパレータ及び比較例に係るセパレータの厚さは20μmであった。不織布基材層の厚さは18μmであったため、実施例に係るセパレータ及び比較例に係るセパレータにおけるナノ繊維層の厚さは2μmであったということになる。
【0089】
(3)機械的強度
図5は、実施例における引張試験の結果を示すグラフである。
図5に示すグラフの縦軸は応力(単位:MPa)を表し、横軸はひずみ(単位:%)を表す。
図5においては、実施例に係るセパレータについての結果を(a)で示し、比較例に係るセパレータについての結果を(b)で示し、従来のセパレータについての結果を(c)で示す。なお、
図5のグラフにおいては、実施例に係るセパレータについての結果と比較例に係るセパレータについての結果とがほぼ重なっている。
【0090】
実施例に係るセパレータ及び比較例に係るセパレータの引張強度は約58MPaであった。また、従来のセパレータの引張強度は約45MPaであった。このため、実施例に係るセパレータ及び比較例に係るセパレータは、従来のセパレータよりも引張強度について優れていることが確認できた(
図5参照。)。
【0091】
(4)濡れ性
図6は、実施例における濡れ性に関する試験結果を示す写真である。
図6(a)は実施例に係るセパレータについての試験結果を示す写真であり、
図6(b)は比較例に係るセパレータについての試験結果を示す写真であり、
図6(c)は従来のセパレータについての試験結果を示す写真である。
【0092】
濡れ性の高いセパレータは効果的に電解質を保持し、スムーズな電解質拡散を促進することができるため、セパレータの濡れ性は重要な特性である。
濡れ性に関する試験は、セパレータを裁断して30mm×30mmの試料とし、試料にLiPF6溶液を1滴滴下し、30秒後に濡れにより変色した部分の面積である濡れ面積を画像解析ソフト(image J)で測定することにより行った。
【0093】
その結果、実施例に係るセパレータにおける濡れ面積は8.18cm
2であった(
図6(a)参照。)。また、比較例に係るセパレータにおける濡れ面積は5.01cm
2であった。また、従来のセパレータにおける濡れ面積は1.62cm
2であった。実施例に係るセパレータにおける濡れ面積は、従来のセパレータの約5.05倍であった。
【0094】
上記の試験により、実施例に係るセパレータ及び比較例に係るセパレータは、従来のセパレータよりも優れた濡れ性を有することが確認できた。これば、ナノ繊維層がセラミック粒子と比較して大きい比表面積を有することに起因すると考えられる。
また、実施例に係るセパレータは、比較例に係るセパレータよりも濡れ性に優れることが確認できた。表面観察の結果から確認できたように、実施例に係るセパレータにおけるナノ繊維(PAM及びPANからなるナノ繊維)は、比較例に係るセパレータにおけるナノ繊維(PVDFからなるナノ繊維)よりも繊維径が小さい。上記結果は、繊維径が小さくなるほど比表面積は増大することに起因すると考えられる。
【0095】
(5)耐熱性(熱安定性)
図7は、実施例における熱安定性に関する試験結果を示す写真である。
図7(a)は実施例に係るセパレータについての試験結果を示す写真であり、
図7(b)は比較例に係るセパレータについての試験結果を示す写真であり、
図7(c)は従来のセパレータについての試験結果を示す写真である。
図7(a)~
図7(c)は、所定の温度(後述)を200℃としたときの試験結果を示す写真である。
図8は、実施例における熱処理後の各試料の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図8(a)は実施例に係るセパレータのSEM画像であり、
図8(b)は比較例に係るセパレータのSEM画像であり、
図8(c)は従来のセパレータのSEM画像である。
図8(a)~
図8(c)に示すSEM画像は、所定の温度(後述)を200℃としたときのSEM画像である。
【0096】
耐熱性に関する試験は、電気炉を用いて行った。セパレータを裁断して80mm×40mmの試料とし、当該試料を所定の温度、空気雰囲気中で30分間熱処理(熱暴露)した。実施例においては、所定の温度を150℃とした試験と、所定の温度を200℃とした試験とを行った。昇温速度は、いずれの試験においても2℃/minとした。熱処理後、それぞれの試料の寸法変化を測定し、熱収縮率を求めた。
熱収縮率(%)は、熱収縮率をSとし、L0を熱処理前の試料の長さとし、L1を熱処理後の試料の長さとするとき、S=((L1-L0)/L0)×100という式で求めることができる。
【0097】
まず、所定の温度を150℃としたときにおいては、全ての試料において有意な熱収縮は確認できなかった(図示せず。)。一方、所定の温度を200℃としたときには、比較例に係るセパレータにおいて大きな熱収縮が確認できた(
図7(b)参照。)。比較例に係るセパレータにおける縦方向の熱収縮率は32.5%、横方向の熱収縮率は13.75%であった。これは、熱処理によりPVDFが融解したことに起因すると考えられる。
一方、実施例に係るセパレータ及び従来のセパレータにおいては、所定の温度を200℃としても、有意な熱収縮は確認できなかった(
図7(a)及び
図7(c)参照。)。つまり、実施例に係るセパレータは、リチウムイオン電池の使用において想定される温度環境では、従来のセパレータと同等の耐熱性を有していることが確認できた。
【0098】
また、200℃で熱処理した後の各セパレータについて、SEMを用いた表面観察を行った。比較例に係るセパレータにおいては、熱処理によりナノ繊維が融解していることが確認できた(
図8(b)参照。)。一方、実施例に係るセパレータ及び従来のセパレータにおいては、熱処理による特段の影響(表面の形態変化)は観察できなかった。
【0099】
以上の結果から、実施例に係るセパレータは、リチウムイオン電池のセパレータとして優れた耐熱性を有していることが確認できた。
【0100】
(6)電解質吸収率及び空隙率
図9は、実施例における熱処理温度と電解質吸収率との関係を示す棒グラフである。
図9のグラフの縦軸は電解質吸収率(単位:%)を表す。
図9においては、実施例に係るセパレータについての試験結果を(a)で示し、比較例に係るセパレータについての試験結果を(b)で示し、従来のセパレータについての試験結果を(c)で示す。
図10は、実施例における熱処理温度と空隙率との関係を示す棒グラフである。
図10のグラフの縦軸は空隙率(単位:%)を表す。
図10においては、実施例に係るセパレータについての試験結果を(a)で示し、比較例に係るセパレータについての試験結果を(b)で示し、従来のセパレータについての試験結果を(c)で示す。
【0101】
電解質吸収率は、試料をLiPF6溶液に室温で10分間浸漬する試験を行うことにより算出した。
電解質吸収率(%)は、電解質吸収率をEとし、W0を浸漬前の試料の質量とし、W1を浸漬後の試料の質量とするとき、E=((W1-W0)/W0)×100という式で求めることができる。
【0102】
空隙率は、試料をn-ブタノールに室温で10分間浸漬する試験を行うことにより算出した。
空隙率(%)は、空隙率をPとし、WWを浸漬前の試料の質量とし、Wdを浸漬後の試料の質量とし、ρbをn-ブタノールの密度とし、Vを試料の体積とするとき、P=((WW-Wd)/ρbV)×100という式で求めることができる。
【0103】
その結果、実施例に係るセパレータについては、
図9及び
図10に示すように、従来のセパレータの電解質吸収率(137.5%)及び空隙率(52.4%)よりも高い電解質吸収率(338.46%)及び空隙率(74.1%)を有し、かつ、熱処理を行っても高い電解質吸収率(303.5%)及び空隙率(71.9%)を維持できることが確認できた。
また、比較例に係るセパレータについては、熱処理前及び150℃での熱処理後においては従来のセパレータよりも高い電解質吸収率(316.67%)及び空隙率(70.3%)を有するが、200℃での熱処理後には低い電解質吸収率(69.69%)及び空隙率(42%)を有するようになったことが確認できた。
また、従来のセパレータについては、熱処理を行っても電解質吸収率及び空隙率には大きな変化は見られないことが確認できた。
【0104】
以上の結果から、ナノ繊維層を備えるセパレータは、従来のセパレータよりも多くの電解質を吸収することができ、空隙率も高くなることが確認できた。
また、PETからなる繊維及びPAM及びPANからなるナノ繊維は十分な耐熱性を有し、高温にさらされた後であっても高い電解質吸収率及び空隙率を維持できることが確認できた。
【0105】
(7)電池試験(充放電試験)
図11は、実施例の電池試験における放電容量を示すグラフである。
図11に示すグラフの縦軸は放電容量(単位:mAh)を表し、横軸はサイクル数(試験数)を表す。
図11においては、実施例に係るセパレータについての試験結果を(a)で示し、比較例に係るセパレータについての試験結果を(b)で示し、従来のセパレータについての試験結果を(c)で示す。
図12は、実施例の電池試験における充電効率を示すグラフである。
図12に示すグラフの縦軸は充電効率(単位:%)を表し、横軸はサイクル数を表す。
図12においては、実施例に係るセパレータについての試験結果を(a)で示し、比較例に係るセパレータについての試験結果を(b)で示し、従来のセパレータについての試験結果を(c)で示す。
【0106】
実施例においては、実施例に係るセパレータ、比較例に係るセパレータ及び従来のセパレータを用いていわゆるコイン電池を作製した。これらのコイン電池を用い、充放電試験を120回行った。
【0107】
コイン電池の負極はリチウム(Li)とし、正極はマンガン酸リチウム(LiMn2O4)とした。電解液としては、濡れ性の試験で用いたものと同様のLiPF6溶液を用いた。アセンブリー圧力は40kg/cm2とした。
【0108】
充放電試験においては、まず、作製したコイン電池をバッテリーテスティングシステムに接続した。この状態で、コイン電池を一定の電圧及び電流(電圧4.3V、電流0.9mA)で充電し、10分間放置し、一定の電流(0.9mA)で放電するというプロセスからなるサイクルを、それぞれのコイン電池について120回繰り返す試験を行った。
【0109】
その結果、実施例に係るセパレータを備えるコイン電池は、他のセパレータを備えるコイン電池と比較して放電容量が大きいことが確認できた(
図11参照。)。また、実施例に係るセパレータを備えるコイン電池の充電効率はほぼ98%以上となり、他のセパレータを備えるコイン電池とあまり変わらないことが確認できた。
【0110】
なお、実施例のように電池の負極としてLiを用いる場合であっても、リチウムイオンが電気伝導を担うことは変わらない。このため、セパレータを他のリチウムイオン電池(例えば、負極に黒鉛を用いたリチウムイオン電池)に適用した場合でも、本試験で得られた結果と同じ傾向が得られるものと考えられる。
【0111】
以上の実施例により、本発明に係るセパレータ(実施例に係るセパレータ)が本発明に係るセパレータの製造方法により製造できることが確認できた。
また、本発明に係るセパレータが、薄さ、機械的強度、熱安定性、電解質吸収率及び空隙率について優れた特性を有することが確認できた。
さらに、本発明に係るセパレータを用いて本発明に係るリチウムイオン電池を構成できること、及び、従来のセパレータを用いた場合よりも放電容量を大きくすることが可能であることも確認できた。
【0112】
以上、本発明を上記の実施形態及び実施例に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態、実施例及び各試験例に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の様態において実施することが可能である。
例えば、上記実施形態及び各試験例において記載した工程や構成等は例示又は具体例であり、本発明の効果を損なわない範囲において変更することが可能である。
【符号の説明】
【0113】
1…セパレータ、10…不織布基材層、20…ナノ繊維層、100…電界紡糸装置、110…シリンジ、112…キャピラリーチップ、120…コレクタ、130…電源装置、132…銅線