(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】被検体の状態測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 19/00 20060101AFI20230620BHJP
G01N 19/04 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
G01N19/00 G
G01N19/04 C
(21)【出願番号】P 2019229910
(22)【出願日】2019-12-20
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】519454925
【氏名又は名称】オールグッド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085316
【氏名又は名称】福島 三雄
(74)【代理人】
【識別番号】100099977
【氏名又は名称】佐野 章吾
(74)【代理人】
【識別番号】100104259
【氏名又は名称】寒川 潔
(72)【発明者】
【氏名】西山 逸雄
(72)【発明者】
【氏名】前田 浩伸
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-190913(JP,A)
【文献】特開2015-135254(JP,A)
【文献】特開平03-067151(JP,A)
【文献】特許第3834718(JP,B2)
【文献】特開2011-007783(JP,A)
【文献】特表2005-502876(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0217592(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 19/00
G01N 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具に垂直方向の荷重を加えながら被検体と前記工具とを相対的に水平方向に移動させることによって前記工具を前記被検体に作用させて被検体の状態を測定する測定装置であって、
ベースと、
前記ベースに垂直に設けられる支柱部と、
前記支柱部に上下方向に移動可能に連結され、前記工具に作用する水平方向の荷重を測定する測定部と、
前記支柱部に設けられた支点上に揺動可能に支持され、一端にバランス調整用の調整錘を備え、他端に前記測定部を吊り下げる吊り下げ部を備えるアーム部と、
前記測定部において前記支柱部と対面する面と反対側の面に設けられ、前記工具を着脱自在に保持する工具保持部と、
前記工具保持部の上部に設けられ、前記工具に垂直方向の荷重を加える錘を載置する載置台と、
前記ベース上において前記工具保持部の下方位置に配置されて前記被検体を保持するチャック部と、
前記チャック部に保持された前記被検体と前記工具の作用部との接触状態を調節するための接触角度調節部と、
前記チャック部に保持された被検体を前記工具に対して相対的に水平方向に移動させる水平駆動機構部とを備える
ことを特徴とする被検体の状態測定装置。
【請求項2】
前記アーム部には、前記支点から調整錘までの距離を任意に変更できる調整錘スライド機構が備えられていることを特徴とする請求項1に記載の被検体の状態測定装置。
【請求項3】
前記載置台の上下方向の変位量を測定する変位センサを備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の被検体の状態測定装置。
【請求項4】
前記測定部は、前記工具に作用する水平方向の荷重を電気信号に変換するロードセルで構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の被検体の状態測定装置。
【請求項5】
前記チャック部は、前記被検体を吸着保持するバキュームベースの形態とされていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の被検体の状態測定装置。
【請求項6】
前記接触角度調節部は、前記チャック部を支持するゴニオステージで構成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の被検体の状態測定装置。
【請求項7】
前記工具は、被検体に切込みを加える切削刃で構成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の被検体の状態測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は被検体の状態測定装置に関し、より詳細には、被検体の表層強度あるいは、被検体の表面に形成された塗膜の硬さや付着強度などの測定に用いる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検体の表面に形成された塗膜の強度や硬さや付着強度などの測定は、切削刃で塗膜に切込みを行いつつ塗膜を切削・剥離する際に、切削刃に作用する垂直方向の力と水平方向の力を測定し、これらの測定値から塗膜の強度や硬さや付着強度を計算によって求めている。
【0003】
特許文献1はこの種の測定装置を示している。特許文献1に示すように、この種の測定装置では、切削刃の垂直方向および水平方向の移動には、それぞれステッピングモータなどの動力源(垂直移動モータと水平移動モータ)を用い、これらの動力源によって切削刃を移動させる際に、切削刃に加わる垂直方向の荷重と水平方向の荷重とをそれぞれ圧力検知器(垂直圧力検知器と水平圧力検知器と)で検知するように構成されている。そして、この種の測定装置には、測定モードとして、切削刃を一定の速度で移動させながら垂直・水平方向の荷重を測定する定速度モードと、切削刃に一定の荷重を加えながら水平方向の荷重を測定する定荷重モードの2種類の測定モードが備えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような測定装置には以下のような問題があった。
すなわち、従来の測定装置で被検体の測定試験、特に、定荷重モードでの測定試験を行う場合、切削刃に加わる垂直荷重を制御しながら被検体の状態変化を監視しなければならないことから、切削刃に垂直の荷重を加える垂直移動モータにはフィードバック制御が用いられているが、フィードバック制御では被検体の強度や硬さあるいは水平速度が速くなるなどの測定条件によってはハンチングが発生し、切削刃に加える荷重が安定し難い欠点がある。とりわけ、この種の測定装置で実施する試験には微小な荷重の変化によって測定結果が左右される試験が含まれるため、従来の方式では測定結果が不正確になるおそれがあった。
【0006】
また、従来のように切削刃の垂直および水平方向の移動を双方ともにモータで行わせる構成では、モータが2基必要となるとともに、それぞれのモータを制御しなければならないため、装置全体の構造が複雑になり、装置の製造コストが高くなるという問題もあった。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、簡易な構造で正確に測定を行える被検体の状態測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に係る被検体の状態測定装置は、工具に垂直方向の荷重を加えながら被検体と上記工具とを相対的に水平方向に移動させることによって上記工具を上記被検体に作用させて被検体の状態を測定する測定装置であって、ベースと、上記ベースに垂直に設けられる支柱部と、上記支柱部に上下方向に移動可能に連結され、上記工具に作用する水平方向の荷重を測定する測定部と、上記支柱部に設けられた支点上に揺動可能に支持され、一端にバランス調整用の調整錘を備え、他端に上記測定部を吊り下げる吊り下げ部を備えるアーム部と、上記測定部において上記支柱部と対面する面と反対側の面に設けられ、上記工具を着脱自在に保持する工具保持部と、上記工具保持部の上部に設けられ、上記工具に垂直方向の荷重を加える錘を載置する載置台と、上記ベース上において上記工具保持部の下方位置に配置されて上記被検体を保持するチャック部と、上記チャック部に保持された上記被検体と上記工具の作用部との接触状態を調節するための接触角度調節部と、上記チャック部に保持された被検体を上記工具に対して相対的に水平方向に移動させる水平駆動機構部とを備えることを特徴とする。
【0009】
そして、本発明に係る被検体の状態測定装置は、その好適な実施態様として、以下の構成が採用される。
【0010】
(1)上記アーム部には、上記支点から調整錘までの距離を任意に変更できる調整錘スライド機構が備えられている。
【0011】
(2)上記載置台の上下方向の変位量を測定する変位センサを備えている。
【0012】
(3)上記測定部は、上記工具に作用する水平方向の荷重を電気信号に変換するロードセルで構成されている。
【0013】
(4)上記チャック部は、上記被検体を吸着保持するバキュームベースの形態とされている。
【0014】
(5)上記接触角度調節部は、上記チャック部を支持するゴニオステージで構成されている。
【0015】
(6)上記工具は、被検体に切込みを加える切削刃で構成されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、工具に加えられる垂直方向の荷重は、載置台に載置された錘の重量によって決まるので、垂直方向の荷重を加えるにあたり複雑な制御が不要であり、垂直方向の荷重が安定する。その結果、水平方向の荷重の測定を従来より正確に行うことができるようになる。
【0017】
また、工具に加えられる垂直方向の荷重が錘の重量によることになるので、垂直方向の荷重を加えるための駆動部や、垂直方向の荷重を測定するための測定部が不要なため、装置全体の構成がシンプルになり、装置全体を従来品よりも大幅にコンパクトに構成することができ、ひいては、低コストで被検体の状態測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る被検体の状態測定装置の一例を示す正面図である。
【
図4】同被検体の状態測定装置におけるアーム部の天秤機構の改変例を模式的に示した説明図である。
【
図5】同被検体の状態測定装置のチャック部に用いる真空チャックの一例を模式的に示した説明図である。
【
図6】同被検体の状態測定装置の第2の実施形態の一例を示す正面図である。
【
図7】同被検体の状態測定装置の第3の実施形態の一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、図面全体にわたって同一の符号は同一の構成部材または要素を示している。
実施形態1
本発明に係る被検体の状態測定装置1は、工具100に垂直方向の荷重を加えながら被検体Wと工具100とを相対的に水平方向に移動させることによって、工具100を被検体Wに作用させて被検体Wの状態を測定する測定装置である。
【0020】
本発明に係る状態測定装置1は、ベース2と、ベース2に設けられる支柱部3と、工具100に作用する水平方向の荷重を測定する測定部4と、支柱部3揺動可能に支持されたアーム部5と、工具100を着脱自在に保持する工具保持部6と、工具100に垂直方向の荷重を加える錘12を載置する載置台7と、被検体Wを保持するチャック部8と、被検体Wと工具100の作用部との接触状態を調節するための接触角度調節部9と、被検体Wを工具100に対して相対的に水平方向に移動させる水平駆動機構部10と、制御部11とを主要部として構成される。
【0021】
ベース2は、水平な盤面を有する装置の基台であって、この盤面上に支柱部3、水平駆動機構部10などが装置される。本実施形態では、このベース2は、装置支持台13の上に固定されている。
【0022】
支柱部3は、ベース2の盤面上に垂直に設けられた柱状の部材で構成される。この支柱部3の上端部には、アーム部5に備えられた支点ブレード14と係合することによってアーム部5を揺動可能に支持するブレード受部15が設けられており、このブレード受部15がアーム部5の揺動支点を構成するようになっている。具体的には、
図1および
図2に示すように、ブレード受部15の上端面には支点ブレード14の刃先部分と篏合するブレード支持溝16が形成されており、このブレード支持溝16内に支点ブレード14の刃先部分が収容される構造となっている。
【0023】
また、支柱部3には、ブレード受部15の高さ位置を調節する昇降ステージ17が備えられている。昇降ステージ17はブレード受部15の高さ位置を上下(垂直方向)に調節可能な構造を備えており、この昇降ステージ17の高さ位置を調節することによって、後述する測定部4の高さ位置の調節ができるようになっている。これにより、工具100の先端を被検体Wの表面に合わせる(接触させる)ことができる。すなわち、被検体Wの厚さに合わせて工具100の高さを昇降ステージ17で合わせる。具体的には、昇降ステージ17を上下させて工具100が被検体Wの表面に軽く接触するように調節する。なお、その際、後述する調整錘19の重量を調節してアーム部5は常に水平になるよう調節する。
【0024】
測定部4は、工具100に作用する水平方向の荷重(圧力)を電気信号に変換する測定装置(たとえば、ロードセル)で構成されており、支柱部3に上下方向に移動可能に連結されいる。具体的には、測定部4の一端(測定部4の背面の下部)がスライダ18を介して支柱部3と連結されており、このスライダ18によって測定部4が上下(垂直方向)に自由移動できるように構成されている。なお、本実施形態では、この測定部4は制御部11と電気的に接続されており、測定部4での測定結果は制御部11に入力されるようになっている。
【0025】
アーム部5は、上記ブレード受部15(支点ブレード14)を揺動支点とする天秤機構において、測定部4を吊り下げるための天秤棒となる部材であって、一端にバランス調整用の調整錘19が備えられるとともに、他端に測定部4を吊り下げるための吊り下げ部20が備えられている。なお、本実施形態では、このアーム部5には筒状の金属製パイプが用いられている。
【0026】
調整錘19は、吊り下げ部20に測定部4を吊り下げた状態でアーム部5のバランスをとるための錘であって、アーム部5の一端に着脱自在に取り付けられており、異なる重量の錘に取り換えることによって適宜重量を調節できるようになっている。なお、調整錘19によるバランス調整にあたっては、調整錘19の取り換え(交換)に代えて、または、交換とともに、支点ブレード14から調整錘19までの距離を変更可能に構成することにより、調整錘19によって作用する力のモーメントを変更できるようにしておくことも可能である。たとえば、
図4に示すように、アーム部5の一端に調整錘19を左右(水平)にスライド可能に装着しておき、この調整錘19を調整錘スライド機構50を使って左右にスライドさせるように構成することができる。具体的には、
図4に示す例では、調整錘スライド機構50として、取り付けアーム51を介して昇降ステージ17などに取り付けられて、調整錘用マイクロメータ52の先端側に固定的に設けられて調整錘19を挟持状に保持するスライド補助部53が備えられており、調整錘用マイクロメータ52の回転操作量に応じてスライド補助部54を左右に移動させて調整錘19の位置を変更できるようにしている。
【0027】
吊り下げ部20は、アーム部5の他端に測定部4を着脱自在に取り付けるための部品であって、本実施形態では、この吊り下げ部20として金属製のリングが用いられている。具体的には、複数(図示例では2個)のリングを鎖状に連結した連結リングの形態とされ、その一端がアーム部5の他端に連結されるとともに、その他端が測定部4の上端に連結されることによって、測定部4がアーム部5に吊り下げられている。
【0028】
そして、アーム部5のほぼ中央には、アーム部5を天秤棒として機能させる揺動支点を構成する支点ブレード14が備えられており、この支点ブレード14の刃先部分がブレード受部15のブレード支持溝16によって支持されている。
【0029】
工具保持部6は、工具100を着脱自在に保持するためのクランプ装置であって、
図1に示すように、測定部4の支柱部3と対面する面とは反対側の面に、工具100を概ね下向き、かつ、測定部4の下方に工具100を突出させた状態で保持するように設けられている。ここで、工具保持部6が設けられる測定部4は、上述したように、アーム部5の吊り下げ部20に吊り下げられ、かつ、スライダ18によって上下移動できるように支柱部3に連結されていることから、工具保持部6の高さ位置は、測定部4の上下位置を調節することによって調節できるようになっている。
【0030】
本実施形態では、工具100として切削刃、具体的には、少なくとも切刃稜が超硬材料、たとえば、超硬合金や超硬ダイヤモンドなどで形成された切削刃を用いた場合を示している。そのため、本実施形態に示す工具保持部6は、この切削刃を保持するのに適した形状のクランプ装置で構成されている。
【0031】
なお、工具保持部6の具体的な形状は、保持する工具100の態様に応じて適宜設計変更される。たとえば、本実施形態では工具100として切削刃を用いた場合を示したが、薄刃の刃物(いわゆるカッター)や鉛筆、針状の工具など他の態様の工具100を用いる場合には、工具保持部6はそれらの工具100を着脱自在に保持可能な形状で構成される。このように、工具保持部6は使用する工具100の態様に応じてその形状が変更されるので、測定部4には着脱交換可能に取り付けられているのが好ましい。
【0032】
載置台7は、工具100に加える垂直方向の荷重を調節する錘12を載置するためのスペースであって、工具保持部6の上部に設けられ、載置台7に載置された錘12の重量が工具保持部6に保持された工具100に加えられるようになっている。したがって、工具100に加える垂直方向の荷重の調節は、載置台7に載置する錘12の重量を調節することによって自由に調節することができる。なお、図示例では、載置台7の錘載置面を平面に形成した場合を示したが、たとえば、錘12が載置台7から容易に脱落しないように、載置面の周囲を立ち上げた皿状に構成するなどしてもよい。また、載置台7を工具保持部6とは別体に構成し、工具保持部6に着脱可能に取り付けるように構成してもよい。
【0033】
チャック部8は、被検体W(図示せず)を着脱可能に保持するチャック装置であって、工具保持部6の下方位置に配置される。すなわち、工具保持部6に工具100を保持した状態で工具保持部6の高さ位置を調節することで、工具100を被検体Wに作用させることができるように配置されている。本実施形態では、このチャック部8として被検体Wを吸着保持するバキュームベースを採用しているが、被検体Wを着脱可能に保持できる構造であればバキュームベース以外のチャック機構を採用してもよい。たとえば、
図5に示すように、ベースとなる樹脂製板81の表面に溝82を格子状に形成するとともに、この溝82の適所数か所(図示例では2か所)に貫通孔83を形成し、さらに、この貫通孔83に図示しない真空ポンプをつないで構成した簡易式の真空チャックを用いてもよい。その場合、たとえば、樹脂製板81の表面に多孔質膜や多孔質フィルムなど多孔質の材料を配置して、溝82による凹凸を緩衝した構造としてもよい。さらには、公知の構成からなるメカニカル式のチャック装置を用いてもよい。なお、チャック部8としてバキュームベースを用いる場合、バキュームベース上で被検体Wの横滑りを防止するストッパ(図示せず)をバキュームベースの吸着保持面に設けておくのが好ましい。
【0034】
接触角度調節部9は、チャック部8に保持された被検体Wと工具100の作用部(本実施形態では切削刃の刃先)との接触状態を調節するために、チャック部8の角度を微調節する機構であって、本実施形態ではチャック部8の下部に配置されたゴニオステージで構成されている。すなわち、チャック部8は、このゴニオステージ上に配置される構造となっている。接触角度調節部9を構成するゴニオステージは、切削刃の切刃稜の稜線に直交する向き(換言すれば、チャック部8側から支柱部3側に向かう方向)に配置された回転中心を持ち、そこを中心にした円弧に沿ってステージ上面を旋回移動させる構造を備えている。これにより、被検体Wの表面を切削刃の切刃稜と平行に配置させ、被検体Wと切削刃とが隙間なく密接させたり、あるいは切削刃に対して被検体Wを所定の傾きをもって当接させたりすることができるようになっている。
【0035】
なお、接触角度調節部9による切削刃と被検体Wの位置合わせにあたっては、たとえば、切削刃の背面側からバックライトを切刃稜(切削刃の刃先側)に照射し、隙間光を前方の顕微鏡31(
図6の符号31参照)で観察することによって、切削刃と被検体Wの位置合わせを容易かつ確実に行えるので、工具保持部6の背面側(支柱部3側)に光源(
図6の符号24参照)を配置しておくのが好ましい。
【0036】
水平駆動機構部10は、チャック部8に保持された被検体Wを工具100に対して相対的に水平方向に移動させるための機構であって、本実施形態では、支柱部3に向かって前進後退移動可能な水平移動ステージ21と、ボールねじなどの駆動連結機構23を介して水平移動ステージ21と駆動連結された駆動モータ22とを主要部として構成されている。
【0037】
具体的には、水平移動ステージ21はベース2の盤面上に配置されており、この水平移動ステージ21の上に接触角度調節部9(切削刃稜に試料表面を平行に合わせるための回転台)およびチャック部8が配置される構造となっている。駆動モータ22は、たとえばステッピングモータで構成され、後述する制御部11と電気的に接続されて、制御部11の制御によって水平移動ステージ21が支柱部3に向かって前進後退移動可能になっている。なお、本実施形態では、被検体Wと工具100の相対的な水平移動に際し、被検体W側、すなわち、チャック部8側を移動させる場合を示したが、支柱部3側、すなわち、工具100側を移動させるように構成してもよい。
【0038】
制御部11は、上述した駆動モータ22の制御と測定部4で測定された測定結果のデータ処理を行う装置であって、たとえば、パーソナルコンピュータで構成される。そのため、このパーソナルコンピュータには、少なくとも駆動モータ22の制御用ソフトウェアと測定結果のデータ処理用のソフトウェアとが備えられている。
【0039】
このように、本発明に係る被検体の状態測定装置1では、制御部11によって駆動制御されるアクチュエータは水平駆動機構部10のみである。その他の作動部分、具体的には、工具保持部6、チャック部8、接触角度調節部9および昇降ステージ17における各作動部分はいずれも手動で動作させる構造となっている。
【0040】
なお、上述した実施形態では特に図示していないが、本発明に係る被検体の状態測定装置1では、これらの構成に加えて、たとえば、工具(切削刃)100による被検体Wへの切込み深さを測定する切込み深さ測定部を備えるように構成してもよい。
【0041】
たとえば、切込み深さ測定部として差動トランスを用い、この差動トランスのセンサー部分を錘12の載置台7の表面に接触させおく。工具100が被検体Wの表面から内部に切込まれると、それに伴って工具100の高さ位置が垂直方向に変位するので、その変位を差動トランスで測定することで被検体Wへの切込み深さの測定が可能になる。なお、この切込み深さ測定部での測定結果のデータは、測定部4の測定結果のデータと同様に、制御部11に入力されるように構成しておくのが好ましい。
【0042】
次に、このように構成された被検体Wの状態測定装置1の基本操作の一例を説明する。
以下の説明では、工具100に切削刃を用い、この切削刃で被検体Wに切込みを加えながら切削刃に作用する垂直方向の力と水平方向の力を測定する場合について説明する。
【0043】
(1)チャック部8に被検体Wを固定する。
この工程では、チャック部8のバキュームベースを起動し、チャック部8の吸着保持面に被検体Wを固定する。その際、上述したようにストッパを用いるなどして測定作業中に被検体Wの位置がずれないようにしておく。
【0044】
(2)水平駆動機構部10を操作して、チャック部8を工具(切削刃)100の下方位置、具体的には、被検体Wを測定試験開始位置に水平移動させる。この操作は、制御部11で駆動モータ22を操作することによって行う。
【0045】
(3)昇降ステージ17を操作して、工具100の高さ位置を調節する。具体的には、昇降ステージ17を操作し、工具100の先端が被検体Wの表面と当接するように、工具100の高さ位置を調節する。そして、この作業と並行して、調整錘19の重量を調節し、工具100が被検体Wに荷重「0」の状態で接触するようにする。すなわち、調整錘19の重量を調整し、工具(切削刃)100と調整錘19とが吊り合うようにバランス調整を行う。この作業は、載置台7に錘12を載せずに行う。これにより、工具(切削刃)100に対する垂直方向の荷重が「0」の状態で測定試験を開始することができるようになる。
【0046】
(4)そして最後に、接触角度調節部9で被検体Wの位置を微調整し、工具(切削刃)100の切刃稜と被検体Wの表面とを当接させて、測定試験の準備を完了する。なお、この被検体Wの位置の微調整後に再び調整錘19で被検体Wへの荷重が「0」になるように調整錘19の重量を再調整してもよい。
【0047】
以上の手順を経て測定試験の準備が完了すると、工具(切削刃)100に加える垂直方向の荷重に応じた錘12を載置台7に載せ、制御部11を操作して水平駆動機構部10を駆動して被検体Wを水平移動させる。これにより、工具(切削刃)100による被検体Wへの切込みが始まるので、工具(切削刃)100に加えらえる水平方向の荷重(荷重の変化)を測定部4で測定することができるようになる。
【0048】
このようにして測定試験を行うことにより、工具100に加えられる水平方向の荷重(水平力)は測定部4で、工具100に加えられる垂直方向の荷重は錘12の重量でそれぞれ測定することができるので、たとえば、これらに工具(切削刃)100の刃幅や切込み深さなど他の測定値を加味することによって、計算によって塗膜の深さや硬さ、付着強度など被検体Wに対する様々な測定試験を行うことができる。
【0049】
以下、測定試験の一例を説明する。
A:せん断強度の計算
被検体Wのせん断強度を測定する場合、工具100に切削刃を用い、本発明に係る被検体の状態測定装置1で測定した水平力Fhと垂直力Fvと、切削刃の刃幅bと、切込み深さ測定部で測定した切込み深さdと、せん断角Φとを用いて、以下の数式(1)によりせん断強度を計算する。なお、この数式(1)は切込み2次元切削の降伏せん断応力τsを求める計算式である。また、せん断角Φは数式(2)によって計算する。
τs=sinΦ/bd(FhcosΦ‐FvsinΦ) ・・・(1)
Φ=π/4-1/2arctan(Fv/Fh) ・・・・(2)
【0050】
B:トライボロジーモードにおける摩擦係数μの計算
トライボロジーモードでは、工具100として圧子を用いる。そして、本発明に係る被検体Wの状態測定装置1で測定した水平力Fhと垂直力Fvとから摩擦係数μを以下の数式(3)によって計算する。
摩擦係数μ=Fh/Fv ・・・・・・・・・・・・・(3)
【0051】
C:切削モードにおけるせん断角Φの計算
切削モードでは、工具100として切削刃を用い、本発明に係る被検体の状態測定装置1で測定した水平力Fhと垂直力Fvとからせん断角Φを以下の数式(4)によって計算する。
せん断角Φ=45-arctan(Fv/Fh) ・・・・・(4)
【0052】
D:剥離モードにおける付着強度Pの計算
剥離モードでは、工具100として切削刃を用い、本発明に係る被検体の状態測定装置1で測定した水平力Fhと剥離幅とから付着強度Pを以下の数式(5)によって計算する。
付着強度P=水平力/剥離幅 ・・・・・・・・・・・(5)
【0053】
なお、上述したA~Dの各計算は、いずれも制御部11のデータ処理用のソフトウェアによって計算できるように構成される。すなわち、制御部11には、これらの計算を行うための各種の動作モード(たとえば、上述したトライボロジーモードや切削モードなど)を備えさせておき、これらの動作モードを切り替えることによってそれぞれの計算を制御部11が行うように構成される。その際、水平力Fhと切込み深さdは、制御部11と電気的に接続された測定部4および切込み深さ測定部から自動入力されるように構成しておくのが好ましいが、これらの値を含むすべてを手動で入力するように構成してもよいのは勿論である。
【0054】
本発明によれば、工具に加えられる垂直方向の荷重は、載置台7に載置された錘12の重量によって決まるので、垂直方向の荷重を加えるにあたり複雑な制御が不要であり、垂直方向の荷重が安定する。その結果、水平方向の荷重の測定を従来より正確に行うことができるようになる。しかも、本発明の状態測定装置では、錘12の重量や載置台7の重量、測定部4の重量などがスライダ18の下部を支柱部3側に押し付けるように作用するので、工具100と被検体Wの間の微小空間が減少し、より安定した測定を実現することができる。
【0055】
また、工具に加えられる垂直方向の荷重が錘の重量によることになるので、垂直方向の荷重を加えるための駆動部や、垂直方向の荷重を測定するための測定部が不要なため、装置全体の構成がシンプルになり、装置全体を従来品よりも大幅にコンパクトに構成することができ、ひいては、低コストで被検体の状態測定装置を提供することができる。
【0056】
実施形態2
次に、本発明の第2の実施形態を
図6に基づいて説明する。この
図6に示す状態測定装置は、実施形態1に示す状態測定装置の改変例であって、主たる変更点は、載置台7の近傍に載置台7の上下(垂直)方向の変位量を測定する変位センサ25を設けた点と、アーム部5を水平に調整するアーム部水平調整機構30を設けた点にある。なお、実施形態1の状態測定装置と構成が共通する部分には同一の符号を付して説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0057】
なお、
図6において、符号24は、工具100の切刃稜などを背面側から照射するバックライトの光源を示している。また、この実施形態では、昇降ステージ17は支柱部3の側部に設けている。さらに、この実施形態では、水平移動ステージ21は、駆動モータ22によってチャック部8を支柱部3に向かって前進後退移動させるXステージ21aと、Xステージと直交する向きにチャック部8を移動させるYステージ21bとで構成している。
【0058】
変位センサ25は、たとえば、静電容量変位計やレーザ変位計などナノオーダーで変位量測定が可能な測定装置で構成されている。図示例では、静電容量変位計を用いた場合を示しており、載置台7の上方に配置されている。符号26は、変位センサ25の上下位置を調節するための変位センサ位置調整機構(たとえば、精密なねじ機構を用いて変位センサ25の上下位置を変更する機構)を示しており、この変位センサ位置調整機構26は、たとえば支柱部3に取り付けられ、このセンサ位置調整機構26を調節することによって、変位センサ25の上下位置を微調整できるようになっている。
【0059】
アーム部水平調整機構30は、アーム部5を水平状態に調整するための機構であって、水平状態を保つように配置された水平調整バー29を上下方向に移動させるマイクロメータ28と、支点ブレード14を挟んだ左右等距離の位置(図示例では2カ所)に上方からアーム部5に当接されるアーム部水平調整バー29とを主要部として備えており、マイクロメータ28を操作してアーム部水平調整バー29をアーム部5に軽く押し付けることによって、アーム部5を強制的に水平状態にすることができるようになっている。変位センサ25のゼロ点合わせ、すなわち、変位センサ25の上下位置の微調整は、この強制的な水平状態で、変位センサ25を上下方向に動かして測定範囲内に入るように変位センサ25の位置を調整することにより行われる。
【0060】
なお、アーム部5を水平状態にする調整は、まず、アーム部水平調整バー29でアーム部を強制的に水平状態にした後にアーム部水平調整バー29を一旦わずかに上方に退避させてアーム部5の拘束を解いてアーム部5をフリーな状態とし、この状態で調整錘スライド機構50を操作して変位センサー25の表示を見ながらこの値がゼロになるように調節すればよい(工具100と調整錘19とが吊り合うようにバランス調整を行う)。
【0061】
このように、本実施形態に示す状態測定装置では、アーム部5の水平状態を正確に作出できるとともに、変位センサ25により載置台7の上下方向の変位量を正確に測定できるので、載置台7と一体に上下移動する工具100での切込み深さなど、工具100の上下方向の変位量が関係する各種測定も実施できるようになる。
【0062】
具体的は、たとえば、上述した実施形態1で説明した各種測定試験に加えて、以下のような測定試験ができる。
E:スクラッチ係数Sの測定
スクラッチ係数Sの測定は、工具100として針を用いる。そして、この針を被検体Wの表面に押し当てて、所定の荷重(錘12による荷重)で被検体Wに押し付け、所定の速度で水平に移動させて被検体Wを引掻き、このときの水平力Fhと錘12による押込み深さdとから数式(6)により計算する。
スクラッチ係数S=Fh/d ・・・・・・・(6)
ここで、測定に用いる針の形状は木綿針と類似品とし、材質は焼入れ超鋼材料、先端径は1μm程度とする。
【0063】
F:弾性回復率の測定
被検体Wが高分子材料である場合、被検体Wに加圧後力を抜くと、押込み変形が回復する現象がある。この回復量を測定するる場合、工具100として針を用い、この針に錘12により所定の荷重を加える。このとき針は水平移動させない。そして、次に荷重を減らして押込み深さを測定し、次の数式(7)を用いて弾性回復率を計算する。
弾性回復率=(d1-d2)/d1 ・・・・・(7)
ただし、初期荷重時の深さ:d1、 荷重除去時の深さ:d2
【0064】
さらには、摩擦係数測定時の錘12の荷重で被検体Wが圧縮変形するときの圧縮係数Cの測定、被検体Wの粘性係数の測定、表面張力係数の測定、加圧によるクリープ特性の測定、チキソトロピー性の測定、表面粗さの測定、被検体Wの膨潤の測定、ブリスターの測定、寸法変化の測定など、工具100の上下方向の変位量を測定することによってさまざまな試験を実施することができる。
【0065】
また、本実施形態に示す状態測定装置では、たとえば、被検体Wを加熱する加熱手段(たとえば、ヒータ、赤外線照射器、ペルチェ素子など)をチャック部8やその近傍に配置して、被検体Wを加熱できるように構成しておくことで、加熱による被検体Wの垂直変位(上下方向の変位量)を変位センサ25で測定できる。そのため、たとえば、被検体Wの線膨張率や、被検体Wの軟化温度や、被検体Wの加熱復元性、被検体Wの加熱寸法変化なども測定することができる。
【0066】
また、このような各種測定に加え、本実施形態の状態測定装置では、アーム部水平調整機構30によってアーム部5を強制的に水平状態に固定できるので、たとえば、工具100の交換作業時にアーム部5が固定しておくことで、工具100の交換作業時にアーム部5ががたつくのを防止することができる。
【0067】
実施形態3
本実施形態は
図7に示されており、工具保持部6に保持される工具100を改変した場合を示している。この実施形態では、工具100として鉛筆を用いた場合を示しており、この場合、工具保持部6の形状が鉛筆を着脱可能に保持するのに適した形状となっている点で上述した実施形態1の状態測定装置1とは構成が異なる。なお、その他の構成は実施形態1と共通するので共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0068】
このように、工具100の態様に応じて工具保持部6の形状を変更することで、たとえば、鉛筆を用いて被検体Wの引っ掻き試験を行うことも可能である。
【0069】
なお、上述した実施形態はあくまでも本発明の好適な実施態様を示すものであって、本発明はこれらに限定されることなくその範囲内で種々の設計変更が可能である。
【0070】
たとえば、上述した実施形態では、接触角度調節部9としてゴニオステージを用いた場合を示したが、ゴニオステージ以外の機構を採用することも可能である。
【0071】
また、上述した実施形態では、工具100の高さ位置の調節を支柱部3に設けられた昇降ステージ17によって行わせる場合を示したが、、昇降ステージ17に代えて、または、昇降ステージ17と併せて、チャック部8の下部に、チャック部8の高さ位置を調節する昇降機構(図示せず)を設け、チャック部8側で高さ位置の調節を行うように構成してもよい。
【0072】
また、本実施形態では、制御部11が、駆動モータ22の制御と測定部4による測定結果のデータ処理の双方を行うように構成した場合を示したが、これらを別々のコンピュータで行わせるように構成してもよい。たとえば、駆動モータ22の制御を行うコンピュータを状態測定装置1の筐体内に収容し、データ処理用のコンピュータを外部に配置するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 状態測定装置
2 ベース
3 支柱部
4 測定部
5 アーム部
6 工具保持部
7 載置台
8 チャック部
9 接触角度調節部
10 水平駆動機構部
11 制御部
12 錘
13 装置支持台
14 支点ブレード
15 ブレード受部
16 ブレード支持溝
17 昇降ステージ
18 スライダ
19 調整錘
20 吊り下げ部
21 水平移動ステージ
22 駆動モータ
23 駆動連結機構
24 バックライトの光源
25 変位センサ
26 変位センサ位置調整機構
28 マイクロメータ
29 アーム部水平調整バー
30 アーム部水平調整機構
31 顕微鏡
50 調整錘スライド機構
51 取り付けアーム
52 調整錘用マイクロメータ
53 スライド補助部
100 工具
W 被検体