IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オブシェストヴォ ス オグラニチェンノイ オトヴェトストヴェンノスチュ“プランタ”の特許一覧

<>
  • 特許-新規ルシフェラーゼおよびその使用方法 図1
  • 特許-新規ルシフェラーゼおよびその使用方法 図2
  • 特許-新規ルシフェラーゼおよびその使用方法 図3
  • 特許-新規ルシフェラーゼおよびその使用方法 図4
  • 特許-新規ルシフェラーゼおよびその使用方法 図5
  • 特許-新規ルシフェラーゼおよびその使用方法 図6
  • 特許-新規ルシフェラーゼおよびその使用方法 図7
  • 特許-新規ルシフェラーゼおよびその使用方法 図8
  • 特許-新規ルシフェラーゼおよびその使用方法 図9
  • 特許-新規ルシフェラーゼおよびその使用方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】新規ルシフェラーゼおよびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/53 20060101AFI20230620BHJP
   C12Q 1/66 20060101ALI20230620BHJP
   C12Q 1/6897 20180101ALI20230620BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230620BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230620BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230620BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230620BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230620BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230620BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20230620BHJP
   C12N 9/02 20060101ALN20230620BHJP
【FI】
C12N15/53 ZNA
C12Q1/66
C12Q1/6897
C12M1/00 A
C12N1/15
C12N1/21
C12N1/19
C12N5/10
C12N15/63 Z
A01K67/027
C12N9/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019538322
(86)(22)【出願日】2017-12-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 RU2017050125
(87)【国際公開番号】W WO2018139956
(87)【国際公開日】2018-08-02
【審査請求日】2020-11-20
(31)【優先権主張番号】2017102986
(32)【優先日】2017-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(73)【特許権者】
【識別番号】519251771
【氏名又は名称】オブシェストヴォ ス オグラニチェンノイ オトヴェトストヴェンノスチュ“プランタ”
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ヤムポルスキー,イリヤ ヴィクトロヴィッチ
【審査官】新留 豊
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-507118(JP,A)
【文献】特表2015-527070(JP,A)
【文献】特表2005-535294(JP,A)
【文献】特表2007-525434(JP,A)
【文献】特表2004-514460(JP,A)
【文献】Dennis E. Desjardin, et al.,Fungi bioluminescence revisited.,Photochemical & Photobiological Sciences,2008年,7,170-182
【文献】E M Ilondu et al.,Bioluminescence in mushroom and its application potentials.,Nigerian Journal of Science and Environment,2016年,Vol.14(1),p.132-139
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルシフェラーゼまたはその機能的断片をコードする単離核酸であって:
3-ヒドロキシヒスピジン、(E)-6-(4-ジエチルアミノ)スチリル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン、(E)-3,4-ジヒドロキシ-6-(4-ヒドロキシスチリル)-2H-ピラン-2-オン、(E)-6-(2-1H-インドール-3-イル)ビニル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン、(E)-6-(2-(1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロピリド[3,2,1-ij]キノリン-9-イル)ビニル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン、(E)-3,4-ジヒドロキシ-6-(2-(6-ヒドロキシナフタレン-2-イル)ビニル)-2H-ピラン-2-オンからなる群から選択される分子を酸化可能であり、
SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、または34に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を特徴とするタンパク質をコードする核酸。
【請求項2】
宿主細胞における核酸の発現に必要な調節エレメントの制御下にある、請求項1の核酸分子を含む発現カセットであって、染色体外エレメントの形態で細胞ゲノムに組み込まれているか、または細胞に導入されており、請求項1の核酸によってコードされるルシフェラーゼの発現をもたらすことができる発現カセット。
【請求項3】
細胞ゲノムに組み込まれたエレメントまたは染色体外エレメントの形態で、請求項2の発現カセットを含む、請求項1の核酸によってコードされるルシフェラーゼを産生する細胞。
【請求項4】
3-ヒドロキシヒスピジン、(E)-6-(4-ジエチルアミノ)スチリル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン、(E)-3,4-ジヒドロキシ-6-(4-ヒドロキシスチリル)-2H-ピラン-2-オン、(E)-6-(2-1H-インドール-3-イル)ビニル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン、(E)-6-(2-(1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロピリド[3,2,1-ij]キノリン-9-イル)ビニル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン、(E)-3,4-ジヒドロキシ-6-(2-(6-ヒドロキシナフタレン-2-イル)ビニル)-2H-ピラン-2-オンからなる群から選択される分子を酸化可能であり、
SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、または34に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を特徴とする、単離ルシフェラーゼまたはその機能的断片。
【請求項5】
(1)請求項1の核酸、または請求項2の発現カセット、または請求項4のタンパク質、および
(2)請求項1のルシフェラーゼによる酸化が可能なルシフェリン
を含むキット。
【請求項6】
請求項1の核酸を含むトランスジェニック生物。
【請求項7】
請求項4のタンパク質に特異的に結合する抗体。
【請求項8】
宿主細胞における核酸の発現に必要な調節エレメントの制御下にある、細胞内局在シグナルに動作可能に融合された、請求項1の核酸分子を含む発現カセットであって、染色体外エレメントの形態で細胞ゲノムに組み込まれているか、または細胞に導入されており、細胞内局在シグナルに結合された請求項1の核酸によってコードされるルシフェラーゼの発現をもたらすことができる発現カセット。
【請求項9】
細胞および細胞構造の標識方法であって、細胞への請求項2または請求項8の発現カセットの導入を含む方法。
【請求項10】
ルシフェラーゼまたはその機能的断片を発現する方法であって、
SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、または34の配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を特徴とするタンパク質をコードする単離核酸をin vitro系、細胞、または生物に導入することにより、3-ヒドロキシヒスピジン、(E)-6-(4-ジエチルアミノ)スチリル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン、(E)-3,4-ジヒドロキシ-6-(4-ヒドロキシスチリル)-2H-ピラン-2-オン、(E)-6-(2-1H-インドール-3-イル)ビニル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン、(E)-6-(2-(1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロピリド[3,2,1-ij]キノリン-9-イル)ビニル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン、(E)-3,4-ジヒドロキシ-6-(2-(6-ヒドロキシナフタレン-2-イル)ビニル)-2H-ピラン-2-オンからなる群から選択される分子を酸化させることが可能である、方法。
【請求項11】
生物発光を生成する方法であって、3-ヒドロキシヒスピジンを培地または土壌に添加することによりトランスジェニック植物に導入することを含み、
前記トランスジェニック植物はルシフェラーゼをコードする核酸を有し、
前記ルシフェラーゼは、3-ヒドロキシヒスピジン、(E)-6-(4-ジエチルアミノ)スチリル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン、(E)-3,4-ジヒドロキシ-6-(4-ヒドロキシスチリル)-2H-ピラン-2-オン、(E)-6-(2-1H-インドール-3-イル)ビニル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン、(E)-6-(2-(1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロピリド[3,2,1-ij]キノリン-9-イル)ビニル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン、(E)-3,4-ジヒドロキシ-6-(2-(6-ヒドロキシナフタレン-2-イル)ビニル)-2H-ピラン-2-オンからなる群から選択される分子を酸化可能であり、
SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、または34に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を特徴とする、方法。
【請求項12】
生物発光を生成するトランスジェニック植物の使用であって、前記トランスジェニック植物はルシフェラーゼをコードする核酸を有し、
前記ルシフェラーゼは、3-ヒドロキシヒスピジン、(E)-6-(4-ジエチルアミノ)スチリル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン、(E)-3,4-ジヒドロキシ-6-(4-ヒドロキシスチリル)-2H-ピラン-2-オン、(E)-6-(2-1H-インドール-3-イル)ビニル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン、(E)-6-(2-(1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロピリド[3,2,1-ij]キノリン-9-イル)ビニル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン、(E)-3,4-ジヒドロキシ-6-(2-(6-ヒドロキシナフタレン-2-イル)ビニル)-2H-ピラン-2-オンからなる群から選択される分子を酸化可能であり、
SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、または34に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を特徴とし、
前記トランスジェニック植物は、植物細胞において3-ヒドロキシヒスピジンを生合成することを特徴とする、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に生物学および化学の分野に関し、具体的にはルシフェラーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
生物発光とは、生物または生体分子が光を生成して発する能力を指す。生物発光を生成する能力は、特定のタンパク質、つまりルシフェラーゼまたは発光タンパク質の存在によって決まる。ルシフェラーゼは、低分子量化合物、すなわちルシフェリンの酸化を触媒し、これをオキシルシフェリンに変換する酵素である。酸化に伴って発光し、オキシルシフェリンが放出される。
【0003】
発光タンパク質もルシフェリンの酸化を触媒するが、この場合ルシフェリンは、安定した発光タンパク質複合体を形成する補欠分子族として作用する。発光タンパク質によって生成される光の量は、その濃度におおよそ比例するが、ルシフェラーゼでは酵素とルシフェリンの両方の濃度に依存する。多くの場合、発光タンパク質によって触媒される生物発光反応は、媒体中の金属イオンの放出に反応して活性化される。例えばエクオリン発光タンパク質は、カルシウムイオンの放出に反応してルシフェリン(セレンテラジン)の酸化を触媒し、それによって短い閃光が発せられる。
【0004】
ルシフェラーゼは、生物医学や生物工学の多くの用途においてレポーター遺伝子として用いられている。具体的には、診断法、媒体中の微生物や毒物の検出法で用いられており、またさまざまな物質の濃度の測定、シグナル伝達カスケードの活性化の検出などに用いられる[非特許文献1、2、3]。ルシフェラーゼの応用方法は数多く考察されている[非特許文献1、4、5]。
【0005】
現在、数種類の生物発光系が知られている。さまざまな生物が長年にわたる進化の過程で独自に生物発光系を発展させたことがわかっている[非特許文献6、7]。
【0006】
D-ルシフェリンの酸化を触媒するキタアメリカホタル(Photinus pyralis)のルシフェラーゼについて記述されている[非特許文献8、9]。D-ルシフェリンの酸化に伴って、発光最大値が560nmの黄緑色光が放出される。同じD-ルシフェリンは、別の昆虫ルシフェラーゼによっても酸化される。現在、発光最大値が536~630nmの範囲にある光を発するホノオムシ科、コメツキムシ科、ホタル科のさまざまな昆虫種の酵素30種以上がクローニングされている。また、昆虫ルシフェラーゼの変異体についても記述されており、合成D-ルシフェリン類似体の生成により、異なる特性を有するルシフェリン-ルシフェラーゼ対を得ることが可能になっている[非特許文献10]。多種多様な類似体にもかかわらず、D-ルシフェリンは反応の量子効率が高いため(0.88+-0.25[非特許文献11])、依然としてもっとも一般的なin vivo生物発光の基質となっている。この系を用いるうえで著しい支障となるのが、キタアメリカホタルのルシフェラーゼの分子量が比較的大きいことである(61kDa)。このため、いくつかのキメラタンパク質を(例えばウイルスの研究用に)生成するのには向いていない。ゲノムが多いと安定性が低いのがその理由だ[非特許文献12、13]。そのほか、D-ルシフェリンの異性体であるL-ルシフェリンは反応の強力な競合的阻害剤となるため、鏡像異性的に純粋な形態でD-ルシフェリンを得る必要があることも問題となる[非特許文献14]。キタアメリカホタルのルシフェラーゼが分泌型でないことも、in vivo生物発光信号を定量化するうえで制限となる。
【0007】
また、セレンテラジンの酸化を触媒する数多くのルシフェラーゼと発光タンパク質についても記述されている。例えば、レニラ(Renilla)、ガウシア(Gaussia)、メトリディア・ロンガ(Metridia longa)におけるセレンテラジン依存性生物発光は[非特許文献15]に記述されており、幅広く用いられている。セレンテラジン依存性ルシフェラーゼおよび発光タンパク質の変異体と、セレンテラジンの合成類似体も得られている[非特許文献4]。セレンテラジン系は、分泌能、小型、利用可能なルシフェラーゼが多種多様という有利な点が複数存在するにもかかわらず、その用途を大きく制限しているのが、生物発光の発光最大値が青色領域に位置することだ。そうすると青色光の大部分が、興味ある組織によってin vivoで吸収される。さらに、生物発光基質自体が、周囲酸素によって非酵素的酸化の際に発光することがあり(組織中にスーパーオキシドアニオンとペルオキシナイトライトイオンが存在するためプロセスが促進される)、これにより生物発光信号測定においてノイズが生じる。
【0008】
海洋細菌に関連する生物発光系の別の例についても記述されている。この系は他の生物発光系とは大きく異なる。細菌ルシフェリン(ミリスチンアルデヒド)は、反応中に酸化されるが、生物発光体ではない[非特許文献15]。ルシフェリンに加え、発光反応の主要な成分はNADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)およびFMN-H(フラビンモノヌクレオチド)であり、その酸化誘導体が真の光源として作用する。海洋細菌の生物発光系は、原核生物の発現系にしか適用できないため、使用が限られている。
【0009】
反応性の高いルシフェリンおよび安定性の高いルシフェラーゼを特徴とする貝虫亜綱ウミホタル(Cypridina)の生物発光系も知られている[非特許文献16]。この生物発光系の主な欠点の1つは、空気中での、とりわけ不純物存在下でのウミホタルルシフェリンの安定性が極めて低いことである。ルシフェリンの最大生物発光は448~463nmの範囲にある(溶液のイオン強度に依存する)。このためこの系は、深部組織で未変化の形でin vivo応用するのに適していない。
【0010】
渦鞭毛藻類およびオキアミ類の生物発光系も知られている。現在、この群の3種のルシフェラーゼをコードする遺伝子がクローニングされている[非特許文献15]。この系の大きな欠点は、知識が不足していることである。ルシフェラーゼの全配列はまだ同定されておらず、系の応用範囲が定まっていない。現在、渦鞭毛藻類とオキアミ類の生物発光メカニズムに関連する知識は断片的である。
【0011】
今日、複数の生物発光系が用いられているにもかかわらず、新たな特性を有するルシフェリン-ルシフェラーゼ対がさらに必要とされている。とりわけ、水溶性細胞透過性ルシフェリンを酸化できるATPおよびNAD(P)H依存性ルシフェラーゼが有利であり得る。
【0012】
この点で、菌類ルシフェラーゼは非常に興味深い。菌類生物発光はよく知られている。また、アリストテレスの論文でも言及されている。しかしながら、菌類生物発光系については依然としてよくわかっていない。1959年にAirthとMcElroyは、菌類生物発光系が少なくとも1つの感熱性成分(すなわちルシフェラーゼ)と非感熱性成分(すなわちルシフェリン)と1つのNAD(P)Hとを含んでいることを示した[非特許文献17]。2015年にPurtovらは菌類ルシフェリンを検出した。それが、膜透過性分子、3-ヒドロキシヒスピジンであった[非特許文献18]。しかしながら、菌類ルシフェラーゼはクローニングされなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【文献】Scott et al.,Annual Review of Analytical Chemistry,2011,vol.4,p.297-319
【文献】Badr and Tannous,Trends Biotechnol,2011,29,p.624-633
【文献】Andreu et al.,FEMS Microbiology Reviews,2011,vol.35,p.360-394
【文献】Kaskova et al.,Chemical Society Reviews,2016,vol.45,p.6048-6077
【文献】Widder and Falls,IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics,2014,vol.20,p.232-241
【文献】Herring,Journal of Bioluminescence and Chemiluminescence,1987,vol.1,p.147-163
【文献】Haddock et al.,Annual Review of Marine Science,2010,vol.2,p.443-93
【文献】de Wet et al.,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United states of America,(米),1985,vol.82,p.7870-7873
【文献】de Wet et al.,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United states of America,(米),1987,vol.7,p.725-737
【文献】Thorne et al.,Chemistry & Biology,2010,vol.17,p.646-657
【文献】Seliger and McElroy,Archives of Biochemistry and Biophysics,1960,vol.88,p.136-141
【文献】Tran et al.,Journal of Virology,2013,vol.87,p.13321-13329;
【文献】Tran et al.,Viruses,2015,vol.7,p.5319-5327
【文献】Lembert,Biochemical Journal,1996,vol.317,p.273-277
【文献】O.Shimomura,Bioluminescence:Chemical Principles and Methods,World Scientific Publishing Co.Pte.Ltd,2006
【文献】Shimomura et al.,Science,1969,vol.164,p.1299-300
【文献】Airth and McElroy,Journal of Bacteriology,1959,vol.77,p.249-250
【文献】Purtov et al.,Angewandte Chemie,2015,vol.54,p.8124-8128
【文献】Yang et al.,1996,Nucleic Acids Research,vol.24,p.4592-4593
【文献】Altschul et al.,Journal of Molecular Biology,1990,vol.215,p.403-410
【文献】Basic Local Alignment Search Tool,インターネット<URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast>
【文献】Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual、2nd Edition,Cold Spring Harbor Press,1989
【文献】Guidelines for Recombinant DNA Research,米国保健福祉省国立衛生研究所(NIH)
【文献】Gustin et al.,Biotechniques,1993,vol.14,p.22
【文献】Barany,Gene,1985,vol.37,p.111-123
【文献】Colicelli et al.,Molecular General Genetics,1985,vol.199,p.537-539
【文献】Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989,pp.15.3-15.108
【文献】Krogh et al.,Journal of Molecular Biology,2001,vol.305(3),p.567-580
【文献】Sonnhammer et al.,Proceedings of the Sixth International Conference on Intelligent Systems for Molecular Biology,AAAI Press,1998,p.175-182
【文献】インターネット<URL:http://www.cbs.dtu.dk/services/TMHMM/>
【文献】Deuthser et al.,Guide to Protein Purification,Аcademic Press,1990
【文献】Harlow and Lane Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1988
【文献】J.W.Goding, Monoclonal Antibodies:Principles and Practice:Production and Application of Monoclonal Antibodies in Cell Biology,Biochemistry and Immunology;3rd edition,Academic Press,1996
【文献】J.Sambrook,Molecular Cloning:A Laboratory Manual、3nd Edition,Cold Spring Harbor Press,2001
【文献】J.Sambrook,Molecular Cloning:A Laboratory Manual、2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989
【文献】Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,(米),John Wiley&Sons,1995
【文献】Goodey et al.,Yeast biotechnology,1987,p.401-429
【文献】Kong et al.,Molecular and Cell Biology of Yeasts,1989,p.107-133
【文献】Pinkert,Transgenic Animal Technology:A Laboratory Handbook,2nd edition,Academic Press,2003
【文献】Gersenstein and Vinterstein,Manipulating the Mouse Embryo:A Laboratory Manual、3rd edition,Cold Spring Harbor Laboratory,2002
【文献】Blau et al.,Laboratory Animal Medicine、2nd Edition,American Medical Association,American Psychological Association,2002
【文献】Alexandra.L.Joyner,Gene Targeting:A Practical Approach 2nd edition,Oxford University Press,2000
【文献】Keown et al.,Methods in Enzymology,1990,vol.185,p.527-537
【文献】Plant Biochemistry and Molecular Biology,1993,pp.275-295
【文献】Oksman-Caldentey and H.Barz,Plant Biotechnology and Transgenic Plants,CRC press,2002
【文献】Kotula et al.,Proceedings of National Academy of Sciences of United States of America、2014、vol.111,p.4838-4843
【文献】Sabri et al.,Microbial Cell Factories、2013、vol.12,p.60
【文献】Chomczynski and Sacchi,Analytical.Biochemistry,1987,vol.162,p.156-159
【文献】Wu and Letchworth,Biotechniques,2004,vol.36,p.152-154
【文献】Altschul et al.,Journal of Molecular Biology,1990,vol.215,p.403-410
【文献】Watzele and Berger,Nucleic Acids Research,1990,vol.18,p.7174
【文献】Gould et al.,Journal of Biological Chemistry,1989,vol.108,p.1657-1664
【文献】Gould et al.,THE EMBO Journal,1990,vol.9,p.85-90
【文献】Monosov et al.,Journal of Histochemistry and Cytochemistry,1996,vol.44,p.581-589
【文献】Kalderon et al.,Cell,1984,vol.39,p.499-509
【文献】Lanford et al.,Cell,1986,vol.46,p.575-582
【文献】Gibson et al.,Nature Methods,2009,vol.6,p.343-345
【文献】Cove et al.,Cold Spring Harb Protocols,2009,2
【文献】Hisano et al.,Scientific Reports,2015,vol.5,p.8841
【文献】Cosentino et al.,Journal of Visualized Experiments,2010,vol.42,p.2079
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、新規ルシフェラーゼおよびその機能性変異体をコードする単離核酸分子を提供する。前記ルシフェラーゼは3-ヒドロキシヒスピジンを酸化させ、それにより発光をもたらす。前記ルシフェラーゼはATPおよびNAD(P)Hに依存しない。好ましい実施形態では、前記核酸は菌類から単離するか、または遺伝子工学的手法を用いて得る。
【課題を解決するための手段】
【0015】
いくつかの実施形態では、本発明の核酸は、SEQ ID NO:02、04、06、08、10、12、14、16、または18の群から選択されるルシフェラーゼをコードする。ヌクレオチド配列の例は、SEQ ID NO:1、3、5、7、9、11、13、15、17に示される。
【0016】
いくつかの実施形態では、本発明の核酸は、SEQ ID NO:35に示される特定の共通アミノ酸配列を含むルシフェラーゼをコードする。
【0017】
いくつかの実施形態では、本発明の核酸は、天然ルシフェラーゼと比べてC末端および/またはN末端から短いルシフェラーゼの機能的断片をコードする。
【0018】
いくつかの実施形態では、本発明の核酸は、そのアミノ酸配列が、SEQ ID NO:02、04、06、08、10、12、14、16、または18の群から選択されるルシフェラーゼと実質的に同一であるルシフェラーゼをコードする。いくつかの実施形態では、本発明の核酸は、そのアミノ酸配列が、SEQ ID NO:20、22、24、26、28、30、32、または34の群から選択される機能的断片と実質的に同一であるルシフェラーゼの機能的断片をコードする。
【0019】
遺伝コードの縮重ゆえに、提供されたヌクレオチド配列とは異なる、またはそれとハイブリダイズする核酸分子も、本発明の範囲に含まれる。
【0020】
他の実施形態では、本発明の核酸を含むベクターも提供される。また本発明は、選択された宿主細胞における核酸の発現に必要な本発明の核酸および調節エレメントを含む発現カセットを提供する。さらに、本発明の核酸、ベクター、または発現カセットを含む細胞、安定した細胞株、トランスジェニック生物(例えば、植物、動物、菌類、微生物)が提供される。
【0021】
他の実施形態では、上記の核酸によってコードされる本発明の機能性ルシフェラーゼが提供される。
【0022】
さらに、本発明の核酸を含む核酸またはベクターまたは発現カセットを含むキットが提供される。
【0023】
さらに、本発明のタンパク質またはその断片と特異的に結合する抗体が提供される。
【0024】
さらに、本発明の核酸およびタンパク質を用いた細胞、細胞構造、および生体分子を標識する方法が提供される。
【0025】
技術結果には、生物発光系の使用分野における技術手段の拡大が含まれる。これは、発光を伴う3-ヒドロキシヒスピジン酸化の触媒が可能な酵素の新たな群のアミノ酸およびヌクレオチド配列を同定することによって実現される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】天然系(1)および異種系で(2)発現したときのシロヒカリタケ(Neonothopanus nambi)のルシフェラーゼの生物発光スペクトルを示す。
図2】シロヒカリタケ(1)、ナラタケ(Armillaria mellea)(2)、Mycena citricolor(3)、オニナラタケ(Armillaria ostoyae)(4)、ヤコウタケ(Mycena chlorophos)(5)、ワタゲナラタケ(Armillaria gallica)(6)、ワサビタケ(Panellus stipticus)(7)、Omphalotus olearius(8)のルシフェラーゼを発現するHeLa Kyoto細胞、および非形質移入対照細胞(9)による生物発光強度の経時的な変化を示す。
図3】シロヒカリタケ(1)、ナラタケ(Armillaria mellea)(2)、Mycena citricolor(3)、オニナラタケ(Armillaria ostoyae)(4)、ヤコウタケ(Mycena chlorophos)(5)、ワタゲナラタケ(Armillaria gallica)(6)、ワサビタケ(Panellus stipticus)(7)、Omphalotus olearius(8)のルシフェラーゼを発現するHEK293T細胞、および非形質移入対照細胞(9)による生物発光強度の経時的な変化を示す。
図4】Hisタグを認識し、ホースラディッシュペルオキシダーゼに接合した抗体を用いたウエスタンブロットの写真である。レーン1:シロヒカリタケのHisタグなしルシフェラーゼを発現する細胞の核欠失後上清。レーン2:シロヒカリタケのHisタグ付きルシフェラーゼを発現する細胞の核欠失後上清。レーン3:140000gでの遠心分離によって得た上清。レーン4:140000gでの遠心分離によって得たペレット。
図5】本発明のルシフェラーゼのアミノ酸配列のマルチプルアライメントを示す。N末端膜貫通領域には下線が引かれている。共通配列は最上部に示されている。
図6】IPTG誘導前の、大腸菌(E.coli)ライセートを含む、クマシーブルー染色された勾配ポリアクリルアミドゲル(10~25%)(レーン1);室温で一晩発現させた後の大腸菌ライセート(レーン2);細胞溶解および35000gでの遠心分離後の上清(レーン3);大腸菌封入体の抽出物(レーン4)の写真。
図7】シロヒカリタケの組み換えルシフェラーゼの生物発光強度におけるpHへの依存度を示す。
図8】赤色伝送チャネル(最上部、mKate2)および緑色伝送チャネル(最下部、ルシフェラーゼ)で撮影され顕微鏡写真上に重ねられた透過顕微鏡写真を示す。
図9】シロヒカリタケのルシフェラーゼ(マウスの背中の左側に移植)およびキタアメリカホタルルシフェラーゼ(右側に移植)を用いた、生体マウスの腫瘍細胞の標識を示す。マウス写真と、移植された腫瘍から発せられる光シグナル記録の重ね合わせを示す。
図10】シロヒカリタケのルシフェラーゼを用いた、神経胚形成期(16~17期)にあるアフリカツメガエル胚の神経系の標識を示す。ルシフェラーゼ生物発光が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、新規ルシフェラーゼ、その機能的断片、相同体、および変異体をコードする核酸分子、ならびに前記核酸によってコードされるタンパク質を対象とする。興味ある核酸分子は菌類から単離するか、または遺伝子工学的に操作する。また、これらの核酸分子を含む宿主細胞、安定した細胞株、およびトランスジェニック生物が提供される。さらに、本発明のタンパク質に特異的な抗体が提供される。
【0028】
前記タンパク質およびヌクレオチド組成物は、多くの用途や方法に、具体的には、生物、細胞、細胞小器官、またはタンパク質の標識に用いられる。また、前記タンパク質およびヌクレオチド組成物は、タンパク質-タンパク質相互作用の検出方法や、さまざまな条件下でのプロモーター活性の試験に用いられる。さらに、そうした方法や用途のためのキットが提供される。
【0029】
定義
本発明の主題に関するさまざまな用語が、上記ならびに明細書および特許請求の範囲で用いられている。
【0030】
本明細書で用いられる用語「ルシフェラーゼ」は、ルシフェリンを酸化することができるタンパク質を意味し、酸化反応には発光(ルミネセンス)を伴い、酸化ルシフェリンが放出される。
【0031】
本明細書で用いられる用語「ヒト化」は、コドンを最適化して哺乳類細胞でタンパク質を発現させるために核酸配列に加えられる変更を指す(非特許文献19)。
【0032】
本明細書で用いられる用語「単離」は、ある分子または細胞が自然の状態で存在する環境とは異なる環境にあることを意味する。
【0033】
本明細書で用いられる用語「変異体」または「誘導体」は、本発明のタンパク質のN末端、および/またはC末端で、ならびに/あるいは天然アミノ酸配列内で、1つまたは複数のアミノ酸が付加される、および/または置換される、および/または欠失される、および/または挿入される本発明のタンパク質を指す。本明細書で用いられる用語「変異体」は、変異体タンパク質をコードする核酸分子を指す。さらに、本明細書における用語「変異体」は、タンパク質または核酸よりも長いまたは短い任意の多様体を指す。
【0034】
用語「相同性」は、ヌクレオチド配列またはアミノ酸配列と他のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列との相互連係を言い表すのに用いられる。この相互連係は、これらの比較される配列間における同一性および/または類似性の程度によって決まる。
【0035】
本明細書では、比較のために選択された領域内で、アミノ酸配列またはヌクレオチド配列が、特定の配列と少なくとも40%同一であれば、アミノ酸配列またはヌクレオチド配列は参照配列と「実質的に同様」または「実質的に同一」となる。したがって、実質的に同様の配列とは、例えば少なくとも45%同一、または少なくとも50%同一、または少なくとも55%同一、または少なくとも60%同一、または少なくとも62%同一、または少なくとも65%同一、または少なくとも70%同一、または少なくとも75%同一、例えば少なくとも80%同一、少なくとも85%同一、少なくとも90%同一(例えば、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、98%、または99%同一)となる。互いに同一の2個の配列も、実質的に同様である。本発明の目的上、比較されるルシフェラーゼ配列の長さは、少なくとも100個のアミノ酸、好ましくは少なくとも200個のアミノ酸、例えば200~230個のアミノ酸、またはタンパク質もしくは機能的断片のアミノ酸配列の全長である。核酸については、比較される配列の長さは、一般に少なくとも300個のヌクレオチド、好ましくは少なくとも600個のヌクレオチドである。
【0036】
配列の同定は、参照配列に基づいて決定される。配列解析のアルゴリズムは、当技術分野では、例えば非特許文献20に記載されているBLASTが知られている。本発明の目的上、標準パラメータを含むギャップありアライメントを用いた、国立生物工学情報センターが提供するBLASTソフトウェアパッケージ(非特許文献21)を使ったヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の比較を、ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列間の同一性および類似性の程度を決定するのに用いることができる。
【0037】
本明細書で用いられる用語「機能的」は、ヌクレオチド配列またはアミノ酸配列が、特定の試験または課題について機能できることを意味する。ルシフェラーゼに関して用いられる用語「機能的」は、タンパク質が、ルミネセンスを伴うルシフェリン酸化反応を触媒できることを意味する。
【0038】
本明細書で用いられる「生化学的特性」は、タンパク質フォールディング速度、成熟速度、半減期、触媒速度、pH安定性、および温度安定性などのような特性を指す。
【0039】
本明細書で用いられる「スペクトル特性」は、スペクトル、量子効率、およびルミネセンス強度などのような特性を指す。
【0040】
キメラタンパク質に関して用いられる「動作可能に連結された」などのような用語は、互いに物理的および機能的に連結されるポリペプチド配列を指す。もっとも好ましい実施形態では、キメラ分子のポリペプチド成分の機能は、単離されたポリペプチド成分の機能特性と比べて不変である。例えば、本発明のルシフェラーゼは、興味ある融合パートナーと融合することができる。この場合、キメラタンパク質はルシフェラーゼ特性を保持し、興味あるポリペプチドはその元の生物活性を保持する。いくつかの実施形態では、ルシフェラーゼおよび融合パートナーの両方の活性は、単離タンパク質の活性と比べて低下していることがある。そのようなキメラタンパク質も、本発明の範囲で応用される。核酸に関して用いられる「動作可能に連結された」などのような用語は、核酸が、接合で読み枠および終止コドンの「ミス」がないように共有結合されることを意味する。「動作可能に連結された」成分(タンパク質、ポリペプチド、連結配列、タンパク質ドメインなど)を含むキメラタンパク質をコードするヌクレオチド配列が、前記成分をコードする断片からなることは、当業者に十分理解されるであろう。このとき断片は、ヌクレオチド配列の転写および翻訳の際に完全なキメラタンパク質が生成されるように共有結合される。
【0041】
本明細書で用いられる用語「特異的にハイブリダイズする」は、当技術分野で一般的に用いられる所定条件下で、そうしたハイブリダイゼーションを可能にする、2個の単鎖核酸分子間または十分に相補的な配列間の関係性を示す(用語「実質的に相補的な」を使用する場合もある)。
【0042】
ポリペプチドを「コードする」ヌクレオチド配列とは、そのようなポリペプチドが、mRNAの転写および翻訳の際にヌクレオチド配列から生成されることを意味する。これについて、mRNAと同一であり、配列表で一般的に用いられるコード鎖、および転写の際に鋳型として用いられる相補的な鎖の両方を特定することができる。この用語が、均一なアミノ酸配列をコードする任意の変性ヌクレオチド配列も含むことは、当業者に十分理解されるであろう。ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、イントロンを含む配列を含む。
【0043】
核酸分子
本発明はルシフェラーゼおよびその機能的断片をコードする(例えば、切断型または拡張型ルシフェラーゼ多様体をコードする)核酸分子を提供する。好ましい実施形態では、本発明の核酸は、そのアミノ酸配列がSEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18の群から選択されるルシフェラーゼをコードする。上記のルシフェラーゼと実質的に同様である前記ルシフェラーゼの相同体および変異体をコードする核酸分子も、本発明の範囲に含まれる。興味あるこれら特定種の核酸分子のそれぞれについて、以下の実験の項で詳しく開示する。
【0044】
本明細書で用いられる核酸分子は、ゲノムDNAもしくはcDNAなどのDNA分子、またはmRNA分子などのRNA分子である。いくつかの実施形態では、本発明の核酸分子は、本発明のルシフェラーゼをコードし、適切な条件下で(例えば、生理的細胞内条件下で)、異種発現系でルシフェラーゼとして発現させることができるオープンリーディングフレームを有するDNA分子(またはcDNA)である。
【0045】
いくつかの実施形態では、ルシフェラーゼをコードする本発明の核酸分子は、菌類から単離される。興味ある特定の核酸分子は、シロヒカリタケ(SEQ ID NO:2)、ワタゲナラタケ(SEQ ID NO:4)、ナラタケ(SEQ ID NO:6)、オニナラタケ(SEQ ID NO:8)、ヤコウタケ(SEQ ID NO:10)、Mycena citricolor(SEQ ID NO:12)、Omphalotus olearius(SEQ ID NO:14)、およびワサビタケ(SEQ ID NO:16、18)のルシフェラーゼをコードする核酸を含む。そのような核酸のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:1、3、5、7、9、11、13、15、17に示される。
【0046】
いくつかの実施形態では、本発明の核酸分子は遺伝子的に操作される。核酸を得る方法は当技術分野で周知である。例えば、アミノ酸配列情報(例えば、SEQ ID NO:2~18)またはヌクレオチド配列情報(例えば、SEQ ID NO:3、5、7、9、11、13、15、または17)が利用できれば、オリゴヌクレオチド合成による本発明の単離核酸分子を調製することが可能となる。アミノ酸配列の情報が利用できれば、遺伝コードの縮重のために、それぞれ異なる複数の核酸を合成することができる。所望の宿主のためのコドン多様体を選択する方法は、当技術分野で周知である。
【0047】
合成オリゴヌクレオチドは、ホスホラミダイト法を用いて調製できる。得られたコンストラクトは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、または例えば非特許文献22に記載されている方法や、例えば非特許文献23に記載されている指示に従った方法など、当技術分野で周知の方法によって精製できる。本発明の長い二重鎖DNA分子は、次のように合成できる。すなわち、隣接する断片と結合できる適切な末端を含む、必要な相補性を有する複数の小さな断片を合成できる。隣接する断片は、組み換えに基づく方法でDNAリガーゼによって、またはPCRの際に結合できる。
【0048】
本発明のルシフェラーゼをコードする核酸分子は、担子菌門、好ましくは担子菌綱、特にハラタケ目に属する菌類の生物源からもクローニングできる。
【0049】
本発明は、相同で、実質的に同様で、同一である核酸、または本発明のタンパク質をコードする核酸から得られる核酸も含む。
【0050】
本発明の核酸は、例えば単離されている、数が増加している、in vitro系で、または自然の状態に存在するのとは異なる細胞もしくは生物で存在または発現するなど、自然の状態で存在する環境とは異なる環境にある。
【0051】
類似性の高いヌクレオチド配列間のヌクレオチド配列における改変または差異は、通常の複製または重複で生じるヌクレオチド配列置換を表し得る。その他の置換は、調節領域の特定のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列のコドンを改変するなど、特定の目的のために、具体的に計算し、配列に挿入することができる。そのような特別な置換は、さまざまな変異技術を用いてin vitroで行う、またはこうした変化を誘発もしくは選択する特定の育成条件下で宿主生物から得ることができる。そのように特別に調製された配列の多様体は、元の配列の「変異体」または「誘導体」と呼ぶことができる。
【0052】
本発明は、そのアミノ酸配列がSEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18に示されるルシフェラーゼと実質的に同様であるルシフェラーゼをコードする核酸も提供する。そのようなポリペプチドまたはその断片をコードする核酸は、既知の複数の方法のいずれかによって得ることができる。本発明のcDNA断片は、高ストリンジェント条件下で、標的生物のcDNAライブラリーに対するハイブリダイゼーションプローブとして用いることができる。プローブは、長い断片または短い縮重プライマーであり得る。類似の配列を有する核酸は、高ストリンジェント条件下で、例えば50℃以上の高温(例えば60℃または65℃)、50%ホルムアミド、0.1×SSC(15mM塩化ナトリウム/1.5mMクエン酸ナトリウム)、0.1%SDSで、ハイブリダイゼーションによって検出できる。参照配列、例えばアレル多様体、遺伝子組み換えされた核酸多様体などと実質的に同一の領域を有する核酸は、高ストリンジェントハイブリダイゼーション条件下で、参照配列に結合する。そのようなヌクレオチド配列は、プローブ、具体的には、参照DNA配列に相補的な標識プローブを用いて単離できる。
【0053】
そのようなポリペプチドまたはその断片をコードする核酸は、ゲノムまたはトランスクリプトームの配列決定の際に検出することもできる。具体的には、実質的に同様のルシフェラーゼは、生物の配列決定の際に、例えば、さまざまな種の菌類、主に担子菌門、例えば担子菌綱、特にハラタケ目の配列決定の際に得られるデータに基づいて予測される仮定的タンパク質の配列の中で同定できる。
【0054】
本発明は、SEQ ID NO:35に示される配列と実質的に同様の、特定の共通アミノ酸配列を含むルシフェラーゼをコードする核酸も提供する。本明細書において、用語「共通配列」は、本発明の異なるルシフェラーゼで(個々のアミノ酸のわずかな変化を伴って)定期的に生じる平均アミノ酸配列を意味する。
【0055】
変異核酸または由来核酸は、鋳型配列で1つまたは複数のヌクレオチドを修飾、欠失、もしくは付加することによって、またはその組み合わせで鋳型核酸の多様体を作製することによって、上記の核酸から選択される鋳型核酸から得ることができる。修飾、付加、または欠失は、エラープローンPCR、シャッフリング、オリゴヌクレオチド特異的変異誘発、アセンブリPCR、セクシャルPCR変異誘発、in vivo変異誘発、カセット変異誘発、再帰的アンサンブル変異誘発、指数関数的アンサンブル変異誘発、部位特異的変異誘発、ランダム変異誘発、遺伝子再構築、遺伝子部位飽和変異誘発(GSSM)、合成ライゲーション再構築(SLR)、またはその組み合わせを含む、当技術分野で周知の任意の方法を用いて行い得る(例えば非特許文献24~27参照)。修飾、付加、および欠失は、組み換え、再帰的配列組み換え、ホスホロチオエート修飾DNA変異誘発、ウラシル含有鋳型変異誘発、ギャップトデュプレックス変異誘発、ポイントミスマッチ修復変異誘発、修復欠損宿主株変異誘発、化学的変異誘発、放射線変異誘発、欠失変異誘発、制限選択変異誘発、制限精製変異誘発、人工遺伝子合成、アンサンブル変異誘発、キメラ核酸マルチマー作製、またはその組み合わせを含む方法によって導入し得る。いくつかの実施形態では、変異核酸または由来核酸によってコードされるルシフェラーゼは、野生型ルシフェラーゼと同じスペクトル特性または生化学的特性を有する。他の実施形態では、変異核酸または由来核酸は、特性が変化したルシフェラーゼをコードする。
【0056】
また、本発明のタンパク質をコードする核酸の縮重多様体が提供される。縮重核酸多様体は、核酸コドンと、同じアミノ酸をコードする他のコドンとの置換を含む。具体的には、核酸の縮重多様体を作製することにより、宿主細胞における発現を増加させる。この実施形態では、宿主細胞遺伝子において好ましくない、またはあまり好ましくない核酸コドンを、宿主細胞における遺伝子のコード配列に豊富に存在するコドンと置換する。このとき、前記置換コドンは同じアミノ酸をコードする。興味ある縮重多様体の例について、以下の実験の項でさらに詳しく説明する。
【0057】
これらのルシフェラーゼの切断型多様体および拡張型多様体をコードする核酸も、本発明の範囲に含まれる。本明細書で用いられるこれらのタンパク質多様体は、ポリペプチド鎖の修飾C末端、N末端、または両方の末端を改変させたアミノ酸配列を含む。
【0058】
切断型多様体において、1つまたは複数の(通常は最大39個、大抵は37個以下の)アミノ酸を配列から除去、またはその他のアミノ酸で置換し得る。具体的には、ルシフェラーゼの膜貫通領域をコードする配列、およびN末端に先行するアミノ酸配列を、完全に、または部分的に除去することができる。膜貫通領域は、先行技術から知られる方法を用いて、例えば[非特許文献28、29]に記載されるアルゴリズムを用いて同定することができる。解析には、前記アルゴリズムに基づき、[非特許文献30]に記載されているソフトウェアを使用できる。拡張型多様体では、タンパク質のC末端またはN末端は、付加アミノ酸を含み得る。機能的断片のアミノ酸配列の例、および対応するコード化ヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:19~34に示される。機能的断片の発現については、それらをコードする核酸は、少なくとも調節配列および転写開始点を含む核酸と動作可能に連結される。またこれらの核酸は、6-Hisタグをコードする配列、シグナルペプチド、または機能的タンパク質ドメインを含み得る。
【0059】
上記の修飾はルシフェラーゼのスペクトル特性を実質的には変化させないが、細胞内局在を変化させ、宿主細胞におけるタンパク質フォールディングを促進し、凝集を低減し、またはタンパク質の生化学的特性、例えば半減期を調整することができる。いくつかの実施形態では、これらの修飾はタンパク質の生化学的特性を変化させない。上記のあらゆる種類の修飾および変異は、原則として、核酸レベルで行われる。
【0060】
本発明の核酸分子は、主題のタンパク質全体、またはその一部をコードし得る。二重鎖断片または単鎖断片は、標準法、酵素制限、PCR増幅などに従って、オリゴヌクレオチドの化学合成によってDNA配列から得ることができる。一般にDNA断片の長さは、少なくとも約15個のヌクレオチド、通常は少なくとも約18個、または約25個のヌクレオチドとなり、少なくとも約50個のヌクレオチドであり得る。いくつかの実施形態では、主題の核酸分子は、約100個、約200個、約300個、約400個、約500個、約600個以上の長さであり得る。主題の核酸は、主題のタンパク質の断片または完全タンパク質をコードできる。例えば主題の核酸は、約25個のアミノ酸、約50個、約75個、約100個、約125個、約150個、約200個のアミノ酸、最大で完全長のタンパク質のポリペプチドをコードし得る。
【0061】
主題の核酸は、単離し、実質的に純粋な形で獲得し得る。実質的に純粋な形とは、核酸が少なくとも約50%純粋であり、通常は少なくとも約90%純粋であり、かつ通常は「組み換え」である、すなわち、自然界でその自然宿主に存在する染色体の配列と一般に結合しない1つまたは複数のヌクレオチドが隣接していることを意味する。
【0062】
また、以下に詳細に説明する本発明のタンパク質またはその断片を含む融合タンパク質をコードする核酸も提供される。
【0063】
主題の核酸を含むベクターおよびその他の核酸コンストラクトも提供される。適切なベクターは、ウイルスベクター、非ウイルスベクター、プラスミド、コスミド、ファージなどを含み、好ましくはプラスミドを含み、本発明の核酸配列のクローニング、増幅、発現、適切な宿主への導入などに用いられる。適切なベクターの選択は、当業者にとって容易である。コンストラクトを調製するには、通常は、ベクターの切断制限酵素部位にDNAリガーゼを結合させることによって、核酸の一部または完全長の核酸をベクターに挿入する。あるいは、所望のヌクレオチド配列を、in vivo相同組み換えによって、通常は所望のヌクレオチド配列の側部で相同領域をベクターに結合させることによって挿入することができる。相同性の領域は、オリゴヌクレオチドの連結によって、または、例えば所望のヌクレオチド配列の一部および相同領域の両方を有するプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応によって付加される。ベクターは、原則として、染色体外エレメントとして細胞に導入されることで、宿主におけるその複製を確保する複製起点を有する。ベクターは、宿主における核酸の発現および組み換え機能性ルシフェラーゼの生成をもたらす調節エレメントも含み得る。発現ベクターにおいて、前記核酸は、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、オペレーター、リプレッサー、サイレンサー、インスレーター、およびインデューサーを含み得る調節配列と機能的に連結される。
【0064】
とりわけ、主題のルシフェラーゼもしくはそれに基づくキメラタンパク質を得るために、または主題の核酸分子の複製のために用いられる、発現カセットまたは発現系も提供される。発現カセットは染色体外エレメントとして存在し得るか、または、前記発現カセットを細胞に導入することで、細胞のゲノムに組み込まれ得る。発現では、本発明の核酸によってコードされる遺伝子産物は、例えば、細菌系、酵母、植物、昆虫、両生類、哺乳類系を含む任意の簡便な発現系で発現される。発現カセットでは、標的核酸は、プロモーター、エンハンサー、終止配列、オペレーター、リプレッサー、およびインデューサーを含むことのできる調節配列に動作可能に連結される。所望の産物を発現させられる発現カセットまたは発現系を調製する方法は、当業者には周知である。
【0065】
本発明のタンパク質を持続的に発現する細胞株は、当技術分野で周知の方法によって選択することができる(例えば、dhfr、gpt、ネオマイシン、またはハイグロマイシンなどの選択マーカーを用いた共導入により、ゲノムに組み込まれた遺伝子を含む形質導入細胞の同定および単離が可能となる)。
【0066】
上記の発現系は、原核生物宿主または真核生物宿主で用いることができる。大腸菌(Е.coli)、枯草菌(В.subtilis)、出芽酵母(S.cerevisiae)、昆虫細胞、またはヒト胚細胞ではない高等生物の細胞など、酵母、植物(例えば、シロイヌナズナ[Arabidopsis thaliana]、ベンサミアナタバコ[Nicotiana benthamiana]、ニセツリガネゴケ[Physcomitrella patens])、脊椎動物、例えば、COS-7細胞、ヒト胎児腎細胞293、CHO、アフリカツメガエル(Xenopus)卵母細胞などの宿主細胞を、タンパク質の生成に使用し得る。
【0067】
上述の宿主細胞のいずれか、またはその他の適切な宿主細胞もしくは生物を、本発明の核酸の複製および/または発現に用いる場合、得られた複製核酸、発現タンパク質またはポリペプチドは、宿主細胞または生物の生成物として、本発明の範囲に含まれる。生成物は当技術分野で周知の適切な手段によって回収し得る。
【0068】
PCR、ローリングサークル増幅、ハイブリダイゼーションスクリーニングプローブなどのためのプライマーとして有用な、主題の核酸の小さなDNA断片も提供される。大きなDNA断片は、上述のように、コード化ポリペプチドの生成に有用である。しかしながら、PCRなど幾何学的増幅反応での使用には、小さなDNA断片、すなわちプライマーの対を用いる。プライマー配列の正確な組成は本発明にとって重要ではないが、大半の用途ではプライマーは、当技術分野で周知のように、ストリンジェント条件下で主題の配列にハイブリダイズする。少なくとも約50個のヌクレオチド、好ましくは少なくとも約100個のヌクレオチドから核酸配列全体まで及ぶ増幅産物を生成するプライマー対を選択することが好ましい。プライマー配列を選択するアルゴリズムは一般に知られており、市販のソフトウェアパッケージで利用できる。増幅プライマーは、DNAの相補的な鎖にハイブリダイズし、互いにプライミングする。
【0069】
本発明の核酸分子は、生物学的試料における遺伝子の発現を同定するために使用し得る。ゲノムDNAまたはRNAなど特定のヌクレオチド配列の存在について細胞を探索する方法については、文献で十分に確立されている。つまり、DNAまたはmRNAを細胞試料から単離する。mRNAは、逆転写酵素を用いてRT-PCRで増幅し、相補的なDNA鎖を形成し、続いて主題のDNA配列に特異的なプライマーを用いるポリメラーゼ連鎖反応増幅を行い得る。あるいは、mRNA試料をゲル電気泳動によって分離し、適切な支持体、例えばニトロセルロース、ナイロンなどに移したのち、プローブとして主題のDNAの断片を用いて探索する。オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ、in situハイブリダイゼーション、および固体チップ上に配列されるDNAプローブへのハイブリダイゼーションといった他の技術も使用し得る。主題の配列にハイブリダイズするmRNAの検出は、試料における遺伝子発現を示している。
【0070】
タンパク質
本発明は、ルシフェラーゼ、ならびに全長タンパク質およびその一部または断片を含む、その相同体、誘導体、および変異体も提供する。
【0071】
主題のタンパク質は、酸素存在下でルシフェリンの酸化を触媒できるルシフェラーゼである。酸化反応は、媒体中のATP、NAD(P)Hなどの代謝産物の存在には依存しない。主題のタンパク質は、以下の構造を有する3-ヒドロキシヒスピジンを酸化するため、既知のルシフェラーゼとは異なる。
【0072】
【化1】
【0073】
主題のルシフェラーゼは、その他の化学化合物の酸化を触媒できる。そのような化合物を検出するために、単離ルシフェラーゼと前記化学化合物とを適切な条件下で結合させ、酸化反応の際に発せられる光を検出する。主題のルシフェラーゼで、ルシフェリンとして機能できる化合物の例には、例えば以下がある。
【0074】
以下の構造をもつ(E)-6-(4-ジエチルアミノ)スチリル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン。
【0075】
【化2】
【0076】
以下の構造をもつ(E)-3,4-ジヒドロキシ-6-(4-ヒドロキシスチリル)-2H-ピラン-2-オン。
【0077】
【化3】
【0078】
以下の構造をもつ(E)-6-(2-1H-インドール-3-イル)ビニル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン。
【0079】
【化4】
【0080】
以下の構造をもつ(E)-6-(2-(1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロピリド[3,2,1-ij]キノリン-9-イル)ビニル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン。
【0081】
【化5】
【0082】
以下の構造をもつ(E)-3,4-ジヒドロキシ-6-(2-(6-ヒドロキシナフタレン-2-イル)ビニル)-2H-ピラン-2-オン。
【0083】
【化6】
【0084】
本発明のルシフェラーゼによるルシフェリンの酸化は、検出可能な光の放出を伴う。
【0085】
本発明のいくつかの実施形態では、反応時に放出される光は、従来の方法(例えば、目視検査、暗視、分光測光、分光蛍光分析、画像撮影記録、特殊発光、および例えばIVIS Spectrum In Vivo Imaging System[Perkin Elmer]といった蛍光検出装置など)を用いて検出できる。記録される光は、光子1個から例えば光度が1cdの容易に見える光、および例えば光度が100cd以上の明るい光までの強度範囲内で発せられ得る。
【0086】
3-ヒドロキシヒスピジンの酸化の際に発せられる光は、400~700nmの範囲内、多くの場合450~650nmの範囲内にあり、発光最大値が520~590nmである。
【0087】
主題のタンパク質は50℃未満の温度で、多くの場合45℃以下で活性を維持する。すなわち30~42℃の温度範囲で活性を維持し、in vitroおよびin vivoの異種発現系で用いることができる。
【0088】
主題のタンパク質をpH安定性は4~10の範囲内、多くの場合は6.5~9.5の範囲内にある。主題のタンパク質の最適なpH安定性は7.0~8.0、例えば7.3~7.5の範囲内にある。
【0089】
興味ある特定のタンパク質は、シロヒカリタケ(SEQ ID NO:2)、ワタゲナラタケ(SEQ ID NO:4)、ナラタケ(SEQ ID NO:6)、オニナラタケ(SEQ ID NO:8)、ヤコウタケ(SEQ ID NO:10)、Mycena citricolor(SEQ ID NO:12)、Omphalotus olearius(SEQ ID NO:14)、およびワサビタケ(SEQ ID NO:16、18)の天然ルシフェラーゼ、ならびに例えばSEQ ID NO:20、22、24、26、28、30、32、34に示されるアミノ酸配列を含み以下の実験の項で詳しく説明する、それらの組み換えおよび切断型多様体を含む。
【0090】
上記のルシフェラーゼおよびその機能的断片と実質的に同様のルシフェラーゼも提供される。多くの実施形態において、興味あるアミノ酸配列は、配列が大幅に同一、例えば少なくとも40%同一、例えば少なくとも45%同一、または少なくとも50%同一、または少なくとも55%同一、または少なくとも60%同一、または少なくとも65%同一、または少なくとも70%同一、または少なくとも75%同一、例えば少なくとも80%同一、少なくとも85%同一、少なくとも90%同一(例えば、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、98%、または99%同一)である。具体的には、これはタンパク質機能領域をもたらすアミノ酸の配列、すなわち本発明の天然ルシフェラーゼの一部である膜貫通領域の配列の後に位置するタンパク質配列を指す。
【0091】
本発明は、本発明の天然ルシフェラーゼに備わっており、SEQ ID NO:35に示される特定の共通配列を含むルシフェラーゼも提供する。共通配列は、複数の関連配列におけるこの位置で最も一般的に発生するアミノ酸を同定することによって、本発明のルシフェラーゼを複数回比較して得られる。
【0092】
本発明は上記のタンパク質の変異体も提供する。変異体は、それを得たタンパク質の生物学的特性を保持し得るか、または野生型タンパク質のものとは異なる生物学的特性を持ち得る。本発明に従ったタンパク質の「生物学的特性」という用語は、さまざまなルシフェリンを酸化する能力;in vivoおよび/もしくはin vitro安定性(例えば、半減期)などの生化学的特性;成熟速度;凝集傾向、またはオリゴマー化傾向などのような特性を指すが、これに限定されない。変異体は、1つまたは複数のアミノ酸の改変、1つまたは複数のアミノ酸の欠失または挿入;N末端切断または延長、C末端切断または延長などを含む。
【0093】
変異体は、上記の核酸分子の項で詳しく説明したような従来の分子生物学の技術を用いて獲得し得る。
【0094】
本発明のタンパク質は単離された形態であり、すなわち所定のタンパク質は、他のタンパク質、またはオリゴ糖、核酸、およびその断片などの他の天然生体分子を実質的に含まない。これに関連して、用語「実質的に含まない」は、単離タンパク質を含む前記組成物の70%未満、通常60%未満、多くの場合50%未満が、他の天然生体分子で構成されていることを意味する。いくつかの実施形態では、前記タンパク質は実質的に純粋な形である。これに関連して、用語「実質的に純粋な形」は、前記タンパク質が、少なくとも95%純粋、通常は少なくとも97%純粋、多くの場合少なくとも99%純粋であることを意味する。
【0095】
好ましい実施形態では、標的タンパク質は合成法を用いて、例えば、上述のように、適切な宿主において興味あるタンパク質をコードする配列をコードする組み換え核酸を発現することによって得られる。任意の従来のタンパク質精製手順を用いてよく、適切な基準ガイド(非特許文献31)に適当なタンパク質精製技術が記載されている。例えば、ライセートは元の供給源から調製し、HPLC、排除クロマトグラフィ、ゲル電気泳動、アフィニティクロマトグラフィなどを用いて精製し得る。
【0096】
本発明は、例えば細胞内局在配列(例えば、核局在化シグナル、ペルオキシソーム局在化シグナル、ミトコンドリア、ゴルジ装置など)、シグナルペプチド、または任意の興味あるタンパク質もしくはポリペプチドと融合した本発明のタンパク質またはその機能的断片を含む融合タンパク質も含む。融合タンパク質は、例えば、ルシフェラーゼのN末端および/またはC末端と動作可能にインフレームで融合した本発明のルシフェラーゼおよび第2のポリペプチド(「融合パートナー」)を含み得る。融合パートナーは、融合パートナー(例えば、エピトープタグ)に特異的な抗体と結合できるポリペプチド、その抗体または結合断片、触媒機能を与えるもしくは細胞応答を誘発するポリペプチド、そのリガンドまたはレセプターまたはミメティックなどを含むがこれに限定されない。
【0097】
本発明は、本発明のルシフェラーゼと特異的に結合する抗体も提供する。適切な抗体は、当技術分野で周知の技術を用いて獲得し得る。例えば、ポリクローナル抗体は、(非特許文献32)に記載されている技術を用いて獲得し得る。モノクローナル抗体は、(非特許文献33)に記載されているように獲得し得る。ヒト化抗体、単鎖抗体、Fv、F(ab’)2、およびFAbなどの抗体断片を含むキメラ抗体にも興味がある。
【0098】
形質転換体
本発明の核酸は、トランスジェニック生物、または細胞株における部位特異的遺伝子改変を含む形質転換体を作製するのに使用し得る。本発明のトランスジェニック細胞は、導入遺伝子として存在する1つまたは複数の本発明の核酸を含む。本発明の目的上、ヒト胚細胞を除く原核宿主(例えば、大腸菌、ストレプトマイセス属、枯草菌、アシドフィルス菌など)または真核宿主などの任意の適切な宿主を使用し得る。本発明のトランスジェニック生物は、細菌、藍色細菌、菌類、植物、動物を含む原核生物または真核生物であり得る。このとき、本発明の異種核酸を含む生物の1つまたは複数の細胞は、当技術分野で周知の遺伝子導入技術など、人間の介入によって導入される。
【0099】
本発明の単離核酸は、当技術分野で周知の方法、例えば感染、形質移入、形質転換、遺伝子銃送達、またはトランス接合(transconjugation)によって宿主に導入することができる。核酸分子(すなわちDNA)をそのような生物に導入する技術は広く知られており、Sambrookらなどの参考文献に記載されている(非特許文献34)。
【0100】
一実施形態では、トランスジェニック生物は原核生物であり得る。原核宿主の形質転換法は当技術分野で周知である(例えば、Sambrookら[非特許文献35、36]参照)。
【0101】
その他の実施形態では、前記トランスジェニック生物は、菌類、例えば酵母であり得る。酵母は、異種遺伝子発現の媒介物として広く用いられている(例えば、非特許文献37、38参照)。維持のために宿主ゲノムによる組み換えが必要とされる統合ベクター、および自己複製プラスミドベクターなど、数種類の酵母ベクターが利用できる。
【0102】
もう1つの宿主生物体は動物である。トランスジェニック動物は、当技術分野で周知であり、参考文献(非特許文献39~42)に記載されているトランスジェニック技術によって得ることができる。例えば、トランスジェニック動物は相同組み換えによって得ることができ、内在性遺伝子座が改変される。あるいは、核酸コンストラクトは、ゲノム中にランダムに組み込まれる。組み込みを安定させるベクターには、プラスミド、レトロウイルス、その他の動物ウイルス、YACなどがある。
【0103】
核酸は、マイクロインジェクションなどによる意図的な遺伝子操作によって、または組み換えウイルスもしくは組み換えウイルスベクターなどを用いた感染によって、細胞の前駆体に導入することで直接的または間接的に細胞に導入することができる。「遺伝子操作」という用語は、古典的な交雑育種または体外受精を含まず、むしろ組み換え核酸分子の導入を指す。この核酸分子は染色体内に組み込み得るか、または染色体外複製DNAであり得る。
【0104】
相同組み換えのためのDNAコンストラクトは、本発明の核酸の少なくとも一部を含む。このとき前記遺伝子は、所望の1つまたは複数の遺伝子組み換えを有し、標的遺伝子座に対する相同性領域を含む。ランダムな組み込みのためのDNAコンストラクトは、組み換えを仲介する相同性領域を含む必要はない。ポジティブ選択およびネガティブ選択のためのマーカーも含み得る。相同組み換えによる標的遺伝子改変を有する細胞を作製する方法は、当技術分野で周知である。哺乳類細胞を形質移入するさまざまな方法が、例えば非特許文献43に記載されている。
【0105】
胚幹(ES)細胞については、ES細胞株を使用し得るか、または胚細胞を、マウス、ラット、モルモットなどの宿主から新たに獲得し得る。そのような細胞は、適切な線維芽細胞支持細胞層上で増殖させるか、または白血病抑制因子(LIF)の存在下で増殖させる。形質転換ES細胞または胚細胞は、当技術分野で周知の適切な技術を用いて、トランスジェニック動物の作製に使用し得る。
【0106】
トランスジェニック動物は、非ヒト哺乳類(例えば、マウス、ラット)、鳥類または両性類などの非ヒト動物であり得、機能性試験、薬物スクリーニングなどで使用し得る。
【0107】
トランスジェニック植物も獲得し得る。トランスジェニック植物細胞およびトランスジェニック植物を作製する方法は、特許第5,767,367号明細書、特許第5,750,870号明細書、特許第5,739,409号明細書、特許第5,689,049号明細書、特許第5,690,045号明細書、特許第5,674,731号明細書、特許第5,656,666号明細書、特許第5,633,155号明細書、特許第5,629,470号明細書、特許第5,595,896号明細書、特許第5,576,198号明細書、特許第5,538,879号明細書、特許第5,484,956号明細書に記載されており、その開示は参照により本明細書に援用される。トランスジェニック植物を作製させる方法は、非特許文献44および45でも確認される。
【0108】
例えば、体細胞を含む胚形成外植片は、トランスジェニック宿主の作製に使用し得る。細胞または組織の収集後、興味ある外来DNAを植物細胞に導入する。そのような導入では、さまざまな異なる方法が利用できる。単離プロトプラストを用いることで、多価カチオン(例えば、PEGまたはPLO)存在下で興味ある外来コード配列を含むプラスミドのようなネイキッドDNAを用いたプロトプラストのインキュベーションなどのDNA媒介遺伝子導入プロトコルによって導入する機会、または興味ある外来配列を含むネイキッドDNA存在下での上記プロトプラストのエレクトロポレーションの機会が生じる。次いで、外来DNAをうまく取り込んだプロトプラストを選択し、カルスに成長させ、最後に、オーキシンおよびサイトカイニンなどの刺激因子を適切な量と比率で接触させることにより、トランスジェニック植物に成長させる。
【0109】
当業者が利用できる「遺伝子銃」法またはアグロバクテリウム媒介形質転換のような他の適切な植物作製方法も使用し得る。
【0110】
使用方法
本発明のポリペプチドおよび核酸は、さまざまな用途で用いられる。例えば、生物工学および医学において、診断、品質管理、環境試験などのアッセイの試薬として用いられる。さらに、国内用途や娯楽用途で、例えば、光源として利用できる生物発光トランスジェニック植物および動物の作製において用いられる。
【0111】
例えば、本組成物の核酸は、媒体におけるさまざまな外部シグナルの検出に、例えば哺乳類の腸におけるシグナルの検出に用いられる。実施形態では、シグナル伝達カスケードをコードする発現カセットが宿主のゲノムに導入され、分析された環境シグナルがトリガーとして機能し、ルシフェラーゼ遺伝子発現がレポーターとして機能する。ルシフェラーゼ遺伝子発現は、シグナル伝達カスケード伝達によって直接的に、または、例えば[非特許文献46]に記載されている技術を用いて、細胞ゲノムで遺伝子変異を誘発することによって起こすことができる。例えば、周囲媒体におけるテトラサイクリンの存在を検出する大腸菌株を作製するために、tetA遺伝子プロモーターの制御下にあるルシフェラーゼコード配列、および構成プロモーターの制御下でトランスポゾンTn10のテトラサイクリンリプレッサー(TetR)をコードする配列を大腸菌ゲノムに導入する。大腸菌のゲノム編集は、例えば[非特許文献47]に記載されている当技術分野で周知の技術を用いて行う。媒体におけるテトラサイクリンの存在は、試料媒体でインキュベートされた後に遺伝子組み替えした大腸菌細胞と、そのようなインキュベーションを行っていない対照細胞とに3-ヒドロキシヒスピジン溶液を添加した後に生物発光強度を比較することによって検出する。同様に、他の周囲媒体シグナルに対して感受性がある他の微生物菌株は、所望のシグナルに対して特異的に感受性があるエレメントを持つシグナル伝達カスケードの対応するエレメントを置換することによって作製できる。主題のルシフェラーゼによる発光は、ATP、NAD(P)Hなどの代謝産物が細胞内で利用できるかに依存しないため、細胞のさまざまな生理学的状態においてレポーターシグナルの安定性が確保される。
【0112】
また、本発明の核酸は、水中の毒物、例えばヘキサクロロシクロヘキサン誘導体などの存在を検出する方法でも用いられる。急速タンパク質分解のシグナルと動作可能に融合したルシフェラーゼの構成的産生をもたらす発現カセットを、宿主(例えば大腸菌)に導入する。毒性を測定するために、生物発光検出キュベットで試料液体を用いて凍結乾燥細菌を90分間インキュベートし、同時に、別の細菌アリコートを、対照液体を用いてインキュベートする。毒物を含有していない溶液を用いた試料と比較した、分析プローブにおける生物発光強度の交互変化が、毒作用の基準となる。したがって、ルミネセンス強度の低下に基づいて毒作用を測定し得る。
【0113】
また、本発明の分子は、試料溶液中の3-ヒドロキシヒスピジンの濃度を検出するのに使用し得る。このために、既知の濃度で精製ルシフェラーゼを含有する試薬をキュベットに入れ、ルミノメーターを用いて背景生物発光信号を記録する。制御校正測定を以下のように行う。既知の濃度の3-ヒドロキシヒスピジン溶液をキュベットに添加し、生物発光強度を記録する。3-ヒドロキシヒスピジンの存在下と非存在下での発光強度シグナル強度の差は、3-ヒドロキシヒスピジンの濃度に比例する値となる。実施する測定に適した3-ヒドロキシヒスピジン溶液のこれらの濃度について、作業をくり返す。得られたデータに基づいて、生物発光強度の3-ヒドロキシヒスピジン濃度への依存の校正曲線をプロットする。未知の試料における3-ヒドロキシヒスピジン濃度は、上記校正曲線を用いて未知の濃度の3-ヒドロキシヒスピジン溶液を試薬に添加した後、生物発光強度に基づいて測定する。主題のタンパク質および核酸は、他の化合物を含む複合混合物中の3-ヒドロキシヒスピジンの濃度を特異的に測定できる唯一の既存試薬である。
【0114】
本組成物の核酸を用いて、さらに発光トランスジェニック植物または動物を作製することができる。例えば、トランスジェニックコケ(ニセツリガネゴケ)を作製するには、構成プロモーター、例えばイネのAktI遺伝子のプロモーター、または誘導プロモーター、例えばダイズのGmhsp17.3B遺伝子の感熱性プロモーターの制御下で、宿主細胞における発現のために最適化されたルシフェラーゼコード配列にそのゲノムを組み込む必要がある。そのような組み込みには、当技術分野で周知の任意の技術、例えば、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)のCas9ヌクレアーゼ、およびゲノム遺伝子座に相補的なガイドRNAを用いてコケのゲノムDNAに二重鎖ギャップを形成することによって誘発される相同組み換えを用いてよい。この場合、組み込まれる遺伝子コンストラクトは、長さが約250個のヌクレオチドの二重鎖ギャップの領域において、ゲノムの領域に相同の領域が隣接されることになる。コケ細胞へのDNA導入には、任意の既知の技術、例えば、ポリエチレングリコールを用いたネイキッドDNAによるコケプロトプラストの形質転換を使用し得る。形質転換後、細胞壁再生用増殖培地でコケプロトプラストを増殖させ、次いで、配偶体再生用の固体培地に移すものとする。遺伝子組み換え植物は、3-ヒドロキシヒスピジンまたは関連分子を培地または土壌に添加したときに光源として、または宿主細胞において3-ヒドロキシヒスピジン生合成が生じた場合に、自律的な生物発光として機能し得る。主題のルシフェラーゼは主に緑色光を発するため、光合成植物組織による発光に最適であり、それは、可視スペクトルの緑色領域においてそのような組織の吸収が低下するからである。
【0115】
本組成物の核酸は、細胞タンパク質、小器官、個々の細胞または組織を視覚化するのにも使用できる。例えば、生物における腫瘍細胞の移動を視覚化するために、ルシフェラーゼの核酸配列を、発現カセットまたは発現ベクターの一部として腫瘍細胞に導入する。そのような導入には、当技術分野で周知の任意の方法を用いることができる。例えば、ルシフェラーゼをコードする核酸は、腫瘍細胞のゲノムに組み込んでから宿主に移植できる。他の実施形態では、核酸はあらゆる生体細胞に組み込まれるが、腫瘍細胞のみにおいて、プロモーターの制御下で活性化される。3-ヒドロキシヒスピジンは細胞膜を貫通できるため、主題のルシフェラーゼは、組織固定や透過処理せずに、生物生体内で視覚化できる。がん腫瘍の増殖や転移を視覚化するために、試料生物にルシフェリン溶液を導入し、生物発光の検出に適した装置を用いて組織を視覚化する必要がある。
【0116】
キット
本発明は、本発明の核酸およびタンパク質の1つまたは複数を実現するキットも提供する。
【0117】
前記キットは、通常、本発明に従ったタンパク質、またはそのようなタンパク質をコードする核酸を、好ましくは宿主における標的タンパク質の発現をもたらすエレメント、例えば、標的タンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターまたは発現カセットとともに含む。また、前記キットは、本発明のルシフェラーゼによって仲介されるルミネセンス反応を起こすルシフェリンを含む。
【0118】
いくつかの実施形態では、ルシフェリンは、3-ヒドロキシヒスピジン、(E)-6-(4-ジエチルアミノ)スチリル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン、(E)-3,4-ジヒドロキシ-6-(4-ヒドロキシスチリル)-2H-ピラン-2-オン、(E)-6-(2-1H-インドール-3-イル)ビニル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン、(E)-6-(2-(1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロピリド[3,2,1-ij]キノリン-9-イル)ビニル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン、および(E)-3,4-ジヒドロキシ-6-(2-(6-ヒドロキシナフタレン-2-イル)ビニル)-2H-ピラン-2-オンからなる群から選択される。
【0119】
前記キットは、通常、適切な容器に入った、通常、緩衝液などの適切な貯蔵媒体中に存在する。前記成分は凍結乾燥の形態でキットに存在し得る。
【0120】
また、キットは主題のタンパク質に特異的な抗体を含み得る。いくつかの実施形態では、前記キットは、それぞれが標的タンパク質をコードする複数の異なるベクターを含み、前記ベクターは、例えば構成的発現など、異なる媒体で、および/またはさまざまな条件下で発現するようデザインされており、前記ベクターは、哺乳類細胞における発現にとって強力なプロモーター、または従来のプロモーター組み込みおよび遅延発現などのためのマルチクローニングサイトを有する非プロモーターベクターを含む。
【0121】
上記の成分に加えて、対象キットは、主題の方法を実行するための指示も含む。指示は対象キット中にさまざまな形態で存在し得、そうした形態の1つまたは複数が各キット中に存在し得る。
【0122】
以下に実施例を示すが、これは本発明を説明するためのものであって、限定するものではない。
【実施例1】
【0123】
シロヒカリタケのルシフェラーゼのコード配列の単離
シロヒカリタケの菌糸体の全RNAを、[非特許文献48]に記載されている方法を用いて単離した。cDNAはSMART PCR cDNA Synthesis Kit(Clontech、アメリカ)を用い、製造者の手順書に従って増幅した。PCR産物をpGAPZベクター(Invitrogen、アメリカ)にクローニングし、XL1-Blue株の大腸菌コンピテント細胞に形質転換した。細菌をペトリ皿でゼオシン抗生物質存在下で増殖させた。16時間後、コロニーを皿から洗い取り、強く混合し、プラスミドDNA抽出キット(Evrogen、ロシア)を用いて、そこからプラスミドDNAを抽出した。単離したプラスミドDNAをAvrII制限部位で線状化し、Pichia pastoris GS115細胞を形質転換するのに用いた。[非特許文献49]に記載されている、酢酸リチウムおよびジチオスレイトールを用いる方法に従ってエレクトロポレーションを行った。エレクトロポレーションした細胞を、1Mソルビトール、2%(w/v)グルコース、1.34%(w/v)酵母ニトロゲンベース(YNB)、0.005%(w/v)、0.00004%(w/v)ビオチン、および2%(w/v)寒天を含むRDB培地を入れたペトリ皿に塗布した。酵母中に生じたさまざまなシロヒカリタケのcDNAライブラリは、約100万クローンとなった。得られたコロニーに3-ヒドロキシヒスピジン溶液を噴霧し、細胞中のルシフェラーゼの存在を発光によって検出した。コロニーから発せられた光は、IVIS Spectrum CT(PerkinElmer、アメリカ)を用いて検出した。3-ヒドロキシヒスピジン添加後にルミネセンスが検出されたコロニーを選択し、PCR用の標準プラスミドプライマーとともに鋳型として用いた。PCR産物はSanger法によって配列決定した。得られた核酸配列はSEQ ID NO:01に示される。それにコードされるアミノ酸配列はSEQ ID NO:02に示される。
【0124】
発現ルシフェラーゼの生物発光を分析するために、ルミネセンスが観察されたPichia pastorisコロニーを単離し、250mLのYPD培地を入れた750mLフラスコで72時間、30℃で増殖させ、200rpmで撹拌した。次いで、5000gで15分間、4℃で遠心分離し、ペレットにした。得られたペレットは、0.1%DDMを含む0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)で2時間、4℃で再懸濁した。懸濁液は、21000gで30分間、4℃で遠心分離した。生物発光反応は、得られた上清750μLを、1%DDMの3-ヒドロキシヒスピジン溶液250μL(25μM)に添加することによって活性化した。Varian Cary Eclipse分光蛍光光度計を用いて生物発光を検出した。得られたスペクトルは、シロヒカリタケ菌糸体生物発光のものと実質的に同一だった(図1)。
【実施例2】
【0125】
さまざまな真菌種のルシフェラーゼのコード配列の単離
ワタゲナラタケ、ナラタケ、オニナラタケ、ヤコウタケ、Omphalotus olearius、およびワサビタケからゲノムDNAを単離し、Illumina HiSeq技術(Illumina、アメリカ)を用い、製造者の推奨に従って全ゲノム配列決定を行った。配列決定結果を用いて仮定的タンパク質のアミノ酸配列を予測し、実施例1に従って検出したシロヒカリタケのルシフェラーゼの相同体を検索した。相同体は、非特許文献50に記載されている配列解析のアルゴリズムおよび国立生物工学情報センター(NCBI)が提供するソフトウェアを用いて検索した。アミノ酸配列は、NCBI Genbankデータベースにある真菌ゲノム配列決定データで検索した。BLASTP検索プログラムの標準パラメータを検索に用いた。その結果、仮定的タンパク質、すなわち、シロヒカリタケのルシフェラーゼの配列の相同体が、ワタゲナラタケ、ナラタケ、オニナラタケ、ヤコウタケ、Omphalotus olearius、ワサビタケ、およびMycena citricolorで検出された。検出されたルシフェラーゼはすべて互いに実質的に同一である。アミノ酸配列の同一性の程度を表1に示す。
【0126】
【表1】
【0127】
ヌクレオチド配列の保存領域のマルチプルアライメントに基づいて、縮重プライマーをコンストラクトした。プライマーの構造はSEQ ID NO:36~43に示される。ワタゲナラタケ、ナラタケ、オニナラタケ、ヤコウタケ、Mycena citricolor、Omphalotus olearius、およびワサビタケの子実体と菌糸体から全RNAを単離し、実施例1に従ってcDNAを調製した。得られたcDNAを、上記プライマーとともにPCRに用いた。1μLの20倍増幅cDNA、Encycloポリメラーゼ混合物(Evrogen)、市販の1倍緩衝液、200μM dNTP、および0.5μMのプライマー1711~1714のうちの1つ、および0.5μMのプライマー1715~1718のうちの1つを含む50μL反応混合物中でPCRを実施した。PTC-200 MJ Research Thermal Cyclerで、「ブロック」温度制御方法を用いてPCRサイクルを30回行った(各サイクルは、次の条件下で実施した:95℃で10秒間、55℃で10秒間、72℃で1分間)。PCR産物はpTAdvベクター(Clontech)にクローニングし、プラスミドDNAを単離し、M13ユニバーサルプライマーを用いてSanger法によって配列決定した。すべての例で、試料菌類のcDNAはルシフェラーゼ配列を示した。
【0128】
ワサビタケcDNAの増幅により、146位でバリンがイソロイシンに単一アミノ酸置換されることを特徴とするルシフェラーゼ配列の2つの多様体が得られた(SEQ ID NO:15~18)。
【実施例3】
【0129】
哺乳類細胞におけるルシフェラーゼの発現
実施例1および2に従って得られたルシフェラーゼのコード配列を、哺乳類細胞における発現のために最適化(ヒト化)した。ヒト化核酸は、標準的な技術を用いてオリゴヌクレオチド合成によって得た。ヒト化核酸のヌクレオチドプロファイルはSEQ ID NO:44~51に示され、対応するタンパク質のアミノ酸プロファイルはSEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16に示される野生型タンパク質と同一である。得られた核酸は、mKate2-ケラチン融合タンパク質をコードする配列の代わりに、NhelおよびNotl制限部位を用いて、pmKate2-ケラチンベクター(Evrogen、ロシア)にクローニングした。プラスミドDNAを精製し、FuGENE HD Transfection Reagent(Promega、アメリカ)を用いて、製造者の手順書に従って、HEK293NT細胞およびHeLa細胞に形質移入した。形質移入の24時間後、3-ヒドロキシヒスピジンを660μg/mLの濃度で培地に添加し、IVIS Spectrum CT(PerkinElmer)を用いて細胞ルミネセンスを検出した。全試料の発光強度は、非トランスフェクト対照細胞から生じるシグナルより1桁大きかった(図2)。
【0130】
ベクターに組み入れられたヌクレオチド配列SEQ ID NO:51は、部位特異的変異誘発により、146位でバリンがイソロイシンに置換された。得られた配列を含むベクターをHEK293NT細胞に形質移入した。形質移入の24時間後、3-ヒドロキシヒスピジンを660μg/mLの濃度で培地に添加し、IVIS Spectrum CT(PerkinElmer)を用いて細胞ルミネセンスを検出した。この多様体も生物発光反応において3-ヒドロキシヒスピジンを酸化できることが示された。
【実施例4】
【0131】
Pichia pastoris細胞におけるシロヒカリタケのルシフェラーゼの発現
実施例1に従ってシロヒカリタケのルシフェラーゼをコードするDNAを得た。ルシフェラーゼ遺伝子は、遺伝子特異的な末端プライマーを用いて増幅し、BstBI and SalI制限エンドヌクレアーゼ部位を用いて、C末端Hisタグをコードする配列とインフレームで、GAP-pPicZA発現ベクター(Invitrogen)にクローニングした。エレクトロポレーションによって、得られた遺伝子コンストラクトを、低プロテアーゼ活性を特徴とするPichia pink株に形質転換した。[非特許文献49]に記載されている、酢酸リチウムおよびジチオスレイトールを用いる方法に従ってエレクトロポレーションを行った。エレクトロポレーションした細胞を、YPD培地(2%(w/v)ペプトン、1%(w/v)酵母抽出物、2%(w/v)グルコース、2%(w/v)寒天)、および濃度が100μg/mLのゼオシン抗生物質を入れたペトリ皿に塗布した。
【0132】
ルシフェラーゼを産生するPichia pinkクローンは、コロニーに3-ヒドロキシヒスピジン溶液を噴霧し、IVIS Spectrum CT(PerkinElmer)を用いて生物発光を可視化することによって検出した。最も高いルミネセンス強度を特徴とするクローンを選択した。クローンを単離し、250mLのYPD培地を入れた750mLフラスコで72時間、30℃で増殖させ、200rpmで撹拌した。ルシフェラーゼ発現細胞は、5000gで15分間、4℃で遠心分離し、ペレットにした。得られたペレットは、100mLの溶解緩衝液(0.1Mリン酸ナトリウム、0.1M KCl、4mM EDTA、2mM TCEP、1mM PMSF、pH7.4)で再懸濁し、APV2000高圧ホモジナイザー(SPX)を用いて600バールで20回処理した。溶解物は8000gで15分間、4℃で遠心分離した。得られた核欠失後上清を140000gで2時間、4℃で遠心分離した。得られた残渣(ミクロソーム画分)は10mLの水で再懸濁した。Laemmli法に従って変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(クーマシーブルーで染色した10~25%ポリアクリルアミドゲル)で試料を分解し、Hisタグを認識する抗体複合体およびホースラディッシュペルオキシダーゼを用いたウエスタンブロットに使い、化学ルミネセンスシグナルを検出した(図4)。ウエスタンブロットでは、28kDaタンパク質の領域においてゲル中で移動するルシフェラーゼの特異的染色が示され、これはシロヒカリタケのルシフェラーゼの予想分子量と大体一致していた。また、ウエスタンブロットから、組み換えルシフェラーゼと140000gでの遠心分離で得られた残渣との共沈が明らかになった。
【実施例5】
【0133】
ルシフェラーゼの機能的断片を得る
シロヒカリタケのルシフェラーゼの切断型断片をコードするオープンリーディングフレームを、オリゴヌクレオチド合成を用いて得た。N末端6、9、12、15、21、25、31、33、35、37、および40アミノ酸残基が切断されたルシフェラーゼ断片をコードする核酸を、転写開始点およびHisタグをコードする核酸に動作可能に融合させ、次いで、BamHIおよびHindIII制限エンドヌクレアーゼを用いてpET-23ベクターにクローニングした。このベクターを用いてBL21-CodonPlus株(Stratagene BL21-Gold高収量株の誘導体)の大腸菌細胞を形質転換した。細胞を、1%NaCl、1%トリプトン、0.5%酵母抽出物、1.5%寒天、100μg/mLのアンピシリン、100μg/mLのクロラムフェニコール、および水を含む培地を入れたペトリ皿に移し、37℃で一晩インキュベートした。次いで、大腸菌コロニーにルシフェリン溶液を噴霧し、IVIS Spectrum CT(PerkinElmer、アメリカ)で可視化し、発現ルシフェラーゼ断片の機能性を判定した。N末端6、9、12、15、21、25、31、33、35、37アミノ酸残基が切断されたルシフェラーゼ断片は、ルシフェリン溶液を噴霧すると発光することがわかった。
【0134】
ルシフェラーゼ断片を動作可能に融合させたN末端のヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、それぞれSEQ ID NO:52および53に示される。
【0135】
[非特許文献30]に記載されるソフトウェアを用いてシロヒカリタケのルシフェラーゼのアミノ酸配列を分析したところ、最初の39個のアミノ酸が膜貫通領域を有することが示された(図5)。得られたデータに基づいて、膜貫通領域を含む配列の除去は、発光を伴う3-ヒドロキシヒスピジンの酸化を触媒する菌類ルシフェラーゼの能力に影響を及ぼさないことが結論づけられた。
【0136】
[非特許文献30]で提供されているソフトウェアを用いて、実施例2に従ってクローニングしたワタゲナラタケ、ナラタケ、オニナラタケ、ヤコウタケ、Mycena citricolor、Omphalotus olearius、およびワサビタケのルシフェラーゼを分析した。いずれの場合も、膜貫通領域を含むN末端断片がアミノ酸配列で検出された(図5)。膜貫通領域を含むN末端配列を除去後に得られたルシフェラーゼ断片のヌクレオチドおよびアミノ酸配列はSEQ ID NO:19~34に示される。
【0137】
ルシフェラーゼのマルチプルアライメントを図5に示す。タンパク質がC末端に長さ8~11アミノ酸の非保存断片を含むことがわかる。断片は、ルシフェラーゼの機能を失うことなく、除去、または他のC末端と置換することもできる。ルシフェラーゼが、SEQ ID NO:35に示される共通配列を有する高相同性の中心領域を有していることもわかる。
【実施例6】
【0138】
他のルシフェリンを用いたルシフェラーゼの使用
哺乳類細胞における発現に必要な菌類ルシフェラーゼのコード配列を含むプラスミドを、実施例3に従って得て、HEK293N細胞の形質移入に用いた。形質移入の24時間後に、トリプシン-ベルセン溶液(0.025%トリプシン)を用いて細胞を皿からはがし、遠心分離によって培地をリン酸生食緩衝液(pH8.0)と置換し、細胞を再懸濁して、超音波を用いて溶解させ、3-ヒドロキシヒスピジンまたはその類似体の1つ((E)-6-(4-ジエチルアミノ)スチリル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン、(E)-3,4-ジヒドロキシ-6-(4-ヒドロキシスチリル)-2H-ピラン-2-オン、(E)-6-(2-1H-インドール-3-イル)ビニル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン、(E)-6-(2-(1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロピリド[3,2,1-ij]キノリン-9-イル)ビニル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オン、および(E)-3,4-ジヒドロキシ-6-(2-(6-ヒドロキシナフタレン-2-イル)ビニル)-2H-ピラン-2-オン)を660μg/mLの濃度で培地に添加した。
【0139】
Varian Cary Eclipse分光蛍光光度計を用いて、生物発光スペクトルを検出した。すべての試料が、試験したすべてのルシフェリンを伴って発光した。使用したルシフェリンに応じて、以下のようにルミネセンス最適置換が観察された。(E)-3,4-ジヒドロキシ-6-(2-(6-ヒドロキシナフタレン-2-イル)ビニル)-2H-ピラン-2-オンの酸化の際に、580nm超の波長を有する光子の著しい放出を伴う長波長領域へのシフトが観察され、(E)-6-(2-1H-インドール-3-イル)ビニル)-3,4-ジヒドロキシ-2H-ピラン-2-オンの酸化の際に、短波長領域へのシフトが観察される。
【実施例7】
【0140】
組み換えルシフェラーゼを得る
配列SEQ ID NO:52を、ルシフェラーゼ(SEQ ID NO:19、21、23、25、27、29、31、33)の機能的断片をコードする核酸の5’末端に動作可能に連結し、得られたコンストラクトを、BamHIおよびHindIII制限エンドヌクレアーゼを用いてpET-23ベクターにクローニングした。このベクターを用いてBL21-CodonPlus株(Stratagene BL21-Gold高収量株の誘導体)の大腸菌細胞を形質転換した。1.5%寒天、100μg/mLのアンピシリン、および100μg/mLのクロラムフェニコールを含むLB培地を入れたペトリ皿に細胞を置き、37℃で一晩インキュベートした。次いで大腸菌コロニーを、アンピシリンおよびクロラムフェニコールを補充した4mLの液体LB培地に移植し、揺り動かしながら37℃で一晩インキュベートした。1mLの一晩培養物を、アンピシリンおよびクロラムフェニコールを予備添加した100mLのOvernight Express Autoinduction培地(Novagen)に移植した。培養物は、600nmで最適な光学濃度0.6ODに達するまで、37℃で2.5時間増殖させ、次いで室温で16時間増殖させた。次いで、細胞をEppendorf5810R遠心分離機で4500rpm、20分間遠心分離してペレットにし、35mLの緩衝液(50mM Tris-HCl、pH8.0、150mM NaCl)で再懸濁し、超音波処理した。細胞ライセートを7500rpmで15分間遠心分離し、残渣を抽出し、さらに上清を35000rpmで1時間遠心分離して、可溶性画分からミクロソーム画分を分離した。残渣は、尿素(8M尿素、50mM Tris、pH8.0)を含む10mLの緩衝液中で、室温で一晩溶解させた。
【0141】
予想した組み換え産物の存在を電気泳動で検証した。シロヒカリタケのルシフェラーゼの断片に対するそうした解析の一例を図6に示す。シロヒカリタケのルシフェラーゼの予想分子量におおよそ相当する28kDa領域のバンドが観察できる。単離した組み換えタンパク質のアリコートを、ポリアクリルアミドゲルに添加して電気泳動した。また、これを用いて組み換えタンパク質の機能性と安定性を検証した。単離した組み換えタンパク質は3-ヒドロキシヒスピジンを添加すると発光し、発光最大値は520~535nm領域で、発光強度はシロヒカリタケのルシフェラーゼの機能的断片が最大、Omphalotus oleariusが最小であった。組み換えタンパク質は緩衝液(pH7~9)中で活性化し、pH7.3~8で生物発光の最大強度を示した。生物発光強度の溶液pH依存性を示す図表の一例を図7に示す。
【0142】
温度安定性を分析するために、ルシフェラーゼをさまざまな温度で10分間、pH7.4でインキュベートした。インキュベーションの最後に3-ヒドロキシヒスピジンをタンパク質に添加し、上記のように生物発光強度を分析した。ルシフェラーゼは、インキュベーション後、50℃未満の温度で最大活性の10%超、40℃未満の温度で活性の30%超、38℃未満の温度で70%超、34℃以下の温度で活性の100%の活性を保持した。
【実施例8】
【0143】
シロヒカリタケのルシフェラーゼを細胞標識に用いる
実施例3に従って得られたサイトメガロウイルスプロモーターの制御下にあるシロヒカリタケのルシフェラーゼを含むベクターを、赤色蛍光タンパク質をコードするpTurboFP635-Nベクター(Evrogen、ロシア)と一緒に、HEK293NT系細胞に同時形質移入した。形質移入は、FuGENE HD形質移入試薬(Promega)を用いて、製造者が推奨する手順に従って行った。形質移入の24時間後に、3-ヒドロキシヒスピジンを最終濃度660μg/mL以下で培地に添加し、Leica DM6000顕微鏡を20倍対物レンズで用いて、細胞ルミネセンスを分析した。細胞は透過光において、緑色チャネルと赤色チャネルで可視化し、蛍光を検出した(図6)。ヒト細胞におけるシロヒカリタケのルシフェラーゼの発現により、スペクトルの緑色領域で別個の光シグナルが生じた。細胞に対するルシフェラーゼ発現の毒性の徴候は示されなかった。
【実施例9】
【0144】
シロヒカリタケのルシフェラーゼを用いたタンパク質の標識
実施例3に従って得られたシロヒカリタケのルシフェラーゼをコードするヒト化核酸を、細胞質βアクチンおよびヒトフィブリラリンをコードする核酸に動作可能に融合(インフレームでクローニング)させた。得られたコンストラクトを、実施例3に従ってpmKate2-ケラチンベクターにクローニングした。形質移入の24時間後に、3-ヒドロキシヒスピジンを最終濃度660μg/mL以下で培地に添加した。記録した生物発光は、対応する細胞タンパク質に特有の細胞内局在パターンと一致した。
【実施例10】
【0145】
シロヒカリタケのルシフェラーゼを用いた小器官の標識
ヒト細胞での発現に最適化され、実施例3に従って得られたシロヒカリタケのルシフェラーゼの配列の多様体を、以下の細胞内局在化シグナルにインフレームで動作可能に融合させた:ヒトチトクロームオキシダーゼのサブユニット7のミトコンドリア標的シグナル(MTS);ヒトβ1-4ガラクトシルトランスフェラーゼのN末端81アミノ酸によってコードされたシグナル[非特許文献51];ペルオキシソーム標的シグナル[非特許文献52~54];SV40 T抗原の核局在化シグナル(NLS)のコピー3つ[非特許文献57、58]。シロヒカリタケのルシフェラーゼを有するキメラコンストラクトを発現するプラスミドを有するHeLa Kyoto細胞を形質移入することで、細胞内でキメラタンパク質を対応小器官に効果的に移植できた。形質移入の24時間後に、3-ヒドロキシヒスピジンを最終濃度660μg/mLで培地に添加し、生物発光を検出した。
【実施例11】
【0146】
生物全体における細胞の標識
サイトメガロウイルスプロモーターの制御下にあるシロヒカリタケのルシフェラーゼのコード配列を含むベクターを実施例3に従って得た。さらに、キタアメリカホタルのルシフェラーゼをコードするヒト化ヌクレオチド配列を合成し、同じベクターにクローニングした。
【0147】
得られたコンストラクトを用いて、CT26細胞(ハツカネズミがん細胞)を形質移入した。シロヒカリタケのルシフェラーゼを発現する細胞を、マウスの背中の左側に皮下注射し、キタアメリカホタルのルシフェラーゼを発現する細胞を、マウスの背中の右側に同じように注射した。注射の10分後、菌類ルシフェリン(0.5mg)およびキタアメリカホタルルシフェリン(0.5mg)の混合物を腹腔内に注射した。次いで、マウスの生物発光を、IVIS Spectrum CT(PerkinElmer)を用いて視覚化した。シロヒカリタケのルシフェラーゼを発現する腫瘍は20000000cuの発光強度を示し、キタアメリカホタルのルシフェラーゼを発現する腫瘍は21000000cuの発光強度を示した(図9)。
【0148】
シロヒカリタケのルシフェラーゼのmRNAは、SP6 mMessage mMachine Kit(Ambion、アメリカ)のSP6ポリメラーゼを用いて、ルシフェラーゼ遺伝子を含む、Acc65Iで線状化したpCS2+ベクターのin vitro転写によって得た。さらに、mRNAをCleanRNA Standard Kit(Evrogen)で精製し、アフリカツメガエル2細胞胚の割球の両方に、各割球につき500pgのmRNAを注射した。視覚化のために、660μg/mLのルシフェリン溶液を初期原腸胚期(10.5期)の胚の胞胚腔に注射した。ローダミン染色後の胚ルミネセンスを、神経胚形成時(16~17期)にLeica DM6000顕微鏡を5倍対物レンズで用いて、顕微鏡の緑色および赤色蛍光検出チャネルで検出した(図10)。生物発光信号は胚の神経組織で検出された。
【実施例12】
【0149】
ポリクローナル抗体の調製
SEQ ID NO:19に示される膜貫通領域が欠如したシロヒカリタケのルシフェラーゼのコード配列を、合成によって二重鎖DNAとして得て、pQE-30発現ベクター(Qiagen、ドイツ)にクローニングし、得られる組み換えタンパク質のN末端にHisタグが付加されるようにした。大腸菌での発現後、組み換えタンパク質を変性条件下で金属親和性TALON樹脂(Clontech)を用いて精製した。フロイントアジュバントで乳化した精製タンパク質製剤を、1ヵ月おきにウサギの免疫化に用いた。免疫化の10日後または11日後にウサギの血液を採取した。得られたポリクローナル抗血清の活性を、ELISA法およびウエスタン免疫ブロット法を用いて組み換えタンパク質によって示した。
【実施例13】
【0150】
トランスジェニック植物を得る
シロヒカリタケのルシフェラーゼのコード配列は、ニセツリガネゴケ細胞(SEQ ID NO:54)などでの発現に最適化した。次いで、イネのaktI遺伝子のプロモーター、ヒトサイトメガロウイルスの5’-非翻訳領域、ルシフェラーゼのコード配列、終止コドン、およびアグロバクテリウムツメファシエンスOSC遺伝子のターミネーター配列を含む転写ユニットをin silicoで作製した。得られた配列を合成し、Gibson Assembly[非特許文献57]法を用いて、高度に発現されたコケ遺伝子(Pp3c16_6440V3.1およびPp3c16_6460V3.1)の配列間のニセツリガネゴケのゲノムDNAの遺伝子座と一致するDNA断片間でpLand#1発現ベクターにクローニングした。pLand#1ベクターは、同じDNA遺伝子座領域に相補的なCas9ヌクレアーゼのガイドRNA(sgRNA)の配列も有する。
【0151】
プラスミドDNA調整品は、[非特許文献58]に記載されるポリエチレングリコール形質転換手順に従って、Cas9ヌクレアーゼ配列を含む発現ベクターと一緒にヒメツリガネゴケプロトプラストに同時形質転換した。次いで、プロトプラストを50rpmで振とうしながら暗所で2日間、BCD培地でインキュベートし、細胞壁を再生させた。次いで、プロトプラストを寒天とBCD培地を含むペトリ皿に移し、16時間照明下で1週間増殖させた。形質転換させたコケのコロニーをPCRで外部のゲノムプライマーからスクリーニングしてゲノムへの遺伝子コンストラクトの組み込みを評価し、新しいペトリ皿に移して同じ照明条件下で30日間増殖させた。
【0152】
得られたコケ配偶体を、濃度660μg/mLの3-ヒドロキシヒスピジンを含むBCD培地に浸漬し、IVIS Spectrum In Vivo Imaging System(Perkin Elmer)で分析した。トランスジェニック植物試料はすべて、3-ヒドロキシヒスピジンを含む同じ溶液にインキュベートした野生型対照植物のシグナル強度よりも少なくとも2桁大きな強度で生物発光を示した。
【実施例14】
【0153】
トランスジェニック動物を得る
シロヒカリタケのルシフェラーゼの遺伝子を含むトランスジェニック魚(ゼブラフィッシュ[Danio rerio])を、[非特許文献59]に記載される方法に従って作製した。トランスジェニック動物を作製するために、T7バクテリオファージポリメラーゼプロモーターの制御下でガイドRNAおよびCas9ヌクレアーゼのmRNAの配列を有するDNA断片を合成した。得られた断片を使って、MAXIscript T7キット(Life Technologies、アメリカ)の試薬を用いてin vitro転写を行い、合成したRNAは、RNA単離キット(Evrogen、ロシア)を用いて精製した。シロヒカリタケのルシフェラーゼの遺伝子を含む、krtt1c19eゼブラフィッシュ遺伝子の50個のヌクレオチド配列が隣接するドナーベクター配列も合成により得た。ドナーベクター、Cas9ヌクレアーゼのmRNA、ガイドRNAは、注射緩衝液(40 mM HEPES[pH7.4]、0.5%フェノールレッドを添加した240 mM KCl)に溶解し、約1~2nLの量をゼブラフィッシュ胚の1-2細胞に注射した。70個の胚のうち約50個が注射後に生き残り、受精4日後に通常の発達を示した。
【0154】
生物発光信号を記録するために、[非特許文献60]に記載されている手順に従って、3-ヒドロキシヒスピジン溶液をゼブラフィッシュの幼生に静脈注射した。生物発光はIVIS Spectrum In Vivo Imaging System(Perkin Elmer)を用いて記録した。測定後、ゲノムDNAを幼生から単離し、ゲノムへのルシフェラーゼ遺伝子の組み込みを検証した。シロヒカリタケのルシフェラーゼの遺伝子が正確にゲノムに組み込まれた幼生はすべて、3-ヒドロキシヒスピジン溶液注射後の野生型魚のシグナル強度よりも少なくとも1桁大きな強度で生物発光を示した。
【0155】
本明細書に記載するすべての刊行物および特許出願は、個々の刊行物または特許出願が参照により援用されることが具体的かつ個別に示されているのと同じ程度に、参照により本明細書に援用される。各刊行物の引用は、例示として提供されるものであり、本発明を理解するのに有用であり得る。具体的または黙示的に参照される任意の刊行物が先行技術であることを認めるものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
0007298907000001.app