(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】生体吸収性ステント
(51)【国際特許分類】
A61L 31/02 20060101AFI20230620BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20230620BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20230620BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
A61L31/02
A61L31/10
A61L31/12
A61L31/14 500
(21)【出願番号】P 2020036796
(22)【出願日】2020-03-04
(62)【分割の表示】P 2019552935の分割
【原出願日】2019-03-20
【審査請求日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2018054300
(32)【優先日】2018-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018144220
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307028884
【氏名又は名称】株式会社 日本医療機器技研
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 誠
(72)【発明者】
【氏名】古閑 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】岡澤 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】上田 祐規
(72)【発明者】
【氏名】井上 正士
(72)【発明者】
【氏名】山下 修蔵
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0145432(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0161053(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0277396(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0129162(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0305684(US,A1)
【文献】特表2014-534841(JP,A)
【文献】Journal of Achievements in Materials and Manufacturing Engineering,2016年,Volume 74,Issue 2,53-59
【文献】Journal of Materials Science & Technology,2015年,Vol. 31, Issue 7,p. 733-743
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
90質量%以上のマグネシウムを主成分として、亜鉛、マンガンおよびジルコニウムを副成分として含有し、レアアース元素およびアルミニウムを含有しないマグネシウム合金であって、前記マグネシウム、前記亜鉛および前記マンガンが固溶体を形成し、前記ジルコニウムが微細な析出物を形成しているマグネシウム合金からなるコア構造体を有する生体吸収性ステントにおいて、
前記マグネシウム合金からなるコア構造体上に形成された、フッ化マグネシウムを主成分とする第1防食層と、
前記第1防食層上に直接形成されたパリレンからなる第2防食層と、を備え、
前記第1防食層の層厚が、0.5~1.5μmであり、第2防食層の層厚が、0.05~1μmである、生体吸収性ステント。
【請求項2】
請求項1に記載の生体吸収性ステントにおいて、前記マグネシウム合金は、平均結晶粒径が1.0~3.0μm、標準偏差が0.7以下の粒径分布を有する合金である生体吸収性ステント。
【請求項3】
請求項1または2に記載の生体吸収性ステントにおいて、前記マグネシウム合金は、JIS Z2241によって測定される引張強度が250~300MPa、破断伸びが15~50%、耐力が145~220MPaである合金である生体吸収性ステント。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の生体吸収性ステントにおいて、前記マグネシウム合金は、0.95~2.00質量%の亜鉛、0.05~0.80質量%のジルコニウム、0.05~0.40質量%のマンガンを含有する合金である生体吸収性ステント。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の生体吸収性ステントにおいて、前記マグネシウム合金は、Fe,Ni,CoおよびCuからなるグループから選ばれる不可避的不純物の総含有量が30ppm以下である合金である生体吸収性ステント。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、日本国で2018年3月22日に出願した特願2018-054300および2018年7月31日に出願した特願2018-144220の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本出願の一部をなすものとして引用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、生体の管腔、特に冠動脈に生じた狭窄部若しくは閉塞部に留置して開放状態に維持しつつ、生体内で徐々に消失する生体吸収性ステントに関する。
【背景技術】
【0003】
冠動脈の狭窄や閉塞によって引き起こされる虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症など)は、心筋への血液(栄養や酸素など)の供給を妨げる重篤な疾患であり、日本人の死因の第二位に挙げられる。当該疾患の治療として、近年では、胸部を切開するような外科的な手術(冠動脈バイパス手術)ではなく、カテーテルを用いた低侵襲性の術式(経皮的冠動脈形成術)が広く普及している。中でも、冠動脈ステント留置術は、従来のバルーン形成術に比べて、狭窄の再発(再狭窄)の発症率が小さいため、最も有効な治療法であると考えられている。
【0004】
しかしながら、冠動脈ステントが広く普及した現在においても、術後遠隔期に合併症を発症するケースが後を絶たない。それは、コバルトクロム合金あるいはステンレスを基材とする当該ステントが、患部への留置後も血管内壁を押し拡げた状態で残存するため、本来の血管運動(拍動)を妨げ、血管内壁に機械的且つ化学的な刺激を与え続けることが要因とされている。医療現場においては、この課題を解決する新たな医療機器として、虚血性心疾患治療に対する有効性及び安全性を兼ね備えつつ、術後遠隔期における血管運動の回復を可能にする生体吸収性ステントへの期待が高まっている。尚、近年、生体吸収性ステントは、生体吸収性スキャフォールドと呼称される。ここで記す生体吸収性ステントも同様に、生体吸収性スキャフォールドを意味する。
【0005】
生体吸収性ステントは、患部の治癒過程を経て徐々に分解するという革新的な機能を有しているため、それらの刺激を早期に解消し、患部が正常な血管運動を取り戻すのに最適であるとされている。この機能はさらに、合併症防止に伴う抗血小板薬服用期間の短縮、術後再治療における選択肢の拡大にも好都合である。
【0006】
生体吸収性マグネシウム合金を基材とするベアメタルステントを水溶液中で拡張すると、水分子が接触する表面全域で分解(腐食)が進行し、即座に機械的強度が損なわれるという問題を有しており、このままでは実用化は困難である。マグネシウム合金の生体環境における分解速度はポリ乳酸のそれと比べてもはるかに大きく、ステント留置後3~6ヵ月間は十分な血管支持力(ラディアルフォース)を維持しなければならないことを考慮すると、決して相応しい特性であるとは言えない。
【0007】
生分解性マグネシウムステントを開示する特許文献1(US2016/0129162)では、好適な態様を開示する実施例1および実施例2において、アルミニウムおよびレアアースメタルを含有するマグネシウム合金(AE42)基材(生分解性金属)が用いられ、マグネシウム合金の腐食を防水バリアにより抑制する方法として、該基材の表面にフッ化マグネシウム層を形成し、さらにフッ化マグネシウム層単独ではマグネシウム合金の腐食を遅らせるには十分でないとして、フッ化マグネシウム層上に化成皮膜層[酸化アルミニウム層とポリ(アルミニウムエチレングリコール)(アルコン)]層を形成する処理方法が開示されている。
【0008】
生分解性マグネシウムステントを開示する特許文献2(US2014/0277396)では、アルミニウムおよびレアアースメタルを含有するマグネシウム合金(AE42)基材(生分解性金属)の腐食を遅らせるために、マグネシウム合金上に水和された酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムを含む水熱変換膜(hydrothermal conversion film)を形成し、その上に、さらに非生分解性ポリマー(パリレン、ポリメタクリレートまたはポリウレタン)からなるコーテイングを行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】US2016/0129162
【文献】US2014/0277396
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1では、マグネシウム合金としてアルミニウムおよびレアアースメタルを含む合金(AE42)が用いられ(実施例1および実施例2)、マグネシウム合金の腐食を遅らせるバリア層として、マグネシウム合金表面にフッ化マグネシウム層を形成し、その上に化成皮膜層[酸化アルミニウム層とポリ(アルミニウムエチレングリコール)(アルコン)]を形成している。また、特許文献2では、アルミニウムおよびレアアースメタルを含有するマグネシウム合金(AE42)を用いてステントを形成している。しかしながら、レアアース元素およびアルミニウムは人体への安全性の点で使用を抑えるのが好ましいため、レアアース元素およびアルミニウムを含有しないマグネシウム合金を用いるとともに、アルミニウムを含有しない処理剤により、マグネシウム合金の腐食性をコントロールすることが望まれる。
【0011】
本発明の目的は、レアアース元素およびアルミニウムを含有しない、人体に為害性のないマグネシウム合金および表面処理剤を用いて、安全性の高い生体吸収性ステントを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従来の生体吸収性ステントでは、レアアース元素および/またはアルミニウムを含有することにより強度的性質、耐食性が改善されたマグネシウム合金が用いられているが、本発明者らは、レアアース元素およびアルミニウムを含有しないマグネシウム合金が生体に対して安全性が高いことが期待されることから、90質量%以上のマグネシウムを主成分として、亜鉛、ジルコニウムおよびマンガンを副成分として含有し、レアアース元素およびアルミニウムを含有しないマグネシウム合金から形成されたステントの耐食性を向上すべく鋭意検討を行った。
本発明者らは、レアアース元素およびアルミニウムを含有しないマグネシウム合金から形成したステントの表面にフッ化マグネシウム層を形成することにより、ステントの耐腐食性は向上するが、体内に導入されて所定期間、ステントとして機能するには、耐食性がなお不十分であることを確認した。
本発明者らは、更に検討を行った結果、前記マグネシウムステント表面にフッ化処理を行って第1防食層を形成し、さらに、第1防食層面上をパリレン(パラキシリレンおよび/またはその誘導体の総称であり、以下パラキシリレン樹脂と称する場合がある)層で被覆して第2防食層を形成することにより、生体に対して安全性が高く、かつ実用的な防食性が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
本発明第1の構成は、90質量%以上のマグネシウムを主成分として、亜鉛、ジルコニウムおよびマンガンを副成分として含有し、レアアース元素およびアルミニウムを含有しないマグネシウム合金からなるコア構造体を有する生体吸収性ステントにおいて、
前記コア構造体上に形成されたフッ化マグネシウムを主成分とする第1防食層と、
前記第1防食層上に形成されたパリレンからなる第2防食層と、を備えた生体吸収性ステントである。
マグネシウム含有量は、93質量%以上であればより好ましく、95質量%以上であればさらに好ましい。
【0014】
本発明第2の構成は、前記レアアース元素は、Sc、Y,Dy,Sm,Ce,Gd,La,Ndの内の少なくとも1種のレアアース元素であり、本発明ステントを構成するコア構造体を形成するマグネシウム合金には、かかるレアアース元素は含まれない。
【0015】
本発明第3の構成は、前記マグネシウム合金は、鉄(Fe),ニッケル(Ni),コバルト(Co)および銅(Cu)からなるグループから選ばれる不可避不純物の総含有量が30ppm以下であることが好ましい。
【0016】
本発明第4の構成は、前記マグネシウム合金は、亜鉛を0.95~2.00質量%、ジルコニウムを0.05~0.80質量%、マンガンを0.05~0.40質量%を含有し、残部がマグネシウムおよび不可避的不純物からなる合金であることが好ましい。
【0017】
本発明第5の構成は、前記第1防食層は、前記マグネシウム合金表面をフッ化処理することにより形成されるのが好ましい。
【0018】
本発明第6の構成は、前記第1防食層の層厚が、0.5~1.5μmであることが好ましい。
【0019】
本発明第7の構成は、前記第2防食層を構成する前記パリレン層は、パリレンN(下記化学式1)、パリレンC(下記化学式2)、パリレンM(下記化学式3)、パリレンF(下記化学式4)、パリレンD(下記化学式5)またはパリレンHT(下記化学式6)から形成されていることが好ましい。
【化1】
【0020】
本発明第8の構成は、前記第2防食層の層厚が0.05~1μmであることが好ましい。
【0021】
本発明第9の構成は、前記第2防食層の少なくとも一部の表面には、生分解性ポリマー層が形成されていることが好ましい。
【0022】
本発明第10の構成は、前記生分解性ポリマーが脂肪族ポリエステルであることが好ましい。
【0023】
本発明第11の構成は、前記生分解性ポリマー層は血管内膜肥厚抑制剤を含有していることが好ましい。
【0024】
本発明第12の構成は、前記抑制剤はリムス系薬剤であることが好ましい。
【0025】
本発明第13の構成は、90質量%以上のマグネシウムを主成分として、亜鉛、ジルコニウムおよびマンガンを副成分として含有し、レアアース元素およびアルミニウムを含有しないマグネシウム合金からなるコア構造体を有する生体吸収性ステントの製造方法において、
マグネシウム合金からなるコア構造体を製造し、
得られたコア構造体に電解研磨を行い、電解研磨処理後のコア構造体表面をフッ化処理して、フッ化マグネシウムを主成分とする第1防食層を形成し、ついで
前記第1防食層上にパラキシリレン樹脂を蒸着コートして、パリレンからなる第2防食層を形成する、生体吸収性ステントの製造方法である。
【0026】
なお、請求の範囲および/または図面に開示された少なくとも2つの構成要素のどのような組み合わせも本発明に含まれる。特に、請求の範囲に記載された請求項の2つ以上のどのような組み合わせも本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0027】
本発明第1の構成において、マグネシウム合金表面上に、フッ化マグネシウムを主成分とする第1防食層を形成した後、第1防食層上にパリレンからなる第2防食層を形成することにより、マグネシウム合金にステント構造体としての所望の耐食性が与えられ、上記の構成により得られたステントは、37℃・5%CO2雰囲気下の血漿模擬溶液(EMEM+10%FBS)中において拡張した後、1ヵ月間以上に渡って機械的強度を維持することが可能である。マグネシウム合金および該合金表面を被覆するフッ化マグネシウムは、所定期間、生体内においてステントの構成要素として機能する一方では、徐々に分解して消失し、フッ化マグネシウム層上に形成された薄いパリレン層は、生分解性ではないが薄いため血管表面に埋め込まれて無害化される。
特許文献1に開示されているステント構造体では、レアアースメタルを含有するマグネシウム合金表面にフッ化マグネシウムからなる防食層を形成し、その上にアルミニウムを含む化成皮膜層[酸化アルミニウム層とポリ(アルミニウムエチレングリコール)(アルコン)]を形成しているために、また、特許文献2においても、レアアースメタルを含むマグネシウム合金からステントが形成されているために、人体への安全性の点で問題が懸念されるが、本発明では、レアアース元素を含有しないマグネシウム合金表面上にアルミニウムを含まない防食層を形成しているため、人体への安全性が高い。
本発明第1の構成において用いられるマグネシウム合金は、90質量%以上のマグネシウム(Mg)に、亜鉛(Zn),ジルコニウム(Zr),およびマンガン(Mn)を副成分として含有することが特徴である。
本発明において用いられるマグネシウム合金は、Znを質量%で0.95%以上、2.0%以下含むことにより、ZnがMgに固溶して合金の強度を高める効果を有し、Zrを質量%で0.05%以上、0.80%以下含むことにより、マグネシウム合金の結晶粒径の粗大化を防止し、本発明で用いられるマグネシウム合金は、1.0~3.0μmの平均結晶粒径、標準偏差が0.7以下の粒径分布を有しており、変形性(延生、伸び)に優れている。また、Mnを質量%で0.05%以上、0.40%以下含むことにより、耐食性を向上させる効果を有する。本発明において用いられるマグネシウム合金は、上記の特性を有することにより、生分解性マグネシウム合金の副成分として多用されるレアアース元素、アルミニウムを含むことなく、生体吸収性ステントのコア構造体を形成することができる。
【0028】
本発明第2の構成においてレアアース元素とは、Sc、Y,Dy,Sm,Ce,Gd,La、Ndの内の少なくとも1種を意味しており、本発明において用いられるマグネシウム合金には、前記のレアアース元素およびアルミニウムは含まれていない。
【0029】
本発明第3の構成において、Fe,Ni,Co,Cuは不可避不純物であるが、マグネシウム合金の腐食を促進する作用を有するため、それぞれの含有量を10ppm未満、不可避不純物の総量を30ppm以下に抑えることが好ましい。
【0030】
本発明第4の構成において、マグネシウム合金は、亜鉛、ジルコニウムおよびマンガンが特定の含量で含まれていることにより、平均結晶粒径が1.0~3.0μmの微細かつ均一な組織を有するものが得られ、ジルコニウムを含む析出物は、粒径500nm未満となり、ジルコニウムを除く母相は、Mg-Zn-Mn三元系合金の全固溶体となる。
この合金は、JIS Z2241による測定で、引張強度230~380MPa、耐力
145~300MPa、破断伸度15~50%を有しており、生体吸収性ステントを構成するコア構造体としての条件を満たす。
【0031】
本発明第5および第6の構成では、生体吸収性ステントを構成するコア構造体の表面全域をフッ化処理することにより、マグネシウム合金コア構造体の防食性を高めることができる。第1防食層の層厚は、0.5μm以上、1.5μm以下であることが好ましい。マグネシウム合金製コア構造体を有するステントが、血管中で所定期間、機能するように、第1防食層の層厚は厚い方が防食性を高める点で好ましいが、フッ化処理により形成されるフッ化マグネシウム層の層厚には限界があり、1.5μmを超える層厚を形成することは困難であり、第2防食層により補う必要がある。
【0032】
本発明第7および第8の構成では、前記第2防食層は、前記パリレンN、パリレンC、パリレンM、パリレンF、パリレンD、パリレンHTなどにより形成されているため変形追従性がよく、なかでもパリレンCで形成された第2防食層は伸度が向上するため好ましい。
前記第2防食層の層厚は、0.05~1μmの範囲にあることが好ましい。第2防食層を形成するパリレンは、生分解性ではなく血管内に残留するため、第1防食層(フッ化マグネシウム層)の防食性の不足を補うに必要な最低限の厚みにする必要がある。第2防食層の層厚が薄すぎると、第1防食層の防食性の不足を補うことができず、厚すぎると防食効果が大きくなりすぎてステントの生体吸収性に影響を及ぼすとともに、血管内に残留するパリレンが血管に対して悪影響を及ぼすことが懸念される。
【0033】
本発明第9~12の構成では、前記第2防食層の少なくとも一部の表面には、生分解性ポリマー層が形成されていることが好ましい。生分解ポリマー層によりステントの血管内への挿入がスムースとなり、また、生分解性ポリマー層に薬剤(リムス系血管内膜肥厚抑制剤など)を含有させることができる。
生分解性ポリマー層は、第2防食層側の第一層と血液側の第二層の2層から構成されてもよく、薬剤を血液に接する第二層に含有させてもよい。
生分解性ポリマー層は、所定期間経過後には体内から消失される。
【0034】
本発明第13の構成(ステントの製造方法)では、マグネシウム合金からなるステント構造体に電解研磨を行って平滑表面を得て、かかる表面をフッ化水素で処理して表面にフッ化マグネシウム層を形成し、さらにフッ化マグネシウム層上にパラキシリレン樹脂を蒸着することにより、防食性を備えたステントを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施形態の説明からより明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施形態および図面は単なる図示および説明のためのものであり、この発明の範囲を定めるために利用されるべきではない。この発明の範囲は添付の請求の範囲によって定まる。添付図面において、複数の図面における同一の参照番号は、同一部分を示す。
【
図1】本発明に係るステントの構成要素を示す模式図である。
【
図2】本発明に係るステントの骨格構造の一例を示す平面図である。
【
図3】本発明に係るステントの骨格構造の他の一例を示す平面図である。
【
図4】本発明ステントの縮径ならびに拡径がもたらす物理変化を示す模式図である。
【
図5】内径3mmに拡張された本発明ステントの顕微鏡観察像の一例である。
【
図7】比較例2ステントの構成要素を示す模式図である。
【
図8】比較例3ステントの構成要素を示す模式図である。
【
図9】本発明に係るステント(実施例2)の拡張前の表面SEM像である。
【
図10】本発明に係るステント(実施例2)の拡張後の表面SEM像である。
【
図11】本発明に係るステント(実施例2)の血漿模擬溶液(EMEM+10%FBS)浸漬28日後の表面SEM像である。
【
図12】比較例2ステントの拡張前の表面SEM像である。
【
図13】比較例2ステントの拡張後の表面SEM像である。
【
図14】比較例2ステントの血漿模擬溶液浸漬28日後の表面SEM像である。
【
図15】本発明ステント(実施例2)のブタ冠動脈留置直後のステント断面のOCT観察写真である。
【
図16】本発明ステント(実施例2)のブタ冠動脈留置28日後のステント断面のOCT観察写真である。
【
図17】比較例2ステントのブタ冠動脈留置直後のステント断面のOCT観察写真である。
【
図18】比較例2ステントのブタ冠動脈留置28日後のステント断面のOCT観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(ステントの基本構造)
本発明のステントの一例は、
図1に示すように、マグネシウム合金(Mg合金)からなるコア構造体1と、前記コア構造体1の表面全域に形成されたフッ化マグネシウム(MgF
2)からなる第1防食層2[表面においてMgが酸化されることにより形成されるMg(OH)
2等を含んで親水性を呈する]と、前記第1防食層2上に形成されたパリレンからなる第2防食層3と、第2防食層3の少なくとも一部の表面に形成された生分解性樹脂層4、生分解性樹脂層4上に形成された、薬剤を含む生分解性樹脂層5から構成される(なお、薬剤を含む生分解性樹脂層5を設けることなく、生分解性樹脂層4に薬剤を含有せてもよい)。
前記構成の技術的要素として、生分解性を有するとともに変形特性に優れたコア構造体を形成するマグネシウム合金組成を選定する要素と、選定されたマグネシウム合金からなるコア構造体の腐食を制御するために、前記コア構造体の表面全域にMgF
2を主成分とする前記第1防食層を形成する要素と、前記第1防食層上にパリレンからなる第2防食層を形成する要素と、前記コア構造体を被覆して、薬剤を含有する生分解性樹脂層を形成する要素と、を有する。
【0037】
(マグネシウム合金)
本発明のステントのコア構造体は、生体吸収性のマグネシウム合金から形成されている。
本発明において、ステントのコア構造体は、90質量%以上のマグネシウム(Mg)を主成分、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)およびマンガン(Mn)を副成分として含有し、レアアース元素およびアルミニウム(Al)を含有しないマグネシウム合金から構成されている。
生体安全性および機械的特性を向上させる上で、Mgの含有量が93質量%以上であればより相応しく、95質量%以上であればさらに相応しい。
本発明において、マグネシウム合金にはレアアース元素は含まれない。レアアースとは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、セリウム(Ce)、ガドリウム(Gd)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)からなる群から選ばれる少なくとも1種をいう。上記のレアアース元素およびアルミニウムを含有しないことにより、人体に対する為害性を防ぐことができる。
【0038】
(副成分)
副成分のZnは、0.95~2.0質量%、Zrは、0.05~0.80質量%、Mnは、0.05~0.40質量%含まれていることが好ましい。
Znは、Mgと固溶し、合金の強度、伸びを向上させるために添加される。Znが少なすぎると所望の効果が得られず、Znの含有量が多すぎると固溶限界を超えて、Znに富む析出物が形成され、耐食性を低下させるため好ましくない。
Zrは、Mgとほとんど固溶せず、微細な析出物を形成し、合金の結晶粒度の粗大化を防止する効果がある。Zrの添加量が少なすぎると添加の効果が得られない。添加量が多すぎると、析出物の量が多くなり、加工性が低下するので好ましくない。
Mnは、合金組織の微細化および耐食性向上の効果がある。Mnの含有量が少なすぎると所望の効果が得られない。Mnの含有量が多すぎると塑性加工性が低下する傾向にある。
上記の副成分に、さらにカルシウム(Ca)を0.05質量%以上、0.20質量%未満の割合で加えてもよい。Caは、マグネシウム合金の強度を保持しながら、耐食性を向上する効果が期待できるので、必要に応じて添加することができる。Caの量が少なすぎると添加の効果が得られなく、Caの量が多すぎると析出物が形成されやすくなり、単相の完全固溶体が得られにくくなり、好ましくない。
【0039】
(不可避不純物)
本発明において、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)および銅(Cu)からなるグループから選ばれる不可避不純物のそれぞれの含有量が10ppm未満で、不可避不純物の総量が30ppm以下であるマグネシウム合金から構成されるのが好ましい。
不可避不純物の含有量は制御されることが好ましい。Fe,Ni,Co,Cuは、マグネシウム合金の腐食を促進するため、それぞれの含有量は10ppm未満、さらに好ましくは、5ppm以下である。また、不可避不純物の総量は30ppm以下とすることが好ましく、10ppm未満とすることがさらに好ましい。不可避不純物の含有量は、例えば、ICP発光分光分析により、確認することができる。
【0040】
(マグネシウム合金の製造)
マグネシウム合金は、通常のマグネシウム合金の製法に従い、Mg,Zn,Zr,Mnの地金もしくは合金、および必要に応じてCaを坩堝に投入し、温度650~800℃で溶解、鋳造することにより製造することができる。必要に応じ、鋳造後に溶体化熱処理を行ってもよい。レアアース元素およびアルミニウムは地金には含まれていない。高純度の地金を用いることにより、不純物中のFe,Ni,Cu量は抑制できる。また、不純物中のFe,Ni,Coについては、溶湯化した段階で脱鉄処理により除去してもよい。また、蒸留製錬した地金を用いてもよい。
【0041】
(金属組織及び機械的特性)
本発明で用いられるマグネシウム合金は、上述の組成及び製造方法の制御により、粒径分布で見た場合に、平均結晶粒径が1.0~3.0μm、好ましくは、1.0~2.0μm、標準偏差が0.7以下、好ましくは0.5~0.7の微細かつ均一な組織を有するものとすることができる。Zrを含む細粒の析出物は、粒径500nm未満、好ましくは100nm未満とすることができる。Zr析出物をのぞく母相は、Mg-Zn-Mn三元系合金の全固溶体であることが好ましい。
本発明で用いられるマグネシウム合金は、JIS Z2241による測定で、引張強度230~380MPa、好ましくは250~300MPa、耐力145~220MPa、破断伸び15~50%、好ましくは25~40%の機械的特性を有していることが好ましい。なかでも、引張強度は280MPaを超えること、破断伸びは30%を越えることがさらに好ましい。
【0042】
(ステントの骨格形状)
上記により得られた鋳塊は熱間押出加工により、マグネシウム合金管材を得て、得られたマグネシウム合金管材にレーザー加工を施すことにより、ステントの骨格形状(コア構造体)を得ることができる。
本発明のステントは、従来のものを含めて種々の骨格形状を用いることができる。例えば、
図2および
図3に示す骨格形状が挙げられる。
【0043】
(電解研磨)
平滑表面を有する防食層を形成するための前処理として、レーザー加工されたステント骨格を陽極に、金属板を陰極として両者間に直流電源を介して接続した上で、電解液中にて電圧を印加することによって陽極のステント骨格を研磨し、任意の寸法のコア構造体を作製する方法が用いられるのが好ましい。
【0044】
(第1防食層形成)
平滑表面を有する防食層を形成するために、電解研磨によって鏡面仕上げされたコア構造体に対してフッ化処理を行う。フッ化処理の条件は、MgF2層を形成することができる限り、特に限定されないが、例えば、フッ化水素酸(HF)水溶液などの処理液中にコア構造体を浸漬して行うことができる。浸漬に際しては、例えば、50~200rpm、好ましくは80~150rpmで振盪を行うのが好ましい。その後、MgF2層が形成されたコア構造体を取り出し、洗浄液(例えば、アセトン水溶液)で十分洗浄する。洗浄は、例えば超音波洗浄を行い、洗浄後、コア構造体を乾燥させる場合、減圧下50~60℃において24時間以上乾燥させる方法が用いられるのが好ましい。
【0045】
(第1防食層の構成)
本発明のステントの第1防食層は、フッ化マグネシウムを主成分として構成される。例えば、第1防食層は、90%以上含まれるMgF2を主成分として構成されてもよい。さらに、副成分として、MgOならびにMg(OH)2のような酸化物ならびに水酸化物を含有していてもよい。なお、第1防食層は、マグネシウム以外の上記のステントを構成する金属の酸化物ならびに水酸化物を含有してもよい。
【0046】
(第1防食層の層厚)
本発明のステントの第1防食層の層厚は、防食性を発揮する上で0.5μm以上であることが相応しく、変形追従性を発揮する上で1.5μm以下であることが相応しい。防食性が高すぎることにより、反って生体吸収性が損なわれてしまうようなことがあってはならないため、1.5μmを超えるのは相応しくない。
【0047】
(第2防食層の構成・層厚)
本発明において、第1防食層上にパリレンからなる、厚さが0.05~1μm、好ましくは、0.08~0.8μmの薄い第2防食層を形成することにより、生体吸収性を阻害することなく、マグネシウム合金の耐食性を大幅に向上することができる。厚さが薄すぎると、防食効果が不十分となる傾向にあり、厚すぎると生体吸収性を阻害する傾向となる。
パリレンは、パラキシリレンまたはその誘導体の総称であり、芳香族環に官能基のないパリレンN[下記(1)式]、その芳香族環水素の1つが塩素に置換されたパリレンC[下記(2)式]、その芳香族環水素の1つがメチル基に置換されたパリレンM[下記(3)式]、パリレンMのメチレン基の一方が、フッ素化されたパリレンF[下記(4)式]、パリレンNの芳香族環の2,5位の水素が塩素に置換されたパリレンD[下記(5)式]、パリレンNの両方のメチレン基がフッ素化されたパリレンHT[下記(6)式]などを例示することができる。これらのパリレンは市販されており、たとえばパリレンN,パリレンCは、ともに第三化成株式会社から入手することができる。
【化2】
【0048】
上記パリレンからなる第2防食層を形成するには、通常、CVD法を適用して行われる。パリレンのCVD法そのものは公知であり、気化炉―分解炉―蒸着室からなる装置を用いて、(イ)真空ポンプで装置系内を約1~4Paの減圧状態にし、(ロ)気化炉中に入れてあるダイマーを100~180℃の温度に加熱昇華させ、(ハ)650~700℃の分解炉管内を通過させてダイマーをモノマーに変え、(ニ)蒸着室で重合させ、第1防食層表面にパリレンを所定厚みに堆積させて第2防食層を形成することができる。
【0049】
(生分解性樹脂層)
本発明のステントにおいては、第2防食層上の表面全域あるいは一部に、生分解性ポリマーと血管内膜肥厚抑制剤からなる被覆層が形成されている。生分解性ポリマーとしては、ポリエステル等が挙げられ、例えば、ポリ-L-乳酸(PLLA)、ポリ-D,L-乳酸(PDLLA)、ポリ乳酸-グリコール酸(PLGA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸-ε-カプロラクトン(PLCL)、ポリグリコール酸-ε-カプロラクトン(PGCL)、ポリ-p-ジオキサノン、ポリグリコール酸-トリメチレンカーボネート、ポリ-β-ヒドロキシ酪酸などを挙げることができる。
【0050】
(血管内膜肥厚抑制剤)
血管内膜肥厚抑制剤としては、シロリムス、エベロリムス、バイオリムスA9、ゾタロリムス、パクリタキセル等が挙げられる。
【0051】
(ステントの性能)
上記のように平滑表面を有する防食層が形成されたステントでは、37℃・5%CO2雰囲気下の血漿模擬溶液(EMEM+10%FBS)ならびにブタの冠動脈中におけるラディアルフォースの経時的な低下が、本発明に該当しないステントあるいは防食層を有しないステント(コア構造体単体)と比較して有意に抑制される(後述の実施例・比較例参照)。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0053】
実施例および比較例には、
図2に示すデザインを有するステント骨格を採用した。尚、
図3に示すデザインを採用した場合においても、同様の結果が得られる。
(1)ステントを構成するマグネシウム合金の製造
Mg、Zn、Mn、Zrの高純度地金を材料として準備した。これらをそれぞれ下記に記載の成分濃度になるように秤量して坩堝に投入し、730℃に溶融攪拌し、得られた溶融物を鋳造し、鋳塊とした。使用した原料には、希土類元素やアルミニウムは、不可避不純物としても含まれていない。
マグネシウム地金には、不純物Cu濃度の低い、純度99.9%のものを用い、また溶湯から鉄、ニッケルを除去するための脱鉄処理を炉内で行った。
得られた鋳塊は、ICP発光分光分析計(AGILENT社製、AGILENT 720 ICP-OES)を使用し、不純物濃度を測定した。
得られた鋳塊の成分濃度(質量%)は以下のとおりであり、アルミニウムとレアアース元素は含まれていない。
Mg 残部、Zn 1.5%、Mn 0.4%、Zr 0.4%、
上記鋳塊には、不可避不純物としてFe、Ni、CoおよびCuが下記濃度で含まれていた。
Fe 5ppm、Ni 5ppm、Co ND(検出限界以下)、Cu 1ppm
Zr析出物をのぞく母相は、Mg-Zn-Mn三元系合金の固溶体である。
(2)ステント骨格の製造
上記のマグネシウム合金鋳塊を押出加工により、厚さ150μm(外径1.8mm/内径1.5mm)の細管を得て、この細管を
図2に示す形状にレーザー加工して、ステント骨格を得た。
(3)電解研磨
得られたステント骨格の表面に付着した酸化物を酸性溶液で除去した。続いて、電解液中に陽極側として浸漬させ、陰極側である金属板との間に直流電源を介して接続した後、電圧を印加することによって陽極のステント骨格を厚さ100μm(外径1.75mm/
内径1.55mm)になるまで鏡面研磨して平滑表面を得た。電圧印加中における粘液層の安定化を図るため、電解液を攪拌しながら、温度が一定となるように制御した。また、陰極における気泡の発生を抑制するため、電圧の印加と切断を適宜繰り返した。尚、陰極から遊離した気泡がステント骨格に付着すると、表面精度不良の原因となる。
(4)テストサンプル
当該ステント骨格を用いて、後述の実施例および比較例に示すステントサンプルを作製した後、バルーンカテーテルの遠位端部分に取り付けたバルーンに、ステントサンプルが外径1.2mmになるように載置(クリンプ)した。
【0054】
第1防食層の層厚は、後述の実施例および比較例に示す第1防食層が形成されたステントサンプルの表面に金をスパッタし、エポキシ樹脂に包埋した後、切断した面をSEM-EDXにて測定した。一方、第2防食層の層厚は、後述の実施例および比較例に示す第2防食層が形成されたステントサンプルの表面をエリプソメータあるいは分光膜厚計を用いて測定した。
【0055】
(防食性および変形追従性評価)
優れた防食性および変形追従性を有する表面は、血管内において、コア構造体の加速的な腐食に伴う機械的強度の低下を遅延させることができる。従って、37℃・5%CO2雰囲気下の血漿模擬溶液(EMEM+10%FBS)において、コア構造体の重量変化およびラディアルフォース残存率を測定することにより、防食性および変形追従性を評価することができる。
【0056】
(重量変化およびラディアルフォース残存率評価方法)
バルーンカテーテルにクリンプしたステントサンプルを、37℃の血漿模擬溶液(EMEM+10%FBS)に2分間浸漬した後、内径が3mmになるまで均一に拡張し(
図5)、37℃・5%CO
2雰囲気下、100rpmで浸漬・振盪した。この段階において、ステントはバルーンカテーテルへのクリンプ(縮径)ならびにステンティング(拡径)による塑性弾性変形(物理変化)を受けたことになる(
図4)。浸漬28日後、抽出したサンプルのラディアルフォースを測定した。また、クロム酸で超音波洗浄し、水酸化マグネシウム等の腐食生成物を完全に除去し、コア構造体の重量変化を評価した(n=5)。尚、ラディアルフォース測定には、RX550/650(Machine Solutions社)を用いた。
【0057】
(Mgイオン溶出率評価方法)
後述の実施例2、比較例2および比較例3のサンプルについて、上記と同様の方法で、血漿模擬溶液中で浸漬・振盪した。浸漬7、14、21および28日後、サンプルから溶出したMgイオンの量を測定し、浸漬前のコア構造体の重量を基にしてMgイオン溶出率を算出した(n=5)。尚、Mgイオン測定には、マグネシウムB-テストワコー(富士フイルム和光純薬株式会社)を用いた。
【0058】
(ステント表面の電子顕微鏡観察)
後述の実施例2および比較例2のサンプルについて、拡張前、内径3mmに拡張後、および血漿模擬溶液浸漬28日後のそれぞれについて、ステント表面の走査電子顕微鏡(SEM)観察を行った。
【0059】
(ブタ冠動脈留置ステントの観察)
実施例2および比較例2のサンプルについて、ブタ冠動脈留置直後とブタ冠動脈留置後28日目について、ステント断面の光干渉断層計(OCT)による観察を行った。
【0060】
(留置28日後におけるステントのリコイル率評価方法)
OCT観察において、留置直後のステント内腔面積(a)および留置28日後のステント内腔面積(b)を測定した上で、留置直後のステント内腔面積に対する減少率(リコイル率)を次式で算出した。
リコイル率=(a-b)/a
【0061】
[実施例1]
上記ステント骨格を有するコア構造体を、27Mフッ化水素酸水溶液2mL中、100rpmで浸漬・振盪した。24時間後に抽出したステントを、水・アセトンで十分に超音波洗浄した後に、減圧下60℃において24時間乾燥し、第1防食層(厚み1μm)が形成されたコア構造体を得た。この構造体にCVD法により厚み100nmのパリレンC層を形成し、第2防食層が形成された。得られた構造体の表面に、第1被覆層として第1ポリマーPCL400μg、第2被覆層として第2ポリマーPDLLA150μgおよびシロリムス100μgをスプレーコーティングし、
図1に示すステントサンプルを得た。
【0062】
[実施例2]
上記ステント骨格を有するコア構造体を、27Mフッ化水素酸水溶液2mL中、100rpmで浸漬・振盪した。24時間後に抽出したステントを、水・アセトンで十分に超音波洗浄した後に、減圧下60℃において24時間乾燥し、第1防食層(厚み1μm)が形成されたコア構造体を得た。この構造体にCVD法により厚み500nmのパリレンC層を形成し、第2防食層が形成された。得られた構造体の表面に、第1被覆層として第1ポリマーPCL400μg、第2被覆層として第2ポリマーPDLLA150μgおよびシロリムス100μgをスプレーコーティングし、
図1に示すステントサンプルを得た。
【0063】
[比較例1]
上記ステント骨格を有するコア構造体(未フッ化処理)をステントサンプルとした。
【0064】
[比較例2]
上記ステント骨格を有するコア構造体を、27Mフッ化水素酸水溶液2mL中、100rpmで浸漬・振盪した。24時間後に抽出したステントを、水・アセトンで十分に超音波洗浄した後に、減圧下60℃において24時間乾燥し、第1防食層(厚み1μm)が形成されたコア構造体を得た。得られた構造体の表面に、第1被覆層として第1ポリマーPCL400μg、第2被覆層として第2ポリマーPDLLA150μgおよびシロリムス100μgをスプレーコーティングし、
図7に示すステントサンプルを得た。
【0065】
[比較例3]
上記ステント骨格を有するコア構造体(未フッ化処理)にCVD法により厚み500nmのパリレンC層を形成し、第2防食層が形成された。得られた構造体の表面に、第1被覆層として第1ポリマーPCL400μg、第2被覆層として第2ポリマーPDLLA150μgおよびシロリムス100μgをスプレーコーティングし、
図8に示すステントサンプルを得た。
【0066】
上記の実施例1、実施例2、比較例1、比較例2および比較例3について、重量変化を測定した結果を表1に、ラディアルフォース残存率を測定した結果を表2に示した(n=5)。なお、浸漬前のサンプルの重量は、5.92±0.32gであり、浸漬前のコア構造体のラディアルフォースは、63.12±5.36N/mmであった。
【0067】
【0068】
【0069】
本発明に基づく構成要素を有するサンプル(実施例1、実施例2)は、防食層2を有しないサンプル(比較例2)ならびに防食層1を有しないサンプル(比較例3)に比べて、重量変化およびラディアルフォース変化が共に小さいため、第1防食層および第2防食層の二層構造によって優れた防食効果が得られたことが示唆された。一方で、いずれの防食層も有しないサンプル(比較例1)は、腐食に伴うラディアルフォースの顕著な低下が確認された。
【0070】
実施例2、比較例2および比較例3について、上記と同様にして、浸漬7日後、浸漬14日後、浸漬21日後および浸漬28日後のMgイオン溶出率を測定した結果を表3に示した(n=5)。
【0071】
【0072】
本発明に基づく構成要素を有するサンプル(実施例2)は、防食層2を有しないサンプル(比較例2)ならびに防食層1を有しないサンプル(比較例3)に比べて、経時的なMgイオン溶出量が極めて小さく、第1防食層および第2防食層を併せ持つことによる相乗効果が優位に働いていることが確認された。つまり、防食層2または防食層3のいずれか単独では、生体吸収性ステントとして実用的に使用可能な所望の防食効果を得ることが不可能である。
【0073】
実施例2および比較例2の各サンプルについて、拡張前、拡張後、血漿模擬溶液浸漬28日後におけるステント表面のSEM観察を行った結果を、
図9~
図14に示した。
図9~11は、実施例2サンプルの拡張前(
図9)、拡張後(
図10)、血漿模擬溶液浸漬28日後(
図11)のステント表面を示し、
図12~
図14は、比較例2サンプルの拡張前(
図12)、拡張後(
図13)、血漿模擬溶液浸漬28日後(
図14)のステント表面を示している。実施例2サンプルでは、拡張前、拡張後、血漿模擬溶液浸漬28日目においてステント表面に差異を認めることはできなかった。一方で、比較例2サンプルでは、血漿模擬溶液浸漬28日後において、応力集中部を中心に腐食が進行しているのが観察された。
【0074】
実施例2および比較例2の各サンプルについて、ブタ冠動脈に留置した直後または留置28日後における冠動脈断面のOCT観察画像を
図15(実施例2、留置直後)、
図16(実施例2、留置28日後)、
図17(比較例2、留置直後)、
図18(比較例2、留置後28日目)に示した。
【0075】
実施例2および比較例2の各サンプルについて、ブタ冠動脈留置28日後のステントのリコイル率を測定した。留置前のステントの内腔面積を基に、留置28日後のリコイル率を算出した結果を表4に示した。
【0076】
【0077】
本発明に基づく構成要素を有するサンプル(実施例2)は、本発明の範囲外のサンプル(比較例2)と比べて、有意にリコイル率が小さく、これまでの結果と相関するものであった。
【0078】
以上の結果から、マグネシウム合金の腐食を抑制し、ステント発明の機械的強度の低下を遅延させるには、第1防食層および第2防食層の複合的な機能が不可欠であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、レアアース元素およびアルミニウムを含有しない、生体安全性の高いマグネシウム合金からなるコア構造体に、コア構造体の加速的な腐食に伴う機械的強度の低下を遅延させるに有効な第1防食層および第2防食層を設けたステントを提供することにより、医療技術発展に貢献するので、産業上の利用可能性は極めて大きい。
【0080】
以上のとおり、図面を参照しながら好適な実施例を説明したが、当業者であれば、本件明細書及び図面を見て、自明な範囲内で種々の変更および修正を容易に想定するであろう。したがって、そのような変更および修正は、請求の範囲から発明の範囲内のものと解釈される。
【符号の説明】
【0081】
1 コア構造体(マグネシウム合金)
2 第1防食層(フッ化マグネシウム層)
3 第2防食層(パリレン層)
4 生分解性樹脂層
5 生分解性樹脂層(薬剤含有)