(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】ホスホジエステラーゼの阻害及びその関連障害のための治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/609 20060101AFI20230620BHJP
A61K 31/426 20060101ALI20230620BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230620BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230620BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20230620BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20230620BHJP
A61P 27/14 20060101ALI20230620BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230620BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230620BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230620BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20230620BHJP
A61P 15/10 20060101ALI20230620BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20230620BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20230620BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230620BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20230620BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20230620BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20230620BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20230620BHJP
A61K 47/06 20060101ALI20230620BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20230620BHJP
【FI】
A61K31/609
A61K31/426
A61P43/00 111
A61P11/00
A61P9/12
A61P11/02
A61P27/14
A61P27/02
A61P9/10
A61P25/28
A61P25/24
A61P15/10
A61P21/04
A61P17/06
A61P17/00
A61P17/14
A61P1/02
A61P37/08
A61P17/02
A61K47/06
A61K47/44
(21)【出願番号】P 2020501866
(86)(22)【出願日】2018-03-14
(86)【国際出願番号】 IN2018050140
(87)【国際公開番号】W WO2018173069
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-03-11
(31)【優先権主張番号】201721009758
(32)【優先日】2017-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519342194
【氏名又は名称】ノヴァリード ファーマ インク
【氏名又は名称原語表記】NOVALEAD PHARMA INC.
【住所又は居所原語表記】57 Heather Court, Allendale, New Jersey, U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デシュパンデ スプリート ケー.
(72)【発明者】
【氏名】クルカルニ スディール エー.
(72)【発明者】
【氏名】アスレカー アトゥール エス.
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/040864(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/038035(WO,A1)
【文献】JOURNAL OF IMMUNOLOGY 201609, vol. 197, no. 8, pages 3018 - 3028
【文献】BIOLOGY OF REPRODUCTION, 201608, vol. 95, no. 4,Article No. 74,pp. 1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物のホスホジエステラーゼ関連障害を治療するための医薬組成物であって、
前記医薬組成物は、ホスホジエステラーゼ阻害活性を有する抗寄生虫化合物を含み、
前記抗寄生虫化合物は、薬学的に許容し得る担体、媒体又は希釈液中の、下記式Iの構造を有
し、かつニクロサミド、ニタゾキサニド及びチゾキサニドから成る群から選択される化合物、その鏡像異性体、ジアステレオマー
又は前記化合物の薬学的に許容し得る塩、溶媒和物及び多形体であり、
【化1】
(式中、R
1は-H、-COCH
3から選択され、R
2は-
Hであり、R
3は-H、-
Clから選択され、R
4は-
Hであり、Arは、
【化2】
から選択され、R
5
は-NO
2
であり、R
6は-
Hであり、R
7
は-C
lであり、R
8は-
Hである。)
前記医薬組成物は、
経口溶液、懸濁液、シロップ、歯科用ペースト又はカプセルの形態で、1日に1mg~3000mgの用量で経口経路によって哺乳動物に投与するためのものであるか、
点眼薬又は眼ゲルの形態で、0.001%~10.0%w/vの濃度で眼経路によって哺乳動物に投与するためのものであるか、
アプリケーターの有無に関わらず、クリーム、ゲル、パッチ、軟膏、局所スワブ、乳濁液、溶液、ペースト、シャンプー又はスプレーの形態で、0.001%~20.0%w/wの濃度で局所経路によって哺乳動物に投与するためのものであるか、
注射剤又は輸液剤の形態で、0.001%~5.0%w/vの濃度で静脈内、皮内、病巣内又は皮下経路によって哺乳動物に投与するためのものであるか、又は、
0.001%~5.0%w/wの濃度で吸入器、噴霧器又は気化器で哺乳動物に投与するためのものであり、
前記ホスホジエステラーゼ関連障害は
、気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺動脈高血圧症、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、ドライアイ障害、冠動脈心疾患
、鬱病
、勃起不全、デュシェンヌ型筋ジストロフィー
、乾癬、湿疹、酒さ、円形脱毛症、扁平苔癬、落葉状天疱瘡、尋常性天疱瘡、慢性歯周炎、疱疹状皮膚炎、白斑及び水疱性類天疱瘡から成る群から選択される、
医薬組成物。
【請求項2】
前記医薬組成物は、局所又は経皮経路による投与用である、
請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記医薬組成物は、局所経路による投与用である、
請求項
1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記哺乳動物は霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ラクダ、ヤギ、齧歯類又はウマである、
請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記霊長類はヒトである、
請求項
4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記ホスホジエステラーゼ関連障害は乾癬、酒さ及び湿疹から選択される、
請求項1~
5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記ホスホジエステラーゼ関連障害は、円形脱毛症、扁平苔癬、落葉状天疱瘡、尋常性天疱瘡、慢性歯周炎、疱疹状皮膚炎、白斑及び水疱性類天疱瘡から選択される、
請求項1~
5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
局所用であり、ニクロサミド3%、ワセリン96%及びラノリン1%を含む、
請求項1~
7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
哺乳動物のホスホジエステラーゼ関連障害を治療するための局所用医薬組成物であって、
前記局所用医薬組成物は、ニクロサミド3%、ワセリン96%及びラノリン1%を含み、
前記ホスホジエステラーゼ関連障害は
、乾癬、湿疹、酒さ、円形脱毛症、扁平苔癬、落葉状天疱瘡、尋常性天疱瘡
、疱疹状皮膚炎、白斑及び水疱性類天疱瘡から成る群から選択される、
局所用医薬組成物。
【請求項10】
前記式Iの化合物は、ニクロサミド、及びその薬学的に許容し得る塩、溶媒和物及び多形体から成る群から選択される、
請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記式Iの化合物は、ニタゾキサニド、チゾキサニド、及びそれらの薬学的に許容し得る塩、溶媒和物及び多形体から成る群から選択され、
前記ホスホジエステラーゼ関連障害は、乾癬、湿疹、酒さから選択される、
請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はホスホジエステラーゼ(PDE)関連障害の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスホジエステラーゼはホスホジエステル結合を切断する酵素クラスである。環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼ(PDE)は、二次メッセンジャー分子、即ち、cAMP(環状アデノシン一リン酸)とcGMP(環状グアノシン一リン酸)のホスホジエステル結合を分解する酵素群を含む。PDEは、細胞内ドメイン内の環状ヌクレオチドシグナル伝達の局在化、持続時間及び振幅を調節する。従って、PDEは、このような二次メッセンジャー分子によって媒介されるシグナル伝達の重要な調節因子である。PDEはcAMPとcGMPの下流エフェクターでもある。PDEは各特定の伝達シグナルの調節と密接に関連しているため、複数のPDEは各細胞機能の調節に重要な役割を果たす。
【0003】
酵素のPDEスーパーファミリーは、哺乳類では11種のファミリー、即ち、PDE1からPDE11までに分類される。同一ファミリーの異なるPDEは、そのアミノ酸配列がかなりの相違を示し得るという事実にも関わらず、機能的に関連している。PDEの基質特異性はぞれぞれ異なる。cAMP選択的な加水分解酵素(PDE4、PDE7及びPDE8)もある一方、cGMP選択的なもの(PDE5、PDE6及びPDE9)もある。他はcAMPとcGMPの両方を加水分解できる(PDE1、PDE2、PDE3、PDE10及びPDE11)。これらのPDEの多くは、体内の様々な生理的機能と密接に関連しているという証拠があるため、様々な病態にも密接に関連していると推論される。PDEの調節とその環状ヌクレオチド代謝での役割における他の重要な因子は、PDEアイソザイム及びファミリーが非常に組織特異的な傾向にあるという事実である。
【0004】
PDE酵素は、その独特な組織分布、構造的特性及び機能的特性によって薬理学的阻害の標的となることが多い。PDEの阻害剤は、PDEによる分解を阻害して、cAMP又はcGMPによって媒介される生理学的プロセスの効果を延長又は強化することができる。選択的PDE阻害剤と非選択的PDE阻害剤は、幾つかの疾患の新しい潜在的な治療薬として特定されている。選択的PDE阻害剤は、次のような様々な疾患で使用され、検討もされている。
【0005】
(i)PDE1阻害剤であるビンポセチンは、その神経保護効果について臨床試験で検討されている。ビンポセチンは抗酸化作用と抗潰瘍活性も有する。
【0006】
(ii)PDE2阻害剤は、敗血症、認知障害及び急性呼吸促迫症候群(ARDS)での使用が検討されている。
【0007】
(iii)PDE3阻害剤は、間欠性跛行に使用されており、気道疾患や不妊(男性及び女性の避妊)での使用が提案されている。PDE3阻害剤は、抗炎症性と気管支拡張性の両方の特性によって抗喘息効果も示している。アトピー性皮膚炎の治療においては、混合PDE3-PDE4阻害剤であるザルダベリンは、選択的PDE4阻害剤であるロリプラムよりも強力なT細胞増殖阻害剤であった。
【0008】
(iv)PDE4阻害剤は、喘息、COPD、アレルギー性鼻炎、乾癬、多発性硬化症、鬱病、アルツハイマー病、記憶喪失、癌、皮膚炎及び統合失調症を治療する可能性を示している。PDE4阻害剤であるペントキシフィリンは、循環を促進する可能性があり、糖尿病、線維性障害、末梢神経損傷及び微小血管損傷の治療への利用可能性がある。PDE4阻害剤は、エイズ、関節リウマチや乾癬性関節炎、変形性関節症等の関節炎、気管支炎、内毒素ショック、潰瘍性大腸炎やクローン病等の炎症性腸疾患、成人呼吸促迫症候群(ARDS)、アレルギー性結膜炎、ドライアイ障害及び他の炎症性疾患の治療にも可能性を示している。PDE4阻害剤は、サイトカインや他の炎症シグナルの放出を抑制し、活性酸素種の生成を抑制する。クリサボロールは、PDE4活性を阻害し、それによってTNF-α、IL-12、IL-23及び他のサイトカインの放出を抑制する、非ステロイド性の局所投与用ホウ素含有抗炎症化合物である。クリサボロールは、2歳以上の患者の軽度~中等度のアトピー性皮膚炎(湿疹)の治療用に承認されている。乾癬患者におけるクリサボロールの第I相及び第II相試験も完了している。PDE4阻害剤でもあるアプレミラストは、乾癬性関節炎と乾癬の治療用に承認されている。PDE4阻害剤は、肺炎症と線維症の治療に有益であることが実証されている。
【0009】
(v)PDE5阻害剤は、勃起不全、女性の性機能障害、心血管疾患、早漏、脳卒中、白血病及び腎不全の治療に使用されている。シルデナフィル(PDE5阻害剤)は、その筋保護的効果及び心保護的効果についても現在検討されており、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療における当該化合物の治療的価値に特に関心が寄せられている。PDE5は肺組織で大量に発現しており、肺動脈高血圧症(PAH)で上方制御されていると思われる。PDE5阻害剤であるシルデナフィルとタダラフィルは、世界保健機関機能分類II又はIIIのPAH患者に対して推奨される第一選択療法の内の2種である。
【0010】
(vi)PDE7阻害剤は炎症性疾患で使用されている。PDE7A阻害剤化合物ASB16165は、Tリンパ球の活性化を阻害し、皮膚炎症を抑制し、インビトロとインビボの両方でケラチノサイトの増殖を阻害することが示されている。研究によって、PDE7AがケラチノサイトでのTNF-α生成をcAMP依存的に調節する可能性があり、動物モデルで皮膚炎症を抑制させたことが分かっている。PDE7の特異的阻害剤は、細胞内cAMPレベルを上昇させる能力があるため、神経障害治療用の潜在的な新薬としても報告されている。
【0011】
(vii)PDE9阻害剤は、アルツハイマー病の治療用に検討されている。
【0012】
(viii)PDE10阻害剤は、統合失調症とハンチントン病の治療に可能性を示している。
【0013】
カフェインやアミノフィリン、ペントキシフィリン、テオフィリン等の非選択的PDE阻害剤は、循環を促進する可能性があり、糖尿病、線維性障害、末梢神経損傷及び微小血管損傷の治療適用性又は気管支拡張薬としての適用性を有し得る。従って、非選択的ホスホジエステラーゼ阻害剤であっても治療的有用性があり、TNF-αとロイコトリエンの合成を阻害し、炎症と自然免疫を抑制することが示されている。
【0014】
好塩基球やBリンパ球、樹状細胞、内皮細胞、好酸球、マクロファージ、マスト細胞、単球、好中球、Tリンパ球等の炎症性細胞は異なるレベルで様々なPDEを発現し、このような細胞にてPDEを阻害すると様々な組織で抗炎症効果を得ることができる。このような細胞は幾つかの免疫学的機能にも関与しており、多くの疾患の病態形成に関与している。
【0015】
ホスホジエステラーゼ阻害剤は、様々な炎症性皮膚疾患の治療に有効性を示している。乾癬、皮膚炎又は湿疹、にきび、酒さ等の皮膚疾患は病理が複雑であり、このような疾患の多くに関与する一般的な経路が幾つか存在する。にきびや皮膚炎等の皮膚疾患の一部は、細菌感染に起因する場合もあるが、炎症性成分を含んでいる場合もある。或いは、炎症性皮膚疾患は、細菌感染以外の原因(非感染性起源)、例えば、免疫系障害、薬物、食物アレルギー、精神的ストレス、紫外線、石鹸や香料、アレルゲン等によって引き起こされる。実施形態の一群では、本明細書に記載の式Iの化合物は、乾癬、酒さ又は皮膚炎等の炎症性皮膚病態の治療に適している。実施形態の他の群では、本明細書に記載の式Iの化合物は、乾癬又は酒さ等の炎症性皮膚病態の治療に適している。実施形態の別の群では、本明細書に記載の式Iの化合物は、細菌感染によって最初に誘発され得る皮膚病態に関連する二次的炎症の治療に適している。更なる実施形態では、本明細書に記載の式Iの化合物は、根本的な微生物感染に関連しないか又はそれに由来する皮膚炎又は湿疹の治療に適している。
【0016】
乾癬としては、尋常性乾癬(psoriasis vulgaris)、滴状乾癬、逆乾癬、紅皮症乾癬、及び乾癬集団の間で臨床徴候や発生率が異なる膿疱性乾癬が挙げられるが、これらに限定されない。皮膚炎としては、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、うっ滞性皮膚炎、発汗異常性皮膚炎、貨幣状湿疹、神経皮膚炎、脂漏性皮膚炎等が挙げられるが、これらに限定されない。酒さとしては、紅斑毛細血管拡張性酒さ、丘疹膿疱性酒さ、瘤腫性酒さ、眼性酒さ等が挙げられるが、これらに限定されない。乾癬、酒さ及び皮膚炎等の皮膚疾患の有効な治療には、疾患の病態形成に関与する様々な炎症プロセスの管理が必要である。
【0017】
乾癬は、表皮角化細胞の過形成、血管新生、及び患部皮膚におけるTリンパ球、好中球及び他種の白血球の浸潤を特徴とする。増殖性ケラチノサイト応答は、T細胞、樹状細胞、及び病態形成に関与する様々な免疫関連サイトカインやケモカインによる細胞免疫系の活性化に起因すると考えられている。更に、ヒスタミンとプロテアーゼは乾癬の病態形成に関わっている。現在、乾癬はTリンパ球媒介性自己免疫疾患と考えられており、T細胞を標的とする新しい生物学的療法は、IL-17及びIL-23モノクローナル抗体が乾癬の病態形成におけるIL-17/IL-23軸の重要性を示すものとして日常的な臨床業務に入ったばかりである。しかし、現在の知見から示唆されるのは、活性化Tリンパ球が乾癬の病態形成に関わっていることは明白であるが、乾癬の炎症プロセスと増殖プロセスに寄与する他の制御系が存在するということである。乾癬の現在の病態形成には、ケラチノサイト、NK T細胞、形質細胞様樹状細胞、TNF-α、IL-6、IL-1β、IFN-γ等の幾つかのサイトカインを放出するマクロファージが関与し、これによってIL-23とIL-12を放出する骨髄樹状細胞が活性化され、Th-17細胞とTh-1細胞が活性化される。活性化したTh-17細胞はIL-17A、IL-17F及びIL-22等のサイトカインを放出するが、活性化したTh-1細胞はケラチノサイトを活性化するTNF-αとIFN-γを放出し、次にケラチノサイトが幾つかのサイトカインとケモカインを放出することによって疾患状態が継続する。PDE阻害によってIL-17/IL-23軸を伴うサイトカインが減少することが示されている。このような制御系の1種には、乾癬において重要な役割を果たす環状ヌクレオチドが含まれる。オフ-オン系としてのメディエーター系であるcAMP-cGMPはかつて認知されたほど単純ではなく、cAMPは細胞増殖を刺激又は阻害することができる。cAMPレベルを上昇させるPDE阻害剤であるアミノフィリンとテオフィリンは、乾癬の治療に有益であることが示されている。
【0018】
末梢血白血球におけるcAMP-ホスホジエステラーゼ活性の上昇は、アトピー性皮膚炎を特徴付ける免疫及び炎症の反応性亢進と関連している。アトピー性皮膚炎は様々な酵素阻害剤に応答する。強力な選択的PDE阻害剤がアトピー性単核白血球培養においてプロスタグランジンE2、IL-10及びIL-4の生成を抑制する能力は、インビトロで実証されている。アトピー性皮膚炎の患者20名を対象としたPDE4阻害剤の臨床研究では、全ての炎症パラメータで有意な低下が示された。PDE阻害剤は、アトピー性皮膚炎を特徴付ける過剰な免疫反応と炎症反応に寄与する幾つかの経路を調節する。従って、PDE阻害剤は、乾癬、湿疹及び酒さ等のアトピー性疾患における副腎皮質ステロイド療法への過度の依存に対する有用な代替手段となり得る。更に、アレルギー性接触皮膚炎におけるIL-23及びTh17サイトカインの関与が説明されており、これによって、当該疾患におけるIL-17A、IL-17F及びIL-22等のサイトカインの関与が示されている。
【0019】
酒さは、主に顔面皮膚炎症の、慢性で潜在的に生命に悪影響を及ぼす障害であり、再燃と寛解によって特徴付けられることが多い。酒さは頬、鼻、顎又は額の発赤として観察される。場合によっては、酒さは首、胸、頭皮又は耳にも発症することもあり、これは、血流、皮膚細菌、微視的な皮膚ダニ(ニキビダニ)、濾胞の刺激、皮膚下の結合組織の日光による損傷、異常な免疫又は炎症反応、又は心理的要因に関連する因子によって生じることがある。アプレミラスト(PDE4阻害剤)は、小さな集団において酒さの治療に関して検討されており、有望な結果が示されている。最近の研究では、酒さの全サブタイプの病態形成におけるTh1/Th17細胞の関与が示されている。
【0020】
PDE阻害剤によって、様々な投与経路(局所投与等)による線維性皮膚疾患の治療に対する選択肢を得ることができる。PDE5阻害剤であるシルデナフィルは、レイノー現象(RP)、指潰瘍(DU)及び/又は壊死(N)及び肺高血圧症(PH)等の強皮症血管障害の症状を治療するのに有効な薬物である。従って、両方の環状ヌクレオチド(cAMPとcGMP)に特異的なPDE阻害剤によって、強皮症の治療選択肢を得ることができる。これは、レイノー症候群(RS)の治療にPDE3阻害剤であるシロスタゾールを使用することで実証されている。
【0021】
こうして、PDE阻害剤は、幾つかの免疫疾患と皮膚疾患の軽減に重要な役割を果たすことができる。このような免疫疾患や皮膚疾患の多くは、幾つかの制限や安全性の問題がある副腎皮質ステロイドや薬物で治療されている。従って、PDE関連障害の治療のための安全且つ有効な組成物が必要である。
【発明の概要】
【0022】
本開示は、特定の抗寄生虫薬(例えば、特定の抗蠕虫薬や特定の抗原虫薬)がホスホジエステラーゼを阻害するという知見に一部基づいている。本明細書に開示されているのは、式Iの化合物を含む組成物が哺乳動物のホスホジエステラーゼ関連障害の治療に有用であるという知見である。
【0023】
【化1】
(式中、R
1は-H又は-COCH
3であり、R
2は-H、-Cl、-Br又は-Iであり、R
3は-H、-Cl、-Br又は-Iであり、R
4は-H又は-Clであり、Arは、
【化2】
であり、R
5は-H、-NO
2又は-Brであり、R
6は-H又は-Clであり、R
7は-H、-OH又は-Clであり、R
8は-H又は-Clである)。
【0024】
式Iの化合物はサリチルアミド誘導体である。一実施形態では、式Iの化合物としては、ニクロサミド、オキシクロザニド、ラフォキサニド、クロサンテル、ジブロムサラン、メタブロムサラン、トリブロムサラン及びニタゾキサニド等の抗寄生虫薬が挙げられる。他の実施形態では、式Iの化合物としては、ニクロサミド、オキシクロザニド、ラフォキサニド、クロサンテル、ジブロムサラン、メタブロムサラン及びトリブロムサラン等の抗寄生虫薬が挙げられる。式Iの化合物はホスホジエステラーゼの阻害剤であり、よって、PDE関連障害の安全且つ有効な治療が可能であることが分かっている。従って、本明細書で提供されるのは、ホスホジエステラーゼ(PDE)関連障害の治療を必要とする対象に、薬学的に許容し得る担体、媒体又は希釈液中の式Iの化合物(例えば、ニクロサミド、オキシクロザニド、ラフォキサニド、クロサンテル、ジブロムサラン、メタブロムサラン、トリブロムサラン及びニタゾキサニド等の抗寄生虫薬)及び当該化合物のプロドラッグ、代謝産物、又はその化合物の薬学的に許容し得る塩、溶媒和物及び多形体の治療有効量を投与して、PDE関連障害を治療する方法である。
【0025】
式Iの化合物、又はそのプロドラッグ又は代謝産物、又はその薬学的に許容し得る塩、溶媒和物及び多形体は、適切な形態で投与することができる。哺乳動物は、霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ラクダ、ヤギ、齧歯類又はウマとすることができる。霊長類はヒトであることが好ましい。
【0026】
PDE関連障害は、薬学的に許容し得る担体、媒体又は希釈液中の式Iの化合物(例えば、ニクロサミド、オキシクロザニド、ラフォキサニド、クロサンテル、ジブロムサラン、メタブロムサラン、トリブロムサラン及びニタゾキサニドが挙げられるが、これらに限定されない)及び当該化合物のプロドラッグ又は代謝産物、又は当該化合物の薬学的に許容し得る塩、溶媒和物及び多形体の治療有効量を投与して治療することができる。投与は、毎時間、毎日、毎週又は毎月行うことができる。投与を毎日行う場合、1日に1回~6回の範囲で投与を行うことができる。
【0027】
式Iの化合物は、経口、静脈内、腹腔内、眼、非経口、局所、経皮、皮下、硬膜下、静脈内、筋肉内、皮内、くも膜下、腹腔内、脳内、動脈内、病巣内、局在又は肺経路によって投与することができる。経口経路で投与する場合、式Iの化合物の投与量は、錠剤、カプセル、溶液、懸濁液、シロップ又は歯科用ペーストの形態で、1日に約1mg~3000mgとすることが好ましい。眼経路で投与する場合、式Iの化合物の投与量は、0.001%~10.0%w/vの濃度で、各回に1~3滴(即ち、0.05mL~0.15mL)を1日に最大3回までとすることが好ましい。眼用組成物は点眼薬又は眼ゲルとして投与する。局所経路によって投与する場合、式Iの化合物の投与量は、0.001%~20.0%w/wの濃度で1日に最大3回までの投与とし、厚さが約0.1mm~5mmの製剤層で患部を覆うのに十分な量とすることが好ましい。局所組成物は、アプリケーターの有無に関わらずに塗布できるクリーム、ゲル、パッチ、軟膏、局所スワブ、乳濁液、ペースト、シャンプー、溶液又はスプレーの形態とすることができる。静脈内、皮内、病巣内又は皮下経路によって投与する場合、式Iの化合物の治療有効成分の濃度は約0.001%~10.0%w/vとし、1日に最大3回まで注射又は輸注で投与し、各回の最大投与量を500mgとすることが好ましい。肺用組成物は吸入器、噴霧器又は気化器で哺乳動物に投与することができ、約0.001%~10.0%w/wの濃度で1日に最大10回まで投与することができる。
【0028】
本発明は、哺乳動物において1種以上のPDEアイソフォームの過剰活性化で媒介される、PDE関連障害を治療する組成物と方法を更に提供し、当該方法は、治療有効量の式Iの化合物、そのプロドラッグ又は代謝産物、又はその薬学的に許容し得る塩、溶媒和物及び多形体を、それを必要とする患者に投与することを含む。式Iの化合物は、ニクロサミド、オキシクロザニド、ラフォキサニド、クロサンテル、ジブロムサラン、メタブロムサラン、トリブロムサラン及びニタゾキサニドであることが好ましい。治療有効量の式Iの化合物、そのプロドラッグ、又はその薬学的に許容し得る塩又は溶媒和物は、薬学的に許容し得る担体、媒体又は希釈液にて提供することができる。
【0029】
PDE関連障害は、例えば、喘息や気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、成人呼吸促迫症候群(ARDS)、肺動脈高血圧症等の肺障害、アレルギー性鼻炎やアレルギー性結膜炎等のアレルギー性疾患、内毒素ショック、潰瘍性大腸炎やクローン病等の炎症性腸疾患、関節炎や乾癬性関節炎、変形性関節症等の関節障害、冠動脈心疾患、間欠性跛行、認知症や鬱病、統合失調症等の精神障害、勃起不全、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、男性及び女性の不妊、ドライアイ障害、乾癬、酒さ、皮膚炎、ケロイド、肥厚性瘢痕、膠腫及び全身性硬化症又は強皮症、円形脱毛症、扁平苔癬、落葉状天疱瘡、尋常性天疱瘡、慢性歯周炎、疱疹状皮膚炎、白斑及び水疱性類天疱瘡等の線維性皮膚疾患であることが好ましい。本発明の幾つかの実施形態では、ニタゾキサニドを抗ウイルス化合物又は広域抗生物質のいずれかと組み合わせた場合には、関節炎、変形性関節症及び滑液包炎の治療を含まない。本発明の幾つかの実施形態では、ニタゾキサニドを単独(即ち、抗ウイルス化合物又は広域抗生物質のいずれとも組み合わせない)で、それを必要とする対象に投与して関節炎、変形性関節症及び滑液包炎を治療する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本明細書で提供されるのは、抗寄生虫薬である式Iの化合物、そのプロドラッグ及び塩、溶媒和物及び多形体と、全ての考えられるジアステレオマー及び全ての鏡像異性体と、ジアステレオマー及び鏡像異性体の全ての組み合わせ(例えば、ラセミ混合物及び全ての互変異性体)を含む組成物である。
【0031】
本発明に係る対象は、PDE関連障害を有する任意のヒト又は動物とすることができる。動物は哺乳動物とすることができる。哺乳動物は、イヌ、ネコ、霊長類、ウシ、ヒツジ、ブタ、ラクダ、ヤギ、齧歯類又はウマとすることができる。霊長類はヒトであることが好ましい。
【0032】
一実施形態では、式Iの化合物はニクロサミドであり、これは、駆虫薬や殺魚剤であることに加え、腫瘍、原虫感染及び寄生虫感染、細菌性のにきび、重症急性呼吸器症候群(SARS)、スイマーのかゆみの治療に有効であり、また、抗炭疽菌毒素として、抗悪性腫瘍薬として、更には肺線維症の予防及び/又は治療に有効であることも報告されている。他の実施形態では、式Iの化合物は、クロサンテル、ラフォキサニド、オキシクロザニド及びニクロサミド等のハロゲン化サリチルアニリド化合物であり、これらを使用して皮膚病態、例えば、グラム陽性菌(例えば、ブドウ球菌、特に黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、特に化膿性連鎖球菌等)から生じる細菌感染に起因する膿痂疹、感染性皮膚炎(例えば、感染性アトピー性皮膚炎)、感染性湿疹、感染性皮膚創傷、感染性火傷及び感染性潰瘍(例えば、糖尿病性潰瘍)の治療を行っている。オキシクロザニドとラフォキサニドは式Iのサリチルアニリドであり、反芻動物の肝蛭症の治療や制御に使用されている。ブロモサラン(例、ジブロムサランやトリブロムサラン)は、幼若吸虫に対して有効な肝蛭駆除剤として使用されるビフェノール化合物である。ジブロムサランやメタブロムサラン、トリブロムサラン等の臭素化誘導体は、抗菌活性と抗真菌活性を有する消毒剤として使用される。ニタゾキサニドは、経口投与すると急速に加水分解されてその活性代謝産物であるチゾキサニドとなるプロドラッグであり、他の原虫及び/又は蠕虫に起因する疾患である感染性下痢の治療に使用される。ニタゾキサニドは、ペグインターフェロンα-2a及びリバビリンと組み合わせて、C型肝炎の治療に向けて現在第II相臨床試験中である。ニタゾキサニド単独では、慢性B型肝炎の治療における有効性の予備的証拠が示されている。最近、結核菌の治療にニタゾキサニドを使用することが提案されている。従って、式Iの多くの既知化合物は、一般に抗感染薬(例えば、抗菌薬、抗寄生虫薬、抗原虫薬)として認識されている。本明細書に記載されているのは、感染症とは関連しない病態(即ち、PDE関連病態)に対して式Iの化合物を別の目的で使用するための方法である。
【0033】
式Iの化合物(例えば、ニクロサミド、オキシクロザニド、ラフォキサニド、クロサンテル、ジブロムサラン、メタブロムサラン、トリブロムサラン及びニタゾキサニドが挙げられるが、これらに限定されない)、そのプロドラッグ、その代謝産物、又はその薬学的に許容し得る塩、溶媒和物及び多形体は、驚くべきことに、PDE1、PDE2、PDE3、PDE4、PDE5、PDE7、PDE9及びPDE10等の1種以上のホスホジエステラーゼの阻害に有効であることが分かっており、従って、PDE関連障害の治療に利用することができる。PDE活性の上昇に伴うPDE関連障害としては、喘息や気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺動脈高血圧症等の肺障害、アレルギー性鼻炎やアレルギー性結膜炎等のアレルギー性疾患、内毒素ショック、潰瘍性大腸炎やクローン病等の炎症性腸疾患、関節炎や乾癬性関節炎、変形性関節症等の関節障害、冠動脈心疾患、間欠性跛行、認知症や鬱病、統合失調症等の精神障害、勃起不全、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、男性及び女性の不妊、ドライアイ障害、乾癬、酒さ、皮膚炎、ケロイド、肥厚性瘢痕、膠腫及び全身性硬化症又は強皮症等の線維性皮膚疾患、及びその他が挙げられるが、これらに限定されない。実施例の項で示すように、PDEの阻害はPDE関連障害に対して治療効果をもたらす。
【0034】
式Iの化合物は、末梢血単核球(PBMC)からの幾つかのサイトカイン(特に、IL-17A、IL-17F及びIL22等のTh-17サイトカイン)の放出を阻害すると共に、IL-12のサイトカイン放出を阻害することが分かっている(実施例5参照)。このようなサイトカインは、PDE制御の下流のサイトカインの一部である。このようなTh-17サイトカインの有効な阻害を考慮すれば、式Iの化合物は、円形脱毛症、扁平苔癬、落葉状天疱瘡、尋常性天疱瘡、慢性歯周炎、疱疹状皮膚炎、白斑及び水疱性類天疱瘡等の幾つかの疾患の治療に利用することができる。
【0035】
本発明の一実施形態は、哺乳動物のホスホジエステラーゼ関連障害を治療するための式Iの構造を有する化合物の組成物を包含する。
【化3】
(式中、R
1は-H又は-COCH
3であり、R
2は-H、-Cl、-Br又は-Iであり、R
3は-H、-Cl、-Br又は-Iであり、R
4は-H又は-Clであり、Arは、
【化4】
であり、R
5は-H、-NO
2又は-Brであり、R
6は-H又は-Clであり、R
7は-H、-OH又は-Clであり、R
8は-H又は-Clである)。
【0036】
また、本発明の一実施形態は、哺乳動物のホスホジエステラーゼ関連障害を治療する方法であって、薬学的に許容し得る担体、媒体又は希釈液中に式Iの化合物、又はそのプロドラッグ又は代謝産物、又はその薬学的に許容し得る塩、溶媒和物及び多形体を含む組成物の治療有効量を、そのような治療を必要とする対象に投与することを含む方法である。
【0037】
一様相では、提供されるのはホスホジエステラーゼを阻害する方法であって、ホスホジエステラーゼと、下記式Iの化合物、及び当該化合物の鏡像異性体、ジアステレオマー、プロドラッグ又は代謝産物、又はその化合物の薬学的に許容し得る塩、溶媒和物及び多形体とを接触させることを含む方法である。
【0038】
【化5】
(式中、R
1は-H又は-COCH
3であり、R
2は-H、-Cl、-Br又は-Iであり、R
3は-H、-Cl、-Br又は-Iであり、R
4は-H又は-Clであり、Arは、
【化6】
であり、R
5は-H、-NO
2又は-Brであり、R
6は-H又は-Clであり、R
7は-H、-OH又は-Clであり、R
8は-H又は-Clである。)
【0039】
定義
「治療有効量」という用語は、PDE関連障害の症状の重症度を軽減するのに必要な量を意味する。
【0040】
乾癬としては、尋常性乾癬(psoriasis vulgaris)、滴状乾癬、逆乾癬、紅皮症乾癬及び膿疱性乾癬等の乾癬の種類が挙げられる。乾癬は、頭皮を含む1種以上の身体器官で同時に発現する場合がある。
【0041】
皮膚炎としては、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、うっ滞性皮膚炎、発汗異常性皮膚炎、貨幣状湿疹、神経皮膚炎及び脂漏性皮膚炎等の様々な種類の皮膚炎が挙げられる。
【0042】
酒さとしては、紅斑毛細血管拡張性酒さ、丘疹膿疱性酒さ、瘤腫性酒さ及び眼性酒さ等が挙げられる。
【0043】
投与方法
本開示の一態様では、PDE関連障害(例えば、喘息や気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺動脈高血圧症等の肺障害、アレルギー性鼻炎やアレルギー性結膜炎等のアレルギー性疾患、内毒素ショック、潰瘍性大腸炎やクローン病等の炎症性腸疾患、関節炎や乾癬性関節炎、変形性関節症等の関節障害、冠動脈心疾患、間欠性跛行、認知症や鬱病、統合失調症等の精神障害、勃起不全、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、男性及び女性の不妊、ドライアイ障害、乾癬、酒さ、皮膚炎、ケロイド、肥厚性瘢痕、膠腫及び強皮症等の線維性皮膚疾患、円形脱毛症、扁平苔癬、落葉状天疱瘡、尋常性天疱瘡、慢性歯周炎、疱疹状皮膚炎、白斑及び水疱性類天疱瘡)の治療における、治療有効量のニクロサミド、オキシクロザニド、ラフォキサニド、クロサンテル、ジブロムサラン、メタブロムサラン、トリブロムサラン及びニタゾキサニド等の式Iの抗寄生虫薬、そのプロドラッグ、その代謝産物、又はその薬学的に許容し得る塩、溶媒和物及び多形体の使用が企図される。式Iの化合物は、PDEと様々な下流の機序の阻害(例えば、サイトカインとケモカインの放出の阻害、TNF-α、STAT3、NFκB等の炎症マーカーの1種以上の放出の阻害、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない)によってPDE関連障害を治療することが見出されている。
【0044】
PDE関連障害の治療を目的としたニクロサミド、オキシクロザニド、ラフォキサニド、クロサンテル、ジブロムサラン、メタブロムサラン、トリブロムサラン及びニタゾキサニド等の式Iの抗寄生虫薬、そのプロドラッグ、その代謝産物、及びその塩、溶媒和物及び多形体は、生理学的に許容し得る担体にて対象に投与する。幾つかのPDE関連障害の治療の際には様々な経路で投与することができ、例えば、経口投与、眼投与、経鼻投与、非経口投与(例えば、局所、局所皮膚、経皮、皮下(s.c.)、硬膜下、静脈内(i.v.)、筋肉内(i.m.)、皮内、くも膜下腔内、腹腔内(i.p.)、脳内、動脈内又は病巣内投与経路)、局在投与(例えば、外科的投与又は外科用坐剤)及び肺投与(例えば、エアロゾル、吸入又は粉末)、及び更に後述するものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
式Iの抗寄生虫薬を含む医薬組成物の正確な投与量は、薬剤処方、適用方法、更には治療する特定の部位、宿主及びPDE関連障害に応じて変わる。年齢、体重、性別、食事、投与時間、排泄率、宿主の状態、薬物の組み合わせ、反応感受性及び疾患の重症度等の他の因子は、治療の専門家又は当業者によって容易に考慮することができる。特許請求される化合物の投与量は、幾つかの因子、例えば、投与方法、治療する疾患、疾患の重症度、疾患を治療するのか又は予防するのか等に依存する。
【0046】
投与は、最大許容投与量内で連続的又は定期的に行うことができる。投与は必要に応じて、例えば、毎時間、2時間に1回、3時間に1回、6時間に1回、8時間に1回、12時間に1回、毎日、隔日、毎週、2週間に1回、3週間に1回、又は毎月行うことができる。用量の投与は、治療又は予防する疾患又は病態に応じて1日~12ヶ月間行うことができる。
【0047】
局所投与経路は、乾癬、酒さ、皮膚炎等の皮膚疾患、ケロイド、肥厚性瘢痕、膠腫及び強皮症等の線維性疾患、及び円形脱毛症、扁平苔癬、落葉状天疱瘡、尋常性天疱瘡、慢性歯周炎、疱疹状皮膚炎、白斑及び水疱性類天疱瘡等の疾患の治療に好ましい経路である。式Iの抗寄生虫薬を含む局所皮膚用組成物は局所的に作用し、角質層、表皮の他の部分、及び真皮の部分等の皮膚層に浸透する。式Iの抗寄生虫薬を含む局所医薬組成物には、耐水性の抗浸透性局所製剤は含まれない。局所投与に適した組成物としては、クリーム、ゲル、ローション、石鹸、シャンプー、エアロゾル、香油、血清、ムース、パッチ、ペースト、ポンプスプレー、ロールオン、局所溶液、スティック、ウェットティッシュ、軟膏、ワイプ、乳濁液、化粧品、及びそれらの任意の組み合わせが挙げられる。皮膚疾患の治療において、本発明の式Iの化合物が有用であることが見出された。従って、本発明は、乾癬、酒さ、皮膚炎等の皮膚疾患、線維性皮膚疾患、及び円形脱毛症、扁平苔癬、落葉状天疱瘡、尋常性天疱瘡、慢性歯周炎、疱疹状皮膚炎、白斑及び水疱性類天疱瘡等の疾患の治療のための局所投与用医薬組成物であって、本発明の抗寄生虫薬、そのプロドラッグ、又はその薬学的に許容される塩又は溶媒和物を薬学的に許容し得る局所担体、媒体又は希釈液中に含む医薬組成物を提供する。本発明の式Iの化合物を含む局所用組成物は、ゲル、パッチ、局所溶液、クリーム、軟膏、局所スワブ、乳濁液、シャンプー、スプレー又はローションの形態とすることが好ましい。この組成物は持続放出の形態で提供することができる。
【0048】
投与方法に応じて、本発明の式Iの抗寄生虫薬、そのプロドラッグ又は代謝産物、又は薬学的に許容し得る塩、溶媒和物及び多形体は、様々な方法で処方することができる。局所投与用製剤中の式Iの化合物の濃度は、約0.001%~20.0%w/wの濃度で変えることができ、1週間~12ヶ月間に亘って1日に1~10回投与することが通常は好ましい。好ましくは、局所投与用製剤中の抗寄生虫薬の濃度は、約0.001%~10.0%w/wの濃度で変えることができる。乾癬、酒さ、皮膚炎等の皮膚疾患や線維性皮膚疾患の治療の場合には、有効成分として本発明の式Iの化合物を含む組成物を局所製剤として、それを必要とする対象に投与することが好都合であり、本発明の抗寄生虫薬の濃度を適切な医薬担体中で約0.001%~10.0%w/wとすることができる。肺疾患の治療の場合には、抗寄生虫薬を吸入器、噴霧器又は気化器で哺乳動物に投与することができ、約0.001%~10.0%w/w(好ましくは0.1%~5%w/w)の濃度で1日に1~10回、1日~12ヶ月以上に亘って投与することができる。
【0049】
経口経路で投与する場合、本発明の抗寄生虫薬の投与量は、好ましくは1日に約0.1mg~3000mg(望ましくは約0.5mg~2000mg)とし、1日1回~10回(好ましくは1日1回~5回、より望ましくは1日に1回~3回)で1日~12ヶ月以上の期間に亘って行う。眼経路で投与する場合、本発明の抗寄生虫薬の投与量は、好ましくは0.001%~10.0%w/vの濃度とし、各回で1~10滴、即ち、0.05mL~0.5mL(好ましくは1~3滴、即ち、0.05mL~0.15mL)を投与し、1日に最大10回(好ましくは1日に1回~5回、より望ましくは1日に1回~3回)で1日~12ヶ月以上の期間に亘って行う。局所経路によって投与する場合、本発明の抗寄生虫薬の投与量は、好ましくは0.001%~20.0%w/wの濃度とし、1日に1回~10回で1週間~12ヶ月以上の期間に亘り、厚さが約0.1mm~5mmの製剤層で患部を覆うのに十分な量の投与を行う。静脈内又は筋肉内経路で投与する場合、本発明の抗寄生虫薬の治療有効成分の濃度は、好ましくは約0.001%~10.0%w/vであり、1日に1~10回で1回当たりの最大投与量を500mgとし、1日~12ヶ月以上の期間に亘って行う。
【0050】
好ましくは、本発明の抗寄生虫薬、そのプロドラッグ、又は薬学的に許容し得る塩、溶媒和物及び多形体のような治療有効成分の経口投与用製剤中の濃度は、PDE関連障害のいずれの場合であっても、1日に約1mg~3000mgの濃度で変わり得る。眼投与用製剤中の本発明の抗寄生虫薬の濃度は、約0.001%~10.0%w/vの濃度で変わり得る。静脈内、皮内、病巣内又は筋肉内投与用製剤中の本発明の抗寄生虫薬の治療有効成分の濃度は、約0.001%~10.0%w/vの濃度で変わり得る。
【0051】
非経口投与の場合、本発明の抗寄生虫薬、そのプロドラッグ、又は本発明の薬学的に許容し得る塩、溶媒和物及び多形体は、この物質を生理学的に許容し得る希釈液と共に医薬担体中で調製した溶液又は懸濁液である注射剤として投与することができる。この担体は水や油等の滅菌液とすることができ、界面活性剤は添加してもしなくてもよい。他の許容し得る希釈液としては、動物、植物又は合成起源の油、例えば、落花生油、大豆油及び鉱物油が挙げられる。一般に、プロピレングリコール又はポリエチレングリコール(PEG)等のグリコールは、特に注射液の場合、好ましい液体担体である。本発明の抗寄生虫薬、そのプロドラッグ、又は本開示の薬学的に許容し得る塩、溶媒和物及び多形体は、デポ注射剤又はインプラント製剤の形態で投与することができ、これは、有効成分の制御放出又は持続放出が可能となるように処方することができる。
【0052】
本発明の抗寄生虫薬、そのプロドラッグ、又は薬学的に許容し得る塩、溶媒和物及び多形体を含む医薬組成物は、薬学的に許容し得る無毒性の担体又は希釈液(即ち、動物又はヒト投与用の医薬組成物を処方するのに通常使用される媒体)を含むこともできる。また、製剤は従来の添加剤、例えば、可溶化剤、等張剤、懸濁剤、乳化剤、安定剤、浸透剤、保湿剤及び防腐剤を含むこともできる。
【0053】
組成物は持続放出用に処方することができる。本発明の抗寄生虫薬、そのプロドラッグ、又は本発明の薬学的に許容し得る塩、溶媒和物及び多形体は、持続放出の形態、例えば、デポ注射剤、インプラント製剤又は浸透圧ポンプで投与することができ、これは、有効成分の持続放出が可能となるように処方することができる。持続放出製剤用のインプラントは当技術分野で周知である。インプラントは、生分解性又は非生分解性ポリマーを用いてミクロスフェアやスラブ等として処方される。例えば、乳酸及び/又はグリコール酸のポリマーは、宿主によって十分に許容される侵食性ポリマーを形成する。
【実施例1】
【0054】
抗寄生虫薬ニクロサミドが強力なホスホジエステラーゼ阻害剤となることに関する計算モデル予測
インシリコ・ドッキング技術を使用した小分子データベースのスクリーニングによって、薬物ニクロサミドがPDE阻害の有力な候補であることが示唆された。分子の配座空間を調べるため、リガンドの柔軟性と共にニクロサミドのGRIPドッキングを様々なPDEアイソタイプ結晶構造にてVlifeMDSソフトウェア(VLifeMDSバージョン4.1:NovaLead Pharma Pvt.社(インド国、プネー)が2014年に開発したMolecular Design Suite)に記載のように行った。PDE4B(1RO6)では、ドッキングポーズにより、主にThr407とGln443との2個の水素結合及びPhe446とPhe414とのπスタッキング相互作用によってニクロサミドがホスホジエステラーゼに結合する可能性が確認される。このような相互作用は、PDE4B構造の共結晶化リガンドの多くと共通している。同様に、PDE4DとPDE10Aの様々な結晶構造にドッキングされたニクロサミドは、対応する活性部位で有望な結合を示した。こうして、ニクロサミドは1種以上のPDEアイソタイプに結合する能力を示したため、有望なPDE阻害剤となり得る。式Iの他の抗寄生虫薬は、以下の表Iに示すように、ニクロサミドと構造的類似性(類似性指数)を有する。
【0055】
【0056】
構造的類似性が高いことは、これらの薬物(式Iの化合物)がニクロサミドと同様にPDEの1種以上のアイソザイムに結合するため、これらの薬物もPDE阻害剤であることを示している。
【0057】
ニタゾキサニド、オキシクロザニド、ラフォキサニド、ジブロムサラン、メタブロムサラン及びトリブロムサラン等の式Iの他の全ての抗寄生虫薬は、PDEアイソザイムの様々な結晶構造にドッキングされた。これらの薬物は、1種以上のPDEアイソザイム構造に効果的に結合することが分かっている。本発明の抗寄生虫薬と相互作用する代表的な酵素に関する情報を、対応する共結晶化リガンドとの相互作用と同様の重要な相互作用と共に、以下の表IIにまとめた。
【0058】
【0059】
上述の結果から、本発明の抗寄生虫薬(式Iの化合物)は、1種以上のPDE異性体に結合して阻害する可能性を有することが分かった。
【実施例2】
【0060】
放射標識酵素アッセイによるニクロサミドとニタゾキサニドのホスホジエステラーゼ阻害作用の評価
以下の酵素を使用してニクロサミドとニタゾキサニドのPDE阻害活性を確認した:PDE1(ウシの脳)、PDE2(ヒト血小板)、PDE3(ヒト血小板)、PDE4(ヒトU937細胞)、PDE5(ヒト血小板)。酵素アッセイは、インキュベーション時間、基質濃度及び最終産物の決定方法に関して最適化されている。PDE1~PDE4に使用する基質は1.01μM[3H]cAMP+cAMPであり、PDE5に使用する基質は1.01μM[3H]cGMP+cGMPである。
【0061】
ニクロサミドとニタゾキサニドによるPDEの様々なアイソタイプの阻害率%の結果を以下の表IIIに示す。
【0062】
【0063】
上述のデータから、ニクロサミドが多くのPDEアイソタイプを阻害する優れた能力を有していることが分かる。ニクロサミドとPDEアイソタイプの結合については、実験と詳細な研究で更に確認した。PDE3とPDE1に対するニクロサミドのIC50値を決定し、それぞれ21.3μMと72.9μMであることが分かった。このデータから、ニクロサミドが複数のPDEに対して阻害活性を有することが分かる。上述のデータから、ニタゾキサニドがPDE4阻害活性を有することも分かる。
【実施例3】
【0064】
蛍光偏光アッセイによる薬物のPDE阻害のインビトロ評価
インビトロアッセイで標的ホスホジエステラーゼ(PDE)酵素の様々なサブタイプの阻害を確認する実験を行った。インビトロ実験によって、10種のPDEサブタイプ、即ち、PDE1A、PDE2A、PDE4A、PDE4B、PDE4C、PDE4D、PDE5A、PDE7A、PDE9A、PDE10Aにおけるニクロサミド、ニタゾキサニド及びチゾキサニドのIC50値を決定した。
【0065】
様々なPDEサブタイプに対する3種の薬物のIC50の結果を表IVに示す。
【0066】
【0067】
このデータから、ニクロサミド、ニタゾキサニド及びチゾキサニドが1種以上のPDEサブタイプを阻害することが分かる。ニクロサミドはPDEの非選択的阻害剤であるが、ニタゾキサニドとその代謝産物であるチゾキサニドはPDE2AとPDE1Aの阻害を示す。
【実施例4】
【0068】
ケラチノサイト(HaCat)増殖の阻害のインビトロ評価
選択した式Iの化合物のケラチノサイト増殖阻害活性を確認する実験を行い、ケラチノサイトの過剰増殖に関連する皮膚障害における当該化合物の適用性を立証した。ケラチノサイト由来のヒト不死化細胞株であるHaCaT細胞(ケラチノサイトの過剰増殖を示す)について、選択した化合物の抗増殖能をMTTアッセイによって調べた。
【0069】
24時間、48時間及び72時間での、ニクロサミド、ニタゾキサニド及びチゾキサニドを用いた場合の対照に対する細胞増殖率%の結果を表Vに示す。
【0070】
【0071】
上述のデータから、ニクロサミド、ニタゾキサニド及びチゾキサニドが48時間後にケラチノサイト増殖を阻害する優れた能力を有することが分かる。これは、本発明の式Iの化合物が、ケラチノサイトの過剰増殖を伴う1種以上の皮膚疾患に対して有望であることを明確に示している。
【実施例5】
【0072】
ヒトPBMCにおける細胞生存率とサイトカイン産生に対する薬物のインビトロ評価
健常者からの新鮮なヒト血液を、抗凝固剤(5mM)エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含むチューブに採取した。成長培地としてRPMI-1640培地(3%FBS含有)を使用し、媒体として使用した1%DMSOと共に5%CO2インキュベーターにて37℃で60分間インキュベートした。アラマーブルーを使用して様々な時点で細胞生存率をチェックし、544nmの励起と590nmの発光で蛍光測定値を取得した。
【0073】
結果:
24時間、48時間及び72時間での、ニクロサミド、ニタゾキサニド及びチゾキサニドを用いた場合の対照に対する細胞生存率%の結果を表VIに示す。
【0074】
【0075】
70%の細胞生存率を示した式Iの選択化合物の濃度を、それぞれの化合物についてPBMCの刺激を研究する必要がある最大濃度と見なした。この最大濃度は、ニクロサミドの場合には2.5μM、ニタゾキサニドとチゾキサニドの場合には50μMであることが分かったため、この濃度未満の濃度を使用して、PBMC刺激時の様々なサイトカインの阻害/誘導について検討した。測定は全て3回行った。
【0076】
使用した刺激剤:
PBMCの刺激は次のような様々な刺激剤を使用して行った。
a.細胞を刺激剤LPSに100ng/mLで18時間暴露して、TNF-α、IL-6、IFN-γ、IL10、IL-1βを刺激した。
b.細胞を刺激剤IFN-γ+LPSに100ng/mL+1μg/mLで18時間曝露して、IL-12を刺激した。
c.細胞を刺激剤PMA+イオノマイシンに50ng/mL+1μg/mLで18時間曝露して、IL-23、IL-22、IL-17A、IL-17Fを刺激した。
【0077】
18時間後、上清を回収し、遠心分離して細胞片を除去し、アリコートをELISAに使用した。
【0078】
結果
刺激したPBMCにおける炎症性サイトカインの誘導/阻害に対する式Iの選択化合物の効果を以下に示す。
【0079】
【0080】
上述の表から得られる推論は次の通りである。
1.LPS又はLPS+IFN-γ刺激のサイトカインアッセイ: 試験した全ての化合物は、IL-12とIL-10を強力且つ用量依存的に阻害し、IL-6を中程度に阻害し、TNF-α、IFN-γ及びIL-1βに対しては殆ど影響を及ぼさないか又は全く影響を及ぼさないように思われる。
2.PMA+イオノマイシン刺激のサイトカインアッセイ: 試験した全ての化合物は、Th17型サイトカインであるIL-17A、IL-17F及びIL-22を強力に阻害するように思われる。PMA+イオノマイシンはIL-23を誘導しなかった。
【実施例6】
【0081】
HaCaT細胞における細胞生存率とサイトカイン産生に対する薬物のインビトロ評価
FBS(10%)、L-グルタミン(2mM)、ペニシリン(100μg/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)を添加したダルベッコ変法イーグル培地が入ったT-75cm2フラスコにHaCaT細胞を投入し、5%CO2インキュベーター内で37℃にて維持した。細胞増殖を播種用に70~80%コンフルエンスに維持し、媒体として1%DMSOを使用した。アラマーブルーを使用して様々な時点で細胞生存率をチェックし、544nmの励起と590nmの発光で蛍光測定値を取得した。
【0082】
結果:
24時間、48時間及び72時間でのニクロサミド、ニタゾキサニド及びチゾキサニドを用いた場合の対照に対する細胞生存率%の結果を表VIIIに示す。
【0083】
【0084】
70%の細胞生存率を示した式Iの化合物の濃度を、HaCaT細胞の刺激を研究する必要がある最大濃度と見なした。この最大濃度は、ニクロサミドの場合には0.25μM、ニタゾキサニドとチゾキサニドの場合には1μMであることが分かったため、この濃度未満の濃度を使用して、HaCaT細胞の刺激時の様々なサイトカインの阻害/誘導について検討した。測定は全て3回行った。
【0085】
使用した刺激剤:
HaCaT細胞の刺激は次のような様々な刺激剤を使用して行った。
a.細胞を刺激剤LPSに1μg/mLで48時間曝露して、IL-1βを刺激した。
b.細胞を刺激剤IFN-γに50ng/mLで48時間曝露して、TNF-α、IL-6を刺激した。
【0086】
48時間後、上清を回収し、遠心分離して細胞片を除去し、アリコートをELISAに使用した。
【0087】
結果
刺激したHaCaT細胞における炎症性サイトカインの誘導/阻害に対する式Iの化合物の効果を表IXに示す。
【0088】
【0089】
上述の表から、HaCaT細胞はIFN-γに応答してIL-6を中程度のレベル、TNF-αを非常に低いレベルで産生したが、IL-1βを産生しなかったことが分かる。0.25μMのニクロサミドで処理したHaCaT細胞でIL-6放出の抑制が観察された。
【実施例7】
【0090】
【0091】
組成物NIC-1とNIT-1は局所皮膚用組成物であり、NIC-2とNIT-2は経皮組成物である。
【実施例8】
【0092】
Balb/cマウスのイミキモド誘発乾癬モデルによる薬物のインビボ評価
ニクロサミドとニタゾキサニドの抗乾癬の可能性を確認するためのインビボ実験をハツカネズミ種で行った。IMQによる乾癬の誘発にはBALB/cマウス(雌性、7~8週齢)を使用した。マウスにイミキモド(IMQ)を局所投与すると、ヒトの乾癬によく似た乾癬を誘発し、悪化させることができる。各種濃度のニクロサミドとニタゾキサニドによる併用治療を検討して、IMQ誘発マウスにおける乾癬パラメータの低下を定量化した。次の9種の群(1群当たり8匹)、即ち、正常対照、疾患対照、3種の濃度のニクロサミド(即ち、1%、2%及び3%)、3種の濃度のニタゾキサニド(即ち、3%、4%及び5%)及び陽性対照(テノベート(クロベタゾール)の0.05%クリーム)を使用した。5%のIMQを含む63mgのクリーム全てを背部(剃毛した背中)と右耳に8日間塗布した。この実験の際には、実施例7の局所製剤を使用した。IMQ塗布から3時間後に、様々な用量のニクロサミド(1%、2%及び3%)とニタゾキサニド(3%、4%及び5%)を対応する群の背部(50mg)と耳(25mg)に塗布した。ニクロサミド、ニタゾキサニド又は媒体の用量を1日に2回塗布した。
【0093】
検討したパラメータは、耳の厚さの変化、耳の炎症の抑制率%、乾癬面積重症度指数(PASI)であった。H&E染色によって右耳と背部皮膚の病理組織診断を行った。本研究のバイオマーカーは炎症性サイトカインIL-23であり、IMQと薬物を塗布した耳領域の組織溶解物から取得し、ELISAで解析した。
【0094】
ニクロサミドとニタゾキサニドについてのインビボ研究の結果を表XIに示す。
【表11】
【0095】
上述の表XIの結果から、ニクロサミドとニタゾキサニドの両方が、皮膚肥厚の増殖を抑制し、疾患の炎症過程を軽減する優れた能力を有するため、これら薬物の抗乾癬の可能性を示すことが分かる。試験した薬物は7日目に耳の炎症を用量依存的に抑制させた。ニクロサミドとニタゾキサニドは、試験した最大濃度で耳の炎症をそれぞれ42.7%、40.9%抑制した。処理群の乾癬面積重症度指数(PASI)スコアは、疾患の重症度の有意な低下を示している。ニクロサミドは、3%の濃度でPASIスコアが最大50%低下し、抗乾癬の可能性を示した。耳組織ホモジネートでのイミキモド投与で、IL-23レベルの有意な上昇が観察された(p<0.001)。様々な用量のニクロサミドとニタゾキサニドで処理したマウスにおいては、IL-23レベルの有意な低下(それぞれp<0.01、p<0.001)が示された。ニクロサミド処理によって用量依存的な反応が示され、最高濃度ではIL-23レベルが正常対照まで低下し、この化合物が炎症を抑制する能力が示唆された。一方、クロベタゾールはIL-23レベルを正常対照のレベルよりも低下させており、これは薬物の安全性を妨げる可能性を示している。式Iの化合物によるIL-23の阻害は、この疾患モデルで見られる抗炎症作用をもたらす。ニクロサミドとニタゾキサニドの両方による濃度依存的なサイトカインIL-23の抑制は、IL-17/IL-23軸の上方制御に伴う疾患(例えば、乾癬、酒さ及び湿疹等の皮膚疾患)の治療におけるこれら化合物の可能性を示している。
【0096】
表XIの結果から、ニクロサミド群とニタゾキサニド群では有意な体重変化が見られないことが分かったが、クロベタゾール群では7日目~9日目に有意な体重変化が示された(p<0.01、p<0.001)。クロベタゾール群の体重の有意な減少は薬物毒性の指標である。9日目に全ての実験動物を安楽死させ、脾臓を採取して重量を測定した。複数の処理群の内、ニクロサミド2%、ニタゾキサニド3%及びニタゾキサニド5%による処理で脾臓重量の僅かな減少が見られたが、疾患対照と比較すると統計的に有意ではなかった。脾臓重量の減少はクロベタゾール群では有意であることが観察され、脾臓細胞に対する悪影響が示された。
【0097】
耳たぶの組織病理研究を行い、過角化、表皮厚さ及び乳頭間突起増殖等の重要なパラメータを記録した。評価を行った結果、表皮厚さと乳頭間突起増殖が用量依存的に抑制されることが分かる。ニクロサミドとニタゾキサニドの両方によって過角化が有意に抑制されることが分かった。従って、ニクロサミドやニタゾキサニド等の式Iの化合物は、良好な安全性プロファイルで抗乾癬の可能性を示す。
【0098】
本明細書では本発明の特定の実施形態を例示の目的で説明してきたが、本発明の精神と範囲から逸脱することなく様々な修正を行うことができることを理解されたい。このような修正や変更は全て、本開示の範囲内に含まれることが意図されている。