IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティーの特許一覧 ▶ ユニバーシティ オブ ワシントンの特許一覧

特許7299021生体関連の直交性サイトカイン/受容体ペア
<>
  • 特許-生体関連の直交性サイトカイン/受容体ペア 図1
  • 特許-生体関連の直交性サイトカイン/受容体ペア 図2
  • 特許-生体関連の直交性サイトカイン/受容体ペア 図3
  • 特許-生体関連の直交性サイトカイン/受容体ペア 図4
  • 特許-生体関連の直交性サイトカイン/受容体ペア 図5
  • 特許-生体関連の直交性サイトカイン/受容体ペア 図6
  • 特許-生体関連の直交性サイトカイン/受容体ペア 図7
  • 特許-生体関連の直交性サイトカイン/受容体ペア 図8
  • 特許-生体関連の直交性サイトカイン/受容体ペア 図9
  • 特許-生体関連の直交性サイトカイン/受容体ペア 図10
  • 特許-生体関連の直交性サイトカイン/受容体ペア 図11
  • 特許-生体関連の直交性サイトカイン/受容体ペア 図12
  • 特許-生体関連の直交性サイトカイン/受容体ペア 図13
  • 特許-生体関連の直交性サイトカイン/受容体ペア 図14
  • 特許-生体関連の直交性サイトカイン/受容体ペア 図15
  • 特許-生体関連の直交性サイトカイン/受容体ペア 図16
  • 特許-生体関連の直交性サイトカイン/受容体ペア 図17
  • 特許-生体関連の直交性サイトカイン/受容体ペア 図18
  • 特許-生体関連の直交性サイトカイン/受容体ペア 図19
  • 特許-生体関連の直交性サイトカイン/受容体ペア 図20
  • 特許-生体関連の直交性サイトカイン/受容体ペア 図21
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】生体関連の直交性サイトカイン/受容体ペア
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0783 20100101AFI20230620BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230620BHJP
   A61K 38/20 20060101ALI20230620BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230620BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230620BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230620BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230620BHJP
   C12N 15/26 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
C12N5/0783 ZNA
A61K35/17
A61K38/20
A61P31/00
A61P35/00
A61P37/06
C12N5/10
C12N15/26
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018513275
(86)(22)【出願日】2016-09-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-09-13
(86)【国際出願番号】 US2016050511
(87)【国際公開番号】W WO2017044464
(87)【国際公開日】2017-03-16
【審査請求日】2019-08-09
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】62/217,364
(32)【優先日】2015-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/375,089
(32)【優先日】2016-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515158308
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(73)【特許権者】
【識別番号】517075883
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ワシントン
【氏名又は名称原語表記】University of Washington
【住所又は居所原語表記】4545 Roosevelt Way NE, Suite 400, Seattle, Washington 98105 US
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア,ケナン クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ソッカロスキー,ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】ベイカー,デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】キング,クリス
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】飯室 里美
【審判官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-506980(JP,A)
【文献】特表2005-511707(JP,A)
【文献】Wang X et al,Structure of the Quaternary Complex of interleukin-2 With Its α, β, and γc Receptors,Science,2005年,Vol.310,p.1159-1163
【文献】Ring A et al,Mechanistic and Structural Insight into the Functional Dichotomy between Interleukin-2 and Interleukin-15,Nat Immunol,2012年,Vol.13,No.12,p.1187-1195
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
BIOSIS/MEDLINE/CAplus/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
残基H133及びY134が修飾されている直交性ヒトIL-2Rβ(CD122)受容体サブユニットを発現しており
前記直交性ヒトIL-2Rβ(CD122)受容体サブユニットは、アミノ酸置換H133D及びY134Fを含むヒトCD122である、
哺乳類の細胞。
【請求項2】
前記細胞は、免疫細胞または幹細胞である、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
前記免疫細胞は、T細胞である、請求項2に記載の細胞。
【請求項4】
前記細胞は、ヒト細胞である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項5】
前記ヒトIL-2は、E15、H16、L19、D20、Q22、及びM23から選択される1つ以上の残基が修飾されている、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項6】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載の細胞を含んでいる、
組成物。
【請求項7】
残基H133及びY134が修飾されている直交性ヒトIL-2Rβ(CD122)受容体サブユニットをコードし
前記直交性ヒトIL-2Rβ(CD122)受容体サブユニットは、アミノ酸置換H133D及びY134Fを含むヒトCD122である、
核酸。
【請求項8】
請求項の核酸を含んでいる、発現ベクター。
【請求項9】
請求項の発現ベクターを含むように遺伝子改変されている、細胞。
【請求項10】
個体を治療するための方法に使用される細胞であって、
前記方法は、前記細胞を前記個体に導入すること、及びオルソロガスな受容体を、Q13、L14、E15、H16、L19、D20、Q22、M23、G27、及びN88から選択される1つ以上の残基が修飾され、野生型ヒトIL-2Rβ(CD122)への有意ではない結合を有する直交性ヒトIL-2サイトカインと接触させることにより前記細胞を選択的に活性化させることを有している、
請求項1に記載の細胞。
【請求項11】
前記ヒトIL-2は、E15、H16、L19、D20、Q22、及びM23から選択される1つ以上の残基が修飾されている、請求項10に記載の細胞。
【請求項12】
前記細胞は、T細胞である、請求項10に記載の細胞。
【請求項13】
前記個体は、新生物疾患を治療される、請求項10に記載の細胞。
【請求項14】
前記個体は、自己免疫疾患を治療される、請求項10に記載の細胞。
【請求項15】
前記個体は、感染症を治療される、請求項10に記載の細胞。
【請求項16】
請求項1の細胞、請求項の発現ベクターまたは請求項の核酸、並びにQ13、L14、E15、H16、L19、D20、Q22、M23、G27、及びN88から選択される1つ以上の残基が修飾されている直交性ヒトIL-2タンパク質を含むサイトカイン組成物を含んでいる、
キット。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
細胞、具体的には免疫細胞を分化させ、特殊化した機能を発生させ、細胞数を増やす操作には、臨床的に高い関心が寄せられている。このような活性に影響を及ぼす多数のタンパク因子が当業界では知られており、特にサイトカイン及びケモカインが挙げられる。しかしこれらのシグナル伝達分子には、操作対象ではない細胞に対して多面的効果もあるため、操作対象の細胞集団においてシグナル伝達が選択的に活性化されるような方法が望ましい。特に、T細胞を、制御された挙動をするように改変することに関心が集まっている。たとえば、養子免疫治療では、T細胞は、血液から単離され、エクスビボで処理されてから、再び患者体内に注入される。T細胞は、癌細胞、細胞内病原体、及び自己免疫関連細胞の識別及び殺傷などの治療用途で用いるように、改変されている。
【0002】
細胞ベースの諸治療における一重要課題は、患者に投与された後は内在性シグナル伝達経路から保護され、非標的内在性細胞に影響を及ぼさず、制御が可能な、活性化や増殖等の所望の挙動を、養子移植細胞に導入することである。このことは特にT細胞の工学に関連があるが、それは発達の柔軟性、ならびにT細胞の運命、機能、及び局在化の決定に関し環境要因が果たす多大な役割といった理由からである。
【0003】
タンパク質が未変性タンパク質またはリガンドの影響を受けずに、つまり直交的(orthogonal)に、修飾済みリガンドに結合し応答するように操作する能力は、タンパク質工学の難題である。今日まで、類似の天然の相互作用に対して直交性である多くの合成リガンド-オルソログ(ortholog)受容体ペアが作製されている。この作業に用いられているタンパク質のなかには、核ホルモン受容体及びGタンパク質共役受容体などがある。合成小分子リガンドにより活性化される受容体の作製には相当な労力が費やされてきたが、生体関連のタンパク質ペアを作製することは依然として難題である。
【発明の概要】
【0004】
改変された直交性サイトカイン受容体/リガンドペア、及びその使用方法を提供する。改変された(直交性)サイトカインは、カウンターパートの改変された(直交性)受容体に特異的に結合する。結合すると、直交性受容体はシグナル伝達を活性化させ、これが未変性の細胞エレメントを通じて伝わって、天然の応答を模倣する生物学的活性をもたらすが、それは直交性受容体を発現している改変された細胞に特異的である。直交性受容体は、直交性サイトカインの未変性カウンターパートも含めて内在性カウンターパートサイトカインには結合せず、直交性サイトカインは、直交性受容体の未変性カウンターパートも含めてどの内在性受容体にも結合しない。いくつかの実施形態では、直交性サイトカインの直交性受容体に対する親和性は、未変性サイトカインの未変性受容体に対する親和性に匹敵する。
【0005】
直交性サイトカイン受容体ペアを作製する方法は、(a)未変性サイトカインへの結合を阻害するために、未変性受容体にアミノ酸の変更を導入すること、(b)未変性サイトカインの受容体と結合する接触残基にアミノ酸の変更を導入すること、(c)オルソログ受容体に結合するサイトカインオルソログを選択すること、(d)未変性受容体に結合するオルソログサイトカインを廃棄すること、またはステップ(c)及び(d)の代わりとして、(e)オルソログサイトカインに結合する受容体オルソログを選択すること、(f)未変性サイトカインに結合するオルソログ受容体を廃棄すること、の各ステップを含むことができる。好ましい実施形態では、サイトカイン/受容体複合体の構造に関する知識を用いて、部位特異的またはエラープローン変異誘発のアミノ酸位置を選択する。この選択方法には酵母提示システムを便利に用いることができるが、他の提示及び選択方法も有用である。
【0006】
いくつかの実施形態では、改変された細胞が提供され、該細胞は本発明のオルソロガスな(orthologous)受容体の導入により修飾されている。この目的にはあらゆる細胞を用いることができる。いくつかの実施形態では、細胞はT細胞であり、限定ではないが、ナイーブCD8+ T細胞、細胞毒性CD8+ T細胞、ナイーブCD4+ T細胞、ヘルパーT細胞、たとえばTH 1、TH 2、TH 9、TH 11、TH 22、TFH、制御性T細胞、たとえばTR 1、天然TReg 、誘導性TReg、メモリーT細胞、たとえばセントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、NKT細胞、γδT細胞等が挙げられる。他の実施形態では、改変された細胞は、幹細胞、たとえば造血幹細胞、NK細胞、マクロファージ、または樹状細胞である。いくつかの実施形態では、細胞は、対象に移植される前にエクスビボの手順により遺伝子修飾されている。改変された細胞は、治療のために単位用量で提供することができ、所期のレシピエントと同種、自家等の場合もある。
【0007】
いくつかの実施形態では、直交性受容体をコードするコード配列を含むベクターが提供され、該コード配列は、所望の細胞内で活性があるプロモーターに機能的に連結されている。当業界では様々なベクターが知られており、この目的に使用することができる。たとえばウイルスベクター、プラスミドベクター、小円ベクターがあり、これらのベクターは標的細胞ゲノムに組み込むこともできるし、またはエピソームとして維持することもできる。受容体をコードするベクターは、該受容体に結合して活性化させるオルソロガスなサイトカインをコードするベクターと一緒に、キットとして提供される場合もある。いくつかの実施形態では、オルソロガスなサイトカインのコード配列は高発現プロモーターに機能的に連結されており、生産が最適化されることもある。他の実施形態ではキットが提供され、該キットでは、オルソロガスな受容体をコードするベクターが、オルソロガスなサイトカインの精製組成物と一緒に提供され、患者に投与できるようにたとえば単位用量で包装されている。さらにいくつかの他の実施形態ではキットが提供され、該キットではオルソロガスな受容体をコードするベクターが、オルソロガスなサイトカインをコードするベクターと一緒に提供されて、細胞内でのオルソロガスな受容体の発現、及びこの同じ細胞によって分泌させようと企図されたオルソロガスなサイトカインの発現も可能にし、したがって自己分泌型直交性サイトカイン-受容体シグナル伝達が可能になる。
【0008】
いくつかの実施形態では、治療方法が提供され、該方法には該方法を必要とするレシピエントに改変された細胞集団を導入することが含まれ、該細胞集団は本発明のオルソロガスな受容体をコードする配列の導入によって修飾されている。この細胞集団は、エクスビボで改変することができ、普通はレシピエントと同種または自家性である。いくつかの実施形態では、改変された細胞の投与後、導入された細胞集団は同族のオルソロガスなサイトカインとインビボで接触する。本発明の一利点は、オルソロガスなサイトカインと未変性受容体の間に交差反応性がないことである。
【0009】
本発明は、以下の詳細な説明と添付図面とを併せて読むと最もよく理解できる。慣例にしたがい図面の様々な特徴は原寸に比例していないことを強調しておく。むしろ、様々な特徴の寸法は、わかりやすくするために適宜拡大または縮小されている。図面には以下の各図が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】T細胞増殖を制御するための直交性IL-2/IL-2受容体ペアの図である。
図2】直交性IL-2/IL-2Rβペアを作製するワークフローである。
図3】直交性マウスIL-2Rβバリアントの配列を示す図である。
図4】wt mIL-2の結合を抑制するmIL-2Rβ H134D Y135F変異を示す図である。
図5】直交性IL-2/IL-2Rβペアを作製するワークフローである。
図6】特徴付けられた直交性マウスIL-2バリアントの配列を示す図である。
図7】オルソ(ortho)IL-2バリアントが、野生型IL-2とIL-2Rβの相互作用と同等またはそれよりも高い親和性で、オルソ(ortho)IL-2Rβと結合することを示す図である。
図8】オルソIL-2バリアントが、野生型CD25陽性及びCD25陰性脾細胞に対し、鈍化した活性を示す(phosphoSTAT5)ことを示す図である。
図9】オルソIL-2R発現マウスCTLL-2T細胞の生成を示す図である。
図10】第1のセットのオルソIL-2バリアントがオルソ(ortho)T細胞に対し選択的であることを示す図である。
図11】オルソIL-2バリアントがオルソIL-2Rβ発現CTLL-2細胞で選択的STAT5リン酸化を誘導することを示す図である。
図12】オルソIL-2Rβを発現するように改変された(H134D Y135F)初代リンパ節由来T細胞の図である。
図13】オルソIL-2バリアントがオルソIL-2Rβ発現初代マウスT細胞で選択的STAT5リン酸化を誘導することを示す図である。
図14】オルソIL-2バリアントが、野生型T細胞と比べて、オルソIL-2Rβ発現CTLL-2細胞の選択的細胞増殖を誘導することを示す図である。
図15】マウス及びヒト基準IL-2Rβ/IL-2配列のアラインメントを示す図である。
図16】直交性ヒトIL-2ペアの酵母進化を示す図である。(A)酵母提示野生型ヒトIL-2が、野生型(青色のヒストグラム)に結合するが、オルソ(赤色のヒストグラム)ヒトIL-2Rβ H133D Y134F変異体テトラマーには結合しない、FACS分析。(B)ヒトIL-2Rβ HY変異体の近傍にあるかまたはそれに接していると予測されるIL-2残基を無作為化したヒトIL-2変異体のライブラリ(およそ18変異体)を酵母表面に提示させた。連続的に陽性(対オルソhIL-2Rβ)及び陰性(対野生型hIL-2Rβ)両方の選択を繰り返して、オルソ(赤色のヒストグラム)に結合するが野生型(青色ヒストグラム)ヒトIL-2Rβテトラマーには結合しない酵母提示ヒトIL-2変異体を得た。(C、D)次に、オルソhIL-2変異体を酵母ライブラリから単離し配列決定した。オルソhIL-2Rβに結合できるオルソhIL-2配列の集束を示す、変異のコンセンサスセットを特定した。
図17】インビボのマウスモデルを用いて、マウスにおける直交性IL-2Rb発現T細胞の選択的増殖または生存率上昇を実証した図である。ドナー細胞をCD45.2を発現する野生型C57BL/6Jマウスの脾臓から単離し、エクスビボでCD3/CD28により活性化させ、直交性IL-2Rb-IRES-YFPをコードするレトロウイルスにより形質導入し、100IU/mL mIL-2中で2日間増殖させ、マウスCD8 T細胞単離キット(Miltenyi社)を用いて精製した。野生型(CD45.2陽性、YFP陰性)と直交性IL-2Rb発現T細胞(CD45.2陽性、YFP陽性)のおよそ1:1混合物をレシピエントBL6.Rag2-/-xIL2rg-/-CD45.1マウスに後眼窩注射により養子移植した。PBS、野生型mIL-2(150,000IU/マウス)、またはオルソIL-2クローン1G12/149(1,000,000IU/マウス)を、T細胞移植(0日目)の直後から開始して24時間おきに(4日目まで)連続5日間、毎日IP注入した。5日目及び7日目にマウスを屠殺し、マウスの血液及び脾臓中のドナーT細胞総数をフローサイトメトリーにより定量化した。
図18】レシピエントマウスにおけるドナーT細胞増殖を定量化するために用いたゲーティングストラテジーの図である。マウス血液及び脾臓からの単一細胞浮遊液を調製し、ドナーT細胞が特定できるようにCD45.2パシフィックブルーで4Cで1時間かけて染色した。フローサイトメトリーの直前に、生/死細胞除去のため、細胞をヨウ化プロピジウム(PI)で1:2000に希釈してインキュベートした。細胞を前方及び側方散乱に基づきゲーティングして(SSC-A v FSC-A)、シングレット(FSC-A v FSC-H)、生細胞(PI陰性)、及び野生型T細胞(CD45.2陽性、YFP-陰性)と直交性T細胞(CD45.2陽性、YFP-陽性)の総数をFACSにより定量化した。**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001、Prismを用いて一元配置分散分析により決定。
図19】オルソIL-2クローン1G12/149がマウスにおいて選択的に直交性T細胞を増殖させるが野生型T細胞は増殖させないことを示す図である。血液(103細胞/uL)及び脾臓(脾臓当たりの細胞総数)中の野生型及び直交性T細胞の数を図18で説明したようにしてフローサイトメトリーにより定量化した。直交性T細胞と野生型T細胞との比を、血液及び脾臓中の直交性T細胞の総数を野生型T細胞の総数で割って求めた。1よりも大きい比は、直交性T細胞の選択的増殖を示すものであり、これはオルソIL-2クローン1G12/149により得られた。5日目(上)と7日目(下)の血液(左側)と脾臓(右側)中の生細胞の総数をフローサイトメトリーにより定量化した。野生型IL-2での処置の結果、PBS対照と比べて、野生型とオルソT細胞の両方が増殖したが、オルソIL-2クローン1G12/149での処置により、オルソT細胞は選択的に増殖したが、野生型T細胞に対する活性は限られていた。
図20】直交性IL-2は直交性IL-2Rβ T細胞に対し選択的活性があることを示す図である。(A)IL-2 KO NODマウスから単離し、オルソIL-2Rβを発現するようにウイルスにより形質導入した初代脾臓由来マウスT細胞のFACS分析であり、IRES-YFPレポーターにより及びIL-2Rβの表面染色により確認できる。T細胞は野生型IL-2Rβの発現も保持している。(B)オルソIL-2はオルソIL-2Rβ発現T細胞では選択的STAT5リン酸化を誘導するが、野生型T細胞に対しては活性が鈍化するかまたは活性がない。
図21】直交性IL-2がインビトロで直交性IL-2Rβ T細胞を選択的に増殖させることを示す図である。(A)オルソIL-2Rβを発現するようにウイルスにより形質導入された初代脾臓由来マウスT細胞のFACS分析であり、IRES-YFPにより確認できる。形質導入T細胞と非形質導入T細胞との混合物を、様々な濃度の野生型、オルソIL-2クローン1G12または3A10中で5日間培養し、FACS分析した。IL-2は野生型及びオルソT細胞の両方を増殖させたが、オルソIL-2 3A10中で培養するとオルソT細胞だけが増殖し、オルソIL-2 1G12はオルソT細胞を選択的に増殖させたが、野生型T細胞に対しては活性が大幅に低下する。FACSプロットは、100nM IL-2、64pM オルソIL-2 1G12、及び10uM オルソIL-2 3A10中の培養への対応(correspond)を示す。(B)サイトカイン濃度を徐々に上昇させた5日間の培養後の、野生型及びオルソIL-2クローン1G12及び3A10に対する野生型及びオルソT細胞の増殖用量応答。IL-2は野生型T細胞とオルソT細胞との両方を同等の効力で増殖させ、オルソIL-2 1G12はオルソT細胞を選択的に増殖させ、オルソIL-2 3A10はオルソT細胞を特異的に増殖させる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示をより容易に理解できるように、特定の用語及び語句について、以下に、また本明細書全体でも定義する。本明細書で提供する定義は非限定的であり、発明時に当業者であれば知っていることという観点で読むべきである。
【0012】
定義
本方法及び組成物について説明する前に、本発明は説明されている特定の方法や組成物には限定されず、したがって当然ながら変わり得ることを理解すべきである。また、本明細書で使う術語は、具体的な実施形態を説明するという目的しかなく、限定の意図はない。本発明の範囲は添付の請求項によってのみ定められるからである。
【0013】
ある範囲の値が与えられる場合、その範囲の上限と下限との間にはさまれた各値は、文脈が別途明示しないかぎり、下限の小数第一位まで、具体的に開示されると理解すべきである。記載されているある範囲内のいずれかの記載されている値または介在している値と、該記載の範囲内の任意の他の記載されているかまたは介在している値の間のより小さい範囲の各々は、本発明のなかに包含されている。これらのより小さい範囲の上限及び下限はそれぞれ独立して範囲に含まれるかまたは含まれないこともあり、より小さい範囲に(上限と下限の)一方または両方が含まれるかまたは両方とも含まれない各範囲も、本発明のなかに包含されるが、記載の範囲において具体的に除外される上限下限は除く。記載の範囲に(上限と下限の)一方または両方が含まれる場合、それらの含まれる上限下限を除いた範囲も、本発明に含まれる。
【0014】
別途定義しないかぎり、本明細書のすべての科学技術用語は、この発明が属する業界で当業者が通常理解するものと同じ意味をもつ。本明細書で説明するものと類似または等価なあらゆる方法及び材料を本発明の実施または試験に用いることができるが、いくつか可能な好ましい方法及び材料を以下で説明する。本明細書で言及する出版物はすべて、これらの出版物の引用との関連で方法及び/または材料を開示し説明するために、参照により本明細書に援用するものとする。矛盾する場合には、援用する出版物のあらゆる開示よりも本開示が優先するものと理解される。
【0015】
なお、本明細書及び添付の特許請求の範囲では、単数形の「a」「an」及び「the」には、文脈が別途明示しないかぎり、複数形も含まれるものとする。したがって、たとえば、「a cell(細胞)」への言及には、複数のそのような細胞も含まれ、「the peptide(ペプチド)」への言及には、1つ以上のペプチド及びその等価物、たとえば当業者に知られているポリペプチド等への言及も含まれる。
【0016】
本明細書に記述した出版物は、それらが本願の出願日よりも前に開示されているので記載されているだけである。本明細書のどの記載も、本発明が先行発明によりそのような出版物に先行できないことを認めるものと解釈すべきでない。さらに、記載している発行日が実際の発行日とは違う可能性もあるので、個別に確認する必要があり得る。
【0017】
サイトカイン受容体とリガンドとのペアには、限定ではないが、以下の受容体が含まれる。
【0018】
【表1-1】
【0019】
【表1-2】
【0020】
「オルソログ」、または「オルソロガスなサイトカイン/受容体ペア」は、(a)未変性サイトカインまたは同族受容体に結合しないように、及び(b)カウンターパートの改変された(直交性)リガンドまたは受容体に特異的に結合するように、アミノ酸の変更により修飾されている、遺伝子改変されたタンパク質のペアを指す。結合すると、直交性受容体はシグナル伝達を活性化させ、これが未変性の細胞エレメントを通じて伝わって、天然の応答を模倣する生物学的活性をもたらすが、それは直交性受容体を発現している改変された細胞に特異的である。直交性受容体は、直交性サイトカインの未変性カウンターパートも含めて内在性カウンターパートサイトカインには結合せず、直交性サイトカインは、直交性受容体の未変性カウンターパートも含めてどの内在性受容体にも結合しない。いくつかの実施形態では、直交性サイトカインの直交性受容体に対する親和性は、未変性サイトカインの未変性受容体に対する親和性に匹敵し、たとえば未変性サイトカイン受容体ペアの親和性の少なくとも約1%、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約100%の親和性を有し、もっと高い、たとえば未変性サイトカインの未変性受容体に対する親和性の2倍、3倍、4倍、5倍、10倍以上の親和性を有する場合もある。
【0021】
本明細書では、「結合しない」または「結合できない」は、検出可能な結合がないこと、つまり有意ではない結合、すなわち天然リガンドよりもかなり低い結合親和性を有することを指す。親和性は、標識されていない様々な濃度のリガンドの存在下で、受容体と標識された単一濃度のリガンドとの結合を測定する競合的結合実験で決定することができる。一般には、標識されていないリガンドの濃度は、少なくとも6倍の差がある。競合的結合実験によりIC50を求めることができる。本明細書では、「IC50」は、受容体と標識されたリガンドとの結合を50%阻害するために必要な、標識されていないリガンドの濃度を指す。IC50は、リガンド-受容体結合親和性の指標である。低IC50は高親和性を表し、高IC50は低親和性を表す。
【0022】
インターロイキン2(IL-2)は、活性化CD4+ T細胞により主として生産される多能性サイトカインであり、正常な免疫応答の産生に重要な役割を果たす。IL-2は、活性化Tリンパ球の増殖及び増量を促進し、B細胞増殖を強化し、単球及びナチュラルキラー細胞を活性化させる。こうした諸活性から、IL-2は試験され、承認された癌治療薬(アルデスロイキン、プロロイキン(登録商標))として使用されている。真核細胞内で153アミノ酸の前駆ポリペプチドとしてヒトIL-2が合成され、それから20アミノ酸が除去されて成熟分泌IL-2が生成される。
【0023】
本明細書では、「IL-2」は、未変性すなわち野生型のIL-2を指す。成熟ヒトIL-2は、Fujita,et.al,PNAS USA,80,7437-7441(1983)で説明されているように、133アミノ酸配列(N末端のさらなる20アミノ酸からなるシグナルペプチドが欠けている)として発生する。ヒトIL-2のアミノ酸配列はGenbankで受託ロケーターNP_000577.2として確認できる。ヒト及びマウスのIL-2及びIL-2Rβの基準配列を図15に示す。
【0024】
IL-2は、IL-2受容体(IL-2R)と相互作用して細胞シグナル伝達経路を開始することにより、Tリンパ球の生存及び分化を支える。IL-2は、癌や自己免疫疾患を含む多数のヒト疾患の治療に、及び養子T細胞治療のアジュバントとして移植T細胞の生存を促進するために、臨床的に利用されている。しかし、IL-2には、標的外の細胞種を活性化することによる並列的効果もあり得る。IL-2の活性を特定のT細胞サブセットに向けるために、本発明は、改変された直交性IL-2とIL-2受容体のペアを提供する。直交性IL-2は、直交性IL-2Rベータを発現するように改変されているT細胞の強力なSTAT5リン酸化及びインビトロの増殖を誘発することで、野生型IL-2の活性を再現する。直交性IL-2は、エクスビボで培養された野生型CD25陽性または陰性のマウスT細胞に対しそれぞれ限られた活性しかないかまたは活性がない。これらの研究は、自然界に存在しない相互作用が生じるようサイトカイン受容体の界面をリモデリングすることは、サイトカインの無差別的活性を対象とするT細胞サブセットに向け、そうすることで遺伝子操作を通じてT細胞の機能を正確に制御できるようにする、有効なストラテジーであることを示している。
【0025】
IL-2に加えてIL-15及びIL-7もリンパ系の恒常性を制御しており、やはり養子T細胞治療を増強するアジュバントとして使用されている。IL-2とIL-15は、同じIL-2R-ベータ鎖をもつ。直交性IL-15は、IL-2の直交化に用いられる同一の直交性IL-2R-ベータに対して選択される場合もある。IL-7は、直交化の標的である別個のIL-7R-アルファ鎖を用いる。
【0026】
直交性IL-2は、たとえば当業界で知られるペグ化、グリコシル化等によりIgGのFcドメイン、アルブミン、または他の分子と融合させることで、それらの半減期を延長することができる。Fc融合は、代替のFc受容体媒介特性をインビボで与えることもできる。「Fc領域」は、自然発生するポリペプチドでもよいし、またはIgGのパパイン消化により生じるIgGのC末端ドメインと相同の合成ポリペプチドでもよい。IgG Fcの分子量はおよそ50kDaである。オルソログIL-2ポリペプチドは、Fc領域全体、またはより小さい、それが一部をなすキメラポリペプチドの循環半減期を延長する能力を保持している部分を含むことができる。さらに、全長または断片Fc領域は、野生型分子のバリアントであってもよい。つまり、ポリペプチドの機能に影響してもしなくてもよい変異を含むことができ、以下でさらに述べるが、天然の活性がいかなる場合にも必要または望ましいわけではない。
【0027】
他の実施形態では、オルソロガスなポリペプチドは、FLAG配列などの抗原タグとして機能するポリペプチドを含むことができる。FLAG配列は、本明細書で説明するように(Blanar et al.,Science 256:1014,1992、LeClair et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:8145,1992も参照されたい)、ビオチン化高特異的抗FLAG抗体により認識される。いくつかの実施形態では、このキメラポリペプチドはさらに、C末端c-mycエピトープタグを含んでいる。
【0028】
上述したように、本発明のオルソロガスなタンパク質は、キメラポリペプチドの一部として存在することができる。上述の異種ポリペプチドに加えて、またはその代わりに、本発明の核酸分子は「マーカー」または「レポーター」をコードする配列を含むことができる。マーカーまたはレポーター遺伝子の例としては、β-ラクタマーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(neo1、G418r)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、ハイグロマイシン-B-ホスホトランスフェラーゼ(HPH)、チミジンキナーゼ(TK)、lacz(β-ガラクトシダーゼをコードする)、及びキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(XGPRT)が挙げられる。本発明の実施に関連する多くの標準的技法と同じように、当業者であればさらなる有用な試薬、たとえばマーカーまたはレポーターの機能を果たすことができるさらなる配列も知っていよう。
【0029】
直交性サイトカイン及び受容体は、サイトカインの他の位置(たとえば直交性改変に関わる位置以外)に保存的修飾及び置換も含む場合がある。そのような保存的置換としては、DayhoffのThe Atlas of Protein Sequence and Structure 5(1978)、及びArgosのEMBO J.,8:779-785(1989)のなかで説明されているものが挙げられる。たとえば、次の各群のうちのひとつに属するアミノ酸は保存的変更を表している:I群:ala、pro、gly、gin、asn、ser、thr、II群:cys、ser、tyr、thr、III群:val、ile、leu、met、ala、phe、IV群:lys、arg、his、V群:phe、tyr、trp、his、及びVI群:asp、glu。
【0030】
「T細胞」という用語は、CD3及び/またはT細胞抗原受容体の発現により特徴付けることができる哺乳類免疫エフェクター細胞を指し、オルソロガスなサイトカイン受容体を発現するように改変することができる。いくつかの実施形態では、T細胞は、ナイーブCD8+ T細胞、細胞毒性CD8+ T細胞、ナイーブCD4+ T細胞、ヘルパーT細胞、たとえばTH 1、TH 2、TH 9、TH 11、TH 22、TFH、制御性T細胞、たとえばTR 1、天然TReg 、誘導性TReg、メモリーT細胞、たとえばセントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、NKT細胞、γδT細胞から選択される。
【0031】
いくつかの実施形態では、T細胞は、オルソロガスなIL-2とインビボで接触させられ、すなわち改変されたT細胞がレシピエントに移植され、有効量のオルソロガスなIL-2がレシピエントに注入され、T細胞とその固有環境たとえばリンパ節等で接触することができる。他の実施形態では、この接触はインビトロで行われる。
【0032】
対象から採取されたT細胞は、細胞混合物から、所望の細胞を富化する技法により、分離することができる。分散または浮遊に適切な溶液を用いることができる。そのような溶液は、一般には、だいたい5~25mMの低濃度の許容可能なバッファーと組み合わされ、ウシ胎仔血清または他の天然因子が適宜補充された、平衡塩類溶液、たとえば生理食塩水、PBS、Hank平衡食塩水等である。便利なバッファーとしては、HEPES、リン酸バッファー、乳酸バッファー等が挙げられる。
【0033】
親和性分離の技法としては、抗体被覆磁気ビーズを用いた磁気分離、親和性クロマトグラフィー、細胞毒をモノクローナル抗体に結合させ、またはモノクローナル抗体と組み合わせて使用し(たとえば補体と細胞毒)、固相マトリックス(たとえばプレート)に結合させた抗体を用いて「パニング」すること、または他の便利な技法が挙げられ得る。正確な分離ができる技法としては、蛍光励起セルソーターが挙げられ、複数のカラーチャネル、低角及び鈍角光散乱検出チャネル、インピーダンスチャネル等、様々な精巧さの度合いを有し得る。細胞は、死細胞と結合する色素(たとえばヨウ化プロピジウム)を用いることで、死細胞に対して選択することができる。選択細胞の生存率に不適切な有害性がない技法ならばどれでも用いることができる。親和性試薬は、上述の細胞表面分子に特異的な受容体またはリガンドであってもよい。抗体試薬の他にも、ペプチド-MHC抗原とT細胞受容体とのペアも用いることができ、ペプチドリガンドと受容体、エフェクターと受容体分子等である。
【0034】
分離された細胞は、細胞の生存率を維持する任意の適切な培地中に回収することができ、普通は採取チューブ底部に血清のクッションがある。dMEM、HBSS、dPBS、RPMI、Iscove培地等、様々な培地が市販されており、細胞の性質に応じて使用することができ、ウシ胎仔血清が補充されることが多い。
【0035】
回収し任意選択により富化した細胞集団は、すぐに使用してもよいし、溶解して再び利用できるように液体窒素温度で凍結保存してもよい。細胞は普通、10%DMSO、50%FCS、40%RPMI 1640培地で保存される。
【0036】
改変されたT細胞は、任意の生理学的に許容される培地に入れて対象に注入することができ、普通は血管内注入であるが、細胞が増殖に適した部位を見つけられるような任意の他の便利な部位に導入してもよい。普通は、少なくとも1×106 細胞/kgが投与され、少なくとも1×107 細胞/kg、少なくとも1×108 細胞/kg、少なくとも1×109 細胞/kg、少なくとも1×1010細胞/kg、またはそれ以上であり、普通は採取時に得られたT細胞の個数により制限される。
【0037】
発現コンストラクト:本方法では、オルソロガスなタンパク質、具体的にはオルソロガスなサイトカインを組換え法により生産することができる。オルソロガスな受容体は、発現ベクターに乗せて、改変される細胞に導入することができる。オルソロガスなタンパク質をコードするDNAは、改変プロセス中に設計される様々なソースから得ることができる。
【0038】
アミノ酸配列バリアントは、本明細書で説明するように、適切なヌクレオチドの変更をコード配列に導入することによって調製される。そのようなバリアントは、記載の残基の挿入、置換、及び/または特定の削除を表している。最終コンストラクトが本明細書で定める所望の生物学的活性をもつならば、挿入、置換、及び/または特定の削除をどのように組み合わせて最終コンストラクトを作ってもよい。
【0039】
オルソロガスなタンパク質をコードする核酸は、発現するために、複製可能ベクターに挿入される。多くのそのようなベクターが利用できる。一般的なベクターの構成要素としては、限定ではないが、複製起点、1つ以上のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、及び転写終止配列のうちの1つ以上が挙げられる。ベクターには、ウイルスベクター、プラスミドベクター、組込みベクター等がある。
【0040】
オルソロガスなタンパク質は、直接的な組換えのみならず、異種ポリペプチドたとえばシグナル配列、または成熟タンパク質もしくはポリペプチドのN末端に特異的切断部位をもつ他のポリペプチドとの融合タンパク質としても、生産できる。一般に、シグナル配列は、ベクターの構成要素であってもよいし、またはベクターに挿入されるコード配列の一部であってもよい。選択される異種シグナル配列は、好ましくは宿主細胞により認識され処理される(すなわちシグナルペプチダーゼにより切断される)ものである。哺乳類細胞の発現では、未変性のシグナル配列を用いることができ、または他の哺乳類シグナル配列、たとえば同種または類縁種の分泌ポリペプチドからのシグナル配列、ならびにウイルス分泌リーダー、たとえば単純ヘルペスgDシグナルなどが好適な場合もある。
【0041】
発現ベクターは普通、選択可能マーカーとも呼ばれる選択遺伝子を含んでいる。この遺伝子は、選択的培養培地で増殖する形質転換された宿主細胞の生存または増殖に必要なタンパク質をコードしている。選択遺伝子を含むベクターで形質転換されなかった宿主細胞は、培養培地で生存できない。典型的な選択遺伝子は、(a)抗生物質または他の毒素、たとえば、アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキサート、またはテトラサイクリンに対する耐性を与え、(b)栄養要求的欠陥を補い、または(c)複合培地からは得られない重要な栄養分を供給するタンパク質をコードする。
【0042】
発現ベクターは、宿主生物によって識別される、オルソロガスなタンパク質コード配列に機能的に連結された、プロモーターを含む。プロモーターは、それらが機能的に連結されている特定の核酸配列の転写及び翻訳を制御する、構造遺伝子の開始コドンの上流(5’側)に位置する(通常、約100~1000bp以内)未翻訳配列である。そのようなプロモーターは一般に、誘導型と構造型との2つの分類に分かれる。誘導型プロモーターは、培養条件の何らかの変化、たとえば栄養分の有無または温度の変化に応答して、その制御下でDNAからの転写レベルの上昇を開始させるプロモーターである。様々な可能な宿主細胞により認識される多数のプロモーターがよく知られている。
【0043】
哺乳類宿主細胞におけるベクターからの転写は、たとえば、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(たとえばアデノウイルス2)、ウシパピローマウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス(たとえばマウス幹細胞ウイルス)、B型肝炎ウイルス、最も好ましくはサルウイルス40(SV40)などのウイルスのゲノムから得られたプロモーター、及びたとえばアクチンプロモーター、PGK(ホスホグリセリン酸キナーゼ)、または免疫グロブリンプロモーターなどの異種哺乳類プロモーターから、ヒートショックプロモーターから得られた各プロモーターによって、ただしそのようなプロモーターが宿主細胞系と適合すれば、制御することができる。SV40ウイルスの初期及び後期プロモーターは、SV40ウイルス複製起点も含んでいるSV40制限断片として便利に入手できる。
【0044】
高等真核細胞による転写は、ベクターにエンハンサー配列を挿入することで促進されることが多い。エンハンサーはDNAのシス作用エレメントであり、普通は約10~300bpであり、プロモーターに作用して転写を促進する。エンハンサーは比較的に方向と位置とに依存せず、転写ユニットの5’側及び3’側に見出されており、イントロンならびにコード配列自体に存在する。現在、哺乳類遺伝子からの多くのエンハンサー配列が知られている(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α-フェトプロテイン、及びインスリン)。しかし一般には、真核細胞ウイルス(eukaryotic cell virus)からのエンハンサーが使用される。例としては、複製起点の後期側のSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサー、及びアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。エンハンサーは発現ベクターに、コード配列の5’側または3’側の位置で接合される場合もあるが、プロモーターから5’側の部位に位置することが好ましい。
【0045】
真核生物宿主細胞で用いられる発現ベクターは、転写の終止及びmRNAの安定化に必要な配列も含むことになる。そのような配列は一般に、真核細胞またはウイルスのDNAまたはcDNAの5’、時に3’未翻訳領域から得られる。上述した構成要素を1つ以上含む好適なベクターの作製には標準的技法が用いられる。
【0046】
本明細書では、ベクター中DNAのクローニングまたは発現に好適な宿主細胞は、原核細胞、酵母、または上述の高等真核細胞である。有用な哺乳類宿主細胞株の例は、マウスL細胞(L-M[TK-]、ATCC#CRL-2648)、SV40形質転換サル腎臓CV1株(COS-7、ATCC CRL 1651)、ヒト胎児由来腎臓株(浮遊培養液中の増殖用にサブクローニングされた293または293細胞、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10)、チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO)、マウスセルトリ細胞(TM4)、サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1 587)、ヒト子宮頚癌細胞(HELA、ATCC CCL 2)、イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34)、バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442)、ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75)、ヒト肝臓細胞(Hep G2、HB 8065)、マウス乳房腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL51)、TRI細胞、MRC5細胞、FS4細胞、及びヒト肝細胞腫株(Hep G2)がある。
【0047】
改変されたT細胞も含めて宿主細胞は、上述の発現ベクターでトランスフェクトされてオルソロガスなIL-2、またはIL-2Rを発現することができる。細胞は、プロモーターの誘導、形質転換細胞の選択、または所望の配列をコードする遺伝子の増幅のために適宜改変された一般的な栄養培地で培養することができる。哺乳類宿主細胞は、様々な培地で培養できる。市販の培地、たとえばHam’s F10(Sigma社)、基礎培地((MEM)、Sigma社)、RPMI 1640(Sigma社)、及びダルベッコ変法イーグル培地((DMEM)、Sigma社)などは宿主細胞の培養に好適である。こうした培地はいずれも、必要に応じて、ホルモン及び/または他の増殖因子(たとえばインスリン、トランスフェリン、または上皮増殖因子)、塩(たとえば塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、及びリン酸塩)、バッファー(たとえばHEPES)、ヌクレオシド(たとえばアデノシン及びチミジン)、抗生物質、追跡エレメント、及びグルコースまたは同等のエネルギー源を補給される場合がある。任意の他の必要な補助剤も、当業者であればわかる適切な濃度で含むことができる。温度、pH等の培養条件は、発現用に選択される宿主細胞で先に用いたものであり、当業者には明白である。
【0048】
核酸は、別の核酸配列と機能的関係に置かれるときに「機能的に連結され」ている。たとえば、シグナル配列のDNAは、あるポリペプチドの分泌に関わる前タンパク質として発現する場合は、該ポリペプチドのDNAと機能的に連結されており、プロモーターまたはエンハンサーは、あるコード配列の転写に影響を及ぼす場合は、該配列に機能的に連結されており、あるいは、リボソーム結合部位は、翻訳を促進するように配置されている場合は、コード配列に機能的に連結されている。一般に、「機能的に連結される」とは、連結しているDNA配列が連続しているので、分泌リーダーの場合であれば連続しており読み相(reading phase)であることを意味する。しかし、エンハンサーは連続していなくてもよい。
【0049】
組換え生産されたオルソロガスなサイトカインは、分泌されたポリペプチドとして培養培地から回収することもできるが、宿主細胞ライセートから回収することもできる。プロテアーゼ阻害剤、たとえばフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)は精製中のタンパク質分解の防止に有用な場合もあり、また外来混入物の増殖を妨げる抗生物質を含むこともできる。当業界ではたとえば親和性クロマトグラフィーなど様々な精製ステップが知られており、用いられている。親和性クロマトグラフィーは、生体マクロ分子に通常存在する高特異性結合部位を利用して、特定のリガンドに結合する能力によって分子を分ける。タンパク質試料に対しリガンドが明白に呈示されるように該リガンドを不溶性の多孔質支持媒体に共有結合により付着させ、そうすることで一分子種の自然な生体特異的結合を利用して第2の種を混合物から分離し精製する。親和性クロマトグラフィーでは抗体が一般的に使用されている。サイズ選択ステップも使用される場合があり、たとえばゲルろ過クロマトグラフィー(サイズ排除クロマトグラフィーまたは分子ふるいクロマトグラフィーとしても知られる)を用いてサイズによりタンパク質を分離する。ゲルろ過では、タンパク質溶液に半透性多孔質樹脂を詰めたカラムを通過させる。半透性樹脂はある範囲の孔径を有しており、それによってカラムで分離できるタンパク質のサイズが決まる。その他、カチオン交換クロマトグラフィーも対象とされる。
【0050】
最終的なオルソロガスなサイトカイン組成物は、当業界で知られている方法により濃縮、濾過、透析等することができる。治療用途では、該サイトカインを、適切に改変されたオルソロガスな受容体を含めて哺乳類に投与することができる。投与は、ボーラスとしてまたは一定時間の連続的注入により、静脈投与とすることができる。代替の投与経路としては、筋内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑膜内、くも膜下、経口、外用、または吸入といった経路が挙げられる。オルソロガスなサイトカインはまた、腫瘍内、腫瘍周囲、病変内、もしくは病変周囲といった経路による投与、またはリンパ投与にも適しており、局所ならびに全身の治療効果を発揮する。
【0051】
そのような剤形には、本質的に非毒性及び非治療性である生理学的に許容される担体も含まれる。そのような担体の例としては、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質、たとえばヒト血清アルブミン、緩衝物質、たとえばリン酸緩衝液、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩、または電解質、たとえば硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイドシリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、及びPEGが挙げられる。ポリペプチドの外用またはゲルベース形態の担体としては、ポリサッカライド、たとえばナトリウムカルボキシメチルセルロースまたはメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリラート、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー、PEG、及びウッドワックスアルコールが挙げられる。投与はすべて、一般的なデポ形態が好適に用いられる。そのような形態としては、たとえば、マイクロカプセル、ナノカプセル、リポソーム、プラスター、吸入形態、鼻スプレー、舌下錠剤、及び徐放性調製剤が挙げられる。ポリペプチドは一般にそのようなビヒクル中約0.1μg/ml~100μg/mlの濃度で製剤される。
【0052】
本開示のオルソログIL-2ポリペプチドが「実質的に純粋」である場合、対象とするポリペプチド、たとえばオルソログIL-2アミノ酸配列を含むポリペプチドの少なくとも約60重量%(乾燥重量)であってもよい。たとえば、ポリペプチドは、対象とするポリペプチドの少なくとも約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、または約99%(いずれも重量%)であってもよい。純度はあらゆる適切な標準的方法、たとえば、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析により測定できる。
【0053】
本発明の別の実施形態では、上述の状態の治療に有用な物を収容する製造物品が提供される。製造物品は、容器及びラベルを含んでいる。好適な容器としては、たとえば、瓶、バイアル、シリンジ、及び試験管が挙げられる。容器はガラスやプラスチックなど様々な材料で作製することができる。容器には、状態の治療に有効な組成物が収容され、滅菌アクセスポートがついている場合もある(たとえば容器は点滴液のバッグまたはバイアルであってもよく、皮下注射針で貫通可能なストッパーがついている)。組成物中の活性剤はオルソロガスなサイトカインである。容器のまたは容器関連のラベルは、組成物が、選択された状態の治療用であることを示している。たとえば製薬上許容されるバッファー、たとえばリン酸緩衝食塩水、リンゲル液、またはデキストロース溶液を収容することができるさらなる容器(複数可)が製造物品とともに提供される場合もある。製造物品はさらに、商業的に及びユーザの立場から望ましい他の物、たとえば他のバッファー、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、及び使用説明を記載した添付文書などを含む場合もある。
【0054】
本明細書でポリペプチドまたはDNA配列に関して用いられる「同一性」という用語は、2つの分子間のサブユニット配列の同一性を指す。両方の分子で、あるサブユニット位置を同じモノマーサブユニット(たとえば同じアミノ酸残基またはヌクレオチド)が占めている場合、それらの分子はその位置において同一である。2つのアミノ酸または2つのヌクレオチド配列間の類似性は、同一位置数の直接的な関数である。一般に、最も高い一致率が得られるように配列を整列させる。必要に応じ、公表されている技法及び広く利用可能なコンピュータープログラム、たとえばGCSプログラムパッケージ(Devereux et al.,Nucleic Acids Res.12:387,1984)、BLASTP、BLASTN、FASTA(Atschul et al.,J.Molecular Biol.215:403,1990)を用いて同一性を計算することができる。配列同一性は、配列分析ソフトウェア、たとえばウィスコンシン大学バイオテクノロジーセンター(1710 University Avenue,Madison,Wis.53705)の遺伝学コンピューターグループの配列分析ソフトウェアパッケージを用い、そのデフォルトのパラメーターで測定することができる。
【0055】
「ポリペプチド」、「タンパク質」または「ペプチド」という用語は、その長さまたは翻訳後修飾(たとえばグリコシル化またはリン酸化)に関わらずアミノ酸残基のあらゆる鎖を指す。
【0056】
本明細書では「タンパク質バリアント」または「バリアントタンパク質」または「バリアントポリペプチド」とは、少なくとも1つのアミノ酸修飾によって野生型タンパク質とは異なるタンパク質を意味する。親ポリペプチドは、自然発生または野生型(WT)ポリペプチドの場合もあるし、またはWTポリペプチドの修飾バージョンの場合もある。バリアントポリペプチドは、ポリペプチド自体、ポリペプチドを含む組成物、またはそれをコードするアミノ配列を指す場合もある。好ましくは、バリアントポリペプチドは親ポリペプチドと比べて少なくとも1つのアミノ酸修飾を有し、たとえば親と比べて約1~約10アミノ酸修飾、好ましくは約1~約5アミノ酸修飾を有する。
【0057】
本明細書では、「親ポリペプチド」、「親タンパク質」、「前駆ポリペプチド」、または「前駆タンパク質」とは、バリアントを生成するために後に修飾される未修飾ポリペプチドを意味する。親ポリペプチドは、野生型(または未変性)ポリペプチド、または野生型ポリペプチドのバリアントもしくは改変バージョンの場合がある。親ポリペプチドは、ポリペプチド自体、親ポリペプチドを含む組成物、またはそれをコードするアミノ酸配列を指す場合もある。
【0058】
本明細書では、「野生型」または「WT」または「未変性(天然)」とは、対立遺伝子バリエーションも含め自然界で見られるアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を意味する。WTタンパク質、ポリペプチド、抗体、免疫グロブリン、IgG等は、意図的に修飾されていないアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を有する。
【0059】
「レシピエント」、「個体」、「対象」、「宿主」、及び「患者」は本明細書では交換可能に用いられ、診断、治療、または治療が望ましいあらゆる哺乳類対象、特にヒトを指す。治療目的での「哺乳類」は、哺乳類として分類されるあらゆる動物、たとえばヒト、飼育下動物や家畜、及び動物園、競技用、またはペットの動物、たとえばイヌ、ウマ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等を指す。好ましくは、哺乳類はヒトである。
【0060】
本明細書では、「治療有効量」は、治療剤、たとえば養子T細胞と直交性サイトカインの併用剤の、疾患または障害を治療または管理するために十分な量を指す。治療有効量は、疾患の発症を遅らせるかまたは最小限化する、たとえば癌の拡大を遅らせるかまたは最小限化するために十分な治療剤の量、または対象とする受容体からのシグナル伝達を減少または増加させるために有効な量を指すことができる。治療有効量はまた、疾患の治療または管理の治療効果を提供する治療剤の量を指す場合もある。さらに、本発明の治療剤に関しての治療有効量は、疾患の治療または管理の治療効果を提供する治療剤単独の量、または他の治療剤との併用での量を意味する。
【0061】
本明細書では、「防止(予防)する」、「防止(予防)すること」、及び「防止(予防)」という用語は、予防剤または治療剤投与の結果として、対象における障害の1つ以上の症状の再発または発症を阻止することを指す。
【0062】
本明細書では、「併用で(組み合わせて)」という用語は、2種以上の予防剤及び/または治療剤の使用を指す。「併用で(組み合わせて)」という用語の使用は、予防剤及び/または治療剤が障害を有する対象に投与される順番を制限しない。第1の予防剤または治療剤は、第2の予防剤または治療剤を障害を有する対象に投与する前(たとえば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週、2週、3週、4週、5週、6週、8週、または12週前)、同時に、または後(たとえば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週、2週、3週、4週、5週、6週、8週、または12週後)に投与することができる。
【0063】
本明細書では、「癌」(または「癌性」)、「過剰増殖の」、及び「新生物の」という用語は、自律増殖の能力をもつ細胞(たとえば急増する細胞増殖により特徴付けられる異常な状態または状況)を指す。過剰増殖及び新生物の疾患状態は、病的分類(たとえば、疾患状態を特徴付けるかまたは構成する)、または非病的分類(たとえば、正常からは逸脱するが疾患状態との関連はない)とされ得る。これらの用語は、病理組織学的タイプまたは浸潤ステージに関わらず、全タイプの癌性増殖または発癌過程、転移性組織、または悪性化した細胞、組織、もしくは器官を含む。「病的過剰増殖する」細胞は、悪性腫瘍増殖により特徴付けられる疾患状態で発生する。非病的過剰増殖細胞の例としては、傷修復関連の細胞増殖が挙げられる。「癌」または「新生物」という用語は、肺、乳房、甲状腺、リンパ腺及びリンパ組織、消化器官、及び尿生殖器に影響を及ぼすものを含む様々な器官系の悪性病変、ならびにほとんどの結腸癌、腎細胞癌、前立腺癌及び/または精巣腫瘍、肺の非小細胞癌、小腸癌、及び食道癌などの悪性病変を含むと一般に考えられている腺癌を指すために用いられる。
【0064】
「細胞癌」という用語は、当業界で認識されており、呼吸器系細胞癌、消化器系細胞癌、尿生殖器系細胞癌、精巣細胞癌、乳房細胞癌、前立腺細胞癌、内分泌系細胞癌、及び黒色腫を含む上皮または内分泌組織の悪性病変を指す。「腺癌」は、腺組織由来の、または腫瘍細胞が識別可能な腺構造を形成している癌を指す。
【0065】
腫瘍細胞の例としては、限定ではないが、AML、ALL、CML、副腎皮質癌、肛門癌、再生不良性貧血、胆管癌、膀胱癌、骨癌、骨転移、脳癌、中枢神経系(CNS)癌、末梢神経系(PNS)癌、乳癌、子宮頚癌、小児非ホジキンリンパ腫、結腸直腸癌、子宮内膜癌、食道癌、ユーイング腫瘍ファミリー(たとえばユーイング肉腫)、眼癌、胆嚢癌、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍、妊婦性絨毛性疾患、ホジキンリンパ腫、カポジ肉腫、腎臓癌、喉頭下咽頭癌、肝臓癌、肺癌、肺カルチノイド腫瘍、非ホジキンリンパ腫、男性乳癌、悪性中皮腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、骨髄増殖性疾患、鼻腔副鼻癌、鼻咽頭癌、神経芽細胞種、口腔及び中咽頭癌、骨肉腫、卵巣癌、膵臓癌、陰茎癌、下垂体腫瘍、前立腺癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺癌、肉腫、メラノーマ皮膚癌、非メラノーマ皮膚癌、胃癌、精巣癌、胸腺癌、甲状腺癌、子宮癌(たとえば子宮肉腫)、移行上皮癌、膣癌、外陰癌、中皮腫、扁平上皮癌または類表皮癌、気管支腺腫、繊毛癌、頭部頚部癌、奇形癌、またはワルデンストローム高ガンマグロブリン血症が挙げられる。癌細胞が非癌細胞と比べて高いCD47発現率を示すあらゆる癌は、本方法及び組成物による治療に適した癌である。
【0066】
他の実施形態では、本発明の方法は、感染症の治療に用いられる。本明細書では、「感染(症)」という用語は、ある生物(すなわち対象)の少なくとも1つの細胞が感染病原体に感染しているあらゆる状態(たとえば対象は細胞内病原体感染、たとえば慢性的細胞内病原体感染を有する)を指す。本明細書では、「感染病原体」という用語は、感染した生物の少なくとも1つの細胞でCD47発現率の上昇を誘発する外来生物体(すなわち病原体)を指す。たとえば、感染病原体としては、限定ではないが、細菌、ウイルス、原生生物、及び菌が挙げられる。特に重要なのは細胞内病原体である。感染性疾患は、感染病原体を原因とする障害である。一部の感染病原体は、認識できる症状や疾患を特定条件下では引き起こさないが、条件が変われば症状や疾患を引き起こす潜在性がある。本方法は、慢性病原体感染、たとえば限定ではないが、ウイルス感染、たとえばレトロウイルス、レンチウイルス、ヘパドナウイルス、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、ヒトパピローマウイルス等、細胞内細菌感染、たとえばMycobacterium、Chlamydophila、Ehrlichia、Rickettsia、Brucella、Legionella、Francisella、Listeria、Coxiella、Neisseria、Salmonella、Yersinia sp、Helicobacter pylori等、及び細胞内原生生物病原体、たとえばPlasmodium sp、Trypanosoma sp.、Giardia sp.、Toxoplasma sp.、Leishmania sp.等などの治療に用いることができる。
【0067】
さらに他の実施形態では、制御性T細胞が自己免疫疾患の治療用に改変される。感染性疾患及び感染に伴う疾患の範囲は広く、自己免疫疾患、たとえば関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性硬化症(MS)、及び自己免疫性肝炎、インスリン依存性糖尿病、変性疾患、たとえば変形性関節症(OA)、アルツハイマー病(AD)、及び黄斑変性症なども含まれる。
【0068】
ほとんどではないにせよ、多くの自己免疫及び炎症性疾患には、複数のタイプのT細胞、たとえばTH1、TH2、TH17等が関与している。自己免疫疾患は、自己タンパク質、自己ポリペプチド、自己ペプチド、及び/または他の自己分子を異常に標的とするTリンパ球及びBリンパ球を特徴とし、その結果として体内の器官、組織、または細胞種(たとえば、膵臓、脳、甲状腺、または消化器官)に損傷及び/または機能不全が生じて、疾患の臨床的顕現がもたらされる。自己免疫疾患には、特定の組織に影響を及ぼす疾患だけでなく、複数の組織に影響を及ぼし得る疾患も含まれるが、それは部分的には、応答が特定の組織に限定される抗原に対するものか、それとも体内に広く分布する抗原に対するものかにもよる。
【0069】
組成物及び方法
改変された直交性サイトカイン受容体/リガンドペア、及びその使用方法を提供する。改変された(直交性)サイトカインは、カウンターパートの改変された(直交性)受容体に特異的に結合する。結合すると、直交性受容体はシグナル伝達を活性化させ、これが未変性の細胞エレメントを通じて伝わって、天然の応答を模倣する生物学的活性をもたらすが、それは直交性受容体を発現している改変された細胞に特異的である。直交性受容体は、直交性サイトカインの未変性カウンターパートも含めて内在性カウンターパートサイトカインには結合せず、直交性サイトカインは、直交性受容体の未変性カウンターパートも含めてどの内在性受容体にも結合しない。いくつかの実施形態では、直交性サイトカインの直交性受容体に対する親和性は、未変性サイトカインの未変性受容体に対する親和性に匹敵する。
【0070】
直交性サイトカインと受容体とのペアは、対象となるどのサイトカインから選択してもよい。直交性サイトカイン受容体ペアを作製する方法は、(a)未変性サイトカインへの結合を阻害するために、未変性受容体にアミノ酸の変更を導入すること、(b)未変性サイトカインの受容体と結合する接触残基にアミノ酸の変更を導入すること、(c)オルソロガスな受容体に結合するサイトカインオルソログを選択すること、(d)未変性受容体に結合するオルソログサイトカインを廃棄すること、または、(e)オルソログサイトカインに結合する受容体オルソログを選択すること、(f)未変性サイトカインに結合するオルソログ受容体を廃棄すること、の各ステップを含むことができる。好ましい実施形態では、サイトカイン/受容体複合体の構造に関する知識を用いて、部位特異的またはエラープローン変異誘発のアミノ酸位置を選択する。この選択方法には酵母提示系を便利に用いることができるが、他の提示及び選択方法も有用である。
【0071】
場合によっては、アミノ酸の変更は親和性成熟により得られる。「親和性成熟」ポリペプチドは、1つ以上の残基に1つ以上の変更を有するポリペプチドであって、その結果としてオルソロガスなポリペプチドの同族のオルソロガスな受容体に対する(またはその逆)親和性が、そのような改変(複数可)をもたない親ポリペプチドよりも改良されている。親和性成熟は、結合親和性が、「親」ポリペプチドと比べて少なくとも約10%~50~100~150%もしくはそれ以上増加するか、または1~5倍となるように、なされる場合がある。
【0072】
本発明の改変されたオルソロガスなサイトカインは、オルソロガスな受容体の1つ以上の残基または領域に特異的に結合するが、野生型受容体との交差反応性はない。一般に、交差反応性の欠如は、好適なアッセイ条件下で十分な量の分子を用いてELISA及び/またはFACS分析で評価すると、分子間の相対的な競合的阻害が約5%未満であることを意味する。
【0073】
本発明のいくつかの実施形態では、直交性受容体はIL-2受容体の鎖、すなわちインターロイキン2受容体アルファ(IL-2Rアルファ、CD25)、インターロイキン2受容体ベータ(IL-2Rβ、CD122)、及びインターロイキン2受容体ガンマ(IL-2Rγ、CD132、共通ガンマ鎖)から選択されるポリペプチドである。いくつかの特定の実施形態では、直交性受容体はCD132であり、IL-2、IL-4、IL-7、及びIL-15からのシグナル伝達に関与している。他の特定の実施形態では、直交性受容体はCD122であり、IL-2及びIL-15からのシグナル伝達に関与している。直交性受容体は普通、カウンターパートの直交性サイトカイン、たとえばIL-2、IL-4、IL-7、IL-15等とペアにされる。
【0074】
いくつかの特定の実施形態では、直交性受容体はCD122である。いくつかのそのような実施形態では、直交性受容体が、CD25及び/またはCD132も発現し得るT細胞またはNK細胞に導入される。修飾CD122タンパク質の核酸コード配列及びタンパク質組成物が提供される。本発明では、CD122は、未変性配列のアミノ酸を非未変性アミノ酸で置換することで、または未変性IL-2への結合に関与している位置の未変性アミノ酸を削除することで、未変性サイトカインの結合を阻害するように改変されている。いくつかの実施形態では、アミノ酸は非保存的変更で置換されている。置換または削除の対象となる位置としては、限定ではないが、ヒトCD122(hCD122)ではR41、R42、Q70、K71、T73、T74、V75、S132、H133、Y134、F135、E136、Q214がある。置換または削除の対象となる位置としては、限定ではないが、マウスCD122(mCD122)ではR42、F67、Q71、S72、T74、S75、V76、S133、H134、Y135、I136、E137、R215がある。
【0075】
いくつかの実施形態では、CD122が、マウスタンパク質ではQ71、T74、H134、Y135から選択される位置の1つまたは組合せで置換されており、あるいはヒトタンパク質ではQ70、T73、H133、Y134から選択される位置の1つまたは組合せで置換されている。いくつかの実施形態では、改変されたタンパク質は、mCD122 H134及びY135、またはhCD122 H133及びY134にアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態では、アミノ酸置換は、酸性アミノ酸、たとえばアスパラギン酸及び/またはグルタミン酸への置換である。具体的なアミノ酸置換としては、限定ではないが、mCD122の置換Q71Y、T74D、T74Y、H134D、H134E、H134K、Y135F、Y135E、Y135R、及びhCD122の変更Q70Y、T73D、T73Y、H133D、H133E、H133K、Y134F、Y134E、Y134Rが挙げられる。オルソロガスなサイトカインの選択は、オルソロガスな受容体の選択によって異なる。
【0076】
オルソロガスな受容体がCD122であるいくつかの実施形態では、オルソロガスなサイトカインはIL-2またはIL-15である。サイトカインは、たとえば酵母提示進化、エラープローンまたは標的変異誘発等によって、オルソロガスな受容体への結合に関して選択される場合がある。選択された代表的なオルソロガス配列セットを図6に示す。
【0077】
いくつかの実施形態では、直交性サイトカインはIL-2である。いくつかの実施形態では、マウスIL-2(mIL-2)についてはH27、L28、E29、Q30、M33、D34、Q36、E37、R41、N103のいずれか、ヒトIL-2(hIL-2)についてはQ13、L14、E15、H16、L19、D20、Q22、M23、G27、N88のいずれかのアミノ酸残基のうちの1つ以上が、未変性タンパク質のものではないアミノ酸で置換されているか、またはその位置で削除されている。いくつかのそのような実施形態では、アミノ酸置換のセットは、(mIL-2については)E29、Q30、M33、D34、Q36、及びE37のうちの1つ以上から、hIL-2についてはE15、H16、L19、D20、Q22、M23のうちの1つ以上から選択される。
【0078】
いくつかの実施形態では、mIL-2のアミノ酸置換は、[H27W]、[L28M、L28W]、[E29D、E29T、E29A]、[Q30N]、[M33V、M33I、M33A]、[D34L、D34M]、[Q36S、Q36T、Q36E、Q36K、Q36E]、[E37A、E37W、E37H、E37Y、E37F、E37A、E37Y]、[R41K、R41S]、[N103E、N103Q]のうちの1つ以上であり、hIL-2のアミノ酸置換は、[Q13W]、[L14M、L14W]、[E15D、E15T、E15A]、[H16N]、[L19V、L19I、L19A]、[D20L、D20M]、[Q22S、Q22T、Q22E、Q22K、Q22E]、[M23A、M23W、M23H、M23Y、M23F、M23A、M23Y]、[G27K、G27S]、[N88E、N88Q]のうちの1つ以上である。いくつかの実施形態では、アミノ酸置換のセットは、mIL-2については[Q30N、M33V、D34N、Q36T、E37H、R41K]、[E29D、Q30N、M33V、D34L、Q36T、E37H]、[E29D、Q30N、M33V、D34L、Q36T、E37A]、及び[E29D、Q30N、M33V、D34L、Q36K、E37A]の置換セットのうちの1つ、またはその保存的バリアントを含み、hIL-2については[H16N、L19V、D20N、Q22T、M23H、G27K]、[E15D、H16N、L19V、D20L、Q22T、M23H]、[E15D、H16N、L19V、D20L、Q22T、M23A]、及び[E15D、H16N、L19V、D20L、Q22K、M23A]の置換セットのうちの1つ、またはその保存的バリアントを含む。
【0079】
いくつかの実施形態では、hIL-2のアミノ酸置換は[E15S、E15T、E15Q、E15H]、[H16Q]、[L19V、L19I]、[D20T、D20S、D20M、D20L]、[Q22K、Q22N]、[M23L、M23S、M23V、M23T]のうちの1つ以上である。いくつかの実施形態では、hIL-2の変異のコンセンサスセットは、[E15S、H16Q、L19V、D20T/S/M、Q22K、M23L/S]である。いくつかの実施形態では、アミノ酸置換のセットは、hIL-2については、[E15S、H16Q、L19V、D20T/S、Q22K、M23L/S]、[E15S、H16Q、L19I、D20S、Q22K、M23L]、[E15S、L19V、D20M、Q22K、M23S]、[E15T、H16Q、L19V、D20S、M23S]、[E15Q、L19V、D20M、Q22K、M23S]、[E15Q、H16Q、L19V、D20T、Q22K、M23V]、[E15H、H16Q、L19I、D20S、Q22K、M23L]、[E15H、H16Q、L19I、D20L、Q22K、M23T]、[L19V、D20M、Q22N、M23S]の置換セットのうちの1つを含む。
【0080】
治療方法
レシピエントまたはドナーからの細胞を、本発明のオルソロガスな受容体の導入によって改変し、改変された細胞を同族のオルソロガスなサイトカインと接触させることにより該オルソロガスな受容体を刺激することによって、細胞応答を高める方法を提供する。本方法には、標的細胞、たとえばT細胞、造血幹細胞等を得るステップが含まれ、該細胞は生体検体から単離してもよいし、または前駆細胞ソースからインビトロで誘導してもよい。細胞は、オルソロガスな受容体をコードする配列を含む発現ベクターにより形質導入またはトランスフェクトされ、このステップは任意の好適な培養培地で実施することができる。
【0081】
いくつかの実施形態では、改変された細胞が提供され、該細胞は本発明のオルソロガスな受容体の導入により修飾されている。この目的にはあらゆる細胞を用いることができる。いくつかの実施形態では、細胞はT細胞であり、限定ではないが、ナイーブCD8+ T細胞、細胞毒性CD8+ T細胞、ナイーブCD4+ T細胞、ヘルパーT細胞、たとえばTH 1、TH 2、TH 9、TH 11、TH 22、TFH、制御性T細胞、たとえばTR 1、天然TReg 、誘導性TReg、メモリーT細胞、たとえばセントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、NKT細胞、γδT細胞等が挙げられる。他の実施形態では、改変された細胞は、幹細胞、たとえば造血幹細胞、またはNK細胞である。いくつかの実施形態では、細胞は、対象に移植される前にエクスビボの手順により遺伝子修飾されている。改変された細胞は、治療のために単位用量で提供することができ、所期のレシピエントと同種、自家等の場合もある。
【0082】
いくつかの実施形態では、直交性受容体をコードするコード配列を含むベクターが提供され、該コード配列は、所望の細胞内で活性があるプロモーターに機能的に連結されている。当業界では様々なベクターが知られており、この目的に使用することができる。たとえばウイルスベクター、プラスミドベクター、小円ベクターがあり、これらのベクターは標的細胞ゲノムに組み込むこともできるし、またはエピソームとして維持することもできる。受容体をコードするベクターは、該受容体に結合して活性化させるオルソロガスなサイトカインをコードするベクターと一緒に、キットとして提供される場合もある。いくつかの実施形態では、オルソロガスなサイトカインのコード配列は高発現プロモーターに機能的に連結されており、生産が最適化されることもある。他の実施形態ではキットが提供され、該キットでは、オルソロガスな受容体をコードするベクターが、オルソロガスなサイトカインの精製組成物と一緒に提供され、患者に投与できるようにたとえば単位用量で包装されている。
【0083】
いくつかの実施形態では、治療方法が提供され、該方法には該方法を必要とするレシピエントに改変された細胞集団を導入することが含まれ、該細胞集団は本発明のオルソロガスな受容体をコードする配列の導入によって修飾されている。この細胞集団は、エクスビボで改変することができ、普通はレシピエントと同種または自家性である。いくつかの実施形態では、改変された細胞の投与後、導入された細胞集団は同族のオルソロガスなサイトカインとインビボで接触する。本発明の一利点は、オルソロガスなサイトカインと未変性受容体の間に交差反応性がないことである。
【0084】
細胞をオルソロガスなサイトカインとインビトロで接触させる場合、サイトカインを、受容体からのシグナル伝達の活性化に十分な量で及び十分な時間にわたり、改変された細胞に加えるが、これには未変性の細胞機構、たとえばアクセサリータンパク質、及び共受容体等を用いることができる。あらゆる好適な培養培地を使用することができる。こうして活性化された細胞を、抗原特異性の決定、サイトカインのプロファイリング等に関する実験的目的も含めてあらゆる所望の目的に、及びインビボ送達にも用いることができる。
【0085】
接触がインビボで実施される場合、有効量の改変された細胞を、オルソロガスなサイトカインの投与と一緒またはその前に、レシピエントに注入する。用量と頻度とは剤、投与モード、サイトカインの性質等により異なり得る。当業者であれば、そうしたガイドラインは個別の状況に合わせて調節されることを理解しよう。用量はまた、局所投与、たとえば鼻内、吸入等か、それとも全身投与、たとえばi.m.、i.p.、i.v.等かによっても異なる場合がある。一般に、少なくとも約104 個の改変された細胞/kgが投与され、少なくとも約105 個の改変された細胞/kg、少なくとも約106 個の改変された細胞/kg、少なくとも約107 個の改変された細胞/kg、またはそれ以上が投与される。
【0086】
改変された細胞がT細胞である場合、免疫応答の増強は、レシピエント中に存在する標的細胞に対するT細胞の細胞溶解応答の増加(たとえば腫瘍細胞や感染細胞の排除に向けての)、及び自己免疫疾患の症状の低減等として顕現する場合がある。
【0087】
細胞組成物
改変されたT細胞は、治療用の、たとえばヒトの治療に好適な、医薬組成物中で提供することができる。そのような細胞を含む治療製剤は、凍結される場合もあるし、または生理学的に許容される担体、賦形剤、または安定剤と一緒に水溶液として調製され投与される場合もある(Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980))。細胞は、然るべき医療行為に即して製剤され、処方され、投与される。この場合に考慮すべき要素としては、治療対象である特定の障害、治療対象である特定の哺乳類、患者個人の臨床的状態、障害の原因、剤の送達部位、投与方法、投与スケジュール、及び医療従事者には既知のその他の要素が挙げられる。
【0088】
細胞は、任意の好適な手段により投与することができ、普通は非経口的に投与される。非経口的注入としては、筋内、静脈内(ボーラスまたは緩徐な滴下)、動脈内、腹腔内、くも膜下腔内、または皮下の投与が挙げられる。
【0089】
好ましい形態は、所期の投与モード及び治療用途による。組成物は、所望の製剤にもよるが、製薬上許容される非毒性担体または希釈剤を含むこともでき、これらは動物またはヒトに投与される医薬組成物の処方に広く用いられるビヒクルとして定義される。希釈剤は、混合物の生物学的活性に影響しないように選択される。そのような希釈剤の例としては、蒸留水、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、及びHank溶液が挙げられる。さらに、医薬組成物または製剤は、他の担体、アジュバント、または非毒性、非治療性、非免疫原性の安定剤等を含むこともできる。
【0090】
さらにいくつかの他の実施形態では、医薬組成物は、タンパク質などの大きなゆっくりと代謝するマクロ分子、キトサンなどのポリサッカライド、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、及びコポリマー(たとえばラテックス官能化セファロース(登録商標)、アガロース、セルロース等)、重合アミノ酸、アミノ酸共重合体、及び脂質凝集塊(たとえば油滴またはリポソーム)を含むこともできる。
【0091】
許容される担体、賦形剤、または安定剤は、用いられる用量及び濃度でレシピエントに対し非毒性であり、バッファー、たとえばリン酸バッファー、クエン酸バッファー、及び他の有機酸、アスコルビン酸及びメチオニンといった抗酸化剤、保存料(たとえば塩化アンモニウムオクタデシイジメチルベンジル、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェノール、ブチル、またはベンジルアルコール、アルキルパラベン、たとえばメチルまたはプロピルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノール、及びm-クレゾール)、低分子量(約10残基未満の)ポリペプチド、タンパク質、たとえば血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン、親水性ポリマー、たとえばポリビニルピロリドン、アミノ酸、たとえばグリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジン、モノサッカライド、ジサッカライド、及びグルコース、マンノース、またはデキストリンといった他の糖、キレート化剤、たとえばEDTA、糖、たとえばスクロース、マンニトール、トレハロース、またはソルビトール、塩を形成する対イオン、たとえばナトリウム、金属錯体(たとえば、Zn-タンパク質錯体)、及び/または非イオン性界面活性剤、たとえばTWEEN(登録商標)、PLURONICS(登録商標)またはポリエチレングリコール(PEG)が挙げられる。インビボ投与用の製剤は無菌でなくてはならない。このことは、滅菌濾過メンブレンで濾過することにより容易に実現できる。
【0092】
一般に、組成物は液体溶液または懸濁液の注射液として調製されるが、注射前に液体ビヒクル中溶液または懸濁液とするために好適な固体として調製することもできる。調製物はまた、乳剤とするか、あるいはリポソームまたはマイクロ粒子、たとえばポリ乳酸、ポリグリコリド、もしくはコポリマーに封入して、上述したようにアジュバント効果を高めることもできる。Langer,Science 249:1527,1990及びHanes,Advanced Drug Delivery Reviews 28:97-119,1997。本発明の剤は、デポ注射として、または移植調製物として投与することができ、その場合は活性成分が持続的または拍動的に放出されるように製剤することができる。医薬組成物は一般に、無菌、実質的に等張性であり、及び米国食品医薬品局のGood Manufacturing Practice(GMP)のすべての規則に則り製剤される。
【0093】
キット
本方法で使用されるキットも提供する。このキットには、オルソロガスなサイトカイン受容体をコードする発現ベクター、または該発現ベクターを含む細胞が含まれる。キットはさらに、同族のオルソロガスなサイトカインを含む場合もある。いくつかの実施形態では、これらの構成要素が、任意の便利な包装(たとえば、スティック状包装、用量包装等)の液体または固体の剤形(たとえば治療有効剤形)として提供される。たとえば増殖因子、分化因子、組織培養試薬等、細胞の選択またはインビトロ誘導のための試薬も提供される場合がある。
【0094】
上述の構成要素に加えて、本キットはさらに、(特定の実施形態では)本方法を実施するための使用説明を含む場合がある。これらの使用説明は、本キットにおいて様々な形態で存在することができ、キットには1つ以上の使用説明が存在することができる。こうした使用説明がとり得る1つの形態は、好適な媒体または支持体に印刷された情報であり、たとえば、情報が印刷された1枚以上の紙が添付文書等としてキットの包装に入っている。このような使用説明のさらに別の形態は、コンピューターで読み取り可能な媒体、たとえばディスケット、コンパクトディスク(CD)、フラッシュドライブ等があり、これに情報が記録されている。このような使用説明が存在し得るさらに別の形態は、ウェブサイトのアドレスであり、インターネットを通じて利用して、遠隔地から情報にアクセスすることができる。
【0095】
いくつかの実施形態では、本組成物、方法、及びキットは、T細胞媒介性免疫応答を高めるために用いられる。いくつかの実施形態では、免疫応答は、標的細胞、たとえば癌細胞、感染細胞、自己免疫疾患関連の免疫細胞等を枯渇させるかまたは制御することが望ましい状態へと向けられる。
【0096】
いくつかの実施形態では、該状態は、慢性感染、すなわち1週間や2週間まで等のうちに宿主の免疫系により除去されない感染である。場合によっては、慢性感染では、たとえばレトロウイルス、レンチウイルス、B型肝炎ウイルス等の病原体の遺伝子エレメントが宿主ゲノムに組み込まれることもある。他の場合には、慢性感染は、たとえば特定の細胞内細菌または原生生物病原体など、宿主細胞内に生息する病原体細胞が原因となっている。さらに、いくつかの実施形態では、感染は、ヘルペスウイルスまたはヒトパピローマウイルスのように、潜在期にある。
【0097】
対象となるウイルス病原体としては、限定ではないが、レトロウイルス及びレンチウイルス病原体、たとえばHIV-1、HIV-2、HTLV、FIV、SIV等が挙げられる。B型肝炎ウイルス、等。対象となる微生物は、限定ではないが、Yersinia sp.、たとえばY. pestis、Y. pseudotuberculosis、Y enterocolitica、Franciscella sp.、Pasturella sp.、Vibrio sp.、たとえばV. cholerae、V. parahemolyticus、Legionella sp.、たとえばL. pneumophila、Listeria sp.、たとえばL. monocytogenes、Mycoplasma sp.、たとえばM. hominis、M. pneumoniae、Mycobacterium sp.、たとえばM. tuberculosis、M. leprae、Rickettsia sp.、たとえばR. rickettsii、R. typhi、Chlamydia sp.、たとえばC. trachomatis、C. pneumoniae、C. psittaci、Helicobacter sp.、たとえばH. pylori等が挙げられる。また、細胞内原生生物病原体、たとえばPlasmodium sp、Trypanosoma sp.、Giardia sp.、Toxoplasma sp.、Leishmania sp.等も挙げられる。
【0098】
本発明の方法で治療される感染には、一般に、少なくとも生活環の一部が宿主細胞内にある、すなわち細胞内期の病原体が関与している。本発明の方法は、宿主生物のTエフェクター細胞による感染細胞の殺傷を、治療不在下での除去よりも有効なものとし、したがって病原体の生活環のうちの細胞内期に向けられる。本方法はさらに、治療の有効性について患者をモニタリングすることを含む場合がある。モニタリングは、感染の臨床的徴候、たとえば熱、白血球数等の測定であってもよいし、及び/または病原体の存在についての直接的なモニタリングでもよい。
【0099】
治療は、他の活性剤と併用することができる。抗生物質の分類としては、ペニシリン、たとえばペニシリンG、ペニシリンV、メチシリン、オキサシリン、カルベニシリン、ナフシリン、アンピシリン等、βラクタマーゼ阻害剤、セラフォスポリン、たとえばセファクロル、セファゾリン、セフロキシム、モキサラクタム等と併用でのペニシリン、カルバペネム、モノバクタム、アミノグリコシド、テトラサイクリン、マクロライド、リンコマイシン、ポリミキシン、スルホンアミド、キノロン、クロラムフェニコール、メトロニダゾール、スペクチノマイシン、トリメトプリム、バンコマイシン等が挙げられる。サイトカイン、たとえばインターフェロンγ、腫瘍壊死因子α、インターロイキン12等も含まれる場合がある。抗ウイルス剤、たとえばアシクロビル、ガンシクロビル等も治療に用いることができる。
【0100】
いくつかの実施形態では、状態は癌である。本明細書では「癌」という用語は、異常な、非制御下の細胞増殖を原因とする様々な状態を指す。癌の原因となり得る細胞は「癌細胞」と呼ばれ、非制御下の増殖、不死性、転移可能性、急速な増殖及び増殖率、及び/または特定の典型的な形態特徴などの特徴的な性質をもつ。癌は多数の方法、たとえば限定ではないが、1つまたは複数の腫瘍の存在の(たとえば臨床的または放射線的手段による)検出、腫瘍内細胞または他の生体検体からの(たとえば組織生検からの)細胞の検査、癌の指標となる血中マーカーの測定、及び癌の指標となる遺伝子型の検出のうちのどれで検出してもよい。しかし、これらの検出方法の1つ以上で陰性結果が出た場合でも、必ずしも癌の不存在を示すわけではない。たとえば、癌治療が完全に奏功した患者でもまだ癌があって、後に再発のエビデンスがある場合もある。
【0101】
本明細書では「癌」という用語には、細胞癌(たとえば、インサイツの細胞癌、浸潤性細胞癌、転移性細胞癌)及び前悪性状態、すなわち組織的起点とは無関係の新形態変化も含まれる。「癌」という用語は、罹患組織または細胞凝集のいかなるステージ、グレード、組織形態学的特性、浸潤性、進行性、または悪性度にも限定されない。特に、ステージ0癌、ステージI癌、ステージII癌、ステージIII癌、ステージIV癌、グレードI癌、グレードII癌、グレードIII癌、悪性癌、及び原発細胞癌が含まれる。
【0102】
本発明について丁寧に説明してきたので、当業者にとっては、本発明の精神または範囲を逸脱することなく様々な変更や変形を加えることができることは明らかであろう。
【0103】
実験
オルソロガスなIL-2及びIL-2Rβ
ここでは、エクスビボ養子細胞治療の設定で所望の細胞サブセットの選択的増殖を可能にする改変されたサイトカイン及び受容体が含まれる発明を説明する。この特定の発明は、サイトカインであるインターロイキン-2(IL-2)と、その受容体IL-2Rβ鎖(IL-2Rβ)とについて説明するが、これは養子細胞治療において特にT細胞の増殖を可能にするもので、したがって免疫治療において未だ満たされていない必要性に取り組むものである。本明細書で説明するこの手法は、細胞が特定の受容体-リガンドペアによって刺激を受けるあらゆる設定の養子細胞治療、たとえば骨髄移植や幹細胞移植、及び多くの他のモダリティーへと一般化することができる。
【0104】
直交性IL-2とIL-2Rβとのリガンド受容体ペアについて具体的に説明する。IL-2のオルソログバージョンとIL-2Rβのオルソログバージョンとは互いに特異的に結合するが、それぞれの野生型カウンターパートには結合しない。直交性IL-2Rβに対する親和性の程度が様々である複数の直交性IL-2バリアント配列を提供する。直交性IL-2Rβを発現するように改変されたT細胞の直交性IL-2依存性シグナル伝達及びT細胞増殖が示される。
【0105】
IL-2は、エフェクターT細胞と制御性T細胞との増殖を促進する能力がそれぞれ癌と自己免疫疾患の治療にとって魅力的な生物製剤である。しかし、IL-2のこの多面的性質ならびにオフターゲットな毒性により、その臨床的使用は限られている。IL-2の免疫刺激性と免疫阻害異性とを分離できれば、より優れた形態のIL-2免疫治療を提供することができる。
【0106】
本明細書では、直交性IL-2Rβを発現するように、T細胞を改変する能力を示す。これらの改変されたT細胞は、直交性IL-2に応答することが示され、その結果として下流のシグナル伝達分子(たとえばSTAT5)のリン酸化、及びT細胞の増殖がもたらされる。直交性IL-2の野生型T細胞に対する活性は、完全に抑制されるか、または野生型IL-2の活性と比べてかなり鈍化する。したがって、直交性IL-2/IL-2受容体ペアを用いての選択的T細胞増殖が示される。
【0107】
直交性IL-2/IL-2受容体ペアの用途としては、限定ではないが、癌治療用の腫瘍反応性細胞毒性T細胞の選択的増殖、感染性疾患及び/または癌用のNK細胞、ならびに自己免疫疾患用の制御性T細胞が挙げられる。
【0108】
IL-2Rβへの結合を阻害するが完全に除去するわけではない変異により、中間体(IL-2Rβ及びIL-2Rγ)または高親和性野生型IL-2受容体(IL-2Rα、Rβ、Rγ)に対する親和性が鈍化したIL-2バリアントはまた、たとえば自己免疫疾患の治療で、オルソログIL-2のIL-2Rα高細胞に対する活性を選択的に標的化するために有用である。IL-2Rβ鎖に対する親和性はないがIL-2Rαへの結合は保持しているので、高親和性IL-2R形成を阻害することにより野生型IL-2と競合するアンタゴニストとして作用するIL-2バリアントは、自己免疫疾患または移植片対宿主疾患の治療に有用である。
【0109】
直交性IL-2/IL-2受容体ペアを生成し利用してT細胞増殖を制御する全体的な概念を、図1に模式的に示す。図2は、構造情報に基づく変異誘発を用いて、野生型IL-2に結合しないIL-2Rβオルソログを生成するステップを含む、ワークフローを提供する。IL-2Rβの野生型IL-2への結合を阻害すると予測される変異を、酵母ベースのスクリーニングアッセイにより実験的に確認し、さらに精製組換えタンパク質を用いて表面プラズモン共鳴により実証する。この手法によって、野生型IL-2への結合を阻害するある数のIL-2Rβ点変異が説明され、これらの受容体バリアントはそれぞれ、オルソロガスな受容体として機能することができる。単独点変異を1つ、2つ、または3つ以上のさらなる点変異と組み合わせて、IL-2Rβオルソログのより大きなライブラリを作ることもできる。
【0110】
直交性マウスIL-2Rβバリアントの配列を図3に示す。これらの変異は、1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の点変異を有するIL-2Rβオルソログを生成するために、単独点変異として、または、組み合わせた変異が野生型IL-2の結合を阻害するならばあらゆる組合せで、用いることができる。
【0111】
図4は、野生型mIL-2の結合を抑制するアミノ酸の変更H134D、Y135Fを含むmIL-2Rβバリアントの特徴を示す。これらの2残基は、既知のIL-2相互作用のホットスポット(Ring A et al,Nat Immunol(2012)13:1187-95)であり、発明者らは表面プラズモン共鳴(SPR)により、これらの変異が野生型IL-2の結合を阻害することを確認した。
【0112】
図5は、直交性IL-2/IL-2Rβペアを作製するワークフローを示す。IL-2Rβ直交性オルソログアミノ酸残基の近傍のまたは接する残基を無作為化した、IL-2のオルソログライブラリを作製する。酵母提示により、オルソログIL-2Rβに結合するIL-2バリアントを選択し、野生型IL-2Rβに結合するクローンを廃棄する。この方法を部位特異的またはエラープローン変異誘発を用いて反復して、オルソログに対しては差異がある結合特性を有するが野生型IL-2Rβに対しては有さないIL-2バリアントを生成することができる。この手法により、発明者らは、1)酵母提示直交性IL-2バリアントのインタクトな構造完全性を示す、IL-2Rα鎖への結合を保持し(緑色の曲線)、2)直交性IL-2Rβに結合(オレンジ色の曲線)するが、3)野生型IL-2Rβには結合しない(青色の曲線)、IL-2オルソログのライブラリを作製した。
【0113】
特徴付けした直交性マウスIL-2バリアントの配列を図6に示す。マウスIL-2及びIL-2Rβ、ならびにヒトのカウンターパートのアラインメントを図15に示す。これらの4配列は、未変性すなわち野生型配列の基準を提供する。直交性マウスIL-2/IL-2Rβペアを作製するために改変されたアミノ酸残基は、ヒトではほぼ保存されている。したがって、直交性マウスIL-2及びIL-2Rβの配列は、容易にヒトIL-2及びIL-2Rβタンパク質に翻訳できる。
【0114】
図7に示すように、オルソIL-2バリアントは、野生型IL-2とIL-2Rβとの相互作用と同じかまたはそれよりも高い親和性で、オルソIL-2Rβに結合する。可溶性直交性IL-2または野生型IL-2タンパク質を、野生型またはオルソIL-2Rβでコーティングしたセンサーチップ上に流した。結合を表面プラズモン共鳴(SPR)により決定し、1:1結合モデルを用いて曲線を当てはめた。図8に示すように、オルソIL-2バリアントは、野生型CD25陽性及びCD25陰性脾細胞に対し鈍化した活性を示した(phosphoSTAT5)。
【0115】
オルソIL-2Rβ発現マウスCTLL-2 T細胞の生成を図9に示す。発明者らは、全長直交性受容体をコードする遺伝子をレンチウイルスにより導入して、直交性IL-2Rβ(オルソCTLL-2)を発現する不死化マウスT細胞株(CTLL-2)を作製した。形質導入細胞は、非形質導入細胞に対する毒素であるピューロマイシンにより選択され、野生型及び直交性IL-2Rβの両方を発現する安定したCTLL-2細胞株が得られた。この細胞株はCD25及びCD132も陽性であり、したがって高親和性IL-2受容体複合体を発現するT細胞を表している。細胞表面IL-2Rβ(CD122)を検出するために用いた抗体は、野生型とオルソIL-2Rβを区別しない。したがって、野生型とオルソIL-2Rβ CTLL-2細胞間の平均蛍光強度の増加は、これらの細胞が直交性受容体を発現することを示唆している。このことはさらに、これらの細胞が、オルソIL-2Rβの発現に用いたのと同じベクターによりコードされるピューロマイシンに対し耐性があることからも支持される。
【0116】
図10に示すように、第1のセットのオルソIL-2バリアントは、オルソT細胞に対して選択的である。直交性IL-2シグナル伝達を調べるために、発明者らは、無操作(野生型)の、または同じく直交性IL-2Rβ(オルソ)を発現するように形質導入されている、発明者らのCTLL-2細胞モデルを利用した。次いで野生型または様々な直交性IL-2クローンがSTAT5のリン酸化を誘導する能力を決定した(IL-2依存性シグナル伝達の定量的読み出し)。発明者らは、野生型細胞と比べて、直交性IL-2Rβ発現細胞で選択的STAT5リン酸化を誘導するある数の直交性IL-2バリアントを特定した。選択クローンの用量応答曲線を図11に示す。
【0117】
オルソIL-2Rβを発現するように改変(H134D Y135F)された初代リンパ節由来T細胞。発明者らの不死化マウスT細胞モデルに加えて、マウスリンパ節及び脾臓細胞を単離し、CD3/CD28により活性化させ、次いで全長直交性受容体をコードする遺伝子をレトロウイルスにより導入して、オルソIL-2Rβを発現する初代マウスT細胞も生成した。このコンストラクトには、IRESとそれに続く蛍光タンパク質YFPも含まれるので、FACSでYFP発現を分析することで形質導入の確認が可能になる。マウスT細胞は、図12に示すように、高親和性IL-2受容体複合体(たとえばCD25、CD122、及びCD132)も発現する。
【0118】
オルソIL-2バリアントは、図13に示すように、オルソIL-2Rβ発現初代マウスT細胞で選択的STAT5リン酸化を誘導する。
【0119】
オルソIL-2Rβを介して選択的にシグナル伝達するオルソIL-2バリアント(図11)は、野生型CTLL-2細胞と比べて、オルソIL-2Rβ発現CTLL-2細胞の選択的増殖も誘導する(図14)。
【0120】
直交性IL-2の工学手法は、ヒトIL-2及びヒトIL-2Rβにも適用された。発明者らは、マウスオルソIL-2Rβの作製に用いたH133D Y134F変異をヒトIL-2Rβに導入したが、それはこれらの残基がマウスとヒトとの間で高度に保存されているからである。実際に、野生型hIL-2Rβは酵母提示野生型IL-2に結合するが、hIL-2Rβ H133D Y134F変異体(オルソ-hIL-2Rβ)は野生型IL-2に対し検出可能な結合がない(図15)。発明者らは、H133D Y134F変異に接触するかまたは近傍にあると予測される残基を無作為化することにより、酵母表面に提示されるヒトIL-2変異体ライブラリを作製し、オルソには結合するが野生型ヒトIL-2Rβには結合しないIL-2バリアントを選択した。このスキームはマウスIL-2直交性ペアの作製で用いたものと同じであり、ヒトのペアについても成功した。このストラテジーを図16に示す。オルソhIL-2Rβに結合できるオルソhIL-2配列の集束を示す、変異のコンセンサスセットを特定し、図16Cに示す。
【0121】
本発明のポリペプチドは、インビボでも活性がある。マウスモデルを使って、マウスにおける直交性IL-2Rb発現T細胞の選択的増殖または生存率上昇を実証した。これを図17図19に示す。オルソIL-2クローン1G12/149は、マウスで、直交性T細胞を選択的に増殖させるが、野生型T細胞は増殖させないことが示された。野生型IL-2での処置の結果、PBS対照と比べて、野生型とオルソT細胞との両方が増殖したが、オルソIL-2クローン1G12/149での処置により、オルソT細胞は選択的に増殖したが、野生型T細胞に対する活性は限られていた。
【0122】
関連出願との相互参照
本願は、2016年9月11日に出願された米国特許仮出願第62/217,364号、及び2016年8月15日に出願された米国特許仮出願第62/375,089号の利益を主張し、これらの出願の全文を参照により本明細書に援用するものとする。
【0123】
連邦政府による研究開発の助成
本発明は、AI513210号の契約により国立衛生研究所から拠出される政府助成金を受けてなされた。政府は本発明に対し一定の権利を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21