(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】マグネトロンスパッタ法による成膜装置および成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/35 20060101AFI20230620BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20230620BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20230620BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20230620BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20230620BHJP
H05B 33/04 20060101ALI20230620BHJP
H05B 33/02 20060101ALI20230620BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20230620BHJP
H01L 21/56 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
C23C14/35 Z
C23C14/34 T
C23C14/06 N
H05B33/10
H05B33/14 A
H05B33/04
H05B33/02
H05H1/46 A
H01L21/56 F
(21)【出願番号】P 2019011297
(22)【出願日】2019-01-25
【審査請求日】2021-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000192567
【氏名又は名称】神港精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168217
【氏名又は名称】大村 和史
(72)【発明者】
【氏名】小松 永治
(72)【発明者】
【氏名】寺山 暢之
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-189861(JP,A)
【文献】特開2017-066483(JP,A)
【文献】特開2007-305332(JP,A)
【文献】特開2003-017244(JP,A)
【文献】特表2014-514703(JP,A)
【文献】特開2014-065259(JP,A)
【文献】特開2017-095758(JP,A)
【文献】特開2018-115356(JP,A)
【文献】特開昭61-292817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H01L 51/50-51/56
H01L 27/32
H05H 1/00- 1/54
H05B 33/00-33/28
H01L 21/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けられた電子素子を封止する封止膜をマグネトロンスパッタ法により形成する成膜装置であって、
内部に前記基板が収容される真空槽、
前記封止膜の材料であるターゲットを有し前記真空槽内において当該ターゲットの被スパッタ面を前記基板上の前記電子素子に向けるように設けられたマグネトロンカソード、
前記真空槽内に放電用ガスを導入する放電用ガス導入手段、
前記真空槽を陽極とし前記マグネトロンカソードを陰極として当該真空槽と当該マグネトロンカソードとにスパッタ電力を供給することにより前記放電用ガスを放電させて当該真空槽内にプラズマを発生させるスパッタ電力供給手段、
前記真空槽内に前記封止膜の別の材料である反応性ガスを導入する反応性ガス導入手段、
前記基板と前記被スパッタ面との間に設けられ熱電子放出用電力の供給を受けることにより加熱されて熱電子を放出するフィラメント、
前記真空槽を陽極とし前記フィラメントを陰極として当該真空槽と当該フィラメントとに放電用電力を供給することにより前記熱電子を加速させて当該フィラメントの周囲にアーク放電を誘起させる放電用電力供給手段、および
前記封止膜として互いに種類の異なる複数の被膜が積層された積層膜が形成されるように少なくとも前記反応性ガス導入手段を制御する制御手段を備え
、
前記スパッタ電力の電流成分であるスパッタ電流は、1.5A以上かつ8A以下である、成膜装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記封止膜として前記反応性ガスの成分を含む被膜と当該反応性ガスの成分を含まない被膜とが積層された前記積層膜が形成されるように前記反応性ガス導入手段による前記真空槽内への当該反応性ガスの導入をオン/オフする、請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
基板上に設けられた電子素子を封止する封止膜をマグネトロンスパッタ法により形成する成膜装置であって、
前記封止膜を構成する互いに種類の異なる複数の被膜を個別に形成するための複数の成膜室を有する真空槽、および
前記封止膜として前記複数の被膜が積層された積層膜が形成されるように前記基板を前記複数の成膜室内に順次収容させる収容手段を備え、
それぞれの前記成膜室ごとに、
前記封止膜の材料であるターゲットを有し前記成膜室内において当該ターゲットの被スパッタ面を前記基板上の前記電子素子に向けるように設けられたマグネトロンカソード、
前記成膜室内に放電用ガスを導入する放電用ガス導入手段、
前記成膜室を陽極とし前記マグネトロンカソードを陰極として当該成膜室と当該マグネトロンカソードとにスパッタ電力を供給することにより前記放電用ガスを放電させて当該成膜室内にプラズマを発生させるスパッタ電力供給手段、
前記基板と前記被スパッタ面との間に設けられ熱電子放出用電力の供給を受けることにより加熱されて熱電子を放出するフィラメント、および
前記成膜室を陽極とし前記フィラメントを陰極として当該成膜室と当該フィラメントとに放電用電力を供給することにより前記熱電子を加速させて当該フィラメントの周囲にアーク放電を誘起させる放電用電力供給手段が備えられ、さらに
一部の前記成膜室に、当該成膜室内に前記封止膜の別の材料である反応性ガスを導入する反応性ガス導入手段が備えられ
、
前記スパッタ電力の電流成分であるスパッタ電流は、1.5A以上かつ8A以下である、成膜装置。
【請求項4】
前記複数の成膜室は、互いに連続するように設けられ、
前記収容手段は、前記基板が前記複数の成膜室内を順次通過するように当該基板を搬送する搬送手段を含む、請求項3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記基板は、長尺状であり、
前記搬送手段は、前記長尺状の基板の長手方向に沿って当該基板を搬送する、請求項4に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記電子素子は、有機エレクトロルミネッセンス素子を含む、請求項1から5のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項7】
前記ターゲットは、アルミニウム製であり、
前記反応性ガスは、窒素ガスを含む、請求項1から6のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項8】
基板上に設けられた電子素子を封止する封止膜をマグネトロンスパッタ法により形成する成膜方法であって、
前記封止膜の材料であるターゲットを有するマグネトロンカソードの当該ターゲットの被スパッタ面が前記基板上の前記電子素子に向けられた状態にある真空槽内に放電用ガスを導入する放電用ガス導入ステップ、
前記真空槽を陽極とし前記マグネトロンカソードを陰極として当該真空槽と当該マグネトロンカソードとにスパッタ電力を供給することにより前記放電用ガスを放電させて当該真空槽内にプラズマを発生させるスパッタ電力供給ステップ、
前記真空槽内に前記封止膜の別の材料である反応性ガスを導入する反応性ガス導入ステップ、
前記基板と前記被スパッタ面との間に設けられたフィラメントに熱電子放出用電力を供給することにより当該フィラメントを加熱させて当該フィラメントから熱電子を放出させる熱電子放出ステップ、
前記真空槽を陽極とし前記フィラメントを陰極として当該真空槽と当該フィラメントとに放電用電力を供給することにより前記熱電子を加速させて当該フィラメントの周囲にアーク放電を誘起させる放電用電力供給ステップ、および
前記封止膜として互いに種類の異なる複数の被膜が積層された積層膜が形成されるように少なくとも前記反応性ガス導入ステップにおける前記反応性ガスの導入態様を制御する制御ステップを含
み、
前記スパッタ電力の電流成分であるスパッタ電流は、1.5A以上かつ8A以下である、成膜方法。
【請求項9】
基板上に設けられた電子素子を封止する封止膜をマグネトロンスパッタ法により形成する成膜方法であって、
前記封止膜として互いに種類の異なる複数の被膜が積層された積層膜が形成されるように、当該複数の被膜を個別に形成するための複数の成膜室を有する真空槽の当該複数の成膜室内に当該基板を順次収容させる収容ステップを含み、
それぞれの前記成膜室ごとに、
前記封止膜の材料であるターゲットを有するマグネトロンカソードの当該ターゲットの被スパッタ面が前記基板上の前記電子素子に向けられた状態にある前記成膜室内に放電用ガスを導入する放電用ガス導入ステップ、
前記成膜室を陽極とし前記マグネトロンカソードを陰極として当該成膜室と当該マグネトロンカソードとにスパッタ電力を供給することにより前記放電用ガスを放電させて当該成膜室内にプラズマを発生させるスパッタ電力供給ステップ、
前記基板と前記被スパッタ面との間に設けられたフィラメントに熱電子放出用電力を供給することにより当該フィラメントを加熱させて当該フィラメントから熱電子を放出させる熱電子放出ステップ、および
前記成膜室を陽極とし前記フィラメントを陰極として当該成膜室と当該フィラメントとに放電用電力を供給することにより前記熱電子を加速させて当該フィラメントの周囲にアーク放電を誘起させる放電用電力供給ステップが行われ、さらに
一部の前記成膜室において、当該成膜室内に前記封止膜の別の材料である反応性ガスを導入する反応性ガス導入ステップが行われ
、
前記スパッタ電力の電流成分であるスパッタ電流は、1.5A以上かつ8A以下である、成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンスパッタ法による成膜装置および成膜方法に関し、特に、基板上に設けられた電子素子を封止する封止膜を形成する成膜装置および成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の成膜装置および成膜方法は、たとえば電子素子としての有機エレクトロルミネッセンス(以下「EL」と言う。)素子を封止する封止膜を形成するのに用いられる。ただし、マグネトロンスパッタ法は、比較的に簡素な構成であるものの、比較的に高速で封止膜を形成することができる、という利点を有する一方、有機EL素子に対してプラズマによるダメージを与えてしまう、という欠点を有する。このマグネトロンスパッタ法の欠点を補うべく、従来、たとえば特許文献1に開示された技術が知られている。
【0003】
この特許文献1に開示された技術によれば、まず、イオンビームスパッタ法により第1層の封止膜が形成される。イオンビームスパッタ法では、基板が収容される真空槽内でプラズマは発生されないため、当該基板上の有機EL素子がプラズマによる影響を受けることはない。その上で、特許文献1に開示された技術によれば、イオンビームスパッタ法以外の成膜法により第2層以降の封止膜が形成される。ここで言うイオンビームスパッタ法以外の成膜法の1つとして、マグネトロンスパッタ法が挙げられている。
【0004】
また、別の特許文献2には、プラズマによる影響が比較的に小さい対向ターゲット式スパッタ法により第1層の封止膜が形成され、その上で、当該対向ターゲット式スパッタ法以外の成膜法により第2層以降の封止膜が形成される技術が開示されている。ここで言う対向ターゲット式スパッタ法以外の成膜法の1つとしても、マグネトロンスパッタ法が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-37811号公報
【文献】特開2009-37813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述の特許文献1に開示された技術では、イオンビームスパッタ法を実現するための構成と、当該イオンビームスパッタ法以外の成膜法を実現するための構成と、が必要になるため、装置全体の構成が大型化かつ複雑化する。しかも、イオンビームスパッタ法を実現するための構成は、たとえばマグネトロンスパッタ法を実現するための構成に比べて、大型かつ複雑であるため、装置全体の構成がより顕著に大型化かつ複雑化する。
【0007】
これと同様に、特許文献2に開示された技術においても、対向ターゲット式スパッタ法を実現するための構成と、当該対向ターゲット式スパッタ法以外の成膜法を実現するための構成と、が必要になるため、装置全体の構成が大型化かつ複雑化する。しかも、対向ターゲット式スパッタ法を実現するための構成もまた、マグネトロンスパッタ法を実現するための構成に比べて、大型かつ複雑であるため、装置全体の構成がより顕著に大型化かつ複雑化する。
【0008】
したがってたとえば、マグネトロンスパッタ法により有機EL素子などの電子素子へのダメージを抑制しつつ、当該電子素子を封止する封止膜を形成することのできる技術が創作されれば、極めて好都合である。
【0009】
そこで、本発明は、マグネトロンスパッタ法により有機EL素子などの電子素子へのダメージを抑制しつつ、当該電子素子を封止する封止膜を形成することができる、新規な成膜装置および成膜方法を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために、本発明は、マグネトロンスパッタ法による成膜装置に係る第1の発明と、とりわけ量産に適した成膜装置に係る第2の発明と、を含む。併せて、本発明は、マグネトロンスパッタ法による成膜方法に係る第3の発明と、量産に適した成膜方法に係る第4の発明と、を含む。
【0011】
このうちの第1の発明は、基板上に設けられた電子素子を封止する封止膜をマグネトロンスパッタ法により形成する成膜装置であって、内部に当該基板が収容される真空槽を備える。さらに、本第1の発明は、マグネトロンカソード、放電用ガス導入手段、スパッタ電力供給手段、反応性ガス導入手段、フィラメント、放電用電力供給手段および制御手段を備える。マグネトロンカソードは、封止膜の材料であるターゲットを有する。このマグネトロンカソードは、真空槽内においてターゲットの被スパッタ面を基板上の電子素子に向けるように設けられる。放電用ガス導入手段は、真空槽内に放電用ガスを導入する。スパッタ電力供給手段は、真空槽を陽極とし、マグネトロンカソードを陰極として、これら両者にスパッタ電力を供給する。これにより、放電用ガスが放電して、真空槽内にプラズマが発生する。反応性ガス導入手段は、真空槽内に封止膜の別の材料である反応性ガスを導入する。フィラメントは、基板とターゲットの被スパッタ面との間に設けられる。このフィラメントは、熱電子放出用電力の供給を受けることにより加熱されて熱電子を放出する。放電用電力供給手段は、真空槽を陽極とし、フィラメントを陰極として、これら両者に放電用電力を供給する。これにより、熱電子が加速されて、フィラメントの周囲にアーク放電が誘起される。そして、制御手段は、封止膜として互いに種類の異なる複数の被膜が積層された積層膜が形成されるように、少なくとも反応性ガス導入手段を制御する。その上で、スパッタ電力の電流成分であるスパッタ電流が、1.5A以上かつ8A以下とされる。
【0012】
この第1の発明において、制御手段は、封止膜として、反応性ガスの成分を含む被膜と、当該反応性ガスの成分を含まない被膜と、が積層された積層膜が、形成されるように、反応性ガス導入手段による真空槽内への当該反応性ガスの導入をオン/オフしてもよい。
【0013】
なお、ここで言う電子素子は、たとえば有機EL素子を含む。
【0014】
また、ターゲットは、たとえばアルミニウム(Al)製であってもよい。そして、反応性ガスは、窒素(N2)ガスを含んでもよい。この場合、窒素およびアルミニウムを成分として含む反応膜と、アルミニウムの単元素膜と、が積層された積層膜が、封止膜として形成される。
【0015】
本発明のうちの第2の発明は、基板上に設けられた電子素子を封止する封止膜をマグネトロンスパッタ法により形成する成膜装置であって、前述の如く量産に適した装置である。具体的には、本第2の発明は、真空槽および収容手段を備える。真空槽は、封止膜を構成する互いに種類の異なる複数の被膜を個別に形成するための複数の成膜室を有する。収容手段は、封止膜として複数の被膜が積層された積層膜が形成されるように、基板を真空槽の各成膜室内に順次収容させる。さらに、それぞれの成膜室ごとに、マグネトロンカソード、放電用ガス導入手段、スパッタ電力供給手段、フィラメントおよび放電用電力供給手段が備えられる。マグネトロンカソードは、封止膜の材料であるターゲットを有する。このマグネトロンカソードは、成膜室内においてターゲットの被スパッタ面を基板上の電子素子に向けるように設けられる。放電用ガス導入手段は、成膜室内に放電用ガスを導入する。スパッタ電力供給手段は、成膜室を陽極とし、マグネトロンカソードを陰極として、これら両者にスパッタ電力を供給する。これにより、放電用ガスが放電して、成膜室内にプラズマが発生する。フィラメントは、基板と被スパッタ面との間に設けられる。このフィラメントは、熱電子放出用電力の供給を受けることにより加熱されて熱電子を放出する。放電用電力供給手段は、成膜室を陽極とし、フィラメントを陰極として、これら両者に放電用電力を供給する。これにより、熱電子が加速されて、フィラメントの周囲にアーク放電が誘起される。加えて、一部の成膜室に、反応性ガス導入手段が備えられる。この反応性ガス導入手段は、成膜室内に封止膜の別の材料である反応性ガスを導入する。その上で、スパッタ電力の電流成分であるスパッタ電流が、1.5A以上かつ8A以下とされる。
【0016】
この第2の発明において、真空槽の各成膜室は、互いに連続するように設けられてもよい。この場合、収容手段は、基板が各成膜室内を順次通過するように当該基板を搬送する搬送手段を含んでもよい。この構成は、たとえばインライン式の成膜装置の実現に供される。
【0017】
さらに、この構成においては、基板は、長尺状であってもよい。この場合、搬送手段は、長尺状の基板の長手方向に沿って当該基板を搬送するのが、望ましい。このような構成は、たとえば巻取り式の成膜装置(いわゆるロールコータ)の実現に供される。
【0018】
本発明のうちの第3の発明は、基板上に設けられた電子素子を封止する封止膜をマグネトロンスパッタ法により形成する成膜方法であって、真空槽内に放電用ガスを導入する放電用ガス導入ステップを含む。ここで、真空槽内においては、封止膜の材料であるターゲットを有するマグネトロンカソードの当該ターゲットの被スパッタ面が、基板上の電子素子に向けられた状態にある。その上で、本第3の発明は、スパッタ電力供給ステップ、反応性ガス導入ステップ、熱電子放出ステップ、放電用電力供給ステップおよび制御ステップを含む。スパッタ電力供給ステップでは、真空槽を陽極とし、マグネトロンカソードを陰極として、これら両者にスパッタ電力が供給される。これにより、放電用ガスが放電して、真空槽内にプラズマが発生する。反応性ガス導入ステップでは、真空槽内に封止膜の別の材料である反応性ガスが導入される。熱電子放出ステップでは、フィラメントに熱電子放出用電力が供給される。フィラメントは、基板とターゲットの被スパッタ面との間に設けられる。このフィラメントに熱電子放出用電力が供給されることにより、当該フィラメントが加熱されて、当該フィラメントから熱電子が放出される。放電用電力供給ステップでは、真空槽を陽極とし、フィラメントを陰極として、これら両者に放電用電力が供給される。これにより、熱電子が加速されて、フィラメントの周囲にアーク放電が誘起される。そして、制御ステップでは、封止膜として互いに種類の異なる複数の被膜が積層された積層膜が形成されるように、少なくとも反応性ガス導入ステップにおける反応性ガスの導入態様が制御される。その上で、スパッタ電力の電流成分であるスパッタ電流が、1.5A以上かつ8A以下とされる。
【0019】
本発明のうちの第4発明は、基板上に設けられた電子素子を封止する封止膜をマグネトロンスパッタ法により形成する成膜方法であって、前述の如く量産に適した方法である。具体的には、本第4の発明は、収容ステップを含む。この収容ステップでは、封止膜として互いに種類の異なる複数の被膜が積層された積層膜が形成されるように、当該複数の被膜を個別に形成するための複数の成膜室を有する真空槽の当該複数の成膜室内に当該基板が順次収容される。その上で、それぞれの成膜室ごとに、放電用ガス導入ステップ、スパッタ電力供給ステップ、熱電子放出ステップおよび放電用電力供給ステップが行われる。放電用ガス導入ステップでは、成膜室内に放電用ガスが導入される。ここで、成膜室内においては、封止膜の材料であるターゲットを有するマグネトロンカソードの当該ターゲットの被スパッタ面が、基板上の電子素子に向けられた状態にある。そして、スパッタ電力供給ステップでは、成膜室を陽極とし、マグネトロンカソードを陰極として、これら両者にスパッタ電力が供給される。これにより、放電用ガスが放電して、成膜室内にプラズマが発生する。熱電子放出ステップでは、フィラメントに熱電子放出用電力が供給される。フィラメントは、基板とターゲットの被スパッタ面との間に設けられる。このフィラメントに熱電子放出用電力が供給されることにより、当該フィラメントが加熱されて、当該フィラメントから熱電子が放出される。そして、放電用電力供給ステップでは、成膜室を陽極とし、フィラメントを陰極として、これら両者に放電用電力が供給される。これにより、熱電子が加速されて、フィラメントの周囲にアーク放電が誘起される。さらに、一部の成膜室において、当該成膜室内に封止膜の別の材料である反応性ガスを導入する反応性ガス導入ステップが行われる。その上で、スパッタ電力の電流成分であるスパッタ電流が、1.5A以上かつ8A以下とされる。
【発明の効果】
【0020】
このような本発明によれば、マグネトロンスパッタ法により有機EL素子などの電子素子へのダメージを抑制しつつ、当該電子素子を封止する封止膜を形成することができる。しかも、マグネトロンスパッタ法によるので、比較的に高速で封止膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施例に係るマグネトロンスパッタ装置の概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は、第1実施例における被処理物の構成を概略的に示す図である。
【
図3】
図3は、第1実施例における封止膜の構成を概略的に示す図である。
【
図4】
図4は、第1実施例におけるフィラメントおよびその周囲の撮影画像である。
【
図5】
図5は、第1実施例における放電用電力とスパッタ電流およびスパッタ電圧との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、第1実施例についての実験時の成膜条件を示す一覧である。
【
図7】
図7は、第1実施例についての実験結果を2つの比較例それぞれについての実験結果と並べて示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の第2実施例に係る量産型のマグネトロンスパッタ装置の概略構成を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明の第3実施例に係る巻取り式のマグネトロンスパッタ装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1実施例]
本発明の第1実施例について、
図1~
図7を参照して説明する。
【0023】
図1に示されるように、本第1実施例に係るマグネトロンスパッタ装置10は、概略円筒形の真空槽12を備える。この真空槽12は、当該概略円筒形の両端に当たる部分を上下に向けた状態で、つまり当該概略円筒形の中心軸を垂直方向に延伸させた状態で、設置される。また、当該概略円筒形の両端に当たる部分は、真空槽12の上面および下面として閉鎖されている。この真空槽12は、機械的強度、耐食性および耐熱性が比較的に高い金属製、たとえばSUS304などのステンレス鋼製であり、その壁部(筐体)は、接地される。なお、真空槽12内の直径(内径)は、たとえば約1000mmであり、当該真空槽12内の高さ寸法は、たとえば約800mmである。この真空槽12の形状および寸法は、飽くまでも一例であり、後述する被処理物100の寸法や個数などの諸状況に応じて適宜に定められる。
【0024】
この真空槽12の壁部の適宜位置、たとえば当該真空槽12の側面を成す壁部の適宜位置(
図1において左側の位置)に、排気口12aが設けられる。図示は省略するが、排気口12aは、真空槽12の外部において、排気管を介して排気手段としての真空ポンプに結合される。真空ポンプとしては、とりわけ主排気ポンプとしては、たとえばターボ分子ポンプが採用されるが、これに限定されない。併せて、排気管の途中に、真空槽12内の圧力を制御するための圧力制御手段としての圧力制御装置が設けられる。なお、真空ポンプもまた、圧力制御手段として機能する。
【0025】
真空槽12内に注目すると、当該真空槽12内の下部の略中央に、マグネトロンカソード14が配置される。このマグネトロンカソード14は、後述する封止膜200の材料であるターゲット142と、このターゲット142の一方主面である背面側(
図1において下方側)に設けられた磁石ユニット144と、を有する。
【0026】
ターゲット142は、たとえば概略円盤状の高純度な(好ましくは純度が99.999%以上の)アルミニウム製である。このターゲット142の直径は、たとえば300mm(約12インチ)であり、厚さ寸法は、たとえば8mmである。このターゲット142の形状および寸法もまた、飽くまでも一例であり、後述する被処理物100の寸法や個数などの諸状況に応じて適宜に定められる。
【0027】
磁石ユニット144は、前述の如くターゲット142の背面側に設けられる。この磁石ユニット144は、ターゲット142を強固に保持する。併せて、磁石ユニット144は、不図示の磁界(磁場)形成手段としての永久磁石を内蔵しており、ターゲット142の他方主面である被スパッタ面(
図1において上方側の面)の近傍の空間に磁界を形成する。そして、磁石ユニット144は、ターゲット142の被スパッタ面を上方に向けた状態で、たとえば真空槽12の下面を成す壁部に固定される。また、磁石ユニット144には、当該磁石ユニット144を含むマグネトロンカソード14全体を冷却するための不図示のカソード冷却手段としての水冷機構が付属される。
【0028】
このようなマグネトロンカソード14は、ターゲット142の被スパッタ面を除いて、換言すれば当該被スパッタ面を露出させた状態で、アースシールド16によって覆われる。アースシールド16は、機械的強度、耐食性および耐熱性の高い金属製、例えばSUS304などのステンレス鋼製である。このアースシールド16は、マグネトロンカソード14と電気的に絶縁されつつ、真空槽12と電気的に接続された状態にある。
【0029】
さらに、マグネトロンカソード14は、真空槽12の外部において、スパッタ電力供給手段としてのスパッタ電源装置18に接続される。スパッタ電源装置18は、真空槽12(の壁部)を陽極とし、マグネトロンカソード14を陰極として、これら両者に直流のスパッタ電力Esを供給する。このスパッタ電源装置18の容量は、たとえば最大で10kW(=1000V×10A)である。また、スパッタ電源装置18は、定電力モード、定電圧モードおよび定電流モードという3つの動作モードを有する。定電力モードは、スパッタ電力Esの電力値が一定となるように動作するモードである。定電圧モードは、スパッタ電力Esの電圧成分であるスパッタ電圧(またはターゲット電圧とも言う。)Vsが一定となるように動作するモードである。定電流モードは、スパッタ電力Esの電流成分であるスパッタ電流(またはターゲット電流とも言う。)Isが一定となるように動作するモードである。ここでは、スパッタ電源装置18は、定電力モードで動作するように設定される。
【0030】
そして、真空槽12内におけるマグネトロンカソード14の上方、詳しくはターゲット142の被スパッタ面の上方に、熱陰極としてのフィラメント20が設けられる。このフィラメント20は、たとえば直径が約1mmのタングステン(W)製の線状体である。そして、フィラメント20は、ターゲット142の被スパッタ面から適当な距離を置いて、当該被スパッタ面に沿って、つまり水平方向に沿って、直線状に延伸するように設けられる。このフィラメント20とターゲット142の被スパッタ面との相互間距離は、5mm~50mm程度が適用であり、たとえば約25mmである。そして、フィラメント20の長さ寸法は、ターゲット142の直径よりも大きく、厳密には当該ターゲット142のエロージョン領域の直径よりも大きく、たとえば約320mmである。なお、フィラメント20は、タングステン製に限らず、タンタル(Ta)やモリブデン(Mo)などの当該タングステン以外の高融点金属製であってもよい。また、図示は省略するが、フィラメント20の両端部またはいずれか一方の端部には、当該フィラメント20に適当な張力を付与することで当該フィラメント20の直線状の状態を維持する張力付与手段としての張力付与機構が設けられる。
【0031】
さらに、フィラメント20は、厳密には当該フィラメント20の両端部は、真空槽12の外部において、熱電子放出用電力供給手段としてのカソード電源装置22に接続される。カソード電源装置22は、フィラメント20に熱電子放出用電力としての交流のカソード電力Ecを供給する。このカソード電力Ecの供給を受けて、フィラメント20は、たとえば2000℃以上に加熱されて、熱電子を放出する。なお、カソード電源装置22の容量は、たとえば最大で2.4kW(=40V×60A)である。また、カソード電力Ecは、交流電力に限らず、直流電力であってもよい。
【0032】
併せて、フィラメント20は、たとえば当該フィラメント20のいずれか一方の端部は、真空槽12の外部において、放電用電力供給手段としての放電用電源装置24に接続される。放電用電源装置24は、真空槽12を陽極とし、フィラメント20を陰極として、これら両者に直流の放電用電力Edを供給する。この放電用電源装置24の容量は、たとえば最大で6kW(=100V×60A)である。この放電用電源装置24もまた、スパッタ電源装置18と同様、定電力モード、定電圧モードおよび定電流モードという3つの動作モードを有する。すなわち、定電力モードは、放電用電力Edの電力値が一定となるように動作するモードである。そして、定電圧モードは、放電用電力Edの電圧成分である放電電圧Vdが一定となるように動作するモードである。定電流モードは、放電用電力Edの電流成分である放電電流Idが一定となるように動作するモードである。ここでは、放電用電源装置24は、定電圧モードで動作するように設定される。
【0033】
加えて、真空槽12内におけるフィラメント20のさらに上方に、被処理物100が配置される。この被処理物100は、後述するように平板状の基板110と、この基板110上に設けられた電子素子としての有機EL素子120と、を有する。そして、被処理物100は、その被処理部分を、詳しくは有機EL素子120が設けられた部分を、下方に向けた状態で、換言すればフィラメント20を介してターゲット142の被スパッタ面に向けた状態で、配置される。このとき、被処理物100は、詳しくは基板110は、保持手段としての基板台26によって支持される。なお、ターゲット142の被スパッタ面と被処理物100の被処理部分との相互間距離は、当該ターゲット142および被処理物100それぞれの形状や寸法などの諸状況にもよるが、たとえば200mm~700mm程度である。
【0034】
そして、真空槽12内におけるフィラメント20と基板台26との間の適当な位置に、たとえば概略円板状のシャッタ28が設けられる。このシャッタ28は、その両主面が水平方向に沿うように、不図示のシャッタ駆動機構によって支持される。シャッタ駆動機構は、後述する制御部30による制御に従ってシャッタ28を駆動し、詳しくは当該シャッタ28を開放状態と閉鎖状態との2つの状態に選択的に遷移させる。ここで、開放状態は、被処理物100の被処理部分とターゲット142の被スパッタ面との間を開放する状態であり、換言すれば当該被処理物100の被処理部分をターゲット142の被スパッタ面に露出させる状態である。一方、閉鎖状態は、被処理物100の被処理部分とターゲット142の被スパッタ面との間を閉鎖する状態であり、換言すれば当該被処理物100の被処理部分をターゲット142の被スパッタ面から遮蔽する状態である。
【0035】
さらに、真空槽12の壁部の適宜位置に、たとえば当該真空槽12の側面を成す壁部の適宜位置(
図1において右側の位置)に、放電用ガスとしてのアルゴン(Ar)ガスを含む各種ガスを当該真空槽12内に導入するためのガス導入管32が設けられる。詳しい図示は省略するが、このガス導入管32は、真空槽12内に導入されるガスを噴出させる噴出孔を有しており、この噴出孔がフィラメント20の近傍に位置するように、つまり当該フィラメント20の近傍にガスを噴出させるように、設けられる。そして、ガス導入管32は、真空槽12の外部において、アルゴンガス用の配管34と、反応性ガスとしての窒素ガス用の配管36と、に結合される。
【0036】
アルゴンガス用の配管34は、不図示のアルゴンガスの供給源(たとえばアルゴンガスボンベ)に結合される。そして、このアルゴンガス用の配管34には、当該配管34内を開閉するための開閉手段としての開閉バルブ34aと、当該配管34内を流れるアルゴンガスの流量を制御するための流量制御手段としてのマスフローコントローラ34bと、が設けられる。このアルゴンガス用の配管34は、ガス導入管32と協働して、放電用ガス導入手段を構成する。アルゴンガスとしては、高純度な(好ましくは純度が99.999%以上の)ガスが用いられる。
【0037】
一方、窒素ガス用の配管36は、不図示の窒素ガスの供給源(たとえば窒素ガスボンベ)に結合される。そして、この窒素ガス用の配管36にも、当該配管36内を開閉するための開閉手段としての開閉バルブ36aと、当該配管36を流れる窒素ガスの流量を制御するための流量制御手段としてのマスフローコントローラ36bと、が設けられる。この窒素ガス用の配管36は、ガス導入管32と協働して、反応ガス導入手段を構成する。また、窒素ガスについても、高純度な(好ましくは純度が99.99%以上の)ガスが用いられる。
【0038】
そして、真空槽12の外部には、制御手段としての制御部30が設けられる。この制御部30は、マグネトロンスパッタ装置10全体の制御を司る。具体的には、制御部30は、前述のシャッタ駆動装置を制御する。また、制御部30は、スパッタ電源装置18、カソード電源装置22および放電用電源装置24を制御する。さらに、制御部30は、アルゴンガス用の配管34の開閉バルブ34aおよびマスフローコントローラ34bや、窒素ガス用の配管36の開閉バルブ36aおよびマスフローコントローラ36bなどをも制御する。これらの制御を実現するために、制御部30は、たとえば不図示の制御実行手段としてのCPU(Central Processing Unit)を備える。
【0039】
このような構成のマグネトロンスパッタ装置10によれば、
図2に示されるような被処理物100における有機EL素子120を封止するための封止膜200を形成することができる。
【0040】
具体的に説明すると、被処理物100は、平板状の基板110と、この基板110上に設けられた有機EL素子120と、を含む。基板110は、たとえば透明ガラス基板である。この基板110の一方主面である上面(
図1における上方側の面)には、陽極112が設けられている。この陽極112は、薄膜状の透明電極であり、たとえば酸化インジウムスズ(ITO:Indium Tin Oxide)膜である。そして、この陽極112の上に、有機EL素子120が設けられている。なお、基板110は、透明ガラス基板以外の透明基板、たとえば透明樹脂基板であってもよい。また、陽極112は、酸化インジウムスズに限らず、酸化亜鉛(ZnO)や酸化スズ(SnO)、ポリアニリン、グラフェンなどの当該酸化インジウムスズ以外の素材により形成された透明導電膜であってもよい。
【0041】
有機EL素子120は、たとえば正孔輸送層(HTL:Hole Transfer Layer)122と発光層(EML:EMissive Layer)124とがこの順番で積層された2層構造の発光素子である。さらに、発光層124の上に、陰極126が設けられている。陰極126は、たとえば厚さ寸法が200nmのアルミニウム膜である。この陰極126と前述の陽極112とに信号源130から所定の信号(電圧)が供給されることにより、発光層124が発光する。この発光層124から発せられた光は、基板110側へ出力される。すなわち、基板110の他方主面である下面(
図1における下方側の面)が有機EL素子120の発光面となる。このようないわゆるボトムエミッション型の有機EL素子120は、照明装置や表示装置などに用いられる。なお、有機EL素子120は、2層構造のものに限らず、電子輸送層(ETL:Electron Transport Layer)などを備える他の構造のものであってもよい。
【0042】
この有機EL素子120は、水分や酸素などに触れると、劣化する。したがって、有機EL素子を水分や酸素などから保護するために、当該有機EL素子120を基板110との間に封止する封止膜200が形成される。この封止膜200は、たとえば
図3に示されるように、第1層202としての窒化アルミニウム(AlN)層、第2層204としてのアルミニウム層、第3層206としての窒化アルミニウム層、第4層208としてのアルミニウム層、および第5層210としての窒化アルミニウム層が、この順番で積層された5層構造の積層膜である。なお、窒化アルミニウム層およびアルミニウム層は、いずれも水分や酸素などに対してバリア性を有するが、とりわけ窒化アルミニウム層である第1層202、第3層206および第5層210が、バリア層として機能する。そして、アルミニウム層である第2層204および第4層208は、バリア層としての第1層202、第3層206および第5層210の付き回りを向上させるためのバッファ層として機能する。なお、最下層である第1層202は、絶縁性物質である必要があることから、当該第1層202として、窒化アルミニウム層が形成される。
【0043】
このような封止膜200を形成するために、まず、当該封止膜200が形成される前の被処理物100が真空槽12内に配置される。このとき、被処理物100は、前述の如く有機EL素子120が設けられた部分を下方に向けた状態で配置される。つまりは、そうなるように基板110が基板台26によって保持される。その上で、真空槽12が密閉される。そして、真空槽12内が真空ポンプにより排気され、たとえば1×10-3Pa程度の圧力になるまで排気される。
【0044】
このいわゆる真空引きの後、第1層202としての窒化アルミニウム層を形成するための成膜処理が行われる。そのために、シャッタ28が閉鎖される。なお、前述の真空引きにおいては、シャッタ28は、閉鎖されても、開放されても、いずれの状態であってもよい。その上で、フィラメント20にカソード電力Ecが供給される。これにより、フィラメント20が加熱されて、当該フィラメント20から熱電子が放出される。併せて、真空槽12を陽極とし、フィラメント20を陰極として、これら両者に放電用電力Edが供給される。これにより、陰極であるフィラメント20から放出された熱電子が、陽極である真空槽12の壁部に向かって、とりわけ当該フィラメント20に近い位置にあって真空槽12と同電位であるアースシールド16に向かって、加速される。この状態で、ガス導入管32を介して、厳密にはアルゴンガス用の配管34と当該ガス導入管32とを介して、真空槽12内にアルゴンガスが導入される。すると、加速された熱電子がアルゴンガスの粒子に衝突して、その衝撃により、当該アルゴンガス粒子が電離して、プラズマ300が発生する。
【0045】
ここで、フィラメント20の周囲を含むターゲット142の被スパッタ面の近傍の空間には、前述の如く磁界が形成されている。したがって、フィラメント20から放出された熱電子は、この磁界による作用を受けて螺旋運動(サイクロイド運動またはトロコイド運動)する。これにより、熱電子がアルゴンガス粒子に衝突する頻度が増大して、プラズマ300が高密度化される。このようなプラズマ300の放電態様は、低電圧大電流のアーク放電である。ここで、プラズマ300が発生しているとき(放電時)のフィラメント20およびその周囲の撮影画像を、当該プラズマ300が発生していないとき(非放電時)の撮影画像と並べて、
図4に示す。この
図4から分かるように、とりわけプラズマ300が発生しているときの撮影画像である
図4(A)から分かるように、フィラメント20の周囲に高密度な当該プラズマ300が発生することが、認められる。
【0046】
このようなアーク放電による高密度なプラズマ300が発生している状態で、さらに、真空槽12を陽極とし、マグネトロンカソード14を陰極として、これら両者にスパッタ電力Esが供給される。すると、プラズマ300中のアルゴンイオンがマグネトロンカソード14のターゲット142の被スパッタ面に向かって加速され、当該被スパッタ面に衝突する。その衝撃によって、ターゲット142の被スパッタ面から当該ターゲット142の素材であるアルミニウムの粒子が叩き出され、つまりスパッタされる。このスパッタされたアルミニウムの粒子、いわゆるスパッタ粒子は、ターゲット142の被スパッタ面と対向する被処理物100に向かって飛翔する。ただし、この時点では、シャッタ28が閉鎖状態にあるので、アルミニウム粒子の飛翔は、当該シャッタ28によって遮られる。また、
図1を含む各図からは分からないが、スパッタ電力Esが供給されることによって、ターゲット142の被スパッタ面の近傍の空間にグロー放電が誘起される。すなわち、プラズマ300は、アーク放電による成分と、グロー放電による成分と、を含んだ態様となる。
【0047】
この状態でさらに、ガス導入管32を介して、厳密には窒素ガス用の配管36と当該ガス導入管32とを介して、真空槽12内に窒素ガスが導入される。すると、この窒素ガスの粒子もまた電離して、プラズマ300を形成する。そして、このプラズマ300中の窒素イオンを含む窒素粒子は、前述のスパッタ粒子であるアルミニウム粒子とともに、被処理物100に向かって飛翔する。ただし、この窒素粒子の飛翔もまた、閉鎖状態にあるシャッタ28によって遮られる。
【0048】
そして、プラズマ300が安定した時点で、シャッタ28が開放される。これにより、被処理物100に向かって飛翔するアルミニウム粒子と窒素粒子とが、当該被処理物100の被処理部分に付着して堆積する。この結果、被処理物100の被処理部分に、つまり有機EL素子120を覆うように、アルミニウム粒子と窒素粒子との反応膜(化合物)である第1層202としての窒化アルミニウ層が形成される。
【0049】
この第1層202としての窒化アルミニウム層を形成するための成膜処理によって所定の厚さ寸法の当該窒化アルミニウム層が形成された後、続いて、第2層204としてのアルミニウム層を形成するための成膜処理が行われる。そのために、シャッタ28が改めて閉鎖される。その上で、真空槽12内への窒素ガスの導入が停止される。そして、プラズマ300が安定した時点で、シャッタ28が開放される。これにより、被処理物100の被処理部分に、つまり第1層202としての窒化アルミニウム層の上に、アルミニウム粒子のみから成る単元素膜である第2層204としてのアルミニウム層が形成される。
【0050】
この第2層204としてのアルミニウム層を形成するための成膜処理によって所定の厚さ寸法の当該アルミニウム層が形成された後、続いて、第3層206としての窒化アルミニウム層を形成するための成膜処理が行われる。そのために、シャッタ28が改めて閉鎖される。その上で、真空槽12内に改めて窒素ガスが導入される。そして、プラズマ300が安定した時点で、シャッタ28が改めて開放される。これにより、被処理物100の被処理部分に、つまり第2層204としてのアルミニウム層の上に、第3層206としての窒化アルミニウム層が形成される。
【0051】
この第3層206としての窒化アルミニウム層を形成するための成膜処理によって所定の厚さ寸法の当該窒化アルミニウム層が形成された後、続いて、第4層208としてのアルミニウムを形成するための成膜処理が行われる。そのために、シャッタ28が改めて閉鎖される。その上で、真空槽12内への窒素ガスの導入が改めて停止される。そして、プラズマ300が安定した時点で、シャッタ28が改めて開放される。これにより、被処理物100の被処理部分に、つまり第3層206としての窒化アルミニウム層の上に、第4層208としてのアルミニウム層が形成される。
【0052】
この第4層208としてのアルミニウム層を形成するための成膜処理によって所定の厚さ寸法の当該アルミニウム層が形成された後、続いて、第5層210としての窒化アルミニウムを形成するための成膜処理が行われる。そのために、シャッタ28が改めて閉鎖される。その上で、真空槽12内に改めて窒素ガスが導入される。そして、プラズマ300が安定した時点で、シャッタ28が改めて開放される。これにより、被処理物100の被処理部分に、つまり第4層208としての化アルミニウム層の上に、第5層210としての窒化アルミニウム層が形成される。
【0053】
この第5層210としての窒化アルミニウム層の形成するための成膜処理によって所定の厚さ寸法の当該窒化アルミニウム層が形成された後、つまり全5層の封止膜200が形成された後、シャッタ28が改めて閉鎖される。その上で、真空槽12内へのアルゴンガスおよび窒素ガスの導入が停止される。併せて、スパッタ電力Es、放電用電力Edおよびカソード電力Ecの供給が停止される。これにより、プラズマ300が消失する。そして、適当な(たとえば数十分程度の)時間を掛けて真空槽12内の圧力が大気圧にまで戻された後、当該真空槽12内が外部に開放されて、当該真空槽12内から被処理物100が取り出される。これをもって、封止膜200を形成するための成膜処理を含む一連の処理が完了する。
【0054】
ところで、本第1実施例によれば、極めて緻密な封止膜200を形成することができる。たとえば、第1層202としての窒化アルミニウム層に注目すると、この窒化アルミニウム層を形成するための成膜処理においては、前述の如くターゲット142の被スパッタ面からスパッタ粒子としてのアルミニウム粒子が叩き出される。この叩き出されたアルミニウム粒子は、被処理物100に向かって飛翔するが、その途中で、アーク放電による(成分を含む)高密度なプラズマ300中を通過する。これにより、アルミニウム粒子は、活性化され、少なくとも基底状態よりも高いエネルギを持つようになり、とりわけ効率的にラジカル化またはイオン化される。これと同様に、窒素ガスの粒子もまた、高密度なプラズマ300により活性化され、とりわけ効率的にラジカル化またはイオン化される。このようにしてラジカル化またはイオン化された粒子は、反応性に富むので、このような反応性に富む粒子が効率的に生成されることにより、第1層202としての窒化アルミニウム層を形成するアルミニウム粒子および窒素粒子の相互の結合力が強くなる。この結果、第1層202としての窒化アルミニウム層の緻密化が図られる。このことは、第3層206としての窒化アルミニウム層および第5層210としての窒化アルミニウム層についても、同様である。
【0055】
また、たとえば第2層204としてのアルミニウム層に注目すると、このアルミニウム層を形成するための成膜処理においても、スパッタ粒子であるアルミニウム粒子は、アーク放電による高密度なプラズマ300により活性化され、高いエネルギを持つようになる。このようにしてスパッタ粒子であるアルミニウム粒子に高いエネルギが付与されることで、当該アルミニウム粒子により形成される第2層204としてのアルミニウム層の緻密化が図られる。このことは、第4層208としてのアルミニウム層についても、同様である。
【0056】
その一方で、本第1実施例によれば、被処理物100に対する、とりわけ有機EL素子120に対する、プラズマ300によるダメージを抑制することができる。これを説明するために、
図5に、放電用電力Edとスパッタ電力Esの電流成分であるスパッタ電流Isとの関係、および、当該放電用電力Edとスパッタ電力Esの電圧成分であるスパッタ電圧Vsとの関係を、示す。なお、
図5において、〇印付きの太実線が、放電用電力Edとスパッタ電流Isとの関係を示す。そして、□印付きの太破線が、放電用電力Edとスパッタ電圧Vsとの関係を示す。
【0057】
この
図5において、たとえば放電用電力Edとスパッタ電流Isとの関係(〇印付きの太実線)に注目すると、放電用電力Edが大きいほど、スパッタ電流Isが増大する。これは、アーク放電によるプラズマ300中のイオンの一部が、ターゲット142(マグネトロンカソード14)に流れ込むためである。そして、放電用電力Edとスパッタ電圧Vsとの関係(□印付きの太破線)に注目すると、当該放電用電力Edが大きいほど、換言すればスパッタ電流Isが大きいほど、スパッタ電圧Vsが低下する。これは、スパッタ電力Esの供給源であるスパッタ電源装置18が、前述の如く定電力モードで動作するためである。これらのことから、アーク放電が誘起されることにより、スパッタ電圧Vsが低下し、当該アーク放電によるプラズマ300の密度が高いほど、スパッタ電圧Vsが大きく低下することが、分かる。
【0058】
なお、
図5は、ターゲット142がチタン(Ti)製であり、真空槽12内の圧力が0.2Paであり、スパッタ電力Es(=Vs×Is)が1kWである場合の関係を示すが、ターゲット142がアルミニウムである場合も、同様の関係になる。また、放電用電力Edの供給源である放電用電源装置24は、前述の如く定電圧モードで動作するが、この場合、当該放電用電力Ed自体(電力値)は、カソード電力Ecによって制御される。すなわち、カソード電力Ecが増減されると、フィラメント20の加熱温度が変わり、これに伴い、当該フィラメント20からの熱電子の放出量が変わる。そして、フィラメント20からの熱電子の放出量が変わると、プラズマ300中のイオンの量が変わり、これに伴い、放電用電力Edの電流成分である放電電流Idが増減し、ひいては当該放電用電力Ed自体(=Vd×Id)が増減する。
【0059】
さて、スパッタ電圧Vsが低下すると、有機EL素子120を含む被処理物100の被処理部分に入射される電子のエネルギが低減される。これにより、被処理物100に対する、とりわけ有機EL素子120に対する、ダメージが抑制される。具体的には、ターゲット142の被スパッタ面がスパッタされると、この被スパッタ面からは、スパッタ粒子としてのアルミニウム粒子のみならず、2次電子も、叩き出される。そして、この2次電子もまた、被処理物100に向かって飛翔し、当該被処理物100の被処理部分に入射する。この2次電子は、スパッタ電圧Vsに応じた大きさのエネルギを持ち、つまり当該スパッタ電圧Vsが高いほど(厳密にはスパッタ電圧Vsの絶対値が大きいほど)大きなエネルギを持つ。そして、この2次電子のエネルギが大きいほど、被処理物100に大きなダメージが与えられ、とりわけ当該被処理物100の温度上昇を招くことが、懸念される。本第1実施例によれば、スパッタ電圧Vsを低下させることができるので、被処理物100の被処理部分に入射される2次電子のエネルギを低減させることができ、ひいては有機EL素子120を含む当該被処理物100へのダメージを抑制することができる。
【0060】
要するに、本第1実施例によれば、有機EL素子120へのダメージを抑制しつつ、極めて緻密な封止膜200を形成することができる。
【0061】
因みに、アーク放電が誘起されない構成、たとえばグロー放電のみによりプラズマが発生される言わば一般的なマグネトロンスパッタ法の構成では、当該アーク放電が誘起される本第1実施例とは異なり、有機EL素子120に大きなダメージが与えられてしまう。また、一般的なマグネトロンスパッタ法の構成では、本第1実施例におけるような極めて緻密な封止膜200を形成することができない。
【0062】
たとえば、
図1に示される構成において、カソード電力Ecおよび放電用電力Edが非供給とされることによって、ここで言う一般的なマグネトロンスパッタ法の構成が実現される。この一般的なマグネトロンスパッタ法の構成では、スパッタ電力Esの供給によってプラズマ300が発生するが、このプラズマ300の態様は、高電圧小電流のグロー放電である。このグロー放電のみによるプラズマ300が発生している状態においては、前述のアーク放電によるプラズマ300が発生する場合に比べて、スパッタ電力Esの電圧成分であるスパッタ電圧Vsが極端に高い。このことは、
図5において、放電用電力Edがゼロ(Ed=0)であるときのスパッタ電圧Vsが極端に高いことからも、分かる。そして、このようにスパッタ電圧Vsが高いと、被処理物100の被処理部分に入射される2次電子のエネルギが高くなる。これにより、被処理物100に対して、とりわけ有機EL素子120に対して、大きなダメージが与えられる。また、グロー放電によるプラズマ300は、アーク放電によるプラズマ300に比べて、遥かに密度が低いため、緻密な封止膜200を形成することができない。
【0063】
このことを確認するために、次のような実験を行った。
【0064】
まず、本第1実施例に係る言わばアーク放電式のマグネトロンスパッタ装置10によって、
図6に示される条件で、各層202,204,206,208および210を含む封止膜200を形成した。このときの真空槽12内の圧力は、0.2Paである。
【0065】
併せて、第1の比較例として、前述の要領で実現された一般的な言わばグロー放電式のマグネトロンスパッタ法の構成によって、
図6に示されるのと同じ膜厚の封止膜200を形成した。このときの成膜条件は、放電電圧Vdがゼロ(Vd=0)であること、放電電流Idがゼロ(Id=0)であること、ならびに、各層202,204,206,208および210それぞれの成膜時間が適宜に定められること、を除いて、
図6に示されるのと同じである。
【0066】
さらに、第2の比較例として、前述の要領で実現された一般的なグロー放電式のマグネトロンスパッタ法の構成によって、各層202,204,206,208および210それぞれの膜厚が
図6に示される値の半分である封止膜200を形成した。すなわち、第1層202、第3層206および第5層210それぞれの膜厚が25μmであり、第2層204および第4層208それぞれの膜厚が50μmである、封止膜200を形成した。このときの成膜条件もまた、放電電圧Vdがゼロ(Vd=0)であること、放電電流Idがゼロ(Id=0)であること、ならびに、各層202,204,206,208および210それぞれの成膜時間が適宜に定められること、を除いて、
図6に示されるのと同じである。
【0067】
そして、これらの封止膜200が形成されたそれぞれの有機EL素子120を実際に動作させて、その発光状態を4日間にわたって観察した。その結果を、
図7に示す。なお、
図7に示されるそれぞれの画像は、有機EL素子120の発光状態を基板110(の下面)側から顕微鏡により観察した画像である。また、
図7に示されるそれぞれの画像において、中央付近に現れている比較的に大きな黒い点は、顕微鏡による観察位置を特定し易くするために故意に付された基準点である。
【0068】
この
図7に示されるように、たとえば本第1実施例に係る有機EL素子120については、3日目までは特段な変化は見受けられず、4日目において多少のダークスポット(小さな黒い点)が見受けられる。このダークスポットは、封止膜200にピンホールなどの多少の欠陥が生じていることに起因するものと、推察される。このことから、本第1実施例によれば、少なくとも3日間は有機EL素子120の品質を維持することのできる封止膜200を形成し得ることが、分かる。このような封止膜200は、有機EL素子120を一時的に封止するための、いわゆる仮封止用として、十分に実用可能である。
【0069】
これに対して、たとえば第1比較例の有機EL素子120については、1日目は特段な変化は見受けられないものの、2日目からダークスポットが見受けられ、それ以降、当該ダークスポットがその個数および大きさを含め顕著に現れる。そして、第2比較例の有機EL素子120については、第1比較例よりもさらに顕著にダークスポットが現れる。このように、第1比較例および第2比較例それぞれの有機EL素子120について、ダークスポットが顕著に現れるのは、封止膜200の形成時の(グロー放電の)プラズマ300によるダメージに起因するものと、推察される。併せて、第1比較例および第2比較例においては、緻密な封止膜200が形成されないこと、換言すれば欠陥の多い当該封止膜200しか形成されないことも、ダークスポットが顕著に現れる原因であると、推察される。このようなダークスポットが顕著に現れる有機EL素子120は、当然ながら実用に堪えられない。
【0070】
以上のように、本第1実施例に係るマグネトロンスパッタ装置10によれば、有機EL素子120へのダメージを抑制しつつ、当該有機EL素子120を封止する封止膜200を十分に実用可能なレベルで形成することができる。
【0071】
なお、本第1実施例においては、真空槽12を陽極とし、被処理物100(基板台26)を陽極として、これら両者にバイアス電力が供給されてもよい。これにより、被処理物100に対する封止膜200(各層202,204,206,208および210)の密着性を向上させることができる。
【0072】
また、本第1実施例においては、真空槽12内への窒素ガスの導入がオン/オフされるタイミングに合わせて、つまり封止膜200を形成するための一連の成膜処理の途中で、シャッタ28が開閉駆動されたが、これに限らない。たとえば、封止膜200を形成するための一連の成膜処理の開始時および終了時にのみ、シャッタ28が開閉駆動され、当該一連の成膜処理が行われている期間中は、シャッタ28は継続的に(常時)開放されてもよい。
【0073】
[第2実施例]
次に、本発明の第2実施例について、
図8を参照して説明する。
【0074】
図8に示されるように、とりわけ
図8(A)に示されるように、本第2実施例に係るマグネトロンスパッタ装置50は、水平方向(
図8において左右方向)に沿って延伸する細長い形状の真空槽52を備える。この真空槽52の内部は、当該真空槽52が延伸する方向において、適当な仕切り壁54により、複数の、たとえば5つの、成膜室56,56,…に仕切られる。言い換えれば、5つの成膜室56,56,…が、直線状に、つまり互いに連続するように一列(直列)に、設けられる。これら各成膜室56,56,…を含む真空槽52は、機械的強度、耐食性および耐熱性が比較的に高い金属製、たとえばSUS304などのステンレス鋼製である。そして、真空槽52の壁部は、接地される。なお、これ以降、各成膜室56,56,…については、
図8における右側から左側に向かって順に、「第1成膜室」、「第2成膜室」、「第3成膜室」、「第4成膜室」および「第5成膜室」と表現する場合がある。
【0075】
併せて、本第2実施例に係るマグネトロンスパッタ装置50は、被処理物100を搬送する搬送手段としての搬送機構58を備える。この搬送機構58は、
図8に破線の矢印58aで示される方向に、つまり
図8における右側から左側に向かって、被処理物100が各成膜室56,56,…内を順次通過するように、当該被処理物100を搬送する。なお、本第2実施例における被処理物100は、第1実施例におけるのと同様のものである。すなわち、本第2実施例における被処理物100もまた、
図2に示されるように、平板状の基板110と、この基板110上に設けられた有機EL素子120と、を含む。そして、詳しい図示は省略するが、搬送機構58は、被処理物100の被処理部分である有機EL素子120が設けられた部分を下方に向けた状態で、当該被処理物100を搬送する。このような搬送機構58としては、ベルト式やローラ式、チェーン式などの適宜の機構が採用可能である。
【0076】
この搬送機構58による被処理物100の搬送経路が確保されるように、それぞれの仕切り壁54には、当該搬送機構58によって搬送される被処理物100を挿通させるための適当な挿通部60が設けられる。なお、挿通部60が設けられることによって、隣接する2つの成膜室56および56内が互いに連通することになるが、当該挿通部60は、その形状および寸法を含め、それぞれの成膜室56内での後述する成膜処理に影響が及ぼされないように設計される。特に、挿通部60におけるコンダクタンスを小さくして、当該挿通部60を介してのガスの流通を低減するべく、たとえば搬送機構58によるそれぞれの被処理物100の搬送方向に沿う平面部を有する平板状の鍔部(
図8において概略T字状に形成された部分)60aが設けられる。また、被処理物100が最初に通過する(収容される)成膜室56、つまり
図8において右端の第1成膜室56には、当該第1成膜室56内への被処理物100の入口となる搬入口62が設けられる。この搬入口62には、第1成膜室56内と大気圧である外部とを取り持つ中継室としての不図示の搬入側バッファ室が設けられる。これと同様に、被処理物100が最後に通過する成膜室56、つまり
図8において左端の第5成膜室56には、当該第5成膜室56内からの被処理物100の出口となる搬出口64が設けられる。この搬出口64には、第5成膜室56内と大気圧である外部とを取り持つ中継室としての不図示の搬出側バッファ室が設けられる。
【0077】
さらに、それぞれの成膜室56には、排気口66が設けられる。図示は省略するが、この排気口66は、真空槽52(各成膜室56,56,…)の外部において、排気管を介して排気手段としての真空ポンプに結合される。真空ポンプとしては、第1実施例と同様、とりわけ主排気ポンプとして、たとえばターボ分子ポンプが採用される。また、それぞれの排気管の途中に、成膜室56内の圧力を制御するための圧力制御手段としての圧力制御装置が設けられる。なお、
図8においては、それぞれの成膜室56の下面を成す壁部に、排気口66が設けられているが、当該排気口66が設けられる位置は、これに限定されない。
【0078】
加えて、それぞれの成膜室56には、当該成膜室56内に適宜のガスを導入するためのガス導入管68が設けられる。ただし、第1成膜室56、第3成膜室56および第5成膜室56内には、放電用ガスとしてのアルゴンガスと、反応性ガスとしての窒素ガスとが、導入される。したがって、図示は省略するが、これら第1成膜室56、第3成膜室56および第5成膜室56のそれぞれに設けられたガス導入管68は、真空槽52の外部において、アルゴンガス用の配管と、窒素ガス用の配管と、に結合される。一方、第2成膜室56および第4成膜室56内には、放電用ガスとしてのアルゴンガスのみが導入される。したがって、図示は省略するが、これら第2成膜室56および第4成膜室56のそれぞれに設けられたガス導入管68は、真空槽52の外部において、アルゴンガス用の配管に結合される。なお、アルゴンガスおよび窒素ガスとしては、いずれも高純度な(好ましくは純度が99.999%以上の)ガスが用いられる。
【0079】
そして、それぞれの成膜室56内には、放電ユニット70が設けられる。この放電ユニット70は、
図8(B)に示されるように、マグネトロンカソード72、アースシールド74、およびフィラメント76を有する。
【0080】
マグネトロンカソード72は、第1実施例におけるマグネトロンカソード14と同様のものである。すなわち、マグネトロンカソード72は、高純度なアルミニウム製のターゲット722と、このターゲット722の背面側(
図8(B)において下方側)に設けられた磁石ユニット724と、を有する。なお、ターゲット722は、第1実施例におけるターゲット142と同様の概略円盤状のものであってもよいし、あるいは概略方形板状のものであってもよい。そして、磁石ユニット724は、ターゲット722の背面側において、当該ターゲット722を強固に保持する。併せて、磁石ユニット724は、不図示の永久磁石を内蔵しており、ターゲット722の被スパッタ面(
図8(B)において上方側の面)の近傍の空間に磁界を形成する。そして、磁石ユニット724は、ターゲット722の被スパッタ面を上方に向けた状態で、たとえば真空槽12(成膜室56)の下面を成す壁部に固定される。また、磁石ユニット724には、当該磁石ユニット724を含むマグネトロンカソード72全体を冷却するための不図示の水冷機構が付属される。
【0081】
また、マグネトロンカソード72は、真空槽52の外部において、第1実施例におけるのと同様のスパッタ電源装置78に接続される。スパッタ電源装置78は、真空槽52を陽極とし、マグネトロンカソード72を陰極として、これら両者に直流のスパッタ電力Esを供給する。このスパッタ電源装置78は、定電力モード、定電圧モードおよび定電流モードという3つの動作モードを有し、ここでは、定電力モードで動作するように設定される。
【0082】
アースシールド74は、第1実施例におけるアースシールド16と同様に、ターゲット722の被スパッタ面を除いて、換言すれば当該被スパッタ面を露出させた状態で、マグネトロンカソード72を覆う。このアースシールド74は、機械的強度、耐食性および耐熱性の高い金属製、例えばSUS304などのステンレス鋼製である。併せて、アースシールド74は、マグネトロンカソード72と電気的に絶縁されつつ、真空槽12と電気的に接続された状態にある。
【0083】
フィラメント76は、第1実施例におけるフィラメント20と同様のものであり、つまりたとえば直径が約1mmのタングステン製の線状体である。このフィラメント76は、ターゲット722の被スパッタ面から適当な距離を置いて、当該被スパッタ面に沿って、つまり水平方向に沿って、直線状に延伸するように設けられる。そして、フィラメント76の両端部またはいずれか一方の端部には、当該フィラメント76に適当な張力を付与することで当該フィラメント76の直線状の状態を維持する不図示の張力付与機構が設けられる。
【0084】
また、フィラメント76は、厳密には当該フィラメント76の両端部は、真空槽52の外部において、第1実施例におけるのと同様のカソード電源装置80に接続される。カソード電源装置80は、フィラメント76に交流のカソード電力Ecを供給する。これにより、フィラメント76は、たとえば2000℃以上に加熱されて、熱電子を放出する。
【0085】
併せて、フィラメント76は、詳しくは当該フィラメント76のいずれか一方の端部は、真空槽52の外部において、第1実施例におけるのと同様の放電用電源装置82に接続される。放電用電源装置82は、真空槽52を陽極とし、フィラメント76を陰極として、これら両者に直流の放電用電力Edを供給する。この放電用電源装置82もまた、定電力モード、定電圧モードおよび定電流モードという3つの動作モードを有し、ここでは、定電圧モードで動作するように設定される。
【0086】
このような構成のマグネトロンスパッタ装置50によっても、第1実施例に係るマグネトロンスパッタ装置10と同様、
図2に示されるような被処理物100における有機EL素子120を封止するための封止膜200を形成することができる。この封止膜200は、第1実施例におけるのと同様、つまり
図3に示されるように、5つの層502,504,506,508および510を有する。
【0087】
すなわち、本第2実施例に係るマグネトロンスパッタ装置50によれば、前述したように、被処理物100は、各成膜室56,56,…内を順次通過するように、搬送機構58によって搬送される。このとき、被処理物100は、その被処理部分である有機EL素子120が設けられた部分を下方に向けた状態で搬送される。そして、まず第1成膜室56内において、第1層202としての窒化アルミニウム層を形成するための成膜処理が行われる。この窒化アルミニウム層を形成するための成膜処理の要領は、第1実施例における要領と同様である。続いて、第2成膜室56内において、第2層204としてのアルミニウム層を形成するための成膜処理が行われる。このアルミニウム層を形成するための成膜処理の要領もまた、第1実施例と同様である。さらに、第3成膜室56内において、第3層206としての窒化アルミニウム層を形成するための成膜処理が行われ、第4成膜室56内において、第4層208としてのアルミニウム層を形成するための成膜処理が行われる。そして、第5成膜室56内において、第5層210としての窒化アルミニウム層を形成するための成膜処理が行われる。このように、被処理物100が各成膜室56,56,…内を順次通過することにより、当該被処理物100の被処理部分に全5層の封止膜200が形成される。
【0088】
このような要領で封止膜200を形成する本第2実施例に係るマグネトロンスパッタ装置50は、量産に適している。そして、この量産型のマグネトロンスパッタ装置50によって形成された封止膜200もまた、第1実施例に係る言わばバッチ処理型のマグネトロンスパッタ装置10によって形成されたものと同様、極めて緻密である。さらに、図示は省略するが、それぞれの成膜室56内においては、アーク放電のプラズマ300が発生するものの、このプラズマ300による被処理物100へのダメージ、とりわけ有機EL素子120へのダメージは、抑制される。この結果、仮封止用として十分に実用可能な封止膜200が形成される。
【0089】
要するに、本第2実施例に係る量産型のマグネトロンスパッタ装置50によっても、第1実施例に係るバッチ処理型のマグネトロンスパッタ装置10と同様、有機EL素子120へのダメージを抑制しつつ、当該有機EL素子120を封止する封止膜200を十分に実用可能なレベルで形成することができる。
【0090】
なお、本第2実施例においても、前述の第1実施例と同様、真空槽52を陽極とし、それぞれの被処理物100(搬送機構58)を陰極として、これら両者にバイアス電力が供給されてもよい。ただし、このバイアス電力が供給されることによって、被処理物100の温度が上昇する場合があるので、このことによる影響を含め、当該バイアス電力の供給については、慎重に検討する必要がある。
【0091】
また、それぞれの仕切り壁54(挿通部60)に開閉ゲートが設けられることにより、それぞれの成膜室56内の密閉度の向上が図られてもよい。この場合、第1成膜室56の搬入口62および第5成膜室の搬出口64にも、同様の開閉ゲートが設けられるのが、望ましい。
【0092】
本第2実施例においては、量産型のマグネトロンスパッタ装置50として、複数の成膜室56,56,…が一列に設けられたインライン式のものを例示したが、これに限らない。公知のロードロック式やマルチチャンバ式などのインライン式以外の量産型の装置にも、本発明を適用することができる。この場合、装置の構造に応じて、各成膜室に被処理物100を収容する適宜の収容手段が採用される。
【0093】
[第3実施例]
次に、本発明の第3実施例について、
図9を参照して説明する。
【0094】
図9に示されるように、本第3実施例に係るマグネトロンスパッタ装置500は、基板としての柔軟性のある長尺状のフィルム400に前述と同様の封止膜200を形成するのに好適な、巻取り式(または「ロール・ツー・ロール式」とも呼ばれる。)の成膜装置である。この巻取り式のマグネトロンスパッタ装置500は、適当な形状の、たとえば概略直方体状の、真空槽302を備える。なお、真空槽302は、機械的強度、耐食性および耐熱性が比較的に高い金属製であり、たとえばSUS304などのステンレス鋼製である。また、図示は省略するが、真空槽302の壁部は、接地される。そして、フィルム400は、透明な樹脂製であり、たとえばPET(Poly Ethylene Terephthalate)樹脂製であるが、これに限定されない。
【0095】
真空槽302の内部には、フィルム400を搬送する搬送機構303が設けられる。搬送機構303は、概略円筒状の冷却ロール(または「キャンロール」あるいは「冷却ドラム」とも呼ばれる。)304と、この冷却ロール304にフィルム400を供給する(巻き出す)巻出しロール306と、当該冷却ロール304からフィルム400を巻き取る巻取りロール308と、を含む。また、冷却ロール304と巻出しロール306との間には、適当な中間ロールが設けられ、たとえば巻出し側フリーロール309、巻出し側張力検出ロール310および巻出し側フィードロール312が設けられる。これら巻出し側フリーロール309、巻出し側張力検出ロール310および巻出し側フィードロール312は、巻出しロール306から冷却ロール304へのフィルム400の供給方向、つまり当該フィルム400の搬送方向400aに沿って、この順番で適宜に設けられる。併せて、冷却ロール304と巻取りロール308との間にも、適当な中間ロールが設けられ、たとえば巻取り側フィードロール313、巻取り側張力検出ロール314および巻取り側フリーロール316が設けられる。これら巻取り側フィードロール313、巻取り側張力検出ロール314および巻取り側フリーロール316は、巻取りロール308による冷却ロール304からのフィルム400の巻取り方向である当該フィルム400の搬送方向400aに沿って、この順番で適宜に設けられる。
【0096】
このような搬送機構303によれば、巻出しロール306から巻き出されたフィルム400は、巻出し側フリーロール309、巻出し側張力検出ロール310、巻出し側フィードロール312、冷却ロール304、巻取り側フィードロール313、巻取り側張力検出ロール314および巻取り側フリーロール316のそれぞれの外周面に密着しながら搬送され、巻取りロール308によって巻き取られる。この過程で、フィルム400に適当な張力が付与されるように、詳しくは巻出し側張力検出ロール310および巻取り側張力検出ロール314による検知結果が一定となるように、不図示の適当な張力調整機構により当該張力が調整される。併せて、フィルム400の搬送速度が一定となるように、巻出しロール306を駆動するための不図示の巻出し駆動手段としての駆動モータ、および、巻取りロール308を駆動するための不図示の巻取り駆動手段としての別の駆動モータが、それぞれ適宜に制御される。冷却ロール304については、一定の回転速度で駆動され、つまりはそうなるように当該冷却ロールを駆動するための冷却ロール駆動手段としての別の駆動モータが制御される。
【0097】
なお、フィルム400は、冷却ロール304の外周面に密着される区間において、前述の有機EL素子120が配置された側の面を外方に向けた状態で搬送され、つまりはそうなるように当該フィルム400の表裏両面の向きが定められる。また、冷却ロール304は、不図示の基板冷却手段としての冷却機構を有する。この冷却機構は、冷却ロール304の外周面を適宜に冷却し、ひいては当該冷却ロール304の外周面に密着されるフィルム400を適宜に冷却する。このような冷却機構としては、たとえば水冷式のものがあるが、これに限定されない。
【0098】
さらに、図示は省略するが、フィルム400が冷却ロール304の外周面に密着される前に、当該フィルム400の有機EL素子120が配置された側の面にマスキングが施される。具体的には、たとえばフィルム400の搬送方向400aにおける巻出し側フィードロール312の手前(上流側)で、当該フィルム400の有機EL素子120が配置された側の面に樹脂製のマスクフィルムが貼着される。したがって、フィルム400は、その有機EL素子120が配置された側の面にマスクフィルムが貼着された状態で、冷却ロール304に供給され、当該冷却ロール304の外周面に密着される。そして、フィルム400の搬送方向400aにおける巻取り側フィードロール313の先方(下流側)で、当該フィルム400からマスクフィルムが剥ぎ取られ、つまりマスキングが解かれる。このようなマスキング技術は、公知であるので、これ以上の詳しい説明は省略する。
【0099】
加えて、真空槽302の内部は、適当な仕切り壁318により、1つの巻出し/巻取り室320と、複数の、たとえば5つの、成膜室322,322,…と、に仕切られる。このうちの巻出し/巻取り室320は、真空槽302の内部における上側の空間であり、詳しくは巻出しロール306、巻出し側フリーロール309、巻出し側張力検出ロール310、巻出し側フィードロール312、冷却ロール304の上側の一部、巻取り側フィードロール313、巻取り側張力検出ロール314および巻取り側フリーロール316を含む空間である。一方、各成膜室322,322,…は、真空槽302の内部における下側の空間が5つに仕切られることによって形成された空間である。これら各成膜室322,322,…は、冷却ロール304の外周面の回転方向に沿って、つまり当該冷却ロール304の外周面によるフィルム400の搬送方向400aに沿って、互いに連続するように設けられる。なお、これ以降、各成膜室322,322,…については、フィルム400の搬送方向400aにおける上流側から下流側に向かって順に、「第1成膜室」、「第2成膜室」、「第3成膜室」、「第4成膜室」および「第5成膜室」と表現する場合がある。
【0100】
また、それぞれの仕切り壁318と冷却ロール304の外周面との間には、当該冷却ロール304の外周面に密着しながら搬送されるフィルム400を挿通させるための隙間、言わば挿通部324が、設けられる。ただし、この挿通部324が設けられることによって、隣接する2つの成膜室322および322内、または、各成膜室322,322,…のうちの端にある成膜室(第1成膜室もしくは第5成膜室)322内と巻出し/巻取り室320内とが、互いに連通することになる。これにより、それぞれの成膜室322内での後述する成膜処理に多少の影響が及ぼされることが、懸念される。この懸念が可能な限り抑制されるように、挿通部324は、その形状および寸法を含め、適宜に設計される。特に、挿通部324におけるコンダクタンスを小さくして、当該挿通部324を介してのガスの流通を低減するべく、たとえば冷却ロール304の外周面に沿う平面または曲面を有する鍔部(
図9において概略T字状に形成された部分)324aが設けられる。この鍔部324aが設けられることに代えて、または、これに加えて、それぞれの仕切り壁318の厚みが大きめに設計されてもよい。なお、それぞれの仕切り壁318は、たとえば真空槽302と同様の素材により形成され、また、当該真空槽302と一体的に形成される。
【0101】
そして、巻出し/巻取り室320には、排気口326が設けられる。図示は省略するが、この排気口326は、真空槽302の外部において、排気管を介して排気手段としての真空ポンプに結合される。真空ポンプとしては、とりわけ主排気ポンプとしては、たとえばターボ分子ポンプが採用される。また、排気管の途中には、巻出し/巻取り室320内の圧力を制御するための圧力制御手段としての圧力制御装置が設けられる。
【0102】
併せて、巻出し/巻取り室320には、当該巻出し/巻取り室320内に不活性ガスであるアルゴンガスを導入するための、ガス導入管328が設けられる。図示は省略するが、このガス導入管328は、真空槽302の外部において、アルゴンガス用の配管に結合される。
【0103】
また、それぞれの成膜室322にも、排気口330が設けられる。図示は省略するが、この排気口330は、真空槽302の外部において、排気管を介して排気手段としての真空ポンプに結合される。この真空ポンプについても、とりわけ主排気ポンプとして、たとえばターボ分子ポンプが採用される。また、それぞれの排気管の途中に、成膜室322内の圧力を制御するための圧力制御手段としての圧力制御装置が設けられる。
【0104】
さらに、それぞれの成膜室322には、当該成膜室322内に適宜のガスを導入するためのガス導入管332が設けられる。ただし、第1成膜室322、第3成膜室322および第5成膜室322内には、放電用ガスとしてのアルゴンガスと、反応性ガスとしての窒素ガスとが、導入される。したがって、図示は省略するが、これら第1成膜室322、第3成膜室322および第5成膜室322のそれぞれに設けられたガス導入管332は、真空槽302の外部において、アルゴンガス用の配管と、窒素ガス用の配管と、に結合される。一方、第2成膜室322および第4成膜室322内には、放電用ガスとしてのアルゴンガスのみが導入される。したがって、図示は省略するが、これら第2成膜室322および第4成膜室322のそれぞれに設けられたガス導入管332は、真空槽302の外部において、アルゴンガス用の配管に結合される。
【0105】
加えて、それぞれの成膜室322内には、放電ユニット334が設けられる。この放電ユニット334は、第2実施例(
図8)におけるのと同様であるので、ここでは、その詳しい説明は省略する。ただし、この放電ユニット334は、アルミニウム製のターゲットの被スパッタ面を冷却ロール304の外周面に向けるように設けられること、および、当該ターゲットの被スパッタ面と冷却ロール304の外周面との間にフィラメントが配置されることについては、念のため言及しておく。
【0106】
このような構成の巻取り式のマグネトロンスパッタ装置500によれば、前述の如くフィルム400上の有機EL素子120を封止するための封止膜200を形成することができる。
【0107】
すなわち、この巻取り式のマグネトロンスパッタ装置500によれば、フィルム400は、
図9に破線の矢印400aで示される如く搬送され、とりわけ冷却ロール304の外周面に密着しながら搬送される。このとき、フィルム400は、その被処理部分である有機EL素子が配置された側の面を外方に向けた状態で搬送される。そして、まず第1成膜室322内において、第1層202としての窒化アルミニウム層を形成するための成膜処理が行われる。この窒化アルミニウム層を形成するための成膜処理の要領は、第1実施例および第2実施例における要領と同様である。続いて、第2成膜室322内において、第2層204としてのアルミニウム層を形成するための成膜処理が行われる。このアルミニウム層を形成するための成膜処理の要領もまた、第1実施例および第2実施例における要領と同様である。さらに、第3成膜室322内において、第3層206としての窒化アルミニウム層を形成するための成膜処理が行われ、第4成膜室322内において、第4層208としてのアルミニウム層を形成するための成膜処理が行われる。そして、第5成膜室322内において、第5層210としての窒化アルミニウム層を形成するための成膜処理が行われる。このように、フィルム400が各成膜室322,322,…内を順次通過することにより、当該フィルム400の被処理部分に全5層の封止膜200が形成される。
【0108】
このように本第3実施例に係る巻取り式のマグネトロンスパッタ装置500によれば、フィルム400上に封止膜200を形成することができ、とりわけ当該封止膜200を連続的に形成することができる。この巻取り式のマグネトロンスパッタ装置500によって形成された封止膜200もまた、第1実施例および第2実施例におけるのと同様、極めて緻密である。さらに、図示は省略するが、それぞれの成膜室322内においては、アーク放電のプラズマ300が発生するものの、このプラズマ300によるフィルム400へのダメージ、とりわけ有機EL素子120へのダメージは、抑制される。この結果、仮封止用として十分に実用可能な封止膜200が形成される。
【0109】
なお、本第3実施例として、
図9に示される構成を例示したが、これに限らない。たとえば、搬送機構303については、一般的な構成であり、ここで説明した構成に限定されない。
【0110】
また、第2実施例に係る
図8に示される構成を、巻取り式の成膜装置として応用することもできる。この場合、図示は省略するが、たとえば搬入口62側に巻出しロールが設けられ、搬出口64側に巻取りロールが設けられる。そして、巻出しロールから巻き出されたフィルムが巻取りロールにより巻き取られることによって、当該フィルムが各成膜室56,56,…内を順次搬送される。このような構成によっても、長尺状のフィルム上に封止膜200を形成することができる。
【0111】
[その他の適用例]
前述の各実施例は、本発明の具体例であり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。これら各実施例以外の局面にも、本発明を適用することができる。
【0112】
たとえば、前述の各実施例においては、
図3に示されるような5層構造の封止膜200が形成されたが、これに限らない。5層以外の層数の封止膜200が形成されてもよい。この場合、第1実施例においては、封止膜200の層数に応じて、真空槽12内への窒素ガスの導入がオン/オフされる。そして、第2実施例においては、封止膜200の層数に応じた数の成膜室56が設けられる。第3実施例においても同様に、封止膜200の層数に応じた数の成膜室322が設けられる。ただし前述したように、最下層である第1層202としては、絶縁性物質である窒化アルミニウム層が形成されることが、肝要である。最上層については、特段な制限はない。
【0113】
また、封止膜200としては、窒化アルミニウム層とアルミニウム層との積層膜に限らず、他の種類の積層膜が形成されてもよい。たとえば、窒化アルミニウム層と酸化アルミニウム(AlOx)層との積層膜や、窒化珪素(SiNx)層と酸化珪素(SiOx)層との積層膜などが、封止膜200として形成されてもよい。ただし、酸化アルミニウム層や酸化珪素層などの酸化物層については、これを形成する際に、反応性ガスとして酸素ガスが用いられるので、この酸素ガスによるフィラメント20などの酸化を防止するための適宜の手段を講ずる必要がある。併せて、積層膜の種類に応じて、ターゲット142の素材も適宜に選定される。
【0114】
さらに、封止膜200については、2種類の層の積層膜に限らず、3種類以上の層の積層膜であってもよい。この場合、積層膜を構成する層の種類に応じて、反応性ガスおよびターゲット142の素材が適宜に選定される。
【0115】
そして、有機EL素子120は、ボトムエミッション型に限らず、トップエミッション型などの当該ボトムエミッション型以外の素子であってもよい。また、有機EL素子120以外の電子素子を封止する場合にも、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0116】
10 …マグネトロンスパッタ装置
12 …真空槽
14 …マグネトロンカソード
18 …スパッタ電源装置
20 …フィラメント
22 …カソード電源装置
24 …放電用電源装置
30 …制御装置
32 …ガス導入管
34,36 …配管
36 …窒素ガス用配管
142 …ターゲット