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  • 特許-粒状色材含有塗料の塗装方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】粒状色材含有塗料の塗装方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/28 20060101AFI20230620BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20230620BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
B05D1/28
B05D5/06 104C
B05D7/00 L
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019067083
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020163308
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000159032
【氏名又は名称】菊水化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山内 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 泰士
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-013863(JP,A)
【文献】特開2006-326494(JP,A)
【文献】特開昭54-032548(JP,A)
【文献】特開昭62-87285(JP,A)
【文献】特開昭54-131640(JP,A)
【文献】特開2002-53814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B05C 1/00-21/00
B32B 1/00-43/00
E04F 13/00-13/30
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料体積濃度(PVC)が10~80%の範囲であり、平均粒径25~800μmの範囲の骨材が含まれる下塗塗料により連続した略半球状の凹部が形成された塗装用基材に対して、粒状色材含有塗料を塗装用ローラーにより塗装する方法であって、
粒状色材含有塗料には、45~1500μmの範囲の粒状色材を含み、
略半球状の凹部の直径が45~1500μmの範囲より大きく、かつ、粒状色材より大きい、
塗装用基材の略半球状の凹部に粒状色材を固定する粒状色材含有塗料の塗装方法。
【請求項2】
前記塗装用ローラーがスポンジ状のものである請求項1に記載の粒状色材含有塗料の塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、建物など構造物の内外壁表面の塗装を行うための塗装方法であり、特に粒状色材含有塗料を仕上げるための粒状色材含有塗料の塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建物など構造物の内外壁表面には、その表面の美装と保護の目的で、塗料を用いて塗装されることが多い。
この美装のためにゲル化した着色粒子を分散させた多彩塗料や有色の骨材を含有させた石材調塗料などが使われることがある。
【0003】
このような多彩塗料や石材調塗料などの粒状色材含有塗料を用いて塗装を行った壁面などの仕上がりは、その粒状色材の粒により構成され、多彩感のある美装されたものとなる。
しかし、これら粒状色材含有塗料の塗装には、塗装用ローラーによる塗装が
難しく、主にスプレーガンなどを用いたスプレー塗装が行われることが多い。
【0004】
そのため、これらの塗料の塗装時は、塗料飛散などの問題や塗装の難しさもある。
粒状色材含有塗料を塗装用ローラーで塗装した場合、粒状色材が塗装面に均等に散らばることがなく、塗装方向に筋状に並ぶことなどがある。又、所望の粒状色材が塗装面に付着せずに塗装用ローラーに残ったままの状態の場合もある。
【0005】
このように塗装面に対して、多彩感のある均一な仕上がりとならないことが多い。
これらのことにより、塗装下地に対して水系多彩塗料を配り塗りローラーで均一に配り塗りし、次いで配り塗りした塗料を押さえ具で一定方向に引き押さえて仕上げる水系多彩柄仕上材の施工方法(特許文献1)が提案されている。
【0006】
これは、塗装下地に対して水中にゲル化した着色粒子が分散した状態の水系多彩塗料をローラーで均一に簡単に配り塗りし、引き押えて仕上げ、配り塗りした塗料を一定方向に引き押さえ、不均一な塗装面が押しつぶされて、より少量の材料で下地の隠蔽性の高い均一な模様に仕上がるのである。
ローラーの配り塗りの際の材料の塗布むら、塗継部分の継ぎむらも引き押さえることで均一に仕上がり、塗装時の塗料飛散も低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-326494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の水系多彩柄仕上材の施工方法では、着色粒子の大きさのバラつきや塗装時の集まり方により、その仕上がりに大きく影響を与えることになる。
つまり、塗膜中の着色粒子の大きさやその集まり方などがそのまま仕上がりとなることである。
【0009】
また、ローラーの配り塗りの際の材料の塗布むら、塗継部分の継ぎむらも引き押さえることにより均一に仕上げることができるが、その押え方により筋などができ良好な仕上がりとならない場合がある。
これは、引き押えすることで、仕上材に分散されている着色粒子が潰れ、引き方向に流れたようになることがある。又、着色粒子が潰れることで、その潰れ方により所望した意匠感にならない場合もある。
【0010】
さらに、配り塗りした後に引き押えするため、仕上材の乾燥の程度により、つまり、工程間隔により引き押えによる斑も生じこともある。
この引き押えには、技術が必要で容易に行うことが難しく、その塗装工程も複雑なものである。
【0011】
本開示は、多彩塗料や石材調塗料などの粒状色材の粒により構成された粒状色材含有塗料を塗装用ローラーにより容易に塗装を行うことができ、その仕上がりも良好な塗装面を得ることができる塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
顔料体積濃度(PVC)が10~80%の範囲であり、平均粒径25~800μmの範囲の骨材が含まれる下塗塗料により連続した略半球状の凹部が形成された塗装用基材に対して、粒状色材含有塗料を塗装用ローラーにより塗装する方法であって、粒状色材含有塗料には、45~1500μmの範囲の粒状色材を含み、略半球状の凹部の直径が45~1500μmの範囲より大きく、かつ、粒状色材より大きい、塗装用基材の略半球状の凹部に粒状色材を固定することである。
これにより、容易に塗装用基板の略半球状の凹部を形成させることができ、多彩塗料や石材調塗料などの粒状色材の粒により構成された粒状色材含有塗料の粒状色材が固定されやすく、塗装用ローラーにより容易に塗装を行うことができ、その仕上がりも良好な塗装面を得ることができる。
【0013】
つまり、これは、塗装用基材の連続した略半球状の凹部に粒状色材含有塗料の粒状色材を入れ込み固定させることができ、粒状色材が塗装面に均等に散らばり、塗装方向に筋状に並ぶことが少なく、安定した仕上がりを得ることができる。
【0014】
また、塗装用基材の連続した略半球状の凹部が、顔料体積濃度(PVC)が10~80%の範囲で、平均粒径25~800μmの範囲の骨材が含まれる下塗塗料により形成させたものであることにより、容易に塗装用基板の略半球状の凹部を形成させることができ、より粒状色材が固定され易く、安定した仕上がりを得ることができる。
【0015】
前記塗装用ローラーがスポンジ状のものであることにより、塗料を比較的多く含むことができるので一度に塗る面積が広くなり、効率的に作業することができる。
また、下塗塗料の場合では、容易に塗装用基板の略半球状の凹部を形成させることができ、比較的大きな安定した凹部を形成させることができる。粒状色材含有塗料の場合では、その粒状色材の比較的大きなものも安定的に塗装することができる。
【0016】
被塗装面がタイル模様調で、タイル部と目地部が凹凸により形成され、そのタイル部の短辺が塗装用ローラーの長さより短いものである。
これにより、塗装ローラーによる塗り継ぎが目立ち難く良好な仕上がりとなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は連続した略半球状の凹部の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示の実施形態を詳細に説明する。
本開示の粒状色材含有塗料の塗装方法は、連続した略半球状の凹部が形成された塗装用基材に対して、塗装用ローラーを用いて粒状色材含有塗料を塗装する塗装方法であって、略半球状の直径より小さい粒径の粒状色材により構成された粒状色材含有塗料を塗装用ローラーにより塗装することである。
【0019】
この粒状色材含有塗料を後述する連続した略半球状の凹部が形成された塗装用基材に対して、塗装用ローラーで塗装することで、被塗装面に良好な意匠を得ることができるものである。
この粒状色材含有塗料は、ゲル状着色粒子を使った多彩塗料や有色骨材を使った石材調塗料などがあり、ゲル状着色粒子や有色骨材などの粒状色材と合成樹脂とを主成分とした塗料のことである。
【0020】
このゲル状着色粒子を使った多彩塗料は、複数のゲル状着色粒子を単色塗料やクリヤー塗料などに分散させたものであり、形成された塗膜は、その粒子が塗膜中に粒状の形で存在した多彩感のある意匠を容易に得ることができるものである。
この多彩塗料は、後述される石材調塗料に比べ、比較的薄膜で多彩感のある仕上がりになるため好ましく用いられる。
【0021】
この多彩塗料に使われるゲル状着色粒子とは、塗料や着色液などの液状の色材をゲル状の粒子にしたものであり、その塗料の溶媒を含んだ柔らかい状態で形状を保持したものである。
ゲル状着色粒子の形状は、球状に限らず、楕円形状,円盤状,円筒状,それらに類似した形のものや円形に近い不定形な略球状のものも含まれる。
【0022】
ゲル状着色粒子の大きさは、後述する略半球状の凹部の中に入れ込み固定するものであるため、その略半球状の凹部の直径より小さいことが必要であり、その大きさの中でも、45~1500μmの範囲のものが好ましい。
このゲル状着色粒子の色や大きさの異なったゲル状着色粒子が複数混在した状態の塗膜に陰影感が生じ立体感のある意匠となり、鮮明な多彩模様と自然な風合いを有する優れたものとなる。
【0023】
その大きさが45μmより小さい場合では、粒状色材含有塗料により形成された塗膜のベース色が他のゲル状着色粒子にかぶり、その多彩感に影響を及ぼすことがある。
1500μmより大きい場合では、塗装時に塗装用ローラーが詰まり、塗装の斑を生じることがある。
【0024】
ゲル状着色粒子の大きさが45~1500μmの範囲のものが、塗装面に60%以上を占めている場合が好ましく、このことにより、多彩塗料の多彩感が良く表現できるものである。
60%より少ない場合では、多彩感が若干劣ることもあり、塗装による斑も発生することがあり良好な仕上がりを得ることができないことがある。
【0025】
この多彩塗料の塗布量は、150~800g/mとなるように塗布するのが好ましく、この範囲内であれば、ゲル状着色粒子により形成されたものだけではなく、立体感、陰影感を有し、かつ、下地も透けて見え、複雑な深みのある意匠的に優れたものとなる。
また、その塗膜の厚みは、20~500μmの範囲が好ましく、被塗物を十分に被覆することができ、耐候性に優れた塗装物を得ることができる。
【0026】
ゲル状着色粒子の固形分が10~40重量%の範囲で、樹脂分が5~25重量%の範囲であり、その大きさが45~1500μmの範囲であるため、塗料中のゲル状粒子の形状安定性がより優れ、多彩塗料による塗膜においても鮮明な粒子を表現できるものである。
有色骨材を使った石材調塗料とは、複数の有色骨材をクリヤー塗料などに分散させたものであり、形成された塗膜は、多彩塗料同様に、その粒子が塗膜中に粒状の形で存在した多彩感のある意匠を容易に得ることができるものである。
【0027】
有色骨材とは、珪砂などの天然砂、珪石,寒水石,珪石,大理石,御影石を含む天然石の粉砕物、陶磁器粉砕物、ガラス,プラスチックからなるビーズ、黒曜石,真珠岩,ガラス粉を発泡体とした軽量骨材、などがあり色の付いた骨材のことで、これら有色骨材を粒度調整して用いることが多い。
また、これら有色骨材に着色を施し、色を安定させた着色骨材もある。更に、ガラスを略球状にしたガラスビーズや合成樹脂を略球状にしたものなども含まれる。
【0028】
この中でも着色骨材が粒度や色が安定するため好ましく用いられる。この着色骨材は、珪砂や寒水砂などの骨材の表面に塗料などの着色材で被覆層を設けるものである。
有色骨材の粒度は、前記ゲル状着色粒子と同様で、後述する連続した略半球状の凹部の直径より小さいことが必要であり、この有色骨材を略半球状の凹部の中に入れ込み固定するものであって、その大きさの中でも、45~1500μmの範囲のものが好ましい。
【0029】
より好ましくは、45~1000μmの範囲のものであり、45μmより小さい場合では、粒状色材の多彩感を表現することが難しく、1500μmより大きい場合では、塗装用ローラーでの塗装が難しいことがある。
このゲル状粒子や有色骨材を混合するクリヤー塗料などの合成樹脂は、粒状色材含有塗料の結合材であり、被塗布面と粒状色材含有塗料とを結合するものである。
【0030】
また、粒状色材の色やその質感を生かし、意匠感を高めるために乾燥し造膜した後に透明となるものであることが好ましいものである。
この合成樹脂は、アクリル樹脂,ウレタン樹脂,塩化ビニル樹脂,シリコーン樹脂,酢酸ビニル樹脂,ポリエステル樹脂,スチレン樹脂,フッ素樹脂などの樹脂を単独又は共重合したもの,これら樹脂を有機溶媒に溶解させたもの,エマルションとして水に分散させたもの,が使用される。
【0031】
塗料の使いやすさ、製造の容易さ、入手の容易さより合成樹脂エマルションが好ましく用いられる。
合成樹脂エマルションは、乳化重合のような常用の重合技術で製造することができる、一般的なもので良く、塗料適性,塗膜の物性,入手の容易性などの点から、アクリル樹脂、スチレン樹脂より製造されたアクリル系合成樹脂エマルション及びアクリルスチレン系合成樹脂エマルションが好ましい。
【0032】
この粒状色材含有塗料には、その他の添加剤としての低沸点アルコール,高沸点溶剤,界面活性剤,増粘剤,着色顔料,難燃剤,pH調整剤,防腐剤等のような一般に塗料製造に配合されている成分を使用することができる。
高沸点溶剤は、造膜助剤や防凍剤として用いられ、界面活性剤は、分散剤,湿潤剤などとして用いられる。増粘剤は、粘度及び粘性調整のために用いられる。
【0033】
難燃剤としては、水酸化アルミニウム,ハロゲン系、リン系、三酸化アンチモン系化合物などがある。又、必要により酸化チタンなどの白色顔料や炭酸カルシウムなどの充填材を添加することもできる。
このようなものにより粒状色材含有塗料は、構成される。
【0034】
次に、連続した略半球状の凹部が形成された塗装用基材とは、粒状色材含有塗料を塗布する前に形成されていることが必要であり、サイディング板などのような壁板材に直接形成されている場合でも良く、下塗塗料などにより形成されている場合でも良い。
この連続した略半球状の凹部とは、図1に示したような形状のものがあり、壁板材の成型時に型により形状を形成することや切削などの加工により形成する場合などがある。
【0035】
また、塗料により略半球状の凹部を形成することも可能で、容易に行うことができる。
この略半球状の凹部は、ゲル状着色粒子や有色骨材などの粒状色材の大きさより大きいものである必要があり、これら粒状色材を凹部の中に入るようにし、この凹部の中で粒状色材を固定し、安定した意匠を実現するためのものである。
【0036】
このような略半球状の凹部を塗装用基材とすることで、前記記載の粒状色材含有塗料の粒状色材を凹部に入れ込むことにより、粒状色材を固定させることができ、安定した仕上がりを得ることができることになる。
この略半球状の凹部を塗材により形成させる方法は、比較的粘度の高い塗料を塗装用スポンジローラーにより塗装することにより可能である。
【0037】
この比較的粘度の高い塗料には、一般的に市販されている下地調整材や単層弾性などのように、塗装用スポンジローラーで塗装することができるもので、合成樹脂を主成分とし、充填材や体質顔料,白色顔料などのフィラー成分を含有したものである。
また、その他に低沸点アルコール,高沸点溶剤,界面活性剤,増粘剤,難燃剤,pH調整剤,防腐剤等のような一般に塗料製造に配合されている添加成分が使用されることが多い。
【0038】
さらに、セメントやコロイダルシリカなどの、無機系結合材を添加したものでも良い。
この合成樹脂には、合成樹脂エマルションが多く用いられ、これをバインダーとする塗材が使われることが多い。
【0039】
この塗料を塗装用スポンジローラーで塗布することにより略半球状の凹部を形成することができ、粒状色材含有塗料との密着性がより優れたもので、耐久性の優れたものとなる。
この合成樹脂エマルションは、粒状色材含有塗料と同様で、乳化重合のような常用の重合技術で製造することができる、一般的なもので良い。
【0040】
これらには、アクリル樹脂,シリコーン樹脂,スチレン樹脂,ウレタン樹脂,フッ素樹脂などの樹脂より製造された合成樹脂エマルションなどが挙げられる。
また、フィラー成分を含有することにより比較的厚膜の略半球状の凹部のある下塗層を形成することができ、仕上がりがより良好なものとなる。
【0041】
このフィラー成分は、酸化チタン,亜鉛華などの白色顔料、炭酸カルシウム,珪藻土,ベントナイト,カオリン,タルク,クレー,ホワイトカーボン,ガラスビーズ,プラスチックビーズ,水酸化アルミニウムや珪砂などの体質顔料が挙げられる。
このフィラー成分の平均粒子径は、150μm以下のものが用いられることが多く、炭酸カルシウム,珪藻土,水酸化アルミニウムや珪砂が容易に入手することができるため好ましく用いられる。
【0042】
また、着色のための酸化鉄などの無機系の顔料や有機系顔料などの着色顔料を加えることもある。
これら白色顔料,体質顔料などの顔料の含有量は、塗材の顔料体積濃度(PVC)が、10~80%になる範囲が好ましく、30~70%の範囲がより好ましい。
【0043】
この顔料体積濃度が10%より少ない場合には、下塗塗料により形成される塗膜の隠ぺい性が低下し、80%を超える場合には、塗膜の耐久性や仕上がりに影響を与えることがある。
そのため、この範囲内で必要に応じた顔料体積濃度を調整するが、30~70%の範囲に調整することで、より仕上がりが良好なものとなる。
【0044】
30%より少ない場合には、十分な凹部を形成することができないことがあり、70%を超える場合には、粒状色材含有塗料の仕上がりが悪い場合がある。
この塗料に平均粒径25~800μmの範囲の骨材が含まれることが好ましい。これにより、より粒状色材が固定され易く、安定した仕上がりを得ることができる。
【0045】
また、このように塗料により略半球状の凹部を形成することで、被塗装面との密着が良好で、粒状色材含有塗料との密着も良好なものを選択することも可能である。
さらに、この塗料を使用することで、必要な色に調色することもでき、この略半球状の凹部が部分的に露出する場合もあるため、耐候性などの耐久性の優れたものを選択することも可能である。
【0046】
この塗装で用いられる塗装用スポンジローラーは、塗料保持層がスポンジ状のローラーカバーをローラー器具に装着することにより塗装が可能なものとなる。
塗装用スポンジローラーカバーは、円筒状部材と塗料保持層により構成される。
【0047】
この塗料保持層は、その内部に塗料を含ませることができる空間が有り、塗料に浸し圧力を掛け、変形させ圧力を開放すると空間の空気と置換される形で液体を吸い取り塗料を保持することができる。
このように保持された塗料は、被塗装面に接し、塗装時の圧力により放出され、塗装することができる。
【0048】
この塗装用スポンジローラーは、スポンジローラーや砂骨ローラーと呼ばれ、そのスポンジの厚みや目の大きさである空隙を変えることで、塗料保持層を調整することができる。
この塗装用スポンジローラーは、比較的多く含むことがでるので一度に塗る面積が広くなり、塗料保持層の弾力性のある空隙により下地に馴染み、効率的に作業することができる。
【0049】
塗装用スポンジローラーの塗料保持層の長さは、50~300mmの範囲のものが好ましく用いられる。50mmより小さい場合では、塗装作業での塗り継ぎが多くなり、塗装斑が目立つことがある。
また、300mmより大きい場合では、扱い難いことがある。100~200mmの範囲のものであれば作業が行い易く、塗り継ぎが比較的少なくなるためより好ましいものである。
【0050】
塗料保持層の外径が直径で20~75mmの範囲が好ましく、この範囲であることで、塗装作業性に適したものであり、保持することができる塗料の量が適切となり、安定的に塗装することができるものである。
このように形成された略半球状の凹部を有する塗装基材の表面に上記記載の粒状色材含有塗料の塗装を塗装用ローラーにより行う。
【0051】
この塗装用ローラーは、上記記載の塗装用スポンジローラーを用いて行われることが好ましく、これら塗装用スポンジローラーにより略半球状の凹部を形成することで、その凹部の大きさが、直径で1~5mm程度の大きさとなる。
この塗装用スポンジローラーは、粒状色材含有塗料を含めることができ、その塗料を略半球状の凹部に入り込み易く、粒状色材が引っ掛かり易く、塗装用ローラーが滑ることなく安定した回転により塗装することができ、安定した仕上がりにすることができる。
【0052】
また、この塗装用スポンジローラーを使うことにより、粒状色材含有塗料を凹凸状に塗装することで、凸部毎に独立した状態とし、その粒状色材のよりなど斑を少なくすることができ、塗装面が凹凸状となり、その仕上がりに重厚感をもたらすことができる。
つまり、このスポンジの空隙による模様を利用して、粒状色材含有塗料を安定的な凹凸に塗装することができる。
【0053】
この塗装用スポンジローラーの他に、塗料保持層が繊維毛状のウールローラーも使用が可能である。このウールローラーは、円筒状部材に繊維毛を植毛して作られたもので、繊維毛状が羊毛状のものを用いたものがある。
このウールローラーは、毛丈,素材,サイズや形状などの異なったものが多様にあり、大きく分けると3種類に分類でき、円筒状部材の表面から毛先までの長さ(以下、毛足)で分類されている。
【0054】
毛足が4~5mm程度と短い短毛ローラー,毛足が13mm程度と中程度の長さの中毛ローラーや毛足が20mm以上の長さを持つ長毛ローラーがある。
このウールローラーの中でも、中毛ローラーや凸凹のある塗装面でも毛足が長いので容易に塗装することができる長毛ローラーが用いられることが多い。
【0055】
これらにより本開示の粒状色材含有塗料の塗装方法は、被塗装面に塗装される。この被塗装面には、建築物の壁面を構成するコンクリート,モルタル,ALCパネル,サイディングボード,押出成型板,石膏ボード,スレート,セラミック,プラスチック,木材,石材,タイル等の種々の対象物に塗布することが可能である。
この被塗装面がタイル模様調で、タイル部と目地部が凹凸により形成され、そのタイル部の短辺が塗装用ローラーの長さより短いものである場合、塗装ローラーによる塗り継ぎが目立ち難く良好な仕上がりとなる。
【0056】
これは、そのタイル部が塗り継ぐことが無く塗装することができることで、より塗装での斑が少なくなるためである。
これらにより構成される塗装方法を実施形態により詳細に説明する。
【0057】
実施形態1では、建築物の壁面に対して塗装を行った。この建築物は、鉄筋コンクリートで建設され、その塗装の対象は、コンクリート面である。
塗装対象であるコンクリート面には、養生などを行い、欠損部への補修やプライマー処理を事前に行った。
【0058】
このコンクリート面に連続した略半球状の凹部を形成するために、下塗塗料Aを塗装用スポンジローラーにより塗装を行った。この下塗塗料Aにより略半球状の凹部をコンクリート面に容易に形成することができた。
下塗塗料Aは、比較的粘度の高い、一般的に市販されている下地調整材に着色顔料を添加してグレー系の色のものを用いた。
【0059】
この塗装に用いた粒状色材含有塗料は、ゲル状着色粒子を含有している多彩塗料1を用いた。この多彩塗料1の色は、下塗塗料Aと同系色のグレー系のものであった。
この下塗塗料Aとは別に、グレー系の低粘度のフラット塗料を下塗塗料として用意した。これは、仕上がりの比較用とするためで、塗装対象面とは別に1m×1mのスレート板を用意し、そのスレート板にウールローラーにより塗布し、連続した略半球状の凹部を形成しないものを用意した。
【0060】
下塗塗料Aと下塗塗料は、同色のグレー色であり、共にアクリル合成樹脂エマルションを主成分としたものであり、粘度が異なるものであった。
これらは、白色顔料として酸化チタンを用い、炭酸カルシウムをフィラー成分とし、無機系のカーボンブラックを着色顔料として使って、グレー色に調色したものである。これら下塗塗料の顔料体積濃度(PVC)は、65%程度に調整したものであった。
【0061】
下塗塗料Aの塗装には、塗料保持層がスポンジ状の砂骨ローラーを用いた。この砂骨ローラーはスポンジの目が細かいものを塗装用ローラーカバーとし、その塗装用ローラーカバーをローラー器具に装着し塗装用ローラーとした。
これにより、略半球状の凹部の大きさが直径で3mm程度のものを形成した塗装基材を得ることができた。
【0062】
下塗塗料は、円筒状部材に繊維毛を植毛して塗料保持層が作られているウールローラーで、その毛足が13mm程度と中程度の長さの中毛ローラーを塗装用ローラーカバーとし、その塗装用ローラーカバーをローラー器具に装着し用いた。
これにより、ほぼフラットな塗装基材を得ることができた。
【0063】
これらの塗装用ローラーの塗料保持層の長さは、200mmで、その外径が直径で50mm程度のものであった。
このゲル状着色粒子を使った多彩塗料1は、複数の近い不定形な略球状のゲル状着色粒子をアクリル樹脂エマルションのクリヤー塗料に分散させたものであった。
【0064】
この多彩塗料1を構成するゲル状着色粒子の多くは、グレー色のもので、その粒子径が45~800μmであり、その中に1000μm程度の白,黒のゲル状着色粒子を含むものであった。
多彩塗料1の塗装に用いた塗装用ローラーカバーは、塗料保持層がスポンジ状の砂骨ローラーを用いた。この砂骨ローラーはスポンジの目が細かいものであった。その塗装用ローラーカバーをローラー器具に装着し塗装用ローラーとした。
【0065】
この塗装用ローラーの塗料保持層の長さは、200mmで、その外径が直径で50mm程度のものであった。
上記で得られた塗装基材に対して、多彩塗料1の塗装を行った。
この塗装には、砂骨ローラーのスポンジの目が細かいものであったため、塗装後の表面には、このスポンジの空隙による模様ができ、小さめの凹凸に塗装することができた。この時の塗布量は、500g/m程度であった。
【0066】
また、多彩塗料1を比較的多く含ませることができ、塗る面積が広くなり、スポンジの弾力性のある空隙が下塗塗料により形成された塗膜に対してもよく馴染み、効率的に作業することができた。
下塗塗料Aに塗装したものは、その塗装基材の連続した略半球状の凹部の凹部に粒状色材であるゲル状粒子が入り込み、塗装に際してのゲル状粒子の動きが少なく、塗装用ローラーが滑ることなく安定した回転により、塗装することができ、安定した仕上がりとなった。
【0067】
また、凹部毎に独立した状態となり、そのゲル状着色粒子のよりなどが少なくすることができた。
一方、下塗塗料に塗装したものは、塗装用ローラーが滑り、安定した回転で塗装することができないため、塗布量もバラつき、その仕上がりが良いものを得ることができなかった。
【0068】
さらに、コンクリート面に塗装した仕上がりは、色の斑もなく良好な仕上がりとなった。これは、下塗塗料Aと多彩塗料1の色が同色系であるため、多彩塗料1の塗膜が透けることがあっても斑にならず、同色で塗装されたかのような仕上がりとなり、良好な塗装面を得ることができた。
これは、多彩塗料1と下塗塗料Aがどちらもグレー系の色であり、その色差は、ΔE=3.2であったためである。
【0069】
この色差の測定は、それぞれの塗料を台紙になるべく平坦になるように塗布し、塗膜を形成させ、その塗膜に色をJIS K 5600-4-6に準じた測定方法で、色差計を用いて、その測定を行い、その差を求めた。
多彩塗料1の測定部分は、ベース色となるグレー部分の色について測定した。
【0070】
この色差とは、粒状色材含有塗料である多彩塗料1のベース色と下塗塗材の色との差のことで、色の違いを数値化したものであり、JIS K 5600-4-6にその測定方法が記載されている。
基準とする多彩塗料1のベース色を測定し、対象となる下塗塗材の色を測定し、その色との色差(ΔE)を求める。
【0071】
この色差は、ΔL*=L*(基準)-L*(対象),Δa*=a*(基準)-a*(対象),Δb*=b*(基準)-Δb*(対象)としたときに、ΔE=(ΔL*+Δa*+Δb*0.5で表される。
この色と下塗塗材で得られる塗膜の色とが近似(色差ΔE=5以下)に調整されることになる。
【0072】
この多彩塗料1のベース色は、比較的細かいゲル状着色粒子により構成される色であり、その塗料や塗膜の地色となるものである。
下塗塗料Aは、多彩塗料1の塗装前に被塗装面に塗布するもので、下塗塗料Aで得られる塗膜の色が多彩塗料1の塗膜の色と近似(色差ΔE=5以下)であるためである。
【0073】
これにより、ゲル状着色粒子などの粒状色材の粒により構成された粒状色材含有塗料を塗装用ローラーにより容易に塗装を行うことができ、その仕上がりも粒状色材含有塗料の塗膜が薄い凹部であっても同色の仕上がりとなり、良好な塗装面を得ることができる。
【0074】
次の実施形態2では、タイル状のサイディングボードにより外壁が構成されている建築物の壁面に対して塗装を行った。この建築物は、戸建て住宅の塗り替えであり、既存塗膜の表面への塗装であった。
この塗装には、多彩塗料2と下塗塗料Bを用意した。これらの塗料は、クリーム系の色の塗料であった。
【0075】
この場合も塗装を行う前に、その被塗装面に対して、洗浄を行い、必要な部分の養生などを行い、欠損部への補修やプライマー処理も行った。
【0076】
多彩塗料2と下塗塗料Bは、どちらもクリーム系の色であり、その色差は、ΔE=1.3であった。多彩塗料2の測定部分は、ベース色となるクリーム部分の色について測定した。
この多彩塗料2は、複数の近い不定形な略球状のゲル状着色粒子をアクリル樹脂エマルションのクリヤー塗料に分散させたものであった。
【0077】
この多彩塗料2を構成するゲル状着色粒子の多くは、クリーム色のもので、その粒子径が45~800μmであり、その中に1000μm程度の白,黒のゲル状着色粒子を含むものであった。
【0078】
下塗塗料Bは、一般的に市販されているもので、アクリルスチレンの合成樹脂エマルションを主成分としたものであった。
白色顔料として酸化チタンを用い、炭酸カルシウムをフィラー成分とし、無機系の着色顔料を使って、クリーム色に調色したものである。下塗塗材Bの顔料体積濃度(PVC)は、55%程度であった。
【0079】
多彩塗料2と下塗塗料Bの塗装に用いた塗装用ローラーカバーは、塗料保持層がスポンジ状の砂骨ローラーを用いた。
この砂骨ローラーはスポンジの目がやや細かいものを用い、下塗塗材Bでは、砂骨ローラーのスポンジの目がやや粗いものを用いた。
【0080】
そのため、略半球状の凹部の大きさが直径で5mm程度のものを形成した塗装基材を得ることができた。
この塗装用ローラーカバーをローラー器具に装着し塗装用ローラーとした。これらの塗装用ローラーの塗料保持層の長さは、200mmで、その外径が直径で60mmのものであった。
【0081】
この下塗塗料Bにより塗装を行い。塗装基材を得た。
この塗装基材に多彩塗料2の塗装を行った。この塗装には、砂骨ローラーのスポンジの目がやや細かいものであったため、塗装後の表面には、このスポンジの空隙による模様と下塗塗材Bにより形成された凹部にゲル状着色粒子が入り込み、その塗装面は、凹凸が強調された塗膜を得ることができた。
【0082】
この時の塗布量は、800g/m程度であった。
また、これも多彩塗料2を比較的多く含ませることができ、塗る面積が広くなり、スポンジの弾力性のある空隙が下塗塗材Bにより形成された塗膜に対してもよく馴染み、効率的に作業することができた。
【0083】
また、下塗塗料Bにより形成された塗膜の凹部に多彩塗料2のゲル状着色粒子が入り込み易く、塗装用ローラーが滑ることなく安定した回転により、塗装することができた。
また、このサイディングボードがタイル状模様で、そのタイル状模様のみに多彩塗料2を塗装したものであり、そのタイル状模様毎に塗装を行ったため、塗装に際しての塗り継ぎもなく仕上げることができた。
図1