(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】ロボットの停止方法及びロボットシステム
(51)【国際特許分類】
B25J 19/06 20060101AFI20230620BHJP
H02P 3/00 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
B25J19/06
H02P3/00 Z
(21)【出願番号】P 2019144513
(22)【出願日】2019-08-06
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】奥村 宏克
【審査官】松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-201180(JP,A)
【文献】特開2003-131701(JP,A)
【文献】特開2008-204365(JP,A)
【文献】特開2002-218676(JP,A)
【文献】特開2004-220384(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
G05B 19/18 - 19/416
H01L 21/67 - 21/687
H02P 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部電源における停電の発生を検出したときにおける、複数の軸を有するロボットの停止方法であって、
前記ロボットにおいて前記ロボットの少なくとも一部を重力方向に移動させる軸をZ軸とし、前記停電の発生を検出したときを基準時として、
前記Z軸が上昇状態にあって前記停電の発生を検出したときに、前記基準時における前記Z軸の上昇速度に基づいて重力加速度による減速によって前記Z軸の速度が0となるまでの時間を減速時間として算出し、
前記基準時から前記減速時間で前記Z軸の上昇を減速停止させるように前記Z軸を駆動する第1の制御を実行するロボットの停止方法。
【請求項2】
前記基準時における前記Z軸の位置を基準位置として、前記基準時から前記減速時間が経過したときに、前記減速時間と同じ時間だけかけて前記Z軸が前記基準位置に移動するように前記Z軸を駆動する第2の制御を開始する、請求項1に記載のロボットの停止方法。
【請求項3】
前記基準時から前記減速時間が経過したのちに前記停電からの復帰を検出したときに、前記第2の制御の実行を打ち切る、請求項2に記載のロボットの停止方法。
【請求項4】
前記第2の制御により前記Z軸が前記基準位置に移動したのち、前記減速時間と同じ時間だけかけて前記Z軸を減速停止させるように前記Z軸を駆動する第3の制御を実施する、請求項2に記載のロボットの停止方法。
【請求項5】
前記Z軸は第1昇降機構及び第2昇降機構からなる2段の昇降機構により構成されており、
前記Z軸に対する制御量を所定の比率で前記第1昇降機構及び前記第2昇降機構に振り分ける、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のロボットの停止方法。
【請求項6】
前記Z軸は、第1昇降機構及び第2昇降機構からなって前記第1昇降機構が前記第2昇降機構よりも前記ロボットの基台に近い側に配置している2段の昇降機構により構成されており、
前記停電の発生を検出したときに、前記第1昇降機構を前記Z軸として前記第1の制御及び前記第2の制御を実行し、その後、前記第1昇降機構に対する前記第2の制御が終了したときを前記基準時として前記第2昇降機構に対して前記第1の制御及び前記第2の制御を実行する、請求項2に記載のロボットの停止方法。
【請求項7】
前記外部電源における欠相を検出することにより前記停電の発生を検出する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のロボットの停止方法。
【請求項8】
複数の軸を有するロボットと、外部電源から電力を供給されて前記ロボットを駆動し制御するコントローラと、を有し、前記ロボットは前記ロボットの少なくとも一部を重力方向に移動させるZ軸を備えるロボットシステムであって、
前記外部電源における停電の発生を検出する停電検出手段と、
前記コントローラに設けられ、前記Z軸が上昇状態にあって前記停電検出手段により前記停電の発生を検出したときに、前記停電の発生を検出したときを基準時として前記基準時における前記Z軸の上昇速度に基づいて重力加速度による減速によって前記Z軸の速度が0となるまでの時間を減速時間として算出し、
前記基準時から前記減速時間で前記Z軸の上昇を減速停止させるように前記Z軸を駆動する第1の制御を実行する制御手段と、
を有するロボットシステム。
【請求項9】
前記基準時における前記Z軸の位置を基準位置として、前記制御手段は、前記基準時から前記減速時間が経過したときに、前記減速時間と同じ時間だけかけて前記Z軸が前記基準位置に移動するように前記Z軸を駆動する第2の制御を開始する、請求項8に記載のロボットシステム。
【請求項10】
前記制御手段は、前記基準時から前記減速時間が経過したのちに前記停電からの復帰を検出したときに、前記第2の制御の実行を打ち切る、請求項9に記載のロボットシステム。
【請求項11】
前記制御手段は、前記第2の制御により前記Z軸が前記基準位置に移動したのち、前記減速時間と同じ時間だけかけて前記Z軸を減速停止させるように前記Z軸を駆動する第3の制御を実施する、請求項9に記載のロボットシステム。
【請求項12】
前記ロボットは、前記Z軸として、第1昇降機構及び第2昇降機構からなる2段の昇降機構を備え、
前記制御手段は、前記Z軸に関して算出した制御量を所定の比率で前記第1昇降機構及び前記第2昇降機構に振り分けて出力する、請求項8乃至11のいずれか1項に記載のロボットシステム。
【請求項13】
前記ロボットは、前記Z軸として、第1昇降機構及び第2昇降機構からなって前記第1昇降機構が前記第2昇降機構よりも前記ロボットの基台に近い側に配置している2段の昇降機構を備え、
前記制御手段は、前記停電の発生が検出されたときに、前記第1昇降機構を前記Z軸として前記第1の制御及び前記第2の制御を実行し、その後、前記第1昇降機構に対する前記第2の制御が終了したときを前記基準時として前記第2昇降機構に対して前記第1の制御及び前記第2の制御を実行する、請求項9に記載のロボットシステム。
【請求項14】
前記停電検出手段は、前記外部電源における欠相を検出する欠相検出器からなる、請求項8乃至13のいずれか1項に記載のロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットとコントローラとからなるロボットシステムに関し、特に、停電検出時におけるロボットの停止方法とロボットシステムとに関する。
【背景技術】
【0002】
ロボット(マニピュレータともいう)とコントローラとからなるロボットシステムでは、ロボットの各軸はモータによって駆動される。ロボットシステムへの外部電源からの電力の供給が停止したときすなわち停電が発生したときには、ロボットを停止する必要がある。停電に際してロボットを停止させたときは、この停止は、通常、エラー停止に分類されるものであるので、電源復帰後のロボットの再立ち上げに多大な労力を要する。また、停電を検出した際に直ちに電磁ブレーキを作動させてロボットを緊急停止させた場合、電磁ブレーキによる急激な制動の影響がロボット内のアームや減速機、さらにはロボットによる被加工物や搬送物などに及ぶことがある。そこで、停電発生時においても制御可能な状態でロボットを動作させて安全にロボットを停止させることが行われている。なお、秒以上の時間にわたって継続する停電の発生は相対的に低頻度であり、多くの停電は、瞬停、瞬断あるいは瞬時停電などと呼ばれるごく短時間、例えば数百ミリ秒の停電や電圧降下である。
【0003】
停電検出時にロボットを急激に停止させることを防ぐために、特許文献1は、第1電磁ブレーキと第1電磁ブレーキよりも制動力の弱い第2電磁ブレーキを設け、停電の発生を検出したときに第2電磁ブレーキを先行させて動作させることを開示している。特許文献2は、停電時にロボットの主回路電源にも電力を供給できるように大容量コンデンサを設け、停電検出時にはロボットのアームを大きな惰走角で停止させることを開示している。特許文献3は、電源電圧低下や停電の継続時間に応じてロボットの動作継続を図るために、停電などの異常を検出してからの経過時間である電源異常継続時間に対応した速度制限情報をテーブルに格納し、停電を検出したときに速度制限情報に基づいてロボットの各軸の速度を制限することを開示している。この技術では、電源異常継続時間が所定時間を超えると制限後の速度が通電時の0%となり、ロボットは停止する。特許文献4は、外部電源によって動作する移動ロボットにおいて、ロボット自体にバッテリーを搭載し、外部電源の停電時にはバッテリーによってロボットを動作させて作業を継続できるようにすることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-95939号公報
【文献】特開2002-218676号公報
【文献】特開2004-220384号公報
【文献】特開2001-339875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
外部電源における停電を検出したときのロボットの動作を開示する特許文献1~4に記載された技術は、外部電源からの電力の供給が遮断された場合に、コンデンサーあるいはバッテリーに蓄積された電気エネルギーによってロボットやコントローラに何らかの動作を行わせようとするものである。特に特許文献3,4に記載される技術は、瞬停から復帰したときにはそのままロボットが通常の動作を行えるようにすることを目的とした技術である。コンデンサーやバッテリーはコントローラ内に設けられるのが一般的であるが、コントローラの小型化を進めるとコントローラ内に格納できるコンデンサーやバッテリーの容量も小さくなり、停電を検出したときにロボットに実行させる動作が制限されることとなる。その結果、瞬停や瞬断からの電源復帰後に直ぐにロボットを通常動作に戻すことも難しくなる。
【0006】
本発明の目的は、外部電源における停電を検出したときに所定の動作をロボットに行わせるための予備電源としてコンデンサーやバッテリーを備えるときに、予備電源での電力消費量を少なくすることができ、電源復帰時の再起動や通常動作の再開が容易であるロボットの停止方法と、そのような停止方法を実現するロボットシステムとを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のロボットの停止方法は、外部電源における停電の発生を検出したときにおける、複数の軸を有するロボットの停止方法であって、ロボットにおいてロボットの少なくとも一部を重力方向に移動させる軸をZ軸とし、停電の発生を検出したときを基準時として、Z軸が上昇状態にあって停電の発生を検出したときに、基準時におけるZ軸の上昇速度に基づいて重力加速度による減速によってZ軸の速度が0となるまでの時間を減速時間として算出し、基準時から減速時間でZ軸の上昇を減速停止させるようにZ軸を駆動する第1の制御を実行する。
【0008】
本発明のロボットの停止方法によれば、停電の発生を検出した際にロボットのZ軸を重力加速度で減速させるので、Z軸を駆動するモータの消費電力を小さくすることができ、停電発生時に予備電源からの電力の消費量を低減しつつロボットのZ軸を安全に停止できるようになる。
【0009】
本発明のロボットの停止方法では、基準時におけるZ軸の位置を基準位置として、基準時から減速時間が経過したときに、減速時間と同じ時間だけかけてZ軸が基準位置に移動するようにZ軸を駆動する第2の制御を開始するようにすることが好ましい。第2の制御では、Z軸は自由落下の軌跡で動くこととなり、第2の制御の期間における電力消費も低減することができる。また、第1の制御及び第2の制御を通じて電力消費が低減されているので、通常動作に戻るために電源復帰を待つことができる時間を長くすることができる。
【0010】
第2の制御を実行する場合、基準時から減速時間が経過したのちに停電からの復帰を検出したときに第2の制御の実行を打ち切るようにしてもよい。このように構成した場合には、ロボットの通常動作への復帰を迅速に行うことができる。あるいは第2の制御を実行する場合、第2の制御によりZ軸が基準位置に移動したのち、減速時間と同じ時間だけかけてZ軸を減速停止させるようにZ軸を駆動する第3の制御を実施してもよい。このように構成すれば、停電が長時間にわたる場合であっても電力消費を増やすことなく、安全にZ軸を減速停止して保持することができる。
【0011】
本発明のロボットの停止方法においては、ロボットのZ軸は、第1昇降機構及び第2昇降機構からなる2段の昇降機構により構成されていてもよい。この場合、Z軸に対する制御量を所定の比率で第1昇降機構及び第2昇降機構に振り分けることが好ましい。所定の比率で振り分けることにより、電力消費を抑えつつZ軸を減速停止できるとともに、個々の昇降機構に対する制御量の計算を簡略化できて演算負荷を軽減することができる。またZ軸が2段の昇降機構からなり、第1昇降機構が第2昇降機構よりもロボットの基台に近い側に配置している場合には、停電の発生を検出したときに、第1昇降機構をZ軸として第1の制御及び第2の制御を実行し、その後、第1昇降機構に対する第2の制御が終了したときを基準時として第2昇降機構に対して第1の制御及び第2の制御を実行するようにしてもよい。このように時間差で第1昇降機構及び第2昇降機構に対する制御を行うことによって、昇降機構の質量が無視できない場合であっても電力消費を抑えつつZ軸を減速停止することができる。
【0012】
本発明のロボットの停止方法にいては、外部電源における欠相を検出することにより停電の発生を検出することが好ましい。欠相の検出によって停電の有無を検出するので、停電の発生を早期に検出できるようになる。
【0013】
本発明のロボットシステムは、複数の軸を有するロボットと、外部電源から電力を供給されてロボットを駆動し制御するコントローラと、を有し、ロボットはロボットの少なくとも一部を重力方向に移動させるZ軸を備えるロボットシステムであって、外部電源における停電の発生を検出する停電検出手段と、コントローラに設けられ、Z軸が上昇状態にあって停電検出手段により停電の発生を検出したときに、停電の発生を検出したときを基準時として基準時におけるZ軸の上昇速度に基づいて重力加速度による減速によってZ軸の速度が0となるまでの時間を減速時間として算出し、基準時から減速時間でZ軸の上昇を減速停止させるようにZ軸を駆動する第1の制御を実行する制御手段と、を有する。
【0014】
本発明のロボットシステムによれば、停電の発生を検出した際にロボットのZ軸を重力加速度で減速させるので、Z軸を駆動するモータの消費電力を小さくすることができ、停電発生時に予備電源からの電力の消費量を低減しつつロボットのZ軸を安全に停止できるようになる。
【0015】
本発明のロボットシステムでは、基準時におけるZ軸の位置を基準位置として、制御手段は、基準時から減速時間が経過したときに、減速時間と同じ時間だけかけてZ軸が基準位置に移動するようにZ軸を駆動する第2の制御を開始することが好ましい。第2の制御では、Z軸は自由落下の軌跡で動くこととなり、第2の制御の期間における電力消費も低減することができる。また、第1の制御及び第2の制御を通じて電力消費が低減されているので、通常動作に戻るために電源復帰を待つことができる時間を長くすることができる。
【0016】
制御手段は、第2の制御を実行する場合、基準時から減速時間が経過したのちに停電からの復帰を検出したときに、第2の制御の実行を打ち切ってもよい。第2の制御の実行を打ち切ることにより、ロボットの通常動作への復帰を迅速に行うことができるようになる。あるいは制御手段は、第2の制御によりZ軸が基準位置に移動したのち、減速時間と同じ時間だけかけてZ軸を減速停止させるようにZ軸を駆動する第3の制御を実施してもよい。第3の制御を実行することにより、停電が長時間にわたる場合であっても電力消費を増やすことなく、安全にZ軸を減速停止して保持することができる。
【0017】
本発明のロボットは、Z軸として、第1昇降機構及び第2昇降機構からなる2段の昇降機構を備えてもよい。ロボットが2段の昇降機構を備える場合、制御手段は、Z軸に関して算出した制御量を所定の比率で第1昇降機構及び第2昇降機構に振り分けて出力することが好ましい。所定の比率で振り分けることにより、電力消費を抑えつつZ軸を減速停止できるとともに、個々の昇降機構に対する制御量の計算を簡略化できて演算負荷を軽減することができる。またロボットにおいてZ軸が2段の昇降機構からなり、第1昇降機構が第2昇降機構よりもロボットの基台に近い側に配置している場合には、制御手段は、停電の発生が検出されたときに、第1昇降機構をZ軸として第1の制御及び第2の制御を実行し、その後、第1昇降機構に対する第2の制御が終了したときを基準時として第2昇降機構に対して第1の制御及び第2の制御を実行するようにしてもよい。時間差で第1昇降機構及び第2昇降機構に対する制御を行うことによって、昇降機構の質量が無視できない場合であっても電力消費を抑えつつZ軸を減速停止することができる。
【0018】
本発明のロボットシステムにおいて、停電検出手段は、外部電源における欠相を検出する欠相検出器からなることが好ましい。欠相検出器を用いることにより、停電の発生を早期に検出できるようになる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、停電の発生を検出した際にロボットのZ軸を重力加速度で減速させるので、Z軸を駆動するモータの消費電力を小さくすることができ、停電発生時に予備電源からの電力の消費量を低減しつつロボットのZ軸を安全に停止できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】(a),(b)は、それぞれ、ロボットを示す平面図及び正面図である。
【
図2】本発明の実施の一形態のロボットシステムを示すブロック図である。
【
図3】ロボットのZ方向の運動による位置と速度の変化を示すグラフである。
【
図4】本発明の別の実施形態でのロボットを正面図である。
【
図5】ロボットのZ方向の運動による位置と速度の変化を示すグラフである。
【
図6】ロボットのZ方向の運動による位置と速度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の一形態のロボットシステムに含まれるロボットの構成の一例を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図である。
図1に示すロボットは、半導体基板やガラス基板などの搬送に用いられる水平多関節ロボットであって、基台11と、基台11に取り付けられた第1アーム12と、第1アーム12の先端に取り付けられた第2アーム13と、第2アーム13の先端に取り付けられたハンド14とを備えている。ハンド14はガラス基板などの搬送対象物を保持するものであって、フォーク(fork)状に形成されている。基台11に対して第1アーム12は軸Aの周りで回転可能であり、第1アーム12に対して第2アーム13は軸Bの周りを回転可能であり、第2アーム13に対してハンド14は軸Cの周りで回転可能である。ロボットの関節軸である軸A,B,Cの周りでの回転を可能にするために、ロボットには軸ごとにモータ(
図1には不図示)が備えられている。
【0022】
さらにロボットは、基台11に設けられて第1アーム12を図示Z方向で昇降する昇降機構15が設けられ、この昇降機構15は昇降用のモータ(
図1には不図示)によって駆動される。Z方向は、ロボットにおいて重力方向と一致するように定められており、昇降機構15によるロボットの動きを特にZ軸での動きと呼び、昇降用のモータのことをZ軸のモータと呼ぶ。軸A,B,CはいずれもZ方向に平行であり、軸A,B,Cの周りでのアーム12,13やハンド14の回転は重力に抗するものではないので、相対的に小さな電力で軸A,B,Cに取り付けられたモータを駆動することができる。これに対し、Z軸のモータは、昇降機構15によってロボットにおける第1アーム12からハンド14までの部分の全体を上下方向に動かすものであるので、特に上昇方向に昇降機構15が動くときに大きな電力を消費する。
【0023】
図2は、
図1に示すロボットと、このロボットに接続してロボットを制御するコントローラ50とからなるロボットシステムの回路構成を示すブロック図である。
図2において、電力系統の配線は太線で示されている。ロボットにおいて、各軸のモータ61は、それぞれそのモータ61の回転位置を検出する位置検出信号を出力するエンコーダ62が機械的に接続している。モータ61は、例えば、三相ブラシレス三相同期モータである。図では、4個のモータ61が描かれており、これらのモータ61は、それぞれ、軸A,B,C,Zに対応するものである。もちろん、ロボットの軸の数は4に限定されるものではなく、モータ61の個数も4個に限定されるものではない。
【0024】
コントローラ50は、外部電源である商用交流電源51から交流電力が供給されて各モータ61を駆動するものであり、商用交流電源51からの交流電力における欠相を検出する欠相検出器52と、供給された交流電力を直流電力に変換する整流回路53と、整流回路53の出力側に設けられたコンデンサ54と、モータ61ごとに対応して設けられるサーボ回路55と、ロボットの制御のために外部から供給される指令が入力し、サーボ回路55を介して各軸のモータ61を駆動し制御する制御部56と、を備えている。欠相検出器52は、商用交流電源51での停電を検出するために設けられており、欠相を検出したときに停電検出信号を制御部56に出力する。コンデンサ54は、整流回路53が出力する直流電力における平滑コンデンサとして機能するとともに、商用交流電源51で停電が発生したときにサーボ回路55に直流電力を供給する機能も有する。本実施形態では、商用交流電源51における停電を検出できるものであれば、欠相検出器52以外の手段を用いる可能であるが、停電の発生をより早期に検出するために、欠相検出器52を用いることが好ましい。整流回路53の出力電圧の低下により停電を検出することもできるが、その場合、整流回路53の出力に接続されているコンデンサ54のために停電が発生してから検出されるまでの遅延時間が長くなるので、整流回路53の出力電圧の低下によって停電を検出することは好ましくない。
【0025】
モータ61ごとに設けられるサーボ回路55は、公知の構成のものであって、整流回路53から直流電力の供給を受け、対象とするモータ61に接続するエンコーダ62からの位置検出信号と制御部56からの速度指令とに基づき、サーボ制御によって駆動対象のモータ61に制御する。制御部56は、外部から入力する指令と各軸のモータ61に接続するエンコーダ62からの位置検出信号とに基づいて各軸のモータ61を駆動するための速度指令を生成して各サーボ回路55に出力する。本実施形態において外部からの指令に応じて各モータ61を駆動するための速度指令を生成する処理は、ロボットの制御のために行われる通常行われている一般的な処理と同じである。さらに制御部56は、欠相検出器52から停電検出信号が入力したときに、安全かつ再起動が容易であるようにロボットを停止させる処理を実行する。
【0026】
次に、このロボットシステムにおいて商用交流電源51の停電が発生したときの処理について説明する。ロボットの動作中に停電が発生したものとする。ロボットの各軸のうち軸A,B,Cは、水平方向にアーム12,13及びハンド14を動かすための軸であって、動作のために多大な電力を必要とせず、また電力供給の停止による落下などのおそれもない軸である。そこで制御部56は、停電検出時に通常行っているように、停電対応として予め定められている減速時間で軸A,B,Cを停止させるような制御をこれらの軸A,B,Cのモータ61に対して行う。Z軸に関してロボットが運動している場合、その運動が下降運動であるときは、Z軸のモータ61において消費されている電力が小さいので、制御部56は、停電対応として予め定められている減速時間で停止するようにZ軸のモータ61を制御する。これに対しロボットがZ軸に関して上昇するように運動している場合、この運動は重力に対して抗う動きであってZ軸のモータ61は大量の電力を消費している。そこで本実施形態では、ロボットがZ軸に関して上昇している状態で停電の発生を検出したときに、ロボットの制御を継続しつつ、できるだけ少ない消費電力でZ軸を停止できるような制御を行う。その際、停電がその継続時間が例えば200ミリ秒以下程度の瞬停である可能性を考えて、瞬停であった場合にはできるだけ早く通常動作に復帰できるような制御を行うものとする。以下、Z軸に関して上昇しているときに停電を検出したときの制御を詳しく説明する。
【0027】
図3は、Z軸に関して上昇しているときに停電を検出したときの制御を説明するグラフであって、ロボットのZ方向での位置と速度のそれぞれの時間変化を示している。停電を検出した時刻を制御における基準時としてこれを時刻0で表し、また、停電を検出したときのZ方向の位置を基準位置としてこれを位置0としている。Z方向の位置は、具体的には水平多関節ロボットである本実施形態のロボットのハンド14の高さで表すことができる。
【0028】
制御部56は、欠相検出器52が商用交流電源51での欠相を検出して停電検出信号を出力したら、まずロボットのZ軸が上昇方向に運動しているかどうかを判定する。上昇方向に運動しているときは、制御部56は、その時点での上昇速度vを取得し、取得された上昇速度vに基づいて、Z軸での上昇運動が重力加速度による減速によってその速度がゼロとなるまでの時間を算出する。この時間を減速時間Dと呼ぶ。そして制御部56は、算出された減速時間DによってZ軸の運動が停止するようにZ軸のモータ61を駆動するための速度指令をZ軸のサーボ回路55に出力する。この制御を第1の制御と呼ぶ。サーボ回路55は、この速度指定に基づき、コンデンサ54に貯えられている電力で動作してZ軸のモータ61を減速停止させる。このとき、ロボットのZ軸は、実質的には外部からのエネルギーの供給なしに慣性で運動して減速停止するので、減速停止するようにモータ61を駆動するため消費電力を小さくすることができる。このことは、停電時におけるコンデンサ54に貯えられた電力の消費を少なくすることができる。
【0029】
このような第1の制御を行うと、
図3に示すように、ロボットのZ方向の速度は重力加速度で減少し、停電の検出から減速時間Dが経過した時刻a1において、Z方向の速度は0となり、Z方向の位置が最高点となる。その後、本実施形態では、制御部56は、減速時間Dと同じ時間で、重力に対して落下する方向にZ軸のモータ61を駆動する制御を行う。この制御を第2の制御と呼ぶ。第2の制御ではロボットのZ軸はほぼ自由落下に近い状態で移動するので、モータ61における消費電流は小さいと考えられる。その結果、停電の検出から減速時間Dの2倍すなわち2Dが経過した時刻a2において、ロボットのZ軸の位置は、最初に停電を検出したときの位置すなわち基準位置に戻る。結局、停電を検出した時刻0から時刻a2までの期間、ロボットのZ軸は重力加速度による放物運動を行うように制御されることになる。この第1及び第2の制御を行う場合、停電が瞬停であって停電の発生から2Dの期間のうちに商用交流電源51が停電から復帰すれば、ロボットは直ちに通常の動作のための制御に移行することができる。減速時間Dの2倍の時間2Dまで瞬停からの電源復帰を待つことができるので、長時間の停電に対応するためにロボットを完全に停止させる処理を行う頻度が減少し、ロボットの稼働率が向上する。
【0030】
時刻a2までで電源復帰しなかった場合には、制御部56は、自由落下に近い状態で下降しているロボットのZ軸を減速停止するようにモータ61の制御を行う。この制御を第3の制御と呼ぶ。このとき、どれだけの時間でモータ61を停止させるかは、ロボットの構成や搬送物などに基づいて適宜に定めることができるが、一例として、先に計算して求めた減速時間Dを使用することができる。本実施形態では、時刻0から時刻a2の期間では、重力加速度にしたがってZ軸が移動するようにしているが、これは全く制御を行わないことを意味するのではなく、ロボットの確実な動作のためにあくまでエンコーダ62からの位置検出信号に基づくフィードバック制御を行っている。このフィードバック制御においては既に時々刻々の速度指令の計算を行っており、時刻a2が経過してZ軸を減速停止させるときの減速時間として先に求めた減速時間Dを使用することにより、既に計算された一連の速度指令を時間と正負の符号とに関して反転したものをこの減速停止時の一連の速度指令として使用することができる。したがって時刻a2が経過してZ軸を減速停止させるときの計算負荷を軽減することができる。Z軸の減速停止の制御を行うことにより、時刻a3においてZ軸は停止する。このような減速停止の制御を行うことにより、停電の発生から時刻a2までの期間すなわち第1及び第2の制御でのZ軸のモータ61の電力消費はわずかであると考えられるので、全体として、電力消費を抑えるつつ安全にZ軸を停止させることができる。
【0031】
本実施形態では、ロボットのZ軸が上昇中に停電が発生した場合に、その時点での上昇速度から重力加速度による減速でZ軸の速度が0となるまでの時間を算出して減速時間Dとし、減速時間DでZ軸が減速停止するような第1の制御を行うことによって、瞬停時にも電力消費量を抑えてZ軸を停止でき、これに引き続いて減速時間Dで落下するようにZ軸を制御する第2の制御を行うことにより、電源復帰までの時間が長くなる場合にも対応できるようになり、その後、減速時間DでZ軸を減速停止する第3の制御を実施することによって、全体としての電力消費量を抑えつつ、停電が継続する場合においても安全にZ軸を保持できるようになる。
【0032】
以上説明した実施形態においては、
図3において破線で示すように、時刻a1においてZ軸の速度が0になったときに、そのままZ軸を静止させてロボットを停止させるようにしてもよい。すなわち、第1の制御だけを実施してZ軸を減速停止し、そのままZ軸をj保持するようにしてもよい。また、停電の発生から時刻a1までの期間において電源復帰した場合には、時刻a1までは第1の制御を行って時刻a1においてZ軸の速度を0とし、その状態を保った上で、ロボットを通常動作に移行させる制御を開始するようにしてもよい。また、時刻a1と時刻a2の間で商用交流電源51が回復した場合には、重力加速度に応じたZ軸の運動の制御すなわち第2の制御をその時点で打ち切って、ロボットを通常動作に移行させる制御を開始してもよいし、あるいは時刻a3まで第2及び第3の制御を行ってZ方向の運動を完全に停止させ、その後、ロボットを通常動作に移行させる制御を開始してもよい。
【0033】
以上の説明では、ロボットのZ軸が1段構成であるものとしているが、Z方向へのロボットの移動可能量を増すために、Z軸を2段構成としたロボットも存在する。
図4は、本発明の別の実施形態のロボットシステムで用いられるロボットを示しており、このロボットはZ軸が2段構成となったものである。
【0034】
図4に示すロボットは、
図1に示す水平多関節ロボットと同様のものであるが、基台11に第1昇降機構16が設けられ、第1昇降機構16に対して第2昇降機構17が取り付けられ、第2昇降機構17に対して第1アーム12が取り付けられている点で、
図1のロボットと異なっている。第1昇降機構16はロボットの第2昇降機構17からハンド14までの部分を昇降させ、第2昇降機構17は、ロボットの第1アーム12からハンド14までの部分を昇降させる。第1昇降機構16をZ1軸と呼び、第2昇降機構17をZ2軸と呼ぶ。第1昇降機構16は第2昇降機構17も昇降させるので、ロボットのハンド14の位置は、第1昇降機構16による昇降量と第2昇降機構17による昇降量を加算したものとなる。昇降機構16,17の各々ごとにモータ61が設けられており、コントローラ50によってこれらのモータ61を駆動することによって、昇降機構16,17を独立して動作させることができる。
【0035】
図4に示すロボットにおいても、商用交流電源51の停電を検出し、かつ、Z1軸及びZ2軸が全体として上昇しているときは、制御部56は、上述と同様に、全体としての電力消費量が少なくなるようにZ1軸及びZ2軸の制御を行う。
図5は、Z1軸及びZ2軸が全体と上昇しているときに停電を検出したときの制御を説明するグラフであって、ロボットのZ方向での位置と速度のそれぞれの時間変化をZ1軸及びZ2軸のそれぞれごとに示している。Z1軸についての変化は破線で示され、Z2軸についての変化は一点鎖線で示されている。Z2軸については、Z2軸単体での値であり、具体的には、第2昇降機構17の単独で実現される昇降量と昇降速度とを示している。図において「Z1+Z2」とラベルが付された実線は、Z1軸とZ2軸の動きを合成したもの、すなわちハンド14のZ方向の動きを示している。
【0036】
図5に示した制御は、
図3を用いて説明した制御における制御量すなわち速度指令値を、所定の比率でZ1軸とZ2軸に振り分けたものである。この場合、第1昇降機構16も第2昇降機構17もそれ自体は重力加速度に応じた減速や落下運動に対応する動きをしているわけではないが、ロボットにおいて第2昇降機構17よりも先端側は重力加速度に応じた減速や落下運動を行っており、昇降機構16,17自体の質量による寄与を無視すれば、全体として、昇降機構16,17のそれぞれのモータ61の消費電力の低減が図られている。この制御では、
図3を用いて説明した制御において発生する速度指令値を所定の比率でZ1軸とZ2軸とに分配するので、Z1軸及びZ2軸の各々に対する速度指令値を算出する処理が簡単なものとなって、制御部56における演算負荷を小さくすることができる。
【0037】
図6は、
図5と同様にロボットのZ方向での位置と速度のそれぞれの時間変化をZ1軸及びZ2軸のそれぞれごとに示すグラフであって、2段構成の昇降機構16,17を有する場合の制御の別の例を示している。
図6に示す制御は、より基台11に近い側の第1昇降機構16に対して、まず、重力加速度に応じた運動を行うような制御を行い、その後、基台11から遠い方の第2昇降機構17に対して重力加速度に応じた運動を行うような制御を行うものである。以下、
図6に基づいてこの制御を詳しく説明する。時刻0において停電の発生を検出すると、制御部56は、そのときのZ1軸の速度v1に基づいて重力加速度による減速の減速時間D1を算出し、Z1軸について
図3に示す場合と同様に放物運動を行うような制御(第1及び第2の制御)を行う。減速時間D1の2倍の時間が経過した時刻bにおいて、Z1軸の放物運動は終了し、その後、制御部56は、Z1軸を減速停止させる制御(第3の制御)を行う。時刻0と時刻bとの間、制御部56は、Z2軸については、停電の発生時における速度を維持する、すなわちZ1軸に対して等速運動を維持するような制御を行う。制御部56は、時刻bを経過したら、Z2軸について、そのときのZ2軸の速度v2に基づいて重力加速度による減速の減速時間D2を算出し、
図3に示すものと同様に放物運動を行うような制御(第1及び第2の制御)を行う。時刻bから減速時間D2の2倍の時間が経過した時刻cにおいて、Z2軸の放物運動は終了し、その後、制御部56は、Z2軸を減速停止させる制御(第3の制御)を行う。
図6に示す制御は、昇降機構16,17の質量による寄与が無視できないときに、より少ない電力消費でロボットを安全にかつ再始動容易に停止させることができる。
【符号の説明】
【0038】
11…基台;12,13…アーム;14…ハンド;15~17…昇降機構;50…コントローラ;51…商用交流電源;52…欠相検出器;53…整流回路;54…コンデンサー;55…サーボ回路;56…制御部。