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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】高周波電源回路
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20230620BHJP
   H03F 3/217 20060101ALI20230620BHJP
   H03F 3/68 20060101ALI20230620BHJP
   H05H 1/46 20060101ALN20230620BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H03F3/217 160
H03F3/68 220
H05H1/46 R
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019188088
(22)【出願日】2019-10-11
(65)【公開番号】P2021065024
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】小谷 弘幸
【審査官】町田 舞
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-093182(JP,A)
【文献】特許第5832702(JP,B1)
【文献】特表平10-508159(JP,A)
【文献】国際公開第2015/097812(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0253310(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42-7/98
H03F 3/217
H03F 3/68
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源に一端が接続されるインダクタと、該インダクタの他端に一端が接続されたスイッチング素子と、該スイッチング素子に並列に接続されたキャパシタと、前記スイッチング素子の一端に一端が接続されたLC直列回路とを有する増幅回路を備える高周波電源回路であって、
前記増幅回路は、
前記LC直列回路の他端及び前記スイッチング素子の他端の間に接続された第2のキャパシタを更に有し、
前記スイッチング素子の制御端子に入力された固有の周波数の信号を増幅して、前記LC直列回路の他端及び前記第2のキャパシタの接続点から前記周波数の電流を負荷に出力するようにしてあり、
1又は複数の前記増幅回路を備える集合回路を2つ含み、
各増幅回路が有するLC直列回路の他端同士を接続してあり、
2つの前記集合回路のそれぞれが備える増幅回路が有するスイッチング素子の制御端子に、前記周波数の信号を入力する信号発生器を前記集合回路毎に備え、
2つの前記信号発生器は、出力する信号の位相差が可変である
高周波電源回路。
【請求項2】
前記スイッチング素子がオンである場合、前記負荷から前記増幅回路側を見たときの前記周波数におけるインピーダンスの絶対値は、前記負荷のインピーダンスより十分大きい請求項1に記載の高周波電源回路。
【請求項3】
前記LC直列回路の一端から前記負荷側を見たときの前記周波数におけるインピーダンスのリアクタンス成分は誘導性である請求項1又は請求項2に記載の高周波電源回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波の信号を増幅して高周波電流を出力する高周波電源回路及び増幅回路の定数決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スイッチングアンプを用いた高周波電源回路において、高周波電力の出力レベルを変化させるには、2系統のスイッチングアンプの高周波電力を出力レベルに応じた位相差で合成するか、又はスイッチングアンプの電源電圧を変化させる必要がある。このうち、スイッチングアンプの電源電圧を変化させる方法によれば、電源電圧の変化に応じた出力レベルの変化の範囲及び応答速度に限界がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、2つのスイッチングアンプを用いたE級型電源回路の2系統の高周波電力をトランスで合成する技術が開示されている。2つのスイッチングアンプにてスイッチング動作を行う2つのパワー素子のG(ゲート)端子には、送信電力の大きさに応じて位相差制御回路で位相差が制御された電圧信号が、高周波パルスドライブ回路を介して入力される。
【0004】
また、特許文献2には、2つのDC-RF変換部の高周波出力電力をハイブリッドで合成する高周波電源が開示されている。この高周波電源は、DC-RF変換部の電源であるDC-DC変換部の直流出力電力が切換閾値より小さい場合、2つのDC-RF変換部の出力電圧の位相差を変化させて高周波出力電力の大きさを制御する。一方、上記直流出力電力が切換閾値以上の場合、2つのDC-DC変換部の出力電圧の位相差を変化させる方法ではハイブリッド内の抵抗器での損失が増大してDC-RF変換効率が低下するため、2つのDC-RF変換部の出力電圧そのものを変化させて高周波出力電力の大きさを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/097812号
【文献】特開2016-4745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示された技術によれば、E級型電源回路及びDC-RF変換部の出力が定電圧特性を有するため、2系統の高周波電力を合成する際に、トランス又はハイブリッドが必要となる。このため、回路規模やコストの増大を招く上に、高周波電力の損失が生じるという問題があった。
【0007】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、出力先の状態によらずに電流を出力することが可能な高周波電源回路及び増幅回路の定数決定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る高周波電源回路は、直流電源に一端が接続されるインダクタと、該インダクタの他端に一端が接続されたスイッチング素子と、該スイッチング素子に並列に接続されたキャパシタと、前記スイッチング素子の一端に一端が接続されたLC直列回路とを有する増幅回路を備える高周波電源回路であって、前記増幅回路は、前記LC直列回路の他端及び前記スイッチング素子の他端の間に接続された第2のキャパシタを更に有し、前記スイッチング素子の制御端子に入力された固有の周波数の信号を増幅して、前記LC直列回路の他端及び前記第2のキャパシタの接続点から前記周波数の電流を負荷に出力する。
【0009】
本態様にあっては、一端が直流電源に接続されたインダクタの他端に、スイッチング素子及びキャパシタの並列回路の一端とLC直列回路の一端とが接続されており、更にLC直列回路の他端と上記並列回路の他端との間に第2のキャパシタが負荷と並列に接続されている。この構成により、スイッチング素子の制御端子に入力された増幅回路に固有の周波数を増幅して同周波数の電流を負荷に出力する。即ち、いわゆるE級増幅回路に類似する回路の出力端に対して第2のキャパシタが負荷と並列に接続されており、一部の回路定数を適当に調整することによって、出力のインピーダンスが増大する。
【0010】
本発明の一態様に係る高周波電源回路は、前記スイッチング素子がオンである場合、前記負荷から前記増幅回路側を見たときの前記周波数におけるインピーダンスの絶対値は、前記負荷のインピーダンスより十分大きい。
【0011】
本態様にあっては、スイッチング素子をオンさせた状態にて、負荷から増幅回路の出力側を見たときの固有の周波数におけるインピーダンスの絶対値が、負荷のインピーダンスより十分大きい。このため、自回路の出力が定電流特性を有することとなる。
【0012】
本発明の一態様に係る高周波電源回路は、前記LC直列回路の一端から前記負荷側を見たときの前記周波数におけるインピーダンスのリアクタンス成分は誘導性である。
【0013】
本態様にあっては、LC直列回路の一端から、LC直列回路を介して負荷側を見たときの固有の周波数におけるインピーダンスのリアクタンス成分が誘導性であるため、スイッチング素子と並列に接続されたキャパシタとの相互作用により、スイッチング素子をソフトスイッチングさせることができる。
【0014】
本発明の一態様に係る高周波電源回路は、1又は複数の前記増幅回路を備える集合回路を2つ含み、各増幅回路が有するLC直列回路の他端同士を接続してある。
【0015】
本態様にあっては、1又は複数の増幅回路を纏めて集合回路とし、更に2つの集合回路を纏めるために全ての増幅回路の出力端を突き合わせる。これにより、各増幅回路が出力する電流が集合回路毎に足し合わされ、各集合回路が出力する電流が更に足し合わされる。
【0016】
本発明の一態様に係る高周波電源回路は、2つの前記集合回路のそれぞれが備える増幅回路が有するスイッチング素子の制御端子に、前記周波数の信号を入力する信号発生器を前記集合回路毎に備え、2つの前記信号発生器は、出力する信号の位相差が可変である。
【0017】
本態様にあっては、各集合回路のそれぞれが備える1又は複数の増幅回路の制御端子に対し、集合回路毎に独立した信号発生器から固有の周波数の信号を入力し、各信号発生器が発生する信号の位相差を可変に制御する。これにより、集合回路同士を突き合わせた自回路から、上記位相差に応じて振幅が可変の電流を出力することができる。
【0018】
本発明の一態様に係る増幅回路の定数決定方法は、第1インダクタと、該第1インダクタの一端に一端が接続されたスイッチング素子と、該スイッチング素子に並列に接続された第1キャパシタと、前記スイッチング素子の一端に一端が接続されており、第2キャパシタ及び第2インダクタを含むLC直列回路と、該LC直列回路の他端及び前記スイッチング素子の他端の間に接続された第3キャパシタとを有する増幅回路における回路定数を決定する方法であって、前記第3キャパシタを除いた回路が固有周波数の信号を増幅するE級増幅回路となるように、前記第1インダクタ及び前記第2インダクタそれぞれのインダクタンス並びに前記第1キャパシタ及び前記第2キャパシタそれぞれのキャパシタンスを決定し、前記第3キャパシタを含めた回路にて前記スイッチング素子がオンである場合に、前記LC直列回路の他端及び前記第3キャパシタの接続点から前記増幅回路側を見たときの前記固有周波数におけるインピーダンスの抵抗成分が無限大に近づき、且つリアクタンス成分が0に近づくように、先に決定した前記第2インダクタのインダクタンスをより大きくし、且つ前記第3キャパシタのキャパシタンスを調整する。
【0019】
本態様にあっては、一端が直流電源に接続された第1インダクタの他端に、スイッチング素子及び第1キャパシタの並列回路の一端と、第2キャパシタ及び第2インダクタを含むLC直列回路の一端とが接続されており、更にLC直列回路の他端と上記並列回路の他端との間に第3キャパシタが負荷と並列に接続されている。先ずこの構成から第3キャパシタを除いた回路が固有の周波数を増幅するE級増幅回路となるように回路定数を決定する。そして、第3キャパシタを含めた回路にてスイッチング素子をオンさせた状態で、負荷から増幅回路の出力側を見たときの固有の周波数におけるインピーダンスの抵抗成分が無限大に近づき、且つリアクタンス成分が0に近づくように、第2インダクタのインダクタンスをより大きくする方向に調整し、且つ前記第3キャパシタのキャパシタンスを調整する。これにより、固有の周波数の高周波電力を出力する自回路が定電流特性を有するようにすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、出力先の状態によらずに電流を出力することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態1に係る高周波電源回路の構成例を示すブロック図である。
図2】回路定数が調整された増幅回路の出力特性を示すグラフである。
図3】トランジスタの電圧及び電流の波形を示すグラフである。
図4】実施形態2に係る高周波電源回路の構成例を示すブロック図である。
図5】高周波電源回路に入力される信号の位相差に対する出力の特性を示すグラフである。
図6】各増幅回路及び高周波電源回路の出力電流の波形を示すグラフである。
図7】変形例1に係る高周波電源回路の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をその実施形態を示す図面に基づいて詳述する。
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る高周波電源回路100の構成例を示すブロック図である。高周波電源回路100は、自回路に固有の周波数の信号を増幅する増幅回路1を備えており、増幅回路1に直流電源2から電流が供給されて信号発生器3から上記固有の周波数の信号が入力された場合に、増幅回路1にて増幅した信号の電流を負荷RLに出力する。本実施形態1では、固有の周波数が40.68MHzであるが、これに限定されるものではなく、例えば2MHz、13.56MHz、27MHz、60MHz等の工業用のRF帯(Radio Frequency )の周波数であってもよい。これらのうちの特定の周波数に適合するように、増幅回路1における回路定数の値が決定された場合、当該特定の周波数が固有の周波数となる。
【0023】
増幅回路1は、直流電源2に一端が接続されるインダクタLf1(第1インダクタに相当)と、インダクタLf1の他端にドレインが接続されたトランジスタ(GaN-FET=Gallium Nitride-Field Effect Transistor :スイッチング素子に相当)Q1と、トランジスタQ1のドレイン及びソース間に並列に接続されたキャパシタCp1(第1キャパシタに相当)とを備える。トランジスタQ1は、例えばGaN-HEMT(High Electron Mobility Transistor )であってもよい。
【0024】
増幅回路1は、更に、一端がトランジスタQ1のドレインに接続されたLC直列回路Sr1であるキャパシタCr1(第2キャパシタに相当)及びインダクタLr1(第2インダクタに相当)と、LC直列回路Sr1の他端及びトランジスタQ1のソース間に接続されたキャパシタC1(第2のキャパシタ及び第3キャパシタに相当)とを備える。図1では、キャパシタCr1がトランジスタQ1のドレインに接続されているが、インダクタLr1がドレインに接続されていてもよい。図中の白抜きの逆三角形は、共通電位を表す。トランジスタQ1のソース及びキャパシタCp1の接続点は共通電位に接続されている。
【0025】
直流電源2は、100Vの直流電圧を出力し、インダクタLf1の一端から直流電流を供給する定電圧電源であるが、出力電圧が100Vに限定されるものではない。
【0026】
信号発生器3は、抵抗器Rg1を介してトランジスタQ1のゲート(制御端子に相当)及びソース間に40.68MHzの高周波信号を入力する。信号発生器3は、トランジスタQ1のゲートを駆動するドライバを含んでいる。
【0027】
負荷RLは、例えば、プラズマ処理装置及び該プラズマ処理装置と並列に接続されたインピーダンス整合装置を含み、インピーダンスの抵抗成分が変動した場合であってもリアクタンス成分が0と見做せるものであることが好ましい。
【0028】
次に、増幅回路1における回路定数の決定方法について説明する。増幅回路1からキャパシタC1を除いた回路は、いわゆるE級増幅回路と同等の回路構成を有し、回路定数の一部がE級増幅回路とは異なっている。ここで言うE級増幅回路とは、ソフトスイッチングの一種であるゼロ電圧スイッチング(ZVS=Zero Voltage Switching )を行うことにより、スイッチング素子におけるスイッチング損失が低減される高効率の増幅回路である。ZVS動作では、トランジスタQ1のドレイン電圧が0Vになっている間にトランジスタQ1がオンするため、少なくともターンオン損失が低減される。
【0029】
増幅回路1における回路定数は抵抗器Rg1を除いて5つあり、定数決定の自由度が高過ぎるため、先ずはキャパシタC1を除いた回路がE級増幅回路となるような仮の回路定数を決定する。然る後に、キャパシタC1を含めた回路にてインダクタLr1の仮のインダクタンスを大きくして目的とするインダクタンスに調整すると共に、キャパシタC1のキャパシタンスを調整する。上記の仮の回路定数をシミュレーションにより算出した場合、各回路定数の値は、例えば以下のとおり決定されるが、この回路定数の組合せに限定されるものではない。ここでの固有の周波数は40.68MHzである。Rg1は0.1Ωとするが、この値とは異なる抵抗値であってもよい。
【0030】
Lf1=57nH、Cp1=100pF、Cr1=39pF、Lr1=386nH
【0031】
このように決定した仮の回路定数で実現されるE級増幅回路の出力インピーダンスは、一般的な負荷RLのインピーダンスと比較して十分小さくなることが多い。この場合は、E級増幅回路を高周波電源として用いた場合、その出力は定電圧特性を有する。実際、上述のとおり回路定数を決定した増幅回路1の出力側を、負荷RLから見たインピーダンスZは(0.30-j1.66)Ωとなる。高周波電源の出力が定電圧特性を有する場合は、複数の高周波電源の出力を突き合わせるだけでは、出力電流を足し合わせることができない。そこで、本実施形態1では、増幅回路1からキャパシタC1を除いた回路で実現されるE級増幅回路の出力と負荷RLとの間に、一種のインピーダンス変換回路を挿入する。上記仮の回路定数で実現されるE級増幅回路が定電圧特性を有するとは言えない場合であっても、同様に変換回路を挿入することによって、増幅回路1の出力特性を変更することができる。
【0032】
具体的には、E級増幅回路の一部として仮のインダクタンスを決定したインダクタLr1と負荷RLとの間に他のインダクタを挿入し、挿入した他のインダクタ及び負荷RLの接続点と共通電位との間に他のキャパシタを追加する。そして、インダクタLr1の仮のインダタンスに上記他のインダクタのインダクタンスを合算すると共に、上記他のキャパシタをキャパシタCr1とする。これにより、増幅回路1のインダクタLr1の目的とするインダクタンスは、E級増幅回路を構成するインダクタLr1の仮のインダクタンスよりも増大する。
【0033】
より具体的には、上記他のインダクタ及び他のキャパシタを追加することにより、負荷RLから増幅回路1の出力側を見たときの固有の周波数におけるインピーダンスの抵抗成分が無限大に近づき、且つリアクタンス成分が0に近づくように調整する。換言すれば、負荷RLから増幅回路1の出力側を見たときの固有の周波数におけるインピーダンスが、スミスチャート上にて外周円に近づき、且つ実軸上に近づくように、インダクタLr1のインダクタンス及びキャパシタC1のキャパシタンスを調整する。調整したインピーダンスの絶対値は、負荷RLのインピーダンスより十分大きいことが好ましい。
【0034】
上述の調整に加えて、LC直列回路Sr1の一端(即ちトランジスタQ1に一端が接続されたキャパシタCr1の当該一端)から負荷RL側を見たインピーダンスのリアクタンス成分が誘導性となるように調整する。この調整の結果、LC直列回路Sr1の一端から負荷RL側を見たインピーダンスの誘導性リアクタンスと、キャパシタCp1の容量性リアクタンスとの相互作用により、トランジスタQ1のドレインに振動電圧が発生して、トランジスタQ1のZVS動作が可能となる。このように調整された場合、インダクタLr1及びキャパシタC1の回路定数と、負荷RLから増幅回路1の出力側を見たインピーダンスZとは、例えば以下の(a)~(c)のとおりとなる。
【0035】
(a)Lr1=486nH、C1=163pF、Z=(1.9k+j43)Ω
(b)Lr1=460nH、C1=226pF、Z=(1.0k+j0)Ω
(c)Lr1=488nH、C1=160pF、Z=(2.0k+j0)Ω
【0036】
図2は、回路定数が調整された増幅回路1の出力特性を示すグラフである。回路定数の組合せは、上記の(a)である。図2の横軸は負荷RLの抵抗値(Ω)を表し、縦軸は出力電圧(V)及び出力電流(A)を表す。図中の実線は出力電流を示し、破線は出力電圧を示す。図2が示すところによれば、負荷RLの抵抗値を1Ωから30Ωまで変化させた場合、出力電流は概ね5Aが維持されているのに対し、出力電圧は5Vから148Vまで直線的に増加している。即ち、増幅回路1が定電流特性を示していると言える。
【0037】
図3は、トランジスタQ1の電圧及び電流の波形を示すグラフである。図3の横軸は時間(ns)を表し、縦軸はドレイン電圧(V)、ゲート電圧(V)及びトランジスタQ1の電流(A)を表す。トランジスタQ1の電流とは、トランジスタQ1のドレイン電流及び不図示の寄生ダイオードの電流である。図中の太い実線はドレイン電圧を示し、細い実線はゲート電圧を示し、太い破線はトランジスタQ1の電流を示す。なお、ゲート電圧は、縦軸方向に10倍のスケール(即ち10V/div)で記載してある。図3が示すところによれば、トランジスタQ1にゲート電圧が印加されてドレイン電圧が0Vになっている間にトランジスタQ1がターンオンしており、ZVS動作を行っていると言える。
【0038】
以上のように本実施形態1によれば、一端が直流電源2に接続されたインダクタLf1の他端に、トランジスタQ1及びキャパシタCp1の並列回路の一端とLC直列回路Sr1の一端とが接続されており、更にLC直列回路Sr1の他端と上記並列回路の他端との間にキャパシタC1が負荷RLと並列に接続されている。この構成により、トランジスタQ1のゲートに入力された増幅回路1に固有の周波数を増幅して同周波数の電流を負荷RLに出力する。即ち、いわゆるE級増幅回路に類似する回路の出力端に対してキャパシタC1が負荷RLと並列に接続されており、キャパシタC1とLC直列回路Sr1に含まれるインダクタLr1の回路定数を適当に調整することによって、出力のインピーダンスが増大する。従って、負荷RLを含めた出力先の状態によらずに電流を出力することが可能となる。
【0039】
また、実施形態1によれば、トランジスタQ1をオンさせた状態にて、負荷RLから増幅回路1の出力側を見たときの固有の周波数におけるインピーダンスの絶対値が、負荷RLのインピーダンスより十分大きい。従って、高周波電源回路100出力が定電流特性を有する。
【0040】
更に、実施形態1によれば、LC直列回路Sr1の一端から、LC直列回路Sr1を介して負荷RL側を見たときの固有の周波数におけるインピーダンスのリアクタンス成分が誘導性であるため、トランジスタQ1と並列に接続されたキャパシタCp1との相互作用により、トランジスタQ1をソフトスイッチングさせることができる。
【0041】
更に、実施形態1によれば、増幅回路1からキャパシタC1を除いた回路が固有の周波数を増幅するE級増幅回路となるように、インダクタLf1、キャパシタCp1、インダクタLr1及びキャパシタCr1の回路定数を決定する。そして、キャパシタC1を含めた増幅回路1にてトランジスタQ1をオンさせた状態で、負荷RLから増幅回路1の出力側を見たときの固有の周波数におけるインピーダンスの抵抗成分が無限大に近づき、且つリアクタンス成分が0に近づくように、インダクタLr1のインダクタンスをより大きくする方向に調整し、且つキャパシタC1のキャパシタンスを調整する。これにより、固有の周波数の高周波電力を出力する高周波電源回路100が定電流特性を有するようにすることができる。
【0042】
(実施形態2)
実施形態1は、高周波電源回路100が増幅回路1を1つ備える形態であるのに対し、実施形態2は、高周波電源回路100aが2つの増幅回路1を備える集合回路10を2つ含んでおり、4つの増幅回路1の出力が突き合わされる形態である。各集合回路10が備える増幅回路1の数は1つ又は3つ以上であってもよい。
【0043】
図4は、実施形態2に係る高周波電源回路100aの構成例を示すブロック図である。高周波電源回路100aは、増幅回路1を2つ備える集合回路10を2つ含んで構成されている。各集合回路10が備える2つの増幅回路1のそれぞれは、インダクタLf1の一端が直流電源2に接続され、2つの増幅回路1に共通する信号発生器3から抵抗器Rg1を介して40.68MHzの高周波信号が入力される。2つの集合回路10が備える合計4つの増幅回路1は、LC直列回路Sr1の他端同士が突き合わされて負荷RLの一端に接続されている。負荷RLの他端は共通電位に接続されている。インダクタLf1、キャパシタCp1、インダクタLr1、キャパシタCr1及びキャパシタC1の回路定数は、実施形態1で決定及び調整した値と同じである。本実施形態2の負荷抵抗RLは5Ωである。
【0044】
2つの信号発生器3は制御部4に接続されている。直流電源2は、70Vの直流電圧を出力し、4つのインダクタLf1の一端から直流電流を供給する定電圧電源であるが、出力電圧が70Vに限定されるものではない。その他、実施形態1に対応する箇所には同様の符号を付してその説明を省略する。
【0045】
制御部4は、不図示のCPU(Central Processing Unit )を有し、予めROM(Read Only Memory )に記憶された制御プログラムに従って、2つの信号発生器3が発生する信号の位相差を制御する。一時的に発生した情報はRAM(Random Access Memory )に記憶される。制御部4と2つの信号発生器3とが一体的に構成されていてもよい。
【0046】
図4に示す構成において、各集合回路10が備える2つの増幅回路1が出力する電流は、同位相で足し合わされて負荷RLに供給される。これに対し、一の集合回路10が備える2つの増幅回路1が出力する電流と、他の集合回路10が備える2つの増幅回路1が出力する電流とは、2つの信号発生器3が発生する信号の位相差に応じて足し合わされて負荷RLに供給される。
【0047】
図5は、高周波電源回路100aに入力される信号の位相差に対する出力の特性を示すグラフである。図5のAは、2つの信号発生器3が発生する信号の位相差と、高周波電源回路100a及び各増幅回路1から負荷RLに出力される電流との関係を示すものである。図5のBは、2つの信号発生器3が発生する信号の位相差と、高周波電源回路100aから負荷RLに出力される電力及び高周波電源回路100aの内部損失との関係を示すものである。図5の横軸は位相差(度)を表す。図5のAの縦軸は出力電流(A)を表し、図5のBの縦軸は出力電力(W)及び内部損失(W)を表す。ここでの負荷RLの抵抗値は5Ωである。
【0048】
図5のAにおける実線は高周波電源回路100aから負荷RLに出力される電流を示しており、破線は各増幅回路1から負荷RLに出力される電流を示している。各増幅回路1から負荷RLに出力される電流は、概ね3.5Aで一定しているが、高周波電源回路100aから負荷RLに出力される電流は、2つの信号発生器3が発生する信号の位相差が0度から180度まで変化するのに応じて、13.8Aから0.5Aまで単調に減少する。特に、2つの信号発生器3が発生する信号に位相差が無い場合、4つの増幅回路1が出力する電流は、負荷RLにて同位相で足し合わされるから、負荷RLに供給される電流が、1つの増幅回路1から出力される電流の略4倍となることが読み取れる。このように、2つの信号発生器3が発生する信号の位相差に応じて、高周波電源回路100aから負荷RLに出力される電流の大きさを任意に変更することができる。
【0049】
図5のBにおける実線は高周波電源回路100aから負荷RLに出力される電力を示しており、破線は高周波電源回路100aの内部損失を示している。内部損失は、直流電源2が出力する電力から、高周波電源回路100aが出力する電力を減算して算出される。2つの信号発生器3が発生する信号の位相差が0度から180度まで変化する間では、内部損失が90Wから70Wまでの範囲内に収まっており、足し合わせる電流の位相差によって内部損失が増大することはないと言える。一方、出力電力は、図5のAに示す出力電流の自乗に概ね比例することが示されている。
【0050】
図6は、各増幅回路1及び高周波電源回路100aの出力電流の波形を示すグラフである。図6のA、B及びCそれぞれは、2つの信号発生器3が発生する信号の位相差が0度、90度及び180度の場合の出力電流の波形を示すものである。図6の横軸は時間(ns)を表し、縦軸は出力電流(A)を表す。図中の実線は高周波電源回路100aの出力電流を示し、細い実線は一の集合回路10が備える2つの増幅回路1それぞれの出力電流を示し、細い破線は他の集合回路10が備える2つの増幅回路1それぞれの出力電流を示している。但し、図6のAでは、全ての増幅回路1の出力電流が重なって細い実線で表示されている。また、図6のB及びCでは、一の集合回路10が備える2つの増幅回路1の出力電流が重なって細い実線で表示されており、他の集合回路10が備える2つの増幅回路1の出力電流が重なって細い破線で表示されている。
【0051】
図6のAからは、任意の時刻における4つの増幅回路1それぞれの出力電流の4倍の大きさの出力電流が、高周波電源回路100aから出力されていることが読み取れる。図6のBからは、任意の時刻において、細い実線に対応する増幅回路1の出力電流の2倍の大きさの電流と、細い破線に対応する増幅回路1の出力電流の2倍の大きさの電流とを足し合わせた出力電流が、高周波電源回路100aから出力されていることが読み取れる。図6のCからは、任意の時刻において、細い実線に対応する増幅回路1の出力電流の2倍の大きさの電流と、細い破線に対応する増幅回路1の出力電流の2倍の大きさの電流とが互いに打ち消し合うように足し合わせた出力電流が、高周波電源回路100aから出力されていることが読み取れる。
【0052】
上述の図5は静的な特性を示すものであり、図6は定常的な波形を示すものであった。実際に高周波電源回路100aが利用される場面では、2つの信号発生器3が発生する信号の位相差が比較的短い周期で変化する場合がある。例えば、2つの信号発生器3が発生する信号の位相差が1μs周期で0度及び120度に変化する場合であっても、高周波電源回路100aから出力される高周波電流のエンベロープが1μs周期でステップ状に変化することが確認されている(図示は省略)。
【0053】
以上のように本実施形態2によれば、1又は複数の増幅回路1を纏めて集合回路10とし、更に2つの集合回路10を纏めるために全ての増幅回路1の出力端を突き合わせる。従って、各増幅回路1が出力する電流を集合回路10毎に足し合わせ、各集合回路が出力する電流を更に足し合わせることができる。
【0054】
また、実施形態2によれば、各集合回路10のそれぞれが備える1又は複数の増幅回路1の制御端子に対し、集合回路10毎に独立した信号発生器3から固有の周波数の信号を入力し、各信号発生器3が発生する信号の位相差を可変に制御する。従って、集合回路10同士を突き合わせた高周波電源回路100aから、上記位相差に応じて振幅が可変の電流を出力することができる。
【0055】
(変形例1)
実施形態2は、4つの増幅回路1がそれぞれ有するキャパシタC1が並列に接続される形態であるのに対し、変形例1は、4つのキャパシタC1に代えて1つのキャパシタC2を備える形態である。
【0056】
図7は、変形例1に係る高周波電源回路100bの構成例を示すブロック図である。高周波電源回路100bは、増幅回路1bを2つ備える集合回路10bを2つ含んで構成されている。増幅回路1bは、実施形態1及び2に係る増幅回路1からキャパシタC1を削除して構成されている。2つの集合回路10bが備える合計4つの増幅回路1bは、LC直列回路Sr1の他端同士が突き合わされて負荷RLの一端に接続されている。4つのLC直列回路Sr1の他端及び負荷RLの接続点と共通電位との間には、キャパシタC2が接続されている。その他、実施形態1及び2に対応する箇所には同様の符号を付してその説明を省略する。
【0057】
インダクタLf1、キャパシタCp1、インダクタLr1及びキャパシタCr1の回路定数は、実施形態1で決定及び調整した値と同じである。キャパシタC2のキャパシタンスは、実施形態1で決定及び調整したキャパシタC1の4つ分のキャパシタンスを有する。具体的には、キャパシタC1のキャパシタンスが163pFであったので、キャパシタC2のキャパシタンスを654pFとする。
【0058】
本変形例1に係る高周波電源回路100bは、高周波電源回路100aと比較して、4つの集中定数と見做される4つのキャパシタC1を、1つの集中定数であるキャパシタC2に置き換えただけであるから、実施形態2に係る高周波電源回路100aと同様の作用効果を奏する。
【0059】
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、各実施形態で記載されている技術的特徴は、お互いに組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0060】
100、100b、100c 高周波電源回路
1、1b 増幅回路
2 直流電源
3 信号発生器
4 制御部
10、10b 集合回路
Lf1、Lr1 インダクタ
Cp1、Cr1、C1、C2 キャパシタ
Sr1 LC直列回路
Q1 トランジスタ
Rg1 抵抗器
RL 負荷
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7