(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】HPV誘発浸潤がん、非HPV誘発婦人科がん及び肛門性器がん、並びにその高度前駆病変を検出するためのメチル化分類子
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/686 20180101AFI20230620BHJP
C12Q 1/6886 20180101ALI20230620BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALI20230620BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230620BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z
C12Q1/6886 Z ZNA
C12Q1/6813 Z
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2019549400
(86)(22)【出願日】2018-03-09
(86)【国際出願番号】 NL2018050143
(87)【国際公開番号】W WO2018164577
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2021-02-08
(32)【優先日】2017-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514064877
【氏名又は名称】セルフ-スクリーン ベー.フェー.
【氏名又は名称原語表記】SELF-SCREEN B.V.
【住所又は居所原語表記】Biothof 15-1, 1098 RX Amsterdam The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クリストフォルス・ヨハネス・ランベルトゥス・マリア・メイエル
(72)【発明者】
【氏名】レンスケ・ダニエラ・マリア・ステーンベルゲン
(72)【発明者】
【氏名】ペートルス・ヨゼーフス・フェルディナンドゥス・スネイダース
(72)【発明者】
【氏名】ダニエレ・アンネ・マリー・ヘイデマン
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/048138(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0300536(US,A1)
【文献】国際公開第2013/174432(WO,A1)
【文献】特表2015-532108(JP,A)
【文献】国際公開第2017/034407(WO,A1)
【文献】特表2012-523822(JP,A)
【文献】PloS ONE, 2017, Vol.12, No.3: e0173242, pp.1-17, published March 9, 2017,
【文献】Epigenetics, 2013, Vol.8, No.11, pp.1213-1225
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HPV誘発子宮頸癌、子宮頸部上皮内新生物3(CIN3)、外陰扁平細胞癌(VSCC)に進行するリスクを伴うHPV誘発外陰上皮内新生物(VIN)病変、VSCC又は非HPV誘発子宮内膜がんを検出する方法であって、前記方法が、
尿試料、子宮頸部組織、子宮内膜組織、及び/又は外陰部組織におけるLHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5配列
のメチル化
状態の決定を含み、LHX8、ASCL1、及
びST6GALNAC5配列の過剰メチル化が、
HPV誘発子宮頸癌、子宮頸部上皮内新生物3(CIN3)、外陰扁平細胞癌(VSCC)に進行するリスクを伴うHPV誘発外陰上皮内新生物(VIN)病変、VSCC又は非HPV誘発子宮内膜がんの存在を示し
、過剰メチル化が、比較可能な正常細胞と比較して、試験細胞におけるLHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5 CpGリッチプロモーター及び/又は遺伝子配列のメチル化の増加である、方法。
【請求項2】
LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5配列の過剰メチル化が、HPV誘発子宮頸癌又は子宮頸部上皮内新生物3(CIN3)の存在を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記非HPV誘発がんが子宮内膜がんである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
外陰がん及び/又は浸潤能を有する外陰HPV誘発前駆病変を検出する方法であって、前記方法が、外陰細胞を含む試料及び/又は尿試料におけるASCL1及びLHX
8配列
のメチル化
状態の決定を含み、ASCL1及びLHX
8配列
の過剰メチル化が、外陰がん及び浸潤能を有する外陰HPV誘発前駆病変の存在を示し
、過剰メチル化が、比較可能な正常細胞と比較して、試験細胞におけるLHX8及びASCL1 CpGリッチプロモーター及び/又は遺伝子配列のメチル化の増加である、方法。
【請求項5】
前記試料におけるZIC1又はZNF-582又はZIC1とZNF-582配列のメチル化状態の決定を更に含み、ZIC1又はZNF-582又はZIC1とZNF-582配列の過剰メチル化が、外陰がん及び浸潤能を有する外陰HPV誘発前駆病変の存在を示している、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
卵巣がん及び/又は卵巣前駆病変を検出する方法であって、前記方法が、卵巣細胞を含む試料及び/又は尿試料におけるASCL1及びLHX
8配列
のメチル化
状態の決定を含み、ASCL1及びLHX
8配列の過剰メチル化が、卵巣がん及び卵巣前駆病変の存在を示し
、過剰メチル化が、比較可能な正常細胞と比較して、試験細胞におけるLHX8及びASCL1 CpGリッチプロモーター及び/又は遺伝子配列のメチル化の増加である、方法。
【請求項7】
前記試料におけるZIC1配列のメチル化状態の決定を更に含み、ZIC1配列の過剰メチル化が、卵巣がんの存在を示している、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記過剰メチル化が、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、及び配列番号26に示されるCpGリッチ配列において検出される、請求項1から
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
BssHII、MspI、NotI、及びHpaIIからなる群から選択されるメチル化感受性制限エンドヌクレアーゼの使用を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ナノ技術を伴う、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
DNAのバイサルファイト変換後にCpGリッチ配列を標的とする特異的PCR反応に基づくメチル化特異的PCRを実施する、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
配列番号22又は配列番号23に示されるように、核酸に結合する核酸プローブ又はプライマーの使用を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記核酸プローブ又はプライマーが検出可能な標識を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
核酸プローブが、
a)ストリンジェントな条件下で、配列番号22に記載の配列ASCL1、又は配列番号23に記載の配列LHX8、又は配列番号24に記載の配列ST6GALNAC5、又は配列番号26に記載の配列ZIC1、又は配列番号25に記載の配列ZNF-582とハイブリダイズすることができるポリヌクレオチド配列;及び
b)a)のポリヌクレオチドの1つに対して相補的なポリヌクレオチド;
からなる群から選択されるヌクレオチド配列を有する、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
LHX8、ASCL1、ZNF-582、ZIC1、及び/又はST6GALNAC5遺伝子を含むメチル化分類子のメチル化が決定される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載の方法に使用するためのパーツのキットであって、
LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5のメチル化を検出する手段であって、配列番号22のASCL1ヌクレオチド配列、及び配列番号23のLHX8ヌクレオチド配列、及び配列番号24のST6GALNAC5ヌクレオチド配列の、バイサルファイト変換配列に対して特異的なプローブ及び/又はプライマーを含む手段;
又は
A
SCL1及びLHX8のメチル化を検出する手段であって、配列番号22のASCL1ヌクレオチド配列及び配列番号23のLHX8ヌクレオチド配列の、バイサルファイト変換配列に対して特異的なプローブ及び/又はプライマーを含む手段;
を含む、パーツのキット。
【請求項17】
ASCL1及びLHX8を検出する手段が、ZIC1及びZNF-582のうちの1つ又は複数を検出する手段を更に含み、前記後者の手段が、配列番号25のZNF-582ヌクレオチド配列、及び配列番号26のZIC1ヌクレオチド配列のうちの1つ又は複数の、バイサルファイト変換配列に対して特異的なプローブ及び/又はプライマーを更に含む、請求項16に記載のパーツのキット。
【請求項18】
更に、HPV感染症を検出する手段であって、HPVに対して特異的なプローブ及び
/又はプライマーを含む手段、を含む、請求項
16または17に記載のパーツのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんの予防及び医学的診断の分野に関し、がん、特にヒト乳頭腫ウイルス(HPV)誘発浸潤がん及びその高度前駆病変、例えば浸潤性子宮頸がん及び前悪性子宮頸部病変、非HPV誘発婦人科がん及び肛門性器がんの分子診断アッセイに関係する。特に、本発明は、hrHPV誘発浸潤がん、非HPV誘発婦人科がん及び肛門性器がん、並びに浸潤能を有するその前悪性病変のマーカーとしての、遺伝子LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5、並びにその調節配列に基づくメチル化分類子の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
子宮頸部のがんは、全世界の女性における4番目に最も一般的ながんであり、毎年およそ250,000例のがんによる死亡の原因である。
【0003】
子宮頸部扁平上皮癌の発生は、一連の前悪性病変、すなわち子宮頸部上皮内新生物(CIN)によって特徴付けられ、これは1から3に分類され、それぞれ軽度異形成(CIN1)、中等度異形成(CIN2)、及び高度異形成/上皮内癌(CIN3)を指す。CIN 1はまた、軽度扁平上皮内病変(LSIL)とも呼ばれ、CIN2及びCIN3は共に、高度上皮内病変(HSIL)とも呼ばれる。子宮頸部の腺癌に関して、上皮内腺癌(ACIS)は、確立された前駆病変である。原則的に、これらの前悪性病変は可逆的であるが、病変がより重度であれば、自然退縮の可能性はより低くなる。子宮頸がんは、前悪性段階を剥離細胞診によって検出することができ、必要に応じて比較的容易に処置することができ、副作用もごく軽微であることから、予防可能な疾患であると考えられている。子宮頸がんのスクリーニングは、高度前悪性病変(すなわち、CIN2/3及び上皮内腺癌)及び処置可能ながん様病変を早期に診断し、それによって、浸潤性子宮頸がんの死亡率を低減させることをねらいとしている。一般診療は、子宮頸がんの発生を予防するために、形態学的に確認されたCIN2、CIN3及び上皮内腺癌を有する全ての女性の処置を含む。
【0004】
過去数十年の間に、子宮頸部の発癌が、高リスクヒト乳頭腫ウイルス(hrHPV)の感染によって始まることが十分に確立されている。ウイルス癌遺伝子E6及びE7の発現はそれぞれ、p53及びRb腫瘍抑制経路を妨害し、発癌の開始と悪性の表現型の維持の両方にとって必須であることが示されている。したがって、hrHPVの検査は、魅力的な一次スクリーニングツールであると思われた。しかし、発癌の多段階過程と一貫して、hrHPV感染細胞が浸潤性のがん細胞へと進行するためには、宿主細胞ゲノムにおける更なる変更が必要である。高リスクHPVに感染した女性のごく少数が、高度前悪性子宮頸部病変(CIN2/3)を発症し、これを無処置のままにすると、子宮頸がんを発症する。前悪性子宮頸部病変を有するほとんどの女性では、病変は自然に退縮する。集団に基づくスクリーニングに参加した女性のうち、約5~6%がhrHPV検査陽性である。しかし、≧CIN2/3を有するのは、多くて彼女らの20%(参加女性の1%)に過ぎない。したがって、子宮頸部塗抹標本に、≧CIN2/3及び≧上皮内腺癌のリスクに関してhrHPV陽性女性を階層化することができるマーカーを適用することができなければ、hrHPV検査による一次スクリーニングは、相当数の不必要な追跡調査手順を伴い、女性に不要な不安を与える。
【0005】
HPV検査陽性の女性の、臨床的に意味のある病変を有する女性に対する百分率を低減することは、大きな課題である。1つの様式は、hrHPV陽性女性に関する二次(いわゆるトリアージ)検査として細胞診を使用することである。しかし、この場合も、正常な細胞診を有する相当数のhrHPV陽性女性(スクリーニング集団における女性の3.5%)が存在し、その中で更に10%が≧CIN3を有するか又は獲得する。その上、細胞診は、自宅で採取することができる自己採取子宮頸部-膣標本の選択肢ではない、その理由は、これらが子宮頸部の細胞学的状況を表していないことからである。別の様式は、HPV16/18遺伝子型決定を使用することである。しかし、この場合も、程度はより少ないものの≧CIN2/3及び≧上皮内腺癌のリスクを有する非HPV16/18型の女性が存在する。したがって、hrHPV陽性の女性を、≧CIN2/3及び≧上皮内腺癌を有する女性及び有しない女性に階層化するために補助的な又は代替のトリアージツールが必要である。
【0006】
がん遺伝子の宿主細胞変化に基づく疾患マーカーを使用する子宮頸がんの一次スクリーニングは、特異性及び感度が十分に高ければ、有望な代替を提供する。この選択肢は、品質が管理された細胞診が存在せず、HPV陽性女性に関する追跡アルゴリズムを実施することが難しい低所得及び中所得国にとって特に重要である。これらの国では、自己採取は、子宮頸部スクリーニングの利用を容易にすることが示されている(Laczano-Ponce et al., Lancet. 2011; 378: 1868~1873頁)。この意味において、自己採取試料においても有効であるマーカーを有することは極めて有用である。医師又は看護師等の医療の専門家によって得られている膣塗抹標本と、女性が自身で収集している膣スワブにおけるマーカーの「挙動」には大きい差があるように思われる。医師が提供する試料にとって適している多くのマーカーは、自己採取試料では有用ではないように思われる。低所得及び中所得国では、1人あたりの医療人員の数がより少なく、他の人が膣試料を採取することはしばしば文化的問題を生じることから、医師が採取した試料ではなくて自己採取試料について研究する必要性はそれらの国では高い。更に、高度先進諸国においても、自己採取は、大規模子宮頸がんスクリーニングのための膣試料を得る費用を低減するために理想的な方法である。尿試料を、早期がん検出のために使用することができれば、更により高い引受率を予想することができる。
【0007】
子宮内膜がんは、多くの先進諸国において最も一般的な婦人科悪性疾患である(Siegel et al., CA Cancer J. Clin., 64 (2014)、9~29頁)。初期の子宮内膜がんは、非常に良好な予後を有する。したがって、早期検出は、治癒の見込みを増加させ、面倒で費用がかかる治療介入を回避又は低減させるであろう。子宮頸部擦過標本に腫瘍細胞が脱落することが証明されていることから、非侵襲性の試料採取による子宮内膜がんの早期検出は実現可能である。しかし、子宮頸部擦過標本における従来の細胞診は、子宮内膜がんの検出に関して感度は非常に低い。子宮内膜がんに関連するDNAメチル化等の分子の変更に関する検査は、子宮内膜がんの早期検出にとって有望なアプローチを提供しうる(de Strooper et al., J Clin Pathol. 2014;67(12):1067~71頁、Bakkum-Gamez et al. Gynecol Oncol. 2015;137(1):14~22頁)。同様に、卵巣がんを検出するための子宮頸部擦過標本におけるがん特異的DNA変更の検査が、最近提唱されている(Kindle et al., Sci Transl Med. 2013; 5(167):1~21頁)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2017/034407号
【文献】国際公開第2009104967号(A1)
【非特許文献】
【0009】
【文献】Laczano-Ponce et al., Lancet. 2011; 378: 1868~1873頁
【文献】Siegel et al., CA Cancer J. Clin., 64 (2014), 9~29頁
【文献】de Strooper et al., J Clin Pathol. 2014;67(12):1067~71頁
【文献】Bakkum-Gamez et al. Gynecol Oncol. 2015;137(1):14~22頁
【文献】Kindle et al., Sci Transl Med. 2013; 5(167):1~21頁
【文献】Ausubel et al, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Inc., 1994
【文献】Grinberg and Millen, Clin Genet. 2005, 67(4):290~6頁
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【文献】Huang et al., Epigenetics. 2013, 8(6):624~34頁
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【文献】Boers et al. 2016; Clin. Epigenetics 8:29頁
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【文献】「Current Protocols in Molecular Biology」、Ausubel et al. 1995年、第4版、John Wiley and Sons
【文献】「A Laboratory Guide to RNA: Isolation, analysis, and synthesis」、Krieg (編)、1996年、Wiley-Liss
【文献】「Molecular Cloning: A laboratory manual」、J. Sambrook, E.F. Fritsch. 1989年、3巻、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press
【文献】Bailey, V. et al. (Genome Res. 19:1455~1461頁、2009)
【文献】Zhang, C. et al., 2005, Nat. Mater. 4:826~831頁
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【文献】De Strooper et al. Gynecol. Oncol. 141, 341~347頁(2016)
【文献】Boers. et al. Br. J. Cancer 111, 1095~101頁 (2014)
【文献】Eijsink et al. Gynecol. Oncol. 120, 280~283頁(2011)
【文献】Schmittgen et al., Nat Protoc 2008, 3:1101~1108頁
【文献】Verlaat et al., Clinical Cancer Research, 2017
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、HPV誘発浸潤がん、非HPV誘発婦人科がん及び肛門性器がん、並びにその高度前がん様病変を検出する方法であって、前記方法が、細胞におけるLHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5の遺伝子配列、又はこれらの遺伝子の調節配列における過剰メチル化の検出を含み、そのような過剰メチル化が、浸潤能を有するHPV誘発前駆病変、HPV誘発浸潤がん、並びに/又は非HPV誘発性婦人科がん及び肛門性器がんの存在を示している方法を見出した。好ましくは、そのような方法では、前記HPV誘発高度前がん様病変又はHPV誘発浸潤癌は、高度前悪性子宮頸部病変又は浸潤性子宮頸がん、より好ましくは高リスクHPV誘発浸潤がんである。好ましくは、前記非HPV誘発婦人科がんは、子宮内膜がんである。好ましくは、前記非HPV誘発肛門性器がんは、外陰又は陰茎がんである。
【0011】
同様に本発明において、外陰がん及び浸潤能を有する外陰HPV誘発前駆病変を検出する方法であって、前記方法が、細胞におけるASCL1、並びにZIC1、ZNF-582、及びLHX8配列のうちの1つ又は複数からなるメチル化分類子の検出を含み、そのような過剰メチル化が、外陰がん及び浸潤能を有する外陰HPV誘発前駆病変の存在を示している方法も含まれる。
【0012】
更に本発明において、肛門がん及び浸潤能を有する肛門HPV誘発前駆病変を検出する方法であって、前記方法が、細胞におけるASCL1、並びにZIC1及びZNF-582配列のうちの1つ又は複数からなるメチル化分類子の検出を含み、そのような過剰メチル化が、肛門がん及び浸潤能を有する肛門HPV誘発前駆病変の存在を示している方法も含まれる。
【0013】
同様に、卵巣がん及び卵巣前駆病変を検出する方法であって、前記方法が、細胞におけるASCL1、並びにLHX8及びZIC1配列のうちの1つ又は複数からなるメチル化分類子の検出を含み、そのような過剰メチル化が、卵巣がん及び卵巣前駆病変の存在を示している方法も本発明の一部である。
【0014】
本発明の好ましい実施形態では、過剰メチル化は、
図1、
図2、
図3、
図7、及び
図8に示される配列において検出される。更に好ましい実施形態では、前記過剰メチル化は、比較可能な正常細胞と比較した場合の、試験細胞におけるメチル化分類子LHX8、ASCL1、ZNF-582、ZIC1、及びST6GALNAC5 CpGリッチプロモーター、並びに/又は遺伝子配列、例えば調節配列のメチル化の増加である。
【0015】
本発明の好ましい実施形態では、(過剰)メチル化の検出は、BssHII、MspI、NotI、及びHpaIIからなる群から選択されるメチル化感受性の制限エンドヌクレアーゼを使用することによって実施される。本発明の別の好ましい実施形態では、(過剰)メチル化の検出は、ナノ技術を使用して実施される。本発明の代替の好ましい実施形態では、(過剰)メチル化の検出は、DNAのバイサルファイト変換後に、CpGリッチ配列を標的とする特異的PCR反応に基づくメチル化特異的PCRを介して実施される。好ましくは、そのような方法では、試薬は、
図1、
図2、又は
図3に示されるように、核酸に結合する核酸プローブ又はプライマーであり、より好ましくは前記の核酸プローブ又はプライマーは、検出可能な標識を有する。
【0016】
本発明の別の実施形態では、核酸プローブは、以下からなる群から選択されるヌクレオチド配列を有する:
a)ストリンジェントな条件下で、
図1に記載の配列ASCL1、又は
図2に記載の配列LHX8、又は
図3に記載の配列ST6GALNAC5、又は
図8に記載の配列ZIC1、又は
図7に記載の配列ZNF-582にハイブリダイズすることができるポリヌクレオチド配列;
b)a)のポリヌクレオチドに対して少なくとも70%の同一性を有するポリヌクレオチド;
c)a)のポリヌクレオチドに対して相補的なポリヌクレオチド;及び
d)a)又はb)のヌクレオチドの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチド。
【0017】
本発明の本方法において更に好ましくは、LHX8、ASCL1、ZNF-582、ZIC1、及びST6GALNAC5の遺伝子配列、又はこれらの遺伝子の調節配列のメチル化を決定する。
【0018】
同様に、HPV誘発浸潤癌、非HPV誘発婦人科癌又は肛門性器癌、及びその高度前がん様病変の検出のための分子診断マーカーとしてのLHX8、ASCL1、ZNF-582、ZIC1、及びST6GALNAC5の使用も、本発明の一部である。更に、HPV誘発高度前がん様病変、又はHPV誘発浸潤癌、又は非HPV誘発婦人科がん若しくは肛門性器がんの検出のための分子診断マーカーとしてのメチル化分類子LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5の使用であって、好ましくは前記マーカーのメチル化が、前記病変、癌腫、又はがんの発生を予測する使用は、本発明の一部である。同様に、外陰がん又は外陰HPV誘発高度前がん様病変の検出のための分子診断マーカーとしてのメチル化分類子ASCL1、並びにZIC1、ZNF-582、及びLHX8のうちの1つの使用であって、好ましくは前記マーカーのメチル化が、前記病変又はがんの発生を予測する使用も、本発明の一部である。更に、肛門がん又は肛門HPV誘発高度前がん様病変の検出のための分子診断マーカーとしてのメチル化分類子ASCL1、並びにZIC1及びZNF-582のうちの1つの使用であって、好ましくは前記マーカーのメチル化が、前記病変又は癌の発生を予測する使用は、本発明の一部である。次いで、本発明の一部は、卵巣癌の検出のための分子診断マーカーとしてのメチル化分類子ASCL1、並びにLHX8及びZIC1のうちの1つの使用であって、好ましくは前記マーカーのメチル化が、前記がんの発生を予測する使用によって形成される。
【0019】
本発明はまた、HPV誘発浸潤癌、非HPV誘発婦人科癌又は肛門性器癌、及びその高度前がん様病変を検出する方法に使用するためのパーツのキットであって:
- LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5のメチル化を検出する手段であって、
図1のASCL1ヌクレオチド配列、及び
図2のLHX8ヌクレオチド配列、及び
図3のST6GALNAC5ヌクレオチド配列に対して特異的なプローブ及び/又はプライマーを含む手段;
- ASCL1及びST6GALNAC5のメチル化を検出する手段であって、
図1のASCL1ヌクレオチド配列、及び
図3のST6GALNAC5ヌクレオチド配列に対して特異的なプローブ及び/又はプライマーを含む手段;又は
- ASLCL1及びLHX8のメチル化を検出する手段であって、
図1のASCL1ヌクレオチド配列及び
図2のLHX8ヌクレオチド配列に対して特異的なプローブ及び/又はプライマーを含む手段;
- ASCL1、並びにZIC1、ZNF-582、及びLHX8のうちの少なくとも1つを検出する手段であって、
図1のASCL1ヌクレオチド配列、並びに
図7のZNF-582ヌクレオチド配列、
図8のZIC1ヌクレオチド配列、及び/又は
図2のLHX8ヌクレオチド配列のいずれかに対して特異的なプローブ及び/又はプライマーを含む手段、
を含むキットも含む。
【0020】
キットは、好ましくは更に、HPV感染症を検出する手段であって、HPVに対して特異的なプローブ及びプライマーを含む手段を含む。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】ASLC1プロモーター領域及びCpGリッチ配列エクソン1を示す;コード配列を大文字で示す。
【
図2】LHX8 5'調節領域及びコード配列(エクソン1)を示す。コード配列を大文字で示す。
【
図3】ST6GALNAC5 5'調節領域、コード配列(エクソン1及び2)、及びイントロン1を示す。コード配列を大文字で示す。
【
図4】洗浄液試料(A)及びブラシ自己採取試料(B)における定量的メチル化特異的PCR(qMSP)によって測定した場合の、hrHPV陽性自己採取子宮頸部-膣標本におけるLHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5のメチル化レベルの箱ひげ図を示す。qMSP分析では、標的のメチル化値を、比較Ct法(2
-ΔCt)を使用して基準遺伝子ACTBに対して標準化する。y軸に、メチル化DNAのレベルを表す;x軸では、群は、対照(すなわち、≦CIN1を有する女性)、CIN2、CIN3、及び子宮頸部扁平上皮がんを有する女性を表す。LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5のメチル化レベルは、疾患の重症度と共に増加し、対照と比較してCIN3及びSCCでは有意に増加する。群の間のメチル化レベルの有意差を示し、*は<0.05を示し、**は<0.005を示し、***は<0.0005を示す。Cは、受信者動作特性(ROC)曲線を示す。
【
図5】5Aは定量的メチル化特異的PCR(qMSP)によって測定した場合の、対照(すなわち、≦CIN1を有する女性)及び子宮頸がんを有する女性の子宮頸部擦過標本及び尿におけるLHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5のメチル化レベルの箱ひげ図を示す。qMSP分析では、標的のメチル化値を、比較Ct法(2
-ΔCt)を使用して基準遺伝子ACTBに対して標準化する。y軸に、メチル化DNAのレベルを表す;x軸では、群は、対照(緑色:≦CIN1を有する女性)、及び子宮頸がんを有する女性(赤色)を表す。LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5のメチル化レベルは、対照と比較して子宮頸がんを有する女性の擦過標本及び尿の両方において有意に増加する。群の間のメチル化レベルの有意差を示す。*は<0.05を示し、**は<0.005を示し、***は<0.0005を示す。Bは、hrHPV+子宮頸部擦過標本における任意のマーカー組合せの受信者動作特性(ROC)曲線を示し、マーカーの組合せが全てのがんの検出を最高の特異性で可能にすることを示している。Cは、尿における個々のマーカー(左)及び任意のマーカーの組合せの受信者動作特性(ROC)曲線を示し、3つのマーカーの組合せが、最高の特異性で全てのがんの検出を可能にすることを示している。
【
図6】定量的メチル化特異的PCRによって測定した場合の、子宮内膜がんを有する女性の子宮頸部擦過標本におけるLHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5のメチル化レベルの箱ひげ図を示す。qMSP分析では、標的のメチル化値を、比較Ct法(2
-ΔCt)を使用して基準遺伝子ACTBに対して標準化する。y軸に、メチル化DNAのレベルを表す;x軸では、群は、対照女性、及び子宮内膜がんを有する女性を表す。LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5のメチル化レベルは、対照と比較して子宮頸がんを有する女性において有意に増加する。
【
図7】ZNF-582 5'調節領域及びコード配列(エクソン1)を示す。コード配列を大文字で示す。
【
図8】ZIC1 5'調節領域及びコード配列(エクソン1)を示す。コード配列を大文字で示す。
【
図9】外陰組織標本における(A)ASCL1、(B)ST6GALNAC5、(C)LHX8、(D)ZNF-582、及び(E)ZIC1のメチル化レベルの箱ひげ図を示す。基準遺伝子ACTBと比べたLog
2変換DNAメチル化レベル(y軸)を、正常な外陰上皮(緑色)、VSCCを有しない(黄色)及び有する(オレンジ色)VIN、並びにVSCC(赤色)に関して描写する。DNAメチル化レベルは、がんを有しないVIN(黄色)及び正常な外陰上皮(緑色)と比較して、がんのリスクを有するVIN(VSCCを有するVIN;オレンジ色)及びVSCC(赤色)では有意に増加する。VIN:外陰上皮内新生物;VSCC:外陰扁平細胞癌。
【
図10】肛門組織標本における(A)ASCL1、(B)ST6GALNAC5、(C)ZNF-582、及び(D)ZIC1のメチル化レベルの箱ひげ図を示す。基準遺伝子ACTBと比べたLog
2変換DNAメチル化レベル(y軸)を、HIV陽性男性からの肛門組織標本の異なる組織学分類(X軸)に関して描写する。正常及びAIN1(緑色)、AIN2及びAIN3(オレンジ色)、並びにがん(SCC;赤色)*及び:それぞれ、極度及び軽度の外れ値試料。4つ全てのマーカーのメチル化レベルは、肛門疾患の重症度と共に有意に増加する。**:p<0.01、***:p<0.001、NS:有意ではない。
【発明を実施するための形態】
【0022】
用語「HPV誘発浸潤がん」は、周辺組織に浸潤する高リスクHPVによって誘発される癌腫を指す。これは、関連する臓器、例えば子宮頸部、口腔、中咽頭、肛門、直腸、陰茎、外陰部、膣等における全てのHPV誘発癌組織型、すなわち扁平細胞癌、腺癌、腺扁平上皮癌、及び神経内分泌癌を含む。これは特に、頭頸部扁平細胞癌(HNSCC)、子宮頸部扁平細胞癌、及び子宮頸部腺癌を含む。
【0023】
用語「浸潤性子宮頸がん」は、周辺組織に浸潤する子宮頸癌を指す。これは、全ての癌組織型、すなわち、扁平細胞癌、腺癌、腺扁平上皮細胞癌、及び神経内分泌癌を含む。
【0024】
用語「非HPV誘発婦人科がん又は肛門性器がん」は、HPV陰性である子宮内膜がん、卵巣がん、外陰がん、膣がん、肛門がん、及び陰茎がんを指す。
【0025】
用語「前悪性病変」及び「前駆病変」は、癌腫に進行する見込みが強く増加しているがんへの多段階細胞進化における一段階を指す。古典的な形態学では、病理学者は、個々の患者においてこれらの病変のどれが進行するか又は退縮するかを予測することができない。本特許は、浸潤がん又はその高度前駆病変を予測することができる方法について言及する。
【0026】
用語「高度前悪性子宮頸部病変」は、子宮頸癌に進行する見込みが強く増加している子宮頸がんへの多段階細胞進化における一段階を指す。用語「特異的にハイブリダイズすることができる」は、相補的核酸配列と特異的に塩基対を形成し、それに結合して核酸二重鎖を形成することができる核酸配列を指す。
【0027】
「相補体」又は「相補的配列」は、ワトソン-クリックの塩基対形成規則に従ってヌクレオチドの別の配列と水素結合二重鎖を形成するヌクレオチドの配列である。例えば、5'-AAGGCT-3'の相補的塩基配列は、3'-TTCCGA-5'である。
【0028】
用語「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、ハイブリッドの安定性に影響を及ぼすハイブリダイゼーション条件、例えば温度、塩濃度、pH、ホルムアミド濃度等を指す。これらの条件は、プライマー又はプローブのその標的核酸配列への特異的結合を最大限にし、非特異的結合を最小限にするように経験的に最適化される。使用される用語は、プローブ又はプライマーがその標的配列に対して、他の配列より検出可能に大きい程度に(例えば、バックグラウンドに対して少なくとも2倍)ハイブリダイズする条件に対する言及を含む。ストリンジェントな条件は、配列依存的であり、異なる状況では異なるであろう。より長い配列は、より高温で特異的にハイブリダイズする。一般的に、ストリンジェントな条件は、規定のイオン強度及びpHで特定の配列の熱融解点(Tm)より約5℃低くなるように選択される。Tmは、相補的な標的配列の50%が、完全にマッチしたプローブ又はプライマーにハイブリダイズする温度(規定のイオン強度及びpHでの)である。典型的には、ストリンジェントな条件は、塩濃度が、pH7.0~8.3で約1.0M未満のNaイオン、典型的に約0.01~1.0MのNaイオン濃度(又は他の塩)、及び温度が、短いプローブ又はプライマー(例えば、10~50ヌクレオチド)に関して少なくとも約30℃、長いプローブ又はプライマー(例えば、50ヌクレオチドより長い)に関して少なくとも約60℃である条件であろう。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミド等の脱安定化剤の添加によっても達成されうる。例示的な低ストリンジェント条件又は「低減されたストリンジェンシー条件」は、30%ホルムアミド、1M NaCl、1%SDSの緩衝液での37℃でのハイブリダイゼーション、及び2×SSC中、40℃での洗浄を含む。例示的な高ストリンジェンシー条件は、50%ホルムアミド、1M NaCl、1%SDS中、37℃でのハイブリダイゼーション、及び0.1×SSC中、60℃での洗浄を含む。ハイブリダイゼーション手順は、当技術分野で周知であり、例えばAusubel et al, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Inc., 1994に記載されている。
【0029】
用語「オリゴヌクレオチド」は、リン結合(例えば、ホスホジエステル、アルキル、及びアリールリン酸、ホスホロチオエート)、又は非リン結合(例えば、ペプチド、スルファメート、及びその他)によって結合したヌクレオチド単量体(通常6~100ヌクレオチド)の短い配列を指す。オリゴヌクレオチドは、修飾塩基(例えば、5-メチルシトシン)及び修飾糖基(例えば、2'-O-メチルリボシル、2'-O-メトキシエチルリボシル、2'-フルオロリボシル、2'-アミノリボシル等)を有する修飾ヌクレオチドを含有しうる。オリゴヌクレオチドは、環状、分岐、又は直線形状で、任意選択で安定な二次構造(例えば、ステム-ループ及びループ-ステム-ループ構造)を形成することができるドメインを含む、二本鎖及び一本鎖DNA並びに二本鎖及び一本鎖RNAの天然に存在する又は合成分子でありうる。
【0030】
本明細書で使用される用語「プライマー」は、増幅標的にアニールしてDNAポリメラーゼを結合させることができ、それによって核酸鎖に対して相補的なプライマー伸長産物の合成が誘導される条件下、すなわちヌクレオチド及びDNAポリメラーゼ等の重合化剤の存在下、適切な温度及びpHに置いた場合に、DNA合成の開始点として作用するオリゴヌクレオチドを指す。(増幅)プライマーは、好ましくは増幅に関して最大限の効率のために一本鎖である。好ましくは、プライマーは、オリゴデオキシリボヌクレオチドである。プライマーは、重合化剤の存在下で伸長産物の合成をプライミングするために十分に長くなければならない。プライマーの正確な長さは、温度及びプライマー源を含む多くの要因に依存する。本明細書で使用される「二方向プライマー対」は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅等のDNA増幅の当技術分野で一般的に使用される1つのフォワード及び1つのリバースプライマーを指す。
【0031】
用語「プローブ」は、標的核酸配列分析物又はそのcDNA誘導体における相補的配列を認識し、水素結合二重鎖を形成する一本鎖オリゴヌクレオチド配列を指す。
【0032】
DNAメチル化は、高等生物における正常な発達にとって重要である生化学プロセスである。これは、シトシンピリミジン環の5位又はアデニンプリン環の6位窒素へのメチル基の付加を伴う。シトシンの5位でのDNAメチル化は、遺伝子発現を低減させる特異的作用を有し、調べたあらゆる脊椎動物において見出されている。成体の体組織では、DNAメチル化は典型的には、CpGジヌクレオチドの状況で起こる。
【0033】
自己収集子宮頸部-膣標本に関するゲノムワイドDNAメチル化スクリーニング、並びにCIN3及び子宮頸がんを有する女性の自己収集子宮頸部-膣標本におけるメチル化の標的となる一連の多数の遺伝子の広範囲の評価を使用して、現在、achaete-scuteファミリーbHLH転写因子1をコードする遺伝子(更に、ASCL1と呼ばれる;Genbank受託番号NM_004316)、LIM homeobox 8をコードする遺伝子(更に、LHX8と呼ばれる;Genbank受託番号NM_001001933)、及びST6 N-アセチルガラクトサミニドアルファ-2,6-シアリルトランスフェラーゼ5をコードする遺伝子(更に、ST6GALNAC5と呼ばれる;Genbank受託番号NM_030965)、並びにその調節配列からなるメチル化分類子が、hr-HPV誘発発癌の重要な決定因子であることが見出されている。遺伝子LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5、並びにその調節配列は、このように、異なる試料採取型、すなわち、子宮頸部擦過標本、自己収集子宮頸部-膣標本、並びに尿標本において浸潤性子宮頸がん及びその高度前駆病変を診断するための貴重なマーカーを提供する。加えて、本発明は、非子宮頸部hrHPV関連浸潤がん及びその高度前駆病変を診断するために適している。その上、そのメチル化は、子宮内膜がん、並びに他の非HPV誘発婦人科がん及び肛門性器がんを診断するために更に適している。
【0034】
これらの種類のhrHPV関連がん及び前がん様病変を検出するために有用であることが見出されている他の遺伝子は、ZIC1及びZNF-582である。
【0035】
ZIC1遺伝子は、転写因子として機能する48kDaのタンパク質をコードし、ZICファミリーC2H2型ジンクフィンガータンパク質のメンバーである。このファミリーのメンバーは、発生の際に重要である。ZIC1は神経発生に関係している。これはCNSの臓器発生の初期段階、並びに背側の脊髄発生及び小脳の成熟において重要な役割を果たしている(Grinberg and Millen, Clin Genet. 2005, 67(4):290~6頁による論評)。ZIC1の過剰メチル化は、結腸直腸、胃、卵巣、及び肝細胞がんにおいて記載されている(Gan et al., PLoS One. 2011, 6(2):e16916; Wang et al., Biochem Biophys Res Commun. 2009,379(4):959~63頁; Huang et al., Epigenetics. 2013, 8(6):624~34頁; Wang et al., Tumour Biol. 2014,35(8):7429~33頁)。これは、子宮頸部スワブ中の上皮内癌及びがんにおいて過剰メチル化された遺伝子のスクリーニングにおいて見出された因子の1つである(Wang et al., Cancer Med. 2015, 4(1):43~55頁)と言及されているが、2200個を超える遺伝子のうちの1つに過ぎない。更に、本発明者らの以前の出願である国際公開第2017/034407号では、ZIC1及びGHSRプロモーターのメチル化が、hr-HPV誘発発癌の重要な決定因子であることが記載されている。ZIC1及びGHSRのゲノム及び調節配列はこのように、浸潤性子宮頸がん及びその高度前駆病変を診断するための貴重なマーカーを提供する。
【0036】
ZNF-582は、KRAB-ZNFファミリーのメンバーであり、これらのファミリーメンバーは、DNA損傷応答、増殖、細胞周期制御、及び新生物形質転換に関連する生物プロセスにおいて遺伝子転写の補助抑制因子として機能する(Urrutia 2003; Genome Biol. 4: 231頁)。このマーカーは、急性骨髄性白血病においてメチル化されることが見出されており(Figueroa et al. 2010; Cancer Cell. 17: 13~27頁)、同様に子宮頸がんにおいても記載されている(Huang et al. 2012; PLOS one. 7: e41060)。
【0037】
子宮頸がんは、ほとんど例外なくヒト乳頭腫ウイルス(HPV)感染症に関連している。ヒト乳頭腫ウイルスは、DNA配列の多様性によって同定される、150種より多くのウイルス群を構成する。様々なHPVが、多様な皮膚及び粘膜疾患を引き起こす。HPVは、感染した細胞に悪性の変化を導入するその能力に基づいて低リスク及び高リスク型に広く分類される。低リスクHPV型、例えば1、2、4、6、11、13、及び32型は、主に、良性の病変及び一般的ないぼに関連しているが、高リスク型、例えば16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、66、及び68型は、主に前悪性及び悪性の上皮病変に関連している。高リスクHPV型は、子宮頸部の浸潤癌、並びに肛門性器管及び/又は頭頸部領域のあらゆる場所で浸潤癌を引き起こすことが見出されている。したがって、本発明は、浸潤性子宮頸がん及びその前駆段階を検出するために適しているのみならず、HPV、特に抗リスク型によって誘発される他の浸潤がん及び対応する前駆段階を検出するためにも適している。このように、本発明は、任意のHPV誘発高度前悪性病変又は浸潤がんのリスク評価の方法を提供する。
【0038】
本発明の文脈における非常に適したHPV誘発前駆病変及び浸潤がんは、子宮頸部の前がん様病変及び浸潤性子宮頸がんであるが、他の組織、例えば口腔、中咽頭、肛門、直腸、陰茎、外陰部、膣等において高リスクHPVによって誘発される前駆病変及び浸潤がんも非常に適している。
【0039】
上記のように、メチル化マーカーASCL1、LHX8、及びST6GALNAC5からなるメチル化分類子はまた、非HPV誘発前駆病変及び浸潤がんを検出することができる。本発明の文脈において、そのようながんは、好ましくは子宮内膜がん、卵巣がん、外陰がん、膣がん、肛門がん、及び陰茎がんである。
【0040】
試験細胞は、浸潤能を有するHPV誘発前駆病変、HPV誘発浸潤がん、非HPV誘発婦人科がん及び肛門性器がんの存在が検出される、(前)新生物細胞、増殖している子宮頸部細胞、又は他の任意の細胞でありうる。
【0041】
ASCL1マーカーは、前神経転写因子であり、神経発生における分化開始時の主要な調節剤として機能する(Vasconcelos et al. 2014; Front. Cell. Neurosci. 8: 412頁)。ASCL1は、口腔及び結腸直腸がんにおいてメチル化されることが見出されている(Jin et al. 2009; Cancer Res. 69:7412~21頁; Li et al. 2015; Epigenetics 10:229~36頁)。LHX8マーカーは、高度に保存された転写因子として機能し、神経発生、歯の形態形成、及び卵子形成において細胞の運命を調節する(Zhou et al.2015; FASEB J.; 29:4083~91頁)。LHX8のメチル化は、子宮頸がん、乳がん、及び結腸直腸がんに関して記載されている(Tommasi et al. 2009; Breast cancer Res. 11: R14; φster, B. et al. 2011; Int. J. Cancer 129:2855~66頁; Farkas et al. 2013; Epigenetics 8:1213~25頁; Boers et al. 2016; Clin. Epigenetics 8:29頁)。
【0042】
ST6GALNAC5マーカーは、細胞表面におけるガングリオシドの生合成に関係する膜貫通シアリルトランスフェラーゼである(Drolez et al. 2016; Int. J. Mol. Sci. 17:1309頁)。ST6GALNAC5のメチル化は、子宮頸がん、乳がん、及び結腸直腸がんにおいて記載されている(Tommasi et al. 2009; Breast cancer Res. 11: R14; φster, B. et al. 2011; Int. J. Cancer 129:2855~66頁; Farkas et al. 2013; Epigenetics 8:1213~25頁; Boers et al. 2016; Clin. Epigenetics 8:29頁)。
【0043】
個々のマーカーは、子宮頸がんにおいてメチル化されると記載されているが、任意の自己試料採取装置を使用して収集された、任意の試料採取方法によって得た子宮頸部材料、尿及び子宮頸部擦過標本を試験する場合の、子宮頸がん及びCIN3を検出するためのその診断的価値は新規である。より重要なことに、3つの遺伝子は、意外にも全ての試料型に対して子宮頸がん及びCIN3検出に関して互いに補完的である。中間の診断成績を有するST6GALNAC5マーカーは、マーカーLHX8及び/又はASLC1によって検出されない個々の病変の検出を可能にすることが見出されている。同様に、後者の2つは、ロジスティック回帰分析の際に見出されるように互いに補完性を示す。
【0044】
本発明者らは、LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5プロモーターのメチル化の組合せに基づくメチル化分類子の検出が、両方の扁平細胞癌、腺扁平上皮癌、腺癌、及び神経内分泌癌組織型、並びにその高度前駆病変の子宮頸癌においても頻繁な事象であることを確立した。最も興味深いことに、本発明者らは、遺伝子LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5、並びにその調節配列の過剰メチル化を検出するメチル化分類子を、洗浄液収集及びブラシ収集子宮頸部-膣自己採取試料の両方において検出することができるが、医師が収集した子宮頸部擦過標本においても検出することができること、並びにこの特徴が、高度CIN病変又は浸潤癌の存在を予測することができることを示している。加えて、遺伝子LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5、並びにその調節配列の過剰メチル化はまた、自己採取によって収集した尿標本においても検出することができ、LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5のメチル化は、基礎となる高度CIN病変又は浸潤性子宮頸がんの存在に関連することが見出された。
【0045】
遺伝子LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5、並びにその調節配列の過剰メチル化はまた、HPV陽性及びHPV陰性の外陰及び肛門がん、並びにその高リスク前駆病変においても検出することができる。
【0046】
その上、遺伝子LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5、並びにその調節配列の過剰メチル化の検出は、子宮内膜がん、卵巣がん、及び他の非HPV誘発婦人科がん及び肛門性器がんを診断するために適している。
【0047】
したがって、本発明は、HPV誘発高度前がん様病変及びHPV誘発浸潤がん、非HPV誘発婦人科がん及び肛門性器がん、例えば子宮内膜癌及び卵巣癌を検出する方法であって、前記方法が、細胞における遺伝子LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5、並びにその調節配列の過剰メチル化の検出を含み、そのような過剰メチル化が、浸潤能を有するHPV誘発前駆病変、及びHPV誘発浸潤がん、並びに非HPV誘発婦人科がん及び肛門性器がん、例えば子宮内膜癌の存在を示している方法を提供する。
【0048】
対象の試験細胞は、HPV又は非HPV誘発婦人科がん、肛門性器がん、又は中咽頭がんに関連する前駆病変又はがんが検出される、粘膜細胞、例えば子宮頸部細胞、及び同様に他の組織、例えば口腔、中咽頭、陰茎、外陰部、肛門、直腸、子宮内膜、卵巣及び他の組織の試料からの細胞を含みうる。そのような試料は全て、本発明の方法において試料として使用することができる。好ましくは、患者の細胞の試料は、試験細胞として子宮頸部細胞、又は肛門性器若しくは中咽頭管の他の上皮細胞を含む。子宮頸部細胞は、例えば、組織学標本又は細胞診標本として提示されてもよい。細胞診標本は、通常の子宮頸部塗抹標本並びに子宮頸部標本及び自己採取によって収集した子宮頸部-膣又は膣標本の薄層調製物を含む。或いは、細胞は、尿試料中に提示されてもよい。本発明が、子宮頸部及び隣接組織におけるがんを検出する他の公知の方法より特に有利である試験細胞は、自己採取試料から得た試験細胞である。
【0049】
本発明の方法は、高リスクHPVによって誘発される、又は(女性の)肛門性器管に由来するLHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5に関連する高度前がん様病変及び浸潤がんの検出にとって特に適している。浸潤能を有するHPV誘発高度前がん様病変、HPV誘発浸潤がん、並びに非HPV誘発婦人科がん及び肛門性器がんを検出する方法は、LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5プロモーターを測定する工程を含みうる。
【0050】
図1は、ASCL1遺伝子のCpGリッチプロモーター領域並びにコード配列のエクソン1の一部を示す。
【0051】
図2は、LHX8遺伝子のCpGリッチプロモーター領域並びにコード配列のエクソン1の一部を示す。
【0052】
図3は、ST6GALNAC5遺伝子のCpGリッチプロモーター領域並びにコード配列のエクソン1、イントロン1、及びエクソン2の一部を示す。
【0053】
本発明はまた、外陰がん及び浸潤能を有する外陰HPV誘発前駆病変を検出する方法であって、前記方法が、細胞におけるASCL1、並びにZIC1、ZNF-582、及びLHX8配列のうちの1つ又は複数からなるメチル化分類子の検出を含み、そのような過剰メチル化が、外陰がん及び浸潤能を有する外陰HPV誘発前駆病変の存在を示している方法も含む。本発明の実験部分で示されているように、ASCL1と、言及した遺伝子のうちの1つ又は複数との組合せは、これらの種類のがん/病変を検出するために非常に有用なメチル化試験パネルを形成する。このように、外陰がん又は外陰HPV誘発高度前がん様病変を検出するための分子診断マーカーとしてのメチル化分類子ASCL1、並びにZIC1、ZNF-582、及びLHX8のうちの1つの使用であって、好ましくは前記マーカーのメチル化が、前記病変又はがんの発生を予測する使用も含まれる。
【0054】
更に、本発明の実験部分において、細胞におけるASCL1、並びにZIC1及びZNF-582配列のうちの1つ又は複数からなるメチル化分類子の検出を使用して、肛門がん及び浸潤能を有する肛門HPV誘発前駆病変を検出することができることが証明されている。そのような場合、過剰メチル化は、肛門がん及び浸潤能を有する肛門HPV誘発前駆病変の存在を示している。このように、本発明の一部はまた、肛門がん又は肛門HPV誘発高度前がん様病変の検出のための分子診断マーカーとしてのメチル化分類子ASCL1、並びにZIC1及びZNF-582のうちの1つの使用であって、好ましくは、前記マーカーのメチル化が、前記病変又はがんの発生を予測する使用によっても形成される。
【0055】
次に、細胞におけるASCL1、並びにLHX8及びZIC1配列のうちの1つ又は複数からなるメチル化分類子の検出は、卵巣がん及び卵巣前駆病変の検出にとって非常に適しており、言及した遺伝子の過剰メチル化が、卵巣がん及び卵巣前駆病変の存在を示していることが示されている。したがって、メチル化分類子ASCL1、並びにLHX8及びZIC1のうちの1つの、卵巣がんの検出のための分子診断マーカーとしての使用であって、好ましくは前記マーカーのメチル化が前記がんの発生を予測する使用が、本発明において構想される。
【0056】
メチル化の検出は、核酸、例えばDNAについて実施する。使用される試薬は典型的には、核酸(DNA)プローブ若しくは(PCR)プライマー、又は制限エンドヌクレアーゼ、好ましくは試験細胞DNA上のメチル基の存在を検出するためのメチル化感受性制限エンドヌクレアーゼである。
【0057】
試験細胞構成要素を、in situで直接検出してもよく、又は試薬に接触させる前に当業者に公知の一般的な方法によって、他の細胞構成要素から単離してもよい(例えば、「Current Protocols in Molecular Biology」、Ausubel et al. 1995年、第4版、John Wiley and Sons;「A Laboratory Guide to RNA: Isolation, analysis, and synthesis」、Krieg (編)、1996年、Wiley-Liss;「Molecular Cloning: A laboratory manual」、J. Sambrook, E.F. Fritsch. 1989年、3巻、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照されたい)。
【0058】
提示される実施例は、ASCL1遺伝子及び調節配列の頻繁なメチル化を示していることから、ASCL1遺伝子及び調節配列が過剰メチル化されているか否かを直接決定することが望ましい。同様に、LHX8及びST6GALNAC5遺伝子、並びに調節配列が過剰メチル化されているか否かを直接決定することも望ましい。特に、遺伝子の5'調節領域に主に位置する「CpGアイランド」と呼ばれるシトシンリッチ領域は、通常メチル化されない。用語「過剰メチル化」は、LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5遺伝子、並びに調節配列(例えば、LHX8及びASCL1の調節配列及び第1のエクソン、並びにST6GALNAC5の調節配列、第1のエクソン、第1のイントロン、及び第2のエクソンの一部、それぞれ
図1、
図2、及び
図3を参照されたい)において通常メチル化されない位置でのシトシンの任意のメチル化を含む。DNAメチル化は、科学研究において現在使用されている以下のアッセイによって検出することができる:
【0059】
・ メチル化特異的PCR(MSP)、これは、CpGジヌクレオチドの非メチル化シトシンをウラシル又はUpGに変換する、亜硫酸水素ナトリウムとDNAとの化学反応の後に従来のPCRを行うことに基づく。しかし、メチル化シトシンは、このプロセスでは変換されず、プライマーは、目的のCpG部位に重なり合うように設計され、これによってメチル化状態をメチル化又は非メチル化として決定することができる。
【0060】
・ 全ゲノムバイサルファイトシークエンシング、これは、BS-Seqとしても知られ、DNAメチル化のハイスループットゲノムワイド分析である。これは、ゲノムDNAの上記の亜硫酸水素ナトリウム変換後に、これを次世代シークエンシングプラットフォームにおいてシークエンシングすることに基づく。次に、得られた配列を、基準ゲノムと再度整列させて、非メチル化シトシンのウラシルへの変換に起因するミスマッチに基づいてCpGジヌクレオチドのメチル化状態を決定する。
【0061】
・ HELPアッセイ、これは、制限酵素がメチル化及び非メチル化CpG DNA部位を認識及び切断する能力が異なることに基づく。
【0062】
・ ChIP-on-chipアッセイ、これは市販の調製された抗体が、MeCP2のようなDNAメチル化関連タンパク質に結合する能力に基づく。
【0063】
・ 制限ランドマークゲノムスキャン、これは、制限酵素のメチル化及び非メチル化CpG部位の認識が異なることに基づく、複雑で、現在ではめったに使用されていないアッセイである;アッセイの考え方は、HELPアッセイと類似である。
【0064】
・ メチル化DNA免疫沈降(MeDIP)、これはクロマチン免疫沈降と類似であり、免疫沈降を使用して、DNA検出法、例えばDNAマイクロアレイ(MeDIP-チップ)又はDNAシークエンシング(MeDIP-seq)に投入するためのメチル化DNA断片を単離する。
【0065】
・ バイサルファイト処置DNAのパイロシークエンシング。これは、選択した遺伝子のPCRを行うために通常のフォワードプライマー、ビオチン化リバースプライマーによって作製したアンプリコンのシークエンシングである。次に、パイロシークエンサーは、DNAを変性させる工程、及びユーザーによって与えられた配列に従って混合物に1つのヌクレオチドを一度に添加する工程によって試料を分析する。ミスマッチが存在する場合、これを記録し、ミスマッチが存在するDNAの百分率を書き留める。これによって、ユーザーは、CpGアイランドあたりのメチル化の百分率を得る。
【0066】
・ DNAアデニンメチルトランスフェラーゼ活性のMolecular break lightアッセイ-フルオロフォア及び消光体によって標識したオリゴヌクレオチドにおける完全にメチル化された(アデニンメチル化)GATC部位に対する制限酵素DpnIの特異性に依存するアッセイ。アデニンメチルトランスフェラーゼは、オリゴヌクレオチドをメチル化し、それをDpnIの基質にする。オリゴヌクレオチドをDpnIによって切断すると、蛍光の増加を生じる。
【0067】
・ メチル感受性サザンブロッティングは、HELPアッセイと類似であるが、制限消化物を使用してメチル化の遺伝子特異的差をプロービングするためにサザンブロッティング技術を使用する。この技術は、プローブの結合部位近傍の局所メチル化を評価するために使用される。
【0068】
・ 量子ドットに基づくメチル化アッセイ-これはBailey, V. et al. (Genome Res. 19:1455~1461頁、2009)に記載されるアッセイであり、MSPの高い特異性、並びに量子ドットFRET(QD-FRET)技術の高い感度及び単純性(Zhang, C. et al., 2005, Nat. Mater. 4:826~831頁)を組み合わせる。
【0069】
・ ナノチップ技術を使用するDNAメチル化検出。この技術は、バイサルファイト変換及びPCR増幅の必要なく、少量の臨床材料において高い感度及び特異性でDNAメチル化を検出することができる。固体状態のナノポアを使用する方法は、Shim, J. et al. (Sci. Rep. 3:1389頁, 2013)に記載されている。lab on a chip技術のための装置は、特許公開国際公開第2009104967号(A1)に記載されている。
【0070】
過剰メチル化は、好ましくは、DNAのバイサルファイト変換後に、CpGリッチ配列を標的とする特異的PCR反応に基づくメチル化特異的PCRによって検出することができる。
【0071】
メチル化配列を試験するための代替の好ましい手段は、バイサルファイト変換DNAの次世代シークエンシングによる。
【0072】
メチル化配列を検出するため、及びメチル化DNAと非メチル化DNAとを識別するための第3の好ましい手段は、ナノ技術に基づく。
【0073】
本発明の目的に関して、LHX8、ASCL1、及び/又はST6GALNAC5に対して特異的な核酸プローブを使用して、生体液又は組織中のLHX8、ASCL1、及び/又はST6GALNAC5ポリヌクレオチド(核酸プローブを使用する)の存在を検出してもよい。LHX8、ASCL1、及び/又はST6GALNAC5配列における任意のコード配列領域及び調節配列領域に基づくオリゴヌクレオチドプライマーは、例えばPCRによってDNAを増幅するために有用である。
【0074】
PCRプライマー、核酸プローブ、又は制限エンドヌクレアーゼを使用して、LHX8及びASCL1遺伝子の5'調節領域及びコード配列、又はST6GALNAC5配列の5'調節領域、コード配列、及び第1のイントロン(それぞれ、
図1、
図2、及び
図3に指定されている)を分析する。
【0075】
検出可能な量のLHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5ポリヌクレオチドを含有する任意の標本を使用することができる。本発明の方法に従う試験のための好ましい試料には、(子宮頸部又は膣)擦過標本、子宮頸部-膣洗浄液若しくはスワブ、尿、血液、及び/又は(子宮頸部)生検等等の標本が挙げられる。対象は、任意の哺乳動物でありうるが、好ましくは、対象はヒトである。
【0076】
障害の検出のための診断方法は、子宮頸部又は他の組織からの細胞調製物を含む、試験のための試料が提供される方法を含む。好ましくは、そのような試料は、塗抹標本又は他の細胞診試料として提供される。追加の適した試料には、尿及び血液が挙げられる。
【0077】
哺乳動物、好ましくはヒトから得た細胞又は組織試料は、前記試料中に含まれる試験細胞の細胞DNAと、LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5を検出し、並びに比較可能な正常細胞と比較して遺伝子LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5、又はその調節配列のメチル化の変更を検出する試薬とを接触させるように、適切に前処置される。個々の細胞の観察を可能にするために、試料を適切な支持体に載せてもよい。周知の支持体材料の例には、任意選択で、細胞接着及び試料の固定を改善するための層、例えばポリ-L-リジン又はシランの層と共に提供される、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリウレタンが挙げられる。子宮頸部塗抹標本又は生検は、例えばパパニコロー(Pap)検査又は当業者に公知のその任意の適した変更版として調製してもよく、標的構成要素に試薬が適切に近づくことができる手順によって固定してもよい。本発明のある特定の実施形態では、細胞診標本は、通常の塗抹試料として、又は子宮頸部細胞若しくは液体に基づく細胞診試料の薄層調製物として、又は当業者に公知の他の任意の種類の調製物として提供される。貯蔵が必要である場合、通例の手順は、固定のための緩衝ホルマリンを使用した後に、パラフィン包埋を行い、これによって良好に保存される組織の下部構造が提供される。
【0078】
本発明の方法の一実施形態では、試験細胞における遺伝子LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5、又はその調節配列のメチル化の増加を、比較可能な正常細胞と比較して検出する。
【0079】
本発明はまた、浸潤能を有するHPV誘発前駆病変、HPV誘発浸潤がん、並びに非HP誘発婦人科がん及び肛門性器がんを検出する方法に使用するための、特許請求の範囲で定義したパーツのキットも提供する。そのようなキットは、適切には、試験細胞を収集するために収集培地を満たした容器と共に、又は容器なしで(子宮頸部)擦過標本を得るためのブラシ又はスパチュラを含みうる。或いは、灌注用シリンジ、使い捨ての女性用尿カテーテル、及び灌注液のための容器からなる試料採取装置を含めて、子宮頸部-膣洗浄液から子宮頸部細胞を収集する。更に又は或いは、好ましくは中間尿を収集するために使用される、尿を収集するための容器が適している。本発明に従うキットは、LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5遺伝子又は調節配列を検出するためのプライマー及びプローブを更に含む。
【0080】
本発明に従うパーツのキットは、LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5遺伝子、又は調節配列、例えばメチル化感受性制限酵素、又は
図1及び/若しくは
図2及び/若しくは
図3のヌクレオチド配列にハイブリダイズすることができるプローブ若しくはプライマーのメチル化を検出する手段を更に含む。
【0081】
本発明のキットのなお別の代替の実施形態では、LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5遺伝子又はその調節配列のメチル化を検出する手段を、HPV感染症を検出する手段、好ましくは、高リスク型のHPV感染症を検出する手段と組み合わせてもよい。そのような手段は、HPV特異的プライマー若しくはプローブ、HPV感染症のタンパク質マーカー、又は当技術分野で公知であるHPV感染症の更なる代用マーカーを含みうる。
【0082】
本発明を、以下の非制限的な実施例によって例証する。
【実施例】
【0083】
(実施例1)
自己採取試料における子宮頸がん及び前がんを検出するための最適なメチル化マーカーパネルとしてのLHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5の発見
自己採取試料において検出可能で、なおかつ子宮頸部発癌に関連するゲノムワイドDNAメチル化変化の包括的分析は、hrHPV陽性自己採取試料についてInfinium 450K BeadChipアレイによって行われている。含まれる一連の試料は、高度子宮頸部上皮内新生物グレード3(CIN3)を有する女性39人及び軽度子宮頸部上皮内新生物グレード0又は1(≦CIN1)を有する女性29人の68のhrHPV陽性自己採取試料からなった。Infinium Humanメチル化450 BeadChipアレイは、ヒトゲノムの1ヌクレオチドの解像度で、試料あたり485,000個を超えるメチル化部位を解析する(Illumina社、San Diego, CA, USA)。このアプローチによって、本発明者らは、CIN3の存在に特異的に関連する12個のメチル化標的を同定した。次に、最も識別力のある12個のメチル化遺伝子を、CIN3を有する女性及び有しない女性からのhrHPV陽性洗浄液自己採取試料(n=245)、又はhrHPV陽性ブラシ自己採取試料(n=246)のいずれかからなる2つの異なる一連の多数の試料において多重qMSPアッセイを使用して分析した。洗浄液及びブラシ自己採取試料の両方において、選択した遺伝子12個中11個が、hrHPV陽性対照と比較してCIN3を有する女性の自己採取試料において有意に増加したメチル化レベル(p<0.0005)を示した(
図4も参照されたい)。
【0084】
次いで、任意の自己採取試料型に普遍的に応用可能であるメチル化マーカーの最適な分類子を構築するために、洗浄液及びブラシ自己採取試料のqMSPデータセットの両方にロジスティック回帰分析を実施した。変数減少後、両方の自己採取試料型における最適なメチル化分類子を比較した。使用した収集装置とは無関係に自己収集子宮頸部-膣標本に普遍的に応用可能であるメチル化分類子を発見するために、両方の自己採取試料型を試験する理由は、メチル化マーカーの臨床成績が、使用した自己採取試料の型に依存することを示すこれまでの研究知見に基づいている。例えば、メチル化マーカーMAL及びmir124-2は、洗浄液自己採取試料中のCIN3+の検出に関して良好な臨床成績を示したが、ブラシに基づく自己採取試料では良好な成績を示さなかった。意外にも、本試験では、遺伝子ASCL1、LHX8、及びST6GALNAC5、並びにその調節配列からなる最適なメチル化分類子が、両方の自己採取試料型に関して見出された。洗浄液及びブラシ自己採取試料において検出されたASCL1、LHX8、及びST6GALNAC5のメチル化レベルをそれぞれ、
図4A及び4Bに示す。3つ全ての遺伝子のメチル化レベルは、CIN3を有する女性では有意に増加し、子宮頸がんを有する女性では極めて高かった。メチル化分類子は、hrHPV陽性洗浄液(AUC=0.90)及びブラシ(AUC=0.86)自己採取試料の両方において、CIN3検出に関して優れた臨床成績を示した。メチル化分類子は、CIN3メチル化陽性の女性からの洗浄液自己採取試料では83%(30人中25人)及びブラシ自己採取試料では76%(68人中52人)のスコアを示し、hrHPV陽性対照における対応する特異性は80%であった。重要なことに、子宮頸がんを有する実質的に全ての女性が、メチル化分類子に関して陽性と検査された。
【0085】
CIN3+(CIN3及びがん)の検出に関する臨床成績は、これまでに公開されたメチル化マーカーパネルより優れている。メチル化分類子は、洗浄液及びブラシ自己採取試料においてCIN3+に関して79%~89%の感度及び75%~77%の特異性を有する。比較すると、多数の一連の自己採取試料について試験した現在利用可能な最善のメチル化パネルは、FAM19A4/miR124-2であり、これは洗浄液及びブラシ自己採取試料の両方においてCIN3+検出に関して69~71%の感度及び68~76%の特異性を有する(De Strooper et al. Gynecol. Oncol. 141, 341~347頁(2016))。他のマーカーパネル、例えばJAM3/EPB41L3/TERT/C13ORF18は、選択された少数の一連の自己採取試料について試験されているに過ぎない(Boers. et al. Br. J. Cancer 111, 1095~101頁 (2014).;Eijsink et al. Gynecol. Oncol. 120, 280~283頁(2011))。
【0086】
LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5 qMSP分析のために使用されるプライマー及びプローブを、Table 1(表1)に記載する。ハウスキーピング遺伝子β-アクチン(ACTB)を、総DNA投入量測定の基準として選択した。比較Ct法を使用して、定量を実施した(Schmittgen et al., Nat Protoc 2008, 3:1101~1108頁)。
【0087】
(実施例2)
洗浄液及びブラシ自己採取試料におけるメチル化分類子の検証
メチル化分類子の臨床成績を検証するために、本発明者らは、多重qMSPアッセイを使用して、別の独立した一連の多数のhrHPV陽性洗浄液自己採取試料(n=198)及びブラシ自己採取試料(n=278)を分析した。メチル化分類子は、hrHPV陽性洗浄液(AUC=0.88)及びブラシ(AUC=0.90)自己採取試料の両方に関して上記の一連の試料において観察されたように、CIN3検出に関して良好かつ比較可能な臨床成績を示した(ROC曲線に関しては
図4Cを参照されたい)。検証セットにおいて、CIN3を有する女性の洗浄液自己採取試料の74%(35人中26人)及びブラシ自己採取試料の88%(56人中49人)がメチル化陽性を示し、hrHPV陽性対照における対応する特異性はそれぞれ、79%及び81%であった。
【0088】
(実施例3)
自己収集した子宮頸部-膣標本における一次スクリーニングのマーカーとしてのLHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5のメチル化
これまで試験したメチル化マーカーは、CIN2/3及びがんに関して許容可能な感度での特異性が低すぎるために、一次スクリーニングにおいて使用するために十分には適していない。LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5からなるメチル化分類子の一次スクリーニングのマーカーとしての使用を評価すると、意外にも、HPV陰性自己採取試料及びCIN3を有する女性の自己採取試料の分析において、分類子はまた、CIN3の検出に関して洗浄液自己採取試料では0.895の非常に高いAUCを有し、並びにブラシ自己採取試料(AUCは0.828)でも非常に高いAUCを有することが見出された。
【0089】
本知見は、遺伝子LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5、並びにその調節配列の過剰メチル化を検出するメチル化分類子が、自己収集子宮頸部-膣洗浄液標本に適用した場合のみならず、自己収集膣ブラシ採取試料に適用した場合でも同様に、基礎となるCIN2+の検出を可能にすることを示している。後者は、既知のマーカーがしばしば低い臨床感度で成績を示した標本型である。その結果、LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5マーカーは、使用した試料採取装置とは無関係に、等しい成績を示す汎検出マーカーであると考えることができる。重要なことに、高いAUC値及び特異性比は、最初のhrHPV試験の必要なくメチル化分類子遺伝子を試験することによって、一次スクリーニングを可能にする。以下に記載するように(実施例6)、そのような応用はまた、現行のスクリーニングの状況では見逃されているhrHPV陰性がんの検出を可能にする。
【0090】
(実施例4)
hrHPV陽性子宮頸部擦過標本におけるLHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5のメチル化の検出
集団に基づくスクリーニングに参加した女性から、本発明者らは、CIN3(n=56)が診断されたhrHPV陽性女性、及び最高でCIN1と診断されたhrHPV陰性及び陽性の女性(それぞれ、n=40及びn=87)の子宮頸部擦過標本を試験した。更に、子宮頸部の扁平細胞癌(SCC;n=23)及び腺癌(AdCa;n=3)と診断された女性の子宮頸部擦過標本を試験した。これらの女性の子宮頸部擦過標本は、核酸が良好に保存される保存培地に収集した。
【0091】
LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5のメチル化は、HPV陰性及びHPV陽性対照と比較してCIN3、SCC、及びAdCaを有する女性の擦過標本において有意に増加した。受信者動作特性分析は、HPV陽性集団ではCIN3の検出に関して0.890のAUCを示し、子宮頸がんの検出に関して1のAUCを示した(
図5B)。
【0092】
それによって、これらの遺伝子は、一次HPV試験によるスクリーニングにおいて有望なトリアージマーカーを提供するが、HPV及び非HPV関連癌の両方に関して一次スクリーニングマーカーとして使用することもできる。
【0093】
(実施例5)
子宮頸がん及びその高度前駆病変のマーカーとしての尿標本中のLHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5のメチル化
子宮頸がん患者から収集した全体で44例の尿試料及び対照女性からの47例の尿を、LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5のメチル化に関して試験した。対照と比較すると、LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5のメチル化レベルは、子宮頸がんを有する女性の尿試料において有意に増加した(
図5A)。受信者動作特性分析は、子宮頸がんの検出に関して0.936のAUCを示した(
図5C)。重要なことに、LHX8又はASCL1によって検出されなかった1つのがんがST6GALNAC5によって検出され、分類子内のマーカーの補完性が確認された。これらの結果は、メチル化分類子遺伝子の検出が、尿を使用する子宮頸がんのスクリーニングを可能にすることを示しており、それによって現在利用可能な最も容易で最も患者に優しい非浸潤がんのスクリーニング法を提供する。
【0094】
更に、メチル化試験を使用して、尿に基づくHPVスクリーニングプログラムにおいてhrHPV陽性女性をトリアージすることができる。
【0095】
(実施例6)
子宮内膜癌を有する女性の子宮頸部擦過標本におけるLHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5のメチル化
全体で子宮内膜癌の女性の24例の子宮頸部擦過標本を、LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5のメチル化に関して試験した。最高でCIN1と診断されているhrHPV陰性及び陽性の女性の子宮頸部擦過標本と比較すると、LHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5のメチル化レベルは、子宮内膜癌を有する女性では有意に増加した(
図6)。
【0096】
【0097】
同様に更なるプライマー及びプローブが本発明において有用でありうる(同様に、実施例7~9を考慮して)。これらをTable 2(表2)に記載する:
【0098】
【0099】
(実施例7)
外陰がん及び前がんを検出するためのLHX8、ASCL1、ST6GALNAC5、ZNF-582、及びZIC1のメチル化
外陰上皮内新生物(VIN)は、外陰扁平細胞癌 (VSCC)の前駆病変であるが、がんに進行するVINはごくわずかである。高度外陰上皮内新生物(VIN)は、外陰扁平細胞癌(VSCC)の前がん様状態であるが、がんに進行するVINはごくわずかであり、不均一な疾患を示している。現在の臨床組織学的分類は、がんのリスクを予測するためには不十分である。その結果、罹患した女性は、切断介入によって同様に処置される。そのため、がんのリスクを反映する客観的バイオマーカーが臨床で必要である。したがって、本発明者らは、VINのリスク階層化に関する、DNAメチル化マーカーパネルLHX8、ASCL1、及びST6GALNAC5、並びにメチル化マーカーZNF-582及びZIC1の潜在的価値を評価した。マーカーZNF-582は、実施例1に記載されているものと同じゲノムワイドスクリーニングにおいて同定された。
図7は、ZNF582 5'調節領域及びコード配列(エクソン1)を示す。コード配列を大文字で示し、CpGリッチ領域を下線で示す。
【0100】
ZIC1は、子宮頸部前がん及びがんを検出するためのこれまでのゲノムワイドスクリーニングにおいて同定された(Verlaat et al., Clinical Cancer Research, 2017)。
図8は、ZIC1 5'調節領域及びコード配列(エクソン1)を示す。コード配列を大文字で示し、CpGリッチ領域を灰色で示す。
【0101】
8例の正常な外陰部試料(対照)、39例のVIN、及び75例のVSCCを、本試験に含めた。39例のVINのうち、25例は、VSCCに関連し(VSSCを有するVIN)、14例は関連しなかった(VSCCを有しないVIN、すなわち10年を超える追跡期間の間にVSCCの発症がない)。臨床での追跡期間を伴うこの独自の十分に特徴付けされた一連のVIN病変により、積極的な処置を必要とする高いがんリスクを有するVIN病変を、低いがんリスクを有し、より保存的な、例えば非侵襲性の管理によって恩典が得られるVIN病変と区別するマーカーを同定することができる。
【0102】
LHX8、ASCL1、ST6GALNAC5、及びZNF-582のメチル化に関する試験により、5つ全ての遺伝子に関して、VSCCを有しないHPV陽性VINと、VSCCを有するVINとの間で異なるメチル化が示された(
図9)。
【0103】
回帰分析に基づいてVSCCを有しないHPV陽性VINと、VSCCを有するHPV陽性VINを比較する受信者動作特性(ROC)曲線により、0.83(LHX8)、0.80(ASCL1)、0.69(ST6GALNAC5)、0.80(ZNF-582)、及び0.78(ZIC1)のAUCが得られた。
【0104】
マーカーの組合せの分析により、2つのマーカーを組み合わせるとAUCの増加が明らかとなった:ASCL1プラスZIC1(AUC=0.82)、ASCL1プラスZNF-582(AUC=0.82)、及びASCL1プラスLHX8(AUC=0.83)。これらのデータは、メチル化マーカーLHX8、ASCL1、ZIC1、及びZNF-582の2つの組合せを、HPV陽性VINのがんリスク階層化及びVSCCの検出のために使用することができることを示している。
【0105】
(実施例8)
肛門がん及び前がんを検出するためのメチル化マーカー
肛門がんは、高リスクHPVによって引き起こされ、前駆病変:肛門上皮内新生物(AIN;グレード1~3)の後に起こる。最終的にがんへと進行するのはごくわずかであることから、好ましくは高悪性能を有する病変のみを処置する。残念なことに、がんへの進行を予測するマーカーが欠如している。現在、全ての高度AINが処置され、有意な過剰処置が起こっている。したがって、本発明者らは、AINのリスク階層化に関するDNAメチル化マーカーASCL1、ST6GALNAC5、ZIC1、及びZNF-582の潜在的価値を評価した。マーカーZIC1及びZNF-582は、HPV含有試料におけるゲノムワイド分析によって同定された(実施例1及びVerlaat et al., Clinical Cancer Research, 2017を参照されたい)。
【0106】
肛門扁平細胞癌(SCC; n=26)、AIN3(n=24)、AIN2(n=42)を有するHIV+男性、及びAIN2又はそれより悪い病変を有しない男性(正常+AIN1;n=56)の保存した組織試料を、定量的メチル化特異的PCRを使用して、HPV誘発発癌の際に過剰メチル化を示すことがわかっている4つの遺伝子のDNAメチル化に関して分析した。4つ全ての遺伝子のメチル化レベルは、疾患の重症度が増加すると有意に高くなった(
図10)。ロジスティック回帰及びAUC分析を使用して、肛門がん及びAIN3の検出に関するメチル化マーカーの成績を決定した。AIN3又はそれより悪いものの検出に関するAUCは、0.89(ASCL1)、0.84(ST6GALNAC5)、0.87(ZIC1)、及び0.91(ZNF-582)であった。
【0107】
マーカーの組合せの分析により、AIN3又はそれより悪いものの検出のなお更なる改善が明らかとなり、ASCL1プラスZIC1のAUCは0.90であり、ASCL1プラスZNF-582のAUCは0.92であった。重要なことに、両方のマーカーの組合せは、全ての肛門がんを検出した。
【0108】
これらのデータは、メチル化マーカーの組合せASCL1プラスZIC1及びASCL1プラスZNF-582を使用して、肛門がん及びがんへと進行するリスクを有する高度AINを検出することができることを示しており、これは、男性と性交を行うHIV陽性男性の臨床管理にとって特に重要である。
【0109】
(実施例9)
卵巣がんを有する女性の子宮頸部擦過標本におけるLHX8、ASCL1、及びZIC1のメチル化
漿液性がん及び明細胞がんを含む卵巣がんを有する女性の全体で6例の子宮頸部擦過標本を、LHX8、ASCL1、及びZIC1メチル化に関して試験した。疾患を有しない女性(すなわち、最高でCIN1と診断されるhrHPV陰性及び陽性女性)の子宮頸部擦過標本と比較して、LHX8、ASCL1、及びZIC1メチル化レベルは、卵巣がんを有する女性において有意に増加した。これらのデータは、これらの3つのマーカーの組合せが、子宮頸部擦過標本における卵巣がんの検出を可能にすることを示している。
【配列表】