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  • 特許-着磁ヨークの破損診断装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】着磁ヨークの破損診断装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/14 20060101AFI20230620BHJP
【FI】
G01N29/14
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020004798
(22)【出願日】2020-01-16
(65)【公開番号】P2021110712
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591027042
【氏名又は名称】日本電磁測器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】岡田 一路
(72)【発明者】
【氏名】堀 充孝
(72)【発明者】
【氏名】冨田 直矢
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-106128(JP,A)
【文献】特開2001-194346(JP,A)
【文献】特開平2-262993(JP,A)
【文献】国際公開第2019/064769(WO,A1)
【文献】特開昭56-104246(JP,A)
【文献】特開平5-42335(JP,A)
【文献】特開2009-92601(JP,A)
【文献】特開平9-274023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着磁電流を流した際に着磁ヨークに発生するAE信号を検出するAEセンサと、
前記AE信号を周波数領域に変換したAE波形を取得するAE波形取得部と、
基準として用いられる前記AE波形を基準AE波形として記憶する基準AE波形記憶部と、
前記取得したAE波形と前記基準AE波形との比較に基づいて、前記着磁ヨークの破損の有無を判定する判定部と、を備えた、着磁ヨークの破損診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着磁ヨークの破損診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
着磁ヨークの劣化を検知する技術が提案されている。特許文献1は、着磁ヨークに流れる着磁電流の波形を、理論に基づく正常な波形と比較する技術を開示している。当該技術によって、着磁電流の波形の変化に基づき着磁ヨークの絶縁不良を検知することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平07-106128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、着磁電流の波形によって、着磁ヨークの絶縁不良を検知することができる。しかしながら、数千ボルトの高電圧、かつ数キロアンペア~十数キロアンペアの大電流を用いる着磁においては、絶縁不良が一気に進行し絶縁破壊につながる可能性がある。したがって、絶縁不良を検知した直後に絶縁破壊が生じる可能性があるという問題があった。
【0005】
本発明は、着磁電流を流した際に生じるAE(Acoustic Emission)波に基づいて、着磁ヨークの破損の有無を判定する着磁ヨークの破損診断装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる着磁ヨークの破損診断装置は、着磁電流を流した際に着磁ヨークに発生するAE信号を検出するAEセンサと、前記AE信号を周波数領域に変換したAE波形を取得するAE波形取得部と、基準として用いられる前記AE波形を基準AE波形として記憶する基準AE波形記憶部と、前記取得したAE波形と前記基準AE波形との比較に基づいて、前記着磁ヨークの破損の有無を判定する判定部と、を備える。
AE波に基づくAE波形を取得し、基準波形と比較することによって、着磁電流を流した際に着磁ヨークに発生するAE波に基づいて、着磁ヨークの破損の有無を判定することが可能となる。
【発明の効果】
【0007】
これにより、着磁電流を流した際に生じるAE波に基づいて、着磁ヨークの破損の有無を判定する着磁ヨークの破損診断装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】破損診断装置1の構成例を示す構成図である。
図2】破損診断装置1の概要を示す概略図である。
図3】モールド割れが発生してから、破損診断装置1がモールド割れを検出するまでの流れを示すフローチャートである。
図4】破損診断装置1の動作、及び着磁ヨーク2の交換手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態にかかる破損診断装置1の構成例を示す構成図である。破損診断装置1は、着磁ヨーク2の破損を診断する。着磁ヨーク2は、電源3に接続されている。着磁ヨーク2は、電源3からの着磁電流に応じた磁場を発生し、着磁ヨークに取り付けられた図示しないワークを着磁する。なお、破損の診断を行う際には、ワークを取り付けずに実施してもよい。
【0010】
破損診断装置1は、AEセンサ11、及びAE解析装置12を備える。AEセンサ11は、着磁ヨーク2に着磁電流を流した際に着磁ヨーク2に発生するAE信号を検出する。AEセンサ11は、AE波を検出するためのセンサである。AE波は、弾性波ともいう。AEセンサ11は、着磁ヨーク2の表面に設置されている。例えば、AEセンサ11は、着磁ヨーク2の上面に固定される。磁石付きの治具を用いて、AEセンサ11を着磁ヨーク2の上面に固定してもよい。
【0011】
着磁ヨーク2の鉛直方向の方が、着磁ヨーク2の水平方向よりもAE波の伝搬速度が速い。また、着磁ヨーク2の上面または底面の方が、着磁ヨーク2の側面よりもAE波の検出感度がよい。したがって、AEセンサ11は、AE波の発生源の直上となる着磁ヨーク2の上面に設置することが望ましい。ただし、横方向に伝播したAE波を検出可能な場合、AEセンサ11を着磁ヨーク2の側面に設置することも可能である。AEセンサ11は、AE解析装置12にAE信号を送信する。
【0012】
オシロスコープ5は、AE解析装置12によって増幅されたAE信号を取得し、画面に表示する。オシロスコープ5は、電源3から着磁電流を示す電気信号を取得し、画面に表示する。オシロスコープ5は、着磁電流を流した際の着磁ヨーク2に発生するAE信号を画面表示可能である。オシロスコープ5は、上述したAE信号を保存可能である。なお、オシロスコープ5を使用せずに、後述するAE解析装置12でAE信号の取得および保存を行ってもよい。
【0013】
なお、着磁電流を通常よりも少し高めにすることにより、AE信号のレベルを大きくすることが可能となる。また、AE信号の検出は、着磁ヨーク2の温度が十分に下がったときに行う必要がある。検出されるAE信号の周波数が、温度の影響を受けるためである。温度の影響を受ける理由は、温度による部材の硬度の変化、及び温度による部材の固定状態の変化が生じるからである。硬度の変化は、特に樹脂等のモールド材に生じる。固定状態の変化は、特に、金属とモールド材との熱膨張差によって生じる。
【0014】
AE解析装置12は、AE信号を解析し、着磁ヨーク2の破損の有無を判定する。AE解析装置12は、例えば、PC(Personal Computer)等によって構成される。AE解析装置12は、AE波形取得部121、基準AE波形記憶部122、及び判定部123を備える。
【0015】
AE波形取得部121は、AEセンサ11からAE信号を取得する。AE波形取得部121は、オシロスコープ5からAE信号を取得してもよい。AE波形取得部121は、取得したAE信号を周波数領域に変換し、AE波形を取得する。周波数領域への変換とは、例えば、フーリエ変換である。AE波形取得部121は、例えば、FFT(Fast Fourier Transform)を行うことにより、AE信号をAE波形に変換する。
【0016】
基準AE波形記憶部122は、基準として用いられるAE波形を基準AE波形として記憶する。基準AE波形は、着磁ヨーク2の使用を開始した初期の状態におけるAE波形である。つまり、基準AE波形は、着磁ヨーク2の使用を開始した初期において、AEセンサ11でAE信号を検出し、AE波形取得部121で周波数領域に変換したAE波形である。
【0017】
判定部123は、取得したAE波形と基準AE波形との比較に基づいて、着磁ヨーク2の破損の有無を判定する。例えば、判定部123は、取得したAE波形と基準AE波形との差分をとる処理を行い、当該差分が所定の周波数範囲で閾値を超えているか否かに基づいて、着磁ヨーク2の破損の有無を判定してもよい。
【0018】
図2は、破損診断装置1の概要を示す概略図である。B1は、初期状態においてAEセンサ11が検出した初期AE信号と、着磁電流とをオシロスコープ5で表示したものである。B2は、AE波形取得部121が、B1に示す初期AE信号を周波数領域に変換したものである。つまり、B2は、基準AE波形である。基準AE波形記憶部122は、B2に示す基準AE波形を記憶する。
【0019】
B3は、着磁ヨーク2の破損を診断するときに、AEセンサ11が検出したAE信号と、着磁電流と、をオシロスコープ5で表示したものである。B4は、AE波形取得部121が、B3に示すAE信号を周波数領域に変換したAE波形である。
【0020】
判定部123は、B2に示す基準AE波形と、B4に示すAE波形と、の比較を行う。図2では、約10kHzの周波数領域においてAE波形の信号レベルが増加しているため、判定部123は、着磁ヨーク2の破損が生じたと判定する。着磁ヨーク2の破損とは、例えば、着磁ヨーク2のモールド材に割れが発生することである。モールド材は、着磁ヨーク2が着磁を行うためのコイルをモールドする部材である。
【0021】
図3は、着磁ヨーク2でモールド割れが発生してから、破損診断装置1がモールド割れを検知するまでの流れを示すフローチャートである。まず、着磁ヨーク2において、モールド割れが発生する(ステップS1)。着磁を行うために着磁電流を流したコイルには、コイルが膨らもうとする方向にフープ力が発生する。したがって、モールド材に割れが生じている場合、コイルの擦れが発生し(ステップS2)、AE波が生じる(ステップS3)。次に、破損診断装置1は、検出されたAE信号に対してFFT処理を行う(ステップS4)。AE波形には、モールド割れに対応する特定の周波数成分が存在する。したがって、当該周波数におけるAE波形の信号レベルが大きい場合、破損診断装置1は、モールド割れが生じていると判定する(ステップS5)。
【0022】
図4のステップS11~ステップS15は、破損診断装置1の動作を示すフローチャートである。まず、AEセンサ11は、初期状態において着磁ヨーク2の初期AE信号を検出する(ステップS11)。次に、AE波形取得部121は、初期AE信号に対してFFT処理を行うことにより、基準AE波形を取得する(ステップS12)。基準AE波形記憶部122は、基準AE波形を記憶する。
【0023】
次に、診断を行うため、AEセンサ11は、着磁ヨーク2のAE信号を検出する(ステップS13)。次に、AE波形取得部121は、AE信号に対してFFT処理を行うことにより、AE波形を取得する(ステップS14)。最後に、判定部123は、基準AE波形とAE波形とを比較し、着磁ヨーク2の破損の有無を判定する(ステップS15)。判定部123は、特に数kHzから数十kHzの周波数領域における信号レベルに基づいて破損の有無を判定してもよい。破損が生じていない場合、AEセンサ11は、ステップS13のAE信号を取得する処理に移行する。
【0024】
なお、ステップS21~ステップS24は、着磁ヨーク2に破損が生じている場合の着磁ヨーク2の交換手順を示す。着磁ヨーク2が交換可能であれば、本実施形態のユーザは、着磁ヨーク2を交換する(ステップS22)。着磁ヨーク2の交換ができない場合、着磁ヨーク2のユーザは、耐圧試験、漏れ電流測定等を行うことにより絶縁低下の有無を確認する(ステップS23)。測定結果に問題がない場合にはステップS21において着磁ヨーク2の交換可否を判断し、測定結果に問題がある場合には着磁ヨーク2の交換を行う(ステップS24)。
【0025】
本実施形態によると、着磁ヨーク2が絶縁破壊する前に、破損を検出し交換することが可能となる。また、破損を検出してから交換するまでの間、電気試験を行うことによって絶縁破壊を防ぎつつ使用を継続できるため、生産ラインの停止が不要となる。
【0026】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 破損診断装置
2 着磁ヨーク
3 電源
5 オシロスコープ
11 AEセンサ
12 AE解析装置
図1
図2
図3
図4