(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】ステント及びカテーテル・ステント・システム
(51)【国際特許分類】
A61B 17/22 20060101AFI20230620BHJP
【FI】
A61B17/22 528
(21)【出願番号】P 2020063410
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2021-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】512046383
【氏名又は名称】大塚メディカルデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】正林 康宏
(72)【発明者】
【氏名】吉田 篤徳
【審査官】北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-506941(JP,A)
【文献】特開2019-069290(JP,A)
【文献】国際公開第2019/176345(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/064306(WO,A1)
【文献】特開平08-196642(JP,A)
【文献】中国実用新案第207768466(CN,U)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0024429(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/00
17/22 - 17/221
A61F 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテル内に挿入され、血管内において前記カテーテルから押し出されて血栓を捕捉するために用いられるステントであって、
前記ステントを平面に展開した状態において、前記ステントの巻き方向と前記ステントを構成するセルが中心軸線に対して傾斜する並び方向は、それぞれ中心軸線に対して
右上がりの斜め方向に傾斜しており、
前記ステントを平面に展開した状態において、前記ステントを構成するセルが中心軸線に対して傾斜する並び方向
は、前記ステントの巻き方向に対して更に中心軸線側に近接するように傾斜しており、
前記ステントは、巻き方向に沿って略円筒形状に接合されることにより、複数のセルが中心軸線方向に対して螺旋状に並び、
前記ステントは、中心軸線方向に対して螺旋状に並んだ複数のセルのうち、他のセルよりも剛性の小さいセルが少なくとも1つ配置され、
前記カテーテルに挿入された状態で前記カテーテルから押し出されると、中心軸線周りに回転しながら展開するように構成されており、
下記の測定条件で測定した、対象血管径の下限値の径における単位長さ当たりの拡張力が0.05N/mm以下であるステント。
使用機器:Radial force testing systems(Blockwise社製)
試験条件:
試験機のチャンバー内温度:37±2℃
試験開始時のステント径:0.5mm
試験機の拡径速度:0.5mm/s
試験方法:
試験機のチャンバー内温度を37±2℃に設定する、
ステントの全体を試験機のチャンバー内にセットし、試験開始時の径となるまで縮径する、
前記拡径速度で試験機のチャンバーを徐々に拡径したときの径方向の拡張力を記録する、
前記拡張力をステントの有効長で除算して、単位長さ当たりの拡張力を算出する。
【請求項2】
下記の測定条件で測定した引張荷重が3N以下である請求項1に記載のステント。
使用機器:マイクロカテーテル:Headway21(MicroVention社製)
デジタルフォースゲージ(プッシュプルゲージ)
引き込み装置
恒温槽
サーモメーター
試験条件:
スピード:60mm/min
引張距離:有効長+10mm
試験温度:37±2℃
試験方法:
恒温槽の温度が37±2℃であることをサーモメーターで確認する、
マイクロカテーテルを恒温槽の中に設置する、
ステントの全体がマイクロカテーテルに収まるまでマイクロカテーテルの手元側からステントリトリーバーを挿入する、
引き込み装置に設置したデジタルフォースゲージとステントリトリーバーの手元側とを接続する、
マイクロカテーテルとステントリトリーバーとを直線状にした状態でマイクロカテーテルを固定し、引き込み装置により一定の規定スピードでステントリトリーバーを手元方向に引っ張る、
ステントリトリーバーを有効長+10mmだけ引っ張ったときにデジタルフォースゲージで測定される引張荷重の最大値を記録する。
【請求項3】
前記ステントは、前記カテーテルに挿入された状態で前記カテーテルから押し出されると、前記ステントの中心軸線周りに回転しながら且つ一方向に連続的に又は二方向に間欠的に首を振りながら展開するように構成されている、
請求項1又は2に記載のステント。
【請求項4】
前記ステントは、波線状パターンを有し且つ中心軸線方向に並んで配置される複数の波線状パターン体と、隣り合う前記波線状パターン体の間に配置されて中心軸線周りに螺旋状に延びる複数のコイル状要素とを備え、
隣り合う前記波線状パターン体の前記波線状パターンの対向する側の頂部のすべてが相互に前記コイル状要素により接続され、
中心軸線方向に対して垂直な径方向に視たときに、前記波線状パターン体の環方向は、前記径方向に対して傾斜しており、前記波線状パターン体に対して中心軸線方向の一方側に位置する一方の前記コイル状要素の巻き方向と、中心軸線方向の他方側に位置する他方の前記コイル状要素の巻き方向とは、逆又は同じである、
請求項1~3のいずれかに記載のステント。
【請求項5】
カテーテルと、
前記カテーテル内に挿入されると共に、前記カテーテルから押し出される請求項1~3のいずれかに記載のステントと、
を備えるカテーテル・ステント・システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステント及びこのステントを備えたカテーテル・ステント・システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血管に発生した血栓を捕捉するために、ワイヤと、その遠位側に連結されたステントとを備える回収型のステント・システムが用いられている。このようなステント・システムによれば、血管内に挿入したステントにより血栓を捕捉した後、カテーテルを介してワイヤを引き込み、ワイヤに連結され且つ血栓を捕捉したステントを体外に引き出すことにより、血栓を回収できる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、カテーテルから押し出されたときに、回転しながら且つ首を振りながら展開するように構成されたステントも提案されている。このようなステントにおいては、血栓の捕捉性を向上させて、血栓の回収率をより高めることが望まれている。
【0005】
本発明の目的は、血栓の回収率をより高めることができるステント及びカテーテル・ステント・システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、カテーテル内に挿入され、血管内において前記カテーテルから押し出されて血栓を捕捉するために用いられるステントであって、
前記カテーテルに挿入された状態で前記カテーテルから押し出されると、回転しながら展開するように構成されており、
下記の測定条件で測定した、対象血管径の下限値の径における単位長さ当たりの拡張力が0.05N/mm以下であるステントに関する。
使用機器:Radial force testing systems(Blockwise社製)
試験条件:
試験機のチャンバー内温度:37±2℃
試験開始時のステント径:0.5mm
試験機の拡径速度:0.5mm/s
試験方法:
試験機のチャンバー内温度を37±2℃に設定する、
ステントの全体を試験機のチャンバー内にセットし、試験開始時の径となるまで縮径する、
前記拡径速度で試験機のチャンバーを徐々に拡径したときの径方向の拡張力を記録する、
前記拡張力をステントの有効長で除算して、単位長さ当たりの拡張力を算出する。
【0007】
前記ステントにおいて、下記の測定条件で測定した引張荷重を3N以下としてもよい。
使用機器:マイクロカテーテル:Headway21(MicroVention社製)
デジタルフォースゲージ(プッシュプルゲージ)
引き込み装置
恒温槽
サーモメーター
試験条件:
スピード:60mm/min
引張距離:有効長+10mm
試験温度:37±2℃
試験方法:
恒温槽の温度が37±2℃であることをサーモメーターで確認する、
マイクロカテーテルを恒温槽の中に設置する、
ステントの全体がマイクロカテーテルに収まるまでマイクロカテーテルの手元側からステントリトリーバーを挿入する、
引き込み装置に設置したデジタルフォースゲージとステントリトリーバーの手元側とを接続する、
マイクロカテーテルとステントリトリーバーとを直線状にした状態でマイクロカテーテルを固定し、引き込み装置により一定の規定スピードでステントリトリーバーを手元方向に引っ張る、
ステントリトリーバーを有効長+10mmだけ引っ張ったときにデジタルフォースゲージで測定される引張強度の最大値を記録する。
【0008】
前記ステントは、前記カテーテルに挿入された状態で前記カテーテルから押し出されると、回転しながら且つ首を振りながら展開するように構成してもよい。
【0009】
前記ステントの巻き方向は、前記ステントを構成するセルの並び方向に対して傾斜しており、前記ステントは、軸線方向に対して螺旋状に並んだ複数のセルのうち、他のセルとは物性の異なるセルが少なくとも1つ配置されていてもよい。
【0010】
前記ステントは、波線状パターンを有し且つ軸線方向に並んで配置される複数の波線状パターン体と、隣り合う前記波線状パターン体の間に配置されて軸線周りに螺旋状に延びる複数のコイル状要素とを備え、隣り合う前記波線状パターン体の前記波線状パターンの対向する側の頂部のすべてが相互に前記コイル状要素により接続され、軸線方向に対して垂直な径方向に視たときに、前記波線状パターン体の環方向は、前記径方向に対して傾斜しており、前記波線状パターン体に対して軸線方向の一方側に位置する一方の前記コイル状要素の巻き方向と、軸線方向の他方側に位置する他方の前記コイル状要素の巻き方向とは、逆又は同じとしてもよい。
【0011】
また、本発明は、カテーテルと、前記カテーテル内に挿入されると共に、前記カテーテルから押し出される前記ステントと、を備えるカテーテル・ステント・システムに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るステント及びカテーテル・ステント・システムによれば、血栓の回収率をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態のステント11を示す斜視図である。
【
図2】実施形態のステント11を仮想的に平面に展開した場合の展開図である。
【
図3】
図2に示すステント11の部分拡大図である。
【
図4】実施形態のステント11を仮想的に平面に展開した場合の全体を示す展開図である。
【
図5】実施形態のステント11を備えたカテーテル・ステント・システム10の概念図である。
【
図6】
図3に示すステント11の部分拡大図である。
【
図7】ステント11が縮径されるときにステント11の環状体13の波形要素17の頂部17bに変形が生じることを示す説明図である。
【
図8】(A)~(E)は、カテーテル・ステント・システム10により血管内の血栓を除去する手順を示す模式図である。
【
図9】(A)~(D)は、ステント11がカテーテル12から押し出されて展開する挙動を示す概念図である。
【
図10】ステント11が血栓を捕捉する状態を示す図である。
【
図11】回転しながら且つ一方の方向にのみ首を振るように構成したステント11の斜視図である。
【
図12】セルの物性を部分的に変えることにより回転しながら且つ首を振るように構成したステント11の展開図である。
【
図13】セルの線幅等を変えることにより回転するように構成したステント11の展開図である。
【
図14】(A)は、作製例1のステントを拡径した場合の拡張力の変化を示すグラフである。(B)は、作製例2のステントを拡径した場合の拡張力の変化を示すグラフである。
【
図15】従来例1のステントを拡径した場合の拡張力の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係るステント及びカテーテル・ステント・システムの実施形態を説明する。
まず、
図1から
図4を参照して、本実施形態によるステント11の全体構成を説明する。
【0015】
図1は、実施形態のステント11の全体を示す斜視図である。
図2は、実施形態のステント11を仮想的に平面に展開した場合の展開図である。
図2では、ステント11の軸線方向LDの両端部分の図示を省略している。
図3は、
図2に示すステント11の部分拡大図である。
図4は、実施形態のステント11を仮想的に平面に展開した場合の全体を示す展開図である。
図4では、ステント11の軸線方向LDの両端部分を図示しているが、全体的に軸線方向LDの長さを短く図示している。
図5は、実施形態のステント11を備えたカテーテル・ステント・システム10の概念図である。なお、
図1~
図4は、いずれも無負荷状態のステント11を示している。無負荷状態とは、ステント11を縮径していない状態をいう。
【0016】
図1に示すように、ステント11は、略円筒形状に構成されている。ステント11の周壁は、ワイヤ状の材料で囲まれた合同な形状を有する複数のクローズドセルにより構成されている。ステント11は、複数のクローズドセルが周方向に敷き詰められたメッシュパターンの構造を有している。
図2では、ステント11の構造の理解を容易にするために、ステント11を平面に展開した状態を示している。また、
図2では、メッシュパターンの周期性を示すために、仮想的に、実際の展開状態よりもメッシュパターンを繰り返した形状を示している。本明細書において、ステント11の周壁とは、ステント11の略円筒構造の円筒の内部と外部とを隔てる部分を意味する。また、セルとは、開口又は隔室ともいい、ステント11のメッシュパターンを形成するワイヤ状の材料で囲まれた部分をいう。
【0017】
ステント11は、軸線方向(すなわち中心軸線方向)LDに並んで配置される複数の波線状パターン体としての環状体13と、軸線方向LDに隣り合う環状体13の間に配置されている複数のコイル状要素15と、を備える。
図3に示すように、環状体13は、二つの脚部17aを頂部17bで連結した略V字形状の波形要素17を、環方向CDに複数接続して形成される波線状パターンを有する。詳細には、略V字形状の波形要素17は、頂部17bを交互に逆側に配置した状態で接続されている。
【0018】
ステント11を、軸線方向LDに対して垂直な径方向RDに視たときに、環状体13の環方向CDは、径方向RDに対して傾斜している。径方向RDに対して環状体13の環方向CDが傾斜する角度θは、例えば30度~60度である。
【0019】
各コイル状要素15の両端部は、それぞれ、隣り合う二つの環状体13の対向する側の頂部17bに接続されている。なお、隣り合う環状体13の対向する側の頂部17bの全ては、相互にコイル状要素15により接続されている。ステント11は、いわゆるクローズドセル構造を有している。すなわち、隣り合う環状体13の一方において波線状パターンに沿って脚部17aにより互いに接続される三つの頂部17bのうちの波線状パターンに沿って隣りに位置する二つの頂部17bは、それぞれコイル状要素15によって、隣り合う環状体13の他方において波線状パターンに沿って脚部17aによって互いに接続される三つの頂部のうちの波線状パターンに沿って隣りに位置する二つの頂部に接続されて、セルを形成する。そして、各環状体13の波線状パターンの全ての頂部17bは、三つのセルに共有される。
【0020】
複数のコイル状要素15は、環状体13の環方向CDに沿って等間隔で配置されている。各コイル状要素15は、中心軸線周りに螺旋状に延びている。
図3に示すように、環状体13に対して軸線方向LDの一方側に位置する一方のコイル状要素15(15R)の巻き方向(右巻き)と、軸線方向LDの他方側に位置する他方のコイル状要素15(15L)の巻き方向(左巻き)とは、逆である。一方のコイル状要素15Rの長さは、脚部17aの長さよりも長いが、脚部17aの長さの1.5倍以下である。他方のコイル状要素15Lの長さは、脚部17aの長さよりも短い。
【0021】
図4に示すように、ステント11において、ワイヤ(プッシャーワイヤ)14(後述)と連結される側には、基端部25が設けられている。基端部25は、1本の棒状に形成されており、ワイヤ14(後述)が連結される。一方、ステント11において、基端部25と反対側には、3つの先端部27が設けられている。それぞれの先端部27は、環状体13の頂部17bから軸線方向LDに棒状に延出している。
【0022】
図5に示すように、実施形態のカテーテル・ステント・システム10は、ステント11と、カテーテル12と、を備えている。ステント11は、縮径された状態でカテーテル12内に挿入される。
図5では、縮径されたステント11の断面を模式的に示している。ステント11の基端部25には、ワイヤ14が連結されている。ワイヤ14は、ステント11を血管内の目的部位へ押し出す際には遠位側D1へ送り込まれ、ステント11を体外へ引き出す際には近位側D2へ引き出される。
【0023】
ステント11は、ワイヤ14により押し込まれてカテーテル12内を移動し、病変部位においてカテーテル12の先端から押し出されて展開する。このとき、押出機により付与される軸線方向LDの力は、ステント11の環状体13及びコイル状要素15の間で相互作用を及ぼしながらステント11の全体に伝達されていく。また、後述するように、ステント11は、後述する非拘束状態において、カテーテル12の先端から押し出された際に、回転しながら且つ首を振りながら展開するように構成されている。
【0024】
次に、ステント11の波形要素17の構成について詳細に説明する。
図6は、
図3に示すステント11の部分拡大図である。
図7は、ステント11が縮径されるときにステント11の環状体13の波形要素17の頂部17bに変形が生じることを示す説明図である。
【0025】
図6及び
図7に示すように、波形要素17の頂部17bには、瘤(こぶ)状部19が形成されている。瘤状部19は、軸線方向LDに直線状に延びる延長部分19aと、その先端に形成された略半円形の先端部分19bと、を含む。延長部分19aは、コイル状要素15の幅よりも大きい幅を有している。波形要素17の頂部17bには、内側周縁部(
図7における略V字形状の波形要素17の左側の谷部側)から軸線方向LDに延びるスリット21が、形成されている。このため、二つの脚部17aは、軸線方向LDに概略平行に延びる直線部分を介して、延長部分19aにおけるスリット21が設けられていない領域、及び瘤状部19の先端部分19bに接続される。なお、先端部分19bは、略半円形の略半円形部分であることが好ましいが、略半円形でなくてもよい。
【0026】
各コイル状要素15の両端部には、湾曲部15aが形成されている。各コイル状要素15の両端部は、それぞれ、湾曲部15aを介して、隣り合う二つの環状体13の対向する側の頂部17b(詳細にはその瘤状部19)に接続されている。
図6に示すように、コイル状要素15の両端部の湾曲部15aは、円弧形状を有している。コイル状要素15と環状体13の波線状パターンの頂部17bとの接続端におけるコイル状要素15の接線方向は、軸線方向LDに一致する。
【0027】
コイル状要素15の端部の幅方向中心と環状体13の頂部17bの頂点(幅方向中心)とは、ずれている(一致していない)。コイル状要素15の端部の幅方向の一方の端縁と環状体13の頂部17bの幅方向の端縁とは、一致している。
【0028】
ステント11は、以上のような構造を備えることにより、優れた追従性や縮径性を実現すると共に、金属疲労によるステントの破損を生じにくくしている。ステント11の環状体13の波形要素17の頂部17bに設けられた瘤状部19は、金属疲労を軽減する効果を奏する。ステント11の環状体13の波形要素17の頂部17bの内側周縁から延びるスリット21は、ステント11の縮径性を向上させる効果を奏する。
【0029】
従来のクローズドセル構造のステントは、構造上、柔軟性に欠けるので、屈曲血管において座屈を生じて血流の阻害を招く危険性があった。また、ステントが局所的に変形すると、その変形の影響がステントの径方向RDだけでなく、軸線方向LDにも伝播され、ステントは局所的に独立して変形できない。これに起因して、ステントは、動脈瘤のような複雑な血管構造に適合できずにステントの周壁と血管壁との間に隙間を生じてしまい、血管の拍動に伴う変形でステントが血管内腔で滑りやすくなって、留置後のステントの移動(マイグレーション)を生じるおそれもあった。
【0030】
これに対して、実施形態のステント11は、拡張状態から縮径状態に変形させるとき、環状体13の波線状パターンが折り畳まれるように圧縮した状態になると共に、コイル状要素15がコイルバネのように軸線方向LDに寝て軸線方向LDに引っ張られたような状態になる。ステント11の環状体13の波線状パターンの波形要素17の1つを取り出して考えると、波形要素17は、ステント11の縮径及び拡張の際に、
図7に示されているように、ピンセットの開閉のように変形する。
【0031】
上記のような構造のステント11は、例えば生体適合性材料を、特に好ましくは超弾性合金から形成されたチューブを、レーザ加工することにより作製される。超弾性合金チューブから作製する場合、コストを低減させるため、2~3mm程度のチューブをレーザ加工後、所望する径まで拡張させ、チューブに形状記憶処理を施すことにより作製されることが好ましい。なお、ステント11の作製は、レーザ加工に限定されるものではなく、例えば切削加工等の他の方法によって作製することも可能である。
【0032】
なお、ステント11の外径は、特に限定されないが、例えば1.0~8.0mm、好ましくは1.5~6.0mmである。また、ステント11の有効長は、例えば10~60mm、好ましくは40~60mmである。一般に、ステントの拡張力が高い場合、血管壁への負担を考慮して有効長を短くする必要がある。一方、本実施形態のステント11は、拡張力が低いため、有効長の設計の自由度をより高めることができる。
【0033】
ステントの材料は、材料自体の剛性が高く且つ生体適合性が高い材料が好ましい。このような材料としては、例えばチタン、ニッケル、ステンレス鋼、白金、金、銀、銅、鉄、クロム、コバルト、アルミニウム、モリブデン、マンガン、タンタル、タングステン、ニオブ、マグネシウム、カルシウム又はこれらを含む合金が挙げられる。また、このような材料として、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネイト、ポリエーテル、ポリメチルメタクリレート等の合成樹脂材料を用いることもできる。さらに、このような材料として、例えばポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリεカプロラクトン等の生分解性樹脂(生分解性ポリマー)を用いることもできる。
【0034】
これらの中でも、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、白金、金、銀、銅及びマグネシウム又はこれらを含む合金が望ましい。合金としては、例えばNi-Ti合金、Cu-Mn合金、Cu-Cd合金、Co-Cr合金、Cu-Al-Mn合金、Au-Cd-Ag合金、Ti-Al-V合金等が挙げられる。また、合金としては、マグネシウムと、Zr、Y、Ti、Ta、Nd、Nb、Zn、Ca、Al、Li、Mn等との合金が挙げられる。これらの合金の中では、Ni-Ti合金が望ましい。
【0035】
次に、ステント11を備えたカテーテル・ステント・システム10の使用方法の一例を説明する。
図8(A)~(E)は、カテーテル・ステント・システム10により血管内の血栓を除去する手順を示す模式図である。
図8(A)~(E)においては、ステント11の展開状態を分かり易くするため、カテーテル12内のステント11及びワイヤ14を実線で示している。
図9(A)~(D)は、ステント11がカテーテル12から押し出されて展開する挙動を示す概念図である。
図10は、ステント11が血栓を捕捉する状態を示す概念図である。
【0036】
まず、
図8(A)に示すように、患者の血管BV内にカテーテル12を挿入し、病変部位となる血栓BCの位置まで到達させる。カテーテル12は、その先端が血栓BCの遠位側D1に達するまで送り込まれる。
続いて、ステント11を縮径した状態でカテーテル12内に挿入する。ステント11は、環状体13の波線状パターン、環状体13の頂部17bに形成されたスリット21、コイル状要素15の湾曲部15a、接続端における湾曲部15a(
図3~
図5参照)の接線方向が軸線方向LDに一致する構成の複合的及び相乗的効果により、縮径性が高められている。そのため、従来のステントと比較して、より細いカテーテル内にステント11を挿入することが容易となり、より細い血管へのステント11の適用が可能となる。
【0037】
次に、
図8(B)に示すように、ワイヤ14を操作して、カテーテル12の内腔に沿って、縮径した状態のステント11を押し込む。そして、ステント11の先端を、血栓BCよりも遠位側D1に位置させる。上述したように、実施形態のステント11は、追従性が高められているため、カテーテル12が蛇行した血管BV内に挿入された場合でも、カテーテル12に沿って柔軟に変形させることができるので、血栓BC等の病変部位へステント11を輸送することが容易となる。
【0038】
次に、
図8(C)に示すように、血栓BCの位置でカテーテル12の先端からステント11を押し出して展開させる。具体的には、カテーテル12を
図8(B)に示す位置から近位側D2に引き込むことにより、ステント11は、相対的にカテーテル12から押し出される。ステント11は、その全体がカテーテル12から押し出される。また、ステント11がカテーテル12から押し出される際、後述するように、ステント11は、回転しながら且つ首を振りながらカテーテル12から押し出されて展開する。この動作により、展開したステント11は、捕捉した血栓BCに絡みやすい状態となる。
次に、
図8(D)に示すように、ワイヤ14と共にカテーテル12を近位側D2へ引き込む。これにより、
図8(E)に示すように、血栓BCを捕捉したステント11を体外に引き出すことができる。
以上の手順でカテーテル・ステント・システム10を使用することにより、血栓BCを体外に回収できる。
【0039】
次に、ステント11がカテーテル12から押し出されて展開する際の挙動について説明する。
図9(A)~(D)は、ステント11がカテーテル12から押し出されて展開する挙動を示す概念図である。
図10は、ステント11が血栓を捕捉する状態を示す図である。
先に説明したように、ステント11は、血管の内部においてカテーテル12から押し出されて展開するが、ここでは血管の内部ではない非拘束状態において、ステント11がカテーテル12から押し出されて展開する挙動について説明する。
【0040】
ステント11は、前述した構成の環状体13及びコイル状要素15を有するため、
図9(A)~(D)に示すように、回転しながら且つ一方の方向と他方の方向とに交互に首を振りながらカテーテル12から押し出されて展開する。このような挙動をするステント11が血管の内部においてカテーテル12から押し出されて展開しようとすると、ステント11は、実際には血管の内部で首を振ることができない。その代わりに、ステント11は、
図10に示すように、首を振ろうとする力(図中矢印)の作用により、捕捉した血栓BCに絡みやすい状態となる。
【0041】
また、
図10に示すように、ステント11が展開した状態において、ストラットは軸線方向LDに延びた状態となりやすい。これにより、ステント11による血栓BCの捕捉性(血栓BCへのステント11の絡みやすさ)や血管へのステント11の追従性が向上する。このように、実施形態のステント11によれば、全体の細径化を図ることができ、縮径時にも柔軟性が高く、耐久性も高い。
【0042】
図11は、回転しながら且つ一方の方向にのみ首を振るように構成したステント11の斜視図である。
図11に示すように、ステント11において、略平行四辺形のセルを螺旋状に配置し、コイル状要素15R及び15Lを同じ巻き方向とすることにより、回転しながら且つ一方の方向にのみ首を振るような挙動とすることができる。
図11では、コイル状要素15R及び15Lの巻き方向を、共に右巻きとした例を示しているが、共に左巻きとしてもよい。なお、ステント11は、一方向に連続的に首を振るような挙動に限らず、一方向に間欠的に首を振るような挙動となる場合もあるし、一方向に所定量だけ回転した後、反対方向に所定量だけ回転するという挙動を交互に繰り返す場合もある。
【0043】
図12は、セルの物性を部分的に変えることにより、回転しながら且つ首を振るように構成したステント11の展開図である。
図12に示すステント11のセルは、環状体13及びコイル状要素15の代わりに、均等な大きさの複数のセルにより網目状に構成されている。
図12は、略円筒形状のステント11を平面に展開した状態を示している。
図12において、a~c線は、ステント11の巻き方向LRと平行な線である。ステント11の巻き方向LRにおいて、a線上のa1-a2点、b線上のb1-b2点及びc線上のc1-c2点は、ステント11を略円筒形状とした場合の接合点となる。なお、
図12では、ステント11の接合点となる場所の一部を示している。本実施形態におけるステント11の接合点は、軸線方向LDに沿って存在している。
【0044】
図12において、斜線を付した部分のセルCL1は、他の部分(白色)のセルCL2に比べて剛性が小さくなるように調整されている。例えば、セルCL2のみに白金、金等のメッキを施し、セルCL1にはメッキを施さないことにより、セルCL1の剛性をセルCL2よりも小さくすることができる。この場合、セルCL1との剛性の差は、メッキ層の厚みより調整することができる。この他、Ni-Ti合金で作製した同じ線幅を有するステント11において、セルCL1を構成するワイヤ状の部材にのみイオンを注入して物性を変化させることにより、セルCL1の剛性をセルCL2の剛性よりも小さくすることができる。
【0045】
図12に示すステント11を丸めて、a線上のa1-a2点、b線上のb1-b2点及びc線上のc1-c2点等の接合点を軸線方向LDに沿って接合することにより、略円筒形状のステント11を作製することができる。
図12に示す展開状態のステント11において、ステント11の巻き方向LRは、セルの並び方向LCに対して傾斜している。これにより、略円筒形状のステント11において、各セルは、軸線方向LDに対して螺旋状に並ぶことになる。なお、
図12の例において、ステント11の巻き方向LRがセルの並び方向LCに対して傾斜する角度θcは、約15度である。
【0046】
本実施形態のステント11は、セルの物性を部分的に変える一例として、剛性の小さいセルCL1が、ステントの巻き方向LRにおいて、少なくとも1つ配列されている。なお、ステントの巻き方向LRにおいて、剛性の小さいセルCL1は、互いに隣接していないことが好ましく、例えば、セルCL2と1つおきに配置されることが望ましい。このような配列とすることにより、ステント11の全体において、物性の変化をより大きくすることができる。本実施形態のステント11において、セルの物性は、セルの剛性に限らず、他のパラメータであってもよい。例えば、セルの物性は、少なくともセルの弾性、具体的にはヤング率等であってもよい。
【0047】
本実施形態のステント11を縮径した状態でカテーテル12内に挿入すると、縮径時の圧力により、相対的に剛性が小さいセルCL1が潰れやすいため、ステント11をカテーテル12の先端から押し出すと、潰れたセルCL1が間欠的に且つ螺旋状に並んだ状態となる。そのため、カテーテル12の先端から押し出された際に、ステント11は、回転しながら且つ首を振りながら展開することとなる。このように、回転しながら且つ首を振りながら展開する構成を有するステントは、後述の
図13に示すような、回転するが首を実質的に振らずに展開する構成を有するステントに比べて、ステントが血栓に絡み付く面積が大きくなるため、血栓の回収性能が高くなる。
なお、
図12に示すような、特定のセルの剛性を他のセルの剛性よりも小さくする構成は、前述した環状体13及びコイル状要素15を有するステント11に適用することもできる。
【0048】
図13は、セルの線幅等を変えることにより、回転するように構成したステント11の展開図である。
図13に示すステント11のセルは、環状体13及びコイル状要素15の代わりに、均等な大きさの複数のセルにより網目状に構成されている。
図13において、斜線を付したセル列S1の線幅は、他のセル列S2の線幅よりも狭くなるように形成されている。これにより、セル列S1の剛性は、セル列S2の剛性よりも小さくなる。なお、
図13は模式図であるため、各セル列の線幅を同一に図示している。
【0049】
図13に示すようなステント11は、例えば、金属のチューブをレーザ加工する際に、セル列S1となる領域の線幅を50μmとし、セル列S2となる領域の線幅を100μmとすることにより作製できる。また、セル列S1とS2を構成するワイヤ状の部材を同じ線幅とし、メッキ層の有無により線幅や剛性を調整してもよい。例えば、ワイヤ状の部材をNi-Ti合金で作製し、セル列S2のみに白金、金等のメッキを施すことにより、セル列S1の線幅や剛性をセル列S2の線幅や剛性よりも小さくすることができる。この場合、線幅や剛性の差は、メッキ層の厚みにより調整することができる。この他、Ni-Ti合金で作製した同じ線幅を有するステント11において、セル列S1を構成するワイヤ状の部材にのみイオンを注入して物性を変化させることにより、セル列S1の線幅や剛性をセル列S2の線幅や剛性よりも小さくすることができる。
【0050】
図13に示すようなステント11を縮径した状態でカテーテル12内に挿入すると、縮径時の圧力により、相対的に剛性が小さいセル列S1が潰れやすいため、ステント11をカテーテル12の先端から押し出すと、潰れたセル列S1の部分からセル列S2が軸線方向LDに対して斜めに傾いた状態となる。そのため、カテーテル12の先端から押し出された際に、ステント11は、セル列が傾いた方向に沿って回転しながら展開することとなる。
なお、
図13に示すような、特定のセル列の線幅や剛性を他のセル列の線幅や剛性よりも小さくする構成は、前述した環状体13及びコイル状要素15を有するステント11に適用することもできる。
【0051】
次に、本発明に係るステント及びカテーテル・ステント・システムの具体例について説明する。
先に説明したように、従来のステントでは、拡張力を大きくすることにより血栓の捕捉性を高めている。しかし、ステントの拡張力を大きくし過ぎると、血栓が破砕したり、血管壁への負担が増えたりすることが考えられる。これを回避するために、ステントの拡張力を小さくすると、ステントが血栓を突き抜けた後に径方向に十分に広がりにくくなるため、ステントを引き抜いたときに血栓を捕り損ねるおそれがある。一方、実施形態のステント11は、拡張力が小さく、回転しながら且つ首を振りながら展開するため、より血栓に絡みやすくなる。そのため、実施形態のステント11によれば、血栓の捕捉性が向上するため、血栓の回収率を高めることができる。また、ステントの血管への追従性を向上させることができる。
【0052】
本発明に係るステントにおいて、後述する測定条件で測定した単位長さ当たりの拡張力の上限値は、0.05N/mmであり、好ましくは0.02N/mmである。前記拡張力の下限値は、好ましくは0.001N/mmであり、更に好ましくは0.01N/mmである。
このように、ステントの単位長さ当たりの拡張力を上記範囲とすることにより、血栓の回収率を高めつつ、血栓が破砕したり、血管壁への負担が増えたりする不具合を抑制できる。また、回転しながら且つ首を振りながら展開するステントにおいて、拡張力を大きくすると、血管壁との摩擦により首振りのための力が低減することが考えられる。これに対して、実施形態のステント11は、拡張力が小さいため、血管壁との摩擦により首振りのための力が低減することを抑制できる。
【0053】
また、ステントは、カテーテル内において摺動性が高いことが望ましい。ステントの摺動性は、ステントの表面における摺動抵抗の大きさである。摺動抵抗の大きさは、例えば、カテーテルに挿入されたステントを一方向に引き出したときの引張荷重(N)により表すことができる。本発明に係るステントにおいて、摺動性(摺動抵抗)は、後述する測定条件で測定した引張荷重で表される上限値が3Nであり、好ましくは1Nである。前記引張荷重の下限値は、0.01Nであり、好ましくは0.5Nである。このように、ステントの引張荷重を上記範囲とすることにより、カテーテル内において、体外から病変部位、病変部位から体外へ移動するステントの操作性を向上させることができると共に、カテーテルの先端からステントが回転しながら且つ首を振りながら展開する挙動をより円滑に行うことが可能となる。
【0054】
次に、本発明に係るステントの拡張力及び摺動性の試験結果について説明する。
<拡張力>
作製例1及び2として、拡張力を小さく設定した2種類のステントを用意した。また、従来例1として、拡張力が大きいステントを用意した。従来例1は、一般に広く使用されている既製品である。
使用機器:Radial force testing systems(Blockwise社製)
試験条件:
試験機のチャンバー内温度:37±2℃
試験開始時のステント径:0.5mm(カテーテル内のポリマーチューブ内に縮径されている)
試験機の拡径速度:0.1~0.5mm/s
試験方法:
(1)試験機のチャンバー内温度を37±2℃に設定する。
(2)ステントの全体を試験機のチャンバー内にセットし、試験開始時の径となるまで縮径する。
(3)前記拡径速度で試験機のチャンバーを徐々に拡径したときの径方向の拡張力を記録する。
(4)前記拡張力をステントの有効長で除算して、単位長さ当たりの拡張力を算出する。
【0055】
図14及び
図15は、作製例1、2と従来例1の各ステントについて、上記測定条件に基づいて拡径した場合の拡張力の変化を示すグラフである。
図14及び
図15に示すグラフは、拡径されたステントの径[mm]と、それぞれの径において算出された単位長さ当たりの拡張力[N/mm]との関係を示している。
図14(A)は、作製例1のステントを拡径した場合の拡張力の変化を示すグラフである。
図14(B)は、作製例2のステントを拡径した場合の拡張力の変化を示すグラフである。
図15は、従来例1のステントを拡径した場合の拡張力の変化を示すグラフである。
【0056】
作製例1のステントは、最大拡径時の外径が2mm(公差+0.2/-0.1)となる品種である。作製例2、従来例1のステントは、それぞれ最大拡径時の外径が4mm(公差+0.2/-0.1)となる品種である。
【0057】
作製例1、2と従来例1の各ステントについて、対象血管径の下限値の径における値を測定したところ、以下のような数値となった。
作製例1:0.015[N/mm]
作製例2:0.026[N/mm]
従来例1:0.074[N/mm]
【0058】
上記の試験結果から、作製例1及び2ステントは、本発明に係るステントの拡張力に関する要件(単位長さ当たりの拡張力が0.05N/mm以下)を満たしていることが確認された。一方、従来例1のステントは、本発明に係るステントの拡張力に関する要件を満たしていないことが確認された。このように、対象となるステントが、本発明に係るステントの拡張力に関する要件を満たしているか否かは、上記の測定条件に基づいて検証できる。
【0059】
<摺動性>
作製例として、表面に摩擦抵抗を低くするコーティングを施したステントを用意し、下記の測定条件で引張荷重を測定した。作製例のステントは、最大拡径時の外径が4mm(公差+0.2/-0.1)となる品種であり、上述した本発明に係るステントの拡張力に関する要件(単位長さ当たりの拡張力が0.05N/mm以下)を満たしている。
使用機器:マイクロカテーテル:Headway21(MicroVention社製)
デジタルフォースゲージ(プッシュプルゲージ)
引き込み装置
恒温槽
サーモメーター
試験条件:
スピード:60mm/min
引張距離:有効長+10mm
試験温度:37±2℃
試験方法:
(1)恒温槽の温度が37±2℃であることをサーモメーターで確認する。
(2)マイクロカテーテルを恒温槽の中に設置する。
(3)ステントの全体がマイクロカテーテルに収まるまでマイクロカテーテルの手元側からステントリトリーバーを挿入する。なお、ステントリトリーバーは、実施形態のステント11にワイヤ14を連結した器具に相当する。
(4)引き込み装置に設置したデジタルフォースゲージとステントリトリーバーの手元側とを接続する。
(5)マイクロカテーテルとステントリトリーバーとを直線状にした状態でマイクロカテーテルを固定し、引き込み装置により一定の規定スピードでステントリトリーバーを手元方向に引っ張る。
(6)ステントリトリーバーを有効長+10mmだけ引っ張ったときにデジタルフォースゲージで測定される引張荷重の最大値、最小値を記録する。
作製例のステントについて、上記試験を複数回繰り返したところ、以下のような数値となった。
最大値:1.271(N)
最小値:0.706(N)
平均値:1.007(N)
標準偏差:0.207(N)
【0060】
上記の試験結果から、作製例のステントは、本発明に係わるステントの摺動性に関する要件(引張荷重が3N以下)を満たしていることが確認された。このように、対象となるステントが、本発明に係るステントの摺動性に関する要件を満たしているか否かは、上記の測定条件に基づいて検証できる。
【0061】
<回収率試験>
次に、実施例及び比較例のステントを用いて血栓の回収率を測定した試験結果について説明する。
回収率の測定に用いた実施例1~4及び比較例1のステントは、環状体13及びコイル状要素15により回転しながら且つ首を振るように構成したステントである(
図2参照)。実施例5のステントは、均等な大きさの複数のセルにより回転しながら且つ首を振るように構成したステントである。実施例5は、
図12に示すセルCL1の剛性をセルCL2よりも小さくしたステントである。実施例6~8のステントは、均等な大きさのセルにより回転するように構成したステントである。このうち、実施例6は、
図13に示すセル列S1の線幅を、セル列S2の線幅よりも小さくしたステントである。実施例7は、
図13に示すセル列S1にはメッキ層を形成せず、セル列S2に白金のメッキ層を形成したステントである。実施例8は、
図13に示すセル列S1にのみイオン注入して剛性を小さくし、セル列S2にはイオン注入していないステントである。
【0062】
実施例1のステントを挿入するモデル血管として、内径1.5mmのシリコンチューブを用意した。実施例2、5~8及び比較例1のステントを挿入するモデル血管として、それぞれ内径2mmのシリコンチューブを用意した。また、実施例3のステントを挿入するモデル血管として、内径1mmのシリコンチューブを用意した。実施例4のステントを挿入するモデル血管として、内径3mmのシリコンチューブを用意した。そして、これらシリコンチューブの中に、血栓に見立てた同じ大きさの粘着物(以下、「疑似血栓」ともいう)を挿入した。疑似血栓として、粘土を、着色した水で柔らかくしたものを用いた。
【0063】
実施例1~8は、単位長さ当たりの拡張力が0.05N/mm以下となるように調整したステントである。比較例1は、単位長さ当たりの拡張力が0.05N/mmを超えるように調整したステントである。実施例1のステントは、最大拡径時の外径が2mm(公差±0.2)となる品種である。実施例2、5~8及び比較例1のステントは、最大拡径時の外径が4mm(公差±0.2)となる品種である。実施例3の各ステントは、最大拡径時の外径が1.5mm(公差±0.2)となる品種である。実施例4の各ステントは、最大拡径時の外径が6mm(公差±0.2)となる品種である。実施例1~8及び比較例1のステントにおいて、対象血管径の下限値の径における単位長さ当たりの拡張力は、以下のような測定値となった。
【0064】
実施例1:0.01N/mm
実施例2:0.03N/mm
実施例3:0.04N/mm
実施例4:0.05N/mm
実施例5:0.035N/mm
実施例6:0.04N/mm
実施例7:0.04N/mm
実施例8:0.05N/mm
比較例1:0.07N/mm
上記ステントを用いて、モデル血管内に挿入した疑似血栓を回収する試験を行った。回収方法は、前述した
図8(A)~(E)の手順に準じて行った。回収率は、モデル血管に挿入した疑似血栓の回収を60回行い、回収できた回数の比率を回収率として算出した。評価は、回収率95.0%未満を「×」、95.0%以上、98.0%未満を「△」、98.0%以上を「○」とした。このうち、「×」の評価をNG、「△」及び「○」の評価をOKとした。なお、「△」は、実用的にはOKのレベルではあるが、「○」よりは評価がやや下がることを意味している。
【0065】
実施例1~8及び比較例1の各ステントについて、上記試験による評価結果を表1に示す。
【表1】
【0066】
表1から明らかなように、単位長さ当たりの拡張力が0.05N/mmを超える比較例1のステントでは、回収率が95.0%未満となり、評価は「×」となった。一方、単位長さ当たりの拡張力が0.05N/mm以下となるように調整した実施例1及び2のステントにおいて、実施例2のステントは、回収率が96.7%となり、評価は「△」となった。また、拡張力が実施例2よりも更に低い実施例1のステントは、回収率が98.3%となり、評価は「○」となった。実施例3のステントは、回収率が96.1%となり、評価は「△」となった。実施例4のステントは、回収率が95.8%となり、評価は「△」となった。実施例5のステントは、回収率が98.1%となり、評価は「○」となった。実施例6~8のステントは、回収率が95.2~96.1%となり、評価はすべて「△」となった。
【0067】
以上の結果から、実施例1~8のステントは、いずれも血栓の回収率が高いことが明らかとなった。実施例1~8のステントは、拡張力が高い比較例1と比べて、血栓の回収時に血栓を細断しにくいために血栓の取りこぼしが少なく、回収できる血栓の量が多くなったと考えられる。また、拡張力が最も低い実施例1のステントは、血栓の回収率が最も高くなり、回転しながら且つ首を振りながら展開するために、血栓の回収率をより高くできることが明らかとなった。特に、ステントを回転させることは、血栓の回収率を高めるために好ましい動作となる。
【0068】
上記実施例1~8及び比較例1について、ステントの有効長をそれぞれ40mmとして、「モデル血管の撓みの評価」及び「動物での血管損傷の程度」の各項目について、それぞれの評価を行った。実施例1~8及び比較例1の拡張力は、上記値と同じとした。モデル血管の撓みの評価は、対象血管径と同じ内径を有する屈曲したモデル血管(屈曲角度は、例えば90度)を用意し、ステントの中心部が屈曲の中心に位置するように位置させ、モデル血管の屈曲部の角度変化を評価する試験である。動物での血管損傷の程度は、実験動物の血管から対象血管径と同じ血管径である血管を選択し、選択した血管においてステントを展開して、血栓の回収と同じ操作を実施すると共に、操作の前後で血管造影を行い、血管の損傷(例えば出血等)を評価する。また、数日(例えば30日)経過した後、改めて血管造影を行うと共に、対象血管の病理検査により損傷を確認する試験である。これら評価の結果、比較例1のステントに比べて、実施例1~8のステントは、いずれの項目も優秀な評価結果が得られた。
【0069】
以上、本発明に係るステントの実施形態について説明したが、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、後述する変形形態のように種々の変形や変更が可能であって、それらも本開示の技術的範囲内に含まれる。
【0070】
(1)ステント11において、一方のコイル状要素15Rの長さと他方のコイル状要素15Lの長さとは、同じであってもよい。一方のコイル状要素15Rの長さ及び他方のコイル状要素15Lの長さの両方が、脚部17aの長さよりも長くてもよく、あるいは、脚部17aの長さよりも短くてもよい。コイル状要素15の螺旋方向は、左巻きでもよく、右巻きでもよい。また、ステント11は、回転のための一構成例として、環状体13及びコイル状要素15を有するが、これに限らず、例えば、手元でワイヤ14を回転させることによってもステント11を回転させることができる。
【0071】
(2)ステント11において、ストラット(脚部17a)を含む複数本が抜けた形状としてもよい。また、ステント11において、軸線方向LDに連続するストラットの太さが他のストラットよりも太くなる形状としてもよい。その場合、太い連続するストラットは、1つのステントに2本以上設けてもよい。
【0072】
(3)ステント11において、環方向CDに隣接するコイル状要素15を繋ぐように、環方向CDに延びる第1追加ストラットを設けてもよい。また、ステント11において、環方向CDと直交する方向に隣接する環状体13を繋ぐように、環方向CDと直交する方向に延びる第2追加ストラットを設けてもよい。さらに、1つのステント11に、第1追加ストラット及び第2追加ストラットの両方が設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0073】
10 カテーテル・ステント・システム
11 ステント
12 カテーテル
13 環状体(波線状パターン体)
14 ワイヤ
15 コイル状要素
15L 他方のコイル状要素
15R 一方のコイル状要素
17 波形要素
17a 脚部
17b 頂部
21 スリット
LD 軸線方向(中心軸線方向)
RD 径方向
CD 環方向