(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】電子ビームの照射エリア調整方法および同調整システム、電子ビームの照射領域補正方法、ならびに、電子ビーム照射装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/22 20060101AFI20230620BHJP
H01J 37/147 20060101ALI20230620BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20230620BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
H01J37/22 502Z
H01J37/147 E
H01J37/28 Z
H01J37/305 A
(21)【出願番号】P 2020181816
(22)【出願日】2020-10-29
(62)【分割の表示】P 2017026951の分割
【原出願日】2017-02-16
【審査請求日】2020-11-25
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】230112025
【氏名又は名称】小林 英了
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【氏名又は名称】大野 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【氏名又は名称】津田 理
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【氏名又は名称】松野 知紘
(74)【代理人】
【識別番号】100174137
【氏名又は名称】酒谷 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100184181
【氏名又は名称】野本 裕史
(72)【発明者】
【氏名】田島 涼
(72)【発明者】
【氏名】畠山 雅規
(72)【発明者】
【氏名】末松 健一
(72)【発明者】
【氏名】塚本 究
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 賢治
(72)【発明者】
【氏名】吉川 省二
(72)【発明者】
【氏名】岡田 真一
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 健二
【合議体】
【審判長】山村 浩
【審判官】波多江 進
【審判官】野村 伸雄
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-85570(JP,U)
【文献】特開2015-35379(JP,A)
【文献】特開2016-110767(JP,A)
【文献】特開2012-28279(JP,A)
【文献】特開2016-27604(JP,A)
【文献】特開2004-271269(JP,A)
【文献】特開2012-186099(JP,A)
【文献】国際公開第01/69643(WO,A1)
【文献】特開平5-190130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00 - 37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビーム発生装置からの電子ビームを、時間tとともに変化する電圧V1(t)を第1電極に印加することで第1方向にスキャンし、時間tとともに変化する電圧V2(t)を第2電極に印加することで前記第1方向と直交する第2方向にスキャンすることにより、長方形の領域をターゲットとして電子ビームを照射するように意図された電子ビーム照射装置において、電子ビームの照射領域が長方形ではなく前記第1方向に歪んだ概略平行四辺形となっている場合に、
前記第1電極に電圧V1(t)+kV2(t)(kは定数)を印加し、前記第2電極に電圧V2(t)を印加することによって、電子ビームの照射領域が長方形となるよう補正し、
前記電圧V2(t)は、ある値になって期間T0経過後に別の値に変化することをN0回繰り返し、
前記電圧V1(t)は、前記期間T0を周期とし
、前記期間T0の前半において線形に増加し、前記期間T0の後半において同じ傾きで線形
に減少することを前記N0回繰り返し、
前記T0,N0は、それぞれ前記長方形の前記第1方向の長さおよび前記第2方向の長さに対応する、電子ビームの照射領域補正方法。
【請求項2】
前記kは、電子ビームの照射領域が長方形に近づくよう設定される、請求項1に記載の電子ビームの照射領域補正方法。
【請求項3】
前記kの絶対値は、前記第1方向の歪みが大きいほど大きく設定される、請求項1または2に記載の電子ビームの照射領域補正方法。
【請求項4】
電子ビーム発生装置からの電子ビームを、時間tとともに変化する電圧V1(t)を第1電極に印加することで第1方向にスキャンし、時間tとともに変化する電圧V2(t)を第2電極に印加することで前記第1方向と直交する第2方向にスキャンすることにより、長方形の領域をターゲットとして電子ビームを照射するように意図された電子ビーム照射装置において、
電子ビームの照射領域が長方形ではなく前記第1方向に歪んだ概略平行四辺形となっている場合に、前記第1電極に電圧V1(t)+kV2(t)(kは定数)を印加し、前記第2電極に電圧V2(t)を印加する電子ビーム制御装置を備え、これによって、電子ビームの照射領域が長方形となるよう補正し、
前記電圧V2(t)は、ある値になって期間T0経過後に別の値に変化することをN0回繰り返し、
前記電圧V1(t)は、前記期間T0を周期とし
、前記期間T0の前半において線形に増加し、前記期間T0の後半において同じ傾きで線形
に減少することを前記N0回繰り返し、
前記T0,N0は、それぞれ前記長方形の前記第1方向の長さおよび前記第2方向の長さに対応する、電子ビーム照射装置。
【請求項5】
電子ビームを発生する電子ビーム発生装置と、
前記電子ビーム発生装置からの電子ビームを第1方向に偏向する第1電極と、
前記電子ビーム発生装置からの電子ビームを、前記第1方向と直交する第2方向に偏向する第2電極と、
前記第1電極および前記第2電極に印加される電圧を制御する電子ビーム制御装置と、を備え、
電子ビーム発生装置からの電子ビームを、時間tとともに変化する電圧V1(t)を前記第1電極に印加することで前記第1方向にスキャンし、時間tとともに変化する電圧V2(t)を前記第2電極に印加することで前記第2方向にスキャンすることにより、長方形の領域をターゲットとして電子ビームを照射するように意図していながら、電子ビームの照射領域が長方形ではなく前記第1方向に歪んだ概略平行四辺形となっている場合に、
前記電子ビーム制御装置は、前記第1電極に電圧V1(t)+kV2(t)(kは定数)を印加し、前記第2電極に電圧V2(t)を印加し、これによって、電子ビームの照射領域が長方形となるよう補正し、
前記電圧V2(t)は、ある値になって期間T0経過後に別の値に変化することをN0回繰り返し、
前記電圧V1(t)は、前記期間T0を周期とし
、前記期間T0の前半において線形に増加し、前記期間T0の後半において同じ傾きで線形
に減少することを前記N0回繰り返し、
前記T0,N0は、それぞれ前記長方形の前記第1方向の長さおよび前記第2方向の長さに対応する、電子ビーム照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビームの照射エリア調整方法および同調整システム、電子ビームの照射領域補正方法、ならびに、電子ビーム照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビーム照射装置は、例えば半導体デバイスの製造工程において、マスクに電子ビームを照射し、これによってマスクのエッチング耐性を向上させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、性能がよい電子ビーム照射装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、電子ビームを偏向器で偏向させて照射対象に照射する電子ビーム照射装置における電子ビームの照射エリアを調整する方法であって、電子ビーム照射レシピに基づいて前記偏向器を制御することにより、照射された電子ビームに対応した電流を検出する調整プレートに対して照射位置を変えながら電子ビームを照射する電子ビーム照射ステップと、前記調整プレートから検出される電流を取得する電流取得ステップと、取得された電流値に対応する画像データを形成する画像形成ステップと、形成された画像データに基づいて、電子ビームの照射エリアが適切か否かの判定を行う判定ステップと、照射エリアが不適切と判定された場合に、前記電子ビーム照射レシピを更新するレシピ更新ステップと、を備える電子ビームの照射エリア調整方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1A】電子ビーム照射装置の概略構成を模式的に示す図。
【
図1C】パーティクルキャッチャ11Bの構成例を示す図。
【
図1E】電子ビームをXY方向に偏向させる制御の説明図。
【
図1F】電子ビームをXY方向に偏向させる制御の説明図。
【
図2A】電子ビーム照射装置における照射エリア調整システム200の概略構成を示す図。
【
図2CA】調整プレート21に対する電子ビームの照射エリアを模式的に示す図。
【
図2CB】調整プレート21に対する電子ビームの照射エリアを模式的に示す図。
【
図2D】照射エリアの調整手順を示すフローチャート。
【
図2E】電極2115に印加される電圧の時間変化を示す図。
【
図2I】電極2115に印加される、調整後の電圧の時間変化を示す図。
【
図3A】電子ビームの照射領域200,200’を模式的に示す図。
【
図3B】、
図3Aの照射領域200を得るために偏向器115における電極V,Hにそれぞれ印加される電圧Vv(t),Vh(t)を模式的に示す図。
【
図3C】照射領域200’の水平方向歪みを補正するために電極V,Hにそれぞれ印加される電圧Vv(t),Vh(t)+kVv(t)を模式的に示す図。
【
図3D】電子ビームの照射領域200,200’’を模式的に示す図。
【
図3E】照射領域200’’の垂直方向歪みを補正するために電極V,Hにそれぞれ印加される電圧Vv(t)+kVh(t),Vh(t)を模式的に示す図。
【
図4A】電子ビームの照射領域41を模式的に示す図。
【
図4B】
図4Aの照射領域41を得るために偏向器115における電極H,Vにそれぞれ印加される電圧Vh(t),Vv(t)を模式的に示す図。
【
図4C】電子ビームの照射領域42を模式的に示す図。
【
図4D】
図4Cの照射領域42の点4P1から点4P2までの間に偏向器115の電極H,Vにそれぞれ印加される電圧Vh(t),Vv(t)を模式的に示す図。
【
図4E】
図4Cの照射領域42の点4P2から点4P3までの間に偏向器115の電極H,Vにそれぞれ印加される電圧Vh(t),Vv(t)を模式的に示す図。
【
図5A】本実施形態に係る電子ビーム位置検出システム500の概略構成を示す図である。
【
図5B】本実施形態に係る測定ユニット127の上面図である。
【
図5C】本実施形態に係る測定ユニット127のプレート52を除去した場合の上面図である。
【
図5E】プレート52における貫通孔の配置の一例を示す図である。
【
図5F】プレート52の右上の領域の中心に、電子ビームの位置を合わせる処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6A】電子ビーム照射装置の印加ピンに係る構成を拡大して示す概略図。
【
図6C】電子ビーム照射装置の動作の一例を示すフローチャート。
【
図6D】ロボットハンドのティーチングに係る構成を示す平面図。
【
図7B】本実施形態による連結器具の一例を示す概略図。
【
図7D】
図7Cに示す第1フランジ部材のA-A線に沿った断面を示す図。
【
図7F】
図7Eに示す第2フランジ部材のB-B線に沿った断面を示す図。
【
図7G】
図7Bに示す連結器具を用いてフランジサイズの異なる配管を連結する方法の一例を示すフローチャート。
【
図8A】本実施形態に係る電子ビーム発生装置112の断面図。
【
図8F】各電極840に印加された電圧が-1.00Vである場合の、放出される電子ビームの形状を示すシミュレーション結果。
【
図8G】各電極840に印加された電圧が-0.50Vである場合の、放出される電子ビームの形状を示すシミュレーション結果。
【
図8H】各電極840に印加された電圧が-0.13Vである場合の、放出される電子ビームの形状を示すシミュレーション結果。
【
図8I】各電極840に印加された電圧が0.00Vである場合の、放出される電子ビームの形状を示すシミュレーション結果。
【
図8J】各電極840に印加された電圧が+2.00Vである場合の、放出される電子ビームの形状を示すシミュレーション結果。
【
図8K】隣接する電極840a~840cに印加された電圧がそれぞれ-0.50V,-0.13V,-0.50Vである場合の、放出される電子ビームの形状を示すシミュレーション結果。
【
図8L】
図8Aの変形例に係る電子ビーム発生装置112’の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
まずは電子ビーム照射装置の基本的な構成を説明する。
【0008】
図1Aは、電子ビーム照射装置の概略構成を模式的に示す図である。この電子ビーム照射装置の処理対象である試料Wは、NIL(Nano Imprint Lithography)用マスク、フォトマスク、EUV(Extreme Ultraviolet Lithography)マスクなどであり、特に100
nm以下とりわけ20nm以下の微細パターン作製に用いるマスクの処理に好適である。また、試料Wは、Si,GaAsなどの半導体ウエハであってもよい。
【0009】
電子ビーム照射装置は、コラム部11と、その下方に設けられたメインチャンバ部12と、制御部13とを備えている。
【0010】
コラム部11は、鉛直方向に延びる円筒状の真空管111と、電子ビーム発生装置112と、アパーチャ113と、レンズ114と、偏向器115と、センサユニット116と、ゲートバルブ117と、ターボ分子ポンプ118と、ゲートバルブ11Aと、パーティクルキャッチャ11Bとを有する。
【0011】
電子ビーム発生装置112は真空管111の上部に設けられており、下方に向かって電子ビームを照射する。電子ビーム発生装置112の構成例を第7の実施形態で説明する。アパーチャ113は電子ビーム発生装置112の下方に設けられ、中央に形成された直径が2mm以下の開口を電子ビームが通過する。偏向器115はレンズ114の下方に設けられ、電子ビームを偏向させることができる。なお、レンズ114は、真空管111内に配置された静電レンズであってもよいし、真空管111外に配置された磁場レンズであってもよい。また、偏向器115は、真空管111内に配置された静電偏向器であってもよいし、真空管111外に配置された磁場偏向器であってもよい。
【0012】
真空管111は電子ビーム発生装置112とアパーチャ113との間で水平方向に分岐した中間排気ライン111aを有しており、中間排気ライン111a上に、センサユニット116、ゲートバルブ117およびターボ分子ポンプ118が順に設けられている。
【0013】
このような構成により真空管111内を差動排気でき、電子ビーム発生装置112近傍の圧力をメインチャンバ部12内の圧力より低くできる。なお、アパーチャ113に加え、その下に小径管(不図示)を設けてコンダクタンスを調整することにより差動排気の効果を向上させてもよい。
【0014】
図1Bは、センサユニット116の模式的断面図である。電子ビーム照射装置を小型化するため、中間排気ライン111aから放射状に複数のポート111bが延びており、各ポート111bに圧力モニタ116a、N
2導入部116b、大気圧センサ116cなどが配置されている。上記圧力モニタ116aは真空管111内の圧力をモニタし、電子ビーム発生装置112の劣化状態を監視したり、交換時期を判断したりする。
【0015】
各ポート111bの直径dは中間排気ライン111aの中心部の直径Dの1/3以上とする(d/D≧1/3)のが望ましい。ポート111bの直径dが小さすぎると圧力モニタ116aが真空管111内の圧力を正確にモニタできないためである。
【0016】
図1Aに戻り、ゲートバルブ11Aは真空管111内であってアパーチャ113とメインチャンバ部12との間に開閉可能に設けられる。ゲートバルブ11Aを設けることで、メインチャンバ部12と真空管111内との真空状態を切り分けることができる。
【0017】
パーティクルキャッチャ11Bは真空管111内であってゲートバルブ11Aとメインチャンバ部12との間に挿脱可能に設けられ、ゲートバルブ11Aの作動時などに発生するパーティクルがメインチャンバ部12内に落下するのを防止する。
【0018】
図1Cは、パーティクルキャッチャ11Bの構成例を示す図である。パーティクルキャッチャ11Bは、ベース部材11Baと、ベース部材11Baの上に設けられた吸着材11Bbとで構成されている。吸着材11BbはSiO
2ゲルなどであり、真空管111内を落下するパーティクルを吸着する。パーティクルキャッチャ11Bを設けることにより、真空管111内を落下するパーティクルがメインチャンバ部12内に配置された試料Wの表面に落ちるのを防ぐことができる。
【0019】
図1Aに戻り、パーティクルキャッチャ11Bは、真空管111内における電子ビームの光軸上に出し入れ可能とされている。
【0020】
メインチャンバ部12は、真空チャンバであるメインチャンバ121と、ゲートバルブ122と、ターボ分子ポンプ123と、ステージ124と、印加ピン125と、アパーチャ126と、測定ユニット127とを有する。
【0021】
メインチャンバ121の側面に、試料Wを搬入出するためのゲートバルブ122が開閉可能に設けられる。また、メインチャンバ121の底面に、メインチャンバ121内を真空排気するためのターボ分子ポンプ123が設けられる。
ステージ124はメインチャンバ121内に設けられ、試料Wが載置される。
【0022】
印加ピン125の構成例は後述する第5の実施形態で説明するが、
図6Bのピン部材671,672間の導通をみるものである。電子ビーム発生装置112の電位(例えば-0.2kV~-5kV)と試料Wの電位との差に応じて照射エネルギーが定まるが、試料Wの電位がフローティングであると照射エネルギーが不安定となってしまう。そのため、印加ピン125を設けて試料Wに一定電位を印加する。
【0023】
アパーチャ126はメインチャンバ121内であってステージ124の上方に設けられる。アパーチャ126には開口126aが設けられており、電子ビームの形状や、試料Wにおけるどの領域に電子ビームを照射するかを規定する。
【0024】
図1Dは、アパーチャ126の役割を説明する図であり、上図は電子ビーム照射装置を側面から見た模式図、下図は試料Wおよびスキャンされる電子ビームを上から見た模式図
である。偏向器115は、電子ビーム発生装置112からの電子ビームが試料W上をスキャンするよう、電子ビームを偏向する。このとき、スキャンの折り返し点では電子ビームが均一とならないことがある。そのため、折り返し点に相当する電子ビームをアパーチャ126で遮蔽することで、試料Wに均一な電子ビームを照射できる。
【0025】
ここで、アパーチャ126と試料W表面との距離をLcとし、開口126aの端部とアパーチャ126の端部との距離をLpとすると、Lp/Lc≧1.5であるのが望ましい。つまり、アパーチャ126の下面と試料W表面との間の空間のアスペクト比を1.5以上とするのが望ましい。このように設計することで試料W表面から反射した電子が何度か反射して外周部に飛んでいくため、ノイズの影響を低減できる。
【0026】
図1Aに戻り、測定ユニット127は電子ビームの測定を行うものであり、メインチャンバ121内であってステージ124の下方に設けられる。測定ユニット127の詳細は第4の実施形態で説明する。
【0027】
制御部13は、全体制御部131と、電子ビーム制御部132と、周辺制御部133と、ブロックマニュホールド134とを有する。
【0028】
全体制御部131は、電子ビーム制御部132、周辺制御部133およびブロックマニュホールド134を含む電子ビーム照射装置全体の動作を制御する。全体制御部131はプロセッサやメモリから構成され得る。メモリには、プロセッサによって実行される種々のプログラムが予め記憶されていてもよいし、後から追加的に記憶できる(あるいはアップデートできる)ようになっていてもよい。
【0029】
電子ビーム制御部132は電子ビーム発生装置112や偏向器115を制御することにより、電子ビームの照射や偏向を制御する。制御例を第1~第3の実施形態で説明する。
周辺制御部133はターボ分子ポンプ118,123やドライポンプ119などを制御する。
ブロックマニュホールド134はゲートバルブ117,11A,122の開閉制御(空気圧制御)を行う。
【0030】
この電子ビーム照射装置は次のように動作する。試料Wに電子ビームを照射する場合には、ゲートバルブ11Aを開き、パーティクルキャッチャ11Bを電子ビームの光軸から外れた状態としておく。また、真空管111内およびメインチャンバ121内は真空排気されている。この状態で、電子ビーム発生装置112が電子ビームを照射する。電子ビームはアパーチャ113の開口を通り、偏向器115によって偏向され、さらにアパーチャ126の開口を通って試料Wの表面に到達する。電子ビームの照射領域は広く、例えば10×10mm~500mm×500mm程度である。
【0031】
続いて、電子ビームを試料W上で走査することを説明する。本電子ビーム照射装置では、電子ビーム制御部132の制御に応じて偏向器115が電子ビームをXY方向(試料Wの表面上の2次元方向)に偏向させることにより、試料Wの表面に均一に電子ビームを照射する。
【0032】
図1Eおよび
図1Fは、電子ビームをXY方向に偏向させる制御の説明図である。より具体的には、
図1Eは、偏向させた電子ビームの座標(X座標とY座標)の時間変化を示す図であり、
図1Fは、電子ビームをXY方向に偏向させる様子を示す平面図(試料Wを電子ビーム源側から見た平面図)である。なお、本明細書では、便宜上X方向を水平方向と呼び、Y方向を垂直方向と呼ぶこともある。
【0033】
時刻t0から時刻t1にかけて、電子ビームは、試料W上の電子ビーム到達位置を示すX座標が大きくなる方向(X座標のプラス方向、
図1Fにおける右方向、往路ともいう)に偏向され(X1,X2,X3,X4)、その後、X座標が小さくなる方向(マイナス方向、
図1Fにおける左方向、復路ともいう)に偏向される(X4,X5,X6,X7)。このとき、電子ビームのY座標はY1のまま一定である。
【0034】
ここで、
図1Fに示すように、X座標の大小関係はX1<X7<X2<X6<X3<X5<X4である。つまり、電子ビームは試料W上に離散的に照射され、かつ、照射位置は往路と復路とで互い違いになっている。このようにすることで、試料Wの表面に均一に電子ビームを照射できる。
【0035】
復路において、電子ビームの到達位置を示すX座標がX8(=X1)になると、Y座標が大きくなる方向(Y座標のプラス方向、
図1Fにおける下方向)に偏向され、電子ビームのY座標がY2になる。
【0036】
同様に、時刻t1からt2にかけて、電子ビームは、X座標が大きくなる方向に偏向され、その後、X座標が小さくなる方向に偏向される。このとき、電子ビームのY座標はY2のまま一定である。そして、X座標がX8(=X1)になると、Y座標が大きくなる方向に偏向され、電子ビームのY座標がY3になる。
【0037】
また、時刻t2からt3にかけて、電子ビームは、まずX座標が大きくなる方向に偏向され、その後、X座標が小さくなる方向に偏向される。このとき、電子ビームのY座標はY3のまま一定である。そして、X座標がX8(=X1)になると、Y座標が大きくなる方向に偏向され、電子ビームのY座標がY4になる。
【0038】
そして、時刻t3からt4にかけて、電子ビームは、まずX座標が大きくなる方向に偏向され、その後、X座標が小さくなる方向に偏向される。このとき、電子ビームのY座標はY4のまま一定である。そして、X座標がX8(=X1)になると、今度は、Y座標が小さくなる方向(Y座標のマイナス方向。
図1Fにおける上方向)に偏向され、電子ビームのY座標がY5になる。
【0039】
同様に、時刻t4からt5にかけて、電子ビームは、まずX座標が大きくなる方向に偏向され、その後、X座標が小さくなる方向に偏向される。このとき、電子ビームのY座標はY5のまま一定である。そして、X座標がX8(=X1)になると、Y座標が小さくなる方向に偏向され、電子ビームのY座標がY6になる。
【0040】
また、時刻t5からt6にかけて、電子ビームは、まずX座標が大きくなる方向に偏向され、その後、X座標が小さくなる方向に偏向される。このとき、電子ビームのY座標はY6のまま一定である。そして、X座標がX8(=X1)になると、Y座標が小さくなる方向に偏向され、電子ビームのY座標がY7になる。
【0041】
そして、時刻t6からt7にかけて、電子ビームは、まずX座標が大きくなる方向に偏向され、その後、X座標が小さくなる方向に偏向される。このとき、電子ビームのY座標はY7のまま一定である。そして、X座標がX8(=X1)になると、Y座標が小さくなる方向(Y座標のマイナス方向。
図1Fにおける上方向)に偏向され、電子ビームのY座標がY1になる。
【0042】
ここで、
図1Fに示すように、Y座標の大小関係はY1<Y7<Y2<Y6<Y3<Y5<Y4である。つまり、電子ビームはY方向においても試料W上に離散的に照射され、かつ、照射位置は往路と復路とで互い違いになっている。このようにすることで、試料W
の表面に均一に電子ビームを照射できる。
【0043】
ここで、メインチャンバ121を真空排気する際には、ターボ分子ポンプ123を起動させる前にパーティクルキャッチャ11Bを電子ビームの光軸から外しておく。これにより、パーティクルキャッチャ11Bに吸着されていたパーティクルが真空排気時の気流などの影響を受けてパーティクルキャッチャ11Bから離れて試料Wの上に落ちるのを防ぐことができる。
【0044】
なお、ある試料Wへの電子ビーム照射が終了した後、次の試料Wを搬送して電子ビーム照射をするときの処理の流れを示すフローは、第5の実施形態において
図6Cを用いて詳述する。
【0045】
[符号の説明]
11 コラム部
111 真空管
111a 中間排気ライン
112 電子ビーム発生装置
113 アパーチャ
114 レンズ
115 偏向器
116 センサユニット
116a 圧力モニタ
116b N2導入部
116c 大気圧センサ
117 ゲートバルブ
118 ターボ分子ポンプ
119 ドライポンプ
11A ゲートバルブ
11Aa ベース部材
11Ab 吸着材
11B パーティクルキャッチャ
12 メインチャンバ部
121 メインチャンバ
122 ゲートバルブ
123 ターボ分子ポンプ
124 ステージ
125 印加ピン
126 アパーチャ
126a 開口
127 測定ユニット
13 制御部
131 全体制御部
132 電子ビーム制御部
133 周辺制御部
134 ブロックマニュホールド
【0046】
以上説明した電子ビーム照射装置に対し、次に説明する各実施形態の一部または全部を適用できる。
【0047】
(第1の実施形態)
【0048】
[技術分野]
本実施形態は、電子ビームの照射エリア調整方法および調整システムに関する。
【0049】
[背景技術]
電子ビーム照射装置においては、電子ビーム発生装置112からの電子ビームを偏向器115によって偏向させて試料Wにおける特定のエリアに電子ビームを照射する(
図1A参照)。ところが、偏向器115の特性などによっては、意図したエリアとは異なるエリアに電子ビームが照射されてしまうことがある。
【0050】
[本実施形態が解決しようとする課題]
電子ビーム照射装置において、電子ビームの照射エリアを調整する方法および調整システムを提供する。
【0051】
[課題を解決するための手段]
【0052】
<態様1>
電子ビームを偏向器で偏向させて照射対象に照射する電子ビーム照射装置における電子ビームの照射エリアを調整する方法であって、
電子ビーム照射レシピに基づいて前記偏向器を制御することにより、照射された電子ビームに対応した電流を検出する調整プレートに対して照射位置を変えながら電子ビームを照射する電子ビーム照射ステップと、
前記調整プレートから検出される電流を取得する電流取得ステップと、
取得された電流値に対応する画像データを形成する画像形成ステップと、
形成された画像データに基づいて、電子ビームの照射エリアが適切か否かの判定を行う判定ステップと、
照射エリアが不適切と判定された場合に、前記電子ビーム照射レシピを更新するレシピ更新ステップと、を備える電子ビームの照射エリア調整方法。
【0053】
<態様2>
照射エリアが適切と判定されるまで、前記電子ビーム照射ステップ、前記電流取得ステップ、前記画像形成ステップ、前記判定ステップおよび前記レシピ更新ステップを繰り返す、態様1に記載の電子ビームの照射エリア調整方法。
【0054】
<態様3>
前記調整プレートは、照射された電子ビームに対応した電流を検出する部分と、電子ビームが照射されても電流を検出しない部分と、を含む、態様1または2に記載の電子ビームの照射エリア調整方法。
【0055】
<態様4>
前記画像形成ステップは、各時刻に取得された電流値を前記画像データにおける各画素の階調に変換することにより前記画像データを形成する、態様1乃至3のいずれかに記載の電子ビームの照射エリア調整方法。
【0056】
<態様5>
前記判定ステップは、形成された画像データと、予め用意した画像データとの比較により判定を行う、態様1乃至4のいずれかに記載の電子ビームの照射エリア調整方法。
【0057】
<態様6>
前記調整プレートは、第1パターンを含み、
前記予め用意した画像データは、前記第1パターンと対応する第2パターンを含み、
前記判定ステップは、形成された画像データにおける前記第1パターンと、前記予め用意した画像データにおける前記第2パターンと、の位置関係に基づいて判定を行う、態様5に記載の電子ビームの照射エリア調整方法。
【0058】
<態様7>
前記偏向器は電極を含み、該電極の電圧に応じて電子ビームが偏向され、
前記電子ビーム照射レシピは、前記電極に印加する電圧の情報を含む、態様1乃至6のいずれかに記載の電子ビームの照射エリア調整方法。
【0059】
<態様8>
前記偏向器は電極を含む静電偏向器であって、該電極の電圧に応じて電子ビームが偏向され、
前記電子ビーム照射レシピは、前記電極に印加する電圧の情報を含み、
前記調整プレートは、第1パターンを含み、
前記予め用意した画像データは、前記第1パターンと対応する第2パターンを含み、
前記判定ステップは、形成された画像データにおける前記第1パターンと、前記予め用意した画像データにおける前記第2パターンと、の位置関係に基づいて判定を行い、
前記レシピ更新ステップは、形成された画像データにおける前記第1パターンの位置と前記第2パターンの位置との距離に応じて、前記電子ビーム照射レシピにおける、前記電極に印加する電圧を更新する、態様1乃至5のいずれかに記載の電子ビームの照射エリア調整方法。
【0060】
<態様9>
前記偏向器は磁極を含む電磁偏向器であって、該磁極の電流に応じて電子ビームが偏向され、
前記電子ビーム照射レシピは、前記磁極に供給する電流の情報を含み、
前記調整プレートは、第1パターンを含み、
前記予め用意した画像データは、前記第1パターンと対応する第2パターンを含み、
前記判定ステップは、形成された画像データにおける前記第1パターンと、前記予め用意した画像データにおける前記第2パターンと、の位置関係に基づいて判定を行い、
前記レシピ更新ステップは、形成された画像データにおける前記第1パターンの位置と前記第2パターンの位置との距離に応じて、前記電子ビーム照射レシピにおける、前記磁極に供給する電流を更新する、態様1乃至5のいずれかに記載の電子ビームの照射エリア調整方法。
【0061】
<態様10>
電子ビームを偏向器で偏向させて照射対象に照射する電子ビーム照射装置における電子ビームの照射エリアを調整するシステムであって、
照射された電子ビームに対応した電流を検出する調整プレートと、
前記調整プレートから検出される電流を取得する電流計と、
取得された電流値に対応する画像データを形成する画像形成部と、
形成された画像データに基づいて、電子ビームの照射エリアが適切か否かの判定を行う判定部と、
照射エリアが不適切と判定された場合に、前記偏向器を制御するための電子ビーム照射レシピを更新するレシピ更新部と、を備える電子ビームの照射エリア調整システム。
【0062】
[本実施形態の効果]
電子ビームを調整できる。
【0063】
[図面の簡単な説明]
[
図2A]電子ビーム照射装置における照射エリア調整システム200の概略構成を示す図。
[
図2B]調整プレート21を模式的に示す上面図。
[
図2CA]調整プレート21に対する電子ビームの照射エリアを模式的に示す図。
[
図2CB]調整プレート21に対する電子ビームの照射エリアを模式的に示す図。
[
図2D]照射エリアの調整手順を示すフローチャート。
[
図2E]電極2115に印加される電圧の時間変化を示す図。
[
図2FA]
図2CAにおける照射エリアと時間との関係を示す図。
[
図2FB]
図2CBにおける照射エリアと時間との関係を示す図。
[
図2GA]取得される電流値の時間変化を示す図。
[
図2GB]取得される電流値の時間変化を示す図。
[
図2HA]
図2GAに示す電流値に対応して形成された画像データを示す図。
[
図2HB]
図2GAに示す電流値に対応して形成された画像データを示す図。
[
図2I]電極2115に印加される、調整後の電圧の時間変化を示す図。
【0064】
[本実施形態を実施するための形態]
図2Aは、電子ビーム照射装置における照射エリア調整システム200の概略構成を示す図である。なお、この照射エリア調整システム200は、試料がステージ124(
図1A)に載置されていない状態、例えば電子ビーム照射装置の立ち上げ時に調整を行う。
まず
図1Aを用いて説明したように、電子ビーム照射装置は、電子ビーム発生装置112、偏向器115および電子ビーム制御部132などを備えている。
【0065】
本実施形態における偏向器115は複数の電極2115を有する静電偏向器であり、より具体的には、偏向器115における電極2115は、電子ビームを試料上で水平方向に偏向するための2つの電極(以下、図示はしないが電極Hと呼ぶ)と、垂直方向に偏向するための2つの電極(以下、図示はしないが電極Vと呼ぶ)とを含む。そして、これら電極H,Vに印加される電圧に応じて電子ビームが偏向される。
【0066】
また、電子ビーム制御部132は、ビームスキャナ26と、偏向器電源27とを有する。ビームスキャナ26は、電極2115に印加する電圧の情報を含む電子ビーム照射レシピに基づいて、電子ビームを偏向させるための波形を発生させる。偏向器電源27は同波形に対応する電圧を発生させて電極2115に印加する。
【0067】
そして、照射エリア調整システム200は、調整プレート21と、電流計22と、画像形成部23と、判定部24と、レシピ更新部25とを備えている。なお、画像形成部23、判定部24およびレシピ更新部25は
図1Aの全体制御部131に内蔵されてもよく、その少なくとも一部が所定のプログラムを実行することによって実現されてもよい。
【0068】
調整プレート21は、照射された電子ビームに対応する電流を検出するものであり、ステージ124(
図1A)上の所定位置に載置される。つまり、調整プレート21は電子ビームの照射対象となる試料の下部に載置される。
【0069】
図2Bは、調整プレート21を模式的に示す上面図である。調整プレート21は、例えば一辺が45mmの正方形である。そして、調整プレート21は所定パターンを含んでおり、同図の具体例では左上に穴21aがパターンとして形成されている。電子ビームが穴21aとは異なる位置に照射された場合、調整プレート21は電流を検出する。一方、電子ビームが穴21aに照射された場合、調整プレート21は電流を検出しない。
【0070】
図2CAおよび
図2CBは、調整プレート21に対する電子ビームの照射エリアを模式
的に示す図である。
図2CAの破線エリアに電子ビームを照射することを意図している。ところが、
図2CBの破線に示すように、意図したエリアとは異なるエリア(同図では左上にずれたエリア)に電子ビームが照射されてしまうことがある。そこで、本実施形態では、
図2CBの状態を
図2CAの状態となるよう調整する。
【0071】
図2Aに戻り、照射エリア調整システム200における電流計22は調整プレート21と不図示の接地端子との間に接続され、調整プレート21が検出する電流を取得する。取得した電流値は画像形成部23に検出される。電流計22は各時刻に検出される電流を逐次取得する。
【0072】
画像形成部23は電流計22によって取得された電流に対応する画像データを形成する。具体的には次のようにすることができる。まず、画像形成部23は各時刻における電流値を電圧値に変換する。続いて、画像形成部23は電圧値を例えば256段階の階調に変換する。そして、画像形成部23は得られた階調を画像データの各画素の階調に設定する。
【0073】
例えば、電子ビームが穴21aとは異なる位置に照射された時刻においては、調整プレート21が電流を検出する。そのため、電圧値も大きくなり、例えば階調は255となる。よって、この時刻に対応する画素は明るくなる。一方、電子ビームが穴21aに照射された時刻においては、調整プレート21は電流を検出しない。そのため、電圧値も小さくなり、例えば階調は0となる。よって、この時刻に対応する画素は暗くなる。
【0074】
判定部24は、画像形成部23によって形成された画像データに基づいて、電子ビームの照射エリアが適切か否かを判定する。具体的には、判定部24は電子ビームの照射エリアが適切である場合に形成される画像データ(以下、テンプレート画像データという)を予め保持しておき、画像形成部23によって形成された画像データとの比較を行って判定する。さらに具体的には、判定部24は、形成された画像データにおける所定パターン(例えば
図2Bの穴21aに対応)と、テンプレート画像データにおける所定パターンとの位置ずれに基づいて判定を行う。
【0075】
レシピ更新部25は、電子ビームの照射エリアが不適切と判定された場合に、上記位置ずれを考慮して電子ビーム照射レシピを更新する。更新された電子ビーム照射レシピはビームスキャナ26に通知され、その後は更新された電子ビーム照射レシピが用いられる。具体的な更新の手法は後述する。
【0076】
図2Dは、照射エリアの調整手順を示すフローチャートである。調整プレート21に対して照射位置を変えながら電子ビームを照射すべく(ステップS21)、電子ビーム照射レシピに基づいて電子ビーム制御部132は偏向器115における電極2115に印加する電圧を制御する。説明を簡略化するため、
図1Eおよび
図1Fの説明とは異なるが、次のように電子ビームの照射エリアがスキャンされるものとする。
【0077】
図2Eは、電極2115に印加される電圧の時間変化を示す図である。より具体的には、
図2Eの上段は電子ビームを水平方向に偏向するための電極Hに印加される電圧の時間変化を示しており、同下段は電子ビームを垂直方向に偏向するための電極Vに印加される電圧の時間変化を示している。この波形が電子ビーム照射レシピに含まれる。また、
図2FAおよび
図2FBは、それぞれ
図2CAおよび
図2CBにおける照射エリアと時間との関係を示す図である。
【0078】
図2Eの時刻t10~t20において、電極Vの印加電圧は一定(例えば-3V)であり、電極Hの印加電圧は例えば-2Vから2Vまで線形に高くなる。よって、
図2FAお
よび
図2FBに示すように、時刻t10~t20において、電子ビームの照射位置は、垂直方向では一定であり、水平方向に移動する(1ライン目と呼ぶ)。
【0079】
図2Eの時刻t20において、電極Vの印加電圧が高くなる(例えば-2.25V)。そして、やはり時刻t20~t30において、電極Hの印加電圧は線形に高くなる。よって、
図2FAおよび
図2FBに示すように、時刻t20~t30において、電子ビームの照射位置は、垂直方向は時刻t10~t20とは異なる位置において一定であり、水平方向に移動する(2ライン目と呼ぶ)。以降も同様に5ライン目までで照射エリアのスキャンが完了する。
【0080】
図2Dに戻り、電流計22は調整プレート21から検出される各時刻の電流を取得する(ステップS22)。
図2GAは、取得される電流値の時間変化を示す図であり、
図2FAと対応している。
【0081】
1ライン目の時刻t10~t20では、調整プレート21の穴21aではない位置に電子ビームが照射される(
図2FA)。よって、時刻t10~t20では一定の電流値が取得される(
図2GA)。2ライン目の時刻t20~t30も同様である。
【0082】
3ライン目において、時刻t30~t35では、調整プレート21の穴21aではない位置に電子ビームが照射されるため(
図2FA)、時刻t10~30と同じ電流値が取得される(
図2GA)。一方、引き続く時刻t35~t36では、調整プレート21の穴21aに電子ビームが照射されるため(
図2FA)、ほとんど電流が流れない(
図2GA)。その後の時刻t35~t40では、調整プレート21の穴21aではない位置に電子ビームが照射されるため、時刻t10~40と同じ電流値が取得される(
図2GA)。
【0083】
4ライン目の時刻t40~t50および5ライン目の時刻t50~t60は、1ライン目および2ライン目と同様である。以上から、
図2GAに示す電流値が取得される。
【0084】
図2GBは、取得される電流値の時間変化を示す図であり、
図2FBと対応している。
1ライン目の時刻t10~t20では、電子ビームが照射される位置に調整プレート21はないため(
図2FB)、ほとんど電流が流れない(
図2GB)。
【0085】
2ライン目において、時刻t20~t21では、電子ビームが照射される位置に調整プレート21はないため(
図2FB)、ほとんど電流が流れない(
図2GB)。その後の時刻t21~t30では、調整プレート21の穴21aではない位置に電子ビームが照射されるため、一定の電流値が取得される(
図2GB)。3ライン目も同様である。
【0086】
4ライン目において、時刻t40~t41では、電子ビームが照射される位置に調整プレート21はないため(
図2FB)、ほとんど電流が流れない(
図2GB)。その後の時刻t41~t46では、調整プレート21の穴21aではない位置に電子ビームが照射されるため、時刻t21~t30と同じ電流値が取得される(
図2GB)。引き続く時刻t46~t47では、調整プレート21の穴21aに電子ビームが照射されるため(
図2FB)、ほとんど電流が流れない(
図2GB)。その後の時刻t47~t50では、調整プレート21の穴21aではない位置に電子ビームが照射されるため、時刻t21~t30と同じ電流値が取得される(
図2GB)。
【0087】
5ライン目の時刻t50~t60は2ライン目および3ライン目と同様である。以上から、
図2GBに示す電流値が取得される。
【0088】
図2Dに戻り、画像形成部23は取得された電流値に対応する画像データを形成する(
ステップS23)。
【0089】
図2HAは、
図2GAに示す電流値に対応して形成された画像データを示す図である。時刻t10~t20における電流値が画像データの1ライン目の各画素値と対応する。時刻t10~t20では電流値が大きいため、1ライン目の各画素値は大きく、明るい。以下同様に考えて、
図2HAの画像データにおいては3ライン目の時刻t35~t36に対応する画素だけ暗くなる。この暗い位置は
図2Bの穴21aと対応する。
【0090】
この画像データは、
図2Cに示す意図通りのエリアに電子ビームが照射された場合の画像データ、すなわちテンプレート画像データである。テンプレート画像データは、調整プレート21上の意図する照射エリアのパターンに基づいて机上で作成でき、次に説明する判定部24がこのテンプレート画像データを予め保持している。テンプレート画像データには、調整プレート21のパターン(穴21a)と対応するパターン21bが含まれている。
【0091】
図2HBは、
図2GBに示す電流値に対応して形成された画像データを示す図である。
図2GBにおいて、時刻t10~t20ではほとんど電流が流れないため、
図2HBの画像データは1ライン目が暗い。また、時刻t20~t21,t30~t31,t40~t41,t50~t51でもほとんど電流が流れないため、同画像データの左端も暗い。そして、4ライン目の時刻t46~t47でもほとんど電流が流れないため、4ライン目の一部に暗いパターン21b’が発生する。このパターン21b’が調整プレート21のパターン(穴21a)と対応する。
【0092】
図2Dに戻り、判定部24は電子ビームの照射エリアが適切か否かを判定する(ステップS24)。具体的には、判定部24は、予め保持しているテンプレート画像データと、ステップS23で形成された画像データとのパターンマッチングを行う。
【0093】
テンプレート画像データが
図2HAに示すものであり、ステップS23で形成された画像データが
図2HBに示すものであるとする。判定部24は、
図2HAのテンプレート画像データにおけるパターン21bと、
図2HBの画像データにおけるパターン21b’との位置関係すなわち距離Dを算出する。そして、判定部24はこの距離Dが所定の許容値以下であれば、照射エリアが適切であると判定し(
図2DのステップS24のYES)、調整を終了する。
【0094】
一方、この距離Dが同許容値を上回っていれば、照射エリアが不適切と判定する(ステップS24のNO)。この場合、レシピ更新部25は電子ビーム照射レシピを更新する(ステップS25)。より具体的には、レシピ更新部25は、ビームスキャナ26が生成する波形(例えば
図2Eに示すような電圧波形)を変更する。距離Dが大きいほど変更量が大きい。
【0095】
例えば、各画像データの画素数が256×256であり、テンプレート画像データ(
図2HA)におけるパターン21bの位置が(128,128)、ステップS23で形成された画像データ(
図2HB)におけるパターン21b’の位置が(192,192)であったとする。この場合、照射エリアは水平方向および垂直方向に画像サイズの25%だけずれている。よって、
図2Eに示す波形を25%調整する。すなわち、
図2Eにおいて、水平方向は-2V~2Vの範囲で電圧を電極Hに印加しているが、これを-1V~3Vに変更する(
図2I上段)。垂直方向は-3V~1Vの範囲で電圧を電極Vに印加しているが、これを-2V~2Vに変更する(
図2I下段)。これにより、電子ビームの照射エリアが水平方向および垂直方向に移動し、適切なエリアに電子ビームが照射されるようになる。
【0096】
この時点で調整を終了してもよいが、望ましくはステップS24で適切と判定されるまで、ステップS21以降が繰り返される。この繰り返しの際、ステップS21においては、ステップS25で更新された電子ビーム照射レシピが適用される。
【0097】
このように、本実施形態では所定のパターンが形成された調整プレート21を用いることで、電子ビームの照射エリアを調整できる。この調整法によれば、実際のマスクを使う必要がないため、マスクを無駄にすることもない。
【0098】
なお、本実施形態では、偏向器115が静電偏向器である例を示したが、偏向器115は複数の磁極を有する磁場偏向器であってもよい。この場合、偏向器電源27は電子ビームを偏向させるための電流を各磁極に供給する。
【0099】
また、説明を簡略化するために
図2Eに示すスキャンを行ったが、
図1Eおよび
図1Fに示すスキャンを行う場合でも同様に考えればよい。
【0100】
[符号の説明]
200 照射エリア調整システム
21 調整プレート
21a 穴
21b,21b’ パターン
22 電流計
23 画像形成部
24 判定部
25 レシピ更新部
26 ビームスキャナ
27 偏向器電源
112 電子ビーム発生装置
115 偏向器
2115 電極
131 全体制御部
132 電子ビーム制御部
【0101】
(第2の実施形態)
【0102】
[技術分野]
本実施形態は、電子ビーム照射装置およびその電子ビームの照射領域補正方法に関する。
【0103】
[背景技術]
図1Fを用いて説明したように、通常の電子ビーム照射装置は照射領域(電子ビームの到達位置)が長方形(正方形を含む)になるよう、電子ビーム制御部132が偏向器115を制御する。しかしながら、偏向器115の特性などによっては照射領域が意図したとおりの長方形とならないことがある。
【0104】
[本実施形態が解決しようとする課題]
本実施形態の課題は、電子ビームの照射領域が意図通りの長方形とならない場合に、照射領域を長方形に近づけることができる電子ビーム照射装置およびその電子ビームの照射領域補正方法を提供することである。
【0105】
[課題を解決するための手段]
【0106】
<態様1>
電子ビーム発生装置からの電子ビームを、時間tとともに変化する電圧V1(t)を第1電極に印加することで第1方向にスキャンし、時間tとともに変化する電圧V2(t)を第2電極に印加することで前記第1方向と直交する第2方向にスキャンすることにより、長方形の領域をターゲットとして電子ビームを照射するように意図された電子ビーム照射装置において、電子ビームの照射領域が長方形ではなく前記第1方向に歪んだ概略平行四辺形となっている場合に、
前記第1電極に電圧V1(t)+kV2(t)(kは定数)を印加し、前記第2電極に電圧V2(t)を印加することによって、電子ビームの照射領域が長方形となるよう補正する、電子ビームの照射領域補正方法。
照射領域が第1方向に歪んでいる場合に、電子ビームを第1方向にスキャンするための第1電極に電圧V1(t)+kV2(t)を印加することで、照射領域を補正できる。
【0107】
<態様2>
前記kは、電子ビームの照射領域が長方形に近づくよう設定される、態様1に記載の電子ビームの照射領域補正方法。
これにより照射領域が長方形に近づく。
【0108】
<態様3>
前記kの絶対値は、前記第1方向の歪みが大きいほど大きく設定される、態様1または2に記載の電子ビームの照射領域補正方法。
これにより照射領域が長方形に近づく。
【0109】
<態様4>
前記電圧V2(t)は、ある値になって期間T0経過後に別の値に変化することをN0回繰り返し、
前記電圧V1(t)は、前記期間T0を周期として線形変化することを前記N0回繰り返し、
前記T0,N0は、それぞれ前記長方形の前記第1方向の長さおよび前記第2方向の長さに対応する、態様1乃至3のいずれかに記載の電子ビームの照射領域補正方法。
第1方向および第2方向がそれぞれ水平方向および垂直方向であるときに、水平方向に歪んだ照射領域を長方形に補正できる。
【0110】
<態様5>
前記電圧V1(t)は、ある値になって期間T0経過後に別の値に変化することをN0回繰り返し、
前記電圧V2(t)は、前記期間T0を周期として線形変化することを前記N0回繰り返し、
前記期間T0,N0は、それぞれ前記長方形の前記第2方向の長さおよび前記第1方向の長さに対応する、態様1乃至3のいずれかに記載の電子ビームの照射領域補正方法。
第1方向および第2方向がそれぞれ垂直方向および水平方向であるときに、垂直方向に歪んだ照射領域を長方形に補正できる。
【0111】
<態様6>
電子ビーム発生装置からの電子ビームを、時間tとともに変化する電圧V1(t)を第1電極に印加することで第1方向にスキャンし、時間tとともに変化する電圧V2(t)を第2電極に印加することで前記第1方向と直交する第2方向にスキャンすることにより、長方形の領域をターゲットとして電子ビームを照射するように意図された電子ビーム照
射装置において、
電子ビームの照射領域が長方形ではなく前記第1方向に歪んだ概略平行四辺形となっている場合に、前記第1電極に電圧V1(t)+kV2(t)(kは定数)を印加し、前記第2電極に電圧V2(t)を印加する電子ビーム制御装置を備え、これによって、電子ビームの照射領域が長方形となるよう補正する、電子ビーム照射装置。
照射領域が第1方向に歪んでいる場合に、電子ビームを第1方向にスキャンするための第1電極に電圧V1(t)+kV2(t)を印加することで、照射領域を補正できる。
【0112】
<態様7>
電子ビームを発生する電子ビーム発生装置と、
前記電子ビーム発生装置からの電子ビームを第1方向に偏向する第1電極と、
前記電子ビーム発生装置からの電子ビームを、前記第1方向と直交する第2方向に偏向する第2電極と、
前記第1電極および前記第2電極に印加される電圧を制御する電子ビーム制御装置と、を備え、
電子ビーム発生装置からの電子ビームを、時間tとともに変化する電圧V1(t)を前記第1電極に印加することで前記第1方向にスキャンし、時間tとともに変化する電圧V2(t)を前記第2電極に印加することで前記第2方向にスキャンすることにより、長方形の領域をターゲットとして電子ビームを照射するように意図していながら、電子ビームの照射領域が長方形ではなく前記第1方向に歪んだ概略平行四辺形となっている場合に、
前記電子ビーム制御装置は、前記第1電極に電圧V1(t)+kV2(t)(kは定数)を印加し、前記第2電極に電圧V2(t)を印加し、これによって、電子ビームの照射領域が長方形となるよう補正する、電子ビーム照射装置。
照射領域が第1方向に歪んでいる場合に、電子ビームを第1方向にスキャンするための第1電極に電圧V1(t)+kV2(t)を印加することで、照射領域を補正できる。
【0113】
[本実施形態の効果]
電子ビームの照射領域を長方形に近づけることができる。
【0114】
[図面の簡単な説明]
[
図3A]電子ビームの照射領域200,200’を模式的に示す図。
[
図3B]、
図3Aの照射領域200を得るために偏向器115における電極V,Hにそれぞれ印加される電圧Vv(t),Vh(t)を模式的に示す図。
[
図3C]照射領域200’の水平方向歪みを補正するために電極V,Hにそれぞれ印加される電圧Vv(t),Vh(t)+kVv(t)を模式的に示す図。
[
図3D]電子ビームの照射領域200,200’’を模式的に示す図。
[
図3E]照射領域200’’の垂直方向歪みを補正するために電極V,Hにそれぞれ印加される電圧Vv(t)+kVh(t),Vh(t)を模式的に示す図。
【0115】
[本実施形態を実施するための形態]
図3Aの左図は、ターゲットとなる電子ビームの照射領域200を模式的に示す図である。図示のようにターゲットの照射領域200は長方形であるが、実際には離散的に電子ビームが照射される(
図1F参照)ことから、便宜上、水平方向の照射単位をドットと呼び、垂直方向の照射単位をラインと呼ぶ。また、照射領域200内のドット数(水平方向の長さに対応)をLh(
図2Aの例では5)とし、ライン数(垂直方向の長さに対応)をLv(
図2Aの例では5)とする。
【0116】
図3Bは、
図3Aの照射領域200を得るために偏向器115における電極V,Hにそれぞれ印加される電圧Vv(t),Vh(t)を模式的に示す図であり、より具体的には時刻tと、電極V,Hにそれぞれ印加される電圧Vv(t),Vh(t)との関係を模式
的に示している。なお、偏向器115における電極V,Hはそれぞれ電子ビームを垂直方向および水平方向に偏向するための電極である。また、これらの電圧Vv(t),Vh(t)は電子ビーム制御部132(
図1A)によって制御される。
【0117】
電圧Vv(t)は、ある時刻においてある値に設定されると所定の期間T0だけ同じ値であり、期間T0経過後に別の値に設定される。このことがN0回(同図の例では5回)繰り返される。電圧Vv(t)は照射領域200における垂直方向位置(何ライン目か)に対応しており、より詳しくは電圧Vv(t)の値が大きいほど垂直方向の下端に近い。よって、電極Vにこのような電圧Vv(t)が印加されることにより電子ビームが垂直方向にスキャンされる。ここで、期間T0は照射領域200のドット数(水平方向の長さ)Lhに対応する。また、繰り返し回数N0はライン数(垂直方向の長さ)Lvに対応する。
【0118】
電圧Vh(t)は期間T0を周期として線形変化する。より具体的には、電圧Vh(t)は、期間T0の前半において線形に増加し、期間T0の後半において同じ傾きで線形に減少する。このことがやはりN0回繰り返される。電圧Vh(t)は照射領域200における水平方向位置(何ドット目か)に対応しており、より詳しくは電圧Vh(t)の値が大きいほど水平方向の右端に近い。よって、電極Hにこのような電圧Vh(t)が印加されることにより、電子ビームが水平方向にスキャンされる。
【0119】
図3Bに示す電圧Vv(t),Vh(t)が電極V,Hにそれぞれ印加されることにより、
図3Aに示すように照射領域200が長方形となることが意図されている。ところが、偏向器115の特性などによっては、水平方向に照射領域200が歪むこともある。そこで本実施形態では、照射領域200が水平方向に歪んでいる場合に、照射領域200が長方形となるよう補正を行う。
【0120】
図3Aの右図は、水平方向に歪んだ電子ビームの照射領域200’を模式的に示す図である。図示のように照射領域200’は平行四辺形となっている。この平行四辺形において、一点鎖線で示すように垂直方向のずれはない。よって、垂直方向に関しては、電子ビーム制御部132は電極Vに
図3Bの電圧Vv(t)をそのまま印加すればよい(
図3Cの上図参照)。
【0121】
これに対し、同図の二点鎖線で示すように、1ライン目を基準とすると2ライン目は水平方向にAだけ右側にずれており、より一般的にはn(n=1~Lv)ライン目は(n-1)*Aだけ右側にずれている。すなわち、ずれ量は垂直方向位置に比例して大きくなっており、この垂直方向位置は上述したように電圧Vv(t)に対応する。そこで、電子ビーム制御部132は電極Hに電圧Vh(t)+kVv(t)を印加すればよい(
図3Cの下図参照)。
【0122】
ここで、kは定数であり、電子ビームの照射領域200’が長方形に近づくよう(望ましくは長方形となるよう)設定される。
図3Aの右図に示すように、照射領域200’が右側(電圧Vh(t)の値が大きい側)に歪んだ平行四辺形となっている場合、2ライン目以降の水平方向位置を左側にずらすべく、kは負値に設定される。一方、照射領域200’が左側(電圧Vh(t)の値が小さい側)に歪んだ平行四辺形となっている場合、2ライン目以降の水平方向位置を右側にずらすべく、kは正値に設定される。歪み量Aが大きいほど、kの絶対値は大きく設定される。
【0123】
このように、本実施形態では、照射領域200が水平方向に歪んでいる場合に、電子ビームを垂直方向に偏向する電極Vには電圧Vv(t)を印加し、水平方向に偏向する電極Hには電圧Vh(t)+kVv(t)を印加する。これにより、歪んだ照射領域200’
を長方形に近づけることができる。
【0124】
以上説明した実施形態は、照射領域200が水平方向に歪んでいることを想定していた。これに対し、次に説明する実施形態は、照射領域200が垂直方向に歪んでいる場合を想定している。以下、相違点を中心に説明する。
【0125】
図3Dの上図は
図3Aの左図の再掲であり、
図3Dの下図は垂直方向に歪んだ電子ビームの照射領域200’’を模式的に示す図である。図示のように照射領域200’’は平行四辺形となっている。この平行四辺形において、一点鎖線で示すように水平方向のずれはない。よって、水平方向に関しては、電子ビーム制御部132は電極Hに
図3Bの電圧Vh(t)を印加すればよい(
図3Eの下図参照)。
【0126】
これに対し、同図の二点鎖線で示すように、1ドット目を基準とすると、2ドット目は水平方向にBだけ上側にずれており、より一般的にはn(n=1~Lh)ドット目は(n-1)*Bだけ上側にずれている。すなわち、ずれ量は水平方向位置に比例して大きくなっており、この水平方向位置は上述したように電圧Vh(t)に対応する。そこで、電子ビーム制御部132は電極Vに電圧Vv(t)+kVh(t)を印加すればよい(
図3Eの上図参照)。
【0127】
ここで、kは定数であり、電子ビームの照射領域200’’が長方形に近づくよう(望ましくは長方形となるよう)設定される。
図3Dの下図に示すように、照射領域200’’が上側(電圧Vv(t)の値が小さい側)に歪んだ平行四辺形となっている場合、2ドット目以降の垂直方向位置を下側にずらすべく、kは正値に設定される。一方、照射領域200’’が下側(電圧Vv(t)の値が大きい側)に歪んだ平行四辺形となっている場合、2ドット目以降の垂直方向位置を上側にずらすべく、kは負値に設定される。歪み量Bが大きいほど、kの絶対値は大きく設定される。
【0128】
このように、本実施形態では、照射領域200が垂直方向に歪んでいる場合に、電子ビームを水平方向に偏向する電極Hには電圧Vh(t)を印加し、垂直方向に偏向する電極Vには電圧Vv(t)+kVh(t)を印加する。これにより、歪んだ照射領域200’’を長方形に近づけることができる。
【0129】
[符号の説明]
300,300’,300’’ 照射領域
【0130】
(第3の実施形態)
【0131】
[技術分野]
本実施形態は、電子ビーム照射装置、電子ビーム制御方法およびプログラムに関する。
【0132】
[背景技術]
電子ビーム照射装置から電子ビームを照射して、レジストマスクのエッチング耐性を向上させることが行われている。
【0133】
[本実施形態が解決しようとする課題]
【0134】
プラズマエッチングのエッチングレートは、空間的に一様ではなく、所定の分布(例えば、中央付近のエッチングレートが高い)を有する。このため、電子ビーム照射装置から電子ビームを試料表面に一様に照射してレジストのエッチング耐性を全面一様に向上させた場合には、エッチングレートの分布に応じたエッチング量の差異が発生するという問題
がある。
【0135】
そこで本実施形態の課題は、エッチングレートの分布に起因するエッチング量のばらつきを低減することを可能とする電子ビーム照射装置、電子ビーム制御方法およびプログラムを提供することである。
【0136】
[課題を解決するための手段]
<態様1>
電子ビームを偏向させる偏向器と、
前記偏向器を制御して前記電子ビームを走査する制御部と、
を備え、
前記制御部は、第1の領域における第1の走査方向の電子ビームの移動速度が、前記第1の領域よりもエッチングレートが低い第2の領域における前記第1の走査方向の電子ビームの移動速度より遅くなるように、前記偏向器を制御する電子ビーム照射装置。
【0137】
この構成により、第1の領域において、電子ビームの第1の走査方向の移動が第2の領域より遅くなるので、第2の領域より電子ビームの照射量が多くなり、第1の領域におけるレジストのエッチング耐性が第2の領域より高くなる。これにより、第1の領域のエッチングレートが第2の領域より高くても、レジストのエッチング耐性が第2の領域より高いので、プラズマエッチングでエッチングされる量を低減することができ、エッチングレートの分布に応じたエッチング量の差異を低減することができる。
【0138】
<態様2>
前記偏向器には、前記第1の走査方向に電子ビームを走査するために、第1の電極が設けられており、
前記制御部は、前記第1の領域を走査する第1の期間における前記第1の電極に印加される電圧の単位時間あたりの変化が、前記第2の領域を走査する第2の期間における前記第1の電極に印加される電圧の単位時間あたりの変化より小さくなるように、前記偏向器を制御する、態様1に記載の電子ビーム照射装置。
【0139】
この構成により、第1の期間において、電子ビームの第1の走査方向の移動が第2の期間より遅くなるので、第2の期間より電子ビームの照射量が多くなるため、第1の期間に電子ビームが照射される領域におけるレジストのエッチング耐性が、第2の期間に電子ビームが照射される領域におけるレジストのエッチング耐性より高くなる。これにより、第1の期間に電子ビームが照射される領域のエッチングレートが高くても、レジストのエッチング耐性が高いので、プラズマエッチングでエッチングされる量を低減することができ、エッチングレートの分布に起因するエッチング量のばらつきを低減することができる。
【0140】
<態様3>
前記第2の期間は、前半の期間と後半の期間に分かれており、
前記第1の期間は、前記第2の期間の前半の期間と前記第2の期間の後半の期間に挟まれた期間である、態様2に記載の電子ビーム照射装置。
【0141】
<態様4>
前記第1の領域は、エッチングレートが閾値を超える領域である、態様1乃至3のいずれかに記載の電子ビーム照射装置。
【0142】
<態様5>
前記第1の領域は、基板の略中央に設定されている、態様1乃至3のいずれかに記載の電子ビーム照射装置。
【0143】
<態様6>
前記第1の領域は、略円形である、態様1乃至5のいずれかに記載の電子ビーム照射装置。
【0144】
<態様7>
前記第1の領域は、四角形である、態様1乃至5のいずれかに記載の電子ビーム照射装置。
【0145】
<態様8>
前記第1の走査方向は、水平方向である、態様1乃至7のいずれかに記載の電子ビーム照射装置。
【0146】
<態様9>
電子ビームを偏向させる偏向器と、前記偏向器を制御して前記電子ビームを走査する制御部とを備える電子ビーム照射装置が実行する電子ビーム制御方法であって、
第1の領域内における第1の走査方向の電子ビームの移動速度が、前記第1の領域よりもエッチングレートが低い第2の領域における前記第1の走査方向の電子ビームの移動速度より遅くなるように、前記電子ビームを制御する工程を有する電子ビーム制御方法。
【0147】
この構成により、第1の領域において、電子ビームの第1の走査方向の移動が第2の領域より遅くなるので、第2の領域より電子ビームの照射量が多くなり、第1の領域におけるレジストのエッチング耐性が第2の領域より高くなる。これにより、第1の領域のエッチングレートが第2の領域より高くても、レジストのエッチング耐性が第2の領域より高いので、プラズマエッチングでエッチングされる量を低減することができ、エッチングレートの分布に応じたエッチング量の差異を低減することができる。
【0148】
<態様10>
偏向器を制御して電子ビームを走査する制御部として機能させるためのプログラムであって、
前記制御部は、第1の領域における第1の走査方向の電子ビームの移動速度が、前記第1の領域よりもエッチングレートが低い第2の領域における前記第1の走査方向の電子ビームの移動速度より遅くなるように、前記電子ビームを制御するプログラム。
【0149】
この構成により、第1の領域において、電子ビームの第1の走査方向の移動が第2の領域より遅くなるので、第2の領域より電子ビームの照射量が多くなり、第1の領域におけるレジストのエッチング耐性が第2の領域より高くなる。これにより、第1の領域のエッチングレートが第2の領域より高くても、レジストのエッチング耐性が第2の領域より高いので、プラズマエッチングでエッチングされる量を低減することができ、エッチングレートの分布に応じたエッチング量の差異を低減することができる。
【0150】
[本実施形態の効果]
【0151】
本実施形態によれば、第1の領域において、電子ビームの第1の走査方向の移動が第2の領域より遅くなるので、第2の領域より電子ビームの照射量が多くなるため、第1の領域において、レジストマスクのエッチング耐性が電子ビームの第1の走査方向の移動が第2の領域より高くなる。これにより、第1の領域のエッチングレートが第2の領域より高くても、レジストマスクのエッチング耐性が第2の領域より高いので、プラズマエッチングでエッチングされる量を低減することができ、エッチングレートの分布に応じたエッチング量の差異を低減することができる。
【0152】
[図面の簡単な説明]
[
図4A]電子ビームの照射領域41を模式的に示す図。
[
図4B]
図4Aの照射領域41を得るために偏向器115における電極H,Vにそれぞれ印加される電圧Vh(t),Vv(t)を模式的に示す図。
[
図4C]電子ビームの照射領域42を模式的に示す図。
[
図4D]
図4Cの照射領域42の点4P1から点4P2までの間に偏向器115の電極H,Vにそれぞれ印加される電圧Vh(t),Vv(t)を模式的に示す図。
[
図4E]
図4Cの照射領域42の点4P2から点4P3までの間に偏向器115の電極H,Vにそれぞれ印加される電圧Vh(t),Vv(t)を模式的に示す図。
【0153】
[本実施形態を実施するための形態]
図4Aは、ターゲットとなる電子ビームの照射領域41を模式的に示す図である。照射領域41は、被エッチング層が形成された基板の一部である。図示のようにターゲットの照射領域41は長方形であるが、実際には例えば
図4Aの点の位置に離散的に電子ビームが照射される。
図4Aの折れ線で示すように、
図4Aの左上から右下に向かって、順に電子ビームが走査される。
【0154】
照射領域41は一例として、第1の領域411と、第1の領域411よりもエッチングレートが低い第2の領域412に分けられる。第1の領域411は、エッチングレートが閾値を超える領域であり、基板の略中央に設定されており、ここでは一例として、第1の領域411は四角形である。第2の領域412のうちこの第1の領域411の上に位置する領域において、垂直方向の位置を変えては水平方向にそれぞれ5ライン分、走査する。その後、第1の領域411を含む領域を、垂直方向の位置を変えては水平方向に一例として11ライン分、走査する。その後、第2の領域412のうちこの第1の領域411の下に位置する領域において、垂直方向の位置を変えては水平方向にそれぞれ5ライン分、走査するものとして、以下説明する。
【0155】
図4Aに示すように、第1の領域411において、水平方向のドットの間隔が外側の領域よりも狭くなっている。すなわち、
図4Aの第1の領域411内における水平方向の電子ビームの移動速度が、
図4Aの第1の領域411外における水平方向の電子ビームの移動速度より遅くなるようになっている。
【0156】
この際の制御部13の処理について説明する。制御部13は、
図4Aの第1の領域411内における水平方向の電子ビームの移動速度が、
図4Aの第2の領域412における水平方向の電子ビームの移動速度より遅くなるように、偏向器115を制御する。この構成により、
図4Aの第1の領域411内において、電子ビームの水平方向の移動が
図4Aの第2の領域412より遅くなるので、第2の領域412より電子ビームの照射量が多くなるため、
図4Aの第1の領域411内において、レジストのエッチング耐性が
図4Aの第2の領域412より高くなる。これにより、
図4Aの第1の領域411のエッチングレートが第2の領域412より高くても、レジストのエッチング耐性が高いので、プラズマエッチングでエッチングされる量を低減することができ、エッチングレートの分布に応じたエッチング量の差異を低減することができる。
【0157】
本実施形態では一例として偏向器115を静電偏向器とした場合について説明する。
図4Bは、
図4Aの照射領域41を得るために偏向器115における電極H,Vにそれぞれ印加される電圧Vh(t),Vv(t)を模式的に示す図である。より具体的には時刻tと、電極H,Vにそれぞれ印加される電圧Vh(t),Vv(t)との関係を模式的に示している。なお、偏向器115における電極H,Vはそれぞれ電子ビームを水平方向および垂直方向に偏向するための電極である。また、これらの電圧Vh(t),Vv(t)は
制御部13内の電子ビーム制御部132(
図1A)によって制御される。以下、簡略化のために、制御部13が制御するものとして説明する。
【0158】
電圧Vv(t)は、ある時刻においてある値に設定されると所定の期間T1だけ同じ値であり、この期間T1経過後に差分電圧ΔV1だけ大きな値に設定される。このことがN1回(同図の例では5回、5ライン分に相当する)繰り返される。電圧Vv(t)は照射領域41における垂直方向位置(何ライン目か)に対応しており、より詳しくは電圧Vv(t)の値が大きいほど垂直方向の下端に近い。よって、電極Vにこのような電圧Vv(t)が印加されることにより電子ビームの垂直方向の位置が遷移する。
【0159】
その間、電圧Vh(t)は期間T1を周期として線形変化する。より具体的には、電圧Vh(t)は、この期間T1において第1の傾きで線形に増加する。このことがやはりN1回繰り返される。電圧Vh(t)は照射領域41における水平方向位置(何ドット目か)に対応しており、より詳しくは電圧Vh(t)の値が大きいほど水平方向の右端に近い。よって、電極Hにこのような電圧Vh(t)が印加されることにより、電子ビームの照射位置が水平方向に遷移する。
【0160】
その後、電圧Vv(t)は、差分電圧ΔV1だけ更に大きな値に設定されると、所定の期間T2(>T1)だけ同じ値であり、この期間T2経過後に差分電圧ΔV1だけ大きな値に設定される。このことがN2回(同図の例では11回、11ライン分に相当する)繰り返される。
【0161】
その間、電圧Vh(t)は期間T2を周期として折れ線状に変化する。より具体的には、電圧Vh(t)は、前半の期間T21において第1の傾きで線形に増加し、中盤の期間T22において第1の傾きより小さい第2の傾きで線形に増加し、後半の期間T23において前半の期間T21と同じ第1の傾きで線形に増加する。すなわち、期間T22における単位時間あたりの電圧Vh(t)の変化(すなわち
図4Bの電圧Vh(t)の傾き)は、期間T21および期間T23における単位時間あたりの電圧Vh(t)の変化(すなわち
図4Bの電圧Vh(t)の傾き)より小さくなっている。このことがやはりN2回(同図の例では11回、11ライン分に相当する)繰り返される。
【0162】
その後、電圧Vv(t)は、差分電圧ΔV1だけ更に大きな値に設定されると、所定の期間T1だけ同じ値であり、この期間T1経過後に差分電圧ΔV1だけ大きな値に設定される。このことがN1回(同図の例では5回、5ライン分に相当する)繰り返される。
その間、電圧Vh(t)は期間T1を周期として線形変化する。より具体的には、電圧Vh(t)は、この期間T1において第1の傾きで線形に増加し、期間T1後に初期値Vh0に戻る。このことがやはりN1回繰り返される。
【0163】
本実施形態では、具体的には、制御部13は、
図4Bの期間T22における電圧Vh(t)の単位時間あたりの変化が、
図4Bの期間T21、T23における電圧Vh(t)の単位時間あたりの変化より小さくなるように、偏向器115を制御する。この構成により、
図4Bの期間T22において、電子ビームの水平方向の移動が
図4Bの期間T21、T23より遅くなるので、
図4Bの期間T22に電子ビームが照射される領域におけるレジストのエッチング耐性が、
図4Bの期間T21、T23に電子ビームが照射される領域におけるレジストのエッチング耐性より高くなる。これにより、
図4Bの期間T22に電子ビームが照射される領域のエッチングレートが高くても、レジストのエッチング耐性が高いので、プラズマエッチングでエッチングされる量を低減することができ、エッチングレートの分布に応じたエッチング量の差異を低減することができる。
【0164】
なお、本実施形態では電子ビームの移動速度を、水平方向に遅くしたが、これに限らず
、垂直方向など任意の方向に遅くしてもよい。その場合、制御部13は、第1の領域411における第1の走査方向の電子ビームの移動速度が、第2の領域412における当該第1の走査方向の電子ビームの移動速度より遅くなるように、偏向器115を制御してもよい。ここで、第1の走査方向は、水平方向および垂直方向を含む任意の方向である。
【0165】
この構成により、第1の領域411において、電子ビームの水平方向の移動が第1の領域412より遅くなるので、第2の領域412より電子ビームの照射量が多くなるため、第1の領域411において、レジストのエッチング耐性が電子ビームの水平方向の移動が第2の領域412より高くなる。これにより、第1の領域411のエッチングレートが第2の領域412より高くても、レジストのエッチング耐性が第2の領域412より高いので、プラズマエッチングでエッチングされる量を低減することができ、エッチングレートの分布に応じたエッチング量の差異を低減することができる。
【0166】
また、この場合の具体的な処理として、制御部13は、第1の領域411を走査する第1の期間(例えば、
図4Bの期間T22)における第1の電極に印加される電圧の単位時間あたりの変化が、第2の領域412を走査する第2の期間(例えば、
図4Bの期間T21および/または期間T23)における当該第1の電極に印加される電圧の単位時間あたりの変化より小さくなるように、偏向器115を制御してもよい。ここで、第1の電極は、電極H,Vを含む任意の電極であり、第1の走査方向に電子ビームを走査するために設けられた電極である。
【0167】
この構成により、第1の期間において、電子ビームの走査方向の移動が第2の期間より遅くなるので、第2の期間より電子ビームの照射量が多くなるため、第1の期間に電子ビームが照射される領域におけるレジストのエッチング耐性が、第2の期間に電子ビームが照射される領域におけるレジストのエッチング耐性より高くなる。これにより、第1の期間に電子ビームが照射される領域のエッチングレートが高くても、レジストのエッチング耐性が高いので、プラズマエッチングでエッチングされる量を低減することができ、エッチングレートの分布に応じたエッチング量の差異を低減することができる。
【0168】
ここで、第2の期間は、前半の期間(例えば、
図4Bの期間T21)と後半の期間(例えば、
図4Bの期間T23)に分かれており、第1の期間(例えば、
図4Bの期間T22)は、第2の期間の前半の期間(例えば、
図4Bの期間T21)と第2の期間の後半の期間(例えば、
図4Bの期間T23)に挟まれた期間である。
【0169】
なお、本実施形態では、走査速度を遅くする領域を長方形としたが、三角形であっても、五角形以上の多角形であってもよい。
【0170】
(変形例)
続いて、本実施形態の変形例について説明する。
【0171】
本実施形態では、走査速度を遅くする領域を長方形としたが、本変形例では、略円形にする点が異なる。
【0172】
図4Cは、ターゲットとなる電子ビームの照射領域42を模式的に示す図である。照射領域42は、被エッチング層が形成された基板の一部である。図示のようにターゲットの照射領域42は略円形であり、実際には例えば
図4Cの点の位置に離散的に電子ビームが照射される。
図4Cの折れ線で示すように、全体的に上から下に向かって同じ垂直位置では左から右に向かって、順に電子ビームが走査される。
【0173】
照射領域42は一例として、第1の領域421と、第1の領域421よりもエッチング
レートが低い第2の領域422に分けられる。第1の領域421は、エッチングレートが閾値を超える領域であり、基板の略中央に設定されている。ここでは一例として、第1の領域421は略円形である。略円形とは、真円および楕円を含み、その線は曲線だけでなく、折れ線であってもよい。第2の領域422のうちこの第1の領域421の上に位置する領域において、垂直方向の位置を変えては水平方向にそれぞれ5ライン分、走査する。その後、第1の領域421を含む領域を、垂直方向の位置を変えては水平方向に一例として11ライン分、走査する。その後、第2の領域422のうちこの第1の領域421の下に位置する領域において、垂直方向の位置を変えては水平方向にそれぞれ5ライン分、走査する。
【0174】
図4Cに示すように、第1の領域421において、水平方向のドットの間隔が外側の領域よりも狭くなっている。すなわち、
図4Cの第1の領域421内における水平方向の電子ビームの移動速度が、
図4Cの第1の領域421外における水平方向の電子ビームの移動速度より遅くなるようになっている。
【0175】
この際の制御部13の処理について説明する。制御部13は、
図4Cの第1の領域421内における水平方向の電子ビームの移動速度が、
図4Cの第1の領域421外における水平方向の電子ビームの移動速度より遅くなるように、偏向器115を制御する。この構成により、
図4Cの第1の領域421において、電子ビームの水平方向の移動が
図4Cの第2の領域422より遅くなるので、第2の領域422より電子ビームの照射量が多くなるため、
図4Cの第1の領域421において、レジストのエッチング耐性が電子ビームの水平方向の移動が
図4Cの第2の領域422より高くなる。これにより、
図4Cの第1の領域421のエッチングレートが第2の領域422より高くても、レジストのエッチング耐性が第2の領域422より高いので、プラズマエッチングでエッチングされる量を低減することができ、エッチングレートの分布に応じたエッチング量の差異を低減することができる。
【0176】
図4Dは、
図4Cの照射領域42の点4P1から点4P2までの間に偏向器115の電極H,Vにそれぞれ印加される電圧Vh(t),Vv(t)を模式的に示す図である。同様に、
図4Eは、
図4Cの照射領域42の点4P2から点4P3までの間に偏向器115の電極H,Vにそれぞれ印加される電圧Vh(t),Vv(t)を模式的に示す図である。
図4Dと
図4Eは、時刻tと、電極H,Vにそれぞれ印加される電圧Vh(t),Vv(t)との関係を模式的に示している。
【0177】
電圧Vv(t)は、ある時刻においてある値に設定され、単位時間Δt後に差分電圧ΔV2だけ更に大きな値に設定される。その後、電圧Vv(t)は、所定の期間T11だけ同じ値であり、期間T11経過後に差分電圧ΔV2だけ大きな値に設定される。次に、電圧Vv(t)は、所定の期間T12(>T11)だけ同じ値であり、この期間T12経過後に差分電圧ΔV2だけ大きな値に設定される。次に、電圧Vv(t)は、所定の期間T13(>T12)だけ同じ値であり、この期間T13経過後に差分電圧ΔV2だけ大きな値に設定される。次に、電圧Vv(t)は、所定の期間T14(>T13)だけ同じ値であり、この期間T14経過後に差分電圧ΔV2だけ大きな値に設定される。電圧Vv(t)は照射領域42における垂直方向位置(何ライン目か)に対応しており、より詳しくは電圧Vv(t)の値が大きいほど垂直方向の下端に近い。よって、電極Vにこのような電圧Vv(t)が印加されることにより電子ビームの垂直方向の位置が遷移する。
【0178】
その間、電圧Vh(t)は、それぞれ対応する期間T11、T12、T13、T14において線形変化する。より具体的には、電圧Vh(t)は、期間T11、T12、T13、T14において第1の傾きで線形に増加する。電圧Vh(t)は照射領域42における水平方向位置(何ドット目か)に対応しており、より詳しくは電圧Vh(t)の値が大き
いほど水平方向の右端に近い。よって、電極Hにこのような電圧Vh(t)が印加されることにより、電子ビームの照射位置が垂直方向に遷移する。
【0179】
その後、電圧Vv(t)は、差分電圧ΔV2だけ更に大きな値に設定されると、所定の期間T15(>T14)だけ同じ値であり、この期間T15経過後に差分電圧ΔV2だけ大きな値に設定される。
【0180】
その間、電圧Vh(t)は期間T15において折れ線状に変化する。より具体的には、電圧Vh(t)は、前半の期間T151において第1の傾きで線形に増加し、中盤の期間T152において第1の傾きより小さい第2の傾きで線形に増加し、後半の期間T153において前半の期間T151と同じ第1の傾きで線形に増加する。すなわち、期間T152における単位時間あたりの電圧Vh(t)の変化(すなわち
図4Dの電圧Vh(t)の傾き)は、期間T151および期間T153における単位時間あたりの電圧Vh(t)の変化(すなわち
図4Dの電圧Vh(t)の傾き)より小さくなっている。
【0181】
その後、電圧Vv(t)は、差分電圧ΔV2だけ更に大きな値に設定されると、所定の期間T16(>T15)だけ同じ値であり、この期間T16経過後に差分電圧ΔV2だけ大きな値に設定される。
【0182】
その間、電圧Vh(t)は期間T16において折れ線状に変化する。より具体的には、電圧Vh(t)は、前半の期間T161において第1の傾きで線形に増加し、中盤の期間T162において第1の傾きより小さい第2の傾きで線形に増加し、後半の期間T163において前半の期間T161と同じ第1の傾きで線形に増加する。すなわち、期間T162における単位時間あたりの電圧Vh(t)の変化(すなわち
図4Dの電圧Vh(t)の傾き)は、期間T161および期間T163における単位時間あたりの電圧Vh(t)の変化(すなわち
図4Dの電圧Vh(t)の傾き)より小さくなっている。
【0183】
その後、電圧Vv(t)は、差分電圧ΔV2だけ更に大きな値に設定されると、所定の期間T17(>T16)だけ同じ値であり、この期間T17経過後に差分電圧ΔV2だけ大きな値に設定される。
【0184】
その間、電圧Vh(t)は期間T17において折れ線状に変化する。より具体的には、電圧Vh(t)は、前半の期間T171において第1の傾きで線形に増加し、中盤の期間T172において第1の傾きより小さい第2の傾きで線形に増加し、後半の期間T173において前半の期間T171と同じ第1の傾きで線形に増加する。すなわち、期間T172における単位時間あたりの電圧Vh(t)の変化(すなわち
図4Dの電圧Vh(t)の傾き)は、期間T171および期間T173における単位時間あたりの電圧Vh(t)の変化(すなわち
図4Dの電圧Vh(t)の傾き)より小さくなっている。
【0185】
その後、電圧Vv(t)は、差分電圧ΔV2だけ更に大きな値に設定されると、所定の期間T18(>T17)だけ同じ値であり、この期間T18経過後に差分電圧ΔV2だけ大きな値に設定される。
【0186】
その間、電圧Vh(t)は期間T18において折れ線状に変化する。より具体的には、電圧Vh(t)は、前半の期間T181において第1の傾きで線形に増加し、中盤の期間T182において第1の傾きより小さい第2の傾きで線形に増加し、後半の期間T183において前半の期間T181と同じ第1の傾きで線形に増加する。すなわち、期間T182における単位時間あたりの電圧Vh(t)の変化(すなわち
図4Dの電圧Vh(t)の傾き)は、期間T181および期間T183における単位時間あたりの電圧Vh(t)の変化(すなわち
図4Dの電圧Vh(t)の傾き)より小さくなっている。
【0187】
その後、電圧Vv(t)は、差分電圧ΔV2だけ更に大きな値に設定されると、所定の期間T19(>T18)だけ同じ値であり、この期間T19経過後に差分電圧ΔV2だけ大きな値に設定される。このことが一例として3回繰り返される。
【0188】
その間、電圧Vh(t)は期間T19毎に折れ線状に変化する。より具体的には、電圧Vh(t)は、前半の期間T191において第1の傾きで線形に増加し、中盤の期間T192において第1の傾きより小さい第2の傾きで線形に増加し、後半の期間T193において前半の期間T191と同じ第1の傾きで線形に増加する。すなわち、期間T192における単位時間あたりの電圧Vh(t)の変化(すなわち
図4Dの電圧Vh(t)の傾き)は、期間T191および期間T193における単位時間あたりの電圧Vh(t)の変化(すなわち
図4Dの電圧Vh(t)の傾き)より小さくなっている。
【0189】
その後、電圧Vv(t)は、差分電圧ΔV2だけ更に大きな値に設定されると、所定の期間T18だけ同じ値であり、この期間T18経過後に差分電圧ΔV2だけ大きな値に設定される。
【0190】
その間、電圧Vh(t)は期間T18において折れ線状に変化する。より具体的には、電圧Vh(t)は、前半の期間T181において第1の傾きで線形に増加し、中盤の期間T182において第1の傾きより小さい第2の傾きで線形に増加し、後半の期間T183において前半の期間T181と同じ第1の傾きで線形に増加する。すなわち、期間T182における単位時間あたりの電圧Vh(t)の変化(すなわち
図4Dの電圧Vh(t)の傾き)は、期間T181および期間T183における単位時間あたりの電圧Vh(t)の変化(すなわち
図4Dの電圧Vh(t)の傾き)より小さくなっている。
【0191】
その後、電圧Vv(t)は、差分電圧ΔV2だけ更に大きな値に設定されると、所定の期間T17だけ同じ値であり、この期間T17経過後に差分電圧ΔV2だけ大きな値に設定される。
【0192】
その間、電圧Vh(t)は期間T17において折れ線状に変化する。より具体的には、電圧Vh(t)は、前半の期間T171において第1の傾きで線形に増加し、中盤の期間T172において第1の傾きより小さい第2の傾きで線形に増加し、後半の期間T173において前半の期間T171と同じ第1の傾きで線形に増加する。すなわち、期間T172における単位時間あたりの電圧Vh(t)の変化(すなわち
図4Dの電圧Vh(t)の傾き)は、期間T171および期間T173における単位時間あたりの電圧Vh(t)の変化(すなわち
図4Dの電圧Vh(t)の傾き)より小さくなっている。
【0193】
その後、電圧Vv(t)は、差分電圧ΔV2だけ更に大きな値に設定されると、所定の期間T16だけ同じ値であり、この期間T16経過後に差分電圧ΔV2だけ大きな値に設定される。
【0194】
その間、電圧Vh(t)は期間T16において折れ線状に変化する。より具体的には、電圧Vh(t)は、前半の期間T161において第1の傾きで線形に増加し、中盤の期間T162において第1の傾きより小さい第2の傾きで線形に増加し、後半の期間T163において前半の期間T161と同じ第1の傾きで線形に増加する。すなわち、期間T162における単位時間あたりの電圧Vh(t)の変化(すなわち
図4Dの電圧Vh(t)の傾き)は、期間T161および期間T163における単位時間あたりの電圧Vh(t)の変化(すなわち
図4Dの電圧Vh(t)の傾き)より小さくなっている。
【0195】
その後、電圧Vv(t)は、差分電圧ΔV2だけ更に大きな値に設定されると、所定の
期間T16だけ同じ値であり、この期間T16経過後に差分電圧ΔV2だけ大きな値に設定される。
【0196】
その間、電圧Vh(t)は期間T15において折れ線状に変化する。より具体的には、電圧Vh(t)は、前半の期間T151において第1の傾きで線形に増加し、中盤の期間T152において第1の傾きより小さい第2の傾きで線形に増加し、後半の期間T153において前半の期間T151と同じ第1の傾きで線形に増加する。すなわち、期間T152における単位時間あたりの電圧Vh(t)の変化(すなわち
図4Dの電圧Vh(t)の傾き)は、期間T151および期間T153における単位時間あたりの電圧Vh(t)の変化(すなわち
図4Dの電圧Vh(t)の傾き)より小さくなっている。
【0197】
その後、電圧Vv(t)は、所定の期間T14だけ同じ値であり、期間T14経過後に差分電圧ΔV2だけ大きな値に設定される。次に、電圧Vv(t)は、所定の期間T13だけ同じ値であり、この期間T13経過後に差分電圧ΔV2だけ大きな値に設定される。次に、電圧Vv(t)は、所定の期間T12だけ同じ値であり、この期間T12経過後に差分電圧ΔV2だけ大きな値に設定される。次に、電圧Vv(t)は、所定の期間T11だけ同じ値であり、この期間T11経過後に差分電圧ΔV2だけ大きな値に設定される。
その間、電圧Vh(t)は、それぞれ対応する期間T11、T12、T13、T14において線形変化する。より具体的には、電圧Vh(t)は、期間T11、T12、T13、T14において第1の傾きで線形に増加する。
【0198】
本実施形態では、具体的には、制御部13は、
図4Dの期間T152における電圧Vh(t)の単位時間あたりの変化が、
図4Dの期間T151、T153における電圧Vh(t)の単位時間あたりの変化より小さくなるように、偏向器115を制御する。この構成により、
図4Dの期間T152において、電子ビームの水平方向の移動が
図4Dの期間T151、T153より遅くなるので、
図4Dの期間T152に電子ビームが照射される領域におけるレジストのエッチング耐性が、
図4Dの期間T151、T153に電子ビームが照射される領域におけるレジストのエッチング耐性より高くなる。これにより、
図4Dの期間T152に電子ビームが照射される領域のエッチングレートが高くても、レジストのエッチング耐性が高いので、プラズマエッチングでエッチングされる量を低減することができ、エッチングレートの分布に応じたエッチング量の差異を低減することができる。
【0199】
同様に、制御部13は、
図4Dの期間T162における電圧Vh(t)の単位時間あたりの変化が、
図4Dの期間T161、T163における電圧Vh(t)の単位時間あたりの変化より小さくなるように、偏向器115を制御する。この構成により、
図4Dの期間T162において、電子ビームの水平方向の移動が
図4Dの期間T161、T163より遅くなるので、
図4Dの期間T162に電子ビームが照射される領域におけるレジストのエッチング耐性が、
図4Dの期間T161、T163に電子ビームが照射される領域におけるレジストのエッチング耐性より高くなる。これにより、
図4Dの期間T162に電子ビームが照射される領域のエッチングレートが高くても、レジストのエッチング耐性が高いので、プラズマエッチングでエッチングされる量を低減することができ、エッチングレートの分布に応じたエッチング量の差異を低減することができる。
【0200】
なお、本実施形態および変形例に係る制御部の各処理を実行するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、当該記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータに読み込ませ、プロセッサが実行することにより、本実施形態および変形例に係る制御部に係る上述した種々の処理を行ってもよい。
なお、本実施形態および変形例では一例として偏向器115は静電偏光器として説明したがこれに限らず、偏向器115は電磁偏向器でもよく、その場合には偏向器115の電極H,Vにそれぞれ電流が印加される。
また、電子ビームの照射量に差をつけた領域は矩形または円形の中央領域に限ったものではなく、領域の形状は問わないし、領域の位置は問わないし、一箇所だけでなく複数の箇所に存在してもよい。電子ビームの照射量に差をつけた領域複数の箇所にある場合、領域それぞれの大小は問わないし、領域毎に電子ビームの照射量が異なっても良く、電子ビームの照射量は高いか低いかの2種類だけではない。
【0201】
なお、本電子ビーム発生装置は電子ビーム照射装置のみならず露光装置や検査装置にも適用可能である。
【0202】
[符号の説明]
41 照射領域
411 第1の領域
412 第2の領域
(第4の実施形態)
[技術分野]
本実施形態は、電子ビーム照射装置、電子ビーム位置検出システム、電子ビーム位置検出方法およびプログラムに関する。
【0203】
[背景技術]
電子ビーム照射装置においては、電子ビームの照射領域の校正を行うために、電子ビームの進行方向に対して略垂直な面内における位置(以下、ビーム位置という)を検出することが行われている。
【0204】
[本実施形態が解決しようとする課題]
しかし、ビーム位置を直接観察できるマイクロチャネルプレート(Micro Channel Plate :MCP)は高価であるという問題がある。また、シリコンフォトダイオードを所定のエ
リア毎に配置する方法も考えられるが、高価であるという問題がある。一方、ビーム位置を検出できる蛍光板は安価であるが、コラム内パーティクル汚染の可能性があるという問題がある。
【0205】
そこで本実施形態の課題は、ビーム位置の検出の際のコストを抑え且つ汚染を低減することを可能とする電子ビーム照射装置、電子ビーム位置検出システム、電子ビーム位置検出方法およびプログラムを提供することである。
【0206】
[課題を解決するための手段]
<態様1>
電子ビームを偏向させる偏向器と、
前記偏向器を制御して前記電子ビームを走査する制御部と、
予め設定された領域毎に、複数の貫通孔の空間配置が固有であるプレートと、
前記電子ビームのうち前記貫通孔を通過した電子を捕捉する捕捉器と、
前記捕捉器が捕捉した電子による電流を計測する電流計と、
を備え、
前記制御部は、前記電子ビームを前記プレートの前記領域毎に走査したときに前記電流計により計測された電流の位置の分布を用いて、前記電子ビームの進行方向に対して略垂直な面内における前記電子ビームの位置を検出する電子ビーム照射装置。
【0207】
この構成により、電流が計測された位置(スポット)の空間分布が領域毎に固有になるため、電子ビームがどの領域を通過しているのか判断することができる。またプレートと捕捉器と電流計とを用いて検出するので、ビーム位置の検出の際のコストを抑えることができる。更に、電子ビーム照射装置内で、粉塵が発生しないので汚染を低減することがで
きる。更にプレートは壊れにくいので、長期間安定してビーム位置を検出することができる。
【0208】
<態様2>
前記貫通孔は、前記電子ビーム径よりも小さい、態様1に記載の電子ビーム照射装置。
【0209】
この構成により、電流が計測された位置(スポット)が電子ビームより小さい径となり、このスポットの空間分布が領域毎に固有になるため、電子ビームがどの領域を通過しているのか判断することができる。
【0210】
<態様3>
前記プレートには、前記領域それぞれにおいて前記複数の貫通孔とは異なる第2の貫通孔であって前記電子ビーム径と略同じ径の第2の貫通孔が設けられており、
前記制御部は、計測された電流に基づいて、一つの前記第2の貫通孔に前記電子ビームの進行方向に対して略垂直な面内における前記電子ビームの位置を合わせるよう前記偏向器を制御する、態様1または2に記載の電子ビーム照射装置。
【0211】
この構成により、第2の貫通孔の位置に電子ビームの水平方向の位置を合わせることができる。
【0212】
<態様4>
前記第2の貫通孔は、対応する領域の略中央に配置されている、態様3に記載の電子ビーム照射装置。
この構成により、電子ビームの水平位置を、対応する領域の略中央の位置に合わせることができる。
【0213】
<態様5>
前記プレートには更に、前記電子ビーム径よりも大きい径の第3の貫通孔が設けられている、態様1乃至4のいずれかに記載の電子ビーム照射装置。
【0214】
この構成により、電子ビームが第3の貫通孔のほぼ真ん中を通るとき、電子ビームが素通りして捕捉器に電子ビームが全て到達するので、電流計は、電子ビームによって一度に照射される電流量を計測することができる。
【0215】
<態様6>
前記第3の貫通孔は、前記プレートの略中央に配置されている、態様5に記載の電子ビーム照射装置。
この構成により、確実に電子ビームによって一度に照射される電流量を計測することができる。
【0216】
<態様7>
前記プレートには更に、前記電子ビームよりも小さい径の第4の貫通孔が設けられている、態様1乃至6のいずれかに記載の電子ビーム照射装置。
【0217】
この構成により、電子ビームが第4の貫通孔を横切るように動くときに、捕捉器によって捕捉された電子の量、すなわち電流計の電流値から、電子ビームの電子密度の空間分布を測定することができる。
【0218】
<態様8>
前記プレートと前記捕捉器との間には、開口が設けられた金属部材を更に備え、
前記金属部材には、負電圧が印加される、態様1乃至6のいずれかに記載の電子ビーム照射装置。
【0219】
この構成により、金属部材が負に帯電するので、捕捉器に照射されて跳ね返った二次電子が更に金属部材で反射する。このため、この二次電子も捕捉器で捕捉される。これにより、二次電子が外部に飛び出すことを防止することができる。
【0220】
<態様9>
予め設定された領域毎に複数の貫通孔の空間配置が固有であるプレートと、
電子ビームのうち前記貫通孔を通過した電子を捕捉する捕捉器と、
前記捕捉器が捕捉した電子による電流を計測する電流計と、
前記電子ビームを前記プレートの前記領域毎に走査したときに前記電流計により計測された電流の位置の分布を用いて、前記電子ビームの進行方向に対して略垂直な面内における前記電子ビームの位置を検出する制御部と、
を備える電子ビーム位置検出システム。
【0221】
<態様10>
捕捉器が予め設定された領域毎に複数の貫通孔の空間配置が固有であるプレートの前記領域毎に電子ビームを走査したときに、当該電子ビームのうち前記貫通孔を通過した電子を捕捉する工程と、
電流計が前記捕捉器により捕捉された電子による電流を計測する工程と、
制御部が前記電流計により計測された電流の位置の分布を用いて、前記電子ビームの進行方向に対して略垂直な面内における前記電子ビームの位置を検出する工程と、
を有する電子ビーム位置検出方法。
【0222】
<態様11>
予め設定された領域毎に、貫通孔の空間分布が固有であるプレートと、電子ビームのうち前記貫通孔を通過した電子を捕捉する捕捉器と、前記捕捉器が捕捉した電子による電流を計測する電流計と、を備える電子ビーム位置検出システムのコンピュータが実行するためのプログラムであって、
前記電子ビームを前記プレートの前記領域毎に走査したときに前記電流計により計測された電流の位置の分布を用いて、前記電子ビームの進行方向に対して略垂直な面内における前記電子ビームの位置を検出するステップを有するプログラム。
【0223】
[本実施形態の効果]
本実施形態に係る電子ビーム照射装置によれば、電流が計測された位置(スポット)の空間分布が領域毎に固有になるため、電子ビームがどの領域を通過しているのか判断することができる。またプレートと捕捉器と電流計とを用いて検出するので、ビーム位置の検出の際のコストを抑えることができる。更に、電子ビーム照射装置内で、粉塵が発生しないので汚染を低減することができる。更にプレートは壊れにくいので、長期間安定してビーム位置を検出することができる。
【0224】
[図面の簡単な説明]
[
図5A]本実施形態に係る電子ビーム位置検出システム500の概略構成を示す図である。
[
図5B]本実施形態に係る測定ユニット127の上面図である。
[
図5C]本実施形態に係る測定ユニット127のプレート52を除去した場合の上面図である。
[
図5D]
図5BにおけるAA断面を示す概略断面図である。
[
図5E]プレート52における貫通孔の配置の一例を示す図である。
[
図5F]プレート52の右上の領域の中心に、電子ビームの位置を合わせる処理の一例を示すフローチャートである。
【0225】
[本実施形態を実施するための形態]
【0226】
本実施形態では、電子ビームの位置を検出するために、専用のプレート52を用いる。また、このプレート52を用いて、試料(サンプル)投入前に電子ビームの照射位置を自動調整する。
【0227】
図5Aは、本実施形態に係る電子ビーム位置検出システム500の概略構成を示す図である。電子ビーム位置検出システム500は、電子ビームの位置を検出する。
図5Aに示すように、電子ビーム位置検出システム500は、プレート52と、プレート52の下に配置された捕捉器54と、捕捉器54に接続された電流計55と、制御部13とを備える。プレート52には、電子ビーム発生装置112から照射された電子ビームEBを通過させる複数の貫通孔が設けられている。電流計55は、制御部13内の全体制御部131に接続されている。電子ビーム制御部132は、全体制御部131からの制御指令に基づいて、偏向器151に設けられた電極5115に印加する電圧を制御する。
【0228】
図5Bは、本実施形態に係る測定ユニット127の上面図である。
図5Bに示すように、測定ユニット127は、筐体51と、筐体51の上に設けられたプレート52とを備える。
図5Bに示すように、プレート52には複数の貫通孔が設けられている。
【0229】
図5Cは、本実施形態に係る測定ユニット127のプレート52を除去した場合の上面図である。
図5Cに示すように、測定ユニット127は、格子状の金属部材(メッシュともいう)53と、電子を捕捉する捕捉器54とを更に備える。
【0230】
図5Dは、
図5BにおけるAA断面を示す概略断面図である。
図5Dに示すように、金属部材53は、プレート52と捕捉器54との間に設けられており、筐体51の内部に固定されている。また、金属部材53は、電源56の陰極に接続されており、金属部材53には、負電圧が印加される。これにより、金属部材53が負に帯電するので、矢印5A1に示すように捕捉器54に照射されて跳ね返った二次電子が、矢印5A2に示すように更に金属部材53で反射する。このため、この二次電子も捕捉器54で捕捉される。これにより、二次電子が筐体51の外部に飛び出すことを防止することができる。
【0231】
捕捉器54は、電子ビーム発生装置112によって発生された電子ビームのうち貫通孔を通過した電子を捕捉する。ここで本実施形態に係る捕捉器54はファラデーカップである。
【0232】
電流計55は、捕捉器54が捕捉した電子による電流を検出する。電流計55によって計測された電流値を示す電流値信号は、制御部13に伝達される。
【0233】
図5Eは、プレート52における貫通孔の配置の一例を示す図である。
図5Eに示すように、本実施形態では一例として貫通孔として四つの異なる直径の貫通孔が設けられている。本実施形態では一例として貫通孔どうしは干渉して配置されていない。
【0234】
図5Eに示すように、プレート52に、複数の領域が設定されている。ここでは一例として、プレート52に、領域(破線で囲まれた領域)5R1~5R25の25個の領域が予め設定されており、この予め設定された領域毎に、貫通孔の空間分布(例えば、貫通孔の空間配置、または貫通孔の形状、またはその組み合わせ)が固有である。第1の貫通孔の直径は、例えば電子ビームのビーム径の2/3位の大きさである。プレート52におけ
る予め設定された領域毎に、貫通孔の空間分布が固有であることから、当該領域毎に電流空間分布も固有になる。このことを利用して、制御部13は、電子ビームをプレート52の領域毎に走査したときに電流計55により計測された電流の位置の分布を用いて、電子ビームの水平方向における位置を検出する。これにより、電流が計測された位置(スポット)の空間分布が領域毎に固有になるため、電子ビームがどの領域を通過しているのか判断することができる。
【0235】
ここでは一例として、貫通孔の一つとして、電子ビーム径よりも小さい複数(ここでは一例として三つ)の第1の貫通孔(例えば、5M51、5M52、5M53)が設けられている。そしてプレート52における第1の貫通孔の空間配置が領域毎に固有である。第1の貫通孔の直径は、例えば電子ビームのビーム径の2/3位の大きさである。プレート52における予め設定された領域毎に第1の貫通孔の空間配置が固有であることから、当該領域毎に電流空間分布も固有になる。また、電子ビームの全体の照射範囲の位置はずれていないことを前提とする。このことを利用して、制御部13は、電子ビームをプレート52の領域毎に走査したときに電流計55により計測される電流によって得られる電流空間分布を用いて、電子ビームの進行方向に対して略垂直な面内における電子ビームの位置(ビーム位置)を検出する。これにより、電流が計測された位置(スポット)が電子ビームより小さい径となり、このスポットの空間分布が領域毎に固有になるため、電子ビームがどの領域を通過しているのか判断することができる。
【0236】
プレート52には、上記領域それぞれにおいて電子ビーム径と略同じ第2の貫通孔5L1~5L25が設けられている。電子ビームの進行方向に対して略垂直な面内における電子ビームの位置を、一つの第2の貫通孔の位置に合わせると、計測される電流が最も大きくなる。このことを利用して、制御部13は、計測された電流に基づいて、第2の貫通孔に電子ビームの進行方向に対して略垂直な面内における電子ビームの位置を合わせるよう偏向器151を制御する。これにより、第2の貫通孔の位置に電子ビームの水平方向の位置を合わせることができる。ここで第2の貫通孔5L1~5L25は、対応する領域の略中央に配置されている。これにより、電子ビームの水平位置を、対応する領域の略中央の位置に合わせることができる。各領域の中心に、制御部13により電子ビームの水平位置を調整することを可能とするために、第2の貫通孔5L1~5L25は、他の周囲の第1の貫通孔(例えば、5M51、5M52、5M53)の径より1.5倍以上大きいことが好ましい。具体的な処理については、
図5Fのフローチャートとともに後述する。
【0237】
プレート52には更に、電子ビーム径よりも大きい径の第3の貫通孔5LLが設けられている。これにより、電子ビームが第3の貫通孔5LLのほぼ真ん中を通るとき、電子ビームが素通りして捕捉器54に電子ビームが全て到達するので、電流計55は、電子ビームによって一度に照射される電流量を計測することができる。第3の貫通孔5LLは、プレート52の略中央(領域5R13内)に配置されている。これにより、確実に電子ビームによって一度に照射される電流量を計測することができる。
【0238】
プレート52には更に、電子ビームよりも小さい径の九つの第4の貫通孔(例えば、第4の貫通孔5S5)が設けられている。これらの第4の貫通孔は、電子ビームのビームプロファイル測定用である。これにより、電子ビームが第4の貫通孔5S1~5S25を横切るように動くときに、捕捉器54によって捕捉された電子の量、すなわち電流計55の電流値から、電子ビームの電子密度の空間分布を測定することができる。本実施形態ではその一例として、第4の貫通孔(例えば、第4の貫通孔5S5)は、第1の貫通孔(例えば、5M51、5M52、5M53)よりも径が小さい。
【0239】
続いて、
図5Fを用いて、電子ビームの水平位置を、対応する領域の略中央の位置に合わせる処理について説明する。
図5Fは、プレート52の右上の領域の中心に、電子ビー
ムの位置を合わせる処理の一例を示すフローチャートである。本フローチャートでは、プレート52の右上の領域5R5に設けられた第2の貫通孔5L5の直径が電子ビームの直径と略同じであることを利用して、電子ビームをこの第2の貫通孔5L5の位置に合わせる。ここで偏向器115の電極H,Vにそれぞれ印加される電圧を(以下、偏向電圧という)Vh、Vvという。偏向電圧Vhは水平方向にスキャンするための電圧であり、偏向電圧Vvは垂直方向にスキャンするための電圧である。
【0240】
(ステップS501)プレート52の右上の領域5R5をスキャンできる電子ビームの偏向電圧Vh、Vvは、位置と電子エネルギーから予め計算されて設定されている。ここでは一例として、偏向電圧Vh、Vvはともに1~3Vでともに可変量は2Vである。
まず、制御部13は、プレート52の右上の領域5R5に対応する右上偏向範囲を予め決められた第1の垂直間隔毎に、予め決められた第1の水平間隔で水平方向にスキャンするよう偏向器115を制御する。
【0241】
(ステップS502)次に、制御部13は、電流計55における検出電流が最大のときにおける偏向電圧をそれぞれ偏向電圧Vhmax、Vvmaxとして検出する。この偏向電圧Vhmax、Vvmaxのときに、電子ビームはプレート52の右上の領域5R5のほぼ中央を通る。そして制御部13は、この検出電流が最大のときにおける偏向電圧Vhmax、Vvmaxを不図示のメモリに記憶する。ここでは例えば検出電流が最大のときにおける偏向電圧Vh、Vvはそれぞれ2.1V、2.2Vであるものとして説明する。これにより、粗い位置精度で、プレート52の右上の領域5R5の中心を検出することができる。
【0242】
(ステップS503)次に、制御部13は、偏向電圧Vhの偏向可変量及び偏向電圧Vvの偏向可変量を例えば半分に設定する。ここでは例えば偏向可変量を2Vの半分の1Vに設定すると、偏向電圧Vhは2.1Vを中心にして偏向可変量が1Vであるから1.6~2.6Vの値をとり、偏向電圧Vvは2.2Vを中心にして偏向可変量が1Vであるから1.7~2.7Vの値をとる。
【0243】
(ステップS504)次に、制御部13は、偏向電圧Vhmax、Vvmaxを中心として、偏向電圧Vhの偏向可変量及び偏向電圧Vvの偏向可変量がステップS501の半分という条件下で、スキャンを開始するよう偏向器115を制御する。その際に、例えば第1の垂直間隔より小さい第2の垂直間隔毎に、第1の水平間隔より小さい第2の水平間隔でスキャンしてもよい。これにより、ステップS502より高い位置精度で、プレート52の右上の領域5R5の中心を検出することができる。
【0244】
(ステップS505)偏向電圧Vh、Vvを変更する毎に、制御部13は、電流計55における検出電流が予め設定された設定電流値と略同じか否か判定する。ここで略同じとは、検出電流が、設定電流値を基準とする所定の範囲内に入っている場合である。ここで、設定電流値は、電子ビーム発生装置112によって発生された電子ビームの単位時間あたりの電荷量である。
【0245】
(ステップS506)ステップS505で検出電流が予め設定された設定電流値と略同じでない場合、制御部13は次の偏向電圧Vh、Vvに変更し、処理がステップS505に戻る。
【0246】
(ステップS507)一方、ステップS505で検出電流が予め設定された設定電流値と略同じ場合には、プレート52の右上の領域5R5の第2の貫通孔5L5を電子ビームが通っていると推定されるので、制御部13は偏向電圧Vh、Vvの変更を停止する。第2の貫通孔5L5はプレート52の右上の領域5R5の中心にあるので、このときに電子
ビームがプレート52の右上の領域5R5の中心を通っている。このようにして、最初のスキャンでプレート52の右上の領域5R5のほぼ中央のときの偏向電圧Vhmax、Vvmaxを検出しておき、次のスキャンで、電子ビームをプレート52の右上の領域5R5の中心に位置合わせすることができる。以上で、本フローチャートの処理を終了する。
【0247】
以上、本実施形態に係る電子ビーム照射装置は、電子ビームを偏向させる偏向器115と、偏向器115を制御して電子ビームを走査する制御部13と、予め設定された領域毎に、複数の貫通孔の空間配置が固有であるプレート52と、電子ビーム発生装置112によって発生された電子ビームのうち当該貫通孔を通過した電子を捕捉する捕捉器54と、捕捉器54が捕捉した電子による電流を計測する電流計55と、を備える。制御部13は、電子ビームをプレート52の領域毎に走査したときに電流計55により計測された電流の位置の分布を用いて、電子ビームの進行方向に対して略垂直な面内における当該電子ビームの位置を検出する。
【0248】
この構成により、電流が計測された位置(スポット)の空間分布が領域毎に固有になるため、電子ビームがどの領域を通過しているのか判断することができる。またプレート52と捕捉器54と電流計55とを用いて検出するので、ビーム位置の検出の際のコストを抑えることができる。更に、電子ビーム照射装置内で、粉塵が発生しないので汚染を低減することができる。更にプレート52は壊れにくいので、長期間安定してビーム位置を検出することができる。
【0249】
なお、本実施形態に係る第1の貫通孔の形状は略円であったが、これに限ったものではない。第1の貫通孔の形状が、領域毎に互いに異なる数字の形状など、領域毎に異なっていてもよい。貫通孔の形状は、略円でも、四角でも、三角でも、他の多角形でも何でもよい。
【0250】
なお、本実施形態および変形例に係る制御部の各処理を実行するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、当該記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータに読み込ませ、プロセッサが実行することにより、本実施形態および変形例に係る制御部に係る上述した種々の処理を行ってもよい。
【0251】
なお、本実施形態では、金属部材53は格子状であったが、これに限ったものではなく、金属部材53はハニカム状に正六角形の開口が設けられていてもよく、金属部材53は開口が設けられていればよい。
【0252】
なお、本電子ビーム発生装置は電子ビーム照射装置のみならず露光装置や検査装置にも適用可能である。
【0253】
[符号の説明]
13 制御部
51 筐体
52 プレート
53 金属部材
54 捕捉器
55 電流計
56 電源
127 測定ユニット
131 全体制御部
132 電子ビーム制御部
151 偏向器
500 電子ビーム位置検出システム
5115 電極
【0254】
(第5の実施形態)
[技術分野]
本実施形態は、電子ビーム照射装置に関する。
【0255】
[背景技術]
本件出願人は、試料に電子ビームを照射して表面処理を行う電子ビーム照射装置を既に提案している(特許文献1参照)。この電子ビーム照射装置には、ステージを昇降させるリフト機構が設けられており、ステージ上の試料の上方には印加ピンが配置されている。リフト機構によりステージを上昇させてステージ上の試料表面に印加ピンを接触させることで、試料表面の電位が接地電位に接続されて安定化される。
【0256】
しかしながら、このような電子ビーム照射装置では、リフト機構からの発塵やアウトガスが真空チャンバ内に放出されるため、真空チャンバ内の雰囲気が汚染されるという問題がある。
【0257】
[本実施形態が解決しようとする課題]
【0258】
試料台上の試料表面に印加ピンを押し付けて導通させる際にリフト機構からの発塵やアウトガスにより真空チャンバ内の雰囲気が汚染されることを防止できる電子ビーム照射装置を提供する。
【0259】
[課題を解決するための手段]
<態様1>
真空チャンバ内にて試料を保持する試料台と、
前記試料台上の試料に照射する電子ビームを発生させる電子源と、
前記試料台上の試料の電位を制御する電位制御部と、
を備え、
前記電位制御部は、
前記試料台上の試料の上方に配置される印加ピンと、
前記真空チャンバの外部に配置され、前記印加ピンを上下移動させて前記試料台上の試料表面に押し付け可能な印加ピンリフト機構と、を有する電子ビーム照射装置。
<態様2>
前記印加ピンは、バネピンを有する、態様1に記載の電子ビーム照射装置。
<態様3>
前記印加ピンは、上下方向に延びる支持部材の上端部に設けられており、
前記支持部材の下端部は、前記真空チャンバの底部を貫通して外部に突き出されており、
前記支持部材の下端部と真空チャンバの底部との間は、伸縮可能なベローズにより気密に覆われており、
前記印加ピンリフト機構は、前記支持部材の下端部に接続されている、態様1または2に記載の電子ビーム照射装置。
<態様4>
前記支持部材は、筒形状を有しており、
前記印加ピンに電気的に接続された導線は、前記支持部材の内側を通り、前記支持部材の下端部に設けられたフィードスルーを介して外部へと引き出されている、態様3に記載の電子ビーム照射装置。
<態様5>
前記印加ピンは、接地電位に接続されている、態様1~4のいずれかに記載の電子ビーム照射装置。
<態様6>
前記印加ピンは、一対のピン部材を有し、
前記電位制御部は、一方のピン部材に電圧を印加して、一方のピン部材と他方のピン部材との間の導通を検出する検出手段を更に有する、態様1~5のいずれかに記載の電子ビーム照射装置。
<態様7>
前記電位制御部は、前記検出手段により導通が検出されなかった場合には、前記検出手段による一方のピン部材への電圧印加をやり直す、態様6に記載の電子ビーム照射装置。<態様8>
前記電位制御部は、前記検出手段により導通が検出されなかった場合には、前記印加ピンリフト機構による前記印加ピンの試料表面への押し付けをやり直す、態様6に記載の電子ビーム照射装置。
【0260】
[本実施形態の効果]
電子ビーム照射装置において、試料台上の試料表面に印加ピンを押し付けて導通させる際に移動機構からの発塵やアウトガスにより真空チャンバ内の雰囲気が汚染されることを防止できる。
【0261】
[図面の簡単な説明]
[
図6A]電子ビーム照射装置の印加ピンに係る構成を拡大して示す概略図。
[
図6B]電位制御部の配線を示す概略図。
[
図6C]電子ビーム照射装置の動作の一例を示すフローチャート。
[
図6D]ロボットハンドのティーチングに係る構成を示す平面図。
[
図6E]
図6Dに示す構成のA-A線に沿った断面を示す図。
[
図6F]ティーチングプレートの平面図。
【0262】
[本実施形態を実施するための形態]
(試料の電位制御)
図6Aは、本実施の形態による電子ビーム照射装置10の印加ピン125に係る構成を拡大して示す概略図である。
【0263】
図6Aに示すように、電子ビーム照射装置10は、真空チャンバ121内にて試料Wを保持する試料台124と、試料台124上の試料Wに照射する電子ビームを発生させる電子源112(
図1A参照)と、試料台124上の試料Wの電位を制御する電位制御部620と、を備えている。
【0264】
上述したように、電子ビーム照射装置10では、電子源(電子ビーム発生装置)112の電位(例えば-0.2kV~-5kV)と試料Wの電位との差に応じて照射エネルギーが定まるため、試料Wの電位がフローティングであると照射エネルギーが不安定となってしまう。そのため、電位制御部620を用いて試料Wの電位を制御する(たとえば、接地電位に接続する)。
【0265】
図6Aに示すように、電位制御部620は、試料台124上の試料Wの上方に配置される印加ピン125と、真空チャンバ121の外部に配置され、印加ピン125を上下移動させて試料台124上の試料W表面に押し付け可能な印加ピンリフト機構630と、を有している。
【0266】
このうち印加ピン125は、好ましくはバネピンを有している。試料W表面に絶縁膜が
成膜されている場合には、印加ピンリフト機構630がバネピンを試料W表面に押し付ける際に、バネピンが試料W表面に擦り付けられることで、絶縁膜の一部がバネピンにより削り取られる。これにより、バネピンは試料W表面の絶縁膜を貫通して試料Wの導電部分と確実に導通することができる。
【0267】
図示された例では、印加ピン125は、上下方向に延びる支持部材622の上端部に設けられている。支持部材622の下端部は、真空チャンバ121の底部を貫通して外部に突き出されている。
【0268】
支持部材622の下端部の周囲には、伸縮可能なベローズ623が支持部材622と同軸状に配置されており、支持部材622の下端部と真空チャンバ121の底部との間は、伸縮可能なベローズ623により気密に覆われている。
【0269】
印加ピンリフト機構630は、真空チャンバ121の外部において、支持部材622の下端部に接続されている。
【0270】
より詳しくは、
図6Aに示すように、印加ピンリフト機構630は、ボールネジ633と、ボールネジ633にカップリング634を介して接続されたモータ635と、ボールネジ633に沿って上下移動可能な取付部材631と、取付部材631を案内するリニアガイド632と、を有しており、取付部材631が支持部材622の下端部に取り付けられている。
【0271】
モータ635の出力によりボールネジ633が回転されると、取付部材631は、支持部材622および印加ピン125と一緒に、ボールネジ633に沿って上下移動される。
【0272】
印加ピンリフト機構630の動作時に、印加ピンリフト機構630から塵やアウトガスが発生する。しかしながら、支持部材622の下端部と真空チャンバ121の底部との間が伸縮可能なベローズ623により気密に覆われているため、印加ピンリフト機構630からの発塵やアウトガスは、ベローズ623によって遮断され、真空チャンバ121の底部の貫通穴621を通って内部に侵入することはない。
【0273】
図示された例では、印加ピン125は、接地電位に接続されている。より詳しくは、支持部材622は、筒形状を有しており、印加ピン125に電気的に接続された導線625は、支持部材622の筒の内側を通り、支持部材622の下端部に設けられたフィードスルー624を介して外部へと引き出され、接地電位に接続されている。
【0274】
図6Bは、電位制御部620の配線を示す概略図である。
【0275】
図6Bに示すように、印加ピン125は、一対のピン部材671、672を有している。
【0276】
電位制御部620は、一方のピン部材671に他方のピン部材672とは異なる電圧(たとえば、正電圧)を印加して、一方のピン部材671と他方のピン部材672との間の導通を検出する検出手段673を更に有している。
【0277】
一方のピン部材671と検出手段673との間には、リレー674が配置されている。リレー674を切り替えることにより、一方のピン部材671は、接地電位(0V)と検出手段673の出力電圧(正電圧)のいずれかに接続される。
【0278】
検出手段673が一方のピン部材671と他方のピン部材672との間の導通を検出す
ることにより、試料台124上の試料W表面に印加ピン125を押し付ける際に、試料Wと印加ピン125とが導通したか否かを容易に確認することができる。
【0279】
電位制御部620は、検出手段673により試料Wと印加ピン125との導通が検出されなかった場合には、リレー674を操作することで、検出手段673による一方のピン部材671への電圧印加をやり直すように構成されている。本件発明者らの検証によれば、検出手段673により試料Wと印加ピン125との導通がたまたま検出されなかった場合であっても、検出手段673から一方のピン部材671への電圧印加をやり直すことで、試料Wと印加ピン125との導通を検出できるようになる可能性がある。
【0280】
変形例として、電位制御部620は、検出手段673により試料Wと印加ピン125との導通が検出されなかった場合には、印加ピンリフト機構630による印加ピン125の試料W表面への押し付けをやり直すように構成されていてもよい。このような態様によっても、試料Wと印加ピン125との導通を検出できるようになる可能性がある。
【0281】
次に、
図6Cを参照して、電子ビーム照射装置10の動作の一例を説明する。
図6Cは、ある試料Wへの電子ビーム照射が終了した後、次の試料Wを搬送して電子ビーム照射をするときの処理の流れを示すフロー図である。
【0282】
図6Cに示す例では、まず、試料Wの搬送準備が行われる。すなわち、表面処理が完了した試料Wへの電子ビーム照射が停止され(ステップS601)、パーティクルキャッチャ11B(
図1A参照)が真空管111内に挿入される(ステップS602)。これにより、後に操作されるゲートバルブから試料Wの上にパーティクルが落ちるのを防ぐことができる。そして、ゲートバルブ11Aが閉じられる(ステップS603)。これにより、真空管111内(特に電子ビーム発生装置112近傍)とメインチャンバ121内とが分離される。次いで、印加ピンリフト機構630が印加ピン125を上昇させ、印加ピン125が試料W表面から離間される(ステップS604)。
【0283】
次に、試料Wの搬送が行われる。すなわち、搬送用のゲートバルブ122が開かれ(ステップS605)、表面処理済の試料Wがメインチャンバ121から搬出されるとともに、次の試料Wがメインチャンバ121内に搬入される(ステップS606)。その後、搬送用のゲートバルブ122が閉じられる(ステップS607)。
【0284】
そして、次の試料Wへの電子ビーム照射が行われる。すなわち、印加ピンリフト機構630が印加ピン125を下降させ、試料Wの表面に印加ピン125が接触される(ステップS608)。
【0285】
本実施の形態では、印加ピンリフト機構630が、真空チャンバ121の外部に配置されているため、印加ピンリフト機構630からの発塵やアウトガスにより真空チャンバ121内の雰囲気が汚染されることが防止される。
【0286】
次に、検出手段673が、一方のピン部材671に電圧(たとえば、正電圧)を印加して、一方のピン部材671と他方のピン部材672との間の導通を検出する(ステップS609)。そして、電位制御部620が、検出手段673により導通が検出されたか否かを判定する(ステップS610)。
【0287】
検出手段673により導通が検出されなかったと判定された場合には(ステップS610:YES)、リレー674が切り替えられ、検出手段673から一方のピン部材671に電圧が印加し直される。そして、ステップS610から処理がやり直される。
【0288】
一方、検出手段673により導通が検出されたと判定された場合には(ステップS610:YES)、試料Wの表面電位が接地電位に接続されたことが保証される。メインチャンバ121内の真空排気が完了すると、ゲートバルブ11Aが開かれ(ステップS611)、パーティクルキャッチャ11Bが真空管111から引き抜かれる(ステップS612)。しそして、試料Wへの電子ビーム照射が開始される(ステップS613)。
【0289】
以上のような本実施の形態によれば、試料台124上の試料W表面に印加ピン125を押し付けて導通させるための印加ピンリフト機構630が、真空チャンバ121の外部に配置されているため、印加ピンリフト機構630からの発塵やアウトガスにより真空チャンバ121内の雰囲気が汚染されることを防止できる。
【0290】
また、本実施の形態によれば、試料台124上の試料W表面に印加ピン125を押し付ける際に、印加ピンリフト機構630により印加ピン125が上下移動され、試料Wを保持する試料台124は上下移動されない。したがって、試料台124は、電子ビームの照射対象である試料Wを所定位置にて安定的に保持することができる。
【0291】
また、本実施の形態によれば、印加ピン125がバネピンを有しているため、試料W表面に絶縁膜が成膜されている場合には、印加ピンリフト機構630によりバネピンが試料表面に押し付けられる際に、試料W表面の絶縁膜がバネピンにより削り取られる。これにより、バネピンは試料W表面の絶縁膜を貫通して試料Wの導電部分と確実に導通することができる。
【0292】
また、本実施の形態によれば、検出手段673が印加ピン125の一方のピン部材671に電圧を印加して、一方のピン部材671と他方のピン部材672との間の導通を検出するため、試料台124上の試料W表面に印加ピン125を押し付ける際に、試料Wと印加ピン125とが導通したか否かを容易に確認することができる。
【0293】
(測定ユニットの設置)
図1Aに戻って、本実施の形態では、電子ビームを測定する測定ユニット127は、真空チャンバ121内において、移動不能に設置されている。
【0294】
仮に測定ユニット127が真空チャンバ121内において移動可能に構成されている場合には、測定ユニット127の移動時に、測定ユニット127に電気的に接続されたケーブルも動いて撓むため、撓んだケーブルが周囲の部材に当たって擦れることで、塵が発生する可能性がある。
【0295】
一方、本実施の形態によれば、電子ビームを測定する測定ユニット127が真空チャンバ121内において移動不能に設置されているため、測定ユニット127の移動に伴う発塵を回避することができる。
【0296】
(ロボットハンドのティーチング方法)
【0297】
次に、
図6D~
図6Fを参照し、試料Wを搬送するロボットハンド641のティーチング方法について説明する。
図6Dは、ロボットハンド641のティーチングに係る構成を示す平面図である。
図6Eは、
図6DにおいてA-A線に沿った断面を示す図である。
図6Fは、ティーチングプレート660の平面図である。
【0298】
図6Dおよび
図6Eに示すように、本実施の形態による電子ビーム照射装置10は、ティーチングプレート660を更に備えている。ティーチングプレート660の材質としては、たとえば、透明な樹脂が用いられる。
【0299】
図6Fに示すように、ティーチングプレート660の表面には、ロボットハンド641と同じ形状のケガキ線661が付されている。また、ティーチングプレート660には、ケガキ線661の周囲を取り囲むように、複数(図示された例では4つ)の位置決め用穴652が形成されている。
【0300】
一方、試料台124には、ティーチングプレート660の位置決め用穴652と対応するように、複数(図示された例では4つ)の位置決め用穴651が形成されている。なお、位置決め用穴651は、試料Wを支持する試料支持ピン650により取り囲まれた領域の内側に配置されている。
【0301】
このような構成からなる電子ビーム照射装置10において、ロボットハンド641のティーチングを行う際には、まず、試料台124上に、試料Wの代わりに、ティーチングプレート660が配置される。ティーチングプレート660は、試料台124から突出する試料支持ピン650の先端で保持される。
【0302】
次に、
図6Fに示すように、ティーチングプレート660の位置決め用穴652と試料台124の位置決め用穴651とに共通に、位置決めピン653がそれぞれ挿入される。これにより、ティーチングプレート660が試料台124に対して予め定められた位置に正確に位置決めされる。
【0303】
次に、ロボットハンド641が、搬送用チャンバ640から搬送用ゲートバルブ122を通ってメインチャンバ121へと伸ばされる。そして、ロボットハンド641は、試料台124とティーチングプレート660との間の空間に差し入れられる。
【0304】
次いで、目視またはCCDセンサなどの検出器によりティーチングプレート660の上方からロボットハンド641の位置を確認される。そして、ロボットハンド641がティーチングプレート660のケガキ線661と一致するように、ロボットハンド641のティーチングが行われる。
【0305】
以上のようなティーチング方法によれば、経験の少ない技術者であっても、ロボットハンド641のティーチングを容易に行うことができる。
【0306】
なお、以上のようなティーチング方法は、大気圧の雰囲気で行われてもよいし、真空雰囲気で行われてもよい。真空雰囲気で行われる場合には、電子ビーム照射時と同様であり、メインチャンバ121の歪みの影響を加味してティーチングできるため、好ましい。
【0307】
[符号の説明]
10 電子ビーム照射装置
121 真空チャンバ(メインチャンバ)
122 搬送用ゲートバルブ
124 試料台(ステージ)
125 印加ピン
620 電位制御部
621 貫通穴
622 支持部材
623 ベローズ
624 フィードスルー
625 導線
630 印加ピンリフト機構
631 取付部材
632 リニアガイド
633 ボールネジ
634 カップリング
635 モータ
640 搬送用チャンバ
641 ロボットハンド
650 試料支持ピン
651 位置決め用穴
652 位置決め用穴
653 位置決めピン
660 ティーチングプレート
661 ケガキ線
671 ピン部材
672 ピン部材
673 検出手段
674 リレー
【0308】
(第6の実施形態)
[技術分野]
本実施形態は、フランジサイズの異なる配管を連結する連結器具に関する。
【0309】
[背景技術]
【0310】
図7Aは、フランジサイズの異なる配管を連結する従来の連結配管790の一例を示す概略図である。
図7Aに示すように、たとえば、電子ビーム照射装置のコラム側のICF70規格のフランジ721と、ターボ分子ポンプ側のICF114規格のフランジ722とを連結する場合には、ICF70規格の第1フランジ部791とICF114規格の第2フランジ部792とを有する連結配管790(異型ニップルと呼ばれることもある)が用いられる。連結配管790の第1フランジ部791が、コラム側のフランジ721に対して第1ガスケット794を挟み込んだ状態でネジ止めされ、第2フランジ部792が、ターボ分子ポンプ側のフランジ722に対して第2ガスケット795を挟み込んだ状態でネジ止めされる。
【0311】
ところで、配管距離を短縮できれば、省スペースを実現できるとともに、排気効率を向上できる。また、たとえば配管が横に延びている場合に連結部分の耐荷重を高めることができる。
【0312】
しかしながら、従来の連結配管790では、第1フランジ部791と第2フランジ部792との間に筒状の本体部793が存在しており、連結配管790全体の長さは、たとえば100mmである。配管距離を短縮するには、本体部793の長さを短縮する必要があるが、たとえば本体部793の長さをネジの長さより短くすると、第1フランジ部791をネジ止めする際にネジの頭が第2フランジ部792と物理的に干渉してしまい、第1フランジ部791をネジ止めすることができなくなる。したがって、従来の連結配管790では、配管距離を短縮するには限界がある。
[本実施形態が解決しようとする課題]
フランジサイズの異なる配管を連結する際に配管距離を短縮できる連結器具を提供する。
【0313】
[課題を解決するための手段]
<態様1>
フランジサイズの異なる配管を連結する連結器具であって、
小径側のフランジに重ねて配置される第1フランジ部材と、
前記第1フランジ部材と大径側のフランジとの間に重ねて配置される第2フランジ部材と、
を備え、
前記第2フランジ部材は、前記第1フランジ部材の内側に入り込む凸部を有し、
前記第1フランジ部材には、前記小径側のフランジの固定用穴と同軸の第1固定用穴が形成されており、
前記第1フランジ部材と前記第2フランジ部材には、それぞれ、前記大径側のフランジの固定用穴と同軸の第2固定用穴が形成されている、連結器具。
<態様2>
前記凸部の先端にはテーパがつけられている、態様1に記載の連結器具。
<態様3>
前記第1フランジ部材の外径および前記第2フランジ部材の外径は、それぞれ、前記大径側のフランジの外径に等しい、態様1または2に記載の連結器具。
<態様4>
態様1~3のいずれかに記載の連結器具を用いてフランジサイズの異なる配管を連結する方法であって、
前記第1フランジ部材を小径側のフランジに重ねて配置し、
前記第1固定用穴と前記小径側のフランジの固定用穴とに共通にネジを挿入して前記第1フランジ部材を前記小径側のフランジにネジ止めし、
前記第1フランジ部材の内側に第1シール部材を挿入し、
前記第2フランジ部材を前記第1フランジ部材に重ねて配置し、前記第1フランジ部材の内側に入り込む凸部と前記小径側のフランジとの間で前記第1シール部材を挟み込み、
前記第2フランジ部材と大径側のフランジとの間に第2シール部材を挟み込みながら、前記大径側のフランジを前記第2フランジ部材に重ねて配置し、
前記第1フランジ部材の第2固定用穴と前記第2フランジ部材の第2固定用穴と前記大径側のフランジの固定用穴とに共通にネジを挿入して、前記第1フランジ部材および前記第2フランジ部材を前記大径側のフランジと共締めする、方法。
<態様5>
前記第1シール部材および前記第2シール部材は、ガスケットまたはOリングである、態様4に記載の方法。
<態様6>
コラムと、
ターボ分子ポンプと、
前記コラム側のフランジと、前記ターボ分子ポンプ側のフランジとを連結する請求項1~3のいずれかに記載の連結器具と、
を備えた電子ビーム照射装置。
【0314】
[本実施形態の効果]
フランジサイズの異なる配管を連結する際に配管距離を短縮できる。
【0315】
[図面の簡単な説明]
[
図7A]従来の連結配管の一例を示す概略図。
[
図7B]本実施形態による連結器具の一例を示す概略図。
[
図7C]
図7Bに示す連結器具の第1フランジ部材の平面図。
[
図7D]
図7Cに示す第1フランジ部材のA-A線に沿った断面を示す図。
[
図7E]
図7Bに示す連結器具の第2フランジ部材の平面図。
[
図7F]
図7Eに示す第2フランジ部材のB-B線に沿った断面を示す図。
[
図7G]
図7Bに示す連結器具を用いてフランジサイズの異なる配管を連結する方法の一例を示すフローチャート。
【0316】
[本実施形態を実施するための形態]
図7Bは、本実施形態による連結器具710の一例を示す概略図である。連結器具710は、フランジサイズの異なる配管を連結するために用いられる。具体的には、たとえば、連結器具710は、電子ビーム照射装置10のコラム111(
図1A参照)側に配置された小径側のフランジ721(たとえば、ICF70規格のフランジ)と、ターボ分子ポンプ118側に配置された大径側のフランジ722(たとえば、ICF114規格のフランジ)とを連結するために用いられる。
【0317】
図7Bに示すように、連結器具710は、小径側のフランジ721に重ねて配置される第1フランジ部材711と、第1フランジ部材711と大径側のフランジ722との間に重ねて配置される第2フランジ部材712と、を備えている。
【0318】
図7Cは、第1フランジ部材711の平面図であり、
図7Dは、第1フランジ部材711のA-A線に沿った断面を示す図である。
【0319】
図7Cおよび
図7Dに示すように、第1フランジ部材711は、リング型の円板形状を有している。第1フランジ部材711の内径は、小径側のフランジ721の内径より大きく、第1フランジ部材711を小径側のフランジ721に重ねて配置すると、小径側のフランジ721の一部(内径側部分)が露出されるようになっている。また、第1フランジ部材711の外径は、大径側のフランジ722の外径と等しくなっている。
【0320】
図7Cに示すように、第1フランジ部材711には、複数(図示された例では6つ)の第1固定用穴711aが、小径側のフランジ721の固定用穴に対応するように、小径側のフランジ721の固定用穴と同軸に形成されている。
図7Dに示すように、第1固定用穴711aの一端には、ネジの頭を収容するための座繰り711cが設けられている。
【0321】
また、
図7Cに示すように、第1フランジ部材711には、複数(図示された例では6つ)の第2固定用穴711bが、大径側のフランジ722の固定用穴に対応するように、大径側のフランジ722の固定用穴と同軸に形成されている。
【0322】
図7Eは、第2フランジ部材712の平面図であり、
図7Fは、第2フランジ部材712のB-B線に沿った断面を示す図である。
【0323】
図7Eおよび
図7Fに示すように、第2フランジ部材712は、リング型の円板形状を有する本体部712dと、第1フランジ部材711の内側に入り込む凸部712aと、を有している。凸部712aは、円筒形状を有しており、本体部712dから同軸状に延びるように設けられている。また、本体部712dの外径は、大径側のフランジ722の外径と等しくなっている。
【0324】
図7Eに示すように、第2フランジ部材712の本体部712dには、複数(図示された例では6つ)の第2固定用穴712bが、大径側のフランジ722の固定用穴に対応するように、大径側のフランジ722の固定用穴と同軸に形成されている。
【0325】
図7Fに示すように、第2フランジ部材712の凸部712aの先端には、テーパ712cが付けられており、後述する第1シール部材714を押し潰しやすくなっている。
【0326】
次に、
図7Gを参照して、連結器具710の使用方法を説明する。
図7Gは、連結器具
710を用いてフランジサイズの異なる配管を連結する方法の一例を示すフローチャートである。
【0327】
図7Gに示す例では、まず、第1フランジ部材711が小径側のフランジ721に同軸に重ねて配置される(ステップS701)。そして、第1フランジ部材711の第1固定用穴711aが小径側のフランジ721の固定用穴と対向するように周方向で位置合わせされる。
【0328】
次に、第1フランジ部材711の第1固定用穴711aと小径側のフランジ721の固定用穴とに共通にネジが挿入され、第1フランジ部材711が小径側のフランジ721にネジ止めされる(ステップS702)。第1固定用穴711aの端部には座繰り711cが形成されているため、ネジの頭は座繰り711cに収容され、第1フランジ部材711から外側には突き出さない。
【0329】
次に、第1フランジ部材711の内側に第1シール部材714が同軸に挿入される(ステップS703)。第1シール部材714は、金属製のガスケットであってもよいし、樹脂製のOリングであってもよい。
【0330】
第2フランジ部材712が第1フランジ部材711に重ねて配置される(ステップS704)。第2フランジ部材712の凸部712aは、第1フランジ部材711の内側に入り込み、凸部712aと小径側のフランジ721との間で第1シール部材714が挟み込まれる。凸部712aが第1フランジ部材711の内側に入り込むことにより、第2フランジ部材712はこの状態で保持される。そして、第2フランジ部材712の第2固定用穴712bが第1フランジ部材711の第2固定用穴711bと対向するように周方向で位置合わせされる。
【0331】
次に、第2フランジ部材712の本体部712dと大径側のフランジ722との間に第2シール部材715を挟み込みながら、大径側のフランジ722が第2フランジ部材712に重ねて配置される(ステップS705)。第2シール部材715は、金属製のガスケットであってもよいし、樹脂製のOリングであってもよい。そして、大径側のフランジ722の固定用穴が第2フランジ部材712の第2固定用穴712bおよび第1フランジ部材711の第2固定用穴711bと対向するように周方向で位置合わせされる。
【0332】
次に、第1フランジ部材711の第2固定用穴711bと第2フランジ部材712の第2固定用穴712bと大径側のフランジ722の固定用穴とに共通にネジが挿入され、第1フランジ部材711および第2フランジ部材712が大径側のフランジ722と共締めされる(ステップS706)。このとき、第1シール部材714が第2フランジ部材712の凸部712aと小径側のフランジ721との間で押し潰されることで、第2フランジ部材712と小径側のフランジ721とが気密に連結される。また、第2シール部材715が第2フランジ部材712の本体部712dと大径側のフランジ722との間で押し潰されることで、第2フランジ部材712と大径側のフランジ722とが気密に連結される。
【0333】
以上のような本実施の形態によれば、第1フランジ部材711が小径側のフランジ721にネジ止めされるとともに、第1フランジ部材711と第2フランジ部材712とが大径側のフランジ722と共締めされることで、小径側のフランジ721と大径側のフランジ722とが連結器具710を介して気密に連結される。連結器具710には従来の連結配管790のような筒状の本体部793(
図7A参照)が必要ないので、配管距離を大幅に短縮することができる。本件発明者らの実際の検証によれば、従来の連結配管790では配管距離が100mmであったのに対し、本実施の形態では配管距離を17.5mmに
短縮することができる。これにより、省スペースを実現できるとともに、排気効率を向上できる。また、たとえば配管が横に延びている場合に連結部分の耐荷重を高めることができる。
【0334】
また、本実施の形態によれば、第2フランジ部材712の凸部712aの先端にはテーパ712cがつけられているため、第2フランジ部材712の凸部712aと小径側のフランジ721との間で第1シール部材714を押し潰す際に、凸部712aから第1シール部材714にかかる荷重が高まって押し潰しやすくなっている。
【0335】
また、本実施の形態によれば、第1フランジ部材711の外径および第2フランジ部材712の外径が、それぞれ、大径側のフランジ722の外径に等しいため、第1フランジ部材711または第2フランジ部材712が径方向にはみ出すことがなく、省スペースである。
【0336】
[符号の説明]
710 連結器具
711 第1フランジ部材
711a 第1固定用穴
711b 第2固定用穴
711c 座繰り
712 第2フランジ部材
712a 凸部
712b 第2固定用穴
712c テーパ
712d 本体部
714 第1シール部材
715 第2シール部材
721 小径側のフランジ
722 大径側のフランジ
【0337】
(第7の実施形態)
【0338】
[技術分野]
本実施形態は、電子ビーム発生装置に関し、特に複数の電子ビームを発生させる電子ビーム発生装置に関する。
【0339】
[背景技術]
電子ビーム照射装置は、試料に対して1本の電子ビームを照射するものもあるし、複数本の電子ビームを照射するものもある。後者の場合、電子ビーム発生装置が複数本の電子ビームを発生させる必要がある。この場合、複数の開口が形成された絞りを設け、この複数の開口に1本の電子ビームを通過させることで複数の電子ビームに分離することが考えられる。
【0340】
[本実施形態が解決しようとする課題]
しかしながら、このような電子ビーム発生装置では、絞りによって電子ビームがカットされるため効率が悪い。
【0341】
そこで本実施形態の課題は、効率よく複数の電子ビームを発生させる電子ビーム発生装置およびそのような電子ビーム発生装置を備える電子ビーム照射装置を提供することである。
【0342】
[課題を解決するための手段]
【0343】
<態様1>
光を受けて電子ビームを放出する光電面と、
前記光電面と対向する絞りと、
前記絞りと前記光電面との間に設けられた第1絶縁層と、
前記絞りと前記第1絶縁層との間に設けられた複数の電極と、
前記絞りと前記複数の電極との間に設けられた第2絶縁層と、を備え、
前記光電面の複数箇所が露出するよう、前記絞り、前記第2絶縁層、前記複数の電極のそれぞれおよび前記第1絶縁層には開口が設けられている、電子ビーム発生装置。
【0344】
<態様2>
複数の開口が設けられた第1絶縁層と、
光を受けて電子ビームを放出する、前記複数の開口の少なくとも一部に配置された複数の光電素子を有する光電面と、
前記第1絶縁層と対向する絞りと、
前記絞りと前記第1絶縁層との間に設けられた複数の電極と、
前記絞りと前記複数の電極との間に設けられた第2絶縁層と、を備え、
前記複数の光電素子のそれぞれが露出するよう、前記絞り、前記第2絶縁層および前記複数の電極のそれぞれには開口が設けられている、電子ビーム発生装置。
【0345】
<態様3>
光を受けて電子ビームを放出する光電面と、
前記光電面の少なくとも一部と対向する位置に開口が設けられ、前記光電面とは離間した複数の電極と、
開口が設けられており、前記複数の電極をその開口を塞がないように挟む第1および第2絶縁層であって、前記光電面に近い側の第1絶縁層と、前記光電面に遠い側の第2絶縁層と、
開口が設けられており、前記第2絶縁層の開口を塞がないよう、前記第2絶縁層と対向して設けられた絞りと、を備える電子ビーム発生装置。
【0346】
<態様4>
前記複数の電極にそれぞれ独立して電圧を印加可能である、態様1乃至3のいずれかに記載の電子ビーム発生装置。
【0347】
<態様5>
前記複数の電極のそれぞれに、電子ビームを放出させるための第1電圧および電子ビームを放出させないための第2電圧のうちの一方を切り替えて印加可能である、態様1ないし4のいずれかに記載の電子ビーム発生装置。
【0348】
<態様6>
前記複数の電極のそれぞれに、前記光電面の仕事関数および前記光電面に照射される光の振動数に応じて定まる閾値電圧以上の第1電圧および前記閾値電圧より低い第2電圧のうちの一方を切り替えて印加可能である、態様1ないし4のいずれかに記載の電子ビーム発生装置。
【0349】
<態様7>
前記複数の電極のそれぞれは、複数極から構成される、態様1乃至6のいずれかに記載の電子ビーム発生装置。
【0350】
なお、本電子ビーム発生装置は電子ビーム照射装置のみならず露光装置や検査装置にも適用可能である。
【0351】
[本実施形態の効果]
効率よく電子ビームを発生させることができる。
【0352】
[図面の簡単な説明]
[
図8A]本実施形態に係る電子ビーム発生装置112の断面図。
[
図8B]光電面82を下方から見た図。
[
図8C]絶縁層83を下方から見た図。
[
図8D]電極アレイ84を下方から見た図。
[
図8E]絞り86を下方から見た図。
[
図8F]各電極840に印加された電圧が-1.00Vである場合の、放出される電子ビームの形状を示すシミュレーション結果。
[
図8G]各電極840に印加された電圧が-0.50Vである場合の、放出される電子ビームの形状を示すシミュレーション結果。
[
図8H]各電極840に印加された電圧が-0.13Vである場合の、放出される電子ビームの形状を示すシミュレーション結果。
[
図8I]各電極840に印加された電圧が0.00Vである場合の、放出される電子ビームの形状を示すシミュレーション結果。
[
図8J]各電極840に印加された電圧が+2.00Vである場合の、放出される電子ビームの形状を示すシミュレーション結果。
[
図8K]隣接する電極840a~840cに印加された電圧がそれぞれ-0.50V,-0.13V,-0.50Vである場合の、放出される電子ビームの形状を示すシミュレーション結果。
[
図8L]
図8Aの変形例に係る電子ビーム発生装置112’の断面図。
[
図8M]光電面82を下方から見た図。
[
図8N]電極840のバリエーションを示す図。
[
図8O]電極840のバリエーションを示す図。
[
図8P]電極840のバリエーションを示す図。
[
図8Q]電極840のバリエーションを示す図。
【0353】
[本実施形態を実施するための形態]
図8Aは、本実施形態に係る電子ビーム発生装置112の断面図である。電子ビーム発生装置112は、ガラスなど絶縁物からなる基板81と、光電面82と、絶縁層83と、複数の電極840から構成される電極アレイ84と、絶縁層85と、絞り86とを備えている。なお、電子ビーム発生装置112は
図1Aの電子ビーム制御部132によって制御されるが、電子ビーム制御部132は電子ビーム発生装置112の一部であってもよい。
【0354】
図8Bは、光電面82を下方から見た図である。光電面82は仕事関数が低い光電子発生物質から構成される。光電面82は矩形であり、基板81に形成される(
図8A参照)。光電面82は基準電圧(例えばGND)が印加される。そして、光電面82は紫外線やレーザ光といった光を受けて電子ビームを放出する。
【0355】
図8Cは、絶縁層83を下方から見た図である。絶縁層83はセラミックやカプトンシートなどから構成される。絶縁層83の外郭は矩形であり、内部にはほぼ円形の複数の開口83aがマトリクス状に形成されている。絶縁層83には光電面82の直下に配置され(
図8A参照)、これによって光電面82の一部は絶縁層83に覆われるが、他の一部(つまり開口83aと対向する部分)は露出している。
【0356】
図8Dは、電極アレイ84を下方から見た図である。各電極840の外郭はほぼ正方形であり、内部にはほぼ円形の開口84aが形成されている。この開口84aは絶縁層83の開口83aより小さい。このような電極840が絶縁層83の直下にマトリクス状に配置される(
図8A参照)。より詳しくは、絶縁層83の開口83aの中央に各電極840の開口84aが位置するよう、電極アレイ84が配置される。光電面82から電極アレイ84までの距離は、例えば数μm~数mmである。
【0357】
また、
図8Dに示すように、電極840のそれぞれから外部に向かって配線84bが接続されている(
図8Aには不図示)。電子ビーム制御部132(
図1A)の制御に応じて、各配線84bを介して各電極840に所定の電圧(詳しくは後述)が印加される。配線84bは絶縁層83あるいは絶縁層85にプリントされてもよい。
【0358】
図8Aにおいて、絶縁層85は絶縁層83と同形状であり、やはり開口85aが形成されている。そして、両絶縁層83,85によって電極840が挟まれるが、その開口84aは塞がれていない。
【0359】
図8Eは、絞り86を下方から見た図である。絞り86はタンタルやモリブデンなどの金属などから構成される。絞り86の外郭は矩形であり、内部にはほぼ円形の複数の開口86aがマトリクス状に形成されている。この開口86aは電極840の開口84aより小さい。このような絞り86が絶縁層85の直下に配置される(
図8A参照)。より詳しくは、絶縁層85の開口85aの中央に絞り86の開口86aが位置するよう、絞り86が配置される。言い換えると、絶縁層85がむき出しにならないよう、絞り86が絶縁層85を覆っている。
【0360】
なお、絞り86の下方にはアノード(不図示)が設けられ、基準電圧より数Vから数十kV程度高い電圧が印加される。
【0361】
以上、
図8A~
図8Eを用いて説明したように、電子ビーム発生装置112において、光電面82に絞り86が対向している。絞り86と光電面82との間に絶縁層83が設けられる。また、絞り86と絶縁層83との間に複数の電極840が設けられる。さらに、絞り86と複数の電極840との間に絶縁層85が設けられる。そして、光電面82の複数箇所が露出するよう、絞り86、絶縁層85、複数の電極840のそれぞれおよび絶縁層83には開口86a,85a,84a,83aがそれぞれ設けられている。
【0362】
電子ビーム発生装置112の構成を言い換えると、複数の電極840のそれぞれは、光電面82の少なくとも一部と対向する位置に開口84aが設けられ、光電面82とは離間している。開口83a,85aが形成された絶縁層83,85は、複数の電極840を、その開口84aを塞がないように挟んでいる。また、開口86aが形成された絞り86は、絶縁層85の開口85aの少なくとも一部を塞がないよう、絶縁層85と対向して設けられる。
【0363】
以上のような構成の電子ビーム発生装置112により、光電面82における露出した位置からの電子ビームが開口86a,85a,84a,83aを通過する。
【0364】
この電子ビーム発生装置112は次のように動作する。
各電極840には、電子ビーム制御部132(
図1A)の制御に応じて、電子ビームを放出させるためのオン電圧と、電子ビームを放出させないためのオフ電圧とを切り替えて印加可能である。オン電圧は光電面82に印加される基準電圧以上の電圧であり、オフ電圧は基準電圧より低い電圧である。一例として、基準電圧がGNDである場合、オン電圧
は0~数V程度であり、オフ電圧はマイナス数V程度である。
【0365】
ある電極840にオフ電圧が印加されている場合、光電面82の表面に負の障壁が発生するため、電子ビームは放出されない。
【0366】
ある電極840にオン電圧が印加されている場合、障壁は生じないため電子ビームが引き出され、電極840の開口84aを通って電子ビームが放出される。
【0367】
なお、本電子ビーム発生装置112を電子ビーム照射装置に適用する場合、電子ビーム制御部132はすべての電極840に共通してオン電圧またはオフ電圧を印加してもよい。一方、本電子ビーム発生装置112を露光装置や検査装置に適用する場合、電子ビーム制御部132は複数の電極840に対して個別にオン電圧またはオフ電圧を印加可能であるのが望ましい。これにより、電子ビームの照射エリアを細かく制御でき、例えば露光装置用の描画パターンの作成が可能となる。
【0368】
このように、電極840の開口84aと対向する位置に絞り86aの開口86aがある構成により、光電面82からの電子ビームのほとんどが絞り86aによってカットされることなく、試料Wへの照射に効率よく利用できる。また、絞り86への衝突エネルギーが低いので、X線がほとんど発生せず、X線対策が不要である。
【0369】
さらに、光電面82に対向して絶縁層83,85を配置する。そのため、電子ビームがガスと衝突することによって正イオンが生じたとしても、この正イオンが光電面82に到達することはほとんどなく、光電面82の劣化を抑えられる。
【0370】
また、基板81から絞り86までの距離を短くできるため、光路長が短くなる。光電面82から絞り86に大電流が流れることがないため、Boersch効果に起因する分解能低下を抑えられる。
【0371】
さらに、試料Wに電子ビームを照射したくない場合(いわゆるブランキング)には、例えば偏向器115(
図1A)で電子ビームを大きく偏向させる必要はなく、電極840にオフ電圧を印加すればよい。電子ビームそのものを発生させないので、コンタミを抑制できる。
【0372】
なお、電子ビーム制御部132は絞り86にも電圧を印加可能であるのが望ましい。印加電圧によって放出される電子ビームを偏向でき、電子ビーム発生装置112が偏向器を兼ねることも可能となる。
【0373】
続いて、
図8Aに示す電子ビーム発生装置112のシミュレーション結果を示す。
図8Aにおいて、基板81をガラス基板とした。絶縁層83,85は、厚さを10μmとし、開口83a,85aの直径を10μmとした。各電極840は、厚さを2μmとし、開口84aの直径を6μmとした。絞り86は、厚さを2μmとし、開口86aの直径を4μmとした。1つの電極840における開口84aの中心と、隣接する電極840における開口84aの中心との距離を30μmとした。
【0374】
また、計算条件として、電子の放出エネルギーEemを0.2eVとした。なお、電子の放出エネルギーEemは下式で表される。
Eem=hν-W
ここで、hはプランク定数であり、νは光電面82に照射される光(例えば紫外線)の振動数であり、Wは光電面82の仕事関数である。
【0375】
図8F~
図8Jは、それぞれ、各電極840に印加された電圧が-1.00V,-0.50V,-0.13V,0.00Vおよび+2.00Vである場合の、放出される電子ビームの形状を示すシミュレーション結果である。
【0376】
図8Fおよび
図8Gにおいては、印加された電圧(それぞれ-1.00V,-0.50V)が電子の放出エネルギーEemより低いため、-0.2Vの等電位線が光電面82と電極アレイ84との間に形成される。そのため、この負の障壁によって電子ビームは電極アレイ84には到達しない。
【0377】
図8Hにおいては、印加された電圧が電子の放出エネルギーEemより高いため、光電面82と電極アレイ84との間に障壁は形成されない。そして、印加された電圧が負(-0.13V)であるため、電極840の内周端から遠ざかる方向(開口84aの中心に近づく方向)に電子ビームが曲げられ(言い換えると、電子ビームが絞られ)、絞り86の開口86aを通る。
【0378】
図8Iにおいては、印加された電圧が電子の放出エネルギーEemより高いため、光電面82と電極アレイ84との間に障壁は形成されない。また、印加された電圧が0.00Vであるため、電極840の開口84aを電子ビームが素通りし、絞り86の開口86aを通る。
【0379】
図8Jにおいては、印加された電圧が電子の放出エネルギーEemより高いため、光電面82と電極アレイ84との間に障壁は形成されない。そして、印加された電圧が正(+2.00V)であるため、電極840の内周端に近づく方向(開口84aの中心から遠ざかる方向)に電子ビームが曲げられ(言い換えると、電子ビームが拡がって)、絞り86の開口86aを通る。
【0380】
このように、電子の放出エネルギーEem(本例では-0.2eV)に対応した閾値電圧(本例では-0.2V)より高い電圧を電極840に印加することで電子ビームが放出される。すなわち、このような閾値電圧以上の電圧と、閾値電圧より低い電圧とを切り替えて電極840に印加可能であればよい。
【0381】
図8Kは、隣接する電極840a~840cに印加された電圧がそれぞれ-0.50V,-0.13V,-0.50Vである場合の、放出される電子ビームの形状を示すシミュレーション結果である。図示のように、電極840a,840cには-0.50V(<Eem)が印加されるため、これらの電極840a,840cには電子ビームが到達しない。一方、電極840bにが-0.13V(>Eem)が印加されるため、電極840bと対応する絞り86の開口86aを電子ビームが通過する。このように、電極840ごとに電子ビームを放出させるか否かを制御できている。
図8Lは、
図8Aの変形例に係る電子ビーム発生装置112’の断面図である。以下、
図8Aとの相違点を中心に説明する。
【0382】
図8Mは、光電面82を下方から見た図である。
図8Aの電子ビーム発生装置112に対して、光電面82の形状が異なっている。光電面82はマトリクス状に配置されたほぼ円形の複数の光電素子82bから構成される。このような光電面82が基板81に形成される(
図8L参照)。
【0383】
図8Lに戻り、絶縁層83、電極アレイ84、絶縁層85および絞り86の形状は、それぞれ
図8C~
図8Eに示したのと同様である。ただし、絶縁層83は、その開口83a内に光電素子82aが収納されるよう、基板81に形成される。
【0384】
このように、電子ビーム発生装置112’では、複数の開口83aが設けられた絶縁層83が基板上に設けられる。そして、光電面82が有する光電素子82bが開口83aの少なくとも一部に配置される。絶縁層83に絞り86が対向している。絞り86と絶縁層83との間に複数の電極840が設けられる。また、絞り86と複数の電極840との間に絶縁層85が設けられる。そして、複数の光電素子82aのそれぞれが露出するよう、絞り86、絶縁層85および複数の電極840のそれぞれには開口86a,85a,84aがそれぞれ設けられている。
【0385】
電子ビーム発生装置112’の構成を言い換えると、複数の電極840のそれぞれは、光電面82の少なくとも一部と対向する位置に開口84aが設けられ、光電面82とは離間している。開口83a,85aが形成された絶縁層83,85は、複数の電極840を、その開口84aを塞がないように挟んでいる。また、開口86aが形成された絞り86は、絶縁層85の開口85aの少なくとも一部を塞がないよう、絶縁層85と対向して設けられる。
【0386】
このような
図8Lに示す電子ビーム発生装置112’も、光電面82における光電素子82aからの電子ビームが開口84a,85a,86aを通過するため、
図8Aに示す電子ビーム発生装置112と同様に動作する。
【0387】
図8N~
図8Qは、電極840のバリエーションを示す図である。各図に示すように、電極840の外郭はほぼ円形であってもよい。そして、電極840は、円孔(
図8N)、4極(
図8O)、8極(
図8P)、12極(
図8Q)などであってもよい。
図8O~
図8Qに示すように、電極840が複数極から構成される場合、それぞれ図示のようにレンズ電圧Vl、x方向偏向電圧Vxおよびy方向偏向電圧Vyを印加することで、電極840がレンズ兼偏向器として機能する。
【0388】
このように、本実施形態では、開口84aが形成された複数の電極840を光電面82と対向して配置し、かつ、開口84aと対向する位置に開口86aが形成された絞り86を配置する。そのため、絞り86にカットされる電子ビームは少なくなり、効率よく複数の電子ビームを発生させることができる。
[符号の説明]
81 基板
82 光電面
82b 光電素子
83 絶縁層
83a 開口
84 電極アレイ
840 電極
84a 開口
84b 配線
85 絶縁層
85a 開口
86 絞り
86a 開口
112,112’ 電子ビーム発生装置