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特許7299224取り外し可能なキャップと偶発的作動を防止するための係止部材を備えた薬剤送達装置
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  • 特許-取り外し可能なキャップと偶発的作動を防止するための係止部材を備えた薬剤送達装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】取り外し可能なキャップと偶発的作動を防止するための係止部材を備えた薬剤送達装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/20 20060101AFI20230620BHJP
   A61M 5/315 20060101ALI20230620BHJP
   A61M 5/32 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
A61M5/20 530
A61M5/20 510
A61M5/315 502
A61M5/315 550A
A61M5/32 502
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2020539035
(86)(22)【出願日】2019-01-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-04-30
(86)【国際出願番号】 GB2019050120
(87)【国際公開番号】W WO2019141985
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2022-01-12
(31)【優先権主張番号】1800902.7
(32)【優先日】2018-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】520011887
【氏名又は名称】エスエイチエル・メディカル・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ウィロビー,アラステア
(72)【発明者】
【氏名】サヴェル,ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】スティール,ドナルド
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-508548(JP,A)
【文献】国際公開第2017/089281(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/011417(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/046556(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0174325(US,A1)
【文献】国際公開第2017/144200(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/20
A61M 5/315
A61M 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに分離可能に取り付けできる第1及び第2のケーシング部を有していて、シリンジを受け入れるハウジングと、前記ハウジング内に受け入れられ、穴を画定する内面および反対側の外面を有する管状壁を備えるスリーブと、前記第2のケーシング部に対して第1の軸方向位置と第2の軸方向位置との間で軸方向に移動可能になるように、前記第2のケーシング部内に受け入れられる係止部材とを備える薬剤送達装置であって、前記係止部材は、本体部分を有し、該本体部分から延びる1つまたは複数の半径方向内向きの突起を備えており、前記第1の軸方向位置において、前記1つまたは複数の半径方向内向きの突起は、前記外面と係合可能で、前記第1のケーシング部に対する前記スリーブの軸方向移動を阻害しており、前記第2の軸方向位置において、前記1つまたは複数の半径方向内向きの突起の前記外面との係合を解除することができ、
前記係止部材は、前記1つまたは複数の半径方向内向きの突起が係合可能である前記外面に沿って延びる半径方向内向きの溝を前記外面が有することにより、前記外面と係合可能であり、
前記半径方向内向きの溝が周方向に連続している、薬剤送達装置。
【請求項2】
前記薬剤送達装置は、前記スリーブの前記軸方向移動によって作動させることができる、請求項1に記載の薬剤送達装置。
【請求項3】
前記係止部材は、前記第1および第2のケーシング部を互いに分離することによって、前記第1の軸方向位置から前記第2の軸方向位置に移動可能である、請求項1または2に記載の薬剤送達装置。
【請求項4】
前記本体部分が環状である、請求項13のいずれか一項に記載の薬剤送達装置。
【請求項5】
前記本体部分は、周方向に連続している、請求項1~4いずれか一項に記載の薬剤送達装置。
【請求項6】
前記本体部分が、前記スリーブを受け入れることができる開口を画定する、請求項1~5いずれか一項に記載の薬剤送達装置。
【請求項7】
前記本体部分が、1つまたは複数の軸方向に延びる第1のアームを有しており、前記1つまたは複数の半径方向内向きの突起のそれぞれ1つが、軸方向に延びる前記第1のアームの自由端に近接した位置にあって、該アームに一体に形成されるか、または連結されている、請求項1~6いずれか一項に記載の薬剤送達装置。
【請求項8】
複数の軸方向に延びる前記第1のアームが、前記本体部分の周りに等間隔で配置されている、請求項に記載の薬剤送達装置。
【請求項9】
前記係止部材は、前記1つまたは複数の半径方向内向きの突起の半径方向外方への移動によって、前記外面から係合を解除することができる、請求項1~8いずれか一項に記載の薬剤送達装置。
【請求項10】
前記1つまたは複数の半径方向内向きの突起の前記半径方向外方への移動は、前記係止部材の変形によるものである、請求項に記載の薬剤送達装置。
【請求項11】
前記1つまたは複数の半径方向内向きの突起の前記半径方向外方への移動は、1つまたは複数の軸方向に延びる第1のアームの変形によるものである、請求項10に記載の薬剤送達装置。
【請求項12】
前記第1の軸方向位置において、前記1つまたは複数の半径方向内向きの突起の前記半径方向外方への移動は、前記係止部材が前記第2のケーシング部に当接することで阻害される、請求項9~11いずれか一項に記載の薬剤送達装置。
【請求項13】
前記1つまたは複数の半径方向内向きの突起の前記半径方向外方への移動は、前記係止部材が前記第2のケーシング部の半径方向内向きに延びる第1の部位に当接することで阻害される、請求項12に記載の薬剤送達装置。
【請求項14】
前記半径方向内向きに延びる第1の部位が、前記第2のケーシング部の第1の部分の上に延在する1つまたは複数の第1のバンプ、リッジ、および/または、リブを含む、請求項13に記載の薬剤送達装置。
【請求項15】
前記第1の軸方向位置において、前記半径方向内向きに延びる第1の部位は、前記1つまたは複数の半径方向内向きの突起と半径方向に整列しており、第2の軸方向位置において、前記半径方向内向きに延びる第1の部位は、前記1つまたは複数の半径方向内向きの突起と半径方向に整列していない、請求項13または14に記載の薬剤送達装置。
【請求項16】
前記係止部材は、前記第1および第2のケーシング部を互いに分離することによって、前記外面から係合を解除することができる、請求項1~15いずれか一項に記載の薬剤送達装置。
【請求項17】
前記本体部分が、前記本体部分から前記第2のケーシング部と係合可能に延びて、前記係止部材を前記第2のケーシング部内に保持する1つまたは複数の半径方向外向きの突起を有する、請求項1~16いずれか一項に記載の薬剤送達装置。
【請求項18】
前記本体部分が、1つまたは複数の軸方向に延びる第2のアームを有しており、前記1つまたは複数の半径方向外向きの突起のそれぞれ1つが、軸方向に延びる前記第2のアームの自由端に近接した位置にあって、前記第2のアームに一体に形成されるか、または連結されている、請求項17に記載の薬剤送達装置。
【請求項19】
前記1つまたは複数の半径方向外向きの突起は、前記1つまたは複数の半径方向外向きの突起が、前記第2のケーシング部の半径方向内向きに延びる第2の部位に当接することによって、第2のケーシング部と係合可能である、請求項17または18に記載の薬剤送達装置。
【請求項20】
前記半径方向内向きに延びる第2の部位が、前記第2のケーシング部の第2の部分の上に延在する1つまたは複数の第2のバンプ、リッジ、および/または、リブを含む、請求項19に記載の薬剤送達装置。
【請求項21】
前記第2のケーシング部が、前記薬剤送達装置の端部において、前記第1のケーシング部に分離可能に取り付けることができるキャップを備える、請求項1~20いずれか一項に記載の薬剤送達装置。
【請求項22】
前記スリーブが、前記薬剤送達装置のニードルを選択的に覆うためのニードルガードを備える、請求項1~21いずれか一項に記載の薬剤送達装置。
【請求項23】
前記第2のケーシング部が、前記穴内に受け入れ可能なニードルシースリムーバーを備えるか、あるいは前記ニードルシースリムーバーに連結される、請求項1~22いずれか一項に記載の薬剤送達装置。
【請求項24】
前記第1および第2のケーシング部が、互いに押込嵌め、スナップ嵌め、およびねじ嵌めのうちの1つを形成することにより、前記第1および第2のケーシング部が、互いに分離可能に取り付けることができる、請求項1~23いずれか一項に記載の薬剤送達装置。
【請求項25】
動力源として推進剤を含む、請求項1~24いずれか一項に記載の薬剤送達装置。
【請求項26】
前記動力源が、ハイドロフルオロアルカン(HFA)を含む推進剤を含む、請求項25に記載の薬剤送達装置。
【請求項27】
前記動力源が、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)を含む推進剤を含む、請求項25または26に記載の薬剤送達装置。
【請求項28】
圧縮されたバネを動力源として含む、請求項1~24いずれか一項に記載の薬剤送達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤送達装置、特に自動的に作動可能なシリンジに関する。
【背景技術】
【0002】
自動注射装置(autoinjector)と呼ばれることもある、自動的に作動可能なシリンジがよく知られている。これらの装置は、一回分の薬剤を患者に送達するための動力源、例えば、圧縮されたバネまたは推進剤容器を備えている。さらなる構成要素として、貯蔵中および送達の種々の段階においてこの装置のニードルを選択的に覆うためのニードルシールドを備えていてもよい。当業者には理解できるように、圧縮されたバネを開放したり推進剤の容器を開けたりするために、多くの場合、ユーザーが注射部位に装置を押し付けた時に、この装置の内部構成要素を後部に変位させることによって装置を作動させる役割をこのニードルシールドが果たし得る。しかしながら、装置が硬い面上に落下した場合、慣性によって内部構成要素は後方へ変位する可能性があり、その結果、装置は意図せず作動することになる。装置の有効性を維持するために、意図しない作動の防止が望まれることは明らかである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の実施形態の目的は、1つまたは複数の周知の構成に関連する問題を少なくとも軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一態様によれば、互いに分離可能に取り付けできる第1及び第2のケーシング部を有していて、シリンジを受け入れるハウジングと、該ハウジング内に受け入れられ、穴を画定する内面および反対側の外面を有する管状壁を備えるスリーブと、第2のケーシング部に対して第1の軸方向位置と第2の軸方向位置との間で軸方向に移動可能になるように、第2のケーシング部内に受け入れられる係止部材とを備える薬剤送達装置であって、第1の軸方向位置において、係止部材は前記外面と係合可能であって、第1のケーシング部に対するスリーブの軸方向移動を阻害しており、第2の軸方向位置において係止部材の前記外面との係合を解除することができる、薬剤送達装置が提供される。このように、係止部材によって、スリーブに対するハウジングの相対的な位置を選択的に維持することができる。もちろん、係止部材の前記外面との係合を解除することができ、スリーブの軸方向移動を可能にすることができる。前記外面と係合することで、係止部材が装置の穴を遮らず、あるいは装置の穴に進入しないようにできる。
【0005】
いくつかの実施形態においては、スリーブの軸方向移動によって、つまりその直接の結果として、薬剤送達装置は作動できる。このように、係止部材によって、装置の意図しない作動の可能性を低減し得る。この軸方向移動は後方への移動であってもよい。第1および第2のケーシング部を互いに分離することによって、係止部材を第1の軸方向位置から第2の軸方向位置に移動することができる。
【0006】
任意選択的に、係止部材が、前記外面と係合可能に延びる1つまたは複数の半径方向内向きの突起を有する本体部分を備えることができて、前記外面と係合することができる。本体部分は環状であってよい。本体部分は周方向に連続的、または不連続的であってもよい。いくつかの実施形態では、本体部分には、スリーブを部分的または全体的に受け入れ可能である開口を画定することができる。このように、係止部材または少なくともその一部分は、スリーブと第2のケーシング部との間に同心円状に受け入れられることができる。
【0007】
前記外面には、該外面に沿って、つまりスリーブの周囲に延びる半径方向内向きの溝があって、その溝には1つまたは複数の半径方向内向きの突起が係合可能であり得るので、係止部材は前記外面と係合可能である。この半径方向内向きの溝は周方向に連続的、または不連続的であってよい。この溝によって、係止部材に対するスリーブの任意の回転方位において、1つまたは複数の半径方向内向きの突起が前記外面に係合できるようにしてもよい。
【0008】
いくつかの実施形態では、本体部分は、軸方向に延びる1つまたは複数の第1のアームを有することができ、1つまたは複数の半径方向内向きの突起のそれぞれ1つが、そのアームの自由端に近接した位置にあって、そのアームに一体に形成されるか、もしくは連結されうる。軸方向に延びる複数の第1のアームは、本体部分の周りに等間隔で配置されていてもよい。
【0009】
1つまたは複数の半径方向内向きの突起の半径方向外方への移動によって、係止部材の前記外面との係合を解除することができる。1つまたは複数の半径方向内向きの突起の半径方向外方への移動は、係止リングの変形、例えば弾性変形によるものであってよい。より具体的には、1つまたは複数の半径方向内向きの突起の半径方向外方への移動は、軸方向に延びる1つまたは複数の第1のアームの変形、例えば弾性変形によるものであってよい。
【0010】
いくつかの実施形態では、第1の軸方向位置における、1つまたは複数の半径方向内向きの突起の半径方向外方への移動は、係止部材が第2のケーシング部に当接することで阻害することができる。より具体的には、1つまたは複数の半径方向内向きの突起の半径方向外方への移動は、係止部材が第2のケーシング部の半径方向内向きに延びる第1の部位に当接することで阻害することができる。半径方向内向きに延びる第1の部位は、第2のケーシング部の第1の部分の上に延在する1つまたは複数の第1のバンプ、隆起(リッジ)、および/またはリブを含みうる。
【0011】
第1の軸方向位置において、半径方向内向きに延びる第1の部位は、1つまたは複数の半径方向内向きの突起と半径方向に整列していてよく、第2の軸方向位置においては、半径方向内向きに延びる第1の部位は、1つまたは複数の半径方向内向きの突起と半径方向に整列していなくてよい。このように、第2の軸方向位置では、係止部材の撓みを許容する空間が提供されうる。第1および第2のケーシング部を互いに分離することにより、係止部材の前記外面との係合を解除することができる。
【0012】
任意選択的に、本体部分から第2のケーシング部と係合可能に延びて、係止部材を第2のケーシング部内に保持する1つまたは複数の半径方向外向きの突起を、本体部分は有することができる。この本体部分は、軸方向に延びる1つまたは複数の第2のアームを有することができ、1つまたは複数の半径方向外向きの突起のそれぞれがそのアームの自由端に近接した位置にあって、そのアームに一体に形成されるか、もしくは連結されうる。1つまたは複数の半径方向外向きの突起が第2のケーシング部の半径方向内向きに延びる第2の部位に当接することによって、1つまたは複数の半径方向外向きの突起は、第2のケーシング部と係合可能となりうる。半径方向内向きに延びる第2の部位は、第2のケーシング部の第2の部分の上に延在する1つまたは複数の第2のバンプ、隆起(リッジ)、および/またはリブを含むことができる。
【0013】
いくつかの実施形態では、薬剤送達装置の端部において第1のケーシング部に分離可能に取り付けることができるキャップを、第2のケーシング部が備えることができる。代替的又は付加的に、スリーブは、薬剤送達装置のニードルを選択的に覆うためのニードルガードを有することができる。第2のケーシング部は、穴内部に受け入れ可能なニードルシースリムーバー(needle sheath remover)を備えていてもよいし、またはニードルシースリムーバーに連結されていてもよい。第1および第2のケーシング部は、第1および第2のケーシング部が互いに押込嵌め、スナップ嵌め、およびねじ嵌めのうちの1つを形成するので、互いに分離可能に取り付けできる。
【0014】
いくつかの実施形態では、薬剤送達装置は、動力源として推進剤をさらに含むことができる。推進剤は液化ガス推進剤であってもよい。動力源は、ハイドロフルオロアルカン(HFA)を含む推進剤を含むものであってよい。代替的又は付加的に、動力源はハイドロフルオロオレフィン(HFO)を含む推進剤を含むものであってよい。いくつかの実施形態では、薬剤送達装置は、圧縮されたバネを動力源として含むことができる。
【0015】
本発明のさらなる態様によれば、薬剤送達装置であって、互いに分離可能に取り付けできる第1及び第2のケーシング部を有していて、シリンジを受け入れるハウジングと、穴を画定する内面および反対側の外面を有する管状壁を備えていて、ハウジング内に受け入れられるアクチュエータ部材であって、第1のケーシング部に対する該アクチュエータ部材の作動させるための移動によって薬剤送達装置を作動させることができる、アクチュエータ部材と、第2のケーシング部に対して第1の軸方向位置と第2の軸方向位置との間で軸方向に移動可能になるように、第2のケーシング部内に受け入れられている係止部材とを備え、第1の軸方向位置において係止部材は前記外面と係合可能であって、作動させるための移動を阻害しており、第2の軸方向位置において係止部材の前記外面との係合を解除することができる、薬剤送達装置が提供される。
【0016】
当業者であれば理解できるように、本発明の第1の態様に関して前述した特徴は、本発明のさらなる態様の特徴と組み合わせてもよい。
【0017】
ここで、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態が記述されるが、それらの実施形態は一例にすぎない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態による薬剤送達装置の断面図である。
図2図1の薬剤送達装置の基端の斜視断面図である。
図3図1の薬剤送達装置の係止部材の斜視図である。
図4A-4B】図1の薬剤送達装置の基端の部分断面図であり、ここでは、係止部材は第1の軸方向位置にある。
図5A-5B】図1の薬剤送達装置の基端の部分断面図であり、ここでは、係止部材は第2の軸方向位置にある。
図6A-6B】図1の薬剤送達装置の基端の部分断面図であり、ここでは、係止部材は第2の軸方向位置にあり、係止リングは変形している。
図7図1の薬剤送達装置の基端の部分断面図であり、ここでは、薬剤送達装置の第1および第2のケーシング部は互いに分離されている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明のある実施形態による薬剤送達装置10を示している。装置10は、自動注射器としての特定の用途を有する。この装置10は、第1のケーシング部14および第2のケーシング部16を有するハウジング12を備えている。第1および第2のケーシング部14、16は、例えば、押込嵌め係合によって、互いに分離可能に取り付けできる。図示の実施形態に示されるように、第2のケーシング部16は、装置10の基端18において第1のケーシング部14に分離可能に取り付けできるエンドキャップであってよい。ハウジング12は、ニードル22を有するシリンジ20を受け入れるように構成されている。一回分の薬剤を患者に送達するために、シリンジ20はハウジング12内で移動可能である。この装置10はさらに、ハウジング12内に受け入れ可能なスリーブ24(図2に最もよく示されている)を備えており、第1のケーシング部14に対してこのスリーブ24が軸方向に移動可能となっている。スリーブ24は、内面28および外面30を有する管状壁26を有する。内面28は、穴32を境界付け、つまり画定しており、そこにニードル20が受け入れ可能になっている。穴32は開放端34を備えていてよく、該開放端を選択的に通って、使用時にニードル20が一回分の薬剤を送達できる。このように、スリーブ24は、ニードルガードを有してもよいし、またはニードルガードとして機能してもよい。したがって、スリーブ24は、針刺し事故の危険性を低減させ、および/または、望ましくない装置10の再使用を阻止することができる。スリーブ24は添付の図面では円筒形であるように示されているが、他の形状、例えば楕円体または直方体も考えられる。さらに、スリーブ24は周方向に連続的であってもよいし、周方向に不連続であってもよい。
【0020】
いくつかの実施形態において、装置10を作動させるため、つまり、動力源48を開放して一回分の薬剤の送達を行うために、第1のケーシング部14に対してスリーブ24は軸方向に移動可能である。いくつかの実施形態において、動力源48は、圧縮されたバネ(図示せず)を備えることができる。いくつかの実施形態において、動力源48は、推進剤の容器50を備えることができる。推進剤は、気化して蒸気圧を提供する液化ガス推進剤を含んでもよい。使用前は、推進剤が装置10の遠位端52で容器50に含まれていてよい。スリーブ24の軸方向移動は、容器50を圧縮して推進剤を放出し、それによって一回分の薬剤の送達を駆動することができる。当業者であれば理解できるように、推進剤は、任意の適切な推進剤か、それを含むものである。しかしながら、いくつかの実施形態では、推進剤は、ハイドロフルオロアルカン(HFA)、例えば、HFA 341a、HFA 227、HFA 422D、HFA 507またはHFA 410Aであってよく、またはそれを含むものでよい。いくつかの実施形態では、推進剤は、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)、例えば、HFO 1234yfまたはHFO 1234zeであってよく、またはそれを含むものでよい。
【0021】
装置10は、係止部材36(図3に最もよく示されている)をさらに備える。図示の実施形態に示されるように、係止部材36は環状の本体部分38を備えうる。ただし、非環状の構成も想定される。環状の本体部分38は、少なくともその軸方向長さにわたっては、周方向に連続しうる。このように、環状の本体部分38は、そこを通って軸方向に延びる開口40を画定できる。環状の本体部分38は、そこから延びる1つまたは複数の半径方向内向きの突起42を備えていてよい。いくつかの実施形態では、半径方向内向きの突起42は、直径方向に対向する一対の半径方向内向きの突起42を含みうる。したがって、半径方向内向きの突起42は、環状の本体部分38の周りに等間隔に配置できるが、そのような等間隔の配置は、3つ以上の半径方向内向きの突起42によってなされてもよい。環状の本体部分38は、軸方向に延びる1つまたは複数の第1のアーム44を有することができ、そのアーム44の上に半径方向内向きの突起42のそれぞれ1つが一体に形成されていてもよいし、または連結されていてもよい。半径方向内向きの突起42のそれぞれは、軸方向に延びる第1のアーム44のそれぞれの自由端に近接した位置にあってよい。代替的又は付加的に、環状の本体部分38は、そこから延在する1つまたは複数の半径方向外向きの突起54を備えることができる。環状の本体部分38は、軸方向に延びる1つまたは複数の第2のアーム56を有することができ、そのアーム56の上に半径方向外向きの突起54のそれぞれ1つが一体に形成されていてもよいし、または連結されていてもよい。半径方向外向きの突起54のそれぞれは、軸方向に延びる第2のアーム56のそれぞれの自由端に近接した位置にあってよい。半径方向外向きの突起54は、環状の本体部分38の周りに等間隔に配置できるが、そのような等間隔の配置は、3つ以上の半径方向外向きの突起54によってなされてもよい。
【0022】
係止部材36は、第2のケーシング部16内に受け入れられるようになっており、第2のケーシング部16に対して第1の軸方向位置と第2の軸方向位置との間で移動可能となっており、すなわち、係止部材は第2のケーシング部16内で軸方向にスライド可能となっている。第1の軸方向位置は図4Aと図4Bに最もよく示されているが、これらの図は互いに90度ずれており、装置10の異なる特徴を示している。第2の軸方向位置は図5A、5B、6A、および図6Bに最もよく示されているが、これらの図は同じく互いに90度ずれている。重要なことは、第1の軸方向位置では、係止部材36は、スリーブ24の外面30と係合可能で、第1のケーシング部14に対するスリーブ24の軸方向移動を阻止することである。この軸方向移動は後方への移動であってよい。図示の実施形態では、半径方向内向きの突起42が外面30の溝46内に受け入れられうることにより、係止部材36と外面30との係合が達成される。溝46は当接面を提供し、この当接面に係止部材36が当接して、スリーブ24の軸方向経路を遮ることができる。部分的または全体的に、スリーブ24の周りに外面30に沿って、溝46が半径方向内向きに延びうる。しかしながら、いくつかの実施形態では、係止部材36の外面30との係合は、別の方法で達成することができ、例えば、外面30は、係止部材36の溝内に受け入れ可能な半径方向外向きの隆起(リッジ)を備えることもできる。
【0023】
半径方向内向きの突起42の半径方向外方への移動により、係止部材36の外面30との係合を解除することができる。いくつかの実施形態では、この半径方向外方への移動により、半径方向内向きの突起42が溝46から離脱できる。半径方向外方への移動は、係止リング36の変形、例えば係止リング36の弾性変形によるものであってよい。より具体的には、半径方向外方への移動は軸方向に延びる第1のアーム44の変形によるものであってもよい。該アームの上には半径方向内向きの突起42を一体に形成するか、もしくは連結することができる。
【0024】
装置10を使用する前は、係止部材36は、第1の軸方向位置にあってよい。第1の軸方向位置では、第1および第2のケーシング部14、16が互いに取り付けられたままで、係止部材36は実質的に変形されておらず、すなわち、係止部材36はフリー状態にあってよい。このように、図4Aおよび図4Bに示すように、第1の軸方向位置では、係止部材36は、第2のケーシング部16とスリーブ24の外面30との間で同心円状に受け入れられるようにすることができる。第1の軸方向位置では、係止部材36は外面30から外れることができない。これは、係止部材36が第2のケーシング部16に当接することによって、半径方向内向きの突起42の外方への移動が阻害されうるためである(つまり、第1の軸方向位置では、係止部材36の半径方向外方向に、半径方向外方への移動を許容するためのスペースがない)。このために、第2のケーシング部16は、半径方向内向きに延びる第1の部位58を備えていてよく、係止部材36は該部位に当接して、半径方向内向きの突起42の外方への移動を阻害することができる。図示の実施形態に示されるように、半径方向内向きに延びる第1の部位58は、1つまたは複数のリブを含むことができる。代替的又は付加的に、半径方向内向きに延びる第1の部位58は環状隆起(annular ridge)および/または1つまたは複数のバンプを含むことができる。
【0025】
装置10が遠位端52から落下した場合、もしくは遠位端52に衝撃を受けた場合、スリーブ24および/またはスリーブ24が連結されうる装置10の他の構成要素の慣性によって、スリーブ24が軸方向後方に移動するよう促される可能性がある。第1のケーシング部14に対するスリーブ24の後方への軸方向移動は、装置10を作動させることがある。いくつかの実施形態では、スリーブ24の後方への軸方向移動は、代わりに、装置10の作動準備をしうるものであるか、または装置10の種々の構成要素にずれを生じさせうるものである。しかしながら、半径方向内向きの突起42がスリーブ24の軸方向経路を遮ったり、またはふさいだりすることができるため、スリーブ24が係止部材36に軸方向に当接することで、第1のケーシング部14に対するスリーブ24の軸方向移動は阻止できる。その結果、荷重はスリーブ24から係止部材36に伝達され、その後、係止部材36から第1のケーシング部14に伝達されうる。言い換えると、スリーブ24は係止部材36によって軸方向に支持され、係止部材36は第1のケーシング部14によって支持されうる。例えば床に落下したり、あるいはぶつかったりした際の装置10の衝撃を吸収できる程度に、第1のケーシング部14は十分に硬くすることができる。
【0026】
装置10を使用する準備をするために、ユーザーは、例えば第2のケーシング部16を第1のケーシング部14から軸方向に引っ張ることにより、第2のケーシング部16を第1のケーシング部14から分離できる。そうすることで、係止部材36はスリーブ24と係合したままであることができるため、第2のケーシング部16に対して係止部材36は軸方向に移動できる。その結果、係止部材36は第2の軸方向位置に移動できる。第2の軸方向位置において、係止部材36は、第1の軸方向位置にあるときと同様に、実質的に変形されていなくてよい。第2の軸方向位置では、図5Aおよび図5Bに示すように、係止部材36は、第2のケーシング部16と外面30との間で同心円状に受け入れられうる。このように、第2の軸方向位置では、第1および第2のケーシング部14、16は、少なくとも部分的に互いに取り付けられたままであることができる。第2の軸方向位置では、係止部材36は外面30から係合解除可能である。これは、第2の軸方向位置では、係止部材36が第2のケーシング部16に当接することにより、半径方向内向きの突起42の外方への移動が阻害される可能性はもはやないためである(つまり、第2の軸方向位置では、係止部材36の半径方向外方向に、半径方向内向きの突起42の半径方向外方への移動を許容するためのスペースが存在しうる)。このように、第2の軸方向位置では、半径方向内向きに延びる第1の部位58が半径方向内向きの突起42と半径方向に整列する軸方向位置から、半径方向内向きに延びる部位58が半径方向内向きの突起42と半径方向に整列していない軸方向位置に、半径方向内向きに延びる第1の部位58が移動している。
【0027】
半径方向外向きの突起54が第2のケーシング部16と係合して第2のケーシング部16内に係止部材36を保持できるため、第2のケーシング部16に対する係止部材36の継続的な軸方向移動を阻止することができる。より具体的には、第2の軸方向位置において、半径方向外向きの突起54は第2のケーシング部16の半径方向内向きに延びる第2の部位60に当接して、第2のケーシング部16内に係止部材36を保持することができる。図示の実施形態に示されるように、半径方向内向きに延びる第2の部位60は、1つまたは複数の隆起(リッジ)であることができる。代替的又は付加的に、半径方向内向きに延びる第2の部位60は、1つまたは複数のリブおよび/または1つまたは複数のバンプを備えることができる。互いに90度ずれている図6Aおよび図6Bに示されるように、軸方向移動を続けると、半径方向内向きの突起を半径方向外側に移動させうることになる。これは、第2の軸方向位置では、半径方向内向きの突起42が外面30に当接することで、半径方向内向きの突起42を半径方向外側にそらすことができるためである。図示の実施形態に示されるように、半径方向内向きの突起42は、溝46に当接することで、軸方向に延びる第1のアーム44が変形して、半径方向外側にそらされることができる。このように、第1および第2のケーシング部14、16を互いに分離することによって、係止部材36の係合を外面30から解除することができる。半径方向内向きの突起42をそらしやすくするため、半径方向内向きの突起42と外面30のいずれかまたは両方が、面取りされた(角をそいだ)表面を含んでいてよい。
【0028】
図7は、互いに分離された第1および第2のケーシング部14、16と、第2のケーシング部16に保持された係止部材36とを示す。図7は、使用の準備ができている装置10を示す。
【0029】
いくつかの実施形態では、装置10の使用前に、取り外し可能なニードルシース(needle sheath)62でニードル22を覆うことができる。このように、第2のケーシング部16は、ニードルシース62と係合可能なニードルシースリムーバー64を備えることができ、これによって、第1および第2のケーシング部14、16を互いに分離することでニードルシース62がニードル22から取り外しできるようになる。ニードル22は穴32内に受け入れられうるため、ニードルシースリムーバー64も穴32内に受け入れられうる。ニードルシースリムーバー64は、開放端34を通って穴32内に受け入れられてよい。
【0030】
本明細書中において使用される場合、「軸方向」および「軸方向に」という用語は、装置10の基端18と遠位端52との間に延びる軸を指す。「半径の」及び「半径方向の」という用語は、軸に対して少なくとも実質的に垂直であり、軸から遠ざかるように延びる方向を指す。前方への移動は、軸に平行であり、基端18へ向かう動きを指し、後方への移動は、軸に平行であり、遠位端52へ向かう動きを指す。本明細書において使用される場合、「基端」という用語は、ニードル22が配置され、および/または取り付け可能である装置10の端部を指す。本明細書において使用される場合、「遠位端」という用語は装置10の端部を指し、この端部から最も離れたところでニードル22が配置され、および/または取り付けできるようになっている。本明細書に用いられる「含む」および「備える」は、同義語として用いられ、これらの用語およびそれらの変形は、非限定的に解釈されるべきである。
【0031】
この明細書(任意の添付したクレーム及び図面を含む)の中で開示した全ての特徴、及び/又はそのように開示した任意の方法又はプロセスの全てのステップは、少なくとも幾つかのそのような特徴及び/又はステップが互いに排他的になる組合せを除いて、任意の組合せで組み合わせることができる。
【0032】
(任意の添付の請求項及び図面を含む)本明細書に開示される各特徴は、特に明記されない限り、同一の目的、等価の目的、又は同様の目的を果たす代替的な特徴によって置き換えられてもよい。従って、特に明記されない限り、開示される各特徴は、一般的な一連の等価又は同様の特徴の単なる一例にすぎないことになる。
【0033】
本発明は、任意の前述した実施形態の詳細に限定されない。本発明は本明細書(添付の特許請求の範囲及び図面を含む)において開示される特徴のうちの任意の新規の特徴、もしくはそれらの任意の新規の組み合わせ、又はそのように開示される任意の方法もしくはプロセスのステップのうちの任意の新規のステップ、もしくはそれらの任意の新規の組み合わせに及ぶ。請求項は、前述の実施形態のみを含むと解釈されるべきではなく、請求項の範囲内に包含される任意の実施形態も含むと解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7