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特許7299237フック状係合素子を有する織物製面ファスナー
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  • 特許-フック状係合素子を有する織物製面ファスナー 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】フック状係合素子を有する織物製面ファスナー
(51)【国際特許分類】
   A44B 18/00 20060101AFI20230620BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
A44B18/00
D03D1/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020556053
(86)(22)【出願日】2019-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2019043145
(87)【国際公開番号】W WO2020100640
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2018213394
(32)【優先日】2018-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591017939
【氏名又は名称】クラレファスニング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】開高 敬義
(72)【発明者】
【氏名】山下 正美
【審査官】須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/122817(WO,A1)
【文献】特開2018-029912(JP,A)
【文献】特開2017-106277(JP,A)
【文献】国際公開第2007/074791(WO,A1)
【文献】特開平11-244010(JP,A)
【文献】特開2014-027988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B18/00
D03D1/00-1/08
D03D15/00-15/68
D03D27/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布の表面にフック状係合素子が複数存在している面ファスナーにおいて、
前記基布が、経糸、緯糸およびフック状係合素子用モノフィラメントからなる織物であり、
前記フック状係合素子モノフィラメントが、0.2~8質量%のポリエステルエラストマーを含むポリブチレンテレフタレート系ポリエステルからなり、
ポリブチレンテレフタレートおよびポリエステルエラストマーの2成分の合計質量が、前記ポリブチレンテレフタレート系ポリエステルの質量に対して、80質量%以上であることを特徴とする面ファスナー。
【請求項2】
ポリブチレンテレフタレートおよびポリエステルエラストマーの2成分の合計質量が、前記ポリブチレンテレフタレート系ポリエステルの質量に対して、90質量%以上である請求項1に記載の面ファスナー。
【請求項3】
記経糸および前記緯糸がともにポリエチレンテレフタレート系マルチフィラメント糸であり、
前記緯糸が熱融着性を有しており、
前記フック状係合素子用モノフィラメントが前記経糸に平行に織物中に織り込まれており、前記フック状係合素子は、前記フック状係合素子用モノフィラメントが前記経糸を複数本跨ぐ箇所で形成され、且つ前記フック状係合素子の根元が前記緯糸との融着により前記基布に固定されている請求項1又は2に記載の面ファスナー。
【請求項4】
前記基布が平織構造であって、
前記フック状係合素子用モノフィラメントは、前記経糸に平行に前記経糸4本毎に織物基布に織り込まれており、前記緯糸5本を浮沈した上で、前記経糸3本と前記緯糸1本を跨ぎ、跨いだ箇所で形成されたループの片脚が切断されて、前記フック状係合素子が形成されている請求項1~3のいずれか1項に記載の面ファスナー。
【請求項5】
前記フック状係合素子用モノフィラメントが、直径0.10~0.23mmのモノフィラメントである請求項1~のいずれか1項に記載の面ファスナー。
【請求項6】
前記フック状係合素子用モノフィラメントの一部がループ状係合素子用ポリブチレンテレフタレート製マルチフィラメント糸に置き換えられ、前記マルチフィラメント糸は前記経糸に平行に織物に織り込まれ、前記経糸を跨ぐことなく前記緯糸1本を跨ぐ箇所でループが形成され、かつ前記ループの片脚が切断されることなくループ状係合素子が形成されて、前記ループ状係合素子と前記フック状係合素子が前記基布の表面に混在している請求項1~のいずれか1項に記載の面ファスナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フック状係合素子を有する織物製の面ファスナー、特に柔軟性に優れたモノフィラメントからなるフック状係合素子が頻繁に係合・剥離を繰り返しても該モノフィラメントがフィブリル化を生じ難い織物製のフック面ファスナー、あるいはこのようなフック状係合素子とループ状係合素子の両方を基布の同一面に有しているフック・ループ混在型織物製面ファスナーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、織物基布を有する面ファスナーとして、モノフィラメントからなるフック状係合素子を基布の表面に複数有する、いわゆるフック面ファスナーと、該フック状係合素子と係合し得るマルチフィラメント糸からなるループ状係合素子を基布の表面に複数有する、いわゆるループ面ファスナーの組み合わせが広く用いられている。
【0003】
このような組み合わせに用いられるフック面ファスナーには、従来一般的に、フック状係合素子として、ナイロン6で代表されるポリアミド系のモノフィラメントが広く用いられている。ところが、ポリアミド系のモノフィラメントを用いた場合には、吸水・吸湿、熱によりフック面ファスナーが波打つという欠点がある。また、ポリアミド系のモノフィラメントを用いた場合には、今日の衣類を構成する主要繊維がポリエステル系繊維であることから染色性の違いにより、染色後に面ファスナーを取り付けることが必要となり、そのため衣類の色調に合わせた多くの色調の面ファスナーを在庫として持たなければならないという問題点を有している。
【0004】
このようなポリアミド系モノフィラメントからなるフック面ファアスナーの有する欠点や問題点を解消するフック面ファスナーとして、ポリエチレンテレフタレート系ポリエステルからなるモノフィラメントを用いたフック状係合素子を有する面ファスナーが提案されている(特許文献1)。
このようなポリエチレンテレフタレート系ポリエステルからなるモノフィラメントをフック状係合素子に用いると、上記欠点や問題点が解消できる他に、さらに前記モノフィラメントが剛性であることから、ループ状係合素子から抜けにくく、その結果、高い係合力が得られるというメリットも得られる。
【0005】
しかしながら、ポリエチレンテレフタレート系ポリエステルからなるモノフィラメントをフック状係合素子として使用した場合には、フック状係合素子が剛直過ぎることから、係合相手のループ状係合素子が切断され易く、さらに過度の剛性が原因で瞬間的な負荷、すなわち衝撃繰り返し剥離が生じるとフックが伸びて変形し回復しづらいという新たな問題点が生じる。さらに余りにも剛直であることから肌触りが悪く、柔軟性が要求されるサポーターや衣料用途等には必ずしも適したものとは言えないという問題点も有している。
【0006】
このようなポリエチレンテレフタレート系ポリエステルの有する上記問題点を解消するフック状係合素子として、ポリブチレンテレフタレート系ポリエステルからなるモノフィラメントを用いたフック面ファスナーが提案されている(特許文献2)。すなわち、ポリブチレンテレフタレート系ポリエステルからなるモノフィラメントは、ポリエチレンテレフタレート系ポリエステルと比べると遥かに柔軟であることから、係合相手のループ状係合素子を切断することもなく、かつフック形状をいつまでも保ち易く、さらに係合素子が倒れても立ち上がり易く、フック内に多くのループ繊維が進入し易いことから高い係合力と優れた係合耐久性が得られることとなり、さらにポリブチレンテレフタレート系ポリエステルからなるモノフィラメントは、柔軟であることから、肌触りが柔らかく、肌に直接触れる分野の用途、例えばサポーターや衣料用途等に適している。
【0007】
しかも、ポリブチレンテレフタレート系ポリエステルはポリエチレンテレフタレート系ポリエステルと同一染色条件で同時に同色に染色できることから、染色前のポリエチレンテレフタレート系繊維からなる衣類等に無色の面ファスナーを取り付けるだけで、同色に染色できることとなり、ポリアミド系面ファスナーのように染色性の違いによる多くの色調の面ファスナーを在庫として持たなければならないという問題点も解消できることとなる。
【0008】
このようにポリブチレンテレフタレート系ポリエステルからなるモノフィラメントから構成されたフック状係合素子を有する面ファスナーは優れた性能を有するが、ポリブチレンテレフタレート系ポリエステルからなるモノフィラメントをフック状係合素子に使用したフック面ファスナーは、血圧計、サポーター、義肢、靴、鞄、玩具等の係合・剥離を繰り返す回数が極めて頻繁な用途に使用された場合、剥離を頻繁に繰り返すと、フック状係合素子部分のポリブチレンテレフタレート系モノフィラメントが徐々にフィブリル化を生じることを見出した。
【0009】
モノフィラメントがフィブリルしていくと、1本のモノフィラメントの長さ方向に平行に裂け目が生じ、フック状係合素子として必要な剛直性が失われてループ状係合素子と係合し難くなり、それが高じるとモノフィラメントが細く分割されて、フック状係合素子はフック形状を保つことが難しくなり、係合強力が低下する。さらにフィブリル化が促進すると、フィブリル化したフック状係合素子そのものが切断されて消失することとなる。
【0010】
例えば、病院や老人ホーム等に設置された血圧計では、カフとして面ファスナーが用いられており、ポリブチレンテレフタレート系ポリエステルからなるモノフィラメントから構成されたフック状係合素子を有する面ファスナーは肌触り性や柔軟性の点で好ましいこととなるが、このような使用頻度の高い血圧計の場合には、ポリブチレンテレフタレート系ポリエステルからなるモノフィラメントからなるフック状係合素子は、係合・剥離を繰り返すとフィブリル化を生じて、係合強力が低下し、それが進むとフィブリルが徐々に切断され、最終的にはフック状係合素子そのものがなくなり、血圧計としての機能を消失することとなる。
【0011】
フック状係合素子に用いられるモノフィラメントは、通常、製造過程で引張強度を高めるために高倍率の延伸処理が行われており、これによりモノフィラメントを形成している結晶がモノフィラメントの長さ方向に揃うこととなり、これが原因で長さ方向に裂け易くなっていることがフィブリル化を生じる原因と思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2013-244139号公報
【文献】特開2014-27988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このように優れた性能を有するポリブチレンテレフタレート系ポリエステルからなるモノフィラメントから構成されたフック状係合素子を有する織物製の面ファスナーの有する新たな問題点、すなわちフック状係合素子を形成しているモノフィラメントが、係合・剥離を頻繁に繰り返すと、該モノフィラメントがフィブリル化して、モノフィラメントの長さ方向に裂け目が生じ、さらにそれが進むと1本のモノフィラメントが細く裂けてフック状係合素子はフック形状を保つことが難しくなり、係合強力を消失してしまうという問題点を解決することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち本発明は、基布の表面にフック状係合素子が複数存在している面ファスナーにおいて、前記フック状係合素子を構成しているモノフィラメントが、0.2~8質量%のポリエステルエラストマーを含むポリブチレンテレフタレート系ポリエステルからなることを特徴とする面ファスナーである。
【0015】
そして、好ましくは、このような面ファスナーにおいて、前記基布が、経糸、緯糸および前記フック状係合素子用モノフィラメントからなる織物であって、前記経糸および前記緯糸がともにポリエチレンテレフタレート系マルチフィラメント糸であり、前記緯糸が熱融着性を有しており、前記フック状係合素子用モノフィラメントが前記経糸に平行に織物中に織り込まれており、前記フック状係合素子は、前記フック状係合素子用モノフィラメントが前記経糸を複数本跨ぐ箇所で形成され、且つ前記フック状係合素子の根元が前記緯糸との融着により前記基布に固定されている。
【0016】
さらに好ましくは、このような面ファスナーにおいて、前記基布が平織構造であって、前記フック状係合素子用モノフィラメントは、前記経糸に平行に前記経糸4本毎に織物基布に織り込まれており、前記緯糸5本を浮沈した上で、前記経糸3本と前記緯糸1本を跨ぎ、跨いだ箇所で形成されたループの片脚が切断されて、前記フック状係合素子が形成されている場合である。また好ましくは、このような面ファスナーにおいて、前記フック状係合素子用モノフィラメントが、直径0.1~0.23mmのモノフィラメントである。
【0017】
また、本発明は、このような面ファスナーにおいて、前記フック状係合素子用モノフィラメントの一部がループ状係合素子用ポリブチレンテレフタレート製マルチフィラメント糸に置き換えられ、前記マルチフィラメント糸は前記経糸に平行に織物に織り込まれ、前記経糸を跨ぐことなく前記緯糸1本を跨ぐ箇所でループが形成され、かつ前記ループの片脚が切断されることなくループ状係合素子が形成されて、前記ループ状係合素子と前記フック状係合素子を前記基布の表面に有している。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、フック状係合素子を構成するモノフィラメントとして、0.2~8質量%のポリエステルエラストマーを含むポリブチレンテレフタレート系ポリエステルが用いられている。このように、モノフィラメント中にポリエステルエラストマーをブレンドすることにより、フック状係合素子に頻繁な係合・剥離を頻繁に繰り返しても、フック部のモノフィラメントがフィブリル化することを防ぐことができ、その結果、係合強力が低下することを防ぐことができる。
【0019】
本発明のフック状係合素子を構成する、ポリエステルエラストマーがブレンドされたポリブチレンテレフタレート系ポリエステルからなるモノフィラメントは、ポリブチレンテレフタレート系ポリエステルチップを溶融紡糸する際にポリエステルエラストマーのチップをブレンドする、いわゆる混合紡糸により得られる。一般に、混合紡糸すると、得られる繊維において2種のポリマーの界面で剥離が生じ易く、繊維物性が低下するとともにフィブリル化し易くなることが知られているが、本発明では、この一般的な傾向に反して、逆にフィブリル化が抑制されることとなる。
【0020】
ポリブチレンテレフタレート系ポリエステルとポリエステルエラストマーは伸縮挙動等の物性において大きく相違しているにも拘らず、ポリエステルエラストマーはポリブチレンテレフタレート系ポリエステルからなるモノフィラメントのフィブリル化を増長するのではなく、フィブリル化を抑制する効果を有するという事実は驚くべきことである。
【0021】
しかも、ポリエステルエラストマーがブレンドされたポリブチレンテレフタレート系ポリエステルからなるモノフィラメントは、染色性において、ブレンドされていないポリブチレンテレフタレート系ポリエステル単独からなるモノフィラメントと変わりなく、ポリエステルエラストマーの存在が、ポリブチレンテレフタレート系ポリエステルからなるモノフィラメントの優れた染色性を損なうこともない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の面ファスナーのフック状係合素子の係合・剥離を頻繁に繰り返した場合のフック状係合素子の状態を示す写真である。
図2】従来技術の面ファスナーの係合・剥離を頻繁に繰り返した場合のフック状係合素子の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明で対象となる面ファスナーは、基布の表面にモノフィラメントからなるフック状係合素子、すなわちモノフィラメントをループ状として熱を加えてループ形状を固定したのち、ループの片脚を切断することによりループをフック状にした係合素子が複数、好ましくは多数(約30個/cm~120個/cm)存在している面ファスナーである。
【0024】
基布は、経糸、緯糸およびフック状係合素子用モノフィラメントから織られた織物が好ましい。特に好ましくは、経糸および緯糸がともにマルチフィラメント糸で、しかも緯糸が熱融着性を有しており、フック状係合素子用モノフィラメントが経糸に平行に織物中に織り込まれており、フック状係合素子は、フック状係合素子用モノフィラメントが経糸を複数本跨ぐ箇所で形成され、且つフック状係合素子の根元が緯糸との融着により基布に固定されている。
なお、本発明において熱融着性とは、加熱によって軟化する性質のことであり、より詳細には、熱融着性繊維をある温度以上に加熱した際に軟化し、該繊維と密接に接触している、同素材または異素材からなる繊維と融着することが可能であることを意味する。
【0025】
経糸は、熱や吸水・吸湿により波打ち(面ファスナーの基布面が不規則に上下して、水平な面とならない状態)を生じない点から、さらに緯糸の熱融着性を向上させる点から、実質的にポリエチレンテレフタレート系ポリエステルのポリマーから構成されているマルチフィラメント糸が好ましい。ポリエチレンテレフタレートホモポリマーから形成されているマルチフィラメント糸がより好ましい。
【0026】
経糸として用いられるマルチフィラメント糸の太さとしては、20~54本のフィラメントからなるトータルデシテックスが100~300デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましく、特に24~48本のフィラメントからなるトータルデシテックスが150~250デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましい。
【0027】
本発明の面ファスナーにおいて、緯糸には熱融着性マルチフィラメント糸を含んでいるのが好ましい。熱融着性マルチフィラメント糸の好適な代表例として、鞘成分を熱融着成分とする芯鞘型の熱融着性フィラメントが集束したマルチフィラメント糸が挙げられる。
【0028】
緯糸が熱融着性マルチフィラメント糸を含んでいることにより、係合素子用モノフィラメントを基布に強固に固定することが可能となり、従来の面ファスナーのように係合素子用モノフィラメントが基布から引き抜かれることを防ぐためにポリウレタン系やアクリル系のバックコート樹脂を面ファスナー基布裏面に塗布する必要がなくなり、工程を簡略化することができ、さらに基布裏面がバックコート樹脂で固められていないことから面ファスナーの柔軟性や通気性が妨げられることもない。さらにバックコート樹脂層が存在することによる面ファスナーの染色性悪化の問題点も生じない。
【0029】
上記した芯鞘型の熱融着性マルチフィラメント糸としては、鞘成分が熱処理条件で溶融してフック状係合素子用モノフィラメントの根元を基布に強固に固定できるポリエステル系の樹脂からなり、芯成分が熱処理条件下では溶融しないポリエステル系の樹脂からなる芯鞘型フィラメントが複数本集束したマルチフィラメント糸が好適例として挙げられる。
【0030】
具体的には、ポリエチレンテレフタレートを芯成分とし、イソフタル酸やアジピン酸等で代表される共重合成分を多量に共重合、例えば20~30モル%共重合することにより融点または軟化点を大きく低下させた共重合ポリエチレンテレフタレートを鞘成分とする芯鞘型ポリエステル系マルチフィラメント糸が代表例として挙げられる。鞘成分の融点または軟化点としては100~200℃であり、かつ経糸や芯成分やフック状係合素子用モノフィラメントの融点より20~150℃低いのが好ましい。芯鞘型熱融着性繊維の断面形状としては、同心芯鞘であっても、偏心芯鞘であっても、あるいは1芯芯鞘であっても、多芯芯鞘であってもよい。
【0031】
さらには、緯糸を構成するマルチフィラメント糸の全てが上記熱融着性マルチフィラメント糸であることが、フック状係合素子用モノフィラメントが強固に基布に固定されることとなるため好ましい。緯糸を構成するマルチフィラメント糸が芯鞘断面形状ではなく、断面の全てが熱融着性のポリマーで形成されている場合には、溶けて再度固まった熱融着性ポリマーは脆く割れやすくなり、縫製した場合等は縫糸部分から基布が裂け易くなる。したがって、熱融着性マルチフィラメント糸は、熱融着されない樹脂を含んでいることが好ましく、芯鞘の断面形状を有していることが好ましいということになる。そして、芯成分と鞘成分の質量比率は50:50~80:20の範囲、特に55:45~75:25の範囲が好ましい。
【0032】
緯糸としてはマルチフィラメント糸が好ましく、緯糸を構成するマルチフィラメント糸の太さとしては、10~72本のフィラメントからなるトータルデシテックスが80~300デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましく、特に18~36本のフィラメントからなるトータルデシテックスが90~200デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましい。
【0033】
本発明において重要なことは、フック状係合素子用モノフィラメントを形成する樹脂が、0.2~8質量%のポリエステルエラストマーがブレンドされたポリブチレンテレフタレート系ポリエステルであることにある。
ポリエステルエラストマーがブレンドされたポリブチレンテレフタレートからなるモノフィラメントは、前記したように紡糸の際に、ポリブチレンテレフタレートチップにポリエステルエラストマーチップをブレンドして紡糸する、いわゆる混合紡糸により容易に得られる。
【0034】
0.2~8質量%のポリエステルエラストマーがブレンドされていることにより、剥離を頻繁に繰り返しても、ポリブチレンテレフタレート単独(すなわちポリエステルエラストマーがブレンドされていないポリブチレンテレフタレート)からなるモノフィラメントの場合と比べて、フィブリル化がはるかに生じ難くなる。なお、本発明で言う0.2~8質量%のポリエステルエラストマーがブレンドされているとは、ポリブチレンテレフタレート系ポリエステルの質量に対する値である。もちろん、ポリブチレンテレフタレートおよびポリエステルエラストマー以外の樹脂等が僅かならば、他の成分として、性能を損なわない範囲でブレンドされていてもよく、さらに、他の成分として、各種安定剤や着色剤等が性能を損なわない範囲で添加されていてもよい。ポリブチレンテレフタレートおよびポリエステルエラストマーの2成分の合計質量がポリブチレンテレフタレート系ポリエステル(「ポリブチレンテレフタレート」+「ポリエステルエラストマー」+「他の任意成分」)の質量に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であること(ポリブチレンテレフタレートおよびポリエステルエラストマーの2成分のみであること)が特に好ましい。
【0035】
ブレンドする樹脂が、ポリエステルエラストマーではなく、他のエラストマー、例えばポリウレタン系やポリオレフィン系やポリスチレン系のエラストマーである場合には、耐フィブリル性の改善は得られず、むしろ、係合・剥離を頻繁に繰り返すことによりフィブリル化が促進されることとなる。したがって、ポリエステルエラストマーに特有の効果である。
【0036】
本発明において、フック状係合素子を構成するモノフィラメントにブレンドされるポリエステルエラストマーとは、ブチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とする樹脂にポリオキシテトラメチレングリコールを共重合したものであることが好ましく、弾性率が高いにもかかわらず、弾性ポリマーの性質を充分に有している樹脂であることが好ましい。本発明において、好ましくは、ポリエステルエラストマー中における[ポリ(オキシテトラメチレン)]テレフタレート基の割合が40~70質量%、さらに好ましくは50~60質量%の範囲の場合である。
【0037】
ポリエステルエラストマーのブレンド量がポリブチレンテレフタレート系ポリエステルに対して0.2質量%未満の場合には、ポリエステルエラストマーがブレンドされている効果が殆ど発現しない。またブレンド量が8質量%を超える場合には、モノフィラメントが柔らかくなり過ぎて、フック形状が低い力で開くこととなり、高い係合強力を得ることが出来ない。好ましくは0.5~5質量%、より好ましくは0.5~3質量%、さらに好ましくは1~3質量%のポリエステルエラストマーがブレンドされている場合である。
【0038】
図1は、2質量%のポリエステルエラストマーがブレンドされたポリブチレンテレフタレートからなるモノフィラメントからフック状係合素子が形成されている場合、そして図2は、ポリエステルエラストマーがブレンドされていないポリブチレンテレフタレート単独からなるモノフィラメントからフック状係合素子が形成されている場合に、それぞれ2万回係合・剥離を繰り返した時点でのフック状係合素子の顕微鏡写真である。
図1のフック状係合素子はフィブリル化したものやフィブリル化の前兆となるモノフィラメント長さ方向に裂け目が生じているものは全く見られないのに対して、図2のフック状係合素子では根元がフィブリル化により白化して、モノフィラメントが長さ方向に裂け目を生じており、さらにフィブリル化によりモノフィラメントから分離独立した細いフィブリル化繊維が存在していることが分かる。
【0039】
モノフィラメントを構成するポリブチレンテレフタレート系ポリエステルとは、テレフタル酸とブタンジオールから得られる樹脂であり、少量ならば、ポリブチレンテレフタレートの有する性能を損なわない範囲で他の共重合成分が共重合されていてもよい。なお、他の共重合成分の割合は、全成分に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%であることが特に好ましい。
【0040】
またフック状係合素子用モノフィラメントの太さとしては、直径0.10~0.23mmが係合強力と柔軟な手触り感の両立の点で好ましく、直径0.14~0.20mmがより好ましい。
【0041】
以上述べた経糸、緯糸およびフック状係合素子用モノフィラメントから、面ファスナー用織物を織成する。織物の織組織としては、フック状係合素子用モノフィラメントを経糸の一部とした平織が好ましく、フック状係合素子用モノフィラメントは、経糸と平行に存在しつつ、組織の途中で基布面から立ち上がり、経糸を複数本跨ぐ箇所でフック状係合素子用ループを形成している織組織が好ましい。
【0042】
そして、経糸の織密度としては、熱処理後の織密度で50~90本/cmが、また緯糸の織密度としては、熱処理後の織密度で15~25本/cmが好ましい。そして、緯糸の質量割合としては、面ファスナーを構成するループ状係合素子用糸と経糸と緯糸の合計質量に対して10~45%が好ましい。
【0043】
そして、フック状係合素子用モノフィラメントの打ち込み本数は、経糸20本(フック状係合素子用モノフィラメントを含む)に対して3~6本程度が好ましい。特に好ましくは、経糸5本(フック状係合素子用モノフィラメントを含む)に対してフック状係合素子用モノフィラメント1本の割合であり、フック状係合素子用モノフィラメントは経糸に対して偏ることなく均一に打ち込まれるのが好ましい。したがって平均して経糸4本が連続するその両隣にフック状係合素子用モノフィラメントが存在しているのが好ましい。
【0044】
特に本発明において、フック状係合素子用モノフィラメントは、経糸に平行に経糸4本毎に織物基布に織り込まれており、緯糸5本を浮沈して緯糸上に浮き上がり、経糸3本および緯糸1本を跨いでいる箇所でフック状係合素子用ループを形成しているのが係合強力と剥離耐久性の両方を満足できることから好ましい。そして、ループ形成したモノフィラメントは、また緯糸5本を浮沈して緯糸上に浮き上がり、経糸3本および緯糸1本を跨いでループを形成しつつ元の経糸間に戻るような織り方が好ましい。
【0045】
このようにして得られた面ファスナー用織物に、次に熱処理をして緯糸を構成する芯鞘型熱融着性マルチフィラメント糸の鞘成分を溶融させる。これにより、従来の面ファスナーで行われていたバックコート処理が不要となり、バックコート用樹脂液に用いられている有機溶剤の蒸散による職場環境の悪化やバックコート樹脂液が製造装置に付着する等の問題点、さらにバックコート樹脂により面ファスナーの柔軟性や通気性が損なわれるという問題点、さらにバックコート樹脂の存在が面ファスナーの染色性を妨げるという問題点が生じることを防ぐことができる。
【0046】
熱処理の際の温度としては、熱融着性マルチフィラメント糸の鞘成分が溶融または軟化するがそれ以外のモノフィラメントや糸や芯成分は溶融しない温度である150~220℃が一般的に用いられ、より好ましくは185~210℃の範囲である。さらに、この熱処理の際の熱によりフック状係合素子用ループの形状が固定され、ループの片脚が切断されてもフック形状を保つこととなる。
【0047】
そして、このように形状が固定されたフック状係合素子用ループを表面に複数、好ましくは多数(約30個/cm~120個/cm)有するフック面ファスナー用織物に、次にフック用ループの片脚を切断してフック状係合素子を完成させる。片脚の切断は、通常、バリカン等により行われる。
片脚の切断はループの中央部から僅かに一方の脚側にずれた箇所を切断するのが、すなわちループの基布面から頂部までの高さを1とした場合に基布面から高さが2/3以上の頂部に近い箇所で、かつ頂部から僅かにずれている箇所でループが切断されていることが、フック状係合素子用モノフィラメントの頻繁な係合・剥離によるフィブリル化をより高度に防ぐ上で好ましい。
【0048】
このようにして得られたフック面ファスナーにおけるフック状係合素子の密度としては、係合素子が存在している基布部分基準で25~125個/cmが好ましい。また、フック状係合素子の高さとしては基布面から1.0~2.5mmが好ましい。
【0049】
以上、フック面ファスナーの場合について詳細に説明してきたが、本発明は、基布の表面にフック状係合素子のみが存在するフック面ファスナーの他に、面ファスナーの表面にフック状係合素子とループ状係合素子が混在している、いわゆるフック・ループ混在型面ファスナーの場合においても有効である。
【0050】
その際のループ状係合素子には、フック状係合素子と係合し易い、いわゆるループ部を構成しているマルチフィラメント糸が個々のフィラメントに分割され易い(バラけ易い)マルチフィラメント糸が好適に用いられる。特にこのマルチフィラメント糸として、特に分割され易く(バラけ易く)、柔軟性に優れるポリブチレンテレフタレート系ポリエステルから形成され、かつ上記熱融着性マルチフィラメント糸を熱融着させる際の温度では溶融しないマルチフィラメント糸が用いられているのが好ましい。
ループ状係合素子用マルチフィラメント糸の太さとしては、32~45dtexのフィラメントが5~12本集束されたマルチフィラメント糸が好ましい。
【0051】
そして、ループ状係合素子用マルチフィラメント糸は経糸に平行に織り込まれ、緯糸5本を浮沈する毎に織物上でループを形成するのが好ましい。ループ状係合素子用マルチフィラメント糸の打ち込み本数は、フック状係合素子用モノフィラメントおよびループ状係合素子用マルチフィラメント糸の合計で経糸20本(フック状係合素子用モノフィラメントおよびループ状係合素子用マルチフィラメント糸を含む)に対して3~6本が好ましく、そしてフック状係合素子用モノフィラメントおよびループ状係合素子用マルチフィラメント糸の打ち込み本数比が30:70~70:30の範囲が好ましい。そして、経糸方向に複数のフック状係合素子が並ぶ列および複数のループ状係合素子が並ぶ列がそれぞれ2列単位で交互に織物表面に存在しているのが特に好ましい。
【0052】
そして、フック・ループ混在型面ファスナーの場合には、熱処理した面ファスナー用織物の表面から突出しているフック状係合素子用ループの片脚側部のみを切断してフック状係合素子とする。切断位置に関しては、前記したフック面ファスナーの場合と同様である。
【0053】
フック状係合素子の高さとしては基布面から1.5~2.5mmで、かつループ状係合素子の高さより0.3~0.8mm低いのが好ましく、特に本発明ではフック状係合素子を構成するポリブチレンテレフタレート系ポリエステルにポリエステルエラストマーがブレンドされていることから柔軟性と風合いに優れているが、この効果が、ループ状係合素子がフック状係合素子よりも高いことにより、より一層顕著となる。
【0054】
フック・ループ混在型面ファスナーにおけるフック状係合素子とループ状係合素子のそれぞれの密度としては、係合素子が存在している基布部分基準で、20~40個/cm、20~40個/cmが好ましい。そして、フック状係合素子の個数とループ状係合素子の個数の比率としては、40:60~60:40の範囲が好ましい。
【0055】
そして、フック・ループ混在型面ファスナーの場合には、ループ状係合素子の表面を針布等で擦って、ループ状係合素子を構成するマルチフィラメント糸を個々のフィラメントに分割させる(バラけさせる)のが、係合強力を高める上で好ましい。ループ状係合素子の高さがフック状係合素子の高さより高い場合には、針布等で擦ってもフック状係合素子の頂部が傷つき難く、係合強力を損なうことが少ない。
【0056】
本発明のフック面ファスナー、またフック・ループ混在型面ファスナーは、従来の一般的な面ファスナーが用いられている用途分野に用いることができるが、特に係合・剥離が頻繁に繰り返し行われる用途に適しており、例えば、血圧計(特に病院や介護施設等で用いられる血圧計)、靴、バッグ、帽子、手袋等の他、衣類、サポーター類、義肢固定材類、荷造りの縛りバンド、結束テープ、各種玩具類、土木建築用シートの固定、組み立て・解体自在の収納箱や梱包ケース、小物類等の幅広い分野に使用できる。特に、人体の肌に直接触れる用途であって、係合・剥離が頻繁に行われる用途、例えば、上記血圧計、サポーター、義肢の固定等に適している。
【実施例
【0057】
以下本発明を実施例により説明する。なお、実施例中、初期係合強力はJIS L3416:2000の方法に従って、また剥離耐久性もJIS L3416:2000に従って測定した。なお、その際の係合相手として、面ファスナーがフック面ファスナーである場合、ループ状係合素子の素子密度が60本/cmのクラレファスニング社製織物系ループ面ファスナー銘柄品番B10000を用い、フック・ループ混在型面ファスナー(クラレファスニング社製:フック・ループ混在型面ファスナーF9820Y.12)である場合、同フック・ループ混在型面ファスナーを用いた。
【0058】
(実施例1)
面ファスナーの基布を構成する経糸、緯糸およびフック状係合素子用モノフィラメントとして次の糸を用意した。
[経糸]
・融点260℃のポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:167dtexで30本
【0059】
[緯糸(芯鞘型複合フィラメントからなるマルチフィラメント糸)]
・芯成分:ポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)
・鞘成分:イソフタル酸25モル%共重合ポリエチレンテレフタレート
(軟化点:190℃)
・芯鞘比率(質量比): 70:30(芯成分:鞘成分)
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:110dtexで24本
【0060】
[フック状係合素子用モノフィラメント]
・ポリエステルエラストマー(東レ・デュポン社製ポリエステルエラストマー:ハイトレル7247)を2質量%ブレンドしたポリブチレンテレフタレート系ポリエステル製モノフィラメント(融点:223℃)で、紡糸の際に上記エラストマーをチップブレンド。
・繊度:200デシテックス(直径:0.14mm)
【0061】
[フック面ファスナーの製造]
上記経糸、緯糸およびフック状係合素子用モノフィラメントを用いて、織組織として平織を用い、織密度が経糸60本/cm(フック状係合素子用モノフィラメントを含む)、緯糸20本/cmとなるように織った。その際、経糸4本に1本の割合でフック状係合素子用モノフィラメントを経糸に平行に打ち込み、緯糸5本を浮沈したのち、緯糸1本および経糸3本を跨ぐ箇所でループを形成するようにした。そして、ループ形成したモノフィラメントは、また緯糸5本を浮沈したのち緯糸上に浮き上がり、経糸3本および緯糸1本を跨いでループを形成しつつ元の経糸間に戻るように織った。
【0062】
上記方法で織成されたフック面ファスナー用テープを、緯糸の鞘成分のみが熱溶融し、かつ、経糸、フック状係合素子用モノフィラメント、さらには緯糸の芯成分が熱溶融しない温度である200℃で熱処理を施した。その結果、鞘成分が溶融して近隣に存在する糸を緯糸の芯成分に融着させた。そして、フック状係合素子用ループの片脚を、フック状係合素子高さの下から4/5の高さの部分で切断し、ループをフック状係合素子とした。得られたフック面ファスナーのフック状係合素子密度は60個/cmであり、さらにフック状係合素子の基布面からの高さは1.8mmであった。
【0063】
得られたフック面ファスナーの初期係合強力および2万回係合・剥離を繰り返したのちの係合強力の結果、さらに2万回係合・剥離繰り返した時点でのフック状係合素子を構成するモノフィラメントがフィブリル化しているか否かを、フック状係合素子を顕微鏡で拡大して観察した。その結果を以下の表1に示す。また2万回繰り返した時点でのフック状係合素子を構成するモノフィラメントの顕微鏡写真を図1に示す。
【0064】
表1の結果から明らかなように、本実施例のフック面ファスナーは、初期係合強力に優れ、2万回係合・剥離を繰り返したのちの係合強力、さらに2万回係合・剥離を繰り返した時点での耐フィブリル性において極めて優れていることが分かる。また、図1より、2万回の係合・剥離の繰り返しによっても、モノフィラメントのフィブリル化が全く生じていないことが分かる。
【0065】
(実施例2~3、比較例1~3)
上記実施例1に使用したフック状係合素子用モノフィラメントとして、ポリエステルエラストマーのブレンド量を、0.5質量%(実施例2)、5質量%(実施例3)、0質量%(比較例1)、0.1質量%(比較例2)、10質量%(比較例3)に変更する以外は実施例1と同様の方法によりフック面ファスナーを作製した。ただし、ポリエステルエラストマー10%ブレンドしたフック面ファスナー(比較例3)では、フックの切断面が引きちぎれたような末端不揃いの状態が観察された。これはフック糸が伸ばされながら切断されたためと思われる。なお、比較例1の面ファスナーに関して、2万回係合・剥離を繰り返した時点での、フック状係合素子の顕微鏡写真を図2に示す。
【0066】
これら得られたループ面ファスナーの初期係合強力および2万回係合・剥離後の剥離耐久性の結果を下記表1に併記する。
【0067】
【表1】
【0068】
以上の表1から、ポリエステルエラストマーのブレンド量が、本発明で規定する範囲内のものは初期係合強力、2万回係合・剥離を繰り返した時点での係合強力が共に優れ、さらに係合・剥離を繰り返してもフック状係合素子を形成しているモノフィラメントがフィブリル化していないのに対して、ブレンド量が本発明で規定する範囲未満の場合にはフィブリル化が生じ、その結果、係合・剥離を繰り返したものは係合強力が低下していること、またブレンド量が本発明で規定する量を超えるものは、フック状係合素子は、軽い引張力により容易にフックが開くことから高い係合強力が得られていないことが分かる。
【0069】
さらに、本発明のフック面ファスナーは、フック状係合素子が柔軟なポリブチレンテレフタレート系のモノフィラメント糸からなることから、肌触りが優しく、柔軟性にも優れ、特に人体に直接触れる用途には極めて適したものであり、さらに染色性においても通常のポリエチレンテレフタレート系ポリエステル製の繊維との同時同色繊維色が可能であった。
【0070】
(実施例4、比較例4)
上記実施例1において、フック状係合素子用モノフィラメントを直径0.14mmのモノフィラメントから直径0.2mmのモノフィラメントに変更し、さらに、フック状係合素子用モノフィラメントを2本単位毎に下記のループ状係合素子用マルチフィラメント糸に代え、そして、面ファスナーの表面に2列のフック状係合素子列の隣に2列のループ状係合素子用ループ列が存在し、ループ状係合素子用ループが形成されている箇所でループ状係合素子用マルチフィラメント糸は経糸を跨ぐことなく、緯糸1本を跨ぐようにする以外は実施例1と同様に行い、フック・ループ混在型面ファスナー用織物を作製した(実施例4)。
【0071】
また、この実施例4において、フック状係合素子用モノフィラメントとして、ポリエステルエラストマーを全くブレンドしていない太さ直径0.20mmのポリブチレンテレフタレートモノフィラメントを使用してフック・ループ混在型面ファスナー用織物を作製した(比較例4)。
【0072】
[ループ状係合素子用マルチフィラメント糸]
・ポリブチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸(融点:220℃)
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:265dtexで7本
【0073】
得られた2種類の織物を実施例1と同様に熱処理し、さらに2列のフック状係合素子用ループの中央部に近い方の脚を切断して、ループをフック状係合素子とした。得られたフック・ループ混在型面ファスナーのループ状係合素子密度およびフック状係合素子密度はそれぞれ30個/cm、30個/cmであり、ループ状係合素子の高さは2.5mm、フック状係合素子の高さは2.0mmであった。
【0074】
得られた2種類のフック・ループ混在型面ファスナーの初期係合強力および2万回係合・剥離を繰り返した時点での係合強力の結果を下記表2に併記する。さらに2万回係合・剥離を繰り返した時点でのフック状係合素子のモノフィラメントのフィブリル化の程度を顕微鏡により観察した。その結果を下記表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
表2から、ポリエステルエラストマーのブレンド量が、本発明で規定する範囲内のフック・ループ混在型面ファスナーは、初期係合強力、2万回係合・剥離を繰り返した時点での係合強力が共に優れ、さらに係合・剥離を繰り返してもフック状係合素子を形成しているモノフィラメントがフィブリル化を生じていない(実施例4)のに対して、ポリエステルエラストマーがブレンドされていない場合(比較例4)には、フィブリル化が生じ、その結果、係合・剥離を繰り返すと係合強力が低下していることが分かる。
さらに、実施例4のフック・ループ混在型面ファスナーは、フック状係合素子が柔軟なポリブチレンテレフタレート系のモノフィラメントからなることから、肌触りが優しく、柔軟性にも優れ、特に人体に直接触れる用途には極めて適したものであった。
図1
図2