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特許7299238滑らかな場を備えたグリッドレスイオンミラー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】滑らかな場を備えたグリッドレスイオンミラー
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/40 20060101AFI20230620BHJP
   H01J 49/42 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
H01J49/40 500
H01J49/40 600
H01J49/42 450
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020556866
(86)(22)【出願日】2019-04-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-29
(86)【国際出願番号】 GB2019051118
(87)【国際公開番号】W WO2019202338
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2020-10-15
(31)【優先権主張番号】1806507.8
(32)【優先日】2018-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504142097
【氏名又は名称】マイクロマス ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100189544
【弁理士】
【氏名又は名称】柏原 啓伸
(72)【発明者】
【氏名】アナトリー・ヴェレンチコフ
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-185306(JP,A)
【文献】特開2014-241298(JP,A)
【文献】特表2002-502096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/40
H01J 49/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸(X)に沿ってイオンを反射するためのイオンミラーであって、
使用中に前記イオンの転回点が位置する第1の軸方向セグメントと、第2の軸方向セグメントとを備え、前記第1および第2の軸方向セグメントは、前記軸(X)に沿った方向で互いに隣接しており、
少なくとも前記第1の軸方向セグメントが、前記軸(X)に沿って互いに離間した複数の電極を備え、少なくとも前記第1の軸方向セグメントの前記電極が、前記軸に沿って実質的に同じ長さを有し、これらの電極の隣接する対は、これらの電極が前記軸に沿ってピッチPを有するように配置されるように、実質的に同じ間隔で離間され、
前記複数の電極が、使用中に前記イオンが進行する、前記軸(X)に直交する平面(Y-Z平面)に配置された窓を画定し、前記窓は前記平面(Y-Z平面)において最小寸法Hを有し、
P≦H/5であり、
更に、
前記イオンミラーは、
電圧源を備え、
前記第1の軸方向セグメント内に第1の強度の第1の線形電場(E2)を生成するために前記第1の軸方向セグメントの前記電極に電位を印加し、前記第2の軸方向セグメント内に第2の強度の第2の線形電場(E3)を生成するために前記第2の軸方向セグメントの電極に電位を印加するように構成され、
前記電極は、前記第2の線形電場(E3)が前記第1の軸方向セグメントに侵入するように構成され、それにより、前記第1の軸方向セグメントの軸方向部分における前記軸方向電場が、前記イオンの前記転回点が位置する場所で非線形であり、
更に、前記イオンミラーは、
前記軸(X)に沿った方向で、前記第1の軸方向セグメントに隣接し且つ前記第2の軸方向セグメントに対して前記第1の軸方向セグメントの反対側にある、第3の軸方向セグメントを備え、前記第3の軸方向セグメントが、前記軸(X)に沿って互いに離間された複数の電極を備え、
更に、前記イオンミラーは、
電圧源を備え、前記第3の軸方向セグメント内に第3の強度の第3の線形電場(E1)を生成するために前記第3の軸方向セグメントの前記電極に電位を印加するように構成され、前記電極は、前記第3の線形電場(E1)が前記第1の軸方向セグメントに侵入するように構成され、それにより、前記第1の軸方向セグメントの軸方向部分における前記軸方向電場が、前記イオンの前記転回点が位置する場所で非線形である、
イオンミラー。
【請求項2】
前記イオンの前記反射を実行するための電場を生成するために、前記イオンミラーの異なる電極に異なる電圧を印加するための電圧源を備え、少なくとも前記第1の軸方向セグメントが、前記軸に沿って離間されたセグメント間電極の間に画定され、前記セグメント間電極の各々が、前記電圧源のうちの1つが接続される電極であり、前記第1の軸方向セグメントの前記複数の電極が、前記セグメント間電極の間に配置され、それらに電気的に接続され、電子回路によって互いに相互接続され、それにより、前記電圧源が前記セグメント間電極に電圧を印加すると、これにより、前記複数の電極は異なる電位に維持され、前記電場を生成する、請求項1に記載のイオンミラー。
【請求項3】
前記第1の軸方向セグメント内の前記複数の電極が、一連の抵抗器によって互いに相互接続されている、請求項2に記載のイオンミラー。
【請求項4】
前記イオンミラーが、前記第1の軸方向セグメントにおける前記イオンの平均イオン転回点から前記イオンミラーの入口/出口のより近くにある前記セグメント間電極までの前記軸に沿った距離(X3)が、≦2Hになるように構成されている、請求項2又は3に記載のイオンミラー。
【請求項5】
電圧源を備え、前記第1の軸方向セグメント内に第1の強度E2の第1の線形電場を生成するために前記第1の軸方向セグメントの前記電極に電位を印加し、前記第2の軸方向セグメント内に第2の強度E3の第2の線形電場を生成するために前記第2の軸方向セグメントの電極に電位を印加するように構成され、電場強度の比率E3/E2が、E3/E2=A*[0.75+0.05*exp((4X3/H)-1)]、の関係によって前記距離X3に関連付けられ、ここで、0.5≦A≦2である、請求項4に記載のイオンミラー。
【請求項6】
前記比率E3/E2が、(i)0.2≦X3/H≦1のとき、0.8≦E3/E2≦2、(ii)1≦X3/H≦1.5のとき、1.5≦E3/E2≦10、および(iii)1.5≦X3/H≦2のとき、E3/E2≧10のグループのうちの1つである、請求項5に記載のイオンミラー。
【請求項7】
前記第1の軸方向セグメントよりも前記イオンミラーの入口端部からより遠くに配置された第3の軸方向セグメントを備え、かつ、前記第3の軸方向セグメント内に第3の強度E1の第3の線形電場を生成するために前記第3の軸方向セグメントの電極に電位を印加するように構成された電圧源を備え、ここで、E1<E2であり、前記イオンミラーが、前記第1の軸方向セグメント内の前記イオンの平均イオン転回点から、イオンミラー入口からより遠くにある前記セグメント間電極までの前記軸に沿った前記距離(X2)が、0.2≦X2/H≦1になるように構成されている、請求項2~6のいずれか1項に記載のイオンミラー。
【請求項8】
前記第1の軸方向セグメント内の前記イオンの平均イオン転回点における軸方向電場強度E0が、(i)0.01≦(E0-E2)/E2≦0.1によって、前記第1の線形電場E2の前記強度に関連する、請求項1~7のいずれか1項に記載のイオンミラー。
【請求項9】
前記電極は、前記第2の線形電場(E3)が前記第1の軸方向セグメントに侵入するように構成され、それにより、前記第1の軸方向セグメントにおける等電位場線が、前記イオンの前記転回点が位置する場所で湾曲し、および/または、
前記第1および第2の軸方向セグメントにおける異なる電場強度が、前記第1および第2の軸方向セグメント間の移行領域において湾曲した等電位場線を生成する、請求項1~8のいずれか1項に記載のイオンミラー。
【請求項10】
前記軸に沿った前記第1の軸方向セグメントの長さが、≦5Hである、請求項1~9のいずれか1項に記載のイオンミラー。
【請求項11】
前記電圧源を備え、前記第1の軸方向セグメント内に前記第1の強度の前記第1の線形電場(E2)を生成するために前記第1の軸方向セグメントの前記電極に前記電位を印加し、前記第2の軸方向セグメント内に前記第2の強度の前記第2の線形電場(E3)を生成するために前記第2の軸方向セグメントの電極に前記電位を印加するように構成され、それにより、前記第1および第2の軸方向セグメント間の境界に不均一な軸方向電場を形成する、請求項1~10のいずれか1項に記載のイオンミラー。
【請求項12】
4.3U0/D<E2<5U0/Dであり、ここでU0は、前記イオンミラーで反射されるイオンの平均エネルギーK0をそのイオンの電荷qで割ったものに等しく、Dは前記イオンの平均イオン転回点から前記イオンミラーの1次エネルギー集束時間焦点までの距離である、請求項1~11のいずれか1項に記載のイオンミラー。
【請求項13】
15≦D/H≦25である、請求項12に記載のイオンミラー。
【請求項14】
入口レンズをさらに備え、前記入口レンズは、(i)加速レンズ、(ii)遅延レンズ、(iii)多段レンズ、(iv)細長いレンズ電極の両端に形成されたデュアルレンズ、および(v)液浸レンズ、のグループのうちの1つを任意選択で備える、請求項1~13のいずれか1項に記載のイオンミラー。
【請求項15】
前記イオンミラーの前記電極の少なくともいくつかが、プリント回路基板(PCB)の導電性ストリップである、請求項1~14のいずれか1項に記載のイオンミラー。
【請求項16】
前記PCBが帯電防止表面特性を備えている、請求項15に記載のイオンミラー。
【請求項17】
前記イオンミラーが、前記最小寸法Hだけ離間された2つの平行なプリント回路基板を備え、前記プリント回路基板は、前記軸に直交する前記PCB上に整列され、周期P≦H/5を有する導電性ストリップの周期構造の形態の前記複数の電極を備える、請求項15または16に記載のイオンミラー。
【請求項18】
軸(X)に沿ってイオンを反射するためのイオンミラーであって、
使用中に前記イオンの転回点が位置する第1の軸方向セグメントおよび第2の軸方向セグメントであって、前記第1および第2の軸方向セグメントが、前記軸(X)に沿った方向で互いに隣接している、第1および第2の軸方向セグメントと、
前記第1の軸方向セグメント内に第1の強度の第1の線形電場を生成するために前記第1の軸方向セグメントの電極に電位を印加し、前記第2の軸方向セグメント内に第2の強度の第2の線形電場を生成するために前記第2の軸方向セグメントの電極に電位を印加するように構成された電圧源と、を備え、
前記電圧源および電極は、前記第2の線形電場が前記第1の軸方向セグメントに侵入するように構成され、それにより、前記第1の軸方向セグメントの軸方向部分における前記軸方向電場が、前記イオンの前記転回点が位置する場所で非線形であり、かつ、前記第1の軸方向セグメント内の前記イオンの平均イオン転回点での軸方向電場強度E0と、前記第1の線形電場での前記第1の強度E2とが、0.01≦(E0-E2)/E2≦0.1の関係式に依り関係付けられる、イオンミラー。
【請求項19】
軸(X)に沿ってイオンを反射するためのイオンミラーであって、
イオンを受け取るための入口端部と、
使用中に前記イオンの転回点が位置する第1の軸方向セグメント、および前記軸(X)に沿った方向で前記第1の軸方向セグメントに隣接する第2の軸方向セグメントと、
前記イオンの前記反射を実行する電場を生成するために前記イオンミラーの異なる電極に異なる電圧を印加するための電圧源と、を備え、
少なくとも前記第1の軸方向セグメントが、前記軸に沿って離間されたセグメント間電極間に画定され、前記セグメント間電極の各々が、前記電圧源のうちの1つが接続される電極であり、前記第1の軸方向セグメントが、前記軸(X)に沿って互いに離間し、前記セグメント間電極間に配置された複数の電極を備え、前記複数の電極が、前記セグメント間電極に電気的に接続され、電子回路によって互いに相互接続され、それにより、前記電圧源が前記セグメント間電極に電圧を印加すると、これにより、前記複数の電極は異なる電位に維持され、前記電場を生成し、
前記複数の電極が、使用中に前記イオンが進行する、前記軸(X)に直交する平面(Y-Z平面)に配置された窓を画定し、前記窓は前記平面(Y-Z平面)において最小寸法Hを有し、
前記イオンミラーが、前記第1の軸方向セグメント内の前記イオンの平均イオン転回点から前記イオンミラーの前記入口端部により近いセグメント間電極までの前記軸に沿った距離(X3)が、≦2Hであるように構成されている、イオンミラー。
【請求項20】
請求項1~19のいずれかで請求された少なくとも1つのイオンミラーと、
イオンを前記イオンミラーに提供するためのイオン源と、
イオン検出器と、を備える、質量分析計。
【請求項21】
前記質量分析計が、
(i)前記イオンミラー間でイオンを複数回反射するように配置された2つの前記イオンミラーを備える、飛行時間型質量分析計、または、
(ii)静電型トラップ質量分析計、のいずれかである、請求項20に記載の質量分析計。
【請求項22】
請求項1~21のいずれかで請求されたイオンミラーまたは分析計を提供することと、
イオンを前記イオンミラーに供給することと、
前記第1の軸方向セグメント内のイオン転回点でイオンを反射することと、
前記イオンを検出することと、を含む、質量分析の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2018年4月20日に提出された英国特許出願第1806507.8号の優先権と利益とを主張する。この出願の全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、多重反射飛行時間型質量分析計および静電型イオントラップの分野に関係し、特に、グリッドレスイオンミラーにおける改善された電場に関する。
【背景技術】
【0003】
イオンミラーを備えたTOF-MS:飛行時間型質量分析計(TOF MS)は、感度と速度との組み合わせで広く使用されている。グリッドで分離された2つのステージを備えたイオンミラーが、SU198034でMamyrinによって導入された。ミラーは、イオン軌道を折りたたみ、エネルギー集束ごとに2次時間に到達することを可能にし、これにより、TOF MSの質量分解能が向上する。それ以来、TOF MSの大部分はイオンミラーを採用している。グリッドでのイオン損失およびイオン散乱を排除するために、適度なイオン光学品質を有するグリッドレス(グリッドフリー)イオンミラーがUS4731532Aにおいて導入された。
【0004】
多重反射TOF MS:多重反射TOF(MRTOF)MSの導入により、TOF MSの分解能および質量精度が大幅に向上する。分解能は主に、イオン経路の大幅な延長により向上し、例えば、MRTOFでL=20~50mに対して、L=2~5mの単一反射TOFである。合理的な機器サイズに合わせるために、参照により本明細書に組み込まれる、SU1725289、US6107625、US6570152、GB2403063、US6717132に記載されているように、複数のグリッド通路での壊滅的なイオン損失のためにグリッドを使用することができないグリッドレスイオンミラー間でイオン経路が密に折りたたまれている。
【0005】
E-トラップ:参照により本明細書に組み込まれる、US6744042、WO2011086430、US2011180702、およびWO2012116765によって例示されるように、多重反射分析器が、静電型イオントラップ(E-トラップ)として使用するために提案されている。イオンはイオンミラーの間に閉じ込められ、質量に依存する周波数で振動し、振動周波数はイメージ電流検出器で記録される。WO2011107836は、オープントラップ(TOFとEトラップとの間のハイブリッド)を提案している。
【0006】
イオンミラー:ほとんどのMRTOFおよびE-トラップは、ドリフトスペースによって分離された2つの平行なグリッドレスイオンミラーで構成される同様の静電分析器を採用している。同軸グリッドレスイオンミラーが、H.Wollnik、A.Casares、Int.J.Mass Spectrom.227(2003)217~222で導入され、一方、改善された3次エネルギー等時性および2次空間等時性を備えた平面グリッドレスイオンミラーがGB2403063で導入された。WO2013063587およびWO2014142897におけるさらなる改善により、エネルギー等時性が5次に、空間等時性が完全3次になり、これには、エネルギー、角度、および空間の広がりに関するクロス項が含まれる。高イオン光学品質のグリッドレスイオンミラーが、所望の電場分布を生成するためにリングまたはフレームのいずれかの非常に少数の厚い電極で構築されていることは、重要な関連性がある。
【0007】
PCBイオンミラー:1980年代以降、参照により本明細書に組み込まれる、US4390784、US4855595、US5834771、US5994695、US6614020、US6580070、US7498569、EP1566828、US6316768、US7675031、およびUS8373120に例示されるように、プリント回路基板(PCB)技術が、質量分析計用の電極および電極アセンブリを作製するために提案された。しかしながら、これらのミラーの場構造は、既知のミラー設計をコピーしており、場の改善というよりは構築方法に関係していた。知られている限りでは、イオンミラーの改善されたイオン光学品質を有し、最善の厚さの電極ミラーのイオン光学品質に匹敵するか、またはそれを超えるPCBミラーは提案されていない。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、軸(X)に沿ってイオンを反射するためのイオンミラーを提供し、使用中にイオンの転回点が位置する第1の軸方向セグメント(E2)と、第2の軸方向セグメント(E3)とを備え、第1および第2の軸方向セグメントは、軸(X)に沿った方向で互いに隣接しており、少なくとも第1の軸方向セグメントが、軸(X)に沿って互いに離間した複数の電極を備え、少なくとも第1の軸方向セグメントの電極が、軸に沿って実質的に同じ長さを有し、これらの電極の隣接する対は、これらの電極が軸に沿ってピッチPを有するように配置されるように、実質的に同じ間隔で離間され、複数の電極が、使用中にイオンが進行する、軸(X)に直交する平面(Y-Z平面)に配置された窓を画定し、窓は平面(Y-Z平面)において最小寸法Hを有し、そして、P≦H/5である。
【0009】
ミラーは、イオンをイオンミラーに受け取るための第1の軸方向端部と、イオンが第1の軸方向端部に向かって進行し、その後、そこへ(およびそこから)反射して戻る第2の軸方向端部とを有し得る。第2の軸方向セグメントは、第1の軸方向セグメントよりもイオンミラーの第1の軸方向端部(すなわち、入口/出口端部)により近く配置され得る。
【0010】
ミラーは、イオンの反射を実行するための電場を生成するために、イオンミラーの異なる電極に異なる電圧を印加するための電圧源を備えることができる。少なくとも第1の軸方向セグメントは、軸に沿って離間されたセグメント間電極の間に画定されてもよく、セグメント間電極の各々は、電圧源のうちの1つが接続される電極である。第1の軸方向セグメントの複数の電極は、セグメント間電極の間に配置されてもよく、電圧源がセグメント間電極に電圧を印加すると、これにより、複数の電極が異なる電位に維持され、電場を生成するように、それらに電気的に接続され、電子回路によって互いに相互接続されてもよい。
【0011】
「セグメント間電極」という用語は、隣接するセグメント間など、各軸方向セグメントの軸方向端部にある電極を指す。本明細書の他の箇所で言及される「結び目」電極は、セグメント間電極の実施形態である。
【0012】
第1の軸方向セグメントを画定するセグメント間電極は、第1および第2の電位がそれぞれ供給されるように電圧源に接続され得、第1および第2の電位の平均電位は、ミラーで反射されるイオンの平均エネルギーKをそのイオンの電荷qで割ったものに等しくなり得る。これは、イオンが第1の軸方向セグメントで反射されることを確実にし得る。
【0013】
第1の軸方向セグメント内の複数の電極は、一連の抵抗器によって互いに相互接続され得る。
【0014】
一連の抵抗器は、セグメント内の複数の電極において、およびそれらに沿って実質的に線形の電位勾配を形成するように構成され得る。
【0015】
第1の軸方向セグメント内の複数の電極の軸方向端部の電極は、例えば、抵抗器を介して、隣接するセグメント間電極に電気的に接続され得、それにより、セグメント間電極に電圧を印加すると、複数の電極に電圧が印加されることになる。
【0016】
これは、電圧源の数を減らすことを可能にする。上述の抵抗器の精度は、例えば、最適なシミュレートされた電場強度比E2/E1を維持するために、1%またはそれより良く設定され得る。
【0017】
第2の軸方向セグメントはまた、セグメント間電極によって境界付けられてもよく、それらの間に複数の電極を備えてもよい。これらの複数の電極は、第1の軸方向セグメントに関連して上述したように、抵抗器を使用して互いに、およびセグメント間電極に接続され得る。
【0018】
ミラーは、第1の軸方向セグメントにおける平均イオン転回点からミラーの入口/出口のより近くにあるセグメント間電極までの軸に沿った距離(X3)が、≦2H、≦1.5H、≦1H、≦0.5H、0.2H≦X3≦1.7Hの範囲、または0.1H≦X3≦1Hの範囲になるように構成され得る。
【0019】
距離は、平面対称性を有するミラーの場合、0.2H≦X3≦1.7Hであってもよく、または円筒鏡面対称性を有するミラーの場合、0.1H≦X3≦1Hであってもよい。
【0020】
ミラーは、電圧源を備え、第1の軸方向セグメント内に第1の強度E2の第1の線形電場を生成するために第1の軸方向セグメントの電極に電位を印加し、第2の軸方向セグメント内に第2の強度E3の第2の線形電場を生成するために第2の軸方向セグメントの電極に電位を印加するように構成され得、電場強度の比率E3/E2は、E3/E2=A*[0.75+0.05*exp((4X3/H)-1)]、の関係によって距離X3に関連付けられ、ここで0.5≦A≦2である。
【0021】
この関係は、平面対称性を有するイオンミラーのためものであり得る。
【0022】
比率E3/E2は、次のグループのうちの1つであり得る、(i)0.2≦X3/H≦1のとき、0.8≦E3/E2≦2、(ii)1≦X3/H≦1.5のとき、1.5≦E3/E2≦10、および(iii)1.5≦X3/H≦2のとき、E3/E2≧10。
【0023】
イオンミラーは、第1の軸方向セグメントよりもイオンミラーの入口端部からより遠くに配置された第3の軸方向セグメントを備え得る。ミラーは、第1の軸方向セグメント内に第1の強度E2の第1の線形電場を生成するために第1の軸方向セグメントの電極に電位を印加し、第3の軸方向セグメント内に第3の強度E1の第3の線形電場を生成するために第3の軸方向セグメントの電極に電位を印加するように構成された電圧源を備えることができ、ここで、E1<E2である。ミラーは、第1の軸方向セグメント内の平均イオン転回点からミラー入口からより遠くにあるセグメント間電極までの軸に沿った距離(X2)が、0.2≦X2/H≦1になるように構成され得る。
【0024】
イオンミラーは、電圧源を備え、第1の軸方向セグメント内に第1の強度の第1の線形電場(E2)を生成するために第1の軸方向セグメントの電極に電位を印加し、第2の軸方向セグメント内に第2の強度の第2の線形電場(E3)を生成するために第2の軸方向セグメントの電極に電位を印加するように構成され得、電極は、第2の線形電場(E3)が第1の軸方向セグメントに侵入するように構成され、それにより、第1の軸方向セグメントの軸方向部分における軸方向電場は、イオンの転回点が位置する場所で非線形である。
【0025】
したがって、平均イオン転回点での軸方向電場強度(E)は、第1の線形電場(E2)の第1の強度とわずかに異なる場合がある。
【0026】
上記の電場は、ミラーの中心軸に沿った(すなわち、電極から離れた)軸方向電場であり得る。
【0027】
第1の軸方向セグメント内の平均イオン転回点における軸方向電場強度Eは、以下を含むグループからの関係によって、第1の線形電場E2の強度に関連し得る、(i)0.01≦(E-E2)/E2≦0.1、および(ii)0.015≦(E-E2)/E2≦0.03。
【0028】
電極は、第2の線形電場(E3)が第1の軸方向セグメントに侵入するように構成され得、それにより、第1の軸方向セグメントにおける等電位場線は、イオンの転回点が位置する場所で湾曲する。
【0029】
第1および第2の軸方向セグメントにおける異なる電場強度は、第1および第2の軸方向セグメント間の移行領域において湾曲した等電位場線を生成し得る。
【0030】
第2の軸方向セグメントの電極は、軸に沿って実質的に同じ長さを有し得、これらの電極の隣接する対は、これらの電極が軸に沿ってピッチPを有するように配置されるように、実質的に同じ間隔だけ離間され得る。複数の電極は、イオンが使用中に進行する、軸(X)に直交する平面(Y-Z平面)に窓を画定し得、窓は平面(Y-Z平面)において最小寸法Hを有する。高さに対する前記ピッチの比率は、P≦H/5によって与えられ得る。
【0031】
イオンミラーの2つの軸方向セグメントについて説明されてきたが、イオンミラーは、3つ以上の軸方向セグメントを含み得る。
【0032】
ミラーは、軸(X)に沿った方向で第1の軸方向セグメント(E2)に隣接する第3の軸方向セグメント(E1)を備えることができ、第3の軸方向セグメントは、軸(X)に沿って互いに離間された複数の電極を備える。
【0033】
第3の軸方向セグメントは、第1の軸方向セグメントよりもイオンミラーの第1の軸方向端部(入口端部)からより遠くに配置され得る。
【0034】
第3の軸方向セグメントの電極は、軸に沿って実質的に同じ長さを有し得、これらの電極の隣接する対は、これらの電極が軸に沿ってピッチPを有するように配置されるように、実質的に同じ間隔だけ離間され得る。複数の電極は、イオンが使用中に進行する軸(X)に直交する平面(Y-Z平面)に窓を画定し得、窓は平面(Y-Z平面)において最小寸法Hを有する。高さに対するピッチの比率は、P≦H/5によって与えられ得る。
【0035】
ミラーは、電圧源を備えることができ、第3の軸方向セグメント内に第3の強度の第3の線形電場(E1)を生成するために第3の軸方向セグメントの電極に電位を印加するように構成され得る。電極は、第3の線形電場(E1)が第1の軸方向セグメントに侵入するように構成され得、それにより、第1の軸方向セグメントの軸方向部分における軸方向電場は、イオンの転回点が位置する場所で非線形である。
【0036】
したがって、平均イオン転回点での軸方向電場強度(E)は、第1の線形電場(E2)の第1の強度とわずかに異なる場合がある。
【0037】
軸に沿った第1の軸方向セグメントの長さは、≦5H、≦4H、≦3H、または≦2Hであり得る。
【0038】
比較的短い第1の軸方向セグメントを提供することは、隣接する軸方向セグメントからの電場がイオンの転回点に侵入することを可能にする。
【0039】
ミラーは、電圧源を備えることができ、第1の軸方向セグメント内に第1の強度の第1の線形電場(E2)を生成するために第1の軸方向セグメントの電極に電位を印加し、第2の軸方向セグメント内に第2の異なる強度の第2の線形電場(E3)を生成するために第2の軸方向セグメントの電極に電位を印加するように構成され、それにより、第1および第2の軸方向セグメント間の境界に不均一な軸方向電場を形成することができる。
【0040】
本明細書に記載されている電極窓は、その中に位置するメッシュまたはグリッド電極を有していなくてもよい。イオンミラー全体は、その中に位置するメッシュまたはグリッド電極有していなくてもよい。
【0041】
複数の電極(およびセグメント間電極)は、軸に沿って整列された開口を有する開口電極であってもよく、開口は窓である。開口は、長方形、円形、または別の形状であってよい。開口は、ミラー全体にわたって同じサイズおよび/または形状を有し得る。
【0042】
あるいは、各軸方向セグメントは、電極の列を備えることができ、列は、反射軸に直交して離間されている。これらの列の各々は、軸に沿って互いに離間した複数の電極を含むことができる。列の電極は、使用中にイオンが進行する、軸(X)に直交する平面(Y-Z平面)に窓を画定する。平面(Y-Z平面)における窓の最小寸法Hは、列の間の距離に対応し得る。
【0043】
ミラーは、電圧源を有することができ、第1の軸方向セグメント内に第1の強度E2の第1の線形電場を生成するために第1の軸方向セグメントの電極に電位を印加するように構成され得、4.3U/D<E2<5U/Dであり、ここでUは、ミラーで反射されるイオンの平均エネルギーKをそのイオンの電荷qで割ったものに等しく、Dは平均イオン転回点からミラーの1次エネルギー集束時間焦点までの距離である。
【0044】
ミラーは、15≦D/H≦25となるように構成され得る。
【0045】
ミラーは、入口レンズを備えることができ、入口レンズは、任意選択で、以下のグループのうちの1つを備える:(i)加速レンズ、(ii)遅延レンズ、(iii)多段レンズ、(iv)細長いレンズ電極の両端に形成されたデュアルレンズ、および(v)液浸レンズ。
【0046】
軸方向セグメントの電位および寸法は、少なくとも完全2次の空間等時性および任意選択で次のリスト:(i)少なくとも3次のエネルギー等時性、(ii)少なくとも4次のエネルギー等時性、(iii)少なくとも5次のエネルギー等時性、および(iv)少なくとも6次のエネルギー等時性、のエネルギー等時性ごとの高次時間に対して、特定の入口レンズごとに最適化されて、空間イオン集束を提供し得る。特定の次数の小さなエネルギー収差は、より高次の収差の部分的補償のために残留レベルのままにしておいてもよい。
【0047】
軸方向セグメントは、薄い導電性電極を使用して作製され得、導電性電極は、金属、炭素充填エポキシ突起プロファイル、または導電性コーティング絶縁体のいずれかであってもよい。電極は、プラスチック、プリント回路基板(またはPCB基板)、エポキシ、セラミック、もしくは石英などの1つ以上の絶縁基板に取り付けられてもよく、または絶縁スペーサで固定されてもよい。
【0048】
電極の位置決め精度と真直度は、絶縁基板のスロットもしくは複数の接続ピンのいずれかによって、または精密スペーサを使用することによって、および/または基板への電極取り付けでの技術的固定具によって改善され得る。
【0049】
イオンミラーの電極の少なくともいくつかは、プリント回路基板(PCB)の導電性ストリップである。
【0050】
PCB基板は、エポキシベースの材料、セラミック、石英、ガラス、またはテフロン(登録商標)のいずれかで作製され得る。
【0051】
PCBには、帯電防止表面特性が備わっている場合がある。
【0052】
これは、基板の残留コンダクタンス、基板上の導電線(電極以外の)によって、基板上の帯電防止もしくは抵抗コーティング(例えば、GオームからTオームの範囲の)によって、または電極ストリップ間の間隔を<1mmに維持することによって提供される場合がある。
【0053】
帯電防止コーティングは、導電性ストリップの上または下のどちらかに蒸着されてもよい。帯電防止コーティングは、次のグループのうちの1つによって生成されてもよい:(i)導電性粒子でコーティングされた絶縁体(例えば、ポリマーまたは金属酸化物)を表面上に蒸着させる、(ii)SnO2、InO2、TiO2、またはZrO2などの低コンダクタンス材料で表面を(薄く)コーティングする、および(iii)中間ガス圧で表面をグロー放電に曝して、金属原子または金属酸化物分子をPCB表面上に蒸着させる。
【0054】
ミラーは、最小寸法Hだけ離間された2つの平行なプリント回路基板を備えることができ、プリント回路基板は、軸に直交するPCB上に整列され、周期P≦H/5を有する導電性ストリップの周期構造の形態の複数の電極を備える。
【0055】
ストリップは、上述のように抵抗チェーンによって相互接続されてもよい。
【0056】
セグメント間電極は、PCB上の導電性ストリップとすることができる。これらのセグメント間電極は、上述のように、少なくとも2つまたは3つの軸方向セグメントを形成し得る。
【0057】
プリント回路基板は、導電性ストリップおよび/または帯電防止コーティング(例えば、1Gオーム/平方から10Tオーム/平方の範囲の抵抗を有する)の間に平行な導電線の周期構造を提供することによって帯電防止特性を備えることができる。
【0058】
導電性ストリップは、任意選択でトランスアキシャル電場を形成するために、PCBの平面内で湾曲されてもよい。
【0059】
軸方向セグメントは、例えば、薄いエポキシ、テフロン、またはカプトンベースの基板のいずれかのようなフレキシブルプリント回路基板で形成されてもよい。
【0060】
イオンミラーのトポロジーは、次のグループのうちの1つであってもよい:(i)スリット窓を備えた2D平面ミラー、(ii)リング窓を備えた2D円形ミラー、(iii)Y軸を中心に弧を描いた電極を有する2D円筒ミラー、および(iv)円形Z軸で曲げられた弧。
【0061】
いくつかの実施形態によれば、第1の軸方向セグメント(および/または他の軸方向セグメント)の電極は、軸に沿って同じ長さを有する必要はなく、および/またはこれらの電極の隣接する対は、実質的に同じ間隔で離間されなくてもよい。あるいは、または追加的に、これらの電極は、P≦H/5を満たす軸に沿ったピッチPを有さなくてもよい。
【0062】
別の態様から、本発明は、軸(X)に沿ってイオンを反射するためのイオンミラーを提供し、イオンミラーは、使用中にイオンの転回点が位置する第1の軸方向セグメントおよび第2の軸方向セグメントであって、第1および第2の軸方向セグメントが、軸(X)に沿った方向で互いに隣接している、第1および第2の軸方向セグメントと、第1の軸方向セグメント内に第1の強度の第1の線形電場を生成するために第1の軸方向セグメントの電極に電位を印加し、第2の軸方向セグメント内に 第2の強度の第2の線形電場を生成するために第2の軸方向セグメントの電極に電位を印加するように構成された電圧源と、を備え、電圧源および電極は、第2の線形電場が第1の軸方向セグメントに侵入するように構成され、それにより、第1の軸方向セグメントの軸方向部分の軸方向電場は、イオンの転回点が位置する場所で非線形となり、かつ、第1の軸方向セグメント内の平均イオン転回点での軸方向電場強度Eは、0.01≦(E0-E2)/E2≦0.1の関係によって、第1の線形電場の強度E2に関連するように構成される。
【0063】
この態様によるミラーは、上記および本明細書の他の場所で説明されている特徴のいずれか1つ、または組み合わせを有し得る。
【0064】
例えば、関係は、0.015≦(E-E2)/E2≦0.03であり得る。
【0065】
別の態様から、本発明は、軸(X)に沿ってイオンを反射するためのイオンミラーを提供し、イオンミラーは、イオンを受け取るための入口端部と、使用中にイオンの転回点が位置する第1の軸方向セグメント(E2)、および軸(X)に沿った方向で第1の軸方向セグメントに隣接する第2の軸方向セグメント(E3)と、イオンの反射を実行する電場を生成するためにイオンミラーの異なる電極に異なる電圧を印加するための電圧源と、を備え、少なくとも第1の軸方向セグメントは、軸に沿って離間されたセグメント間電極の間に画定され、セグメント間電極の各々は、電圧源のうちの1つが接続される電極であり、第1の軸方向セグメントは、軸(X)に沿って互いに離間し、かつセグメント間電極の間に配置された複数の電極を備え、複数の電極は、セグメント間電極に電気的に接続され、電子回路によって互いに相互接続され、それにより、電圧源がセグメント間電極に電圧を印加すると、これにより、複数の電極は異なる電位に維持され、電場を生成し、複数の電極は、使用中にイオンが進行する、軸(X)に直交する平面(Y-Z平面)に配置された窓を画定し、窓は平面(Y-Z平面)において最小寸法Hを有し、ミラーは、第1の軸方向セグメント内の平均イオン転回点からミラーの入口端部のより近くにあるセグメント間電極までの軸に沿った距離(X3)が、次のグループ、≦2H、≦1.5H、≦1H、≦0.5H、0.2H≦X3≦1.7Hの範囲、または0.1H≦X3≦1Hの範囲、から選択されるように構成されている。
【0066】
この態様によるミラーは、上記および本明細書の他の場所で説明されている特徴のいずれか1つ、または組み合わせを有し得る。
【0067】
別の態様から、本発明は、本明細書に記載されるような少なくとも1つのイオンミラー、イオンをイオンミラーに提供するためのイオン源、およびイオン検出器、を備える質量分析計を提供する。
【0068】
質量分析計は、(i)飛行時間型質量分析計、任意選択で、イオンミラー間でイオンを複数回反射するように配置された2つのイオンミラーを備える多重反射飛行時間型質量分析計、または(ii)静電型トラップ質量分析計、のいずれかであってもよい。
【0069】
別の態様から、本発明は、本明細書に記載されるようなイオンミラーまたは分析計を提供することと、イオンミラーにイオンを供給することと、第1の軸方向セグメント(E2)内のイオン転回点でイオンを反射することと、イオンを検出ことと、を含む、質量分析の方法を提供する。
【0070】
本方法は、本明細書に記載されている機能のいずれかを実行するように動作され得る。
【0071】
本発明の実施形態は、グリッドレスイオンミラーの前例のないイオン光学品質に到達するためのイオンミラーの特定の範囲のイオン光学設計を提供し、20%を超える非常に広いエネルギー拡散に対して100,000を超える質量分解能を提供することがわかっている。これは、飛行経路あたりより高い分解能を得るためにイオン源内により強力な抽出場を適用することによって、イオンパケットのいわゆるターンアラウンドタイムを改善することを可能にする。
【0072】
改善は、新しい質的な実現-イオンミラーのエネルギー受容性は、イオン転回領域で弱い不均一性を有するイオン反射場を使用することによって改善される-に基づいており、軸方向の電場分布の制御されたわずかな湾曲は、最初に均一な場の開いた領域への外部場の侵入によって達成される。電場の制御された弱い不均一性は、飛行時間をイオンの転回点の位置とは無関係に広いエネルギー範囲に保つことを可能にし、一方、ラプラスの法則によって、軸方向場の非線形性はまた、等電位線の空間湾曲を生成し、空間および角度収差ごとの時間を改善する。
【0073】
次に、セグメント電極に線形の電位分布を有する、すなわち、各セグメントが基本的に均一な場を個別に生成する、イオンミラー全体、または少なくともイオンミラーのオープン接続セグメントの反射部分を構築することによって、イオンミラーが改善される。セグメント間の電場侵入はわずかな電場湾曲を生成し、一方、厚い電極で構築されたグリッドレスイオンミラーの先行技術の設計では避けられない、電場強度および高次電場導関数の強い振動を発生しない。本発明の実施形態は、イオンミラー電場の所望の均一性およびわずかに制御された湾曲を形成するための様々な最適な形状および条件(スイートスポット)の範囲を提供する。好ましい実施形態は、そのような形状およびそのような電場の例を例証する。
【0074】
線形電場セグメントの生成は、抵抗チェーンを分割することによってエネルギーを供給される狭いストリップ電極を使用して形成され得るので、アプローチは、イオンミラーを作製するPCBの方法に完全に当てはまる。本発明の実施形態は、イオンミラーの内面に導電性ストリップを備えたPCBボードを使用する。絶縁体の帯電を回避するために、内面は、抵抗または帯電防止コーティングによって、例えば、GオームからTオームの範囲で、コーティングされてもよく、適度な技術的に妥当な均一性で十分である。あるいは、基板材料は、制限された基板コンダクタンスを生成するために制御された不純物で作製されてもよい。
【0075】
新規のミラー電場はまた、抵抗チェーンで相互接続された個別の薄い電極フレームまたは電極ロッドで形成され得、これは、製造コストとアセンブリコストが高くなる理由で、あまり好ましくない方法と見なされるが、基板帯電のリスクは低減する。薄い電極の平行性をサポートするために、本発明の実施形態は、電極アセンブリでの溝の位置合わせまたは技術的治具の使用など、様々な構築方法および設計を提供する。
【0076】
提案された作製方法は、表面漏れによる追加の制限をもたらす。PCBとプラスチックは1kV/mmを超える電場強度で漏れ始め、安全な設計では500V/mm未満の電場強度を維持する必要があり、超保守的な設計では300V/mmに低減される。本発明の実施形態は、イオン光学設計におけるこの限界を説明し、均一な電場セグメントを備えた高品質イオンミラーを形成する際のスイートスポットの形状および条件のサブセットを提案する。
【0077】
改良されたイオンミラーは、平面および円筒対称で構築され得、静電型トラップ、オープンイオントラップ、およびTOF質量分析計など、様々な等時性静電型分析計に適用できる。平面バージョンは、複数の低コストのミラーをアレイに積み重ねることを可能にする。これらのアレイは、直交加速器のデューティサイクルを改善するため、および質量分析ですでに知られている様々な多重化スキームのために提案されている。
【0078】
本発明の一態様によれば、飛行時間型、または多重反射飛行時間型、または等時性静電型トラップの質量分析計内に、等時性反射グリッドレスイオンミラーが提供されており、イオンミラーは、
(a)デカルトXYZ座標内に、一組の平行な導電性電極を備え、電極は、XY平面に2次元の静電場を形成するために、イオン反射軸Xに直交して配向された相互に整列された窓を有するか、または形成し、窓の特徴的な最小横サイズHは、リング電極の窓直径、または長方形窓のより小さいY寸法のいずれかとして画定され、
(b)電極は、E2およびE3として示される少なくとも2つのセグメントにグループ化され、セグメントE2およびE3は隣接しており、メッシュを有さない、開いた窓を有する「結び目」電極によって分離されており、セグメント境界上の「結び目」電極に別個の電位が印加され、かつ、各セグメントの電極は、均一な抵抗チェーンで相互接続され、電極上の対応する電位勾配E2およびE3でセグメント内の電極に線形電位分布を形成し、セグメントE3は、E2セグメントの上流、すなわち、ミラーの出口により近い位置にあり、
(c)E2セグメントを囲む「結び目」電極に印加される電位U2およびU3は、平均電位Uを含むように選択され、また、X軸の原点X=0を定義し、U2>U>U3、U=K/qであり、ここでKは平均イオンエネルギー、qはイオン電荷であり、これにより、平均イオン転回点がE2セグメント内に含まれることを確実にし、
(d)印加電位は、セグメントE2およびE3に等しくない電位勾配を提供して、セグメントの境界に不均一な軸方向場を形成するように選択され、
(e)少なくともE2セグメントでは、電極の厚さおよびX方向の間隔が均一であり、電極の空間周期PがP<H/5であり、
(f)イオン反射で高度な等時性および空間集束特性を提供するために、ミラーは次の一連の条件を満たし、
(i)電場強度E2は、4.3U/D<E2<5U/Dであり、Dは平均イオン転回点から1次エネルギー集束時間焦点までの距離であり、
(ii)平均イオン転回点(X=0、U=U)から最も近い下流の「結び目」電極平面までの距離X3(イオン転回点からイオンミラーの出口までの正のX方向の)は、平面鏡面対称の場合は0.2H<X3<1.7Hであり、円筒鏡面対称の場合は0.1H<X3<1Hであり、
(iii)電場強度の比率E3/E2は、平面対称のイオンミラーの場合、関係E3/E2=A*[0.75+0.05*exp((4X/H)-1)]によってX3距離に関連付けられており、ここで、軸方向の電場分布の制御された非線形性を提供するために0.5<A<2であり、イオンミラーのエネルギー受容性を高めることが実証されている。
【0079】
好ましくは、比率E3/E2は、次のようにX3距離に関連付けられ得る、(i)0.2<X3/H<1で0.8<E3/E2<2、(ii)1<X3/H<1.5で1.5<E3/E2<5、および(iii)1.5<X3/H<2でE3/E2>5。好ましくは、ミラーは、セグメントE2の上流(負のX方向の)に位置し、メッシュを有さない開口窓を有する「結び目」電極によって隣接するセグメントE2から分離された、電場強度E1を有するE1セグメントをさらに含み得、E1<E2であり、かつ、平均イオン転回点から分離「結び目」電極までの距離|X2|は、0.2<X2/H<1であり得る。
【0080】
好ましくは、平均イオン転回点(X=0)で軸方向電場分布の非線形性を提供し、このようにしてイオンミラーのエネルギー受容性を高めるために、X=0、U=U、およびE=Eの平均イオン転回点での軸方向電場強度Eが、E2セグメントのE2電位勾配とわずかに異なり得、平均イオン転回点を含み、周囲のセグメントE1およびE3の電場侵入により発生し、ここで、電場非線形性は、次のグループのうちの1つの範囲に含まれ得る:(i)0.01<(E-E2)/E2<0.1、および(ii)0.015<(E-E2)/E2<0.03。
【0081】
好ましくは、15<D/H<25である。
【0082】
好ましくは、ミラーは、厚い電極によって、または壁に均一な電場を有するセグメントによって形成された入口レンズをさらに備えることができ、入口レンズは、次のグループのうちの1つを備えることができる、(i)加速レンズ、(ii)遅延レンズ、(iii)多段レンズ、(iv)細長いレンズ電極の両端に形成されたデュアルレンズ、および(v)液浸レンズ。好ましくは、セグメントの電位および寸法は、少なくとも完全2次の2次空間等時性および次のリスト、(i)少なくとも3次のエネルギーの等時性、(ii)少なくとも4次のエネルギー等時性、(iii)少なくとも5次のエネルギー等時性、および(iv)少なくとも6次のエネルギー等時性、のエネルギー等時性ごとの高次時間に対して、特定の入口レンズごとに最適化されて、空間イオン集束に到達し得、特定の次数の小さなエネルギー収差は、より高次の収差の部分的な補償のために残留レベルのままにしておいてもよい。
【0083】
好ましくは、接続された電源の数は、「結び目」電極間に接続された補助抵抗器を使用することによって低減され得、補助抵抗器の精度は、最適なシミュレートされた電場強度比E2/E1を維持するために0.1%またはそれより良く設定される。
【0084】
好ましくは、セグメントは、金属、または炭素充填エポキシ突起プロファイル、または導電性コーティング絶縁体のいずれかの薄い導電性電極のスタックとして作製され得、電極は、側面絶縁プレート(プラスチック、プリント回路基板、セラミック、または石英)に取り付けられるか、または絶縁スペーサで固定され、電極の位置決め精度および真直度は、側面絶縁基板のスロット、または側面絶縁基板の取り付け穴への複数の接続ピンのいずれかによって、または電極固定用の精密スペーサを使用することによって、および/または基板への電極取り付けにおける技術的固定具によって改善され得る。
【0085】
好ましくは、ミラー電極の少なくとも一部は、プリント回路基板上の導電性ストライプであり得、基板はエポキシベースの材料、セラミック、石英、ガラス、またはテフロンのいずれかで作製されており、帯電防止表面特性は、基板の残留コンダクタンスで、またはGオームからTオームの範囲の帯電防止もしくは抵抗コーティングで、またはストライプ間の間隔を<1mmに保つことによって調整され得る。
【0086】
本発明の別の態様によれば、X方向にイオンを反射するためのイオンミラーが提供され、
(a)XZ平面内で整列し、直交するY方向において距離Hだけ離間した2つの平行なプリント回路基板であって、基板は、エポキシ、セラミック、ガラス、石英、またはガラス基板のいずれかに形成されている、2つの平行なプリント回路基板、を備え、
(b)プリント回路基板は、周期PがH/5未満である、Z軸と整列した導電性ストライプの周期的構造を有し、
(c)ストライプが均一な抵抗チェーンによって相互接続され、個々の電位が、選択された「結び目」導電性ストライプに印加され、境界を形成し、均一な電位勾配の少なくとも3つのセグメントに分離し、電位勾配は、セグメント間で異なり、
(d)中間セグメントのXの長さが2H未満であり、この中間セグメントの前記境界上の電位U2およびU3が、平均イオン特定エネルギーUを含むように選択され、U2>U>U3であり、
(e)プリント回路基板は、導電性ストライプ間の平行な微細な導電線の周期的構造、および/または1Gオーム/平方から10Tオーム/平方の範囲の抵抗を有する帯電防止コーティングのいずれかで形成された帯電防止機能を有する。
【0087】
好ましくは、帯電防止コーティングは、導電性ストライプの上または下のいずれかに蒸着されてもよく、帯電防止コーティングは、次のグループの技術のうちの1つによって生成されてもよい:(i)絶縁体(ポリマーまたは金属酸化物)でコーティングされた導電性粒子の表面に蒸着させる、(ii)SnO2、InO2、TiO2、またはZrO2などの低コンダクタンス材料で薄くコーティングする、(iii)中間ガス圧でグロー放電に曝して、金属原子または金属酸化物分子をPCB表面上に蒸着させる。
【0088】
好ましくは、導電性ストライプは、トランスアキシャル電場を形成するためにXZ平面内で湾曲している。好ましくは、イオンセグメントは、薄いエポキシ基板、またはテフロン、またはカプトンベースの基板のいずれかであるフレキシブルプリント回路基板で形成され得、イオンミラーのトポロジーは、次のグループのうちの1つである:(i)スリット窓を有する2D平面、(ii)リング窓を有する2D円形、(iii)Y軸を中心に弧を描いた電極を有する2D円筒形、および(iv)円形Z軸で曲げられた弧。
【0089】
本発明の別の態様によれば、少なくとも2つのイオンミラーを有する多重反射飛行時間型質量分析計が提供され、分析計は、
(a)等しい高さのチャネル内に形成され、イオン反射のX方向において相互電場侵入のために互いに合体して開いている、XY平面内の均一な2次元電場の少なくとも2つのセグメント、を備え、
(b)イオンエネルギー、セグメントの寸法および電場は、イオン転回点を侵入電場内に、最小のチャネル横寸法HのN口径未満だけ電場の境界から離れて位置付けすることを提供するように選択され、
(c)Nは次のグループのうちの1つである:(i)N<2、(ii)N<1.5、(iii)N<1、および(iv)N<0.5。
【0090】
好ましくは、分析計は、次のグループのZ方向に集束する等時性イオンパケットの1つの平均をさらに含み得る:(i)ミラースタックの前のトランスアキシャルレンズ、(ii)イオンミラー内に配置されたトランスアキシャルレンズ、(iii)任意の空間集束手段による空間収差ごとの飛行時間を補償するための、イオンミラーのイオン反射領域における静電くさび。
【0091】
好ましくは、少なくとも2つのイオンミラーは、イオンミラーアレイ内のすべてのイオン反射についてY方向のイオン軌道シフトを配置するためにY方向に相互にシフトされたイオンミラーの2つのアレイに構成され得る。
【0092】
本発明の別の態様によれば、等時性イオンミラーの静電場を形成する方法が提供され、方法は次の
(a)均一な静電場を有する、開いた隣接するセグメントを形成するステップと、
(b)セグメント内に異なる電場強度を形成して、セグメント間の移行領域に相互電場侵入および等電位線の湾曲を生成するステップと、
(c)イオンの転回点がセグメントE2に現れるようにイオンエネルギーと電場強度と長さとを調整するステップと、を含み、ここで、高品質の等時性および反射場の広い空間的受容性を目的として、少なくとも1つの隣接するセグメントの電場侵入は、イオン反射点での電場Eに対して、次のグループのうちの1つの範囲で電場強度E2から逸脱して配置される:(i)0.01<(E-E2)/E2<0.1,(ii)0.015<(E-E2)/E2<0.03。
【図面の簡単な説明】
【0093】
以降に、様々な実施形態が、添付図面を参照しながら、例としてのみ説明されるであろう。
図1】単一反射飛行時間型(TOF)質量分析計のためのSU198034の先行技術のグリッドで覆われたイオンミラーを示す。
図2】多重反射TOF(MRTOF)質量分析計のためのGB2403063の先行技術のグリッドレスイオンミラーを示す。
図3】単一反射TOFのためのUS6384410の先行技術のグリッドレスイオンミラーを示し、イオンミラーのイオン光学特性を示す。
図4】セグメント間の相互電場侵入によってイオン反射領域にわずかな制御された非線形性および等電位湾曲を提供するための線形電位分布を備えた、開いたグリッドレスセグメントの合体に基づく、本発明の実施形態の改良されたイオンミラーの方法および設計を図示する。
図5】2つのイオンミラーの軸方向および壁上の電位分布を提示し、均一な電場セグメントで構成される新規イオンミラーが、厚い電極で構成される従来のグリッドレスイオンミラーと比較されている。
図6図5のミラー間の電場強度および高次電場導関数の軸方向分布を比較して、新規イオンミラーでのより滑らかな電場とより小さい電場変動とを実証している。
図7A】均一な電場セグメントで構成される新規イオンミラーと厚い電極で構成される従来のグリッドレスミラーとの間のエネルギー曲線あたりの時間を比較し、新規イオンミラーでのエネルギー受容性の実質的な改善を示す。
図7B】新規イオンミラーのエネルギー受容性をイオン平均転回点での正規化された電場強度の関数としてプロットし、高エネルギー受容性に到達するための電場パラメータの正確な選択の必要性を図示する。
図8】レンズ部分によって異なる、3つの新規イオンミラーの壁上の電位分布を示す。
図9A】レンズ部分によって異なる、より多種多様な(図8に対して)最適化された新規イオンミラーのジェットのための物理パラメータおよび電場パラメータに注釈を付け、また、最適化された新規グリッドレスイオンミラーの「スイートスポット」パラメータの範囲を提示する。
図9B図9Aと同じシミュレートされた一組のイオンミラーについて、イオン転回点での電場の非線形性の最適範囲を示し、かつ侵入電場の強度と深さとの間の関連性を提示する。
図10】複数の新規ミラーと先行技術の厚い電極イオンミラーの最良の例のエネルギー受容性を比較している。エネルギー収差ごとのゼロ以外の低次時間による等時性補正の有り無しのどちらの場合も、新規イオンミラーの方がエネルギー受容性は著しく高い。
図11】2つの電場セグメントで構成される新規イオンミラーの1つの特定の実施形態の電位分布を示し、エネルギー曲線ごとの時間を提示し、上記で提示された3つの電場セグメントで構成される新規イオンミラーと比較すると妥協したエネルギー受容性を実証している。
図12】精密な補助抵抗器を使用することによって電源の数を減らすことができることを示し、一方で、抵抗器の精度は、新規イオンミラーの改善されたエネルギー受容性を維持するために約0.1%でなければならない。
図13】抵抗チェーンで相互接続された薄い電極を使用し、電場セグメントを分離する「結び目」電極に電位を印加することによって、新規イオンミラーにセグメント化された電場を形成する一般的な方法を図示する。
図14】薄い電極で構築された新規イオンミラーの実施形態を示し、それらの薄い電極の整列および平行性を維持するための方法を提示する。
図15】プリント回路基板で構築された新規イオンミラーの実施形態を示し、絶縁基板上に帯電防止機能を生成する方法を図示する。
図16】長いイオンパケットによってイオン源をバイパスするための薄いグリッドレスイオンミラーの2つの対向するサイドスタックを備えた本発明の実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0094】
先行技術のイオンミラー:図1を参照すると、SU198034の先行技術のグリッドで覆われたイオンミラー10は、等しいサイズのリング電極によって形成された2つのミラーセグメント11および12(ステージとも呼ばれる)、上部キャップ電極11C、異なる均一な電場E1およびE2の領域11および12を分離するための微細メッシュを有する「結び目」電極13、電源15-電極13および11Cに接続されたU1、U2およびU、ならびに電極セグメント11および12における線形電位分布のための抵抗チェーン14、を備える。
【0095】
ミラー10は、ドリフトスペースD内の無電場(E=0)状態を歪めることなく、セグメント11および12のコア容積に均一な電場E1およいE2を形成する。プロット16は、電位分布を示し、18は電極で、および19はミラー軸での電位分布である。個々の電極間の電圧の小さな刻みは、電極から十分な距離でかなり滑らかになっており、通常、電極構造の空間周期に等しいと見なされる。エネルギー集束ごとに2次時間を提供するために、セグメントの長さに依存する、電場強度E1およびE2の最適な比率が存在する。最終的に短いステージ12の場合、U2は電荷あたりイオン平均特定エネルギーの2/3である。TOF MS場で知られているように、ステージ12が長くなると、電場強度の比率E2/E1はE2/E1>>1から約E2/E1=1まで変化し、同時に、エネルギー受容性の段階的減少の代償として、メッシュ散乱でイオンを減少させる。グリッドで覆われたミラー10は、並外れた空間的受容性を有し、すなわち、非常に広いイオンパケットで動作し得る。しかしながら、多重反射TOFに使用すると、メッシュを通過するイオンは、壊滅的なイオン損失を引き起こす。
【0096】
図2を参照すると、GB2403063の先行技術のグリッドレス(グリッドフリー)イオンミラー20は、多重反射TOF(MRTOF)MS用に設計されている。ミラー20は、L1からLまでの電極の厚さに匹敵する窓の高さH(電極窓のより狭い寸法に対応するY方向の)を有する一組の厚い長方形フレーム電極23および23L、ならびにU1からU4およびUとして示される個々の電極に接続された一組の電源25を備え、Uはまた、ドリフトスペースDの電位を画定する。プロット26は、電位分布を示し、28は電極付近、および29はミラー軸の電位分布である。Hに匹敵する太い電極厚さにもかかわらず、WO2013/063587およびWO2014/142897に記載されているように、電場のイオン光学最適化は、高次等時性-最大5次エネルギー等時性(ミラー10の2次と比較)、ならびに空間、角度、およびエネルギーを含む、純粋な収差および混合項の収差の両方で、完全な3次等時性に到達することを可能にする。これらの強化されたグリッドレスイオンミラーは、空間的および角度的イオン集束と同時に、合理的な空間的、角度的、およびエネルギー受容性で優れた等時性を提供する。高次等時性は、U4をドリフト電位Uと比較して、より誘引電位に設定することによって、誘引(加速)イオンレンズ23Lが配置されている、グリッドレスイオンミラーの1つの重要な機能によって得られてきた。イオンミラー20の欠点は、高い製造コスト、電極の真直度に関する厳しい要件、広いフリンジ場、そして中程度のエネルギー受容性である。
【0097】
図3を参照すると、US6384410の先行技術のグリッドレス(すなわち、グリッドフリー)イオンミラー30は、図1のグリッド付きミラー10のコピーであり、1つの違いはグリッドを除去していることである。ミラー30は、薄いリング電極および上部キャップ電極31Cによって形成された、2つのミラーセグメント31および32(ステージとも呼ばれる)、セグメント31、32の間の電極上の電圧勾配の領域と無電場ドリフトステージDを分離する、境界「結び目」電極33(メッシュを有さない!)、セグメント31および32の電極で線形電位分布を生成するための抵抗チェーン34、ならびに電極33および31Cに接続される、U1、U2およびUの電源35を備える。ミラーは、セグメント11と12の内部容積内に均一な電場E1とE2を形成するが、図1とは異なり、セグメント境界に転移場T1とT2も有している。プロット36は電位分布を示し、38は電極、および39はミラー軸における電位分布である。個々の電極間の電圧の小さな刻みは、ミラー軸でかなり滑らかになっている。US6384410は、最適な比率
【数1】
およびセグメント31の奥深くに位置するイオン転回点での非常に均一な場を提案している。
【0098】
US6384410は、寸法および電圧の数値例を提供している。電極の形状および等電位線によって図示されるように、例示的なミラー37のイオン光学特性を分析した。ミラーは、エネルギー集束ごとに2次時間を提供し、1E-5レベルの時間等時性で7%のエネルギー受容性を可能にする。本設計は、転移場T1およびT2の空間的な集束/集束解除を補償し(US6384410で述べられているように)、これにより、Y|Y=1として表され得る非発散イオンビームを返す。しかしながら、最初に発散するイオンパケットを集束せず、空間収差T|YYごとに実質的な2次時間を生成し、dT/T<1E-5の場合、パケット幅を5mm未満に制限し、角度発散を5mrad未満に制限する。両方の不足、すなわち角度集束の欠如と非常に小さな空間的受容性は、多重反射TOFおよびEトラップへのミラー30の使用を危うくする。
【0099】
セグメント31の反射場E1は、「結び目」電極33から距離Xだけ離れた、イオン転回領域で非常に均一であり得、これは、US6384410で特に強調されている。数値例37のシミュレーションは、電場E1が、イオン転回点X=2.5Dでのみ1E-6レベルで侵入することを確認し、ここで、Dは電極窓の直径D=25mmである。イオン転回点の近くの均一な場は、イオンミラーのエネルギー受容性を大きく損なう。その上、電場の性質上、高度に均一な反射場は等電位線を反射する湾曲を持たないため、空間等時性を改善する手段を提供しない。イオン光学の分野で知られているように、レンズは常に正のT|YY収差を生成する。ミラー30は、T1およびT2場を有するレンズを形成するが、空間収差あたりの時間を補正する手段を有さない。ミラー31に空間集束機能を追加すると(例えば、入口レンズT2を強くすることによって)、これらの時間収差はさらに増加する。このため、イオンミラー30は、低イオン光学品質を有し、多重反射TOF質量分析計および静電型トラップには適さない。
【0100】
本発明の実施形態は、例えば、MRTOFおよびEトラップ用のグリッドレスイオンミラーのイオン光学品質、設計、および製造技術を改善する。
【0101】
新規イオンミラーの原理:本発明の実施形態による多重反射TOF(MRTOF)およびEトラップ質量分析計用に改良されたイオンミラーは、グリッドがなく、空間イオン集束を提供し、広いエネルギーおよび空間的受容性で高度に等時性である。
【0102】
ここで、イオンの転回点の近くの理想的な反射場は、場プロファイルE(x)の最適な非線形性と、高品質イオンミラーの2つの機能:(A)エネルギー収差ごとの高次時間の補償または最小化、(B)空間拡散収差ごとの時間の補償、を提供するためにE(x)の非線形性によって引き起こされる等電位線の湾曲とを有している必要があることを述べる。イオンの転回点の領域における弱く不均質な電場強度分布は、グリッドレスイオンミラーの純粋に均質な電場および高度に不均質な電場の両方よりも、エネルギーに関して飛行時間のはるかに優れた独立性につながる。
【0103】
発明者は、均一な場の開いた領域を合体することにより、先行技術と比較してイオンミラーの品質を改善できることを見出し、そこでは、セグメント間の相互電場侵入が、イオン転回点に単調でほぼ均一な反射場を生成することを可能にし、高次のエネルギー集束とより広いエネルギー受容性を提供するために制御された最適な非線形性(数パーセントの)を備えており、また空間等時性を提供することも伴っている。さらにより優れたイオン光学品質のために、イオン反射セグメントの長さを制限して、両端からの十分な電場侵入を可能にする必要があり、このようにして、エネルギーの受容性を最大化する。
【0104】
図4を参照すると、本発明のイオンミラー40の一実施形態は、距離Hだけ離間した2つの平行で同一の列46を備える。各列46は、X軸に沿って離間した複数の薄い(<<H)導電性電極を備える。模式図40は、模式図40において円で囲まれた列46の一部分の拡大図を示す。個別の電位U1、U2、U3などが、離間した電極の異なる電極に印加される。これらの電極は、本明細書では「結び目」電極44(またはセグメント間電極)と呼ばれ、イオンミラーの軸方向セグメント41、42、43などの軸方向境界を画定する。各軸方向セグメントは、「結び目」(またはセグメント間)電極の間に配置された複数の電極を含む。これらの複数の電極は、抵抗チェーン45によって互いに相互接続されており、軸方向端部の電極は、抵抗チェーンによって隣接する「結び目」電極に接続されている。そのようにして、電位U1、U2、U3などが「結び目」電極44に印加されると、これにより、電位がそれらの間の複数の電極に印加される。このため、この構造は、電極列46に沿って個々の線形電場強度E1、E2、E3などを有する、一組の開いて合体された軸方向セグメント41、42、43などを形成する。電極は、X軸に沿って実質的に同じ長さを有し得、これらの電極のすべての隣接する対は、これらの電極がX軸に沿って特定のピッチPで空間的に配置されるように、実質的に同じ間隔だけ離間され得る。
【0105】
本明細書で説明される軸方向セグメントは、それらの電場Eiによって示され得る。
【0106】
開いて合体されたセグメント41、42、43などの構造は、ミラー対称軸(Y=0、つまり電極から離れた位置)に電位分布U(x)47を形成し、個々のセグメントの軸方向中央部にほぼ均一な場を有し、セグメント境界に転移場を有する。電位分布47は、セグメントE1からE4における反射場によってX方向に等時性イオン反射を提供するように、Y方向における空間イオン集束のためのセグメントE5の周りの加速レンズによって特徴付けられる。
【0107】
静電場の同じ構造を生成するために、代替の電極構造が使用されてもよい。これらの構造は、長方形または円形の窓を有する一組の薄い電極、導電性ストライプと高オーミック帯電防止コーティングを備えた一対の平行なプリント回路基板(平面のセラミック、エポキシもしくはテフロンのPCB、または円筒状に巻かれたフレキシブルカプトンPCB)、結び目電極用の導電性ストライプを有する一対の抵抗プレート(または円筒)、または導電性ストライプによってセグメントに分離された抵抗性コーティングを有する絶縁(平面または円筒の)支持体、を備えてもよい。所望の微細電極構造を形成するために複数の既知の技術を使用できることを理解しながら、本発明の実施形態は主に、イオン転回領域に近い静電場の最適な非線形性48および最適な湾曲49を形成するための所望の静電場自体の特性に関係する。
【0108】
イオン平均転回点は、ミラー軸での電位U=U=K/qによって画定され、平均運動エネルギーK および電荷qを備えたイオンの完全停止に対応する。実施形態40において、電場E2を有する1つのコアセグメント(第1の軸方向セグメント42)を他と区別し、ここで平均エネルギーのイオンが転回され、U2>U>U3である。本発明の実施形態の重要な特徴は、E2セグメント(42)への、特に(X=0の)イオン転回点の位置への、(第2および第3の軸方向セグメント41、43からの)周囲の均一場E1およびE3の制御された侵入である。イオン光学モデリングでわかったように、イオン転回点の位置へのE2セグメント(42)内への(第2の軸方向セグメント43からの)E3電場の侵入により、イオンミラーのイオン光学品質が向上し得る。これは、次の両方を提供する:(a)アイコン48に示すように、E(x)曲線のわずかな制御された非線形性、および(b)アイコン49に示すように、最適なX=0でイオンの転回点を囲む領域内の等電位線の空間湾曲。非線形性48および湾曲49の両方は、静電場の性質によって相互に関連している。E3場の最適な侵入は、E(x)変動=(E-E2)/E2の約1~3%に対応する。換言すれば、イオン転回点(X=0)の位置へのE2セグメント(42)内への電場の侵入により、その点Eにおける電場をE2の約1~3%だけE2から異ならせ得る。さらに別の電場E1を(第3の軸方向セグメント41から)、イオン転回領域の位置へE2セグメント(42)内へ侵入させることで、イオン光学品質のさらなる向上を可能にし、E2セグメント内の電場非線形性をより柔軟に制御する。したがって、E1および/またはE3場は、イオン転回領域に侵入するように引き起こされ得る。
【0109】
新規および先行技術のグリッドレスミラーの比較:図5を参照して、図2の先行技術のミラー20と図4の例示的な新規のイオンミラー40との間で電場分布を比較する。ミラー20の個々の厚い電極は、電極壁に階段状電位(Uステップ)分布52を画定し、静電場の性質によって、軸で軸方向分布54へ平滑化される。実施形態による、ミラー40の電極上に電場強度Eのステップ(Eステップ)を形成するセグメント化線形電位分布53は、軸方向分布55により近い初期近似を提供し、このため、より滑らかな軸方向分布55を形成する。
【0110】
軸方向分布54と55との違いは、大まかなスケールではほとんど見えない。しかしながら、1つの違いを強調すると:実施形態によるイオンミラー40の軸方向電位分布55は、U/U=1でのイオン転回点付近ではるかに線形であり、すなわち、イオン転回点での電場強度変動E/Eは、厚い電極で構築された先行技術のミラー20と比較して、はるかに小さくより単調である。
【0111】
図6を参照すると、ミラー20および40の軸方向U(x)分布54および55の間の上記の違いは、電位分布U(x)の高次導関数-電場強度E(X)=dU/dX、すなわち1次dE/dX、2次dE/dXおよび3次dE/dXの電場導関数、を見るとより明らかになり、特定の(電荷への)平均イオンエネルギーUおよびイオン転回点から時間焦点への距離D(Dは図4に示されている)に正規化されている。破線は、厚い電極からなる先行技術のミラー20に対応し、図ではUステップとして示される壁電位のステップを生成する。実線は、本発明の実施形態によるミラー40で得られるセグメント化された線形電位分布に対応し、図ではEステップとして示されている。グラフから明らかなように、新規ミラー40の階段状Eは、X=0でイオン転回点の周りの電場強度E/Eの変動をより小さくし、先行技術の階段状Uのミラー20と比較して、高次電場導関数の単調ではるかに滑らかな分布を達成する。
【0112】
図7Aを参照すると、プロット71は、凡例71に示されるように、階段状壁電位(ステップU)を有する先行技術のミラー20について、および電極上に階段状電場強度(ステップE)を有する実施形態のイオンミラー40について、イオンエネルギー曲線あたりの飛行時間(T-T)/T対(K-K)/Kを比較している。階段状Uの曲線72は、1E-5レベルの等時性でΔK=6%のエネルギー受容性を有するエネルギー集束あたりの3次時間に対応する。階段状Eの曲線74は、1E-5レベルの等時性でΔK=14%のエネルギー受容性を有するエネルギー集束あたりの4次時間に対応する。ミラーの電位を微調整すると、階段状Uの曲線73および階段状Eの曲線75によって示されるように、より広いエネルギー受容性に到達するために、エネルギー収差(図の凡例71に示されている)あたりの低次時間に対してマイナー残差係数を残すことを可能にする。次に、階段状Uを有するミラー20は、ΔK=9%のエネルギー受容性を提供し、一方、ミラー40は、より大きなΔK=22.5%のエネルギー受容性を提供する。このため、階段状電場強度Eを有する実施形態のイオンミラーは、実質的に(2.5倍)より広いエネルギー許容性を提供する。TOF MSの専門家は、TOF分析計のエネルギー受容性が加速器で使用可能な最大電場強度を制限し、その結果、達成される最小のターンアラウンドタイムを制限し、現在TOF MSにおける分解能の主要な制限となっていることを認識している。このため、より広いエネルギー受容性は、MRTOFにおいて飛行経路あたりの分解能にほぼ直接変換され、MRTOFでは、新規イオンミラーは、飛行経路あたり2.5倍高い分解能を得ることが期待されている。
【0113】
図7Bを参照すると、プロット75は、図4の注釈を使用して、1E-5レベルの等時性でのエネルギー受容性ΔK/Kを、X=0、E=E、およびU=Uのイオン平均転回点での正規化された電場強度ED/Uの関数として提示している。最適値は、ED/U変動の約+/-1%以内で観察される。このため、セグメント化された電場で構築されたイオンミラー40は、とりわけエネルギー受容性ΔK/Kを改善するが、それらの電場構造およびパラメータは、正確に設定および制御されるものとする。本発明の実施形態は、セグメント化された電場と最適な「スイートスポット」ミラーパラメータとの組み合わせを提供する。
【0114】
図6を再び参照して、図7で得られたエネルギー受容性の改善を図6の場構造に関連付けて、直観的な説明を提供する。先行技術の厚い電極イオンミラー20内の壁電位のステップ(図6のUステップ)は、図7の曲線72に見られるように、X=0でのイオン平均転回点のごく近傍において、所望の電場特性に到達し、複数の時間収差を補償することを可能にする。これは、X=0およびU=Uでイオンの転回点を囲む厚い電極からの最適化および調整された電場侵入によって達成される。しかしながら、場の性質上、階段状Uのこのような侵入は、転回点の周りのやや広い領域においてより大きな場変動と非単調な高次電場導関数とを生成し、このため、イオン転回点のより長いスパンに対応する、イオンパケットのより広いエネルギー拡散のための所望のイオン光学特性を維持しない。対照的に、壁に階段状電場強度Eを有する本発明の実施形態によるイオンミラー40は、イオン転回点X=0のより広い近傍において、最初一定の電場強度
【数2】
を生成し、一方、周囲の電場セグメントからの電場侵入は、場の不均一性および等電位線の湾曲の望ましい最適な度合いを追加することを可能にし、それにより、時間収差が補償されるイオン反射点のより広い空間スパンを提供し、こうして、イオンミラーのより広いエネルギー受容性を提供する。
【0115】
新規ミラーの最適化:本発明の実施形態によるイオンミラーの分析および最適化を加速するために、発明者は、高さHを有する平面2次元ギャップにおける電場E(x)の軸方向分布の分析式を考え出し、ここで電場強度E1およびE2を有する2つのセグメントが、X=0で開いて合体される。
E(x)=E1+(E2-E1)*(2/π)*arctan(exp[-π*x/H])
|X/H|>0.1では、式は次式で近似され得る。
E(x)=E1+(E2-E1)*(2/π)*exp(-πX/H)*[1+1/3*exp(-2πX/H)+1/5*exp(-4πX/H)]
分析式があると、イオン光学シミュレーションおよび最適化手順が大幅に加速する。入口レンズによって異なる様々なミラーシステムに対して、一組の大規模な低次および高次の時間および空間収差を最適化しながら、チャネル高さH、セグメント長Li、および壁でのセグメント電場強度Eiのパラメータを変更できるようになった。
【0116】
最適化基準:最適化手順において、空間イオン集束(1回の反射あたりY|Y=0)、エネルギー項あたりの低次またはゼロ次の高次時間での、エネルギー(T|K=T|KK=T|KKK=0)収束あたりの少なくとも3次時間、クロス項を含む、空間、角度、およびエネルギーの収差あたりの少なくとも2次時間の完全な補償、ならびに約1E-5レベルの等時性でのモデルイオンミラーのより広い空間的および角度的受容性、を含む許容基準を設定した。
【0117】
様々な新規ミラー:空間的イオン集束を提供するために、本発明の実施形態によるミラーは、好ましくは誘引電位|U|<|U|にある入口レンズを有し得、それは単段レンズ、または多段レンズ、または液浸レンズのいずれかであり得る。入口レンズ部分は、厚い電極の階段状電場セグメントのいずれかで形成することができる。本発明の実施形態によるミラーの反射場は、セグメント化電場(階段状E)で構築され、特定の入口レンズごとに個別に最適化された。最低の収差および最高のエネルギー受容性のためにそれらのイオンミラーを最適化する場合、イオンミラーのレンズ部分を変えると、ミラー反射部分の微調整につながる。
【0118】
図8を参照すると、ダイアグラム80は、階段状電場(ステップE)反射部分を有する本発明の実施形態によるイオンミラーの別の3つの変形形態の電極壁での電位分布(U/U)VsX/Dを提示する。プロット81は、セグメント化された電場(階段状E)で形成された加速レンズを備えたイオンミラーに対応し、82は、厚い電極(階段状U)で形成された長い加速レンズを備えたイオンミラーに対応し、および83は、セグメント化された電場(階段状E)で形成された減速レンズを備えたイオンミラーに対応する。明らかに、イオンミラーの反射部分の電場E1およびE2で示される2つの電場セグメントは、3つすべての変形形態で非常に似ている。
【表1】
【0119】
スイートスポット:新規イオンミラーのレンズ部分を変化させ、イオンミラーの収差を最適化し、電場セグメントのパラメータを分析することで、次の結論とルールに到達した。
1.定性的ルール:
・セグメント化された電場で構成されたイオンミラーは、先行技術の厚い電極ミラーよりも実質的優れたイオン光学品質に到達することを可能にする。特に、本発明の実施形態によるミラーは、約2倍大きいエネルギー受容性を提供し、それは、空間イオン集束や高(1E-5)等時性での広い空間的受容性など、厚い電極ミラーの他の特性を損なうことなく、または適度に損なうことなく、飛行経路ごとのMRTOF分解能の強力な改善を可能にする。
・本発明の実施形態によるイオンミラーの最適条件は、イオン転回点を含むセグメントの電場E2が、主に、より強い電場E3の侵入によって生成される数パーセントの範囲の弱い電場非線形性(E0-E2)/E2を有するときに現れる。次に、そのようなミラーは、「最適化基準」セクションにリストされているすべての望ましい特性を提供し、先行技術の厚い電極ミラーと比較してエネルギー受容性の実質的な改善を提供する。
・E2領域のイオン転回点付近の電場の最適な非線形性は、上流(つまりミラーの入口/出口の方)の隣接するセグメントE3からの電場の弱い侵入によって得られ、下流の電場セグメントE1の侵入によって、さらなる改善が得られる。
・イオン転回点の周りに均一な電場セグメントを使用することが重要であるが、イオンミラーの残りの部分は、均一な電場セグメントで構成されてもよく、従来の厚い電極を使用してもよい。レンズ部は、イオンミラーの特定の要件に応じて選択され得、ここで、(a)加速レンズは、イオン平均運動エネルギーに正規化された、最高のエネルギー受容性を提供し、(b)減速レンズは、同じ最大ミラー電圧だが、特により高いイオン運動エネルギーで、同じ絶対エネルギー受容性を提供することができ、(c)より長い、多段式の液浸レンズは、レンズの高次の複雑さを犠牲にして、空間収差ごとの時間を短縮し、(d)セグメント化された電場で構築された同様のレンズは、より低い絶対電圧を必要とし、より小さな収差を提供する。
【0120】
2.平面対称の2次元(2D)ミラーのスイートスポットパラメータ。正確な最適パラメータは、異なる入口レンズを備えたイオンミラー間でわずかに変動する場合があるが、図9に図示するように、すべてのシステムは以下に説明するパラメータの範囲に分類される。
・イオン反射セグメントE2に必要な電極密度は、生成される電場の滑らかさを1%よりも良くサポートする必要があり、これは、E2セグメントの薄い電極間の周期が窓の高さH:P<H/5の0.2未満の場合に達成される。
・イオン転回点での反射場Eの最適な強度は、特定の(電荷あたりの)イオン平均エネルギーU=K/q、および4.3<E*D/U<5としてのイオン転回点から時間焦点までの距離Dに関連付けられている。
・イオンミラー窓の最適な高さHは距離D:0.04<H/D<0.06に関連し、0.045<H/D<0.055の範囲で最良の結果が得られる。
・イオンの転回点X=0における電場E2の有用な(改善されたエネルギー受容性のための)非線形性(E-E2/E2)|X=0は、0.1%~10%であり、0.5%~5%の範囲でより良い結果が得られ、1%~2%の範囲で非常に最良の結果が得られる。
・イオン転回点(X=0)から結び目電極(セグメント間電極)U3までの距離X3は、図9Fに示すように、望ましい電場侵入に到達するため、およびE2電場セグメントにおける場の非線形性の望ましい範囲のために、電場の比率E3/E2(ここでE3>E2)に関連しているように見える。
図8のE2およびE3に示すように、少なくとも2つの電場セグメントを使用するとき、エネルギー受容性はすでに向上しているが、E1<E2でセグメントE1を追加すると、エネルギー受容性をさらに向上させる。通常、最適なE2/E1比は1.01~1.1の範囲で変化し、最良の結果は1.02~1.05の範囲で得られる。
【0121】
図9を参照すると、上述のスイート「スポットルール」が、スキーム90に提示されている注釈(図4の注釈とも一致している)と共に、一組のダイアグラム91~99によって図示されている。シミュレーションは、図面にEステップとして示され、電場セグメントE1、E2、E3で構成される、いくつかの新規イオンミラーについて行われた。レンズ部は、ミラーの変形形態の間で変えられ、シミュレートされたケースは、短いレンズと長いレンズ、加速レンズと減速レンズ、厚い電極とセグメント化された場レンズを含んだ。様々なシミュレートされたイオンミラーのパラメータは、窓の高さH、イオンの転回点から時間焦点までの距離D、およびイオンの転回点の電位U(接地されたドリフト領域を想定)に正規化された。冒頭で言及した、いくつかの先行技術の厚い電極(Uステップ)イオンミラーについても、同様の正規化が行われた。
【0122】
ダイアグラム91は、新規のイオンミラー(Eステップ)92および先行技術の厚い電極ミラー(Uステップ)93のイオン転回点ED/Uにおける正規化された電場強度を示す。データ点は比率X2/Hによって整列され、これは、厚い電極システムでは画定できず、表示の目的のために0に設定されている。ED/Uは、厚い電極ミラーについては大きく変わる場合があるが、新規ミラーについては、最適範囲は狭く、明確に画定されており、4.5<ED/U<5であり、ほとんどの点がED/U=4.6の周りに群がっている。結果は、すべての新規ミラーがイオン反射部において同様の最適な電場分布を再現することを意味している。
【0123】
ダイアグラム94は、新規のイオンミラー(Eステップ)95について、および先行技術の厚い電極ミラー(Uステップ)96について正規化された窓高さH/Dを示している。データ点は比率X2/Hによって整列されている。H/D比は、厚い電極ミラーについては大きく変わる場合があるが、新規ミラーについては、最適範囲は狭く、明確に画定されており、0.04<H/D<0.06であり、ほとんどの点がH/D=0.055の周りに群がっており、再び、新規ミラーがイオン反射部において同様の最適な電場分布を再現することを意味している。
【0124】
ダイアグラム97は、イオン平均転回点(X=0)での新規イオンミラーの電場非線形性(E-E2)/E2をプロットしており、X2/H比で整列されている(ダイアグラム91および94と同じ)。プロットは、本発明の中心点を図示しており、電場セグメントで構成された新規のイオンミラーは、エネルギー受容性の顕著な改善を提供するために、イオンの転回点で非ゼロの最適非線形性を有する必要がある。新規ミラーのすべてのシミュレートされたケースについて、反射場の非線形性の有効範囲は0.01<(E-E2)/E2<0.04に現れる。すべてのシミュレートされたケースのエネルギーおよび角度的受容性を比較すると、最良の結果は、0.015<(E-E2)/E2<0.03の範囲で得られる。
【0125】
ダイアグラム97および98は、ダイアグラム97の最適非線形性に到達するために、周囲電場のステップが相互電場侵入の深さに関連付けられることを図示している。ダイアグラム98によれば、E1セグメントの電場強度はE2よりわずかに小さくなければならず、E1<E2、1.02<E2/E1<1.08となる。E2-E1ステップは、より深い電場侵入X2/Hで大きくなる。侵入深さX2/Hの有効範囲は、0.8に制限されている。
【0126】
ダイアグラム99によれば、電場強度E3は一般にE2より大きくなければならず(E3>E2)、E3/E2比は、実験式:E3/E2=[0.75+0.05*exp((4X3/H)-1)]によって侵入深さX3/Hに関連付けられており、つまり、E3/E2はX3/Hの侵入が深くなるにつれて大きくなる。侵入深さX3/Hは1.7に制限されている。
【0127】
侵入深さX3/Hが小さいいくつかの例外的なケースでは、E3はE2よりも若干小さくなることがあり、この場合、イオン転回点での電場強度の非線形性の適切な兆候が、次の(第4の)セグメントからの電場E4の侵入によって提供される。このため、最も一般的なケースでは、電場強度の比率E3/E2は、E3/E2>0.8であり、関係E3/E2=A*[0.75+0.05*exp((4X3/H)-1)]によってX3距離に関連付けられ、ここで、軸方向電場分布の制御された非線形性を提供するために0.5<A<2であり、イオンミラーのエネルギー受容性を高めることが実証されている。
【0128】
上記の提示されたグラフと経験則から、すべてのシミュレートされたケースにおいて、新規のイオンミラーがイオン反射場の同様の構造を再現することがわかり、イオン転回点X=0での弱いが制御された電場非線形性0.01<(E-E2)/E2<0.04によって特徴付けられる。この非線形性は、E1およびE3の電場を有する隣接する電場セグメントからの電場侵入によって達成され、ここで、電場強度E1/E2およびE3/E2におけるステップは、イオンミラーのエネルギー受容性を改善するための電場侵入X2/HおよびX3/Hの深さと関連しているように見える。
【0129】
図10を参照すると、エネルギー受容性ΔK/Kが、新規のイオンミラー(Eステップ)および最もよく知られている先行技術の厚い電極ミラー(Uステップ)について提示されている。分析した一組のイオンミラーは、図9で使用したものと一致する。
【0130】
図7と同様に、エネルギー受容性は、正確にゼロのT|K(n)収差で計算され(101および103)、意図的に残された小さな残留低次収差の場合(102および104)、所与のレベルの等時性で、ここではΔT/T=1E-5レベルで、エネルギー受容性を最大化する。図9のグラフと同様に、データ点はH2/Hで整列されている。新規ミラー(Eステップ)のエネルギー受容性は、非補償の場合および補償された場合の両方で、先行技術の厚い電極システム(Uステップ)よりも約2倍高いことがわかる。また、新規のミラーは、小さいX2/Hまたは小さいX3/Hのいずれか(X2/D<0.3またはX3/D<0.3のいずれか)で、(より高いエネルギー受容性ΔK/Kのために)最適化することも明らかであり、イオン平均転回点が、イオン転回点(X=0)で反射場の十分な非線形性および湾曲を提供するために、少なくとも1つの電場境界に近接している必要があることを意味している。
【0131】
図9に提示されているスイートスポットパラメータの範囲は、新規イオンミラーのイオン光学品質に対する要件を緩和する場合、多少広くなり得ることを理解する必要がある。図11図12は、電源の数を減らした、妥協した新規イオンミラーのケースを提示している。図16は、相対幅H/Dが減少し、ミラー収差間のバランスが異なる、妥協した新規イオンミラーのケースを提示している。
【0132】
2つの反射セグメント:図11を参照すると、グラフ110は、簡略化された新規ミラーの電位分布U(x)/U対X/Dを示し、曲線111は電極での、および曲線112は対称軸(Y=0)での、電位分布である。簡略化された新規ミラーは、高電圧源の数を3つに減らすために、より少ない電場セグメントで構成されており、ドリフトスペース供給を考慮していない。反射部は、2つの電場セグメントE2とE3のみを使用する。イオン平均転回点(X=0、U=U)でのE2電場の非直線性および湾曲は、E3電場の侵入によってのみ形成され、転回点から電場境界までの距離X3は、約0.075Dで、1.5Hより小さい。グラフ113は、アイコン114に示されている、エネルギー収差あたりのいくらかの残留低次時間におけるエネルギーあたりの時間のプロットを示し、ΔT/T<1E-5等時性でエネルギー受容性ΔK/Kを12%に拡大するように最適化されている。ミラー111の達成されたエネルギー受容性12%は、図4のミラー40のΔK/K=21%よりも著しく低い。このため、電源の数を減らし、一方の側からの電場侵入を残しても、セグメント化されたイオンミラーのパラメータを譲歩するだけである。
【0133】
図12を参照すると、電源の数を減らすより効率的な方法のための電気的スキーム121が示されている。電場強度E1およびE2が最適な新規ミラーで近接していることを考慮すると(図9のプロット98を参照)、追加の抵抗器122によってE2/E1比を調整しながら、U2電源を省略することが好ましい。シャントディバイダを使用することは明らかなステップであるが、調整可能なパラメータの数を減らしてもミラーの調整が可能かどうかは明らかではない。実際には、抵抗器122によるE2/E1比の設定は、1%のルーチン精度内で達成され得る。プロット122は、図4のイオンミラー40におけるE2/E1設定の不正確さが、電圧U1およびU3を調整することによって補償され得ることを示している。プロット123は、新規イオンミラーの改善されたエネルギー受容性ΔK/K=22%を維持するために、E2/E1設定の正確さが0.1%の精度で維持されることを示している。このため、先行技術においてシャント抵抗器を使用することは、最適なミラーパラメータの知識によってサポートされておらず、ディバイダの精度に関する要件を考慮していなかった。
【0134】
新規イオンミラーの実施形態:図13を参照すると、実施形態130は、本発明の実施形態の新規イオンミラーに通電するための「一般的な」電極構造および電気的スキームを提示する。新規イオンミラーの階段状電場は、薄い(X方向あたり)電極131に線形電位分布E1…E4のいくつかのセグメントを形成することによって生成されるが、セグメントは互いに開いたまま、つまりグリッドによって分離されていない。薄い電極は、シートフレームで、または平行な電極列によって形成され得る。
【0135】
各セグメント内の電極間の均一な電場は、例えば、0.1%~1%の精度と10ppm/Cの熱係数を有する市販の抵抗器を使用して、抵抗チェーン134によってサポートされる。次に、U0、U1…およびUとして示される電位135は、「結び目」電極(セグメント間電極)133のみに印加される。電源U2は省略されてもよく、電場強度E1およびE2の比率は、少なくとも1%より良い精度を有する追加のシャント抵抗Rsによって調整される。ダイアグラム136は、電位分布を示し、138は電極での、および139はミラー軸での電位分布である。個々の電極の厚さまたは電圧の小さな変動が、電位調整によって平滑化および補償されることが予測されることは、実際に重要である。少なくともE2セグメント内で適度に均一な電場を提供するために、このセグメントの電極周期Pは、窓の高さHよりも少なくとも5倍細かくなければならず、P<H/5となる。最適な窓の高さHは、MRTOFではキャップ~キャップ距離
【数3】
の約1/40から1/50であるため、設計130は物理的に狭い電極を作製することを必要とする。例えば、Lcc=50cmの場合、上記の要件はP<2mmに換算されるが、電極131は絶縁ギャップを可能にするためにさらに薄くする必要がある。このため、製造および組立方法は、電極131の機械的安定性および真直度を提供するものとする。
【0136】
薄い電極の設計:図14を参照すると、新規イオンミラー140、143、145、および148は、薄い(0.5~3mm)電極131で構築され得、金属シートからスタンプ加工もしくはEDM加工されたもの、または金属コーティングされたPCBプレートから、または突起によって作られた炭素充填エポキシロッドから作製されたもののいずれかであってもよい。薄い電極の平行性は、例示的な設計に特化した特徴によって維持される。
【0137】
実施形態140では、電極131の真直度は、基板がプラスチック、セラミック、ガラス、テフロン、またはエポキシ(例えば、G-10)材料のいずれかであり得る基板142内のスロットで維持されている。一対の対向する基板142は、キャップ131C電極および厚い入口電極132などの厚い電極内のピンまたは肩付きねじによって整列され得る。
【0138】
実施形態143では、電極131の真直度は、ねじ(例えば、プラスチック製のねじ山付きロッドまたはPTFEスリーブを備えた金属ねじ)で固定された電極での精密な絶縁スペーサ144によって維持される。スペーサ144は、両方がプラスチック、PTFE、PCB、またはセラミックのいずれかで作製された、リングスペーサまたは絶縁シートのいずれかであり得る。電極のサイドシフトは、技術的治具を使用した組み立てによって制御され、電極のずれは、しっかりと固定することによって防止される。設計143は、スタックアセンブリにおける不正確さを蓄積するため、およびスペーサの表面が高度に平行でない場合に電極の曲がりの影響を受けやすいために、最も好ましくないことに留意されたい。
【0139】
実施形態145では、電極131の真直度は、以下によって保証される:(a)最初に平坦な電極を作り(例えば、EDMを作るかまたはスタンプし、次いでスタック内の熱緩和により改善する)、(b)電極131を側部技術固定具(図示されていない治具)と整列させ、次に(c)電極131を基板147に接続機構146で固定する。好ましい基板146は、金属コーティングされたビアを備えたPCBである。プラスチック、セラミック、PTFE、ガラス、および石英を含む、他の絶縁基板も使用できる。好ましい取り付け方法は、エポキシ接着またははんだ付けである。はんだ付けする場合、電極131の好ましい材料は、ニッケルまたは銀でコーティングされたステンレス鋼のような、ニッケル400材料である。接着する場合、好ましい電極材料はステンレス鋼である。電極131は、好ましくは、複数の接続ピンでEDM機械加工またはスタンプされる。あるいは、電極131は、ろう付けまたはスポット溶接によって、セラミックPCB内の金属コーティングされたビアまたはピンに取り付けられてもよい。さらに別法として、電極はリベットによって取り付けられてもよく、サイドクランプによってプラスチックまたはPCB基板に接続されてもよい。
【0140】
実施形態148では、電極131は、任意選択でチップおよびダストを低減するために金属でコーティングされた、炭素充填エポキシ突起で作製される。この材料は、金属ロッドでは達成できない、優れた初期真直度を提供する。電極131は、スタンドオフ146を介した接着またははんだ付けのために、各支持体プレート147(PCB、プラスチック、セラミック、PTFE、またはガラス)上の技術的治具によって整列される。エポキシベースのPCB(FR-4のような)は、適合性と低熱係数TCE=4~5ppm/Cのために好まれる。
【0141】
PCB支持体147を使用する場合、分割チェーンは、特にセラミック基板用に開発された、表面実装(SMD)抵抗器または抵抗インクで生成された抵抗ストリップを採用できる。
【0142】
PCB設計:図15を参照すると、イオンミラーの実施形態の別のより好ましいファミリは、PCB変形形態152-A~Dで例示されているプリント回路基板(PCB)152で構成されたオープンボックス150(2D図151)を備えている。任意選択で、ボックスは側面PCBボード152sで囲まれている。PCB技術は、0.1mmよりも優れた仕様の、高い精度と平行性を備えた薄い導電性ストライプ154(厚さ0.1mmまで下げられる)を作製する標準的な方法を提供する。導電性ストライプは、PCB実施形態152-Dに示されるように湾曲していてもよい。PCB基板153は、エポキシ樹脂(FR-4)、セラミック、石英、ガラス、PTFE、またはカプトン(円筒鏡面対称に有用)で作製されてもよい。
【0143】
好ましくは、PCBプレート152および側面PCBプレート152sは、整列ピンまたは肩付きねじを用いて厚い支持体132に取り付けられるが、厚いプレートは、より良い熱適合およびより低重量のために金属コーティングされたPCB159によって置き換えられてもよい。この場合、アセンブリ150全体は、技術的治具によって固定され、はんだ付けまたは接着される。好ましくは、基板152の剛性は、PCBリブ158によって改善される。好ましくは、SMD抵抗器134は、PCBの外側表面にはんだ付けされ、電源135および分割抵抗器134への導電性ストライプ154の接続は、ビア156、またはエッジ導電性ストリップ、またはリベット穴、またはサイドクランプのいずれかで配置され得る。SMD抵抗器は、Mオーム/平方範囲の抵抗を有するペーストによって形成された分散抵抗器と置き換えることができ、抵抗ペーストは、電極154の間およびその頂部に適用される。それから、ビア156を作製せずに、分割チェーンはボックスの内側表面に配置されてもよい。PCB152は、真空フィードスルーへの便利な接続のための接続パッドへの導電線をさらに備えてもよく、またはリボンケーブルによってアセンブリ150を接続するための中間マルチピンコネクタを有してもよい。PCB152は、MRTOF分析計全体を組み立てるための取り付けおよび位置合わせ機能をさらに含み得る。
【0144】
帯電防止PCB機能:浮遊イオンに曝され得るPCBの内部表面(ボックス150内)に帯電防止特性を提供することは有利である。一方では、帯電防止機能が、少なくとも1%の精度で、抵抗分割器134の正確さを歪ませないことが望ましく、ストリップ間の抵抗が100Mオームを超える場合があることを意味し、これは、絶縁ストリップの約100:1の長さ対幅の比率を考慮に入れると、約10Gオーム/平方の最小表面抵抗に相当する。一方、nAビームから散乱したイオンは、絶縁支持体に最大10fA/mm2の電流を生成する場合がある。電位歪みを0.1V未満に維持するために、帯電防止表面抵抗は、10Tオーム/平方未満となり得る。このため、帯電防止コーティングは精密で均一である必要はないが、1E+10から1E+13オーム/平方の広い範囲に維持され得る。これは、1E+14~1E+15オーム/平方で指定されたFR-4PCBボードの標準抵抗に対して10~100倍低い。
【0145】
1つの解決策は、ZrO2、Si3N4、BN、A1N、ムライト、フリエライト(Frialite)、およびサイアロンなどのそれ自体の抵抗が低いセラミック基板を使用することである。ただし、セラミックはコストが高く、全体的な構造が壊れやすいため、あまり魅力的ではない。より好ましい解決策を図15に示す。それらは、帯電防止層の蒸着またはより微細な電極構造の使用に基づいている。
【0146】
再び図15を参照すると、PCB実施形態152-Aは、比較的厚い導電性ストリップ155の間に微細(幅0.1mm)な中間導電性ストリップ157の構造を採用している。任意選択で、微細なストリップ間の電位低下は、抵抗性コーティング155によって分散されてもよい。粗い電位分布のために局所的にコーティングすることは、PCB全体をコーティングするよりも簡単である。さらに、数値推定は、微細なストリップ155を使用する場合、抵抗層155を使用しなくても、1E+14オーム/平方の範囲のPCBの自己コンダクタンスで十分である場合があることを示している。PCBの導電率がバッチ間で十分に再現性があることを確認するために、実験テストを行う必要がある。
【0147】
PCBの実施形態152-Bは、PCB153の導電性ストライプ154の頂部に蒸着された帯電防止コーティング155の例を示す。コーティングは、PCB製造後にその後行われてもよい。帯電防止コーティング152は、銅、アルミニウム、スズ、鉛、ジルコニウム、またはチタンの蒸着を伴うグロー放電にエポキシまたはセラミックPCBを曝すことによって形成され得る。あるいは、帯電防止コーティングは、導電性粒子(例えば、炭素粉末)を薄いポリマーコーティングとともに蒸着させることによって生成されてもよい。実施形態126は、導電性ストライプ121の下の(電子管およびスコープで使用されるものと同様の)抵抗層の例を示し、これは、セラミック、石英、およびガラス基板へのより良好な接着に好ましい場合がある。
【0148】
PCBの実施形態152-Cは、導電性ストライプを蒸着する前に帯電防止コーティング155がPCB153の頂部に蒸着されている逆の場合を提示する。
【0149】
帯電防止PCBの特性を解明することで、イオンミラーを作製するために経済的PCBを使用する機会が開かれる。PCB技術は、薄くて十分に平行な電極を形成するという利点を提供し、それにより、経済的かつコンパクトなSMD抵抗器を使用して、微細な抵抗分割器を作製する便利な方法を提供する。PCB技術は、新規イオンミラーに完全に適合する。新規イオンミラーはPCB技術向けに設計されており、PCB技術は電場セグメントで構成される新規イオンミラーを作製する最良の方法であると言える。
【0150】
ミラースタック:図16を参照すると、非常に大きなデューティサイクルで直交加速器(OA)を備えた多重反射TOFを構築するために、スリムPCBミラーのスタック160(図15の150のような)が提案されている。実施形態160は、イオン源Sであって、ここでは、ガスで満たされたRFイオンガイドとそれに続く一組のレンズを備えるものとして示されている、イオン源S、イオン閉じ込め手段162を有するOA貯蔵領域を備えた細長い直交加速器161、OA出口におけるトランスアキシャルレンズ163、2つのスリムPCBミラーのスタック166、検出器167、および任意選択の2つの対の偏向プレート165、を備える。例示的なイオン閉じ込め手段162は、同時係属出願であるGB1712618.6に記載されており、周期的レンズ、四極静電ガイド、交互四極静電イオンガイドなどの様々な静電またはRFイオンガイドを含み得る。
【0151】
動作中、イオン源Sからのイオンは、OA161内に放出され、適度なエネルギー、例えば、20~50eVで閉じ込め手段162に沿って進行する。周期的に、パルスは、OA161のプッシュプル電極(図示せず)に印加され、任意選択で、閉じ込め手段162上のスイッチング電圧を伴う。長いイオンパケット(長さ50~150mm)164がOAから抽出され、トランスアキシャル(TA)レンズ163によってZ方向に空間的に集束され、適度な傾斜角、約3~5度であると予想される、でイオンミラー166の間の電場のないスペースに入る。2つのスリムなPCBイオンミラーのスタック166が、対向するイオン反射のために配置されている。対向するスタックは、Y方向に半周期シフトされている。イオンパケット168は、イオンミラーの反射ごとにY方向に側方に変位し、一方、次のアクションのうちの1つによってZ方向に空間的に集束される:(i)TAレンズ164のみのアクションによるか、(ii)または図15の実施形態152-Dのように湾曲したストリップを有するPCBミラーの空間的集束によって支援されるか、または(iii)空間的に集束するTAレンズと少なくとも1つのPCBイオンミラー内に配置された等時性を補償する電場湾曲との組み合わされたアクションによる。PCBミラーの静電くさび場は、XZ平面内で発生する可能性のあるミラーの位置ずれを補償するために使用され得、言い換えると、Y軸を中心としたコンポーネントの小さな回転を補償する。
【0152】
結果として、長いイオンパケット168は、ミラー反射あたりのイオンドリフト変位ΔZが、イオンパケット168のZ長と比較してはるかに短いとしても、最初のイオンミラーの反射後にOAと干渉しない。イオンパケットは、長い飛行経路でZ方向に(TAレンズによって、任意選択でPCBミラーの湾曲した場によって支援されて)空間的に集束され、これは、イオンパケットがイオン検出器167に当たったときに、(Z方向に)イオンパケットを集束するためのいくつかのイオンミラー反射に対応する。このため、新規の実施形態は、MRTOFの完全に静的な動作において、長いイオンパケットの多重反射TOF分離を達成する。偏向パルスがないため、質量分析の全質量範囲を維持する。
【0153】
実施形態160はまた、より広い(Y方向の)OAからスリムなイオンミラー166へのイオン注入が、2対の偏向プレート165を使用して、比較的小さな角度でY方向に側方イオン偏向を行うことによって支援され、Yステアリングに関連する飛行時間収差を和らげ得ることを例証している。静的イオンビーム動作では、約20~30%のOAの大きなデューティサイクルが予想され、RFイオンガイドにイオンを蓄積し、パルスイオン放出をOA161パルスと同期させるならば、デューティサイクルをさらに改善してほぼ1にすることができる。
【0154】
スリム(Y方向)で低コストのPCBベースのTOFおよびMRTOF分析器のスタック166により、WO2011/086430に記載されているような、強化されたダイナミックレンジを備えたEトラップ、WO2017/091501およびWO2017/042665に記載されているような、複数のイオン源を使用するか、または単一のイオン源のパルスレートを増加させ、MS-MSタンデムでのMS2分析に複数のチャネルを使用すること、などの、様々な既知の多重化ソリューションが可能になる。
【0155】
本発明は、好ましい実施形態を参照して説明されてきたが、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を逸脱することなく、形態および細部において様々な変更が行われ得ることは、当業者には明らかであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16