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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】熱融着可能な織物製面ファスナー
(51)【国際特許分類】
   A44B 18/00 20060101AFI20230620BHJP
【FI】
A44B18/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020566473
(86)(22)【出願日】2020-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2020001256
(87)【国際公開番号】W WO2020149361
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2019006485
(32)【優先日】2019-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591017939
【氏名又は名称】クラレファスニング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷川 年人
【審査官】金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-016200(JP,A)
【文献】特開昭62-183704(JP,A)
【文献】特開平10-295418(JP,A)
【文献】特開2018-000240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸、緯糸及び係合素子用糸からなる織物(i)及び該織物(i)の表面に多数存在する、該係合素子用糸からなるフック状又はループ状の係合素子(ii)を含む織物製面ファスナー;及び
該織物製面ファスナーの裏面に積層されたポリエステル系ホットメルト樹脂(A)からなる熱融着用樹脂層(iii)
を含む熱融着性面ファスナーであって、以下の条件(1)~(5)を満足する熱融着可能な織物製面ファスナー。
(1)該緯糸が、ポリエステル系ホットメルト樹脂(B)を鞘成分とする芯鞘型フィラメントからなるマルチフィラメント糸であって、係合素子(ii)の根元が該ポリエステル系ホットメルト樹脂(B)に融着することにより織物(i)に固定されていること、
(2)熱融着用樹脂層(iii)の目付が60~200g/mの範囲であること、
(3)ポリエステル系ホットメルト樹脂(B)の融点が170~200℃であって、ポリエステル系ホットメルト樹脂(A)の融点より50~110℃高いこと、
(4)熱融着用樹脂層(iii)が、織物(i)を形成する経糸と融着しているが、緯糸とは融着していないこと、及び
(5)織物(i)の裏面に熱融着用樹脂層(iii)が直接積層されていること。
【請求項2】
ポリエステル系ホットメルト樹脂(A)の融点が80~130℃である請求項1に記載の熱融着可能な織物製面ファスナー。
【請求項3】
経糸、緯糸の芯成分及び係合素子用糸が、いずれもポリエステル系の糸である請求項1又は2に記載の熱融着可能な織物製面ファスナー。
【請求項4】
前記ポリエステル系の糸が、ポリエステル系ホットメルト樹脂(B)の融点より20~120℃高い融点を有する請求項3に記載の熱融着可能な織物製面ファスナー。
【請求項5】
経糸、緯糸及び係合素子用糸を用いて、
該経糸、該緯糸及び該係合素子用糸からなる織物(i)及び該織物(i)の表面に多数存在する、該係合素子用糸からなるフック状又はループ状の係合素子(ii)を含み、
該緯糸が、170~200℃の融点を有するポリエステル系ホットメルト樹脂(B)を鞘成分とする芯鞘型フィラメントからなるマルチフィラメント糸であり、
係合素子(ii)の根元がポリエステル系ホットメルト樹脂(B)に融着することにより織物(i)に固定されており、
裏面では経糸が緯糸を包むように覆っている織物製面ファスナーを織成し、
該織物製面ファスナーの裏面に、ポリエステル系ホットメルト樹脂(B)の融点より50~110℃低い融点を有するポリエステル系ホットメルト樹脂(A)からなる目付60~200g/mの溶融シートを載置し、
該溶融シートをそのままの状態で冷却固化させて該織物製面ファスナーの裏面に熱融着用樹脂層(iii)を形成する熱融着可能な織物製面ファスナーの製造方法。
【請求項6】
上記溶融シートを、ポリエステル系ホットメルト樹脂(A)の融点以上、かつ、ポリエステル系ホットメルト樹脂(B)の融点より10℃高い温度以下に加熱し、前記織物製面ファスナーの裏面に載置する請求項5に記載の熱融着可能な織物製面ファスナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被着体と熱融着可能な織物製面ファスナーに関し、さらに詳しくは被着体と熱融着(以下、“融着”と略すこともある)可能な面ファスナーであって、柔軟性に優れると共に、布帛や軟質塩化ビニルシート等の柔軟な被着体にも強固に融着し、高周波ウェルダーを用いることにより融着に要する時間を短くすることができ、さらに融着後においても高い係合力を有する織物製面ファスナーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、2つの物体の一方を他方に取り付ける手段の一つとして、2つの物体のいずれか一方の表面にフック型係合素子を有するフック面ファスナーを固定するとともに、他方の物体の表面にループ型係合素子を有するループ面ファスナーを固定し、両方の面ファスナーの係合素子面を重ね合わせてフック型係合素子とループ型係合素子を係合させることにより、2つの物体を互いに取り付ける方法が用いられている。
【0003】
2つの物体(いわゆる被着体)が布帛や樹脂シートの場合には、糸による縫いつけや各種の接着剤を用いた接着などにより面ファスナーを各物体の表面に固定している。このような固定方法の場合には、被着体にミシン穴が開いたり、ミシン穴に多大な力が掛かり被着体が破壊したり、接着剤に含まれる有機溶剤の毒性や環境負荷の問題、接着剤の乾燥・固化に時間を要する等の問題点がある。
【0004】
このような方法に代わる固定方法として、面ファスナーの裏面(係合素子が立設された表面の反対側の表面、以下、同様)に融着性の樹脂(いわゆるホットメルト樹脂)を塗布しておき、被着体の表面に面ファスナーのホットメルト樹脂塗布面を重ね合せ、被着体の裏面を加熱して融着性樹脂を溶融させ、それにより被着体の表面に面ファスナーを固定する方法が用いられている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ホットメルト接着剤からなる接着剤層を裏面に有する織物製面ファスナーの裏面を人工皮革(被着体)の裏面に重ね合せて加熱加圧することにより、該接着剤層を介して人工皮革裏面に面ファスナーを固定することが記載されている。
【0006】
従来の織物製面ファスナーでは、係合したフック型係合素子とループ型係合素子を脱係合する際の引張力により、織物に織り込んだ係合素子用糸が織物から引き抜かれることがあった。これを防止するために、織物製面ファスナーの裏面にはバックコートと称される接着剤が塗布されていたが、バックコート中の接着剤は織物内部に浸透して固化し、織物製面ファスナー全体を硬くする。このような硬くなった織物製面ファスナーの裏面にさらにホットメルト樹脂を塗布すると、織物製面ファスナーがより一層硬化して板状となる。従って、被着物が布帛や樹脂シートなどである場合には、織物製面ファスナーを取り付けた部分が極端に硬くなり、布帛や樹脂シートの柔軟性、手触り感、見栄えなどを大きく損なうこととなる。また、被着体が複雑な曲面を有する場合には、硬い板状の織物製面ファスナーをこのような曲面に忠実に沿わせることが難しい。
【0007】
このようなバックコート塗布された織物製面ファスナーの裏面にさらにホットメルト樹脂を塗布する際の問題点を解消する技術として、特許文献2は裏面にホットメルト樹脂層を有する織物製面ファスナーを記載している。すなわち、緯糸としてホットメルト繊維を含む糸を用いて織物製面ファスナーを作製し、裏面にポリオレフィン系ホットメルト接着剤の溶融層を重ね、該溶融層の熱により緯糸のホットメルト繊維を溶融させて、面ファスナーに織り込んだ係合素子用糸を織物に固定することが記載されている。
【0008】
確かにこの技術を用いると、従来一般に行われているバックコートと称されている接着剤の塗布が不要となり、工程の簡略化と共に、バックコート樹脂により織物製面ファスナーが硬化することを防止できる。しかし、緯糸を形成するホットメルト繊維を溶融させるためには、裏面に塗布したホットメルト接着剤の熱が充分に織物内に到達する必要がある。そのためには裏面に塗布したホットメルト接着剤が織物内に浸透することが必要である。その結果、織物製面ファスナーの裏面に残存するホットメルト接着剤の量が少なくなり、被着体との熱融着が不十分になる。
【0009】
織物製面ファスナー裏面に残存するホットメルト接着剤の量を増やすべく、裏面に塗布するホットメルト接着剤の量を増やした場合には、それに伴って織物製面ファスナー内に浸透するホットメルト接着剤の量が増加し、その結果、織物製面ファスナーが硬くなり、バックコート処理を省いた効果が半減する。
【0010】
さらに、織物製面ファスナーを形成している繊維が吸水による寸法安定性や耐光性に優れるポリエステル系繊維である場合は、特許文献2で用いているポリオレフィン系ホットメルト接着剤は、必ずしも面ファスナーとの接着力が高いとは言えない問題点も有している。
【0011】
上記したように、特許文献2の技術では、面ファスナーの緯糸を形成するホットメルト繊維が、裏面に塗布したホットメルト接着剤の熱により溶融する必要がある。従って、ホットメルト繊維の融点は、ホットメルト接着剤の融点とほぼ同じか低いことが必要なので、比較的低融点のホットメルト繊維を用いる必要がある。現に、特許文献2では、融点が80~150℃のホットメルト繊維と、融点が80~140℃に近い低融点の樹脂が裏面に塗布するホットメルト接着剤として用いられている。
【0012】
緯糸に用いられるホットメルト繊維の融点が低い場合には、面ファスナー裏面のホットメルト接着剤層を溶融させて面ファスナーを被着体に取り付ける際の熱により、ホットメルト繊維が再度溶融する。その結果、係合素子用糸の固定が不十分となり、又係合素子が面ファスナー基布の表面から立ち上がることが溶融したホットメルト繊維により妨げられるので、面ファスナーの係合力が低下し、更には面ファスナーの形態を損なうことがある。
【0013】
裏面に付与したホットメルト接着剤層を溶融させて織物製面ファスナーを被着体に固定する際には、工業的には高周波ウェルダーが一般に用いられる。ホットメルト樹脂が溶融して固化するのに要する時間が長い場合には、生産性が低下するとともに、溶融したホットメルト樹脂が固化する前に面ファスナーの織物内に浸透する。そのため、面ファスナーが硬化するとともに、被着体との固定に寄与するホットメルト樹脂の量が減り、固定が不十分になる。さらに、溶融したホットメルト樹脂が固化するまでの間に、得られる面ファスナーの形態や係合能が損なわれないようにすることが必要となり、余計な装置や工程が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2005-226172号公報
【文献】特開2002-317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、下記の特徴:
(a)柔軟性に優れるので、固定するために被着体に戴置する際に、被着体の自由な形状に忠実に沿うことが可能であり、
(b)布帛や軟質塩化ビニルシート等の被着体に強固に融着固定でき、
(c)融着固定後においても柔軟性に優れ、
(d)高周波ウェルダーを用いて短時間で被着体に融着することができ、かつ、
(e)被着体に融着した後も高い係合力を有する
熱融着可能な織物製面ファスナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意研究した結果、以下に詳述する熱融着可能な織物製面ファスナーが上記目的を達成することを見出した。すなわち、本発明は下記1~5の熱融着可能な織物製面ファスナー及び下記6と7の該熱融着可能な織物製面ファスナーの製造方法を提供する。
【0017】
1.経糸、緯糸及び係合素子用糸からなる織物(i)及び該織物(i)の表面に多数存在する、該係合素子用糸からなるフック状又はループ状の係合素子(ii)を含む織物製面ファスナー;及び
該織物製面ファスナーの裏面に積層されたポリエステル系ホットメルト樹脂(A)からなる熱融着用樹脂層(iii)
を含む熱融着性面ファスナーであって、以下の条件(1)~(5)を満足する熱融着可能な織物製面ファスナー。
(1)該緯糸が、ポリエステル系ホットメルト樹脂(B)を鞘成分とする芯鞘型フィラメントからなるマルチフィラメント糸であって、係合素子(ii)の根元が該ポリエステル系ホットメルト樹脂(B)に融着することにより織物(i)に固定されていること、
(2)熱融着用樹脂層(iii)の目付が60~200g/mの範囲であること、
(3)ポリエステル系ホットメルト樹脂(B)の融点が170~200℃であって、ポリエステル系ホットメルト樹脂(A)の融点より50~110℃高いこと、
(4)熱融着用樹脂層(iii)が、織物(i)を形成する経糸と融着しているが、緯糸とは融着していないこと、及び
(5)織物(i)の裏面に熱融着用樹脂層(iii)が直接積層されていること。
【0018】
2.ポリエステル系ホットメルト樹脂(A)の融点が80~130℃である上記1の熱融着可能な織物製面ファスナー。
【0019】
3.経糸、緯糸の芯成分及び係合素子用糸が、いずれもポリエステル系の糸である上記1又は2の熱融着可能な織物製面ファスナー。
【0020】
4.前記ポリエステルが、ポリエステル系ホットメルト樹脂(B)の融点より20~120℃高い融点を有する上記3の熱融着可能な織物製面ファスナー。
【0021】
5.経糸、緯糸及び係合素子用糸を用いて、
該経糸、該緯糸及び該係合素子用糸からなる織物(i)及び該織物(i)の表面に多数存在する、該係合素子用糸からなるフック状又はループ状の係合素子(ii)を含み、
該緯糸が、170~200℃の融点を有するポリエステル系ホットメルト樹脂(B)を鞘成分とする芯鞘型フィラメントからなるマルチフィラメント糸であり、
係合素子(ii)の根元がポリエステル系ホットメルト樹脂(B)に融着することにより織物(i)に固定されており、
裏面では経糸が緯糸を包むように覆っている織物製面ファスナーを織成し、
該織物製面ファスナーの裏面に、ポリエステル系ホットメルト樹脂(B)の融点より50~110℃低い融点を有するポリエステル系ホットメルト樹脂(A)からなる目付60~200g/mの溶融シートを載置し、
該溶融シートをそのままの状態で冷却固化させて該織物製面ファスナーの裏面に熱融着用樹脂層(iii)を形成する熱融着可能な織物製面ファスナーの製造方法。
【0022】
6.上記溶融シートを、ポリエステル系ホットメルト樹脂(A)の融点以上、かつ、ポリエステル系ホットメルト樹脂(B)の融点より10℃高い温度以下に加熱し、前記織物製面ファスナーの裏面に載置する上記5の熱融着可能な織物製面ファスナーの製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明の織物製面ファスナーでは、織物(i)を構成する緯糸として、ポリエステル系ホットメルト樹脂(B)(以下、単に、“ホットメルト樹脂(B)”と称する場合がある。)を鞘成分とする芯鞘型フィラメントからなるマルチフィラメント糸が用いられる。係合素子(ii)の根元は該ポリエステル系ホットメルト樹脂(B)に融着することにより織物(i)に固定されている。従って、従来の一般的な面ファスナーのように、バックコート用の接着剤が裏面に塗布されていないので、バックコート樹脂を塗布し、それを乾燥する工程が不要となり、製造工程が簡略である。又、バックコート樹脂の塗布が不要なので、本発明の熱融着可能な織物製面ファスナーは、従来の一般的な面ファスナーと比べて柔軟性に優れており、被着体の表面形状に沿うことできる点で優れている。
【0024】
被着体に融着する前の熱融着可能な織物製面ファスナーでは、熱融着用樹脂層(iii)が、織物(i)を構成する経糸と融着しているが、緯糸とは殆ど融着していないので、熱融着用樹脂層(iii)の存在が織物(i)の柔軟性を大きく損なうことがない。しかも、融着前ではポリエステル系ホットメルト樹脂(A)(以下、単に、“ホットメルト樹脂(A)”と称する場合がある。)が、織物(i)内に殆ど浸透していないので、熱融着用樹脂層(iii)中のホットメルト樹脂(A)のほとんどが被着体との融着に用いられ、従って熱融着可能な織物製面ファスナーと被着体との融着が極めて強固となる。又、熱融着用樹脂層(iii)の目付が60~200g/mの範囲に限定されているので、熱融着可能な織物製面ファスナーの融着性と柔軟性の両立が達成されている。
【0025】
緯糸に用いられているホットメルト樹脂(B)の融点が170~200℃であって、熱融着用樹脂層(iii)を形成するホットメルト樹脂(A)の融点より50~110℃高い、すなわち、ホットメルト樹脂(A)の融点はホットメルト樹脂(B)の融点より50~110℃低い。そのため、ホットメルト樹脂(A)からなる熱融着用樹脂層(iii)を織物製面ファスナー裏面に載置して積層する際に、ホットメルト樹脂(B)(緯糸の鞘成分)が溶融されることが殆どない。従って、緯糸のホットメルト樹脂(B)による係合素子用糸の固定が損なわれることがなく、溶融したホットメルト樹脂(B)が、係合素子が織物(i)表面から立ち上がることを妨げこともなく、面ファスナーの形態が損なわれることもないので、得られる熱融着可能な織物製面ファスナーの係合力を低下させることもない。
【0026】
本発明では、ポリエステル系ホットメルト樹脂(A)が用いられるので、高周波ウェルダーを用いて熱融着可能な織物製面ファスナーを被着体へ融着するために要する時間が短い。そのため、生産性が向上するとともに、溶融したホットメルト樹脂(A)が固化するまでに織物(i)内に浸透することを極力減らすことができ、その結果、浸透した樹脂による面ファスナーの硬化を防ぐことが出来る。さらにホットメルト樹脂(A)の殆どが被着体との融着に寄与することとなり、より強固に融着し、さらに固化するまでの間に、面ファスナーの形状を保つための特別な装置や工程を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の熱融着可能な織物製面ファスナーの一例を模式的に示す断面図である。
図2】熱融着用樹脂層(iii)を付与する前の織物製面ファスナーの裏面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の熱融着可能な織物製面ファスナーの一例を模式的に示す断面図である。図中、1は緯糸、2は経糸、3は織物(i)、4は係合素子(ii)、5は熱融着用樹脂層(iii)を表す。図1は、面ファスナーの係合素子(ii)がループ状係合素子である場合を示す。図2は熱融着用樹脂層(iii)を付与する前の織物製面ファスナーの裏面を模式的に示す図であり、1は緯糸、2は経糸又は係合素子用糸を表す。図2の場合も、係合素子(ii)はマルチフィラメント糸を用いて形成したループ状係合素子である。
【0029】
本発明の熱融着可能な織物製面ファスナーはフック面ファスナー、ループ面ファスナー、及びフック/ループ混在面ファスナーのいずれでもよい。
フック面ファスナーは、主として、フック状係合素子用モノフィラメント糸、経糸及び緯糸から形成される。
フック面ファスナーと係合するループ面ファスナーは、主として、ループ状係合素子用マルチフィラメント糸、経糸及び緯糸から形成される。
フック状係合素子とループ状係合素子が同一面に混在しているフック/ループ混在面ファスナーは、主として、フック状係合素子用モノフィラメント糸、ループ状係合素子用マルチフィラメント糸、経糸及び緯糸から形成される。
これらの面ファスナーには、必要により、上記以外の糸が織り込まれていてもよい。
【0030】
経糸としては、ポリエステル系、特にポリエチレンテレフタレート系のマルチフィラメント糸が好ましい。マルチフィラメント糸は24~48本のフィラメントからなり、トータル太さが120~180dtexであることが好ましい。経糸は撚りが付与された糸であることが、緯糸に用いたホットメルト樹脂(B)が効率的に係合素子用糸を固定できることから好ましい。
【0031】
フック状係合素子用糸又はループ状係合素子用糸を強固に織物(i)に固定するためには、緯糸が熱融着する際に経糸が収縮してフック状係合素子及びループ状係合素子の根元を締め付けるのが好ましい。そのためには、経糸として用いられる糸は熱処理条件下で熱収縮を生じる繊維が好ましい。具体的には、180℃での乾熱収縮率が5~10%であるマルチフィラメント糸が好適に用いられる。
【0032】
緯糸としては、前記したように、ポリエステル系ホットメルト樹脂(B)を鞘成分とする芯鞘型フィラメント(芯鞘型熱融着性繊維)からなるマルチフィラメント糸が用いられる。もちろん、これ以外の糸が混合されていてもよい。該ポリエステル系ホットメルト樹脂(B)は、共重合ポリエステル、特にイソフタル酸を20~40モル%共重合したポリエチレンテレフタレート又はイソフタル酸を20~40モル%共重合したポリブチレンテレフタレートが挙げられる。その融点は170~200℃の範囲である。170℃未満の場合には、熱融着用樹脂層(iii)を積層する際にバインダー効果が減少し、200℃を越える場合には、ホットメルト樹脂(B)を溶融させて係合素子用糸を織物(i)に固定する際に、面ファスナーの形状が熱により変化することがある。
【0033】
緯糸の芯成分としては、ホットメルト樹脂(B)よりはるかに融点の高い樹脂が用いられ、好ましくはポリエステル、より好ましくはポリエチレンテレフタレートが用いられる。芯成分と鞘成分の比率は重量比で60/40~80/20の範囲が好ましい。緯糸は18~36フィラメントからなり、トータル太さが80~120dtexのマルチフィラメント糸であることが好ましい。なお、折り返した緯糸が折り返す前の緯糸と平行に配列するように織るのが面ファスナーの反り返りを防ぐ上で好ましい。この場合には、得られた織物では緯糸は見かけ上、上記太さの倍の太さを有していることとなる。
【0034】
緯糸も、経糸同様に、熱融着する際に収縮してフック状係合素子及びループ状係合素子(ii)の根元を締め付けるのが好ましい。そのためには、緯糸として用いられる糸は熱処理条件下で大きく熱収縮を生じる繊維が好ましい。具体的には、180℃での乾熱収縮率が15~25%であるマルチフィラメント糸が好適に用いられる。
【0035】
本発明では、前記したように、織物(i)の裏面上において、熱融着用樹脂層(iii)が織物(i)を構成する経糸と融着しているが、緯糸とは融着していないことが必要である。このような状態とするための方法のひとつとして、緯糸の乾熱収縮率が経糸の乾熱収縮率よりも大きくなるように緯糸と経糸を選択する方法が挙げられる。具体的には、上記180℃における緯糸の乾熱収縮率が経糸よりも5~18%大きくなるように、経糸と緯糸の組み合わせを用いるのが好ましい。
【0036】
なお、本発明でいう「熱融着用樹脂層(iii)が、織物(i)を構成する経糸と融着しているが、緯糸とは融着していない」とは、熱融着用樹脂層(iii)が緯糸と全く融着していない場合のほか、熱融着用樹脂層(iii)が裏面に露出している緯糸の殆どの部分に融着していないが、一部の部分に融着している場合も含まれる。特に、隣り合う複数の経糸(係合素子用糸を含む)が緯糸に対して同一の浮沈関係で存在する場合、このような箇所では必然的に緯糸が裏面に露出する面積が広くなる。このような緯糸の露出面に熱融着用樹脂層(iii)が融着する可能性がある。このような融着が生じている箇所が存在する場合、熱融着用樹脂層(iii)が緯糸の露出面に融着する面積を面ファスナー全体ではわずかであるようにすることが必要である。
【0037】
熱融着用樹脂層(iii)が緯糸と融着しているか否かは、熱融着用樹脂層(iii)を設けた面ファスナーの経糸に平行で、経糸が浮き上がった頂部箇所又は最も沈んだ底部箇所の断面の顕微鏡写真を撮り、熱融着用樹脂層(iii)と緯糸との間に空間が形成されているか否かを観察することにより容易に判別できる。
【0038】
フック面ファスナー又はフック/ループ混在面ファスナーを構成するフック状係合素子には、弱い力ではフック形状が伸びない、いわゆるフック形状保持性と剛直性が求められ、そのため、太いモノフィラメント糸がフック状係合素子用糸として用いられる。特にフック形状保持性に優れたポリエステル、好ましくはポリエチレンテレフタレート又はポリブチレンテレフタレートから形成され、かつ上記緯糸を熱融着させる際の温度では溶融しない糸が用いられる。このようなポリエステルからなるフック状係合素子用モノフィラメント糸の太さは250~400dtexであることが好ましい。
【0039】
ループ面ファスナー又はフック/ループ混在面ファスナーを構成するループ状係合素子用糸も、フック状係合素子用糸と同様に、ポリエステル、好ましくはポリエチレンテレフタレート又はポリブチレンテレフタレートから形成される。ループ状係合素子用糸を形成するマルチフィラメント糸は、5~10フィラメントからなり、トータル太さが130~300デシテックスであることが好ましい。本発明において、経糸、緯糸の芯成分、及び係合素子用糸がいずれも、ホットメルト樹脂(B)の融点より20~120℃高い融点を有するポリエステルから形成されることが、後述する熱処理を確実に行うことができるので好ましい。
【0040】
以下、本発明の熱融着可能な織物製面ファスナーの製造方法を説明するが、本発明の効果が得られる限り、下記の製造方法に限定されない。
前記の経糸、緯糸、フック状係合素子用モノフィラメント糸又はループ状係合素子用マルチフィラメント糸から、まず織物製面ファスナー用織物を織成する。織物の織組織としては、フック状係合素子用モノフィラメント糸又はループ状係合素子用マルチフィラメント糸を経糸の一部として用いた平織が好ましい。ループ面ファスナーの場合は、経糸、緯糸及びループ状係合素子用マルチフィラメント糸から、フック面ファスナーの場合は、経糸、緯糸及びフック状係合素子用モノフィラメント糸から、フック/ループ混在面ファスナーの場合は、経糸、緯糸、フック状係合素子用モノフィラメント糸及びループ状係合素子用マルチフィラメント糸から織物を織成する。
【0041】
得られた織物において、フック状係合素子用糸は、経糸と平行に織物に打ち込まれ、織物表面に浮き上がり、次いで、ループを形成しながら1~3本の経糸を飛び越えた後に経糸間に沈む織組織を形成していることが、フック状係合素子用ループの片足を効率的に切断でき、さらに得られるフック状係合素子とループ状係合素子が係合し易いので好ましい。
ループ状係合素子用糸は、経糸を飛び越えることなく織物上にループを形成し、該ループが経糸に平行に存在している織組織を形成していることが、得られるフック状係合素子とループ状係合素子が係合し易いので好ましい。
フック/ループ混在面ファスナーの場合は、フック状係合素子用糸及びループ状係合素子用糸がそれぞれ上記の織組織を形成していることが、フック状係合素子用ループの片足側部を効率的に切断でき、さらに得られるフック状係合素子とループ状係合素子が係合し易いので好ましい。
【0042】
経糸の織密度は45~70本/cm、緯糸の織密度は15~25本/cm、及び経糸の織本数が緯糸の織本数の2.5~3.5倍であることが、織物(i)裏面において経糸が緯糸を包むように覆うことができ、あるいは、後の工程で熱融着用樹脂層(iii)が織物(i)を形成する経糸と融着しているが、緯糸とは融着していないようにすることができるので好ましい。また、織物製造中には、経糸にはあまり張力を掛けずに、一方緯糸には高い張力を掛けることが、織物(i)裏面において経糸が緯糸を包むように覆うことができるので好ましい。
【0043】
緯糸の重量割合は、織物を構成するフック状係合素子用糸又はループ状係合素子用糸、経糸、及び緯糸の合計重量に対して30~40%が好ましい。フック/ループ混在面ファスナー用の織物の場合は、フック状係合素子用糸、ループ状係合素子用糸、経糸、及び緯糸の合計重量に対して30~40%が好ましい。
【0044】
フック状係合素子用モノフィラメント糸及びループ状係合素子用マルチフィラメント糸の打ち込み本数は、それぞれ、経糸20本(フック状係合素子用モノフィラメント糸又はループ状係合素子用マルチフィラメント糸を含む)に対して3~5本が好ましい。フック/ループ混在面ファスナーの場合には、フック状係合素子用モノフィラメント糸及びループ状係合素子用マルチフィラメント糸の合計打ち込み本数は、経糸20本(フック状係合素子用モノフィラメント糸及びループ状係合素子用マルチフィラメント糸を含む)に対して3~5本が好ましく、フック状係合素子用モノフィラメント糸とループ状係合素子用マルチフィラメント糸の本数比が40:60~60:40であることが好ましい。
【0045】
このようにして得られた織物製面ファスナー用織物を熱処理して芯鞘型熱融着性繊維(緯糸)の鞘成分を溶融させると同時に経糸と緯糸、特に緯糸を大きく収縮させてフック状係合素子用モノフィラメント糸及びループ状係合素子用マルチフィラメント糸を織物に強固に固定させる。これにより、従来の面ファスナー製造で行われていたバックコート処理が不要となり、バックコート用接着剤を塗布して乾燥する工程が省略できるとともにバックコート用接着剤による面ファスナーの硬化を防ぐことができる。さらに、この熱処理によりフック状係合素子用ループの形状が固定されるので、その後フック状係合素子用ループの片足を切断して得られるフック状係合素子もフック形状を保ち、十分な係合強度が得られる。
【0046】
熱処理温度は、緯糸の鞘成分を形成するホットメルト樹脂(B)は溶融するが、それ以外の糸は溶融しない温度、かつ、フック状係合素子用モノフィラメント糸が熱固定される温度であることが好ましく、185~210℃がより好ましい。熱処理は、織物製面ファスナー用織物を加圧することなく加熱雰囲気中を走行させることにより行われる。
【0047】
次に、フック面ファスナー又はフック/ループ混在面ファスナーの場合には、このように熱処理した織物製面ファスナー用織物の表面から突出しているフック状係合素子用ループの片足を切断してフック状係合素子にすることにより織物(i)と係合素子(ii)からなる織物製面ファスナーが得られる。フック状係合素子の高さは織物(i)の表面から1.5~2.0mm、またループ状係合素子の高さは織物(i)の表面から2.0~2.8mmであることが、係合力が強く、さらにフック状係合素子が倒れ難いので好ましい。
【0048】
フック面ファスナーにおけるフック状係合素子の密度、ループ面ファスナーにおけるループ状係合素子の密度、フック/ループ混在面ファスナーにおけるフック状係合素子とループ状係合素子の合計密度は、織物(i)の表面積を基準として、それぞれ、40~70個/cm、30~50個/cm、30~60個/cmが好ましい。フック/ループ混在面ファスナーにおいて、フック状係合素子の個数とループ状係合素子の個数の比率は、40:60~60:40の範囲が好ましい。
【0049】
このようにして得られた織物製面ファスナーは、経糸、緯糸及び係合素子用糸からなる織物(i)と、該織物(i)の表面から立ち上がっている多数のフック状又はループ状の係合素子(ii)を有する。該緯糸は、170~200℃の融点を有するポリエステル系ホットメルト樹脂(B)を鞘成分とする芯鞘型フィラメントからなるマルチフィラメント糸であり、係合素子(ii)の根元はホットメルト樹脂(B)の溶融により織物(i)に固定されている。
【0050】
織物(i)の裏面は経糸が緯糸を包むように覆っている。この裏面の状態を模式的示すと図2のようになる。すなわち、織物(i)の裏面は、ほぼ経糸2(係合素子用糸を含む)により覆われ、緯糸1は経糸2の間の隙間から僅かに見える程度であり、緯糸1が経糸2によりほぼ覆い隠された状態となっている。具体的には、裏面を真上から撮った写真などにおいて、経糸2(係合素子用糸を含む)の面積と緯糸1の面積の合計に対して、経糸2の面積が75~95%、緯糸1の面積が5~25%であることが好ましい。
【0051】
このようにして得られた織物製面ファスナーの裏面に、ホットメルト樹脂(B)の融点より50~110℃、好ましくは70~100℃低い融点を有するポリエステル系ホットメルト樹脂(A)からなる目付60~200g/mの溶融シートを載置する。
【0052】
本発明では、前記したように、織物(i)の裏面に熱融着用樹脂層(iii)が直接積層されていることが必要である。「直接積層されている」とは、従来の一般的な面ファスナー製造で行われているバックコート塗布が行われおらず、織物(i)の裏面に熱融着用樹脂層(iii)が直接付与されていることを意味する。
【0053】
なお、本発明でいう融点とはDSCによる融解ピークの温度を意味し、DSCによる融解ピークを示さない場合には、東洋精機製のHDTテスターにて荷重1kg下で測定した軟化温度を意味する。
【0054】
本発明では、ホットメルト樹脂(A)はポリエステル系樹脂である必要がある。ホットメルト樹脂には、ポリアミド系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系など多くの種類がある。本発明では、高周波ウェルダーを用いて被着体に短時間で融着することができること、融着後の織物(i)と熱融着用樹脂層(iii)との接合力が大きいこと、さらに熱融着用樹脂層(iii)を付与した後の面ファスナーが吸水等によりカールしないこと等の利点があるので、ポリエステル系樹脂が用いられる。
【0055】
ポリエステル系ホットメルト樹脂(A)は、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等から選ばれるジカルボン酸成分と、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,9-ノナンジオール、ポリテトラメチレングリコール等から選ばれるグリコール成分との共重合ポリエステルからなり、融点が80~130℃の樹脂である。
【0056】
ポリエステル系ホットメルト樹脂(A)の融点(融点A)は、緯糸の鞘成分を形成しているポリエステル系ホットメルト樹脂(B)の融点(融点B)より50~110℃低いことが必要である。融点Bと融点Aの差が50℃未満の場合には、ホットメルト樹脂(A)からなる溶融シートを織物製面ファスナーの裏面に重ね合わせた際に、織物を固定している鞘成分が再度溶け出し、面ファスナーの形態が損なわれたり、織物(i)の柔軟性が大きく損なわれたり、係合力が低下したりする。融点Bと融点Aの差が110℃を越える場合には、ホットメルト樹脂(A)がその後の熱処理や製品を被着体に接合する際の加熱により容易に溶け出すので、被着体への接合力が低下したり、あるいは、被着体の性能を悪化させたりする。
【0057】
ホットメルト樹脂(A)には、タルク、シリカ、酸化チタン等の無機微粒子が結晶核剤として添加されていてもよい。さらに酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤や染料、顔料等の着色剤が添加されていてもよい。さらに少量ならば他の樹脂や繊維状物等が添加されていてもよい。
【0058】
このようなポリエステル系ホットメルト樹脂(A)の溶融シートを、経糸が緯糸を包むように覆っている織物(i)の裏面に載置し、そのままの状態で冷却固化させる。織物の表面に樹脂層を形成する一般的な方法としては、例えば、樹脂を溶かした低粘度溶液を塗布して乾燥する方法、溶融させた樹脂液を塗布し、プレスして樹脂液を織物内に含浸させる方法等の様々な方法がある。本発明では、前記したように、織物(i)の裏面にポリエステル系ホットメルト樹脂(A)の溶融したシート(以下、単に“溶融シート”と称する場合がある。)を載置し、そのままの状態で冷却固化させる。具体的には、溶融させたホットメルト樹脂(A)を射出押し出し機からシート状に押し出して溶融シートを得、樹脂が溶融状態を保っている間に溶融シートを織物(i)の裏面に載置し、プレスなどの他の操作を行うことなく、そのままの状態で冷却固化させることにより本発明の熱融着可能な織物製面ファスナーが得られる。
【0059】
このような方法を用いることにより、ポリエステル系ホットメルト樹脂(A)が織物(i)内に深く浸透せず、熱融着用樹脂層(iii)が織物(i)裏面の経糸と融着しているが、緯糸とは融着していない状態が得られる。その結果、被着体に融着する前の熱融着可能な織物製面ファスナーは優れた柔軟性を有し、被着体の自由な形状に忠実に沿うことができる。従って、布帛や軟質塩化ビニルシート等の柔軟な被着体にも強固に融着固定することができる。
【0060】
本発明において、織物(i)の裏面に載置するホットメルト樹脂(A)からなる溶融シートの温度はホットメルト樹脂(A)の融点以上、かつ、ホットメルト樹脂(B)の融点より10℃高い温度以下であることが好ましい。このような温度範囲であることにより、載置されたホットメルト樹脂(A)の溶融シートは、緯糸の鞘成分樹脂(ホットメルト樹脂(B))を殆ど溶融させることがなく、ホットメルト樹脂(B)の再溶融による問題が生じない。具体的には150~195℃の温度範囲が好ましい。
【0061】
熱融着用樹脂層(iii)の目付は60~200g/mの範囲である。目付が60g/m未満の場合には、その後のホットメルト融着により熱融着可能な織物製面ファスナーを被着体に十分に融着することができない。200g/mを超える場合には、被着体にホットメルト融着する際に溶け出した余分なホットメルト樹脂(A)が熱融着可能な織物製面ファスナーの織物内に多量に浸透し、その結果、面ファスナーの柔軟性を大きく損なったり、被着体の性能を損なったり、見栄えを損なったりする。より好ましくは、70~180g/mの範囲である。
【0062】
織物(i)の裏面に熱融着用樹脂層(iii)が一体的に融着した本発明の熱融着可能な織物製面ファスナーは、織物(i)の裏面に熱融着用樹脂層(iii)が直接積層されており、かつ熱融着用樹脂層(iii)が、織物(i)を形成する経糸と融着しているが、緯糸とは融着していないので、柔軟性に優れ、被着体の自由な表面形状に忠実に沿うことが可能であり、被着体に強固に融着固定でき、さらに融着固定後においても柔軟性に優れ、高周波ウェルダーを用いて被着体に短時間で融着することができ、高い係合力を有する。
【0063】
本発明の熱融着可能な織物製面ファスナーは、塩化ビニル製のシートや成形体の表面に、高周波ウェルダーにより融着できる。例えば、自動車の床面を形成する塩化ビニル製の床材(被着体)に本発明の熱融着可能な織物製面ファスナーを融着固定する。裏面に熱融着可能な織物製面ファスナーと係合可能な面ファスナーを取り付けたマット等(相手材)を床材に固定した熱融着可能な織物製面ファスナーに係合させることにより、マット等を自動車の床面に固定することができる。さらに、表面に本発明の熱融着可能な織物製面ファスナーを熱融着した布帛、不織布のシート、塩化ビニルシート等に、表面に熱融着可能な織物製面ファスナーと係合可能な面ファスナーを有する相手材を取り付けることもできる。
【0064】
本発明の熱融着可能な織物製面ファスナーは、従来の一般的な面ファスナーが用いられている用途分野に用いることができ、例えば、靴、バッグ、手袋、衣類、血圧計、サポーター、各種おもちゃ、土木建築用シートの固定材、各種パネルや壁材の固定材等の幅広い分野に使用できる。本発明の熱融着可能な織物製面ファスナーは、フック面ファスナーとして、ループ面ファスナーとして、あるいはフック/ループ混在の面ファスナーとして使用できる。
【実施例
【0065】
以下、本発明を実施例により説明する。なお、実施例中、乾熱収縮率(フィラメント収縮率 B法)はJIS-L-1013法にしたがって測定し、熱融着可能な織物製面ファスナー(以下、単に“面ファスナー”と記載することもある)の係合力はJIS-L-3416法により測定し、面ファスナーと被着体の接合力はJIS- K-6854法を引用した方法(加熱融着の場合の融着長:60mm、高周波ウェルダー融着の場合の融着長:5mm、はく離速度:毎分300mm)により測定した。
【0066】
実施例1
面ファスナーの織物及び係合素子を構成する経糸、緯糸、フック状係合素子用モノフィラメント糸、及びループ状係合素子用マルチフィラメント糸として次の糸を使用した。
[経糸]
・融点260℃のポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸
・トータルデシテックス及びフィラメント本数:167dtexで30本
・180℃での乾熱収縮率:7.2%
【0067】
[緯糸(芯鞘型複合繊維からなるマルチフィラメント熱融着性糸)]
・芯成分:ポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)
・鞘成分:イソフタル酸25モル%共重合ポリブチレンテレフタレート(融点:190℃)
・芯鞘比率(重量比): 70:30
・トータルデシテックス及びフィラメント本数:110dtexで24本
・180℃での乾熱収縮率:21.2%
【0068】
[フック状係合素子用モノフィラメント糸]
・ポリエチレンテレフタレート製のモノフィラメント糸(融点:260℃)
・繊度:330dtex(直径:0.18mm)
[ループ状係合素子用マルチフィラメント糸]
・ポリブチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸(融点:220℃)
・トータルデシテックス及びフィラメント本数:265dtexで7本
【0069】
上記4種の糸を用いて、以下の条件で織物製面ファスナー(フック面ファスナー及びループ面ファスナー)を製造した。
[フック面ファスナー]
上記経糸、緯糸及びフック状係合素子用モノフィラメントを用いて、織密度(熱収縮処理後)が経糸58本/cm、緯糸20本/cmの平織物を織成した。経糸4本に1本の割合でフック状係合素子用モノフィラメント糸を地経糸に平行に打ち込み、緯糸3本を浮沈したのちにループを形成しながら経糸3本を飛び越えた後に経糸間に沈ませて織物上にループを形成した。
【0070】
上記のようにして得たフック面ファスナー用織物を、緯糸の鞘成分のみが熱溶融し、かつ、経糸、フック係合素子用モノフィラメント、及び緯糸の芯成分が熱溶融しない温度域、すなわち200℃で熱処理を施した。緯糸及び経糸は収縮、特に緯糸は大きく収縮するとともに鞘成分が溶融して近隣に存在する糸を融着させた。その結果、織物は緯糸方向に10%収縮した。そして、得られた織物を冷却したのち、フック状係合素子用ループの片足を切断して、フック状係合素子を形成した。得られたフック状係合素子の根元は該鞘成分の融着により織物に固定されていた。
得られたフック面ファスナーのフック状係合素子密度は62個/cmであり、さらにフック状係合素子の基布面からの高さは1.6mmであった。裏面の85%が経糸(係合素子用糸を含む)に覆われていた。
【0071】
[ループ面ファスナー]
上記経糸、緯糸及びループ状係合素子用マルチフィラメント糸を用いて、織密度(熱収縮処理後)が経糸58本/cm、緯糸20本/cmの平織を織成した。経糸4本に1本の割合でループ状係合素子用マルチフィラメントを、経糸を飛び越えることなく経糸に平行に打ち込み、緯糸5本を浮沈したのち織物上にループを形成した。
【0072】
上記のようにして得たループ面ファスナー用織物を、緯糸の鞘成分のみが熱溶融し、かつ、経糸、ループ係合素子用マルチフィラメント、及び緯糸の芯成分が熱溶融しない200℃で熱処理した。経糸及び緯糸、特に緯糸は大きく収縮するとともに鞘成分が溶融して近隣に存在する糸を融着させた。その結果、織物は緯糸方向に13%収縮した。得られた織物を冷却して得られたループ面ファスナーのループ状係合素子密度は46個/cmであり、さらにループ状係合素子の織物面からの高さは2.4mmであり、ループ状係合素子の根元が鞘成分のポリエステル系ホットメルト樹脂の融着により織物に固定されていた。このループ面ファスナーの裏面を観察したところ、経糸が緯糸を包むように覆っており、裏面を手で触れると、触れる糸は経糸のみであった。裏面の85%が経糸(係合素子用糸を含む)に覆われていた。
【0073】
ポリエステル系ホットメルト樹脂(東洋紡製バイロンGA6400、融点:96℃)を射出押し出し機から押し出して樹脂シートを得た。
この樹脂シートを180℃に加熱溶融した溶融シート(目付:100g/m)を得られたフック面ファスナー及びループ面ファスナーの裏面に、バックコート樹脂を塗布することなく、載置し、そのままの状態で固化して熱融着用樹脂層を形成し、熱融着可能な織物製面ファスナーを得た。
得られた熱融着可能な織物製面ファスナー(フック面ファスナー及びループ面ファスナー)の断面を顕微鏡で観察したところ、熱融着用樹脂層が、織物を構成する経糸と融着しているが、緯糸とは融着していないことを観察された。
【0074】
このようにして得られた、熱融着可能な織物製フック面ファスナー及び熱融着可能な織物製ループ面ファスナーは、裏面に熱融着用樹脂層が存在しているにも拘らず、ともに柔軟であり、被着物表面の曲面にも忠実に沿うことのできるものであった。
被着体として目付200g/mの綿布を選び、上記フック面ファスナー及びループ面ファスナーの裏面の熱融着用樹脂層の上に上記綿布を重ね合せ、綿布上から120℃の加熱板で加熱圧着して、各面ファスナーを被着体に融着した。
【0075】
得られた面ファスナー付き被着体は融着前と比べると柔軟性が少し失われていたが、それでも自由に曲げることができる柔軟性を有するものであった。さらに、面ファスナーと被着体の接合力を測定するために、引張試験機にて被着体とフック面ファスナー又はループ面ファスナーを剥がすのに要する強度を測定したところ、フック面ファスナーとループ面ファスナーで殆ど差はなく、その平均値は21.6N/cmであった。剥離部分を観察したところ、いずれも被着体が内部破壊を生じて剥離が生じていた。
さらに、被着体に融着した後の面ファスナーの係合力は、融着前と全く変わらず、極めて優れた熱融着可能な織物製面ファスナーが得られたことが分かった。なお、係合力は、上記フック面ファスナーとループ面ファスナーを係合し、その係合力を測定した。初期係合強力は、融着前で剪断強力10.3N/cm、剥離強力が1.18N/cmであった。
【0076】
上記熱融着可能な織物製フック面ファスナーの裏面側に0.3mm厚さの軟質塩化ビニルシートを重ね、山本ビニター製のウェルダー機を用いて、電流0.20A、ホーン径25mm×5mm、冷却時間3.0秒の条件で高周波融着を行った。その結果、1.5秒の通電時間で、強固に融着でき、高周波ウェルダーによって短時間で融着できることが分かった。熱融着可能な織物製フック面ファスナーと被着体の接合力も29N/cmと極めて高く、優れていた。
【0077】
実施例2
実施例1において、熱融着用樹脂層用のホットメルト樹脂として、融点が112℃のポリエステル樹脂(東洋紡製バイロンGM900)を用いた以外は実施例1と同様にして、フック面ファスナー及びループ面ファスナーの裏面に熱融着用樹脂層を形成した。得られた各熱融着可能な織物製面ファスナーでは、実施例1の場合と同様に、熱融着用樹脂層が織物を構成する経糸と融着しているが、緯糸とは融着していないことを断面の顕微鏡観察から確認した。
【0078】
さらに、融着温度を130℃変更した以外は実施例1と同様にして被着体(綿布)に融着した。得られた面ファスナー付き被着体は実施例1のものと同様に自由に曲げることができる柔軟性を有するものであった。また、被着体との接合力は、フック面ファスナーとループ面ファスナーで殆ど差はなく、その平均値は19.7N/cmであった。剥離部分を観察したところ、いずれも被着体の内部破壊による剥離であった。さらに、被着体に融着した後の面ファスナーの係合力も、実施例1と同様に極めて優れ、優れた熱融着可能な織物製面ファスナーが得られたことが分かった。さらに、実施例1と同様に、軟質塩化ビニルシートへの融着性も調べたところ、接合力は19.7N/cmと極めて高く、優れた熱熱融着可能な織物製面ファスナーであった。
【0079】
比較例1
熱融着用樹脂層用のホットメルト樹脂として、融点が166℃のポリエステル樹脂(東洋紡製バイロンGM925)を用い、溶融シートの加熱溶融温度を195℃に変更した以外は実施例1と同様にして、フック面ファスナー及びループ面ファスナーの裏面に熱融着用樹脂層を形成した。得られた熱融着用樹脂層付きフック面ファスナー及びループ面ファスナーを実施例1と同様に被着体(綿布)を融着した。
【0080】
その結果、面ファスナーのループ状係合素子及びフック状係合素子の多くは倒れて織物に付着した状態となっており、係合力が極めて低く、面ファスナーとして使用することはできなかった。また、実施例1と比べて、各面ファスナーの柔軟性も著しく損なわれていた。加熱圧着に際して、面ファスナーの織物がプレスされた状態で固められたことが原因と思われる。
【0081】
比較例2
熱融着用樹脂層用のホットメルト樹脂として、融点が90℃のナイロン系ホットメルト樹脂(東洋インキ製PR F-915G)を用い、溶融シートの加熱溶融温度を170℃に換えた以外は実施例1と同様にして、フック面ファスナー及びループ面ファスナーの裏面に熱融着用樹脂層を形成した。得られた熱融着用樹脂層付きフック面ファスナー及びループ面ファスナーを実施例1と同様に被着体(綿布)を融着した。
【0082】
得られた面ファスナー付き被着体は実施例1のものと同様に自由に曲げることができる柔軟性を有していたが、面ファスナーと被着体との接合強度はフック面ファスナーとループ面ファスナーで殆ど差はなく、その平均値は僅か2.0N/cmであった。剥離部分を観察したところ、いずれも被着体と熱融着用樹脂層の界面で剥離が生じていた。
【0083】
実施例3、4及び比較例3、4
熱融着用樹脂層の目付をそれぞれ40g/m(比較例3)、70g/m(実施例3)、150g/m(実施例4)、250g/m(比較例4)に変更した以外は実施例1と同様にして、裏面に熱融着用樹脂層を有している熱融着可能な織物製面ファスナーを製造した。得られた熱融着可能な織物製面ファスナーでは、いずれも、熱融着用樹脂層が織物を構成する経糸と融着しているが、緯糸とは融着していないことがそれぞれの断面の顕微鏡観察から確認できた。
【0084】
実施例3では、熱融着可能な織物製面ファスナーと被着体(綿布)との接合力は11.8N/cmであり、実施例1より低いが、実用上十分に優れた接合力であった。また被着体を軟質塩化ビニルシートに代えて、実施例1と同様に融着させたところ、接合力は17.3N/cmであり、実施例1とほぼ同等の優れた接合力を有していた。
【0085】
実施例4では、被着体(綿布)との接合力は35.5N/cmと極めて高くて優れていた。剥離は熱融着用樹脂層の内部破壊によるものであった。熱融着用樹脂が織物内に浸透したと思われ、面ファスナーが若干硬くなったが、この点で実施例1よりわずかに劣るものであった。それ以外の点では実施例1と変わりなく、満足できるものであった。
被着体を軟質塩化ビニルシートに代えて、実施例1と同様に融着させたところ、接合力は19.2N/cmと実施例1のものとほぼ同等の優れた接合力が得られた。
【0086】
一方、比較例3では、被着体との接合力は、フック面ファスナーとループ面ファスナーの平均値で2,9N/cmと極めて低く、容易に被着体(綿布)から剥離するものであった。剥離は被着体と熱融着用樹脂層の接合面で生じていた。断面を顕微鏡により観察したところ、熱融着用樹脂の殆どが織物内に浸透し、熱融着用樹脂層とみなすことができる部分が少ないことが分かった。
【0087】
比較例4では、被着体との接合力が32.7N/cmと高くて優れたものであり、剥離は熱融着用樹脂層の内部破壊によるものであった。ただし、面ファスナーが非常に硬くプラスチック板のようであり、綿布の風合いを大きく損なうものであった。
【0088】
比較例5
実施例1のループ面ファスナーの製造において、180℃での乾熱収縮率が13.3%の経糸、180℃での乾熱収縮率が12.8%の緯糸をそれぞれ用い、織密度が経糸25本/cm、緯糸24本/cmとなるように織った。織る際に、経糸張力を高めるとともに緯糸張力を下げた。さらに、ループ状係合素子用糸を経糸2本に対して1本の割合で織り込んだ。それ以外の条件は実施例1と同様にした。得られたループ面ファスナーの裏面を観察したところ、経糸が緯糸を包むように覆っているのではなく、経糸と緯糸が同程度に裏面に交互に露出していた。得られたループ面ファスナーの裏面に実施例1と同様にして熱融着用樹脂層を積層した。
【0089】
得られた熱融着用樹脂層が積層されたループ面ファスナーの裏面を観察したところ、熱融着用樹脂層が織物を構成する経糸と緯糸の両方にほぼ均等に融着していることが観測された。すなわち、経糸と緯糸がともに裏面の熱融着用樹脂層で固定されており、実施例1の熱融着可能な織物製ループ面ファスナーと比べて、柔軟性がはるかに劣っていた。従って、複雑な曲面を有する被着体の表面に、忠実に沿って貼り付けることが困難であることが容易に予測できた。
【0090】
比較例6
実施例1において、熱融着用樹脂(A)としてポリウレタン系ホットメルト樹脂(日本ミラクトラン製E790HSJR)を用いた以外は同様にして、熱融着用樹脂層を裏面に有するフック面ファスナーを製造した。この熱融着用樹脂層付きフック面ファスナーの裏面側に0.3mm厚さの軟質塩化ビニルシートを重ね、山本ビニター製のウェルダー機を用いて実施例1と同様の条件で高周波融着を行った。その結果、融着に4秒以上を要し、工業的に実施するにはあまりにも長時間を要することが分かった。しかも接合力が実施例1と比べて半分程度であり、この点でも満足できるものではなかった。
【0091】
比較例7
実施例1のフック面ファスナーの製造において、得られたフック面ファスナーの裏面に、バックコート樹脂としてポリエステル系ポリウレタンの溶液を目付40g/m(固形分量)なるように塗布し、バックコート液の溶媒を除去し、乾燥してバックコート層を有するフック面ファスナーを得た。
融点90℃のナイロン系ホットメルト樹脂(東洋インキ製PR F-915G)のシートを170℃に加熱溶融して溶融シート(目付130g/m)を得た。この溶融シートを得られたバックコート層を有するフック面ファスナーのバックコート面に戴置し、固化してホットメルト融着性フック面ファスナーを製造した。
得られたホットメルト融着性フック面ファスナーは、織物内までバックコート樹脂が浸透し、経糸、緯糸、及びフック状係合素子用糸が固定されているので、極めて硬く板状であり、複雑な曲面形状を有する被着体の表面に忠実に沿うことは困難であった。
【0092】
このホットメルト融着性フック面ファスナーを綿布及び軟質塩化ビニルシートに実施例1と同様の方法により融着を試みた。綿布の場合は、実施例1と比べて同等の接合力で融着したが、軟質塩化ビニルシートの場合は、全く融着できず、軟質塩化ビニルシートとホットメルト層との界面で簡単に剥がれ、実用できるものではなかった。
【0093】
比較例8
実施例1において、前記ポリエステル系ホットメルト樹脂に代えて、ポリカプロラクトン系のポリエステル系樹脂(融点:60℃)を用いた以外は実施例1と同様にして、熱融着用樹脂層を裏面に有するフック面ファスナーを製造した。この熱融着用樹脂層付きフック面ファスナーは、雰囲気の温度が50℃を越えると被着体との接合力が急激に低下することが判明した。従って、夏の高温時には接合力が低下するので、この熱融着用樹脂層付きフック面ファスナーは、自動車部材や建築部材の用途には不適当であり、汎用性がないことが容易に予想できた。
【0094】
実施例5、6及び比較例9、10
実施例1において、緯糸に用いる芯鞘型複合繊維の鞘成分を融点155℃のポリエステル(比較例9)、融点182℃のポリエステル(実施例5)、融点197℃のポリエステル(実施例6)、融点215℃のポリエステル(比較例10)に代え、ループ面ファスナー用織物の熱処理温度を上記ポリエステルの融点より10℃高い温度にそれぞれ変更した以外は実施例1と同様にして、裏面に熱融着用樹脂層を有する4種類のループ面ファスナーを得た。
ポリエステル(共重合ポリブチレンテレフタレート)の融点はイソフタル酸の共重合割合を変更すること及びジオール成分の一部をジエチレングリコールに置換することにより調整した。
【0095】
実施例5及び実施例6の熱融着用樹脂層付きループ面ファスナーでは、裏面の緯糸及び経糸と熱融着用樹脂層の融着状態が実施例1と全く同じであった。さらに、被着体(綿布及び軟質塩化ビニルシート)との接合力及び面ファスナーの係合力等の性能においても、実施例1と同程度であり、極めて優れた熱融着可能な織物製ループ面ファスナーであった。
【0096】
一方、比較例9の熱融着用樹脂層付きループ面ファスナーでは、熱融着用樹脂層を積層する際に緯糸の鞘成分が一部溶融し、鞘成分のバインダー効果が減少した。その結果、係合・剥離を100回繰り返しただけで、ループ状係合素子が織物から引き抜かれ、係合力が低下した。さらに、不均一に伸びたループ状係合素子が織物面から突出しており、面ファスナーの見栄えも悪かった。
比較例10では、鞘成分のポリエステル樹脂を溶融して係合素子用糸を織物に固定する際に、係合素子用糸も一部溶融されるとともに多くの係合素子が織物面から立ち上がっていなかった。従って、得られた熱融着用樹脂層付きループ面ファスナーは殆ど係合能を有していなかった。
【符号の説明】
【0097】
1:緯糸
2:経糸
3:織物(i)
4:係合素子(ii)
5:熱融着用樹脂層(iii)

図1
図2